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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】CMP方法及びCMP用洗浄剤
(51)【国際特許分類】
   B24B 37/00 20120101AFI20240408BHJP
   B24B 55/06 20060101ALI20240408BHJP
   B24B 37/015 20120101ALI20240408BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240408BHJP
   C09K 3/14 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B24B37/00 H
B24B37/00 K
B24B55/06
B24B37/015
H01L21/304 622D
C09K3/14 550Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020052315
(22)【出願日】2020-03-24
(65)【公開番号】P2021151670
(43)【公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】318010018
【氏名又は名称】キオクシア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂下 幹也
(72)【発明者】
【氏名】片岡 悠美子
(72)【発明者】
【氏名】松井 之輝
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-077060(JP,A)
【文献】特開2019-160996(JP,A)
【文献】特開2000-208456(JP,A)
【文献】特開2018-186118(JP,A)
【文献】特開2012-126604(JP,A)
【文献】特開平09-255434(JP,A)
【文献】特表2015-512959(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0359855(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 37/00
B24B 55/06
B24B 37/015
H01L 21/304
C09K 3/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転台の上に設けられた研磨布上に、半導体基板を含む研磨対象物の被研磨面を前記研磨布に対向させて、前記研磨対象物を保持部により保持する工程と、
前記被研磨面と前記研磨布との間に供給部から研磨剤を供給する工程と、
前記保持部に設けられた回転軸を回転させて前記研磨対象物を回転させる、又は前記回転軸を回転させて前記研磨布回転させることで、前記研磨剤を用いて前記被研磨面を研磨する工程とを具備するスラリーを用いたCMP方法において、
前記研磨剤は、研磨砥粒と、温度に応じてゲル状態とゾル状態との間で可逆的に相転移する有機ポリマーとを含み、
前記被研磨面を研磨する工程は、前記研磨布の温度が前記供給時の前記研磨剤の温度よりも高い第1の研磨工程を備え、前記第1の研磨工程における前記有機ポリマーの粘度は前記研磨剤を供給する工程における前記有機ポリマーの粘度より高い、CMP方法。
【請求項2】
前記被研磨面を研磨する工程は、さらに、前記研磨布の温度が前記第1の研磨工程より低い、又はせん断速度が前記第1の研磨工程より大きい第2の研磨工程を備え、前記第2の研磨工程における前記有機ポリマーの粘度は第1の研磨工程における前記有機ポリマーの粘度より低い、請求項に記載のCMP方法。
【請求項3】
前記有機ポリマーは、前記被研磨面と前記研磨布との間に前記研磨剤を供給するときはゾル状態であり、前記被研磨面を研磨するときはゾル状態からゲル状態に変化する、請求項1に記載のCMP方法。
【請求項4】
前記被研磨面を研磨する工程は、前記研磨布の温度を変化させることで、前記被研磨面の研磨レートや平坦化速度を変化させることを含む、請求項1に記載のCMP方法。
【請求項5】
前記有機ポリマーは、アルキルセルロースを含む、請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載のCMP方法。
【請求項6】
前記有機ポリマーは、下限臨界溶液温度以下のときにゾル状態であり、前記下限臨界溶液温度を超えるとゲル状態に相転移する感熱応答性ポリマーであり、
前記研磨剤供給する工程における前記研磨剤の温度が前記下限臨界溶液温度以下であり、
前記被研磨面研磨する工程における前記研磨布の温度を前記下限臨界溶液温度より高くする工程と
前記研磨布の温度を前記下限臨界溶液温度より高くする工程の後に、前記研磨布の温度前記下限臨界溶液温度以下にして前記研磨剤を前記研磨布上から排出する工程をさらに備える、請求項1に記載のCMP方法。
