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特許7467315水系運用計画方法および水系運用計画システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】水系運用計画方法および水系運用計画システム
(51)【国際特許分類】
   G06Q 50/06 20240101AFI20240408BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
G06Q50/06
G05B23/02 R
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020188222
(22)【出願日】2020-11-11
(65)【公開番号】P2022077382
(43)【公開日】2022-05-23
【審査請求日】2023-03-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 一徳
(72)【発明者】
【氏名】村山 大
(72)【発明者】
【氏名】廣政 勝利
(72)【発明者】
【氏名】森 淳二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 崇
【審査官】橋沼 和樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-125665(JP,A)
【文献】特開2005-031821(JP,A)
【文献】特開2011-170808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G05B 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系に流入する水の時系列の流入量を予測する流入量予測工程と、
過去の流入量予測と過去の流入量実績とに基づき、前記流入量予測工程で予測した流入量に対する時系列の予測誤差を推定する予測誤差推定工程と、
前記流入量予測工程で予測した流入量と前記予測誤差推定工程で推定した予測誤差とに基づいて、水系の運用計画の情報を作成する水系運用計画工程と、
を含み、
前記水系運用計画工程では、
発電電力量の最大化、発電電力価値の最大化、ダム放流量の最小化、発電使用水量の最大化、のいずれかを目的とする最適化計算を行うことにより水系の運用計画の情報を作成し、
前記予測誤差推定工程で推定した予測誤差に対応した流入量の増減変動時の影響分を加算した目的関数を用いて前記最適化計算を行うことにより前記水系の運用計画を示す情報を作成する、
コンピュータにより実行される、水系運用計画方法。
【請求項2】
水系に流入する水の時系列の流入量を予測する流入量予測工程と、
過去の流入量予測と過去の流入量実績とに基づき、前記流入量予測工程で予測した流入量に対する時系列の予測誤差を推定する予測誤差推定工程と、
前記流入量予測工程で予測した流入量と前記予測誤差推定工程で推定した予測誤差とに基づいて、水系の運用計画の情報を作成する水系運用計画工程と、
を含み、
前記水系運用計画工程では、
発電電力量の最大化、発電電力価値の最大化、ダム放流量の最小化、発電使用水量の最大化、のいずれかを目的とする最適化計算を行うことにより水系の運用計画の情報を作成し、
前記予測誤差推定工程で推定した予測誤差に対応したダム水位変化の影響分の水位制約または貯水量制約を付け加える、あるいは水位制約または貯水量制約を狭めるように変更し、その上で前記最適化計算を行うことにより前記水系の運用計画を作成する、
コンピュータにより実行される、水系運用計画方法。
【請求項3】
前記予測誤差推定工程は、
一定時間内の所定の時間ステップごとの各時刻において予測される流入量に基づいて、予測誤差を推定することを含む、
請求項1又は2に記載の水系運用計画方法。
【請求項4】
複数のダムが連接するダム水系を対象とする、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の水系運用計画方法。
【請求項5】
水系に流入する水の時系列の流入量を予測する流入量予測手段と、
過去の流入量予測と過去の流入量実績とに基づき、前記流入量予測手段で予測した流入量に対する時系列の予測誤差を推定する予測誤差推定手段と、
前記流入量予測手段で予測した流入量と前記予測誤差推定手段で推定した予測誤差とに基づいて、水系の運用計画の情報を作成する水系運用計画手段と、
を備え
前記水系運用計画手段は、
発電電力量の最大化、発電電力価値の最大化、ダム放流量の最小化、発電使用水量の最大化、のいずれかを目的とする最適化計算を行うことにより水系の運用計画の情報を作成し、
