(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 29/40 20160101AFI20240408BHJP
G05D 3/12 20060101ALN20240408BHJP
【FI】
H02P29/40
G05D3/12 305B
(21)【出願番号】P 2020061647
(22)【出願日】2020-03-30
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】507216098
【氏名又は名称】シチズン千葉精密株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100166981
【氏名又は名称】砂田 岳彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 義直
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2009/119810(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/005388(WO,A1)
【文献】特開2004-274989(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 29/40
G05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータを駆動させて対象物を移動させるべき
指令速度を算出する速度算出部と、
前記対象物の目標位置と当該対象物の実際の位置との位置偏差を算出する偏差算出部と、
前記速度算出部が算出した前記
指令速度が0となり、かつ、前記偏差算出部が算出した前記位置偏差が0となった後、
前記対象物が前記目標位置に対してオーバーシュートしながら予め定められた所定時間が経過したときに、当該位置偏差を所定値以下の値に変更する
とともに、予め定められた継続時間が経過するまで当該位置偏差を当該所定値以下の値に維持する変更部と、
を備えるモータ制御装置。
【請求項2】
前記所定時間は、前記対象物が前記目標位置に到達してから前記モータが前記オーバーシュートを修正しようと振動し始めるまでの時間である
請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記所定値以下の値は、0である
請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータに供給する目標電流と、当該モータに供給される実電流との差が0となるように、フィードバック制御を行う駆動制御部をさらに備え、
前記駆動制御部は、前記偏差算出部が算出した前記位置偏差の絶対値が予め定められた基準値以下である場合には、当該位置偏差の絶対値が当該基準値より大きい場合よりも、前記フィードバック制御のゲインを小さくする
請求項1~3の何れか一つに記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子顕微鏡において、試料移動用のステージの位置決めを制御する技術が提案されている。
例えば、特許文献1に記載された走査型電子顕微鏡は、以下のように構成されている。すなわち、試料上を電子ビームで走査し、試料上の観察視野内の拡大像をCRTディスプレイに表示する。試料が載置されるステージは、マイクロステップ駆動方式で制御されているパルスモータに回転される送りねじを介して駆動される。試料の代わりに基準ウエハを載置して、ステージを反転させて移動させることにより、バックラッシュ量及び送りねじのピッチ誤差を求めてメモリに格納しておき、ステージを駆動する際にステージ制御手段がそれらの補正を行う。
また、特許文献2に記載された走査型電子顕微鏡は、試料移動時と停止時にモータへの供給電流を同じないし、供給電流の差を20%以下とすることによりモータの熱量変化を小さくすることで、試料ステージの温度をコントロールして観察時の試料ドリフトを低減することを特徴とする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-129985号公報