【請求項7】
さらに、前記研磨布上に洗浄剤を供給し、前記研磨布を洗浄する工程を具備し、
前記研磨布洗浄する工程は、前記洗浄剤がゾル状態を維持する温度に制御された前記洗浄剤の供給工程と、前記洗浄剤がゲル状態に相転移する温度に制御された洗浄工程とを備える、請求項に記載のCMP方法。
【請求項8】
請求項7に記載のCMP方法に用いられる前記洗浄剤であって、
温度によりゲル状態とゾル状態との間で可逆的に相転移する部位を有するモノマーと、金属イオンとキレート結合する部位を有するモノマーとの重合体を含み、
前記モノマーは、第1の温度でゾル状態を有し、前記第1の温度より高い第2の温度においてゲル状態を有する、CMP用洗浄剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、CMP方法及びCMP用洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体基板やその上に形成された各種の膜等の研磨工程が適用されている。このような研磨工程には、化学的機械的研磨(Chmical Mechanical Polishing:CMP)が用いられている。CMPにおいては、スラリー状の研磨剤による研磨対象物の研磨性能を高めつつ、研磨剤の供給や排出を安定化することが求められている。さらに、CMPによる研磨工程においては、研磨対象物に求められる研磨状態に応じて研磨剤の特性を変化させることが要求されることがあり、そのような研磨状態に応じて特性が変化する研磨剤が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-181910号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、研磨の各工程に応じて特性を変化させることが可能な研磨剤を用いたCMP方法及びCMP用洗浄剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態におけるCMP方法は、回転台の上に設けられた研磨布上に、半導体基板を含む研磨対象物の被研磨面を前記研磨布に対向させて、前記研磨対象物を保持部により保持する工程と、前記被研磨面と前記研磨布との間に供給部から研磨剤を供給する工程と、前記保持部に設けられた回転軸を回転させて前記研磨対象物を回転させる、又は前記回転軸を回転させて前記研磨布回転させることで、前記研磨剤を用いて前記被研磨面を研磨する工程とを具備するスラリーを用いたCMP方法において、前記研磨剤は、研磨砥粒と、温度に応じてゲル状態とゾル状態との間で可逆的に相転移する有機ポリマーとを含み、前記被研磨面を研磨する工程は、前記研磨布の温度が前記供給時の前記研磨剤の温度よりも高い第1の研磨工程を備え、前記第1の研磨工程における前記有機ポリマーの粘度は前記研磨剤を供給する工程における前記有機ポリマーの粘度より高い
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】実施形態の研磨方法に用いる研磨装置の一例を示す断面図である。
図2】第1の実施形態で有機ポリマーの一例として用いられるアルキルセルロースの構造を示すである。
図3】第1の実施形態で用いられる有機ポリマーの温度に基づく貯蔵弾性率の例を示す図である。
図4】第1の実施形態で用いられる有機ポリマーの温度とせん断速度に基づく粘度の例を示す図である。
図5】第2の実施形態で研磨剤に用いられる有機ポリマーの構造例を示すである。
図6】第2の実施形態で研磨剤に用いられる有機ポリマーの構造例を示すである。
図7】第2の実施形態で研磨剤に用いられる有機ポリマーの構造例を示すである。
図8】第2の実施形態で研磨剤に用いられる有機ポリマーの構造例を示すである。
図9】第2の実施形態で洗浄剤に用いられる有機ポリマーの構造例を示すである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の研磨方法及び研磨剤について、図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は第1の実施形態の研磨方法に適用する研磨装置の一例を示す図であって、図1(A)は研磨装置1による研磨工程の準備段階、図1(B)は研磨装置1による研磨工程を示す図である。図1(A)に示す研磨装置1は、表面に研磨布2が設けられた回転台3を有する。回転台3は回転軸4を有し、回転軸4に接続された図示しない回転機構により回転可能に構成されている。回転軸4を介した回転台3の回転数は、図示しない回転機構により調整可能とされている。
【0009】
