(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】腸管バリア改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/198 20060101AFI20240408BHJP
A61P 1/00 20060101ALI20240408BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61K31/198
A61P1/00
A61P43/00 105
(21)【出願番号】P 2020013831
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100196977
【氏名又は名称】上原 路子
(72)【発明者】
【氏名】作田 智洋
(72)【発明者】
【氏名】金 辰也
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕基
(72)【発明者】
【氏名】横尾 美星
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 卓弥
【審査官】新熊 忠信
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140946(JP,A)
【文献】特開平3-74327(JP,A)
【文献】国際公開第2015/008317(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/174286(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/173816(WO,A1)
【文献】特開2015-134790(JP,A)
【文献】国際公開第2011/040185(WO,A1)
【文献】特開2008-31096(JP,A)
【文献】特開2015-47121(JP,A)
【文献】国際公開第2010/098475(WO,A1)
【文献】特開2020-7255(JP,A)
【文献】Nutrients,11(9),2205,doi:10.3390/nu11092205
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
A61P 1/00
A61P 3/00
A61P 25/00
A61P 37/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
D-アスパラギン酸、D-システイン、D-グルタミン、D-グルタミン酸、及びD-セリンからなる群より選択される一種または二種以上のアミノ酸からなることを特徴とする腸管バリア改善剤
であって、
前記腸管バリア改善は腸管上皮のタイトジャンクションバリア機能の改善である、腸管バリア改善剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な腸管バリア改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
腸管などの消化管は、食物から必要な栄養素を吸収するのみならず、アレルゲンなどの異物の侵入から防御するよう外界と生体内を隔てるバリアの観点からも重要である。腸管のバリアに障害が起こると本来は排除されるべき有害物質が腸から吸収されてしまい様々な悪影響を及ぼす。このような腸管バリアの障害はリーキーガットとも呼ばれ、食物アレルギー、免疫疾患、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、感染症、肥満、糖尿病、NAFLD(非アルコール性脂肪性肝疾患)、NASH(非アルコール性脂肪肝炎)、メタボリックシンドローム、認知機能低下、抑うつ、などの様々な疾患との関連が示唆されている。さらに、腸管のバリア機能の障害は、各種皮膚疾患と関連することも示唆されている。例えば、小児アトピー性皮膚炎患者では、症状の重症度と腸管透過性が相関するということや、乾癬患者では、健常人と比較して腸管透過性が高いことが報告されている(特許文献1~6、非特許文献1~9)。
【0003】
近年、腸管バリア機能を改善し腸の状態を良好にすることで、全身や皮膚の状態の健康維持、疾患の治療や予防、美容効果等が期待されており、腸管バリア機能を改善するためにオリゴ糖等のプレバイオティクス、乳酸菌等のプロバイオティクスの摂取等が提案されている。また、本発明者らはボタンボウフウ抽出物が腸管バリア機能改善効果を有することを示した(特許文献1)。没食子酸残基を有する化合物、フラバン-3-オール重合体、ノビレチン、ケンペロール、ケルセチン、ミリセチンなどのポリフェノール(特許文献2~4、非特許文献1~3)及び不飽和脂肪酸代謝中間体(特許文献5)等が腸管バリア機能改善効果があり、タンゲレチンには大腸炎軽減作用がある(非特許文献4)ことも報告されている。更に、プロリン、セリン、及びスレオニンに腸管粘膜治癒効果(特許文献6)があることや、D-アラニン、L-グルタミン、グルタミン、ホエイタンパクに腸管バリア機能改善効果があること(非特許文献5~7)も報告されている。このような状況の下、腸管バリア機能を改善する効果の高い更なる物質が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-140946号公報
【文献】国際公開第2019/131772号
【文献】国際公開第2019/131767号
【文献】国際公開第2019/131759号
