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特許7467312レーザピーニング装置及びレーザピーニング方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】レーザピーニング装置及びレーザピーニング方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/356 20140101AFI20240408BHJP
   B23K 26/03 20060101ALI20240408BHJP
   B23K 26/16 20060101ALI20240408BHJP
   B23K 26/146 20140101ALI20240408BHJP
   B23K 26/122 20140101ALI20240408BHJP
   C21D 7/06 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B23K26/356
B23K26/03
B23K26/16
B23K26/146
B23K26/122
C21D7/06 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020176697
(22)【出願日】2020-10-21
(65)【公開番号】P2022067857
(43)【公開日】2022-05-09
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千田 格
(72)【発明者】
【氏名】椎原 克典
(72)【発明者】
【氏名】今崎 一人
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-127887(JP,A)
【文献】特開2019-042777(JP,A)
【文献】特開2013-006182(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が封止された孔の内面にレーザピーニングを行うレーザピーニング装置であって、
パルスレーザ光を射出するレーザ発振器と、
前記パルスレーザ光を集光するレーザ光集光機構と、
前記孔の内部に流体を供給するための流体供給機構と、
前記孔内に挿入可能とされ、内部に前記パルスレーザ光及び前記流体を通過させるノズルと、
前記流体供給機構から前記流体を吸引して前記パルスレーザ光の照射部に前記流体を満す吸引機構と、
前記孔の開口部に設置され、前記吸引機構を用いて前記孔内部を負圧状態にするためのカバーと、
前記流体供給機構に設けられ、前記吸引機構を用いて前記カバー内部を負圧にするために前記冷却孔内部の前記流体を吸引するときに閉じ、前記冷却孔内部に前記流体を供給するときに開き、前記ノズル内部への前記流体の流入を制御するための開閉ユニットと、
を具備したことを特徴とするレーザピーニング装置。
【請求項2】
一端が封止された孔の内面にレーザピーニングを行うレーザピーニング装置であって、
パルスレーザ光を射出するレーザ発振器と、
前記パルスレーザ光を集光するレーザ光集光機構と、
前記孔の内部に流体を供給するための流体供給機構と、
前記孔内に挿入可能とされ、内部に前記パルスレーザ光及び前記流体を通過させるノズルと、
前記流体供給機構から前記流体を吸引して前記パルスレーザ光の照射部に前記流体を満す吸引機構と、
を具備し、
前記ノズルが、内側ノズルと、当該内側ノズルの外側に設けられた外側ノズルとの2重構造となっており、
前記内側ノズルの内部に前記パルスレーザ光及び前記流体を通過させ、前記内側ノズルと前記外側ノズルとの間から前記流体を排出することを特徴とするレーザピーニング装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の記載のレーザピーニング装置であって、
前記パルスレーザ光の前記孔の底部における照射位置を前記レーザ光集光機構により焦点距離を変えることで変更可能とするレーザ光伝送機構を具備したことを特徴とするレーザピーニング装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項記載のレーザピーニング装置であって、
前記レーザ光集光機構は、前記パルスレーザ光の焦点位置を変更可能とされたことを特徴とするレーザピーニング装置。
【請求項5】
