IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許7467210電子写真感光体、プロセスカートリッジおよび電子写真装置
<>
  • 特許-電子写真感光体、プロセスカートリッジおよび電子写真装置 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジおよび電子写真装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/07 20060101AFI20240408BHJP
   G03G 5/147 20060101ALI20240408BHJP
   G03G 5/06 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
G03G5/07 101
G03G5/147 502
G03G5/147 504
G03G5/06 312
G03G5/06 314B
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020072582
(22)【出願日】2020-04-14
(65)【公開番号】P2020184069
(43)【公開日】2020-11-12
【審査請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2019086302
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】怒 健一
(72)【発明者】
【氏名】中田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】森 春樹
(72)【発明者】
【氏名】鯨井 秀文
【審査官】高橋 純平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-091742(JP,A)
【文献】特開平11-184134(JP,A)
【文献】特開平05-173350(JP,A)
【文献】特開2019-045862(JP,A)
【文献】特開2015-072425(JP,A)
【文献】特開2011-118046(JP,A)
【文献】特開2004-020697(JP,A)
【文献】特開2001-125299(JP,A)
【文献】特開2003-186223(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/07
G03G 5/147
G03G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、感光層と、表面層とを有する電子写真感光体であって、
該表面層は、
メラミン樹脂を含む粒子およびアクリル樹脂を含む粒子の少なくとも一方の粒子と、
重合性官能基を有する電荷輸送性化合物と下記式(1)で示される化合物とを含有する組成物の重合物と、
を含有することを特徴とする電子写真感光体。
【化1】
(式(1)中、R11およびR12は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基、または、置換または無置換のアリール基を示す。ただし、R 11 およびR 12 の少なくとも一方は、炭素数2以上のアルキル基を示す。13は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。R14およびR15は、それぞれ独立に、水素原子、または、メチル基を示す。R16およびR17は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキレン基を示す。)
【請求項2】
前記表面層が、前記メラミン樹脂を含む粒子を含有し、
前記メラミン樹脂を含む粒子の質量をA、前記式(1)で示される化合物由来の部分の質量をBとしたとき、Aに対するBの比率(B/A)が9.7質量%以上である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
前記表面層が、前記メラミン樹脂を含む粒子を含有し、
前記メラミン樹脂を含む粒子の質量をA、前記式(1)で示される化合物由来の部分の質量をB、前記重合性官能基を有する電荷輸送性化合物由来の部分の質量をCとしたとき、A、B、およびCの関係A/(A+B+C)が、10.2質量%以上34.0質量%以下である請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【請求項4】
前記表面層が、前記アクリル樹脂を含む粒子を含有し、
前記アクリル樹脂を含む粒子の質量をA、前記式(1)で示される化合物由来の部分の質量をBとしたとき、Aに対するBの比率(B/A)が13.6質量%以上である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項5】
前記表面層が、前記アクリル樹脂を含む粒子を含有し、
前記アクリル樹脂を含む粒子の質量をA、前記式(1)で示される化合物由来の部分の質量をB、前記重合性官能基を有する電荷輸送性化合物由来の部分の質量をCとしたとき、A、B、およびCの関係A/(A+B+C)が、8.2質量%以上27.3質量%以下である請求項1または4に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記重合性官能基を有する電荷輸送性化合物由来の部分の質量をC、前記式(1)で示される化合物由来の部分の質量をBとしたとき、Cに対するBの比率(B/C)が、5.3質量%以上であることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記感光層が、下記式(2)で示される電荷輸送性化合物および下記式(3)で示される電荷輸送性化合物からなる群から選択される少なくとも1つの電荷輸送性化合物を含有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【化2】
(式(2)中、R31~R34は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。a、b、cおよびdは、それぞれ独立に、0~5を示す。eは0または1を示す。)
【化3】
(式(3)中、R41~R44は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。R45およびR46は、それぞれ独立に、炭素数1以上8以下のアルキル基を示す。f、g、hおよびkは、それぞれ独立に、0~5を示す。mは0または1を示す。)
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
帯電手段、現像手段、およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも一つの手段と、を有する、
電子写真装置に着脱自在であるプロセスカートリッジ。
【請求項9】
