(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】座標データ作成装置およびミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 19/08 20060101AFI20240408BHJP
D05B 69/18 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
D05B19/08
D05B69/18 Z
(21)【出願番号】P 2020043797
(22)【出願日】2020-03-13
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002244
【氏名又は名称】株式会社ジャノメ
(74)【代理人】
【識別番号】100122426
【氏名又は名称】加藤 清志
(72)【発明者】
【氏名】金剛 猛
(72)【発明者】
【氏名】小田 弘美
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-005797(JP,A)
【文献】特開昭53-015960(JP,A)
【文献】特開平04-079982(JP,A)
【文献】特開2011-245092(JP,A)
【文献】特開2013-034513(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 19/08
D05B 69/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫製する模様の針落ち位置を示す座標データを記憶する座標データ記憶部と、
前記座標データ毎に加算する加算値を記憶する加算値記憶部と、
前記座標データ又は前記加算値を調節する調節部と、
前記調節部において調節された座標データ又は加算値を記憶する調整後データ記憶部と、
前記
座標データ記憶部に記憶されている座標データに前記
調整後データ記憶部に記憶されている加算値を加算し、又は前記
調整後データ記憶部に記憶されている座標データに前記
加算値記憶部に記憶されている加算値あるいは前記
調整後データ記憶部に記憶されている加算値を加算して、前記模様を崩した新たな座標データを作成する加算後座標データ作成部と、
を備えた座標データ作成装置。
【請求項2】
前記座標データは、振幅方向の値と送り方向の値とを有し、
前記新たな座標データの振幅方向の値又は送り方向の値が所定の範囲を超えた場合、前記所定の範囲を超えた値を前記新たな座標データとして採用しないことを特徴とする請求項
1に記載の座標データ作成装置。
【請求項3】
縫製する模様の針落ち位置を示す座標データを記憶する座標データ記憶部と、
前記座標データ毎に加算する加算値を記憶する加算値記憶部と、
前記座標データ又は前記加算値を調節する調節部と、
前記調節部において調節された座標データ又は加算値を記憶する調整後データ記憶部と、
前記
座標データ記憶部に記憶されている座標データに前記
調整後データ記憶部に記憶されている加算値を加算し、又は前記
調整後データ記憶部に記憶されている座標データに前記
加算値記憶部に記憶されている加算値あるいは前記
調整後データ記憶部に記憶されている加算値を加算して、前記模様を崩した新たな座標データを作成する加算後座標データ作成部と、
を備え、
前記加算後座標データ作成部において作成された新たな座標データに基づいて縫製を行うミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座標データ作成装置およびミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ミシンの縫い目は、針の振幅位置と布の送り量によって位置が決まる。そのため、各針落ち点を糸でつなぐことにより模様が生成される。
ここで、模様を形成する場合、針を落とす位置は、縫いたい図形に基づいて、一針ずつ針を落とす位置を決めてデータ入力して行く。
つまり、基本的には、元の図形の縫い目を忠実に再現できるよう縫いデータを作ることが多い。
そして、この縫いデータに従って、針落ち点を直線やカーブでつないでいくことにより、縫い目によって、元の図形を描くことができる。
【0003】
そのため、ミシンを使えば、誰でも忠実に模様を再現できることから、縫製上級者が縫ったように見え、綺麗な模様が布上に形成できる。ところが、このことが逆に機械的で、冷たい印象を与えていた。
【0004】
こうした問題に対して、ミシンの縫い目制御量のばらつきを1/fゆらぎとして制御量を求め、送り制御用のモータおよび振幅制御用のモータに対して、バラツキの要素を加えて駆動する技術が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0005】
また、模様の途中では、バラツキによる調整をせず、1サイクル毎に振幅または送りの調整量を制御し、模様が大きく崩れることを回避する技術も開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0006】
また、模様を忠実に再現するのではなく、各針落ち点に対して小さなベクトルデータを付加し、元の位置より若干ずらして縫い目を形成することにより、手縫いのように見せる技術も開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許2852967号公報
【文献】特開2011-245092号公報
【文献】特開2020-5797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、1針毎にばらつきの要素を加える制御であるために、縫製した模様が過度に崩れてしまうという問題があった。
特に、送り方向は相対移動量であるため、影響が強く出てしまい、模様が大きく崩れて、元のデザインがどのようなものであったかわからない程になってしまうおそれもあった。
【0009】
また、特許文献2に記載の技術では、1サイクルの針数が多い場合、1サイクル毎に模様の幅あるいは模様の長さが変更されるだけであって、1針毎にばらつくことがないため、機械的な模様の変化となり、冷たい印象は、仮に回避できても、温かさのある模様とはならないという問題があった。
【0010】
また、特許文献3に記載の技術では、小さなベクトルを乱数などの数値で発生させ、模様を選択するたびに異なるようにし、同じ模様にならないようにしている。しかしながら、選択された模様に対しての揺らぎの強度や振幅、送りの調整値を変える度に、乱数による小さなベクトル量が変化してしまうと、使用者の予想(あるいは希望)と異なる形状に変わってしまうこともあり、改善が求められていた。
【0011】
そこで、本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、縫い模様に手書きの風合いを出すとともに、同じ模様については、手書きの風合についての傾向を変えないで希望の縫い目を生成することができる座標データ作成装置およびミシンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
