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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/53 20140101AFI20240408BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20240408BHJP
   B23K 26/067 20060101ALI20240408BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B23K26/53
B23K26/064 A
B23K26/067
H01L21/78 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020068422
(22)【出願日】2020-04-06
(65)【公開番号】P2021164930
(43)【公開日】2021-10-14
【審査請求日】2023-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000236436
【氏名又は名称】浜松ホトニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140442
【弁理士】
【氏名又は名称】柴山 健一
(72)【発明者】
【氏名】是松 克洋
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-068319(JP,A)
【文献】特開2020-006393(JP,A)
【文献】特開2003-266185(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/53
B23K 26/064
B23K 26/067
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、
前記対象物を支持するための支持部と、
前記支持部に支持された前記対象物に前記レーザ光を照射するためのレーザ照射部と、
前記対象物に対して前記レーザ光の集光点が相対移動するように、前記支持部及び前記レーザ照射部の少なくとも一方を移動させる移動機構と、
前記レーザ照射部及び前記移動機構を制御する制御部と、
を備え、
前記対象物には、前記レーザ光の入射面に交差する方向からみて、第1方向に沿って延びる第1ラインと、前記第1方向に交差する第2方向に沿って前記第1ラインを越えて延在する第2ラインと、が設定されており、
前記制御部は、
前記レーザ照射部及び前記移動機構の制御によって、前記集光点を前記第1ラインに沿って相対移動させながら前記レーザ光を前記対象物に照射することにより、前記第1ラインに沿って前記改質領域を形成する第1処理と、
前記第1処理の後に、前記レーザ照射部及び前記移動機構の制御によって、前記レーザ光の第1集光点と前記第1集光点よりも前記対象物における前記入射面側に位置する前記レーザ光の第2集光点とを形成しつつ、前記第1集光点において形成される前記改質領域から延びる亀裂と前記第2集光点において形成される前記改質領域から延びる亀裂とが互に繋がらないように、前記第1集光点及び前記第2集光点を前記第2ラインに沿って相対移動させながら、前記レーザ光を前記対象物に照射することにより、前記第2ラインに沿って前記改質領域を形成する第2処理と、
前記第2処理の後に、前記レーザ照射部及び前記移動機構の制御によって、前記入射面に交差する方向における前記第1集光点の第1位置と前記第2集光点の第2位置との間の第3位置に前記レーザ光の第3集光点を形成しつつ、前記第3集光点を前記第2ラインに沿って相対移動させながら、前記レーザ光を前記対象物に照射することにより、前記第3位置に前記第2ラインに沿って前記改質領域を形成し、前記第1位置に形成された前記改質領域と前記第2位置に形成された前記改質領域とに渡る亀裂を形成する第3処理と、
を実行し、
前記制御部は、前記第2処理において、前記第1集光点において形成される前記改質領域である第1改質領域から延びる亀裂が、前記対象物における前記入射面と反対側の裏面に到達しないように、且つ、前記第2集光点において形成される前記改質領域である第2改質領域から延びる亀裂が、前記入射面に到達しないようにし、
前記制御部は、前記第3処理において、前記第1改質領域と前記第2改質領域とに渡る亀裂を形成すると共に、前記第1改質領域から延びる亀裂を前記裏面に到達させ、前記第2改質領域から延びる亀裂を前記入射面に到達させる、
レーザ加工装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記第2処理では、前記レーザ照射部の制御によって、前記第1集光点及び第2集光点の相対移動の方向について、前記第1集光点を前記第2集光点よりも前方に位置させる、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記第2処理では、前記レーザ照射部の制御によって、前記第1集光点及び前記第2集光点の相対移動の方向について、前記第1集光点と前記第2集光点とを一致させる、
請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第3処理において、前記レーザ照射部及び前記移動機構の制御によって、前記第3集光点と、前記第3集光点よりも前記入射面側に位置する前記レーザ光の第4集光点と、を形成しつつ、前記第3集光点及び前記第4集光点を前記第2ラインに沿って相対移動させながら、前記レーザ光を前記対象物に照射する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記第1処理において、前記レーザ照射部及び前記移動機構の制御によって、前記レーザ光の第5集光点と前記第5集光点よりも前記対象物における前記入射面側に位置する前記レーザ光の第6集光点とを形成しつつ、前記第5集光点及び前記第6集光点を前記第1ラインに沿って相対移動させながら、前記レーザ光を前記対象物に照射する、
請求項1~4のいずれか一項に記載のレーザ加工装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1処理において、
前記レーザ照射部及び前記移動機構の制御によって、前記第5集光点において形成される前記改質領域から延びる亀裂と前記第6集光点において形成される前記改質領域から延びる亀裂とが互に繋がらないように、前記第5集光点及び前記第6集光点を前記第1ラインに沿って相対移動させながら、前記レーザ光を前記対象物に照射することにより、前記第1ラインに沿って前記改質領域を形成する第4処理と、
前記第4処理の後に、前記レーザ照射部及び前記移動機構の制御によって、前記入射面に交差する方向における前記第5集光点の第5位置と前記第6集光点の第6位置との間の第7位置に前記レーザ光の第7集光点を形成しつつ、前記第7集光点を前記第1ラインに沿って相対移動させながら、前記レーザ光を前記対象物に照射することにより、前記第7位置に前記第1ラインに沿って前記改質領域を形成し、前記第5位置に形成された前記改質領域と前記第6位置に形成された前記改質領域とに渡る亀裂を形成する第5処理と、
を実行する、
請求項5に記載のレーザ加工装置。
【請求項7】
対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工方法であって、
前記対象物に対して前記レーザ光の集光点を相対移動させながら前記対象物に前記レーザ光を照射して改質領域を形成するレーザ光照射工程を備え、
前記対象物には、前記レーザ光の入射面に交差する方向からみて、第1方向に沿って延びる第1ラインと、前記第1方向に交差する第2方向に沿って前記第1ラインを越えて延在する第2ラインと、が設定されており、
前記レーザ光照射工程は、
前記集光点を前記第1ラインに沿って相対移動させながら前記レーザ光を前記対象物に照射することにより、前記第1ラインに沿って前記改質領域を形成する第1工程と、
前記第1工程の後に、前記レーザ光の第1集光点と前記第1集光点よりも前記対象物における前記入射面側に位置する前記レーザ光の第2集光点とを形成しつつ、前記第1集光点において形成される前記改質領域から延びる亀裂と前記第2集光点において形成される前記改質領域から延びる亀裂とが互に繋がらないように、前記第1集光点及び前記第2集光点を前記第2ラインに沿って相対移動させながら、前記レーザ光を前記対象物に照射することにより、前記第2ラインに沿って前記改質領域を形成する第2工程と、
