(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】免疫応答を媒介するin vivoでのNK細胞およびDC細胞の拡大
(51)【国際特許分類】
A61K 35/28 20150101AFI20240408BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240408BHJP
A61K 35/15 20150101ALI20240408BHJP
A61K 35/51 20150101ALI20240408BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240408BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240408BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240408BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240408BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240408BHJP
C12N 5/0784 20100101ALI20240408BHJP
C07D 487/04 20060101ALI20240408BHJP
C07D 519/00 20060101ALI20240408BHJP
C07D 471/04 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/17
A61K35/15
A61K35/51
A61K9/10
A61K47/42
A61P37/02
A61P31/12
C12N5/0783
C12N5/0784
C07D487/04 140
C07D519/00 311
C07D471/04 104Z
(21)【出願番号】P 2020566867
(86)(22)【出願日】2019-02-20
(86)【国際出願番号】 CA2019050208
(87)【国際公開番号】W WO2019161494
(87)【国際公開日】2019-08-29
【審査請求日】2022-02-15
(32)【優先日】2018-02-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506162895
【氏名又は名称】ウニヴェルシテ・ドゥ・モントリオール
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】ソーヴァゴー,ガイ
(72)【発明者】
【氏名】コーエン,サンドラ
(72)【発明者】
【氏名】ロイ,ジャン
(72)【発明者】
【氏名】ラションス,シルビー
(72)【発明者】
【氏名】デリール,ジャンセバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】チャグラオイ,ジャリラ
【審査官】平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-502115(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹状(DC)細胞を患者においてin vivoで拡大するための方法における使用のための、少なくとも1つの化合物を用いて培養された、拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片であって、前記幹細胞および/または前駆体細胞が、ヒト造血幹細胞(HSC)であって、前記少なくとも1つの化合物が、式I:
【化1】
を有する化合物またはその塩
[式中、
各Yは、NおよびCHから独立に選択され、
Zは、
-CN、
-C(O)OR1、
-C(O)N(R1)R3、
-C(O)R1、または
-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)
であり、
式中、(R1)およびR3が窒素原子と結合しているとき、(R1)およびR3は前記窒素原子と一緒になって、N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい3~7員の環を形成してもよく、前記環は1個または複数個のRAまたはR4で置換されていてもよく、
Wは、
-CN、
-N(R1)R3、
-C(O)OR1、
-C(O)N(R1)R3、
-NR1C(O)R1、
-NR1C(O)OR1、
-OC(O)N(R1)R3、
-OC(O)R1、
-C(O)R1、
-NR1C(O)N(R1)R3、
-NR1S(O)
2R1、
-ベンジル(1、2または3個のRAまたはR1置換基で置換されていてもよい)、
-X-L-(X-L)n-N(R1)R3、
-X-L-(X-L)n-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよく、置換基はLおよびヘテロアリール基のいずれかまたは両方に結合している)、
-X-L-(X-L)n-ヘテロシクリル(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよく、置換基はLおよびヘテロシクリル基のいずれかまたは両方に結合している)、
-X-L-(X-L)n-アリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)、
-X-L-(X-L)
n-NR1RA、または
-(N(R1)-L)
n-N
+R1R3R5R6
-
であり、
式中、nは、0、1、2、3、4または5のいずれかに等しい整数であり、
式中、R1およびR3が窒素原子と結合しているとき、R1およびR3は前記窒素原子と一緒になって、N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい3~7員の環を形成してもよく、前記環は1個または複数個のRAまたはR4で置換されていてもよく、
各Xは、O、SおよびNR1から独立に選択され、
各Lは、独立に、
-C
1~6アルキレン、
-C
2~6アルケニレン、
-C
2~6アルキニレン、
-C
3~7シクロアルキレン(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)、または
-C
3~7シクロアルケニレン(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)
であり、
式中、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、シクロアルキレンおよびシクロアルケニレン基は、それぞれ独立に、1個または2個のR4またはRA置換基で置換されていてもよく、
R1は、それぞれ独立に、
-H、
-C
1~6アルキル、
-C
2~6アルケニル、
-C
2~6アルキニル、
-C
3~7シクロアルキル、
-C
3~7シクロアルケニル、
-C
1~5過フッ素化基、
-ヘテロシクリル、
-アリール、
-ヘテロアリール、または
-ベンジル
であり、
式中、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルケニル、過フッ素化アルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリールおよびベンジル基は、それぞれ独立に、1、2または3個のRd置換基で置換されていてもよく、
R2は、
-H、
-C
1~6アルキル(1個または複数個のRA置換基で置換されていてもよい)、
-C(O)R4、
-L-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)、
-L-ヘテロシクリル(1個または複数個のRAまたはR4で置換されていてもよい)、または
-L-アリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)
であり、
R3は、それぞれ独立に、
-H、
-C
1~6アルキル、
-C
2~6アルケニル、
-C
2~6アルキニル、
-C
3~7シクロアルキル、
-C
3~7シクロアルケニル、
-C
1~5過フッ素化基、
-ヘテロシクリル、
-アリール、
-ヘテロアリール、または
-ベンジル
であり、
式中、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、過フッ素化アルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリールおよびベンジル基は、それぞれ独立に、1、2または3個のRAまたはRd置換基で置換されていてもよく、
R4は、それぞれ独立に、
-H、
-C
1~6アルキル、
-C
2~6アルケニル、
-C
2~6アルキニル、
-C
3~7シクロアルキル、
-C
3~7シクロアルケニル、
-C
1~5過フッ素化基、
-ヘテロシクリル、
-アリール、
-ヘテロアリール、または
-ベンジル
であり、
式中、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、過フッ素化アルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリールおよびベンジル基は、それぞれ独立に、1、2または3個のRAまたはRd置換基で置換されていてもよく、
R5は、それぞれ独立に、
-C
1~6アルキル、
-C
1~6アルキレン-C
2~6アルケニル(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)、
-C
1~6アルキレン-C
2~6アルキニル(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)、
-L-アリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基を含んでいてもよい)、
-L-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基を含んでいてもよい)、
-C
1~6アルキレン-C(O)O-、
-C
1~6アルキレン-C(O)OR1、
-C
1~6アルキレン-CN、
-C
1~6アルキレン-C(O)NR1R3(式中、R1およびR3は、窒素原子と一緒になって、N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい3~7員の環を形成してもよい)、または
-C
1~6アルキレン-OH
であり、
R6は、
-ハロゲン、
-OC(O)CF
3、または
-OC(O)R1
であり、
RAは、それぞれ独立に、
-ハロゲン、
-CF
3、
-OR1、
-L-OR1、
-OCF
3、
-SR1、
-CN、
-NO
2、
-NR1R3、
-L-NR1R1、
-C(O)OR1、
-S(O)
2R4、
-C(O)N(R1)R3、
-NR1C(O)R1、
-NR1C(O)OR1、
-OC(O)N(R1)R3、
-OC(O)R1、
-C(O)R4、
-NHC(O)N(R1)R3、
-NR1C(O)N(R1)R3、または
-N
3
であり、
Rdは、それぞれ独立に、
