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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】インダクタ
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/06 20060101AFI20240408BHJP
   H01F 17/04 20060101ALI20240408BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
H01F17/06 F
H01F17/04 F
H01F17/06 D
H01F27/255
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020045004
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021022724
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2023-03-03
(31)【優先権主張番号】201921190771.6
(32)【優先日】2019-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】000134257
【氏名又は名称】株式会社トーキン
(74)【代理人】
【識別番号】100117341
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 拓哉
(74)【代理人】
【識別番号】100148840
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 健志
(74)【代理人】
【識別番号】100191673
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 久典
(72)【発明者】
【氏名】松澤 覚
(72)【発明者】
【氏名】茶谷 健一
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-027643(JP,A)
【文献】特開平05-074641(JP,A)
【文献】実開昭59-023710(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0178784(US,A1)
【文献】特開2017-017052(JP,A)
【文献】特開平03-064010(JP,A)
【文献】特開2020-064979(JP,A)
【文献】実開平01-143109(JP,U)
【文献】特開平06-029125(JP,A)
【文献】特開2004-156134(JP,A)
【文献】特開2002-184616(JP,A)
【文献】特開2013-243330(JP,A)
【文献】特開2004-22814(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/06
H01F 17/04
H01F 27/255
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧粉磁芯と、コイルとを備えたインダクタであって、
前記圧粉磁芯には、少なくとも1つの通過孔が形成されており、
前記通過孔の夫々は、前記圧粉磁芯を上下方向に貫通しており、且つ、前記上下方向と直交する水平面における内周面を有しており、
前記圧粉磁芯は、前記水平面における外周面を有しており、
前記コイルは、部分的に前記通過孔の夫々の内部に位置し、且つ、前記外周面を覆わないようにして、巻回されており、
前記外周面は、前記水平面において角がない形状を有しており、
前記内周面の夫々は、前記水平面において角がない形状を有しており、
前記圧粉磁芯は、複数の金属粒子と、前記金属粒子の間に形成された気孔及びアモルファス酸化物からなる絶縁層とを含んでおり、
前記金属粒子は、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系、又は、Fe-Si-Al系の軟磁性金属である合金材料からなり、
前記合金材料の真密度に対する前記圧粉磁芯の密度の比率である相対密度は、80%以上であり、且つ、前記圧粉磁芯の1MHz周波数帯域における複素比透磁率の実数成分μ′は、50以上である
インダクタ。
【請求項2】
請求項1記載のインダクタであって、
前記コイルは、1ターン未満だけ巻回されている
インダクタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載のインダクタであって、
前記圧粉磁芯の前記外周面は、2つの端面を有しており、
2つの前記端面は、前記水平面と平行な横方向であって前記上下方向と直交する横方向において、前記圧粉磁芯の反対側に夫々位置しており、
前記端面の夫々は、前記横方向外側に向かって突出している。
インダクタ。
【請求項4】
請求項3記載のインダクタであって、
前記端面の夫々は、少なくとも1つの第1円弧部を有しており、
前記第1円弧部の夫々は、前記水平面において、円弧形状を有しており、
前記通過孔の夫々の前記内周面は、少なくとも2つの第2円弧部を有しており、
前記第2円弧部の夫々は、前記水平面において、円弧形状を有しており、
前記第1円弧部の前記水平面における半径をRで表し、前記圧粉磁芯の前記水平面と平行な縦方向であって前記上下方向及び前記横方向の双方と直交する縦方向における長さをLで表し、且つ、前記第2円弧部の前記水平面における半径をrで表したとき、
r≧0.5mm、r≦R≦L/2、且つ、(L-2r)/2≧1mmである
インダクタ。
【請求項5】
請求項4記載のインダクタであって、
前記圧粉磁芯には、2つの前記通過孔が形成されており、
2つの前記通過孔は、前記横方向において、互いに離れており、
前記コイルは、前記通過孔に夫々対応する2つの通過部と、1つの連結部とを有しており、
前記通過部の夫々は、対応する前記通過孔を、前記上下方向に貫通しており、
前記連結部は、2つの前記通過部の上端を互いに連結している
インダクタ。
【請求項6】
請求項4又は請求項5記載のインダクタであって、
前記圧粉磁芯の前記端面の夫々は、2つの前記第1円弧部を有しており、
前記第1円弧部の夫々は、前記水平面において、1/4円形状を有しており、
4つの前記第1円弧部は、前記水平面において、互いに離れており、且つ、前記圧粉磁芯の四隅に夫々位置している
インダクタ。
【請求項7】
請求項6記載のインダクタであって、
前記通過孔の夫々は、2つの前記第2円弧部を有しており、
前記第2円弧部の夫々は、前記水平面において、半円形状を有しており、
2つの前記第2円弧部は、前記縦方向において、互いに離れている
インダクタ。
