(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】鉄道車両における蓄圧系の異常検知方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/08 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
G01M17/08
(21)【出願番号】P 2020192112
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000221616
【氏名又は名称】東日本旅客鉄道株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三枝木 祐人
(72)【発明者】
【氏名】阿部田 知明
(72)【発明者】
【氏名】廣川 裕祐
【審査官】鴨志田 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-137967(JP,A)
【文献】特開2018-001997(JP,A)
【文献】特開2020-132090(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170253(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンプレッサと2筒式除湿装置と空気タンクとエアブレーキ装置と空気バネを含む蓄圧系を備えた鉄道車両に搭載されたデータ収集システムによって収集された前記コンプレッサの稼働情報、前記エアブレーキ装置の稼働情報、蓄圧系の圧力情報、空気バネの変動情報を取得し記憶する第1ステップと、
記憶された情報の中から、コンプレッサの動作期間が所定の時間よりも長いものをコンプレッサごとに抽出する第2ステップと、
前記第2ステップにより抽出されたコンプレッサの動作期間の中からエアブレーキ装置の稼働がなく空気バネの変動の少ない期間における蓄圧系の圧力情報を抽出する第3ステップと、
前記第3ステップにより抽出された蓄圧系の圧力情報に基づいて、蓄圧系の圧力上昇途中における一時的な圧力落ち込み量を、コンプレッサごとに算出する第4ステップと、
前記第4ステップにより算出された圧力落ち込み量が所定値よりも大きいか否か判定する第5ステップと、
前記第5ステップにおける判定結果を記憶装置に格納もしくは出力する第6ステップと、を含むことを特徴とする鉄道車両における蓄圧系の異常検知方法。
【請求項2】
前記第1ステップにおいては、前記コンプレッサの稼働情報、前記エアブレーキ装置の稼働情報、蓄圧系の圧力情報、空気バネの変動情報と共にコンプレッサのモータの動作電流値情報を取得し、
記憶された情報の中から、コンプレッサのモータの動作電流値に基づいてモータの動作異常を前記第3ステップよりも前に判定するステップを備え、
前記第3ステップにおいては、前記第2ステップにより抽出されたコンプレッサの動作期間の中から、エアブレーキ装置の稼働がなく空気バネの変動が少なくかつモータの動作異常のない期間における蓄圧系の圧力情報を抽出することを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両における蓄圧系の異常検知方法。
【請求項3】
前記第2ステップにおけるコンプレッサの動作期間は、空気タンクに設けられている調圧器から出力されるコンプレッサの動作開始指令信号とコンプレッサの動作停止指令信号とに基づいて決定することを特徴とする請求項1または2に記載の鉄道車両における蓄圧系の異常検知方法。
【請求項4】
前記蓄圧系の圧力情報は、前記エアブレーキ装置のコントローラに蓄圧系の圧力情報を供給するために設けられている圧力センサにより検出された圧力値であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の鉄道車両における蓄圧系の異常検知方法。
【請求項5】