【文献】国際公開第2011/145290号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば高分解能の電子顕微鏡において、観察したい対象物である試料を載せるステージを移動させるためのアクチュエータとして、低速駆動中の動きも滑らかであるACサーボモータを用いることが考えられる。そして、ACサーボモータをフィードバック制御することにより、ステージの位置決め制御が精度よく行われる。かかる場合、サーボのゲインが不足すると、ステージの移動が遅くなり、操作性が悪くなることから、ゲインを、操作応答性に満足する程度まで上げる必要がある。そして、ゲインを高めると、ステージが目標位置に到達したとしても、オーバーシュートしたりアンダーシュートしたりすること等により過渡的に振動し、試料に揺れが発生して試料を見失うおそれがある。それゆえ、応答性を低下させることなく、対象物(試料)を見失わないようにすることが望ましい。
本発明は、応答性を低下させることなく、対象物を見失わないように位置決めすることができるモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的のもと完成させた本発明は、モータを駆動させて対象物を移動させるべき速度を算出する速度算出部と、前記対象物の目標位置と当該対象物の実際の位置との位置偏差を算出する偏差算出部と、前記速度算出部が算出した前記速度が0となり、かつ、前記偏差算出部が算出した前記位置偏差が0となった後、予め定められた所定時間が経過したときに、当該位置偏差を所定値以下の値に変更する変更部と、を備えるモータ制御装置である。
ここで、前記変更部は、前記所定時間が経過したときに前記位置偏差を前記所定値以下の値に変更した後、予め定められた継続時間が経過するまで当該位置偏差を前記所定値以下の値に維持しても良い。
また、前記所定値以下の値は、0であっても良い。
また、前記モータに供給する目標電流と、当該モータに供給される実電流との差が0となるように、フィードバック制御を行う駆動制御部をさらに備え、前記駆動制御部は、前記偏差算出部が算出した前記位置偏差の絶対値が予め定められた基準値以下である場合には、当該位置偏差の絶対値が当該基準値より大きい場合よりも、前記フィードバック制御のゲインを小さくしても良い。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、応答性を低下させることなく、対象物を見失わないように位置決めすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1の実施形態に係る走査型電子顕微鏡の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】第1の実施形態に係る走査型電子顕微鏡の試料移動ステージの概略構成の一例を示す図である。
【
図6】変更部が行う変更処理を示すフローチャートの一例を示す図である。
【
図7】位置指令速度、位置偏差及び実際の位置の関係を示すタイムチャートの一例を示す図である。
【
図8】第2の実施形態に係る制御装置のブロック図の一例を示す図である。
【
図9】電流ゲインと位置偏差との関係の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、実施の形態について詳細に説明する。
<第1の実施形態>
図1は、第1の実施形態に係る走査型電子顕微鏡の概略構成の一例を示す図である。
図2は、第1の実施形態に係る走査型電子顕微鏡の試料移動ステージの概略構成の一例を示す図である。
図3は、
図2のIII方向に見た図である。
本実施の形態に係る走査型電子顕微鏡50(以下、単に「顕微鏡50」と称する場合もある。)は、特許文献2に記載された走査型電子顕微鏡に対して、xテーブル33を移動させるxモータ41と、yテーブル43を移動させるyモータ61と、これらのモータの駆動を制御する制御装置100とが異なる。以下、主に、特許文献2に記載された走査型電子顕微鏡と異なる点について説明する。
【0009】
顕微鏡50は、電子銃1と、コンデンサレンズ2と、対物レンズ3と、試料室4と、試料移動ステージ5と、2次電子検出器7と、真空ポンプ9~13と、ステージケース14とを有している。そして、顕微鏡50は、電子銃1で発生した電子ビームを、コンデンサレンズ2、対物レンズ3を通して試料室4内の試料移動ステージ5の上に取り付けられた試料S上に照射し、試料Sから出てくる2次電子を2次電子検出器7でとらえ、試料S表面の形状を観察可能にする。
【0010】
