IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-モータおよび物品 図1
  • 特許-モータおよび物品 図2
  • 特許-モータおよび物品 図3
  • 特許-モータおよび物品 図4
  • 特許-モータおよび物品 図5
  • 特許-モータおよび物品 図6
  • 特許-モータおよび物品 図7
  • 特許-モータおよび物品 図8
  • 特許-モータおよび物品 図9
  • 特許-モータおよび物品 図10
  • 特許-モータおよび物品 図11
  • 特許-モータおよび物品 図12
  • 特許-モータおよび物品 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】モータおよび物品
(51)【国際特許分類】
   H02K 21/16 20060101AFI20240408BHJP
   H02K 7/09 20060101ALI20240408BHJP
   H02K 1/276 20220101ALI20240408BHJP
【FI】
H02K21/16 M
H02K7/09
H02K1/276
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020019512
(22)【出願日】2020-02-07
(65)【公開番号】P2021126001
(43)【公開日】2021-08-30
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126240
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 琢磨
(74)【代理人】
【識別番号】100223941
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 佳子
(74)【代理人】
【識別番号】100159695
【弁理士】
【氏名又は名称】中辻 七朗
(74)【代理人】
【識別番号】100172476
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 一史
(74)【代理人】
【識別番号】100126974
【弁理士】
【氏名又は名称】大朋 靖尚
(72)【発明者】
【氏名】山本 武
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/093428(WO,A1)
【文献】特開2011-188567(JP,A)
【文献】特開2009-095147(JP,A)
【文献】特開2001-190045(JP,A)
【文献】特開2006-014528(JP,A)
【文献】国際公開第2009/050767(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 21/16
H02K 7/09
H02K 1/27
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周部を有する第一部分と、前記外周部と対向する内周部を有する第二部分と、を有し、
前記第一部分が前記第二部分に対して相対的に回転するモータであって、
前記外周部および前記内周部の一方は、回転方向に沿って配置された1列のコイル列を含む複数のコイルを有し、
前記外周部および前記内周部の他方は、前記回転方向に沿って配置され、前記1列のコイル列と対向する位置に配置された複数の磁石からなる磁石列を有し、
前記磁石列は、前記1列のコイル列をなす前記複数のコイルに電流が印加されたときに、前記複数のコイルの少なくとも1つに回転方向に推力を付与する第一磁石部と、前記複数のコイルの少なくとも1つに前記回転方向と交差する方向に推力を付与する第二磁石部と、を有することを特徴とするモータ。
【請求項2】
前記第一磁石部が、前記回転方向に沿って配置された複数の第一磁石よりなり、隣り合う前記第一磁石が互いに異なる方向に着磁されており、
前記第二磁石部が、前記回転方向と交差する方向に配置された複数の第二磁石よりなり、隣り合う前記第二磁石が互いに異なる方向に着磁されている請求項1に記載のモータ。
【請求項3】
前記外周部が前記磁石列を有し、前記内周部が前記コイル列を有する請求項1または2に記載のモータ。
【請求項4】
前記外周部が前記コイル列を有し、前記内周部が前記磁石列を有する請求項1または2に記載のモータ。
【請求項5】