前記データ収集システムは収集したデータを無線通信で送信するデータ送信装置を備え、前記第1ステップ~第6ステップの処理は、前記データ送信装置から送信されたデータを受信するデータ受信装置、受信したデータを記憶する記憶装置およびデータ処理装置を備えた地上側装置の前記データ処理装置によって実行されることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の鉄道車両における蓄圧系の異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両においてエアブレーキや空気バネに使用する圧縮空気を発生するコンプレッサを含む蓄圧系の異常を検知する技術に関し、特に2個の除湿筒を備えた蓄圧系における切替え弁の動作異常を検知可能な異常検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両には、エアブレーキや空気バネに使用する圧縮空気を発生するコンプレッサや圧縮された空気を除湿する除湿装置、圧縮空気を蓄積する空気タンク、調圧器などからなる蓄圧システムが搭載されている。この蓄圧システムにおいては、空気タンク内の圧力が所定値以下に低下するとコンプレッサが起動されて外気を圧縮して空気タンクに蓄積し、空気タンク内の圧力が所定値に到達するとコンプレッサが停止する動作を繰り返すようになっている。この蓄圧システムにおいては、コンプレッサ等の構成部品が長期間の運用によって劣化もしくは故障し、それにより能力が低下した場合、1回当たりの稼働時間が長くなりトータルの消費電力が増加するおそれがある。なお、鉄道車両の蓄圧システムにおける異常原因としては、コンプレッサの故障が最も頻度が高い。
【0003】
そこで、本出願人は、鉄道車両用コンプレッサの異常の発生を予測する発明をなし出願した(特許文献1)。
特許文献1に記載されている鉄道車両用コンプレッサの異常検知方法は、車両に搭載されたデータ収集システムによって収集されたコンプレッサの稼働情報や蓄圧系の圧力情報等を受信するステップと、収集された情報の中からブレーキ装置の操作のない時間における蓄圧系の圧力情報を抽出して所定時間内における蓄圧系の圧力上昇量を算出するステップと、所定時間内における空気バネの圧力変位を算出するステップと、空気バネの圧力変位と乗車率と外気温度と車両速度を説明変数としかつ蓄圧系の圧力上昇量を従属変数として重回帰分析により回帰モデル式を立て該回帰モデル式を用いてコンプレッサの状態を判断する処理を行うステップとを含むようにしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-137967号公報
【文献】特開2018-001997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されている異常検知方法は、異常の発生を予測するものである。しかし、鉄道車両の蓄圧システムにおける異常は、コンプレッサの故障だけでなく、除湿装置や調圧器などの他の構成部品の故障により発生するものもある。
特許文献2には、鉄道車両の蓄圧システム(空制システム)全体の異常を判定するようにした発明が記載されている。特許文献2に記載されている空制システムの異常判定方法は、空制システムの各所の圧力値を取得し、それらの圧力値データを統計的手法によって解析して異常を判定するものである。そのため、空制システムの各所に複数の圧力センサを新たに追加設置する必要があり、コストアップを招くとともに、センサの数が多くなると、それらのメンテナンスを行うための作業量が増加するという課題がある。
【0006】
本発明者らは、鉄道車両の蓄圧システムにおける異常の原因について考察した結果、2個の除湿筒を有する2筒式除湿装置を備えた蓄圧システムにおいては、除湿筒の切替え弁の動作不良によるものが比較的に多いことを見出した。なお、除湿筒にはそれぞれ除湿剤が収納されており、除湿剤はときどき乾燥させて再生する必要があるため、2個の除湿筒を交互に使用可能にする切替え弁が設けられている。特許文献2には、除湿機の異常を検知できることや異常の具体例として配管の亀裂による空気漏れについては記載されているが、異常の原因としての切替え弁の動作不良についての記載はない。
【0007】
本発明は、上記のような背景のもとになされたもので、鉄道車両の蓄圧システムにおいて除湿筒の切替え弁の動作不良による異常の発生を検知することができる異常検知方法を提供することを目的とする。