請求項1~のいずれか1項に記載の電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段、および転写手段を有する電子写真装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置に向けたものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体の表面には、帯電やクリーニングなどの電気的外力や機械的外力が加えられるため、これらの外力に対する耐久性(耐摩耗性など)が要求される。
この要求に対して、従来から、電子写真感光体の表面層に耐摩耗性の高い樹脂(硬化性樹脂など)を用いるなどの技術が用いられている。
【0003】
一方、電子写真感光体の表面のクリーニング性や潤滑性を向上させる目的で、硬化性樹脂あるいは架橋構造を有する樹脂を含有する表面層に、有機樹脂粒子を添加する技術が知られている。
【0004】
特許文献1には、架橋構造を有する樹脂と、メラミン樹脂微粒子あるいは架橋アクリル樹脂微粒子とを含有する表面層の表面を、所望の粗さに設計し、耐摩耗性とクリーニング性を両立する電子写真感光体を作製する技術が記載されている。
【0005】
特許文献2には、硬化性樹脂を含有する表面層に添加する有機粒子に、特定の表面処理を行い、耐摩耗性とクリーニング性に優れた電子写真感光体を作製する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-267467号公報
【文献】特開2016-95340号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
メラミン樹脂を含む粒子やアクリル樹脂を含む粒子は、粒子表面に水酸基が多く存在するため親水性が高くなる傾向がある。本発明者らの検討の結果、これらの粒子を表面層に含む電子写真感光体は、優れた潤滑性およびクリーニング性を示すこと、その一方で、当該電子写真感光体は、トナー担持面(以降、「表面」ともいう)の親水性が高くなることにより、高湿環境下で発生する画像欠陥(画像流れ)のレベルが悪化することを見出した。
【0008】
特許文献1および特許文献2に開示されているメラミン樹脂粒子やアクリル樹脂粒子を表面層に含む電子写真感光体であっても、高湿環境下における画像流れの抑制効果が十分満足できるものではない場合があった。
【0009】
画像流れとは、静電潜像がぼやけることによって、出力画像がぼやける現象である。これは、電子写真感光体の表面や大気中に存在する水分が、帯電によって生成される放電生成物と反応し、その反応物が表面層の構成材料を変質させることが原因であると推測されている。近年の電子写真感光体の耐摩耗性向上に伴い、電子写真感光体の表面はリフレッシュされにくくなるため、繰り返し使用により放電生成物が電子写真感光体の表面に残りやすくなる。その結果、特に画像流れに対する対策が必要である。
【0010】
従来の画像流れの抑制に関しては、画像流れの要因の1つである水分を蒸発させるために、ドラムヒーターを設置して電子写真感光体の表面温度を高くする方法が用いられている。しかしながら、電子写真装置の省エネの観点から、ドラムヒーターを用いることなしに画像流れを抑制し得る新たな技術開発が必要であるとの認識を本発明者らは得るに至った。
【0011】
本発明の一態様は、画像流れの抑制効果が良好な電子写真感光体の提供に向けたものである。
また、本発明の他の態様は、画像流れの発生をより良く抑えることができるプロセスカートリッジの提供に向けたものである。
さらに、本発明の他の態様は、高品位な電子写真画像を形成することができる電子写真装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、支持体と、感光層と、表面層と、を有する電子写真感光体であって、該表面層は、メラミン樹脂を含む粒子およびアクリル樹脂を含む粒子の少なくとも一方の粒子と、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物と下記式(1)で示される化合物とを含有する組成物の重合物と、を含有する電子写真感光体が提供される。
【化1】
(式(1)中、R11およびR12は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基、または、置換または無置換のアリール基を示す。ただし、R 11 およびR 12 の少なくとも一方は、炭素数2以上のアルキル基を示す。13は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。R14およびR15は、それぞれ独立に、水素原子、または、メチル基を示す。R16およびR17は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキレン基を示す。)
本発明の他の態様によれば、電子写真装置本体に着脱自在であるプロセスカートリッジであって、上記の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも一つの手段と、を有するプロセスカートリッジが提供される。
さらに、本発明の他の態様によれば、上記の電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段、および転写手段を有する電子写真装置が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、画像流れの抑制効果が良好な電子写真感光体、該電子写真感光体を有するプロセスカートリッジおよび電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一態様に係る電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジが装着された電子写真装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
そこで本発明者らが更なる検討を重ねた結果、特定の重合物を含有する表面層を備えた電子写真感光体が、ドラムヒーターを用いなくとも画像流れを有効に抑制し得ることを見出した。
【0016】
以下、好適な実施の形態を挙げて、本発明に係る電子写真感光体等について詳細に説明する。
本発明の一態様に係る電子写真感光体は、支持体と、感光層と、表面層とを有する。
表面層は、メラミン樹脂を含む粒子およびアクリル樹脂を含む粒子の少なくとも一方と、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物と、式(1)で示される化合物とを含有する組成物の重合物と、を含有する。
【化2】