前記第一部分が固定子であり、前記第二部分が回転子である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項6】
前記第一部分が回転子であり、前記第二部分が固定子である請求項1乃至4のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項7】
前記回転子が、前記固定子に対して接触しない状態で回転する請求項5または6に記載のモータ。
【請求項8】
前記第一磁石部および前記第二磁石部と、前記複数のコイルとの間に作用する電磁力により、前記固定子に対する前記回転子の回転速度および三次元方向における姿勢が制御可能な請求項5乃至7のいずれか1項に記載のモータ。
【請求項9】
前記三次元方向における姿勢は、前記回転子の回転軸に平行なZ軸方向、当該Z軸方向に直交するX軸方向、前記X軸方向及び前記Z軸方向に直交するY軸方向における位置と、回転角度を含むことを特徴とする請求項8に記載のモータ。
【請求項10】
前記第一部分および前記第二部分の一方は、固定部材に接続可能である請求項1乃至9いずれか1項に記載のモータ。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のモータを有する物品。
【請求項12】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のモータの前記第一部分および前記第二部分の一方にフィンが形成されている物品。
【請求項13】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載のモータの前記第一部分および前記第二部分の一方にタイヤが取り付けられている物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転子と、固定子を備え、前記回転子が、前記回転子の軸線のまわりに非接触状態で回転するモータおよび物品に関する。
【背景技術】
【0002】
回転子を磁気の作用によって非接触状態で回転させる構成の回転機器として、例えば磁気浮上回転モータ、高速回転機、工作機械用の高速スピンドル、更にはその応用例としての真空ポンプへの適用がある。
【0003】
磁気浮上の方式として、回転子の軸線方向に沿って回転子の軸方向の位置ならびに回転の制御を行なうものがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-251486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法ではその上部にラジアル軸受けのためのコイル、回転力を発生させるモータ、下部にアキシャル軸受けと、複数のコイルが配置されているためモータ全体が大型化するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によるモータは、外周部を有する第一部分と、前記外周部と対向する内周部を有する第二部分と、を有し、前記第一部分が前記第二部分に対して相対的に回転するモータであって、前記外周部および前記内周部の一方は、回転方向に沿って配置された1列のコイル列を含む複数のコイルを有し、前記外周部および前記内周部の他方は、前記回転方向に沿って配置され、前記1列のコイル列と対向する位置に配置された複数の磁石からなる磁石列を有し、前記磁石列は、前記1列のコイル列をなす前記複数のコイルに電流が印加されたときに、前記複数のコイルの少なくとも1つに回転方向に推力を付与する第一磁石部と、前記複数のコイルの少なくとも1つに前記回転方向と交差する方向に推力を付与する第二磁石部と、を有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明による物品は、上記モータを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、回転子をより簡単な構造によって非接触で回転させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(A)本発明の第1実施形態を示す概略図である。(B)本発明の第1実施形態を示す概略図である。
図2】(A)本発明の第1実施形態を示す概略図である。(B)本発明の第1実施形態を示す概略図である。(C)本発明の第1実施形態を示す概略図である。(D)本発明の第1実施形態を示す概略図である。
図3】本発明の第1実施形態を示す概略図である。
図4】本発明の第1実施形態を示す概略図である。
図5】本発明の第1実施形態を示す概略図である。