本発明の他の目的は、新たに圧力センサを設置することなく、鉄道車両の蓄圧システムにおける異常の発生を検知することができる異常検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る鉄道車両の蓄圧システムの異常検知方法は、
コンプレッサと2筒式除湿装置と空気タンクとエアブレーキ装置と空気バネを含む蓄圧系を備えた鉄道車両に搭載されたデータ収集システムによって収集された前記コンプレッサの稼働情報、前記エアブレーキ装置の稼働情報、蓄圧系の圧力情報、空気バネの変動情報を取得し記憶する第1ステップと、
記憶された情報の中から、コンプレッサの動作期間が所定の時間よりも長いものをコンプレッサごとに抽出する第2ステップと、
前記第2ステップにより抽出されたコンプレッサの動作期間の中からエアブレーキ装置の稼働がなく空気バネの変動の少ない期間における蓄圧系の圧力情報を抽出する第3ステップと、
前記第3ステップにより抽出された蓄圧系の圧力情報に基づいて、蓄圧系の圧力上昇途中における一時的な圧力落ち込み量を、コンプレッサごとに算出する第4ステップと、
前記第4ステップにより算出された圧力落ち込み量が所定値よりも大きいか否か判定する第5ステップと、
前記第5ステップにおける判定結果を記憶装置に格納もしくは出力する第6ステップと、を含むようにしたものである。
【0009】
上記方法によれば、コンプレッサの稼働情報、前記エアブレーキ装置の稼働情報、蓄圧系の圧力情報、空気バネの作動情報を収集して、蓄圧時間が所定以上長いコンプレッサについて、エアブレーキ装置の稼働および空気バネの作動のない期間における蓄圧系の圧力上昇途中における一時的な圧力落ち込み量を算出し、圧力落ち込み量に基づいて蓄圧系の状態を判定するため、エアブレーキ装置の稼働や空気バネの作動の影響を排除して、除湿装置の除湿筒切替え弁の動作不良による異常の発生を正確に検知することができる。
【0010】
ここで、望ましくは、前記第1ステップにおいては、前記コンプレッサの稼働情報、前記エアブレーキ装置の稼働情報、蓄圧系の圧力情報、空気バネの変動情報と共にコンプレッサのモータの動作電流値情報を取得し、
記憶された情報の中から、コンプレッサのモータの動作電流値に基づいてモータの動作異常を前記第3ステップよりも前に判定するステップを備え、
前記第3ステップにおいては、前記第2ステップにより抽出されたコンプレッサの動作期間の中から、エアブレーキ装置の稼働がなく空気バネの変動が少なくかつモータの動作異常のない期間における蓄圧系の圧力情報を抽出するようにする。
【0011】
鉄道車両における圧縮空気の蓄圧系においては、システム全体の異常のうちコンプレッサのモータの動作異常の占める割合は比較的大きいので、除湿筒切替え弁の動作異常の検知とは別個に、モータの動作異常の検知を行うのが望ましい。上記のような方法によれば、コンプレッサのモータに動作異常があることで蓄圧時間が長くなっているものを、切替え弁の動作異常を検知するための第4ステップ~第6ステップの処理の対象から外すことができるため、データ処理装置の負担を軽減することができる。
【0012】
また、望ましくは、前記第2ステップにおけるコンプレッサの動作期間は、空気タンクに設けられている調圧器から出力されるコンプレッサの動作開始指令信号とコンプレッサの動作停止指令信号とに基づいて決定するようにする。
かかる方法によれば、コンプレッサの動作期間における蓄圧系の圧力データを容易に抽出することができる。
【0013】
また、望ましくは、前記蓄圧系の圧力情報は、前記エアブレーキ装置のコントローラに蓄圧系の圧力情報を供給するために設けられている圧力センサにより検出された圧力値であるようにする。
既存のシステムでは、ブレーキコントロールユニット内に圧力センサが設けられており、上記の方法によれば、既存の圧力センサの圧力値に基づいて異常の有無を判定することができる。従って、新たに圧力センサを設置することなく、鉄道車両の蓄圧システムにおける異常の発生を検知することができる。
【0014】
さらに、望ましくは、前記データ収集システムは収集したデータを無線通信で送信するデータ送信装置を備え、前記第1ステップ~第6ステップの処理は、前記データ送信装置から送信されたデータを受信するデータ受信装置、受信したデータを記憶する記憶装置およびデータ処理装置を備えた地上側装置の前記データ処理装置によって実行されるようにする。