研磨布2上には、被研磨面5aを有する研磨対象物5が配置される。研磨対象物5は、被研磨面5aの反対側の面が保持部6により保持されている。保持部6により保持された研磨対象物5は、被研磨面5aが研磨布2と対向するように、研磨布2上に配置される。研磨対象物5の保持部6は、研磨対象物5の保持面とは反対側の面に設けられた回転軸7を有し、回転軸7に接続された図示しない回転機構により回転可能に構成されている。回転軸7を介した保持部6の回転数は、図示しない回転機構により調整可能とされている。研磨装置1は、被研磨面5aを化学的及び機械的に研磨するCMP装置である。
【0010】
研磨布2上には、研磨剤供給部8が配置されている。研磨布2には、研磨剤供給部8から研磨対象物5の被研磨面5aの研磨に使用される研磨剤が供給される。研磨剤供給部8には、温度計9が設置されていてもよい。研磨剤の供給時の温度は、温度計9により測定可能である。研磨剤供給部8は、図示しない研磨剤タンクや研磨剤の供給量を調整するポンプ等を有している。研磨剤は、研磨剤タンクからポンプ等を介して研磨剤供給部8に送られ、研磨剤供給部8から研磨布2上に、すなわち研磨布2と被研磨面5aとの間に供給される。ここで、研磨剤タンクから研磨剤を研磨剤供給部8に送る配管には、後述するようにヒータや冷却器等の温度調整機構10等を設けてもよい。これは研磨剤供給部8に送られる研磨剤の相状態等を制御するものである。
【0011】
研磨布2上には、さらに温度制御部11が配置されている。温度制御部11は、研磨布2と接するように配置される。温度制御部11は、研磨布2の表面に熱交換体を接触させる温調スライダー装置であり、その内部には温度調節器12から加温又は冷却された熱媒体が供給される。そのような熱媒体が供給された温度制御部11と研磨布2とを接触させることによって、温度制御部11と研磨布2との間で熱交換が行われ、それにより研磨布2の温度、ひいては研磨布2と接する研磨対象物5の被研磨面5aの温度が所定の温度に制御(加温又は冷却)される。研磨装置1は研磨布2の温度を計測する放射温度計のような温度測定器13を有している。例えば、水を熱媒体として用いた場合、研磨布2の温度は20℃以上90℃以下の範囲で調整される。
【0012】
図1に示す研磨装置1で被研磨面5aの研磨工程を実施するにあたって、図1(B)に示すように、保持部6を移動させることにより研磨対象物5の被研磨面5aを研磨布2に接触させる。この状態で研磨剤供給部8から研磨剤を研磨布2上に供給しつつ、研磨対象物5を保持した保持部6と研磨布2が設けられた回転台3をそれぞれ回転させ、研磨対象物5の被研磨面5aと研磨布2とを相対的に摺動させることによって、被研磨面5aの研磨が実施される。このような被研磨面5aの研磨工程において、研磨剤としては研磨砥粒と有機ポリマーとを含むスラリー状の研磨剤(スラリー液)が用いられる。
【0013】
研磨砥粒としては、例えば酸化珪素(SiO)砥粒や酸化セリウム(CeO)砥粒等が用いられるが、特に限定されるものではない。スラリー状の研磨剤(スラリー液)は、水又はアルコールのような有機溶媒に、研磨砥粒や有機ポリマーを分散又は溶解させることにより調整される。有機ポリマーは、スラリー液の粘度調整に加えて、研磨砥粒の表面を覆うことによる研磨性能の調整等のために用いられる。研磨剤を用いて被研磨物5aを研磨する際に、高粘度のスラリー状研磨剤を用いることが望まれる場合がある。
【0014】
例えば、半導体装置の製造プロセスにおいて、各種膜の堆積やエッチングプロセスを経た被処理基板の表面に凸状の欠陥や異物が形成される場合がある。これらの凸状欠陥上にさらに膜を堆積すると、レンズ効果により凸状欠陥の影響範囲が広がるため、歩留りの低下や光リソグラフィ工程でのフォーカスエラー等を引き起こす。近年では、デバイス構造の三次元化に伴って、積層膜厚が飛躍的に増大しているため、これらの問題の深刻度が増している。ナノインプリントによるリソグラフィ工程では、パターンが形成されたテンプレートと半導体基板が直接接触するため、凸状欠陥に起因してテンプレートの破壊に繋がる可能性がある。凸状欠陥の除去のために、被処理膜を有する半導体基板のCMPが行われており、凸状欠陥の除去性能等を高めるために、スラリーを高粘度化させることが求められることがある。しかしながら、単に粘度が高いスラリーの使用はスラリーの供給に高い空気圧等を必要とするため、高額な設備投資が必要となる。
【0015】
そこで、第1の実施形態においては、スラリー状の研磨剤に添加する有機ポリマーとして、温度に応じてゲル状態とゾル状態との間で可逆的に相転移し、粘度を調整することが可能な有機ポリマーを用いている。これに加えて、せん断速度に応じて粘度が変化する有機ポリマーを用いることが好ましい。例えば、ある種の有機ポリマーは、温度の上昇に伴って、水や有機溶媒等に対して溶解可能なゾル状態からゲル状態に相転移する性質を有する。そのような有機ポリマーとしては、例えば図2に示すアルキルセルロースが挙げられる。図2において、R基にはメチル基、エチル基、プロピル基等のアルキル基やカルボキシル基(-C(=O)OH)、アルキル基の一部の水素がヒドロキシ基(-OH)で置換されたヒドロキシアルキル基等の1価の有機基を用いることができる。R基としての1価の有機基は、1種類のみに限られるものではなく、2種以上の基を混合して適用してもよい。また、R基の一部は水素基であってもよい。
