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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】軌陸車
(51)【国際特許分類】
   B61D 15/00 20060101AFI20240408BHJP
   B60F 1/04 20060101ALI20240408BHJP
   B66F 9/06 20060101ALI20240408BHJP
   B66F 11/04 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B61D15/00 C
B60F1/04
B66F9/06 P
B66F11/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020094433
(22)【出願日】2020-05-29
(65)【公開番号】P2021187297
(43)【公開日】2021-12-13
【審査請求日】2023-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】591285273
【氏名又は名称】西日本電気システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000196587
【氏名又は名称】西日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100148138
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 義輝
(72)【発明者】
【氏名】小山 広明
(72)【発明者】
【氏名】小林 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】三津野 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 典之
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘毅
【審査官】長谷井 雅昭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0041739(US,A1)
【文献】特開2007-246180(JP,A)
【文献】特開2001-063561(JP,A)
【文献】実開昭57-025900(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第1949612(CN,A)
【文献】特開2002-308578(JP,A)
【文献】特開平08-225298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61D 15/00
B60F 1/04
B66F 9/06
B66F 11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャブとキャブの後方に設けられた荷台(3)を備える車両(2)と、
荷台(3)上に設置され、昇降構造により昇降操作される作業台(10)と、
荷台(3)上の作業台(10)とは異なる位置に設置されて、軌道上方に吊設された架線(W)を保持部(35)で仮保持して水平方向および垂直方向に退避操作する架線支持装置(9)と、
を備え、
作業台(10)の昇降操作に拘束されることなく、架線支持装置(9)の保持部(35)を独立して変位させることができるように構成されており、
架線支持装置(9)は、荷台(3)に固定されるベースフレーム(30)と、当該ベースフレーム(30)の右方に配されて、左右方向に揺動可能に支持される上下伸縮自在な第1支持杆(31)と、当該ベースフレーム(30)の左方に配されて、左右方向に揺動可能に支持される上下伸縮自在な第2支持杆(32)と、第1支持杆(31)を左右方向に揺動操作する第1操作体(33)と、第2支持杆(32)を左右方向に揺動操作する第2操作体(34)と、各支持杆(31・32)にそれぞれ連結されて、架線(W)を仮保持する保持部(35)とを備えており、
第1操作体(33)と第2操作体(34)のそれぞれは、シリンダ本体(60)とピストンロッド(61)とからなる揺動シリンダ(62)で構成されており、揺動シリンダ(62)の伸縮操作により第1および第2の支持杆(31・32)は揺動操作されるように構成されており、
第1操作体(33)は、ベースフレーム(30)の左辺後寄りに固定された第1フレームブラケット(63)と、第1支持杆(31)の左側に固定された第1ブームブラケット(64)との間に左右方向に指向して設けられており、
