(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】オープン巻線モータ駆動装置及び冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/22 20160101AFI20240408BHJP
H02P 25/16 20060101ALI20240408BHJP
H02P 27/08 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
H02P21/22
H02P25/16
H02P27/08
(21)【出願番号】P 2020157472
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2023-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】505461072
【氏名又は名称】東芝キヤリア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】柴山 武至
(72)【発明者】
【氏名】金森 正樹
(72)【発明者】
【氏名】石田 圭一
(72)【発明者】
【氏名】内山 嘉隆
【審査官】安池 一貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-031458(JP,A)
【文献】特開2019-047670(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/22
H02P 25/16
H02P 27/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3相巻線がそれぞれ独立であり、6つ
の端子を備えるオープン巻線構造のモータが備える6つ
の端子のうち3つ
の端子に接続される1次側インバータと、
前記モータ
の端子の残り3つ
の端子に接続される2次側インバータと、
PWM制御における前記1次側及び2次側インバータそれぞれの線間デューティ比に基づいて、前記モータに通電する電流及び回転速度を制御する制御部と、
前記モータに通電される電流を検出する電流検出器とを備え、
前記制御部は、前記1次側,2次側インバータそれぞれの線間のデューティに基づきモータの電流,回転速度を制御すると共に、前記1次側,2次側インバータの間において3相を同方向に流れる零軸電流を抑制する零軸電流抑制部を有し、
前記零軸電流抑制部は、前記1次側及び2次側インバータのオンオフパターンの組合せである64の電圧ベクトルからなる空間電圧ベクトルについて、
零軸電圧を発生させず且つ前記モータの相間に作用する電圧を発生させない第2スイッチングパターンが2つずつ位置するポイントを中心とし、モータの3相に等しく作用する零軸電圧を発生させず且つ前記モータに印加する電圧を発生させる第1スイッチングパターンがそれぞれ2つずつ位置するポイントを頂点として分割される6領域をさらに2等分した12のセクタに分割し、各セクタに応じて用いる第1スイッチングパターンを、制御周期中に1パターンのみ選択するオープン巻線モータ駆動装置。
【請求項2】
前記零軸電流抑制部は、隣り合う2つのセクタについて、同一の第1スイッチングパターンを選択する請求項1記載のオープン巻線モータ駆動装置。
【請求項3】
前記零軸電流抑制部は、各セクタに応じて用いる前記第1スイッチングパターンを制御周期中に1パターンのみ出力する前又は後に、零軸電圧を発生させ、且つ前記モータの相間に作用する電圧を発生させる第3スイッチングパターンを挿入し、
負極性の零軸電圧を発生させる際には、前記第3スイッチングパターンとして、前記第1スイッチングパターンに基づき、前記1次側インバータを構成するスイッチング素子を全てオフするスイッチングパターンのみを選択し、
正極性の零軸電圧を発生させる際には、前記第3スイッチングパターンとして、前記第1スイッチングパターンに基づき、前記2次側インバータを構成するスイッチング素子を全てオフするスイッチングパターンのみを選択する請求項1又は2記載のオープン巻線モータ駆動装置。
【請求項4】
前記各セクタに応じて用いる第1スイッチングパターンを、制御周期中に1パターンのみ選択する制御を同期パルス制御とすると、
前記零軸電流抑制部は、前記インバータを駆動する信号の変調率が閾値に達するまでは、前記制御周期中に、前記第2スイッチングパターンの出力に続いて前記第1スイッチングパターンを2回出力し、その後前記第2スイッチングパターンを再度出力する通常パルス制御を行い、
前記変調率が閾値に達すると、前記同期パルス制御に切り替える請求項3記載のオープン巻線モータ駆動装置。
【請求項5】
3相巻線がそれぞれ独立であり、6つの巻線端子を備えるオープン巻線構造のモータと、
請求項1から4の何れか一項に記載のオープン巻線モータ駆動装置とを備える冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、オープン巻線構造のモータを駆動する装置,及びその装置を備えてなる冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば永久磁石同期モータ等の交流モータを駆動する際には、インバータを用いて直流電源を3相交流電力に変換する必要がある。しかし、モータが大容量化するのに伴いインバータに流れる電流も増加するので、インバータを構成するパワーデバイスに発熱等の問題が発生する。
【0003】