【0016】
図3にアルキルセルロースの一例として、メチルセルロース(MC)とヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)の温度に対する貯蔵弾性率の変化を示す。図3に示すように、メチルセルロース(MC)は常温(25℃前後)では10Pa程度の貯蔵弾性率を有しており、一般的な有機ポリマーと同様に、貯蔵弾性率は温度の上昇と共に低下していくが、ある温度(55℃)を境にして貯蔵弾性率が上昇に転じ、75℃前後で2000Pa以上の貯蔵弾性率を示す。ヒドロキシプルピルメチルセルロース(HPMC)も同様であり、常温(25℃前後)では10Pa程度の貯蔵弾性率を有し、貯蔵弾性率は温度の上昇と共に低下していくものの、ある温度(75℃)を境にして貯蔵弾性率が上昇し、90℃前後で20Pa以上の貯蔵弾性率を示す。ここで、動的弾性率は物体の粘弾性を記述する物理量の1つである。動的弾性率は複素弾性率として表現され、貯蔵弾性率は複素弾性率の実数部にあたるものであり、粘度に相当する。なお、一般的な有機ポリマーは図3にTOとして示すように、温度の上昇に伴って貯蔵弾性率(粘度)は直線的に低下する。
【0017】
上記したアルキルセルロースの粘度変化は、温度に基づくゾル-ゲル相転移に基づくものである。上記したように、アルキルセルロースは常温(25℃前後)で10Pa程度の貯蔵弾性率を有しており、これはアルキルセルロースがゾル状態になっているためである。アルキルセルロースの温度の上昇に伴う粘度の上昇は、ゾル状態からゲル状態に相転移することによる。このように、温度に応じてゲル状態とゾル状態との間で可逆的に相転移する有機ポリマーを、研磨剤の添加剤として使用することによって、研磨剤の使用状況に応じて研磨剤の粘度を調整することができる。
【0018】
さらに、上記したアルキルセルロースは、図4に示すように、せん断速度に応じて粘度が変化する。図4は温度を変化させた際に、せん断速度に対応する回転数が異なる複数のアルキルセルロースの粘度がどのように変化するかを示している。図4において、0.3s-1のせん断速度は18rpmに対応する。同様に、1.0s-1は60rpmに、3.0s-1は180rpmに、10s-1は600rpmに、30s-1は1800に対応する。図4に示すように、例えば50℃で0.3s-1のせん断速度(回転数が18rpm)が付加されていたアルキルセルロースについて、せん断速度を30s-1まで上昇(回転数を1800rpmまで上昇)させた場合には、粘度が40Pa・s以上の高粘度状態から1Pa・s程度の低粘度状態まで変化する。従って、研磨工程の途中で研磨対象物5を保持した保持部6と研磨布2が設けられた回転台3の少なくとも一方の回転数を変化させることで、アルキルセルロースを含む研磨剤の粘度を調整することができる。
【0019】
図1に示す研磨装置1を用いた被研磨面5aの研磨作業において、例えば研磨工程時に粘度が高い研磨剤が求められる場合がある。ただし、通常状態でも粘度が高い研磨剤を使用すると、そのような研磨剤の供給自体が困難になったり、研磨剤の供給装置が高コストになる等の問題がある。そこで、アルキルセルロース等の温度により粘度が変化する有機ポリマーを含む研磨剤が有効に利用される。例えば、研磨剤を研磨剤供給部8から研磨布2上に供給する際には、例えば30℃程度の低温状態(例えば常温)とした研磨剤を供給する。この際の粘度は、アルキルセルロースを用いた場合には1Pa・s程度となる。従って、通常の研磨剤供給部8により良好に研磨剤を供給することができる。次いで、研磨工程を実施する際には、温度制御部11で研磨布2を昇温し、それに伴って研磨剤の粘度を上昇させる。アルキルセルロースを用いた場合に、研磨布2の温度を例えば50℃程度まで昇温した場合、研磨剤の粘度は15Pa・s程度となる。従って、研磨対象物5の被研磨面5aを効率よく研磨することができる。
【0020】
さらに、図1に示す研磨装置1を用いた被研磨面5aの研磨作業において、例えば研磨工程時に研磨剤の粘度を変化させることが求められる場合がある。すなわち、研磨工程の前期段階(初期段階)においては、被研磨面5aの研磨レートや平坦化速度等を高めるために、高粘度の研磨剤が求められることがある。さらに、研磨工程の後記段階においては、被研磨面5aの研磨により生じるキズや研磨跡等を除去し、被研磨面5aの平坦性を高めるために、低粘度の研磨剤が求められることがある。そこで、アルキルセルロース等の温度により粘度が変化する有機ポリマーを含む研磨剤が有効に利用される。このような研磨工程は、具体的には以下のようにして実施する。
【0021】