第2操作体(34)は、ベースフレーム(30)の右辺前寄りに固定された第2フレームブラケット(65)と、第2支持杆(32)の右側面に固定された第2ブームブラケット(66)との間に左右方向に指向して設けられており、
第1支持杆(31)と第2支持杆(32)とは、前後に位置ずれした状態で左右に並べて配されており、
車両(2)を左右方向から見たとき、第1支持杆(31)の前後の外郭縁で規定される投影領域と、第2支持杆(32)の前後の外郭縁で規定される投影領域とが一部重畳する状態で、両支持杆(31・32)が設けられており、
両支持杆(31・32)の前記投影領域が重畳する部分を除く第1支持杆(31)の投影領域に、第1操作体(33)が配され、
両支持杆(31・32)の前記投影領域が重畳する部分を除く第2支持杆(32)の投影領域に、第2操作体(34)が配されていることを特徴とする軌陸車。
【請求項2】
保持部(35)は、上方から架線(W)を受け入れるフック部(72)と、フック部(72)から水平方向に延設されるアーム部(73)とを備えており、
アーム部(73)が、各支持杆(31・32)の上端部に垂直軸からなる回動軸(75)で揺動可能に連結されている請求項1に記載の軌陸車。
【請求項3】
各支持杆(31・32)と各アーム部(73)との間に、保持部(35)を揺動不能に保持するロック構造(79)が設けられている請求項2に記載の軌陸車
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道に沿って設けられる架線設備の保守作業等に使用される軌陸車に関し、とくに架線を退避操作するための架線支持装置を備える軌陸車に関する。
【背景技術】
【0002】
架線の退避操作を行う架線支持装置を備える軌陸車は、例えば特許文献1および特許文献2に開示されている。特許文献1の軌陸車(高所作業車)では、その荷台に設けられた昇降及び旋回が可能な作業台(第一作業台)の上に、架線を仮保持できる架線支持装置が設けられている。該架線支持装置は、垂直及び水平方向に移動可能に構成されている。特許文献2の軌陸車(高所作業車)は、車両に取付けた荷台(基台)と、荷台に取付けた昇降手段と、昇降手段の上端に取付けた作業台(プラットホーム)と、ウインチ装置と電線押上げ具を備える架線支持装置などで構成されている。ウインチ装置は、その基端部のウインチサポートが作業台に取付けられており、電線押上げ具は、ウインチサポートの上端部付近に取付けられている。電線押上げ具が備える電線ガイド部は、ウインチ装置より上方にスライド自在に構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平8-225298号公報
【文献】特開2002-308578号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1および2の軌陸車では、作業に適した高さ位置に作業台を上昇させたのち、架線支持装置で架線を仮保持して水平あるいは垂直方向に退避操作することにより、作業員や作業装置の動作空間を確保できるので、効率よく作業を行うことができ、また、作業装置の接触による架線の断線等の事故を抑制することができる。しかし、特許文献1および2の軌陸車では、作業台に架線支持装置が設置されているため、作業台の昇降操作に伴って、架線支持装置の位置が上下に変位する。そのため、例えば架線を支持するブラケットの交換を行う一連の作業において、作業台の高さ位置を変更する毎に、架線支持装置による架線の仮保持の解除操作と再度の退避操作とを行う必要があり、こうした再退避操作に手間と時間を要する。
【0005】
本発明は、作業台と架線支持装置とを備える軌陸車において、一連の作業途中における架線支持装置による架線の再退避操作の手間を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の軌陸車1は、キャブとキャブの後方に設けられた荷台3を備える車両2と、荷台3上に設置され、昇降構造により昇降操作される作業台10と、荷台3上の作業台10とは異なる位置に設置されて、軌道上方に吊設された架線Wを保持部35で仮保持して水平方向および垂直方向に退避操作する架線支持装置9とを備える作業台10の昇降操作に拘束されることなく、架線支持装置9の保持部35を独立して変位させることができるように構成されている。架線支持装置9は、荷台3に固定されるベースフレーム30と、当該ベースフレーム30の右方に配されて、左右方向に揺動可能に支持される上下伸縮自在な第1支持杆31と、当該ベースフレーム30の左方に配されて、左右方向に揺動可能に支持される上下伸縮自在な第2支持杆32と、第1支持杆31を左右方向に揺動操作する第1操作体33と、第2支持杆32を左右方向に揺動操作する第2操作体34と、各支持杆31・32にそれぞれ連結されて、架線Wを仮保持する保持部35とを備える。