かかる方法によれば、車両に搭載されたデータ処理装置の負担を減らすことができるため、高性能のデータ処理装置を車両に搭載する必要がなく、本発明に係る異常検出方法の採用に伴うコストアップを抑制することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、鉄道車両の蓄圧システムにおいて、除湿筒の切替え弁の動作不良による異常の発生を検知することができる。また、新たに圧力センサを設置することなく、鉄道車両の蓄圧システムにおける異常の発生を検知することができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る鉄道車両における蓄圧系の異常検知方法を実施する上で必要なデータを収集するシステムおよび取集したデータに基づいて異常検知処理を実行するデータ処理装置の概略構成を示したブロック図である。
【
図2】鉄道車両に搭載されている蓄圧システムを構成する2筒式除湿装置の構成を示すブロック図である。
【
図3】鉄道車両に搭載されている蓄圧システムにおけるコンプレッサの1回の稼働期間のMR圧力の変化を示すグラフである。
【
図4】本発明の一実施形態における蓄圧系の異常検知処理の手順の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る鉄道車両における蓄圧系の異常検知方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
エアブレーキや空気バネに使用する圧縮空気を発生し蓄積する蓄圧系の異常を検知する本発明に係る異常検知方法は、稼働中(走行中および整備中)の列車において取集した蓄圧系(コンプレッサおよび除湿装置、空気タンク、エアブレーキ、空気バネ)の圧力データに基づいて、蓄圧系の状態を把握し、除湿筒の切替え弁の異常の発生を初期段階で検知するものである。そこで、異常検知に必要なデータの収集システムおよび該システムにより収集されたデータに基づいて蓄圧系の状態を判定し報知する異常検知装置の構成について、
図1を用いて先ず説明する。
【0018】
図1には、稼働中の列車からデータを収集するシステム10および収集されたデータに基づいて蓄圧系(除湿筒の切替え弁)の異常を検知する異常検知装置20の概要が示されている。
図1に示されているように、1編成の列車の各車両A,B,C……には、数両に1台の割合でコンプレッサ11および空気タンク12とブレーキコントローラ13が搭載された車両(図では車両B)が連結されている。また、図示しないが、各車両には前後左右計4か所に上記蓄圧系から圧縮空気の供給を受ける空気バネ14が設けられており、空気バネ14は乗車率や左右の荷重差に応じて空気圧が調整されるように構成されている。空気バネ14には車両重量を計測する荷重計としての変位センサもしくは圧力センサが設けられている。
【0019】
また、1編成を構成する複数の車両に設けられている空気タンク12同士は図示しないMR管と呼ばれるパイプで接続されており、該パイプに各車両の空気バネが接続されている。そして、上記空気タンク12には調圧器が設けられており、調圧器は蓄圧系の圧力が所定値以下に下がるとコンプレッサ11の稼働を指示する信号を出力し、空気タンク12の圧力が上がって所定値に達するとコンプレッサ11の稼働を停止させる信号を出力して、コンプレッサ11を制御するように構成されている。ブレーキコントローラ13には、MR管内の圧縮空気の圧力を検知するための圧力センサが設けられている。
【0020】
本実施形態におけるデータ収集システム10は、列車に設けられているデータ伝送路15を利用して、ブレーキコントローラ13の圧力センサと各車両の空気バネ14のセンサのデータ、調圧器からコンプレッサ11へ出力される動作指示信号を収集可能に構成されている。各車両A,B,C……には、それぞれ伝送端末装置16a,16b,16c……が設けられており、これらの伝送端末装置16a,16b,16c……はデータ伝送路15によって接続され、ブレーキコントローラ13は当該車両の伝送端末装置(図では16b)に接続されている。なお、各センサからのデータや信号のサンプリング周期としては、例えば0.2秒とすることが考えられる。空気バネ14が電磁弁を備える場合、空気バネ14のセンサのデータの代わりに電磁弁の制御信号を収集するようにしても良い。
