(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】冷媒およびその設計方法
(51)【国際特許分類】
C09K 5/04 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
C09K5/04 A
C09K5/04 E
(21)【出願番号】P 2020073423
(22)【出願日】2020-04-16
【審査請求日】2023-02-16
(73)【特許権者】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】葛山 洋平
(72)【発明者】
【氏名】塩谷 篤
(72)【発明者】
【氏名】神谷 和成
(72)【発明者】
【氏名】村上 健一
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2004/0084652(US,A1)
【文献】DOIPHODE, Pushpak, et al.,International Journal of Air-Conditioning and Refrigeration,2019年,vol. 27, no. 2,pp. 1950019-1 - 1950019-8,DOI: 10.1142/S2010132519500196
【文献】AKASAKA, Ryo, et al.,The 30th Japan Symposium on Thermophysical Properties,2009年,pp. 259 - 261 (A210)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 5/04
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
-50℃以下で利用される冷媒であって、
CO
2およびR32からなり、
前記R32は、前記CO
2および前記R32の和に対して重量比率x
1で含有され、
前記x
1は、前記R32の最低重量比率x
0よりも大きく、
前記x
0は、
凍結温度(℃)yを前記CO
2および前記R32の和に対する前記R32の重量比率xで表した式y=-56.0x-57.0の前記yに、目標とする利用温度y
0(℃)を代入して求められた値であ
り、
前記xは、0.054以上0.22以下である冷媒。
【請求項2】
-50℃以下で利用される冷媒の設計方法であって、
CO
2およびR32を混合する工程を含み、
前記CO
2および前記R32の和に対する前記R32の重量比率をx
1とし、
凍結温度(℃)yを前記CO
2および前記R32の和に対する前記R32の重量比率x(x>0)で表した式y=-56.0x-57.0の前記yに、目標とする利用温度y
0を代入して前記R32の最低重量比率x
0を求め、
前記x
1が前記x
0よりも大きくなるよう、前記x
1を設定する冷媒の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、冷媒およびその設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低温で利用する冷凍機の冷媒として、トリフルオロメタン(R23)または二酸化炭素(CO2)が用いられている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-96503号公報
【文献】特開2011-116822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
CO2を冷媒として利用する冷凍機は、例えば、蒸発温度-45℃の低温で運転され得る。しかしながら、CO2自身が-56℃で凍結に達することもあり、CO2を冷媒として利用する冷凍機では、-50℃以下での運転ができない。
【0005】
-50℃以下の低温利用を可能にする他の手段として、空気を冷媒とした冷凍機の開発が進められている。しかしながら、空気を冷媒とすることは、顕熱を利用した技術であり、冷凍機のユニットサイズが非常に大きくなる。そのため、空気を冷媒とした冷凍機は、普及には到っていない。
【0006】
-50℃以下の低温を達成させたい冷凍機では、殆どの場合、冷媒としてR23が使用される。しかしながら、R23はフロン系の冷媒であり、地球温暖化係数(GWP)が14800と非常に高い。そのため環境規制(キガリ改正)によって、R23の使用は削減される方針であり、代替が急がれている。
【0007】
特許文献1では、R23と他の冷媒(ジフルオロエチレン:R1132a)とを混合することで、GWPを1500以下にしている。しかしながら、長期的な視点でみると、GWPをさらに低くすることが望まれる。
【0008】