前記第2工程の後に、前記入射面に交差する方向における前記第1集光点の第1位置と前記第2集光点の第2位置との間の第3位置に前記レーザ光の第3集光点を形成しつつ、前記第3集光点を前記第2ラインに沿って相対移動させながら、前記レーザ光を前記対象物に照射することにより、前記第3位置に前記第2ラインに沿って前記改質領域を形成し、前記第1位置に形成された前記改質領域と前記第2位置に形成された前記改質領域とに渡る亀裂を形成する第3工程と、
を含み、
前記第2工程において、前記第1集光点において形成される前記改質領域である第1改質領域から延びる亀裂が、前記対象物における前記入射面と反対側の裏面に到達しないように、且つ、前記第2集光点において形成される前記改質領域である第2改質領域から延びる亀裂が、前記入射面に到達しないようにし、
前記第3工程において、前記第1改質領域と前記第2改質領域とに渡る亀裂を形成すると共に、前記第1改質領域から延びる亀裂を前記裏面に到達させ、前記第2改質領域から延びる亀裂を前記入射面に到達させる、
レーザ加工方法。
【請求項8】
対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、
前記対象物を支持するための支持部と、
前記支持部に支持された前記対象物に前記レーザ光を照射するためのレーザ照射部と、
前記対象物に対して前記レーザ光の集光点が相対移動するように、前記支持部及び前記レーザ照射部の少なくとも一方を移動させる移動機構と、
前記レーザ照射部及び前記移動機構を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記レーザ照射部及び前記移動機構の制御によって、前記レーザ光の第1集光点と前記第1集光点よりも前記対象物における前記レーザ光の入射面側に位置する前記レーザ光の第2集光点とを形成しつつ、前記第1集光点において形成される前記改質領域から延びる亀裂と前記第2集光点において形成される前記改質領域から延びる亀裂とが互に繋がらないように、前記第1集光点及び前記第2集光点を相対移動させながら、前記レーザ光を前記対象物に照射することにより、前記改質領域を形成する処理と、
前記処理の後に、前記レーザ照射部及び前記移動機構の制御によって、前記入射面に交差する方向における前記第1集光点の第1位置と前記第2集光点の第2位置との間の第3位置に前記レーザ光の第3集光点を形成しつつ、前記第3集光点を相対移動させながら、前記レーザ光を前記対象物に照射することにより、前記第3位置に前記改質領域を形成し、前記第1位置に形成された前記改質領域と前記第2位置に形成された前記改質領域とに渡る亀裂を形成する別の処理と、
を実行し、
前記制御部は、前記処理において、前記第1集光点において形成される前記改質領域である第1改質領域から延びる亀裂が、前記対象物における前記入射面と反対側の裏面に到達しないように、且つ、前記第2集光点において形成される前記改質領域である第2改質領域から延びる亀裂が、前記入射面に到達しないようにし、
前記制御部は、前記別の処理において、前記第1改質領域と前記第2改質領域とに渡る亀裂を形成すると共に、前記第1改質領域から延びる亀裂を前記裏面に到達させ、前記第2改質領域から延びる亀裂を前記入射面に到達させる、
レーザ加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ加工装置、及び、レーザ加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、レーザ加工装置が記載されている。このレーザ加工装置は、集光レンズを備えており、集光レンズから出射したレーザ光によって単結晶部材に加工層を形成する。集光レンズは、レーザ光が入射する副集光系と、副集光系から出射したレーザ光が入射し、単結晶部材に向けてレーザ光を照射する主集光系と、からなる。副集光系は、複数のシリンドリカルレンズが一体に配列されてなるシリンドリカルレンズ配列体と、シリンドリカルレンズ配列体からの光を通過させるシリンドリカル凸レンズと、を有している。
【0003】
このレーザ加工装置では、シリンドリカルレンズに入射したレーザ光は、複数に分岐された後に集光点を形成しつつシリンドリカル凸レンズに入射し、照射面が細長状の平行ビームとなって主集光系に入射するようにされている。主集光系から出射したレーザ光は、単結晶部材の被照射面で分岐レーザ光となって入射して、単結晶部材の内部で複数の集光点を形成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-19120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したレーザ加工装置では、レーザ光の集光点を複数形成しながら加工層を形成することによって、加工層の形成速度の向上を図っている。すなわち、上記技術分野にあっては、加工速度の向上が望まれている。一方、本発明者らの知見によれば、対象物の厚さ方向に複数の集光点を同時に形成してレーザ光を照射すると、一方の集光点に形成される改質領域から延びる亀裂が、他方の集光点での改質領域の形成及びの亀裂の進展に影響を及ぼす結果、亀裂量(亀裂の長さ)が不安定になる虞がある。亀裂量が不安定となった場合には、亀裂を境界として対象物を切断した際の切断面の品質(すなわち加工品質)が低下する。
【0006】
亀裂量は、レーザ光の照射開始位置の近傍で比較的少なくなると共に、照射開始位置からある程度進行した位置で比較的多くなる傾向がある。また、既に形成された改質領域等(改質領域及び改質領域から延びる亀裂)を跨ぐようにレーザ光を照射する場合には、照射開始位置との関係と同様に、改質領域等の近傍で亀裂量が比較的少なくなると共に、改質領域等からある程度進行した位置で亀裂量が比較的多くなる傾向がある。
【0007】
したがって、例えば、改質領域等の形成前の対象物の全体に渡ってレーザ光の照射を行う場合には、照射開始位置の近傍を除く大部分で亀裂量が比較的多い水準で一定となるため、全体の亀裂量の不安定化が加工品質に与える影響が相対的に小さい。
【0008】
一方で、対象物に対して、第1方向に沿って改質領域等を形成した後に、第1方向と異なる第2方向に沿って、既に形成されている改質領域等を跨ぐようにレーザ光を照射する場合には、亀裂量が少なくなる部分と多くなる部分とが、対象物の全体と比較して短い周期(第2方向についての改質領域等の形成のピッチ)で繰り返し生じるため、全体の亀裂量の不安定化が加工品質に与える影響が相対的に大きい。したがって、このような場合に、亀裂量の不安定化を抑制して加工品質の低下を抑制することが重要となる。
【0009】
そこで、本発明は、加工速度の向上と加工品質の低下の抑制とを両立可能なレーザ加工装置、及びレーザ加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るレーザ加工装置は、対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、対象物を支持するための支持部と、支持部に支持された対象物にレーザ光を照射するためのレーザ照射部と、対象物に対してレーザ光の集光点が相対移動するように、支持部及びレーザ照射部の少なくとも一方を移動させる移動機構と、レーザ照射部及び移動機構を制御する制御部と、を備え、対象物には、レーザ光の入射面に交差する方向からみて、第1方向に沿って延びる第1ラインと、第1方向に交差する第2方向に沿って第1ラインを越えて延在する第2ラインと、が設定されており、制御部は、レーザ照射部及び移動機構の制御によって、集光点を第1ラインに沿って相対移動させながらレーザ光を対象物に照射することにより、第1ラインに沿って改質領域を形成する第1処理と、第1処理の後に、レーザ照射部及び移動機構の制御によって、レーザ光の第1集光点と第1集光点よりも対象物における入射面側に位置するレーザ光の第2集光点とを形成しつつ、第1集光点において形成される改質領域から延びる亀裂と第2集光点において形成される改質領域から延びる亀裂とが互に繋がらないように、第1集光点及び第2集光点を第2ラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、第2ラインに沿って改質領域を形成する第2処理と、第2処理の後に、レーザ照射部及び移動機構の制御によって、入射面に交差する方向における第1集光点の第1位置と第2集光点の第2位置との間の第3位置にレーザ光の第3集光点を形成しつつ、第3集光点を第2ラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、第3位置に第2ラインに沿って改質領域を形成し、第1位置に形成された改質領域と第2位置に形成された改質領域とに渡る亀裂を形成する第3処理と、を実行する。
