(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】無機酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/12 20060101AFI20240408BHJP
C01B 33/20 20060101ALI20240408BHJP
C01B 35/12 20060101ALI20240408BHJP
C01B 13/34 20060101ALN20240408BHJP
【FI】
C01B33/12 A
C01B33/20
C01B35/12 D
C01B13/34
(21)【出願番号】P 2020154749
(22)【出願日】2020-09-15
【審査請求日】2023-04-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】徳田 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】末松 諒一
(72)【発明者】
【氏名】山崎 広樹
(72)【発明者】
【氏名】三崎 紀彦
(72)【発明者】
【氏名】館山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】増田 賢太
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2003/045842(WO,A1)
【文献】特開2020-142949(JP,A)
【文献】特開平04-175207(JP,A)
【文献】特開平06-345436(JP,A)
【文献】国際公開第2020/152482(WO,A1)
【文献】特開2005-336019(JP,A)
【文献】特開2003-104712(JP,A)
【文献】特開平10-067504(JP,A)
【文献】特開平07-204495(JP,A)
【文献】Hankwon CHANG et al.,“Flame synthesis of silica nanoparticles by adopting two-fluid nozzle spray”,Colloids and Surfaces A: Physicochemical and Engineering Aspects,2007年05月31日,Vol. 313-314,p.140-144,DOI: 10.1016/j.colsurfa.2007.04.083
【文献】Hou Chuan WANG et al.,“Pilot-scale production of mesoporous silica-based adsorbent for CO2 capture”,Applied Surface Science,2012年03月31日,Vol. 258, No. 18,p.6943-6951,DOI: 10.1016/j.apsusc.2012.03.140
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 13/34
C01B 33/113 - 33/46
C01B 35/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原
料化合物含有溶液を噴霧装置に送液し、該噴霧装置から原
料化合物含有溶液の液滴を噴霧して熱分解する工程を含む無機酸化物粒子の製造方法であって、
ケイ酸アルコキシドと、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、ホウ酸塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、バリウム塩、セシウム塩、イットリウム塩及びアルミノケイ酸塩から選ばれる1種又は2種以上とを含む原料化合物含有溶液を大気圧よりも高く、かつ1.5MPa以下に加圧された状態
で容器内に貯留し、その加圧状態を維持したまま前記原料
化合物含有溶液を噴霧装置に送液する、
無機酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
0.2~1.5MPaの原