-H、
-C
1~6アルキル、
-C
2~6アルケニル、
-C
2~6アルキニル、
-C
3~7シクロアルキル、
-C
3~7シクロアルケニル、
-C
1~5過フッ素化基、
-ベンジル、または
-ヘテロシクリル
である]
である、移植片。
【請求項2】
DC細胞の前記拡大が、前記患者の免疫応答を刺激する、請求項1に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項3】
重症の移植片対宿主病(GVHD)、再燃、および/または重症のウイルス感染症を低減させる、請求項1または2に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項4】
前記造血幹細胞が、臍帯血細胞、動員末梢血細胞または骨髄細胞に由来するものである、請求項1に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項5】
前記造血幹細胞が、ヒトさい帯血細胞に由来するものである、請求項4に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項6】
前記幹細胞および前駆体細胞が、CD34
+、CD38
+、CD90
+、CD45RA
+、CD133および/またはCD49f
+細胞を得るために精製される、請求項1から5のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項7】
前記CD34+細胞が、EPCR+細胞である、請求項6に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項8】
前記DC細胞が、CD11c
+細胞である、
請求項1から7のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項9】
前記幹細胞および/または前駆体細胞が、少なくとも1つの細胞拡大因子を用いて培養される、
請求項1から8のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項10】
前記少なくとも1つの細胞拡大因子が、インターロイキン-3(IL-3)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3-L)、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン-6(IL-6)、またはそれらの組合せである、
請求項9に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項11】
前記幹細胞および/または前駆体細胞が、アリール炭化水素受容体(AHR)アンタゴニストを用いてさらに培養される、
請求項1から10のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項12】
前記AHRアンタゴニストが、Stem Regenin1(SR1)またはCH223191である、
請求項11に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項13】
前記式Iの化合物が、UM171
【化2】
またはその薬学的に許容される塩である、
請求項1から12のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項14】
前記式Iの化合物が、
【化3】
の臭化水素酸塩である、
請求項1から13のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項15】
前記式Iの化合物が、
【化4】
またはその薬学的に許容される塩である、
請求項1から14のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項16】
前記式Iの化合物が、
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
またはその薬学的に許容される塩である、
請求項1から15のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項17】
前記幹細胞および前駆体細胞が、バイオリアクターで拡大される、
請求項1から16のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項18】
前記患者が、ヒトまたは動物である、
請求項1から17のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項19】
前記動物がマウスである、
請求項18に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項20】
前記患者におけるウイルス感染症を治療するための、
請求項1から19のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項21】
前記ウイルス感染症が、CMV感染症、EBV感染症またはアデノウイルス膀胱炎である、
請求項20に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項22】
炎症状態が前記患者において制御される、
請求項1から21のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項23】
前記移植片が、樹状細胞集団および肥満細胞を含む、
請求項1から22のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項24】
前記樹状細胞集団が、CD86
+CD34
+細胞である、
請求項23に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項25】
前記移植片が、40~50%に相当する樹状細胞を含む、
請求項23または24に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項26】
前記移植片が、1/3に相当する未熟樹状細胞を含む、
請求項1から25のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項27】
前記移植片が、肥満細胞を含む、
請求項1から26のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項28】
前記移植片が、約10%に相当する肥満細胞を含む、
請求項27に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【請求項29】
前記移植片が、FCER1
+CD34
+細胞、CD34
+CD45RA
+細胞、CD34
+CD86
+細胞、CD34
+CD45RA
-細胞およびCD34
-細胞を含む、
請求項1から28のいずれか一項に記載の使用のための、少なくとも1つの化合物(前記少なくとも1つの化合物は式Iを有する)で培養した拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年2月20日に出願された米国特許仮出願第62/632,733号の利益を主張するものであり、同文献の内容は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
UM171またはそれに由来するアナログを用いて培養された幹細胞および前駆体細胞(progenitor cell)の移植片を移植することにより、患者においてin vivoで樹状(DC)細胞および/またはナチュラルキラー(NK)細胞を拡大させる方法が提供される。
【背景技術】
【0003】
免疫療法は、抗がん療法の分野における大きな突破口であると考えられており、その理由は、このアプローチが、化学療法不応性のがんに対してその有効性を実証したからである。試みの多くは抗原を標的としたアプローチに集中したが、がん細胞と戦うために自然免疫を利用するアプローチも提案されており、抗がん免疫療法のデザインにナチュラルキラー(NK)細胞が用いられることが増えてきている。
【0004】
NK細胞は、事前感作なしに、感染細胞または形質転換細胞を認識して殺す。がん細胞に対するNK細胞の細胞毒性活性は、活性化シグナルと抑制性シグナルとの間のバランス、ならびに、自己および非形質転換細胞をがんおよび感染細胞と区別するためにNK細胞が受ける教育により、高度に調節されている。ところが、がん細胞は、NK細胞活性化受容体に対するリガンドを下方調節することにより、NK細胞媒介性溶解に耐性をもつようになりうる。この耐性をもたせないようにするには、NK細胞の細胞傷害機能を高めるためにNK細胞を刺激することが必要となる。インターロイキン(IL)-2およびIL-15は、NK細胞の溶解機能を高めるために最も高頻度に使用されるサイトカインであるが、臨床におけるそれらの使用には、がんに対するNK細胞媒介性細胞毒性の有効性を阻みかねない高毒性および副作用が伴う。ナチュラルキラー細胞は、がん再燃および感染症に対する防御において決定的に重要な役割を果たす。
【0005】
NK細胞機能は、少数の活性化樹状細胞により刺激されうる。樹状細胞(DC)は、自然免疫応答および獲得免疫応答の両方を刺激し、それにより感染抵抗性、防御的抗腫瘍免疫および自己寛容をもたらす、最も強力な抗原提示細胞である。高アビディティーのエフェクター細胞、例えば細胞傷害性Tリンパ球およびナチュラルキラー細胞などを多数作り出すこの独特の固有能力により、DCは、がんを含む多様な血液学的悪性腫瘍、感染性疾患、アレルギーおよび自己免疫疾患に対する細胞ベース療法のきわめて優れた候補となっている。DCは自己の免疫状態に基づいてその機能を形成することができ、このことは、免疫と、恒常性を保つための寛容とのバランスにとって決定的に重要である。幹細胞移植実施に伴う免疫応答においては、DCは、免疫寛容および抗腫瘍免疫の誘導に関わっている。
【0006】
いくつかあるDCサブセットは、異なるレパートリーのToll様受容体(TLR)および表面分子ならびに異なるセットのサイトカイン/ケモカインを発現することを特徴としており、それらはすべて、特徴的で特異的な液性および/または細胞性免疫応答をもたらす。2つの主要なサブセットが、骨髄系DC(mDC)および形質細胞様DC(pDC)である。
【0007】
mDCおよびpDCは、病原刺激に対して異なる形で応答し、各サブセットは、免疫応答の方向付けにおいて、特殊化した機能を有する。mDCが、TLRを介して微生物刺激に応答することでTNF-αおよびIL-12を産生するのに対し、pDCは、細菌感染またはウイルス感染に応答して大量のI型インターフェロン(IFN)を産生することから、自然免疫におけるキーエフェクターとなっている。最近の観察結果から、pDCおよびmDCはどちらも抗腫瘍応答の誘導にとって重要であり、両者が相乗的に作用することで、より優れた免疫学的転帰を誘導しうることが示唆されている。
【0008】