【0011】
本発明に係るレーザ加工方法は、対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工方法であって、対象物に対してレーザ光の集光点を相対移動させながら対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するレーザ光照射工程を備え、対象物には、レーザ光の入射面に交差する方向からみて、第1方向に沿って延びる第1ラインと、第1方向に交差する第2方向に沿って第1ラインを越えて延在する第2ラインと、が設定されており、レーザ光照射工程は、集光点を第1ラインに沿って相対移動させながらレーザ光を対象物に照射することにより、第1ラインに沿って改質領域を形成する第1工程と、第1工程の後に、レーザ光の第1集光点と第1集光点よりも対象物における入射面側に位置するレーザ光の第2集光点とを形成しつつ、第1集光点において形成される改質領域から延びる亀裂と第2集光点において形成される改質領域から延びる亀裂とが互に繋がらないように、第1集光点及び第2集光点を第2ラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、第2ラインに沿って改質領域を形成する第2工程と、第2工程の後に、入射面に交差する方向における第1集光点の第1位置と第2集光点の第2位置との間の第3位置にレーザ光の第3集光点を形成しつつ、第3集光点を第2ラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、第3位置に第2ラインに沿って改質領域を形成し、第1位置に形成された改質領域と第2位置に形成された改質領域とに渡る亀裂を形成する第3工程と、を含む。
【0012】
本発明に係る装置及び方法では、対象物に対して、第1方向に沿って延びる第1ラインと、第1方向に交差する第2方向に沿って第1ラインを越えて延在する第2ラインと、が設定されている。そして、第1ラインに沿ってレーザ光を照射して改質領域を形成した後に、第2ラインに沿ってレーザ光を照射して改質領域を形成する。第2ラインに沿ったレーザ光の照射の際には、対象物のレーザ光の入射面に交差する方向について、少なくとも2つの集光点を形成する。よって、加工速度の向上が図られる。一方、本発明に係る装置及び方法では、第1ラインに沿って既に形成された改質領域等を跨ぐようなレーザ光の照射が発生する。よって、亀裂の不安定化を抑制することが重要である。
【0013】
ここで、本発明者らの知見によれば、対象物のレーザ光の入射面に交差する方向に第1集光点及び第2集光点を形成しつつレーザ光を照射する場合には、第1集光点において形成される改質領域から延びる亀裂と、第2集光点において形成される改質領域から延びる亀裂と、が互に繋がらないように、第1集光点及び第2集光点に対応した改質領域を形成した後に、第1集光点の位置と第2集光点の位置との間に別の第3集光点に対応する改質領域を形成することにより、第1集光点に対応する改質領域と第2集光点に対応する改質領域とに渡る亀裂を形成すれば、全体の亀裂量の不安定化を抑制可能である。
【0014】
そこで、本発明に係る装置及び方法では、第1ラインに沿って改質領域を形成した後に、まず、レーザ光の第1集光点において形成される改質領域から延びる亀裂とレーザ光の第2集光点において形成される改質領域から延びる亀裂とが互に繋がらないように、第1集光点及び第2集光点を第2ラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、第2ラインに沿って改質領域を形成する。その後、第1集光点の第1位置と第2集光点の第2位置との間の第3位置にレーザ光の第3集光点を形成しつつ、第3集光点を第2ラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、第3位置に第2ラインに沿って改質領域を形成し、第1位置に形成された改質領域と第2位置に形成された改質領域とに渡る亀裂を形成する。これにより、上記知見に示されるように、全体の亀裂量の不安定化が抑制される。よって、加工品質の低下が抑制される。
【0015】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、第2処理では、レーザ照射部の制御によって、第1集光点及び第2集光点の相対移動の方向について、第1集光点を第2集光点よりも前方に位置させてもよい。この場合、第1集光点及び第2集光点のそれぞれにおいて形成される改質領域からの亀裂の伸展量を増大させることができる。これにより、対象物のレーザ光の入射面に交差する方向について、必要な改質領域の列数を削減して加工速度の向上が図られる。
【0016】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、第2処理では、レーザ照射部の制御によって、第1集光点及び第2集光点の相対移動の方向について、第1集光点と第2集光点とを一致させてもよい。この場合、第1集光点及び第2集光点のそれぞれにおいて形成される改質領域からの亀裂の伸展量を減少させることができる。これにより、第1集光点によって形成される改質領域から延びる亀裂と、第2集光点によって形成される改質領域から延びる亀裂と、が繋がることを確実に抑制可能である。
【0017】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、第3処理において、レーザ照射部及び移動機構の制御によって、第3集光点と、第3集光点よりも入射面側に位置するレーザ光の第4集光点と、を形成しつつ、第3集光点及び第4集光点を第2ラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射してもよい。この場合、加工速度のさらなる向上が図られる。
【0018】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、第1処理において、レーザ照射部及び移動機構の制御によって、レーザ光の第5集光点と第5集光点よりも対象物における入射面側に位置するレーザ光の第6集光点とを形成しつつ、第5集光点及び第6集光点を第1ラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射してもよい。この場合、加工速度のさらなる向上が図られる。
【0019】
本発明に係るレーザ加工装置では、制御部は、第1処理において、レーザ照射部及び移動機構の制御によって、第5集光点において形成される改質領域から延びる亀裂と第6集光点において形成される改質領域から延びる亀裂とが互に繋がらないように、第5集光点及び第6集光点を第1ラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、第1ラインに沿って改質領域を形成する第4処理と、第4処理の後に、レーザ照射部及び移動機構の制御によって、入射面に交差する方向における第5集光点の第5位置と第6集光点の第6位置との間の第7位置にレーザ光の第7集光点を形成しつつ、第7集光点を第1ラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、第7位置に第1ラインに沿って改質領域を形成し、第5位置に形成された改質領域と第6位置に形成された改質領域とに渡る亀裂を形成する第5処理と、を実行してもよい。この場合、上述した理由と同様の理由から、第1処理においても、加工速度の向上と加工品質の低下の抑制とを図ることができる。
【0020】
本発明に係るレーザ加工装置は、対象物にレーザ光を照射して改質領域を形成するためのレーザ加工装置であって、対象物を支持するための支持部と、支持部に支持された対象物にレーザ光を照射するためのレーザ照射部と、対象物に対してレーザ光の集光点が相対移動するように、支持部及びレーザ照射部の少なくとも一方を移動させる移動機構と、レーザ照射部及び移動機構を制御する制御部と、を備え、制御部は、レーザ照射部及び移動機構の制御によって、レーザ光の第1集光点と第1集光点よりも対象物におけるレーザ光の入射面側に位置するレーザ光の第2集光点とを形成しつつ、第1集光点において形成される改質領域から延びる亀裂と第2集光点において形成される改質領域から延びる亀裂とが互に繋がらないように、第1集光点及び第2集光点をラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、ラインに沿って改質領域を形成する処理と、処理の後に、レーザ照射部及び移動機構の制御によって、入射面に交差する方向における第1集光点の第1位置と第2集光点の第2位置との間の第3位置にレーザ光の第3集光点を形成しつつ、第3集光点をラインに沿って相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、第3位置にラインに沿って改質領域を形成し、第1位置に形成された改質領域と第2位置に形成された改質領域とに渡る亀裂を形成する別の処理と、を実行する。