【請求項8】
請求項4又は請求項5記載のインダクタであって、
前記端面の夫々は、1つの第1円弧部を有しており、
前記第1円弧部の夫々は、前記水平面において、半円形状を有しており、
2つの前記第1円弧部は、前記横方向において、互いに離れている
インダクタ。
【請求項9】
請求項8記載のインダクタであって、
前記通過孔の夫々は、2つの前記第2円弧部からなる1つの円形部を有しており、
前記円形部の夫々は、前記水平面において、円形状を有している
インダクタ。
【請求項10】
請求項4記載のインダクタであって、
前記圧粉磁芯には、前記通過孔が1つのみ形成されており、
前記コイルは、2つの通過部と、1つの連結部とを有しており、
前記通過部の夫々は、前記通過孔を、前記上下方向に貫通しており、
前記連結部は、2つの前記通過部の上端を互いに連結している
インダクタ。
【請求項11】
請求項4記載のインダクタであって、
前記圧粉磁芯には、2つの前記通過孔が形成されており、
2つの前記通過孔は、前記縦方向において、互いに離れており、
前記コイルは、前記通過孔に夫々対応する2つの通過部と、1つの連結部とを有しており、
前記通過部の夫々は、対応する前記通過孔を、前記上下方向に貫通しており、
前記連結部は、2つの前記通過部の上端を互いに連結している
インダクタ。
【請求項12】
請求項1から請求項11までのいずれかに記載のインダクタであって、
前記インダクタは、2以上の前記圧粉磁芯を備えており、
前記圧粉磁芯は、前記上下方向に積み重ねられている
インダクタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧粉磁芯を備えたインダクタに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、圧粉磁芯を備えたインダクタが開示されている。
【0003】
特許文献1の素体(圧粉磁芯)は、軟磁性合金(軟磁性金属粉末)からなる原料粒子を使用して作製する。詳しくは、まず、原料粒子と結合剤とを混合して造粒物(中間体)を作製する。中間体を圧縮成型及び熱処理することで圧粉磁芯が得られる。圧縮成型の際に、例えば、6~12ton/cm程度の高い成型圧力が中間体に加えられ、これにより、中間体における原料粒子の密度が高まる。この結果、軟磁性金属粉末を高い密度で含む高密度の(即ち、充分な磁気特性を有する)圧粉磁芯が得られる。圧粉磁芯にコイルを巻回することで、インダクタが得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4866971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
中間体に高い成型圧力を加えると、中間体が圧力によって壊れやすい。このため、従来の圧粉磁芯は、ドラム形状、トロイダル形状等の単純な形状にしか形成できない。即ち、従来は、高密度の圧粉磁芯を形成することが難しかった。
【0006】
そこで、本発明は、高密度の圧粉磁芯を容易に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、第1のインダクタとして、
圧粉磁芯と、コイルとを備えたインダクタであって、
前記圧粉磁芯には、少なくとも1つの通過孔が形成されており、
前記通過孔の夫々は、前記圧粉磁芯を上下方向に貫通しており、且つ、前記上下方向と直交する水平面における内周面を有しており、
前記圧粉磁芯は、前記水平面における外周面を有しており、
前記コイルは、部分的に前記通過孔の夫々の内部に位置し、且つ、前記外周面を覆わないようにして、巻回されており、
前記外周面は、前記水平面において角がない形状を有しており、
前記内周面の夫々は、前記水平面において角がない形状を有している
インダクタを提供する。
【0008】
また、本発明は、第2のインダクタとして、第1のインダクタであって、
前記コイルは、1ターンだけ巻回されている
インダクタを提供する。
【0009】
また、本発明は、第3のインダクタとして、第1又は第2のインダクタであって、
前記圧粉磁芯の前記外周面は、2つの端面を有しており、
2つの前記端面は、前記上下方向と直交する横方向において、前記圧粉磁芯の反対側に夫々位置しており、
前記端面の夫々は、前記横方向外側に向かって突出している。
インダクタを提供する。
【0010】
また、本発明は、第4のインダクタとして、第3のインダクタであって、
前記端面の夫々は、少なくとも1つの第1円弧部を有しており、
前記第1円弧部の夫々は、前記水平面において、円弧形状を有しており、
前記通過孔の夫々の前記内周面は、少なくとも2つの第2円弧部を有しており、
前記第2円弧部の夫々は、前記水平面において、円弧形状を有しており、
前記第1円弧部の前記水平面における半径をRで表し、前記圧粉磁芯の前記上下方向及び前記横方向の双方と直交する縦方向における長さをLで表し、且つ、前記第2円弧部の前記水平面における半径をrで表したとき、
r≧0.5mm、r≦R≦L/2、且つ、(L-2r)/2≧1mmである
インダクタを提供する。
【0011】
また、本発明は、第5のインダクタとして、第4のインダクタであって、
前記圧粉磁芯には、2つの前記通過孔が形成されており、
2つの前記通過孔は、前記横方向において、互いに離れており、
前記コイルは、前記通過孔に夫々対応する2つの通過部と、1つの連結部とを有しており、
前記通過部の夫々は、対応する前記通過孔を、前記上下方向に貫通しており、
前記連結部は、2つの前記通過部の上端を互いに連結している
インダクタを提供する。
【0012】
また、本発明は、第6のインダクタとして、第4又は第5のインダクタであって、
前記圧粉磁芯の前記端面の夫々は、2つの前記第1円弧部を有しており、
前記第1円弧部の夫々は、前記水平面において、1/4円形状を有しており、
4つの前記第1円弧部は、前記水平面において、互いに離れており、且つ、前記圧粉磁芯の四隅に夫々位置している
インダクタを提供する。
【0013】
また、本発明は、第7のインダクタとして、第6のインダクタであって、
前記通過孔の夫々は、2つの前記第2円弧部を有しており、
前記第2円弧部の夫々は、前記水平面において、半円形状を有しており、
2つの前記第2円弧部は、前記縦方向において、互いに離れている
インダクタを提供する。
【0014】
また、本発明は、第8のインダクタとして、第4又は第5のインダクタであって、
前記端面の夫々は、1つの第1円弧部を有しており、
前記第1円弧部の夫々は、前記水平面において、半円形状を有しており、
2つの前記第1円弧部は、前記横方向において、互いに離れている
インダクタを提供する。
【0015】
また、本発明は、第9のインダクタとして、第8のインダクタであって、
前記通過孔の夫々は、2つの前記第2円弧部からなる1つの円形部を有しており、