(式(1)中、R11およびR12は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基、または、置換または無置換のアリール基を示す。ただし、R 11 およびR 12 の少なくとも一方は、炭素数2以上のアルキル基を示す。13は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。R14およびR15は、それぞれ独立に、水素原子、または、メチル基を示す。R16およびR17は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキレン基を示す。)
【0017】
本発明者らは、該電子写真感光体によって、画像流れを抑制し得るメカニズムを以下のように考えている。
【0018】
重合性官能基を有する電荷輸送性化合物を含有する表面層は、耐摩耗性が高い一方で、その耐摩耗性の高さから、画像流れが発生しやすい。また、耐摩耗性が高いと、表面層の表面とブレードとの摩擦抵抗が高くなり、トルクが上昇してブレード挙動が不安定となり、クリーニング性が低下しやすい。そこで、メラミン樹脂を含む粒子およびアクリル樹脂を含む粒子のいずれか一方または両方を、表面層に含有させ、潤滑性を向上させること、すなわち、摩擦抵抗を低下させることで、ブレード挙動を安定させて、クリーニング性を向上する検討が行われている。
【0019】
しかしながら、本発明者らの検討の結果、上記した粒子を表面層に用いると画像流れが生じやすくなる場合があることを見出した。これは、メラミン樹脂を含む粒子またはアクリル樹脂を含む粒子を用いることで、電子写真感光体の表面の親水性が高くなり、画像流れの原因となる水分を引き寄せ、表面層に含まれる水分が増えることに起因すると考えられる。
【0020】
本発明に係る電子写真感光体においては、メラミン樹脂を含む粒子およびアクリル樹脂を含む粒子の少なくとも一方に加えて、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物と式(1)で示される化合物を含む組成物の重合物を表面層に含むことにより、画像流れを抑制することができる。
これは、式(1)で示される化合物の有する、分子量や分子サイズが適度であることにより、その重合物を含む表面層がより緻密となり、環境中から表面層への水分の侵入が効果的に抑制されるものと考えられる。そのため、表面層が、メラミン樹脂を含む粒子やアクリル樹脂を含む粒子を含むことで、当該表面層の外表面の親水性が高くなっても、表面層が含む水分量の増加を抑制できる。このことによって、本発明に係る電子写真感光体は、画像流れを抑制し得るものと考えられる。
【0021】
以上のように、本発明では、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物、式(1)で示される化合物、およびメラミン樹脂を含む粒子またはアクリル樹脂を含む粒子の少なくとも一方の3種類の材料が、表面層中において効果的に作用し合っている。これにより、画像流れの抑制効果が良好な電子写真感光体を提供することができる。
すなわち、各構成が相乗的に効果を及ぼし合うことによって、本発明の効果を達成することが可能となる。
【0022】
以下、本発明の一態様に係る電子写真感光体の構成について説明する。
該電子写真感光体は、メラミン樹脂を含む粒子およびアクリル樹脂を含む粒子の少なくとも一方と、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物と式(1)で示される化合物とを含有する組成物の重合物と、を含有する表面層を具備する。
【0023】
<式(1)で示される化合物>
式(1)で示される化合物は電荷輸送性を有さない化合物である。
【化3】
式(1)中、R11およびR12は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキル基、または、置換または無置換のアリール基を示す。
前記アリール基が有してもよい置換基としては、例えば、炭素数1以上4以下のアルキル基が挙げられる。
11およびR12は互いに結合して脂肪族環を形成してもよい。R11およびR12が、炭素数1以上4以下のアルキル基であることにより、式(1)で示される化合物の分子サイズはコンパクトになる。そのため、前記したように当該化合物の重合物を含む表面層は、より緻密となると考えられる。特には、R11およびR12の少なくとも一方が炭素数2以上のアルキル基であることが好ましい。これにより、当該表面層の緻密性をより一層向上させることができ、画像流れの抑制効果をより一層向上させることができる。
また、R11およびR12が互いに結合して脂肪族環を形成する場合、該脂肪族環は、これらに限定されるものではないが、たとえばシクロプロパン、シクロペンタン、シクロへキサン、シクロヘプタン、シクロオクタンなどである。
13は、炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。
14およびR15は、それぞれ独立に、水素原子、または、メチル基を示す。R16およびR17は、それぞれ独立に、炭素数1以上4以下のアルキレン基を示す。アルキレン基のうち、メチレン基またはエチレン基であることが好ましい。表面層の緻密性や強度をより向上させることができるためである。
【0024】
式(1)で示される化合物の具体例(例示化合物)を以下に示す。ただし、式(1)で示される化合物はこれらに限定されるわけではない。
【化4】
【0025】
<重合性官能基を有する電荷輸送性化合物>
重合性官能基を有する電荷輸送性化合物は、重合性官能基と、電荷輸送性を有する骨格とを同一分子内に有する化合物である。重合性官能基としては、ヒドロキシル基、ビニル基、アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基、スチリル基、ビニルエーテル基、アリル基などが挙げられる。電荷輸送性を有する骨格としては、ヒドラゾン、カルバゾール、トリフェニルアミンなどの正孔輸送性を有する骨格が挙げられる。
【0026】
重合性官能基としては、重合性特性、重合速度等の観点から連鎖重合性官能基であるアクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基が好ましい。
【0027】
重合性官能基を重合反応させる方法としては、例えば、紫外線の照射、電子線の照射、加熱、重合開始剤などの補助剤の使用、酸、アルカリ、錯体などの化合物の共存が挙げられる。
【0028】
重合性官能基を有する電荷輸送性化合物の具体例(例示化合物)を以下に示す。ただし、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物はこれらに限定されるものではない。下記の例示化合物の反応性官能基は、上記の反応性官能基のいずれかに置き換えられてもよい。置換基についても同様に他の構造に置き換えられてもよい。
【化5】
【0029】
<メラミン樹脂を含む粒子>
メラミン樹脂を含む粒子は、メラミン構造を有する樹脂を含有する。中でも、メラミンホルムアルデヒド樹脂を含む粒子であることが好ましく、メラミンホルムアルデヒド樹脂からなる粒子であることがより好ましい。メラミン樹脂の重合度や、樹脂が熱可塑性か熱硬化性であるかは、特に限定されない。メラミン樹脂を含む粒子の平均粒子径は、0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましい。