【0021】
このレーザ加工装置では、レーザ光の第1集光点において形成される改質領域から延びる亀裂とレーザ光の第2集光点において形成される改質領域から延びる亀裂とが互に繋がらないように、第1集光点及び第2集光点を相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、改質領域を形成する。その後、第1集光点の第1位置と第2集光点の第2位置との間の第3位置にレーザ光の第3集光点を形成しつつ、第3集光点を相対移動させながら、レーザ光を対象物に照射することにより、第3位置に改質領域を形成し、第1位置に形成された改質領域と第2位置に形成された改質領域とに渡る亀裂を形成する。これにより、上記知見に示されるように、亀裂量の不安定化が抑制される。よって、加工品質の低下が抑制される。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、加工速度の向上と加工品質の低下の抑制とを両立可能なレーザ加工装置、及びレーザ加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。
図2図2は、図1に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
図3図3は、図1に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。
図4図4は、第1例に係る加工を示す断面図である。
図5】第1例に係る加工結果を示す断面写真である。
図6図6は、第2例に係る加工を示す断面図である。
図7図7は、第2例に係る加工結果を示す断面写真である。
図8】本実施形態に係るレーザ加工方法の一例を示すフローチャートである。
図9図9は、図8に示されたレーザ加工方法の一工程を示す図である。
図10図10は、図8に示されたレーザ加工方法の一工程を示す図である。
図11図11は、図8に示されたレーザ加工方法の一工程を示す図である。
図12図12は、入力受付部に表示された設定画面の一例を示す図である。
図13図13は、図8に示されたレーザ加工方法の一工程を示す図である。
図14図14は、図8に示されたレーザ加工方法の一工程を示す図である。
図15図15は、図8に示されたレーザ加工方法の一工程を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、各図において、同一又は相当する部分には同一の符号を付し、重複する説明を省略する場合がある。また、各図には、X軸、Y軸、及びZ軸によって規定される直交座標系を示す場合がある。
【0025】
図1は、一実施形態に係るレーザ加工装置の構成を示す模式図である。図1に示されるように、レーザ加工装置1は、ステージ(支持部)2と、レーザ照射部3と、駆動部(移動機構)4,5と、制御部6と、を備えている。レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射することにより、対象物11に改質領域12を形成するための装置である。
【0026】
ステージ2は、例えば対象物11に貼り付けられたフィルムを保持することにより、対象物11を支持する。ステージ2は、Z方向に平行な軸線を回転軸として回転可能である。ステージ2は、X方向及びY方向のそれぞれに沿って移動可能とされてもよい。なお、X方向及びY方向は、互いに交差(直交)する第1水平方向及び第2水平方向であり、Z方向は鉛直方向である。
【0027】
レーザ照射部3は、対象物11に対して透過性を有するレーザ光Lを集光して対象物11に照射する。ステージ2に支持された対象物11の内部にレーザ光Lが集光されると、レーザ光Lの集光点Cに対応する部分においてレーザ光Lが特に吸収され、対象物11の内部に改質領域12が形成される。
【0028】
改質領域12は、密度、屈折率、機械的強度、その他の物理的特性が周囲の非改質領域とは異なる領域である。改質領域12としては、例えば、溶融処理領域、クラック領域、絶縁破壊領域、屈折率変化領域等がある。改質領域12は、改質領域12からレーザ光Lの入射側及びその反対側に亀裂が延びるように形成され得る。そのような改質領域12及び亀裂は、例えば対象物11の切断に利用される。
【0029】
一例として、ステージ2をX方向に沿って移動させ、対象物11に対して集光点CをX方向に沿って相対的に移動させると、複数の改質スポット12sがX方向に沿って1列に並ぶように形成される。1つの改質スポット12sは、1パルスのレーザ光Lの照射によって形成される。1列の改質領域12は、1列に並んだ複数の改質スポット12sの集合である。隣り合う改質スポット12sは、対象物11に対する集光点Cの相対的な移動速度及びレーザ光Lの繰り返し周波数によって、互いに繋がる場合も、互いに離れる場合もある。
【0030】
駆動部4は、ステージ2をZ方向に平行な軸線を回転軸として回転させる。駆動部4は、X方向及びY方向のそれぞれに沿ってステージ2を移動させてもよい。駆動部5は、レーザ照射部3を支持している。駆動部5は、レーザ照射部3をX方向、Y方向、及びZ方向に沿って移動させる。レーザ光Lの集光点Cが形成されている状態においてステージ2及び/又はレーザ照射部3が移動させられることにより、集光点Cが対象物11に対して相対移動させられる。すなわち、駆動部4,5は、対象物11に対してレーザ光Lの集光点Cが相対移動するように、ステージ2及びレーザ照射部3の少なくとも一方を移動させる移動機構である。
【0031】
制御部6は、ステージ2、レーザ照射部3、及び駆動部4,5の動作を制御する。制御部6は、処理部61と、記憶部62と、入力受付部(表示部、入力部)63と、を有している。処理部61は、プロセッサ、メモリ、ストレージ及び通信デバイス等を含むコンピュータ装置として構成されている。処理部61では、プロセッサが、メモリ等に読み込まれたソフトウェア(プログラム)を実行し、メモリ及びストレージにおけるデータの読み出し及び書き込み、並びに、通信デバイスによる通信を制御する。記憶部62は、例えばハードディスク等であり、各種データを記憶する。入力受付部63は、各種情報を表示すると共に、ユーザから各種情報の入力を受け付けるインターフェース部である。本実施形態では、入力受付部63は、GUI(Graphical User Interface)を構成している。
【0032】
図2及び図3は、図1に示されたレーザ照射部の構成を示す模式図である。図2,3に示されるように、レーザ照射部3は、光源31と、空間光変調器32と、集光レンズ33と、を有している。光源31は、例えばパルス発振方式によって、レーザ光Lを出力する。なお、レーザ照射部3は、光源31を有さず、レーザ照射部3の外部からレーザ光Lを導入するように構成されてもよい。
【0033】
空間光変調器32は、光源31から出力されたレーザ光Lを変調する。空間光変調器32は、反射型液晶(LCOS:Liquid Crystal on Silicon)の空間光変調器(SLM:Spatial Light Modulator)である。集光レンズ33は、空間光変調器32によって変調されたレーザ光Lを集光する。空間光変調器32は、液晶層(不図示)を含み、液晶層に表示された変調パターンに応じてレーザ光Lを変調する。ここでは、空間光変調器32には、少なくともレーザ光Lを複数(ここでは2つ)に分岐するための分岐パターンが表示される。これにより、空間光変調器32に入射したレーザ光Lは、空間光変調器32において2つのレーザ光L1,L2に分岐されると共に、集光レンズ33によって集光され、集光点C1及び集光点C2を形成する。
【0034】
この点についてより具体的に説明する。空間光変調器32は、少なくとも、対象物11におけるレーザ光Lの入射面である裏面11bに交差するZ方向について、互いに異なる位置に集光点C1及び集光点C2が形成されるように、レーザ光Lを分岐させる。このため、集光点C1及び集光点C2を対象物11に対して相対移動させることにより、改質領域12として、Z方向に互いに異なる位置に2列の改質領域121及び改質領域122が形成される。
【0035】