図6】本発明の第1実施形態を示す概略図である。
図7】本発明の第1実施形態を示す概略図である。
図8】本発明の第3実施形態を示す概略図である。
図9】本発明の第3実施形態の変形例を示す概略図である。
図10】本発明の第4実施形態を示す概略図である。
図11】(A)本発明の第5実施形態を示す概略図である。(B)本発明の第5実施形態を示す概略図である。
図12】(A)本発明の第6実施形態を示す概略図である。(B)本発明の第6実施形態を示す概略図である。
図13】本発明の第7実施形態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[第1実施形態]
以下、図面を参照して本発明のモータの一例である第1実施形態について図1A乃至図7を用いて説明する。
【0012】
図1は、モータを示す概念図である。図1(A)は縦断面概念図を示し、図1(B)は、図1(A)のA-A´に沿う断面概念図を示す。
【0013】
図1(A)および図1(B)において、101は回転子であり、201は固定子である。回転子101は固定子201に対して浮上した状態で(非接触で)回転する。回転子101は、ベース部分105と複数の永久磁石102を有している。ベース部分105は、第一の面105aと第二の面105bと第一の面105aと第二の面105bとを接続する外周面を有する外周部105cを有している。そして、複数の永久磁石102は、ベース部分105の外周部105cに取り付けられている。ベース部分の外周部と永久磁石との間にヨーク等の別部材を介して永久磁石が取り付けられていてもよい。固定子201は、ハウジング206と、ハウジング206の内周面である内周部206aであって回転子101の永久磁石102と対向する位置に取り付けられた複数のコイル204を有している。ハウジングの内周部とコイルとの間に別部材を介してコイルが取り付けられていてもよい。
【0014】
図1(A)および図1(B)において、101を回転子、201を固定子としたが、101を固定子、201を回転子としてもよい。つまり、ハウジング206が架台などの固定部に接続可能であってもよいし、ベース部分105が架台などの固定部に接続可能であってもよい。
【0015】
言い換えれば、101を第一部分、201を第二部分としたとき、第一部分101が第二部分201に対して相対的に回転してもよいし、第二部分201が第一部分101に対して相対的に回転してもよい。また、回転子(第一部分)101に複数の永久磁石、固定子(第二部分)201にはコイルを取り付ける例を示すが、回転子(第一部分)101にコイル、固定子(第二部分)201に永久磁石(強磁性体)を取り付けてもよい。
【0016】
ここで、以下の説明において用いる座標軸、方向等を定義する。回転子101が回転する軸をZ軸とし、Z軸に沿う方向をZ軸方向とする。つまりZ軸方向は回転軸に平行な方向である。Z軸方向と直交する方向にX軸をとり、X軸に沿う方向をX軸方向とする。X軸方向およびZ軸方向に直交する方向に沿ってY軸をとり、X軸方向およびZ軸方向に直交する方向をY軸方向とする。Z軸周りの回転をWz、X軸周りの回転をWx、Y軸周りの回転をWyとする。回転の正方向は固定子201の原点Osからそれぞれの軸が+の方向に伸びる方向に対して右ねじの方向とする。
【0017】
また、半径方向(半径が大きくなる方向)にR軸をとる。
【0018】
また後述するコイル群におけるコイルの指標として記号“j(=1~6)”を用いる。
【0019】
本実施形態においては、特に区別する必要がない限り、コイルを単に「コイル204」と表記する。各コイル204を個別に特定する必要がある場合、「コイル204-1」、「コイル204-2」、・・・「コイル204-6」と表記して各コイル204を個別に特定する。
【0020】
同様に、永久磁石を単に「永久磁石102」と表記する。各永久磁石102を個別に特定する必要がある場合、例えば「永久磁石102-1」、「永久磁石102-2」、・・・「永久磁石102-9」と表記して各永久磁石102を個別に特定する。
【0021】
回転子101のWzの回転角の大きさをθとする。
【0022】
固定子201側のZ軸回りの回転Wzの基準Ocはコイル204-1の中心とする。
【0023】
回転子101側のWzの基準Orは永久磁石102-1と102-9の中間とする。
【0024】
角度θは固定子201側の基準Ocから回転子101側の基準Orへの角度とする。
【0025】