同種造血幹細胞(HSC)移植は、血液がん患者を治癒に導く利用可能な最良の治療法である。移植片拒絶、腫瘍再発および造腫瘍性のリスクは、幹細胞移植実施後にも存在する。残念なことに、患者のうち40%にはヒト白血球抗原(HLA)適合ドナー(血縁または非血縁)がみつからない。さい帯血(CB:cord blood)は、その独特な特性から、幹細胞の代替ドナー源として最も魅力的なものとなっており、そのような特性としては、HLA不適合に対して寛容であること、慢性の移植片対宿主病(GVHD)の発生率が低いこと、および、速やかに入手できることが挙げられる。しかし、これらの利点は、細胞用量が限られていること(すなわち、バンクに保管されているさい帯が小規模であること)により打ち消され、生着遅延または非生着、感染症の増加、入院の長期化および早期死亡という結果を招いている。
【0009】
同種移植法は、移植前処置(化学療法+/-放射線)と、これに続く、残存がん細胞を根絶するための幹細胞(移植片)の輸注とからなる。
【0010】
骨髄および刺激された末梢血幹細胞がHLAの適合する血縁ドナーまたはボランティアの非血縁ドナーから採取されるのに対し、臍帯血(umbilical CB)は出産時に提供される。好中球減少症の持続期間は、重症感染症および移植関連死亡のリスクと直接的に相関しており、末梢血の場合が最も短く(14日間)、骨髄がこれに続く(19日間)が、CBの場合は最も長い(26日間)。
【0011】
同種HSC移植に伴う移植関連死亡率は、40%にもなる。最もよく見られる合併症としては、急性(約50%)および慢性(約60%)のGVHDが挙げられる。GVHDは、レシピエントに対してドナー側が起こす免疫反応であり、これにより粘膜(口、眼)、皮膚、肝臓、肺および腸管が高頻度に損傷される。さらに、感染症はきわめてよく見られ、移植片不全(graft failure)(生着が認められないこと、約10%)は、移植片中の幹細胞の不足、および/または、レシピエントの免疫系による移植片破壊が原因で生じる。これらの合併症は、4つの主要因、すなわち、i)移植前処置の強度、ii)輸注される移植片の種類(骨髄、末梢血またはCB)、iii)ドナーとレシピエントとの間でのHLA不適合の度合、およびiv)患者の併存疾患、により変化する。GVHDは、高用量の免疫抑制薬、例えばコルチコステロイドなどで治療され、平均で4~5年間の治療を必要とすることが多い。免疫抑制療法がこのような長期にわたって必要になると、感染症、続発性がんおよび薬物関連毒性のリスクはさらに増加し、こうしたリスクのすべてが、患者のクオリティー・オブ・ライフに劇的に影響を及ぼす要因となる。
【0012】
移植レシピエントは、長期の免疫不全状態にある。初期のT細胞回復は、ドナー記憶T細胞の末梢での拡大に依存する。初期のT細胞回復の後、ドナー幹細胞由来のリンパ前駆体の、胸腺におけるナイーブT細胞への成熟が続くが、この段階はポリクローナルT細胞レパートリーの再構築にとって欠かせないものである。ロバストな胸腺移出が達成できるまで、CB移植片レシピエントは、ナイーブT細胞しかもたない(記憶細胞が存在しない状態で)ことから病原体と戦うことができない、つまり、最初の数カ月間のウイルス感染リスクが増加している。成熟記憶B細胞の産生には機能的なCD4+T細胞が必須であるため、成熟記憶B細胞はHSC移植から1~2年経つまでは完全に再構築された状態にならないのが通常であり、最初の1年間は、液性免疫はレシピエント由来のものが支配的である。
【0013】
現在、入手可能なCBユニットのうち成人にとって十分な細胞用量を有するものは6%しかない。したがって、成人においてはダブルユニットCB移植(double CB transplant)が慣例になってきている。移植のしやすさは、さい帯を2ユニット用いることで向上しており、その理由は、最低限必要とされるTNC(total nucleated cell:総有核細胞)用量が、さい帯1ユニットにつき1.5×107/kgと低下しているからである。好中球生着は改善されないが、移植片不全のリスクは低減する。移植後早期には、さい帯は両ユニット分とも検出されるが、3カ月後には一方しか残っていない。各CBが免疫応答を開始して他方を排除するので、Tリンパ球およびCD34+細胞の用量の増加により、どちらのさい帯が生き残るかが決定される。この免疫応答は、重症の急性GVHDおよびHSC破壊の発生率が高くなる原因であり、このことは、より高い細胞用量を輸注しているにもかかわらず生着が遅延する理由を説明している。さらに、高額な費用がダブルユニットCBを手の届きにくいものにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
したがって、移植片の移植実施後にin vivoでNK細胞および/または樹状細胞を刺激する方法が提供されることはきわめて望ましいと考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
樹状(DC)細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはそれらの組合せを患者においてin vivoで拡大させる方法であって、
a)開始時の幹細胞および/または前駆体細胞集団を、少なくとも1つの式Iの化合物:
【0016】
【化1】
またはその塩もしくはプロドラッグ
[式中、
各Yは、NおよびCHから独立に選択され、
Zは、
-CN、
-C(O)OR1、
-C(O)N(R1)R3、
-C(O)R1、または
-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)
であり、
式中、(R1)およびR3が窒素原子と結合しているとき、(R1)およびR3はその窒素原子と一緒になって、N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい3~7員の環を形成してもよく、その環は1個または複数個のRAまたはR4で置換されていてもよく、
Wは、
-CN、
-N(R1)R3、
-C(O)OR1、
-C(O)N(R1)R3、
-NR1C(O)R1、
-NR1C(O)OR1、
-OC(O)N(R1)R3、
-OC(O)R1、
-C(O)R1、
-NR1C(O)N(R1)R3、
-NR1S(O)
2R1、
-ベンジル(1、2または3個のRAまたはR1置換基で置換されていてもよい)、
-X-L-(X-L)n-N(R1)R3、
-X-L-(X-L)n-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよく、置換基はLおよびヘテロアリール基のいずれかまたは両方に結合している)、
-X-L-(X-L)n-ヘテロシクリル(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよく、置換基はLおよびヘテロシクリル基のいずれかまたは両方に結合している)、
-X-L-(X-L)n-アリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)、
-X-L-(X-L)
n-NR1RA、または
-(N(R1)-L)
n-N
+R1R3R5R6
-
であり、
式中、nは、0、1、2、3、4または5のいずれかに等しい整数であり、
式中、R1およびR3が窒素原子と結合しているとき、R1およびR3はその窒素原子と一緒になって、N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい3~7員の環を形成してもよく、その環は1個または複数個のRAまたはR4で置換されていてもよく、
各Xは、C、O、SおよびNR1から独立に選択され、
各Lは、独立に、
-C
1~6アルキレン、
-C
2~6アルケニレン、
-C
2~6アルキニレン、
-C
3~7シクロアルキレン(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)、または
-C
3~7シクロアルケニレン(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)
であり、
式中、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、シクロアルキレンおよびシクロアルケニレン基は、それぞれ独立に、1個または2個のR4またはRA置換基で置換されていてもよく、
R1は、それぞれ独立に、
-H、
-C
1~6アルキル、
-C
2~6アルケニル、
-C
2~6アルキニル、
-C
3~7シクロアルキル、
-C
3~7シクロアルケニル、
-C
1~5過フッ素化基、
-ヘテロシクリル、
-アリール、
-ヘテロアリール、または
-ベンジル
であり、
式中、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルケニル、過フッ素化アルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリールおよびベンジル基は、それぞれ独立に、1、2または3個のRAまたはRd置換基で置換されていてもよく、
R2は、
-H、
-C
1~6アルキル(1個または複数個のRA置換基で置換されていてもよい)、
-C(O)R4、
-L-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)、
-L-ヘテロシクリル(1個または複数個のRAまたはR4で置換されていてもよい)、または
-L-アリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)
であり、
R3は、それぞれ独立に、
-H、
-C
1~6アルキル、
-C
2~6アルケニル、
-C
2~6アルキニル、
-C
3~7シクロアルキル、
-C
3~7シクロアルケニル、
-C
1~5過フッ素化基、
-ヘテロシクリル、
-アリール、
-ヘテロアリール、または
-ベンジル
であり、
式中、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、過フッ素化アルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリールおよびベンジル基は、それぞれ独立に、1、2または3個のRAまたはRd置換基で置換されていてもよく、
R4は、それぞれ独立に、
-H、
-C
1~6アルキル、
-C
2~6アルケニル、
-C
2~6アルキニル、
-C
3~7シクロアルキル、
-C
3~7シクロアルケニル、
-C
1~5過フッ素化基、
-ヘテロシクリル、
-アリール、
-ヘテロアリール、または
-ベンジル
であり、
式中、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、過フッ素化アルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリールおよびベンジル基は、それぞれ独立に、1、2または3個のRAまたはRd置換基で置換されていてもよく、
R5は、それぞれ独立に、
-C
1~6アルキル、
-C
1~6アルキレン-C
2~6アルケニル(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)、
-C
1~6アルキレン-C
2~6アルキニル(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)、