例えば、研磨剤を研磨剤供給部8から研磨布2上に供給する際には、例えば30℃程度の低温状態(例えば常温)とした研磨剤を供給する。この際の粘度は、上記したようにアルキルセルロースを用いた場合には1Pa・s程度の低粘度状態となる。従って、通常の研磨剤供給部8により良好に研磨剤を供給することができる。次いで、研磨工程を実施するにあたって、研磨布2の温度を例えば50℃程度に上昇させ、それに基づいて研磨剤を高粘度状態にして、被研磨面5aの研磨を実施する(第1の研磨工程)。研磨剤を高粘度状態にして、被研磨面5aを研磨することによって、研磨砥粒の有機ポリマーによる取り込みやそれに基づく研磨布2上での研磨砥粒の保持による研磨砥粒の研磨性能の効率化等によって、被研磨面5aの研磨レートや平坦化速度等を高めることができる。次いで、温度制御部11で研磨布2の温度を降下させ、それに伴って研磨剤の粘度を低下させる。アルキルセルロースを用いた場合、研磨布2の温度を例えば30℃程度まで降温した際に、研磨剤の粘度は1Pa・s程度となる。従って、研磨対象物5の被研磨面5aに対する攻撃性や刺激性が低下し、キズや研磨跡等を除去して、被研磨面5aの平坦性を高めることができる。
【0022】
上記した研磨工程の具体例について、以下に示す。有機ポリマーとしてメチルセルロースを適用し、研磨砥粒として酸化セリウムを用いた場合について述べる。まず、実施例1としては、研磨剤を常温(25℃)状態で供給し、その際の研磨布2の温度も常温(25℃)状態とする。研磨剤は低粘度状態で供給される。次いで、研磨工程を実施するにあたって、研磨布2の温度を50℃に昇温すると共に、回転台3の回転数を100rpmに設定して、被研磨面5aを研磨する。高粘度状態の研磨剤で研磨を実施する。次いで、温度制御部11で研磨布2の温度を25℃に降温させ、その温度を維持しつつ、回転台3の回転数を500rpmに上げて被研磨面5aを研磨する。温度の低下と回転数の増加により、研磨剤は低粘度状態となり、その状態で研磨を実施する。
【0023】
次に、実施例2としては、研磨剤を常温(25℃)状態で供給し、その際の研磨布2の温度も常温(25℃)状態とする。研磨剤は低粘度状態で供給される。次いで、研磨工程を実施するにあたって、研磨布2の温度を50℃に昇温すると共に、回転台3の回転数を100rpmに設定して、被研磨面5aを研磨する。高粘度状態の研磨剤で研磨を実施する。次いで、温度制御部11で研磨布2の温度を50℃に維持しつつ、回転台3の回転数を500rpmに上げて被研磨面5aを研磨する。回転数の増加によって、研磨剤は低粘度状態となり、その状態で研磨を実施する。このように、回転数を上げるのみによっても、研磨剤の粘度を低下させることができる。
【0024】
次に、実施例3としては、研磨剤を常温(25℃)状態で供給し、その際の研磨布2の温度も常温(25℃)状態とする。研磨剤は低粘度状態で供給される。次いで、研磨工程を実施するにあたって、研磨布2の温度を50℃に昇温すると共に、回転台3の回転数を100rpmに設定して、被研磨面5aを研磨する。高粘度状態の研磨剤で研磨を実施する。次いで、回転台3の回転数を100rpmに維持しつつ、温度制御部11で研磨布2の温度を25℃に低下させて被研磨面5aを研磨する。温度の低下によって、研磨剤は低粘度状態となり、その状態で研磨を実施する。このように、温度を低下させるのみによっても、研磨剤の粘度を低下させることができる。
【0025】
上述した研磨工程が終了した後、温度制御部11で研磨布2の温度を降下させ、それに伴って研磨剤の粘度を低下させる。アルキルセルロースを用いた場合、研磨布2の温度を例えば30℃程度まで降温した際に、研磨剤の粘度は1Pa・s程度となる。従って、低粘度の研磨剤を系外(装置外)に効率よく排出することができる。なお、低粘度の研磨剤を用いた研磨工程を実施した場合には、その工程における研磨剤の状態を維持しつつ研磨剤を系外に排出すればよい。
【0026】
第1の実施形態の研磨方法においては、研磨剤の粘度は0Pa・sを超えて50Pa・s以下の範囲が想定される。そのうち、研磨剤の供給工程や排出工程における研磨剤の粘度は0Pa・sを超えて5Pa・s以下であることが好ましい。また、高粘度状態での研磨剤を用いた研磨工程において、研磨剤の粘度は5Pa・sを超えて15Pa・s以下であることが好ましい。低粘度状態での研磨剤を用いた研磨工程において、研磨剤の粘度は0Pa・sを超えて5Pa・s以下であることが好ましい。第1の実施形態の研磨剤に用いられる有機ポリマーは、温度やせん断速度を調整することにより上記した各種の粘度を満たすことができる。従って、研磨剤の供給工程や排出工程等を良好に維持した上で、研磨工程における研磨性能を向上させることが可能となる。
【0027】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態の研磨方法について説明する。第2の実施形態においては、第1の実施形態と同様に、図1に示したような研磨装置1を用いて、研磨対象物5の被研磨面5aの研磨を実施する。研磨装置1は、第1の実施形態で説明したように、研磨布2が設けられた回転台3と、被研磨面5aを有する研磨対象物5を保持する保持部6と、研磨布2上に研磨剤を供給する研磨剤供給部8と、研磨布2の温度を調整する温度制御部11とを具備する。研磨装置1の具体的な構成は、第1の実施形態で説明した通りであり、回転機構等を含む各部の詳細構成は第1の実施形態と同様である。
