(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】磁性コアとその製造方法、およびコイル部品
(51)【国際特許分類】
H01F 27/25 20060101AFI20240408BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
H01F27/25
H01F41/02 B
(21)【出願番号】P 2020503646
(86)(22)【出願日】2019-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2019008125
(87)【国際公開番号】W WO2019168158
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-11-30
【審判番号】
【審判請求日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2018037526
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018158585
(32)【優先日】2018-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中畑 功
(72)【発明者】
【氏名】松元 裕之
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 修
【合議体】
【審判長】篠原 功一
【審判官】井上 信一
【審判官】畑中 博幸
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-112830(JP,A)
【文献】特表2015-505166(JP,A)
【文献】特開2018-49921(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/25
H01F 41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体を含むコイル部品用の磁性コアであって、
小片に分割された複数の軟磁性薄帯が積層されてなり、
前記軟磁性薄帯が、平均クラック間隔が0.015mm以上1mm以下となるように、小片に分割されており、
前記軟磁性薄帯が、Fe基ナノ結晶軟磁性薄帯であることを特徴とする磁性コアにコイルが巻かれてなることを特徴とするコイル部品。
【請求項2】
磁性材料の占積率が、70%以上であり、かつ99.5%以下であることを特徴とする請求項1に記載の磁性コアにコイルが巻かれてなることを特徴とするコイル部品。
【請求項3】
導体を含むコイル部品用の磁性コアであって、
小片に分割された複数の軟磁性薄帯が積層されてなり、
前記軟磁性薄帯が、平均クラック間隔が0.015mm以上1mm以下となるように、小片に分割されており、
前記軟磁性薄帯が、Fe基ナノ結晶軟磁性薄帯であることを特徴とする磁性コアの製造方法であって、
複数の軟磁性薄帯を熱処理する熱処理工程と、
熱処理された複数の前記軟磁性薄帯のそれぞれの主面に、接着層を形成する接着層形成工程と、
前記接着層が形成された複数の前記軟磁性薄帯を、それぞれ小片化処理する小片化処理工程と、
小片化処理された複数の前記軟磁性薄帯を、それぞれ所定の形状に打ち抜く打ち抜き工程と、
小片化処理された複数の前記軟磁性薄帯同士を、厚み方向に、前記接着層を介して積層する積層工程と、を有することを特徴とする磁性コアの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性コアとその製造方法、およびコイル部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のパワーデバイスの小型化に伴い、パワーデバイスの中で多くのスペースを占有する、トランス、コイルのさらなる小型化が望まれている。トランス、コイル用の磁性コアの材料として、一般的にはフェライトが多く用いられている。
【0003】