第1操作体33と第2操作体34のそれぞれは、シリンダ本体60とピストンロッド61とからなる揺動シリンダ62で構成されており、揺動シリンダ62の伸縮操作により第1および第2の支持杆31・32は揺動操作されるように構成されている。第1操作体33は、ベースフレーム30の左辺後寄りに固定された第1フレームブラケット63と、第1支持杆31の左側に固定された第1ブームブラケット64との間に左右方向に指向して設けられている。第2操作体34は、ベースフレーム30の右辺前寄りに固定された第2フレームブラケット65と、第2支持杆32の右側面に固定された第2ブームブラケット66との間に左右方向に指向して設けられている。第1支持杆31と第2支持杆32とは、前後に位置ずれした状態で左右に並べて配されている。車両2を左右方向から見たとき、第1支持杆31の前後の外郭縁で規定される投影領域と、第2支持杆32の前後の外郭縁で規定される投影領域とが一部重畳する状態で、両支持杆31・32は設けられている。両支持杆31・32の前記投影領域が重畳する部分を除く第1支持杆31の投影領域に、第1操作体33が配され、両支持杆31・32の前記投影領域が重畳する部分を除く第2支持杆32の投影領域に、第2操作体34が配されている。
【0013】
保持部35は、上方から架線Wを受け入れるフック部72と、フック部72から水平方向に延設されるアーム部73とを備えている。アーム部73は、各支持杆31・32の上端部に垂直軸からなる回動軸75で揺動可能に連結されている。
【0014】
各支持杆31・32と各アーム部73との間に、保持部35を揺動不能に保持するロック構造79が設けられている。
【発明の効果】
【0015】
本発明においては、軌陸車1が備える作業台10と架線支持装置9とを、車両2の荷台3上の異なる位置に設置して、作業台10の昇降操作に拘束されることなく、架線支持装置9の保持部35を独立して変位させることができるように構成した。こうした軌陸車1によれば、保持部35の位置に影響を与えることなく、作業台10を作業に適した高さ位置に自在に昇降操作することができる。従って、本発明の軌陸車1によれば、従来の軌陸車のように、一連の作業途中において作業台を昇降操作する都度架線の再退避操作を行う必要がなく、架線支持装置による架線の再退避操作の手間を解消することができる。
【0016】
架線支持装置9は、揺動可能に支持される上下伸縮自在な第1および第2の支持杆31・32と、各支持杆31・32をそれぞれ左右方向に揺動操作する第1および第2の操作体33・34と、各支持杆31・32にそれぞれ連結されて、架線Wを仮保持する保持部35とを備えるように構成した。こうした架線支持装置9によれば、例えばトロリ線T1が吊架線T2に懸架されハンガイヤーで支持されている架線Wにおいては、各線T1・T2を保持部35でそれぞれ仮保持した状態で、第1および第2の支持杆31・32を伸縮操作および揺動操作することにより、トロリ線T1と吊架線T2とを垂直方向および略水平方向にそれぞれ変位させて退避操作できる。また、2本のトロリ線T1が並列に配されたエアセクション部分の架線Wにおいては、保持部35でそれぞれ仮保持した各トロリ線T1を個別に垂直方向および略水平方向に変位させて退避操作できる。従来の軌陸車においては、架線Wが2本で構成されている場合、1本は架線支持装置で退避操作し、残る1本は例えば架線Wと電柱間に掛け渡されたラチェット式の荷締機等で退避操作する必要があったが、本発明の軌陸車1では、2本で構成された架線Wを架線支持装置9で退避操作できるので、少ない手間で架線Wの退避操作を行える。
【0017】
第1支持杆31と第2支持杆32とは、前後に位置ずれした状態で左右に並べて配されており、車両2の平面視において、第1支持杆31と第2操作体34、および第2支持杆32と第1操作体33が、それぞれ前後に重なるように配されていると、第1支持杆31と第2支持杆32、および第1操作体33と第2操作体34をそれぞれ互い違いにまとめて設けることができるので、前記4者31~34が左右方向に並べて配されている場合に比べて、架線支持装置9の左右サイズのコンパクト化を図ることができる。また、前記4者31~34が前後方向に並べて配されている場合に比べて、架線支持装置9の前後サイズのコンパクト化を図ることができる。従って、架線支持装置9の左右サイズあるいは前後サイズの一方が大型化するのを防止できる。なお、第1と第2の支持杆31・32が前後に隣り合って配されている場合、両支持杆31・32間に他物が挟まる、あるいは各支持杆31・32が前後に傾動した場合に支持杆31・32どうしが接触する等の不具合が生じるが、本発明の軌陸車1では、前記不具合を回避することができる。
【0018】
車両2を左右方向から見たとき、第1支持杆31の前後の外郭縁で規定される投影領域と、第2支持杆32の前後の外郭縁で規定される投影領域とが一部重畳する状態で、両支持杆31・32が設けられていると、両支持杆31・32が重なる分だけ、両支持杆31・32を合わせた前後方向の寸法を小さくできるので、架線支持装置9の前後サイズのさらなるコンパクト化を図ることができる。