料化合物含有溶液を噴霧装置に送液する、請求項1記載の無機酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機酸化物粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ、アルミナ、酸化チタン等の無機酸化物粒子は、例えば、断熱材、遮熱材、触媒担持体、濾過用多孔体、圧電素子、生体材料等の幅広い分野で用いられている。このような無機酸化物粒子の製造方法として、例えば、テトラアルキルオルトケイ酸塩に水、エタノールを加え、pH9.0以上の条件で加水分解してシリカゾルを得、次いでシリカゾルを蒸留してエタノール及び水のうち少なくとも1つを除去し、次いでシリカゾルのpHを調整して粒径分布ピークを1つ有するシリカゾルを製造する方法(特許文献1)が知られている。また、熱分解二酸化ケイ素の水性分散液又は含水分散液にP2O5及びCaOを添加し、次いで酸でpHを2±0.5に調整してテトラエチルオルトシリケートを添加し、次いでテトラエチルオルトシリケートの加水分解により生成したエタノールを減圧蒸留により除去し、ゾルを水酸化アンモニウムでpH4.1±0.2に滴定してゲルを形成させ、次いでゲルを乾燥・焼結させて生体活性ガラスを製造する方法(特許文献2)や、金属アルコキシドの加水分解液に特定の2価アルコールを添加し、噴霧乾燥して造粒した後、加熱酸化により微小中空粒状金属酸化物を製造する方法(特許文献3)も提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2016-521242号公報
【文献】特開2008-100905号公報
【文献】特開平2-137707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、原料無機化合物含有溶液を用いて噴霧熱分解法により無機酸化物粒子の製造を試みたところ、製造開始から時間が経過するとともに無機酸化物粒子の粒子密度が上昇するという課題が存在することを見出した。このような粒子密度の経時的な上昇を抑制するには、原料無機化合物含有溶液の液温やpHの制御等が考えられるが、抑制効果が必ずしも十分でなく、品質がより安定した無機酸化物粒子の製造方法が求められている。
本発明の課題は、粒子密度の経時的な上昇を抑制し、安定した品質の無機酸化物粒子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、無機酸化物粒子の粒子密度が時間の経過とともに上昇する要因について検討したところ、原料無機化合物含有溶液中の金属アルコキシドの加水分解反応に起因することが判明した。即ち、金属アルコキシドが加水分解するとアルコールが生成するところ、この加水分解反応はアルコールが系内に存在する限り平衡状態にあるが、アルコールが系外に蒸発することによって加水分解側に平衡が移動し、加水分解反応が促進されるため、原料無機化合物含有溶液の性状が経時で変化することが無機酸化物粒子の粒子密度の上昇につながることを突き止めた。そして、本発明者らは、かかる知見に基づき、無機酸化物粒子の製造工程において、原料無機化合物含有溶液を加圧状態に置くことで、金属アルコキシドの加水分解反応によって生成したアルコールの蒸発が抑制され、順方向と逆方向との反応が釣り合い、原料無機化合物含有溶液の性状が経時で変化し難くなるため、粒子密度の経時的な上昇が抑えられ、安定した品質の無機酸化物粒子を製造できることを見出した。
【0006】
すなわち、本発明は、次の〔1〕~〔4〕を提供するものである。
〔1〕原料無機化合物含有溶液を噴霧装置に送液し、該噴霧装置から原料無機化合物含有溶液の液滴を噴霧して熱分解する工程を含む無機酸化物粒子の製造方法であって、
大気圧よりも高く、かつ1.5MPa以下に加圧された状態の原料無機化合物含有溶液を噴霧装置に送液する、無機酸化物粒子の製造方法。
〔2〕0.2~1.5MPaに加圧された状態の原料無機化合物含有溶液を噴霧装置に送液する、前記〔1〕記載の無機酸化物粒子の製造方法。
〔3〕原料無機化合物含有溶液が金属アルコキシドと、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、ホウ酸塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、バリウム塩、セシウム塩、イットリウム塩及びアルミノケイ酸塩から選ばれる1種又は2種以上の無機塩とを含む溶液である、前記〔1〕又は〔2〕記載の無機酸化物粒子の製造方法。