トランス、コイルなどを小型化する際には、駆動時の最大磁束密度を大きくする必要がある。ところが、フェライトの飽和磁束密度はあまり大きくなくないため、フェライトをそのまま用いての小型化には限界がある。飽和磁束密度が大きな材料としては、Fe-Si系材料、アモルファス系材料、金属ガラス系材料、ナノ結晶系材料などの金属軟磁性体が挙げられる(例えば特許文献1参照)。金属軟磁性体を用いてなる磁性コアとしては、金属軟磁性体の粉末を圧力で成型した圧粉コア、金属軟磁性体の薄帯を巻回してリング状の形状等にした巻回コア、金属軟磁性体の薄帯を積層した積層コアなどが挙げられる。さらに、これらの磁性コアを小型化する為には、飽和磁束密度の高い磁性材料を高い占積率で、ある限られたコア体積内に充填する必要がある。
【0004】
圧粉コアは、金属の軟磁性体粉末を金型に充填し、圧力を加えることにより成型されるが、占積率を高めるためには高い圧力が必要となる。特に、Fe基アモルファス系、金属ガラス系、ナノ結晶系などの材料の粉体は硬く、成型には非常に高い圧力が必要とされており、占積率が高いコアを作製するためには、非常に大きなコストがかかるという問題がある。
【0005】
巻回コアは、所望の長さ、幅となるように加工した金属軟磁性の薄帯を、巻回して作製される。この方法では、比較的高い占積率のコアが得られるが、コア形状が、巻回にて対応可能なものに制限される。また、一般的に、アモルファス系の磁性薄帯の加工歪を除去するため、あるいは、ナノ結晶系の磁性薄帯において微結晶を析出させるために、熱処理が行われる。この熱処理によって、磁性薄帯は、磁気特性が向上するが非常に脆くなり、特に巻回コアを構成する場合には容易に破損することとなり、取扱いが難しくなるという問題がある。
【0006】
他のコアとして、複数の磁性薄帯を打ち抜き、それらを厚み方向に積層することによって作製される積層コアがある。積層コアでは、巻回コアと同様に高い占積率が得られ、また、巻回コアに対して比較的形状の自由度が高く、パワーデバイス用の磁性部品以外に、モーターのローターやステーターなどにも用いられている。しかしながら、金属薄帯、特に熱処理前のアモルファス系、ナノ結晶系の磁性薄帯は、硬くて所望の形状に打ち抜くことが困難であるとともに、打ち抜き型の消耗が激しいという問題がある。また、打ち抜き時に加わる応力により、磁性薄帯の切断面に生ずる磁気特性の劣化を回復するために熱処理を行う必要があるが、熱処理を行った場合、上述したように磁性薄帯は脆くなるため、取扱いが難しくなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、生産性に優れ、安定した磁気特性を有し、かつ取り扱いが容易な磁性コアとその製造方法、および、当該磁性コアを備えたコイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)本発明の一態様に係る磁性コアは、導体を含むコイル部品用の磁性コアであって、小片に分割された複数の軟磁性薄帯が積層されてなる。
【0011】
(2)上記(1)に記載の磁性コアにおいて、前記軟磁性薄帯が、平均クラック間隔が0.015mm以上1mm以下となるように、小片に分割されていることが好ましい。
【0012】
(3)上記(1)または(2)に記載の磁性コアにおいて、磁性材料の占積率が、70%以上であり、かつ99.5%以下であることが好ましい。
【0013】
(4)本発明の一態様に係るコイル部品は、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の磁性コアにコイルが巻かれてなる。
【0014】
(5)本発明の一態様に係る磁性コアの製造方法は、上記(1)~(3)のいずれか一つに記載の磁性コアの製造方法であって、複数の軟磁性薄帯を熱処理する熱処理工程と、熱処理された複数の前記軟磁性薄帯のそれぞれの主面に、接着層を形成する接着層形成工程と、前記接着層が形成された複数の前記軟磁性薄帯を、それぞれ小片化処理する小片化処理工程と、小片化処理された複数の前記軟磁性薄帯を、それぞれ所定の形状に打ち抜く打ち抜き工程と、小片化処理された複数の前記軟磁性薄帯同士を、厚み方向に、前記接着層を介して積層する積層工程と、を有する。
【発明の効果】
【0015】
本発明の磁性コアを構成する軟磁性薄帯は、硬い材料で構成されているが、複数の小片に分割されており、分割されていない場合に比べて弱い力で打ち抜くことができる。したがって、本発明の磁性コアは、所望の形状に加工することが容易であり、生産性に優れている。