【文献】国際公開第2014/129384号
【文献】国際公開第2016/116585号
【文献】特許第4291628号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Xiong Y. et. al., Mol Nutr Food Res. 2015 May;59(5):829-42
【文献】Suzuki, T. et. al., J. Nutr. 2011, 141, 87-94
【文献】Suzuki, T. et. al., J. Nutr. 2009, 139, 965-74
【文献】Su-Hyeon Eun et. al., Planta Med 2017; 83: 527-533
【文献】Miyauchi, E. et. al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 76 (2), 283-288, 2012
【文献】Jaya Benjamin et. al., Digestive Diseases and Sciences 57(4):1000-12 ・ 2012
【文献】R. K. Rao et. al., J Epithel Biol Pharmacol. 2012 January ; 5(Suppl 1-M7): 47-54
【文献】Al-Sadi, R. et. al., Am. J. Physiol. Gastrointest. Liver Physiol. 2011, 300, G1054-64
【文献】Donato, K. A. et. al., Microbiology 2010, 156, 3288-97
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、新規な腸管バリア改善剤の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、様々な物質について鋭意研究の結果、腸管バリア改善剤としての効果が高い成分を見出し、以下の発明を完成した。
(1)D-アスパラギン酸、D-システイン、D-グルタミン、D-グルタミン酸、及びD-セリンからなる群より選択される一種または二種以上のアミノ酸からなることを特徴とする腸管バリア改善剤。
(2)モグロシドV、フムロン、5,7-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,4’,7-トリメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン、5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、及び3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボンからなる群より選択される一種または二種以上の成分からなることを特徴とする腸管バリア改善剤。
(3)(1)又は(2)に記載の腸管バリア改善剤を有効成分として含む、腸管バリア機能を改善するための組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明の腸管バリア改善剤の投与により、腸管バリア機能を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、各種D-アミノ酸(50μM)又はControl(PBS)を添加した場合の各時間におけるCaco-2細胞のTER値を、添加前初期値の割合(%)として示す(%,vs 0hr)。
【
図2】
図2は、各種L-アミノ酸(50μM)又はControl(PBS)を添加した場合の24時間後におけるCaco-2細胞のTER値を、添加前初期値の割合(%)として示す(%,vs 0hr)。
【
図3】
図3は、各種成分(100μM)又はControl(DMSO)を添加した場合の各時間におけるCaco-2細胞のTER値を、添加前初期値の割合(%)として示す(%,vs 0hr)。
【
図4】
図4は、5,7-ジメトキシフラボンを含む各種成分(100μM)又はControl(DMSO)を添加した場合の各時間におけるCaco-2細胞のTER値を、添加前初期値の割合(%)として示す(%,vs 0hr)。
【
図5】
図5は、5,7-ジメトキシフラボンを含む各種成分(100μM)又はControl(DMSO)を添加した場合の各時間におけるCaco-2細胞のTER値を、添加前初期値の割合(%)として示す(%,vs 0hr)。
【
図6】
図6は、モグロシドV、フムロン(100μM)、又はControl(DMSO)を添加した場合の各時間におけるCaco-2細胞のTER値を、添加前初期値の割合(%)として示す(%,vs 0hr)。
【
図7】
図7は、各種メトキシフラボン(100μM)又はControl(DMSO)を添加した場合の各時間におけるCaco-2細胞のTER値を、添加前初期値の割合(%)として示す(%,vs 0hr)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、D-アスパラギン酸、D-システイン、D-グルタミン、D-グルタミン酸、及びD-セリンからなる群より選択される一種または二種以上のD-アミノ酸、あるいは、モグロシドV、フムロン、5,7-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,4’,7-トリメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン、5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、及び3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボンからなる群より選択される一種または二種以上の成分からなることを特徴とする腸管バリア改善剤を提供する。