〔4〕金属アルコキシドが周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第4族元素、周期表第12族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選ばれる金属原子を含むアルコキシドである、前記〔1〕~〔3〕のいずれか一に記載の無機酸化物粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、粒子密度の経時的な上昇を抑制し、安定した品質の無機酸化物粒子を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の無機酸化物粒子の製造方法は、大気圧よりも高く、かつ1.5MPa以下に加圧された状態の原料無機化合物含有溶液を噴霧装置に送液し、該噴霧装置から原料無機化合物含有溶液の液滴を噴霧して熱分解する工程を含むものである。以下、詳細に説明する。
【0009】
先ず、原料無機化合物含有溶液を調製する。
原料無機化合物としては、無機酸化物を構成する元素を含有し、水に溶解する化合物であれば特に限定されないが、例えば、金属アルコキシド、無機塩を挙げることができる。
【0010】
金属アルコキシドとしては、例えば、周期表第1族元素、周期表第2族元素、周期表第4族元素、周期表第12族元素、周期表第13族元素及び周期表第14族元素から選ばれる金属原子を含むアルコキシドを挙げることができる。金属アルコキシドは、1種又は2種以上を使用することができる。
【0011】
周期表第1族元素としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウムを挙げることができる。周期表第2族元素としては、例えば、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムが挙げられる。周期表第4族元素としては、例えば、チタン、ジルコニウムが挙げられる。周期表第12族元素としては、例えば、亜鉛、カドミウムが挙げられる。周期表第13族元素としては、例えば、ホウ素、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウムが挙げられる。周期表第14族元素としては、例えば、ケイ素、ゲルマニウム、スズ、鉛が挙げられる。
【0012】
金属アルコキシドのアルコキシ基としては、金属アルコキシドが金属酸化物へ変換できれば特に限定されないが、例えば、炭素数1~12のアルコキシ基を挙げることができる。具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、i-プロポキシ基、n-ブトキシ基、i-ブトキシ基、t-ブトキシ基を挙げることができる。中でも、炭素数1~4のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基、エトキシ基が更に好ましい。
【0013】
中でも、金属アルコキシドとしては、アルミニウムアルコキシド、ケイ酸アルコキシドが好ましい。アルミニウムアルコキシドとしては、例えば、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシドが挙げられる。また、ケイ酸アルコキシドとしては、例えば、オルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトラプロピル(TPOS)、テトラブトキシシランを挙げることができる。
【0014】
無機塩としては、例えば、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、ホウ酸塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、バリウム塩、セシウム塩、イットリウム塩、アルミノケイ酸塩を挙げることができる。無機塩は、1種又は2種以上を使用することができる。
【0015】
アルミニウム塩としては、例えば、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、燐酸アルミニウム、水酸化アルミニウムが挙げられる。チタン塩としては、例えば、硝酸チタン、硫酸チタン、塩化チタンを挙げることができる。マグネシウム塩としては、例えば、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、燐酸マグネシウム、水酸化マグネシウムが挙げられる。カルシウム塩としては、例えば、硝酸カルシウム、塩化カルシウム、水酸化カルシウムを挙げることができる。ナトリウム塩としては、例えば、硝酸ナトリウム、塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウムが挙げられる。