【0016】
一般的には、軟磁性薄帯を打ち抜くと、打ち抜かれる部分と残る部分とが切断されることによって応力が発生し、その応力が軟磁性薄帯の残った部分に伝わって磁気特性が劣化する。しかしながら、本発明の軟磁性薄帯は、小片化されており、応力が発生する切断面近傍の部分と他の部分とが物理的に離れているため、この応力は、切断面の近傍以外の大部分には伝わらず、応力によるダメージを最小限に抑えることができる。したがって、本発明の軟磁性薄帯は、打ち抜きによる影響を受けることなく、安定した磁気特性を有している。
【0017】
本発明の磁性コアは、薄い接着層を介して軟磁性薄帯を複数積層することによって、磁性体材料の占積率を高めた構造となっており、強固であるため、取り扱いが容易である。
【0018】
本発明の磁性コアは、複数の軟磁性薄帯を積層してなるため、電流パスが積層方向の複数箇所において分断されている。さらに、本発明の磁性コアは、それぞれの軟磁性薄帯が小片化されているため、電流パスが積層方向と交わる方向の複数箇所においても分断されている。したがって、本発明のコイル部品は、交流磁界における磁束の変化に伴った渦電流のパスが、あらゆる方向において分断されており、渦電流損を大きく低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるコイル部品の平面図(上側)および断面図(下側)である。
【
図2】
図1のコイル部品を構成する磁性コアの断面模式図である。
【
図3】「平均クラック間隔」の算出の仕方について説明するための図である。
【
図4】本発明の変形例1にかかるコイル部品の平面図である。
【
図5】本発明の変形例2にかかるコイル部品の平面図である。
【
図6A】本発明の変形例3にかかるコイル部品の平面図である。
【
図6B】本発明の変形例3にかかるコイル部品の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0021】
[コイル部品]
本発明の一実施形態にかかる磁性コア10およびコイル部品100の構成について説明する。
図1の上側は、円筒状の磁性コア10の中心軸Cを延長した一方の側から見た、コイル部品100の平面図である。
図1の下側は、中心軸Cを含む面Bで切断した場合のコイル部品100の断面図である。断面より奥側の部分の図示は、省略している。
【0022】
磁性コア10は、導体を含むコイル部品(トランス、チョークコイル、磁気センサ等)に用いるものであり、小片に分割された複数の軟磁性薄帯10a、10b、・・・が積層されてなる。ここに示すコイル部品100は、磁性コア10の周りに螺旋状等のコイル20が巻かれてなる。コイル20の形状、大きさ、数等は、コイル部品100の用途に応じて変えることができる。
図1に示すような貫通孔を有する一体の磁性コアを用いてもよいし、後述する変形例3のように、複数の部材を組み合わせることにより、貫通孔が形成されるような磁性コアを用いてもよい。
【0023】
[磁性コア]
図2は、
図1に示す磁性コア10の断面のうち、破線で囲まれた領域Rに含まれる部分を拡大し、その具体的な構成を明示した図である。磁性コア10は、厚み方向に積層された複数の軟磁性薄帯M(10a~10j)と、隣り合う軟磁性薄帯間に挟まれた接着層S(2a~2i)と、で構成されている。磁性コア10は、その積層方向における一端側および他端側のそれぞれに、保護膜3a、3bを備えていてもよい。本発明の磁性コアは、通常の磁性コアと同様に、磁性コア用軟磁性薄帯と接着層とを主要な部材として有するが、本発明の効果を奏する範囲で他の構成要素を含んでもよい。
【0024】
接着層Sを有することで、分割後の小片の脱落を抑えることができる。接着層Sの材料としては、公知のものを用いることができ、例えば、PETフィルム基材の表面にアクリル系接着剤、シリコーン樹脂、ブタジエン樹脂等からなる接着剤やホットメルト等が塗布されたものなどが挙げられる。また、基材としては、PETフィルムの他に、ポリイミドフィルム、ポリエステルフィルム、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)のようなフッ素樹脂フィルム等の樹脂フィルムなどが挙げられる。また、熱処理後の軟磁性薄帯の主面に直接アクリル樹脂等を塗布し、それを接着層とすることもできる。
