(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】モッコウバラの抽出物を含有する皮膚外用剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20240408BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20240408BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240408BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20240408BHJP
A61P 17/00 20060101ALN20240408BHJP
A61K 36/738 20060101ALN20240408BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20240408BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/00
A61Q19/08
A61K8/34
A61P17/00
A61K36/738
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2019239073
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】591230619
【氏名又は名称】株式会社ナリス化粧品
(72)【発明者】
【氏名】恒原 由佳
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 浩子
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 奈緒美
【審査官】▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-014582(JP,A)
【文献】国際公開第2015/178385(WO,A1)
【文献】特開2004-189663(JP,A)
【文献】特開平09-255517(JP,A)
【文献】特開2014-084298(JP,A)
【文献】特開2012-001527(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102370752(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K36/738
CAPLUS/MEDLINE/KOSMET/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モッコウバラ(Rosa banksiae)の
花の、水とエタノールとの混合溶媒抽出物
(但し、細胞培養物を除く。)又は水と1,3-ブチレングリコールとの混合溶媒抽出物
(但し、細胞培養物を除く。)の少なくとも1種を
有効成分として含有するエラスターゼ活性阻害剤(但し、傷治療用途を除く。)。
【請求項2】
モッコウバラの
花の、水とエタノールとの混合溶媒抽出物
(但し、細胞培養物を除く。)又は水と1,3-ブチレングリコールとの混合溶媒抽出物
(但し、細胞培養物を除く。)の少なくとも1種を
有効成分として含有するシワ、たるみ予防・改善剤。
【請求項3】
モッコウバラの
花の、水とエタノールとの混合溶媒抽出物
(但し、細胞培養物を除く。)又は水と1,3-ブチレングリコールとの混合溶媒抽出物
(但し、細胞培養物を除く。)の少なくとも1種を
有効成分として含有する化粧用皮膚外用剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エラスターゼ活性阻害作用を有する皮膚外用組成物に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
肌の老化現象の一つであるシワやたるみは、紫外線照射や乾燥または加齢による細胞外マトリックス(コラーゲン(膠原繊維)、エラスチン(弾性繊維)等)の減少や架橋によって生じることが知られている。特にエラスチンは、互いに架橋を作って組織の弾性に寄与しているが、紫外線曝露や加齢により、エラスチン分解酵素であるエラスターゼの過剰発現によって、変性、分解すると知られている。実際、エラスターゼ抑制剤の塗布により、シワが改善した例も報告されている(特許文献1~2)。以上より、老化による皮膚のシワやたるみを防止するには、エラスターゼ活性を阻害し、エラスチンの分解を防ぐことが重要である。
【0003】
皮膚に直接塗布等する皮膚外用剤は、市場では天然成分が好まれるため、天然由来成分が望ましく、このような天然由来のエラスターゼ阻害剤としては、例えばハイブリッドティーローズが挙げられる。しかし、ハイブリッドティーローズは、病害に弱く、栽培が難しいため、産業利用において課題が残る(特許文献3)。