【0030】
市販のメラミン樹脂を含む粒子としては、例えば、メラミンホルムアルデヒド樹脂粒子(商品名:エポスターSS、エポスターS、エポスターFS、エポスターS6、エポスターS12、日本触媒株式会社製)、メラミンベンゾグアナミン樹脂粒子(商品名:エポスターM30、日本触媒株式会社製)が挙げられる。
【0031】
<メラミン樹脂を含む粒子の含有比率>
表面層中に含有される、メラミン樹脂を含む粒子の質量をA、前記式(1)で示される化合物由来の部分の質量をBとしたとき、Aに対するBの比率(B/A)は9.7質量%以上であることが好ましい。この範囲内であると、画像流れによる画像欠陥の抑制効果が良好な電子写真感光体が得られる。
【0032】
また、表面層中に含有される、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物由来の部分の質量をCとしたとき、Cに対するBの比率(B/C)は5.3質量%以上であることが好ましい。この範囲内であると、画像流れによる画像欠陥の抑制効果が良好な電子写真感光体が得られる。
【0033】
さらに、A、B、およびCの関係A/(A+B+C)が、10.2質量%以上34.0質量%以下の範囲内であると、摺擦性と画像流れ抑制効果がさらに良好な電子写真感光体が得られ、好ましい。
【0034】
<アクリル樹脂を含む粒子>
アクリル樹脂を含む粒子は、アクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステルの重合体を含有する。中でも、スチレンアクリル樹脂粒子であることが好ましく、スチレンアクリル樹脂からなる粒子であることがより好ましい。アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂の重合度や、樹脂が熱可塑性か熱硬化性であるかは、特に限定されない。アクリル樹脂を含む粒子の平均粒子径は、0.1μm以上2.0μm以下であることが好ましい。
【0035】
市販のアクリル樹脂を含む粒子としては、例えば、以下のものが挙げられる。
・ファインスフェア:FS-101、FS-102、FS-107、FS-201、FS-301、MG-155、MG-351、MG-451;いずれも商品名、日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製。
・TECHPOLYMER:SSX-101、SSX-102、SSX-103、SSX-104、SSX-105、いずれも商品名、積水化成品工業株式会社製。
・高架橋粒子:SX8002;商品名、JSR株式会社製。
・ポリメタクリル酸メチル粉体:XX-159AP、XX-160AP;いずれも商品名、積水化成品工業株式会社製。
【0036】
<アクリル樹脂を含む粒子の含有比率>
表面層中に含有される、アクリル樹脂を含む粒子の質量をA、前記式(1)で示される化合物由来の部分の質量をBとしたとき、Aに対するBの比率(B/A)は13.6質量%以上であることが好ましい。この範囲内であると、画像流れによる画像欠陥の抑制効果が良好な電子写真感光体が得られる。
【0037】
また、表面層中に含有される、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物由来の部分の質量をCとしたとき、Cに対するBの比率(B/C)は5.3質量%以上であることが好ましい。この範囲内であると、画像流れによる画像欠陥の抑制効果が良好な電子写真感光体が得られる。
【0038】
さらに、A、B、およびCの関係A/(A+B+C)が8.2質量%以上27.3質量%以下の範囲内であると、摺擦性と画像流れ抑制効果がさらに良好な電子写真感光体が得られ、好ましい。
【0039】
表面層は、導電性粒子を含有してもよい。導電性粒子としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウムなどの金属酸化物の粒子が挙げられる。
【0040】
表面層は、重合性官能基を有さない電荷輸送性化合物を含有してもよい。重合性官能基を有さない電荷輸送性化合物としては、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。
【0041】
表面層は、樹脂を含有してもよい。樹脂としては、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂などが挙げられる。中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂が好ましい。
【0042】
表面層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤、などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0043】
フッ素樹脂粒子としては、四フッ化エチレン樹脂粒子、三フッ化エチレン樹脂粒子、四フッ化エチレン六フッ化プロピレン樹脂粒子、フッ化ビニル樹脂粒子、フッ化ビニリデン樹脂粒子、二フッ化二塩化エチレン樹脂粒子が好ましい。また、それらの共重合体の粒子が好ましい。これらの中でも、四フッ化エチレン樹脂粒子がより好ましい。
【0044】
表面層中にフッ素樹脂粒子を添加する場合、フッ素樹脂粒子の含有量は、表面層の全質量に対して、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、15質量%以上35質量%以下であることがより好ましい。
【0045】
表面層の膜厚は0.1μm以上15μm以下であることが好ましい。さらには0.5μm以上10μm以下であることがより好ましい。
【0046】
<製法>
表面層は、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物と、前記式(1)で示される化合物と、メラミン樹脂を含む粒子またはアクリル樹脂を含む粒子と、を含有する表面層用塗布液の塗膜を形成して、この塗膜を硬化させることによって形成することができる。
【0047】
表面層用塗布液の調製に用いる溶剤としては、表面層の下に設けられる層を溶解しない溶剤を使用することが好ましい。より好ましくは、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、1-メトキシ-2-プロパノールなどのアルコール系溶剤である。
【0048】
表面層用塗布液の塗膜を硬化させる方法としては、熱、紫外線、または電子線によって硬化させる方法が挙げられる。表面層の強度、電子写真感光体の耐久性を維持するためには、紫外線または電子線を用いて硬化させることが好ましい。
【0049】
電子線を用いて重合させると、非常に緻密(高密度)な硬化物(3次元架橋構造)が得られ、より高い耐久性を有する表面層が得られるため、好ましい。電子線を照射する場合、加速器としては、例えば、スキャニング型、エレクトロカーテン型、ブロードビーム型、パルス型、ラミナー型などが挙げられる。