前記予測誤差推定手段で推定した予測誤差に対応した流入量の増減変動時の影響分を加算した目的関数を用いて前記最適化計算を行うことにより前記水系の運用計画を示す情報を作成する、
水系運用計画システム。
【請求項6】
水系に流入する水の時系列の流入量を予測する流入量予測手段と、
過去の流入量予測と過去の流入量実績とに基づき、前記流入量予測手段で予測した流入量に対する時系列の予測誤差を推定する予測誤差推定手段と、
前記流入量予測手段で予測した流入量と前記予測誤差推定手段で推定した予測誤差とに基づいて、水系の運用計画の情報を作成する水系運用計画手段と、
を備え
前記水系運用計画手段は、
発電電力量の最大化、発電電力価値の最大化、ダム放流量の最小化、発電使用水量の最大化、のいずれかを目的とする最適化計算を行うことにより水系の運用計画の情報を作成し、
前記予測誤差推定手段で推定した予測誤差に対応したダム水位変化の影響分の水位制約または貯水量制約を付け加える、あるいは水位制約または貯水量制約を狭めるように変更し、その上で前記最適化計算を行うことにより前記水系の運用計画を作成する、
水系運用計画システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、水系運用計画方法および水系運用計画システムに関する。
【背景技術】
【0002】
ダム水系に流入する水の水量は、一般に、上流地点の雨量のほか融雪や湧水などの要素により変化する。水系運用では、流入量に応じた発電量を得るために、ダム水系への流入量に合わせた発電用取水を計画し運用することが求められる。
【0003】
特許文献1には、複数個所の雨量情報を用いて相関に基づく流量予測モデルで予測流量データを生成する流量予測装置が示されている。また、特許文献2には、ダム貯水量などの運用上の制約を考慮し、連接水系の発電量を最大限とするように、各発電機の発電使用水量の計画を作成する方法が提示されている。このような方法を組み合わせて利用することで、水系における発電量を向上するダム運用方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4807565号公報
【文献】特開2005-285032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、数時間程度先の直近の将来時刻におけるダム流入量は、近年の機械学習等を含む技術を駆使することで高精度に予測することが可能になっているが、予測対象が数日程度先の将来時刻となると流入量予測の難易度は上がり、流入量予測の誤差(予測誤差)が拡大する傾向がある。大雨や融雪に伴うダム流入量の急拡大時においても、一般的に、流入量を精度よく予測することは困難であることが多い。
【0006】
一方、ダム運用ではダム基準の高水位に維持して継続的な高効率の発電運用が望まれるが、例えばダム流入量が予測よりも増加した場合にダム水位が運用上限を超えると放流することになるので実際の流入量に対して発電量が減少することになる。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、流入量予測の誤差の影響を小さく抑えることができる、水系運用計画方法および水系運用計画システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態によれば、水系に流入する水の時系列の流入量を予測する流入量予測工程と、過去の流入量予測と過去の流入量実績とに基づき、前記流入量予測工程で予測した流入量に対する時系列の予測誤差を推定する予測誤差推定工程と、前記流入量予測工程で予測した流入量と前記予測誤差推定工程で推定した予測誤差とに基づいて、水系の運用計画の情報を作成する水系運用計画工程と、を含み、前記水系運用計画工程では、発電電力量の最大化、発電電力価値の最大化、ダム放流量の最小化、発電使用水量の最大化、のいずれかを目的とする最適化計算を行うことにより水系の運用計画の情報を作成し、前記予測誤差推定工程で推定した予測誤差に対応した流入量の増減変動時の影響分を加算した目的関数を用いて前記最適化計算を行うことにより前記水系の運用計画を示す情報を作成する、コンピュータにより実行される、水系運用計画方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、流入量予測の誤差の影響を小さく抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】一実施形態に係る水系運用計画方法を実現するための水系運用計画システムの機能構成の一例を示す図。
図2】同実施形態において水系運用計画の対象とされる水系のモデルの一例を示す図。
図3】水系運用計画のための処理手順の一例を示す図。
図4】流入量の予測値である流入量予測Qin(t)および対応する予測誤差の推定値ΔQin(t)の回帰式による計算結果の例を示す図。