また、顕微鏡50は、zテーブル15と、チルトテーブル20とを有している。zテーブル15を駆動するための機構、及び、チルトテーブル20を駆動するための機構は、特許文献2に記載された走査型電子顕微鏡と基本的に同じであるので、その詳細な説明は省略する。
【0011】
顕微鏡50は、試料Sをx方向に移動させるxテーブル33を有している。xテーブル33は、クロスローラガイド34を介してチルトテーブル20に取り付けられている。また、顕微鏡50は、xテーブル33を移動させる、xボールネジ35及びxボールネジナット36を有している。また、顕微鏡50は、xボールネジ35の両端部をそれぞれ支持する軸受37、38と、軸受37、38をそれぞれチルトテーブル20に支持する軸受ハウジング39、40とを有している。xボールネジナット36は、x継手42を介して、xテーブル33に固定されている。
【0012】
また、顕微鏡50は、xボールネジ35に連結された、xモータ41と、xカップリング44と、xモータ41を支持するxブラケット45とを有している。xブラケット45は、チルトテーブル20に固定されている。xテーブル33は、xモータ41が駆動されてxボールネジ35が回転させられ、xボールネジナット36が移送されることによりx方向に移動し、試料Sをx方向に移動させる。
【0013】
また、顕微鏡50は、試料Sをy方向に移動させるyテーブル43を有している。yテーブル43は、クロスローラガイド54a、54bを介してxテーブル33に取り付けられている。また、顕微鏡50は、yテーブル43を移動させる、yボールネジ55及びyボールネジナット56を有している。また、顕微鏡50は、yボールネジ55の両端部をそれぞれ支持する軸受57、58と、軸受57、58をそれぞれxテーブル33に支持する軸受ハウジング59、60とを有している。yボールネジナット56は、y継手48を介して、yテーブル43に固定されている。
【0014】
また、顕微鏡50は、yボールネジ55に連結された、yモータ61と、yカップリング62と、yモータ61を支持するyブラケット63とを有している。yブラケット63は、xテーブル33に固定されている。yテーブル43は、yモータ61が駆動されてyボールネジ55が回転させられ、yボールネジナット56が移送されることによりy方向に移動し、試料Sをy方向に移動させる。
【0015】
また、顕微鏡50は、試料Sを回転させるローテーションテーブル66を有している。ローテーションテーブル66は、軸受(不図示)を介して、yテーブル43に対して回転可能に支持されている。また、顕微鏡50は、ローテーションテーブル66を回転させる、ウォームホィール67a及びウォームギヤ67bを有している。ウォームホィール67aは、ローテーションテーブル66に取り付けられている。また、顕微鏡50は、ウォームギヤ67bの両端部をそれぞれ支持する軸受69、70と、軸受69、70をそれぞれyテーブル43に支持する軸受ハウジング71、72とを有している。
【0016】
また、顕微鏡50は、ウォームギヤ67bに連結された、rモータ73と、rカップリング74と、rモータ73を支持するrブラケット75とを有している。rブラケット75は、yテーブル43に固定されている。ローテーションテーブル66は、rモータ73が駆動されてウォームギヤ67bが回転させられ、ウォームホィール67aが回転させられることにより回転し、試料Sを回転させる。
【0017】
試料Sは試料ホルダ77に接着され、試料ホルダ77はローテーションテーブル66に取り付けられたホルダ台78に挿入、固定されている。
上述したようにして、試料Sは、x,y,z方向に移動させられ、また、回転させられ、傾斜させられる。
【0018】
(モータ制御について)
上述した、xモータ41、yモータ61及びrモータ73は、3相のACサーボモータであることを例示することができる。
そして、顕微鏡50は、これらxモータ41、yモータ61及びrモータ73の駆動を制御する制御装置100を備えている。制御装置100が、xモータ41、yモータ61及びrモータ73を制御する態様は同じであるので、以下では、xモータ41、yモータ61及びrモータ73を、「モータ110」と称し、モータ110を制御する態様について説明する。
【0019】
図4、
図5は、制御装置100の概略構成の一例を示す図である。