前記円形部の夫々は、前記水平面において、円形状を有している
インダクタを提供する。
【0016】
また、本発明は、第10のインダクタとして、第4のインダクタであって、
前記圧粉磁芯には、前記通過孔が1つのみ形成されており、
前記コイルは、2つの通過部と、1つの連結部とを有しており、
前記通過部の夫々は、前記通過孔を、前記上下方向に貫通しており、
前記連結部は、2つの前記通過部の上端を互いに連結している
インダクタを提供する。
【0017】
また、本発明は、第11のインダクタとして、第4のインダクタであって、
前記圧粉磁芯には、2つの前記通過孔が形成されており、
2つの前記通過孔は、前記縦方向において、互いに離れており、
前記コイルは、前記通過孔に夫々対応する2つの通過部と、1つの連結部とを有しており、
前記通過部の夫々は、対応する前記通過孔を、前記上下方向に貫通しており、
前記連結部は、2つの前記通過部の上端を互いに連結している
インダクタを提供する。
【0018】
また、本発明は、第12のインダクタとして、第1から第11までのいずれかのインダクタであって、
前記インダクタは、2以上の前記圧粉磁芯を備えており、
前記圧粉磁芯は、前記上下方向に積み重ねられている
インダクタを提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、圧粉磁芯の外周面は、水平面において角がない形状を有している。加えて、圧粉磁芯における通過孔の夫々の内周面は、水平面において角がない形状を有している。上述の構造により、圧粉磁芯を圧縮成型する際に高い成型圧力を加えても、成型圧力によって生じる反発力を分散でき、圧粉磁芯の破損を防止できる。即ち、本発明によれば、高密度の圧粉磁芯を容易に提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態におけるインダクタを示す斜視図である。インダクタの圧粉磁芯の一部(破線で囲んだ部分)を拡大して模式的に描画している。
図2図1のインダクタを示す側面図である。圧粉磁芯の隠れた通過孔の輪郭及びコイルの通過部の隠れた輪郭を破線で描画している。
図3図1の圧粉磁芯を示す斜視図である。
図4図3の圧粉磁芯を示す上面図である。圧粉磁芯の部位の境界を破線で描画している。
図5図1のインダクタのコイルを示す斜視図である。
図6図3の圧粉磁芯の構造を示す上面図である。圧粉磁芯の第1円弧部を含む仮想円及び圧粉磁芯の第2円弧部を含む仮想円を1点鎖線で描画している。
図7図6の圧粉磁芯の変形例の構造を示す上面図である。圧粉磁芯の第1円弧部を含む仮想円を1点鎖線で描画している。
図8図2のインダクタの変形例を示す側面図である。圧粉磁芯の隠れた通過孔の輪郭及びコイルの通過部の隠れた輪郭を破線で描画している。
図9図4の圧粉磁芯の変形例を示す上面図である。
図10図9の圧粉磁芯と図5のコイルとを備えたインダクタを図9のX-X線に沿って示す断面図である。
図11図1のインダクタの変形例を示す上面図である。コイルの隠れた通過部の輪郭を1点鎖線で描画している。
図12】本発明の実施例及び比較例のインダクタを示す上面図である。
図13図12のインダクタを示す側面図である。圧粉磁芯の隠れた通過孔の輪郭及びコイルの隠れた通過部の輪郭を1点鎖線で描画している。
図14図12及び図13のインダクタの圧粉磁芯における複素比透磁率の実数成分μ′を示す図である。
図15図12及び図13のインダクタの圧粉磁芯における絶縁抵抗を示す図である。
図16図12及び図13のインダクタにおけるコアロスの周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1及び図2を参照すると、本発明の実施の形態のインダクタ10は、後述するように、50A以上の大電流が瞬間的に流れても破損することなく動作可能である。このインダクタ10は、例えば、サーバー(図示せず)内部の回路基板(図示せず)に搭載して使用される。詳しくは、インダクタ10は、例えば、500kHz以上の高周波数帯域で動作するディスクリート半導体(即ち、単一の機能を持つ半導体:図示せず)の近傍に配置される。但し、本発明は、これに限られず、様々なインダクタに適用可能である。
【0022】
インダクタ10は、軟磁性体からなる圧粉磁芯20と、金属などの導電体からなるコイル70とを備えている。圧粉磁芯20は、軟磁性金属粉末62と絶縁性バインダ成分64との混合粉末(複合磁性体60)からなる圧粉磁芯である。後述するように、混合粉末は、高い成型圧力によって圧縮成形されており、これにより、圧粉磁芯20は、高密度の軟磁性金属粉末62を含んでいる。コイル70は、平板形状の金属板を、圧粉磁芯20に巻回して形成されている。本実施の形態のインダクタ10は、上述した1つの圧粉磁芯20及び1つのコイル70のみを備えている。但し、本発明は、これに限られない。例えば、インダクタ10は、圧粉磁芯20及びコイル70に加えて、更に別の部材を備えていてもよい。
【0023】
以下、本実施の形態の圧粉磁芯20の構造について説明する。
【0024】
図3及び図4を参照すると、圧粉磁芯20は、外周面22と、上面26と、下面28とを有している。上面26は、上下方向(Z方向)における圧粉磁芯20の上端(+Z側の端)に位置しており、下面28は、Z方向における圧粉磁芯20の下端(-Z側の端)に位置している。外周面22は、Z方向と直交する水平面(XY平面)において、圧粉磁芯20の外周に位置している。即ち、圧粉磁芯20は、XY平面における外周面22を有している。
【0025】
上面26及び下面28は、互いに同じ形状を有している。詳しくは、上面26及び下面28の夫々は、Z方向と直交する水平面(XY平面)と平行な滑らかな平面である。外周面22は、2つの端面222と、2つの横側面226とを有している。端面222の夫々は、角のない曲面であり、横側面226の夫々は、第1直交平面(YZ平面)と平行な滑らかな平面である。
【0026】
図4を参照すると、圧粉磁芯20の2つの端面222は、Z方向と直交する横方向(Y方向)において、圧粉磁芯20の反対側に夫々位置している。端面222の夫々は、Y方向外側に向かって突出している。2つの横側面226は、Y方向及びZ方向の双方と直交する縦方向(X方向)において、圧粉磁芯20の反対側に夫々位置している。横側面226の夫々は、端面222の夫々と、角を形成しないようにして繋がっている。
【0027】
詳しくは、横側面226のうちの1つは、圧粉磁芯20の前端(+X側の端)に位置しており、2つの端面222の前端を、角を形成しないようにしつつY方向において互いに連結している。横側面226のうちの他の1つは、圧粉磁芯20の後端(-X側の端)に位置しており、2つの端面222の後端を、角を形成しないようにしつつY方向において互いに連結している。
【0028】