請求項1乃至の何れか1項記載のレーザピーニング装置であって、
前記パルスレーザ光の照射部及びその近傍の画像を取得し、前記流体内の気泡の有無を確認するための機構を具備したことを特徴とするレーザピーニング装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項記載のレーザピーニング装置を用いたレーザピーニング方法であって、
前記流体として、防錆機能を有する流体を用いることを特徴とするレーザピーニング方法。
【請求項7】
請求項3記載のレーザピーニング装置を用いたレーザピーニング方法であって、
前記レーザ光集光機構により、前記パルスレーザ光の焦点位置を、前記孔の底面より手前の位置とすることにより、前記孔の底面にはレーザピーニング、前記孔の側面にはキャビテーションピーニングを行うことを特徴とするレーザピーニング方法。
【請求項8】
請求項1乃至5の何れか1項記載のレーザピーニング装置を用いたレーザピーニング方法であって、
前記吸引機構により前記流体を吸引することにより、レーザピーニング及びレーザブレークダウンにより発生した気泡を除去することを特徴とするレーザピーニング方法。
【請求項9】
請求項8記載のレーザピーニング方法であって、
前記パルスレーザ光の周期に同期して、前記吸引機構による前記流体の吸引を行うことを特徴とするレーザピーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーザピーニング装置及びレーザピーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
材料の表面は、疲労破壊や応力腐食割れなどが発生する起点になり易い。このため、 圧縮残留応力を材料の表面近傍へ付与して、き裂の発生、進展を抑制することで、材料の耐疲労破壊性、耐応力腐食割れ性を向上させることができる。金型は、工業製品の金属製や樹脂製の部品をプレス加工のような塑性加工や射出成型などにより製造するために用いられ、成形の際のガス抜きや金型の冷却に用いられる冷却孔には熱負荷がかかるため、金型の寿命低下の要因となっている。
【0003】
金型の冷却水通路(水冷孔)の表面に圧縮残留応力を付与することで強化する手法が採用されており、例えば冷却孔の表面にショットピーニングを行なう場合がある。
【0004】
また、レーザピーニングを用いた圧縮応力付与手段も用いられる。レーザピーニングは、施工対象の表面に圧縮残留応力を付与する技術である。施工対象にパルスレーザを照射してプラズマを発生、膨張させる。この膨張の力学的反作用により施工対象の表面近傍が圧縮され、応力が残留する。
【0005】
レーザピーニングでは、レーザ光のエネルギー、照射面積などの施工条件を調節することで、圧縮残留応力の大きさや、付与される深さを制御できる。さらに、ファイバと照射ヘッドを組み合わせることにより、タービン翼植込み部やパイプの内面などの狭隘部への施工も可能となる。
【0006】
さらに、被施工対象物が発錆しやすい材料の場合については、油やアンモニア水など錆が発生しにくい液体中でレーザピーニングを行う方法や、環境隔離のためのカバー内で施工する方法なども提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-290222号公報
【文献】特許第6107821号公報
【文献】特許第5649332号公報
【文献】特許第5814652号公報
【文献】特許第5118324号公報
【文献】特許第5171088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
レーザピーニングでは、パルスレーザを被施工対象物表面に照射することによりアブレーションプラズマを発生させ、プラズマの圧力により被施工対象物表面において塑性変形を生じさせることにより圧縮応力を付与する。
【0009】
ここで、例えば一端が封止された冷却孔の内径が十分大きければレーザ光を内部に照射することが可能である。しかしながら、一般に冷却孔は、例えばφ10mm以下程度と小口径である場合が多く、内部にレーザピーニングを行うための照射ヘッドあるいは光学系を挿入することは困難である。また、レーザピーニングを行うためにはレーザ光を照射した際に発生するプラズマを閉じ込めるための液体を供給する必要があるが、小口径の冷却孔内面においてレーザ光の照射と液体の供給を同時に行うことは難しく、孔底部周辺の応力改善は困難である。
