(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】ハイブリッド調節要素
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20240408BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240408BHJP
C12N 15/864 20060101ALI20240408BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240408BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240408BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240408BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240408BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240408BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20240408BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20240408BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20240408BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20240408BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240408BHJP
A61P 25/14 20060101ALI20240408BHJP
A61P 25/16 20060101ALI20240408BHJP
A61P 25/18 20060101ALI20240408BHJP
A61P 25/20 20060101ALI20240408BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20240408BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z ZNA
C12N15/864 100Z
C12N5/10
A61K31/7088
A61K35/12
A61K35/76
A61K48/00
A61P3/00
A61P3/10
A61P7/04
A61P21/00
A61P25/00
A61P25/14
A61P25/16
A61P25/18
A61P25/20
A61P25/28
A61P43/00 111
(21)【出願番号】P 2020565532
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(86)【国際出願番号】 EP2019053061
(87)【国際公開番号】W WO2019154939
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2021-11-17
(32)【優先日】2018-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2018-03-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(32)【優先日】2018-06-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】503197304
【氏名又は名称】ジェネトン
(73)【特許権者】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】518059934
【氏名又は名称】ソルボンヌ・ユニヴェルシテ
【氏名又は名称原語表記】SORBONNE UNIVERSITE
(73)【特許権者】
【識別番号】503119487
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・デヴリ・ヴァル・デソンヌ
(73)【特許権者】
【識別番号】520296842
【氏名又は名称】アソシエーション・アンスティトゥート・ドゥ・マイオロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フェデリコ・ミンゴッツィ
(72)【発明者】
【氏名】パスクアリーナ・コレッラ
【審査官】藤山 純
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-319073(JP,A)
【文献】特表2008-532521(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第01310561(EP,A1)
【文献】国際公開第2019/153009(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/196179(WO,A1)
【文献】国際公開第2004/087926(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/096815(WO,A2)
【文献】国際公開第2016/172155(WO,A1)
【文献】Egawa T, et al.,The role of the Runx transcription factors in thymocyte differentiation and in homeostasis of naive T cells,J Exp Med,204(8),2007年08月06日,1945-57
【文献】Kiang A, et al.,Fully deleted adenovirus persistently expressing GAA accomplishes long-term skeletal muscle glycogen correction in tolerant and nontolerant GSD-II mice,Mol Ther,13(1),2006年01月,127-34
【文献】Van Hove JL, et al.,High-level production of recombinant human lysosomal acid alpha-glucosidase in Chinese hamster ovary cells which targets to heart muscle and corrects glycogen accumulation in fibroblasts from patients with Pompe disease,Proc Natl Acad Sci USA,93(1),1996年01月09日,65-70
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/10
C12N 5/10
A61K 31/33-33/44
A61K 35/00-35/768
A61K 48/00
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)肝臓内で組織選択的発現を駆動又は増強することができる第1の転写調節要素と;
(ii)第2の組織内で組織選択的発現を駆動又は増強することができる第2の転写調節要素と
を含み、
前記第2の転写調節要素が、筋肉選択的プロモーター及びニューロン選択的プロモーターからなる群において選択され、
前記第1の転写調節要素及び前記第2の転写調節要素が、互いに融合しており;
前記第2の転写調節要素が、組織選択的プロモーターである、
核酸(ただし、核酸がデスミンプロモーター又はその機能部分を含む場合を除く)。
【請求項2】
(a)前記第1の転写調節要素が、ApoEエンハンサー、Apo A-Iエンハンサー、アンチトリプシンプロモーター、トランスチレチンプロモーター、アルブミンプロモーター、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、LSPプロモーター、並びにApoEエンハンサーとアンチトリプシンプロモーター、トランスチレチンプロモーター(TTR)、アルブミンプロモーター(Alb)、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、及びLSPプロモーターからなる群において選択される肝臓選択的プロモーターとの組合せからなる群において選択され;
(b)前記第2の転写調節要素が筋肉選択的プロモーターである場合、spC5.12プロモーター、MHCK7プロモーター、E-synプロモーター、筋肉クレアチンキナーゼ(MLC)プロモーター、ミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、心臓トロポニンCプロモーター、トロポニンIプロモーター、myoD遺伝子ファミリープロモーター、アルファアクチンプロモーター、ベータアクチンプロモーター、ガンマアクチンプロモーター、Pitx3の眼球形態のイントロン1内に存在する筋肉選択的プロモーター、及びCK6プロモーターからなる群において選択され;且つ
(b)前記第2の転写調節要素がニューロン選択的プロモーターである場合、シナプシン-1(Syn)プロモーター、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、ニューロフィラメント軽鎖遺伝子プロモーター、ニューロン特異的vgf遺伝子プロモーター、シナプシン-2プロモーター、チロシンヒドロキシラーゼプロモーター、ドーパミンβ-ヒドロキシラーゼプロモーター、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼプロモーター、低親和性NGF受容体プロモーター、コリンアセチルトランスフェラーゼプロモーター、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)プロモーター、Hb9プロモーター、GFAPプロモーター、カルビンジン2プロモーター、Mnx1プロモーター、ネスチンプロモーター、パルブアルブミンプロモーター、ソマトスタチンプロモーター、及びPlp1プロモーターからなる群において選択される、
請求項
1に記載の核酸。
【請求項3】
(a)前記第1の転写調節要素が、アルファ-1アンチトリプシンプロモーター(hAAT)、ApoEエンハンサー、ApoEエンハンサー及びhAATプロモーターの組合せ、トランスチレチンプロモーター、アルブミンプロモーター、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、並びにLSPプロモーターからなる群において選択され;
(b)前記第2の転写調節要素が筋肉選択的プロモーターである場合、spC5.12プロモーター、MHCK7プロモーター、E-synプロモーター、筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、ミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、心臓トロポニンCプロモーター、トロポニンIプロモーター、myoD遺伝子ファミリープロモーター、アルファアクチンプロモーター、ベータアクチンプロモーター、ガンマアクチンプロモーター、Pitx3の眼球形態のイントロン1内に存在する筋肉選択的プロモーター、及びCK6プロモーターからなる群において選択され;且つ
(b)前記第2の転写調節要素がニューロン選択的プロモーターである場合、シナプシン-1(Syn)プロモーター、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、ニューロフィラメント軽鎖遺伝子プロモーター、ニューロン特異的vgf遺伝子プロモーター、シナプシン-2プロモーター、チロシンヒドロキシラーゼプロモーター、ドーパミンβ-ヒドロキシラーゼプロモーター、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼプロモーター、低親和性NGF受容体プロモーター、コリンアセチルトランスフェラーゼプロモーター、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)プロモーター、Hb9プロモーター、GFAPプロモーター、カルビンジン2プロモーター、Mnx1プロモーター、ネスチンプロモーター、パルブアルブミンプロモーター、ソマトスタチンプロモーター、及びPlp1プロモーターからなる群において選択される、
請求項
1又は2に記載の核酸。
【請求項4】
前記第1の転写調節要素が、アルファ-1アンチトリプシンプロモーター(hAAT)、ApoEエンハンサー、並びにApoEエンハンサー及びhAATプロモーターの組合せからなる群において選択される、請求項1から
3のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項5】
前記筋肉選択的プロモーターが、spC5.12及び筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーターからなる群から選択され;又は
前記ニューロン選択的プロモーターが、Synプロモーターである、
請求項
1から4のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項6】
(i)が、ApoEエンハンサー及びhAATプロモーターの組合せであり、そして(ii)が、spC5.12プロモーターである;又は
(i)が、ApoEエンハンサー及びhAATプロモーターの組合せであり、そして(ii)が、Synプロモーターである;又は
(i)が、ApoEエンハンサーであり、そして(ii)が、spC5.12プロモーターである、
請求項1から
5のいずれか一項に記載の核酸。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の核酸及び注目する治療導入遺伝子を含む、発現カセット。
【請求項8】
注目する前記治療導入遺伝子として酸性アルファ-グルコシダーゼ(GAA)を含む、請求項
7に記載の発現カセット。
【請求項9】
請求項
7又は
8に記載の発現カセットを含むベクターであって、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、又はAAVベクターである、ベクター。
【請求項10】
AAV8カプシド又はAAV9カプシドを含むAAVベクターである、請求項
9に記載のベクター。
【請求項11】
請求項1から
6のいずれか一項に記載の核酸、請求項
7若しくは
8に記載の発現カセット、又は請求項
9若しくは
10に記載のベクターで形質転換された単離細胞。
【請求項12】
請求項
9若しくは
10に記載のベクター又は請求項
11に記載の細胞を含む医薬組成物。
【請求項13】
請求項
7若しくは
8に記載の発現カセット、請求項
9若しくは
10に記載のベクター、又は請求項
11に記載の細胞を含む医薬。
【請求項14】
治療的に注目する組織中へ
の治療導入遺伝子の発現による遺伝子治療による障害の処置のための方法における使用のための請求項
13に記載の医薬。
【請求項15】
前記障害が、
リソソーム蓄積症(LSD);
代謝性疾患;及び
神経筋障害
からなる群において選択される、請求項
14に記載の医薬。
【請求項16】
前記障害が、
ムコ多糖症I~VII型(MPSI-VII)、サンドホフ病、及びテイ・サックス病からなる群において選択されるリソソーム蓄積症(LSD);
メープルシロップ病(MSUD)、メチルマロン酸血症(MMA)、糖原病I型及びIII型(GSDI及びIII)、ニーマン・ピック病(NPC)、カナバン病、フェニルケトン尿症(PKU)からなる群において選択される代謝性疾患;
筋ジストロフィー、筋強直性ジストロフィー(シュタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼球咽頭筋ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー、エメリ・ドレフュシュ筋ジストロフィー、運動ニューロン疾患、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症、乳児進行性脊髄性筋萎縮症(1型、ウェルドニッヒ・ホフマン病)、中間型脊髄性筋萎縮症(2型)、若年性脊髄性筋萎縮症(3型、クーゲルベルグ・ウェランダー病)、成人脊髄性筋萎縮症(4型)、球脊髄性筋萎縮症(ケネディ病)、炎症性筋疾患、多発性筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎、神経筋接合部の疾患、重症性筋無力症、ランバート・イートン(筋無力症)症候群、先天性筋無力症症候群、末梢神経の疾患、シャルコー・マリー・ツース病、フリートライヒ運動失調症、デジュリーヌ・ソッタ病からなる群において選択される神経筋障害;及び
血友病A、MPSI、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、トゥーレット症候群、精神分裂病、スライ病、ハンター病、痴呆、パラノイア、強迫性障害、学習障害、シャルコー・マリー・ツース病、ケネディ病、神経膠芽腫、神経芽細胞腫、自閉症、ゴーシェ病、ハーラー病、クラッベ病、睡眠障害、知覚障害、認知障害からなる群において選択される他の疾患
からなる群において選択される、請求項
14に記載の医薬。
【請求項17】
前記障害が、糖原病である、請求項
14に記載の医薬。
【請求項18】
前記糖原病が、ポンペ病である、請求項
17に記載の医薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織選択性が異なる少なくとも2つの転写調節要素、例えば異なる組織内で組織選択的に発現を駆動する2つのプロモーターの融合によって設計された、遺伝子発現を駆動するハイブリッド転写調節要素、特にハイブリッドプロモーターに関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子治療は、遺伝的疾患の持続した治療的補正を実現する潜在性を有し、いくつかの臨床治験において現在試験されている。それでも、所望の標的組織内での不十分な導入遺伝子発現、及び抗導入遺伝子免疫が今なお、多くの疾患について首尾良い遺伝子治療を達成するには重大なハードルとなっている。これは、特に、遍在的に、又は体の多数の組織[例えば、肝臓、筋肉、及び中枢神経系(CNS)]内で発現される遺伝子内の突然変異によって引き起こされる疾患の処置に関連する。当該疾患の例として、i.リソソーム蓄積症[(LSD)、例えば、ポンペ病(Pd)、ムコ多糖症I~VII型(MPSI-VII)、サンドホフ病、及びテイ・サックス病];ii.代謝性疾患[例えば、メープルシロップ病(MSUD)、メチルマロン酸血症(MMA)、糖原病I型及びIII型(GSDI,III)]、ニーマン・ピック病(NPC)、カナバン病、フェニルケトン尿症(PKU)];並びにiii.神経筋疾患[例えば、脊髄性筋萎縮症(SMA)及びフリードライヒ運動失調症(FA)]が挙げられる。これまでのところ、異なる組織内で発現を駆動する遍在性プロモーターの使用が、内臓、筋肉、及びCNSが挙げられる多数の罹患組織に対して導入遺伝子発現を標的化する唯一の選択肢となっている。遍在性プロモーターは、インビボAAV遺伝子治療にとって少しも理想的なツールでない。というのも、腫瘍形成の原因となり得(Chandlerら、JCI 2015;125(2):870~880頁)、そして異所的な非生理学的遺伝子発現と関連する、強いトランス活性化活性に起因して、動物モデルにおいて肝臓遺伝子毒性を促進することが報告されてきたからである。近年、遍在性ニワトリベータアクチンプロモーターを含有する高用量のAAVベクターの全身送達によって処置した非ヒト霊長類及び子ブタにおける前臨床研究において、重度の毒性が報告された(Hindererら、Hum Gene Ther.2018年2月12日)。
【0003】
また、多くの疾患は、タンパク質生成物の大きな変更又は完全な不在をもたらす遺伝的突然変異(ヌル突然変異)によって引き起こされる。これらの疾患の遺伝子治療による処置は、野生型タンパク質の新規の発現に繋がり、これは、治療効力を妨げ、且つ導入遺伝子発現細胞の破壊すら媒介し得る有害な免疫応答をトリガするリスクが高い。このことは、高度に免疫原性である治療タンパク質生成物、例えば、とりわけ、凝固VIII因子[FVIII、血友病A(HA)を引き起こす]、リソソーム酵素α-L-イズロニダーゼ[IDUA(アルファーゼ-Lイズロニダーゼ)(MPSIを引き起こす)及び酸性-α-グルコシダーゼ(GAA)(ポンペ病を引き起こす)]、及び筋タンパク質[ジストロフィン(デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を引き起こす)及びα-サルコグリカン(SGCA)(肢帯型筋ジストロフィー2D(LGMD2D)を引き起こす)]について、特に重大である。
【0004】
ポンペ病は、全組織内でグリコーゲンの病理学的蓄積をもたらす、リソソーム酵素酸性アルファ-グルコシダーゼ(GAA)内の突然変異によって引き起こされる、重度の神経筋障害である。ポンペ病は、2つの形態に分類される:罹患率が出生後1年の間に出現する乳児型ポンペ病(IOPD)、及び幼児期後期、思春期、又は成人期に出現する遅発型ポンペ病(LOPD)[Kishnaniら、Am J Med Genet C Semin Med Genet.2012]。出生後1ヶ月以内の治療的介入が、IOPDでは医学的に大きく必要とされている。処置されなければ、IOPDは、生後1年以内の死亡に至る一方、遅い/非効率的な処置では、進行した疾患の徴候を好転させることができないであろう[Chienら、Pediatr Neonatol.2013年8月;54(4):219~27頁]。組換えヒトGAA(rhGAA)による酵素補充治療(ERT)が、PDについて利用可能である。しかしながら、IOPD対象用の救命処置であるにも拘らず、ERTは、rhGAA吸収に抵抗性のCNS群及び筋肉群において、効力が限られている。更に、ERTは、治療効力を妨げる、治療生成物(rhGAA)に対する免疫応答の誘導によって、妨げられる。ERTと類似して、ポンペ病の臨床治験におけるAAV遺伝子治療(Cortiら、Hum Gene Ther Clin Dev.2017年12月;28(4):208~218頁)、及び疾患マウスモデルにおける前臨床研究は、同じ制限に直面した。特に:1.GAAに向けられる強い免疫応答が、遍在性プロモーター又は筋肉選択的プロモーターのいずれかを用いた筋肉への遺伝子移入の後に観察される;2.罹患組織、例えば全身の筋肉及び神経系へのGAAタンパク質の制限されたバイオ分配が達成される。GAAタンパク質は実際、細胞によって本来十分に分泌されておらず、血液-脳関門を越えることができない(循環GAAタンパク質サイズは約110Kda)。
【0005】
したがって、体の多数の組織における治療導入遺伝子の持続した、且つ広範囲にわたる発現の実現が必要とされている。また、異なる標的組織における導入遺伝子の持続した、且つ広範囲にわたる発現を、安全且つ有効な遺伝子治療のための、治療タンパク質に対する免疫寛容の誘導と組み合わせて提供することが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2009130208号
【文献】米国特許出願公開第2003/0157064号
【文献】国際公開第2015110449号
【文献】国際公開第2015/162302号
【文献】欧州特許出願公開第17306448.6号
【文献】欧州特許出願公開第17306447.8号
【文献】国際公開第2015013313号
【文献】国際公開第2005/118792号
【文献】国際出願PCT/2017/072942号
【文献】国際出願PCT/EP2017/072945号
【文献】国際出願PCT/EP2017/072944号
【文献】国際公開第2015158924号
【非特許文献】
【0007】
【文献】Chandlerら、JCI 2015;125(2):870~880頁
【文献】Hindererら、Hum Gene Ther.2018年2月12日
【文献】Kishnaniら、Am J Med Genet C Semin Med Genet.2012
【文献】Chienら、Pediatr Neonatol.2013年8月;54(4):219~27頁