改質領域121は、レーザ光L1及びその集光点C1に対応し、改質領域122は、レーザ光L2及びその集光点C2に対応する。集光点C1及び改質領域121は、集光点C2及び改質領域122に対して裏面11bと反対側(対象物11の表面11a側)に位置する。空間光変調器32は、分岐パターンの調整により、Z方向における集光点C1と集光点C2との距離Dz(縦分岐量)が可変とされている。
【0036】
さらに、空間光変調器32は、レーザ光Lをレーザ光L1,L2に分岐させるに際して、集光点C1と集光点C2との水平方向(図示の例ではX方向)の距離Dx(横分岐量)を変更可能とされている。図2の例では、空間光変調器32は、集光点C1をX方向(加工進行方向)について集光点C2よりも前方に位置するように、距離Dxを0よりも大きくしている。図3の例では、空間光変調器32は、集光点C1と集光点C2との距離Dxを0としている。
【0037】
引き続いて、加工例の比較を行うことにより、本発明者の知見について説明する。図4は、第1例に係る加工を示す断面図である。第1例では、集光点C1が集光点C2よりもX方向の前方に位置させられており(距離Dx>0)、且つ、集光点C1と集光点C2とのZ方向についての距離Dzが比較的小さくされている。ここでは、先行する集光点C1で形成される改質領域121から延びる亀裂121cに、集光点C2で形成される改質領域122から延びる亀裂122cが繋がるようにされている。これにより、改質領域121,122に渡ると共に表面11a及び裏面11bに向かって延びる亀裂12cが形成される。
【0038】
図5は、第1例に係る加工結果を示す断面写真である。図5の(a)は、対象物11におけるレーザ光L1,L2の入射面である裏面11bから遠い側(表面11aに近い側)に、第1例に沿った1回目のレーザ光L1,L2の照射(スキャンP1)を行うと共に、裏面11bに近い側に第1例に沿った2回目のレーザ光L1,L2の照射(スキャンP2)を行った場合の例である。図5の(b)は、裏面11bに近い側に第1例に沿った1回目のスキャンP1を行うと共に、裏面11bから遠い側に第2例に沿った2回目のスキャンP2を行った場合の例である。
【0039】
ここでのスキャンP1,P2におけるレーザ光L1,L2の照射条件は、周波数が80kHz、加工速度が530mm/s、パルスピッチが6.625μm、パルス幅が400nsec、集光点C1及び集光点C2のパルスエネルギーが15.40625μjであった。
【0040】
図5のいずれの場合でも、図4に示される亀裂12c、特に、亀裂122cのうちの改質領域122から裏面11b側に延びる部分の伸展量(亀裂量)がX方向の位置によって不安定となる。この結果、例えば、裏面11bに至った亀裂12cの蛇行量が10μm以上と大きくなった。また、切断が発生しない未分断の領域や、対象物11の分断された一方側に他方側の一部が残存するムシレが発生していた。すなわち、この場合には、加工品質の低下が生じた。
【0041】
特に、この第1例では、Y方向(ラインM1)に沿って延びる複数の改質領域12が既に形成されており、X方向に沿って当該改質領域12を跨ぐようにレーザ光L1,L2の照射が行われている。亀裂量は、加工進行方向であるX方向について、(Y軸方向に沿って延びる)一の改質領域12を越えた直後から、当該一の改質領域12の次に位置する別の改質領域12に向かうにつれて大きくなる傾向がある。
【0042】
そして、亀裂12cの亀裂量は、当該別の改質領域12を越えた直後に小さくなり、さらに別の改質領域12に向かうにつれて再び大きくなる。つまり、この場合には、Y方向に沿って延びる改質領域12のピッチで亀裂量の増大及び減少が繰り返されることとなる。この結果、亀裂量の不安定化が加工品質に与える影響が大きくなる。特に、Y方向に沿って延びる改質領域12のピッチ(チップサイズ)が小さいほど、この影響が顕著となる。
【0043】
一方、図6は、第2例に係る加工を示す断面図である。第2例では、第1例と同様に、集光点C1が集光点C2よりもX方向の前方に位置させられている(距離Dx>0)ものの、集光点C1と集光点C2とのZ方向についての距離Dzが比較的大きくされている。これにより、図6の(a),(b)に示されるように、改質領域121から延びる亀裂121cと、改質領域122から延びる亀裂122cとが、互に繋がらないようにされつつ、レーザ光L1,L2の照射が行われる。
【0044】
そして、第2例では、図6の(b),(c)に示されるように、集光点C1と集光点C2との間の位置にレーザ光L3の第3集光点C3を位置させつつ、対象物11にレーザ光L3の照射を行うことにより、第3集光点C3に形成される改質領域123から延びると共に改質領域121と改質領域122とに渡る亀裂123cを形成する。亀裂122c及び亀裂121cは、亀裂123cが形成されることによりさらに伸展し、全体として、表面11aから裏面11bに渡る亀裂12cを形成する。
【0045】
図7は、第2例に係る加工結果を示す断面写真である。図7の(a)は、第2例に沿った1回目のレーザ光L1,L2の照射(スキャンP1)を行った後に、1回目のスキャンP1における集光点C1の位置と集光点C2の位置との間に、集光点C1のみを位置させつつ第2例に沿った2回目のレーザ光L1,L2の照射(スキャンP2)を行った場合の例である。図7の(b)は、第2例に沿った1回目のスキャンP1を行った後に、1回目のスキャンP1における集光点C1の位置と集光点C2の位置との間に、集光点C1及び集光点C2の両方を位置させつつ第2例に沿った2回目のスキャンP2を行った場合の例である。レーザ光L1,L2の照射条件は第1例と同様である。
【0046】
図7のいずれの場合でも、亀裂量がX方向の位置によらずに安定した。この結果、例えば、裏面11bに至った亀裂12cの蛇行量が、図7の(a)の場合には4.5μm、図7の(b)の場合には3.2μmと第1例と比較して小さくなった。これにより、加工品質の低下が抑制された。
【0047】
引き続いて、レーザ加工装置1が実行するレーザ加工方法の一例を挙げつつ、レーザ加工装置の詳細について説明する。図8は、本実施形態に係るレーザ加工方法の一例を示すフローチャートである。ここでは、図9に示されるように、対象物11は、裏面11bがレーザ照射部3に臨むように、ステージ2に支持されている。対象物11には、複数のライン(第1ライン)M1と、複数のライン(第2ライン)M2と、が設定されている。ラインM1,M2の設定は、制御部6において行うことができる。ラインM1,M2は、一例として仮想的な線、又は、座標指定されたものである。
【0048】
複数のラインM1は互いに平行に延在している。また、複数のラインM2は、互に平行に延在している。ラインM1とラインM2とは、Z方向からみて互に交差(直交)するように延在している。すなわち、ラインM2は、Z方向からみて、複数のラインM1を越えて(跨ぐように)延在している。ここでは、まず、ラインM1に沿った加工が行われることから、ラインM1がX方向(ここでは第1方向)に沿うように、且つ、ラインM2がY方向(ここでは第2方向)に沿うように、対象物11が配置されている。
【0049】
レーザ加工装置1(レーザ加工方法)では、まず、ラインM1に沿った加工を行うための加工条件の入力が行われる(工程S1)。より具体的には、この工程S1では、制御部6が、入力受付部63に対して、加工条件の入力を促す情報を表示させる。入力受付部63は、加工条件の入力を受け付ける。
【0050】
なお、ラインM1に沿った加工は、対象物11に対して改質領域12が形成されていない状況で実施される。したがって、上記のとおり、亀裂量の不安定化が加工品質に与える影響が比較的小さい。したがって、ラインM1に沿った加工は、上記の第1例及び第2例のいずれに沿ったものでもよく、任意である。したがって、この工程S1で入力され得る加工条件も任意であるが、一例として、後述する図12に示される加工条件と同様の加工条件(上記の第2例に沿った加工条件)が入力され得る。
【0051】
続いて、制御部6が、工程S1で入力された加工条件に応じて、空間光変調器32に表示する変調パターンを設定(生成)する(工程S2)。ここでは、制御部6は、レーザ光Lを複数に分岐するための分岐パターンを含む変調パターンを設定する。これにより、当該変調パターンが表示された空間光変調器32を経たレーザ光Lが、図10に示されるように、レーザ光L1Aとレーザ光L2Aとに分岐され、レーザ光L1Aの集光点(第5集光点)C1A及び集光点(第6集光点)C2Aを形成することとなる。
【0052】
続いて、図10に示されるように、ラインM1に沿った加工が行われる(工程S3、第1処理、第1工程)。概略としては、制御部6は、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、集光点CをラインM1に沿って相対移動させながらレーザ光Lを対象物11に照射することにより、ラインM1に沿って改質領域12を形成する(レーザ光照射工程)。