圧粉磁芯20の端面222の夫々は、2つの第1円弧部223と、1つの縦側面228とを有している。即ち、外周面22は、2つの横側面226に加えて、4つの第1円弧部223と、2つの縦側面228とを有している。4つの第1円弧部223は、XY平面において、互いに離れており、且つ、圧粉磁芯20の四隅に夫々位置している。第1円弧部223の夫々は、XY平面において滑らかに曲がり、且つ、Z方向と平行に延びる曲面である。縦側面228の夫々は、第2直交平面(XZ平面)と平行な滑らかな平面である。2つの縦側面228は、Y方向において、圧粉磁芯20の反対側に夫々位置している。
【0029】
端面222の夫々において、縦側面228は、第1円弧部223の夫々と、角を形成しないようにして繋がっている。詳しくは、端面222の夫々において、縦側面228は、圧粉磁芯20のY方向外側の端に位置しており、2つの第1円弧部223のY方向外側の端を、角を形成しないようにしつつX方向において互いに連結している。
【0030】
図3及び図4を参照すると、圧粉磁芯20には、2つの通過孔30が形成されている。通過孔30の夫々は、圧粉磁芯20をZ方向に貫通している。通過孔30の夫々は、XY平面における内周面32を有している。内周面32の夫々は、2つの第2円弧部322と、2つの縦側面328とを有している。即ち、通過孔30の夫々は、2つの第2円弧部322と、2つの縦側面328とを有している。
【0031】
図4を参照すると、通過孔30の夫々の2つの第2円弧部322は、X方向において、互いに離れており、通過孔30の反対側に夫々位置している。第2円弧部322の夫々は、X方向外側に向かって突出している。通過孔30の夫々の2つの縦側面328は、Y方向において、通過孔30の反対側に夫々位置している。第2円弧部322の夫々は、XY平面において滑らかに曲がり、且つ、Z方向と平行に延びる曲面である。縦側面328の夫々は、XZ平面と平行な滑らかな平面である。
【0032】
通過孔30の夫々において、縦側面328は、第2円弧部322の夫々と、角を形成しないようにして繋がっている。詳しくは、通過孔30の夫々において、縦側面328のうちの一方は、通過孔30のY方向外側の端に位置しており、2つの第2円弧部322のY方向外側の端を、角を形成しないようにしつつX方向において互いに連結している。また、通過孔30の夫々において、縦側面328のうちの他方は、通過孔30のY方向内側の端に位置しており、2つの第2円弧部322のY方向内側の端を、角を形成しないようにしつつX方向において互いに連結している。
【0033】
以下、本実施の形態の圧粉磁芯20の製造方法及び特性について説明する。
【0034】
図3を参照すると、まず、圧粉磁芯20の材料として、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系等の軟磁性金属粉末62(金属粒子)を準備する。特に、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系等の金属粒子は、不動態層(酸化膜)が表面に形成され易く、これにより圧粉磁芯20の絶縁抵抗を高くし易い。従って、圧粉磁芯20の絶縁抵抗を高めるという観点から、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系等の金属粒子が好ましい。
【0035】
上述した金属粒子は、Fe-Si系、Fe-Si-Cr系、Fe-Si-Al系等の合金材料から作製できる。詳しくは、溶融した合金材料(合金溶湯)をガスアトマイズ法、水アトマイズ法等のアトマイズ法によって合金溶滴に分断し、合金溶滴を冷却することで作製できる。金属粒子の形状は、金型(図示せず)への充填密度を高めるという観点から、球形状であることが好ましい。また、金属粒子の平均粒径D50は、1MHz以上の周波数帯域で使用する際の表皮効果を考慮すると、5~30μmであることが好ましい。詳しくは、金属粒子の平均粒径D50が5~30μmである場合、表皮に比べて電流が1/e(約36.7%)に低下する厚さ(表皮深さ)を十分に小さくでき、且つ、渦電流半径を小さくできる。この結果、圧粉磁芯20の渦電流損失を低減でき、これにより、圧粉磁芯20は、1MHz以上の高周波数帯域で使用できる。
【0036】
次に、金属粒子を、シリコーン樹脂等のバインダと混合して混合粉末(造粒粉)を作製する。バインダとしてシリコーン樹脂を使用する場合、混合するシリコーン樹脂の量は、金属粒子に対して1~5質量%であることが好ましい。作製した造粒粉を金型(図示せず)に入れ、金型内で一軸圧縮成型して(即ち、Z方向に沿って圧縮して)成型体を作製する。インダクタ10(図1参照)のインダクタンスを高めるという観点から、成型体における金属粒子の密度は、80%以上であることが好ましい。80%以上の高密度の成型体(即ち、圧粉磁芯20)を得るため、圧縮成型における成型圧力は、5ton/cm以上であることが好ましい。
【0037】
次に、成型体に、150℃~200℃の温度による熱処理を施し、シリコーン樹脂を熱硬化する。次に、成型体に、500℃の温度による熱処理を1時間以上施して、シリコーン樹脂に含まれる有機官能基(有機成分)を分解する。この分解の結果、絶縁性バインダ成分64が形成され、且つ、絶縁性バインダ成分64の内部に気孔が形成される。このように形成された気孔は、成型体の歪を緩和し、圧粉磁芯20のコアロスを低減する。加えて、この分解の際に、金属粒子に含まれていたSiやAlが酸化してアモルファス酸化物(アモルファス状のSiOやAl)が形成される。即ち、金属粒子間に気孔及びアモルファス酸化物からなる絶縁層が形成される。
【0038】
次に、成型体に、大気雰囲気中又はアルゴンや窒素等の不活性雰囲気中において、700℃以上の温度による熱処理を2時間以上施す。この熱処理によって、圧縮成型によって生じた内部応力が緩和され、80%以上の金属粒子の密度を有し、且つ、充分な絶縁層を備えた圧粉磁芯20が得られる。得られた圧粉磁芯20は、高い透磁率及び高い絶縁抵抗と低いコアロスとを有している。
【0039】
一般的に、合金材料の真密度に対する圧粉磁芯20の密度の比率(以下、「相対密度」という。)が高くなるほど、複素比透磁率の実数成分μ′(以下、単に「透磁率μ′」という。)が向上する。但し、一般的に、圧粉磁芯20の相対密度が高くなるほど、圧粉磁芯20の絶縁抵抗が低下し易い。絶縁抵抗が低下すると、特に1MHz以上の周波数帯域において、渦電流損失に起因して磁気特性が劣化する。例えば、コアロスが増大する。加えて、圧粉磁芯20の絶縁性バインダ成分64が有機成分からなる場合、圧粉磁芯20の相対密度を高くし難い。
【0040】