この問題に対して、例えば特許文献1では、3相モータの巻線をスター状に結線することなくオープン状態として、3相巻線の両端にそれぞれインバータを接続して駆動するシステムが提案されている。このシステムによれば、2台のインバータを用いることで、3相巻線の両端に印加できる電圧が2倍程度に拡張できるため、モータをより高速に駆動できる。または、巻線の巻数を増やすことで、少ない電流で高いトルクを出力するモータを駆動できる。
【0004】
また、特許文献1では、2台のインバータ間で直流リンク電圧を共有する構成を採用することで発生する、モータの3相に共通に流れる零軸電流を抑制する技術についても提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、詳細は後述するが、特許文献1の構成では、通常のインバータの出力電圧を「1」とした場合に、その√3倍までしか出力することができない。
そこで、零軸電流の発生を抑制すると共に、出力電圧をより高めることができるオープン巻線モータ駆動装置,及びその装置を備えてなる冷凍サイクル装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のオープン巻線モータ駆動装置は、3相巻線がそれぞれ独立であり、6つの端子を備えるオープン巻線構造のモータが備える6つの端子のうち3つの端子に接続される1次側インバータと、
前記モータの端子の残り3つの端子に接続される2次側インバータと、
PWM制御における前記1次側及び2次側インバータそれぞれの線間デューティ比に基づいて、前記モータに通電する電流及び回転速度を制御する制御部と、
前記モータに通電される電流を検出する電流検出器とを備え、
前記制御部は、前記1次側,2次側インバータそれぞれの線間のデューティに基づきモータの電流,回転速度を制御すると共に、前記1次側,2次側インバータの間において3相を同方向に流れる零軸電流を抑制する零軸電流抑制部を有し、
前記零軸電流抑制部は、前記1次側及び2次側インバータのオンオフパターンの組合せである64の電圧ベクトルからなる空間電圧ベクトルについて、
零軸電圧を発生させず且つ前記モータの相間に作用する電圧を発生させない第2スイッチングパターンが2つずつ位置するポイントを中心とし、モータの3相に等しく作用する零軸電圧を発生させず且つ前記モータに印加する電圧を発生させる第1スイッチングパターンがそれぞれ2つずつ位置するポイントを頂点として分割される6領域をさらに2等分した12のセクタに分割し、各セクタに応じて用いる第1スイッチングパターンを制御周期中に1パターンのみ選択する。
また、実施形態の冷凍サイクル装置は、3相巻線がそれぞれ独立であり、6つの巻線端子を備えるオープン巻線構造のモータと、
実施形態のオープン巻線モータ駆動装置とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1実施形態であり、モータ駆動システムの構成を示す図
【
図6】1次側及び2次側インバータのスイッチングに伴い発生する零軸電圧の変化を示す図
【
図7】一般的な3相モータを駆動する構成に対応した空間電圧ベクトルを示す図
【
図8】オープン巻線モータを駆動する構成に対応した空間電圧ベクトルを示す図
【
図9】空間電圧ベクトルを6つのセクタに分けて、各セクタで使用する第1及び第2ベクトルパターンを示す図
【
図10】空間電圧ベクトルを12のセクタに分けて、各セクタで使用する第1ベクトルパターンを示す図
【
図11】各セクタで使用する第1ベクトルパターンを時系列で示す図(その1)
【
図12】各セクタで使用する第1ベクトルパターンを時系列で示す図(その2)
【
図13】第2実施形態であり、モータ駆動システムの構成を示す図
【
図14】零軸電圧生成部の構成を示す機能ブロック図
【
図15】セクタ6において零軸電流を減少させる場合に用いるベクトルパターンを示す図
【
図16】セクタ6において零軸電流を増加させる場合に用いるベクトルパターンを示す図
【
図17】セクタ7において零軸電流を減少させる場合に用いるベクトルパターンを示す図
【
図18】セクタ7において零軸電流を増加させる場合に用いるベクトルパターンを示す図
【
図19】空間電圧ベクトル変調部の構成を示す機能ブロック図
【
図20】第1実施形態の制御におけるモータの各相電流及び零軸電流の波形を示す図
【
図21】第2実施形態の制御におけるモータの各相電流及び零軸電流の波形を示す図
【
図22】第3実施形態であり、モータ駆動システムの構成を示す図
【
図23】dq電流制御部の構成を示す機能ブロック図
【
図24】通常パルス制御から同期パルス制御への切り替え処理を示すフローチャート
【
図25】同期パルス制御から通常パルス制御への切り替え処理を示すフローチャート
【
図26】ステップS5~S7の処理を概念的に示す図
【
図27】電圧振幅を初期値から目標値まで増加させる処理を概念的に示す図
【
図28】通常パルス制御に用いる空間電圧ベクトルから、同期パルス制御に用いる空間電圧ベクトルに切り替える処理を概念的に示す図
【
図29】通常パルス制御→同期パルス制御→通常パルス制御のように移行させた場合のシミュレーション結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(第1実施形態)
以下、第1実施形態について
図1から
図12を参照して説明する。尚、本実施形態は、特許文献1に開示されている技術をベースとしており、それに改良を加えたものである。
図1は、本実施形態のモータ駆動システムの回路構成を示す図である。モータMは、3相の永久磁石同期モータや誘導機などが想定されるが、本実施形態では永久磁石同期モータとする。モータMの3相巻線は、それぞれが互いに結線されず両端子がオープン状態となっている。つまり、モータMは6つの巻線端子Ua,Va,Wa,Ub,Vb,Wbを備えている。