【0028】
研磨剤としては、研磨砥粒と有機ポリマーとを含むスラリー状の研磨剤(スラリー液)が用いられる。研磨砥粒としては、例えば酸化珪素(SiO)砥粒や酸化セリウム(CeO)砥粒等が用いられるが、特に限定されるものではない。スラリー状の研磨剤(スラリー液)は、水又はアルコールのような有機溶媒に、研磨砥粒や有機ポリマーを分散又は溶解させることにより調整される。有機ポリマーは、スラリー液の粘度調整に加えて、研磨砥粒の表面を覆うことによる研磨性能の調整等のために用いられる。研磨剤は、pH調整剤を用いて研磨工程に適合するpHに調整することが好ましい。
【0029】
第2の実施形態においては、スラリー状の研磨剤に添加する有機ポリマーとして、水や有機溶媒のような媒体中で温度に応じてゲル状態とゾル状態との間で可逆的に相転移し、粘度を調整することが可能な有機ポリマーを用いる。そのような有機ポリマーとしては、第1に水や有機溶媒のような媒体中で下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)以下の温度であるとゾル状態を維持して媒体中に溶解し、LCSTを超える温度に加熱するとゲル状に相転移する感熱応答性ポリマー(以下、第1の感熱応答性ポリマーと記す。)が挙げられる。第2に、上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature:UCST)を超える温度であるとゾル状態を維持して媒体中に溶解し、UCST以下の温度に冷却するとゲル状に相転移する感熱応答性ポリマー(以下、第2の感熱応答性ポリマーと記す。)が挙げられる。
【0030】
上記した第1又は第2の感熱応答性ポリマーを含む研磨剤では、研磨布2の表面温度変化に伴って感熱応答性ポリマーが被研磨面5aの表面又は研磨布2の表面上で、ゲル状又はゾル状に相転移する。感熱応答性ポリマーによりコーティングされた砥粒の化学反応性及び機械研磨特性は、CMP研磨時の研磨速度、研磨傷性能、研磨選択比、平坦性を大きく変化させる。さらに、感熱応答性ポリマーは温度変化に伴って可逆的に相転移することから、研磨性能等の可逆的な制御も可能である。
【0031】
さらに、感熱応答性ポリマーは分子骨格内の化学的な修飾が容易であり、金属イオン補足機能を有するキレート部位をポリマー内に導入すれば、金属イオンのためのダスト洗浄剤として機能させることができる。被研磨膜5a中や触媒等に含まれる金属イオンを、洗浄剤により補足することができ、その後に研磨剤と同時に排出する。ゾル状態では媒体に可溶なため、CMP装置1への研磨剤の供給や排出を容易に行うことができる。なお、これまで研磨剤に用いられてきたアニオン性高分子は、温度変化に伴った顕著な相転移を示さない。第2の実施形態によれば、高精度な研磨速度向上、研磨傷低減、研磨選択比確保、平坦性向上、洗浄工程削減等による効率化を図ることができる。
【0032】
第1及び第2の感熱応答性ポリマーは、水溶性重合体、疎水性重合体、又は同様の界面活性剤に分類され、研磨装置1への供給時には媒体中に溶解したゾル状の形態をとる。研磨装置1内へゾル状態で供給できるように、付帯設備及び装置内配管の温度を調整する。感熱応答性ポリマーの基本構造は、温度変化に応答してゾル―ゲル相転移を示す感熱応答性を示すモノマー分子を重合した重合体(ポリマー)である。
【0033】
ゾル-ゲル相転移温度以上(LCST)でゲル化するモノマーの官能基としては、図5に示すように、N-イソプロピルアクリルアミド基(30~34℃)、N,N-ジエチルアクリルアミド基(26~35℃)、カプロラクタム基(N-ビニルカプロラクタム)(30~50℃)、メトキシ基(メチルビニルエーテル)(37℃)等が挙げられる。ゾル-ゲル相転移温度以上(LCST)でゲル化するポリマーの主鎖としては、図6に示すように、エチレンオキシド部位(20~85℃)、プロピレンオキシド部位(20~85℃)、ペプチド部位(28~30℃)等を有する炭素鎖又は複合炭素鎖が挙げられる。複合炭素鎖とは、炭素鎖の一部として酸素(O)、窒素(N)、硫黄(S)等を含むものである。なお、カッコ内の数値は、ゾルーゲル相転移温度を示す。
【0034】
ゾル-ゲル相転移温度以下(UCST)でゲル化するモノマーの官能基としては、図7に示すように、主鎖の少なくとも一部としてのアクリルアミド(25℃)やアクリル酸(25℃)等が挙げられる。また、図8に示すように、感熱応答性ポリマーの構造は、骨格内に砥粒表面への吸着性を示すポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスルホン酸、及びそれらの塩を含んでいてもよい。
【0035】