【文献】Cortiら、Hum Gene Ther Clin Dev.2017年12月;28(4):208~218頁
【文献】Van Linthout S、Hum Gene Ther.2002年5月1日;13(7):829~40頁
【文献】Ill,Charles R.ら、1997年、Optimization of the human factor VIII complementary DNA expression plasmid for gene therapy of hemophilia A.Blood Coag.Fibrinol.8:S23~S30頁
【文献】Cold Spring Harbor Laboratory社によって編集されたLiver Specific Gene Promoter Database(http://rulai.cshl.edu/LSPD/)
【文献】Wang Bら,Construction and analysis of compact muscle-selective promoters for AAV vectors.Gene Ther.2008 Nov;15(22):1489~99頁
【文献】Salvaら、Mol Ther.2007年2月;15(2):320-9頁
【文献】Andersenら、Cell.Mol.Neurobiol.、13:503~15頁(1993)
【文献】Piccioliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88:5611~5頁(1991)
【文献】Piccioliら、Neuron、15:373~84頁(1995)
【文献】Bejaninら、1992年;Carroll et alら、1995年
【文献】Chin及びGreengard、1994年
【文献】Foss-Petterら、1990年
【文献】Harringtonら、1987年
【文献】Mercerら、1991年
【文献】Pateiら、1986年
【文献】Rinconら、Mol Ther.2015年1月;23(1):43~52頁
【文献】Chuahら、Mol Ther.2014年9月;22(9):1605~13頁
【文献】Nairら、Blood.2014年5月15日;123(20):3195~9頁
【文献】Matesら、2009年
【文献】Lingら、2016年7月18日、Hum Gene Ther Methods
【文献】Vercauterenら、2016年、Mol.Ther.第24巻(6)、1042頁
【文献】Rosarioら、2016年、Mol Ther Methods Clin Dev.3、16026頁
【文献】Shenら、Molecular Therapy、2007年
【文献】Tenneyら、Virology、2014年
【文献】Bartelら、2011年
【文献】Zhongら、2008年
【文献】McCartyら、Gene Therapy、2003
【文献】Wu Z.ら、Mol Ther.、2010、18(1):80~86頁
【文献】Lai Y.ら、Mol Ther.、2010、18(1):75~79頁
【文献】Wang Y.ら、Hum Gene Ther Methods、2012、23(4):225~33頁
【文献】E.W.Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」
【文献】Allayら、2011年
【文献】Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)
【文献】Zincarelliら、Mol Ther.2008年6月;16(6):1073~80頁
【文献】Raben N.ら、J Biol Chem.1998年7月24日;273(30):19086~92頁
【文献】Chandlerら、JCI、2015年2月;125(2):870~80頁
【文献】Zhang.ら、Hum Gene Ther.2012年5月;23(5):460~72頁
【文献】DeRuisseauら、PNAS、2009年
【文献】Ronzittiら、Molecular therapy Methods & clinical development.2016;3:16049頁
【文献】Trapaniら、EMBO molecular medicine.2014;6(2):194~211頁
【文献】Wangら、Hum Gene Ther.2012年5月;23(5):533~9頁
【文献】Falkら、Mol Ther Methods Clin Dev.2015年3月25日;2:15007頁
【文献】Francoら、Mol Ther.2005年11月;12(5):876~84頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、注目する導入遺伝子を、これを必要とする対象内で発現するように発明者らによって設計された、新規の多組織選択的転写調節要素を実行する遺伝子工学戦略を提供する。
【0009】
特に、本発明は、異なる組織選択的発現プロファイルを有する少なくとも2つの異なる転写調節要素を組み合わせて互いに融合した核酸配列に関する。この核酸配列は、注目する導入遺伝子の発現を、少なくとも2つの組織内で、又は多数の組織内で、特定のニーズに応じて、例えば特定の疾患のニーズに応じて、実現し得る。標的化される組織の1つが、免疫系によって免疫寛容を達成することが必須である場合、免疫寛容原性組織(肝臓等)であってよい。この多組織選択的遺伝子工学戦略は、たった1つの組織内での導入遺伝子の発現に焦点を合わせた古典的な戦略と比較して、遺伝子発現効力の増大をもたらす。ゆえに、本発明は、遺伝子治療の文脈において、特に有利である。本発明における多組織選択的転写調節要素(多組織選択的プロモーター等)の組合せは、所望の組織内で、選択的に、高い導入遺伝子発現を駆動する利点を有する。
【0010】
また、遍在性プロモーターとは異なって、本発明は、注目する導入遺伝子を生理的に発現しない組織における、又は注目する導入遺伝子の発現が所望されない場所での異所性導入遺伝子の発現を妨げる。また、本明細書中に開示される転写調節要素の組合せは、遍在性プロモーター(Chandlerら、前掲)によって誘発される遺伝子毒性に対する懸念を克服し、そしてまた、非ヒト霊長類における前臨床研究において最近報告されている(Hindererら、前掲)、可能性がある毒性を予防し得る。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、
(i)第1の組織内で組織選択的発現を駆動又は増強することができる第1の転写調節要素と;
(ii)第2の組織内で組織選択的発現を駆動又は増強することができる第2の転写調節要素と
を含み、
第1の転写調節要素及び第2の転写調節要素は、互いに融合しており;
第1の転写調節要素及び第2の転写調節要素の少なくとも1つは、組織選択的プロモーターである、核酸配列に関する。
【0012】
特定の実施形態において、第1の転写調節要素は、第1の組織内で組織選択的発現を駆動することができる組織選択的プロモーターである。更なる実施形態において、第2の転写調節要素もまた、組織選択的プロモーターである。
【0013】
特定の実施形態において、1つの転写調節要素は、肝臓選択的プロモーター、筋肉選択的プロモーター、及びニューロン選択的プロモーターからなる群において選択され、特に、肝臓選択的プロモーターである。特定の実施形態において、転写調節要素が肝臓選択的プロモーターである場合、好ましくは、アルファ-1アンチトリプシンプロモーター(hAAT)、ApoEエンハンサー及びhAATプロモーターの組合せ、トランスチレチンプロモーター、アルブミンプロモーター、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、並びにLSPプロモーターからなる群において選択される。別の実施形態において、転写調節要素が筋肉選択的プロモーターである場合、好ましくは、spC5.12プロモーター、MHCK7プロモーター、E-synプロモーター、筋肉クレアチンキナーゼミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、デスミンプロモーター、心臓トロポニンCプロモーター、トロポニンIプロモーター、myoD遺伝子ファミリプロモーター、アルファアクチンプロモーター、ベータアクチンプロモーター、ガンマアクチンプロモーター、Pitx3の眼球形態(ocular form)のイントロン1内に存在する筋肉選択的プロモーター、及びCK6プロモーターからなる群において選択される。別の実施形態において、転写調節要素が筋肉選択的プロモーターである場合、好ましくは、spC5.12プロモーター、MHCK7プロモーター、E-synプロモーター、筋肉クレアチンキナーゼミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、心臓トロポニンCプロモーター、トロポニンIプロモーター、myoD遺伝子ファミリプロモーター、アルファアクチンプロモーター、ベータアクチンプロモーター、ガンマアクチンプロモーター、Pitx3の眼球形態のイントロン1内に存在する筋肉選択的プロモーター、及びCK6プロモーターからなる群において選択される。更に別の特定の実施形態において、転写調節要素がニューロン選択的プロモーターである場合、好ましくは、シナプシン-1(Syn)プロモーター、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター、ニューロフィラメント軽鎖遺伝子プロモーター、ニューロン特異的vgf遺伝子プロモーター、シナプシン-2プロモーター、チロシンヒドロキシラーゼプロモーター、ドーパミンβ-ヒドロキシラーゼプロモーター、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼプロモーター、低親和性NGF受容体プロモーター、コリンアセチルトランスフェラーゼプロモーター、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)プロモーター、Hb9プロモーター、GFAPプロモーター、カルビンジン2プロモーター、Mnx1プロモーター、ネスチンプロモーター、パルブアルブミンプロモーター、ソマトスタチンプロモーター、及びPlp1プロモーターからなる群において選択される。
【0014】
更に、別の実施形態において、筋肉選択的プロモーターは、spC5.12、デスミン、及び筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーターからなる群から、特に、spC5.12及び筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーターからなる群から選択され;そして/又はニューロン選択的プロモーターは、Synプロモーターである。
【0015】
更に別の実施形態において、核酸配列は、以下の通りである:
(i)ApoEエンハンサー及びhAATプロモーターの組合せ、そして(ii)は、spC5.12プロモーターであり;又は
(i)ApoEエンハンサー及びhAATプロモーターの組合せ、そして(ii)は、Synプロモーターであり;又は
(i)ApoEエンハンサー、そして(ii)は、spC5.12プロモーターである。
【0016】
別の態様に従えば、本発明は、本明細書中に開示される核酸配列、及び注目する導入遺伝子を含む発現カセットに関する。注目する導入遺伝子は、より詳細には、注目する治療導入遺伝子であってもよい。特定の実施形態において、注目する治療導入遺伝子は、酸性アルファ-グルコシダーゼ(GAA)である。
【0017】
別の態様において、本発明は、本明細書中に開示される発現カセットを含むベクターに関する。前記ベクターは、特に、ウイルスベクターであってもよい。代表的なウイルスベクターとして、限定されないが、アデノウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、及びAAVベクターが挙げられる。特定の実施形態において、ウイルスベクターは、AAVベクター、例えばAAV8カプシド又はAAV9カプシドを含むAAVベクターである。
【0018】
本発明は更に、本明細書中に開示される核酸配列、発現カセット、又はベクターで形質転換された単離細胞に関する。
【0019】
また、本発明は、本発明に従う発現カセット、ベクター、又は細胞を含む医薬組成物に関する。この態様において、発現カセット、ベクター、又は細胞内に含まれる注目する導入遺伝子は、治療導入遺伝子である。
【0020】
更に、本発明はまた、医薬として用いられる、本明細書中に開示される発現カセット、ベクター、又は細胞に関する。この態様において、発現カセット、ベクター、又は細胞内に含まれる注目する導入遺伝子は、治療導入遺伝子である。
【0021】
別の態様において、本発明は、治療的に注目する組織中への治療導入遺伝子の発現による遺伝子治療による障害の処置のための方法における使用のための、本明細書中に開示される発現カセット、ベクター、又は細胞に関する。本発明は、いくつかの障害を処置するのに用いられ得る。特定の実施形態において、障害は、
リソソーム蓄積症(LSD)、例えば、ムコ多糖症I~VII型(MPSI-VII)、サンドホフ病、及びテイ・サックス病;
代謝性疾患、例えば、メープルシロップ病(MSUD)、メチルマロン酸血症(MMA)、糖原病I型及びIII型、(GSDI及びIII)、ニーマン・ピック病(NPC)、カナバン病、フェニルケトン尿症(PKU);
神経筋障害、例えば、筋ジストロフィー(例えば、筋強直性ジストロフィー(シュタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼球咽頭筋ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー、エメリ・ドレフュシュ筋ジストロフィー、運動ニューロン疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(乳児進行性脊髄性筋萎縮症(1型、ウェルドニッヒ・ホフマン病)、中間型脊髄性筋萎縮症(2型)、若年性脊髄性筋萎縮症(3型、クーゲルベルグ・ウェランダー病)、成人脊髄性筋萎縮症(4型))、球脊髄性筋萎縮症(ケネディ病))、炎症性筋疾患(例えば、多発性筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎)、神経筋接合部の疾患(例えば、重症性筋無力症、ランバート・イートン(筋無力症)症候群、先天性筋無力症症候群)、末梢神経の疾患(例えば、シャルコー・マリー・ツース病、フリートライヒ運動失調症、デジュリーヌ・ソッタ病)、筋肉の代謝性疾患(例えば、ホスホリラーゼ欠損症(マッカードル病)、酸性マルターゼ欠損症(ポンぺ病)、ホスホフルクトキナーゼ欠損症(垂井病)、脱分枝酵素欠損症(コリ病又はフォーブズ病)、ミトコンドリア性筋障害、カルニチン欠損症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損症、乳酸デヒドロゲナーゼ欠損症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症)、内分泌異常に起因する筋疾患(例えば、甲状腺機能亢進筋疾患、甲状腺機能低下筋疾患)、及び他の筋疾患(例えば、先天性筋緊張症、先天性筋緊張症、セントラルコア病、ネマリン筋疾患、筋細管筋疾患、周期性四肢麻痺);並びに
他の疾患、例えば、血友病A、MPSI、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、トゥーレット症候群、精神分裂病、スライ病、ハンター病、痴呆、パラノイア、強迫性障害、学習障害、ALS、シャルコー・マリー・トゥース病、ケネディ病、神経膠芽腫、神経芽細胞腫、自閉症、ゴーシェ病、ハーラー病、クラッベ病、及び変容行動(例えば、睡眠障害、知覚障害、又は認知障害)
からなる群において選択される。
【0022】
より詳細には、障害は、
リソソーム蓄積症(LSD)、例えば、ムコ多糖症I~VII型(MPSI-VII)、サンドホフ病、及びテイ・サックス病;
代謝性疾患、例えば、メープルシロップ病(MSUD)、メチルマロン酸血症(MMA)、糖原病I型及びIII型、(GSDI及びIII)、ニーマン・ピック病(NPC)、カナバン病、フェニルケトン尿症(PKU);
神経筋障害、例えば、筋ジストロフィー(例えば、筋強直性ジストロフィー(シュタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼球咽頭筋ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー、エメリ・ドレフュシュ筋ジストロフィー、運動ニューロン疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(乳児進行性脊髄性筋萎縮症(1型、ウェルドニッヒ・ホフマン病)、中間型脊髄性筋萎縮症(2型)、若年性脊髄性筋萎縮症(3型、クーゲルベルグ・ウェランダー病)、成人脊髄性筋萎縮症(4型))、球脊髄性筋萎縮症(ケネディ病))、炎症性筋疾患(例えば、多発性筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎)、神経筋接合部の疾患(例えば、重症性筋無力症、ランバート・イートン(筋無力症)症候群、先天性筋無力症症候群)、末梢神経の疾患(例えば、シャルコー・マリー・ツース病、フリートライヒ運動失調症、デジュリーヌ・ソッタ病)
からなる群において選択されてもよい。
【0023】
更なる特定の実施形態において、障害は、糖原病、特にポンペ病、より詳細には、乳児型ポンペ病又は遅発型ポンペ病、更に詳細には乳児型ポンペ病である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】用いた発現カセットの概略図である。A:サイトメガロウイルス(CMV)エンハンサー及びニワトリβ-アクチンプロモーター(CBA)、並びに基本的な単組織プロモーターで構成される遍在性プロモーター(CAG)。B(本発明):ハイブリッド多組織選択的プロモーター。ITR:AAVパッケージング用の逆方向末端反復;ApoE:アポリポタンパク質エンハンサー;hAAT:ヒトアルファ-1アンチトリプシンプロモーター;spC5.12:合成プロモーターC5.12;hSYN:ヒトシナプシンプロモーター;イントロン:HBB2 2.1(向上させた合成ヒトベータグロビン(HBB2 2.1))由来イントロン又はSV40イントロン;hGAA:ヒト酸性アルファ-グルコシダーゼコーディング配列に続くヒトウシ成長ホルモンポリアデニル化シグナル。
【
図2A】細胞株におけるハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターEnh.C5.12及びLiMPの活性。筋肉選択的(C5.12)、肝細胞選択的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-筋肉プロモーター(Enh.C5.12及びLiMP)の制御下で、高度に分泌可能なhGAA導入遺伝子(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと略す、Table 1(表1))をコードするプラスミドによる、ヒト肝細胞株HuH7の一過性形質移入の72時間後のGAA発現の分析。増強緑色蛍光タンパク質をコードするプラスミド(Ctrl)を、陰性対照として用いて、形質移入用の陽性対照としてのGAA発現プラスミドで共形質移入した。左のパネル:72Hでの細胞培地内でのGAA活性(n=4の独立実験);右のパネル:抗GAA抗体によるウエスタンブロット分析によって評価した細胞溶解液内のGAAタンパク質発現(n=2の独立実験)。抗eGFP抗体及び抗チューブリン抗体を、形質移入対照及びローディング対照としてそれぞれ用いた。GAAバンド定量化を示す。統計分析を、一元配置ANOVAによって、Tukeyの事後検定と共に実行した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001、#p<0.05、##p<0.01。
【
図2B】細胞株におけるハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターEnh.C5.12及びLiMPの活性。筋肉選択的(C5.12)、肝細胞選択的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-筋肉プロモーター(Enh.C5.12及びLiMP)の制御下で、高度に分泌可能なhGAA導入遺伝子(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと略す、Table 1(表1))をコードするプラスミドによる、ヒト筋芽細胞株C2の一過性形質移入の72時間後のGAA発現の分析。増強緑色蛍光タンパク質をコードするプラスミド(Ctrl)を、陰性対照として用いて、形質移入用の陽性対照としてのGAA発現プラスミドで共形質移入した。左のパネル:72Hでの細胞培地内でのGAA活性(n=4の独立実験);右のパネル:抗GAA抗体によるウエスタンブロット分析によって評価した細胞溶解液内のGAAタンパク質発現(n=2の独立実験)。抗eGFP抗体及び抗チューブリン抗体を、形質移入対照及びローディング対照としてそれぞれ用いた。GAAバンド定量化を示す。統計分析を、一元配置ANOVAによって、Tukeyの事後検定と共に実行した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001、#p<0.05、##p<0.01。
【
図3A】細胞株におけるハイブリッド肝臓-ニューロンプロモーターLiNeuPの活性。ニューロン選択的ヒトシナプシンプロモーター(hSYN)、肝細胞選択的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-ニューロンプロモーター(LiNeuP)の制御下で、高度に分泌可能なhGAA導入遺伝子(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと略す、Table 1(表1))をコードするプラスミドによる、ヒト肝細胞株HuH7の一過性形質移入の72時間後のGAA発現分析。増強緑色蛍光タンパク質をコードするプラスミド(Ctrl)を、陰性対照として用いて、形質移入用の陽性対照としてのGAA発現プラスミドで共形質移入した。左のパネル:72Hでの細胞培地内でのGAA活性(n=2の独立実験);右のパネル:抗GAA抗体によるウエスタンブロット分析によって評価した細胞溶解液内のGAAタンパク質発現(n=2の独立実験)。抗eGFP抗体及び抗チューブリン抗体を、形質移入対照及びローディング対照としてそれぞれ用いた。GAAバンド定量化を示す。統計分析を、一元配置ANOVAによって、Tukeyの事後検定と共に実行した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図3B】細胞株におけるハイブリッド肝臓-ニューロンプロモーターLiNeuPの活性。ニューロン選択的ヒトシナプシンプロモーター(hSYN)、肝細胞選択的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-ニューロンプロモーター(LiNeuP)の制御下で、高度に分泌可能なhGAA導入遺伝子(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと略す、Table 1(表1))をコードするプラスミドによる、ヒトニューロン細胞株NSC34の一過性形質移入の72時間後のGAA発現分析。増強緑色蛍光タンパク質をコードするプラスミド(Ctrl)を、陰性対照として用いて、形質移入用の陽性対照としてのGAA発現プラスミドで共形質移入した。左のパネル:72Hでの細胞培地内でのGAA活性(n=2の独立実験);右のパネル:抗GAA抗体によるウエスタンブロット分析によって評価した細胞溶解液内のGAAタンパク質発現(n=2の独立実験)。抗eGFP抗体及び抗チューブリン抗体を、形質移入対照及びローディング対照としてそれぞれ用いた。GAAバンド定量化を示す。統計分析を、一元配置ANOVAによって、Tukeyの事後検定と共に実行した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図4A】野生型C57BL/6マウスにおける循環GAAタンパク質。遍在性(CAG)、肝臓選択的(hAAT)、及び筋肉選択的(C5.12)プロモーター、又は発明者らの新たに生成した肝臓-筋肉(Enh.C5.12、LiMP)及び肝臓-ニューロン(LiNeuP)プロモーター(AAV用量:2×10