-L-アリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基を含んでいてもよい)、
-L-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基を含んでいてもよい)、
-C
1~6アルキレン-C(O)O-、
-C
1~6アルキレン-C(O)OR1、
-C
1~6アルキレン-CN、
-C
1~6アルキレン-C(O)NR1R3(式中、R1およびR3は、窒素原子と一緒になって、N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい3~7員の環を形成してもよい)、または
-C
1~6アルキレン-OH
であり、
R6は、
-ハロゲン、
-OC(O)CF
3、または
-OC(O)R1
であり、
RAは、それぞれ独立に、
-ハロゲン、
-CF
3、
-OR1、
-L-OR1、
-OCF
3、
-SR1、
-CN、
-NO
2、
-NR1R3、
-L-NR1R1、
-C(O)OR1、
-S(O)
2R4、
-C(O)N(R1)R3、
-NR1C(O)R1、
-NR1C(O)OR1、
-OC(O)N(R1)R3、
-OC(O)R1、
-C(O)R4、
-NHC(O)N(R1)R3、
-NR1C(O)N(R1)R3、または
-N
3
であり、
Rdは、それぞれ独立に、
-H、
-C
1~6アルキル、
-C
2~6アルケニル、
-C
2~6アルキニル、
-C
3~7シクロアルキル、
-C
3~7シクロアルケニル、
-C
1~5過フッ素化基、
-ベンジル、または
-ヘテロシクリル
である]
を任意選択で少なくとも1つの細胞拡大因子(cell expanding factor)と一緒に用いて培養する工程と、
b)該培養された幹細胞および/または前駆体細胞集団を拡大させて移植片を生成する工程と、
c)該患者に該移植片を移植し、それにより、該患者においてDC細胞、NK細胞、またはそれらの組合せを拡大させる工程と
を含む方法が提供される。
【0017】
樹状(DC)細胞、ナチュラルキラー(NK)細胞、またはそれらの組合せを患者においてin vivoで拡大させるための、本明細書に定義の少なくとも1つの化合物を任意選択で少なくとも1つの細胞拡大因子と一緒に用いて培養された、拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片の使用も提供される。
【0018】
一実施形態において、DC細胞、NK細胞、またはそれらの組合せの拡大は、前記患者の免疫応答を刺激する。
【0019】
別の実施形態において、患者におけるDC細胞、NK細胞、またはそれらの組合せの拡大は、前記患者における重症の移植片対宿主病(GVHD)、再燃、および/または重症のウイルス感染症をさらに低減させる。
【0020】
一実施形態において、幹細胞および/または前駆体細胞は、ヒト造血幹細胞(HSC)である。
【0021】
別の実施形態において、造血幹細胞は、臍帯血細胞、動員末梢血細胞または骨髄細胞に由来するものである。
【0022】
さらなる一実施形態において、造血幹細胞は、ヒトさい帯血細胞に由来するものである。
【0023】
一実施形態において、幹細胞および/または前駆体細胞は、CD34+、CD38+、CD90+、CD45RA+、CD133および/またはCD49f+細胞を得るために精製される。
【0024】
別の実施形態において、CD34+細胞は、EPCR+細胞である。
【0025】
さらなる一実施形態において、NK細胞は、CD56+またはNKG2A+細胞である。
【0026】
別の実施形態において、DC細胞は、CD11c+である。
【0027】
一実施形態において、幹細胞および/または前駆体細胞は、少なくとも1つの細胞拡大因子を用いて培養される。
【0028】
別の実施形態において、該少なくとも1つの細胞拡大因子は、インターロイキン-3(IL-3)、顆粒球・マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)、トロンボポエチン(TPO)、FMS様チロシンキナーゼ3リガンド(FLT3-L)、幹細胞因子(SCF)、インターロイキン-6(IL-6)、またはそれらの組合せである。
【0029】
さらなる一実施形態において、幹細胞および/または前駆体細胞は、アリール炭化水素受容体(AHR)アンタゴニストを用いてさらに培養される。
【0030】
一実施形態において、AHRアンタゴニストは、Stem Regenin1(SR1)またはCH223191である。
【0031】
好ましい一実施形態において、式Iの化合物は、
【0032】
【0033】
別の実施形態において、式Iの化合物は、
【0034】
【0035】
補足的な一実施形態において、式Iの化合物は、
【0036】
【0037】
別の実施形態において、式Iの化合物は、
【0038】
【表1-1】
【表1-2】
【表1-3】
【表1-4】
【表1-5】
【表1-6】
【表1-7】
【表1-8】
またはその薬学的に許容される塩である。
【0039】
別の実施形態において、幹細胞および/または前駆体細胞は、バイオリアクターで拡大される。
【0040】
一実施形態において、患者は、ヒトまたは動物である。
【0041】
別の実施形態において、動物は、マウスである。
【0042】
さらなる一実施形態において、患者におけるウイルス感染症を治療する方法、または、患者におけるウイルス感染症を治療するための、本明細書に記載の拡大されている幹細胞および/または前駆体細胞の移植片の使用も包含される。
【0043】
一実施形態において、ウイルス感染症は、CMV感染症、EBV感染症またはアデノウイルス膀胱炎である。
【0044】
別の実施形態において、DC細胞および/またはNK細胞は、患者の体内に入って14日で、21日で、28日で、56日で、100日で、6カ月で、12カ月で、または18カ月で、拡大される。
【0045】
一実施形態において、炎症状態は、患者において制御される。
【0046】
一実施形態において、移植片は、樹状細胞集団を含む。
【0047】
別の実施形態において、樹状細胞集団は、CD86+CD34+細胞である。
【0048】
さらなる一実施形態において、移植片は、40~50%に相当する樹状細胞を含む。
【0049】
別の実施形態において、移植片は、1/3に相当する未熟樹状細胞を含む。
【0050】
一実施形態において、移植片は、肥満細胞を含む。
【0051】
別の実施形態において、移植片は、約10%に相当する肥満細胞を含む。
【0052】
好ましい一実施形態において、移植片は、FCER1+CD34+細胞、CD34+CD45RA+細胞、CD34+CD86+細胞、CD34+CD45RA-細胞およびCD34-細胞を含む。
【0053】
次に、添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【
図1】UM171が、未分化な樹状細胞前駆体のex vivo拡大を促進させることを示す図である。ここでは、さい帯血由来のCD34+細胞を、基剤(DMSO 0.1%)、SR1(500nM)またはUM171(35nM)を添加したHSC拡大培地にて7日間および14日間培養し、樹状細胞前駆細胞(precursor)(iDC:CD34+CD86+)の頻度をフロー(flow)により評価した。
【
図2】DMSO、SR1またはUM171を用いて拡大させ培養したさい帯血サンプル中で同定された細胞集団を示す図であり、移植片の独特の特徴が示されている。
【
図3】(A)臨床試験デザインを示す図である。(B)患者コホートの定義を示す図である。(C)70Kgの患者に標準的な選定基準を用いる場合のさい帯血の入手しやすさを示す図である。(D)コホート2の患者に用いた基準を用いる場合のさい帯血の入手しやすさを示す図である。(E)Hopital Maisonneuve-Rosemontにおける履歴データであり、CD34細胞用量(CBユニットの解凍後)と好中球生着までの時間との間の関係を示す図である。
【
図4】UM171CB患者におけるNK細胞の生着後の測定値を示す図であり、矢印は、移植後約2カ月時点での測定値を指している。
【
図5】(A)生着状態およびキメリズムを示すものであり、100個の好中球が生着するまでの時間を示す図である。(B)生着状態およびキメリズムを示すものであり、発熱の消失を示す図である。(C)生着状態およびキメリズムを示すものであり、UM171拡大CB細胞(青色)または無操作CB細胞(緑色)を移植した患者の入院期間を示す図である。(D)生着状態およびキメリズムを示すものであり、UM171拡大CBを移植した患者におけるさまざまな時点(日)での系統毎のキメリズムを示す図である。(E)生着状態およびキメリズムを示すものであり、UM171拡大CBを移植した患者と無操作CBを移植した患者との、3カ月および12カ月時点でのCD4計数値を比較した図である。(F)生着状態およびキメリズムを示すものであり、UM171拡大CBのレシピエントにおけるIgGレベルを示す図である。対照CB:無操作のさい帯血。
【
図6】UM171患者コホート(左)および同期間CBコホート(contemporary CB cohort)(右)におけるCB血液ユニットのHLA適合度を示す図であり、患者/CB血液ユニット間で6~7/8が適合した患者および4~5/8が適合した患者の割合を示している。
【
図7】(A)免疫抑制薬中止の累積発生率を示す図である。(B)移植関連死亡(TRM)の累積発生率を示す図である。(C)UM171拡大CBコホートおよび無操作CBコホートにおける全生存期間(OS)のKaplan-Meier推定値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
本開示によれば、UM171またはそのアナログを用いて拡大させたさい帯血移植片の移植後に、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、またはそれらの組合せをin vivoで拡大させる方法が提供される。
【0056】
したがって、患者においてin vivoで樹状(DC)細胞および/またはナチュラルキラー(NK)細胞を拡大させる方法であって、患者に投与される前の段階でUM171またはそれに由来するアナログを用いて培養されて拡大された幹細胞および前駆体細胞の移植片を生成する工程を含む方法が提供される。患者における樹状(DC)細胞およびナチュラルキラー(NK)細胞集団の拡大または増加は、結果として、移植関連死亡(TRM)、重症の移植片対宿主病(GVHD)、再燃、および/または重症のウイルス感染症を低減させる免疫応答の増加をもたらす。
【0057】
同種造血幹細胞(HSC)移植は、血液がん患者を治癒に導く利用可能な最良の治療法である。さい帯血(CB)は、最も魅力的な、幹細胞の源である。
【0058】
CD34+細胞のex vivo拡大を促進するプリン誘導体StemRegenin1(SR1)は、HSCを拡大させることはできたが、長期HSCの拡大を再現しないことは不可能であったことは公知である(Chenら、2012、Genes Dev.、26:2499~2511)。SR1に対する大きな懸念は、SR1がin vitroで白血病幹細胞の成長を支持する能力をもっていることである(Pabstら、2014、Nature Methods、11:436~442)。
