(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】トイレ装置
(51)【国際特許分類】
E03D 11/00 20060101AFI20240408BHJP
E03D 9/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
E03D11/00 A
E03D9/00 D
(21)【出願番号】P 2020016199
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2022-12-07
(73)【特許権者】
【識別番号】504163612
【氏名又は名称】株式会社LIXIL
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】弁理士法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】牧 道太郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 弘明
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-223977(JP,A)
【文献】特開2000-170234(JP,A)
【文献】特開2001-54491(JP,A)
【文献】特開平9-201385(JP,A)
【文献】実開平2-40295(JP,U)
【文献】実開昭60-152394(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 11/00-11/18
E03D 7/00
E03D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
便器収納部に格納される収納位置と、前記便器収納部よりも前方であって左右側方のうち少なくとも一方の側方に介助スペースが確保される
使用位置との間で移動可能な便器装置と、
前記便器装置に対して左右に並ぶように配置され、前記介助スペースの後方に配置された水受け部と、
排水用配管と通気用配管とが配置され、前記便器収納部に対して左右方向に並ぶように、且つ前記水受け部よりも後方の位置に配置された背面収納部と、を備え、
前記背面収納部の前面が前記便器収納部の正面よりも後方に位置するトイレ装置。
【請求項2】
前記水受け部のうち前記介助スペースに面する前端は、
前記使用位置の前記便器装置の前端よりも後方に位置している請求項1記載のトイレ装置。
【請求項3】
前記水受け部の前記前端は、前記便器装置の便座における排泄用開口の後端よりも後方に位置している請求項2に記載のトイレ装置。
【請求項4】
前記水受け部の前記前端は、前記便座の後端よりも後方に位置している請求項3に記載のトイレ装置。
【請求項5】
前記水受け部のボウルの後端は、前記便器装置の上面における後端よりも後方に位置する請求項2から請求項4のいずれか1項に記載のトイレ装置。
【請求項6】
前記背面収納部の少なくとも一部は、前記水受け部の上端よりも上方の領域に確保されている請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のトイレ装置。
【請求項7】
前記収納位置に移動した前記便器装置を収容するために前記便器収納部内に確保された奥行き方向の便器収納スペースが、前記水受け部の前端から後端に亘る奥行きと、前記背面収納部の前後方向の奥行きとを併せた奥行きによって確保されている請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のトイレ装置。
【請求項8】
前記収納位置と前記使用位置との間における前記便器装置の移動は、鉛直方向に延びる回転軸を中心とした回転移動である請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のトイレ装置。
【請求項9】