12vg/kg;マウスn=4/群)の制御下で全長コドン最適化GAA導入遺伝子(hGAAと略す)を有するAAV9ベクターの静脈内注射の4週後のGAA発現の分析。上部パネル:抗GAA抗体によるマウス血漿の代表的なウエスタンブロット;下部パネル:GAAバンドの定量化。GAAバンド強度を、血漿中で検出され、且つローディング対照として用いられる非特異的バンドの強度によって標準化した。rhGAA、陽性対照として用いた組換えヒトGAAタンパク質(市販名マイオザイム);分子量マーカー(左にkDa);非処置:陰性対照として用いた、注射しなかったC57BL/6マウス由来の血漿。統計分析を、一元配置ANOVAによって、Tukeyの事後検定と共に実行した。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図4B-1】野生型C57BL/6マウスにおけるヒトGAA RNA発現。遍在性(CAG)、肝臓選択的(hAAT)、及び筋肉選択的(C5.12)プロモーター、又は発明者らの新たに生成した肝臓-筋肉(Enh.C5.12、LiMP)及び肝臓-ニューロン(LiNeuP)プロモーター(AAV用量:2×10
12vg/kg)の制御下で全長コドン最適化GAA導入遺伝子(hGAAと略す)を有するAAV9ベクターの静脈内注射の5週後のGAA発現の分析。ヒトGAA RNA発現を、肝臓、心臓、四頭筋、脊髄、及び脳において評価して、内因性マウスActin遺伝子の発現によって標準化した。発現の相対変化倍率を示す。非処置:陰性対照として用いた、注射しなかったC57BL/6マウス。RNA及びDNA抽出が可能であった組織について、DNAの1μgあたりの標準化したベクターゲノムコピー数(VGCN)を示す。統計分析:RNA発現について、一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり、又はVGCNについて、二元配置ANOVA(プロモーター及び組織)、Tukeyの事後検定あり。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図5A】筋肉又は肝臓-筋肉内で活性のプロモーターを用いた場合の、成体Gaa-/-マウスにおけるGAAに対する体液性免疫応答。Gaa-/-マウスにおける筋肉選択的(C5.12)又は発明者らの新たに生成した肝臓-筋肉プロモーターEnh.C5.12及びLiMP(AAV8用量:2×10
12vg/kg)の制御下で天然(hGAA)をコードするAAV8ベクターの静脈内注射後の抗GAA抗体(免疫グロブリンG:IgG)の分析。抗GAA IgGを、AAV8ベクターの静脈内注射の1~3ヶ月後まで測定した。5頭のマウス/群を処置した。バーの上の数字は、各時点にて生きていたマウスの数を示し、バーの下の数字は、注射後月数を示す。統計分析:二元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。対照:非処置Gaa-/-同腹仔マウス由来の血漿。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図5B】筋肉又は肝臓-筋肉内で活性のプロモーターを用いた場合の、成体Gaa-/-マウスにおけるGAAに対する体液性免疫応答。Gaa-/-マウスにおける筋肉選択的(C5.12)又は発明者らの新たに生成した肝臓-筋肉プロモーターEnh.C5.12及びLiMP(AAV8用量:2×10
12vg/kg)の制御下で、天然(hGAA)又は高度に分泌可能なGAA(sec-hGAA)をコードするAAV8ベクターの静脈内注射後の循環GAA酵素活性の分析。天然GAA(hGAA)、又は高度に分泌可能なGAA(sec-hGAA)をコードするAAV8ベクターの静脈内注射の3ヶ月後の循環GAA酵素活性の分析。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。対照:非処置Gaa-/-同腹仔マウス由来の血漿。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図6】組換えhGAA注射後の、デュアルプロモーターを用いたhGAAのAAV遺伝子移入後のGaa-/-マウスにおける抗hGAA体液性免疫応答。(A)実験設計:2ヶ月齢のGaa-/-を、組換えヒトGAAタンパク質(rhGAA)の静脈内注射によって免疫化した。6週後、免疫化Gaa-/-を、デュアル肝臓-筋肉LiMPプロモーター又は肝細胞特異的hAATプロモーターを有するAAV9-hGAAベクターの静脈内注射(用量:2×10
12vg/kg)によって処置した;ルシフェラーゼをコードするAAV9ベクターを、対照(AAV-Ctrl、用量:2×10
12vg/kg)として用いた。示すように、抗hGAA IgGを測定した(W:週)。(B)5.5及び12週目のGaa-/-マウスにおける抗hGAA IgGの分析(パネルCを参照)。データを、平均±SDとして示す;AAV-hGAA n=3マウス/コホート;AAV-Ctrl n=2マウス/コホート。統計分析:二元配置ANOVA、(AAV、週)、Sidakの事後検定あり。*p<0.05、**p<0.01、##p<0.01。
【
図7】肝臓内で非常に活性のハイブリッドプロモーター(LiMP及びLiNeuP)を用いた場合の、成体Gaa-/-マウスにおける循環GAAタンパク質及び抗GAA IgG。遍在性(CAG)プロモーター、肝臓選択的(hAAT)プロモーター、並びに発明者らの新たに生成した肝臓-筋肉(LiMP)及び肝臓-ニューロン(LiNeuP)プロモーター(AAV用量:5×10
11vg/kg)の制御下で、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sec-hGAA)をコードするAAV9ベクターの静脈内注射の4週後の循環GAAタンパク質の分析。上部パネル:抗GAA抗体によるマウス血漿のウエスタンブロット;同時点にてマウス血漿内で測定されたGAA(IgG)に対する体液性応答を、各対応レーンの下に示す。rhGAA:陽性対照として用いた組換えヒトGAA;分子量マーカー(左にkDa);neg:陰性対照として用いた非注射Gaa-/-マウス由来のマウス血漿。群あたりのマウスの数を、バーで示す。下部パネル:GAAタンパク質バンドの定量化。GAAバンド強度を、血漿中で検出され、且つローディング対照として用いられる非特異的バンドの強度によって標準化した。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図8】肝臓内で活性のハイブリッドプロモーター(LiMP及びLiNeuP)を用いた場合の、成体Gaa-/-マウスにおける筋力及び呼吸機能のレスキュー。Gaa-/-マウスにおける発明者らの新たに生成した肝臓-筋肉(LiMP)及び肝臓-ニューロン(LiNeuP)プロモーター(AAV9用量:2×10
12vg/kg)の制御下で、高度に分泌可能なGAA(sec-hGAA)をコードするAAV9ベクターの静脈内注射後の血漿GAA酵素活性(A)、筋力(B)、及び呼吸機能(C、D)の分析。(A)AAV9ベクターの静脈内注射の2ヶ月後の、循環GAA酵素活性の分析。AAV9ベクターの静脈内注射の3ヶ月後の、4パスグリップ試験による筋力(B)の、そして全身プレチスモグラフによる呼吸機能(C、D)の分析。Te:呼気時間;EF50:(中間呼気流);Ctrl:対照処置群として用いた非処置Gaa-/-マウス。Gaa+/+:野生型の非罹患同腹仔マウス。統計分析:A.一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり;Ctrlに対する一元配置ANOVA、Dunnetの事後検定あり。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001
【
図9-1】新生仔Gaa-/-マウスにおけるハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターLiMPの活性。筋肉及び肝臓の双方において活性が増大する、筋肉選択的(C5.12)、肝臓選択的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターLiMP(
図2及び
図4B参照、AAV用量:3×10
13vg/kg)の制御下で、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sec-hGAA)をコードするAAV8ベクターの静脈内注射の3ヶ月後のGAAタンパク質の分析。A~B:抗GAA抗体による処置の3ヶ月後のマウス血漿の代表的なウエスタンブロット分析;rhGAA:陽性対照として用いた組換えヒトGAA;Untr:陰性対照として用いた非処置Gaa-/-マウス由来の血漿;分子量マーカー(kDa)を左に示す。GAAバンドの定量化を、パネルBに示す。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。C~F:AAV8ベクターの静脈内注射の3ヶ月後の、心臓、横隔膜、三頭筋、及び四頭筋におけるGAA活性の分析。Ctrl:非処置Gaa-/-マウス。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。Gaa+/+:野生型の非罹患同腹仔マウス;*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図10A】新生時に処置したGaa-/-マウスにおけるハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターLiMPによるAAV遺伝子治療の直ぐ後の筋肉及びCNS内のGAAタンパク質の量の分析。新生仔Gaa-/-マウスにおける筋肉選択的(C5.12)、肝臓選択的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターLiMP(AAV用量:3×10
13vg/kg)の制御下で、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sec-hGAA)をコードするAAV8ベクターの静脈内注射の3ヶ月後の三頭筋、脊髄、及び脳内のGAAタンパク質の分析。抗GAA抗体による処置の3ヶ月後のマウス組織のウエスタンブロット分析。抗チューブリン抗体を、ローディング対照として用いた;rhGAA:陽性対照として用いた組換えヒトGAA;Untr:陰性対照として用いた非処置Gaa-/-マウス由来の組織;分子量マーカー(kDa)を左に示す。GAAバンドの定量化を示す。GAAバンド強度を、ローディング対照として用いたチューブリンバンドの強度によって標準化した。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。Gaa+/+:野生型の非罹患同腹仔マウス;Untr:非処置Gaa-/-マウス。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図10B】新生時に処置したGaa-/-マウスにおけるハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターLiMPによるAAV遺伝子治療の直ぐ後の筋肉及びCNS内のGAAタンパク質の量の分析。新生仔Gaa-/-マウスにおける筋肉選択的(C5.12)、肝臓選択的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターLiMP(AAV用量:3×10
13vg/kg)の制御下で、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sec-hGAA)をコードするAAV8ベクターの静脈内注射の3ヶ月後の三頭筋、脊髄、及び脳内のGAAタンパク質の分析。抗GAA抗体による処置の3ヶ月後のマウス組織のウエスタンブロット分析。抗チューブリン抗体を、ローディング対照として用いた;rhGAA:陽性対照として用いた組換えヒトGAA;Untr:陰性対照として用いた非処置Gaa-/-マウス由来の組織;分子量マーカー(kDa)を左に示す。GAAバンドの定量化を示す。GAAバンド強度を、ローディング対照として用いたチューブリンバンドの強度によって標準化した。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。Gaa+/+:野生型の非罹患同腹仔マウス;Untr:非処置Gaa-/-マウス。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図10C】新生時に処置したGaa-/-マウスにおけるハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターLiMPによるAAV遺伝子治療の直ぐ後の筋肉及びCNS内のGAAタンパク質の量の分析。新生仔Gaa-/-マウスにおける筋肉選択的(C5.12)、肝臓選択的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターLiMP(AAV用量:3×10
13vg/kg)の制御下で、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sec-hGAA)をコードするAAV8ベクターの静脈内注射の3ヶ月後の三頭筋、脊髄、及び脳内のGAAタンパク質の分析。抗GAA抗体による処置の3ヶ月後のマウス組織のウエスタンブロット分析。抗チューブリン抗体を、ローディング対照として用いた;rhGAA:陽性対照として用いた組換えヒトGAA;Untr:陰性対照として用いた非処置Gaa-/-マウス由来の組織;分子量マーカー(kDa)を左に示す。GAAバンドの定量化を示す。GAAバンド強度を、ローディング対照として用いたチューブリンバンドの強度によって標準化した。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。Gaa+/+:野生型の非罹患同腹仔マウス;Untr:非処置Gaa-/-マウス。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図10DE】新生時に処置したGaa-/-マウスにおけるハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターLiMPによるAAV遺伝子治療の直ぐ後の筋肉及びCNS内のGAAタンパク質の量の分析。新生仔Gaa-/-マウスにおける筋肉選択的(C5.12)、肝臓選択的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターLiMP(AAV用量:3×10
13vg/kg)の制御下で、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sec-hGAA)をコードするAAV8ベクターの静脈内注射の3ヶ月後の三頭筋、脊髄、及び脳内のGAAタンパク質の分析。D.RT-qPCRによって実行したGaa-/-マウスの肝臓内でのsec-hGAA導入遺伝子RNAの相対発現(変化倍率)。導入遺伝子発現の変化倍率を、hAATと比較して示す。E.RT-qPCRによって実行したAAV処置Gaa-/-マウスの腓腹筋内でのsec-hGAA導入遺伝子RNAの相対発現(-ΔΔCt)。相対導入遺伝子発現(-ΔΔCt)を、C5.12と比較して示す。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。Gaa+/+:野生型の非罹患同腹仔マウス;Untr:非処置Gaa-/-マウス。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図11】新生時に処置したGaa-/-マウスにおけるAAV-LiMP-sec-hGAAによる筋力の保存。筋肉及び肝臓の双方において活性が増大する、筋肉選択的(C5.12)、肝臓選択的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成した肝臓-筋肉プロモーターLiMP(
図2及び
図4B参照、AAV用量:3×10
13vg/kg)の制御下で、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sec-hGAA)をコードするAAV8ベクターの静脈内注射の3ヶ月後の、Gaa+/+野生型の非罹患同腹仔マウス及びGaa-/-マウスにおけるグリップ試験による筋力の分析。Gaa+/+:野生型の非罹患同腹仔マウス;Ctrl:非処置Gaa-/-マウス。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図12】新生仔Gaa-/-マウスへのAAV-LiMP-sec-hGAAの送達後のRtl1 RNAのアップレギュレーションの欠如。筋肉選択的(C5.12、n=3マウス)、肝臓選択的(hAAT、n=4マウス)、又は発明者らの新たに生成した肝臓-筋肉プロモーターLiMP(n=3マウス)の制御下で、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sec-hGAA)をコードするAAV8ベクターの静脈注射の3ヶ月後のGaa-/-マウスにおけるRtl1 RNA発現の分析。AAV用量:3×10
13vg/kg。Ctrl:非処置Gaa-/-マウス(n=4)。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり、有意差は観察されなかった。
【
図13-1】LiMPプロモーターを用いた低用量AAV遺伝子治療により新生時に処置したGaa-/-マウスの疾患表現型のレスキュー。デュアル肝臓-筋肉LiMPプロモーター(n=5)の、又は比較としての肝細胞特異的(hAAT、n=5)の制御下で、コドン最適化された高度に分泌可能なヒトGAA(sec-hGAA)をコードするAAV9ベクター(用量:6×10
12vg/kg)の静脈内注射による、新生時に処置した4ヶ月齢のGaa-/-マウス内でのhGAA導入遺伝子発現(A~G)の、そして疾患表現型のレスキュー(H~M)の分析。非処置Gaa-/-マウスを、罹患対照(Ctrl、n=5)として用いた;同腹仔Gaa+/+マウスを、非罹患対照(Gaa+/+、n=6)として用いた。(A)抗ヒトGAA抗体による、Gaa-/-血漿の代表的なウエスタンブロット。分子量マーカー(kDa)を示す;rhGAA:陽性対照としてロードした組換えヒトGAA。(B)Gaa-/-血漿内でのhGAAタンパク質バンドの定量化。(C~E)筋肉におけるGAA酵素活性の分析。(F~G)抗ヒトGAA抗体によるGaa-/-脊髄(F)及び脳(G)のウエスタンブロット分析;抗チューブリン抗体を、ローディング対照として用いた。分子量マーカー(kDa)を示す。(H~K)筋肉(H~J)及び中枢神経系(K)において測定したグリコーゲン蓄積。(L)体重によって標準化した心臓重量。(M)筋力を、4リムグリップ試験によって測定した(B~E、H~M)。データを、平均±SDとして示す;上述のように、コホートあたりn=6~5マウス。統計分析:t検定(B)、一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり(C~E、H~M)。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001、#p<0.05、###p<0.001。バーの上のアスタリスク及びハッシュマークは、グラフレジェンドにおいて指定したマウスコホートに対する有意差を示す。
【
図14】新生時に処置したGaa-/-マウスにおけるハイブリッド肝臓プロモーターLiMP及びLiNeuPによるAAV遺伝子治療の直ぐ後の筋肉内のGAAタンパク質の量の分析。新生仔Gaa-/-マウスにおける遍在性(CAG)プロモーター、肝臓特異的(hAAT)プロモーター、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-筋肉LiMP若しくは肝臓-ニューロンLiNeuPプロモーター(AAV用量:2×10
13vg/kg)の制御下で、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sec-hGAA)をコードするAAV9ベクターの静脈内注射の4ヶ月後の三頭筋内のGAAタンパク質の分析。上部パネル:抗GAA抗体による処置の4ヶ月後の三頭筋のウエスタンブロット分析。抗GAPDH抗体を、ローディング対照として用いた;rhGAA:陽性対照として用いた組換えヒトGAA;Ctrl:陰性対照として用いた非処置Gaa-/-マウス由来の組織;分子量マーカー(kDa)を左に示す。下部パネル:リソソームGAAバンドの定量化を示す。マウスの数/群を示す。GAAバンド強度を、ローディング対照として用いたGAPDHバンドの強度によって標準化した。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。Gaa+/+:野生型の非罹患同腹仔マウス;Ctrl:非処置Gaa-/-マウス。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図15】新生時に処置したGaa-/-マウスにおけるハイブリッド肝臓プロモーターLiMPによるAAV遺伝子治療の直ぐ後の筋肉内のGAA、p62、及びparkinタンパク質の量の分析。新生仔Gaa-/-マウスにおける肝臓-特異的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-筋肉LiMP(AAV用量:2×10
13vg/kg)の制御下で、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sec-hGAA)をコードするAAV9ベクターの静脈内注射の4ヶ月後の三頭筋内のGAA、p62、及びparkinタンパク質の分析。上部パネル:抗GAA、抗p62、抗parkin抗体による4ヶ月の処置後の三頭筋のウエスタンブロット分析。抗GAPDH抗体を、ローディング対照として用いた;Ctrl:陰性対照として用いた非処置Gaa-/-マウス由来の組織;分子量マーカー(kDa)を左に示す。下部パネル:リソソームGAAバンド、p62バンド、及びparkinバンドの定量化を示す。マウスの数/群を示す。バンド強度を、ローディング対照として用いたGAPDHバンドの強度によって標準化した。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。Gaa+/+:野生型の非罹患同腹仔マウス;Ctrl:非処置Gaa-/-マウス。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001、##p<0.01、###p<0.001。
【
図16】新生時に処置したGaa-/-マウスの肝臓及び三頭筋内のベクターゲノムコピー数(VGCN)の分析。新生仔Gaa-/-マウスにおける遍在性(CAG)、肝臓特異的(hAAT)、又は発明者らの新たに生成したハイブリッド肝臓-筋肉LiMP若しくは肝臓-ニューロンLiNeuPプロモーター(AAV用量:2×10
13vg/kg)の制御下で、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sec-hGAA)をコードするAAV9ベクターの静脈内注射の4ヶ月後の、
図14及び
図15に示すマウスの肝臓(A)及び三頭筋(B)内のベクターゲノムコピー数(VGCN)の分析。マウスの数/群を示す。統計分析:一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。Gaa+/+:野生型の非罹患同腹仔マウス;Ctrl:非処置Gaa-/-マウス。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図17】AAV9ベクターで全身的に処置したGaa-/-マウス内でのGAA導入遺伝子mRNA発現の分析。(A~B)示すプロモーターを有するAAV9-hGAAベクター(天然のhGAA、用量:2×10
12vg/kg)の静脈内注射後のGaa-/-マウス由来の組織内でのhGAA導入遺伝子mRNAの相対発現(変化倍率);n=3マウス/コホート。ルシフェラーゼをコードするAAV9ベクターを陰性対照(Ctrl)として用いた。導入遺伝子mRNA発現の変化倍率を、対照標的組織としての肝臓と比較して示す。(D~E)パネルA~Bに示す組織内でのVGCN。データを、平均±SDとして示す。統計分析:(A~D)二元配置ANOVA(組織、ベクター)、Tukeyの事後検定あり。*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001、****p<0.0001。