【0059】
CB細胞のうちおよそ1%がCD34表面抗原を発現するが、この表面抗原は、短期または長期造血をもたらすさまざまな能力を有する幹細胞および前駆体細胞の特徴的なサブセットから構成されている。これらのサブセットは、成熟血球産生の早期かつ長期的な回復に、それぞれ異なる形で寄与する。生涯持続する造血再構築をもたらすことができるのは、長期HSCのみである。CB由来の短期HSC(前駆体細胞)のin vitro拡大は、移植後の好中球回復までの時間を劇的に短縮させる。しかし、今日までに記載されているex vivoでの細胞拡大戦略の大半は、長期HSCを失うという代償を払ってこの効果を達成しており、それにより、持続的な再構築に支障をきたし、晩期移植片不全のリスクを伴う。したがって、これらの戦略の多くは、長期生着を確実にするために、第2のCBの輸注を必要とする。きわめて対照的なことに、本明細書に記載および包含されている通り、CB由来の短期的に再増殖する細胞の増幅(amplifying)に使用される分子は、長期的に再増殖する細胞を枯渇させるのではなく同時に拡大させることが可能であり、拡大CBをシングルユニットで用いる道を開くものである。
【0060】
本明細書に包含されるUM171(米国特許第9,409,906号を参照されたい。同文献の内容は、参照により組み込まれる)は、未分化な細胞に対する活性を有する化合物であり、この活性は、当該化合物が培養系から除去されれば速やかに可逆的経過をたどる。UM171は、成長因子の非存在下で細胞増殖を独立に惹起させることはない。UM171は、有糸分裂を促進するのではなく、細胞分化を妨げるのである。UM171は、フェッドバッチ培養システム(fed-batch culture system)で試験した。成熟細胞がCD34+CB培養系中で生じると、その成熟細胞により、サイトカインに対する負の調節因子(negative cytokine regulator)がいくつか放出される(Csaszarら、2012、Cell stem cell、10:218~229)。本明細書に包含されるフェッドバッチは、内因性に産生される負の調節因子の低減をもたらす。このシステムは、必要とする培地がはるかに少なく(培養系は<1リットルである。これに対し大半の試験では10リットルである)、CB由来のHSCの維持をより良好に支持する。7日間培養は、細胞の質を最大化する上で最適である。重要なことは、フェッドバッチ培養は細胞操作を必要としない閉鎖システムであるため、汚染リスクが最小化され、細胞製品の製造への移行が容易になることである。
【0061】
本明細書に包含されているように、幹細胞および/または前駆体細胞の拡大は、前記細胞の拡大用の培養細胞などの生物学的に活性な環境を支持する任意の製造または設計された装置またはシステムからなるバイオリアクターにおいて実施することができる。
【0062】
したがって、さい帯血移植片の移植後に、本明細書に定義の一般式I:
【0063】
【化5】
の化合物またはその塩もしくはプロドラッグ
[式中、
各Yは、NおよびCHから独立に選択され、
Zは、-CN、-C(O)OR1、-C(O)N(R1)R3、-C(O)R1、または-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)であり、式中、(R1)およびR3が窒素原子と結合しているとき、(R1)およびR3はその窒素原子と一緒になって、N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい3~7員の環を形成してもよく、その環は1個または複数個のRAまたはR4で置換されていてもよく、
Wは、-CN、-N(R1)R3、-C(O)OR1、-C(O)N(R1)R3、-NR1C(O)R1、-NR1C(O)OR1、-OC(O)N(R1)R3、-OC(O)R1、-C(O)R1、-NR1C(O)N(R1)R3、-NR1S(O)
2R1、-ベンジル(1、2または3個のRAまたはR1置換基で置換されていてもよい)、-X-L-(X-L)n;-N(R1)R3、-X-L-(X-L)n-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよく、置換基はLおよびヘテロアリール基のいずれかまたは両方に結合している)、-X-L-(X-L)n-ヘテロシクリル(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよく、置換基はLおよびヘテロシクリル基のいずれかまたは両方に結合している)、-X-L-(X-L)n-アリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)、-X-L-(X-L)
n-NR1RA、または-(N(R1)-L)
n-N
+R1R3R5R6
-であり、
式中、nは、0、1、2、3、4または5のいずれかに等しい整数であり、
式中、R1およびR3が窒素原子と結合しているとき、R1およびR3はその窒素原子と一緒になって、N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい3~7員の環を形成してもよく、その環は1個または複数個のRAまたはR4で置換されていてもよく、
各Xは、C、O、SおよびNR1から独立に選択され、
Lは、それぞれ独立に、-C
1~6アルキレン、-C
2~6アルケニレン、-C
2~6アルキニレン、-C
3~7シクロアルキレン(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)、または-C
3~7シクロアルケニレン(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)であり、式中、アルキレン、アルケニレン、アルキニレン、シクロアルキレンおよびシクロアルケニレン基は、それぞれ独立に、1個または2個のR4またはRA置換基で置換されていてもよく、
R1は、それぞれ独立に、-H、-C
1~6アルキル、-C
2~6アルケニル、-C
2~6アルキニル、-C
3~7シクロアルキル、-C
3~7シクロアルケニル、-C
1~5過フッ素化基、-ヘテロシクリル、-アリール、-ヘテロアリール、または-ベンジルであり、式中、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルケニル、過フッ素化アルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリールおよびベンジル基は、それぞれ独立に、1、2または3個のRAまたはRd置換基で置換されていてもよく、
R2は、-H、-C
1~6アルキル(1個または複数個のRA置換基で置換されていてもよい)、-C(O)R4、-L-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)、-L-ヘテロシクリル(1個または複数個のRAまたはR4で置換されていてもよい)、または-L-アリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)、であり、
R3は、それぞれ独立に、-H、-C
1~6アルキル、-C
2~6アルケニル、-C
2~6アルキニル、-C
3~7シクロアルキル、-C
3~7シクロアルケニル、-C
1~5過フッ素化基、-ヘテロシクリル、-アリール、-ヘテロアリール、または-ベンジルであり、式中、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、過フッ素化アルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリールおよびベンジル基は、それぞれ独立に、1、2または3個のRAまたはRd置換基で置換されていてもよく、
R4は、それぞれ独立に、-H、-C
1~6アルキル、-C
2~6アルケニル、-C
2~6アルキニル、-C
3~7シクロアルキル、-C
3~7シクロアルケニル、-C
1~5過フッ素化基、-ヘテロシクリル、-アリール、-ヘテロアリール、または-ベンジルであり、式中、アルキル、アルケニル、アルキニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、過フッ素化アルキル、ヘテロシクリル、アリール、ヘテロアリールおよびベンジル基は、それぞれ独立に、1、2または3個のRAまたはRd置換基で置換されていてもよく、
R5は、それぞれ独立に、-C
1~6アルキル、-C
1~6アルキレン-C
2~6アルケニル(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)、-C
1~6アルキレン-C
2~6アルキニル(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)、-L-アリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基を含んでいてもよい)、-L-ヘテロアリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基を含んでいてもよい)、-C
1~6アルキレン-C(O)O-、-C
1~6アルキレン-C(O)OR1、-C
1~6アルキレン-CN、-C
1~6アルキレン-C(O)NR1R3(式中、R1およびR3は、窒素原子と一緒になって、N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい3~7員の環を形成してもよい)、または-C
1~6アルキレン-OHであり、
R6は、ハロゲン、-OC(O)CF
3、または-OC(O)R1であり、
RAは、それぞれ独立に、-ハロゲン、-CF
3、-OR1、-L-OR1、-OCF
3、-SR1、-CN、-NO
2、-NR1R3、-L-NR1R1、-C(O)OR1、-S(O)
2R4、-C(O)N(R1)R3、-NR1C(O)R1、-NR1C(O)OR1、-OC(O)N(R1)R3、-OC(O)R1、-C(O)R4、-NHC(O)N(R1)R3、-NR1C(O)N(R1)R3、または-N
3
であり、
Rdは、それぞれ独立に、-H、-C
1~6アルキル、-C
2~6アルケニル、-C
2~6アルキニル、-C
3~7シクロアルキル、-C
3~7シクロアルケニル、-C
1~5過フッ素化基、-ベンジル、または-ヘテロシクリルである]
を用いて、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、またはそれらの組合せをin vivoで拡大させる方法が包含される。
【0064】
一実施形態において、Zは、-C(O)OR1、または-ヘテロアリール(1個もしくは複数個のRAもしくはR1置換基で置換されていてもよい)であり、R2は、H、-C1~6アルキル(1個もしくは複数個のRA置換基で置換されていてもよい)、または-L-アリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)であり、Wは、-N(R1)R3であり、式中、R1は、RAにより置換されているC3~7シクロアルキルであり、R3は、Hである。
【0065】