【0019】
両支持杆31・32の前記両投影領域が重畳する部分を除く第1支持杆31の投影領域および第2支持杆32の投影領域に、第1操作体33と第2操作体34とがそれぞれ配されていると、両操作体33・34が前側および後側に突出するのを防ぐことができるので、架線支持装置9の前後サイズが大型化するのを阻止できる。
【0020】
架線支持装置9が、荷台3に固定されて両支持杆31・32を軸支するベースフレーム30を備え、第1操作体33が、ベースフレーム30と第1支持杆31との間に配され、第2操作体34が、ベースフレーム30と第2支持杆32との間に配されていると、架線支持装置9をひとつのユニットとして取り扱うことができるので、荷台3上への架線支持装置9の設置あるいは取外しの容易化を図り、軌陸車1の製造あるいは整備に要するコストを低減することができる。
【0021】
各操作体33・34が、それぞれ流体圧シリンダからなる揺動シリンダ62で構成され、揺動シリンダ62の伸縮操作で各支持杆31・32が揺動操作されるように構成されていると、例えばモータと、該モータの動力を伝動するギヤ伝動機構とで揺動操作する場合に比べて、第1操作体33および第2操作体34の構造を簡素化することができるので、架線支持装置9が大型化するのを抑えることができる。また、架線支持装置9が複雑化するのを回避して、全体コストを削減できる。
【0022】
保持部35が、上方から架線Wを受け入れるフック部72と、フック部72から水平方向に延設されるアーム部73とを備え、該アーム部73が、各支持杆31・32の上端部に垂直軸からなる回動軸75で揺動可能に連結されていると、軌道の曲線部において折線状に吊持された架線Wの伸び方向に対応して、フック部72の向きを変更できるので、架線Wをフック部72で的確に仮保持できる。
【0023】
各支持杆31・32と各アーム部73との間に、保持部35を揺動不能に保持するロック構造79が設けられていると、架線Wの退避操作時に保持部35に外力が作用するような場合であっても、フック部72の姿勢を維持し続けることができるので、フック部72による架線Wの仮保持状態を適正に維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る軌陸車の要部を示す縦断正面図であり、図2におけるB-B線断面図である。
図2】軌陸車の全体を示す側面図である。
図3】架線支持装置の揺動構造を示す横断平面図である。
図4図1におけるA-A線断面図である。
図5】保持部を示す平面図である。
図6図5におけるC-C線断面図である。
図7】軌陸車の全体を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(実施例) 図1から図7に、本発明に係る軌陸車の実施例を示す。本実施例における前後、左右、上下とは、図1から図3に示す交差矢印と、各矢印の近傍に表記した前後、左右、上下の表示に従う。図2に示すように軌陸車1は、トラック型の車両2をベースに構成されており、その後部に荷台3を備えている。車両2は、道路上を走行するためのゴムタイヤを有する車輪4と、レール(軌道)R上を走行するための金属からなる軌道走行輪5とを備えている。軌道走行輪5はその下部が車輪4よりも下方に位置する走行位置と、車輪4よりも上方に位置する収納位置とに出退操作できる。
【0026】
荷台3上には、油圧装置8、架線支持装置9、作業台10、およびクレーン装置11が、前から後に向かって記載順に設置されており、先の軌道走行輪5の出退操作、架線支持装置9、作業台10、およびクレーン装置11等は油圧装置8から供給される加圧油で動作するように構成されている。油圧装置8は、車両2のエンジン(図示していない)で駆動される。
【0027】
作業台10は、平板状の台本体14と、該台本体14の台面(上面)周縁に立設される落下防護柵15とを備えており、荷台3に固定される台枠16上に設けられた昇降構造で支持されている。昇降構造は、後端が台枠16に回動自在に連結され、前端が台本体14でスライド自在に支持された第1リンク17と、後端が台本体14に回動自在に連結され、前端が台枠16でスライド自在に支持された第2リンク18と、両リンク17・18の長さ方向の中途部どうしを軸支する支点軸19と、台枠16と第1リンク17との間に設けられて、第1リンク17を傾動操作する油圧シリンダからなる昇降シリンダ20などで構成されている。昇降シリンダ20を伸長させると、第1および第2リンク17・18が横臥姿勢から起立姿勢へと姿勢変更され作業台10が上昇する。逆に、昇降シリンダ20を収縮させると、第1および第2リンク17・18が起立姿勢から横臥姿勢へと姿勢変更され作業台10が下降する。