【0053】
より具体的には、ここでは、制御部6は、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、レーザ光L1Aの集光点C1Aと、集光点C1Aよりも対象物11における裏面11b側に位置するレーザ光L2Aの集光点C2Aとを形成しつつ、集光点C1A及び集光点C2AをラインM1に沿って相対移動させながら、レーザ光L1A,L2Aを対象物11に照射する。これにより、改質領域12として、レーザ光L1A及び集光点C1Aに対応する改質領域121Aと、レーザ光L2A及び集光点C2Aに対応する改質領域122Aと、が形成される。
【0054】
特に、ラインM1に沿った加工では、上述したように任意の加工を行うことができるが、上記の第2例に沿った加工を行うこともできる。この場合には、制御部6は、まず、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、集光点C1Aにおいて形成される改質領域121Aから延びる亀裂と、集光点C2Aにおいて形成される改質領域122Aから延びる亀裂とが互に繋がらないように、集光点C1A及び集光点C2AをラインM1に沿って相対移動させながら、レーザ光L1A,L2Aを対象物11に照射することにより、ラインMに沿って改質領域121A,122Aを形成する工程(第4処理)を実行することができる。
【0055】
その後、制御部6は、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、Z方向における集光点C1Aの位置(第5位置)と集光点C2Aの位置(第6位置)との間の位置(第7位置)にレーザ光Lの集光点(第7集光点)を形成しつつ、第7集光点をラインM1に沿って相対移動させながら、レーザ光Lを対象物11に照射することにより、第7位置にラインM1に沿って改質領域12を形成し、第5位置に形成された改質領域121Aと第6位置に形成された改質領域122Aとに渡る亀裂を形成する工程(第5処理)をさらに実行することができる。
【0056】
以上の第1処理が、全てのラインM1に対して実行される。これにより、図11に示されるように、全てのラインM1に沿って改質領域12が形成される。この結果、後のラインM2に沿った加工では、ラインM1に沿って既に形成された改質領域12を越えて(跨ぐように)レーザ光Lの照射が行われることとなる。
【0057】
続く工程では、ラインM2に沿った加工を行う。このため、制御部6が、駆動部4の制御によってステージ2を回転させることにより、ラインM2がX方向に沿うように対象物11を配置する。ラインM2に沿った加工では、少なくとも、レーザ光Lをレーザ光L1,L2に分岐し、それぞれの集光点C1及び集光点C2を対象物11に相対移動させながら、レーザ光L1,L2をラインM2に沿って照射(スキャン)する。
【0058】
続いて、ラインM2に沿った加工のための加工条件の入力が行われる(工程S4)。より具体的には、この工程S4では、制御部6が、入力受付部63に対して、加工条件の入力を促す情報を表示させる。入力受付部63は、加工条件の入力を受け付ける。このとき、入力受付部63は、少なくとも、距離Dzの入力を受け付ける。入力受付部63は、その他にも、種々に加工条件の入力を受け付ける。この点について詳細に説明する。
【0059】
図12は、入力受付部に表示された設定画面の一例を示す図である。図12に示されるように、ここでは、選択内容Qとして、ウェハ厚さ、LBA-Xオフセット、及び、LBA-Yオフセットの入力を受け付ける(さらに距離Dxの入力を受け付けてもよい)。LBA-Xオフセットは、空間光変調器32に表示された各種のパターンのうちの球面収差補正パターンの中心と、集光レンズ33の入射瞳面の中心とのX方向(ラインM2に沿った方向)におけるオフセット量である。LBA-Yオフセットとは、同様に、球面収差補正パターンの中心と、集光レンズ33の入射瞳面の中心とのY方向(ラインM2に交差する方向)におけるオフセット量である。
【0060】
また、入力受付部63は、基本的な加工条件H0として、焦点数、パス数、加工速度、パルス幅、及び、周波数の入力を受け付ける。焦点数は、空間光変調器32によるレーザ光Lの分岐数であり、ここでは2である。パス数は、1つのラインM2に対するに対する第2処理(後述)の回数であって、レーザ光L1,L2のスキャン回数である。Z方向について焦点数×パス数に相当する列数の改質領域12が形成されることとなる。加工速度は、対象物11に対する集光点C1及び集光点C2の相対移動の速度である。
【0061】
さらに、入力受付部63は、それぞれのスキャンにおける詳細な加工条件の入力を受け付ける。ここでは、パス数として3が入力されていることから、入力受付部63は、3回のスキャンのそれぞれの加工条件H1~H3の入力を受け付ける。加工条件H1~H3において、ZH(下点)は、Z方向における集光点C1の位置に対応する。ZH(上点)は、Z方向における集光点C2の位置に対応する。ZH(下点)及びZH(上点)は、レーザ光L1,L2の入射面である裏面11bを基準としているため、数値が大きいほど裏面11bから遠いことを示す。
【0062】
縦分岐距離(VD)は、距離Dzであり、ZH(下点)とZH(上点)との差に相当する。加工出力(下点)は、レーザ光L1の出力であり、加工出力(上点)は、レーザ光L2の出力である。ここでは、加工出力(下点)と加工出力(上点)とについて同一の値が入力されている。このため、レーザ光L1とレーザ光L2との出力比が50:50とされる。
【0063】
続く工程では、制御部6が、工程S4で入力された加工条件に応じて、空間光変調器32に表示する変調パターンを設定(生成)する(工程S5)。ここでは、制御部6は、レーザ光Lを複数に分岐するための分岐パターンを含む変調パターンを設定する。これにより、当該変調パターンが表示された空間光変調器32を経たレーザ光Lが、図13等に示されるように、レーザ光L1とレーザ光L2とに分岐され、レーザ光L1の集光点(第1集光点)C1及び集光点(第2集光点)C2を形成することとなる。
【0064】
続いて、実際に、ラインM2に沿った加工が行われる(工程S6、第2処理、第2工程)。概略としては、制御部6は、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、集光点CをラインM2に沿って相対移動させながらレーザ光Lを対象物11に照射することにより、ラインM2に沿って改質領域12を形成する(レーザ光照射工程)。
【0065】
より具体的には、まず、1回目のスキャンが行われる。すなわち、図13の(a)に示されるように、制御部6が、上記の第2例のように、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、レーザ光L1の集光点C1と集光点C1よりも裏面11b側に位置するレーザ光L2の集光点C2とを形成しつつ、集光点C1において形成される改質領域121から延びる亀裂121cと、集光点C2において形成される改質領域122から延びる亀裂122cとが互に繋がらないように、集光点C1及び集光点C2をラインM2に沿って相対移動させながら、レーザ光L1,L2を対象物11に照射することにより、ラインM2に沿って改質領域12を形成する。
【0066】
ここでは、制御部6は、空間光変調器32に表示させる分岐パターンの調整により(すなわち、レーザ照射部3の制御によって)、集光点C1と集光点C2との距離Dzを、1回目のスキャンに相当する加工条件H1の入力値となるようにする。また、ここでは、一例として、制御部6は、空間光変調器32に表示させる分岐パターンの調整により(すなわち、レーザ照射部3の制御によって)、集光点C1及び集光点C2の相対移動の方向であり加工進行方向であるX方向について、集光点C1を集光点C2よりも前方に位置させる。すなわち、ここでは、距離Dxを0よりも大きくする。
【0067】
ただし、制御部6は、入力に応じて、空間光変調器32に表示させる分岐パターンの調整により(すなわち、レーザ照射部3の制御によって)、X方向について集光点C1と集光点C2とを一致させてもよい。すなわち、ここでは、距離Dxを0としてもよい。
【0068】