一実施形態において、Zは、-C(O)O-C1~4アルキルまたは5員環ヘテロアリールであり、このヘテロアリールは2~4個のヘテロ原子(NまたはO)を含み、R2は、H、または-L-アリール(ハロゲンにより置換されていてもよい)、OR1、C1~6アルキル(RAにより置換されていてもよい)、-C(O)R4、-ヘテロシクリル、-C(O)OR4、またはC2~6アルキニルであり、Wは、-N(R1)R3であり、式中、R1は、RAにより置換されているシクロヘキシルであり、R3は、Hである。
【0066】
一実施形態において、Zは、COOMe、COOEt、テトラゾールまたはオキサジアゾールである。
【0067】
一実施形態において、R2は、H、または-CH2-アリール(ハロゲンにより置換されていてもよい)、OR1、C1~6アルキル(RAにより置換されていてもよい)、-C(O)R4、-ヘテロシクリル、-C(O)OR4、またはC2~6アルキニルであり、式中、アリールは、フェニルである。
【0068】
一実施形態において、R2は、H、-C1~6アルキレン-ヘテロアリール、または-C1~6アルキレン-アリール(1個または複数個のRAまたはR4置換基で置換されていてもよい)である。
【0069】
別の実施形態によれば、化合物は、式I、IAまたはIIAの化合物であり、式中、Zは、CO2Meまたは2-メチル-2H-テトラゾール-5-イルであり、
【0070】
R2は、ベンジルまたはHであり、
【0071】
Wは、NH-L-N(R1)R3であり、式中、Lは、C2~4アルキレンまたはC3~7シクロアルキレンであり、R1およびR3は、C1~4アルキルもしくはHであるか、または、R1およびR3は、それらが結合している窒素原子と一緒になって3~7員の環(N、OおよびSから選択される1個または複数個の他のヘテロ原子を含んでいてもよい)を形成し、その環は1個または複数個のRAまたはR4で置換されていてもよい。
【0072】
別の実施形態によれば、化合物は、式Iの化合物であり、式中、Wは、
【0073】
【0074】
本明細書において開示する式Iの化合物(以下に記載の代表的な化合物を含む)は、その調製および特徴付けを含め、参照によりその内容の全体が組み込まれるPCT公開番号WO2013/110198号、ならびに、後述する合成法のセクションに記載されている。
【0075】
本明細書において、「アルキル」という用語は、特定数の炭素原子を有する分枝鎖および直鎖両方の飽和脂肪族炭化水素基を含むものとする。例えば、C1~C6アルキルにおけるC1~C6は、直鎖状または分枝状の飽和配列の1、2、3、4、5または6個の炭素を有する基を含むと定義される。上記定義のC1~C6アルキルの例は、メチル、エチル、n-プロピル、i-プロピル、n-ブチル、t-ブチル、i-ブチル、ペンチル、およびヘキシルなどであるが、これらに限定されない。
【0076】
本明細書において、「シクロアルキル」という用語は、特定数の炭素原子を基中に有する単環式飽和脂肪族炭化水素基を意味するものとする。例えば、C3~C7シクロアルキルにおけるC3~C7は、単環式飽和配列の3、4、5、6または7個の炭素を有する基を含むと定義される。上記定義のC3~C7シクロアルキルの例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシルおよびシクロヘプチルなどであるが、これらに限定されない。
【0077】
本明細書において、「アルケニル」という用語は、特定数の炭素原子を基中に有し、その炭素原子のうちの少なくとも2個が二重結合によって互いに結合され、EまたはZの位置化学のいずれかおよびそれらの組合せを有する不飽和直鎖または分枝鎖炭化水素基を意味するものとする。例えば、C2~C6アルケニルにおけるC2~C6は、直鎖状または分枝状配列の2、3、4、5または6個の炭素を有し、その炭素原子のうちの少なくとも2個が二重結合によって一緒に結合されている基を含むと定義される。C2~C6アルケニルの例は、エテニル(ビニル)、1-プロペニル、2-プロペニル、1-ブテニルなどであるが、これらに限定されない。
【0078】
本明細書において、「アルキニル」という用語は、特定数の炭素原子を基中に有し、少なくとも2個の炭素原子が三重結合によって一緒に結合されている不飽和直鎖炭化水素基を意味するものとする。例えば、C2~C4アルキニルは、2、3または4個の炭素原子を鎖中に有し、その炭素原子のうちの少なくとも2個が三重結合によって一緒に結合されている基を含むと定義される。そのようなアルキニルの例は、エチニル、1-プロピニル、2-プロピニルなどであるが、これらに限定されない。
【0079】
本明細書において、「シクロアルケニル」という用語は、特定数の炭素原子を基中に有する単環式飽和脂肪族炭化水素基を意味するものとする。例えば、C3~C7シクロアルケニルにおけるC3~C7は、単環式配列の3、4、5、6または7個の炭素を有する基を含むと定義される。上記定義のC3~C7シクロアルケニルの例は、シクロペンテニル、シクロヘキセニルなどであるが、これらに限定されない。
【0080】
本明細書において、「ハロ」または「ハロゲン」という用語は、フッ素、塩素、臭素またはヨウ素を意味するものとする。
【0081】
本明細書において、「ハロアルキル」という用語は、上記定義のアルキルにおいて、各水素原子がハロゲン原子によって逐次的に置き換えられていてもよいアルキルを意味するものとする。ハロアルキルの例は、CH2F、CHF2およびCF3などであるが、これらに限定されない。
【0082】
本明細書において、「アリール」という用語は、単独でもまたは別の基との組合せでも、6個の炭素原子を含有する炭素環式芳香族単環基を意味し、芳香族、飽和または不飽和でありうる第二の5または6員炭素環式基にさらに縮合されていてもよい。アリールの例は、フェニル、インダニル、1-ナフチル、2-ナフチル、テトラヒドロナフチルなどであるが、これらに限定されない。アリールは、シクロアルキル環または芳香環いずれかの適切な位置で別の基に接続されていてもよい。
【0083】
本明細書において、「ヘテロアリール」という用語は、10個までの原子からなる単環式または二環式環系であって、少なくとも1つの環は芳香族であり、O、NおよびSからなる群から選択される1個から4個までのヘテロ原子を含有する単環式または二環式環系を意味するものとする。ヘテロアリールは、環炭素原子か、または、ヘテロ原子のうちの1つかを介して結合していることがある。ヘテロアリールの例は、チエニル、ベンズイミダゾリル、ベンゾ[b]チエニル、フリル、ベンゾフラニル、ピラニル、イソベンゾフラニル、クロメニル、キサンテニル、2H-ピロリル、ピロリル、イミダゾリル、ピラゾリル、ピリジル、ピラジニル、ピリミジニル、ピリダジニル、インドリジニル、イソインドリル、3H-インドリル、インドリル、インダゾリル、プリニル、4H-キノリジニル、イソキノリル、キノリル、フタラジニル、ナフチリジニル、キノキサリニル、キナゾリニル、シンノリニル、プテリジニル、イソチアゾリル、イソクロマニル、クロマニル、イソキサゾリル、フラザニル、インドリニル、イソインドリニル、チアゾロ[4,5-b]-ピリジン、テトラゾリル、オキサジアゾリル、チアジアゾリル、チエニル、ピリミドインドリル、ピリドインドリル、ピリドピロロピリミジニル、ピロロジピリジニルおよびフルオロセイン誘導体などであるが、これらに限定されない。
【0084】
本明細書において、「複素環」、「複素環式」または「ヘテロシクリル」という用語は、O、NおよびSからなる群から選択される1個から4個までのヘテロ原子を含有する3、4、5、6または7員の非芳香族環系を意味するものとする。複素環の例は、ピロリジニル、テトラヒドロフラニル、ピペリジル、3,5-ジメチルピペリジル、ピロリニル、ピペラジニル、イミダゾリジニル、モルホリニル、イミダゾリニル、ピラゾリジニル、ピラゾリニル、テトラヒドロ-1H-チエノ[3,4-d]イミダゾール-2(3H)-オン、ジアジリニルなどであるが、これらに限定されない。環への結合は、例えば以下に記載されている環の窒素原子または炭素原子におけるものでありうる。
【0085】
【0086】
本明細書において、「1個または複数個の置換基で置換されていてもよい」という用語またはその等価用語である「少なくとも1個の置換基で置換されていてもよい」とは、その後に記載されている状況の事象が起こっても起こらなくてもよいこと、ならびに、その記載には、事象または状況が起こる場合およびそれが起こらない場合が含まれることを意味するものとする。定義は、0から5個までの置換基を意味するものとする。
【0087】
本明細書において、「対象」または「患者」という用語は、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物、例えば霊長類、ネコ、イヌ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ウマ、ウサギ、ラット、マウスなどを意味するものとする。
【0088】
置換基自体が本明細書に記載の合成方法に合わない場合には、その置換基を、これらの方法で用いられる反応条件に対して安定な適切な保護基(PG)によって保護できる。保護基は、所望の中間体または標的化合物を得るために、方法の反応順序の適切な時点で除去できる。適切な保護基およびそのような適切な保護基を用いてさまざまな置換基を保護および脱保護するための方法は当業者には周知である。その例は、T.GreeneおよびP.Wuts、「Protecting Groups in Chemical Synthesis」(第4版)、John Wiley&Sons、NY(2007)に見出すことができ、同文献は参照によってその全体が本明細書に組み込まれる。全体を通して使用されている保護基の例は、Fmoc、Bn、Boc、CBzおよびCOCF3などであるが、これらに限定されない。場合によっては、置換基を、本明細書に記載の方法に用いられている反応条件下で反応性であるように特に選択することもある。こうした状況下では、反応条件が、選択された置換基を、本明細書に記載の方法における中間体化合物に有用であるか、または標的化合物における所望の置換基であるかのいずれかである別の置換基に変換させる。
【0089】
本明細書において、「薬学的に許容される塩」という用語は、酸付加塩および塩基付加塩の両方を意味するものとする。
【0090】
本明細書において、「薬学的に許容される酸付加塩」という用語は、生物学的にまたはその他の点で有害ではない遊離塩基の生物学的有効性および性質を保持している酸付加塩を意味するものとし、そのような酸付加塩は、無機酸、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など、および有機酸、例えば、酢酸、トリフルオロ酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、マレイン酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、桂皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、サリチル酸などを用いて形成される。
【0091】