【0010】
1次側インバータ1及び2次側インバータ2はそれぞれ、スイッチング素子であるNチャネルMOSFET3を3相ブリッジ接続して構成されており、これらは直流電源4に並列に接続されている。直流電源4は、交流電源を直流に変換したものでも良い。インバータ1の各相出力端子はモータMの巻線端子Ua,Va,Waにそれぞれ接続され、インバータ2の各相出力端子は同巻線端子Ub,Vb,Wbにそれぞれ接続されている。
【0011】
位置センサ6は、モータMのロータ回転位置や回転速度を検出するセンサであり、電流センサ7(U,V,W)は、モータMの各相電流Iu,Iv,Iwを検出するセンサであり、電流検出器に相当する。電圧センサ8は、直流電源4の電圧VDCを検出する。
【0012】
制御装置11には、モータを駆動するシステムにおける上位の制御装置から速度指令値ωRefが与えられ、速度指令値ωRefに検出したモータ速度ωが一致するように制御を行う。制御装置11は、電流センサ7が検出した各相電流Iu,Iv,Iwと、電圧センサ8が検出した直流電圧VDCとに基づいて、インバータ1及び2を構成する各FET3のゲートに与えるスイッチング信号を生成する。制御装置11は制御部に相当する。
【0013】
電流検出・座標変換部12は、検出した各相電流Iu,Iv,Iwを、ベクトル制御に用いるd,q軸座標の電流Id,Iqに(1)式により変換する。尚、(1)式に示す零軸電流I0の変換は、第2実施形態において電流検出・座標変換部43が行う。
【0014】
【0015】
速度・位置検出部13は、位置センサ6が検出した信号からモータ速度ωとロータ回転位置θを検出する。回転位置θは、電流検出・座標変換部12及びdq/αβ変換部17に入力される。また、速度・位置検出部13は、モータMの電圧・電流から速度及び位置を推定する構成でも良い。速度制御部14は、入力された速度指令ωRefと速度ωとから、例えば両者の差をPI演算することでq軸電流指令IqRefを生成して出力する。
【0016】
電流制御部16は、入力されるq軸の電流指令IqRef, 直流電圧VDCと検出した電流Id,Iq及びモータ速度ωとから、d,q軸電圧指令Vq,Vdを生成して出力する。dq/αβ変換部17は、dq軸電圧指令Vq,Vdを、αβ軸電圧Vα,Vβに(2)式により変換する。
【0017】
【0018】
空間ベクトル変調部18は、αβ軸電圧Vα,Vβから空間ベクトル演算を行い、インバータ1の各相デューティDu1,Dv1,Dw1と、インバータ2の各相デューティDu2,Dv2,Dw2を生成し、PWM信号生成部19に入力する。PWM信号生成部19は、入力された各相デューティよりインバータ1及び2を構成する各FET3のゲートに与えるスイッチング信号,PWM信号U1±,V1±,W1±,U2±,V2±,W2±を生成して出力する。
【0019】
本実施形態では、インバータ1,2の変調率は1.0である。
図2は、電流制御部16の詳細構成を示している。減算器21は、速度制御の結果として得られるq軸電流指令I
qRefとq軸電流Iqとの差分をとり、PI制御部22は、その差分に対してPI制御演算を行う。その演算結果は、電圧位相θ
V_PIとして出力される。非干渉項演算部23は、モータ定数と、d軸電流Idに等しく設定されるd軸電流指令I
dRefとq軸電流指令I
qRefと速度ωとから、電圧位相の非干渉制御項θ
V_FFを演算する。
【0020】
更に、加算器24により電圧位相θV_PIに非干渉制御項θV_FFを加え、最終的な電圧位相θVを生成する。d,q軸電圧指令Vd,Vqは、dq軸電圧演算部25によって、直流電圧VDCに相当する出力電圧振幅Vampと電圧位相θVとにより生成される。これにより、直流電圧をモータMに直接印加でき、負荷が変化した際は、電圧位相を調整することでモータMを高速に制御できる。
【0021】
図3は、本実施形態のモータ駆動システムを適用した空気調和機30の構成を示す。ヒートポンプシステム31を構成する圧縮機32は、圧縮部33とモータMを同一の鉄製密閉容器35内に収容して構成され、モータMのロータシャフトが圧縮部33に連結されている。そして、圧縮機32、四方弁36、室内側熱交換器37、減圧装置38、室外側熱交換器39は、熱伝達媒体流路たるパイプにより閉ループを構成するように接続されている。尚、圧縮機32は、例えばロータリ型の圧縮機である。空気調和機30は、上記のヒートポンプシステム31を有して構成されている。
【0022】
暖房時には、四方弁36は実線で示す状態にあり、圧縮機32の圧縮部33で圧縮された高温冷媒は、四方弁36から室内側熱交換器37に供給されて凝縮し、その後、減圧装置38で減圧され、低温となって室外側熱交換器39に流れ、ここで蒸発して圧縮機32へと戻る。一方、冷房時には、四方弁36は破線で示す状態に切り替えられる。このため、圧縮機32の圧縮部33で圧縮された高温冷媒は、四方弁6から室外側熱交換器39に供給されて凝縮し、その後、減圧装置38で減圧され、低温となって室内側熱交換器37に流れ、ここで蒸発して圧縮機32へと戻る。そして、室内側、室外側の各熱交換器37,39には、それぞれファン40,41により送風が行われ、その送風によって各熱交換器37,39と室内空気、室外空気の熱交換が効率良く行われるように構成されている。
【0023】
次に本実施形態の作用について
図4から
図12を参照して説明する。オープン巻線モータMを動作させるには、2つのインバータ1及び2により各端子Ua,Va,Wa,Ub,Vb,Wbに電圧を印加する。速度制御及び電流制御の結果得られた電圧は、dq/αβ変換部17,空間電圧ベクトル変調部18,PWM信号生成部19によりインバータ1及び2への電圧指令に分割される。インバータ1の各相デューティD