上述したように、対象物11には、ラインM1に沿って改質領域12が既に形成されている。したがって、この1回目のスキャンでは、既に形成された改質領域12を越えて(跨ぐように)、レーザ光L1,L2が照射される。これにより、図13の(b)に示されるように、ラインM2の全体に渡って、亀裂121cと亀裂122cとが互に繋がらないように、改質領域121,122が形成される。なお、ここでは、亀裂121cは、表面11aに到達しておらず、亀裂122cは裏面11bに到達していない。
【0069】
続いて、2回目のスキャンが行われる(工程S6、第2処理、第2工程)。すなわち、図14の(a)に示されるように、制御部6が、上記の第2例のように、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、レーザ光L1の集光点C1と集光点C1よりも裏面11b側に位置するレーザ光L2の集光点C2とを形成しつつ、集光点C1において形成される改質領域121から延びる亀裂121cと、集光点C2において形成される改質領域122から延びる亀裂122cとが互に繋がらないように、集光点C1及び集光点C2をラインM2に沿って相対移動させながら、レーザ光L1,L2を対象物11に照射することにより、ラインM2に沿って改質領域12を形成する。
【0070】
ここでは、制御部6は、空間光変調器32に表示させる分岐パターンの調整により(すなわち、レーザ照射部3の制御によって)、集光点C1と集光点C2との距離Dzを、2回目のスキャンに相当する加工条件H2の入力値となるようにする。特に、ここでは、制御部6は、1回目のスキャンにおける集光点C1の位置(改質領域121)と、1回目のスキャンにおける集光点C2の位置(改質領域122)と、の間に、集光点C1及び集光点C2の両方が位置する状態において、2回目のスキャンを行う。すなわち、1回目のスキャンでの距離Dzよりも、2回目のスキャンでの距離Dzが小さくされる。
【0071】
また、ここでも、一例として、制御部6は、空間光変調器32に表示させる分岐パターンの調整により(すなわち、レーザ照射部3の制御によって)、集光点C1及び集光点C2の相対移動の方向であり加工進行方向であるX方向について、集光点C1を集光点C2よりも前方に位置させる。すなわち、ここでは、距離Dxを0よりも大きくする。
【0072】
ただし、制御部6は、入力に応じて、空間光変調器32に表示させる分岐パターンの調整により(すなわち、レーザ照射部3の制御によって)、X方向について集光点C1と集光点C2とを一致させてもよい。すなわち、ここでは、距離Dxを0としてもよい。
【0073】
また、ここでも、既に形成された改質領域12を越えて(跨ぐように)、レーザ光L1,L2が照射される。これにより、図14の(b)に示されるように、ラインM2の全体に渡って、亀裂121cと亀裂122cとが互に繋がらないように、1回目のスキャンで形成された改質領域121,122の間に、改質領域121,122が形成される。なお、ここでは、1回目のスキャンで形成された亀裂121cと、2回目のスキャンで形成された亀裂121cとは、互に繋がっていない(繋がっていてもよい)。また、1回目のスキャンで形成された亀裂122cと、2回目のスキャンで形成された亀裂122cとは、互に繋がっていない。亀裂121cは、表面11aに到達しておらず、亀裂122cは裏面11bに到達していない。
【0074】
続く工程では、さらに、制御部6が、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、集光点CをラインM2に沿って相対移動させながらレーザ光Lを対象物11に照射することにより、ラインM2に沿って改質領域12を形成する。
【0075】
より具体的には、制御部6が、3回目のスキャンを行う(工程S7、第3処理、第3工程)。ここでは、図15の(a)に示されるように、制御部6は、レーザ光Lをレーザ光L3a,L3bに分岐させると共に、レーザ光L3aの集光点(第3集光点)C3aと、集光点C3aよりも裏面11b側に位置するレーザ光L3bの集光点(第4集光点)C3bと、を形成する。
【0076】
そして、制御部6は、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、2回目のスキャンでのZ方向における集光点C1の位置(第1位置)と集光点C2の位置(第2位置)との間の第3位置に、レーザ光L3a,L3bの集光点C3a,C3bを形成しつつ、集光点C3a,C3bをラインM2に沿って相対移動させながら、レーザ光L3a,L3bを対象物11に照射する。これにより、図15の(b)に示されるように、第3位置に、ラインM2に沿って改質領域123a,123bを形成し、第1位置に形成された改質領域121と第2位置に形成された改質領域122とに渡ると共に表面11a及び裏面11bに向けて延びる亀裂123cを形成する。
【0077】
ここでは、制御部6は、空間光変調器32に表示させる分岐パターンの調整により(すなわち、レーザ照射部3の制御によって)、集光点C3aと集光点C3bとの距離Dzを、3回目のスキャンに相当する加工条件H3の入力値となるようにする。特に、ここでは、制御部6は、2回目のスキャンにおける集光点C1の第1位置(改質領域121)と、2回目のスキャンにおける集光点C2の第2位置(改質領域122)と、の間に、集光点C3a及び集光点C3bの両方が位置する状態において、3回目のスキャンを行う。すなわち、1回目のスキャンでの距離Dz、及び2回目のスキャンでの距離Dzよりも、距離Dzが小さくされる。
【0078】
また、ここでも、一例として、制御部6は、空間光変調器32に表示させる分岐パターンの調整により(すなわち、レーザ照射部3の制御によって)、集光点C3a及び集光点C3bの相対移動の方向であり加工進行方向であるX方向について、集光点C3aを集光点C3bよりも前方に位置させる。すなわち、ここでは、距離Dxを0よりも大きくする。
【0079】
ただし、制御部6は、入力に応じて、空間光変調器32に表示させる分岐パターンの調整により(すなわち、レーザ照射部3の制御によって)、X方向について集光点C3aと集光点C3bとを一致させてもよい。すなわち、ここでは、距離Dxを0としてもよい。以上の第2処理及び第3処理が、全てのラインM2に対して実行される。これにより、全てのラインM1及びラインM2に沿って改質領域12が形成される。この結果、ラインM1及びラインM2に沿って対象物11が切断され得る。
【0080】
以上説明したように、レーザ加工装置1及びそのレーザ加工方法では、対象物11に対して、ラインM1とラインM1を越えて延在するラインM2と、が設定されている。そして、ラインM1に沿ってレーザ光Lを照射して改質領域12を形成した後に、ラインM2に沿ってレーザ光Lを照射して改質領域12を形成する。ラインM2に沿ったレーザ光Lの照射の際には、Z方向について、少なくとも2つの集光点C1,C2を形成する。よって、加工速度の向上が図られる。一方、レーザ加工装置1及びそのレーザ加工方法では、ラインM1に沿って既に形成された改質領域12等を跨ぐようなレーザ光Lの照射が発生する。よって、亀裂の不安定化を抑制することが重要である。
【0081】
そこで、レーザ加工装置1及びそのレーザ加工方法では、ラインM1に沿って改質領域12を形成した後に、まず、レーザ光L1の集光点C1において形成される改質領域121から延びる亀裂121cと、レーザ光L2の集光点C2において形成される改質領域122から延びる亀裂122cとが互に繋がらないように、集光点C1及び集光点C2をラインM2に沿って相対移動させながら、レーザ光L1,L2を対象物11に照射することにより、ラインM2に沿って改質領域121,122を形成する。その後、集光点C1の第1位置と集光点C2の第2位置との間の第3位置にレーザ光L3aの集光点C3aを形成しつつ、集光点C3aをラインM2に沿って相対移動させながら、レーザ光L3aを対象物11に照射することにより、第3位置にラインM2に沿って改質領域123aを形成し、改質領域121と改質領域122とに渡る亀裂123cを形成する。これにより、全体の亀裂量の不安定化が抑制される。よって、加工品質の低下が抑制される。
【0082】
また、レーザ加工装置1では、制御部6が、第2処理において、レーザ照射部3の制御により、集光点C1及び集光点C2の相対移動の方向について、集光点C1を集光点C2よりも前方に位置させることができる。この場合、集光点C1及び集光点C2のそれぞれにおいて形成される改質領域121,122からの亀裂121c,122cの伸展量を増大させることができる。これにより、Z方向について、必要な改質領域12の列数を削減して加工速度の向上が図られる。
【0083】