制御装置100は、CPU、ROM、RAM、EEPROM(Electrically Erasable & Programmable Read Only Memory)等からなる算術論理演算回路である。
そして、制御装置100は、モータ110に供給する目標電流を設定する目標電流設定部120と、目標電流設定部120が設定した目標電流に基づいてフィードバック制御などを行う制御部130と、を備えている。目標電流設定部120の機能構成は、
図4に示し、制御部130の機能構成は、
図5に示している。
【0020】
目標電流設定部120は、
図4に示すように、d-q座標系のq軸目標電流Iqtを設定する電流設定部の一例としてのq軸目標電流設定部121と、d軸目標電流Idtを設定するd軸目標電流設定部122とを有している。d-q座標系は、モータ110のロータ(永久磁石)と同期して回転するd軸およびq軸からなる回転直交座標系であり、d軸は、ロータが形成する磁束の方向に沿った軸であり、q軸は、モータ110が発生するトルクの方向に沿った軸である。
d軸目標電流設定部122は、d軸目標電流Idtを0に設定する。
q軸目標電流設定部121及び目標電流設定部120が有するその他の構成要素については後で詳述する。
【0021】
制御部130は、
図5に示すように、モータ110の駆動を制御する駆動制御部131と、モータ110を駆動させるモータ駆動部132とを有している。
また、制御部130は、モータ110に実際に流れる実電流に応じた値を出力するモータ電流検出部133と、このモータ電流検出部133によって検出された電流をd-q座標系の電流に変換する3相2軸変換部135と、を有している。
また、制御部130は、エンコーダ等の回転角センサ111からのモータ回転角度信号θsに基づいて、実際のモータ110の回転角度であるモータ回転角度θdを算出するモータ回転角度算出部136を有している。
【0022】
モータ電流検出部133は、3相のモータであるモータ110のU相に実際に流れる電流であるU相実電流を検出するためのU相電流検出部と、モータ110のV相に実際に流れる電流であるV相実電流を検出するためのV相電流検出部と、モータ110のW相に実際に流れる電流であるW相実電流を検出するためのW相電流検出部とを有している。U相電流検出部、V相電流検出部及びW相電流検出部は、それぞれモータ110のU相、V相、W相に接続されたいわゆるシャント抵抗の両端に生じる電圧から各相に流れる実電流の値を検出する。
【0023】
3相2軸変換部135には、モータ電流検出部133にて検出されたU相実電流,V相実電流,W相実電流、及びモータ回転角度算出部136にて算出されたモータ回転角度θdが入力される。そして、3相2軸変換部135は、予め定められた式に従って、U相実電流,V相実電流,W相実電流をd-q座標系の値であるd軸実電流Idaとq軸実電流Iqaとに変換し、変換したd軸実電流Ida,q軸実電流Iqaを出力する。
モータ回転角度算出部136は、モータ110に設けられた回転角センサ111からのモータ回転角度信号θsに基づいてモータ回転角度θdを算出する。
【0024】
駆動制御部131は、目標電流設定部120のd軸目標電流設定部122にて設定されたd軸目標電流Idtから、3相2軸変換部135にて算出されたd軸実電流Idaを減算するd軸減算部141dを有している。また、駆動制御部131は、目標電流設定部120のq軸目標電流設定部121にて算出されたq軸目標電流Iqtから、3相2軸変換部135にて算出されたq軸実電流Iqaを減算するq軸減算部141qを有している。
【0025】
また、駆動制御部131は、d軸減算部141dにて算出された偏差(Idt-Ida)が0となるようにd軸目標電圧Vdtを出力する電流制御アンプ142dを有している。また、駆動制御部131は、q軸減算部141qにて算出された偏差(Iqt-Iqa)が0となるようにq軸目標電圧Vqtを出力する電流制御アンプ142qを有している。
【0026】
また、駆動制御部131は、電流制御アンプ142d及び電流制御アンプ142qから出力されたd軸目標電圧Vdt,q軸目標電圧Vqtを、3相交流座標系のU相目標電圧Vut、V相目標電圧Vvt、W相目標電圧Vwtに変換する2軸3相変換部151を有している。