前記回転軸は、前記使用位置における前記便器装置の左右方向における中央よりも、前記水受け部側へ偏った位置に配置されている請求項8に記載のトイレ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、トイレ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、前面パネルに便器と洗面台を取り付けた身体障害者用衛生設備ユニットが開示されている。便器は、その前後の向きを前面パネルに対して直角に向けて、前面パネルから水平に突出している。洗面台も、前面パネルから水平に突出している。便器と洗面台は、前面パネルと正対して見たときに左右に並ぶように配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記衛生設備ユニットは、便器と洗面台が接近して配置されているので、省スペース化を図ることが可能である。しかし、便器と洗面台は、両方とも前面パネルから水平に突出しているので、便器の左右両側方のうち洗面台側には、介助スペースを確保することができない。便器のおける洗面台側の側方に介助スペースを確保しようとすると、便器と洗面台を離して配置しなければならないので、便器と洗面台を配置するために広いスペースが必要となる。
【0005】
本開示は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、便器装置の側方に介助スペースを確保しながら省スペース化を実現することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のトイレ装置は、左右両側方のうち少なくとも一方の側方に介助スペースが確保されるように配置された便器装置と、前記介助スペースに臨むように配置された水受け部とを備えている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】実施形態1のトイレ装置において便器装置を収納した状態をあらわす正面図
【
図3】便器収納部の扉を開けた状態をあらわす正面図
【
図4】便器装置を使用位置へ移動させた状態の正面図
【
図7】実施形態2のトイレ装置において扉を閉じた状態をあらわす平断面図
【
図8】実施形態2のトイレ装置において扉を開けた状態をあらわす平断面図
【発明を実施するための形態】
【0008】
<実施形態1>
以下、本開示を具体化した実施形態1を
図1~
図6を参照して説明する。本開示のトイレ装置1は、キャビネット10と移動式トイレ40とを備えている。移動式トイレ40は、台車41と便器装置45とを備えて構成されている。
【0009】
以下の説明において、上下の方向については、
図1,3,4,6にあらわれる向きを、そのまま上方、下方と定義する。左右の方向については、
図1,3,4の正面図及び
図2,5の平断面図にあらわれる向きを、そのまま左方、右方と定義する。左右方向と幅方向は、同義で用いる。トイレ装置1の前後方向については、キャビネット10の正面側(
図6における左方)を前方と定義する。トイレ装置1の前後方向と奥行き方向は、同義で用いる。便器装置45の前後方向については、便器装置45の便座47に着座した使用者の正面側を前側、使用者の背中側を後側と定義する。
【0010】
キャビネット10は、医療施設の病室、介護施設の居室、サービス付き高齢者向け住宅の居室、一般住宅の居室等に設置されるものである。キャビネット10は、建物の躯体とは別に製作したものであり、居室の壁面Wに対しキャビネット10の背面を密着させるように配置した状態で固定されている。キャビネット10は、機器収納部11と、支持部32と、洗面台33と、回転軸38とを備えている。機器収納部11は、便器収納部12と、取付部20と、背面収納部30とを備えている。
【0011】
便器収納部12は、上面と下面が開口した直方体状の箱形をなし、床面Fに設置されている。便器収納部12の左側面における後側領域も、上下両面の開口と連通した形態で開口している。本実施形態1において、便器収納部12の前面を正面部12Fと定義する。便器収納部12の正面部12Fのうち左端部を除いた領域には、便器収納部12の内部空間を機器収納部11の前方外部へ開放する開口部13が形成されている。便器収納部12の内部には、便器装置45を収容するための便器収納スペース14が確保されている。
【0012】
便器収納部12には、開口部13のうち左端部を除いた大部分の領域を開閉するための扉15が設けられている。扉15は、吊り元側パネル16と戸先側パネル17とを有する折れ戸によって構成されている。吊り元側パネル16は、開口部13の右側の開口縁に支持されている。閉じた状態の扉15を開く過程では、2枚のパネル16,17が、互いに内面同士を対向させて重なるように変位する。つまり、吊り元側パネル16は、便器収納部12の正面部12Fに対して約90°回転し、戸先側パネル17は、吊り元側パネル16に対して相対的に約180°回転する。
【0013】