一方、本実施の形態によれば、熱処理によって絶縁層が形成され、圧粉磁芯20の絶縁抵抗が高くなる。即ち、本実施の形態によれば、圧粉磁芯20の絶縁抵抗の低下を防止しつつ、透磁率μ′を向上できる。特に、圧粉磁芯20の相対密度が80%以上であるとき、1MHzの周波数帯域における透磁率μ′を50以上にできる。加えて、本実施の形態によれば、熱処理によって有機成分が殆ど完全に分解される。即ち、本実施の形態の絶縁性バインダ成分64は、有機成分を含んでいないため、圧粉磁芯20の相対密度を高くし易い。また、圧粉磁芯20は、有機成分を含んでいないため、200℃以上の高い耐熱性を有する。
【0041】
前述した圧粉磁芯20の構造の説明から理解されるように、本実施の形態の圧粉磁芯20は、XY平面において角のない形状を有している。詳しくは、圧粉磁芯20の外周面22は、XY平面において角がない形状を有している。加えて、圧粉磁芯20における通過孔30の夫々の内周面32は、XY平面において角がない形状を有している。金型(図示せず)は、圧粉磁芯20の形状に対応して、XY平面において角のない内部形状を有している。上述の構造により、圧粉磁芯20を圧縮成型する際にZ方向に沿って高い成型圧力を加えても、成型圧力によって生じる反発力を分散でき、圧粉磁芯20の破損(自己破壊)を防止できる。加えて、金型への負担を軽減できる。即ち、本発明によれば、圧粉磁芯20における軟磁性金属粉末62の密度が80%以上である高密度の圧粉磁芯20を容易に提供できる。
【0042】
図6を参照すると、本実施の形態によれば、圧粉磁芯20の端面222の夫々は、少なくとも1つの第1円弧部223を有している。第1円弧部223の夫々は、XY平面において、円弧形状を有している。詳しくは、第1円弧部223の夫々は、第1仮想円42(半径Rの円)の一部である。また、通過孔30の夫々の内周面32は、少なくとも2つの第2円弧部322を有している。第2円弧部322の夫々は、XY平面において、円弧形状を有している。詳しくは、第2円弧部322の夫々は、第2仮想円44(半径rの円)の一部である。
【0043】
第1円弧部223のXY平面における半径をRで表し、圧粉磁芯20のX方向における長さをLで表し、且つ、第2円弧部322のXY平面における半径をrで表したとき、r≧0.5mm、r≦R≦L/2、且つ、(L-2r)/2≧1mmである。この条件式を満たす構造により、高い成型圧力によって生じる反発力を、より確実に分散でき、圧粉磁芯20の破損(自己破壊)を、より確実に防止できる。特に、rが0.5mm以上であることで、圧縮成型における金型(図示せず)の引張り応力の集中を緩和できる。本実施の形態によれば、上述の条件式に加え、圧粉磁芯20のY方向における長さをWで表したとき、W>Lである。但し、本発明は、これに限られない。例えば、W=Lであってもよい。即ち、外周面22は、横側面226を有していなくてもよい。
【0044】
本実施の形態によれば、圧粉磁芯20の外周面22は、XY平面において角が全くない形状を有している。加えて、圧粉磁芯20における通過孔30の夫々の内周面32は、XY平面において角が全くない形状を有している。詳しくは、外周面22のXY平面におけるいずれの点においても、接線を1本のみ描画できる。加えて、内周面32の夫々のXY平面におけるいずれの点においても、接線を1本のみ描画できる。但し、本発明は、これに限られない。例えば、外周面22及び内周面32の夫々は、XY平面において視認できない程度の僅かな角を有していてもよい。換言すれば、外周面22及び内周面32の夫々は、XY平面において実質的に角を有していなければよい。
【0045】
図3を参照すると、圧粉磁芯20の上面26及び下面28の夫々は、Z方向と平行な平面内において直角の縁部を有している。このように縁部を直角にしても、Z方向に沿って圧縮成型する際に大きな影響を及ぼさない。一方、縁部を直角にすることで、金型の内部形状を単純にでき、製造コストを低減できる。但し、本発明は、これに限られない。例えば、圧粉磁芯20のZ方向と平行な平面内における縁部は、円弧形状等の曲線形状を有していてもよい。この形状によれば、圧縮成型する際の自己破壊を更に確実に防止できる。
【0046】
図3を参照すると、本実施の形態の圧粉磁芯20には、通過孔30を除き、孔や切欠きが形成されていない。また、上面26及び下面28の夫々は、通過孔30の開口を除き、凹凸のない滑らかな面である。外周面22及び内周面32の夫々も、凹凸のない滑らかな面である。但し、本発明は、これに限られない。例えば、外周面22、上面26、下面28及び内周面32の夫々には、圧縮成型する際の自己破壊に繋がらない程度の凹凸が形成されていてもよい。
【0047】
図1及び図2を参照すると、上述のようにして作製した圧粉磁芯20にコイル70を巻回することで、インダクタ10を作製できる。以下、本実施の形態のインダクタ10の構造及び特性について説明する。
【0048】
図5を参照すると、コイル70は、直線状に延びる平板形状の金属板(図示せず)を折り曲げて形成されている。詳しくは、コイル70は、2つの通過部72と、1つの連結部74と、2つの被固定部78とを有している。2つの被固定部78は、コイル70の両端部である。連結部74は、コイル70の中間部である。通過部72の夫々は、被固定部78のうちの一方と連結部74との間に位置している。
【0049】
図1及び図2を参照すると、圧粉磁芯20の2つの通過孔30は、Y方向において、互いに離れている。コイル70の2つの通過部72は、この2つの通過孔30に夫々対応している。より具体的には、通過部72の夫々は、対応する通過孔30を、Z方向に貫通している。コイル70の連結部74は、圧粉磁芯20の上面26の上に位置しており、2つの通過部72の上端を互いに連結している。一方、コイル70の被固定部78は、圧粉磁芯20の下面28の下に位置しており、サーバー(図示せず)の回路基板(図示せず)に表面実装可能である。
【0050】
インダクタ10が回路基板(図示せず)に搭載されると、被固定部78の夫々は、回路基板の導電パターンに接続される。即ち、インダクタ10は、サーバー(図示せず)内部の電子回路(図示せず)に電気的に接続される。
【0051】
インダクタ10は、磁気ギャップを有していない。詳しくは、圧粉磁芯20の通過孔30の夫々は、XY平面において圧粉磁芯20の外部に繋がっていない。加えて、コイル70は、圧粉磁芯20の内部の通過孔30を通過している一方、圧粉磁芯20の外周部に巻回されていない。即ち、コイル70は、部分的に通過孔30の夫々の内部に位置し、且つ、XY平面における圧粉磁芯20の外周面22を覆わないようにして、巻回されている。この構造により、コイル70によって生じる磁束は、圧粉磁芯20の内部を通過し、圧粉磁芯20の外部に漏洩し難い。即ち、本実施の形態のインダクタ10によれば、外部への磁束の漏洩を防止できる。
【0052】