形態1;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、縫製する模様の針落ち位置を示す座標データを記憶する座標データ記憶部と、前記座標データ毎に加算する加算値を記憶する加算値記憶部と、前記座標データ又は前記加算値を調節する調節部と、前記調節部において調節された座標データ又は加算値を記憶する調整後データ記憶部と、前記座標データ記憶部に記憶されている座標データに前記調整後データ記憶部に記憶されている加算値を加算し、又は前記調整後データ記憶部に記憶されている座標データに前記加算値記憶部に記憶されている加算値あるいは前記調整後データ記憶部に記憶されている加算値を加算して、前記模様を崩した新たな座標データを作成する加算後座標データ作成部と、を備えた座標データ作成装置。
【0014】
形態2;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、前記座標データは、振幅方向の値と送り方向の値とを有し、前記新たな座標データの振幅方向の値又は送り方向の値が所定の範囲を超えた場合、前記所定の範囲を超えた値を前記新たな座標データとして採用しない座標データ作成装置を提案している。
【0015】
形態3;本発明の1またはそれ以上の実施形態は、縫製する模様の針落ち位置を示す座標データを記憶する座標データ記憶部と、前記座標データ毎に加算する加算値を記憶する加算値記憶部と、前記座標データ又は前記加算値を調節する調節部と、前記調節部において調節された座標データ又は加算値を記憶する調整後データ記憶部と、前記座標データ記憶部に記憶されている座標データに前記調整後データ記憶部に記憶されている加算値を加算し、又は前記調整後データ記憶部に記憶されている座標データに前記加算値記憶部に記憶されている加算値あるいは前記調整後データ記憶部に記憶されている加算値を加算して、前記模様を崩した新たな座標データを作成する加算後座標データ作成部と、を備え、前記加算後座標データ作成部において作成された新たな座標データに基づいて縫製を行うミシン。
【発明の効果】
【0016】
本発明の1またはそれ以上の実施形態によれば、縫い模様に手書きの風合いを出すとともに、同じ模様については、手書きの風合についての傾向を変えないで希望の縫い目を生成することができるという効果がある。
また、新規に模様を選択した場合には、新しい乱数値を含む加算値が生成され、異なる揺らぎが加味された模様となり、揺らぎの強度や振幅/送りを微調整した場合には、前回使用の乱数値を含む加算値が使われるため、同じ傾向での揺らぎの変換が可能となるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る座標データ作成装置の電気的ブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る座標データ作成装置における画面操作時の処理フロー図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る座標データ作成装置における画面操作時の操作画面を例示した図である。
【
図4】本発明の実施形態に係る座標データ作成装置における手書き風ステッチ変換に関する処理フロー図である。
【
図5】本発明の実施例1に係るシンプルなステッチの場合の針落ち点の表示を例示した図である。
【
図6】本発明の実施例1に係るシンプルなステッチにおいて、
図5の縫いイメージに対して強い揺らぎを与える場合の元データと加算値とを例示した図である。
【
図7】本発明の実施例1に係るシンプルなステッチにおいて、
図5の縫いイメージに対して、強い揺らぎを与えた場合の手書き風ステッチの縫いイメージを例示した図である。
【
図8】本発明の実施例1に係るシンプルなステッチにおいて、
図5の縫いイメージに対して、弱い揺らぎを与える場合の元データと加算値とを例示した図である。
【
図9】本発明の実施例1に係るシンプルなステッチにおいて、
図5の縫いイメージに対して、弱い揺らぎを与えた場合の手書き風ステッチの縫いイメージを例示した図である。
【
図10】本発明の実施例2に係るシンプルなステッチの場合の針落ち点の表示を例示した図である。
【
図11】本発明の実施例2に係るシンプルなステッチにおいて、
図10の縫いイメージに対して強い揺らぎを与える場合の元データと加算値とを例示した図である。
【
図12】本発明の実施例2に係るシンプルなステッチにおいて、
図10の縫いイメージに対して強い揺らぎを与えた場合の手書き風ステッチの縫いイメージを例示した図である。
【
図13】本発明の実施例2に係るシンプルなステッチにおいて、
図12の縫いイメージに対して振幅の変更を加えた場合の手書き風ステッチの縫いイメージを例示した図である。
【
図14】本発明の実施例2に係るシンプルなステッチにおいて、
図13の縫いイメージに対して、振幅の変更を加えた場合の元データと加算値とを例示した図である。
【
図15】本発明の実施例2に係るシンプルなステッチにおいて、
図12の縫いイメージに対して振幅の変更を加えるとともに揺らぎを加えた場合の手書き風ステッチの縫いイメージを例示した図である。
【
図16】本発明の実施例2に係るシンプルなステッチにおいて、
図12の縫いイメージに対して振幅の変更を加えるとともに揺らぎを加えた場合の元データと加算値とを例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<実施形態>
以下、本発明の実施形態について、
図1から
図4を用いて説明する。
【0019】
<座標データ作成装置の電気的構成>
本実施形態に係る座標データ作成装置10の電気的構成について、
図1を用いて説明する。
【0020】
本実施形態に係る座標データ作成装置10は、
図1に示すように、中央処理演算装置(CPU)101と、ROM102と、作業用メモリ(RAM)103Aと、模様情報メモリ(RAM)103Bと、加算値メモリ(RAM)103Cと、表示制御装置104と、液晶表示器105と、タッチパネル106と、タクトスイッチ107と、USBコントローラ108と、外部メディア109と、ミシンモータ制御装置110と、振幅・送り制御モータ装置111と、X-Yモータ制御装置112と、を含んで構成されている。
【0021】
中央処理演算装置(CPU)101は、ROM102に格納された制御プログラムにしたがって、座標データ作成装置10の全体の動作を制御する。
また、中央処理演算装置(CPU)101は、外部入出力装置を介して様々なデバイスに接続されている。
【0022】
ROM102は、制御プログラムや機能モジュール、ステッチデータ等を格納する記憶素子である。
例えば、ROM102には、手書き風モード選択モジュール、模様の選択モジュール、絶対送り形式変換モジュール、調整値生成モジュール、加算値記憶モジュール、調整値加算モジュール、機構限界制限モジュール、揺らぎ強度変更モジュール、組合せ模様生成モジュール、組合せ模様編集モジュール、保存/読出しモジュール、ステッチデータ格納エリア等の様々な機能モジュールおよびデータが格納されている。
【0023】
RAM103は、模様情報や乱数値を含む加算値等の各種情報を格納するとともに、中央処理演算装置(CPU)101の処理過程において、一時的に情報を記憶する記憶素子として機能する。
本実施形態においては、中央処理演算装置(CPU)101の処理過程において、一時的に情報を記憶する作業用メモリ(RAM)103A、模様情報を記憶する模様情報メモリ(RAM)103B、乱数値を含む加算値を記憶する加算値記憶部としての加算値メモリ(RAM)103C等が設けられている。
なお、模様情報メモリ(RAM)103Bは、座標データ記憶部および調整後データ記憶部としても機能し、縫製する模様の針落ち位置を示す座標データや調整値生成モジュールとしての調節部において調節された座標データ又は加算値を含むデータを記憶する。