【0050】
電子線を用いる場合、電子線の加速電圧は、重合効率を損なわずに電子線による材料特性劣化を抑制できる観点から、120kV以下であることが好ましい。また、表面層用塗布液の塗膜の表面での電子線吸収線量は、1kGy以上50kGy以下であることが好ましく、5kGy以上10kGy以下であることがより好ましい。
【0051】
また、電子線を用いて上記塗膜を硬化(重合)させる場合、酸素による重合阻害作用を抑制する目的で、不活性ガス雰囲気で電子線を照射した後、不活性ガス雰囲気で加熱することが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムが挙げられる。
【0052】
[電子写真感光体]
電子写真感光体は、支持体上に感光層と表面層を有する。感光層は、電荷発生層、電荷輸送層をこの順で積層した積層型感光層であることが好ましい。必要に応じて、電荷発生層と支持体の間に導電層や下引き層を設けても良い。
【0053】
<支持体>
支持体は導電性を有する導電性支持体であることが好ましい。また、支持体の形状としては、円筒状、ベルト状、シート状などが挙げられる。中でも、円筒状支持体であることが好ましい。また、支持体の表面に、陽極酸化などの電気化学的な処理や、ブラスト処理、切削処理などを施してもよい。
支持体の材質としては、金属、樹脂、ガラスなどが好ましい。
金属としては、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅、金、ステンレスや、これらの合金などが挙げられる。中でも、アルミニウムを用いたアルミニウム製支持体であることが好ましい。
また、樹脂やガラスには、導電性材料を混合または被覆するなどの処理によって、導電性を付与してもよい。
【0054】
<導電層>
支持体の上に、導電層を設けてもよい。導電層を設けることで、支持体表面の傷や凹凸を隠蔽することや、支持体表面における光の反射を制御することができる。
導電層は、導電性粒子と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0055】
導電性粒子の材質としては、金属酸化物、金属、カーボンブラックなどが挙げられる。金属酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化インジウム、酸化ケイ素、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化ビスマスなどが挙げられる。金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀などが挙げられる。
これらの中でも、導電性粒子として、金属酸化物を用いることが好ましく、特に、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛を用いることがより好ましい。
導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、金属酸化物の表面をシランカップリング剤などで処理したり、金属酸化物にリンやアルミニウムなど元素やその酸化物をドーピングしたりしてもよい。
また、導電性粒子は、芯材粒子と、その粒子を被覆する被覆層とを有する積層構成としてもよい。芯材粒子としては、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛などが挙げられる。被覆層としては、酸化スズなどの金属酸化物が挙げられる。
また、導電性粒子として金属酸化物を用いる場合、その体積平均粒子径が、1nm以上500nm以下であることが好ましく、3nm以上400nm以下であることがより好ましい。
【0056】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、アルキッド樹脂などが挙げられる。
また、導電層は、シリコーンオイル、樹脂粒子、酸化チタンなどの隠蔽剤などをさらに含有してもよい。
【0057】
導電層の平均膜厚は、1μm以上50μm以下であることが好ましく、3μm以上40μm以下であることが特に好ましい。
【0058】
導電層は、上記の各材料および溶剤を含有する導電層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。導電層用塗布液中で導電性粒子を分散させるための分散方法としては、ペイントシェーカー、サンドミル、ボールミル、液衝突型高速分散機を用いた方法が挙げられる。
【0059】
<下引き層>
支持体または導電層の上に、下引き層を設けてもよい。下引き層を設けることで、層間の接着機能が高まり、電荷注入阻止機能を付与することができる。
【0060】
下引き層は、樹脂を含有することが好ましい。また、重合性官能基を有するモノマーを含有する組成物を重合することで硬化膜として下引き層を形成してもよい。
【0061】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルフェノール樹脂、アルキッド樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリエチレンオキシド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、セルロース樹脂などが挙げられる。
【0062】
重合性官能基を有するモノマーが有する重合性官能基としては、イソシアネート基、ブロックイソシアネート基、メチロール基、アルキル化メチロール基、エポキシ基、金属アルコキシド基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基、カルボン酸無水物基、炭素-炭素二重結合基などが挙げられる。
【0063】
また、下引き層は、電気特性を高める目的で、電子輸送物質、金属酸化物、金属、導電性高分子などをさらに含有してもよい。これらの中でも、電子輸送物質、金属酸化物を用いることが好ましい。
電子輸送物質としては、キノン化合物、イミド化合物、ベンズイミダゾール化合物、シクロペンタジエニリデン化合物、フルオレノン化合物、キサントン化合物、ベンゾフェノン化合物、シアノビニル化合物、ハロゲン化アリール化合物、シロール化合物、含ホウ素化合物などが挙げられる。電子輸送物質として、重合性官能基を有する電子輸送物質を用い、上記の重合性官能基を有するモノマーと共重合させることで、硬化膜として下引き層を形成してもよい。
金属酸化物としては、酸化インジウムスズ、酸化スズ、酸化インジウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素などが挙げられる。金属としては、金、銀、アルミなどが挙げられる。
また、下引き層は、添加剤をさらに含有してもよい。
【0064】