【0004】
一方、モッコウバラ種は、中国原産のバラの原種で、枝に棘も無く、強健で育てやすい上、小さいが花付きも非常によく、産業利用しやすい。モッコウバラ種の効果としては、抗菌作用や抗糖化作用等が知られているが、エラスターゼ阻害活性に関しては知られていなかった(特許文献4~7)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-335235
【文献】特開2006-008562
【文献】特開2011-236147
【文献】特開平9-255518
【文献】特開平9-255517
【文献】特開2015-160842
【文献】特開2004-189663
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、天然由来であり、効果の優れるエラスターゼ活性阻害剤を提供することを目的とする。また、上記効果による、シワ、たるみ予防・改善剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために、鋭意研究を行った。その結果、バラ科バラ属モッコウバラの抽出物が、優れたエラスターゼ活性抑制作用を有し、抗老化効果を奏し、かつ、天然由来の皮膚外用組成物の提供が可能になることを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、バラ科バラ属モッコウバラの抽出物を有効成分とする皮膚外用剤であって、当該抽出物が奏するエラスターゼ活性抑制作用により、格段に優れた老化現象(シワ、たるみ等)の予防、改善効果を有する皮膚外用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】黄モッコウバラの花、レディラックの花、オクラホマの花の抽出物のエラスターゼ阻害活性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
本発明で用いるモッコウバラは、バラ科(Rosaceae)バラ属(Rosa)モッコウバラ種(banksiae)であり、別名スダレイバラ、bank‘s roseとも呼ばれる。モッコウバラ種の植物としては、例えば、黄モッコウバラ、白モッコウバラ又はこれらの変種・交配種等を用いることもできる。これらの使用される部位は特に限定されない。全草、葉、茎、花等を使用することができ、葉と花等複数の部位を用いることができるが、中でも花を用いることが好ましい。採取時期は特に限定されるものではなく、いずれの採取時期のものを使用しても良い。
【0011】
抽出物の調製法は、特に限定されないが、例えば、バラ科バラ属モッコウバラ種の任意の部位(例えば、花、全草等)を、必要ならばあらかじめ水洗して異物を取り除いた後、そのまままたは乾燥した上、必要に応じて細切り又は粉砕し、抽出溶媒と接触させて抽出を行うことができる。抽出は、浸漬法等の常法に従って抽出溶媒と接触させることで行うことが可能であるが、超臨界抽出法や水蒸気蒸留法を用いることも可能である。もっとも、必ずしも予め抽出物を作製する必要はなく、そのまま、例えばモッコウバラの任意の部位の乾燥物を皮膚外用剤に直接入れる形で有効成分を皮膚外用剤中に溶出させても良い。
【0012】
抽出溶媒としては特に限定されないが、例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類などが挙げられ、それらは単独で又は二種以上混合して用いられる。
【0013】
それら抽出溶媒のうちでも、得られる抽出物の有効性、さらには、皮膚刺激性の観点から、また皮膚外用剤への幅広い適用が可能であるという点からも、本発明においては、水、低級アルコール類又は多価アルコール類などの親水性溶媒が好適である。この親水性溶媒を用いる場合の好ましい例としては、例えば水、低級アルコール類(特にエタノール)、または多価アルコール類(特に1,3-ブチレングリコール、グリセリン)との混合溶媒の使用等が挙げられる。
【0014】
本発明に用いることの出来る抽出物の抽出方法は特に限定されないが、例えば、バラ科バラ属モッコウバラ種の植物の乾燥部位と抽出溶媒との質量比は1~1000倍量、特に10~100倍量の溶媒を用い、常温抽出の場合は、0℃以上、特に20℃~40℃で1時間以上、特に3~7日間行うのが望ましい。また、60~100℃で1時間、加熱抽出しても良い。
【0015】
以上のような条件で得られる上記抽出物は、抽出された溶液をそのまま用いても良いが、さらに必要により、濾過等の処理をして、濃縮、粉末化したものを適宜使い分けて用いることが出来る。
【0016】
本発明に係る抽出物の配合量は、特に限定されないが、蒸発乾燥分に換算して、0.01~20.0質量%が好ましく、特に0.1~10.0質量%の範囲が最適である。
【0017】