【0028】
クレーン装置11は、荷台3に固定される回転台23と、該回転台23で揺動支持される伸縮可能な多段ブーム24と、多段ブーム24で吊持ワイヤ25を介して吊持されるフック26と、ワイヤ巻取り装置(図示していない)などで構成されている。ワイヤ巻取り装置から吊持ワイヤ25を繰り出すことによりフック26が下降し、ワイヤ巻取り装置で吊持ワイヤ25を巻き取ることによりフック26が上昇する。クレーン装置11は資材車から作業に必要な資材等を吊り上げるために設けられている。
【0029】
図1に示すように架線支持装置9は、荷台3に固定されるベースフレーム30と、該ベースフレーム30で揺動可能に支持される第1支持杆31および第2支持杆32と、第1および第2の支持杆31・32をそれぞれ車両2の左右方向に揺動操作する第1操作体33および第2操作体34と、各支持杆31・32の揺動先端(上端部)に連結される保持部35などを備えている。各支持杆31・32は、車両2の左右方向の中央を間にして右側に第1支持杆31が配置され、左側に第2支持杆32が配置される。このように構成した架線支持装置9を、車両2の荷台3上の作業台10とは異なる位置に設置したので、作業台10の昇降操作に拘束されることなく、架線支持装置9の保持部35を独立して変位させることができる。
【0030】
図3および図4に示すようにベースフレーム30は、両支持杆31・32をそれぞれ揺動自在に軸支する支持フレーム38と、両支持杆31・32を左右揺動自在かつ前後傾動不能にガイドするガイドフレーム39とで構成されている。支持フレーム38はベースプレート40と、該ベースプレート40の上面の前後に立設される前後壁41・42とを備えており、該前後壁41・42の間に、第1および第2の支持杆31・32を揺動可能に支持する第1および第2の支持軸43・44が設けられる(図1参照)。ガイドフレーム39は、支持フレーム38の上方に配置されるガイド枠45と、該ガイド枠45をベースプレート40に固定する固定脚46とで構成されている。ガイド枠45は、平面視で左右方向に長い四角枠状に形成されており、ガイド枠45の各角部から固定脚46がそれぞれ下方に向かって延設され、その下端がベースプレート40に固定されている。
【0031】
図1および図3に示すように、第1支持杆31および第2支持杆32はそれぞれテレスコピック機構で上下伸縮自在に構成されている。第1支持杆31は、第1支持軸43で左右揺動可能に軸支される基端ブーム48と、該基端ブーム48で出退スライド案内される中間ブーム49と、該中間ブーム49で出退スライド案内される先端ブーム50と、第1支持杆31を伸縮操作するブーム伸縮構造とで構成されている。各ブーム48・49・50は四角筒状に形成されている。ブーム伸縮構造は、基端ブーム48と中間ブーム49との間に設けられる油圧シリンダからなる伸縮シリンダ51と、基端ブーム48と先端ブーム50との間に設けられる同調ワイヤ52とを備えている。伸縮シリンダ51を伸長させると、中間ブーム49が進出し、さらに中間ブーム49の進出に同調して同調ワイヤ52により先端ブーム50が進出して、第1支持杆31の全長が長くなる。逆に、伸縮シリンダ51を収縮させると、中間ブーム49が退入し、さらに中間ブーム49の退入に同調して同調ワイヤ52により先端ブーム50が退入して、第1支持杆31の全長が短くなる。
【0032】
第2支持杆32は、第2支持軸44で左右揺動可能に軸支される基端ブーム55と、該基端ブーム55で出退スライド案内される先端ブーム56と、第2支持杆32を伸縮操作するブーム伸縮構造とで構成されている。各ブーム55・56は四角筒状に形成されている。ブーム伸縮構造は、基端ブーム55と先端ブーム56との間に設けられる油圧シリンダからなる伸縮シリンダ57で構成されている。伸縮シリンダ57を伸長させると、先端ブーム56が進出して、第2支持杆32の全長が長くなる。逆に、伸縮シリンダ57を収縮させると、先端ブーム56が退入して、第2支持杆32の全長が短くなる。第1支持杆31の基端ブーム48および第2支持杆32の基端ブーム55の下端には、前後方向に貫通する軸受ボス58がそれぞれ設けられており、各軸受ボス58に第1支持軸43と第2支持軸44がそれぞれ挿通され、両支持杆31・32は揺動可能に支持される。
【0033】
図3および図4に示すように、両支持杆31・32は、平面視における前後方向の中心位置が前後に位置ずれした状態で配置されており、第1支持杆31は第2支持杆32よりも後寄りに配置される。また、車両2を左右方向から見たとき、第1支持杆31の前後の外郭縁で規定される投影領域と、第2支持杆32の前後の外郭縁で規定される投影領域とが一部重畳する状態で、両支持杆31・32が配置されている。さらに、第1支持杆31と第2操作体34、および第2支持杆32と第1操作体33は、それぞれ前後に並べて配置されて、それぞれ互い違いにまとめて設けられている。