【0011】
本発明の腸管バリア改善剤の投与により、腸管バリア機能を改善することができる。腸管バリア機能の改善は、大腸炎やクローン病などの腸疾患、セリアック病などの免疫疾患、肥満、糖尿病、NAFLD、NASH、メタボリックシンドローム、アレルギー性疾患、認知機能低下、抑うつ、といった腸管バリア機能の障害に起因する各種疾患や障害の治療及び/又は予防、並びに皮膚状態の改善といった美容に有用である。
【0012】
また、本発明は、腸管バリア機能の改善に使用するためのD-アスパラギン酸、D-システイン、D-グルタミン、D-グルタミン酸、D-セリン、モグロシドV、フムロン、5,7-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,4’,7-トリメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン、5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、及び3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボン;腸管バリア機能の改善が必要な対象者に上記アミノ酸又は成分を有効成分として投与することを含む腸管バリア機能を改善する方法;並びに、腸管バリア改善剤を製造するための上記アミノ酸又は成分の使用、も包含する。
【0013】
腸管バリア機能とは、外界と生体内を隔てている腸管の上皮細胞がアレルゲンなどの異物や有害物質の侵入を制限する機能のことを言う。例えば、腸管上皮細胞の細胞間隙にはタイトジャンクション(TJ)と呼ばれる構造があり、細胞間の物質の透過を制御することにより腸管バリア機能の維持に寄与している。また、糖類や腸内の細菌叢も腸管バリア機能に関与しているとの報告もある。腸管バリア機能に障害が生じると、望ましくない物質が腸を透過してしまい、炎症等、体内に悪影響を起こし得る(特許文献1、非特許文献2、3、7-9)。
【0014】
腸管バリア機能の改善とは、上記のような腸管バリア機能の障害を予防及び/又は治療すること、腸管バリアを正常な状態に維持すること、タイトジャンクションを形成/修復/機能調節すること、腸粘膜を保護すること、粘液層の形成を促すこと、等を含みうる。
【0015】
腸管バリア機能は、様々な手法で評価することができるが、例えば、腸管易透過性マーカーであるマンニトール(M)と難透過性マーカーであるラクチュロース(L)を摂取した後の尿中ラクチュロース濃度とマンニトール濃度を測定し、ラクチュロース/マンニトール(L/M)比を比較することで評価でき、摂取後2.5-4h後のL/M比が小腸のバリア機能を反映することが知られている(特許文献1)。また、消化管上皮Caco-2細胞間の経上皮電気抵抗(Transepithelial Electric Resistance;TER)値を測定することにより、腸管のバリア機能を測定する方法も知られている(特許文献1、非特許文献2、3、8、9)。
【0016】
D-アミノ酸は腸内細菌代謝物であり、神経伝達、腎臓保護等に重要であることが報告されているが、本発明者らは、D-アスパラギン酸、D-システイン、D-グルタミン、D-グルタミン酸、及びD-セリン等のD-アミノ酸がとりわけ高い腸管バリア機能を奏することを明らかにした。
【0017】
本発明の有効成分としてD-アミノ酸を用いる場合、発酵法、酵素法、抽出法、酸分解法等の各種方法により動植物等の天然物から取得してもよいし化学的に合成してもよい。天然物に含まれる形態であってもよく、L-アミノ酸との混合物の形態で存在していてもよいが、特許文献7に記載の方法等によりD-アミノ酸を分離してもよい。
【0018】
モグロシドVは、ラカンカ(Momordica swingle、Siraitia grosvenorii、Momordica grosvenorii)果実等に含まれるククルビタン誘導体の配糖体の一種であり、以下の構造を有する化合物である(CAS番号:88901-36-4)。モグロシドVは、甘味成分として知られており、近年抗癌作用が報告されている。モグロシドVは、ラカンカ抽出物といった天然物の形態であっても、化学的に合成してもよい。
【化1】
【0019】
フムロン(humulone、別名:α-lupulic acid)は、ホップ(Humulus lupulus L.)等に含まれる以下の構造を有する化合物である(CAS番号:26472-41-3)。フムロンは苦味成分として知られており、殺菌作用、抗炎症作用等が報告されている。フムロンは、ホップ抽出物といった天然物の形態であっても、化学的に合成してもよい。
【化2】
【0020】
5,7-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,4’,7-トリメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン、5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、及び3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボンは、それぞれ以下の構造を有するポリメトキシフラボノイドである。