下引き層の平均膜厚は、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、0.2μm以上40μm以下であることがより好ましく、0.3μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0065】
下引き層は、上記の各材料および溶剤を含有する下引き層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥および/または硬化させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0066】
<感光層>
電子写真感光体の感光層は、主に、(1)積層型感光層と、(2)単層型感光層とに分類される。(1)積層型感光層は、電荷発生物質を含有する電荷発生層と、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層と、を有する。(2)単層型感光層は、電荷発生物質と電荷輸送物質を共に含有する感光層を有する。
【0067】
(1)積層型感光層
積層型感光層は、電荷発生層と、電荷輸送層と、を有する。
【0068】
(1-1)電荷発生層
電荷発生層は、電荷発生物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
【0069】
電荷発生物質としては、アゾ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、インジゴ顔料、フタロシアニン顔料などが挙げられる。これらの中でも、アゾ顔料、フタロシアニン顔料が好ましい。フタロシアニン顔料の中でも、オキシチタニウムフタロシアニン顔料、クロロガリウムフタロシアニン顔料、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料が好ましい。
【0070】
電荷発生層中の電荷発生物質の含有量は、電荷発生層の全質量に対して、40質量%以上85質量%以下であることが好ましく、60質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0071】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、フェノール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリビニルブチラール樹脂がより好ましい。
【0072】
また、電荷発生層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤などの添加剤をさらに含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、などが挙げられる。
【0073】
電荷発生層の平均膜厚は、0.1μm以上1μm以下であることが好ましく、0.15μm以上0.4μm以下であることがより好ましい。
【0074】
電荷発生層は、上記の各材料および溶剤を含有する電荷発生層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤などが挙げられる。
【0075】
(1-2)電荷輸送層
電荷輸送層は、電荷輸送物質と、樹脂と、を含有することが好ましい。
電荷輸送物質としては、例えば、多環芳香族化合物、複素環化合物、ヒドラゾン化合物、スチリル化合物、エナミン化合物、ベンジジン化合物、トリアリールアミン化合物などの電荷輸送性化合物や、これらの物質から誘導される基を有する樹脂などが挙げられる。これらの中でも、トリアリールアミン化合物、ベンジジン化合物が好ましい。
【0076】
これらの中でも、下記式(2)および下記式(3)で示される電荷輸送性化合物からなる群から選択される少なくとも1つのる電荷輸送性化合物を含有すると、感光層と表面層が順に積層された構成となる際に、感光層と表面層の密着性が増した電子写真感光体を得ることができ、好ましい。
【化6】
式(2)中、R31~R34は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。a、b、cおよびdは、それぞれ独立に、0~5を示す。eは0または1を示す。
【化7】
式(3)中、R41~R44は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基を示す。R45およびR46は、それぞれ独立に、炭素数1以上8以下のアルキル基を示す。f、g、hおよびkは、それぞれ独立に、0~5を示す。mは0または1を示す。
【0077】
電荷輸送層中の電荷輸送物質の含有量は、電荷輸送層の全質量に対して、25質量%以上70質量%以下であることが好ましく、30質量%以上55質量%以下であることがより好ましい。
【0078】
樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂が好ましい。ポリエステル樹脂としては、特にポリアリレート樹脂が好ましい。
【0079】
電荷輸送物質と樹脂との含有量比(質量比)は、4:10~20:10が好ましく、5:10~12:10がより好ましい。
【0080】
また、電荷輸送層は、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、レベリング剤、滑り性付与剤、耐摩耗性向上剤などの添加剤を含有してもよい。具体的には、ヒンダードフェノール化合物、ヒンダードアミン化合物、硫黄化合物、リン化合物、ベンゾフェノン化合物、シロキサン変性樹脂、シリコーンオイル、フッ素樹脂粒子、ポリスチレン樹脂粒子、ポリエチレン樹脂粒子、シリカ粒子、アルミナ粒子、窒化ホウ素粒子などが挙げられる。
【0081】
電荷輸送層の平均膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、8μm以上40μm以下であることがより好ましく、10μm以上30μm以下であることが特に好ましい。
【0082】
電荷輸送層は、上記の各材料および溶剤を含有する電荷輸送層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。塗布液に用いる溶剤としては、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤が挙げられる。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤または芳香族炭化水素系溶剤が好ましい。
【0083】
(2)単層型感光層
単層型感光層は、電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂および溶剤を含有する感光層用塗布液を調製し、この塗膜を形成し、乾燥させることで形成することができる。電荷発生物質、電荷輸送物質、樹脂としては、上記「(1)積層型感光層」における材料の例示と同様である。
【0084】
[プロセスカートリッジ、電子写真装置]