【0034】
図1および図3に示すように第1操作体33および第2操作体34は、それぞれシリンダ本体60とピストンロッド61とで構成される油圧(流体圧)シリンダからなる揺動シリンダ62で構成されている。第1操作体33は、第2支持杆32の後側においてベースフレーム30と第1支持杆31との間に配置されている。具体的には、第1操作体33は、ガイド枠45の左辺後寄りに固定された第1フレームブラケット63と、基端ブーム48の左側面に固定された第1ブームブラケット64との間に設けられており、第1フレームブラケット63にシリンダ本体60の基端部が回動自在に連結され、第1ブームブラケット64にピストンロッド61の先端が回動自在に連結されている。揺動シリンダ62(第1操作体33)を伸長させると、第1支持杆31が右方へと揺動操作され、揺動シリンダ62を収縮させると、第1支持杆31が左方へと揺動操作される。
【0035】
第2操作体34は、第1支持杆31の前側においてベースフレーム30と第2支持杆32との間に配置されている。具体的には、第2操作体34は、ガイド枠45の右辺前寄りに固定された第2フレームブラケット65と、基端ブーム55の右側面に固定された第2ブームブラケット66との間に設けられており、第2フレームブラケット65にシリンダ本体60の基端部が回動自在に連結され、第2ブームブラケット66にピストンロッド61の先端が回動自在に連結されている。揺動シリンダ62(第2操作体34)を伸長させると、第2支持杆32が左方へと揺動操作され、揺動シリンダ62を収縮させると、第2支持杆32が右方へと揺動操作される。
【0036】
第1操作体33を構成する揺動シリンダ62は、両支持杆31・32の前記投影領域が重畳する部分を除く第1支持杆31の投影領域に配置されている。また、第2操作体34を構成する揺動シリンダ62は、両支持杆31・32の前記両投影領域が重畳する部分を除く第2支持杆32の投影領域に配置されている。直立姿勢における各支持杆31・32の中心軸線と、揺動シリンダ62の中心軸とで規定される交差角度は、50度以上に設定する。これは、揺動シリンダ62により両支持杆31・32が受ける作用圧の垂直(上下)方向の分力よりも、水平(左右)方向の分力を大きくするためである。このように水平方向の分力を大きくすることで比較的低い作動油圧であっても、両支持杆31・32を軽快に揺動操作できる。
【0037】
両支持杆31・32を、左右方向にスムーズに揺動操作し、さらに前後方向の傾動を規制するために、ガイド枠45の枠内周面にガイド構造が設けられている。図3および図4に示すようにガイド構造は、各基端ブーム48・55の前後面が摺接する前後一対のスライドブロック67で構成されており、各スライドブロック67は硬度の高い樹脂材で形成された断面が長方形状の棒材からなる。第1支持杆31用の前側のスライドブロック67は、ガイド枠45の枠内周面の右前に固定したスペーサ68に装着されており、後側のスライドブロック67はガイド枠45の枠内周面に装着されている。第2支持杆32用の前側のスライドブロック67は、ガイド枠45の枠内周面に装着されており、後側のスライドブロック67はガイド枠45の枠内周面の左後に装着したスペーサ68に固定されている。各スライドブロック67は着脱可能に装着されており、摩耗した際に交換できるようになっている。
【0038】
図1および図5に示すように、両支持杆31・32の揺動先端(上端部)には、架線Wを仮保持する保持部35が設けられている。保持部35は、第1支持杆31の先端ブーム50および第2支持杆32の先端ブーム56の先端面に固定された保持ベース71に連結されている。図5および図6に示すように第1支持杆31の保持部35は、上方から架線Wを受け入れるフック部72と、該フック部72から延設され、保持ベース71に連結されるアーム部73と、フック部72とアーム部73とに跨って設けられる補強リブ74とを備えている。フック部72は、上方が開口するU字状に形成されており、フック部72の一端側面から水平方向にアーム部73が延設されている。アーム部73の遊端は、フック部72が第1支持杆31の左側に位置する状態で、保持ベース71の上面に垂直軸からなる回動軸75で連結されており、これにより、保持部35は回動軸75で第1支持杆31の伸び方向を中心軸にして揺動できる。フック部72の内面には、架線Wの保護および絶縁を担う樹脂製の保護ブロック76が設けられている。
【0039】