ホウ酸塩としては、例えば、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム等のメタホウ酸塩、四ホウ酸ナトリウム、四ホウ酸カリウム等の四ホウ酸塩、五ホウ酸ナトリウム、五ホウ酸カリウム等の五ホウ酸塩を挙げることができる。亜鉛塩としては、例えば、硝酸亜鉛、硫酸亜鉛、塩化亜鉛が挙げられる。ジルコニウム塩としては、例えば、オキシ硝酸ジルコニウム、オキシ塩化ジルコニウムを挙げることができる。バリウム塩としては、例えば、硝酸バリウム、塩化バリウム、水酸化バリウムが挙げられる。セシウム塩としては、例えば、硝酸セシウム、硫酸セシウム、塩化セシウムを挙げることができる。イットリウム塩としては、例えば、硝酸イットリウム、硫酸イットリウム、塩化イットリウムが挙げられる。アルミノケイ酸塩としては、例えば、アルミノケイ酸ナトリウム、アルミノケイ酸カリウム、アルミノケイ酸カルシウムを挙げることができる。
【0016】
中でも、原料無機化合物としては、本発明の効果を享受しやすい点で、金属アルコキシドと、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、ホウ酸塩、亜鉛塩、ジルコニウム塩、バリウム塩、セシウム塩、イットリウム塩及びアルミノケイ酸塩から選ばれる1種又は2種以上の無機塩とを含むことが好ましく、アルミニウムアルコキシド及びケイ酸アルコキシドから選ばれる1種以上と、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、ホウ酸塩及びアルミノケイ酸塩から選ばれる1種又は2種以上の無機塩とを含むことがより好ましく、ケイ酸アルコキシドと、アルミニウム塩、チタン塩、マグネシウム塩、カルシウム塩、ナトリウム塩、ホウ酸塩及びアルミノケイ酸塩から選ばれる1種又は2種以上の無機塩とを含むことが更に好ましい。
【0017】
原料無機化合物から得られる無機酸化物としては、例えば、アルミナ、シリカ、アルミニウム及びケイ素を含む酸化物、チタン酸化物、マグネシウム酸化物、カルシウム酸化物、ナトリウム酸化物、ホウ素酸化物、亜鉛酸化物、ジルコニウム酸化物、バリウム酸化物、セリウム酸化物、イットリウム酸化物等が挙げられ、これら酸化物を組みあわせた複合酸化物も挙げることができる。
【0018】
原料無機化合物含有溶液の調製は、反応容器内で原料無機化合物と溶媒とを混合すればよい。反応容器は、加圧可能であれば特に限定されず、圧力等を考慮して選定すればよい。
原料無機化合物と溶媒との混合方法は特に限定されず、両者を同時に添加して混合しても、他方を一方に添加して混合してもよい。また、予め調製した原料無機化合物含有溶液を反応容器に投入してもよい。なお、原料無機化合物の各使用量は、所望する無機酸化物の組成となるように適宜選択することができる。
【0019】
原料無機化合物含有溶液の調製に使用する溶媒としては、原料無機化合物を溶解できれば特に限定されないが、水、有機溶媒を挙げることができる。中でも、環境への影響、製造コストの点から、水が好ましい 。
【0020】
原料無機化合物含有溶液中の原料無機化合物の濃度は、飽和濃度以下であれば特に限定されないが、粒子密度の経時的な上昇抑制の観点から、0.1mol/L以上が好ましく、0.1~1.0mol/Lがより好ましく、0.1~0.8mol/Lが更に好ましい。
【0021】
原料無機化合物含有溶液の液温は、溶媒の凝固点よりも高い温度であればよく、溶媒の種類により適宜設定可能であるが、1~50℃が好ましく、1~40℃がより好ましく、1~30℃が更に好ましく、1~20℃が更に好ましい。なお、原料無機化合物含有溶液の液温の調整方法は、所望の温度に調整できれば特に限定されない。例えば、原料無機化合物含有溶液を室温以下に冷却する場合、撹拌槽に冷却装置を設置して原料無機化合物含有溶液を冷却し、原料溶液の液温を温度計で管理すればよい。冷却装置としては、例えば、チラー等を挙げることができる。
【0022】
次に、反応容器内の原料無機化合物含有溶液を大気圧よりも高く、かつ1.5MPa以下に加圧する。原料無機化合物含有溶液を大気圧よりも高い加圧条件に置くことで、金属アルコキシドの加水分解によって生成したアルコールの系外への蒸発が抑制され、順方向と逆方向との反応が釣り合い、原料無機化合物含有溶液の性状が経時で変化し難くなるため、無機酸化物粒子の粒子密度の経時的な上昇を抑制することができる。他方、原料無機化合物含有溶液を1.5MPaを超える加圧条件に置くと、金属アルコキシドの溶解度が低下するため、噴霧装置への原料無機化合物含有溶液の送液が困難になる。なお、原料無機化合物含有溶液を上記した加圧条件に置くには、反応容器の内圧を加圧手段によって上記範囲内に調整すればよい。加圧手段としては、例えば、加圧ポンプ、コンプレッサーを挙げることができる。