【0021】
中央端末装置17は、データ伝送路15を介して収集したデータを、電動車識別情報(号車情報)と共に、例えばハードディスクや半導体メモリのような記憶装置を備えた記録装置18に格納し、無線通信機能を有する送信ユニット19が地上側の異常検知装置20へ収集データを定期的に送信するように構成されている。
記録装置18には、当該列車の識別情報(編成番号)が格納されており、中央端末装置17が収集データを送信する際には、収集したデータと共に列車の識別情報を送信する。なお、記録装置18は、サーバーであっても良い。
【0022】
本実施形態の鉄道車両の蓄圧系の異常検知装置20は、車上側のデータ収集システム10の送信ユニット19から送信された収集データ等を受信するデータ受信部21と、受信したデータを記憶するハードディスクや半導体メモリのようなデータ格納部22を備える。また、異常検知装置20は、受信したデータ(圧力値)に基づいてコンプレッサによる圧縮途中での圧力の落ち込み量を算出する落込量算出部23と、算出された落ち込み量に基づいて異常を判定する判定処理部24と、判定結果を記憶する結果格納部25と、アラート(警報)情報を外部の携帯情報端末30等へ送信するアラート発信部26を備える。
【0023】
なお、上記落込量算出部23と判定処理部24の機能は、CPU(マイクロプロセッサ)のような演算装置、ROMやRAMなどの記憶装置、キーボードのような入力装置および表示装置のような出力装置を備えたパーソナルコンピュータと、その記憶装置に記憶されるプログラムとによって実現することができる。かかるパーソナルコンピュータのハードウェア構成自体は公知であるので、その図示は省略する。
【0024】
図2には、本発明の蓄圧系の異常検知方法を適用して有効な蓄圧システムの構成が示されている。
図2に示すように、本発明の蓄圧系の異常検知方法の適用対象となる蓄圧システムは、コンプレッサ(空気圧縮機)11と、空気タンク(空気溜)12と、除湿装置31と、コンプレッサ11を制御するコントローラ32とを備え、空気タンク12にMR管33が接続されている。空気タンク12には、タンク内の圧力が所定値以下に低下するとコンプレッサ11の動作を開始させる信号を出力し空気タンク12内の圧力が所定値に到達するとコンプレッサ11を停止させる信号を出力する調圧器34が設けられている。
【0025】
除湿装置31は、2筒式除湿装置であり、入口がコンプレッサ11の吐出口に接続されたクーラCLと、クーラCLの出口に接続されたドレン弁DV、ドレン弁DVの出口に接続された一対の切換弁MV1,MV2、切換弁MV1,MV2の流出口に接続されそれぞれ吸着剤を内蔵した除湿筒DR1,DR2、除湿筒DR1,DR2の出口に接続された逆止弁CV1,CV2、逆止弁CV1,CV2の上流側間に設けられた絞りNVなどから構成される。
なお、切換弁MV1,MV2は、消磁(OFF)時にその流出口を大気に開放すると共に流入口を閉じる排気位置bと、励磁(ON)時にその排気口を閉じると共に流入口を流出口に連通する供給位置aとを備える。
【0026】
切換弁MV1がオン, 切換弁MV2がオフすると、コンプレッサ11からの湿潤空気は、クーラCL,ドレン弁DV, 切換弁MV1を経て一方の除湿筒DR1へ供給され、該除湿筒DR1内の吸着剤によって除湿乾燥された後、逆止弁CV1を経て空気タンク12へ至る。このとき、乾燥空気の一部は、絞りNVを経て他方の除湿筒DR2の出口から入口へ逆流し、該除湿筒DR2内の吸着剤を乾燥させて再生し、湿潤空気となって電磁弁MV2の排気位置bを経て排出される。一方、切換弁MV1をオン, 切換弁MV2をオンにそれぞれ切り換えると、上記とは逆に、除湿筒DR2で湿潤空気の除湿乾燥が行なわれ、除湿筒DR1で吸着剤の再生が行なわれる。なお、除湿装置31のコントローラ32から出力される切換弁MV1,MV2の切換制御信号を収集するようにしても良い。
【0027】
次に、蓄圧系の異常検知装置20による異常検知判定処理の詳細を、
図3のグラフおよび
図4のフローチャートを用いて説明する。