【0025】
図2では、磁性コア10が軟磁性薄帯を複数備えている場合について例示してい
る。すべて
の軟磁性薄帯が本発明の磁性コア用軟磁性薄帯である場合に、最も効果が大きい。
【0026】
本発明の磁性コアを製造する方法としては、公知の方法を用いることができる。
【0027】
[軟磁性薄帯]
軟磁性薄帯10は、複数のクラックを有しており、それらによって複数の小片に分割されている。本明細書では、クラックによって分割、小片化された領域に線分を引いたときに、線分と交差するクラックの数を線分の長さで割ったものを、「平均クラック間隔」と定義する。
【0028】
図3に示す具体的なケースを参照して、「平均クラック間隔」の算出の仕方について説明する。
図3中の数字は、クラックと線分の交差点を順に数えた数字を示すものである。
図3に示す例は、4mm×4mmの正方形の磁性コア用軟磁性薄帯であり、小片化処理を行ってクラックが発生している。図中でクラックは実線で示し、線分は点線で示している。
【0029】
線分は正方形の磁性コア用軟磁性薄帯の一方向(図中の横方向)に延びるものであり、その方向に直交する方向(図中の縦方向)に平行で等間隔に10本の線分を引いている。このとき、線分と交差するクラックの数を計測して線分と交差するクラックの総数とし、線分の総長さを、その総数で割ったものを平均クラック間隔とする。計算式で表すと式(1)のようになる。
平均クラック間隔[mm]=(線分の総長さ)/(線分と交差するクラックの総数)
・・・(1)
図3に示す例を、計算式(1)に当てはめると、線分と交差するクラックの総数は46個、線分の総長さは40mmなので、平均クラック間隔は、40/46[mm]で約0.87mmとなる。
【0030】
平均クラック間隔は、選択した領域によってばらつくので、複数の領域で算出して平均をとることが好ましい。また、選択領域のとり方を決めておくことが好ましい。例えば、本実施形態のように、リング状の軟磁性薄帯10を用いる場合、平均クラック間隔を算出する際に、選択する領域としてリング状領域の中央線Aを含むように選択することができる。
【0031】
それぞれの軟磁性薄帯は、平均クラック間隔が0.015mm以上1mm以下となるように、小片に分割されていることが好ましい。平均クラック間隔を0.015mmより小さくすると、軟磁性薄帯の透磁率が低くなりすぎ、磁性コアとしての性能が低くなる。また、平均クラック間隔を1mmより大きくすると、弱い力で打ち抜くことが難しく、打ち抜いた際に切断面に発生する応力の及ぶ範囲が広くなり、小片化することによる効果が薄れることになる。
【0032】
磁性コア用軟磁性薄帯の材料としては、例えば、アモルファス合金、微結晶合金、パーマロイ、ナノヘテロ構造からなる合金等の磁性合金などの公知の材料を用いることができる。アモルファス合金材料には、例えば、Fe基アモルファス軟磁性材料、Co基アモルファス軟磁性材料などがあり、また、微結晶合金には、例えばFe基ナノ結晶軟磁性材料などがある。また、ナノヘテロ構造とは、微結晶がアモルファス中に存在する構造のことを指す。
【0033】
Fe基ナノ結晶軟磁性材料の組成は、組成式(Fe(1-(α+β))X1αX2β)(1-(a+b+c+d+e+f))MaBbPcSidCeSfからなり、
X1はCoおよびNiからなる群から選択される1種以上、
X2はAl,Mn,Ag,Zn,Sn,As,Sb,Cu,Cr,Bi,N,Oおよび希土類元素からなる群より選択される1種以上、
MはNb,Hf,Zr,Ta,Mo,VおよびWからなる群から選択される1種以上であり、
0≦a≦0.140
0.020<b≦0.200
0≦c≦0.150
0≦d≦0.180
0≦e<0.040
0≦f≦0.030
α≧0
β≧0
0≦α+β≦0.50
であり、
a,c,dのうち1種以上が0より大きいことが好ましい。
【0034】
磁性コアに占める磁性材料の体積比率(占積率)は、70%以上であり、かつ99.5%以下であることが好ましい。それぞれの軟磁性薄帯において、磁性材料の占積率を70%より大きくすると、飽和磁束密度を十分に高めることができ、磁性コアとして有効に利用することができる。また、磁性材料の占積率を99.5%より小さくすると、破損が起きにくくなり、磁性コアとしての取り扱いが容易となる。