2種類以上の冷媒を混合して使用する場合、その混合比率は、殆どの場合、米国国立標準技術研究所(NIST)のREFPROPで計算した冷媒物性に基づいて設定されている(特許文献2参照)。
【0009】
しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果によれば、REFPROPで計算した低温領域での冷媒物性は、精度が高くないとの知見が得られている。すなわち、REFPROPを用いた従来法の冷媒設計では、冷媒の混合比率を誤る可能性がある。低温で利用する冷媒の混合比率を誤ると、目標とする利用温度で冷媒が凍結し、機械の破損に繋がる恐れがある。
【0010】
本開示は、このような事情に鑑みてなされたものであって、GWPがR23よりも低く、かつ、-50℃以下で利用可能な冷媒およびその設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本開示の冷媒およびその設計方法は以下の手段を採用する。
【0012】
本開示は、-50℃以下で利用される冷媒であって、CO2およびR32からなり、前記R32は、前記CO2および前記R32の和に対して重量比率x1で含有され、前記x1は、前記R32の最低重量比率x0よりも大きく、前記x0は、凍結温度(℃)yを前記CO2および前記R32の和に対する前記R32の重量比率xで表した式y=-56.0x-57.0の前記yに、目標とする利用温度y0(℃)を代入して求められた値であり、前記xは、0.054以上0.22以下である冷媒を提供する。
【0013】
本開示は、-50℃以下で利用される冷媒の設計方法であって、CO2およびR32を混合する工程を含み、前記CO2および前記R32の和に対する前記R32の重量比率をx1とし、凍結温度(℃)yを前記CO2および前記R32の和に対する前記R32の重量比率x(x>0)で表した式y=-56.0x-57.0の前記yに、目標とする利用温度y0を代入して前記R32の最低重量比率x0を求め、前記x1が前記x0よりも大きくなるよう、前記x1を設定する冷媒の設計方法を提供する。
【発明の効果】
【0014】
上記開示によれば、CO2にR32を混ぜることで、冷媒の凍結温度を下げられる。
【0015】
上記開示によれば、y=-56.0x-57.0の関係式は、REFPROPよりも精度よく、CO2とR32とが混合された冷媒の凍結温度を反映している。このため、R32の重量比率を誤る可能性は低く、より確実に目標とする温度で利用可能な冷媒となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】一実施形態に係る冷媒の設計方法について説明する図である。
【
図3】要素試験の結果から導き出されるR32の好適な重量比率範囲を示す図である。
【
図4】一実施形態に係る冷媒を利用した冷凍機の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本開示に係る冷媒およびその設計方法の一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0018】
(冷媒)
本実施形態に係る冷媒は、CO2およびR32(ジフルオロメタン、CH2F2)からなる混合冷媒(以降、単に冷媒と記載)である。当該冷媒は、-50℃以下で利用される。冷媒は、不可避的な不純物を含んでもよい。
【0019】
冷媒は、R32を重量比率x1で含有する。x1は、予め求めておいたR32の最低重量比率x0よりも大きい。
【0020】
R32の最低重量比率x0は、凍結温度(℃)yを、CO2およびR32の和(冷媒重量)に対するR32の重量比率xで表した式y=-56.0x-57.0(x>0)のyに、目標とする利用温度y0(℃)を代入して求められる。
【0021】
冷媒の目標とする利用温度は、-50℃以下、好ましくは-55℃以下である。また、冷媒の目標とする利用温度は、-75℃以上、好ましくは-70℃以上である。
【0022】
(冷媒の設計方法)
図1を参照して、本実施形態に係る冷媒の設計方法について説明する。
図1において、縦軸(y軸)は冷媒の凍結温度(℃)、横軸(x軸)はCO
2およびR32の和に対するR32の重量比率である。
図1には、式(1)y=-56.0x-57.0で表される直線(一点鎖線および実線)が記載されている。
【0023】
まず、式(1)のyに目標とする利用温度y0を代入し、算出されたxをx0(最低重量比率)とする。目標とする利用温度y0で冷媒を凍結させないようにするためには、R32の重量比率x1をx0よりも大きくする必要がある。よって、R32の重量比率x1は、最低重量比率x0よりも大きくなるよう設定する。
【0024】
上記で設定したR32の重量比率x1となるよう、CO2およびR32を混合する。