【
図18】ハイブリッドプロモーターを用いたhGAAのAAV遺伝子移入後の成体Gaa-/-マウス内の抗hGAA体液性免疫応答。ハイブリッド肝臓-筋肉(Enh.C5.12及びLiMP)及び肝臓-ニューロン(LiNeuP)プロモーター、又は比較としての遍在性(CAG)、肝細胞特異的(hAAT)、及び筋肉特異的(C5.12)プロモーターの制御下で、天然コドン最適化ヒトGAA(hGAA)導入遺伝子を有するAAV9ベクター(用量:2×10
12vg/kg)の静脈内注射の1.5(A)、3、及び5(B)ヶ月後のGaa-/-マウス内での抗hGAA抗体(免疫グロブリンG:IgG)、並びに肝臓ベクターゲノムコピー数(C)の分析。Gaa-/-マウスを3ヶ月齢にて処置した。データを、平均±SDとして示す;n=3~5マウス/コホート。非処置Gaa-/-マウスを罹患対照として用いた。統計分析:(A)一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり。(B)二元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり(**p<0.01 C5.12、対CAG、***p<0.001 C5.12、対hAAT、Enh.C5.12、LiMP、及びLiNeuP);(C)一元配置ANOVA、Tukeyの事後検定あり、*p<0.05、**p<0.01、***p<0.001。
【
図19】ヒト筋芽細胞内でのハイブリッドLiMPプロモーターの活性。(A~B)。肝臓-筋肉(Enh.C5.12及びLiMP、
図1A)プロモーター又は対照筋肉特異的(C5.12)及び肝細胞特異的(hAAT)プロモーター(
図S1)を含有するAAV9-hGAAベクター(MOI:2×10
5vg/細胞)によるヒト筋芽細胞の感染の直ぐ後のhGAAタンパク質発現の分析。増強緑色蛍光タンパク質をコードするAAV9ベクターを、陰性対照(Ctrl)として用いた。(A).抗ヒトGAA抗体による細胞溶解液の代表的なウエスタンブロット分析。分子量マーカー(kDa)を示す。写真は、n=2の独立実験を代表する。(B).ウエスタンブロット定量化。GAAバンド強度を、ロードしたタンパク質溶解液の量によって標準化した。データは、n=2の独立実験の平均±SDとして示す。統計分析を、一元配置ANOVA(対Ctrl)によって、Dunnetの事後検定と共に実行した。*p<0.05。
【発明を実施するための形態】
【0025】
定義
本発明の文脈において、「転写調節要素」は、組織又は細胞内で導入遺伝子発現を駆動又は増強することができるDNA配列である。本発明の文脈において、転写調節要素は、組織選択的プロモーター及び組織選択的エンハンサーから選択される。特定の実施形態において、転写調節要素は、組織選択的遺伝子又は組織特異的遺伝子の組織選択的プロモーター及び組織選択的エンハンサーから選択される。
【0026】
本発明の文脈において、文言「組織選択的プロモーター」は、天然プロモーター又は合成プロモーターを含む。特に、文言「組織選択的プロモーター」はまた、組織選択的プロモーター、及び当該プロモーターと同じ組織選択性を有するエンハンサーを含む合成プロモーターを表す。この文言によって包含される、実例となるプロモーターは、例えば、ApoEエンハンサー及びhAATプロモーターの融合であり、当該融合は、この段落内で記載される定義に従えば、肝臓選択的プロモーターに相当する。
【0027】
本発明に従えば、「組織選択性」は、転写調節要素が、所定の組織又は組織のセットにおいて前記転写調節要素に作動可能に連結された遺伝子の発現を、別の組織における発現と比較して、選択的に駆動(プロモーターの場合)又は増強(エンハンサーの場合)することを意味する。「組織選択性」のこの定義は、組織選択的転写調節要素(例えば組織選択的プロモーター)がある程度漏れる(leak)可能性を排除しない。「漏れ」、「漏れること」、又はその傾き(declination)によって意味されるのは、一組織の選択的な転写調節要素が、低い発現レベルではあるが、前記転写調節要素に作動可能に連結された導入遺伝子の、別の組織中への発現を駆動し、又は増大させる可能性があることである。例えば、筋肉選択的プロモーターが肝臓組織内で漏れる場合があるとは、このプロモーターから駆動される発現が、肝臓組織においてよりも筋組織において高いことを意味する。これ以外にも、組織選択的転写調節要素は、「組織特異的」転写調節要素であってもよい。これは、この転写調節要素が、所定の組織又は組織のセットにおいて発現を選択的に駆動又は増強することだけでなく、この調節要素が、他の組織内で、発現を駆動も増強もせず、又はほんの僅かしか駆動若しくは増強しないことも意味する。
【0028】
本発明の文脈において、「ハイブリッド転写調節要素」は、2つ以上の組織又は組織のセット内で、組織依存的に導入遺伝子発現を駆動することができるDNA配列を表す。本発明に従えば、そして以下でより詳細に説明されるように、各転写調節要素は、組織選択性又は細胞選択性である、すなわち、注目する導入遺伝子の発現を組織選択的に駆動することによって、導入遺伝子の発現を、導入遺伝子生成物が所望される組織に選択的に制限し得る。
【0029】
本発明の文脈において、「免疫寛容原性組織」は、肝臓等の組織であり、前記組織から導入遺伝子が発現される場合に、前記導入遺伝子に対する免疫寛容が達成され得る。
【0030】
用語「免疫寛容」は、対象が通常は応答性である特異的な抗原又は抗原の群に対して、不応答性の状態を指す。これ以外にも、免疫寛容は、免疫系が、例えば制御性T細胞を介して、抗原に対する免疫応答の抑制を能動的に媒介する状態として定義することができる。本発明の文脈において、免疫寛容が達成されることが求められる「抗原」又は「抗原の群」は、注目する導入遺伝子である。
【0031】
本発明に従えば、「注目する導入遺伝子」は、RNA又はタンパク質生成物をコードし、求められる目的のために細胞中に導入され得、且つ適切な条件下で発現され得るポリヌクレオチド配列を指す。注目する導入遺伝子は、注目する生成物、例えば、注目する治療薬又は診断用生成物をコードしてもよい。「治療導入遺伝子」は、所望の治療的転帰に至るように、特に、前記治療導入遺伝子の発現が必要とされる細胞、組織、又は臓器中への前記治療導入遺伝子の発現を達成するために、選択されて用いられる。治療は、前記タンパク質を発現しない細胞中にタンパク質を発現することによる、タンパク質の突然変異バージョンを発現する細胞中にタンパク質を発現することによる、発現される標的細胞に対して有毒であるタンパク質を発現することによる(例えば、癌細胞等の不所望の細胞を死滅させるのに用いられる戦略)、アンチセンスRNAを発現して、遺伝子抑制若しくはエキソンスキッピングを誘導することによる、又はサイレンシングRNA、例えば、目的がタンパク質の発現を抑制することであるshRNAを発現することによるものを含めた、いくつかの方法によって達成されてもよい。
【0032】
本発明に従えば、用語「処置」は、治癒的効果、緩和効果、又は予防的効果を含む。したがって、治療的処置及び予防的処置は、障害の病徴の改善、又は特定の障害を進行させるリスクの予防、若しくは引下げを含む。処置は、疾患の、そして/又はその病徴の1つ若しくは複数の経過を遅延、減速、又は好転させるために施されてもよい。用語「予防的な」は、特定の症状の重症度又は発症を低減するとみなされてもよい。また、「予防的な」は、症状が以前に診断された患者において、特定の症状の再発生を妨げることを含む。また、「治療的な」は、既存の症状の重症度の引下げに言及してもよい。用語「処置」は、本明細書中で、動物、特に哺乳動物、より詳細にはヒトの対象に利益を与えることができるあらゆるレジメンに言及するのに用いられる。特定の実施形態において、前記哺乳動物は、乳仔又は成体の対象、例えばヒト乳児又は成人であってもよい。
【0033】
「治療的に注目の細胞」又は「治療的に注目の組織」によって本明細書中で意味されるのは、治療導入遺伝子の発現が、障害の処置に有用となる主な細胞又は組織である。治療的に注目のそのような組織として、限定されないが、筋肉(骨格、横隔膜、及び心筋等)、神経系(脳又は脊髄等)、腎臓、肺、及び腸管が挙げられる。治療的に注目の細胞として、限定されないが、肝細胞、心筋細胞、筋線維、ニューロン(例えば、運動ニューロン、感覚ニューロン)、神経膠細胞、及び内皮細胞が挙げられる。
【0034】
ハイブリッド転写調節要素
本発明者らは、遺伝子治療効力を増大させるための、本明細書中で「ハイブリッド転写調節要素」とも呼ばれる、新規の多組織選択的転写調節要素を設計した。特に、新規の多組織選択的転写調節要素は、異なる組織選択的エンハンサー及び/又は組織選択的プロモーターを組み合わせてもよい。
【0035】
本発明の核酸配列は、そのようなハイブリッド転写調節要素に関する。本発明の核酸分子は、(i)第1の組織内で組織選択的発現を駆動又は増強することができる第1の転写調節要素(すなわち第1の組織選択的転写調節要素);及び(ii)第2の組織内で組織選択的発現を駆動又は増強することができる第2の転写調節要素(すなわち第2の組織選択的転写調節要素)を含み、第1の転写調節要素及び第2の転写調節要素は、互いに融合している。本発明において、第1の転写調節要素及び第2の転写調節要素は、異なる組織選択性を有し、そして第1の転写調節要素及び第2の転写調節要素の少なくとも1つは、プロモーターである。
【0036】
本発明の核酸配列内に含まれることとなる転写調節要素の選択は、核酸配列の具体的な意図、及び核酸配列に作動可能に連結される注目する導入遺伝子によって決まることとなる。特に、遺伝子治療のためのベクター内での本発明の核酸配列の使用の場合、実務者が処置することを意図する疾患又は障害によって決まることとなる。場合によって、転写調節要素は、いくつかの組織又は細胞において、例えば肝臓、筋肉において、中心神経系において、例えば脳又は脊髄において、例えばニューロン(例えば、運動ニューロン、感覚ニューロン、又は介在ニューロン)又は神経膠細胞において、末梢神経系(PNS)において、腎臓において、眼において、又は肺において、発現を駆動することができるものとして選択されてもよい。注目する他の組織又は細胞として、例えばB細胞、T細胞、又はマクロファージの、免疫系の細胞等の循環細胞;造血細胞;又は内皮細胞が挙げられ得る。
【0037】
特定の実施形態において、発現は、例えば、注目する導入遺伝子に対する免疫寛容を誘導するために(これだけではない)、肝臓内で求められる。
【0038】
別の特定の実施形態において、発現は、筋肉内で求められる。
【0039】
更に別の実施形態において、発現は、ニューロン内で求められる。
【0040】
更なる特定の実施形態において、転写調節要素は、肝臓及び筋肉中への発現のために選択される。
【0041】
別の実施形態において、転写調節要素は、肝臓及びニューロン中への発現のために選択される。
【0042】
別の実施形態において、転写調節要素は、筋肉及びニューロン中への発現のために選択される。
【0043】
更なる実施形態において、転写調節要素は、肝臓、筋肉、及びニューロン中への発現のために選択される。
【0044】
先の定義において言及されるように、転写調節要素は、組織選択的エンハンサーであっても組織選択的プロモーターであってもよい。
【0045】
第1の組織選択的転写調節要素は、注目する第1の細胞又は組織、例えば治療的に注目する第1の細胞又は組織中への導入遺伝子の発現を駆動/増強する。特定の実施形態において、第1の組織選択的転写調節要素は、肝臓中への導入遺伝子の発現を駆動/増強する。特定の実施形態において、肝臓中への発現が、この組織に免疫寛容原性特性があるので、求められる。したがって、この特定の実施形態において、第1の転写調節要素は、肝臓選択的転写調節要素である。複合肝臓プロモーター又は人工肝臓プロモーターが、肝臓発現遺伝子のプロモーター領域を組み合わせることによって誘導される。実例となる肝臓選択的転写調節要素として、限定されないが、アポリポタンパク質E(ApoE-配列番号4で示されるエンハンサー配列)及びA-I(Apo A-I)エンハンサー(Van Linthout S、Hum Gene Ther.2002年5月1日;13(7):829~40頁)、アンチトリプシンプロモーター、例えばアルファ-1アンチトリプシンプロモーター(hAAT-配列番号2で示される)、トランスチレチンプロモーター(TTR)、アルブミンプロモーター(Alb)、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、LSPプロモーター(甲状腺ホルモン結合グロブリンプロモーター配列、2コピーのアルファ1-ミクログロブリン/ビクニンエンハンサー配列及びリーダー配列を含む、Ill,Charles R.ら、1997年、Optimization of the human factor VIII complementary DNA expression plasmid for gene therapy of hemophilia A.Blood Coag.Fibrinol.8:S23~S30頁)その他が挙げられる。他の有用な肝臓選択的プロモーターが、当該技術において知られており、例えば、Cold Spring Harbor Laboratory社によって編集されたLiver Specific Gene Promoter Database(http://rulai.cshl.edu/LSPD/)内にリストされているものがある。特に、遺伝子の肝臓選択的発現を増強することができる他の転写調節要素として、国際公開第2009130208号に開示されるものがある。特定の実施形態において、肝臓選択的転写調節要素は、アンチトリプシンプロモーター-例えばアルファ-1アンチトリプシンプロモーター(hAAT-配列番号2で示される)、トランスチレチンプロモーター(TTR)、アルブミンプロモーター(Alb)、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、先で定義されるLSPプロモーター、及び他のあらゆる肝臓選択的プロモーター、例えば、Cold Spring Harbor Laboratory社によって編集されたLiver Specific Gene Promoter Database(http://rulai.cshl.edu/LSPD/)内にリストされているものからなる群において選択される肝臓選択的プロモーターとの、ApoEエンハンサーの組合せを含む。特定の実施形態において、本発明の文脈に用いられる肝臓選択的転写調節要素は、アルファ-1アンチトリプシンプロモーター(hAAT)、ApoEエンハンサー及びhAATプロモーターの組合せ、トランスチレチンプロモーター、アルブミンプロモーター、チロキシン結合グロブリン(TBG)プロモーター、並びにLSPプロモーターからなる群において選択される肝臓選択的プロモーターである。本発明の文脈における使用のための特定の肝臓選択的転写調節要素は、ApoEエンハンサー(ApoE)及びhAATプロモーターの組合せである。
【0046】
第2の組織選択的転写調節要素は、注目する第2の細胞又は組織中への導入遺伝子の発現を駆動又は増強する。特に、第2の組織選択的転写調節要素は、注目する第2の細胞又は組織中への導入遺伝子の発現を駆動することができる。
【0047】
特定の実施形態において、第2の組織選択的転写調節要素は、筋肉選択的エンハンサーと最終的に連結される、筋肉選択的プロモーターである。別の特定の実施形態において、第2の組織選択的転写調節要素は、筋肉選択的エンハンサーである。
【0048】
適切な筋肉選択的プロモーターの一例として、筋肉クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーターが挙げられる。適切な筋肉クレアチンキナーゼプロモーターの非限定的な例として、ヒト筋肉クレアチンキナーゼプロモーター及び切断型マウス筋肉クレアチンキナーゼ[(tMCK)プロモーター]がある(Wang Bら,Construction and analysis of compact muscle-selective promoters for AAV vectors.Gene Ther.2008 Nov;15(22):1489~99頁)(代表的なGenBank登録No.AF188002)。ヒト筋肉クレアチンキナーゼは、Gene ID No.1158を有する(代表的なGenBank登録No.NC_000019.9、2012年12月26日にアクセス)。筋肉選択的プロモーターの他の例として、合成プロモーターC5.12(spC5.12、本明細書中では代わりに「C5.12」と呼ぶ)、例えば配列番号1で示されるspC5.12、又はspC5.12プロモーター(Wangら、Gene Therapy第15巻、1489-1499頁(2008)に開示されている)、MHCK7プロモーター(Salvaら、Mol Ther.2007年2月;15(2):320-9頁)、ミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、例えばMLC2(Gene ID No.4633;代表的なGenBank登録No.NG_007554.1、2012年12月26日にアクセス);ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、例えばアルファ-MHC(Gene ID No.4624;代表的なGenBank登録No.NG_023444.1、2012年12月26日にアクセス);デスミンプロモーター(Gene ID No.1674;代表的なGenBank登録No.NG_008043.1、2012年12月26日にアクセス);心臓トロポニンCプロモーター(Gene ID No.7134;代表的なGenBank登録No.NG_008963.1、2012年12月26日にアクセス);トロポニンIプロモーター(Gene ID No.7135、7136、及び7137;代表的なGenBank登録No.NG_016649.1、NG_011621.1、及びNG_007866.2、2012年12月26日にアクセス);myoD遺伝子ファミリプロモーター(Weintraubら、Science、251、761(1991);Gene ID No.4654;代表的なGenBank登録No.NM_002478、2012年12月26日にアクセス);アルファアクチンプロモーター(Gene ID No.58、59、及び70;代表的なGenBank登録No.NG_006672.1、NG_011541.1、及びNG_007553.1、2012年12月26日にアクセス);ベータアクチンプロモーター(Gene ID No.60;代表的なGenBank登録No.NG_007992.1、2012年12月26日にアクセス);ガンマアクチンプロモーター(Gene ID No.71及び72;代表的なGenBank登録No.NG_011433.1及びNM_001199893、2012年12月26日にアクセス);Pitx3の眼球形態のイントロン1内に存在する筋肉選択的プロモーター(Gene ID No.5309)(Coulonら;筋肉選択的プロモーターは、代表的なGenBank登録No.NG_008147の残基11219~11527に相当する、2012年12月26日にアクセス);及び米国特許出願公開第2003/0157064号に記載されるプロモーター、並びにCK6プロモーター(Wangら、2008 doi:10.1038/gt.2008.104)が挙げられる。別の特定の実施形態において、筋肉選択的プロモーターは、MCK由来エンハンサーの、そしてspC5.12プロモーターの組合せを含む、Wangら、Gene Therapy第15巻、1489~1499頁(2008)に記載されるE-Synプロモーター(配列番号13で示される配列)である。本発明の特定の実施形態において、筋肉選択的プロモーターは、spC5.12プロモーター、MHCK7プロモーター、E-Synプロモーター、筋肉クレアチンキナーゼミオシン軽鎖(MLC)プロモーター、ミオシン重鎖(MHC)プロモーター、心臓トロポニンCプロモーター、トロポニンIプロモーター、myoD遺伝子ファミリプロモーター、アルファアクチンプロモーター、ベータアクチンプロモーター、ガンマアクチンプロモーター、Pitx3の眼球形態のイントロン1内に存在する筋肉選択的プロモーター、及びCK6プロモーターからなる群において選択される。特定の実施形態において、筋肉選択的プロモーターは、spC5.12プロモーター、デスミンプロモーター、及びMCKプロモーターからなる群において選択される。更なる実施形態において、筋肉選択的プロモーターは、spC5.12プロモーター及びMCKプロモーターからなる群において選択される。特定の実施形態において、筋肉選択的プロモーターは、spC5.12プロモーターである。特定の実施形態において、筋肉選択的プロモーターは、デスミンプロモーターではない。
【0049】
特に、遺伝子の筋肉選択的発現、特に、心筋及び/又は骨格筋内での発現を増強することができる転写調節要素として、国際公開第2015110449号に開示されるものがある。人工配列を含む核酸転写調節要素の特定の例として、国際公開第2015110449号に開示される配列内に存在する転写因子結合部位(TFBS)を再配置することによって得られる転写調節要素が挙げられる。前記再配置は、TFBSの順序を変えること、及び/又は他のTFBSに対して1つ若しくは複数のTFBSの位置を変えること、及び/又は1つ若しくは複数のTFBSのコピー数を変えることを包含してもよい。例えば、筋肉選択的遺伝子発現、特に心筋選択的遺伝子発現及び骨格筋選択的遺伝子発現を増強する核酸転写調節要素は、E2A、HNH 1、NF1、C/EBP、LRF、MyoD、及びSREBPの;又はE2A、NF1、p53、C/EBP、LRF、及びSREBPの;又はE2A、HNH 1、HNF3a、HNF3b、NF1、C/EBP、LRF、MyoD、及びSREBPの;又はE2A、HNF3a、NF1、C/EBP、LRF、MyoD、及びSREBPの;又はE2A、HNF3a、NF1、CEBP、LRF、MyoD、及びSREBPの;又はHNF4、NF1、RSRFC4、C/EBP、LRF、及びMyoDの;又はNF1、PPAR、p53、C/EBP、LRF、及びMyoDの結合部位を含んでもよい。更なる例において、これらの核酸転写調節要素は、先で列挙される1つ又は複数のTFBSのコピーの少なくとも2つ、例えば2、3、4、又はそれ以上を含む。
【0050】
更に別の特定の実施形態において、第2の組織選択的転写調節要素は、ニューロン選択的エンハンサーと最終的に連結する、ニューロン選択的プロモーターである。別の特定の実施形態において、第2の組織選択的転写調節要素は、ニューロン選択的エンハンサーである。
【0051】
ニューロン選択的プロモーターとして、以下に限定されないが:とりわけ当業者に明らかであろう、シナプシン-1(Syn)プロモーター(配列番号3で示される)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)プロモーター(Andersenら、Cell.Mol.Neurobiol.、13:503~15頁(1993))、ニューロフィラメント軽鎖遺伝子プロモーター(Piccioliら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、88:5611~5頁(1991))、及びニューロン特異的vgf遺伝子プロモーター(Piccioliら、Neuron、15:373~84頁(1995))が挙げられる。特定の実施形態において、ニューロン選択的プロモーターは、Synプロモーターである。他のニューロン選択的プロモーターとして、限定されないが:シナプシン-2プロモーター、チロシンヒドロキシラーゼプロモーター、ドーパミンβ-ヒドロキシラーゼプロモーター、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼプロモーター、低親和性NGF受容体プロモーター、及びコリンアセチルトランスフェラーゼプロモーターが挙げられる(Bejaninら、1992年;Carroll et alら、1995年;Chin及びGreengard、1994年;Foss-Petterら、1990年;Harringtonら、1987年;Mercerら、1991年;Pateiら、1986年)。運動ニューロンについて選択的な代表的なプロモーターとして、限定されないが、知られている運動ニューロン由来因子であるカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)のプロモーターが挙げられる。運動ニューロンにおいて機能的な他のプロモーターとして、コリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)、ニューロン特異的エノラーゼ(NSE)、シナプシン、及びHb9のプロモーターが挙げられる。本発明に有用な他のニューロン選択的プロモーターとして、限定されないが:GFAP(星状細胞用)、カルビンジン2(介在ニューロン用)、Mnx1(運動ニューロン)、ネスチン(ニューロン)、パルブアルブミン、ソマトスタチン、及びPlp1(乏突起神経膠細胞及びシュワン細胞)が挙げられる。