開いた状態の扉15は、開口部13の右側の開口縁から前方へ突出する。戸先側パネル17の外面のうち吊り元側パネル16に近い位置には、ペーパーホルダ18が取り付けられている。扉15を開けた状態では、ペーパーホルダ18が扉15の左面に位置し、後述する便器装置45に対して右方から対向するように臨む。ペーパーホルダ18は扉15の前端部に位置するので、便器収納部12の前方からトイレットペーパーを繰り出し易い。扉15を閉じた状態では、ペーパーホルダ18が便器収納部12の正面部12Fに露出する。便器収納部12には、開口部13の左端部を開閉するためのサイドパネル19が設けられている。サイドパネル19を開くことにより、後述する排水装置53のメンテナンス等を行うことができる。
【0014】
取付部20は、下面が開口した直方体状の箱形をなし、便器収納部12の上に重なっている。取付部20の下面と便器収納部12の上面は連通しており、便器収納部12内の空間と取付部20内の空間は連通して1つの空間を構成している。取付部20の左側面における後側領域は、取付部20の下面の開口及び便器収納部12の左側面の開口と連通した形態で開口している。
【0015】
キャビネット10を上から見た平面視においては、便器収納部12と取付部20が同一の形状である。当該平面視においては、便器収納部12と取付部20の前後方向の奥行き寸法が同じ寸法である。平面視においては、便器収納部12と取付部20の左右方向の幅寸法が同じ寸法である。平面視において取付部20は便器収納部12の真上に重なっている。便器収納部12の正面部12Fと取付部20の前面は面一状に連なっている。取付部20の右側面と便器収納部12の右側面は面一状に連なっている。取付部20の背面と便器収納部12の背面は面一状に連なっている。
【0016】
取付部20の前面には、左右一対の手摺り23と、1つの背凭れ24が取り付けられている。手摺り23と背凭れ24は、使用者が便器装置45に着座している間や、着座動作や脱座動作を行う際等に使用するための身体補助部材22である。手摺り23と背凭れ24の取付け構造を説明する。取付部20は、取付部20の前面から前方へ突出した形態の左右一対の支持アーム25を有する。両支持アーム25の突出端同士は、水平な連結アーム26で連結されている。連結アーム26の左右両端部には、一対の軸部27が取り付けられている。
【0017】
一対の軸部27には、左右一対の手摺り23の基端部が個別に支持されている。一対の手摺り23は、取付部20の前面に沿うように起立する格納形態(
図1~3を参照)と、取付部20の前方へ水平に突出する使用形態(
図4~6を参照)との間で変位させることができる。左側の手摺り23と右側の手摺り23は、個別に変位させることができる。背凭れ24は、連結アーム26の左右方向中央部に固定され、左右一対の手摺り23の間に配置されている。キャビネット10を正面側から見た正面視において、背凭れ24は方形をなす。左右の手摺り23と背凭れ24は、支持アーム25と連結アーム26を共用せず、個別に取付部20に取り付けてもよい。
【0018】
背面収納部30は、下面が開口した直方体状の箱形をなし、便器収納部12及び取付部20の左側に並ぶように配置されている。背面収納部30の右側面は、便器収納部12及び取付部20の左側面の開口と連通した状態で開口している。したがって、便器収納部12内の空間と取付部20内の空間と背面収納部30内の空間は、連通して1つの空間を構成している。背面収納部30の上端面は、取付部20の上端面と同じ高さである。背面収納部30の前面30Fは、便器収納部12の正面部12F及び取付部20の前面20Fよりも後方に位置する。
【0019】
支持部32は、直方体状の箱形をなし、床面F上に設置されている。支持部32は、背面収納部30の前側に隣接し、便器収納部12及び取付部20の左側に隣接して並ぶように配置されている。支持部32の上端は、取付部20の上端及び背面収納部30の上端よりも低い高さである。支持部32の右側面は、便器収納部12の左側面全領域と、取付部20の左側面における下端部とに連なっている。支持部32の前面は、便器収納部12の正面部12F(前面)及び取付部20の前面に対し、面一状に連なっている。
【0020】
支持部32の上面には、洗面台33と水栓35が取り付けられている。洗面台33は、水栓35から吐出した水や湯を受けるためのボウル34を有する。キャビネット10を上から見た平面視において、ボウル34の前端34Fは支持部32の前面32Fよりも前方へ突出している。水栓35は、ボウル34の後端34Rよりも後方から立ち上がっている。
【0021】
回転軸38は、機器収納部11内において、軸線を床面Fと直角な鉛直方向に向けた状態で配置されている。回転軸38の下端部は床面Fに固定され、回転軸38の上端部は、取付部20の上面板に固定されている。回転軸38は、後述する移動式トイレ40が収納位置(
