(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 15/02 20060101AFI20240408BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240408BHJP
H02K 1/22 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
H02K15/02 Z
F16F15/02 C
H02K1/22 Z
(21)【出願番号】P 2020100959
(22)【出願日】2020-06-10
【審査請求日】2023-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】島貫 健明
(72)【発明者】
【氏名】淵本 遼
(72)【発明者】
【氏名】千葉 英樹
(72)【発明者】
【氏名】野崎 大
(72)【発明者】
【氏名】玉木 寛二
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-191842(JP,A)
【文献】実開昭60-079276(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 1/22
H02K 15/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端部を軸受で支持される回転子のねじり固有振動数を変化させるために使用される1つ又は複数の物体を備え、
前記物体は、前記回転子の両端部にある軸受の間の範囲において前記回転子への取り付けおよび前記回転子からの取り外しを行うことができるように構成されて
おり、
固定子側で前記物体を保持することが可能な仮置き手段を備え、
固定子内で前記物体の前記仮置き手段からの取り外しおよび前記回転子への取り付けを行うことができ、かつ、固定子内で前記物体の前記回転子からの取り外しおよび前記仮置き手段への取り付けを行うことができるように構成されている、
回転電機。
【請求項2】
前記物体は、前記回転子の回転軸が通された中空部を有する中空円板である、
請求項1に記載の回転電機。
【請求項3】
前記物体は、前記回転子上の取り付け箇所1か所につき複数取り付けることが可能である、
請求項1又は2に記載の回転電機。
【請求項4】
前記仮置き手段に前記物体が保持されているときに当該物体が前記回転子に接触しないように構成されている、
請求項
1乃至3のいずれか1項に記載の回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機の回転子およびこの回転子に直結された駆動機の回転子で構成される軸系においては、回転電機の出力が増大すると共に、回転子の鉄心部も長大になり、鉄心両端が逆位相でねじれる振動モードの固有振動数(ねじり固有振動数)が、回転電機の固定子の出力端子が接続される送電網の不平衡電流によって固定子側に発生する運転周波数の2倍の磁束変化の周波数にかなり近接したり一致したりする可能性がある。その場合、この磁束変化は、回転子の鉄心部に電磁力として励振作用をするため、共振現象を引き起こして振幅を増大させる可能性がある。その結果、軸のねじり繰り返し応力を増大させたり、駆動機に取り付けられたブレードに振動を引き起こして繰り返し曲げ応力を発生させたりして破壊に至らせる恐れがある。
【0003】
鉄心部には、回転子コイルや絶縁物などが、遠心力に対して回転子楔により保持されていて、回転数の変化に伴う遠心力の変化が、鉄心部の剛性を変化させることがわかっている。変化量は回転子の形状や寸法によって変わり、ねじり固有振動数は剛性に依存するため、ねじり固有振動数の計算値には誤差が生じる。また、駆動機の回転子も駆動機内部の状態によりねじり固有振動数が変化する。従って、計算精度が低いと判断される場合、運転時の回転数における軸系のねじり固有振動数を測定する必要が生じることがある。
【0004】
回転子のねじり固有振動数を変化させるため、回転子の駆動機との直結部近傍、または、反直結側の回転子端部に質量・慣性モーメントを有する物を取り付けたり、それが取り付けられる回転子端部の剛性を変化させたりする方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-295640号公報
【文献】特開平1-298927号公報
【文献】米国特許第8013481号明細書
【文献】米国特許第9551398号明細書