図5】各種の決定変数の時間ステップごとの関係を示す図。
図6】計画水位の上限を基準水位Hnmaxより下げるように補正する例を示す図。
図7】予測誤差が大きい期間を含むことが見込まれる場合にその期間以前に発電取水量を増減させるよう発電出力P(t)を増減させる振替運用の例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0012】
図1は、一実施形態に係る水系運用計画方法を実現するための水系運用計画システムの機能構成の一例を示す図である。図2は、同実施形態において水系運用計画の対象とされる水系のモデルの一例を示す図である。
【0013】
(構成)
図1に示される水系運用計画システム100は、例えば1つ又は複数の情報処理装置(コンピュータ)を用いて実現されるものであり、各種の処理機能として、流入量予測部10、予測誤差推定部20、および水系運用計画部30を備える。また、各種の記憶機能として、第1の記憶部DB1、第2の記憶部DB2、および第3の記憶部DB3を備える。
【0014】
なお、流入量予測部10、予測誤差推定部20、および水系運用計画部30は、コンピュータのプロセッサにより実行されるプログラムの機能として構成されてもよい。また、第1の記憶部DB1、第2の記憶部DB2、および第3の記憶部DB3は、コンピュータのプロセッサの制御のもとで読み書きできる記録媒体を用いて実現されてもよい。また、これらの各種の処理機能や記憶機能は、まとめて1つのコンピュータに搭載されていてもよいし、いくつかに分散して別々のコンピュータに搭載されていてもよい。
【0015】
・流入量予測部10の機能
流入量予測部10は、水系に流入する水の時系列の流入量を予測する機能である。
【0016】
この流入量予測部10は、外部から提供される気象予報や雨量情報、積雪情報を入力し、記憶部DB1に記憶される過去の気象予報、過去の雨量情報などを参照するとともに、記憶部DB2に記憶される各ダムの過去の流入量の実績データを参照し、各ダムへ流入する水の流入量の予測値QFを時系列で出力する。ここで、各ダムの流入量の実績データの代わりに、各ダムの放流量、発電用取水量、および水位変化の実績データを入力し、各ダムの流入量を計算で求めたものを使用することができる。また、各ダムの流入量の予測は、各ダムに流入する河川の流量の予測としてもよい。
【0017】
・予測誤差推定部20の機能
予測誤差推定部20は、記憶部DB2に記憶される各ダムの過去の流入量の実績データと記憶部DB3に記憶される各ダムの過去の流入量の予測データとに基づき、流入量予測部10で予測した流入量に対する時系列の予測誤差を推定する機能である。予測誤差の推定は、例えば一定時間内の所定の時間ステップごとの各時刻において予測される流入量に基づいて行われる。
【0018】
この予測誤差推定部20は、流入量予測部10が出力した流入量の予測値QFの時系列を入力し、各ダムの過去の流入量の予測データおよび各ダムの過去の流入量の実績データを参照して、流入量予測部10が出力した流入量の予測値QFに対応する予測誤差の推定値EEを時系列で出力する。
【0019】
・水系運用計画部30の機能
水系運用計画部30は、流入量予測部10で予測した流入量と予測誤差推定部20で推定した予測誤差とに基づいて、水系の運用計画の情報を作成する機能である。水系運用計画の情報は、例えば予測誤差推定部20で推定した予測誤差に対応した流入量の増減変動時の影響分を加算した目的関数を用いた最適化計算を行うことによって、作成するようにしてもよい。あるいは、予測誤差推定部20で推定した予測誤差に対応したダム水位変化の影響分の水位制約または貯水量制約を付け加える、あるいは水位制約または貯水量制約を狭めるように変更し、その上で最適化計算を行うことによって、作成するようにしてもよい。
【0020】
この水系運用計画部30は、流入量予測部10が出力した流入量の予測値QFの時系列、予測誤差推定部20が出力した予測誤差の推定値EEの時系列を入力し、発電電力量の最大化、発電電力価値の最大化、ダム放流量の最小化、発電使用水量の最大化、のいずれかを目的とする最適化計算で算出した発電所の取水量QP、ダムゲートからの水の放流量QRを含む対象水系運用の計画情報を出力する。
【0021】
なお、上述した流入量予測部10、予測誤差推定部20、および水系運用計画部30は、対象となる水系の近傍に備えられてもよい。また、例えば水系から地理的に離れた遠隔地のサーバ等に、携帯電話通信網やインターネットを経由して雨量情報等のデータを収集・記録し、水系運用計画を演算する装置を設け、水系運用計画の情報を水系運用者が使用する装置に伝送する構成としてもよい。
【0022】
・水系モデル