【0035】
図1では、磁性コアとして円筒状のものを例示したが、磁性コアの形状に特に制限はなく、例えば、次に示すような形状のものを用いてもよい。
【0036】
(変形例1)
図4は、本実施形態の変形例1にかかるコイル部品110の構成を示している。磁性コア10は、矩形筒状をなしている。コイル部品110は、磁性コア10の貫通孔Hを囲む側壁のうち2箇所において、貫通孔Hの周方向に沿って、螺旋状等のコイル20が巻かれてなる。
図4の上側は、矩形筒状の磁性コア10の中心軸Cを延長した一方の側から見た、コイル部品110の平面図である。
図4の下側は、中心軸Cを含む面で切断した場合のコイル部品110の断面図である。断面より奥側の部分の図示は、省略している。本実施形態と同じ箇所は、形状の違いによらず、同じ符号で示している。変形例1の構成においても、上述した本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0037】
(変形例2)
図5は、本実施形態の変形例2にかかるコイル部品120の構成を示している。磁性コア10は、内部に仕切り部10Aを有する矩形筒状をなしている。仕切り部10Aは、矩形筒の内部を2分割している。コイル部品110は、仕切り部10Aに螺旋状等のコイル20が巻かれてなる。
図5の上側は、矩形筒状の部分の中心軸Cを延長した一方の側から見た、コイル部品110の平面図である。
図5の下側は、中心軸Cを含む面で切断した場合のコイル部品110の断面図である。断面より奥側の部分の図示は、省略している。本実施形態と同じ箇所は、形状の違いによらず、同じ符号で示している。変形例2の構成においても、上述した本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0038】
(変形例3)
図6A、
図6Bは、本実施形態の変形例3にかかるコイル部品130の構成を示している。本例の磁性コア10は、変形例2と同様に、内部に仕切り部10Aを有する矩形筒状をなしており、さらに、2つの部分10B、10Cに分割可能な構造を有している。
図6Bが、分割されていない状態の磁性コア10平面図を示し、
図6Aが、分割した片方の部分10Bの平面図および断面図を示している。分割した各部分の形状については、ここで示すものに限定されることはない。本実施形態と同じ箇所は、形状の違いによらず、同じ符号で示している。変形例3の構成においても、上述した本実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0039】
[磁性コアの製造方法]
本実施形態にかかる磁性コアの製造方法は、主に、熱処理工程、接着層形成工程、小片化工程、打ち抜き工程、積層工程を有する。各工程の概要について説明する。
【0040】
(熱処理工程)
上述した複数の軟磁性薄帯を準備し、熱処理を行う。処理温度は、概ね400℃以上700℃以下の範囲で、軟磁性薄帯の材料に応じて決める。この熱処理によって、軟磁性薄帯が脆化し、小片化処理を行える状態となる。軟磁性薄帯の材料がFe基ナノ結晶系材料である場合、この熱処理によって、軟磁性薄帯にナノ結晶が析出される。また、軟磁性薄帯の材料がFe基アモルファス系材料である場合、この熱処理によって、軟磁性薄帯中の残留歪が除去される。
【0041】
(接着層形成工程)
熱処理された軟磁性薄帯のそれぞれに、上述した接着層を形成する。接着層の形成は、公知の方法を用いて行うことができる。例えば、軟磁性薄帯に対し、樹脂を含んだ溶液を薄く塗布し、溶剤を乾燥させることにより、接着層を形成する方法がある。また、両面テープを軟磁性薄帯に貼り付け、これを接着層とする方法もある。この場合の両面テープとしては、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムの両面に、接着剤が塗布されたものを用いることができる。
【0042】
(小片化処理工程)