後述の図2に示すように、回転子101のベース部105の外周部105cには、回転子101の回転方向(円周方向)に沿った第一の着磁方向に着磁された永久磁石群102-1~102-9が取り付けられている。また、永久磁石群の中には、第一の着磁方向に沿って交互に着磁された第一の永久磁石群102-1、102-3、102-4、102-6、102-7、102-9が含まれている。また、永久磁石群の中には、前記第一の着磁方向と交差する第二の着磁方向に着磁された第二の永久磁石群102-2、102-5、102-8が含まれている。永久磁石102の背面側(固定子に対向する面とは反対側)には磁力を増すために図示しないヨーク板を取り付けてもよい。また、複数の永久磁石102を覆うようにカバー(不図示)が取り付けられていてもよい。
【0026】
固定子201のカバー206の内周部206aには、回転子101の永久磁石と対向する位置であって固定子201の円周方向に沿って、鉄芯あるいは空芯の周りに導線が巻かれた複数のコイル204が取り付けられている。そして、コイルに電流を流すことによりコイルと永久磁石との間に作用する電磁力によって、回転子101が固定子201に対してZ軸の周りに回転する。
【0027】
なお、複数のコイル204にはこれらを覆うようにカバー(不図示)が取り付けられていてもよい。
【0028】
固定子201にはXセンサ213とYセンサ214が取り付けられている。Xセンサ213は、回転子101とXセンサ213の間のX軸方向の距離を検出することができる。また、Yセンサ214は回転子101とYセンサ214と間のY軸方向の距離を検出することが出来る。
【0029】
さらに、固定子201にはWzセンサ211が取り付けられている。またWzセンサ211に対向する回転子101の面にはスケール212が取り付けられている。Wzセンサ211は、回転子101のスケール212上のパターンを読み取ることで回転子101の回転角を検出することが出来る。
【0030】
固定子201にはZセンサ210a~210cが3か所取り付けられている。これらのZセンサ210は回転子101までのZ軸方向の隙間(空隙)の距離を検出することが出来る。
【0031】
ここで、3個のZセンサ210a~210cから回転子101のZ軸方向、WX軸方向およびWY軸方向における変位を算出する方法を図3を用いて説明する。3個のZセンサ(210a、210b、210c)の各々の検出値を元に平面ABCを定義する。その平面ABCの法線ベクトルの傾きと原点Osと平面ABCまでの距離から平面ABCの即ち回転子101の固定子に対する変位(Z,Wx,Wy)すなわち傾きを算出することが出来る。
【0032】
図2(A)は、回転子101の永久磁石102の配置を模式的に表わした図であり、ベース部105の外周部105cを展開して模式的に表した図を示している。
【0033】
永久磁石102はコイルに対向する面方向に、例えば図示するように着磁されている。具体的には、例えば、永久磁石102-1、102-4、102-7はコイルに対向する面がN極に、永久磁石102-3、102-6、102-9はS極に着磁されている。そして、永久磁石102-2、102-5、102-8はZ軸方向に2分割され各々がN極およびS極に着磁されている。そして永久磁石102-1~102-9による円周方向の配列が永久磁石群を構成している。この永久磁石群には、Z軸方向に2分割着磁された永久磁石102-2、102-5、102-8が第2の永久磁石群を含んでいる。
【0034】
図2(B)は、コイル204の配置を模式的に表わした図であり、固定子201のカバーの内周部201aを展開して模式的に表した図を示している。
【0035】
コイル204は全部で6個のコイルから構成されている例を示す。
【0036】
図2(C)、図2(D)は回転子101が角度θ1にある場合の、コイル204における単位電流当たり発生するq軸、d軸およびZ軸のトルクの大きさ、すなわち推力定数(Eq,Ed、Ez)を模式的に表わした図である。
【0037】
ここで示すq軸、d軸はモータベクトル制御理論におけるq軸、d軸を示していて、図1(B)には代表してコイル204-3に対するq軸およびd軸の方向を記載してある。q軸は周方向、d軸は径方向である。
【0038】
各推力定数(Eq,Ed,EZ)の大きさは回転子101の回転角度θとコイルの指標jによって異なる。各推力定数(Eq,Ed,EZ)の最初の引数がコイル204の指標(j、1~6)、2番目の引数が、回転子101の角度θを表している。
【0039】
図2(A)(θ=θ1)において、コイル204-4は対向面がS極の永久磁石102-3とN極の永久磁石102-4のほぼ中間に位置している。