感熱応答性ポリマーは、例えば砥粒表面への吸着性を示すモノマー部位と温度応答性を示すモノマー部位を共重合させた共重合体が挙げられる。共重合体におけるそれぞれのモノマー部位の重合比率は、同じでもよいし、異なっていてもよく、またその配列はランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよく、特に限定されない。感熱応答性ポリマーの重量平均分子量は、1000以上5000000以下であることが好ましく、これは重合度によって制御可能である。
【0036】
第2の実施形態における被研磨面5aの研磨作業において、例えば研磨工程時に研磨剤の粘度を変化させることが求められる場合がある。すなわち、研磨工程の前期段階(初期段階)においては、被研磨面5aの研磨レートや平坦化速度等を高めるために、高粘度の研磨剤が求められることがある。さらに、研磨工程の後期段階においては、被研磨面5aの研磨により生じるキズや研磨跡等を除去し、被研磨面5aの平坦性を高めるために、低粘度の研磨剤が求められることがある。このような研磨工程は、具体的には以下のようにして実施される。以下において、第1の例は第1の感熱応答性ポリマーを用いた研磨工程の例であり、第2の例は第2の感熱応答性ポリマーを用いた研磨工程の例である。
【0037】
第1の例においては、研磨剤を研磨剤供給部8から研磨布2上に供給する際には、研磨剤中の第1の感熱応答性ポリマーがゾル状態を維持するように温度を調整する。第1の感熱応答性ポリマー(LCSTを有するポリマー)を使用するにあたって、研磨開始初期の研磨布2の温度は0~20℃に保持され、ゾル状態が維持される。研磨を開始するにあたって、研磨布2の温度を60~90℃まで温度を上昇させると、ポリマーはゾルからゲルへと相転移し、砥粒はゲル状のポリマーに取り込まれる。研磨布2の空孔内でゲルへと変化したポリマーにより、砥粒は研磨布内に保持される。砥粒は研磨布内で固まり転動しないため、砥粒による被研磨面5aの切削が効率よく起こり、高研磨速度が得られる。また同時に、砥粒が研磨布に強固に保持されているため、被研磨面5aに対する研磨傷等の欠陥も低減される。この後、第1の感熱応答性ポリマーがゾル状態となるように、研磨布2の温度を0~20℃に調整する。この状態で研磨を行った後、研磨剤を系外に排出する。このとき、ポリマーはゾル状態であるため、良好に排出することができる。
【0038】
第2の例においては、研磨剤を研磨剤供給部8から研磨布2上に供給する際には、研磨剤中の第2の感熱応答性ポリマーがゾル状態を維持するように温度を調整する。これは、研磨剤供給部8やそれに至る配管等の温度を調整することにより実施する。第2の感熱応答性ポリマー(UCSTを有するポリマー)を使用するにあたって、研磨開始初期の研磨布2の温度は30~80℃に保持され、ゾル状態が維持される。研磨を開始するにあたって、研磨布2の温度を0~20℃まで温度を低下させると、ポリマーはゾルからゲルへと相転移し、砥粒はゲル状のポリマーに取り込まれる。研磨布2の空孔内でゲルへと変化したポリマーによって、砥粒は研磨布内に保持される。砥粒は研磨布内で固まり転動しないため、砥粒による被研磨面5aの切削が効率よく起こり、高研磨速度が得られる。また同時に、砥粒が研磨布に強固に保持されているため、被研磨面5aに対する研磨傷等の欠陥も低減される。この後、第2の感熱応答性ポリマーがゾル状態となるように、研磨布2の温度を30~80℃に調整する。この状態で研磨を行った後、研磨剤を系外に排出する。このとき、ポリマーはゾル状態であるため、良好に排出することができる。
【0039】
第2の実施形態で用いる感熱応答性ポリマーは、研磨装置へはゾル状態で供給される。第1の感熱応答性ポリマー(LCSTを有するポリマー)は、研磨開始初期の研磨布温度が0~20℃に保持されるため、ゾル状態を保つ。研磨開始後、温度を60~90℃まで温度上昇させると、ポリマーはゾルからゲルへと相転移し、砥粒はゲル状のポリマーに取り込まれる。第2の感熱応答性ポリマー(UCSTを有するポリマー)は、研磨開始初期の研磨布温度が30~80℃に保持されるため、ゾル状態を保つ。研磨開始後、温度を0~20℃まで温度低下させると、ポリマーはゾルからゲルへと相転移し、砥粒はゲル状のポリマーに取り込まれる。研磨布の空孔内でゲルへと変化したポリマーにより、砥粒は研磨布内に保持される。砥粒は研磨布中で固まり転動しないため、砥粒による被研磨面5aの切削が効率よく起こり、高研磨速度が得られる。また同時に、砥粒が研磨布に強固に保持されているため、被研磨面5aに対する研磨傷等の欠陥も低減される。
【0040】
さらに、砥粒に対する吸着性を付与したポリマーを用いると、研磨中、温度変化後に砥粒にコーティングしたゲル状のポリマーが、高荷重印加状態で脱離することで、凸部に対する高研磨速度が得られ、凹凸部に対する平坦性が向上する。研磨布に残存した研磨剤の廃液は第1の感熱応答性ポリマー(LCSTを有するポリマー)では0~20℃まで冷却して、また第2の感熱応答性ポリマー(UCSTを有するポリマー)では30~60℃まで昇温してゾル状態へと相転移させることで速やかに排除できる。また、ゲルの硬度は感熱応答性部位の重合度比率や分子量の選択、又は濃度調整によって制御できる。