u1,D
v1,D
w1と、インバータ2の各相デューティD
u2,D
v2,D
w2とは、互いに180°の位相差を有するPWM信号として通電される。このようにして、2つのインバータ1及び2でモータMに逆位相の電圧を印加することで1相当たりの電圧振幅を増加でき、より高速で回転させることができる。
【0024】
前述したように、インバータ1及び2が直流リンク部を共有する構成では、3相を同方向に流れる零軸電流が課題となる。零軸電流は、モータMに通電される相電流の基本波周波数に対して3倍の周波数成分で流れる低周波の電流と、インバータ1,2のスイッチングに同期して流れるキャリア周波数成分の電流とに分かれる。
図4は、零軸電流について抑制制御をしていない場合に流れるオープン巻線モータのU相電流Iuと、零軸電流I0とを示しており、
図5は、
図4の時間軸を拡大して示した電流波形である。U相電流Iu及び零軸電流I0に同じタイミングで変化するリップルが確認できるが、これがキャリア周波数成分の零軸電流である。また、零軸電流I0は、相電流の基本波周波数の3倍成分で脈動するため、U相電流Iuの歪みが大きくなっている。
【0025】
V0_rippleは、(3)式のようにインバータ1の3相電圧の平均から、インバータ2の3相電圧の平均を差し引くことで求まる。尚、各相電圧Vu1,Vv1,Vw1,Vu2,Vv2,Vw2は、FET3がオン状態であればVDC,オフ状態であれば0となる。
【0026】
【0027】
図6に示すように、V0_rippleの波形はスイッチング状態に応じて正負に変動しており、正側に発生している期間で零軸電流I0は増加し、負側に発生している期間で零軸電流I0が減少している。したがって、V0_rippleがゼロになれば零軸電流I0のリップル,すなわちキャリア周波数成分の変動も無くなる。また、V0_rippleの発生状態はインバータ1,2のFET3がオンしている相数に依存しており、インバータ1,2のオン相数が異なる場合にその差に応じて正負に発生している。つまり、インバータ1及び2のオン相数を揃えれば、V0_rippleが発生しなくなる。
【0028】
ここで、上述した目的を達するためのインバータ1,2のスイッチングパターンを検討するため、空間電圧ベクトルを検討する。
図7は,一般的なモータを3相インバータで通電する場合の空間ベクトルを示している。例えばV1(100)はU相上アームがオン,V,W相の上アームはオフという状態を示しており、V0~V7の8つベクトルが存在する。
【0029】
これに対して
図8は、オープン巻線モータの空間電圧ベクトルを表しており、インバータが2台なのでスイッチングパターンは8×8=64パターンとなる。例えば、インバータ1がV1,インバータ2がV4となる組み合わせは「V14」と表記している。オープン巻線モータの空間ベクトルでは、ある指令電圧を出力するための電圧ベクトルのパターンが無数にある。例えば、
図8中に矢印で示すベクトルを出力するためには、V06,V21,V30,V37,V45,V76の何れかの電圧ベクトルの通電時間と、V01,V32,V40,V47,V56,V71の何れかの電圧ベクトルの通電時間とを調整すれば出力できる。
【0030】
ここで、零軸電圧と空間ベクトルとの関係を考えると、前記64パターンのうち,モータMに印加する電圧を発生させ、且つ3相に等しく作用する零軸電圧が発生しないベクトルパターン,つまりオン相数が同じでオンする相の少なくとも2つが不一致となるものは、V15,V24,V26,V35,V31,V46,V42,V51,V53,V62,V64,V13の12パターン存在する。これらのパターンを空間ベクトルで表したものが
図9である。
【0031】
図9では、各電圧ベクトルに対応するPWM波形も合わせて示している。上記12のパターンを2つずつのペアとし頂点に配置して正六角形を描き、6つのセクタに分ける。例えば
図9中に矢印で示すセクタ4に属するベクトルを出力するには、電圧ベクトルV42,V31それぞれの通電時間を調整する。各電圧ベクトルのPWM波形は、
V42:インバータ1(U,V,W)=(オフ,オン,オン)
インバータ2(U,V,W)=(オン,オン,オフ)
V31:インバータ1(U,V,W)=(オフ,オン,オフ)
インバータ2(U,V,W)=(オン,オフ,オフ)
である。これらに、インバータ1,2の全相がオンとなるV77,全相がオフとなるV00を加える。各ベクトルのPWM波形から分かるように、インバータ1,2のオン相数が一致するので、零軸電圧V0が発生しない。つまり、このPWMスイッチングパターンで通電すれば、
図4,
図5に示した零軸電流のキャリア成分のリップルを抑制できる。
【0032】
図9では、下記の第1,第2ベクトルパターンを用いている。第1,第2ベクトルパターンは、第1,第2スイッチングパターンに相当する。
<第1ベクトルパターン>
モータMに印加する電圧を発生させ、且つ3相に等しく作用する零軸電圧が発生しないパターン。上記V15,V24,V26,V35,V31,V46,V42,V51,V53,V62,V64,V13の12パターン
<第2ベクトルパターン>
モータMの相間に作用する電圧を発生させず、且つ3相に等しく作用する零軸電圧が発生しないパターン。V77,V00は、全セクタにおける第2ベクトルパターンである。
【0033】
図9は、特許文献1の
図8に相当するもので、1制御周期中におけるベクトルパターンの出力順序は「第2,第1,第1,第2」となっている。しかし、