【0052】
本発明の実施に有用なCRMとして、Rinconら、Mol Ther.2015年1月;23(1):43~52頁、Chuahら、Mol Ther.2014年9月;22(9):1605~13頁、又はNairら、Blood.2014年5月15日;123(20):3195~9頁に記載されるものが挙げられる。
【0053】
更なる実施形態において、本発明の核酸配列は、2つを超える組織選択的転写調節要素、例えば、3つの、4つの、又は4つを超える組織選択的転写調節要素を含む。本発明の核酸の設計は、例えば、障害が、複数の組織において処置が治療導入遺伝子の発現から利益を得ることとなる多体系疾患であれば、処置されることが求められる特定の障害によって決まることとなる。例えば、本発明の核酸配列は、免疫寛容原性組織中への、例えば肝臓内での導入遺伝子の発現を駆動又は増強することができる第1の組織選択的転写調節要素(プロモーター等)、第2の組織選択的転写調節要素(プロモーター等)、及び第3の組織選択的転写調節要素(プロモーター等)を含んでもよく、第1、第2、及び第3の組織選択的転写調節要素は、異なる組織内で導入遺伝子の発現を駆動することができる。例えば、第1の組織選択的転写調節要素は、肝臓選択的プロモーターであってもよく、第2の組織選択的転写調節要素は、筋肉選択的プロモーターであってもよく、そして第3の組織選択的転写調節要素は、ニューロン選択的プロモーターであってもよい。これ以外にも、第2の組織選択的転写調節要素及び第3の組織選択的転写調節要素は双方とも、注目する組織内で治療導入遺伝子の発現を更に増大させるために、第1の転写調節要素の組織選択性と異なる、同じ組織選択性を有してもよい。
【0054】
第1の、第2の、そして更なる組織選択的転写調節要素(例えば、第1の、第2の、そして更なる組織選択的プロモーター)の順は、互いに異なってもよい。特定の実施形態において、第1の組織選択的転写調節要素は、第2の組織選択的転写調節要素の5'又は3'に、特に、第2の組織選択的転写調節要素の5'に位置決めされる。第1の転写調節要素が肝臓選択的プロモーターである特定の実施形態において、前記第1の転写調節要素は、本発明の核酸分子内に導入される他のあらゆる転写調節要素に関して、5'に位置決めされる。例えば、本発明の核酸分子は、5'から3'の順に:
(i)- 肝臓選択的プロモーター;及び
- 肝臓とは異なる組織選択性を有する他のあらゆる転写調節要素;又は
(ii)- 肝臓選択的プロモーター;及び
- 筋肉選択的転写調節要素、例えば筋肉選択的プロモーター;又は
(iii)- 肝臓選択的プロモーター;及び
- ニューロン選択的転写調節要素、例えばニューロン選択的プロモーター;又は
(iv)- 肝臓選択的プロモーター;
- 筋肉選択的転写調節要素、例えば筋肉選択的プロモーター;及び
- ニューロン選択的転写調節要素、例えばニューロン選択的プロモーター;又は
(v)- 肝臓選択的プロモーター;
- ニューロン選択的転写調節要素、例えばニューロン選択的プロモーター;及び
- 筋肉選択的転写調節要素、例えば筋肉選択的プロモーター
を含んでもよい。
【0055】
本発明の文脈において、本発明の核酸分子中に導入される転写調節要素は、直接融合されても、リンカーを介して連結されてもよい。例えば、2つの異なるプロモーターを有する設計の場合には、直接的な融合は、第2のプロモーターの最初のヌクレオチドが、第1のプロモーターの最後のヌクレオチドに直ちに続くことを意味する。リンカーを介した連結の場合、第1のプロモーターの最後のヌクレオチドと、第2のプロモーターの最初のヌクレオチドとの間に、ヌクレオチド配列が存在する。例えば、リンカーの長さは、1~50ヌクレオチド、例えば1~40ヌクレオチド、例えば1~30ヌクレオチド、例えば1~20ヌクレオチド、例えば1~10ヌクレオチドで構成されてもよい。
【0056】
特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- 肝臓選択的転写調節要素;並びに
- 筋肉選択的転写調節要素及び/又はニューロン選択的転写調節要素、特に筋肉選択的転写調節要素又はニューロン選択的転写調節要素
を含む。
【0057】
更なる特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- ApoEエンハンサー;及び
- spC5.12プロモーター
を含む。
【0058】
この実施形態の変形形態において、本発明の核酸配列は、配列番号4及び配列番号1の組合せ、例えば配列番号5で示される配列を含む。
【0059】
別の特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- 免疫寛容原性組織中への導入遺伝子の発現を駆動/増強することができる転写調節要素、特にプロモーター;並びに
- 筋肉選択的転写調節要素及び/又はニューロン選択的転写調節要素、特にプロモーター、更に筋肉選択的プロモーター又はニューロン選択的プロモーター
を含む。
【0060】
更なる特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- 肝臓選択的プロモーター;並びに
- 筋肉選択的プロモーター及び/又はニューロン選択的プロモーター、特に筋肉選択的プロモーター又はニューロン選択的プロモーター
を含む。
【0061】
更なる特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- hAATプロモーター;及び
- spC5.12プロモーター
を含む。
【0062】
この実施形態の特定の変形形態において、本発明の核酸配列は、配列番号2及び配列番号1の組合せを含む
【0063】
別の更なる特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- ApoEエンハンサー/hAATプロモーター;及び
- spC5.12プロモーター
を含む。
【0064】
この実施形態の特定の変形形態において、本発明の核酸配列は、配列番号4、配列番号2、及び配列番号1の組合せ、例えば配列番号6で示される配列を含む。
【0065】
別の更なる特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- hAATプロモーター;及び
- Synプロモーター
を含む。
【0066】
この実施形態の特定の変形形態において、本発明の核酸配列は、配列番号2及び配列番号3の組合せを含む。
【0067】
更なる特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- ApoEエンハンサー;及び
- Synプロモーター
を含む。
【0068】
この実施形態の変形形態において、本発明の核酸配列は、配列番号4及び配列番号3の組合せを含む。
【0069】
別の更なる特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- ApoEエンハンサー/hAATプロモーター;及び
- Synプロモーター
を含む。
【0070】
この実施形態の特定の変形形態において、本発明の核酸配列は、配列番号4、配列番号2、及び配列番号3の組合せ、例えば配列番号7で示される配列を含む。
【0071】
別の特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- hAATプロモーター;
- spC5.12プロモーター;及び
- Synプロモーター
を含む。
【0072】
この実施形態の特定の変形形態において、本発明の核酸配列は、配列番号2、配列番号1、及び配列番号3の組合せを含む。
【0073】
別の特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- hAATプロモーター;
- Synプロモーター;及び
- spC5.12プロモーター
を含む。
【0074】
この実施形態の特定の変形形態において、本発明の核酸配列は、配列番号2、配列番号3、及び配列番号1の組合せを含む。
【0075】
別の特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- ApoEエンハンサー/hAATプロモーター;
- spC5.12プロモーター;及び
- Synプロモーター
を含む。
【0076】
この実施形態の特定の変形形態において、本発明の核酸配列は、配列番号4、配列番号2、配列番号1、及び配列番号3の組合せを含む。
【0077】
更なる特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- ApoEエンハンサー/hAATプロモーター;
- Synプロモーター;及び
- spC5.12プロモーター
を含む。
【0078】
この実施形態の特定の変形形態において、本発明の核酸配列は、配列番号4、配列番号2、配列番号3、及び配列番号1の組合せを含む。
【0079】
別の特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- spC5.12プロモーター;及び
- Synプロモーター
を含む。
【0080】
更なる特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- MHCK7プロモーター;及び
- Synプロモーター
を含む。
【0081】
更に別の特定の実施形態において、本発明の核酸配列は、特に5'から3'の順に:
- CKプロモーター;及び
- Synプロモーター
を含む。
【0082】
発現カセット
本発明の核酸配列は、注目する組織中への注目する導入遺伝子の発現を実現するように設計された発現カセット中に導入されてもよい。
【0083】
ゆえに、本発明の発現カセットは、上述の核酸配列、及び注目する導入遺伝子を含む。
【0084】
発現カセットは、注目しないある種の組織内での発現を低減し、若しくは抑制することによって、又は注目する導入遺伝子によってコードされる注目するタンパク質、例えば治療タンパク質をコードするmRNAを安定化させることによって、注目する治療導入遺伝子の発現を更に制御することができる少なくとも1つの更なる調節配列を含んでもよい。当該配列は、例えば、サイレンサ(組織特異的サイレンサ等)、マイクロRNA標的配列、イントロン、及びポリアデニル化シグナルを含む。
【0085】
別の特定の実施形態において、治療導入遺伝子は、イントロン、特に、本発明のハイブリッドプロモーターと治療導入遺伝子との間に配置されるイントロンによって先行されてもよい。イントロンは、mRNA安定性、及び注目するタンパク質、例えば注目する治療タンパク質の生成を増大させるように導入されてもよい。更なる実施形態において、イントロンは、ヒトベータグロビンb2(又はHBB2)イントロン、凝固因子IX(FIX)イントロン、SV40イントロン、又はニワトリベータ-グロビンイントロンである。別の更なる実施形態において、イントロンは、前記イントロン内に見出されるオルターナティブ・オープン・リーディング・フレーム(ARF)の数を減少させ、又は全体として除去すらするように設計された修飾イントロン(特に、修飾HBB2又はFIXイントロン)である。発明者らは以前に、国際公開第2015/162302号において、そのような修飾イントロン、特に修飾HBB2又はFIXイントロンが、有利な特性を有し、そして導入遺伝子の発現を有意に向上させることができることを示した。
【0086】
特定の実施形態において、本発明の発現カセットは、5'から3'の順に:
- 本発明の核酸配列;
- 注目する導入遺伝子;及び
- ポリアデニル化シグナル
を含む。
【0087】
更なる特定の実施形態において、本発明の発現カセットは、5'から3'の順に:
- 本発明の核酸配列;
- イントロン、例えばHBB2又はSV40イントロン;
- 注目する導入遺伝子;及び
- ポリアデニル化シグナル
を含む。
【0088】
ベクター、細胞、及び医薬組成物
本発明の発現カセットは、ベクター中に導入されてもよい。ゆえに、本発明はまた、上述の発現カセットを含むベクターに関する。本発明に用いられるベクターは、RNA/タンパク質発現に適した、特に遺伝子治療に適したベクターである。
【0089】
一実施形態において、ベクターはプラスミドベクターである。
【0090】
別の実施形態において、ベクターは、本発明の発現カセットを含有する、非ウイルスベクター、例えば、ナノ粒子、脂質ナノ粒子(LNP)、又はリポソームである。
【0091】
別の実施形態において、ベクターは、標的細胞のゲノムにおける本発明の発現カセットの組込みを可能にする、トランスポゾンに基づく系、例えばハイパーアクティブSleeping Beauty(SB100X)トランスポゾン系(Matesら、2009年)である。
【0092】
別の実施形態において、ベクターは、注目するあらゆる細胞又は組織、例えば、上述の免疫寛容原性組織(例えば肝臓組織又は細胞)、及び治療的に注目する組織、例えば筋肉又はCNS細胞(ニューロン、又は他の脊髄細胞若しくは脳細胞等)を標的化する、遺伝子治療に適したウイルスベクターである。この場合、更なる配列が、当該技術において周知であるように、効率的なウイルスベクターを作製するのに適した、本発明の発現カセットに加えられる。特定の実施形態において、ウイルスベクターは、組込みウイルスに由来する。特に、ウイルスベクターは、アデノウイルス、レトロウイルス、又はレンチウイルス(組込み欠損レンチウイルス等)に由来してもよい。特定の実施形態において、レンチウイルスは、注目する細胞/組織、例えば肝臓及び/又は筋細胞の標的化を可能にする、エンベロープを有するシュードタイプ化されたレンチウイルスである(欧州特許出願公開第17306448.6号及び欧州特許出願公開第17306447.8号に記載されている)。ウイルスベクターがレトロウイルス又はレンチウイルスに由来する場合、更なる配列は、発現カセットの側面に位置するレトロウイルスLTR配列又はレンチウイルスLTR配列である。別の特定の実施形態において、ウイルスベクターは、AAVベクター、例えば、免疫寛容原性組織、例えば肝臓、及び治療的に注目する別の組織に形質導入するのに適したAAVベクターである。この具体例において、更なる配列は、発現カセットの側面に位置するAAV ITR配列である。
【0093】
好ましい実施形態において、ベクターはAAVベクターである。ヒトパルボウイルスアデノ随伴ウイルス(AAV)は、本来、複製に欠陥のあるディペンドウイルスであり、これは、潜伏感染を確立するように感染細胞のゲノム中に組み込まれ得る。最後の特性は、哺乳動物ウイルスの中で独特であるようである。なぜなら、組込みが、第19染色体上に位置決めされた(19q13.3-qter)、AAVS1と呼ばれる、ヒトゲノム内の特定の部位にて起こるからである。したがって、AAVベクターは、ヒト遺伝子治療のための潜在的ベクターとして、かなり注目されてきた。当該ウイルスの有利な特性は、あらゆるヒト疾患との関連の欠如、分裂細胞及び非分裂細胞の双方、並びに感染され得る様々な組織に由来する多様な細胞株に感染する能力である。
【0094】
ヒト又は非ヒト霊長類(NHP)から単離され、且つ十分に特徴付けられているAAVの血清型のうち、ヒト血清型2が、遺伝子移入ベクターとして開発された最初のAAVである。他の現在使用されているAAV血清型として、AAV-1、AAV-2変異体(Y44+500+730F+T491V変化を有する操作されたカプシドを含む4重突然変異カプシド最適化AAV-2等、Lingら、2016年7月18日、Hum Gene Ther Methodsに開示)、-3及びAAV-3変異体(2つのアミノ酸変化、S663V+T492Vを有する操作されたAAV3カプシドを含むAAV3-ST変異体等、Vercauterenら、2016年、Mol.Ther.第24巻(6)、1042頁に開示)、-3B及びAAV-3B変異体、-4、-5、-6、及びAAV-6変異体(3重突然変異AAV6カプシドY731F/Y705F/T492V形態を含むAAV6変異体等、Rosarioら、2016年、Mol Ther Methods Clin Dev.3、16026頁に開示)、-7、-8、-9、-2G9、-10、例えばcy10、及び-rh10、-rh74、-dj、Anc80、LK03、AAV2i8、ブタAAV血清型、例えばAAVpo4及びAAVpo6、並びにAAV血清型のチロシン、リシン、及びセリンカプシド突然変異体その他が挙げられる。また、他の非天然の操作された変異体及びキメラAAVも有用であり得る。
【0095】
AAVウイルスは、従来の分子生物学的技術を用いて操作することができ、したがって、当該粒子を、核酸配列の細胞特異的送達のために、免疫原性を最小限にするために、安定性及び粒子寿命を調整するために、効率的な分解のために、核への正確な送達のために最適化することが可能である。
【0096】
ベクター中へのアセンブリに所望されるAAVフラグメントは、キャップタンパク質(vp1、vp2、vp3、及び超可変領域が挙げられる)、repタンパク質(rep 78、rep 68、rep 52、及びrep 40が挙げられる)、及びこれらのタンパク質をコードする配列を含む。これらのフラグメントは、種々のベクター系及び宿主細胞に容易に利用され得る。
【0097】
Repタンパク質を欠くAAVベースの組換えベクターは、低い効力で宿主のゲノム中に組み込まれて、標的細胞内で何年も存続することができる安定した環状エピソームとして主に存在する。
【0098】
AAV天然血清型を用いることの代わりに、人工AAV血清型が、本発明の文脈において用いられてもよく、限定されないが、天然に存在しないカプシドタンパク質を伴うAAVが挙げられる。そのような人工カプシドは、選択されたAAV配列(例えば、vp1カプシドタンパク質のフラグメント)を、同じAAV血清型の非連続した部分である、異なる選択されたAAV血清型から、非AAVウイルス源から、又は非ウイルス源から得られてもよい異種配列と組み合わせて用いる、適切なあらゆる技術によって生成されてもよい。人工AAV血清型は、限定されないが、キメラAAVカプシド、組換えAAVカプシド、又は「ヒト化」AAVカプシドであってよい。
【0099】
本発明の文脈において、AAVベクターは、注目する標的細胞、すなわち免疫寛容原性組織の細胞(例えば肝細胞)、及び治療的に注目する組織の細胞、例えば、筋細胞、CNS細胞、又は心細胞に形質導入することができるAAVカプシドを備える。
【0100】
特定の実施形態に従えば、AAVベクターは、AAV-1、-2、AAV-2変異体(Y44+500+730F+T491V変化を有する操作されたカプシドを含む4重突然変異カプシド最適化AAV-2等、Lingら、2016年7月18日、Hum Gene Ther Methods[印刷前電子出版]に開示)、-3及びAAV-3変異体(2つのアミノ酸変化、S663V+T492Vを有する操作されたAAV3カプシドを含むAAV3-ST変異体等、Vercauterenら、2016年、Mol.Ther.第24巻(6)、1042頁に開示)、-3B及びAAV-3B変異体、-4、-5、-6、及びAAV-6変異体(3重突然変異AAV6カプシドY731F/Y705F/T492V形態を含むAAV6変異体等、Rosarioら、2016年、Mol Ther Methods Clin Dev.3、16026頁に開示)、-7、-8、-9、-2G9、-10、例えば-cy10、及び-rh10、-rh39、-rh43、-rh74、-dj、Anc80、LK03、AAV.PHP、AAV2i8、ブタAAV、例えばAAVpo4及びAAVpo6、並びにAAV血清型のチロシン、リシン、及びセリンカプシド突然変異体のものである。特定の実施形態において、AAVベクターは、AAV8、AAV9、AAVrh74、又はAAV2i8血清型のものである(すなわち、AAVベクターは、AAV8、AAV9、AAVrh74、又はAAV2i8血清型のカプシドを有する)。更なる特定の実施形態において、AAVベクターは、シュードタイプ化されたベクターである、すなわち、そのゲノム及びカプシドは、異なる血清型のAAVに由来する。例えば、シュードタイプ化されたAAVベクターは、ゲノムが上述のAAV血清型の1つに由来し、且つカプシドが別の血清型に由来するベクターであってもよい。例えば、シュードタイプ化されたベクターのゲノムは、AAV8、AAV9、AAVrh74、又はAAV2i8血清型に由来するカプシドを有してもよく、そしてそのゲノムは、異なる血清型に由来してもよい。特定の実施形態において、AAVベクターは、AAV8、AAV9、又はAAVrh74血清型の、特にAAV8又はAAV9血清型の、より詳細にはAAV8血清型のカプシドを有する。
【0101】
治療導入遺伝子を筋細胞に送達するのにベクターが用いられる特定の実施形態において、AAVベクターは、とりわけ、AAV8、AAV9、及びAAVrh74からなる群において選択されてもよい。
【0102】
導入遺伝子を肝細胞に送達するのにベクターが用いられる別の特定の実施形態において、AAVベクターは、とりわけ、AAV1、AAV5、AAV8、AAV9、AAVrh10、AAVrh39、AAVrh43、AAVrh74、AAV-LK03、AAV2G9、AAV.PHP、AAV-Anc80、及びAAV3Bからなる群において選択されてもよい。
【0103】
導入遺伝子をCNSに送達するのにベクターが用いられる更なる特定の実施形態において、AAVベクターは、とりわけ、AAV9、AAV10、及びAAV2G9からなる群において選択されてもよい。
【0104】
別の実施形態において、カプシドは修飾カプシドである。本発明の文脈において、「修飾カプシド」は、キメラカプシド、又は1つ若しくは複数の野生型AAV VPカプシドタンパク質に由来する1つ若しくは複数の異型VPカプシドタンパク質を含むカプシドであってもよい。特定の実施形態において、AAVベクターは、キメラベクターである、すなわちそのカプシドは、少なくとも2つの異なるAAV血清型に由来するVPカプシドタンパク質を含む、又は少なくとも2つのAAV血清型に由来するVPタンパク質領域若しくはドメインを組み合わせた少なくとも1つのキメラVPタンパク質を含む。肝細胞に形質導入するのに有用なそのようなキメラAAVベクターの例が、Shenら、Molecular Therapy、2007年及びTenneyら、Virology、2014年に記載されている。例えば、キメラAAVベクターは、AAV8カプシド配列の、AAV8血清型と異なる一連のAAV血清型、例えば具体的に上述されるもののいずれかとの組合せに由来することができる。別の実施形態において、AAVベクターのカプシドは、1つ又は複数の異型VPカプシドタンパク質、例えば国際公開第2015013313号に記載されるもの、特に、RHM4-1、RHM15-1、RHM15-2、RHM15-3/RHM15-5、RHM15-4、及びRHM15-6カプシド変異体を含み、これらは高い肝臓指向性を示す。
【0105】
別の実施形態において、修飾カプシドは、エラー・プローンPCR及び/又はペプチド挿入(例えば、Bartelら、2011年に記載されている)によって挿入されるカプシド修飾に由来してもよい。また、カプシド変異体は、単一のアミノ酸変化を含んでもよく、例えばチロシン突然変異体である(例えば、Zhongら、2008年に記載されている)。
【0106】