従来のサーバー用インダクタ(図示せず)の磁芯(以下、「従来の磁芯」という。)は、多くの場合、MnZnフェライト等の透磁率μ′が高く且つコアロスが低い材料から作製されている。このような従来の磁芯を使用する場合、磁気飽和を防止するために、インダクタンスを調整する必要がある。インダクタンスの調整は、一般に、磁気ギャップを設けて反磁界を利用することによってなされる。しかしながら、磁気ギャップは、ノイズの発生源になる。加えて、磁気ギャップを設けると、磁束が外部に漏洩し易くなり、これにより、ギャップ損失(交流損失)が増加する。
【0053】
一方、本実施の形態のインダクタ10は、磁気ギャップを有していないため、外部への磁束の漏洩を抑制でき、これにより、交流損失を低減できる。加えて、圧粉磁芯20の透磁率μ′が高いため、コイル70の巻回数を低減できる。特に、本実施の形態によれば、コイル70は、1ターンだけ巻回されている。加えて、コイル70の大部分は、圧粉磁芯20の内部に位置している。この構造によれば、インダクタ10は、サーバー(図示せず)内部の狭い空間に搭載できる。
【0054】
以上の説明を纏めると、本実施の形態によれば、外部への磁束の漏洩を抑制しつつ、1MHz以上の周波数帯域における高い透磁率μ′と低いコアロスとを有するインダクタ10を提供できる。
【0055】
本実施の形態のインダクタ10は、上述した特性に加えて、以下に説明するように、更に様々な優れた特性を有している。
【0056】
例えば、本実施の形態によれば、軟磁性金属粉末62は、MnZnフェライトに比べて、高い飽和磁束密度を有している。軟磁性金属粉末62からなる圧粉磁芯20を備えたインダクタ10は、優れた直流重畳特性を有しており、コイル70に50A以上の大電流が流れても、インダクタンスが維持される。加えて、軟磁性金属粉末62のキュリー温度は高く、圧粉磁芯20の使用温度範囲は、MnZnフェライトからなる磁芯よりも広い。
【0057】
また、本実施の形態によれば、通過孔30のXY平面における面積を大きくすることで、大きなコイル70を巻回できる。即ち、コイル70の断面積を容易に大きくできる。コイル70の断面積を大きくすることで、コイル70の直流抵抗を小さくでき、これにより、大電流が流れても、インダクタンスを維持し易い。
【0058】
また、本実施の形態によれば、軟磁性金属粉末62の間は、SiO、Al及び気孔によって確実に絶縁される。従って、コイル70の通過部72と圧粉磁芯20の内周面32との間は、確実に絶縁される。
【0059】
以上に説明したインダクタ10の構造は、既に説明した変形例に加えて、インダクタ10の様々な特性を劣化させることなく、更に様々に変形可能である。以下、インダクタ10の様々な変形例について説明する。
【0060】
図1及び図2を参照すると、インダクタ10のコイル70は、一体に形成された金属部材である。但し、コイル70の構造は、これに限られない。例えば、コイル70の通過部72、連結部74及び被固定部78は、互いに別体に形成してもよい。この場合、まず、通過部72の下端を被固定部78に溶接し、次に、通過部72を通過孔30に通過させてもよい。また、連結部74を、通過孔30を通過させた通過部72の上端に溶接してもよい。
【0061】
インダクタ10の圧粉磁芯20には、通過孔30が2つのみ形成されている。但し、圧粉磁芯20の構造は、これに限られない。例えば、通過孔30は、3つ以上形成されていてもよいし、1つのみ形成されていてもよい。即ち、圧粉磁芯20には、少なくとも1つの通過孔30が形成されていればよい。
【0062】
図6を参照すると、圧粉磁芯20の第1円弧部223の夫々は、XY平面において、1/4円形状を有している。また、第2円弧部322の夫々は、XY平面において、半円形状を有している。但し、第1円弧部223及び第2円弧部322の夫々のXY平面における形状は、1/4円形状や半円形状に限られない。例えば、第1円弧部223及び第2円弧部322の夫々は、XY平面において1/8円形状を有していてもよい。また、第1円弧部223及び第2円弧部322の形状は、前述したr≧0.5mm、r≦R≦L/2、且つ、(L-2r)/2≧1mmとの条件式を満たす限り、様々に変形可能である。
【0063】
例えば、図7を参照すると、圧粉磁芯20Aは、外周面22Aと、上面26Aと、上面26Aと同じ形状の下面(図示せず)とを有している。上面26A及び下面の夫々は、XY平面と平行な平面である。外周面22Aは、2つの端面222Aと、2つの横側面226Aとを有している。横側面226Aの夫々は、YZ平面と平行な平面である。2つの端面222Aは、Y方向において、圧粉磁芯20Aの反対側に夫々位置している。端面222Aの夫々は、Y方向外側に向かって突出している。
【0064】
詳しくは、端面222Aの夫々は、1つの第1円弧部222Aからなる。即ち、端面222Aの夫々は、縦側面を有しておらず、1つの第1円弧部222Aのみを有している。第1円弧部222Aの夫々は、XY平面において、Y方向外側に向かって突出する半円形状を有している。2つの第1円弧部222Aは、Y方向において、互いに離れており、2つの横側面226Aによって、角が形成されないようにして互いに連結されている。
【0065】
圧粉磁芯20Aには、2つの通過孔30Aが形成されている。2つの通過孔30Aは、Y方向において、互いに離れている。通過孔30Aの夫々は、圧粉磁芯20AをZ方向に貫通しており、且つ、XY平面における内周面(円形部)32Aを有している。円形部32Aの夫々は、2つの第2円弧部322Aを有している。第2円弧部322Aの夫々は、XY平面において、半円形状を有している。即ち、通過孔30Aの夫々は、2つの第2円弧部322Aからなる1つの円形部32Aを有している。また、円形部32Aの夫々は、XY平面において、円形状を有している。
【0066】
以上の説明から理解されるように、圧粉磁芯20Aの外周面22Aは、XY平面において角がない形状を有している。通過孔30Aの夫々の内周面32Aは、XY平面において角がない形状を有している。加えて、第1円弧部223AのXY平面における半径をRで表し、圧粉磁芯20AのX方向における長さをLで表し、且つ、第2円弧部322AのXY平面における半径をrで表したとき、r≧0.5mm、r≦R=L/2、且つ、(L-2r)/2≧1mmである。加えて、圧粉磁芯20AのY方向における長さをWで表したとき、W>Lである。但し、前述した圧粉磁芯20と同様に、W=Lであってもよい。
【0067】
図8を参照すると、インダクタ10Bは、2つの圧粉磁芯20と、コイル70Bとを備えている。圧粉磁芯20の夫々は、既に説明した構造を有している。2つの圧粉磁芯20は、Z方向に積み重ねられている。コイル70Bは、コイル70(図5参照)と同じ連結部74及び被固定部78を有している。一方、コイル70Bは、コイル70の通過部72(図5参照)と異なる2つの通過部72Bを有している。通過部72BのZ方向におけるサイズは、通過部72のZ方向におけるサイズの約2倍である。この相違点を除き、コイル70Bは、コイル70と同じ構造を有しており、コイル70と同様に、部分的に通過孔30の夫々の内部に位置し、且つ、XY平面における圧粉磁芯20の外周面22を覆わないようにして、巻回されている。