2軸3相変換部151は、予め定められた式及びモータ回転角度算出部136にて算出されたモータ回転角度θdに基づいて、d軸目標電圧Vdt及びq軸目標電圧Vqtを、U相目標電圧Vut、V相目標電圧Vvt及びW相目標電圧Vwtに変換する。つまり、2軸3相変換部151は、電流制御アンプ142d及び電流制御アンプ142qから出力された、言い換えればフィードバック制御された値と、モータ回転角度θdとに基づいてモータ110に印加する印加電圧を決定する。
【0027】
また、駆動制御部131は、2軸3相変換部151にて算出されたU相目標電圧Vut,V相目標電圧Vvt,W相目標電圧Vwtに基づいてモータ110をPWM駆動するためのPWM(パルス幅変調)信号を生成し、生成したPWM信号を出力するPWM信号生成部160を有している。
【0028】
モータ駆動部132は、いわゆるインバータであり、例えば、スイッチング素子として6個の独立したトランジスタ(FET)を備え、6個の内の3個のトランジスタは電源の正極側ラインと各相の電気コイルとの間に接続され、他の3個のトランジスタは各相の電気コイルと電源の負極側(アース)ラインとに接続されている。そして、モータ駆動部132は、6個の中から選択した2個のトランジスタのゲートを駆動してこれらのトランジスタをスイッチング動作させることにより、モータ110の駆動を制御する。
【0029】
(目標電流設定部120について)
目標電流設定部120は、観察対象物である試料Sの目標位置と、試料Sの実際の位置との位置偏差Δpを算出する偏差算出部123を有している。位置偏差Δpは、顕微鏡50のオペレータが操作する、例えばトラックボールの操作に基づく位置指令の指令パルスを加算するとともに、回転角センサ111からのフィードバックパルスを減算することにより得た溜まりパルス値であることを例示することができる。かかる場合、位置偏差Δpがプラスである場合には、試料Sの実際の位置が目標位置に到達していないことを示し、位置偏差Δpがマイナスである場合には、試料Sの実際の位置が目標位置を追い越したことを示す。
【0030】
また、目標電流設定部120は、モータ回転角度算出部136で算出されたモータ回転角度θdに基づいてモータ110の回転速度であるモータ回転速度ωdを算出するモータ回転速度算出部124を有している。モータ回転速度算出部124は、モータ回転角度算出部136で算出されたモータ回転角度θdを微分することによりモータ回転速度ωdを算出する。
【0031】
上述したq軸目標電流設定部121は、偏差算出部123にて算出された位置偏差Δpが0となるように目標回転速度ωtを出力する位置制御アンプ125を有している。
また、q軸目標電流設定部121は、位置制御アンプ125から出力された目標回転速度ωtから、モータ回転速度算出部124で算出されたモータ回転速度ωdを減算する速度減算部126を有している。
また、q軸目標電流設定部121は、速度減算部126にて算出された偏差(ωt-ωd)が0となるようにq軸目標電流Iqtを出力する速度制御アンプ127を有している。
【0032】
また、目標電流設定部120は、位置指令の時間変化率である位置指令速度Vptを算出する速度算出部の一例としての位置指令速度算出部128を有している。位置指令速度算出部128は、例えば、単位時間当たりの指令パルスの数を算出することにより位置指令速度Vptを算出する。
【0033】
また、目標電流設定部120は、偏差算出部123が算出した位置偏差Δpを所定値以下の値に変更する変更部129を有している。本実施形態においては、変更部129は、予め定められた条件が成立したときに、例えば、溜まりパルス値をリセットすることで位置偏差Δpを0に変更する(例えば、偏差算出部123に対して偏差リセット信号を出力する)。予め定められた条件は、位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vptが0ではない状態から0となり、かつ、偏差算出部123が算出した位置偏差Δpが0となったときから予め定められた所定時間t1が経過したことであることを例示することができる。なお、所定値以下の値として0を例示しているが、特にかかる態様に限定されない。溜まりパルス値を変更することで位置偏差Δpを変更する場合には、位置偏差Δpの絶対値が、溜まりパルス値が例えば2に相当する値を、所定値としても良い。つまり、変更部129は、予め定められた条件が成立したときに、溜まりパルス値を、1、2、-1、又は、-2に変更しても良い。
【0034】