【表1】
【0021】
ポリメトキシフラボノイドは、癌抑制作用、抗炎症作用、アルツハイマー病の予防や治療に効果があるという報告があるが、本発明者らは、5,7-ジメトキシフラボン、5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボン、5-ヒドロキシ-3,4’,7-トリメトキシフラボン、5,7,4’-トリメトキシフラボン、5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボン、及び3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボンがとりわけ高い腸管バリア機能を奏することを明らかにした。
【0022】
5,7-ジメトキシフラボンは、黒ショウガ(Kaempferia parviflora、別名:黒ウコン)等に含まれる。5-ヒドロキシ-7-メトキシフラボンは、黒ショウガ、益智等に含まれる。5-ヒドロキシ-3,4’,7-トリメトキシフラボンは、黒ショウガ、センダン科植物の葉等に含まれる。5,7,4’-トリメトキシフラボンは、黒ショウガ、マンダリン(Citrus miaray)の果皮、ジンチョウゲ科植物(Aquilaria sinensis)の葉等に含まれる。5,7,3’,4’-テトラメトキシフラボンは、黒ショウガ、月橘(Murraya paniculata)の葉や茎、ジンチョウゲ科植物の葉等に含まれる。3,5,7,3’,4’-ペンタメトキシフラボンは、黒ショウガ、月橘の葉や茎、マンダリン果皮等に含まれる。上述した本発明のポリメトキシフラボノイドは、上記の植物その他動植物の抽出物といった天然物に含まれる形態であっても、化学的に合成してもよい。
【0023】
本発明の有効成分として植物体を用いる場合、植物の全草あるいは各種部位(葉、花、根等)を細断、粉砕、切断、圧砕、擦り潰し、ホモジナイズ、ミキシングなどの方法で細分化しその後に乾燥する方法や、植物を乾燥した後に細分化したもの、任意の方法で抽出した抽出物といった任意の形態であり得る。抽出物を用いる場合、抽出方法や抽出物の形態は本発明の効果を損なわない限り、任意であるが、エタノール等の低級アルコール、ヘキサン等の有機溶媒、又はヘキサン/エタノールといったこれらの混合溶媒を用いた抽出法により得られる抽出物を用いることができる。しかし、抽出方法は溶媒抽出に限定されず、当業界で知られている常用の手法によってもよい。
【0024】
本発明の有効成分は、滅菌、洗浄、濾過、脱色、脱臭等の慣用の精製処理を加えてから使用してもよく、必要により濃縮又は希釈してから使用してもよい。また、本発明の有効成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0025】
また、本発明の腸管バリア改善剤および組成物は、本発明の効果が損なわれない範囲で必要に応じて添加剤を任意に選択し併用することができる。添加剤としては賦形剤等を含ませることができる。
【0026】
賦形剤としては、所望の形態としたときに通常用いられるものであれば何でも良く、例えば、コムギデンプン、コメデンプン、トウモロコシデンプン、バレイショデンプン、デキストリン、シクロデキストリンなどのでんぷん類、結晶セルロース類、乳糖、ブドウ糖、砂糖、還元麦芽糖、水飴、フラクトオリゴ糖、乳化オリゴ糖などの糖類、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、ラクチトール、マンニトールなどの糖アルコール類が挙げられる。これら賦形剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0027】
また、本発明の腸管バリア改善剤および組成物は、必要に応じて、その他の成分、例えば、着色剤、保存剤、増粘剤、結合剤、崩壊剤、分散剤、安定化剤、ゲル化剤、酸化防止剤、保存剤、pH調整剤、油分、粉末、水、アルコール類、キレート剤、香料、各種薬効成分、防腐剤、中和剤等、公知のものを適宜選択して使用できる。また、本発明の効果を更に高めるために、1種又は2種以上の他の成分、例えば各種乳酸菌、糖類、他の腸管バリア改善剤等を併用してもよい。
【0028】
有効成分の摂取量は特に限定されないが、D-アミノ酸を用いる場合、体重60kgのヒトでは、1日あたり、50~5000mg摂取するのが好ましく、100~1000mgを摂取するのがより好ましく、100~500mgを摂取するのがさらに好ましく、モグロシドV、フムロン、又はポリメトキシフラボノイドを用いる場合、体重60kgのヒトでは、1日あたり、0.1~5000mg摂取するのが好ましく、0.5~1000mgを摂取するのがより好ましく、1~500mgを摂取するのがさらに好ましい。
【0029】
本発明の腸管バリア改善剤および組成物における有効成分の含有量は特に限定されないが、D-アミノ酸を用いる場合、1日あたり好ましくは50~5000mg、より好ましくは100~1000mg、更に好ましくは100~500mgを摂取される量で、モグロシドV、フムロン、又はポリメトキシフラボノイドを用いる場合、1日あたり好ましくは0.1~5000mg、より好ましくは0.5~1000mg、更に好ましくは1~500mg摂取される量で配合されている。
【0030】