本明細書において、「薬学的に許容される塩基付加塩」という用語は、生物学的にまたはその他の点で有害ではない遊離酸の生物学的有効性および性質を保持している塩基付加塩を意味するものとする。このような塩基付加塩は、遊離酸に無機塩基または有機塩基が付加されることにより調製される。無機塩基から誘導された塩は、ナトリウム、カリウム、リチウム、アンモニウム、カルシウム、マグネシウム、鉄、亜鉛、銅、マンガン、アルミニウム塩などであるが、これらに限定されない。有機塩基から誘導された塩は、第一級、第二級、および第三級アミン、天然置換アミンを含む置換アミン、環状アミンおよび塩基性イオン交換樹脂、例えば、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2-ジメチルアミノエタノール、2-ジエチルアミノエタノール、ジシクロヘキシルアミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン、カフェイン、プロカイン、ヒドラバミン、コリン、ベタイン、エチレンジアミン、グルコサミン、メチルグルカミン、テオブロミン、プリン、ピペラジン、ピペリジン、N-エチルピペリジン、ポリアミン樹脂などの塩を含むが、これらに限定されない。
【0092】
本明細書に包含される化合物またはその薬学的に許容される塩は、1つまたは複数の不斉中心、キラル軸およびキラル面を含有しうることから、エナンチオマー、ジアステレオマーおよびその他の立体異性体を生じうる。それらは、例えば(R)-もしくは(S)-、または、アミノ酸の場合は(D)-もしくは(L)-など、絶対立体化学の観点から定義してもよい。本発明は、すべてのそのような可能な異性体のほか、それらのラセミ体および光学的に純粋な形態も含むものとする。光学活性(+)および(-)、(R)-および(S)-、または(D)-および(L)-異性体は、キラルシントンもしくはキラル試薬を用いて調製することも、または、逆相HPLCなどの従来技術を用いて分割することもできる。ラセミ混合物を調製し、その後で個々の光学異性体に分離することもできるが、これらの光学異性体をキラル合成によって調製することもできる。エナンチオマーは、当業者に公知の方法により分割でき、例えば、ジアステレオマー塩を形成し、次いでそれを結晶化、気-液または液体クロマトグラフィー、一方のエナンチオマーとエナンチオマー特異的試薬との選択的反応によって分離することが可能である。当業者には、所望のエナンチオマーが分離技術によって別の化学物質に変換された場合、所望のエナンチオマー形を形成するためには追加の工程を次いで行う必要があることは理解されよう。代替的には、特定のエナンチオマーは、光学活性試薬、基質、触媒もしくは溶媒を用いる不斉合成によって、または、一方のエナンチオマーを不斉転換により他方に変換させることによって合成することもできる。
【0093】
本明細書に包含される一定の化合物は、エピマーの混合体として存在することもある。エピマーは、それぞれの化合物に存在する2つ以上の立体中心のうちの1カ所のみで反対の立体配置を有するジアステレオ異性体を意味する。
【0094】
本明細書に包含される化合物は双性イオン形で存在することもあり、本発明はこれらの化合物の双性イオン形およびその混合物を含む。
【0095】
さらに、本明細書に包含される化合物は、水和物形および無水物形でも存在しうる。本明細書に記載のいずれかの式の化合物の水和物も含まれる。さらなる一実施形態において、本明細書に記載のいずれかの式による化合物は、一水和物である。いくつかの実施形態において、本明細書に記載の化合物は、約10%以下、約9%以下、約8%以下、約7%以下、約6%以下、約5%以下、約4%以下、約3%以下、約2%以下、約1%以下、約0.5%以下、約0.1%以下(重量比)の水を含む。他の実施形態において、本明細書に記載の化合物は、約0.1%以上、約0.5%以上、約1%以上、約2%以上、約3%以上、約4%以上、約5%以上、または約6%以上(重量比)の水を含む。
【0096】
本化合物をプロドラッグの形態で調製する、精製するおよび/または取り扱うことが便利であるまたは望ましい場合がある。したがって、本明細書において「プロドラッグ」という用語は、代謝されると(例えばin vivoで)所望の活性化合物を生じる化合物に関係する。典型的には、プロドラッグは不活性である、または所望の活性化合物よりも低活性であるが、有利な取扱い、投与または代謝特性をもたらしうる。特に明記しない限り、特定の化合物への言及には、そのプロドラッグも含まれる。
【0097】
一実施形態において、式Iの化合物、より詳細にはUM171または誘導体は、単球由来のAML細胞系を未熟な、さらには成熟した機能的DCに分化させるために、単独で、またはAHRと組み合わせて、使用することができる。
【0098】
UM171は、以下の構造の通りである。
【0099】
【0100】
したがって、以下の化合物も包含される。
【0101】
【表2-1】
【表2-2】
【表2-3】
【表2-4】
【表2-5】
【表2-6】
【表2-7】
【表2-8】
【表2-9】
【実施例】
【0102】
フェッドバッチシステム中のUM171は、すべてのHSCを包含する重要な亜集団であるCD34+CD45RA-細胞の有意な拡大をもたらし、これには、長期的に再増殖する細胞(移植実施の20~30週間後にNSGマウスを再構築する能力の有無により決まる)、および、好中球生着までの時間を決定するCFU-GEMM(顆粒球・赤血球・単球・巨核球コロニー形成ユニット(colony forming unit-granulocyte, erythrocyte, monocyte and megakaryocyte))前駆体などの短期的に再増殖する細胞が含まれる。CD34+CD45RA-、および、CD34+以外の表現型は、HSCの拡大をモニタリングするための最良の代替パラメーター(surrogate parameter)である。DMSOを用いたフェッドバッチシステムで拡大に供されている細胞は、12日後には、CD34+の発現率が100%から10%未満に低下している成熟細胞に分化する。
【0103】
図1でわかるように、ヒトCD34+前駆体をさい帯血サンプルから精製し、UM171を用いて2週間培養した場合、前記化合物は、未分化な樹状細胞前駆体のex vivoでの富化を促進し、例としてSR1と比較すると、結果として新しい移植片をもたらす(
図2)。他の分子(SR1など)に曝露された際に拡大および発生する細胞集団は、UM171を用いた場合に得られる細胞集団とは異なる。樹状細胞の集団(CD86
+CD34
+)は、UM171拡大さい帯血(UM171 expanded cord blood)中の移植片の40~50%を占めるが、SR1拡大さい帯血中に占める割合は5%未満であり、無処置のさい帯血中では検出できない。UM171処置は移植片組成を劇的に変化させ、未熟樹状細胞を500倍増加させることとなった。FceR1Aおよびc-Kitを発現する肥満細胞もUM171曝露により選択的に増幅され、移植片のおよそ10%を占めた(拡大率は>8000倍)。
【0104】
UM171/フェッドバッチに備わる、短期HSCおよび長期HSCを先例のないレベル(拡大率>1000倍)にまで拡大させる能力は、迅速で持続的な生着をもたらす。安全性、実現可能性、患者における生着および免疫再構築について、ここで説明する。
【0105】
22名の患者からなるコホートを対象に、UM171/フェッドバッチシステムを用いて得た拡大CBユニットが、好中球回復<21日での持続的な生着をもたらす可能性について試験した。用量の減量は、CD34
+の輸注用量と臨床的に許容される21日時点以内の好中球回復との間の強い相関を考慮に入れるCoxモデリングに基づくWald検定によって進めた。安全上の理由から、最低限、i)5×10
5/kgのCD34
+生細胞、およびii)1×10
6/kgのCD3
+生T細胞を輸注しなければならない。これらの値を実現できなかった、または出荷基準を満たしていない場合には、2回目のCBを注入した(
図3A)。
【0106】
コホートの説明および拡大前のCB選定基準は、以下の通りである:
コホート1:TNC≧2.0×10
7/kgおよびCD34
+≧1.0×10
5/kg、
コホート2:TNC≧1.5×10
7/kgおよびCD34
+≧0.5×10
5/kg、ならびに
コホート3:TNC≧1.25×10
7/kgおよびCD34
+≧0.25×10
5/kg。
コホート1からコホート2へ移るには、最低3名の患者が、解凍時点でCD34+を<2.0×10
5cells/kg有するシングルユニット分のUM171拡大CBを輸注してから18日以内に生着を得なければならないこととした。コホート2からコホート3へ移るには、最低3名の患者が、解凍時点でCD34+を<1.0×10
5cells/kg有するシングルユニット分のUM171拡大CBを輸注してから18日以内に生着を得なければならないこととした(
図3B)。コホート2では、バンクに保管されているCBユニットの47%を利用できるようになったが、これに対し、無拡大のCBを用いた場合は、わずか5%であった(
図3Cおよび
図3D)。
【0107】
好中球生着と、輸注したCD34
+生細胞の用量との間の強い関係に基づいて、患者の小規模コホート内でCD34
+細胞用量の減量が安全に臨床的に達成可能であるかどうかを推定することができる。例えば、3×10
5/kgを超えるCD34
+生細胞の細胞用量ではきわめて速やかな生着が予測される一方、0.5×10
5/kg未満のレベルでは、生着は遅くなる(
図3E)。
【0108】
これ以降、22名の患者(1~22の番号を付けた)は、シングルユニット分のUM171さい帯の輸注を受けた(N=22)。追跡中央値は、18カ月である(患者1~22について1~28カ月の幅がある)。結果は、無操作のさい帯血を同じ施設で連続移植された患者(対照CB)と比較した。≧1×10
5cells/kgのCD34
+生細胞の輸注で21日以内での好中球生着が確認されたことから、この量で輸注を行った(
図3E)。加えて、今回の治験に参加している患者と同じ、ATGなしの移植前処置を受けたCB単独対照は、対照群に含めた。
【0109】
CB選定プロセスは、ばらつきを回避するために標準化した。試験のために選定したCBを、患者がプロトコールに準拠しない場合に選定したCB(複数)と比較した。これにより、HLA適合度の改善、およびダブルユニットCBの必要性の減少を実証することが可能になった。
【0110】
拡大用のCBは、購入し、製造センターに送った(最初の10名の患者用のFHCRC、および、次の15名の患者用のCETC)。CBを解凍し、CD34+細胞の選定に供した。CD34+細胞は、成長因子を用いてフェッドバッチで7日間培養し、次いでこれを洗浄し凍結保存したものを移植センターに送った。CD34-細胞は、凍結保存し、移植時に患者に輸注した。すべての細胞製品は、工程毎に生存能および表現型についてアセスメントし、出荷基準には、無菌状態、マイコプラズマ、エンドトキシン、CD34+拡大率最低10倍、および生存率>70%が含まれた。
【0111】