本発明の一態様に係るプロセスカートリッジは、電子写真装置本体に着脱自在であり、これまで述べてきた電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段およびクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを有する。
【0085】
また、本発明の一態様に係る電子写真装置は、これまで述べてきた電子写真感光体、帯電手段、露光手段、現像手段および転写手段を有する。
【0086】
図1に、電子写真感光体を備えたプロセスカートリッジを有する電子写真装置の概略構成の一例を示す。
【0087】
円筒状の電子写真感光体1は、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。電子写真感光体1の表面は、帯電手段3により、正または負の所定電位に帯電される。なお、図1においては、ローラ型帯電部材によるローラ帯電方式を示しているが、コロナ帯電方式、近接帯電方式、注入帯電方式などの帯電方式を採用してもよい。帯電された電子写真感光体1の表面には、露光手段(不図示)から露光光4が照射され、目的の画像情報に対応した静電潜像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5内に収容されたトナーで現像され、電子写真感光体1の表面にはトナー像が形成される。電子写真感光体1の表面に形成されたトナー像は、転写手段6により、転写材7に転写される。トナー像が転写された転写材7は、定着手段8へ搬送され、トナー像の定着処理を受け、電子写真装置の外へプリントアウトされる。電子写真装置は、転写後の電子写真感光体1の表面に残ったトナーなどの付着物を除去するための、クリーニング手段9を有していてもよい。また、クリーニング手段9を別途設けず、上記付着物を現像手段5などで除去する、所謂、クリーナーレスシステムを用いてもよい。電子写真装置は、電子写真感光体1の表面を、前露光手段(不図示)からの前露光光10により除電処理する除電機構を有していてもよい。また、該プロセスカートリッジ11を電子写真装置本体に着脱するために、レールなどの案内手段12を設けてもよい。
【0088】
本発明に係る電子写真感光体は、レーザービームプリンター、LEDプリンター、複写機、ファクシミリ、および、これらの複合機などに用いることができる。
【実施例
【0089】
以下、実施例および比較例を用いて本発明に係る電子写真感光体等についてさらに詳細に説明する。なお、本発明に係る電子写真感光体等は、その要旨を超えない限り、下記の実施例に具現化された構成のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例の記載において「部」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。
【0090】
(実施例1~16、18~41、43~49、比較例1~4)
<支持体>
支持体として直径29.9mm、長さ357.5mm、厚さ0.7mmの円筒状アルミニウム製シリンダーを用いた。
【0091】
<下引き層>
金属酸化物として酸化亜鉛粒子(比表面積:19m/g、粉体抵抗:4.7×10Ω・cm)100質量部をトルエン500質量部と撹拌混合した。これにN-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(商品名:KBM602、信越化学工業株式会社製)0.8質量部をシランカップリング剤として添加し、6時間攪拌した。その後、トルエンを減圧留去して、140℃で6時間加熱乾燥し、表面処理された酸化亜鉛粒子を得た。
次に、ポリビニルブチラール(商品名:エスレック(登録商標)B BM-1、積水化学工業株式会社製)15質量部およびブロック化イソシアネート(商品名:スミジュール3175、住友バイエルウレタン社製)15質量部を混合溶液に溶解させた。混合溶液はメチルエチルケトン73.5質量部と1-ブタノール73.5質量部の混合溶液である。この溶液に上記で調製した表面処理された酸化亜鉛粒子80.8質量部、2,3,4-トリヒドロキシベンゾフェノン(東京化成工業株式会社製)0.4質量部を加えた。その後、直径0.8mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置を用い、23℃雰囲気下で3時間分散した。分散後、以下の材料を加えて攪拌し、下引き層用塗布液を調製した。
・シリコーンオイル(商品名:SH28PA、東レダウコーニング社製):0.01質量部
・架橋ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子(商品名:TECHPOLYMER(登録商標) SSX-103、積水化成品工業株式会社製、平均一次粒子径3.1μm):5.6質量部
この下引き層用塗布液を上記支持体上に浸漬塗布し、得られた塗膜を40分間160℃で乾燥して、膜厚が18μmの下引き層を形成した。
【0092】
<電荷発生層>
下記の4つの材料を、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミルに入れ、4時間分散処理した後、酢酸エチル700質量部を加えることによって、電荷発生層用塗布液を調製した。
・CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θ±0.2°の7.4°および28.2°に強いピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン結晶(電荷発生物質):20質量部
・ポリビニルブチラール(商品名:エスレック(登録商標)B BX-1、積水化学工業株式会社製):10質量部
・下記式(A)で示される化合物:0.2質量部
・シクロヘキサノン:600質量部
この電荷発生層用塗布液を下引き層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を15分間80℃で乾燥して、膜厚0.18μmの電荷発生層を形成した。
【化8】
【0093】
<電荷輸送層>
次に電荷輸送層用塗布液を作製した。
キシレン600質量部およびジメトキシメタン200質量部の混合溶剤に、ポリカーボネート(商品名:ユーピロン(登録商標)Z400、三菱エンジニアリングプラスチックス株式会社製、ビスフェノールZ型のポリカーボネート):100質量部と、表1に示す種類の、電荷輸送物質をそれぞれ表1に示す質量部にて混合、溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。
【0094】
電荷輸送層用塗布液の調整に用いた電荷輸送物質に対応する化合物を以下に示す。
・下記式(B)で示される化合物(電荷輸送物質)
・下記式(C)で示される化合物(電荷輸送物質)
・下記式(D)で示される化合物(電荷輸送物質)
・下記式(E)で示される化合物(電荷輸送物質)
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【0095】