本発明における使用するモッコウバラ抽出物の形態としては、液状、固形状、粉末状、ペースト状、ゲル状等いずれの形状でも良く、最終的な製品を構成する上で最適な形状を任意に選択することができる。
【0018】
本発明は、本発明の効果を損なわない範囲で、本願の必須成分の他に、例えば、油脂、ロウ類、炭化水素油、エステル油、水溶性高分子、増粘剤、紛体、皮膚保護剤、美白剤、モッコウバラ及び/又はモッコウバラの抽出物以外のシワ改善剤、老化防止剤、植物抽出物、防腐剤、消炎剤、pH調整剤、金属イオン封鎖剤、酸化防止剤、安定化剤、香料、色素、顔料等を必要に応じて混合して適宜配合することにより外用剤組成物の化粧水、乳液、クリーム、パック、パウダー、スプレー、軟膏、分散液、洗浄料及び液体状、ペースト状、カプセル状、粉末状、錠剤等種々の剤形とすることができる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)抽出物の調製
黄モッコウバラの花(乾燥物)、エラスターゼ阻害活性を有することで知られるハイブリッドティーローズの一種であるレディラックの花 (乾燥物)及びオクラホマの花(乾燥物)を10倍量の50%(v/v)エタノール水溶液で3日間抽出し、得られた抽出成分の乾燥物を試料とした。
【0021】
<エラスターゼ阻害試験>
エラスターゼ活性測定は以下の通り行った。反応用緩衝液として、0.1M HEPES、0.5M NaCl(pH7.4)を用いて行った。エラスターゼ基質として、Methoxy-succinyl-alanyl-alanyl-prolyl-valine-p-nitroanilideを80mMになるようにDMSOに溶解し、使用時に、反応緩衝液で8mMになるように希釈して使用した。エラスターゼは、ヒト白血球由来のエラスターゼ(SIGMA)を使用し、0.25Unit/mLになるように反応緩衝液に溶解して使用した。試料は、50%(v/v)エタノール水溶液で固形分が250~1000ppmに調製したものを用いた。96穴プレートに、それぞれ8mMのエラスターゼ基質を25μLずつ分注し、さらに50μLの試料を添加した。次に、0.25Unit/mLのエラスターゼを25μL加えて、37℃で20分間インキュベートした。その後、415nmで吸光度を測定した。阻害率は以下の関数による。
【0022】
【0023】
その結果を
図1に表示した。また、比較例として、すでにエラスターゼ阻害活性を有すると知られているハイブリッドティーローズの一種である、オクラホマ抽出物とレディラック抽出物の結果も合わせて
図1に示した。モッコウバラは、固形分250~1000ppm各濃度において、レディラック、オクラホマよりエラスターゼ阻害効果が高かった。よって、モッコウバラは、ハイブリッドティーローズよりも優れたエラスターゼ活性抑制作用を示すことが明らかとなった。
【0024】
次に、本発明にかかる皮膚外用剤を調製した。なお、配合割合は質量%である。モッコウバラは、乾燥した黄モッコウバラ(花)2gを10倍量の50%エタノール、乾燥した白モッコウバラ(葉)2gを10倍量の水、乾燥した黄モッコウバラ(茎)2gを10倍量の100%エタノールで抽出し、得られた抽出成分の乾燥物を1%配合した水溶液を各抽出物とした。
【0025】
処方例1を表1に記す。表1に記した原料を精製水に加え、均一に混合して調製した。
【0026】
【0027】
処方例2を表2に記す。水相の原料を混合し、加熱して70℃に保ち水相部とする。一方、油相の原料を混合し、加熱溶解して70℃として油相部とする。この油相部を前述の水相部に加えて予備乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化し、30℃まで冷却して化粧用クリームを得た。
【0028】
【0029】
処方例3を表3に記す。水相の原料を混合し、加熱して70℃に保ち水相部とする。一方、油相の原料を混合し、加熱溶解して70℃として油相部とする。この油相部を前述の水相部に加えて乳化し、30℃まで冷却して化粧用乳液を得た。
【0030】
【0031】
代表例として、黄モッコウバラ(花)抽出物を含む処方例1を用い、官能評価に熟練したパネラー5名による1か月間の使用テストを実施した。半顔ずつ、黄モッコウバラ(花)抽出物を含む処方例1又は処方例1から黄モッコウバラ(花)抽出物を抜いたコントロールを適用した。1か月使用後、シワ、たるみ改善効果について評価を実施した。シワ改善効果に関する結果を表4、たるみ改善効果に関する結果を表5に記す。
【0032】
【0033】
【0034】
以上より、モッコウバラの抽出物を使用することで、シワ、たるみ改善効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明によれば、バラ科バラ属モッコウバラの抽出物を有効成分とするエラスターゼ活性阻害剤であって、当該物が奏するエラスターゼ活性抑制作用により、従来に比べて優れた老化現象(シワ、たるみ等)の予防、改善効果を有する皮膚外用組成剤を提供することができる。