【文献】米国特許出願公開第2012/0227536号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、鉄心両端が逆位相でねじれる振動モードの固有振動数(ねじり固有振動数)を変化させるために、鉄心部に比べて剛性が小さい部分を介して鉄心から離れた回転子の両端部付近に質量・慣性モーメントを有する物を取り付けた場合、この固有振動数の変化量が小さいばかりでなく、新たな固有振動数を持つねじり振動モードが発生することになり、固有振動数を目標とする数値に変化させることが難しく、新たに発生する固有振動数の調整も必要となる。また、回転子端部の剛性を変化させるには、材質を変えるか等価直径を変える加工を行うなど技術的に困難を伴ったり大きな労力を必要としたりするなどの欠点がある。
【0007】
発明が解決しようとする課題は、逆位相でねじれる鉄心の振動モードの固有振動数を容易に変化させることができ、また、新たなねじり固有振動数の発生を防ぐことができる回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態に係る回転電機は、両端部を軸受で支持される回転子のねじり固有振動数を変化させるために使用される1つ又は複数の物体を備え、前記物体は、前記回転子の両端部にある軸受の間の範囲において前記回転子への取り付けおよび前記回転子からの取り外しを行うことができるように構成されており、固定子側で前記物体を保持することが可能な仮置き手段を備え、固定子内で前記物体の前記仮置き手段からの取り外しおよび前記回転子への取り付けを行うことができ、かつ、固定子内で前記物体の前記回転子からの取り外しおよび前記仮置き手段への取り付けを行うことができるように構成されている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、逆位相でねじれる鉄心の振動モードの固有振動数を容易に変化させることができ、また、新たなねじり固有振動数の発生を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施形態に係る回転電機を水平方向に見たときの構造の一例を示す図。
【
図2】
図1に示される回転電機の要部を拡大して示す図。
【
図3】中空円板10のファンボス5側の面が見えるようにした斜視図。
【
図4】中空円板10の端部カバー6側の面が見えるようにした斜視図。
【
図5】仮置き座8のファンボス5側の面が見えるようにした斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
実施の形態では、回転電機の回転子およびこの回転子に直結された駆動機の回転子で構成される軸系において、軸系のねじり固有振動数(鉄心両端が逆位相でねじれる振動モードの固有振動数)を変化させることが可能な回転電機に関して説明する。
【0013】
図1は、一実施形態に係る回転電機を水平方向に見たときの構造の一例を示す図である。この
図1では、回転電機の一部について内部の断面形状が見えるように表現されている。
図2は、
図1に示される回転電機の要部を拡大して示す図である。
【0014】
図1に示される回転電機1は、回転子2と固定子3に冷却ガスが流されるガス冷却式の回転電機である。
【0015】
回転子2側には、回転子鉄心2A、ファン4、ファンボス5、駆動機の回転子11などがある。一方、固定子3側には、静止側構造物である固定子枠3A、端部カバー6(端部カバー下半6A、端部カバー上半6B)、軸受キャップ12、防風板13、内側油切り14、オイルシール15、軸受16、外側油切り17、ガイド18などがある。
【0016】
回転子2の回転子鉄心2Aの両端付近には、回転電機1の機内を通風冷却するための冷却ガスに動力を与えるファン4とそれを固定するファンボス5とが配置されている。その機外側には、上下に2分割された端部カバー下半6Aと端部カバー上半6Bとからなる端部カバー6が配置されている。
【0017】
本実施形態の回転電機には、更に、
図2に示されるように、1つ又は複数の質量・慣性モーメントを有する中空円板10が備えられる。中空円板10は、両端部を軸受16で支持される回転子2のねじり固有振動数(回転子2の鉄心両端が逆位相でねじれる振動モードの固有振動数)を変化させるために使用される。中空円板10は、回転子2の回転軸が通された中空部を有する円板であり、回転子2の回転軸の外径よりも大きな内径を有する。
【0018】
本実施形態では、中空円板10は、回転子2の両端部にある軸受16の間の範囲において回転子2への取り付けおよび回転子2からの取り外しを行える構成としている。
図1,