患者は、所定の骨髄破壊的前処置を受けた(Barkerら、2005、Blood、105:1343~1347;Oranら、2001、Biology of blood and marrow transplantation:Journal of the American Society for Blood and Marrow Transplantation、17:1327~1334)。移植当日に拡大CBを輸注し、CD4製品は翌日輸注した。GVHD予防薬は、ミコフェノール酸モフェチルおよびシクロスポリンで構成されていた。予想外の合併症が生じていないことを確認するために、患者を最低3年間追跡する。患者は、標準化された支持療法を受けている。
【0112】
下記の表1でわかるように、細胞数は、移植片の移植実施後14、21、28、56、100日目、6カ月目および12カ月目に測定した。抗体のパネルを選んで、骨髄系統およびリンパ系統の生着をどちらも評価できるように測定した。具体的には以下である:
-CD45+CD3+は、リンパT細胞である
-CD56+NKP46+またはNKG2A+は、公知のNK細胞である。
【0113】
表1は、血液1μl当たりで測定した細胞の数をμl/血液±5%で表したものである。
【0114】
【0115】
見てわかるように、NK細胞の急増(flare)または拡大が、移植実施後21日目と、12カ月時点で初期の数に戻ったときとの間で、患者においてin vivoで測定された。
図4でわかるように、患者において測定されたNK細胞の拡大の程度は、生着後2カ月時点(
図4の矢印を参照されたい)の方が、これまでに報告されているデータより有意に高い(Lucchiniら、2015、Cytotherapy、17:711~722を参照されたい)。
【0116】
樹状細胞の2つのサブセットであるCD11c+CD14+細胞およびCD11c+CD14-細胞のレベルを測定すると、同様の急増または拡大が観察される(表2)。
【0117】
【0118】
UM171拡大細胞を移植した患者において測定された、ナチュラルキラー細胞および樹状細胞のin vivoでの急増は、免疫抑制活性を有し、GVH反応を防止し、移植片寛容を可能にする。免疫細胞回復は、UM171拡大さい帯を用いた場合の方が早く、このことは、造血細胞移植後(HCT後)感染症および再燃を減少させるために重要である。したがって、UM171は、炎症促進応答および抗炎症応答を調整し炎症状態の制御を助けることにより、HSCおよび前駆体細胞の拡大を促進する。
【0119】
好中球回復の累積発生率は100%であり、好中球が100個になるまでの時間中央値および500個になるまでの時間中央値はそれぞれ、9.5(8~23)日および18(10~30)日であった(
図5A)。対照CBでは、好中球が100個になるまでの時間中央値は11.5日であったが、好中球が500個になるまでの時間は、19日であった。興味深いことに、好中球100個を達成することは、CD34細胞用量とは無関係であった。晩期移植片不全は一例も生じず、ほぼすべての患者は、移植後6カ月および12カ月時点で血小板が≧100個、好中球が≧1500個、およびヘモグロビンが≧100個になっていた。迅速な生着は、UM171患者において、移植実施後の発熱の消失を早め、入院期間を短期化させる結果をもたらした(
図5Bおよび
図5C)。
【0120】
さまざまな細胞集団、特に、CD3、CD56、CD19、CD14およびCD33のキメリズム解析から、患者は、すべての細胞系においてドナー生着率100%を速やかに達成したことが明らかになった(
図5D)。
【0121】
10カ月超に及ぶ追跡の後、患者16名のうち2名のみにグレードIIIの急性GVHDが認められ(どちらもステロイドに迅速に応答した)、中等症から重症の慢性GVHDは一例も認められなかったと報告されている。興味深いことに、ウイルス感染性の合併症(例えば、CMV、EBV、アデノウイルス膀胱炎)はほとんど認められず、これらの患者における免疫応答がロバストであることが示された。EBVウイルス血症(EBV viremia)の自然消失が、移植実施前から感染していた患者3名のうち2名において認められた(表3)。
【0122】
【0123】
したがって、11名の患者はCMV血清学的検査において陽性であり、6名は治療を行う必要があるウイルス血症を発症したが、CMV病を生じた例はなかった。D+25より前に生じているアデノウイルス膀胱炎早期発症の2例は、シドフォビル静脈内投与による治療を行う必要があった。3名の患者は、EBVウイルス血症の治療のために、リツキシマブの投与を受けた。PTLDの発症例はなかった。ニューモシスチス肺炎(PJP)が2例生じ、1例目の患者は、>2カ月にわたって予防を行ったためにノンコンプライアンスであり、2例目の患者は、アトバコン耐性PJPが発生していた施設において、アトボコン(atovoquone)予防薬を使用中であった。皮節性の帯状疱疹が2例あったが、どちらも予防薬を休薬中であった。侵襲性真菌感染症、トキソプラズマ症またはHHV6感染症は一例も確認されなかった。3、6および12カ月時点でのCD4/μl中央値は、それぞれ、196、301および413であった(
図5E)。D+100までにCD4計数値50を達成しなかった患者は1名のみであった。3、6、12カ月時点でのIgG中央値は、それぞれ、5.9、7.3および7.3g/Lであった(正常値:5.5~16.3)(
図5F)。
【0124】
さい帯血の標準的な選定基準(TNC≧2.0×10
7/kgおよびCD34≧1.7×10
5/kg)と比較した場合、22名中12名の患者は、最小細胞用量の基準が低くなっていたことから、より良好なHLA適合度のさい帯を得た。こうして、>75%の患者に、HLA適合度が6~7/8(5名は5/8、15名は6/8、2名は7/8)のCBを移植した(
図6)。細胞用量が十分なHLA適合CBが同定できなかったという理由で治験から除外された患者はいなかった。
【0125】
移植後12カ月時点で、免疫抑制療法を中止していた者は、UM171CB患者では85%であったのに対し、対照CB患者では72%であった(
図7A)。全体では、1名の患者がびまん性肺胞出血で死亡しており、1年時点でのTRMの累積発生率については、UM171CBコホートでは5%(95%CI:1~31%)であったのに対し、対照CBコホートでは25%(95%CI:12~54)であった(
図7B)。12カ月時点でのOSは90%(95%CI:67~98)であり、これに対して対照CBでは75%(95%CI:49~87)であった(
図7C)。
【0126】
本試験で、シングルユニット分の、より小規模でHLA適合度がより良好なUM171拡大CBを患者に移植した場合にはCB移植実施による罹病および死亡のリスクが低下するであろうことを実証する。この目的を達成するために第I相~第II相臨床試験を実施したところ、主要評価項目である実現可能性(拡大失敗は1つのさい帯で認められたが、元から異常が内在していた疑いがある)、TRMが5%の安全性、および生着が迅速な、より小規模でHLA適合度がより良好なさい帯の使用が実証された。
【0127】
さらに、迅速(<D+18)でロバストかつ持続的な好中球生着が確実に得られ、移植片不全を生じることはなかった。さらに、好中球100個の回復がきわめて早期に(D+10)達成されたことにより、発熱性好中球減少症の速やかな消失(D+7.5)、および入院の短期化(UM171CBでは35日間であったのに対し、CB対照では47日間)がもたらされたが、この日数は、従来の同種移植の場合にみられる日数と同程度であった[BM(bone marrow、骨髄)では29.5日、および、PB(peripheral blood、末梢血)では33日]。好中球500個の回復がより迅速に得られることから、UM171患者の退院は、BM-PBと比較して早まることが期待されよう。
【0128】
さい帯血はT細胞免疫再構築の不足および遅延を伴うと以前から考えられているが、その理由の少なくとも一部は、輸注されるT細胞がナイーブであること、および、記憶T細胞の欠損がウイルス感染リスクの増加の一因となることである。本明細書に記載の拡大手順では記憶T細胞を移すことをせず、平均T細胞消失率が33%であるにもかかわらず、CD4回復は、無操作CB移植に比して少なくとも同程度に早い(
図4E)。CD4回復は、感染性合併症だけでなくTRMおよび再燃の予防にとっても重要であることが示されている。小児におけるCB移植実施においては、Admiraalら(2016、Blood、128:2734~2741)は、D+100までにCD4計数値で50個が達成されない場合、再燃のリスクは、AMLでは100%(対24%)、TRMでは31%(対11%)、およびOSでは56%(対73%)であったと報告した。本明細書に記載されている22名の患者からなるコホートでは、D+100までにCD4計数値で50個が達成されていなかったのはわずか1名であった。本治験における迅速な免疫回復により、重症のウイルス感染症は発生せず、CMV病もPTLDも認められないこととなった。さらに、EBVウイルス血症のための治療を受けた3名の患者のうち2名は、リツキシマブの投与を受ける前の時点でEBV力価が閾値未満にすでに改善していた。
【0129】
CB移植実施において予想されるTRMは従来の移植の場合より高いが、その理由は、好中球および免疫再構築がより遅く、移植片不全のリスクはより高いことである。高頻度のTRMおよび入院の長期化は、CBに対する関心が低下しハプロ同一移植を用いることが増えている主な理由である。HCT-CIは、移植実施におけるTRMを予測するための最良の検証済みの指標である。HCTCIが<3および≧3である場合、CBを用いた場合のTRMはそれぞれ26%および50%であると報告されている。本治験におけるHCT-CI中央値は2であり、スコアが≧3の患者は8名(38%)であった。したがって、5%というTRMはきわめて低いものであることがわかる。TRMの低さを説明し裏付ける理由は、以下の通り多数ある:i)D+18時点で速やかな好中球回復が認められ、きわめて速やかに好中球100個に到達していること、ii)HLA適合度がより良好であり、≧6/8の対立遺伝子が適合するCBの移植を受けた患者が>75%であったこと、iii)移植片不全のリスクがきわめて低いこと、iv)ATGを使用していないこと、v)迅速な免疫再構築により重症のウイルス感染症のリスクが低くなること、およびvi)ステロイド不応性GVHDがみられなかったこと。CB移植実施に伴うTRMが12カ月を超えてから生じることは、慢性GVHDの発生率が低いことから稀であり、したがって、本明細書に記載されているTRMが、より長く追跡を行うことで劇的に増加する可能性は低い。
【0130】
要約すると、高リスクの血液学的悪性腫瘍や複数の併存疾患を有する患者を対象にした、シングルユニット分のUM171拡大さい帯血移植において、優れた結果が得られた。本明細書において提供される知見から、シングルユニット分のUM171拡大CBは、HLA一致ドナーがみつからない場合の許容される移植片であることが確認される。
【0131】
本開示は、その特定の実施形態と関連付けて記載してあるが、本開示はさらなる改変が可能であること、ならびに、本出願は、例えば、当技術分野における公知のまたは慣例的な実施方法の範囲に入るような、および、本明細書において先に記載した本質的な特徴に当てはまる可能性があるような、および、添付の「特許請求の範囲」に記載するような、本開示からの逸脱を含む、すべての変形、使用または応用を包含することを意図したものであることは理解されよう。