【0041】
次に、感熱応答性ポリマー(LCSTを有するポリマー又はUCSTを有するポリマー)を用いた洗浄剤について説明する。洗浄剤は、研磨剤と同様な感熱応答性ポリマーを水又はアルコール等の有機溶媒等の媒体中に溶解又は分散させたものである。感熱応答性ポリマーは、研磨剤と同様に、水溶性重合体、疎水性重合体、又は同様の界面活性剤に分類される。研磨装置1に供給する際には、媒体中に溶解したゾル状の形態をとる。研磨装置1内へゾル状態で供給できるように、付帯設備及び装置内配管の温度を調整する。
【0042】
金属イオン洗浄剤としての性質は、温度変化に応答してゾル―ゲル相転移を示す感熱応答性を示すモノマー分子の少なくとも一部に金属イオンの補足機能を有するキレート部位を導入することにより得られる。洗浄剤に用いる感熱応答性ポリマーの基本構造は、キレート部位を有する感熱応答性のモノマー分子を重合した重合体(ポリマー)である。図9は、洗浄剤に用いる感熱応答性ポリマーの分子構造の概略である。その基本構造は、金属イオンとキレート結合性を示すモノマー分子と温度刺激に応答してゾル―ゲル相転移を示すモノマー分子を重合反応させて合成した共重合体である。
【0043】
図9に示すように、キレート部位としては、カルボン酸、アミド、エステル、アミン、及びそれらの塩を含有する官能基を有する部位が挙げられる。ゾル-ゲル相転移を示すモノマーの官能基や主鎖としては、図5図6図7、及び図8に示した研磨剤における官能基や主鎖と同様である。これらを共重合することによって、金属イオンとキレート結合性を示す感熱応答性ポリマーが得られる。共重合体におけるモノマー部位の重合比率は、同じでもよいし、異なっていてもよく、またその配列はランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体等のいずれでもよく、特に限定されない。感熱応答性ポリマーの重量平均分子量は、1000以上5000000以下であることが好ましく、これは重合度によって制御可能である。
【0044】
洗浄剤は、研磨装置に感熱応答性ポリマーがゾル状態を維持するようにして供給される。第1の感熱応答性ポリマー(LCSTを有するポリマー)において、洗浄開始初期の研磨布温度は0~20℃に保持されるため、ゾル状態を保つ。洗浄開始後、温度を60~90℃まで温度を上昇させると、ポリマーはゾルからゲルへと相転移し、脱水和により収縮して内部の体積を大きく縮小させることで、キレート部位同志が互いに近接して金属イオンを安定に補足できる。研磨布に残存した洗浄液の廃液は0~20℃まで冷却してゾル状態へと相転移させることで速やかに排除できる。第2の感熱応答性ポリマー(UCSTのポリマー)は、洗浄開始初期の研磨布温度が30~80℃に保持されるため、ゾル状態を保つ。洗浄開始後、温度を0~20℃まで温度を低下させると、ポリマーはゾルからゲルへと相転移し、脱水和により収縮して内部の体積を大きく縮小させることで、キレート部位同志が互いに近接して金属イオンを安定に補足できる。研磨布に残存した洗浄液の廃液は30~60℃まで昇温してゾル状態へと相転移させることで速やかに排除できる。
【0045】
感熱応答性ポリマーの相転移は、以下のようにして確認される。下記のストークス-アインシュタインの式によって定義される流体力学的半径(ストークス半径)Rにおいて、温度変化前(ゾル状)の流体力学的半径RHOと温度変化時(ゲル状)の流体力学的半径Rの変化率(1-R/RHO)が0.3以上になる条件で、相転移が生じたとする。もしくは、温度変化前(ゾル状)の光透過率Iと温度変化時(ゲル状)の光透過率Iの変化率(1-I/I)が0.3以上になる条件で、相転移が生じたとする。
【0046】
【化1】
【0047】
なお、上述した各実施形態の構成は、それぞれ組合せて適用することができ、また一部置き換えることも可能である。ここでは、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図するものではない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施し得るものであり、発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の省略、置き換え、変更等を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同時に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0048】
1…研磨装置、2…研磨布、3…回転台、5…研磨対象物、5a…被研磨面、6…保持台、8…研磨剤供給部、11…温度制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9