また、加算値記憶モジュールには、例えば、調整値加算モジュールにおける加算処理に用いられる様々な乱数値を含む加算値が予め記憶され、加算値記憶部としての加算値メモリ(RAM)103Cには、本実施形態に係る座標データ作成装置10において作成された座標データに基づき縫製された模様ごとに用いられた乱数値を含む加算値が紐づけられて記憶されている。
ここで、加算値には、乱数値のみならず、例えば、任意の数列等も含まれる。
【0024】
表示制御装置104は、中央処理演算装置(CPU)101から送信される文字、模様やボタン等の表示データを後述する液晶表示器105の表示エリア内の所定の位置に表示させるための制御を行う。
【0025】
液晶表示器105は、液晶表示面の下側にタッチパネルが重ねて配置された多層構造となっており、タッチパネルおよび液晶表示器105が、「表示部」としてユニット化されている。液晶表示器105は、本実施形態においては、例えば、
図2に示すような操作画面を表示する。
【0026】
タッチパネル106は、静電容量方式や抵抗膜方式等のパネルとして構成されており、外部入出力装置を介して、CPU101に電気的に接続されている。
また、使用者の操作の利便性を考慮して、座標データ作成装置10の外部に操作可能に露出されて配置されている。
使用者がタッチパネルを指でタッチすることにより、手書き風モードの選択や模様の選択等を画面で確認しながら操作することができる。
【0027】
本実施形態においては、例えば、ユーザが
図2の操作画面上で、「手書き風」ボタンを押下すると、手書き風モード選択モジュールが有効となり、以後選択される模様は手書き風ステッチ変換機能により、ステッチデータが微調整される。
【0028】
具体的には、
図2の操作画面上で、「模様選択」ボタンを操作すると模様の選択モジュールが有効となる。
例えば、1番のボタンが押されると、座標データ作成装置10のROM102に内蔵されている模様番号1の模様が選択され、1サイクル分のステッチデータが読み込まれる。
【0029】
タクトスイッチ107は、外部入出力装置を介して、CPU101に電気的に接続されている。
また、タクトスイッチ107には、縫い動作の開始/停止、糸切り、糸通し等の使用者が縫い操作を行うためのボタンが集められている。
これらのボタンを押下することにより、縫いの開始、停止や針の上下や糸通し(図示せず)などの指示を中央演算装置(CPU)101に伝えることができる。
【0030】
USB(Universal Serial Bus)コントローラ108は、USBによる通信を行うための制御を実行するものであり、ホスト側(ミシン)に内蔵されている。
USBコントローラ108は、座標データ作成装置10と外部メディア109等の外部機器を接続し、制御する。
このUSBコントローラ108を利用することにより、例えば、加算値記憶部としての加算値メモリ103Cに記憶されている乱数値を含む加算値や揺らぎ強度等の情報を外部メディア109等に書き込むことができる。
また、外部メディア109等に書き込んだ情報を再び読み取ることにより、乱数値を含む加算値で調整された模様であっても、再現して縫うことができる。
【0031】
外部メディア109は、例えば、ハードディスク、DVDレコーダ等であり、模様データ等をUSBコントローラ108の制御の下、書き込み保存する。
【0032】
ミシンモータ制御装置110は、外部入出力装置を介して、CPU101に電気的に接続されている。ミシンモータ制御装置110は、CPU101からの指令によって、ミシンモータを回転制御し、針棒の上下運動により、縫い目を形成する。
【0033】
振幅・送りモータ制御装置111は、CPU101からの指令に基づいて、振幅モータを駆動制御し、針棒を振ることにより、ジグザグの動きをさせる。
また、送りモータを駆動制御することにより、縫製対象物の送り量あるいは前後の方向を制御する。
つまり、ミシンモータと振幅モータ、送りモータにより縫い機構が制御され、直線やジグザグあるいは具象模様の縫い目を形成する。なお、以下において、縫製対象物とは、布、皮革、ビニール等の縫製可能なものを含む。
【0034】
X-Yモータ制御装置112は、外部入出力装置を介して、CPU101に電気的に接続されている。X-Yモータ制御装置112は、CPU101からの指令に基づいて、Xモータおよび/またはYモータを駆動制御し、縫い機構の刺繍枠をX方向および/またはY方向に移動させる。
そして、X-Yモータ制御装置112は、Xモータおよび/またはYモータへの指令によって、刺繍枠にセットされた縫製対象物上の針落ち点を決定し、ミシンモータ制御装置110によるミシンモータの上下動によって、刺繍の縫い目が形成され、模様が縫われる。
【0035】
中央処理演算装置(CPU)101が、絶対送り形式変換モジュールを有効にすると、相対送り量のステッチデータが送り量を累積した絶対座標のデータ形式に変換される。
なお、処理の詳細については、後述する。
【0036】
中央処理演算装置(CPU)101が、調整値生成モジュールを有効にすると、整数の乱数値を含む加算値が生成され、0.1mm単位換算で乱数値を含む加算値を長さの単位に変換する。
なお、処理の詳細については、後述する。
【0037】
中央処理演算装置(CPU)101が、調整値加算モジュールが有効にすると、オリジナルの振幅値および絶対送りデータに乱数値を含む加算値による調整長さをそれぞれ加算する。
但し、計算結果が機構の限界値を超える場合には、機構限界制限モジュールが有効となり、加算は行われない。
また、オリジナルのデータに同一の座標がある場合は、同一点処理により、既に調整された座標を使用し、調整後の座標も一致するようにする。
なお、処理の詳細については、後述する。
【0038】
中央処理演算装置(CPU)101が、ユーザによる
図2の強度変更ボタンの押下を検知すると、揺らぎの強さが、100%→75%→50%→揺らぎ無し→100%の順に変化する。
ユーザにより選択された強度と加算値記憶部としての加算値メモリ103Cに保存されている乱数値を含む加算値を用いて、一針毎に針落ち点を微小距離だけ移動して、プレビューエリアにその揺らぎ結果を表示する。
【0039】
1サイクル分のデータについて手書き風の処理を施すと、中央処理演算装置(CPU)101により、組合せ模様生成モジュールが有効となり、生成された組合せ模様を作業メモリ(RAM)に一時記憶する。
また、
図2の操作画面上で、プレビューエリアに手書き風に変換された模様が1サイクル表示される。
再度同じ模様を選択すると、別の乱数値を含む加算値により微調整され、プレビュー画面に2サイクル目として描画される。
【0040】
中央処理演算装置(CPU)101が、組合せ模様編集モジュールを有効にすると、模様の削除や追加、組み合わせの変更等が可能になる。
なお、模様を追加した場合においても、別の乱数値を含む加算値で微調整される。
【0041】
中央処理演算装置(CPU)101が、保存/読出しモジュールを有効にすると、組み合わされた模様は外部メディア109等に書き込むことができる。
そのため、乱数値を含む加算値により調整された模様であっても、再現して縫うことができる。
【0042】
<操作画面の表示とその機能>
図2に示す操作画面は、複数個の模様ボタン、手縫い風モードに入る手縫い風ボタン、揺らぎの強さを選択する強度変更ボタン、選択した模様を取り消す削除ボタン、組み合わせた模様を保存するための保存ボタン、振幅と送りのマニュアル調節を行う[+]と[-]ボタン、組み合わせた模様を表示するためのプレビューエリア、プレビューエリアに表示されている1サイクルの模様を選択するためのカーソルボタン[▲]、[▼]と、を含んで構成されている。