【0040】
この場合に、例えばコイル204-4に永久磁石102-4と対向する側にN極が現れるように単位電流を印加すると、永久磁石102-3との間には吸引力が、永久磁石102-4の間には反発力がそれぞれ働く。よって、コイル204-4にはq軸方向に推力(Eq(4,θ1))が印加される。一方、d軸の推力(Ed(4,θ1))、Z軸方向の推力(EZ(4,θ1))は比較的小さい。
【0041】
同様に、コイル204-5に永久磁石204と対向する側にN極が現れるように単位電流を印加すると、永久磁石102-5がN極とS極にZ軸方向に分かれていることから、コイル204-5にはZ軸方向の推力(EZ(5,θ1))が働く。
【0042】
また、永久磁石102-4と102-6との力を受けてq軸にも比較的小さい推力(Eq(5,θ1))が働く。同様にd軸の推力(Ed(5,θ1))は小さい。
【0043】
コイル204に働く力は回転子101に働く反力と等価的に扱うことが出来るので、例えばコイルがq軸の正方向に推力が発生する場合は回転子101にはq軸の負方向の推力が発生する。
【0044】
図4を用いて、電流制御システムについて説明する。
【0045】
コイル204は各々個別に電流制御器313に接続されている。
【0046】
電流制御器313には電流センサ312が接続されていてコイル204の各々の電流値を検出することが出来る。
【0047】
電流制御器313はモータコントローラ301に接続されていてモータコントローラ301からの電流指令値に従って、電流センサ312で電流量を検出しながら、所定の電流を各々のコイル204に対して独立に印加することが出来る。
【0048】
モータコントローラ301にはZセンサ210、Wzセンサ211、Xセンサ213、Yセンサ214が接続されていて、回転子101の変位(X,Y,Z,Wx,Wy、Wz)を検出することが出来る。
【0049】
またモータコントローラ301はその内部に制御プログラムおよびクロック発振器が内蔵されており、モータの変位に応じた電流値を計算して各コイル204に電流を印加することが出来る。
【0050】
図5を用いてモータコントローラ301による回転子101の姿勢制御方法について説明する。図5は回転子101に印加する力の大きさを算出するための制御ループを模式的に表したものである。
【0051】
refは回転子101の変位の目標値、posはセンサ群(Zセンサ210、Wzセンサ211、Xセンサ213、Yセンサ214)から得られる回転子101の変位である。姿勢コントローラ501は目標値refと変位posとの差分errから、回転子を目標姿勢位置へと駆動するために回転子101に印加するトルクTを算出する。
【0052】
電流算出器502はトルクTと変位posからコイル204に印加する電流Iを決定する。
【0053】
これによって、コイル204と回転子101の間に電磁力Fが発生して回転子101に作用し、回転子の姿勢(傾き)が制御され、再び変位posが検出されることを繰り返す。
【0054】
姿勢コントローラ501は例えばPID制御コントローラでもよいし、回転子101の特性に応じて適宜フィルタを入れるなどして回転子101の姿勢を安定させることが出来る。
【0055】
また、回転子101に対して印加されるトルクベクトルTqを次式(1)により表記する。なお、Tx、Ty、Tzは、それぞれX軸方向の力、Y軸方向の力、Z軸方向の力の大きさである。また、Twx,Twy、TwzはそれぞれX軸周り、Y軸周り、Z軸周りのモーメント力の大きさである。
【0056】
本実施形態による制御システム1は、これらトルクベクトルTq(Tx,Ty,Tz,Twx,Twy,Twz)を制御することにより、回転子101の姿勢(X,Y,Z,Wx,Wy)を制御しつつ、回転子101を回転させる。
Tq=(Tx,Ty,Tz,Twx,Twy,Twz) …式(1)
【0057】
電流ベクトルIsは、コイル204に印加する電流として定義される。
Is=(I1,I2,I3,I4,I5,I6) …式(2)
【0058】
図6(A)、図6(B)は図2のθ=θ1の状態における回転子101に対して各コイルに単位電流を印加した場合に働く推力(E)を模式的に表わしたものである。
【0059】
コイル204-1、204-3,204-5には、回転子側の永久磁石との相互作用により主にZ軸方向の力が働き、同様にコイル204-2,204-6,204-8には主にq軸方向の力が働く。図6(A)は斜視図、図6(B)はZ軸上から回転子の回転状態を見た図である。