この電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を30分間110℃で乾燥して、膜厚18μmの電荷輸送層を形成した。
【0096】
実施例1~16、18~41、43~49、比較例1~4の感光体の電荷輸送層について、電荷輸送層に含まれる電荷輸送物質の種類と量を、表1に示す。なお、表1中、式(B)~式(E)は式(B)で示される化合物~式(E)で示される化合物を表す。
【0097】
【表1】
【0098】
<表面層>
次に、表面層用塗布液を作製した。
1-プロパノール100質量部に、表2に示す種類の、メラミン樹脂を含む粒子またはアクリル樹脂を含む粒子、式(1)で示される化合物、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物をそれぞれ表2に示す質量部にて、混合、撹拌し、表面層用塗布液を得た。
【0099】
表面層用塗布液の調製に用いたメラミン樹脂を含む粒子またはアクリル樹脂を含む粒子に対応する粒子を以下に示す。
粒子1 日本触媒株式会社製 エポスターS
(メラミンホルムアルデヒド樹脂粒子、平均粒子径0.2μm)
粒子2 日本触媒株式会社製 エポスターS6
(メラミンホルムアルデヒド樹脂粒子、平均粒子径0.4μm)
粒子3 日本触媒株式会社製 エポスターS12
(メラミンホルムアルデヒド樹脂粒子、平均粒子径1.2μm)
粒子4 積水化成品工業株式会社製 XX-160AP
(ポリメタクリル酸メチル粒子、平均粒子径0.1μm)
粒子5 積水化成品工業株式会社製 SSX-102
(ポリメタクリル酸メチル粒子、平均粒子径2.0μm)
粒子6 日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製 MG-451
(ポリスチレンアクリル粒子、平均粒子径0.1μm)
粒子7 日本ペイント・インダストリアルコーティングス株式会社製 FS-301
(ポリスチレンアクリル粒子、平均粒子径1.0μm)
【0100】
各実施例および比較例において、表面層用塗布液の調整に用いた式(1)で示される化合物に対応する化合物および重合性官能基を有する電荷輸送性化合物は、式(1)で示される化合物の例示化合物における式の番号および重合性官能基を有する電荷輸送性化合物の例示化合物における式の番号で表2に示した。ただし、式(F)は、式(1)で示される化合物の代わりに用いた下記式(F)で示されるトリメチロールプロパントリアクリレート(商品名:KAYARAD TMPTA、日本化薬株式会社製)を示す。
【化13】
【0101】
この表面層用塗布液をそれぞれ電荷輸送層上に浸漬塗布し、得られた塗膜を40℃で6分間乾燥させた。その後、窒素雰囲気中において、支持体(被照射体)を200rpmで回転させながら1.6秒間、電子線を塗膜に照射した。電子線の照射条件は、加速電圧70kVにて吸収線量8000Gyとなるように設定した。引き続き、窒素雰囲気中において25℃から120℃まで30秒かけて昇温させ、塗膜を加熱した。電子線照射およびその後の加熱時の雰囲気の酸素濃度は15ppmであった。次に、大気中において100℃で30分間加熱処理を行うことによって、膜厚5μmの表面層を形成し、電子写真感光体を作製した。
【0102】
実施例1~16、18~41、43~49、比較例1~4の感光体の表面層について、メラミン樹脂を含む粒子またはアクリル樹脂を含む粒子の質量をA、式(1)で示される化合物由来の部分の質量をB、重合性官能基を有する電荷輸送性化合物由来の部分の質量をCとしたときの、B/A、B/C、A/(A+B+C)の値を、表2に示す。
【0103】
【表2】
【0104】
[評価]
<画像流れの評価>
得られた電子写真感光体を、評価装置であるキヤノン(株)製の電子写真装置(複合機)(商品名imageRunner(商標)-ADVC5560)の改造機のシアンステーションに装着し、32.5℃/85%RH環境下における画像評価を行った。改造点は、帯電ローラから感光体に帯電する電位、および、像露光レーザーパワーの調節を可能にした点である。さらに複写機本体のヒーター、および、カセットヒーターの電源を切って使用した。
【0105】
画像評価は、以下の通り行った。印字比率5%のテストチャートを用いて、3万枚連続の画像形成を行った。画像形成終了後、複合機への給電を停止し、3日間放置した。3日間放置後に複写機に再び給電を開始し、A4横サイズ紙にて、線幅0.1mm、線間隔10mmの正方形格子画像および平仮名のいろはが繰り返された文字画像(いろは画像)を出力した。
【0106】
得られた画像について、以下の基準で画像流れレベルを評価した。本発明において、ランクA、B、およびCは画像流れの抑制効果が十分に得られており、ランクDおよびEは画像流れの抑制効果が得られていないと判断した。結果を表3に示す。
ランクA:格子画像、いろは画像共に画像欠陥が見られない
ランクB:格子画像は一部かすんでいるが、いろは画像に画像欠陥が見られない
ランクC:格子画像が一部かすんでおり、いろは画像が一部薄くなる
ランクD:格子画像が部分的に消失しており、いろは画像が全面薄くなる
ランクE:格子画像が全面消失しており、いろは画像が全面薄くなる
【0107】
<潤滑性の評価>
得られた電子写真感光体の潤滑性の評価として、回転式の摩擦摩耗試験機にて動摩擦係数の測定を行った。回転式の摩擦摩耗試験機は、電子写真感光体を支持し、回転する機構と、電子写真感光体表面に所望の角度と侵入量でクリーニングブレードを当接させて支持する機構と、を備えた装置である。クリーニングブレードを当接させて支持する機構は負荷を検知する検知手段を備えている。
クリーニングブレードにはウォーレス硬度(IRHD硬さ試験法のM法の値)が77度、反発弾性率20%のウレタンゴムブレードを用いた。
幅10mm、厚さ2mm、自由長10mmのブレードを、設定角20°、侵入量0.7mmで当接させて支持し、回転数168rpmにて電子写真感光体を回転させた。回転開始から1分後に、ブレード当接部における電子写真感光体の接線方向の負荷、および法線方向の負荷を検知手段から読み取り、接線方向の負荷を法線方向の負荷で除することで動摩擦係数を算出した。
結果を表3に示す。
【0108】
<密着性の評価>
得られた電子写真感光体の、表面層と電荷輸送層との間の密着性を、クロスカット法を用いて評価した。カッターナイフで基体に届く切れ込みを6本、1mmピッチで作成した。これと90°で交わる切れ込みを同様に6本作成し、25マスの碁盤目を作成した。碁盤目部分にセロテープ(登録商標)を強く圧着させ、テープの端を45°の角度で一気に引き剥がし、剥がれたマス目の数によって密着性を評価した。評価基準を以下とし、結果を表3に示す。
ランクA:0マス
ランクB:1~5マス
ランクC:5マス以上
【0109】
【表3】
【符号の説明】
【0110】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 転写材
8 定着手段
9 クリーニング手段
10 前露光光
11 プロセスカートリッジ
12 案内手段
図1