【0023】
原料無機化合物含有溶液の加圧条件は、無機酸化物粒子の粒子密度の経時的な上昇抑制、金属アルコキシドの溶解性の観点から、0.2~1.5MPaが好ましく、0.5~1.5MPaがより好ましく、0.7~1.5MPaが更に好ましく、1.0~1.5MPaがより更に好ましい。
【0024】
次に、加圧した状態の原料無機化合物含有溶液を噴霧装置に送液し、該噴霧装置から熱分解炉内に原料無機化合物含有溶液の液滴(ミスト)を噴霧する。
原料無機化合物含有溶液の送液は、ポンプを使用することが可能であり、所望の液滴の吐出速度となるように圧力や流量を調整すればよい。
熱分解炉は、炉材として使用されている材質であれば何れも用いることができ、加熱温度等を考慮して選定すればよい。熱分解炉の形状は、円筒縦型が好ましく、熱分解炉の大きさは、製造スケールにより適宜選択することができる。
【0025】
噴霧装置としては特に限定されないが、例えば、2流体ノズル,3流体ノズル,4流体ノズル等の流体ノズルを使用することができる。ここで、流体ノズルの方式には、ガスと原料無機化合物含有水溶液とをノズル内部で混合する内部混合方式と、ノズル外部でガスと原料無機化合物含有水溶液を混合する外部混合方式があるが、いずれも採用できる。ノズルに供給する気体としては、例えば、空気や、窒素、アルゴン等の不活性ガス等を使用することができる。中でも、経済性の観点から、空気が好ましい。なお、噴霧装置は、1基又は2基以上設置することが可能であり、また熱分解炉の下部及び上部のいずれにも設置することができる。
【0026】
液滴の噴出速度は、通常1~50m/sであるが、熱分解反応の促進、熱分解炉壁面の固着物発生防止の観点から、5~35m/sが好ましく、10~20m/sが更に好ましい。
【0027】
液滴の平均粒子径は、好ましくは0.5~60μm、より好ましくは1~20μm、更に好ましくは1~15μmである。なお、液滴の平均粒子径は、噴霧装置の吐出口の形状や空気の圧力によって調整することが可能である。
【0028】
噴霧装置から噴霧された液滴は、熱分解炉内の加熱装置により加熱されて無機化合物を含む膜が形成され、それを起点に無機酸化物粒子が形成される。
加熱装置としては、例えば、燃焼バーナー、熱風ヒータ、電気ヒータが挙げられる。加熱装置は、1基又は2基以上設置することができる。なお、燃焼バーナー、熱風ヒータ及び電気ヒータは、一般的に販売されているものあれば、いずれも使用することができる。
加熱温度は、400~1800℃が好ましく、600~1500℃がより好ましく、700~1400℃が更に好ましく、800~1200℃がより更に好ましい。400℃未満であると、熱分解が不十分となりやすく、1800℃を超えると、粒子が熱分解炉外に排出されたときに十分冷却され難く、粒子同士が凝集しやすくなる。
【0029】
本発明の方法により製造される無機酸化物粒子は、中実粒子、多孔質粒子、中空粒子のいずれでも、これら2以上の混合物でも構わない。ここで、本明細書において「中実粒子」とは、内部に空洞を有さない構造の粒子をいい、例えば、単一の層からなる粒子、及び、コア(内核とも言われる)とシェル層(外殻とも言われる)を有する粒子を挙げることができる。また、「中空粒子」とは、内部に空洞(中空部)を有する構造のものであり、外殻に包囲された空洞を有する粒子をいう。空洞の数は、単数でも複数でもよい。更に、「多孔質粒子」とは、粒子表面から内部まで連結した貫通孔を多数有する粒子をいう。貫通孔の大きさや形状は、特に限定されない。また、粒子内部に閉気孔を有していてもよい。
【0030】
無機酸化物中空粒子を製造する場合、熱分解後の無機酸化物粒子の表面を溶融すればよい。これにより、無機酸化物粒子の表面に存在する孔が閉塞され、粒子外殻に孔がなく、粒子強度の高い無機酸化物中空粒子が得られる。無機酸化物粒子の表面を溶融させるには、例えば、加熱温度を無機酸化物粒子の溶融温度以上にすればよい。
【0031】
熱分解、必要により溶融を行った後、無機酸化物粒子を回収する。無機酸化物粒子の回収は、例えば、噴霧熱分解装置の下流側から誘引ファンによって粉体回収装置に移動させて行えばよい。また、粉体回収装置の下流側に、必要に応じて、スクラバー等の除塵、浄化設備を配置することもできる。粉体回収装置としては、例えば、サイクロン粉体回収機、バグフィルター等を挙げることができる。更に、無機酸化物粒子の回収にあたっては、フィルターを通過させることにより、粒子径を調整してもよい。