また、AAVベクターのゲノムは、一本鎖ゲノムであっても自己相補的二本鎖ゲノムであってもよい(McCartyら、Gene Therapy、2003)。自己相補的二本鎖AAVベクターは、AAV末端反復の1つから末端分離部位(terminal resolution site)を欠失させることによって生成される。複製ゲノムが野生型AAVゲノムの半分の長さである修飾ベクターは、DNAダイマーをパッケージ化する傾向がある。好ましい実施形態において、本発明の実施において実行されるAAVベクターは、一本鎖ゲノムを有し、そして更に好ましくは、AAV8、AAV9、AAVrh74、又はAAV2i8カプシド、特に、AAV8、AAV9、又はAAVrh74カプシド、例えばAAV8又はAAV9カプシド、より詳細にはAAV8カプシドを含む。当該技術において知られているように、更なる適切な配列が、機能的ウイルスベクターを得るために本発明の核酸構築体内に導入されてもよい。適切な配列として、AAV ITRが挙げられる。
【0107】
勿論、本発明の核酸配列及び本発明の発現カセットを設計する際に、当業者であれば、前記構築体を細胞又は臓器に送達するのに用いられるベクターのサイズ限界を考慮に入れることに注意するであろう。特に、ベクターがAAVベクターである場合、当業者であれば、AAVベクターの主な制限が、AAV血清型によって異なり得るが、親のウイルスゲノムのサイズの前後に限られると考えられるカーゴキャパシティであることを知っている。例えば、5kbが、通常、AAV8カプシド中にパッケージ化されると考えられる最大サイズである(Wu Z.ら、Mol Ther.、2010、18(1):80~86頁;Lai Y.ら、Mol Ther.、2010、18(1):75~79頁;Wang Y.ら、Hum Gene Ther Methods、2012、23(4):225~33頁)。したがって、当業者であれば、本発明を実施して、本発明の核酸構築体の構成要素を選択する際に、AAV 5'-及び3'-ITRをコードする配列を含む、結果として生じる核酸配列が、好ましくは、実行されるAAVベクターのカーゴキャパシティの110%を超えない、特に、5.5kbを好ましくは超えないように注意するであろう。
【0108】
本発明はまた、単離された細胞、例えば、肝細胞、筋細胞、又はニューロン細胞に関し、これらは、本発明の核酸配列で、又は本発明の発現カセットで形質転換される。本発明の細胞は、これを必要とする対象に、前記対象の注目する組織内に、又は血流内に、注射を介して送達されてもよい。特定の実施形態において、本発明は、本発明の核酸配列又は発現カセットを、処置されることとなる対象の細胞中に、特に、処置されることとなる対象の肝細胞、筋細胞、又はニューロン細胞中に導入することと、対象に、核酸又は発現カセットが導入された前記細胞を投与し戻すこととを含む。
【0109】
また、本発明は、本発明の核酸配列、ベクター、又は細胞を含む医薬組成物を提供する。そのような組成物は、治療的に有効な量の本発明の核酸配列、ベクター、又は細胞、及び薬学的に許容されるキャリアを含む。用語「薬学的に許容される」は、連邦政府又は州政府の規制機関によって承認されている、或いは米国薬局方若しくは欧州薬局方、又は動物及びヒトでの使用について通常認識されている他の薬局方においてリストされていることを意味する。用語「キャリア」は、治療薬と共に投与される希釈剤、アジュバント、賦形剤、又はビヒクルを指す。そのような医薬キャリアは、滅菌液体、例えば水及び油であってよく、石油、動物、植物、又は合成起源のもの、例えばピーナッツ油、大豆油、鉱油、及び胡麻油等が挙げられる。生理食塩水、並びに水性デキストロース及びグリセロール溶液もまた、特に注射可能な溶液用の、液体キャリアとして使用することができる。適切な医薬賦形剤として、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアラート、タルク、塩化ナトリウム、乾燥スキムミルク、グリセロール、プロピレングリコール、水、及びエタノール等が挙げられる。
【0110】
また、組成物は、所望されるならば、微量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有してもよい。当該組成物は、溶液、懸濁液、エマルジョン、タブレット、ピル、カプセル、粉末、及び持続放出製剤等の形態をとってもよい。経口製剤は、標準的なキャリア、例えば医薬グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムその他を含んでもよい。適切な医薬キャリアの例が、E.W.Martinによる「Remington's Pharmaceutical Sciences」に記載されている。そのような組成物は、治療的に有効な量の治療薬を、対象への適切な投与の形態を実現するような適切な量のキャリアと一緒に、好ましくは精製された形態で含有することとなる。特定の実施形態において、本発明の核酸配列、発現カセット、ベクター、又は細胞は、リン酸緩衝生理食塩水を含み、且つ0.25%ヒト血清アルブミンが補充された組成物に製剤化される。別の特定の実施形態において、本発明のベクターは、乳酸リンゲル液及び非イオン性界面活性剤、例えばプルロニックF68を、総組成物の0.01~0.0001重量%の最終濃度にて、例えば0.001重量%の濃度にて含む組成物に製剤化される。製剤は更に、血清アルブミン、特にヒト血清アルブミン、例えばヒト血清アルブミンを0.25%にて含んでもよい。保存又は投与用の他の適切な製剤が、当該技術において、特に国際公開第2005/118792号又はAllayら、2011年から知られている。
【0111】
好ましい実施形態において、組成物は、ルーチンの手順に従って、ヒトへの静脈内投与又は筋肉内投与、好ましくは静脈内投与に適合する医薬組成物として製剤化される。典型的には、静脈内投与用の組成物は、滅菌等張水性バッファ溶液である。必要な場合、組成物は、可溶化剤及び局所麻酔薬、例えばリグノカインを含んで、注射部位の痛みを和らげてもよい。
【0112】
一実施形態において、本発明の核酸配列、発現カセット、又はベクターは、ベシクル、特にリポソームで送達されてもよい。更に別の実施形態において、本発明の核酸配列、発現カセット、又はベクターは、放出制御系で送達されてもよい。
【0113】
ベクターの使用方法
本発明の核酸配列内に含まれる多選択的転写調節要素のおかげで、注目する導入遺伝子は、遍在性プロモーターによって高まる懸念を誘発することなく、複数の組織内で発現され得る。特に、本発明の核酸配列は、より遺伝毒性でない発現カセットを作製するのに用いられ得る。特に、本発明の核酸配列は、オンコジーンの不所望のアップレギュレーションを有利に回避し得る。
【0114】
本発明の核酸配列、発現カセット、又はベクターは、遺伝子治療によって障害を処置するのに用いられ得る。同様に、本発明の細胞は、細胞治療によって障害を処置するのに用いられ得る。
【0115】
したがって、一態様において、本発明は、医薬として用いられる、上述の核酸配列、発現カセット、ベクター、細胞、又は医薬組成物に関する。
【0116】
別の態様において、本発明は、遺伝子治療による障害の処置のための方法における使用のための、上述の核酸配列、発現カセット、ベクター、細胞、又は医薬組成物に関する。
【0117】
更なる態様において、本発明は、遺伝子治療による障害の処置における使用のための医薬の製造のための、上述の核酸配列、発現カセット、ベクター、細胞、又は医薬組成物の使用に関する。
【0118】
別の態様において、本発明は、遺伝子治療による障害の処置のための方法であって、治療的に有効な量の、本明細書中に記載される核酸配列、発現カセット、ベクター、細胞、又は医薬組成物を、これを必要とする対象に投与することを含む方法に関する。
【0119】
障害は、少なくとも2つの異なる組織中に所定の遺伝子の発現が所望されてもよいあらゆる障害、特に抗導入遺伝子免疫応答によって処置が妨げられ得る障害であってもよい。障害は、特に、遺伝性障害又は後天性障害、例えば遺伝性神経筋疾患又は後天性神経筋疾患である。勿論、治療導入遺伝子、及び治療的に注目する組織中への発現を駆動するプロモーターは、処置されることとなる障害を考慮して選択されることとなる。
【0120】
特定の実施形態において、障害は、リソソーム蓄積症[(LSD)、例えば、ムコ多糖症I~VII型(MPSI-VII)、サンドホフ病、及びテイ・サックス病]であり、そして本発明の核酸配列は、肝臓選択的転写調節要素、筋肉選択的転写調節要素、及び/又はニューロン選択的転写調節要素、例えば肝臓選択的転写調節要素及び筋肉選択的転写調節要素、肝臓選択的転写調節要素及びニューロン選択的転写調節要素、並びに肝臓選択的転写調節要素、筋肉選択的転写調節要素、及びニューロン選択的転写調節要素を含む。
【0121】
特定の実施形態において、障害は、代謝性疾患[例えば、メープルシロップ病(MSUD)、メチルマロン酸血症(MMA)、糖原病I型及びIII型(GSDI及びIII)]、ニーマン・ピック病(NPC)、カナバン病、フェニルケトン尿症(PKU)]であり、そして本発明の核酸配列は、肝臓選択的転写調節要素、筋肉選択的転写調節要素、及び/又はニューロン選択的転写調節要素、例えば肝臓選択的転写調節要素及び筋肉選択的転写調節要素、肝臓選択的転写調節要素及びニューロン選択的転写調節要素、並びに肝臓選択的転写調節要素、筋肉選択的転写調節要素、及びニューロン選択的転写調節要素を含む。
【0122】
特定の実施形態において、障害は神経筋障害である。用語「神経筋障害」は、筋肉の機能を直接的に(随意筋の病理である)、又は間接的に(神経又は神経筋接合部の病理である)損なう疾患及び病気を包含する。実例となる神経筋障害として、限定されないが、筋ジストロフィー(例えば、筋強直性ジストロフィー(シュタイナート病)、デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、眼球咽頭筋ジストロフィー、遠位筋ジストロフィー、エメリ・ドレフュシュ筋ジストロフィー、運動ニューロン疾患(例えば、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、脊髄性筋萎縮症(乳児進行性脊髄性筋萎縮症(1型、ウェルドニッヒ・ホフマン病)、中間型脊髄性筋萎縮症(2型)、若年性脊髄性筋萎縮症(3型、クーゲルベルグ・ウェランダー病)、成人脊髄性筋萎縮症(4型))、球脊髄性筋萎縮症(ケネディ病))、炎症性筋疾患(例えば、多発性筋炎、皮膚筋炎、封入体筋炎)、神経筋接合部の疾患(例えば、重症性筋無力症、ランバート・イートン(筋無力症)症候群、先天性筋無力症症候群)、末梢神経の疾患(例えば、シャルコー・マリー・ツース病、フリートライヒ運動失調症、デジュリーヌ・ソッタ病)、筋肉の代謝性疾患(例えば、ホスホリラーゼ欠損症(マッカードル病)、酸性マルターゼ欠損症(ポンぺ病)、ホスホフルクトキナーゼ欠損症(垂井病)、脱分枝酵素欠損症(コリ病又はフォーブズ病)、ミトコンドリア性筋障害、カルニチン欠損症、カルニチンパルミチルトランスフェラーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸キナーゼ欠損症、ホスホグリセリン酸ムターゼ欠損症、乳酸デヒドロゲナーゼ欠損症、ミオアデニル酸デアミナーゼ欠損症)、内分泌異常に起因する筋疾患(例えば、甲状腺機能亢進筋疾患、甲状腺機能低下筋疾患)、及び他の筋疾患(例えば、先天性筋緊張症、先天性筋緊張症、セントラルコア病、ネマリン筋疾患、筋細管筋疾患、周期性四肢麻痺)が挙げられる。この実施形態において、本発明の核酸配列は、肝臓選択的転写調節要素、筋肉選択的転写調節要素、及び/又はニューロン選択的転写調節要素、例えば肝臓選択的転写調節要素及び筋肉選択的転写調節要素、肝臓選択的転写調節要素及びニューロン選択的転写調節要素、並びに肝臓選択的転写調節要素、筋肉選択的転写
調節要素、及びニューロン選択的転写調節要素を含む。
【0123】
特に、障害は糖原病である。文言「糖原病」は、グリコーゲンの合成及び分解を担う酵素に関わる一群の遺伝性代謝性障害を表す。更なる特定の実施形態において、糖原病は、GSDI(フォンギールケ病)、GSDII(ポンペ病)、GSDIII(コリ病)、GSDIV、GSDV、GSDVI、GSDVII、GSDVIII、又は心臓の致死的先天性糖原病であってもよい。より詳細には、糖原病は、GSDI、GSDII、及びGSDIIIからなる群において、更に詳細には、GSDII及びGSDIIIからなる群において選択される。更なる特定の実施形態において、糖原病はGSDIIである。特に、本発明の核酸分子は、遺伝子治療において、GAA欠損症状、又はグリコーゲンの蓄積と関連する他の症状、例えば、GSDI(フォンギールケ病)、GSDII(ポンペ病)、GSDIII(コリ病)、GSDIV、GSDV、GSDVI、GSDVII、GSDVIII、及び心臓の致死的先天性糖原病、より詳細にはGSDI、GSDII、又はGSDIII、更に詳細にはGSDII及びGSDIIIを処置するのに有用であり得る。更なる特定の実施形態において、障害はポンペ病であり、そして治療導入遺伝子は、酸性アルファ-グルコシダーゼ(GAA)又はその変異体をコードする遺伝子である。GAAのそのような変異体は、特に、国際出願PCT/2017/072942号、国際出願PCT/EP2017/072945号、及び国際出願PCT/EP2017/072944号に開示されており、これらの出願は、それらの全体が参照によって本明細書に組み込まれる。この実施形態において、本発明の核酸配列は、肝臓選択的転写調節要素、筋肉選択的転写調節要素、及び/又はニューロン選択的転写調節要素、例えば肝臓選択的転写調節要素及び筋肉選択的転写調節要素、肝臓選択的転写調節要素及びニューロン選択的転写調節要素、筋肉選択的転写調節要素及びニューロン選択的転写調節要素、並びに肝臓選択的転写調節要素、筋肉選択的転写調節要素、及びニューロン選択的転写調節要素を含む。特定の実施形態において、障害は、乳児型ポンペ病(IOPD)又は遅発型ポンペ病(LOPD)である。好ましくは、障害はIOPDである。
【0124】
注目する他の疾患は、限定されないが:血友病A、MPSI、アルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン舞踏病、トゥーレット症候群、精神分裂病、スライ病、ハンター病、痴呆、パラノイア、強迫性障害、学習障害、ALS、シャルコー・マリー・トゥース病、ケネディ病、神経膠芽腫、神経芽細胞腫、自閉症、ゴーシェ病、ハーラー病、クラッベ病、変容行動(例えば、睡眠障害、知覚障害、又は認知障害)が挙げられる。
【0125】
当業者であれば、これらの障害及び他の障害の、遺伝子治療による処置に有用な注目する導入遺伝子を知っている。例えば、治療導入遺伝子は、血友病AについてFVIII、MPSIについてリソソーム酵素α-L-イズロニダーゼ[IDUA(アルファ-Lイズロニダーゼ)]、ポンペ病について酸性-α-グルコシダーゼ(GAA)、コリ病(GSDIII)についてグリコーゲン脱分枝酵素(GDE)、GSDIについてG6P、LGMD2Dについてアルファ-サルコグリカン(SGCA);DMDについてジストロフィン又はその短縮形;及びSMAについてSMN1である。また、注目する導入遺伝子は、所定のタンパク質の発現を抑制するタンパク質又はRNAの欠落を提供するのではなく、他の治療特性を提供する導入遺伝子であってもよい。例えば、注目する導入遺伝子として、限定されないが、筋力を増大させ得、CNSにおけるアポトーシスを低減し得、又は癌細胞を特異的に死滅させ得る導入遺伝子が挙げられ得る。
【0126】
発明者らは、注目する導入遺伝子を含むベクターが、本発明のハイブリッド転写調節要素の制御下で、前記導入遺伝子によってコードされる治療タンパク質(例えばGAA)に対して、前記治療タンパク質によるERTを以前に経験した対象において、既存の抗体を低減する有益な効果を有することを示した。したがって、特定の実施形態において、処置を必要とする対象は、疾患、例えばLSDの処置のためにERTを以前に受けた対象である。更なる特定の実施形態において、対象は、LSD又はGSDについて、ERTによって処置された。更なる特定の実施形態において、対象は、ポンペ病について、GAAによるERT処置を以前に受けている。ERT処置を以前に受けた対象への投与を含むこの実施形態の特定の変形形態において、対象は、本発明に従う発現カセット、ベクター、細胞、又は医薬組成物、特にベクター、例えばウイルスベクター、より詳細にはAAVベクターが更に投与される。特定の変形において、本発明の核酸は、肝臓選択的発現を駆動又は増強することができる第1の調節要素、及び筋肉選択的発現を駆動又は増強することができる第2の調節要素を含み、特に(i)ApoEエンハンサー及びhAATプロモーターの組合せ、並びに(ii)spC5.12プロモーターを含むハイブリッド調節要素である。
【0127】
したがって、本発明は、遺伝子治療による疾患の処置における使用のための治療酵素をコードする注目する遺伝子に作動可能に連結された本発明のハイブリッド調節要素を含む、本明細書中に記載される発現カセット、ベクター、細胞、又は医薬組成物に関し、対象は、同酵素によるERTを以前に経験している。特定の実施形態において、対象は、ERTを以前に経験しており、そして投与された酵素に対する免疫応答を獲得している。
【0128】
更に、本明細書中に記載される発現カセット、ベクター、細胞、又は医薬組成物は、治療酵素をコードする遺伝子に作動可能に連結された本発明のハイブリッド調節要素を含み、同酵素が対象に投与された以前のERTによって誘導された免疫応答を低減し、又は除外することによる疾患の処置のための方法に用いられ得る。
【0129】
別の実施形態において、本発明は、治療酵素をコードする遺伝子に作動可能に連結された本発明のハイブリッド調節要素を含む、疾患の処置のための同酵素によるERTと組み合わせて用いられる、本明細書中に記載される発現カセット、ベクター、細胞、又は医薬組成物に関する。特定の実施形態において、ERTは、本明細書中に記載される発現カセット、ベクター、細胞、又は医薬の組成物の前又は後に、特に前に、対象に施される。
【0130】
更なる特定の実施形態において、本明細書中に記載される発現カセット、ベクター、細胞、又は医薬組成物は、GAAをコードする遺伝子に作動可能に連結された本発明のハイブリッド調節要素を含み、GAAによるERTを以前に受けた対象におけるポンペ病の処置のための方法に用いられる。
【0131】
また、本発明の発現カセットの、ベクターの、細胞の、そして医薬組成物の特定の実施形態は全て、注目する導入遺伝子が、本出願において具体的に開示される治療導入遺伝子のいずれか、好ましくは酸性アルファグルコシダーゼ(GAA)である可能性を含むことが理解されるべきである。本出願中の他の場所で言及されるように、GAAは、ポンペ病の処置、例えば乳児型ポンペ病(IOPD)又は遅発型ポンペ病(LOPD)の処置に用いられ得る。特定の実施形態において、注目する導入遺伝子は、天然のシグナルペプチドを含む野生型GAAタンパク質をコードする。別の特定の実施形態において、注目する導入遺伝子は、切断型GAAポリペプチドをコードしており、親GAAポリペプチドのN末端からの少なくとも1つのアミノ酸の欠失を含み、親ポリペプチドは、シグナルペプチドが欠けているGAAポリペプチドの前駆体形態に相当し、
前記切断型GAAポリペプチドは、1~75個の連続アミノ酸が、そのN末端にて、親GAAポリペプチドと比較して欠失しており、そして
前記切断型GAAポリペプチドは更に、そのN末端に融合するシグナルペプチドを含む。
【0132】
特定の実施形態において、切断型GAAポリペプチドは、1~75個の連続アミノ酸が、そのN末端にて、親GAAポリペプチドと比較して欠失しており、特に、6、7、8、9、10、40、41、42、43、44、45、又は46個の連続アミノ酸が、そのN末端にて、親GAAポリペプチドと比較して欠失しており、より詳細には、8、42、又は43個の連続アミノ酸が、そのN末端にて、親GAAポリペプチドと比較して切断されている。特定の実施形態において、親ポリペプチドは、ヒトGAA(hGAA)、特に、配列番号14で、若しくは配列番号15で、特に配列番号14で示されるアミノ酸配列を有するhGAA、又は配列番号14で、若しくは配列番号15で、特に配列番号14で示されるアミノ酸配列を有するhGAAの機能変異体であるhGAAである。更に別の実施形態において、切断型GAAポリペプチドは、配列番号16で示されるアミノ酸配列を有する。切断型GAAポリペプチドに融合するシグナルペプチドは、配列番号17で示されるGAAの天然シグナルペプチド、又は配列番号18~21からなる群において選択される代わりのシグナルペプチド、特に配列番号18のシグナルペプチドであってもよい。特定の実施形態において、切断型GAAポリペプチドは、配列番号16であり、そして配列番号18のシグナルペプチドに融合する(本出願において「高度に分泌可能なGAAタンパク質」、又は「sp7-Δ8-co」若しくは「sec-hGAA」とも呼ばれるポリペプチド)。GAAのそのような切断型形態は、国際出願PCT/EP2017/072944号に開示されている。
【0133】
本発明のベクターの投与方法は、以下に限定されないが、皮内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、静脈内投与、皮下投与、鼻腔内投与、硬膜外投与、国際公開第2015158924号に記載されるような局所投与、及び経口経路が挙げられる。特定の実施形態において、投与は、静脈内経路又は筋肉内経路を介する。本発明のベクターは、便利なあらゆる経路によって、例えば点滴又はボーラス注射によって、上皮又は皮膚粘膜ライニング(epithelial or mucocutaneous lining)(例えば、口腔粘膜、直腸及び腸管粘膜その他)を通した吸収によって投与されてもよく、そして他の生物学的に活性な剤と一緒に投与されてもよい。投与は、全身投与であっても局所投与であってもよい。
【0134】
特定の実施形態において、本発明の医薬組成物を局所的に、処置を必要とする領域、例えば肝臓又は筋肉に投与することが所望されてもよい。これは、例えば、移植片によって達成されてもよく、前記移植片は、多孔性の、非多孔性の、又はゼラチン状の材料のものであり、シラスティック膜等の膜、又は繊維が挙げられる。
【0135】
処置されることとなる障害の処置に有効であろう本発明のベクターの量は、標準的な臨床技術によって決定され得る。また、インビボアッセイ及び/又はインビトロアッセイが、場合によっては、最適な投薬量範囲を予測するのを補助するために使用されてもよい。また、製剤内で使用されるべき正確な用量は、投与経路、及び疾患の重大性によって決まることとなり、そして実務者の判断及び各患者の状況に従って決定されるべきである。本発明のベクターを必要とする対象に投与される本発明のベクターの投薬量は、限定されないが、投与経路、処置される具体的な疾患、対象の年齢、又は治療効果を得るのに必要とされる発現のレベルが挙げられるいくつかの要因に基づいて変わることとなる。当業者であれば、当該分野での知識に基づいて、これらの要因その他に基づいて必要とされる投薬量範囲を容易に決定することができる。AAVベクターを対象に投与することを含む処置の場合、ベクターの典型的な用量は、キログラム体重あたり少なくとも1×108ベクターゲノム(vg/kg)、例えば少なくとも1×109vg/kg、少なくとも1×1010vg/kg、少なくとも1×1011vg/kg、少なくとも1×1012vg/kg、少なくとも1×1013vg/kg、少なくとも1×1014vg/kg、又は少なくとも1×1015vg/kgである。
【0136】
特定の実施形態において、本発明のベクターは、遺伝子治療に用いられる典型的な用量よりも低い用量にて投与されてもよい。特に、AAVベクターを必要とする対象にAAVベクターを投与することを含む処置において、ベクターは、上述の典型的な用量よりも少なくとも2倍低い用量にて、特に、遺伝子治療に典型的に用いられる典型的なAAV用量よりも少なくとも3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、11倍、12倍、13倍、14倍、15倍、16倍、17倍、18倍、19倍、20倍、21倍、22倍、23倍、24倍、25倍、26倍、27倍、28倍、29倍、30倍、31倍、32倍、33倍、34倍、35倍、36倍、37倍、38倍、39倍、40倍、41倍、42倍、43倍、44倍、45倍、46倍、47倍、48倍、49倍、又は50倍低い用量にて投与されてもよい。特定の実施形態において、このより低い用量低下は、LSD、特にポンペ病の処置に用いられる。更なる特定の実施形態において、当該より低い用量は、本発明に従うハイブリッド調節要素を含むAAVベクターであって、肝臓選択的発現を駆動又は増強することができる第1の調節要素、及び筋肉選択的発現を駆動又は増強することができる第2の調節要素を含み、特に(i)ApoEエンハンサー及びhAATプロモーターの組合せ、及び(ii)spC5.12プロモーターを含むAAVベクターに用いられる。
【実施例】
【0137】
材料及び方法