【0060】
この図から、E2、E4,E6の力はXY平面内で働く力である。E2、E4,E6のそれぞれに対応したコイルの電流値を設定することでXY平面内の力およびモーメント力(Tx,Ty,Twz)を発生させることが出来る。
【0061】
同様に、E1,E3,E5のそれぞれに対応したコイルの電流値を設定することで、Z軸、Wx軸、Wy軸方向の力およびモーメント力(Tz,Twx,Twy)を発生させることが出来る。
【0062】
図6(A)および図6(B)は図2のθ=θ1に対応している。回転子101の回転に応じてコイル204に発生する磁界を移動させることで回転子101の任意の回転角(Wz)で回転子101にトルクベクトルTqを印加することが出来ることを、図7を用いて説明する。
【0063】
まず、記号を整理する。
j:コイル指標(j=1~6)
Ij:j番目のコイルに印加される電流値
Is=(I1,I2,I3,I4,I5,I6)の列ベクトル
Φj:j番目のコイルのWZ軸方向の角度
r:永久磁石204までの半径
Eq(j,θ):j番目のコイルと回転子101(角度θ)との間に働くq軸方向の単位電流当たりの力
Ed(j,θ):j番目のコイルと回転子101(角度θ)との間に働くd軸方向の単位電流当たりの力
Σ:指標jを1~6に変化させた場合の合計
とする。
トルクベクトルTq=(Tx,Ty,Tz,Twx,Twy,Twz)の要素は、各々
Tx=Σ{(-Eq(j,θ)*Sinφj+Ed(j,θ)*Cosφj)*Ij}…式(3-1)
Ty=Σ{(Eq(j,θ)*Cosφj+Ed(j,θ)*Sinφj)*Ij}…式(3-2)
Tz=Σ(EZ(j,θ)*Ij)…式(3-3)
Twx=Σ(Ed(j,θ)*r*Sinφj*Ij)…式(3-4)
Twy=Σ(-Eq(j,θ)*r*Cosφj*Ij)…式(3-5)
Twz=Σ(Eq(j,θ)*r*Ij)…式(3-6)
で与えられる。
【0064】
所望のトルクベクトルTqを印加するには上の式(3-1)~式(3-6)を満足する電流Ijを、それぞれ対応するコイルに印加すればよい。
【0065】
式(3-1)~式(3-6)を満足する電流Ijの算出方法を説明する。
【0066】
ここでさらに幾つかの表記法を使用する。
i:トルク指標(1~6、1:X軸、2:Y軸、3:Z軸、4:Wx軸、5:Wy軸、6:Wz軸)
Ki:6個の要素を持つベクトルKの要素
M:6行、j列の要素を持つ行列
M(i、j):行列Mのi行j列の要素
Inv:逆行列
Tr:転置行列
*:行およびスカラー要素の乗算
とし、各単位ベクトルを用いて、以下の行列要素
M(1,j)=-Eq(j,θ)*Sinφj+Ed(j,θ)*Cosφj…式(4-1)
M(2,j)=(Eq(j,θ)*Cosφj+Ed(j,θ)*Sinφj)…式(4-2)
M(3,j)=EZ(j,θ)…式(4-3)
M(4,j)=Ed(j,θ)*r*Sinφj…式(4-4)
M(5,j)=Eq(j,θ)*r*Cosφj…式(4-5)
M(6,j)=Eq(j,θ)…式(4-6)
を持つ行列Mを定義すれば、
式(3-1)~式(3-6)は式(4-1)~式(4-6)を使って
Tq=M*Is…式(5-1)
と表現することが出来る。
【0067】
今、コイル数(j)が6個なので行列Mは6行6列の正方行列であるから、式(5-1)を変形して
Inv(M)*T=Inv(M)*M*Is=Is…式(5-2)
とすれば電流ベクトルIsを一意に決定することが出来る。
【0068】
この様に、回転子101が任意の角度θの場合でも6軸のトルクベクトルをTq印加することが出来るので回転子101の回転速度および三次元方向における姿勢を制御することが出来る。
【0069】
上述の制御を行うことにより、固定子に対して、回転子を浮上させた状態で静止を含む任意の速度で回転させながら、姿勢をリアルタイムでダイナミックに制御することが可能となる。
【0070】
[第2実施形態]
次に、第2実施形態を説明する。
【0071】
第1実施形態では、コイル204のコイルの数が6個である例を示した。しかし、よりトルクを滑らかに出力したい場合やコイルの形状等の制約からコイルの数を7個以上にしてもよい。
【0072】
もし、コイル数(j)を7個以上とするなら、第1実施形態で説明した式(5-1)を満足するコイル電流ベクトルIsは無数に存在することになる。その場合、常にコイル電流Isを導出する方法が必要である。
【0073】