【0043】
<操作画面の操作に基づく処理>
ユーザは、まず、手縫い風ボタンを押下し、モードを手縫い風の組合せモードとする。次に、模様ボタンを押すと、
図1に示す内蔵ステッチデータモジュールに格納されたステッチデータが液晶表示器105に
図2に示すように表示される。
ユーザは、液晶表示器105に表示されたステッチデータの中からタッチ操作により模様を選択する。
【0044】
ユーザにより模様が選択されると、座標データ作成装置10は、新しい乱数値を含む加算値を生成し、振幅位置の座標と送り方向の座標に対して乱数値を含む加算値による調整値を加算する。
そして、座標データ作成装置10は、各針落ち点に対して微調整を行い、1サイクル分の模様を手縫い風に変換して、プレビューエリアに表示する。
【0045】
ユーザが、再度、同じ模様ボタンを押下すると、座標データ作成装置10は、別の乱数値を含む加算値を生成し、異なる調整値で手縫い風模様を生成する。
つまり、ユーザが模様ボタンを押下した数だけ組み合わせ模様が手縫い風に変換され、縫製可能な状態になる。
図2は、ユーザが5回、模様ボタン1を押し、5サイクルの連続模様を構成した場合を例示している。
【0046】
ユーザが、カーソルボタンを用いてカーソルを移動し、強度変更ボタンを押すと、押す度に揺らぎの強度が100%、75%、50%、0%(揺らぎ無し)と順次変化する。
つまり、ユーザがカーソルボタンを用いてカーソルを移動して、選択した模様に対して記憶された乱数値を含む加算値から求めたベクトルの大きさを100%、75%、50%、0%として揺らぎの強度を変更する。
なお、上記の場合は、同じ乱数値を含む加算値を使っているため、揺らぎの強度は変化するが、揺らぎの傾向が変わることはない。
【0047】
また、ユーザが振幅と送りのマニュアル調整ボタン[+]および[-]を押すと、振幅の幅調整あるいは送りの長さ調整をしてから、記憶している乱数値を含む加算値のベクトル値を適用する。そのため、揺らぎの傾向が変わることは無い。
【0048】
ユーザが、カーソルボタンを用いてカーソルを移動し、削除ボタンによりカーソル位置の模様を削除して、その場所に模様を挿入すると、座標データ作成装置10は、乱数値を含む加算値を新しく生成し、異なる傾向の揺らぎの模様が挿入される。
【0049】
また、保存ボタンを用いると手縫い風の組み合わせ模様もファイルに保存することができる。
また、元の模様データだけではなく、生成した乱数値を含む加算値と揺らぎの強度も外部メディアに保存することができる。
そのため、再度、保存データを読み出すことにより、いつでも模様の揺らぎ具合を再現することができる。
【0050】
<座標データ作成装置の処理>
本実施形態に係る座標データ作成装置10における画面操作処理および手書き風ステッチ変換処理の詳細について、
図2から
図4を用いて説明する。
【0051】
<画面操作処理>
本実施形態に係る座標データ作成装置10を用いた縫製データの作成は、
図2に示すような液晶表示器105に表示される画面を操作して行う。
そのため、座標データ作成装置10の詳細な処理について説明する前に、
図2を用いて、本実施形態に係る座標データ作成装置10における画面操作処理の詳細について説明する。
【0052】
ユーザにより、液晶表示器105に、
図2に示すような操作画面を表示する表示モードが選択されると、まず、座標データ作成装置10の中央処理演算装置(CPU)101は、キー入力により、操作ボタン、カーソルボタン、模様ボタン等がユーザに押下されるのを待つ待機モードに移行する(ステップS101)。
【0053】
次に、中央処理演算装置(CPU)101は、ユーザにより模様の選択があったか否か、具体的には、模様番号の入力があったか否かを判定する(ステップS102)。
判定の結果、中央処理演算装置(CPU)101が、ユーザによる模様の選択、すなわち、ユーザによる模様番号の入力等があったと判定した場合には、次に、組合せモードの処理であるのか、手書き風モードの処理であるのかを判定する(ステップS113)。
なお、組合せモードの処理あるいは、手書き風モードの処理のいずれであっても、処理を行い、模様を選択された順に記憶していく。
【0054】
ステップS102に戻って、判定の結果、中央処理演算装置(CPU)101が、ユーザによる模様の選択ではない、すなわち、ユーザによる模様番号の入力等がなかったと判定した場合(ステップS102の「No」)に、手縫い風ボタンが押下されると(ステップS103の「Yes」)、手縫い風モードを設定し、処理をステップS101に戻す(ステップS104)。
【0055】
一方で、中央処理演算装置(CPU)101が、ステップS103において、ユーザが手縫い風ボタンを押下しなかったと判定した場合(ステップS103の「No」)には、ユーザが強度変更ボタンを押下するか否かを判定する(ステップS105)。
【0056】
中央処理演算装置(CPU)101が、ステップS105において、ユーザが強度変更ボタンを押下したと判定した場合(ステップS105の「Yes」)には、揺らぎ強度を変更して、処理をステップS101に戻す(ステップS106)。
なお、強度変更ボタンが押されると、強度が100%→75%→50%→揺らぎなし→100%・・・のようにサイクリックに切り替わる。
【0057】
一方で、中央処理演算装置(CPU)101が、ステップS105において、ユーザが強度変更ボタンを押下しなかったと判定した場合(ステップS105の「No」)には、ユーザがカーソルボタンを押下したか否かを判定する(ステップS107)。
【0058】
中央処理演算装置(CPU)101が、ステップS107において、ユーザがカーソルボタンを押下したと判定した場合(ステップS107の「Yes」)には、模様選択モジュールで記憶された模様列について、カーソルを前後に移動し、処理をステップS101に戻す(ステップS108)。
【0059】
一方で、中央処理演算装置(CPU)101が、ステップS107において、ユーザがカーソルボタンを押下しなかったと判定した場合(ステップS107の「No」)には、ユーザが削除ボタンを押下したか否かを判定する(ステップS109)。
【0060】
中央処理演算装置(CPU)101が、ステップS109において、ユーザが削除ボタンを押下したと判定した場合(ステップS109の「Yes」)には、カーソルが示す位置の模様を削除し、以後の模様を先頭に詰め、処理をステップS101に戻す(ステップS110)。
なお、これらの動きは、
図2の液晶表示器105のプレビューエリアで見ることができる。
【0061】
一方で、中央処理演算装置(CPU)101がステップS109において、ユーザが削除ボタンを押下しなかったと判定した場合(ステップS109の「No」)には、ユーザが保存ボタンを押下したか否かを判定する(ステップS111)。
【0062】
中央処理演算装置(CPU)101が、ステップS111において、ユーザが保存ボタンを押下したと判定した場合(ステップS111の「Yes」)には、手書き風に変換された模様や組み合わせ模様を外部メディア等に保存し、再利用できるようにした上で、処理をステップS101に戻す(ステップS112)。
なお、保存ボタンを押下された場合には、手縫い風変換に使用した一針毎の乱数値を含む加算値と揺らぎの強度の情報も同時に保存される。
【0063】