図2に示されるモデルは、複数のダム1,2,3…が連接するダム水系を対象とするモデルの例である。ダム1,2,3,…には、それぞれ、各ダムからの取水で発電を行う発電機11,12,13,…が備えられる。各ダムの発電機で使用された後の水は、各ダムから放流される水と共に、次段のダムへと送られる。
【0023】
ダム1,2,3,…に水が流入する流入量を、それぞれ、Qin,Qin,Qin,…とする。
【0024】
ダム1,2,3,…の水位を、それぞれ、H,H,H,…とする。
【0025】
ダム1,2,3,…の貯水量を、それぞれ、V,V,V,…とする。
【0026】
ダム1,2,3,…から発電機11,12,13,…に供給される水の取水量(発電用取水量)を、それぞれ、Qp,Qp,Qp,…とする。
【0027】
ダム1,2,3,…のダムゲートから放流される水の放流量を、それぞれ、Qr,Qr,Qr,…とする。
【0028】
発電機11,12,13,…の発電量を、それぞれ、P,P,P,…とする。
【0029】
(処理手順)
次に、図3を参照して、水系運用計画のための処理手順の一例を説明する。
【0030】
ここでは、図1で説明したような流入量の予測値QFを利用して、対象水系の発電量に関する評価関数とダム水系運用の制約条件を元に、発電取水量QPと放流量QRの計画情報を算出するものとする。また、図2で説明した水系のモデルを対象に、ダム数をMとし、毎日定時刻(t=0)に、時間間隔ΔtごとにNステップ先の時間までの各時刻t=1,…,Nにおける流入量予測、予測誤差推定、水系運用計画を行うものとする。なお、水系運用計画の時間間隔Δtは、30分や1時間などを選定することができる。
【0031】
ステップS1の流入量予測では、流入量予測部10において、気象予報や複数地点の雨量情報に基づき、過去の気象予報、過去の雨量情報、各ダムの過去の流入量の実績データを参照して、機械学習等を使用して水系運用計画の時間間隔Δtごとの流入量の予測値QFを算出する。ここで、流入量の予測値QFは、ダムiの流入量予測Qin(t)(ただし、i=1,…,M、t=1,…,N)のデータである。
【0032】
また、過去の気象予報、過去の雨量情報、各ダムの過去の流入量の実績データを参照し、機械学習等としてニューラルネットワーク、ディープラーニングなどの手法を適用することで、気象予報や雨量情報を入力して流入量の予測値QFを算出するモデルを構成してもよい。さらに積雪情報の実績も参照するように流入量の予測値QFを算出するモデルを構成することで、積雪情報を入力に加えて流入量予測の精度を高めるように処理してもよい。
【0033】
ステップS2の予測誤差推定では、予測誤差推定部20において、各ダムの過去の流入量の予測データと各ダムの過去の流入量の実績データとから、流入量の予測値QFに対応する予測誤差の推定値EEの期待値を流入量の予測値QFと時刻tの関数で推定する式を構成する。予測誤差の推定値EEは、各ダムの流入量予測と流入量実績との差異の推定値ΔQin(t)であり、次式の回帰式で表すことができる。
【0034】
ΔQin(t)=β1i・Qin(t)+β2i・t+β3i …(1)
ここで、tは所定の時間ステップごとの時刻であり、β1、β2i、β3は各ダムの回帰式の係数である。回帰式の係数は、各ダムの過去の流入量の予測データおよび各ダムの過去の流入量の実績データから重回帰分析の手法で選定することができる。
【0035】
なお、予測誤差の推定値EEの計算方法としては、上記のほか、予測誤差を確率分布で表現し、予測誤差の増加側分布の期待値を予測誤差の推定値EEとしてもよい。
【0036】
図4は、流入量の予測値である流入量予測Qin(t)および対応する予測誤差の推定値ΔQin(t)の回帰式による計算結果の例をグラフで示したものである。このグラフの例では、ΔQin(t)は、Qin(t)が大きくなる時間帯では大きくなるが、その時間帯の経過後にQin(t)が小さくなるとそれに追従して同様に小さくなるわけではなく、経過時刻tに応じて比較的大きめの値で推移する傾向が見られる。
【0037】
ステップS3の水系運用計画では、水系運用計画部30において、ダム貯水量V(t)、ダム水位H(t)、発電用取水量Qp(t)、放流量Qr(t)、発電量P(t)を決定変数とし、水系運用の制約下で総発電量を目的関数として最大化する水系運用計画の情報を作成する。
【0038】
ここで、図5に、各種の決定変数の時間ステップごとの関係を示す。なお、図5中においては、発電用取水量Qp(t)と放流量Qr(t)とを、総じてQ(t)と表記している。図5に示すように、V(t)、H(t)は、時刻t=0から時間間隔Δtごとに時刻t=N+1に至るまでの個々の時刻に対応した値を示す。一方、Q(t)、P(t)は、個々の時刻間の時間間隔Δtに対応した値を示す。
【0039】
目的関数は、等式制約、不等式制約とともに、以下のように設定するものとする。
【0040】
目的関数:
max ΣΣ{C(t)・P(t)} …(2)
等式制約:
(t+1)-V(t)
={Qin(t)+Qpi-1(t)-Qp(t)+Qri-1(t)-Qr(t)}Δt …(3)
(t)=ah・V(t)+bh …(4)
(t)=ap・Qp(t)+bp・{H(t)-Hi0}+cp …(5)
不等式制約:
Hnmin ≦ H(t) ≦ Hnmax …(6)
Pmin ≦ P(t) ≦ Pmax または P(t)=0 …(7)
0 ≦ Qp(t) ≦ Qpmax …(8)
Qrmin ≦ Qr(t) ≦ Qrmax …(9)
ここで、C(t)は時間ごとの電力価値(売電単価)、ah、bhはダムの貯水量と水位の特性を表す係数、ap、bp、cpは発電所の発電出力特性を表す係数、Qrmin、Qrmaxはそれぞれ各ダムの最小維持放流量、最大放流量を示している。
【0041】
式(2)に示す目的関数は、発電電力量P(t)の総和の最大化または発電電力価値C(t)・P(t)の総和の最大化のほか、放流量Qr(t)の総和の最小化、発電用取水量Qp(t)の総和の最大化のいずれかを採用してもよい。
【0042】
ここで、予測誤差の推定値ΔQin(t)がダム運用の水位上限Hmaxと基準水位Hnmaxとの間の貯水量を上回る可能性があるダムの計画期間では、次の方法1の不等式制約の補正、または方法2の目的関数の補正を適用することができる。
【0043】
・方法1(制約式の補正)
図6に例示するように、予測誤差の推定値ΔQin(t)が閾値より大きい計画時刻tで、ダム水制約における計画水位の上限を基準水位Hnmaxより下げるように式(6)をΔH(t)分だけ補正する。
【0044】
Hnmin ≦ Hnmin ≦ H(t) ≦ Hnmax-ΔH(t) …(6A)
なお、等価な貯水量V(t)に関する不等式制約を用いてもよい。ΔH(t)は、式(4)の係数を利用して次のように見積もることができる。
【0045】
ΔH(t)=ah・ΔQin(t)Δt+bh-(Hmax-Hnmax) …(10)
なお、計画水位の下限についても運用水位下限Hnminに対して同様な補正を行うことで、水位下限を下回らないようにすることができる。
【0046】
・方法2(目的関数の補正)
放流量が増加することに伴う発電量P(t)の減少分の期待値ΔL(t)を減ずるように式(2)の目的関数を補正する。
【0047】
max ΣΣ{C(t)・(P(t)-ΔL(t) )} …(2A)
ここでΔL(t)は、式(5)の係数を利用して近似で見積もることができる。
【0048】
ΔL(t)=ap(t)・ΔQin(t)+cp …(11)
このようにした場合も、方法1と同様の効果が得られる。
【0049】
そのほか、ダム容量が大きいダムに対して方法1、ダム容量が小さいダムに対して方法2を適用するように、それぞれの式を使い分けて併用するようにしてもよい。また、方法1で最適化計算の解が得られなくなった場合に方法2に切り替えて再計算するように処理してもよい。
【0050】
このステップS3の水系運用計画では、線形計画法や混合整数計画法のソルバを利用することでより最適な解が得られるように処理してもよい。
【0051】
なお、予測誤差の影響を減ずるために、数時間おきにその時点で最新の流入量予測を取得し、予測誤差推定と水系運用計画の情報を作成することで再計画を行ってもよい。
【0052】
また、流入量予測部10、水系運用計画部30に相当する処理部を備える既設の水系運用計画を行う計算機システムに対して、予測誤差推定部20の処理を追加し、水系運用計画部を上述した実施形態の処理と同じになるように変更することで、水系運用計画を実施するようにしてもよい。
【0053】
(効果)
将来時刻の水系への流入量を予測し、予測誤差を推定し、予測誤差に伴う発電量や放流量への影響を抑えるように最適計画問題の水位制約や目的関数を補正し、それらに基づいて発電用取水量や放流量を含む水系運用の最適計画の情報を算出することで、流入量予測に誤差がある場合にも水系運用計画の最適性の低下を小さく抑える水系運用計画を実現することができる。
【0054】
また、水系運用計画において、予測誤差が大きい期間を含むことが見込まれる場合には、例えば図7に示すように、その期間以前に発電取水量を増減させるよう、発電出力上限を超えない範囲で発電出力P(t)を増減させる振替運用を行うことが有効であるが、予測誤差の影響を含む最適化計算にこれを適用することで、複数のダムが連接するダム水系を対象に、振替期間と振替発電量の情報を含むより最適な水系運用計画を実現することができる。
【0055】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0056】
10…流入量予測部、20…予測誤差推定部、30…水系運用計画部、100…水系運用計画システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7