図2の例では、中空円板10は、回転子2の回転軸の両端部近傍において、より具体的には、ファンボス5がある位置と端部カバー6がある位置との間の範囲内で、ファンボス5の機外側面への取り付けおよびファンボス5の機外側面からの取り外しを行う場合が例示されている。中空円板10は、回転子2上の取り付け箇所1か所につき複数枚取り付けることができる。
【0019】
図2に示されるように、端部カバー下半6Aには、ボルト7で固定された仮置き座8が設けられている。仮置き座8には中空円板10を置くことができる。中空円板10が仮置き座8に置かれると、中空円板10が仮置き座8により支持されると共に端部カバー下半6A側に固定される構造になっている。
【0020】
仮置き座8に中空円板10が保持されているときは、中空円板10が回転子2に接触しないように構成されている。すなわち、中空円板10の内径は、回転子2のファンボス5位置より端部カバー6側にある回転子2の回転軸の外径よりも大きくしておくことで、取り付け位置までの移動および回転中に回転子2と接触しないようにしておく。
【0021】
仮置き座8は、複数個分を回転子軸方向に重ねて、ボルト7で連結させることができる。仮置き座8をボルト7で連結して端部カバー下半6Aに固定することで、中空円板10を個別に複数枚保持すると共に、ボルト7と仮置き座8とを共に1組ずつ取り外すことができるようになっている。
【0022】
中空円板10も複数枚分を回転子軸方向に重ねて配置することができるが、中空円板10を仮置き座8に置く際にはボルトは使用しない。ボルトを使用せずとも中空円板10は仮置き座8により支持されると共に端部カバー下半6A側に固定されるようになっている。
【0023】
一方、複数枚の中空円板10をファンボス5の機外側面に取り付ける際には、複数枚の中空円板10をボルト9で連結してファンボス5の機外側面に固定することができる。
【0024】
この回転電機1は、固定子3内で、1つ又は複数枚の中空円板10を仮置き座8から取り外してファンボス5の機外側面へ取り付けたり、また、固定子3内で、1つ又は複数枚の中空円板10をファンボス5の機外側面から取り外して仮置き座8へ取り付けたりすることができるように構成されている。
【0025】
ここで、中空円板10の構造の例を
図3および
図4に示す。
図3は、中空円板10のファンボス5側の面が見えるようにした斜視図である。
図4は、中空円板10の端部カバー6側の面が見えるようにした斜視図である。また、仮置き座8の構造の例を
図5に示す。
図5は、仮置き座8のファンボス5側の面が見えるようにした斜視図である。
【0026】
図3,
図4に示される中空円板10には、ボルト穴10A、ネジ穴10B、円形凹部10C、円形凸部10D、つめ掛け部10Eが備えられている。
【0027】
ボルト穴10Aは、このボルト穴10Aを有する中空円板10を、当該中空円板10のファンボス5側に位置する別の中空円板10またはファンボス5の機外側面に取り付けるためのボルト9を通す穴である。その内部には、ボルト9のヘッドが中空円板10の面より出ないように座ぐりが施されている。このボルト穴10Aを通ったボルト9のネジは、当該中空円板10のファンボス5側に位置する別の中空円板10のネジ穴10Bまたはファンボス5の機外側面のネジ穴にねじ込まれて固定される。
【0028】
ネジ穴10Bは、このネジ穴10Bを有する中空円板10に、当該中空円板10の端部カバー6側に位置する別の中空円板10を取り付けるためのボルト9を締め付けるネジ穴である。
【0029】
中空円板10のファンボス5側の面には円形凹部10Cが設けられ、中空円板10の端部カバー6側の面には円形凸部10Dが設けられている。これにより、複数枚の中空円板10を、中心を一致させた状態で重ねることができるので、その状態で仮置き座8に置いたり、ボルト9にて連結してファンボス5の機外側面に取り付けたりすることができる。
【0030】
また、中空円板10のファンボス5側の面には複数のつめ掛け部10Eが設けられている。
図3,
図4の例では、中空円板10の下半分を4箇所にて4つの仮置き座8のつめ8C(後述)で端部カバー6側に支持できるよう、4箇所につめ掛け部10Eが設けられる場合が例示されている。
【0031】
図5に示される仮置き座8には、ボルト穴8A、ネジ穴8B、つめ8Cが備えられている。
【0032】
ボルト穴8Aは、このボルト穴8Aを有する仮置き座8を、当該仮置き座8の端部カバー6側に位置する別の仮置き座8または端部カバー下半6Aに取り付けるためのボルト7を通す穴である。その内部には、ボルト7のヘッドが仮置き座8の面より出ないように座ぐりが施されている。このボルト穴8Aを通ったボルト7のネジは、当該仮置き座8の端部カバー6側に位置する別の仮置き座8のネジ穴8Bまたは端部カバー下半6Aのネジ穴にねじ込まれて固定される。