一方で、中央処理演算装置(CPU)101が、ステップS111において、ユーザが保存ボタンを押下しなかったと判定した場合(ステップS111の「No」)には、処理をステップS101に戻す。
【0064】
中央処理演算装置(CPU)101が、ステップS113において、ユーザが手書き風モードで模様ボタンを押下したと判定した場合(ステップS113)には、揺らぎ強度を取得し(ステップS114)、手書き風ステッチ変換処理に移行する(ステップS115)。
そして、手書き風ステッチ変換処理において、取得した揺らぎ強度に基づいて、各針落ち点に揺らぎを与えるような処理が実行される。
なお、手書き風ステッチ変換処理の詳細については、後述する。
【0065】
一方で、中央処理演算装置(CPU)101がステップS113において、ユーザが組合せモードボタンを押下したと判定した場合(ステップS113の「No」)およびステップS115における手書き風ステッチ変換処理が終了すると、通常の模様の組み合わせと同様に、模様データを組み合わせる(ステップS116)。
【0066】
そして、中央処理演算装置(CPU)101は、ステップS117において、液晶表示器105にプレビュー画面を表示する。
これにより、ユーザは、変換された状況を確認することができる。
【0067】
なお、手書き風モードで変換された模様も通常の模様と同じ扱いであるため、削除、追加などの編集操作が可能である。所望する組み合わせ模様ができた後、タクトスイッチ107のスタートボタンを押すと、ミシンは縫いを開始する。
【0068】
<手書き風ステッチ変換処理>
図4を用いて、手書き風ステッチ変換処理の詳細について説明する。
【0069】
手書き風ステッチ変換処理は、「バラツキ処理」と、「同一点処理」と、「組合せ編集処理」とからなる。
以下、
図4を用いて、手書き風ステッチ変換処理の詳細を説明する前に、上記3つの処理の概要について説明する。
【0070】
<バラツキ処理>
送り方向のデータが、相対移動量の状態のままでは、針落ち点の座標を調整することができない。
そこで、バラツキ処理では、一旦、相対移動量をステッチデータから針落ち点の位置を示す絶対座標のデータ列に変換する。
これにより、1サイクルあるいは、複数サイクルの直交座標の絶対座標列を生成する。
【0071】
新たに乱数値を含む加算値を生成する場合、針落ち点のX座標およびY座標をずらすための、例えば、±1mm以下の調整量を各針落ち点のために準備する。
なお、乱数値を含む加算値は随時生成する場合に限らず、予め生成された調整データをテーブルの形式で持っていてもよい。
針落ち点を示す絶対座標のデータ列に、例えば、±1mmの範囲で生成された乱数値を含む加算値による調整量を加算する。
調整された座標データが、振幅方向は機構の幅に収まる様に制限し、送り方向も一針前との距離が所定の距離以下になるように制限する。
そして、絶対座標の針落ち点のデータ列を送り方向を相対移動量に変換し、通常縫いのステッチデータ形式に戻す。
なお、以下では、振幅方向は機構の幅について8.8mmを、送り方向の一針前との距離制限について5mmを例示して説明する。
【0072】
<同一点処理>
模様の形状によっては、複数回同じ点を通って形成するステッチデータがよく作られる。
この場合、すべての針落ち点について、無制限に針落ち点のX座標およびY座標をずらしてしまうと、元の模様形状が失われてしまう。
そこで、同じ位置に複数個の針落ち点がある場合、それらの点は変換処理後も同一点になるように位置の制御を行う。
【0073】
<組合せ編集処理>
模様のサイクル毎に異なる乱数値を含む加算値で針落ち点のX座標およびY座標をばらつかせ、複数個の模様を組み合わせる。
組み合わせ内容を記憶するためにユーザが、
図2に示す操作画面上の模様ボタンを押下する。
この模様選択操作で新たに乱数値を含む加算値を発生させ、元は同じ模様であるが、模様選択の度に、針落ち点のX座標およびY座標に対して、異なるずらし方をして、複数の組み合わせ模様が作られる。
ユーザは、変換したステッチデータの外観をプレビューして、好ましいと思われる針落ち点のX座標およびY座標のずれにより生成される模様を採用する。
なお、ユーザが好ましいと思われる針落ち点のX座標およびY座標のずれにより生成される模様ではないと判断する場合には、削除する等の操作を行い、組み合わせ模様を画面上で編集することもできる。
また、ユーザは、乱数値を含む加算値によって針落ち点のX座標およびY座標をばらつかせるのか、テーブルによって、針落ち点のX座標およびY座標をばらつかせるのかを選択することもできる。
【0074】
<手書き風ステッチ変換の処理詳細>
当該処理を実行するために、ユーザは、
図2に示すように液晶表示器105に表示される操作画面において「手書き風」ボタンを押下し、手書き風の組合せモードを設定する。
次に、ユーザは、模様選択ボタンを押し、模様を選択する。
【0075】
まず、座標データ作成装置10の中央処理演算装置(CPU)101は、送り方向が相対移動量となっているユーザにより選択された模様のステッチデータを相対送り量の累積処理によって、絶対座標のデータ列に変換する(ステップS201)。
【0076】
中央処理演算装置(CPU)101は、当該模様に対応する乱数値を含む加算値が加算値記憶部としての加算値メモリ103Cに保存されているか否かを判定する(ステップS202)。
中央処理演算装置(CPU)101は、判定の結果、加算値記憶部としての加算値メモリ103Cに乱数値を含む加算値が保存されていないと判定した場合には、ステップS203に移行して、振幅用と送り用の2つの乱数値を含む加算値を新規に生成するとともに、生成した乱数値を含む加算値を加算値記憶部としての加算値メモリ103Cに記憶させ、ステップS205に処理を移行させる。
【0077】
一方で、中央処理演算装置(CPU)101は、判定の結果、加算値記憶部としての加算値メモリ103Cに乱数値を含む加算値が保存されていると判定した場合には、ステップS204に移行して、保存されている乱数値を含む加算値を読出して、ステップS205に処理を移行させる。
【0078】
ステップS203およびステップS204で得られる乱数値を含む加算値は、整数であるため、中央処理演算装置(CPU)101は、調整値生成モジュールを起動させ、これらの乱数値を含む加算値を±1.0mm以内の調整長さに換算する(ステップS205)。
【0079】
中央処理演算装置(CPU)101は、調整値加算モジュールを起動させ、振幅方向と送り方向の座標にステップS205において換算した調整長さを加算し、微調整を行う(ステップS206)。
【0080】
但し、機構の限界を超えて微調整はできないため、中央処理演算装置(CPU)101は、機構限界制限モジュールを起動させ、微調整後の座標データのY座標の値又は微調整後の座標データのX座標の値と縫製順序において隣接する微調整後の座標データのX座標の値との間隔が、機構の制限以内であるか否かを判断する(ステップS207)。
【0081】
ここで、微調整後の座標のY座標の値が振幅(Y座標)方向の機構の制限を超える場合には、ステップS206の微調整処理を無効とする(ステップS208)。
また、微調整後の座標データのX座標の値と縫製順序において隣接する微調整後の座標データのX座標の値との間隔が、送り(X座標)方向の機構の制限を超える場合には、ステップS206の微調整処理を無効とする(ステップS208)。
ここで、振幅方向の機構の制限の値としては、例えば、-4.4mmまたは+4.4mmを、送り方向の機構の制限の値としては、例えば、相対移動量が-5.0mmまたは+5.0mmを例示することができる。