【0068】
本発明による圧粉磁芯20や圧粉磁芯20A(図7参照)等の圧粉磁芯は、磁気ギャップを有していないため、磁気ギャップによるインダクタンスの調整ができない。但し、圧粉磁芯のサイズを変えることで、インダクタンスを調整できる。特に、本発明によれば、インダクタ10Bのように、同じ形状の圧粉磁芯を上下に積み重ねることで、インダクタンスを調整できる。インダクタ10Bのように圧粉磁芯20を積み重ねても、コイル70Bの通過部72Bは、いずれかの圧粉磁芯20の内部に位置し外部に露出しない。この構造により、外部への磁束の漏洩を抑制できる。上下に積み重ねる圧粉磁芯20の数は、2に限られず、3以上であってもよい。即ち、インダクタ10Bは、2以上の圧粉磁芯20を備えていればよい。
【0069】
図9及び図10を参照すると、インダクタ10Cは、インダクタ10(図1参照)の圧粉磁芯20(図1参照)と異なる圧粉磁芯20Cと、インダクタ10と同じコイル70と、内側部材50とを備えている。
【0070】
圧粉磁芯20Cは、外周面22Cと、上面26Cと、下面28Cとを有している。上面26C及び下面28Cの夫々は、XY平面と平行な平面である。外周面22Cは、2つの端面(第1円弧部)222Cと、2つの横側面226Cとを有している。横側面226Cの夫々は、YZ平面と平行な平面である。2つの端面222Cは、Y方向において、圧粉磁芯20Cの反対側に夫々位置している。端面222Cの夫々は、1つの半円形状の第1円弧部222Cのみからなり、Y方向外側に向かって突出している。2つの第1円弧部222Cは、Y方向において、互いに離れており、2つの横側面226Cによって、角が形成されないようにして互いに連結されている。
【0071】
圧粉磁芯20Cには、通過孔30Cが1つのみ形成されている。通過孔30Cは、圧粉磁芯20CをZ方向に貫通しており、且つ、XY平面における内周面32Cを有している。内周面32Cは、2つの第2円弧部322Cと、2つの横側面326Cとを有している。第2円弧部322Cの夫々は、XY平面において半円形状を有しており、Y方向外側に突出している。横側面326Cの夫々は、YZ平面と平行な平面である。2つの第2円弧部322Cは、Y方向において、互いに離れており、2つの横側面326Cによって、角が形成されないようにして互いに連結されている。
【0072】
内側部材50は、四角柱形状を有しており、通過孔30Cの内部に配置されている。内側部材50は、軟磁性体からなる磁芯であってもよいし、樹脂等の絶縁体からなる磁性を有さない部材であってもよい。内側部材50は、例えば、磁性体を含んだ樹脂によって圧粉磁芯20Cに接着してもよい。また、インダクタ10Cは、内側部材50を備えていなくてもよい。
【0073】
コイル70は、インダクタ10(図1参照)と同様に、部分的に通過孔30Cの内部に位置し、且つ、XY平面における圧粉磁芯20Cの外周面22Cを覆わないようにして、巻回されている。詳しくは、通過部72は、Y方向において内側部材50を挟むようにして、通過孔30CをZ方向に貫通している。連結部74は、2つの通過部72の上端を互いに連結している。
【0074】
以上の説明から理解されるように、圧粉磁芯20Cの外周面22Cは、XY平面において角がない形状を有している。通過孔30Cの内周面32Cは、XY平面において角がない形状を有している。加えて、第1円弧部223CのXY平面における半径をRで表し、圧粉磁芯20CのX方向における長さをLで表し、且つ、第2円弧部322CのXY平面における半径をrで表したとき、r≧0.5mm、r≦R=L/2、且つ、(L-2r)/2≧1mmである。
【0075】
インダクタ10Cの構造から理解されるように、本発明において、1つの通過孔を通過する通過部の数は、1に限定されず、2以上であってもよい。例えば、コイル70は、内側部材50に2ターン以上巻回されていてもよい。
【0076】
図11を参照すると、インダクタ10Dは、圧粉磁芯20(図1参照)と異なる圧粉磁芯20Dと、コイル70(図1参照)と異なるコイル70Dとを備えている。
【0077】
圧粉磁芯20Dは、外周面22Dと、上面26Dと、上面26Dと同じ形状の下面(図示せず)とを有している。上面26D及び下面の夫々は、XY平面と平行な平面である。外周面22Dは、2つの端面(第1円弧部)222Dと、2つの横側面226Dとを有している。横側面226Dの夫々は、YZ平面と平行な平面である。2つの端面222Dは、Y方向において、圧粉磁芯20Dの反対側に夫々位置している。端面222Dの夫々は、1つの半円形状の第1円弧部222Dのみからなり、Y方向外側に向かって突出している。2つの第1円弧部222Dは、Y方向において、互いに離れており、2つの横側面226Dによって、角が形成されないようにして互いに連結されている。
【0078】
圧粉磁芯20Dには、2つの通過孔30Dが形成されている。2つの通過孔30Dは、X方向において、互いに離れている。通過孔30Dの夫々は、圧粉磁芯20DをZ方向に貫通しており、且つ、XY平面における内周面32Dを有している。内周面32Dの夫々は、2つの第2円弧部322Dと、2つの横側面326Dとを有している。第2円弧部322Dの夫々は、XY平面において、半円形状を有しており、Y方向外側に突出している。内周面32Dの夫々において、2つの第2円弧部322Dは、Y方向において、互いに離れており、2つの横側面326Dによって、角が形成されないようにして互いに連結されている。
【0079】
コイル70Dは、通過孔30Dに夫々対応する2つの通過部72Dと、1つの連結部74Dとを有している。コイル70Dは、コイル70(図1参照)と同様に、部分的に通過孔30Dの内部に位置し、且つ、XY平面における圧粉磁芯20Dの外周面22Dを覆わないようにして、巻回されている。詳しくは、通過部72Dの夫々は、対応する通過孔30Dを、Z方向に貫通している。連結部74Dは、2つの通過部72Dの上端を互いに連結している。
【0080】
以上の説明から理解されるように、圧粉磁芯20Dの外周面22Dは、XY平面において角がない形状を有している。通過孔30Dの夫々の内周面32Dは、XY平面において角がない形状を有している。加えて、第1円弧部223DのXY平面における半径をRで表し、圧粉磁芯20DのX方向における長さをLで表し、且つ、第2円弧部322DのXY平面における半径をrで表したとき、r≧0.5mm、r≦R=L/2、且つ、(L-2r)/2≧1mmである。
【0081】
図11図6と併せて参照すると、インダクタ10Dの圧粉磁芯20Dは、インダクタ10の圧粉磁芯20において、X方向における長さLをY方向における長さWよりも長くしたような構造を有している。インダクタ10Dによれば、通過孔30DのXY平面における面積を大きくでき、これにより、連結部74Dの断面積を大きくできる。従って、コイル70Dの直流抵抗を小さくでき、これにより、大電流が流れても、インダクタンスを維持し易い。