図1~3を参照)と使用位置(
図4~6を参照)との間で移動するときに描く円弧状の移動軌跡の中心である。
【0022】
移動式トイレ40の台車41は、
図2~4に示すように、ベース部材42と、4つのキャスター43と、1つの軸受部44とを有する。ベース部材42には、便器装置45と排水装置53が載置された状態で固定されている。便器装置45と排水装置53は、前後に間隔を開けて並ぶ位置関係で配置されている。台車41は、キャスター43によって床面F上を水平に移動可能であり、便器装置45と排水装置53を使用位置と収納位置との間で一体的に移動させる。
【0023】
軸受部44は、ベース部材42に取り付けられている。前後方向における軸受部44の取付け位置は、便器装置45の後端45Rよりも後方であり、かつ排水装置53の前端53Fよりも前方の位置である。左右方向における軸受部44の取付け位置は、便器装置45の左端よりも左方の位置である。軸受部44には、回転軸38が貫通されている。移動式トイレ40は、回転軸38を中心として床面F上を四半円弧形の軌跡を描きながら、収納位置と使用位置との間で移動することができる。
【0024】
図2~4に示すように、便器装置45は、便鉢部(図示省略)を有する便器本体46と、便器本体46の上面に載置された便座47と、機器収容部48とを有する。
図2,5に示すように、便器本体46の後面には、排水装置53に接続するための排水用接続部49と、便器装置45に給水するための給水用接続部50が設けられている。給水用接続部50には、床面Fから導出された可撓性を有する給水ホース51の下流端が接続されている。
図3,5に示すように、便座47の後端47Rにおける左右両端部には、一対の支点部52が形成されている。便座47は、支点部52を中心として、便器本体46の上面に載置される使用形態と、便器本体46の上方へ跳ね上げた起立形態(図示省略)との間で変位する。便座47は、排泄用開口47Hを有する。
【0025】
機器収容部48は、便器本体46の上面における後端部、即ち便座47よりも後方に配置されている。機器収容部48には、便器装置45の使用感を向上させるための機能機器(図示省略)が収容されている。機能機器としては、局部洗浄装置、便器洗浄装置、擬音装置、便座開閉装置、便座暖房装置、温風装置、及び消臭装置等がある。
【0026】
図2,5に示すように、便器装置45を上から見たときの平面視形状は、砲弾形である。便器装置45の前端部は略半円弧形をなし、便器装置45の前後方向中央部と後端部は、略長方形をなしている。便器装置45の前後寸法は、便器装置45の幅寸法よりも長い。本実施形態1では、便器装置45の上面(便座47及び機器収容部48の上面)における前端を、便器装置45の前端45Fと定義し、便器装置45の上面における後端を、便器装置45の後端45Rと定義する。
【0027】
排水装置53は、便器装置45の排水を行う機能を有する装置である。排水装置53の前面と便器装置45の排水用接続部49には、便器装置45の汚物等を排出するための排水経路である排水管54が接続されている。排水装置53の上面には、排水用便器側接続部55と通気用便器側接続部56が設けられている。排水用便器側接続部55には、可撓性を有する排水用ホース57の上流端が接続されている。排水用ホース57の下流端は、取付部20内及び背面収納部30内に配置された排水用配管60の排水用配管側接続部61に接続されている。通気用便器側接続部56には、可撓性を有する通気用ホース58の一方の端部が接続されている。通気用ホース58の他方の端部は、取付部20内及び背面収納部30内に配置された通気用配管62の通気用配管側接続部63に接続されている。
【0028】
キャビネット10内のうち便器収納部12内において便器装置45を格納する位置を、収納位置と定義する。キャビネット10外における便器収納部12の正面側の位置を、使用位置と定義する。便器収納部12の扉15を開けると、開口部13が開放されるので、移動式トイレ40を便器収納部12内へ収納できるとともに、便器収納部12内の移動式トイレ40を使用位置へ移動させることができる。
【0029】
回転軸38によって収納位置と使用位置との間で便器装置45の向きを変えるときの便器本体46の移動は、水平面内における回転移動である。便器収納部12の奥行き方向における回転軸38の設置位置は、正面部12Fに近い位置である。便器収納部12の幅方向における回転軸38の設置位置は、便器収納部12の幅方向中央よりも洗面台33に近い左側の位置である。
【0030】