上記は、通常縫いにおける制限に関するものだが、刺繍縫いにおいても微調整後の座標データの値と縫製順序において隣接する微調整後の座標データの値との間隔が、X座標方向またはY座標方向の機構の制限を超える場合には、ステップS206の微調整処理を無効とする(ステップS208)。
一方で、微調整後の座標の振幅方向および送り方向が機構の制限に達していない場合には、処理をステップS209に移行する。
【0082】
中央処理演算装置(CPU)101は、ステッチの1サイクルが終了したか否かを判断する(ステップS209)。
中央処理演算装置(CPU)101は、ステッチが、まだ残っていると判断した場合には、処理をステップS202に戻す。
この場合、中央処理演算装置(CPU)101は、次の針落ち点に対して新しい乱数値を含む加算値を生成して、ステップS203、205を実行する。
【0083】
一方で、中央処理演算装置(CPU)101は、1サイクルが終了したと判断した場合(ステップS209)には、微調整処理によって絶対座標になっている送りデータを相対移動量に変換し、ステッチデータの形式に戻す(ステップS210)。
【0084】
<実施例1>
以下、
図5から
図9を用いて、本発明の実施例1について説明する。
【0085】
本実施例において、通常縫いの縫いデータは、
図5に示すように、横方向を送り、縦方向を振幅とすると、振幅方向の中央を0.0mmとして、針棒を左右に振る-4.4mm~+4.4mmの振幅位置の座標データと、送り歯で布を前後に送る-5.0mm~+5.0mmの相対移動量のデータからなっている。
【0086】
また、元データの振幅と相対送りとの関係は、
図6に示すようになっている。
図6は、振幅、相対送りを要素とする元データおよび相対送りを累積した絶対送りと、一例としての振幅用および送り用の加算値調整長と、一例としての元データに対して、強い揺らぎを与えた手書き処理を行った後の振幅、絶対送り、相対送りの値を示している。
なお、
図6において、加算値調整長の値は、小数点第2位を四捨五入した値となっている。
具体的には、2針目の振幅用の加算値調整長は、0.1であって、機構限界を超えるため、当該0.1の値はキャンセルされ、2針目の手書き処理を行った後の振幅の値は、元データの値4.4がそのまま使われる。
また、2針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値は、元データの絶対送りの値2.3に対して、送りの加算値調整量が0.4であるため、2.7となる。
また、2針目の手書き処理を行った後の相対送りの値は、2針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値が2.7であり、3針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値元データの値4.5であるため、1.8となる。
また、5針目の手書き処理を行った後の振幅の値は、元データの値0.8に対して、振幅の加算値調整量が0.2であるため、1.0となる。
また、5針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値は、元データの値7.0に対して、送りの加算値調整量が0.2であるため、7.2となる。
また、5針目の手書き処理を行った後の相対送りの値は、6針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値が6.7であり、5針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値元データの値7.2であるため、-0.5となる。
以下、
図6の具体例に従い、詳細な処理内容について説明する。
【0087】
本実施例において、布は1針ごとに、送り歯で移動され、数ミリから数十ミリメータの単位模様が形成される。
この単位模様の縫製を連続して繰り返すことにより、複数サイクルの長い模様を縫うことができる。
1サイクルの模様は、相対距離の送りデータを累積して、
図6に示すような絶対座標のデータ列で表現することができる。
図6の振幅と絶対送りの元データの座標は、
図5の針落ち点の座標を示している。
【0088】
本実施例では、手書き風に見せるため、乱数値を含む加算値による数値で各針落ち点のX座標およびY座標を微調整する。
そのため、各針位置に対して、振幅方向の調整値と送り方向の調整値用の乱数値を含む加算値とを生成する。
ここで、使用する乱数値は整数で0から32767の値であり、この数値を長さの調整値として-1.0mm~+1.0mmの値に換算する。
例えば、下記の数1を用いて換算する。
【0089】
【0090】
上記の例では、乱数値を含む加算値(random)を21で割った余りから10を減算し、結果を10で割ることにより、-1.0mm~+1.0mmの0.1mm単位の調整値を作ることができる。
【0091】
また、各針落ち点の振幅と送り用に、乱数値を含む加算値を生成し、上記数1で調整長さに換算したものを、一例として、
図6の「加算値調整長の振幅用、送り用」欄に記載している。
これらの調整値を「元データの振幅、絶対送り」のそれぞれの座標に加えて、座標を調整する。
但し、加算の結果が機構の限界値を超える場合(
図6の塗りつぶし箇所)は無効とし、加算しない。
【0092】
調整の結果を、一例として、
図6の「手書き処理の振幅、絶対送り」に記載する。
更に、絶対送りから相対送り量を求めて、
図6に示すように、リスト形式で登録すると、「手書き処理の振幅、相対送り」のデータ列が通常縫いの模様データとなる。
なお、手書き風模様の崩れ方の再現性を重視するならば、乱数値を含む加算値ではなく、バラツキのある数値をテーブルとして持っていてもよい。
【0093】
図5に、通常縫いのステッチ模様を、
図7に、強い揺らぎを与えた処理後のステッチ模様を示す。
図6、
図7は新たに乱数値を含む加算値を生成し、±1.0mmのベクトルに換算して100%の強度で各針落ち点に加算した時の一例である。本例は、強い揺らぎを与えたものであるため、元の針落ち点から大きくずれる箇所も存在している。
【0094】
図8は、振幅、相対送りを要素とする元データおよび相対送りを累積した絶対送りと、一例としての振幅用および送り用の加算値調整長と、一例としての元データに対して、弱い揺らぎを与えた手書き処理を行った後の振幅、絶対送り、相対送りの値を示している。
具体的には、2針目の振幅用の加算値調整長は、0.1であって、機構限界を超えるため、当該0.1の値はキャンセルされ、2針目の手書き処理を行った後の振幅の値は、元データの値4.4がそのまま使われる。
また、2針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値は、元データの絶対送りの値2.3に対して、送りの加算値調整量が0.2であるため、2.5となる。
また、2針目の手書き処理を行った後の相対送りの値は、2針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値が2.5であり、3針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値元データの値4.5であるため、2.0となる。
また、5針目の手書き処理を行った後の振幅の値は、元データの値0.8に対して、振幅の加算値調整量が0.1であるため、0.9となる。