【0025】
(要素試験)
CO2およびR32からなる混合冷媒(以降、単に冷媒と記載)について、要素試験を実施し、凍結温度を確認した。
【0026】
要素試験は、R32の重量比率が0%から20%の範囲内で確認した。
【0027】
図2に、要素試験の結果を示す。同図は、x軸とy軸とが直交するx-y座標系のグラフである。同図において、横軸(x軸)はCO
2およびR32の和に対するR32の重量比率、縦軸(y軸)は冷媒の凍結温度(℃)、〇は要素試験結果のプロット、実線は要素試験結果に基づく線形近似曲線(近似式:y=-56.0x-57.0)である。
【0028】
図2には、参考として、米国国立標準技術研究所(NIST)のREFPROPで計算した冷媒物性を示す(破線:y=-112.9x-62.0)。
図2によれば、要素試験の結果と、REFPROPで計算した冷媒物性とに誤差があることが確認された。
【0029】
例えば、R32の重量比率が0.03の冷媒の場合、REFPROPの計算に基づくと凍結温度は-65℃程度との結果であるが、要素試験によれば-60℃程度で凍結することがわかる。
【0030】
例えば、R32の重量比率が0.2の冷媒の場合、REFPROPの計算に基づくと凍結温度は-84.5℃程度との結果であるが、要素試験によれば-68℃程度で凍結することがわかる。凍結温度の誤差は、15℃以上であった。
【0031】
上記結果から、少なくともCO2およびR32の冷媒に関しては、REFPROPによる計算結果が、正確な凍結温度を反映していないという事実が確認された。
【0032】
REFPROPでは、Helmholtz状態方程式をもとに冷媒の物性が計算される。Helmholtz状態方程式は、内部に冷媒の飽和密度、飽和蒸気圧、および音速などのパラメータを必要とする。冷媒におけるこれらのパラメータの数値を正確に導出するためには実測するしかないが、低温で使用する冷媒のニーズが少ないため、実測は行われていないのが現状である。すなわち、REFPROPでは、他の温度領域のデータに基づき、外挿により低温領域(-50℃以下)の冷媒物性をシミュレートしている。そのため、実際の冷媒物性と誤差が生じたものと考えられる。
【0033】
y=-56.0x-57.0で表される直線は、要素試験結果に基づいて求めた凍結温度線である。よって、この直線を基準としてR32の重量比率を設定することで、より確実に利用温度で凍結しない冷媒を設計できる。
【0034】
R32の重量比率を、y=-56.0x-57.0で表される直線よりも右側(重量比率が大きくなる側)の領域内で設定することで、凍結温度(y)において凍結しない冷媒となる。上記直線の右側の領域とは、すなわち、上記直線の傾きが-56.0より大きくなる領域である。これにより、CO2およびR32の冷媒を-50℃以下で利用することが可能となる。
【0035】
冷媒の凍結温度(y)は、目標とする利用温度よりも5℃以上低いことが好ましい。例えば、目標とする利用温度が-60℃であれば、冷媒の凍結温度が-65℃程度となるように設計する。
図2によれば、冷媒の凍結温度を-65℃以下にするためには、少なくともR32の重量比率を0.143以上に設定する必要がある。
【0036】
図3に、要素試験の結果から導き出されるR32の好適な重量比率範囲を示す。同図において
、横軸(x軸)はCO
2およびR32の和に対するR32の重量比率、縦軸(y軸)は冷媒の凍結温度(℃)、〇は要素試験結果のプロット、実線は要素試験結果のプロットに基づいた線形近似曲線(近似式:y=-56.0x-57.0)である。
【0037】
R32の重量比率が0.054(5.4wt%)以上であれば、凍結温度が-60℃以下の冷媒となる。R32の重量比率が0.22(22wt%)以下であれば、GWPが150以下の冷媒となる。
【0038】
例えば、冷媒の総重量(CO2とR32との和)が100gの場合、R32を5.4g~22gの比率で混合することで、-55℃以下で利用可能であり、かつ、GWPが150以下である冷媒となる。このような冷媒は、今後の環境記載にも対応できるため、長期的な利用が見込める。
【0039】
日本国経済産業省が定める一般高圧ガス保安規則によれば、R32の重量比率が73wt%以上である場合に可燃性とみなされる。CO2とR32とが上記範囲で混合された冷媒は、爆発下限界が72%以上であり、不燃冷媒となる。そのため、安全性の観点からは、適用しやすい。
【0040】
図4に、本実施形態に係る冷媒を利用した冷凍機の構成を例示する。
図4の冷凍機1は、高温側冷凍サイクル2および低温側冷凍サイクル3を備える。高温側冷凍サイクル2と低温側冷凍サイクル3とは、カスケード熱交換器4により熱的に接続されている。
【0041】