【0032】
このようにして無機酸化物粒子を製造することができるが、本発明の方法により製造される無機酸化物粒子は、粒子密度の上昇が抑制されている。例えば、噴霧熱分解炉内で無機酸化物粒子の製造開始から1時間経過後、及び6時間経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度の差から算出される1時間あたりの粒子密度の上昇値を、通常0.0025g/cm3以下、好ましくは0.002g/cm3以下、更に好ましくは0.0016g/cm3以下とすることができる。
【0033】
無機酸化物粒子の粒子密度は、通常0.2~3.0g/cm3であり、好ましくは0.3~2.0g/cm3であり、更に好ましくは0.4~1.0g/cm3である。なお、粒子密度は、乾式自動密度計を用いて、定容積膨張法により測定することができる。ここで、「定容積膨張法」とは、セル内に試料を投入した後、これに不活性ガスを充填して試料の体積を測定し、この体積と、予め測定しておいた試料の質量とから粒子密度を求める方法をいう。乾式自動密度計として、例えば、乾式自動密度計「アキュピック(島津製作所製)」を使用することができる。
【0034】
無機酸化物粒子の平均粒子径は、通常0.5~50μmであり、好ましくは0.5~20μmであり、更に好ましくは1~10μmである。ここで、本明細書において「平均粒子径」とは、JIS R 1629に準拠して試料の粒度分布を体積基準で作成したときに積算分布曲線の50%に相当する粒子径(d50)を意味する。なお、粒子径分布測定装置として、例えば、マイクロトラック(日機装株式会社製)を使用することができる。
【実施例】
【0035】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。但し、本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0036】
粒子密度の測定
粒子密度は、乾式自動密度計(アキュピック1340、島津製作所製)を用いて、定容積膨張法により測定した。
【0037】
実施例1~11及び比較例2
加圧反応容器内に原料無機化合物含有水溶液を投入し、加圧ポンプによって反応容器内を表1に示す圧力に加圧した状態で原料無機化合物含有水溶液を3時間攪拌した。このとき水溶液の液温を、チラーを用いて5℃に調整した。なお、原料無機化合物含有水溶液は、四ホウ酸ナトリウムを0.03mol/L、硝酸カルシウム及び硝酸マグネシウム(林純薬工業製)を0.04mol/L、硝酸アルミニウム(林純薬工業製)を0.07mol/L、オルトケイ酸テトラエチル(東京化成工業製)を0.5mol/Lとなるように水道水に溶解して調製した。
続いて、この原料無機化合物含有水溶液を表1に示す圧力に加圧した状態を維持したまま2流体ノズルに送液し、ノズルから噴霧熱分解炉内に原料無機化合物含有水溶液を噴霧し、1000℃で焼成した。そして、製造開始から1時間経過後、6時間経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度をそれぞれ測定し、両者の差から1時間あたりの粒子密度の上昇値を求めた。その結果を表1に示す。
【0038】
比較例1
大気圧に維持した状態の原料無機化合物含有水溶液を2流体ノズルに送液したこと以外は、実施例1と同様の操作により無機酸化物粒子を製造した。そして、製造開始から1時間経過後、6時間経過後に回収した無機酸化物粒子の粒子密度をそれぞれ測定し、両者の差から1時間あたりの粒子密度の上昇値を求めた。その結果を表1に示す。
【0039】
【0040】
比較例1は、原料無機化合物含有溶液が大気圧の状態にあるため、金属アルコキシドの加水分解反応によって生成したエタノールが揮発することで加水分解側に平衡が移動して加水分解反応が促進され、その結果、原料無機化合物含有溶液の性状が経時で変化し、無機酸化物粒子の粒子密度が経時的に上昇し、ばらつきが大きくなった。
これに対し、実施例1~11は、原料無機化合物含有溶液を加圧した状態に置くことで、加水分解反応によって生成したエタノールの揮発が抑制され、順方向と逆方向との反応が釣り合い、原料無機化合物含有溶液の性状が経時で変化し難くなり、その結果、粒子密度の経時的な上昇が抑制され、ばらつきの少ない安定した品質の無機酸化物粒子が得られた。
なお、比較例2は、金属アルコキシドが水に均一に溶解しなかったため、無機酸化物粒子の製造を断念した。