図9に示すPWMスイッチングパターンでは、通常のインバータの出力を1とした場合、
図9内の第1スイッチングパターンがそれぞれ2つずつ位置するポイントを結んだ正六角形の内接円内が駆動範囲となる。これでは、電圧を通常インバータの√3倍までしか出力できない。
【0034】
そこで、本実施形態では、空間電圧ベクトル変調部18において、制御周期中に12の第1ベクトルパターンを1つのみ発生させる。これらのパターンを空間ベクトルで表したものが
図10である。
図10では、
図9に示す6つのセクタを更に2等分した12のセクタに分け、各セクタに応じて電気角30度毎に電圧ベクトルを切り替える。尚、
図9及び
図10に示す制御周期は、等しい長さである。
【0035】
例えば
図10中に矢印で示すセクタ7に属するベクトルを出力するには、電圧ベクトルV42のみを選択する。電圧ベクトルのPWM波形は、
V42:インバータ1(U,V,W)=(オフ,オン,オン)
インバータ2(U,V,W)=(オン,オン,オフ)
である。これにより、
図10に示す正六角形の外接円上の6点が駆動点となり、√3×2/√3=2となるので、出力電圧を通常のインバータの2倍にできる。そして、インバータ1,2のオン相数が一致するので零軸電圧V0が発生せず、零軸電流のキャリア成分のリップルも抑制できる。空間電圧ベクトル変調部18は、零軸電流抑制部に相当する。
【0036】
図11では、電気角1周分の各電圧ベクトルに対応するモータ3相電圧波形を示している。インバータ1、2のスイッチングパターンにより得られるモータ相電圧波形は、120度の方形波電圧となり、従来の擬似正弦波電圧と比較して直流電圧を直接モータに印加して高出力化できる。加えてスイッチング回数が少ないため、FET3のスイッチング損失を低減できる。
【0037】
また、スイッチングパターンの一部を変更して簡略化することもでき、
図12では、例えば、奇数セクタの電圧ベクトルを次の偶数セクタの電圧ベクトルに置き換えている。
【0038】
以上のように本実施形態によれば、3相巻線がそれぞれ独立であり、6つの出力端子Ua~Wbを備えるオープン巻線構造のモータMを、1次側インバータ1及び2次側インバータ2により駆動する構成において、制御装置11は、インバータ1,2それぞれの線間のデューティに基づきモータMの電流,回転速度を制御すると共に、空間電圧ベクトル変調部18を備える。
【0039】
空間電圧ベクトル変調部18は、インバータ1,2のオンオフパターンの組合せである64の電圧ベクトルからなる空間電圧ベクトルについて、第2スイッチングパターンが2つ位置するポイントを中心とし、第1スイッチングパターンがそれぞれ2つずつ位置するポイントを頂点として分割される6領域をさらに2等分した12のセクタに分割し、各セクタに応じて用いる第1スイッチングパターンを、制御周期中に1パターンのみ選択する。
【0040】
これにより、インバータ1,2のスイッチングに同期して流れるキャリア成分の零軸電流を抑制すると共に、モータMに対する出力電圧を、1台のインバータで通常の3相モータを駆動する構成に比較して2倍にすることができる。また、空間電圧ベクトル変調部18は、隣り合う2つのセクタについて、同一の第1スイッチングパターンを選択するので、制御をより簡単に行うことができる。加えて、本実施形態のオープン巻線モータ駆動装置を空気調和機30に適用することで、空調運転を高出力・高効率で行うことができる。
【0041】
(第2実施形態)
以下、第1実施形態と同一部分には同一符号を付して説明を省略し、異なる部分について説明する。先ず、基本周波数の3倍成分で流れる零軸電流の抑制について説明する。(4)式は,オープン巻線モータのdq0軸電圧と電流の関係式である。
【0042】
【0043】
ここで,dq軸電流Id,Iqが流れると、(4)式に示す対角項の要素の影響により零軸電圧V0が発生することが分かる。これがdq軸から0軸への干渉であり、零軸電圧V0が発生した結果として零軸電流I0が流れてしまう。
【0044】
図13に示す第2実施形態の制御装置42は、電流検出・座標変換部12に替わる電流検出・座標変換部43と、零軸電圧生成部44と、空間電圧ベクトル変調部18に替わる空間電圧ベクトル変調部45とを備えている。前述したように、電流検出・座標変換部43は、検出した各相電流Iu,Iv,Iwを、ベクトル制御に用いるd,q及び0の各軸座標の電流Id,Iq,I0に(1)式により変換する。
【0045】
図14は零軸電圧生成部44の詳細構成を示している。零軸電圧生成部44は、P制御部44A及び共振制御部44Bを備えている。P制御部44Aでは、零軸電流指令I
0Refと検出電流I0との差分値に比例ゲインK
p0を乗じる。共振制御部44Bは、相電流の基本波周波数ωの3倍である3ωの2乗値に対する追従性を向上させるように構成されている。前記差分値に共振ゲインKrを乗じ、減算器50により積分器46の積分結果との差をとり積分器47に入力する。
【0046】
積分器47の積分結果は加算器48及び乗算器49に入力される。乗算器49では、周波数(3ω)2との積がとられ、その結果が積分器46に入力される。加算器48では、前記差分値に比例ゲインKp0を乗じた結果が加算されて、零相電圧V0の(1/√2)倍値が出力される。
【0047】
しかし、第1実施形態で示した零軸電圧V0を発生させない空間電圧ベクトルパターンのみを用いると、(4)式について述べた、干渉により流れる零軸電流I0を抑制するための制御に必要な零軸電圧V0を生成できない。そこで、第2実施形態では、下記の第3ベクトルパターンを追加で用いる。第3ベクトルパターンは、第3スイッチングパターンに相当する。
<第3ベクトルパターン>