【0082】
本発明によるインダクタの構造は、以上に説明した実施の形態や変形例に限定されない。例えば、以上に説明した実施の形態や変形例は、様々に組み合わせることができる。
【実施例
【0083】
以下、本発明について、実施例を参照しつつ、更に詳しく説明する。
【0084】
(実施例1~5)
図12及び図13を参照すると、本発明の実施例1~5のインダクタ10Xを以下のように作製し、作製したインダクタ10XのインダクタンスL及び直流抵抗Rdcを測定した。
【0085】
まず、図12及び図13に示される実施例1~5の圧粉磁芯20Xを作製した。圧粉磁芯20Xは、2つの端面(第1円弧部)222Xと、2つの通過孔30Xとを有していた。第1円弧部222Xの夫々は、半円形状を有していた。圧粉磁芯20Xにおいて、Y方向における長さWは10mmであり、X方向における長さLは6mmだった。第1円弧部222Xの夫々の半径Rは、3mmだった。通過孔30Xの夫々において、Y方向におけるサイズは2.0mmであり、X方向におけるサイズは4.0mmだった。実施例1~5の圧粉磁芯20Xは、表1に示す高さ(Z方向におけるサイズ)を夫々有していた。
【0086】
実施例1~5の圧粉磁芯20Xに、実施例1~5のコイル70Xを1ターンだけ夫々巻回させ、実施例1~5のインダクタ10Xを作製した。巻回前のコイル70Xは、矩形の平板形状を有していた。詳しくは、巻回前のコイル70Xは、2mmの幅と、0.8mmの厚さとを有していた。実施例1~5のインダクタ10Xは、表1に示す高さ(Z方向におけるサイズ)を夫々有していた。
【0087】
実施例1~5のインダクタ10XのインダクタンスLと、コイル70の直流抵抗Rdcとを測定した。測定結果を、表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
図12及び図13を参照すると、実施例1~5の圧粉磁芯20Xは、軟磁性金属粉末を、5ton/cm以上の高い成型圧力で圧縮成型することによって作製されている。図12及び図13に示されるように、実施例1~5の圧粉磁芯20Xは、外周部に角を有していない。加えて、圧粉磁芯20Xの通過孔30Xの夫々は、内周部に角を有していない。この形状により、高い成型圧力を加えても、成型圧力によって生じる反発力を分散でき、圧粉磁芯20Xの破損を防止できる。
【0090】
圧粉磁芯20Xは、内部に有機成分を含まない高密度の金属磁性体であり、これにより、表1に示すように高いインダクタンスLを有している。また、圧粉磁芯20Xは、磁気ギャップを有していない。詳しくは、通過孔30Xの夫々は、XY平面において圧粉磁芯20Xの外部に繋がっていない。加えて、コイル70Xは、圧粉磁芯20Xの内部の通過孔30Xを通過している一方、圧粉磁芯20Xの外周部に巻回されていない。この構造により、コイル70Xによって生じる磁束は、圧粉磁芯20Xの内部を通過し、圧粉磁芯20Xの外部に漏洩し難い。
【0091】
(実施例6、7、比較例1、2)
図12及び図13を参照すると、本発明の実施例6、7及び比較例1、2の圧粉磁芯20Xを以下のように作製した。
【0092】
実施例6、7及び比較例1、2の圧粉磁芯20Xの材料として、平均粒径10μmのFe-Si-Cr系の軟磁性金属粉末(金属粒子)を準備した。準備した金属粒子を、1質量%のシリコーン樹脂と混合して、第1の混合粉末を作製した。また、準備した金属粒子を、2質量%のシリコーン樹脂と混合して、第2の混合粉末を作製した。第1の混合粉末をZ方向に沿って圧縮成型して、比較例1の圧粉磁芯20Xを作製した。比較例1の圧粉磁芯20Xに、500℃の温度による熱処理を1時間以上施してシリコーン樹脂を分解し、その後、窒素雰囲気中で熱処理を施して、実施例6の圧粉磁芯20Xを作製した。同様に、第2の混合粉末をZ方向に沿って圧縮成型して、比較例2の圧粉磁芯20Xを作製した。比較例2の圧粉磁芯20Xに、500℃の温度による熱処理を1時間以上施してシリコーン樹脂を分解し、その後、窒素雰囲気中で熱処理を施して、実施例7の圧粉磁芯20Xを作製した。
【0093】
第1の混合粉末や第2の混合粉末を圧縮成型する際の成型圧力を変えることにより、実施例6、7及び比較例1、2の夫々について、圧粉磁芯20Xにおける金属粒子の密度が異なる4つの圧粉磁芯20Xを作製した。実施例6、7及び比較例1、2の圧粉磁芯20Xの透磁率μ′、絶縁抵抗IR及び周波数特性を測定した。測定結果を、図14図16に示す。
【0094】
図14に、圧粉磁芯20Xの1MHzの周波数帯域における透磁率μ′を示す。図14から理解されるように、実施例6、7は、比較例1、2に比べて、高い相対密度及び高い透磁率μ′を有している。
【0095】
図15に、圧粉磁芯20Xの絶縁抵抗IRを示す。図15から理解されるように、実施例6、7は、比較例1、2に比べて、高い絶縁抵抗IRを有している。詳しくは、実施例6、7の圧粉磁芯20Xは、Fe-Si-Cr系の軟磁性金属粉末(金属粒子)を、高い成型圧力で圧縮成型することによって作製されている。加えて、熱処理により、圧粉磁芯20Xの金属粒子間に、SiO2からなる酸化物の絶縁層と気孔とが形成される。この結果、実施例6、7は、高い絶縁抵抗IRを有している。
【0096】
図16に、圧粉磁芯20Xに50mTの励磁を行ったときの周波数に対する単位体積当たりのコアロスPcv(kW/m3)を示す。図16から理解されるように、実施例6、7は、比較的低いコアロスPcvを有している。
【符号の説明】
【0097】
10,10B,10C,10D,10X インダクタ
20,20A,20C,20D,20X 圧粉磁芯
22,22A,22C,22D 外周面
222 端面
222A,222C,222D、222X 端面(第1円弧部)
223 第1円弧部
226,226A,226C,226D 横側面
228 縦側面
26,26A,26C,26D 上面
28,28C 下面
30,30A,30C,30D,30X 通過孔
32,32C,32D 内周面
32A 内周面(円形部)
322,322A,322C,322D 第2円弧部
326C,326D 横側面
328 縦側面
42 第1仮想円
44 第2仮想円
50 内側部材
60 複合磁性体
62 軟磁性金属粉末
64 絶縁性バインダ成分
70,70B,70D,70X コイル
72,72B,72D 通過部
74,74D 連結部
78 被固定部
図1
図2
図3
図4
図5
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図10
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図12
図13
図14
図15
図16