【0033】
ネジ穴8Bは、このネジ穴8Bを有する仮置き座8に、当該仮置き座8のファンボス5側に位置する別の仮置き座8を取り付けるためのボルト9を締め付けるネジ穴である。
【0034】
つめ8Cは、中空円板10が仮置き座8に置かれているときに中空円板10のつめ掛け部10Eに掛かることで、中空円板10を端部カバー6側へ固定させる。
【0035】
回転子2のねじり固有振動数の計測・変更等を実施するにあたっては、中空円板10の取り付け枚数ごとに、回転子2のねじり固有振動数、または、駆動機の回転子11も直結された軸系のねじり固有振動数をあらかじめ計算しておくことが望ましい。その計算値に誤差があるとしても、計算値の相互間の差を取り付けまたは取り外し枚数を決める目安として利用できる。
【0036】
事前計算を終えたら、駆動機の回転子11と回転電機1の回転子2を接続して定格回転数で回転させ、回転子2のねじり固有振動数を測定する。
【0037】
もし、回転子2のねじり固有振動数が、定格周波数の2倍に近いことが判明した場合は、例えば端部カバー上半6B、軸受キャップ12および防風板13、内側油切り14、オイルシール15、軸受16、外側油切り17のそれぞれの上半を取り外した上で、端部カバー下半6Aに固定されている仮置き座8上の中空円板10を、変化させたい周波数に相当する目安の枚数だけ取り外して、ファンボス5の機外側面に取り付ける。
【0038】
ファンボス5の機外側面には、中空円板10を固定する複数のネジ穴と中空円板10の中心を回転子2の中心と一致させるための芯だし用の円形凸部とが設けられており、一方、中空円板10には、それらに対応させた位置に取付け用のボルト穴10Aと円形凹部10Cとが設けられているため、双方の中心を一致させて位置を合わせた状態でボルト9により取り付けを行うことができる。
【0039】
また、中空円板10の端部カバー6側の面には、ネジ穴10Bおよび円形凸部10Dが設けられているため、複数枚の中空円板10を、中心を一致させてボルト9により連結して、ファンボス5の機外側面に取り付けることができる。
【0040】
中空円板10の移動は、防風板13の上半を取外した後、固定子枠3Aに吊り上げ工具を設置するか、もしくは端部カバー下半6Aと端部カバー上半6Bとの合せ面に専用組立用具を取り付けるなどして、実施することができる。
【0041】
中空円板10をファンボス5の機外側面に取り付ける作業が終わったら、再度定格回転数で回転させ、回転子2のねじり固有振動数を測定する。もし、ねじり固有振動数が定格周波数の2倍からの離調が不十分ならば、再度この作業を繰り返す。
【0042】
なお、ファンボス5の機外側面に中空円板10を取り付けた状態を初期状態として、回転子2のねじり固有振動数の測定を開始すれば、中空円板10の取り付け枚数増または減の両方向の調整ができるので、調整作業効率を上げることができる。
【0043】
回転子2のねじり固有振動数の調整が終了したら、回転子2に取り付けなかった中空円板10を回転電機1の機内から除去する。
【0044】
中空円板10としての形状を維持したまま除去できない場合は、中空円板10を円周方向に複数個に切断して除去する。
【0045】
なお、中空円板10は、除去しなくても運転に支障はないため、除去時期は任意に決めてもよい。
【0046】
上記実施形態では、ファンボス5の機外側面に中空円板10などの質量・慣性モーメントを有する物体を取り付ける場合について説明したが、ここで示した例に限定されるものではない。例えば、上記物体の例として実施形態では中空円板を挙げたが、円板ではない他の形状の中空部材を採用してもよい。また、中空円板10をファンボス5の機外側面に取り付ける場合を例示したが、ファンボス5の機外側面以外の場所に取り付けてもよい。
【0047】
以上詳述したように、実施形態によれば、逆位相でねじれる鉄心の振動モードの固有振動数を容易に変化させることができ、また、新たなねじり固有振動数の発生を防ぐことができる。
【0048】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1…回転電機、2…回転子、2A…回転子鉄心、3…固定子、3A…固定子枠、4…ファン、5…ファンボス、6…端部カバー、6A…端部カバー下半、6B…端部カバー上半、7…ボルト、8…仮置き座、8A…ボルト穴、8B…ネジ穴、8C…つめ、9…ボルト、10…中空円板、10A…ボルト穴、10B…ネジ穴、10C…円形凹部、10D…円形凸部、10E…つめ掛け部、11…駆動機の回転子、12…軸受キャップ、13…防風板、14…内側油切り、15…オイルシール、16…軸受、17…外側油切り、18…ガイド。