上述したように、2筒式除湿装置においては、切換弁MV1,MV2の切換の際に再生側の除湿筒の切換弁より圧縮空気の一部が吐出される。本発明者らは、切換弁MV1,MV2が劣化すると切換吐出量が増加し、コンプレッサが空気タンク内の空気を所定の圧力まで上昇させるのに要する時間(本明細書ではこれを蓄圧時間と称する)すなわち1回当たりのコンプレッサ稼働時間が長くなるだろうと予測して、営業運転中の車両においてコンプレッサの駆動開始時刻と停止時刻および圧力センサの値の変化を記録した。
【0028】
その結果、コンプレッサが起動されると空気タンク内の空気の圧力は徐々に上昇し、圧縮途中で除湿装置31の切換弁MV1,MV2が切り換わるタイミングで圧力の上昇が止まり、しばらくすると再び圧力は徐々に上昇することが分かった。さらに、圧力の変化途中に異常が見られたものを
図3に示す。
図3に示すグラフでは、切換弁MV1,MV2が切り換わるタイミングで圧力が落ち込んでいることが分かる。そこで、圧力に変化に異常が見られた除湿装置を検査したところ、切換弁より空気が漏れているつまり切換弁が不良となっていることを見出した。これにより、コンプレッサの動作中における圧力の落ち込み量が所定量以上になった場合に、切換弁に異常があると判定できることが分かった。
【0029】
上記知見に基づいて本発明者らは
図1に示すような異常検知装置20と、該異常検知装置20が実行する異常検知方法を開発した。
図4に、異常検知装置20のデータ処理部(23,24)が実行する異常判定処理手順の一例を示す。
図4の異常検知判定処理が開始されると、判定処理部24は、先ずデータ格納部22に格納されている収集データの中から、コンプレッサの稼働による1回当りの蓄圧時間を算出する(ステップS1)。具体的には、コンプレッサの動作開始指令である調圧器出力が「1」に変化した時刻t1と、調圧器出力が動作停止を示す「0」に変化した時刻t2とを読み込んで、式(t2-t1)より蓄圧時間を算出する。
【0030】
次に、ステップS1で算出された蓄積時間が予め設定された所定時間よりも大きいか否か判定する(ステップS2)。ここで、蓄積時間が所定時間よりも小さい(No)と判定すると、ステップS1へ戻り、次にコンプレッサが動作した際の蓄積時間の算出を行う。
一方、ステップS2で、蓄積時間が所定時間よりも大きい(Yes)と判定すると、ステップS3へ移行して、対応するコンプレッサ稼働期間中におけるエアブレーキの稼働情報と空気バネの情報(変位センサまたは圧力センサの値)をデータ格納部22から読み込む。そして、着目するコンプレッサ稼働期間中にエアブレーキが稼働または空気バネが作動したか否か判定する(ステップS4)。なお、空気バネは乗車率の変動に伴い頻繁に作動して圧力や変位量が変動するので、コンプレッサ動作中の乗車率変動がある程度小さい場合(例えば5%以下)には、空気バネは非作動であるとみなしても良い。
【0031】
上記ステップS4で、コンプレッサ稼働期間中にエアブレーキが稼働または空気バネが作動している(Yes)と判定すると、ステップS1へ戻り、次にコンプレッサが動作した際の蓄積時間の算出を行う。一方、ステップS4で、エアブレーキの稼働も空気バネの作動もない(No)と判定すると、ステップS5へ進んで、着目するコンプレッサ稼働期間中における圧縮空気の圧力を検知する圧力センサの検出値(MR圧力値)を読み込む。そして、圧縮途中の圧力センサの検出値に所定以上の落ち込みが生じているか否か判定する(ステップS6)。
【0032】
上記ステップS6で、MR圧力値に落ち込みがない(No)と判定した場合は、蓄圧系は正常である旨の判定結果を結果格納部25に格納する(ステップS10)。一方、ステップS6でMR圧力値に落ち込みがある(Yes)と判定すると、ステップS7へ進んで、MR圧力値の一時的な圧力落ち込み量(
図3のΔP)を算出する。続いて、その圧力落ち込み量が、予め設定された所定値よりも大きいか否か判定する(ステップS8)。そして、MR圧力値の落ち込み量が所定値よりも小さい(No)場合は、蓄圧系は正常である旨の判定結果を結果格納部25に格納する(ステップS10)。なお、ステップS8の「所定値」は、過去の取得データを統計的処理することにより決定することができる。
【0033】
一方、ステップS8で、MR圧力値の落ち込み量が所定値よりも大きい(Yes)と判定すると、ステップS9へ移行して、蓄圧系が異常である旨の判定結果を結果格納部25に格納する。また、このとき、アラートを発信(もしくはアラームを発報)するようにしても良い。