また、5針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値は、元データの値7.0に対して、送りの加算値調整量が0.1であるため、7.1となる。
また、5針目の手書き処理を行った後の相対送りの値は、6針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値が6.8であり、5針目の手書き処理を行った後の絶対送りの値元データの値7.0であるため、0.3となる。
図5に、通常縫いのステッチ模様を、
図9に、弱い揺らぎを与えた処理後のステッチ模様を示す。
【0095】
乱数値を含む加算値を元に換算した調整値(-1.0mm~+1.0mm)の送り方向をX成分、振幅方向をY成分としてベクトル値と考えると、元の針落ち座標に乱数値を含む加算値から生成したベクトル成分を加算した場合、針落ち点が若干ずれる。
全針落ち点に乱数値を含む加算値から生成したベクトル成分を加算すると、同じ模様でも異なった印象の形状になる。また、同じ模様を複数選択して組み合わせる場合でも、一針一針異なる乱数値を含む加算値が生成されるため、すべての組み合わせ模様が異なる印象の模様となって繋がる。
【0096】
図8、
図9は
図2で生成された乱数値を含む加算値が
図1の加算値記憶部としての加算値メモリ103Cに記憶されており、この記憶された乱数値を含む加算値を使い、強度50%(弱めて)で各針落ち点に揺らぎを加えた例である。
図9の模様の揺らぎ方は
図7と同じ傾向であるが、強度だけが弱まっていることが分かる。なお、
図8において、加算値調整長の値は、小数点第2位を四捨五入した値となっている。
【0097】
揺らぎの強度変更や振幅、送りの調整のときにも、新規に乱数値を含む加算値を生成してしまうと、折角、希望の揺らぎ方になったのに調整などの操作をしてしまうと、その揺らぎ方までもが変わってしまうことがあり、ユーザの希望通りにならないこともある。そのため、生成された乱数値を含む加算値を記憶しておき、ユーザの操作内容によって記憶された乱数値を含む加算値を再利用するか、または乱数値を含む加算値を新規に生成するかを判断するようにしている。
【0098】
<実施例2>
以下、
図10から
図16を用いて、本発明の実施例2について説明する。
通常縫いの縫いデータは、
図11(横方向が送り、縦方向が振幅)に示すように、振幅方向の中央を0.0mmとして、針棒を左右に振る-4.4mm~+4.4mmの振幅位置の絶対座標のデータと送り歯で布を前後に送る-5.0mm~+5.0mmの相対移動量のデータからなっている。なお、
図11において、加算値調整長の値は、小数点第2位を四捨五入した値となっている。
【0099】
図11のステッチリストでは[振幅]と[送り]で表現している。布は一針ごとに送り歯で移動されて長さが数ミリから数十ミリメータの単位模様が形成される。この単位模様を連続して繰り返すことにより、複数サイクルの長い模様を縫うことができる。1サイクルの模様は、相対距離の送りデータを累積して、
図11のリスト[元のデータの振幅と送り位置]で示すような絶対座標のデータ列で表現することができる。
図11に示すように、通常縫いに対して、乱数値を含む加算値を100%とする強い揺らぎを与えた模様は、
図12のようになる。
【0100】
また、
図11のステッチリスト(振幅:8.8)に乱数値を含む加算値の補正を行った後、ステッチデータに対して振幅値を半分、つまり、振幅値8.8を振幅値4.4に変更させた場合のステッチデータを
図14に示し、模様を
図13に示す。なお、
図14において、加算値調整長の値は、小数点第2位を四捨五入した値となっている。
【0101】
図13から分かるように、乱数値を含む加算値の補正を行った後、ステッチデータに対して振幅値を半分にした場合は、乱数値を含む加算値が振幅値の変化に応じて減少しているのが分かる。
【0102】
また、
図11のステッチリスト(振幅:8.8)に対して振幅値を半分、つまり、振幅値8.8を振幅値4.4に変更させた後、乱数値を含む加算値を反映させた場合のステッチデータを
図16に示し、模様を
図15に示す。なお、
図16において、加算値調整長の値は、小数点第2位を四捨五入した値となっている。
【0103】
図15から分かるように、振幅値を半分に変更した後、乱数値を含む加算値を反映させた場合は、乱数値を含む加算値が振幅値の変化に影響することなく反映されていることが分かる。
【0104】
以上、説明したように、本実施形態および本実施例によれば、座標データ作成装置10は、縫製する模様の針落ち位置を示す座標データを記憶する座標データ記憶部103Bと、座標データ毎に加算する加算値を記憶する加算値記憶部(加算値メモリ(RAM))103Cと、座標データ又は加算値を調節する調節部(例えば、
図1の調整値生成モジュール)と、座標データに調節部において調節された加算値を加算し、又は調節部において調節された座標データに加算値あるいは調節部において調節された加算値を加算して、模様を崩した新たな座標データを作成する加算後座標データ作成部(例えば、
図1の調整値加算モジュール)と、を備えている。
ここで、座標データ記憶部103Bは、縫製する模様の針落ち位置を示す座標データを記憶する。加算値記憶部(加算値メモリ(RAM))103Cは、座標データ毎に加算する加算値を記憶する。調節部(例えば、
図1の調整値生成モジュール)は、座標データ又は加算値を調節する。加算後座標データ作成部(例えば、
図1の調整値加算モジュール)は、座標データに調節部において調節された加算値を加算し、又は調節部において調節された座標データに加算値あるいは調節部において調節された加算値を加算して、模様を崩した新たな座標データを作成する。
つまり、調節部(例えば、
図1の調整値生成モジュール)は、座標データ記憶部103Bに記憶されていた座標データ又は座標データ記憶部103Bに記憶されていた加算値を調節し、加算後座標データ作成部(例えば、
図1の調整値加算モジュール)により、座標データ記憶部103Bにおいて記憶された座標データのX座標の値又はY座標の値に調節部において調節された加算値を加算し、又は調節部において調節された座標データに加算値あるいは調節部において調節された加算値を加算して、模様を崩した新たな座標データを作成する機能を有する。
そのため、1針ごとに適度なばらつきを与えることにより、縫い模様に手書きの風合いを出すとともに、同じ模様については、手書きの風合についての傾向を変えないで希望の縫い目を生成することができる。
また、新規に模様を選択した場合には、新しい乱数値を含む加算値が生成され、異なる揺らぎが加味された模様となり、揺らぎの強度や振幅/送りを微調整した場合には、前回使用の乱数値を含む加算値が使われるため、同じ傾向での揺らぎの変換が可能となる。
なお、座標データは、通常縫いあるいは刺繍縫いのいずれの座標データも含む。
また、座標データのX座標の値又はY座標の値に夫々独自の値を加算する処理は、座標データのX座標の値とY座標の値に対して、夫々独自の値を加算するものであり、独自の値がゼロの場合を考慮すると、例えば、座標データのX座標の値あるいはY座標のいずれか一方に、当該独自の値を加算する処理も含む。
【0105】
また、本実施形態および本実施例によれば、座標データ作成装置10は、調節部(例えば、
図1の調整値生成モジュール)において調節されたた座標データ又は加算値を記憶する調整後データ記憶部103Bを備えている。
つまり、調整後データ記憶部103Bは、調節部(例えば、