【0010】
本発明は、このような従来の事情に対処してなされたもので、その目的は、金型等に設けられた冷却孔等の、一端が封止された孔の内部に圧縮応力を付与すことのできるレーザピーニング装置及びレーザピーニング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態のレーザピーニング装置は、一端が封止された孔の内面にレーザピーニングを行うレーザピーニング装置であって、パルスレーザ光を射出するレーザ発振器と、前記パルスレーザ光を集光するレーザ光集光機構と、前記孔の内部に流体を供給するための流体供給機構と、前記孔内に挿入可能とされ、内部に前記パルスレーザ光及び前記流体を通過させるノズルと、前記流体供給機構から前記流体を吸引して前記パルスレーザ光の照射部に前記流体を満す吸引機構と、前記孔の開口部に設置され、前記吸引機構を用いて前記孔内部を負圧状態にするためのカバーと、前記流体供給機構に設けられ、前記吸引機構を用いて前記カバー内部を負圧にするために前記冷却孔内部の前記流体を吸引するときに閉じ、前記冷却孔内部に前記流体を供給するときに開き、前記ノズル内部への前記流体の流入を制御するための開閉ユニットと、を具備している。
【発明の効果】
【0012】
本発明の実施形態により、アクセスが困難な一端が封止された冷却孔等の内面に圧縮応力を付与することのできるレーザピーニング装置及びレーザピーニング方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係るレーザピーニング装置の構成を模式的に示す図。
図2図1のレーザピーニング装置を冷却孔に設置した状況を示す図。
図3図1のレーザピーニング装置で冷却孔内に流体を吸引している状況を示す図。
図4】冷却孔底部へのレーザピーニング施工状況を側面から観察した状況を示す図。
図5】冷却孔底部へのレーザピーニング施工状況を上面から観察した状況を示す図。
図6】冷却孔内部における気泡残存状況確認状況を示す図。
図7】第2実施形態においてレーザ光を照射した状況を示す図。
図8】第3実施形態に係る横穴がある冷却孔へのレーザピーニング状況を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態に係るレーザピーニング装置及びレーザピーニング方法の断面構成を模式的に示す図である。このレーザピーニング装置及びレーザピーニング方法は、金型に設けられた冷却孔20などの一端が封止された孔であって、径が例えば、数ミリ乃至十数ミリ程度(特に3mm乃至10mm程度)の孔の内面にレーザピーニングを行うものである。
【0016】
図1に示すようにレーザピーニング装置は、レーザ発振器1、レーザ光伝送機構21、集光レンズユニット5、ノズル9、流体供給機構6、カバー10、流体保管機構12、吸引機構11を具備している。図1は、上記ノズル9を一端が封止された冷却孔20内に挿入した状態を示している。このようにノズル9の外径は、冷却孔20の内径より小さく設定されている。
【0017】
上記したレーザ光伝送機構21は、レーザ光2を反射させるためのミラーを少なくとも2つ具備しており、例えば図1に示す構成において、第1ミラー3には、外部に気泡確認機構15が設けられており、もう一つの第2ミラー4には、レーザ光2の照射角度を変更するために駆動機構が設けられている。
【0018】
レーザ発振器1は、レーザピーニングのためのパルスレーザを発振する。このパルスレーザの波長及びパルス幅は、適宜選択することができる。例えば、Nd:YAGレーザを用いて、波長1064nm、あるいは532nm、パルス幅が数ns~数十nsのパルスレーザを発生できる。なお、流体18の光の吸収特性に合わせてパルスレーザの波長を選定することで、レーザのエネルギーロスを小さくすることができる。
【0019】
レーザ発振器1から照射されたレーザ光2は、レーザ光伝送機構21及び集光レンズユニット5を介し、ノズル9内を通って冷却孔20の底面に照射される。前述したとおりレーザ光伝送機構21は、第1ミラー3と、第2ミラー4の少なくとも2枚のミラーを具備しており、例えば、第2ミラー4の角度を変えることで冷却孔20の底面へのレーザ光2の照射位置を変えることができ、冷却孔20の底面の所定の位置にレーザ光2を照射することができる。
【0020】