移動式トイレ40を収納位置へ格納した状態では、便器装置45の前後方向の向きが、便器収納部12の正面部12F及び幅方向と平行である。回転軸38は、便器収納部12内に配置されているので、移動式トイレ40の全体が便器収納部12内に収納される。扉15を閉めると、収納位置の移動式トイレ40を隠しておくことができる。移動式トイレ40が使用位置にあるとき、平面視において、便器装置45は手摺り23及び背凭れ24よりも後方に位置する。右側の手摺り23の後方には、便器装置45の前後方向中央よりも少し前方の部位、即ち排泄用開口47の後端側領域が位置する。左側の手摺り23の後方には、排水装置53の前端側部位が位置する。背凭れ24の後方には、便器装置45の後端部、即ち機器収容部48が位置する。
【0031】
収納位置の移動式トイレ40は、平面視において時計回り方向へ水平に90°回転させることによって、使用位置へ移動させることができる。移動式トイレ40が使用位置にあるときに、便器装置45の前後方向の向きは、便器収納部12の正面部12Fに対して直角の方向を向く。排水装置53は、便器収納部12内に収容されたままである。便器装置45の全体は便器収納部12の外部に配置される。使用位置の便器装置45は、背凭れ24の前方に位置し、一対の手摺り23の間に位置する。背凭れ24は、便座47の後端47Rよりも少し後方に位置し、着座者の背中を支える。一対の手摺り23は、便座47を左右両側から挟むように位置する。使用者が着座したときには、上腕を手摺り23に載せることができる。便器装置45の使用者が着座動作や脱座動作を行う際には、手摺り53を手で掴むことによって身体を安定させることができる。
【0032】
便器装置45を使用位置へ移動させた後は、起立形態の手摺り23を水平な使用形態へ変位させる。便器装置45の使用者が便座47に着座したときには、使用者が手摺り23に腕を載せることによって、着座姿勢を安定させることができる。便座47に着座するときや便座47から立ち上がるときには、手摺り23に掴まることによって着座や立ち上がりの動作を安定して行うことができる。使用者が便座47に着座した状態では、使用者の背中を背凭れ24に当てることによって、使用者間の上体を安定させることができる。
【0033】
便器装置45が使用位置へ移動して便器収納部12の正面部12Fから便器収納部12の外部へ突出した状態では、
図5に示すように、便器装置45の前後の向きが、便器収納部12の正面部12Fに対して直角をなす方向又は直角に近い角度をなす方向を向いている。便器装置45の斜め右前方には、壁や家具等が存在しないので、便器装置45の右側方には、介助スペースSが確保される。介助スペースSは、使用者を手助けする介助者が立ったり動いたりすることのできるスペースであり、好ましくは介助者と被介助者が一緒に立ったり動いたりすることのできるスペースである。
【0034】
便器収納部12の左方には洗面台33が並ぶように配置されている。使用位置の便器装置45は便器収納部12よりも前方に位置している。洗面台33の前端33Fは、便器収納部12の正面部12Fよりも前方に位置する。洗面台33の前端33Fは、便器装置45の前端45Fよりも後方に位置している。したがって、便器装置45の左側方にも、介助スペースSが確保される。介助スペースSは、洗面台33の正面側に位置しているので、洗面台33を使用するときに、使用者が立つことのできる使用スペースを兼ねている。
【0035】
本実施形態1のトイレ装置1は、便器収納部12と便器装置45とを備えている。便器装置45は、便器収納部12内に収納される収納位置と、便器収納部12の外部の使用位置との間で移動可能である。便器収納部12よりも上方の位置には、使用位置の便器装置45を使用する使用者の身体を安定させるための身体補助部材22として手摺り23と背凭れ24が配置されている。便器収納部12の正面部12Fには、収納位置と使用位置との間で移動する便器装置45の移動経路としての開口部13が設けられている。開口部13の上方に取付部20が設けられている。取付部20に手摺り23と背凭れ24が取り付けられている。
【0036】
手摺り23と背凭れ24は、便器装置45と一体に移動するのではなく、便器装置45を収納するための便器収納部12よりも上方の位置に配置されているので、便器収納部12内には、手摺り23と背凭れ24を収納するためのスペースが不要である。したがって、便器収納部12の省スペース化を図ることができる。収納位置と使用位置との間における便器装置45の移動は、鉛直方向に延びる回転軸38を中心とした回転移動である。平面視において回転軸38が占める面積は、比較的小さいので、省スペース化を実現することができる。