保持ベース71とアーム部73との間に、保持部35の揺動を規制するロック構造79が設けられている。ロック構造79は、保持ベース71に形成された5個のロック孔80と、アーム部73に形成される挿通孔81と、挿通孔81を介してロック孔80に差込まれる、アイボルト型のロックピン82とで構成されている。ロック孔80は、回動軸75を中心とする円弧線に沿って等間隔置きに形成されている。ロック孔80および挿通孔81の直径は、ロックピン82の直径よりも僅かに大きく形成されている。ロックピン82を抜き取り、異なるロック孔80に挿通孔81を位置合わせしたのち、ロックピン82を挿通孔81およびロック孔80に差込むことにより、保持部35の指向方向を変更したうえで揺動不能にロックできる。なお、ロックピン82の落下を防止するために、ロックピン82はチェーン等でアーム部73または回動軸75に連結しておくことが望ましい。
【0040】
第2支持杆32に連結される保持部35も第1支持杆31のものと同様の構成であるが、フック部72の深さが第1支持杆31の保持部35よりも浅く設定される点と、保持部35およびロック構造79が第1支持杆31とは左右線対称に設けられる点などが異なる。第1支持杆31の保持部35と、第2支持杆32の保持部35とは向かい合う状態で配置される。
【0041】
ここで、トロリ線T1が吊架線T2に懸架されハンガイヤー(図示していない)で支持されている架線Wの退避操作について説明する。作業はトロリ線T1および吊架線T2が固定される可動ブラケットMの交換作業であり、架線Wを退避操作することにより、可動ブラケットMの着脱に必要な作業空間を確保する。まず、両支持杆31・32の保持部35がトロリ線T1よりも下方の初期位置にある状態で車両2を作業位置に走行移動させ停止させる(図2参照)。この状態で、第1支持杆31を伸縮操作および揺動操作して、フック部72の開口部分を吊架線T2の下方に位置させ、さらに第1支持杆31を伸長操作してフック部72の内底面の保護ブロック76で吊架線T2を受止め仮保持する。次いで第2支持杆32を伸縮操作および揺動操作して、フック部72の開口部分をトロリ線T1の下方に位置させ、さらに第2支持杆32を伸長操作してフック部72の内底面の保護ブロック76でトロリ線T1を受止め仮保持する。本実施例ではフック部72をU字状に形成したので、内底面の保護ブロック76で受止めるだけで架線Wの下方向および左右方向への移動を規制して仮保持できる。
【0042】
上記の状態で、可動ブラケットMとトロリ線T1、および可動ブラケットMと吊架線T2の固定を解除することにより、トロリ線T1および吊架線T2は移動可能な状態となる。なお。トロリ線T1および吊架線T2はそれぞれ保持部35のフック部72で支えられているので、可動ブラケットMとの固定が解除されても自重で垂れ下がることはない。両線T1・T2が可動ブラケットMから分離されたら、第1支持杆31を僅かに伸長操作し、さらに両支持杆31・32を右方へ揺動操作することにより、図7に示すようにトロリ線T1および吊架線T2を軌道上の右寄りへ退避させることができる。これにて、軌道左側にある可動ブラケットMの交換における作業空間を確保することができる。作業台10およびクレーン装置11を使用して可動ブラケットMを交換したのちは、両支持杆31・32を伸縮操作および揺動操作して、トロリ線T1および吊架線T2を所定の位置に移動させ可動ブラケットMと固定する。最後に、両支持杆31・32を収縮操作して保持部35による両線T1・T2の仮保持を解除し、さらに保持部35を初期位置へ戻す。
【0043】
以上のように、本実施例の軌陸車においては、作業台10と架線支持装置9とを、車両2の荷台3上の異なる位置に設置して、作業台10の昇降操作に拘束されることなく、架線支持装置9の保持部35を独立して変位させることができるように構成したので、保持部35の位置に影響を与えることなく、作業台10を作業に適した高さ位置に自在に昇降操作することができる。従って、本実施例の軌陸車1によれば、従来の軌陸車のように、一連の作業途中において作業台を昇降操作する都度架線の再退避操作を行う必要がなく、架線支持装置による架線の再退避操作の手間を解消することができる。
【0044】
架線支持装置9は、揺動可能に支持される上下伸縮自在な第1および第2の支持杆31・32と、各支持杆31・32をそれぞれ左右方向に揺動操作する第1および第2の操作体33・34と、各支持杆31・32にそれぞれ連結されて、架線Wを仮保持する保持部35とを備えるように構成したので、2本で構成された架線Wを架線支持装置9で退避操作できるので、少ない手間で架線Wの退避操作を行える。具体的には、架線Wがトロリ線T1と吊架線T2とを備える場合には、各線T1・T2を保持部35でそれぞれ仮保持した状態で、各支持杆31・32を伸縮操作および揺動操作して、各線T1・T2を垂直方向および略水平方向にそれぞれ変位させて退避操作できる。また、架線Wが2本のトロリ線T1を備える場合には、各線T1・T1を保持部35でそれぞれ仮保持した状態で、各支持杆31・32を伸縮操作および揺動操作して、各線T1・T1を垂直方向および略水平方向にそれぞれ変位させて退避操作できる。
【0045】