ここで、行列Mのj番目の列要素(M(1,j)、M(2,j)、M(3,j)、M(4,j)、M(5,j)、M(6,j)、)はj番目のコイル204-jに単位電流を印加した際、各軸のトルクへの寄与の大きさを示している。各軸のトルクとは、(Tx,Ty,Tz,Twx,Twy,Twz)である。
【0074】
そこで、6個の列要素を持つベクトルKを使って、
Tr(M)*K=Is…式(5-3)
とすれば、第1実施形態で説明した式(5-1)は
Tq=M*Is=M*Tr(M)*K…式(5-4)
と変形できる。
【0075】
対称行列同士の積の性質から、M*Tr(M)は6行6列の正方行であり、行列のrankは常に6となるから常に逆行列を持つ。
したがって、式(5-4)は
Inv(M*Tra(M))*Tq=K…式(5-5)
と解くことが出来るので、Kは一意に計算できる。
【0076】
結局、
Tra(M)*Inv(M*Tr(M))*T=Is…式(5-6)
と計算することが出来るので電流ベクトルIsを一意に決定することが出来る。
【0077】
この様に、回転子101に対して6軸のトルクTqを印加することが出来るので回転子101の回転速度および三次元方向における姿勢を制御することが出来る。
【0078】
[第3実施形態]
次に、第3実施形態を説明する。本実施形態においては、第1実施形態の永久磁石と形状が異なる例を示す。また第1実施形態と同様の作用を有する構成については同じ符号を付し説明を省略する。
【0079】
図8は、第3実施形態における永久磁石802の配置を模式的に表わした図であり、ベース部の外周部105cを展開して模式的に表した図を示している。
【0080】
第3実施形態の永久磁石802は第1実施形態の永久磁石102と比較して、台形状で永久磁石の個数を減らすことができるため製作工程がより簡単に出来る。
【0081】
このような配置を取った場合でも第1実施形態または第2実施形態で説明したように、回転子101の回転角θに応じた各コイルの推力定数(Eq,Ed,EZ)を予め取得しておけば同様の制御方法で回転子101の姿勢を安定させつつ回転させることが出来る。
【0082】
図8において、永久磁石802の各々の永久磁石802の重心を通過する線801が回転方向に対して一定以上の角度(η)を有することが特徴である。
【0083】
同様に、第3実施形態の変形例として図9にあるような配置の永久磁石902とすることでも、Z軸方向の力を印加することが出来る。実施形態1よりもより簡単な構成を取りたい場合に有用である。
【0084】
図9は、第3実施形態の変形例における回転子101の永久磁石902の配置を模式的に表わした図であり、ベース部の外周部105cを展開して模式的に表した図を示している。
【0085】
永久磁石902はコイルに対向する面方向に、図示するように着磁されている。具体的には、第1実施形態と同様に、永久磁石902-1、902-4、902-7はコイルに対向する面がN極に、永久磁石902-3、902-6、902-9はS極に着磁されている。しかし、第1実施形態では、永久磁石102-2、102-5、102-8はZ軸方向に2分割され各々がN極およびS極に着磁されている例を示した。しかし、本変形例の永久磁石902-2、902-5、902-8は、N極だけ、重心位置を下側に偏らせて配置されている。本変形例では、N極としたが、もちろんS極でもよい。
【0086】
これにより、第1実施形態よりも簡単な構成で、Z軸方向の力を印加することが出来る。
【0087】
[第4実施形態]
次に、第4実施形態を説明する。第1実施形態と同様の作用を有する構成については同じ符号を付し説明を省略する。
【0088】
第1~第3実施形態はいずれも図1に示すように、回転子101に永久磁石102があり、コイル204は固定子201側にある例を示した。本実施形態では、図10に示すように、回転子101側にコイル204´、固定子201側に永久磁石102´が配置されている例を示す。この配置であっても第1~第3実施形態と同様に、磁気浮上型のモータを提供することができる。
【0089】
図10において、永久磁石102´は固定子201に固定されている。コイル204´は回転子101側に固定されている。Wzセンサ211´は回転子101側にあり、スケール212´は固定子201側にある。Zセンサ210´、Xセンサ213´およびYセンサ214´(図示しない)も回転子101側に固定されている。
【0090】
モータコントローラ301は回転子101側にあり無線ユニット1002と通信可能に構成されている。モータコントローラ301は図示しない電池を搭載しており一定時間回転することが出来る。無線ユニット1002に電力伝送機能を持たせれば充電の必要なく回転子101を回転させることが出来る。