【0037】
手摺り23は、便器装置45の便座47に着座した使用者の腕を載せることが可能であるから、便座47に着座した使用者の身体を安定させることができる。背凭れ24は、便器装置45に着座した使用者の背中を支えるので、便座47に着座した使用者の身体を安定させることができる。
【0038】
便器収納部12の正面部12Fには、開口部13を開閉するための扉15が設けられている。開口部13に扉15を設けたことにより、収納位置に収納した便器装置45を隠すことができる。
【0039】
扉15には、トイレ周辺機器としてのペーパーホルダ18が取り付けられている。扉15の高さは、便器装置45を移動させるための開口部13と同じ高さであるから、扉15に取り付けたペーパーホルダ18の高さは、便器装置45に対して極端に高い位置にはならない。したがって、立位姿勢の介助者に限らず、便器装置45に着座した使用者でも、ペーパーホルダ18からトイレットペーパーPを繰り出すことができる。ペーパーホルダ18は、扉15が閉じた状態において便器収納部12の外部に露出しているので、便器装置45を使用せずに収納位置へ移動させた状態でも、トイレットペーパーPを使用することができる。
【0040】
便器装置45が使用位置にある状態では、便器装置45の前後の向きが便器収納部12の正面部12Fに対して直角の方向を向く。扉15が開いた状態では、扉15は使用位置の便器装置45の前端45Fよりも正面部12Fに近い領域内のみに位置する。つまり、扉15の前端15Fは便器装置45の前端45Fよりも後方に位置する。したがって、便器装置45の右側方のうち扉15の前端15Fよりも前方の領域にも、介助者が立つことのできる介助スペースSを確保することができる。扉15は折れ戸であるから、扉15が一枚板状の開き戸である場合に比べると、扉15を開閉させるためのスペースが小さくて済む。
【0041】
本実施形態1のトイレ装置1は、使用位置へ移動したときに、左右両側方に介助スペースSが確保されるように配置された便器装置45を備える。トイレ装置1は、更に、介助スペースSに臨むように配置された洗面台33を備える。介助スペースSは、便器装置45の使用者を介助するためのスペースと、洗面台33を使用するためのスペースとを兼ねている。洗面台33を使用するためのスペースを、介助スペースSとは別に確保する必要がないので、便器装置45の側方に介助スペースSを確保しながら省スペース化を実現することができる。
【0042】
キャビネット10を前方から見た正面視において、便器装置45と洗面台33は左右に並ぶように配置されている。洗面台33のうち介助スペースSに面する前端33Fは、使用位置の便器装置45の前端45Fよりも後方に位置している。したがって、便器装置45と洗面台33が左右に並ぶように配置されていても、便器装置45の側方に介助スペースSを確保することが実現されている。洗面台33の前端33Fは、便器装置45の便座47における排泄用開口47Hの後端47HRよりも後方に位置する。洗面台33の前端33Fは、便座47の後端47Rよりも後方に位置する。洗面台33の前端33Fは、便器装置45の後端45Rよりも後方に位置している。したがって、前後方向において、充分に広い介助スペースSを確保することができる。
【0043】
洗面台33のボウル34の後端34Rは、便器装置45の上面における後端45Rよりも後方に位置するので、ボウル34の前後寸法を大きく確保することができる。したがって、ボウル34内で水が跳ねても、跳ねた水がボウル34の前方まで飛び難い。
【0044】
洗面台33の後方には背面収納部30が設けられているので、排水用配管60と通気用配管62を洗面台33の後方に配置することができた。背面収納部30の少なくとも一部は、洗面台33の上端及び便器収納部12よりも上方の領域に確保されているので、洗面台33よりも上方のスペースを、デッドスペースにせずに有効に活用することができた。
【0045】
便器装置45は、正面視において洗面台33と左右に並ぶ使用位置と、使用位置よりも後方の収納位置との間で移動可能である。収納位置に移動した便器装置45を収容するための便器収納スペース14は、洗面台33の前端33Fから後端33Rに亘る奥行きと、背面収納部30の前後方向の奥行きとを併せた奥行きによって確保されている。洗面台33の後方に背面収納部30を確保したことによって使用位置の後方に生じた空間を、デッドスペースにすることなく便器収納スペース14として有効活用することが実現されている。
【0046】