第1支持杆31と第2支持杆32とを、前後に位置ずれした状態で左右に並べて配置し、車両2の平面視において、第1支持杆31と第2操作体34、および第2支持杆32と第1操作体33を、それぞれ前後に重なるように配置したので、第1支持杆31と第2支持杆32、および第1操作体33と第2操作体34をそれぞれ互い違いにまとめて設けることができ、架線支持装置9の左右サイズあるいは前後サイズの一方が大型化するのを防止できる。これは、前記4者31~34を左右方向に並べて配置した場合に比べて、架線支持装置9の左右サイズのコンパクト化を図ることができ、前記4者31~34を前後方向に並べて配置した場合に比べて、架線支持装置9の前後サイズのコンパクト化を図ることができるからである。なお、第1と第2の支持杆31・32を前後に隣り合って配置した場合、両支持杆31・32間に他物が挟まる、あるいは各支持杆31・32が前後に傾動した場合に支持杆31・32どうしが接触する等の不具合が生じるが、本発明の軌陸車1では、前記不具合を回避することができる。
【0046】
車両2を左右方向から見たとき、第1支持杆31の前後の外郭縁で規定される投影領域と、第2支持杆32の前後の外郭縁で規定される投影領域とが一部重畳する状態で、両支持杆31・32を設けたので、両支持杆31・32が重なる分だけ、両支持杆31・32を合わせた前後方向の寸法を小さくでき、架線支持装置9の前後サイズのさらなるコンパクト化を図ることができる。
【0047】
両支持杆31・32の前記両投影領域が重畳する部分を除く第1支持杆31の投影領域および第2支持杆32の投影領域に、第1操作体33と第2操作体34とをそれぞれ配置したので、両操作体33・34が前側および後側に突出するのを防ぐことができ、架線支持装置9の前後サイズが大型化するのを阻止できる。
【0048】
架線支持装置9を、荷台3に固定されて両支持杆31・32を軸支するベースフレーム30を備えるものとし、第1操作体33をベースフレーム30と第1支持杆31との間に配置し、第2操作体34をベースフレーム30と第2支持杆32との間に配置したので、架線支持装置9をひとつのユニットとして取り扱うことができ、荷台3上への架線支持装置9の設置あるいは取外しの容易化を図り、軌陸車1の製造あるいは整備に要するコストを低減することができる。
【0049】
各操作体33・34を、それぞれ流体圧シリンダからなる揺動シリンダ62で構成し、揺動シリンダ62の伸縮操作で各支持杆31・32を揺動操作するように構成したので、例えばモータと、該モータの動力を伝動するギヤ伝動機構とで揺動操作する場合に比べて、第1操作体33および第2操作体34の構造を簡素化することができ、架線支持装置9が大型化するのを抑えることができる。また、架線支持装置9が複雑化するのを回避して、全体コストを削減できる。
【0050】
保持部35を、上方から架線Wを受け入れるフック部72と、フック部72から水平方向に延設されるアーム部73とを備えるものとし、アーム部73を、各支持杆31・32の上端部に垂直軸からなる回動軸75で揺動可能に連結したので、軌道の曲線部において折線状に吊持された架線Wの伸び方向に対応して、フック部72の向きを変更でき、架線Wをフック部72で的確に仮保持できる。
【0051】
各支持杆31・32と各アーム部73との間に、保持部35を揺動不能に保持するロック構造79を設けたので、架線Wの退避操作時に保持部35に外力が作用するような場合であっても、フック部72の姿勢を維持し続けることができ、フック部72による架線Wの仮保持状態を適正に維持できる。
【0052】
上記の実施例では、第1および第2の支持杆31・32は、ベースフレーム30に設けた第1および第2の支持軸43・44で軸支したが、各支持軸43・44を荷台3に直接設けて各支持杆31・32を揺動自在に軸支することができる。この場合には、第1および第2の操作体33・34のシリンダ本体60は荷台3に回動自在に連結する。車両2の荷台3に設置される装置は、上記実施例に記載されたものに限られず、作業に適した装置を適宜設置することができ、その設置形態も適宜変更することができる。テレスコピック機構で構成された両支持杆31・32のブームの段数は、上記実施例のものに限られず4段以上であってもよい。第1および第2の支持杆31・32は、ベースフレーム30で揺動可能に立設したが、荷台3に固定した支持軸43・44で各支持杆31・32を軸支することもできる。
【符号の説明】
【0053】
1 軌陸車
2 車両
3 荷台
9 架線支持装置
10 作業台
30 ベースフレーム
31 第1支持杆
32 第2支持杆
33 第1操作体
34 第2操作体
35 保持部
43 第1支持軸
44 第2支持軸
62 揺動シリンダ
72 フック部
73 アーム部
79 ロック構造
W 架線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7