図1の調整値生成モジュール)において調節されたた座標データ又は加算値を記憶している。
そのため、例えば、同一の模様に対して、過去に縫製したのと同様の模様に手書きの風合いを出したい場合には、調整後データ記憶部されている調節部において調節されたた座標データ又は加算値を読みだして縫製を実行することにより、過去に縫製したのと同様の模様に手書きの風合いを出した模様を簡単に再現することができる。
【0106】
また、本実施形態および本実施例によれば、座標データ作成装置10は、座標データは、振幅方向の値と送り方向の値とを有し、新たな座標データの振幅方向の値又は送り方向の値が所定の範囲を超えた場合、所定の範囲を超えた値を新たな座標データとして採用しない。
つまり、座標データは、振幅方向の値と送り方向の値とを有し、新たな座標データの振幅方向の値又は送り方向の値が所定の範囲を超えた場合、例えば、新たな座標データの振幅方向の値又は送り方向の値がミシンにおける機構の制限範囲を超える場合には、絶対的な制約であるミシンにおける機構の制限範囲を厳守するために、当該ミシンにおける機構の制限範囲を超える場合には、所定の範囲を超えた値を新たな座標データとして採用しない。
そのため、絶対的な制約であるミシンにおける機構の制限範囲を厳守しながら、元の模様形状を維持しつつ、手書き風の模様を縫製することができる。
なお、ここで、「所定の範囲を超えた値を新たな座標データとして採用しない」処理としては、文字通り、所定の範囲を超えた値を新たな座標データとして採用しない場合を含め、例えば、所定の範囲が「10」である場合に、座標データの振幅方向の値又は送り方向の値に対する加算処理を行わないこと、座標データの振幅方向の値又は送り方向の値に所定の範囲である「10」を超えない値を加算すること、座標データの振幅方向の値又は送り方向の値に対する加算処理を行った上で、加算後の値が所定の範囲である「10」を超えないように調整することを含む。
【0107】
また、縫製順序と該縫製順序に対応する座標データとを有する縫製データにおいて同一の座標データがある場合、同一の座標データのX座標の値又はY座標の値に夫々加算する独自の値は、他の縫製順序の前記同一の座標データのX座標の値又はY座標の値に夫々加算した値と同じ値である。
つまり、縫製順序と該縫製順序に対応する座標データとを有する縫製データにおいて同一の座標データがある場合、その同一の座標データのX座標の値又はY座標の値に夫々同じ値を加算する。
そのため、本来の形状を保ちつつ、手書き風に模様を変形することができる。
また、縫製順序が異なっていても、座標データが同じであれば、付加する値を同じにすることにより、同一点のずれを防止することができる。
さらに、異なる模様の重なり部分のずれを防止することができる。
【0108】
また、座標データのX座標の値又はY座標の値に夫々加算する独自の値は、模様毎に異なってもよい。
つまり、同じ座標データであっても、模様が異なれば、加算する独自の値が異なってもよい。
そのため、座標データのX座標の値又はY座標の値に夫々加算する独自の値が、異なるようにすれば、模様に応じた複数の縫製データを生成することができる。
また、模様に応じた複数の縫製データを生成できることから、ユーザが好む模様の選択範囲を広げることができる。
【0109】
また、座標データ作成装置は、加算後座標データ作成部で作成された新たな座標データの模様を表示する加算後模様表示部と、加算後模様表示部で表示された模様の座標データを模様毎に保存又は編集する座標データ処理部と、を備えてもよい。
つまり、加算後座標データ作成部で作成された新たな座標データの模様を表示する加算後模様表示部を備えれば、新たな座標データの模様を見ながら、その出来栄えを評価することができる。
また、加算後模様表示部で表示された模様の座標データを模様毎に保存又は編集する座標データ処理部を備えれば、加算後模様表示部に表示される新たな座標データの模様を見ながら、ユーザが好みの模様については、その座標データを保存することができる。
また、一方で、加算後模様表示部に表示される新たな座標データの模様が、ユーザの好みとは異なる場合には、座標データの編集(例えば、削除、移動、改変等)を行うことにより、ユーザの好みの模様を見つけて、その座標データを保存することができる。
【0110】
また、座標データのX座標の値又はY座標の値に夫々加算する独自の値は、一定範囲内の乱数値を含む加算値である。
つまり、座標データのX座標の値又はY座標の値に夫々加算する独自の値として、一定範囲内の乱数値を含む加算値を用いることにより、規則性のない複数の模様を作成することができる。
また、任意の値は、模様の成分方向長さに対して、任意の割合以内の値である。
具体的には、規則性のない複数の模様を作成することができることから、ユーザの好みの模様を選択できる範囲が広がる。
【0111】
また、座標データのX座標の値又はY座標の値に夫々加算する独自の値は、一定範囲内の正の値又は負の値である。
そのため、元の模様形状を維持しつつ、手書き風の模様を縫製することができる。
【0112】
また、加算後座標データ作成部で作成された座標データのX座標の値と縫製順序において隣接する加算後座標データ作成部で作成された座標データのX座標の値との間隔は、ミシンにおける機構の制限範囲内の値である。
【0113】
なお、座標データ作成装置の処理をコンピュータシステムあるいはコンピュータが読み取り可能な記録媒体に記録し、この記録媒体に記録されたプログラムを座標データ作成装置に読み込ませ、実行することによって本発明の座標データ作成装置を実現することができる。ここでいうコンピュータシステムあるいはコンピュータとは、OSや周辺装置等のハードウェアを含む。
【0114】
また、「コンピュータシステムあるいはコンピュータ」は、WWW(World Wide Web)システムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。また、上記プログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムあるいはコンピュータから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムあるいはコンピュータに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
【0115】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、前述した機能をコンピュータシステムあるいはコンピュータにすでに記録されているプログラムとの組合せで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0116】
以上、この発明の実施形態につき、図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
例えば、座標データ作成装置は、パソコン等の別体の装置であってもよいし、ミシン等に内蔵された装置であってもよい。
【符号の説明】
【0117】
10;座標データ作成装置
101;中央処理演算装置(CPU)
102;ROM
103A;作業用メモリ(RAM)
103B;模様情報メモリ(RAM)
103C;加算値メモリ(RAM)
104;表示制御装置
105;液晶表示器
106;タッチパネル
107;タクトスイッチ
108;USBコントローラ
109;外部メディア
110;ミシンモータ制御装置
111;振幅・送りモータ制御装置
112;X-Yモータ制御装置