回転軸38は、使用位置における便器装置45の左右方向における中央よりも、洗面台33側へ偏った位置に配置されている。便器装置45が使用位置から収納位置へ移動する過程で、便器装置45が洗面台33に対して左右方向へ大きく離れることがないので、便器装置45を洗面台33に近い位置に収納することができる。
【0047】
<実施形態2>
次に、本開示を具体化した実施形態2のトイレ装置2を
図7~
図8を参照して説明する。本実施形態2は、扉70と、ペーパーホルダの取付け位置を上記実施形態1とは異なる構成としたものである。その他の構成については上記実施形態1と同じであるため、同じ構成については、同一符号を付し、構造、作用及び効果の説明は省略する。
【0048】
便器収納部12には、開口部13を開閉するための扉70が設けられている。扉70は、吊り元側パネル71と戸先側パネル72とを有する折れ戸によって構成されている。吊り元側パネル71は、開口部13の右側の開口縁に支持されている。閉じた状態の扉70を開く過程では、2枚のパネル71,72が、互いに外面同士を対向させて重なるように変位する。つまり、吊り元側パネル71は、便器収納部12の正面部12Fに対して約90°回転し、戸先側パネル72は、吊り元側パネル71に対して相対的に約180°回転する。
【0049】
開いた状態の扉70は、開口部13の右側の開口縁から前方へ突出する。吊り元側パネル71の内面のうち戸先側パネル72から遠い位置には、ペーパーホルダ18が取り付けられている。扉70を開けた状態では、ペーパーホルダ18が、便器装置45に対して右方から対向するように臨む。扉70を閉じた状態では、ペーパーホルダ18が便器収納部12内に収納されるので、ペーパーホルダ18を隠しておくことができる。便器装置45の前端部は砲弾型をなしているので、便器装置45の前端部と、扉70が閉じた状態の吊り元側パネル71との間には、ペーパーホルダ18を収納するための格納スペース73が確保される。したがって、扉70を閉めたときに、ペーパーホルダ18が便器装置45と干渉することはない。
【0050】
<他の実施形態>
本開示は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本開示の技術的範囲に含まれる。
介助スペースは、便器装置の左右両側方のうち水受け部側の側方のみに確保されていてもよい。
水受け部は、洗面台に限らず、オストメイト用トイレや、食器洗い等のためのシンク等であってもよい。
便器装置を水受け部の正面側に横向きに配置し、介助スペースを便器装置と水受け部との間に確保してもよい。
水受け部の前端の位置は、便座の後端よりも前方の位置であってもよい。
水受け部の前端の位置は、便座の排泄用開口の後端よりも前方の位置であってもよい。
水受け部のボウルの後端は、便器装置の上面における後端よりも前方に位置していてもよい。
水受け部の後方に背面収納部が設けられていなくてもよい。
回転軸は、便器装置の左右方向における中央よりも水受け部とは反対側へ偏った位置に配置されていてもよい。
便器収納部に扉を設けず、開口部を開放したままにしてもよい。
便器装置が使用位置にある状態において、便器装置の前後の向きが、便器収納部の正面部に対して平行な向きであってもよく、正面部に対して斜めの向きであってもよい。
収納位置と使用位置との間における便器装置の変位経路を、複数のアーム状のリンクを二次元平面上で相対回転し得るように連結した多節リンク機構等によってガイドしてもよい。
便器装置が収納位置にあるときに、回転軸は、便器装置における開口部側の外側面に対し、開口部とは反対側へ離隔した位置に配置されていてもよい。
回転軸は、便器装置の左右方向における中央よりも水受け部とは反対側へ偏った位置に配置されていてもよい。
回転軸は、排水装置の後端から後方へ離隔して配置されていてもよい。
便器装置を電動によって移動させるようにしてもよい。
便器装置が収納位置にあるときに、便器装置の一部が便器収納部の外部にはみ出していてもよい。
便器収納部と取付部は、居室の内壁と一体をなすように造り付けたものであってもよい。
支持部と背面収納部は、便器収納部と取付部の右側に並ぶように配置されていてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1,2…トイレ装置、14…便器収納スペース、30…背面収納部、33…洗面台(水受け部)、33F…洗面台(水受け部)の前端、33R…洗面台(水受け部)の後端、34…ボウル、34R…ボウルの後端、38…回転軸、45…便器装置、45F…便器装置の前端、45R…便器装置の後端、47…便座、47H…排泄用開口、47HR…排泄用開口の後端、S…介助スペース