モータMの相間に作用する電圧を発生させ、且つ3相に等しく作用する零軸電圧が発生するパターン。
【0048】
そして、各セクタに応じて用いる第1ベクトルパターンを制御周期中に1パターンのみ出力する前又は後に、第3ベクトルパターンを挿入する。これにより、平均的に零軸電圧V0を制御する。
【0049】
ここで、偶数セクタの場合の零軸電圧V0の制御方法を、
図15及び
図16を参照して説明する。例えば、セクタ6ではV31が第1ベクトルパターンとなる。そして、
図15に示すように、セクタ6において零軸電流I0を減少させる際には、第3ベクトルパターンとして、第1ベクトルパターンV31から、1次側インバータ1を構成するFET3をオフするベクトルパターンであるV01を選択する。第1ベクトルパターンの後に第3ベクトルパターンを挿入する場合は、下記のようにスイッチングパターンが変化する。
一次側インバータ(UVW) (010)→(000)
二次側インバータ(UVW) (100)→(100)
つまり、第3ベクトルパターンV01は、インバータ2のFET3がオンする相数が、インバータ1よりも1つ多くなっている。これにより、零軸電流I0を減少させる。
【0050】
尚、零軸電圧V0が負の場合は、インバータ1のV相デューティに(5)式で算出したデューティVvの6倍値を加算する。ここで6倍値とするのは、後述の第3実施形態に示すように、非同期PWM駆動時より駆動方式を切り替える際に制御量を等しくするためである。非同期PWM駆動時は±1/3VDCの零軸電圧が3回印加される。同期PWM駆動時は、偶数セクタでは±1/3VDCの零軸電圧が1回印加される。デューティの2倍値を更に3倍するので、6倍となる。
ここで「デューティの2倍値」とは、PWM信号パルスの生成手法に関わるものである。非同期PWM駆動では、パルスをPWM周期の中間位相を基準として両側に伸縮させるようにパルスを発生させている。これに対して同期PWM駆動では、パルスをPWM周期の一方の端を基準として片側に伸縮させるようにパルスを発生させている。したがって、加減算するパルス幅値は後者が前者の2倍となる。
【0051】
【0052】
また、
図16に示すように、セクタ6において零軸電流I0を増加させる際には、第3ベクトルパターンとして、第2ベクトルパターンV31より、2次側インバータ2を構成するFET3をオフするベクトルパターンV30を選択する。第1ベクトルパターンの後に第3ベクトルパターンを挿入する場合は、下記のようにスイッチングパターンが変化する。
一次側インバータ(UVW) (010)→(010)
二次側インバータ(UVW) (100)→(000)
つまり、第3ベクトルパターンV30は、インバータ1のFET3がオンする相数が、インバータ2よりも1つ多くなっている。これにより、零軸電流I0を増加させる。 尚、零軸電圧V0が正の場合は、インバータ2のU相デューティに(5)式で算出したデューティVuの6倍値を減算する。
【0053】
次に、奇数セクタの場合の零軸電圧V0の制御方法を、
図17及び
図18を参照して説明する。例えば、セクタ7においては、V42が第1ベクトルパターンとなる。
図17に示すように、セクタ7において零軸電流I0を減少させる際には、第3ベクトルパターンとして、第1ベクトルパターンV42より、1次側インバータ1を構成するFET3をオフするベクトルパターンV02を選択する。第1ベクトルパターンの後に第3ベクトルパターンを挿入する場合は、下記のようにスイッチングパターンが変化する。
一次側インバータ(UVW) (011)→(000)
二次側インバータ(UVW) (110)→(110)
つまり、第3ベクトルパターンV02は、インバータ2のFET3がオンする相数が、インバータ1よりも2つ多くなっている。これにより、零軸電流I0を減少させる。そして、零軸電圧V0が負の場合は、インバータ1のV,W相デューティに(5)式で算出したデューティVv,Vwの6倍値を加算する。非同期PWM駆動時は±1/3V
DCの零軸電圧が3回印加される。同期PWM駆動時、奇数セクタでは±2/3V
DCの零軸電圧が1回印加される。後述するV0/2により、偶数セクタと大きさが揃うことになる。
【0054】
また、
図18に示すように、セクタ7において零軸電流I0を増加させる際には、第3ベクトルパターンとして、第2ベクトルパターンV42より、2次側インバータ2を構成するFET3をオフするベクトルパターンV40を選択する。第1ベクトルパターンの後に第3ベクトルパターンを挿入する場合は、下記のようにスイッチングパターンが変化する。
一次側インバータ(UVW) (011)→(011)
二次側インバータ(UVW) (110)→(000)
【0055】
この場合の第3ベクトルパターンV40は、インバータ1のFET3がオンする相数が、インバータ2よりも2つ多くなっている。これにより、零軸電流I0を増加させる。そして、零軸電圧V0が正の場合は、インバータ2のU,V相デューティに(5)式で算出したデューティVu,Vvの6倍値を減算する。
【0056】
このように制御することで、零軸電圧V0_rippleは,連続的に正側,負側のみにしか発生しない。したがって、
図6に示したように、V0_rippleが正,負に変動することに伴う零軸電流I0のリップルが発生せず、3倍周波数成分を抑制できる。尚、制御周期中において、第1ベクトルパターンの前に第3ベクトルパターンを挿入しても良い。
【0057】
図19は、上述した制御原理に基づく空間電圧ベクトル変調部45の内部構成を示しており、空間ベクトル演算部45A及び零軸電圧合成部45Bを備えている。空間ベクトル演算部45Aは、入力された電圧指令Vα,Vβの大きさに応じて12のうちどのセクタに属すかを決定し、セクタに応じて第1ベクトルパターンを選択する。例えばセクタ7であればV42である。