また、変更部129は、所定時間t1が経過して位置偏差Δpを0に変更した後、予め定められた所定時間t2の間、位置偏差Δpを、上記した所定値以下の値に維持し続ける。例えば、本実施形態においては、変更部129は、位置偏差Δpを0に維持し続ける。維持し続ける手法としては、偏差算出部123に対して偏差リセット信号を出力し続けることを例示することができる。
【0035】
なお、所定時間t1は、位置指令速度Vptが0となり、かつ、位置偏差Δpが0となって目標位置への到達を検知した後、モータ110が目標位置に対するオーバーシュートを修正しようと振動し始めるまでの時間であることを例示することができる。所定時間t1は、顕微鏡50の仕様や、顕微鏡50の操作態様に応じて予め定められるものであり、例えば25ミリ秒(ms)であることを例示することができる。所定時間t2は、所定時間t1で位置偏差Δpが0に変更されて、その後モータ110の動きが停止するのに十分な時間であるとともに、その後の操作の応答性に支障をきたさないように定められた時間であることを例示することができる。所定時間t2は、例えば50ミリ秒(ms)であることを例示することができる。
【0036】
図6は、変更部129が行う変更処理を示すフローチャートの一例を示す図である。変更部129は、この処理を、予め設定された一定時間(例えば1ミリ秒(ms))ごとに繰り返し実行する。
変更部129は、位置指令速度算出部128が算出した位置指令速度Vptが0ではない状態から0となったか否かを判断する(S601)。位置指令速度Vptが0となった場合(S601でYes)、変更部129は、位置偏差Δpが0となったか否かを判断する(S602)。位置偏差Δpが0となっていない場合(S602でNo)、位置偏差Δpが0となるまで待機する。他方、位置偏差Δpが0となった場合(S602でYes)、変更部129は、時間を計測開始する(S603)。
【0037】
その後、変更部129は、所定時間t1が経過したか否かを判断する(S604)。所定時間t1が経過していない場合(S604でNo)、所定時間t1が経過するまで待機する。他方、所定時間t1が経過した場合(S604でYes)、位置偏差Δpを0に変更する(S605)。そして、変更部129は、計測時間をリセットする(S606)。つまり、変更部129は、計測していた時間を0にするとともに、新たに時間計測を開始する。
【0038】
その後、変更部129は、所定時間t2が経過したか否かを判断する(S607)。所定時間t2が経過していない場合(S607でNo)、変更部129は、位置偏差Δpを0に維持する(S608)。他方、所定時間t2が経過した場合(S607でYes)、変更部129は、位置偏差Δpの0への維持と時間の計測とを停止する(S609)。
【0039】
図7は、位置指令速度Vpt、位置偏差Δp及び実際の位置の関係を示すタイムチャートの一例である。
以上のように構成された制御装置100においては、位置指令速度Vptが0となり、かつ、位置偏差Δpが0となってから所定時間t1が経過したときに位置偏差Δpが0に変更されるので、位置偏差Δpが0に変更されたときの位置で止まり易くなる。それゆえ、当初の目標位置に対するオーバーシュートを修正しようと振動することが抑制される。その結果、操作者が操作を止めたところで試料Sが止まり易くなり、試料Sが揺れることが抑制される。言い換えれば、制御装置100でなければ、試料Sが止まるまで振動してギクシャクした動きになるが、制御装置100によれば、操作者の操作に合わせて試料Sが止まり易くなる。なお。試料Sが止まる位置は当初の目標位置ではないが、操作者が試料を見失わない範囲に止まるため、試料Sが振動しながら当初の目標位置に止まるよりは良い。また、制御装置100によれば、位置制御アンプ125、速度制御アンプ127、電流制御アンプ142d、及び、電流制御アンプ142qのゲインを小さくすることなく、ステージ(試料S)の位置決めを行うので、ゲインを小さくする場合と比べて、応答性が低下しないようにすることができる。
【0040】
<第2の実施形態>
図8は、第2の実施形態に係る制御装置200のブロック図の一例を示す図である。
第2の実施形態に係る制御装置200は、第1の実施形態に係る制御装置100に対して、制御部130の駆動制御部131に相当する、制御部230の駆動制御部231が異なる。以下、第1の実施形態と異なる点について説明する。第1の実施形態と第2の実施形態とで、同じものについては同じ符号を用い、その詳細な説明は省略する。