また、例えばレーザ発振器1と集光レンズユニット5の間にアッテネーター17を具備することもでき、冷却孔20に照射されるパルスエネルギーを制御することや、図示しない制御装置との組み合わせでパルスエネルギーが所定の値よりも低い場合にはシャッター16を閉じて施工をストップすることなども可能である。
【0021】
集光レンズユニット5は、少なくとも2枚以上のレンズを組み合わせて構成されており、レンズ間の距離を変えることが可能な構造となっている。2枚のレンズ間の距離を変えることでレーザ光2の焦点距離を変えることが可能となる。例えば、被施工対象物である冷却孔20の深さが30mm、50mm、100mmと深さが異なるものが混在している場合、深さに応じて集光レンズユニット5内のレンズ間距離を変えて焦点距離をそれぞれ30mm、50mm、100mmに変えることで1つの集光レンズユニット5で複数の深さが異なる冷却孔20にレーザピーニングを行うことができる。
【0022】
また、焦点距離を変えることで冷却孔20の底面に照射されるレーザ光2のスポット径の大きさも制御することができる。例えば、深さ30mmの冷却孔20に対し、焦点距離が35mmとなるように集光レンズユニット5をセットした場合、焦点よりも手前側でレーザ光2が冷却孔20の底部に照射されるため、集光位置よりも大きなスポット径でレーザピーニングを行うことができる。
【0023】
レーザピーニングにおいて使用されるスポット径については、被施工対象物の材質と導入する残留応力によって変えることができる。例えば、図1に示す構成では集光レンズユニット5を構成する2枚のレンズを用いて焦点距離を変えることでスポット径を変えることができるが、レーザピーニングを行うためには少なくとも使用するパルスエネルギーにおいてアブレーションプラズマ13が発生する条件とする必要がある。
【0024】
レーザピーニングでは、被施工対象物表面においてアブレーションプラズマ13を発生させ、プラズマ圧力により材料に塑性変形を生じさせることで圧縮応力を付与する。その際、プラズマを閉じ込めるために水などの流体18が必要となるが、冷却孔20は細いためポンプなどを用いて冷却孔20内部に流体18を供給しようとしてもキャビテーションが発生したり、部分的に流体18が供給されないところが生じたりと安定的な施工ができない。
【0025】
本実施形態のレーザピーニング装置には、ノズル9内部への流体18の流入を制御するための開閉ユニット7と、吸引機構11を用いて冷却孔20内部を負圧状態にするためのカバー10を具備している。冷却孔20に本実施形態のレーザピーニング装置を設置し、開閉ユニット7を閉じた状態で吸引機構11を用いて冷却孔20内部を吸引すると、図2に示すようにカバー10内部が負圧になるとともに冷却孔20内部に残存する気泡やゴミを事前に除去することができる。
【0026】
この状態で開閉ユニット7を開くと、内部が負圧なので流体供給機構6の内部の流体18が吸い上げられ、流体の流れ19に示す方向で流体伝送機構8を通って図3に示すように冷却孔20内部に安定的に流体18を供給することが可能となる。ここで、流体18としては水が望ましく、例えば波長532nmのパルスレーザを用いると水中での伝送ロスがほとんどない状態でのレーザピーニング施工が可能となる。また、防錆剤を混入した水やアンモニア水などの流体18を用いれば、被施工対象物の発錆を抑制しつつレーザピーニングが可能となる。アルカリイオン水、防錆油などを用いても良い。
【0027】
ここで、シャッター16を開くと図1に示すようにレーザ光2が冷却孔20底部まで到達し、レーザピーニングを行うことが可能となる。冷却孔20底面へのレーザピーニング施工方法については、図4及び図5を用いて説明する。図4は、冷却孔20内部に本実施形態のレーザピーニング装置を挿入した状態の断面図を示している。また、図5は冷却孔20の底部を上面から見た状態を示している。
【0028】
図4(a)は、冷却孔20の中心にノズル9が配置された状態であり、冷却孔20、レーザ光2の光軸、ノズル9が平行で、レーザ光2は冷却孔20底面の中央に照射されている(図5(a))。ここで、ノズル9を含む装置全体を、外周に平行移動させると図4(b)のようになり、レーザ光2は、冷却孔20中心からノズル9外周部が冷却孔20側面に接触する範囲まで移動させることが可能となり、図5(b)に示すように冷却孔20中央の周辺に対してレーザピーニングを行うことが可能となる。なお、図5(b)に点線でレーザピーニング施工可能範囲25を示している。