GAA発現カセット及びAAVベクター
本研究で用いたGAA導入遺伝子発現カセットは、コドン最適化ヒトGAA(hGAA)コード配列を含有した[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。コドン最適化を、市販のアルゴリズム(Thermo Fisher Scientific社)を用いて実行した[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。用いたhGAA導入遺伝子は、2つである:1.天然のhGAAタンパク質(hGAA)をコードするhGAA;又は2.操作された高度に分泌可能なGAAをコードし、プロペプチド内に異種シグナルペプチド、及び8つのアミノ酸の欠失を有するsec-hGAA(sp7-Δ8-hGAAco、本文中でsec-hGAAと略記)[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。導入遺伝子配列を、アポリポタンパク質E(肝細胞制御領域エンハンサー)及びヒトアルファ1-アンチトリプシン(hAAT)プロモーター、SPc5.12プロモーター、又はCMVエンハンサー/ニワトリβ-アクチンプロモーター(GAG)プロモーターの転写制御下のAAVベクター骨格中にクローニングした。本研究に用いたDNA配列は全て、GeneCust社又はThermo Fisher Scientific社のいずれかによって合成された。
【0138】
本研究で用いるAAVベクターを、記載されるHEK293細胞のアデノウイルスフリー一過性形質移入法を用いて作製した[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。AAVベクター株の力価を、定量的リアルタイムPCR(qPCR)及びSDS-PAGEに続くSYPRO Rubyタンパク質ゲル染色及びバンド濃度測定を用いて決定した。本研究で用いた全てのベクター調製物は、使用前に逐次定量化した。AAVゲノムのqPCRに用いたプライマーは、BGHポリA(Fw:tctagttgccagccatctgttgt(配列番号8);Rev:tgggagtggcaccttcca(配列番号9)、及びコドン最適化hGAA(Fw:agatacgccggacattggactg(配列番号10);Rev:gcacgcccagcagattgaac(配列番号11)にアニールした。用いたAAV血清型は、マウスへの全身投与の直ぐ後に類似の形質導入プロファイルを示すAAV8及びAAV9である(Zincarelliら、Mol Ther.2008年6月;16(6):1073~80頁)。
【0139】
インビトロ実験
ヒト肝癌細胞(HuH7)、マウス筋芽細胞C2細胞(C2)、及びマウスNSC34細胞に、6ウェルプレート内に播種して(5×105細胞/ウェル)、Lipofectamine 3000(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、メーカーの指示に従って形質移入を行った。形質移入の72時間後に、細胞及び馴化培地を収穫して、GAA活性についてウエスタンブロット分析で分析した。ヒト骨格筋筋芽細胞(CSC-C3196、Creative Bioarray社)を、コラーゲンコーティングした12ウェルプレート上に播種して、OPTIMEM培地(Thermo Fisher Scientific社)中で2時間、2×105vg/細胞の感染多重度(MOI)にて、AAV9-hGAAベクター又はAAV9-EGFPベクターに感染させた。感染の後、細胞を、10%胎仔ウシ血清及びヒト線維芽細胞増殖因子-2(FGF-2、Miltenyi Biotec社)を補充したCreative Biorray SuperCult(登録商標)Skeletal Muscle Cell Growth Medium Kit(Creative Biorray社)内で維持した。感染を48時間毎に2回繰り返した;細胞を、第2の感染の48時間後に収穫した。
【0140】
マウス研究
野生型C57BL/6マウスを、Charles River社(Charles River、仏国)から購入した。Gaa-/-マウスを、エキソン6の標的破壊によって作出した(Raben N.ら、J Biol Chem.1998年7月24日;273(30):19086~92頁)。C57BL/6J/129X1/SvJバックグラウンド(
図5、6、8、9、10、11、12、13、16、17、18)又はDBA/2J C57バックグラウンド(
図7、8、14、15)のGaa-/-マウスを用いた。雄同腹仔の罹患Gaa-/-マウス及び非罹患Gaa+/+マウスを用いた。AAVベクターを:1.0.2mlの容量で尾部静脈を介して、成体マウス;2.0.03ml.の容量で側頭静脈を介して、生後1~2日目の新生仔マウスに送達した。実験群は、統計分析を可能にする大きさに設定した;全ての動物を分析に含めて、いずれの外れ値も除外しなかった。マウスを実験群にランダムに割り当てて、ベクター送達及び機能分析を実行するオペレータを、群識別に対して盲目にした。免疫化-根絶研究(immunization-eradication study)のために、14頭のマウスを、合計3投与について2週毎に20mg/kgの用量でのrhGAAの静脈内注射によって処置した。以前に記載されるように、25mg/kgの抗ヒスタミン剤(塩酸ジフェンヒドラミン)の腹腔内投与の15分後に、各rhGAA点滴を実行した。最後のrhGAA投与の2週後に、抗hGAA IgGを測定した。免疫化Gaa-/-マウス(n=8)を、3つのAAV9-処置群(2×10
12vg/kg;AAV-Ctrl n=2、AAV-hAAT n=3、AAV-LiMP n=3)に割り当てた。
【0141】
GAA活性
GAA活性を、マウス血漿(1/1000~1/2000希釈)及び組織において測定した。急速凍結した組織を、di UltraPure(商標)DNase/RNase-Free Distilled Water(Thermo Fisher Scientific社)中でホモジナイズした。50~100mgの組織を秤量してホモジナイズしてから、10000×gにて20分間遠心分離して、上清を収集した。10μlのサンプル(血漿又は組織ホモジェネート)及び20μlの基質4MUα-D-グルコシドを96ウェルプレート内で用いて、酵素反応をセットアップした。反応混合液を37℃にて1時間インキュベートしてから、150μlの炭酸ナトリウムバッファpH10.5を加えて止めた。標準曲線(0~2500pmol/4MUμl)を用いて、個々の反応混合液から放出された蛍光4MUを、EnSpireアルファプレートリーダー(Perkin-Elmer社)を用いて449nm(放出)及び360nm(励起)にて測定した。清澄にした上清のタンパク質濃度を、BCA(Thermo Fisher Scientific社)によって定量化した。GAA活性を算出するために、放出された4MU濃度を、サンプルタンパク質濃度で割って、活性をnmol/時/タンパク質mgとして報告した。
【0142】
ベクターゲノムコピー数分析
DNAを組織ホモジェネートから、Nucleospin 8(Macherey-Nagel社、仏国)を用いて抽出して、定量化した。ベクターゲノムコピー数を、100ngのDNA、コドン最適化hGAA上にアニールするプライマー及びプローブ(Fw:agatacgccggacattggactg(配列番号10);Rev:gcacgcccagcagattgaac(配列番号11);プローブgtgtggtcctcttgggagc(配列番号12))を用いてqPCRによって決定した。以前に記載されるように[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]、Sybergreen系又はTaqman系のいずれかを用いた。VGCNを、qPCRに用いたDNAのマイクログラムによって標準化した。二倍体ゲノムあたりのVGCNを定量化するために、DNAを、Gentra Puregene Tissueキット(Qiagen社)を用いて組織ホモジェネートから抽出して、定量化した。
【0143】
RNA抽出及び発現分析
急速凍結した組織を秤量して、50~100mgを、Trizol試薬(Thermo Fisher Scientific社)中でホモジナイズした。PureLink DNaseセットによるPureLink RNAミニキット(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、総RNAを組織ホモジェネートから抽出した。RNAを定量化して、2~5μgを、dsDNaseによるRT-qPCR用のMaxima First Strand cDNA Synthesis Kit(Thermo Scientific社)を用いてcDNAにレトロ転写した;RT-マイナス反応を、陰性対照として実行した。hGAA RNA発現について、Sybergreen、及びコドン最適化hGAAにアニールするプライマー(Fw:agatacgccggacattggactg(配列番号10);Rev:gcacgcccagcagattgaac(配列番号11)を用いて、cDNAのqPCR分析を実行した;マウスActin遺伝子にアニールするプライマーを用いて、hGAA発現を標準化した(mActin Fw:ggctgtattcccctccatcg(配列番号22);mActin Rev:ccagttggtaacaatgccatgt(配列番号23));マウスActin及びbeta-2 microglobulin(B2m;B2mフォワード:5'-ggtctttctggtgcttgtctca-3';B2mリバース:5'-gttcggcttcccattctcc-3')を用いて、
図17に示すデータについて、hGAA発現を標準化した。Rtl1発現分析について、Chandler及び共著者ら(Chandlerら、JCI、2015年2月;125(2):870~80頁)によって以前に報告されたTaqMan法、市販のプローブ及びプライマー、並びにMaxima ROX qPCR Master Mix(Thermo Scientific社)を用いて、cDNAのqPCRを実行した。TaqMan遺伝子発現アッセイ(#4331182、Thermo Scientific社)は、以下の通りであった:Rtl1(Mm02392620_s1;Gapdh(Mm、99999915_g1)。
【0144】
ウエスタンブロット分析
1%のTriton-X100及びプロテアーゼインヒビタ(Roche Diagnosis社)を含有する10mM PBS(pH7.4)を用いて、HuH7、C2、及びNSC34の細胞溶解液を調製した。マウス血漿のウエスタンブロットを、サンプル(蒸留水中に1:4に希釈した)に実行した。マウス組織を、GAA活性について示すように調製した。BCA Protein Assay(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、タンパク質濃度を決定した。SDS-PAGE電気泳動を、4~15%勾配のポリアクリルアミドゲルで実行した。SDS-PAGE電気泳動を、4~15%勾配のポリアクリルアミドゲルで実行した。転写後、膜を、Odysseyバッファ(Li-Cor Biosciences社)でブロックして、抗GAA抗体(マウスモノクローナル、SantaCruz Biotechnology社、又はウサギモノクローナル、Abcam社)、抗eGFP(マウスモノクローナル、Santa Cruz社)又は抗チューブリン(マウスモノクローナル、Sigma Aldrich社);抗p62(マウスモノクローナル、Abcam社);抗Parkin(ウサギポリクローナル、Abcam社);Gapdh(ウサギポリクローナル、Thermo Fisher Scientific社)とインキュベートした。膜を洗浄して、適切な第2の抗体(Li-Cor Biosciences社)とインキュベートして、Odyssey画像化システム(Li-Cor Biosciences社)によって視覚化した。
【0145】
抗GAA抗体検出
抗GAA抗体測定を、公開されているプロトコルに従って実行した。手短に言うと、maxisorp 96ウェルプレート(Thermo Fisher Scientific社)を、1μg/mlのrhGAAでコーティングした。市販のマウス(Sigma Aldrich社)組換えIgGの連続1~2希釈(ウェル上に繰り返して直接コーティングした)によって、IgG標準曲線を作成した。抗マウス(Southern biotech社)IgG二次抗体を、第2の抗体として用いた。
【0146】
機能評価
グリップ強度を、既に報告されているように測定した。グリップ強度メーター(Columbus instruments社)を用いて、4つの四肢強度の3つの独立した測定値を算出した。グリップ強度/マウスの平均値を算出した。
【0147】
安静呼吸中の呼吸機能を、既に報告されているように評価した[DeRuisseauら、PNAS、2009年]。手短に言うと、フロースルー(0.5L/分)プレチスモグラフ(EMKA technologies社)を用いて、処置したGaa-/-マウス及び対照における呼吸パターンを測定した。機器を、知られている空気流シグナル及び圧力シグナルで較正してから、データを収集した。シグナルを、IOX2ソフトウェア(EMKA technologies社)を用いて分析した。動物を、試験の前に、プレチスモグラフチャンバ中に順化させた。順化及びデータ獲得の双方の間、マウスは、標準酸素空気(21%O2、79%N2)を呼吸していた。
【0148】
結果
1.AAVプラスミド内の多組織プロモーターのクローニング
発明者らは、文献から、基本的な単組織転写調節要素を選択して、多組織プロモーターを生成する可能性を評価した。
【0149】
肝臓について、発明者らは、肝細胞制限アポリポタンパク質(ApoE)エンハンサー(配列番号4)を、ヒトアルファ-1アンチトリプシン(hAAT)プロモーター(配列番号2)と共に選択した。
筋肉について、発明者らは、合成spC5.12筋肉選択的プロモーター(配列番号1)を選択した。
ニューロンについて、発明者らは、パン-ニューロンヒトシナプシン(hSYN)プロモーター(配列番号3)を選択した。
【0150】
これらの転写調節要素に基づいて、発明者らは、3つの異なる多組織プロモーターを生成した(
図1)。
【0151】
肝臓増強- 筋肉プロモーター(Enh.C5.12と呼ぶ)、配列番号5
このプロモーターは、合成spC.12筋肉選択的プロモーターの上流に、ApoE肝細胞制御領域/エンハンサーをクローニングすることによって生成した。
【0152】
肝臓- 筋肉プロモーター(LiMP)、配列番号6
このプロモーターは、合成spC5.12筋肉選択的プロモーターの上流に、ApoE肝細胞制御領域及びhAATプロモーターをクローニングすることによって生成した。
【0153】
肝臓- ニューロンプロモーター(LiNeuP)、配列番号7
このプロモーターは、hSYNプロモーターの上流に、ApoE肝細胞制御領域及びhAATプロモーターをクローニングすることによって生成した。
【0154】
コドン最適化ヒトGAA導入遺伝子(hGAA)を、全ての発現カセット内にクローニングした(
図1及びTable 1(表1))。hGAAの2つのバージョンを用いた:天然のもの、及び異種シグナルペプチドを有する操作された高度に分泌可能なもの(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと呼ぶ;Table 1(表1))[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。向上させた合成ヒトベータグロビン(HBB2.1)由来イントロンを、プロモーターとGAA導入遺伝子との間に挿入して、導入遺伝子mRNAを安定化させた(Ronzittiら、Molecular therapy Methods & clinical development.2016;3:16049頁)。HBB2イントロンを、LiMP-及びLiNeuP-発現カセット内で、短いSV40イントロン(Trapaniら、EMBO molecular medicine.2014;6(2):194~211頁)と交換して、AAV DNAパッケージング限界にフィットさせた(Table 1(表1))。
【0155】
【0156】
2.細胞株内での多組織プロモーターの評価
最初に、発明者らは、基本的な単組織プロモーターと比較して、細胞株内の多組織プロモーターをインビトロで試験した(
図2~
図3)。GAA導入遺伝子の高度に分泌可能なバージョンを、モデル治療遺伝子として用いた[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。
【0157】
発明者らは、肝細胞株及び筋細胞株の双方においてsec-hGAA発現を駆動するEnh.C5.12及びLiMPハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターの能力を評価した(
図2A)。この目的のために、発明者らは、HuH7ヒト肝細胞株(
図2A)及びC2マウス筋芽細胞株(
図2B)に一過性に形質移入を行った。次に、発明者らは、ウエスタンブロット分析によって、細胞培地中のGAA酵素活性及び細胞溶解液中のタンパク質発現を評価した(
図2)。肝細胞において、完全な肝臓-筋肉プロモーターLiMP(hAAT+C5.12)が、C5.12と比較して、有意に高い活性を示した(Enh.C512はそうではなかった)(
図2A)。Enh.C512(ApoE+C5.12)は実際、C5.12と比較して、酵素活性の、小さく有意でない増大をもたらした(
図2A)。筋細胞において、LiMP及びEnh.C5.12は双方とも、C5.12及びhAATの双方と比較して、有意に高い活性を示した(
図2A)。これらの特徴により、LiMPは、強い肝臓-筋肉導入遺伝子発現の良好な候補とされる。特に、筋細胞にEnh.C5.12及びLiMPを用いて発明者らが見出した転写活性の増大は、筋肉選択的プロモーター(spC5.12)の、肝細胞選択的調節要素(ApoE/hAAT)との組合せに基づくと予想外であった(
図2A)。次に、発明者らは、肝細胞株及びニューロン細胞株の双方においてsec-hGAA発現を駆動する肝臓-ニューロンLiNeuPプロモーター(hAAT+hSYN)の能力を評価した(
図1E~
図1H;
図S2C~
図2D)。この目的のために、発明者らは、HuH7肝細胞及びNSC34マウス神経細胞株(脊髄ニューロン×神経芽細胞腫ハイブリッド細胞株)に一過性に形質移入を行った(
図3)。肝細胞において、発明者らは、LiNeuPが、培地中の有意な酵素活性、及び溶解液中の有意なタンパク質の量を引き出すことを見出した(
図3A)。ニューロン細胞内で、LiNeuPは、培地中の有意な酵素活性を引き出し(
図3B)、そして細胞溶解液中のはっきりしたGAAタンパク質発現を引き出す(
図3B)。ゆえに、LiNeuPは、肝細胞及びニューロン細胞の双方において発現を誘導することができる一方、この新規のハイブリッドプロモーターに含まれる個々のプロモーターはそれぞれ、肝細胞(hAATについて)又はニューロン細胞(hSYNについて)内でしか発現を駆動することができなかった。要約すれば、肝細胞及びニューロン細胞の双方において効力のある導入遺伝子発現を駆動するLiNeuPの能力により、ハイブリッド肝臓-ニューロンプロモーターは、見込みがあるとされる。
【0158】
3.動物モデル内での多組織プロモーターの評価
Enh.C5.12、LiMP、及びLiNeuPプロモーターの組織選択性及び免疫寛容原性特性をインビボで評価するために、発明者らは、AAVベクターを作製して、C57Bl/6マウスモデル内で、そしてポンペ病のマウスモデル内で、遺伝子移入を実行した。
【0159】
I.全身性AAV遺伝子移入後の野生型B6マウス内でのプロモーター活性の評価。
設計通りに異なる組織において発現を駆動する、新たに生成したEnh.C5.12、LiMP、及びLiNeuPプロモーターの能力を評価するために、発明者らは、動物モデルへの静脈内投与の直ぐ後に肝臓、筋肉、及びニューロンに感染することができる血清型9のAAVベクターを生成した。発明者らは、導入遺伝子として、最適化された完全長GAAコドンである天然ヒトGAA(hGAA)を用いた。本研究において、発明者らは、遍在性CAGプロモーターである単組織プロモーター(hAAT、C5.12、及びhSYN)、及び発明者らの多組織プロモーター(Enh.C5.12、LiMP、及びLiNeuP、Table 2(表2))の双方を比較した。本研究は、循環系にhGAAを、そして所望の組織(肝臓、心臓、四頭筋、脊髄、及び脳)内での全プロモーターの活性を提供するこれらのプロモーターの能力についてのデータを提供する。
【0160】
天然GAAをコードするAAV9ベクターの静脈内注射の1ヶ月後、循環GAAタンパク質は、C5.12及びhSYNプロモーターを用いると、非常に低いかほとんど検出可能でなかった一方、多組織プロモーター、Enh.C5.12、LiMP、及びLiNeuPプロモーターを用いると、はっきり検出された(
図4A)。LiMP及びLiNeuPは、治療的交差補正(therapeutic cross-correction)用に循環系にhGAAタンパク質を提供するために、作製されたものの中で最良の実行ハイブリッドプロモーターとなった(
図4A)。
【0161】
処置したマウス由来のマウス組織を、RNA発現分析のために、処置の6週後に収集した(
図4B)。hGAA RNAの発現を、肝臓、心筋(心臓)、骨格筋(四頭筋)、及びCNS(脊髄及び脳)において評価した。hGAA発現を、参照マウス遺伝子(Actin)の発現によって標準化した。
図4Bは、分析した全ての組織内でのhGAA mRNAの相対的な発現を示す。インビトロで観察されたように(
図2A~
図2B)、hAATプロモーターは、肝臓内で活性であるが筋肉(心臓及び四頭筋)内ではそうでない一方、C5.12プロモーターは、筋肉内で活性であるが肝臓内ではそうでない。特に、発明者らは、多組織プロモーターLiMPが、肝臓及び筋肉の双方において効率的な導入遺伝子発現を駆動することができることを見出し、このことは、これがハイブリッド肝臓-筋肉プロモーターであることを示している(
図4B)。一方、Enh.C5.12プロモーターは、筋肉内で高い発現を駆動することができるが、肝臓内での発現は低い。実際、肝臓内で、Enh.C5.12は、hAATと比較して、有意に低い導入遺伝子発現をもたらし、そしてC5.12プロモーターと比較して、僅かに高いが有意でない発現をもたらした(
図4B)。したがって、筋肉内で強い発現及び肝臓内で弱い発現が必要とされる場合、Enh.C5.12を用いることができる。発明者らがインビトロで観察したように(
図3)、肝臓-ニューロンプロモーターLiNeuPは、肝臓及びCNSの双方において高いGAA発現を駆動することができる(
図4B)。重要なことに、発明者らは、基本的なhAATプロモーター及びhSYNプロモーターが、CNS及び肝臓内でそれぞれ活性でないことを確認した(
図4B)。特に、LiMP及びLiNeuPの組織選択性は、ニューロン及び筋肉内でそれぞれ活性でないままであったので、保存されていた(
図4B)。全体として、hGAA導入遺伝子発現データは、明らかに、多組織選択的導入遺伝子発現を駆動することができるハイブリッドプロモーターの生成を示している。予想されるように、分析した組織におけるベクターゲノムコピー数(VGCN)分析は、ほとんどのAAVベクターが、マウス内への静脈内注射の直ぐ後に肝臓に形質導入することを示した(Zincarelliら、Mol Ther.2008年6月;16(6):1073~80頁)。VGCNの有意差は、異なるベクター間で観察されなかった(
図4B)。
【0162】
【0163】
II.全身性AAV遺伝子移入後のポンペ病のマウスモデル(Gaa-/-)における肝臓/筋肉プロモーターの活性及び免疫寛容原性特性の評価。