その後、1編成の全てのコンプレッサについて判定が完了したか否か判定し(ステップS11)、1編成について判定が完了していない(No)と判定したときはステップS1へ戻り、次にコンプレッサについてステップS1~S10の処理を実行する。また、ステップS11で、1編成について判定が完了した(Yes)と判定すると、当該処理を終了する。
【0034】
なお、本実施形態の蓄圧系の異常検出システムにおいては、中央端末装置17がコンプレッサ11の動作電流値を定期的に収集して記憶装置18に記憶して地上側の異常検知装置20へ送信し、判定処理部24が受信した動作電流値データに基づいて、コンプレッサ11の異常を検知している。従って、ステップS2で蓄圧時間が所定値よりも大きいと判断した場合に、動作電流値に基づいて当該コンプレッサ11に異常があるか否か判定し、コンプレッサが正常である場合に、ステップS3へ移行するようにしても良い。
【0035】
また、コンプレッサ11の動作電流値を検出して収集する代わりに、SIV(インバータ)の出力電流値を検出して収集し、その電流値からヒータや空調装置の動作期間以外の期間の電流値を、コンプレッサ11の動作電流値として抽出し、抽出した動作電流値に基づいて当該コンプレッサ11に異常があるか否か判定するようにしても良い。
コンプレッサのモータに動作異常があることで蓄圧時間が長くなっているものを、切替え弁の動作異常を検知するための処理の対象から外すことによって、データ処理装置からなる異常検知装置20のCPUの負担を軽減することができる。
【0036】
以上説明したように、上記実施形態においては、MR圧力値に基づいて、除湿装置31の切換弁MV1,MV2の不良に伴う蓄圧系の異常を検出することができるため、除湿装置31に流量計を設ける必要がない。また、MR圧力値は、ブレーキコントローラ13にもともと設けられている圧力センサから取得することができるため、新たに圧力センサを設ける必要がないという利点がある。ただし、空気タンクまたはMR管の途中に圧力センサを設けてMR圧力値を取得することも可能である。
【0037】
なお、上記実施形態では、
図4に示す異常検出処理のステップS1~S11をすべて地上側の異常検知装置20で実行すると説明したが、ステップS1~S3の処理は車両に搭載されている中央端末装置17等により実行して記録装置18に記憶して記憶したデータを地上側装置(20)へ送信し、地上側装置(20)がステップS4~S11の処理を実行するようにしてもよい。また、ステップS1~S11のすべての処理を車両側の装置で実行することも可能である。
【0038】
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。例えば、前記実施形態では、蓄圧時間が平均的な時間よりも長いものを見つけ、その中から圧縮途中でブレーキ動作がなく空気バネの変動の少ないものを抽出して、それについて除湿装置の切換弁の切換タイミングでの圧縮空気の圧力の落ち込み量が所定値以上のものを切換弁の不良と判断するようにしているが、切換弁の切換制御信号を取得可能な蓄圧系においては、収集データの中から切換弁の切換タイミングでブレーキ動作や空気バネの圧力変動のないデータを抽出して、コンプレッサによる圧縮途中における圧力の落ち込み量を算出して、所定値以上であった場合に切換弁が不良となっていると判断するようにしてもよい。
【0039】
さらに、前記実施形態では、本発明を、コンプレッサで圧縮された空気の蓄圧システムを構成する除湿装置の切換弁の不良による動作異常の検出に適用した場合について説明したが、本発明は、コンプレッサで圧縮された空気を送る配管の途中における空気漏れを検出したい場合にも利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
10 データ収集システム
11 コンプレッサ
12 空気タンク
13 ブレーキコントローラ
14 空気バネ
15 データ伝送路
16A,16B,16C 伝送端末装置
17 中央端末装置
18 記録装置
19 送信ユニット
20 地上側装置(異常検知システム)
21 データ受信部
22 データ格納部
23 圧力落込量算出部
24 判定処理部
25 結果格納部
26 アラート発信部
31 除湿装置
33 MR管
34 調圧器
DR1,DR2 除湿筒
MV1,MV2 除湿筒切換弁