接着層が形成された複数の軟磁性薄帯を、平均クラック間隔が上述した範囲となるように、それぞれ複数の小片に分割(小片化処理)する。接着層が形成されていることにより、分割された小片が散らばるのを防ぐことができる。すなわち、小片化処理後の軟磁性薄帯は、複数の小片に分割されてはいるが、いずれの小片の位置も接着層を介して固定されており、全体として、小片化処理前の形状がほぼ維持されている。
【0043】
小片化処理は、公知の方法、すなわち、外力を加えて分割する方法を用いて行うことができる。外力を加えて分割する方法としては、例えば、金型で押し割る方法、圧延ロールに通して折り曲げる方法等が知られている。これらの方法を用いる際に、金型やロールに予め決められた凹凸パターンを設けた金型やロールが用いられることもある。
【0044】
(打ち抜き工程)
小片化された複数の軟磁性薄帯を、接着層とともに、それぞれ所定の形状に打ち抜く。本実施形態では、中央を円形状に打ち抜いた場合について例示している。打ち抜きは、例えば、所望の形状を有する抜型と面板との間に軟磁性薄帯を挟み、面板側から抜型側、あるいは抜型側から面板側に向けて加圧して行うことができる。
【0045】
(積層工程)
打ち抜かれた複数の軟磁性薄帯同士を、接着層を介して厚み方向に重ねて積層することにより、本実施形態の磁性コアを得ることができる。なお、打ち抜き工程と積層工程の順序は逆転していてもよい。
【0046】
以上のように、本実施形態のコイル部品100における磁性コア10用の軟磁性薄帯Mは、上述したような硬い材料で構成されているが、複数の小片に分割されており、分割されていない場合に比べて弱い力で打ち抜くことができる。したがって、本実施形態にかかる磁性コア10は、所望の形状に加工することが容易であり、生産性に優れている。
【0047】
一般的には、軟磁性薄帯を打ち抜くと、打ち抜かれる部分と残る部分とが切断されることによって応力が発生し、その応力が軟磁性薄帯の残った部分に伝わって磁気特性が劣化する。しかしながら、本実施形態の軟磁性薄帯Mは、小片化されており、応力が発生する切断面近傍の部分と他の部分とが物理的に離れているため、この応力は、切断面の近傍以外の大部分には伝わらず、応力によるダメージを最小限に抑えることができる。したがって、本実施形態にかかる軟磁性薄帯Mは、打ち抜きによる影響を受けることなく、安定した磁気特性を有している。
【0048】
本実施形態にかかる磁性コア10は、軟磁性薄帯を複数積層することによって磁性体材料の占積率を高めた構造となっており、強固であるため、取り扱いが容易である。
【0049】
本実施形態の磁性コア10は、複数の軟磁性薄帯Mを積層してなるため、電流パスが積層方向Tの複数箇所において分断されている。さらに、本実施形態の磁性コア10は、それぞれの軟磁性薄帯Mが小片化されているため、電流パスが積層方向Tと交わる方向の複数箇所においても分断されている。したがって、本実施形態のコイル部品100は、交流磁界における磁束の変化に伴った渦電流のパスが、あらゆる方向において分断されており、渦電流損を大きく低減させることができる。
【実施例】
【0050】
「実施例1」
1. 磁性コアの作製
(1)まず、あらかじめ570℃で熱処理した厚み約20μmのFe基ナノ結晶軟磁性薄帯に、樹脂溶液を塗布した。その後、溶剤を乾燥させ、軟磁性薄帯の両面に各々1~2μm程度の接着層を形成し、接着層を具備した磁性シートを作製した。
(2)次いで、作製した磁性シートに対し、平均クラック間隔が0.17mmとなるように、小片化サイズを調整した小片化処理を行い、小片化磁性シートを作製した。
(3)次いで、この小片化磁性シートをリング形状(外径18mm、内径10mm)に打ち抜きを行った。この打ち抜きは、抜型と面板との間に小片化磁性シートを挟み、面板側から抜型側に向けて加圧して行った。
(4)次いで、打ち抜いた小片化磁性シートを、高さ約5mmとなるように複数枚貼り合わせて積層したものを磁性コアとした。得られた磁性コアの占積率は約85%であった。同様の手順により、同じ構成の磁性コアをさらに30個作製した。
【0051】
2.評価
(1)コイルのインダクタンスLs
得られたそれぞれの磁性コアに対し、
図1に示すように、周方向に沿ってコイルを巻いて30個のコイル部品を形成し、LCRメーターを用いて、それぞれの100kHzにおけるコイルのインダクタンスを測定した。
(2)cv値(標準偏差/平均値)