【0029】
次に、装置全体を冷却孔20の中心軸に対して傾斜させると、ノズル9とレーザ光2の光軸が同軸で冷却孔20に対して傾斜した状態、つまり図4(c)に示すような状態となり、レーザ光2はノズル9先端あるいは図示しないノズル9が冷却孔20上部と接触する範囲まで移動させることが可能となり、図5(c)に点線で示すレーザピーニング施工可能範囲25は図5(b)の場合よりもさらに広範囲となる。
【0030】
さらに、ノズル9を傾斜させた状態で図1に示す第2ミラー4の角度を変えると図4(d)に示すように、冷却孔20に対してノズル9が傾斜、レーザ光2の光軸も外周に向けて傾斜した状態となり、レーザ光2の移動可能範囲はさらに広くなり、図5(d)に示すレーザピーニング施工可能範囲25のように、冷却孔20の底部全体に対してレーザピーニングを行うことが可能となる。
【0031】
なお、ノズル9の移動量や傾斜角度に応じて、集光レンズユニット5により焦点距離を変えることで、冷却孔20の底部のいずれの位置に対しても同じスポット径でレーザピーニングを行うことが可能となる。また、被施工対象部がレーザ光2の照射角度に対して垂直から外れた場合は、レーザ光2のスポットの形状が楕円形状となるが、楕円の面積が等価となる円と同じピーニング効果が得られるため、焦点距離の制御により対応が可能となる。
【0032】
ノズル9の材質としては、ポリカーボネートなどの樹脂で、被施工対象物の材質に対して傷つけることなく、また摩擦抵抗の少ないものが望ましいが、金属の表面にコーティングを施したものなどを用いても良い。
【0033】
図1に示すように、吸引機構11により吸引された流体18は、流体保管機構12に保管される。保管された流体18は、図示しないポンプなどを用いて流体供給機構6に戻すことで、流体18を循環して利用することも可能である。また、吸引機構11を用いて冷却孔20から流体保管機構12に引き込まれた流体18には、レーザピーニングに伴う気泡14やアブレーションプラズマ13の発生に伴う図示しない金属小片が含まれている。このため、流体供給機構6に循環利用する場合は、図示しないフィルタなどでろ過することが望ましい。
【0034】
レーザピーニング施工時に発生する気泡14が流体18中に残存した状態で次のパルスレーザを照射した場合、残存した気泡14にレーザ光2が照射されることでエネルギーロスを生じ、施工が不安定になる場合がある。本実施形態のレーザピーニング装置では、レーザ光伝送機構21内に具備する第1ミラー3を介してノズル9内部並びにレーザ照射位置の画像を確認するための気泡確認機構15を具備している。
【0035】
図6は、気泡確認機構15を用いて冷却孔20内面を観察した画像の例を模式的に示している。レーザピーニング施工直後、ノズル9内面には、図6(a)に示すように気泡14が光路上に残存していることを確認することができる。継続して流体18を吸引機構11によりノズル9内部に吸引すると、気泡14は吸引機構11により流体18とともに吸引されて、図6(b)に示すように気泡のない状態となる。このように、気泡の残存状態を確認することで、パルスエネルギーの減衰を抑制しつつレーザピーニングを行うことが可能となる。
【0036】
この際、例えば、第1ミラー3として、ダイクロイックミラーを使用し、レーザピーニングに用いるレーザ光2の波長は反射、その他の波長の光は透過するような構成のものを用いることで、ノズル9中に含まれる気泡14の有無を確認することが可能となる。気泡確認機構15としては、CCDカメラなどの映像が確認できるものであればよく、ノズル9内部が暗い場合には光量を調整する機構を具備するなどしても良い。また、レーザピーニング施工中の映像を確認する際には、必要に応じて減光フィルタを挿入して映像を確認することも可能である。
【0037】
レーザピーニングでは、パルスレーザを用いるため、レーザ発振器1の周波数とノズル9内の画像確認を同期させて行ってもよく、連続的に行ってもよい。画像確認を行うことで、ノズル9内に気泡14が残存した状態で次のレーザ光2を照射することなく安定した施工が可能となる。上記したとおり、ノズル9内の気泡14の除去は、流体18を吸引機構11によりノズル9内部に吸引することによって行うことができる。したがって、このような吸引機構11の吸引をレーザ発振器1の周波数と同期させて行ってもよい。
【0038】