高温側冷凍サイクル2および低温側冷凍サイクル3には、それぞれ独立して冷媒を循環させることができる。高温側冷凍サイクル2内には、冷媒としてCO2が充填されている。低温側冷凍サイクル3内には、冷媒として本実施形態に係るCO2およびR32からなる冷媒が充填されている。
【0042】
高温側冷凍サイクル2は、第1圧縮機5、凝縮器6、第1副膨張弁7、第1気液分離器(レシーバ)8、第1主膨張弁9、およびカスケード熱交換器4で構成され、これらの構成が順次、配管P1~6で接続されている。第1圧縮機5と凝縮器6とを接続する配管P1、およびカスケード熱交換器4と第1圧縮機5とを接続する配管P6には、第1四方弁10が設けられている。第1気液分離器8と第1圧縮機5とは、第1気液分離器8で分離された気体を第1圧縮機5へと導く配管P7で接続されている。
【0043】
低温側冷凍サイクル3は、第2圧縮機11、カスケード熱交換器4、第2副膨張弁12、第2気液分離器(レシーバ)13、第2主膨張弁14、および蒸発器15を備え、これらの構成が順次、配管P8~13で接続されている。第2圧縮機11とカスケード熱交換器4とを接続する配管P8、および蒸発器15と第2圧縮機11とを接続する配管P13には、第2四方弁16が設けられている。第2気液分離器13と第2圧縮機11とは、第2気液分離器13で分離された気体を第2圧縮機11へと導く配管P14で接続されている。
【0044】
図4に示す冷凍機1は、低温側冷凍サイクル3内に本実施形態に係る方法で設計した冷媒を充填することで、-50℃以下でも利用可能となる。
【0045】
なお、第1気液分離器8および第2気液分離器13は、それぞれエコノマイザ熱交換器(不図示)に替えてもよい。気液分離様式では、分離した気体を圧縮機に注入するため、冷却量が小さくなる。一方、エコノマイザ熱交換器では、熱交換量を調整することで、圧縮機に注入する冷媒の乾き度を1未満(液および気体の二相冷媒)にできる。これにより、冷却量を増やすことができ、第1圧縮機5および第2圧縮機11の吐出温度をより下げられる。
【0046】
<付記>
以上説明した実施形態に記載の冷媒およびその設計方法ならびに冷媒を充填した冷凍機は例えば以下のように把握される。
【0047】
本開示に係る冷媒は、-50℃以下で利用される冷媒であって、CO2およびR32からなり、前記R32は、前記CO2および前記R32の和に対して重量比率x1で含有され、前記x1は、前記R32の最低重量比率x0よりも大きく、前記x0は、凍結温度(℃)yを前記CO2および前記R32の和に対する前記R32の重量比率xで表した式y=-56.0x-57.0の前記yに、目標とする利用温度y0(℃)を代入して求められた値である。
【0048】
また、本開示に係る冷媒の設計方法は、-50℃以下で利用される冷媒の設計方法であって、CO2およびR32を混合する工程を含み、前記CO2および前記R32の和に対する前記R32の重量比率をx1とし、凍結温度(℃)yを前記CO2および前記R32の和に対する前記R32の重量比率x(x>0)で表した式y=-56.0x-57.0の前記yに、目標とする利用温度y0を代入して前記R32の最低重量比率x0を求め、前記x1が前記x0よりも大きくなるよう、前記x1を設定する。
【0049】
上記開示に係る冷媒は、CO2およびR32からなる混合冷媒である。CO2にR32を混ぜることで、冷媒の凍結温度を下げられる。
【0050】
上記式は、CO2およびR32の混合冷媒の凍結温度を実測した結果に基づき導き出された関係式である。よって、この関係式を満たす冷媒の凍結温度は、REFPROPの計算で求めた冷媒物性よりも正確である。このため、R32の重量比率を誤る可能性は低く、より確実に-50℃以下で利用可能な冷媒となる。
【0051】
上記開示において、冷媒の目標とする利用温度は、-50℃以下、好ましくは-55℃以下である。また、冷媒の目標とする利用温度は、-75℃以上、好ましくは-70℃以上である。
【0052】
上記開示の一態様において、前記xは、0.054以上0.22以下であることが望ましい。
【0053】
R32の重量比率(x)を0.054以上にすることで、冷媒の凍結温度は-60℃以下になる。このような冷媒は、CO2のみの単一冷媒では実現不可能な-55℃以下での利用を可能にする。
【0054】
CO2のGWPは、1である。R32のGWPは675である。R32の重量比率(x)を0.22以下にすることで、GWP150以下の冷媒となる。
【符号の説明】
【0055】
1 冷凍機
2 高温側冷凍サイクル
3 低温側冷凍サイクル
4 カスケード熱交換器
5 第1圧縮機
6 凝縮器
7 第1副膨張弁
8 第1気液分離器
9 第1主膨張弁
10 第1四方弁
11 第2圧縮機
12 第2副膨張弁
13 第2気液分離器
14 第2主膨張弁
15 蒸発器
16 第2四方弁