測定した30個のコイルのインダクタンスについて、cv値を算出した。
【0052】
「実施例2」
磁性シートに対し、平均クラック間隔が0.5mmとなるように小片化処理を行った以外は、実施例1と同様にして、実施例2の磁性コアを作製して評価を行った。
【0053】
「実施例3」
磁性シートに対し、平均クラック間隔が0.015mmとなるように小片化処理を行った以外は、実施例1と同様にして、実施例3の磁性コアを作製して評価を行った。
【0054】
「実施例4」
磁性シートに対し、平均クラック間隔が0.01mmとなるように小片化処理を行った以外は、実施例1と同様にして、実施例4の磁性コアを作製して評価を行った。
【0055】
「実施例5」
磁性シートに対し、平均クラック間隔が0.75mmとなるように小片化処理を行った以外は、実施例1と同様にして、実施例5の磁性コアを作製して評価を行った。
【0056】
「実施例6」
軟磁性薄帯として、Fe基アモルファス軟磁性材料からなる軟磁性薄帯を用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例6の磁性コアを作製して評価を行った。
【0057】
「実施例7」
磁性シートに対し、平均クラック間隔が1mmとなるように小片化処理を行った以外は、実施例1と同様にして、実施例7の磁性コアを作製して評価を行った。
【0058】
「実施例8」
磁性シートに対し、平均クラック間隔が2mmとなるように小片化処理を行った以外は、実施例1と同様にして、実施例8の磁性コアを作製して評価を行った。
【0059】
「比較例1」
上記熱処理および小片化処理を行っていない磁性シートに対し、実施例1と同様の評価を行った。熱処理および小片化処理以外については、実施例1と同様に行った。
【0060】
「比較例2」
上記小片化処理を行っていない磁性シートに対し、実施例1と同様の評価を行った。小片化処理以外については、実施例1と同様に行った。
【0061】
表1は、実施例1~8、比較例1、2の測定結果および評価結果をまとめたものである。実施例1~8のいずれの場合も、軟磁性薄帯が小片化されているため、弱い力で打ち抜くことが可能となっている。また、実施例1~8のいずれの場合にも、打ち抜き時に断面近傍において発生する応力は、内部に伝わりにくいため、磁気特性の劣化(インダクタンスLsの低下)が抑えられている。特に、平均クラック間隔が0.015mm以上1mm以下の範囲では、インダクタンスのcv値が低く抑えられている。
【0062】
比較例1では、軟磁性薄帯が熱処理及び小片化処理されていないため、実施例1~8と同様の力で打ち抜くことは難しく、インダクタンスを測定できていない。比較例2では熱処理を行ったことにより、実施例1~8と同様の力で打ち抜くことができているが、小片化されていないため、打ち抜きで発生した応力が、軟磁性薄帯の広い範囲に伝わってインダクタンスのcv値を悪化させている。
【0063】
【0064】
「実施例9」
軟磁性薄帯として、接着層の厚みを調整し、占積率を98%とした以外は、実施例1と同様にして、実施例9の磁性コアを作製して評価を行った。
【0065】
「比較例3」
実施例1の磁性コアと同じ材料、同じサイズからなる円筒状の磁性コアを、比較例3として作製した。この磁性コアは、複数の軟磁性薄帯が積層されたものではなく、軟磁性薄帯を巻回して作製されたコアである。これについて、実施例1と同様の評価を行った。
【0066】
表2は、実施例8、9、比較例3の測定結果および評価結果をまとめたものである。実施例8、9の積層コアは、高いインダクタンスが得られ、cv値を小さく抑えられている。これらに対し、比較例3の巻回コアは、実施例8、9に比べてインダクタンスが低く、cv値が大きくなっている。これは、積層コアに対して、巻回コアでは、軟磁性薄帯を巻回して円筒状にしているため隙間ができやすく、占積率が低くなり、また、巻回時のバラつきの影響を受けやすく、cv値が大きくなったものと考えられる。
【0067】
【符号の説明】
【0068】
100、110、120・・・コイル部品
10・・・磁性コア
20・・・コイル
3a、3b・・・保護膜
A・・・中央線
C・・・中心軸
H・・・貫通孔
M(10a~10j)・・・軟磁性薄帯
R・・・領域
S(2a~2i)・・・接着層
T・・・積層方向