本研究において、発明者らは、肝臓及び筋肉の単組織プロモーター(hAAT及びC5.12)を、天然の(hGAA)、そして高度に分泌可能な(sec-hGAA)GAAタンパク質の双方の発現を駆動する発明者らの多組織肝臓+筋肉プロモーター(Enh.C5.12、LiMP)と比較した(Table 3(表3))。Gaa-/-マウスを用いて、ポンペ病態生理学をモデル化する。発明者ら及び他者らは以前に、Gaa-/-筋肉内の天然のGAAの発現が、当該タンパク質に対する強い体液性免疫応答を誘導することを報告した[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]、Zhang.ら、Hum Gene Ther.2012年5月;23(5):460~72頁)。次に、発明者らは最近、高度に分泌可能なGAAタンパク質が、天然のものよりも免疫原性でないことを示した[Puzzo及びColellaら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]。したがって、本研究は、天然の形態、及び高度に分泌可能なGAA形態を用いてそれぞれ提供される高い免疫原性及び低い免疫原性の文脈での、新たに開発したハイブリッド肝臓-筋肉プロモーター(Enh.C5.12及びLiMP)の免疫寛容原性特性についてのデータを提供する。また、治療的な目的のために循環系内にGAAを提供するプロモーターの能力を評価した。発明者らが、天然の免疫原性GAAタンパク質(hGAA)を発現するAAVをGaa-/-マウスに送達した場合、発明者らは、筋肉において大部分発現されることとなる、研究Iにおいて示すプロモーター、C5.12及びEnh.C5.12(
図4B)によって駆動されるGAA発現が、タンパク質に対する体液性免疫応答をもたらすことを観察した(
図5A)。特に、ハイブリッド肝臓-筋肉LiMPプロモーターの使用は、抗hGAA免疫応答の誘導を有意に妨げた(
図5A)。これらのデータは、LiMPによって提供される強いGAA肝臓発現(研究Iにおいて報告した、
図4B)が、hGAAに対する免疫寛容を誘導したことを証明している(
図5A)。マウス血漿におけるGAA酵素活性は、ハイブリッドEnh.C5.12及びLiMPプロモーターが、C5.12と比較して、治療的な目的のために循環系により高いGAAタンパク質レベルをもたらすことを確認した(
図5B)。
【0164】
次に、筋肉が高度に免疫原性組織である場合に、発明者らは、LiMPプロモーターを用いたAAV遺伝子移入が、既存の抗導入遺伝子体液性免疫応答を根絶することができるかを試験した。この目的のために、発明者らは、Gaa-/-マウスを、20mg/kgの用量での組換えヒトGAA(rhGAA)の3回の静脈内注射によって免疫化した(
図6A)。次に、2週後に、発明者らは、血漿中の抗GAA IgGを測定して、免疫化されたマウスを、AAV9-LiMP-hGAAベクターで、静脈内送達によって処置した(
図6B)。AAV9-hAAT-hGAAベクターを、免疫寛容原性対照として用いた。AAV処置(2×10
12vg/kgの用量)の6週後、IgG抗hGAAは、LiMP及びhAATベクターで処置したマウスにおいて有意に減少したが、ルシフェラーゼを発現する対照AAVベクターではそうではなかった(
図6B)。
【0165】
全体として、これらの結果は、強い肝臓発現構成要素が与えられる、デュアルプロモーターによるAAV遺伝子移入が、支配的な導入遺伝子免疫寛容をもたらすことを示している。
【0166】
【0167】
III.全身性AAV遺伝子移入による成体Gaa-/-マウスにおけるハイブリッド肝臓-筋肉及び肝臓/ニューロンプロモーターの免疫寛容原性特性及び治療効力の評価。
発明者らの以前のデータ(
図2~
図5)に基づいて、本研究において、発明者らは、Gaa-/-マウスの全身疾患表現型をレスキューするための最良の実行免疫寛容原性多組織プロモーター(LiMP及びLiNeuP)を用いる利点を試験した。特に、発明者らは、高度に分泌可能なGAAタンパク質(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと呼ぶ)を、肝臓選択的hAATプロモーター、肝臓-筋肉LiMPプロモーター、及び肝臓-ニューロンLiNeuPプロモーターの制御下で発現するAAVベクターの治療効力を評価した(Table 4(表4))。遍在性CAGプロモーターの制御下でsec-hGAAを発現するAAVベクターを対照として用いた。ポンペ病の文脈では、肝臓から循環系中に分泌可能なGAAの発現により、タンパク質吸収による他の組織の標的化が可能となろう。しかしながら、GAA吸収が、骨格筋及びニューロン内で:1.細胞表面上のGAA受容体の低いレベル、及び2.リソソームへのGAA標的化を弱める自食作用ブロックによって制限され;その後、血液-脳関門によって課されるサイズ制限が、CNSへのGAAバイオ分配を大きく制限する。
【0168】
先で報告した発明者らの結果を鑑みて、発明者らは、肝臓及び他の罹患組織内でGAAを共発現することによって、肝臓のみを標的化することによるよりも高い治療効力を達成することとなると予想した。重要なことに、研究IIIにおいて、発明者らは、発明者らの新しい多組織プロモーターによる肝臓標的化が、発現されるGAA導入遺伝子に対する免疫寛容を提供することを示した(
図5A参照)。研究IIIにおける循環系中のsec-hGAAタンパク質レベル、及びGAAに対する体液性免疫応答の分析は、LiMP及びLiNeuPプロモーターが、体液性免疫応答の非存在下で、hAATと比較した場合に(
図7、上部のパネル)、類似のGAAレベルをもたらすことを確認した(
図7、ウエスタンブロット写真の下に示す抗GAA IgGレベル)。特に、遍在性CAGプロモーターを用いた場合、GAAに対する強い免疫応答が観察される(
図7、上部のパネル)。また、CAGプロモーターは、hAAT、LiMP、及びLiNeuPと比較して、有意に低い量の循環GAAをもたらした(
図7、下部のパネル)。これらのデータは、本発明に従うハイブリッド肝臓ベースの多組織プロモーターが、遍在性プロモーターに勝る利点を有することを実証している。特に、CAGプロモーターによって駆動される遍在性GAA発現は、肝臓における発現にも至るが、導入遺伝子生成物に対する免疫寛容を必ずしももたらすわけではない一方、LiMP及びLiNeuP駆動GAAベクターを受けた全てのマウスの血漿は、検出可能な抗GAA IgGを含有しなかった。驚くべきことに、上述の結果は、多組織選択的プロモーターの注意深い選択が、筋肉選択的プロモーター又は遍在性プロモーターのいずれかにより達成され得るものと対照的に、注目するいくつかの組織における導入遺伝子発現及び免疫寛容に至ることを示している。
【0169】
これらの見込みがある結果に基づいて、発明者らは次に、Gaa-/-マウスにおいてLiMP及びLiNeuPプロモーターの制御下でsec-hGAAを発現するAAVベクターの治療効力を評価した。循環系中のGAA酵素活性は、試験した全てのAAVからのGAA発現を確認した(
図8A)。筋力は、非罹患Gaa+/+マウス(Ctrl、
図8B)と比較して、非処置のGaa-/-マウスにおいて有意に減少している(Ctrl、
図8B)。特に、LiMP及びLiNeuPを用いたAAV-sec-hGAA遺伝子治療で処置したGaa-/-マウスは、非罹患Gaa+/+と比較して、筋力の有意な差異を示さなかった(
図8B)。また、特に有意なレスキューが、非処置のGaa-/-マウスと比較して、AAV-LiNeuPベクターで処置したGaa-/-マウスにおいて観察された(Ctrl、
図8B)。LiMP及びLiNeuPプロモーターの制御下でsec-hGAAを発現するAAVによって処置したGaa-/-における呼吸機能は、非処置Gaa-/-マウス(Ctrl)と比較して、Gaa-/-マウスにおいて有意に向上し、Gaa+/+動物に匹敵した(
図8C、
図8D)。
【0170】
【0171】
IV.全身性AAV遺伝子移入による新生仔Gaa-/-マウスにおける肝臓/筋肉プロモーターLiMPの治療効力の評価。
本研究において、発明者らは、肝臓-筋肉免疫寛容原性多組織プロモーターLiMPを用いて、肝臓からのAAVゲノム及び治療効力の希釈に至り得る肝細胞増殖の条件において、持続性のGAA発現及び治療効力が達成され得るかを判定する利点を試験した[Wangら、Hum Gene Ther.2012年5月;23(5):533~9頁]。この目的のために、発明者らは、Gaa-/-マウスにAAVベクターを注射して、初期の出生後のステージ中のポンペ対象の処置を模倣した。出生後1ヶ月における治療介入が、重要なことに、疾患の乳児形態を示すPD対象[乳児型PD(IOPD)]では医学的に必要とされる[Chienら、Pediatr Neonatol.2013年8月;54(4):219~27頁]。特に、PDについての新生児スクリーニングは、多く国々で承認されており、適時の治療介入を促進し得る。特に、ここでは、発明者らは、肝臓及び筋肉の双方においてGAA発現を提供し(研究Iにおいて観察される、
図4B)、且つ循環系に治療酵素を提供する(研究I、
図4A)LiMPプロモーター(Table 5(表5))と比較して、単組織プロモーター[筋肉(C5.12)及び肝臓(hAAT)]から高度に分泌可能なGAAタンパク質(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと呼ぶ)を発現する利点を評価した。
【0172】
AAV-sec-hGAAベクターを有する新生仔Gaa-/-マウスの処置の3ヶ月後の循環系内でのGAAタンパク質の分析は、類似のタンパク質の量が、hAAT及びLiMPプロモーターで達成され、これは、双方のAAVゲノムに及ぼす肝臓増殖の効果と一致していることを示した(
図9)。特に、筋肉プロモーターC5.12によって提供される循環GAAは、hAAT及びLiMPプロモーターによって提供されるものよりも有意に低かった(
図9A~
図9B)。また、心筋及び骨格筋におけるGAA活性は、AAV-C5.12又はAAV-hAATベクターと比較して、AAV-LiMPで処置したGaa-/-マウスの心臓、横隔膜、三頭筋、及び四頭筋内で、有意に高かった(
図9C~
図9F)。特に、治療的なGAAタンパク質の量は、C5.12及びhAATベクター(
図10A~
図10B)と比較して、LiMPベクターで処置したGaa-/-マウスの筋肉(例えば三頭筋)及びCNS(脊髄)内で有意に高かった。脳において(
図10C)、有意に高いGAAタンパク質が、LiMPベクターで処置したGaa-/-マウスにおいて、C5.12ベクターで処置したものと比較して観察された。この結果は、LiMPプロモーターのハイブリッド転写活性を反映しており、これは、交差補正のための、肝臓からの導入遺伝子発現(
図10D)を、筋肉内での内因性導入遺伝子発現(
図10E)と一緒に可能にする。特に、hAAT及びLiMPベクターは、類似の量の酵素を循環系に提供したので(
図9A~
図9B)、筋肉(
図10A)及び脊髄(
図10B)内でLiMPにより達成されるより高い発現は、筋肉内での内因性導入遺伝子発現に由来する(
図10E)。重要なことに、Gaa-/-マウスにおける筋力は、LiMPプロモーターの制御下でsec-hGAAをコードするAAVによる処置によってのみ、有意に保存された(
図11)。これは、循環系内でのGAA分泌(
図9A~
図9B)、及びハイブリッドLiMPプロモーターを用いてのみ達成されるが、単組織C5.12及びhAATプロモーターでは達成されない筋肉内での高いGAA発現(
図9C~
図9D、
図9F、及び
図10A)の結果である。
【0173】
新生仔マウスへの全身性AAV遺伝子移入は、肝臓ゲノムDNA中へのベクターゲノムの一部の組込みをもたらすことが以前に報告された(Chandlerら、JCI、2015年2月;125(2):870~80頁)。ほとんどの組込みは、hAATプロモーターではなくCAG及びTBGプロモーターを用いる場合にのみ、肝臓遺伝子毒性、及び肝細胞癌(HCC)の進行を促進するマウス特異的ゲノムホットスポット(Rian遺伝子座)内で起こる(Chandlerら、JCI、2015年2月;125(2):870~80頁)。これは、Rianに近いHCC関連Rtl1遺伝子のアップレギュレーションを誘導するCAG及びTBGプロモーターの強いトランス活性化活性に起因する(Chandlerら、JCI、2015年2月;125(2):870~80頁)。特に、発明者らは、Rian RNAが、非処置のGaa-/-マウス及びAAV-hAAT処置したGaa-/-マウスの双方と比較して、AAV-LiMPベクターで新生仔のときに処置したGaa-/-マウスにおいて、アップレギュレートされないことを見出した(
図12)。また、非処置Gaa-/-マウスと比較して、AAV-C5.12ベクターで処置したGaa-/-マウスにおいて、有意なRtl1トランス活性化は観察されなかった(
図12)。したがって、発明者らのハイブリッドLiMP及びLiNeuPプロモーターでのhAATプロモーターの、そしてLiMPでのC5.12プロモーターの使用は、インビボ遺伝子治療用の発明者らのハイブリッド調節要素に更なる有利な特徴を提供する。
【0174】
次に、遍在性プロモーターとは異なって、本発明は、注目する治療導入遺伝子を生理的に発現しない組織内における、又は注目する導入遺伝子の発現が所望されない場所での異所性導入遺伝子発現を妨げる。したがって、本発明はまた、高用量にて注射されるAAVベクターの全身性送達によって処置され、且つ遍在性ニワトリベータアクチンプロモーターを含有する非ヒト霊長類における前臨床研究において最近報告された起こり得る毒性を、予防し得る(Hindererら、Hum Gene Ther.2018年2月12日)。
【0175】
【0176】
V.低ベクター用量にて新生Gaa-/-マウスにおいて治療効力を持続する肝臓/筋肉プロモーターLiMP能力の評価。
次に、発明者らは、新生Gaa-/-マウスにおけるLiMP-sec-hGAAベクターによるAAV遺伝子治療が、低ベクター用量にて[1.2×10
10vg/pup(6×10
12vg/kg);
図13]治療効力をもたらすことができるかを判断した。研究の終わり(処置の4ヶ月後)に、血流中の酵素量は、LiMP及びhAATベクターで処置したGaa-/-マウスにおいて、異ならなかった(
図13A~
図13B)。また、肝臓内でのhGAA RNA発現の分析は、LiMP及びhAATプロモーター間で、有意な差異を示さなかった。その代わりに、GAA活性は、hAATと比較して、LiMPで処置したGaa-/-マウスの心臓(
図13C)、横隔膜(
図13D)、四頭筋(データ示さず)、及び三頭筋(
図13E)において、有意に高かった。また、LiMPプロモーターの使用は、AAV処置Gaa-/-マウスの三頭筋(代表的な筋肉として)及び脊髄(
図13F)内で、より高い量のhGAAタンパク質をもたらした。LiMP及びhAATプロモーターを用いた場合、脳hGAA量の差異は見出されなかった(
図13G)。
【0177】
グリコーゲンは、非処置Gaa-/-マウス(Ctrl)及びhAAT処置Gaa-/-マウスの双方と比較して、Gaa-/-マウスの心臓(
図13H)、横隔膜(
図13I)、四頭筋(データ示さず)、及び三頭筋(
図13J)において、LiMPベクターによる処置の直ぐ後に、有意に低減された。脊髄及び脳において、非罹患Gaa+/+とはかなり異なるレベルであるにも拘わらず、非処置Gaa-/-マウス(Ctrl)と比較して、有意なグリコーゲン低下が、全てのAAV処置Gaa-/-マウスにおいて観察された(
図13K)。特に、非処置Gaa-/-マウスと比較して、心臓肥大(
図13L)及び筋力(
図13M)の有意なレスキューが、LiMPベクターで処置したGaa-/-マウスにおいてのみ観察された。肝臓及び四頭筋内のVGCNは、類似のレベルの組織形質導入を示した(データ示さず)。
【0178】
hGAAに対するIgGは、ELISAアッセイによって毎月分析したAAV処置Gaa-/-マウスの血漿内で検出されなかった(Table 6(表6))。
【0179】
【0180】
AAV8ベクターで処置したGaa-/-マウスにおいて観察されたように(
図12)、非処置Gaa-/-マウスと比較した、Rtl1オンコジーンに及ぶ有意なトランス活性化活性は、hAAT又はLiMPプロモーターのいずれかを含有するAAV9ベクターで処置したGaa-/-マウスの肝臓内で、観察されなかった。
【0181】
これらの全体的な結果は、デュアル肝臓-筋肉プロモーターLiMPにより、低いベクター用量での全身性AAV肝臓遺伝子治療後の新生動物におけるhAATプロモーターと比較して、優れた治療効力を達成することができることを示す。
【0182】
VI.肝臓/筋肉プロモーターLiMPは、新生仔Gaa-/-マウス内への全身性AAV遺伝子移入の後に、強い遍在性プロモーターと異ならない筋肉へのGAAのレベルを実現する。
本研究において、発明者らは、新生仔Gaa-/-マウス内での全身性AAV遺伝子移入後の強い遍在性プロモーターとの比較において、肝臓-筋肉LiMP及び肝臓-ニューロンLiNeuPプロモーターを用いた場合の、筋肉に提供されるGAAの量を評価した。この状況において、先で示したように、肝細胞増殖は、肝臓からのAAVゲノム及び治療効力の希釈の原因となる[Wangら、Hum Gene Ther.2012年5月;23(5):533~9頁]。発明者らは、LiMP及びLiNeuPプロモーター(Table 7(表7))と比較して、遍在性プロモーターCAG[CMVエンハンサー/ニワトリベータ-アクチンプロモーター(CAG)プロモーター]から高度に分泌可能なGAAタンパク質(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと呼ぶ)をコードするAAVベクターを、Gaa-/-マウスに注射した;単肝臓プロモーターhAATを対照として用いた(Table 7(表7))。
【0183】
AAV-sec-hGAAベクターによる新生仔Gaa-/-マウスの処置の4ヶ月後の骨格筋(三頭筋、
図14)におけるGAAタンパク質の分析は、類似のタンパク質の量が、CAG及びLiMPプロモーターで達成され、hAAT及びLiNeuPで達成されるものよりも高いことを示した。これは、マウスの成長にわたって大きく損なわれる、AAVゲノムに及ぼす肝臓増殖の影響、並びに筋肉内でのhAAT及びLiNeuPの転写活性の欠如と一致する(
図14)。
【0184】
【0185】
VII.肝臓/筋肉プロモーターLiMPは、ネオナタルAAV遺伝子移入後のGaa-/-マウスの筋肉内での自食作用及びマイトファジーを標準化する。
本研究において、発明者らは、全身性AAV遺伝子移入によって新生時に処置したGaa-/-マウスの筋肉において、p62(自食作用ブロックのマーカー)及びParkin(マイトファジーのマーカー)の標準化を評価した。この目的のために、発明者らは、単肝臓プロモーターhAATと比較して、肝臓-筋肉プロモーターLiMPから高度に分泌可能なGAAタンパク質(sp7-Δ8-co、sec-hGAAと呼ぶ)をコードするAAVベクターを、Gaa-/-マウスに注射した。先で報告したデータから予想されるように、新生仔Gaa-/-マウスの処置の4ヶ月後に、GAAタンパク質は、hAATと比較して、LiMPで処置したマウスの三頭筋におけるよりも高かった(
図15A~
図15B)。次に、p62が、非処置Gaa-/-マウスの三頭筋内で、非罹患Gaa+/+と比較して増大しており、自食作用ブロックを反映している(
図15C)。特に、p62含有量を、hAATベクターではなくLiMPで処置したGaa-/-マウスの三頭筋内で標準化した(
図15A、
図15B)。その代わりに、Parkin量は、非罹患Gaa+/+と比較して、非処置Gaa-/-マウスの三頭筋内で有意に低下し(
図15A、
図15C)、障害のあるマイトファジーを反映している。特に、通常のParkin含有量は、hAATベクターではなくLiMPベクターによる処置の直ぐ後に、Gaa-/-マウスの三頭筋内で回復した(
図15A、
図15C)。
図15及び
図16に示すマウスの肝臓及び三頭筋内のベクターゲノムコピー数(VGCN)の分析は、有意に高いVCGNが肝臓内で見出されたCAGベクターを除いて、有意な差異を示さなかった(
図16A~
図16B)。
【0186】
VIII.マウスにおける全身性AAV遺伝子治療に対するLiMP及びLiNeuPプロモーターの特異性。
肝臓-筋肉プロモーターLiMP及び肝臓-ニューロンプロモーターLiNeuPの特異性を、非標的組織、例えば、腎臓、肺、及び脾臓において観察される低い活性又は活性の不在によって確認した(
図17A~
図17B)。肺において、LiMPプロモーターを用いて観察した一部の検出可能なhGAA mRNA発現が、おそらく、平滑筋細胞内でプロモーター活性に由来し得た(
図17B)。予想されるように、VGCNは、他の組織と比較して、肝臓内でより高かった(
図17C~
図17D)。全体として、hGAA mRNA発現データは、ハイブリッドプロモーターLiMP及びLiNeuPが、標的組織内で効率的且つ特異的な導入遺伝子発現を駆動することを示している(
図17)。
【0187】
IX.肝臓活性が強いハイブリッドプロモーターが、Gaa-/-マウス内でhGAAに対する免疫応答の発達を妨げる。
遍在性プロモーター又は筋肉特異的プロモーターによって駆動されるGaa-/-マウスへの天然のhGAAの遺伝子移入が、hGAAタンパク質に対する不所望の体液性免疫応答を誘導することが報告された[Falkら、Mol Ther Methods Clin Dev.2015年3月25日;2:15007頁;Francoら、Mol Ther.2005年11月;12(5):876~84頁]。逆に、発明者ら[Puzzoら、Sci Transl Med.2017年11月29日;9(418頁)]及び他者ら[Francoら、Mol Ther.2005年11月;12(5):876~84頁]は、肝細胞に対する天然のhGAA導入遺伝子発現の制限が、抗hGAA免疫の発達を妨げて、安定した免疫寛容を導入遺伝子生成物に提供することを示した。本発明のハイブリッド肝臓-筋肉及び肝臓-ニューロンプロモーターの免疫学的特性を評価するために、発明者らは、天然のhGAAをコードするAAV9ベクターを全身的に成体免疫応答性Gaa-/-マウスに送達し(ベクター用量:2×10
12vg/kg)、そして抗hGAA体液性免疫応答を評価した(
図18)。成体Gaa-/-マウスをこれらの実験に特に用いた。というのも、新生動物が、免疫寛容原性促進性応答をより発達させる傾向があることが報告されてきたからである。処置後の初期の時点にて、高い抗hGAA IgGが、対照CAG及びC5.12ベクターに加えて、Enh.C5.12ベクターで処置したマウスにおいて誘導された(
図18A)。逆に、LiMP、LiNeuP、及び対照hAATベクターで処置したマウスにおいて初期の時点にて測定した抗hGAA IgG(
図18A)は、低いか不在であり、CAGコホートにおいて測定したものと有意に異なった(
図18A)。ハイブリッドプロモーターLiMP及びLiNeuPの使用は、抗hGAA IgGの誘導を長期に妨げた(
図18B)。逆に、抗hGAA IgGは、C5.12コホートにおいて、時間と共にピークに達し、他のコホートにおいて測定されるものよりも有意に高いレベルに至った(
図18B)。C5.12と比較して、Enh.C5.12で観察される体液性免疫応答の低下は、ApoEエンハンサーを用いて達成される肝臓内の導入遺伝子発現の増大(
図4B、肝臓)により、抗GAA免疫を長期に低減することができることを示唆している(
図5A、
図18)。興味深いことに、これらのデータは、CAG及びEnh.C5.12プロモーターによって決定した肝臓導入遺伝子発現が、抗hGAA体液性免疫応答を妨げないが低減し得ることを示唆している(
図18A~
図18B)。VGCNは、肝臓形質導入に及ぼすベクターゲノムの大きな影響を示さなかった(
図18C)。
【0188】
X.ヒト筋芽細胞内での肝臓/筋肉LiMPプロモーターのインビトロでの転写活性。
肝臓/筋肉プロモーターLiMPの転写活性が更に、ヒト筋芽細胞内でインビトロで確認された(
図19)。
【0189】
VI.結論:
本研究において、発明者らは、ハイブリッド調節要素により、AAV遺伝子移入によって媒介される導入遺伝子発現の持続性の制限を克服することができることを示した。特に、発明者らは、LiMPプロモーターによる全身性AAV遺伝子治療が、新生時に処置したGaa-/-マウスにおいて、単組織プロモーター(肝臓特異的、hAAT、又は筋肉特異的、C5.12)と比較して、優れた治療効力をもたらすことを実証した。このモデルにおいて、発明者らは、全身の病理グリコーゲン蓄積のクリアランス、並びに心肥大及び筋力の有意なレスキューを含む疾患表現型の長期の完全なレスキューを観察した。これらの結果は、新生仔動物における他の研究に、そして他の致死的神経筋疾患についての継続中の臨床治験に現在用いられているものよりも10~50倍低いAAVベクター用量を用いて達成された。これらの発見は、このAAV遺伝子治療アプローチの、乳児型ポンペ病への今後の利用を支持する。その有望な安全性及び効力プロファイルに基づいて、デュアルプロモーターは、全身性の多臓器に関与し、且つ初期の致死を伴ういくつかの他の疾患の処置用の遺伝子ベースの治療の開発において、重大な利点を提供し得る。
【配列表】