本発明の腸管バリア改善剤および組成物の形態は、液体状、固形状、顆粒状、粒状、ペースト状、ゲル状など有効成分や用途等の条件に応じて任意に選択することができる。また、本発明の腸管バリア改善剤を含む組成物は、乾燥粉末、お茶や清涼飲料水などの飲料、サプリメントなどの錠剤及びカプセル剤、加工食品等の食品組成物であっても、医薬品等の医薬組成物であってもよい。組成物は、その剤形に応じ、賦形剤、担体及び/又は希釈剤等及び他の成分と適宜組み合わせた処方で、常法を用いて製造することができる。
【0031】
また、本発明の腸管バリア改善剤および組成物の投与経路は、経口、経鼻、経腸等を含むが、これらに限定されない。
【実施例】
【0032】
次に実施例によって本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0033】
試料の調製:
以下に記載の方法で各試料を調製した。
(1)D-アミノ酸の調製
図1に記載のD-アミノ酸および
図2に記載のL-アミノ酸の試料は、ナカライテスク社製の試薬をPBS(pH7.4、Gibco社製)に50mMの濃度で溶解することにより調製した。
(2)その他成分の調製
本発明の成分、並びに、腸管バリア機能が公知であるミリセチン、ノビレチン、タンゲレチンを含む各種ポリフェノールをはじめとする以下に示す合計33種類の成分は、DMSO(Fujifilm社製)に200mMの濃度で溶解することにより調製した。
【表2】
【0034】
細胞の培養:
ヒト腸管上皮細胞のCaco-2(HTB-37)は、American Type Cell Culture(Rockville、MD、USA)から購入し、既報の標準的な条件下で培養した(非特許文献2,3)。細胞は、トランスウェルインサート(直径12 mm、孔径0.4μM; Corning、Cambridge Corning、Cambridge、MA、USA)の透過性ポリエステル膜に0.25×106 cells / cm2の密度で播種し、全ての試験は播種後14日目に実施した。細胞は、継代数55~65の間のものを使用し、3日ごとに培地を交換した。14日間培養した後、以下に記載のように各成分を添加し腸管バリア機能を測定した。
【0035】
腸管バリア機能の測定:
腸管バリア機能は、非特許文献8,9の記載に基づいて腸管上皮のTJバリア機能をTranswellインサートのCaco-2単層細胞の経上皮電気抵抗(TER)で測定することにより評価した。単層細胞のTERは1000-1300Ω・cm2を示した(データ示さず)。試験の当日、L/D体アミノ酸を用いた試験のみ、試験培地をハンクス液(glucose (+))に変更し、その約6時間後に試験を実施した。各L/D体アミノ酸化合物(50μMol/L培地)、その他の成分(100μMol/L培地)、またはControl(PBS又はDMSO)をapical側の ウェルに添加し、細胞を48時間インキュベートした。本実験は、100μMのケンフェロール、ミリセチン、およびケルセチンが、添加48時間後にTJバリア機能に対して保護的な作用を示す既報を(非特許文献2,3)を基にした。TERは、化合物の添加前、および添加後12、24、および48時間に、Millicell-ERSシステム(Millipore, Bedford, MA, USA)で測定した。
【0036】
統計分析:
すべての値は、平均値±SEM(n=3)として表した。また、各時点のTERは添加前初期値の割合(%)として表した。統計解析は、Dunnet検定を4Stepエクセル統計第4版(オーエムエス出版)を使用することで実施した。P<0.05(vs Control, Dunnet検定)を有意とみなし図中に*を付して示した。
【0037】
D-アミノ酸の結果を
図1に、L-アミノ酸の結果を
図2に示す。
図1に見られるように、本発明のD-アミノ酸を加えたCaco-2細胞ではControlに対しTERが有意に高く、腸管バリア機能が改善していることがわかる。さらに、本発明のD-アミノ酸は、腸管バリア機能改善作用が既知であるD-アラニン(D-Ala)と比較しても優れていることが分かる。一方、
図2から明らかなように、各種L-アミノ酸を加えてもCaco-2細胞のTERは有意に増加せず、顕著な腸管バリア機能の改善が見られなかった。
【0038】
図3~7は、合計33種類の成分を用いた結果である。
図3に記載の7種類の成分1~7については有意なTERの増加は見られず、成分5に至っては有意に低くなる結果となった。
図4は、ノビレチン、タンゲレチン、5,7-ジメトキシフラボンを含む合計7種類の成分の結果を示す。既報により腸管バリア機能が報告されているノビレチン、タンゲレチンと比較しても本発明の5,7-ジメトキシフラボンは非常に高いTERの増加を示すことがわかる。
図5は、ミリセチン、5,7-ジメトキシフラボンを含む合計3種類の成分の結果を示す。5,7-ジメトキシフラボンがとりわけ優れた腸管バリア機能を奏することがわかる。
図6は、フムロンおよびモグロシドVの結果を示す。
図7は、本願発明のポリメトキシフラボンの結果を示し、いずれのポリメトキシフラボンも有意に高い非常に高いTERの増加を示した。
【0039】
本実施例により、本願発明は既知の腸管バリア機能改善を有する成分と比較しても非常に優れた腸管バリア機能改善効果があることが認められた。腸管バリア機能の障害は各種疾患や状態に影響することが示されている特許文献1~6、非特許文献1~10)。従って、本発明の腸管バリア改善剤は、腸管バリア機能の障害に起因する各種疾患の治療及び/又は予防、並びに皮膚状態の改善といった美容に有効である。