【0058】
選択された1つのベクトルパターンの電圧値及び零軸電圧V0は、直流電圧V
DCと共に零軸電圧合成部45Bに入力される。零軸電圧合成部45Bでは、
図15~
図18で示したように、セクタ及び零軸電流I0の増減に応じて、第3ベクトルパターンを選択して挿入する。セクタ7の場合、第1ベクトルパターンはV42,零軸電流を減少させる場合に挿入する第3ベクトルパターンはV02,零軸電流を増加させる場合に挿入する第3ベクトルパターンはV40となる。
【0059】
尚、
図15~
図18では、第3ベクトルパターンの電圧ベクトルを1箇所のみに挿入しているが、偶数セクタと奇数セクタでは発生する零軸電圧の大きさが2倍異なる。第3ベクトルパターンにより発生する零軸電圧は、零軸電圧生成部44より出力される零軸電圧指令V0に一致させる必要がある。したがって、零軸電圧指令V0に対する制御量をセクタ毎に揃えるため、例えば、奇数セクタでは第3ベクトルパターンの電圧ベクトルの大きさはV0/2にする。
【0060】
以上の演算によりインバータ1,2それぞれの3相電圧の大きさが得られるため、直流電圧VDCで除して各相のデューティDu1,Dv1,Dw1,Du2,Dv2,Dw2が決定されて出力される。
【0061】
図20,
図21は、それぞれ第1,第2実施形態の制御による零軸電流の抑制結果をシミュレーションした波形を示す。
図21では
図20に比較して、相電流の基本波周波数の3倍成分を抑圧できていることが分かる。
【0062】
以上のように第2実施形態によれば、空間電圧ベクトル変調部45は、各セクタに応じて用いる1ベクトルパターンを制御周期中に1パターンのみ出力する前又は後に、第3ベクトルパターンを挿入する。負極性の零軸電圧を発生させる際には第3ベクトルパターンとして、第1ベクトルパターンに基づきインバータ1を構成するFET3を全てオフするベクトルパターンを選択し、正極性の零軸電圧を発生させる際には第3ベクトルパターンとして、第1ベクトルパターンに基づきインバータ2を構成するFET3を全てオフするベクトルパターンを選択する。
【0063】
これにより、相電流の基本波周波数の3倍成分で流れる低周波の零軸電流と、インバータ1,2のスイッチングに同期して流れるキャリア成分の零軸電流との双方を抑制でき、インバータ1及び2並びにモータMの低電流化・低損失化を実現できる。
【0064】
(第3実施形態)
第3実施形態は、駆動方式の切り替え制御に関するものである。第1及び第2実施形態は、特にモータMが高速で運転される領域において変調率を0.866より大に設定し、出力電圧を増大させる際に有効である。そこで、モータMが低速で運転される領域では異なる駆動方式,例えば特許文献1と同様の駆動方式を採用する。以下では、高速運転領域で採用する第1実施形態の駆動方式を「同期パルス制御」と称し、低速運転領域で採用する駆動方式を「通常パルス制御」と称する。
【0065】
図22は、通常パルス制御を実行する際の制御装置51の構成を示す。第2実施形態の構成をベースとして、d軸電流指令生成部52,電流制御部16に替わるdq軸電流制御部53,空間電圧ベクトル変調部45に替わる空間電圧ベクトル変調部54を備えている。d軸電流指令生成部52は、弱め界磁制御のためのd軸電流指令値を、直流電圧V
DCとdq軸の電圧振幅V
dqとから、両者の差をPI演算することで生成して出力する。
【0066】
図23は、dq軸電流制御部53の詳細構成を示す。dq軸電流制御部53は、PI制御部55d及び55qと非干渉項演算部56とを備えている。PI制御部55dは、d軸電流指令値I
dRefとd軸電流Idとの差分から、PI制御演算によりd軸電圧V
d_PIを演算する。PI制御部55qは同様に、q軸電流指令値I
qRefとq軸電流Iqとの差分から、PI制御演算によりq軸電圧V
q_PIを演算する。
【0067】
非干渉項演算部56は、dq軸の干渉を防止するため、図中に示す式で非干渉項Vd_FF,Vq_FFを求め、加算器58d,58qにより、d軸電圧Vd_PI,q軸電圧Vq_PIにそれぞれ加算する。そして、加算器58d,58qの加算結果が、最終的なd軸電圧指令値Vd、q軸電圧指令値Vqとなる。
【0068】
このように、通常パルス制御と同期パルス制御とで用いる電流制御部の構成を切り分ける理由を述べる。通常パルス制御は、電流制御でd軸電圧Vd,q軸電圧Vqを直接生成する一般的なベクトル制御であり、弱め界磁制御と速度制御との結果から得られる電流指令値に電流を追従させる。これにより、電流位相の進み制御とモータの出力トルク制御との応答性が良好なモータ制御を実現する。すなわち、制御性を重視した電流制御を適用する。
【0069】
一方、同期パルス制御はモータの高出力領域で使用するため、通常パルス制御に比較して、出力電圧を直流電圧の最大までにして電流位相を更に進める必要がある。つまり出力を重視した制御である。この場合は、電圧振幅と電圧位相からd,q軸電圧Vd,Vqを演算して出力電圧を指令する方が、モータを制御し易くなる。変調率が1.0であれば電圧振幅は最大値を入力することになり、電圧位相のみ制御してq軸電流を制御し、その結果速度を制御する。その結果として弱め界磁制御が行われる。
【0070】
次に、第3実施形態の作用について
図24から
図29を参照して説明する。
図24に示すように、例えば上位の制御装置より入力される、通常パルス制御から同期パルス制御への切り替えを指示する信号がONになると(S1;YES)、同期パルス制御における電流制御部16が停止中であることを確認してから(S2;YES)、現時点での通常パルス制御における電圧振幅V