以上のような構成の実施形態のレーザピーニング装置及びレーザピーニング方法によれば、アクセスが困難な一端が封止された冷却孔20等の内面に圧縮応力を付与することができる。また、例えば、予め被施工対象物の冷却孔20の位置と深さ、並びにレーザピーニング施工範囲がわかっていれば、図示しない制御装置等を用いて集光レンズユニット5の焦点距離と移動パターンをプログラミングしておき、レーザ発振器1の周波数に応じてレーザ照射位置への移動、レーザ光2の照射、気泡確認機構15を用いた残存気泡の確認などを組み合わせることで、狭隘な冷却孔20の底部にレーザピーニングを自動で行うことが可能となる。
【0039】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について、図7を参照して説明する。図7は、レーザ光2の焦点位置を冷却孔20底部よりも上方になるような条件でレーザピーニングを行っている状況を示している。レーザピーニングを行うような条件では、焦点位置近傍においてブレークダウンによりプラズマ30が発生する。その際、図7に示すようにブレークダウンにより発生したプラズマ30の近傍に気泡14が発生し、吸引機構11による流体18の移動に伴って冷却孔20側面に移動する。その際、気泡14の崩壊による衝撃力を利用して、ピーニング効果により冷却孔20側面に圧縮応力を付与することができる(キャビテーションピーニング)。
【0040】
上記ブレークダウンに使用されなかったレーザ光2は、そのまま流体18内を伝送されて冷却孔20の底面に照射される。その際、照射されたレーザ光2の径が、例えばφ1mm以下で、パルスエネルギーが20mJ以上であればアブレーションプラズマ13が発生する。発生したアブレーションプラズマ13の圧力により、材料表面に塑性変形に伴う圧縮応力を付与することができ、冷却孔20の底面のレーザピーニングも同時に行うことが可能となる。
【0041】
以上のように、本第2実施形態のレーザピーニング装置及びレーザピーニング施工方法では、1パルスのレーザ照射により、冷却孔20の底面はレーザピーニング、冷却孔20の側面はキャビテーションピーニングにより圧縮応力を付与することが可能となる。
【0042】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について、図8を参照して説明する。金型などの複雑な構造物では、冷却孔20に横穴が設けられているような場合がある。そのような冷却孔20では、例えば図2のような構成の装置を用いた場合、吸引機構11を用いて冷却孔20の内部に吸引力を負荷しても、横穴からも気体が流入してくるため、冷却孔20の内部を負圧にすることができず、流体供給機構6の内部の流体18を、冷却孔20の内部に引き込むことはできない。
【0043】
そこで、本第3実施形態では、図8に示すように、外径が冷却孔20よりも小さく、同心状に配設された内側ノズル40と、外側ノズル41とからなる2重構造のノズルを用いる。吸引機構11を用いて吸引すると、外側ノズル41が冷却孔20の横穴から冷却孔20内部への気体の流入を抑制し、冷却孔20の内部を負圧にすることが可能となる。そして、2重構造の内側ノズル40を介して流体18が流体の流れ19に示す方向でノズル内部に吸引され、その状態でレーザ光2を照射することでレーザピーニングを行うことが可能となる。
【0044】
ノズルが2重構造であるため、冷却孔20の側面に突起物がある場合や、あるいは流路が分割していて減圧が確保できない場合にも冷却孔20の内部を負圧にすることで流体18を引き込むことが可能となる。
【0045】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0046】
1……レーザ発振器、2……レーザ光、3……第1ミラー、4……第2ミラー、5……集光レンズユニット、6……流体供給機構、7……開閉ユニット、8……流体伝送機構、9……ノズル、10……カバー、11……吸引機構、12……流体保管機構、13……アブレーションプラズマ、14……気泡、15……気泡確認機構、16……シャッター、17……アッテネーター、18……流体、19……流体の流れ、20……冷却孔、21……レーザ伝送機構、25……レーザピーニング施工可能範囲、30……ブレークダウンにより発生したプラズマ、40……内側ノズル、41……外側ノズル。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8