【0091】
[第5実施形態]
図11(A)、図11(B)を用いて第5実施形態について説明する。第1実施形態と同様の作用を有する構成については同じ符号を付し説明を省略する。
【0092】
第1~第4実施形態ではモータについて説明したが、本実施形態では、第1~第4実施形態で説明したモータを有する物品について説明する。本実施形態では、第1~第4実施形態で説明したモータを有する物品として、ポンプに適用した例を示す。
【0093】
図11は、ポンプを示す概念図である。図11(A)は縦断面概念図を示し、図1(B)は、図1(A)のA-A´に沿う断面概念図を示す。
【0094】
回転子101のベース部105には、フィン103が形成されている。
【0095】
そして、固定子201は、可動子101を覆うようにハウジング2061が設けられている。ハウジング2061は、その内周部にコイルが取り付けられている側壁部2061cと、その側壁部20161cと接続される第一壁部2061a、第二壁部2061bを有している。第一壁部2061aの一部には、吸入口202として穴があけられ、第二壁部2061bには排出口203として穴があけられている。これにより、流体中で回転子101が所定の方向に回転すると吸入口202から流体が流れ込み、排出口203から排出されるためポンプとして動作する。
【0096】
また物品の変形例として、回転子101(あるいは前述したように201が回転子であってもよい)に、例えばタイヤ等を取り付けることも可能である。その場合、本発明のモータは、自動車等の車両、あるいはドローン等の飛行体の構成部品として機能させることができる。
【0097】
[第6実施形態]
図12(A)および図12(B)を用いて第5実施形態を説明する。第1実施形態と同様の作用を有する構成については同じ符号を付し説明を省略する。
【0098】
第1実施形態では回転子101が固定子201の内側にある例を示したが、本実施形態では固定子201が回転子101の内側にある例を示す。
【0099】
図12は、第6実施形態を示す概念図である。図11(A)は縦断面概念図を示し、図1(B)は、図1(A)のA-A´に沿う断面概念図を示す。
【0100】
図12図1と比較して、固定子201が回転子101の内側にある点が異なる。
【0101】
また、第1実施形態で用いたZセンサ210は、回転子と固定子のZ軸方向の隙間の距離を測定するセンサを用いたが、本実施形態のZセンサ222は、固定子の外周部と回転子の内周部との間の隙間の距離を測定するセンサを用いた点が異なる。Zセンサ222に対向する回転子101側の側面(内周部)にはZスケール223が取り付けてある。Zセンサ222はZスケール223のパターンを読み取って、Zセンサ222に対する回転子101のZ軸方向の変位を検出することが出来る。
【0102】
Zセンサ222は固定子101の側面(外周部)から回転子101の変位(Z,Wx,Wy)を検出することが出来る。つまり、Z軸方向に干渉する部材が無いので、回転子101をZ軸方向に動かして抜くことも可能である。
【0103】
この構成では固定子201を小型にすることが出来、また、様々な仕様のフィン103を形成することが出来る。
【0104】
また、本実施形態ではフィン13を可動子の外周部に形成したポンプの例を示すが、フィン103に変えてタイヤ等を取り付けることで自動車などの車両にも適用可能である。
【0105】
第5実施形態では固定子201のいずれかの壁部205を図示しない架台等に取り付けて固定して使用することが出来る。
【0106】
[第7実施形態]
図13を用いて第7実施形態を説明する。第1実施形態と同様の作用を有する構成については同じ符号を付し説明を省略する。
【0107】
図13図12と比較して回転子101と固定子201との間隔が広く取られている点が異なる。
【0108】
この構成では、回転子101を意図的に大きく傾けた状態でも回転子101を回転させることが出来るので固定子201の角度を変えることなく回転子101の回転軸をZ軸から傾けることが出来る。このような構成をとれば例えばドローンや垂直離発着が可能な航空機などの飛行体に適用することで空気が排出される方向を自由に変更することが出来るのでより自由度の高い運航が可能になる。
【符号の説明】
【0109】
101 回転子
102 永久磁石
201 固定子
204 コイル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13