【0041】
駆動制御部231は、上述した駆動制御部131に対して、電流制御アンプ142d及び電流制御アンプ142qのゲイン(以下、「電流ゲインK」と称する場合がある。)を、変化させる機能を有する点が異なる。つまり、駆動制御部231は、電流ゲインKを、偏差算出部123が算出した位置偏差Δpを用いて変化させる変化部240を有している。
【0042】
図9は、電流ゲインKと位置偏差Δpとの関係の一例を示す図である。
変化部240は、偏差算出部123が算出した位置偏差Δpに応じて、電流ゲインKを変化させる。例えば、
図9に示すように、変化部240は、電流ゲインKを、位置偏差Δpの絶対値が予め定められた第1基準値P1以下である場合には、予め定められた第1ゲインK1に設定し、位置偏差Δpの絶対値が予め定められた第2基準値P2以上である場合には、第1ゲインK1よりも大きな値に定められた第2ゲインK2に設定する。また、変化部240は、位置偏差Δpの絶対値が第1基準値P1よりも大きく第2基準値P2よりも小さい場合には、電流ゲインKを、位置偏差Δpの絶対値が小さくなるのに応じて、第2ゲインK2から第1ゲインK1まで徐々に小さい値となるように設定する。なお、第1基準値P1は溜まりパルス値が5パルス、第2基準値P2は溜まりパルス値が10パルスであることを例示することができる。また、第1ゲインK1は第2ゲインK2の1/2であることを例示することができる。
【0043】
以上、説明したように、駆動制御部231は、偏差算出部123が算出した位置偏差Δpの絶対値が予め定められた第1基準値P1以下である場合には、位置偏差Δpの絶対値が予め定められた第2基準値P2以上である場合よりもフィードバック制御のゲインを小さくする。
【0044】
そして、この制御装置200によれば、電流ゲインKを変化させない構成と比べて、試料Sを、当初の目標位置に近い位置に停止させることが可能となる。ここで、例えば、試料Sの位置決めを行った後に、モータ110への通電を止めて停止中の振動を止めることも考えられるが、かかる場合には、モータ110の磁気ヒステリシスにより、通電を止めた瞬間にモータ110が回転し、操作者が試料を見失うおそれがある。制御装置200によれば、試料Sの位置決めを行った後に、例えば、モータ電流検出部133からの出力信号にノイズが入ること等により、実際には電流が流れていないにもかかわらず電流が流れていると判断して、駆動制御部231が電流を流そうとしたとしても、モータ110に供給される電流は小さくなる。その結果、制御装置200によれば、一旦位置決めを行った試料Sの位置が維持され易くなるので、操作者が試料を見失わないようにすることが可能となる。
【0045】
なお、上述した実施の形態においては、制御装置100,200を、顕微鏡50が有するモータ110の駆動を制御するために用いた例を示したが、特に顕微鏡50が有するモータ110に限定されない。つまり、位置決めを行いたい対象物は、顕微鏡50にて観察される試料S、ひいては、xテーブル33、yテーブル43、ローテーションテーブル66等の試料Sを載せるテーブルに限定されない。
【0046】
また、上述した実施の形態においては、モータ電流検出部133として、U相電流検出部、V相電流検出部及びW相電流検出部の3つの電流検出部を用いた例を示したが、この構成に限定されない。U相実電流、V相実電流及びW相実電流の電流値の総和は0となることから、2つの相の電流値を検出すれば残りの相の電流値を算出できる。ゆえに、U相電流検出部、V相電流検出部及びW相電流検出部のいずれか一つの電流検出部を省略した構成を適用しても良い。
【0047】
また、上述した実施の形態においては、制御装置100がモータ110をPWM駆動する例を示したが、特にPWM駆動に限定されない。制御装置100は、モータ110を、スイッチング素子を用いないで駆動するいわゆるリニア駆動などのその他の駆動方式により駆動しても良い。
【符号の説明】
【0048】
33…xテーブル、41…xモータ、43…yテーブル、61…yモータ、50…走査型電子顕微鏡、66…ローテーションテーブル、73…rモータ、100,200…制御装置、110…モータ、120…目標電流設定部、121…q軸目標電流設定部、123…偏差算出部、128…位置指令速度算出部、129…変更部、130,230…制御部、131,231…駆動制御部、240…変化部