一方、レーザ加工装置1では、制御部6が、第2処理において、レーザ照射部3の制御によって、X方向について集光点C1と集光点C2とを一致させてもよい。この場合、集光点C1及び集光点C2のそれぞれにおいて形成される改質領域121,122からの亀裂121c,122cの伸展量を減少させることができる。これにより、集光点C1によって形成される改質領域121から延びる亀裂121cと、集光点C2によって形成される改質領域122から延びる亀裂122cと、が繋がることを確実に抑制可能である。
【0084】
また、レーザ加工装置1では、制御部6が、第3処理において、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、集光点C3aと、集光点C3aよりも裏面11b側に位置するレーザ光L3bの集光点C3bと、を形成しつつ、集光点C3a及び集光点C3bをラインM2に沿って相対移動させながら、レーザ光L3a,L3bを対象物11に照射する。このため、加工速度のさらなる向上が図られる。
【0085】
また、レーザ加工装置1では、制御部6が、第1処理において、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、レーザ光L1Aの集光点C1Aと集光点C1Aよりも裏面11b側に位置するレーザ光L2Aの集光点C2Aとを形成しつつ、集光点C1A及び集光点C2AをラインM1に沿って相対移動させながら、レーザ光L1A,L2Aを対象物11に照射する。このため、加工速度のさらなる向上が図られる。
【0086】
さらに、レーザ加工装置1では、制御部6が、第1処理において、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、集光点C1Aおいて形成される改質領域121Aから延びる亀裂と、集光点C2Aにおいて形成される改質領域122Aから延びる亀裂と、が互に繋がらないように、集光点C1A及び集光点C2AをラインM2に沿って相対移動させながら、レーザ光L1A,L2Aを対象物11に照射することにより、ラインM1に沿って改質領域121A,122Aを形成する第4処理を実行してもよい。
【0087】
このとき、第4処理の後に、レーザ照射部3及び駆動部5(及び/又は駆動部4)の制御によって、Z方向における集光点C1Aの第5位置と集光点C2Aの第6位置との間の第7位置にレーザ光Lの集光点を形成しつつ、当該集光点をラインM1に沿って相対移動させながら、レーザ光Lを対象物11に照射することにより、第7位置にラインM1に沿って改質領域12を形成し、改質領域121Aと改質領域122Aとに渡る亀裂を形成する第5処理を実行してもよい。この場合、上述した理由と同様の理由から、第1処理においても、加工速度の向上と加工品質の低下の抑制とを図ることができる。
【0088】
以上の実施形態は、本発明の一側面を説明したものである。したがって、本発明は、上述した例に限定されることなく変形され得る。
【0089】
例えば、上記実施形態においては、第2処理及び第3処理を通じて、3回のスキャンを行う場合について説明した。しかし、第2処理及び第3処理におけるスキャン回数は任意である。
【0090】
また、上記実施形態においては、第3処理において、レーザ光L3a,L3bのそれぞれの集光点C3a,C3bの両方が、第2処理で形成された改質領域121,122の間に位置された状態において、レーザ光L3a,L3bの照射が行われた。しかし、第3処理では、第2処理で形成された改質領域121,122の間に少なくとも1つの集光点を位置させつつレーザ光の照射を行って改質領域121,122に渡る亀裂を形成すればよい。
【0091】
また、第2処理及び第3処理における各スキャン時の距離Dzの関係も、上記の例に限定されない。
【0092】
さらに、上記実施形態においては、制御部6(入力受付部63)が、図12に示される各値の入力を促す情報を表示させると共に、各値の入力を受け付けるようにした。しかし、制御部6は、図12に示される各値のうちの一部の入力を促す情報を入力受付部63に表示させると共に、入力受付部63が当該一部の入力を受け付けた場合に、他の一部の加工条件を提案するようにしてもよい。
【0093】
一例として、制御部6は、入力受付部63に対して、選択内容Q、及び、基本的な加工条件H0に含まれる各値の入力を促す情報を表示させると共に、入力受付部63が入力を受け付けた場合に、最適な加工条件H1~H3を提案するように構成されてもよい。
【0094】
なお、図7の(a)の例では、スキャンP2において、スキャンP1で形成された改質領域121,122の間に1つの改質領域121を形成すると共に、改質領域121,122の外側に別の改質領域122を形成している(すなわち、スキャンP1,P2で交互に改質領域を形成している)。このような改質領域の形成は、図15に示される第3処理でも同様に行われ得る。すなわち、図15では、第2処理で形成された改質領域121,122の間に、第3処理で一対の改質領域123a,123bを形成する例を示しているが、例えば、第3処理では、改質領域121,122の間に改質領域123aを形成しつつ、改質領域121,122の外側に改質領域123bを形成してもよい。換言すれば、第3処理では、第2処理で形成された改質領域121,122の間に少なくとも1列の改質領域を形成することによって、改質領域121,122に渡る亀裂を形成すればよい。
【0095】
ここで、以上の説明のとおり、複数のラインM1に沿って改質領域12を形成した後に、ラインM1を跨ぐように設定されたラインM2に改質領域12を形成する際に、亀裂量が少なくなる部分と多くなる部分とが短い周期(改質領域12等の形成のピッチ)で繰り返し生じるため、全体の亀裂量の不安定化が加工品質に与える影響が相対的に大きいことから、上記の特徴的なレーザ光の照射方法を採用することが重要である旨の説明を行った。
【0096】
しかしながら、例えばラインM1に沿って改質領域12を形成する場合のように、対象物11における改質領域12が形成されていない部分に対してレーザ光Lを照射する場合のみについても、レーザ光Lの照射開始位置から照射終了位置に渡って亀裂量の変化が生じ得るため、上記の特徴的なレーザ光の照射方法を採用することによって、加工速度の向上と加工品質の低下の抑制とを実現し得る。すなわち、上記の特徴的なレーザ光の照射方法は、ラインM1,M2のいずれの加工時かを問わずに採用され得る。よって、以下の事項を付記する。
【0097】
(付記)レーザ加工装置1は、対象物11にレーザ光Lを照射して改質領域12を形成するためのレーザ加工装置であって、前記対象物11を支持するためのステージ2と、前記ステージ2に支持された前記対象物11に前記レーザ光Lを照射するためのレーザ照射部3と、前記対象物11に対して前記レーザ光Lの集光点Cが相対移動するように、前記ステージ2及び前記レーザ照射部3の少なくとも一方を移動させる駆動部4,5と、前記レーザ照射部3及び前記駆動部4,5を制御する制御部6と、を備える。前記制御部6は、前記レーザ照射部3及び前記駆動部4,5の制御によって、前記レーザ光L1の集光点C1と前記集光点C1よりも前記裏面11b側に位置する前記レーザ光L2の集光点C2とを形成しつつ、前記集光点C1において形成される前記改質領域121から延びる亀裂121cと集光点C2において形成される改質領域122から延びる亀裂122cとが互に繋がらないように、前記集光点C1,C2を相対移動させながら、前記レーザ光L1,L2を前記対象物11に照射することにより、前記改質領域121,122を形成する処理を実行することができる。
【0098】
また、制御部6は、当該処理の後に、前記レーザ照射部3及び前記駆動部4,5の制御によって、前記裏面11bに交差する方向における前記集光点C1の第1位置と前記集光点C2の第2位置との間の第3位置に前記レーザ光L3aの集光点C3aを形成しつつ、前記集光点C3aを相対移動させながら、前記レーザ光L3aを前記対象物11に照射することにより、前記第3位置に前記改質領域を形成し、前記第1位置に形成された前記改質領域121と前記第2位置に形成された前記改質領域122とに渡る亀裂を形成する別の処理を実行することができる。
【符号の説明】
【0099】
1…レーザ加工装置、2…ステージ(支持部)、3…レーザ照射部、4…駆動部(移動機構)、5…駆動部(移動機構)、6…制御部、11…対象物、12,121,122,123a,123b…改質領域、12c,121c,122c…亀裂、C…集光点、C1…集光点(第1集光点)、C2…集光点(第2集光点)、C3a,C3b…集光点(第3集光点)、L,L1,L2,L3a,L3b…レーザ光、M1…ライン(第1ライン)、M2…ライン(第2ライン)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15