dq,電圧位相θを演算する(S3,S4)。電圧振幅V
dqは、d軸電圧Vd,q軸電圧Vqの2乗和の平方根であり、電圧位相θは、Atan(Vd/Vq)である。
【0071】
ここで、通常パルス制御から同期パルス制御への切り替えは、例えば変調率0.866を閾値として設定しておき、モータMの運転状態に伴い変調率を0.866より大に設定する必要が生じた際に、上記の切り替え指示信号をONにする。
【0072】
続いて、同期パルス制御を開始する際の電圧振幅,電圧位相の初期値Vamp,θvを設定する(S5)。電圧振幅の初期値Vampは電圧振幅Vdqに設定し、電圧位相の初期値θvは、電流制御部16のPI制御部22が出力するθV_PIの積分項を、上記の電圧位相θから非干渉項θV_FFを減算した値とする。尚,非干渉項θV_FFは切り替え時に演算を開始する。その結果、電圧位相θvの初期値は、切り替え前の電圧Vd,Vqから算出した電圧位相θとなる。これにより,電流制御部の切り替え前後で電圧Vd,Vqの大きさを一致させることができる。
【0073】
次に、同期パルス制御に用いる電流制御部16の動作を開始させ(S6)、dq軸電流制御部53の動作を、
図26に示すように、PI制御部55のみ停止させる(S7)。
図26は、ステップS5~S7の処理を概念的に示している。非干渉項演算部56は、後述する逆方向への切り替え時に演算結果を使用するため継続して動作させる。それから、電圧振幅が、初期値のV
dqから(V
DC×2/√3),つまり直流電圧V
DCの2倍値の相電圧換算値以上となったか否かを判断する(S8,
図27参照)。
【0074】
V
ampが(V
DC×2/√3)に達していなければ(S8;NO)、電圧振幅を増加させる(S11)。V
ampが(V
DC×2/√3)に達すると(S8;YES→S9)、第1実施形態のように空間電圧ベクトルを用いて同期パルス制御を行う(S10,
図28参照)。すなわち、空間電圧ベクトル変調部54から、空間電圧ベクトル変調部18に切り替える。
【0075】
図25は、
図24とは逆に、同期パルス制御から通常パルス制御への切り替え処理を示している。同期パルス制御から通常パルス制御への切り替えを指示する信号がONになると(S21;YES)、空間電圧ベクトル変調部18から、空間電圧ベクトル変調部54に切り替える(S22;YES→S23)。そして、電圧振幅の目標値を演算する(S24)。目標値V
dqは、通常パルス制御における非干渉項演算部56で計算されたV
d_FFとV
q_FFとの2乗和の平方根とする。
【0076】
それから、出力電圧Vampを、最大値(VDC×2/√3)から目標値Vdqまで緩やかに減少させる(S25,S30)。出力電圧Vampが目標値Vdqに達すると(S25;YES→S26)、dq軸電流制御部53の動作を開始させ(S28)電流制御部16の動作を停止させるが(S29)、それに先立ちd軸電圧Vd,q軸電圧Vq及びd軸電流指令Idrefの初期値を設定する(S27)。上述のように、非干渉項が目標値,初期値として入力されるので、PI制御部55の積分項の初期値は0とする。また、同期パルス制御時のd軸電流はd軸電流指令Idrefとして上書きされるので、通常パルス制御に切り替える際に、弱め界磁制御部の積分項の初期値として用いる。
【0077】
図29は、通常パルス制御→同期パルス制御→通常パルス制御のように移行させた場合のシミュレーション結果を示す。6極モータでPWM制御キャリア周波数は5kHz,回転数80rps,出力トルクは3N・m,出力電圧V
ampの変化率0.7V/msである。制御の切り替えに際してモータの回転数は1rps未満であり、殆ど変動することなくスムーズに切り替えができている。
【0078】
尚、第3実施形態の駆動方式の切り替えでは、制御装置11,42,51でそれぞれ使用する機能ブロックを入れ替えているが、実際にこれらの制御装置を構成する際にはマイクロコンピュータやDSP(Digital Signal Processor)のソフトウェアを用いたり、FPGA(Field Programmable Gate Array)等を用いることができる。したがって、機能ブロックの入れ替えは、リアルタイム制御でも柔軟に行うことが可能である。
【0079】
以上のように第3実施形態によれば、インバータ1及び2を駆動する信号の変調率が閾値に達するまでは、制御周期中に第2スイッチングパターンの出力に続いて第1スイッチングパターンを2回出力し、その後第2スイッチングパターンを再度出力する通常パルス制御を行う。そして、変調率が閾値に達すると同期パルス制御に切り替える。これにより、モータMの運転状態に適した駆動方式を選択的に用いることができる。また、駆動方式を切り替える際に、制御に用いるパラメータの初期値を適切に設定することで、モータMの回転速度に変動が生じることを抑制し、切り替えをスムーズに行うことができる。
【0080】
(その他の実施形態)
電流センサ7は、シャント抵抗でもCTでも良い。
交流電源は単相であっても良い。
スイッチング素子はMOSFETに限ることなく、その他IGBT,パワートランジスタ、SiC,GaN等のワイドバンドギャップ半導体等を使用しても良い。
空気調和機に限ることなく、その他の製品等に適用しても良い。
【0081】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0082】
図面中、Mはオープン構造巻線モータ、1は1次側インバータ1,2は2次側インバータ、11は制御装置、18は空間電圧ベクトル変調部、30は空気調和機を示す。