(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】予測方法、予想プログラム、および予測装置
(51)【国際特許分類】
G01W 1/10 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
G01W1/10 Z
(21)【出願番号】P 2021031706
(22)【出願日】2021-03-01
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮地 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】神保 智彦
(72)【発明者】
【氏名】高松 伴直
【審査官】福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-064537(JP,A)
【文献】特開平09-111732(JP,A)
【文献】特開2008-064081(JP,A)
【文献】特開2007-034373(JP,A)
【文献】特開2004-197554(JP,A)
【文献】特開2006-301475(JP,A)
【文献】特開2011-198132(JP,A)
【文献】特開平11-184839(JP,A)
【文献】特開2019-135451(JP,A)
【文献】特開2012-233714(JP,A)
【文献】特表2009-532662(JP,A)
【文献】特開2002-049298(JP,A)
【文献】特開2017-143358(JP,A)
【文献】特開2006-133121(JP,A)
【文献】特開2018-105893(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0348448(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0180694(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01W 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象領域における、計測された環境状況の時刻履歴のデータであ
り実測値である計測時系列データを取得する取得ステップと、
前記対象領域における環境状況の時刻履歴のデータである入力時系列データと、前記対象領域の三次元データと、を用いた数値シミュレーションによって、前記対象領域における環境状況の時刻履歴のデータである計算時系列データを計算する計算ステップと、
前記計測時系列データと前記計算時系列データとを、予測モデルに入力することで、前記対象領域における、第1の時点以降の第2の時点の環境状況の予測値を予測する予測ステップと、
を含む予測方法。
【請求項2】
前記入力時系列データは、前記数値シミュレーションの境界条件である、
請求項1に記載の予測方法。
【請求項3】
前記入力時系列データは、
前記計測時系列データ、前記予測値の時系列データ、前記対象領域の環境状況が一様な流れ分布を表すときの時系列データ、前記対象領域における予め想定された環境状況の範囲外の想定外時系列データ、および、前記対象領域内の特定地点に対して環境状況変化方向の上流地点の時系列データ、の少なくとも1つである、
請求項1
または請求項2に記載の予測方法。
【請求項4】
前記計算ステップは、
前記入力時系列データと、前記対象領域の全体の前記三次元データによって表される三次元形状物の全体形状モデルと、前記対象領域を複数の部分領域に分割した前記部分領域の各々に含まれる三次元形状物の部分形状モデルと、を用いた数値シミュレーションによって、前記計算時系列データを計算する、
請求項1
~請求項3の何れか1項に記載の予測方法。
【請求項5】
前記部分形状モデルの解像度は、前記全体形状モデルの解像度以上である、
請求項4に記載の予測方法。
【請求項6】
前記三次元形状物は橋梁である、請求項4または請求項5に記載の予測方法。
【請求項7】
前記計算ステップは、
前記入力時系列データと、前記全体形状モデルと、を用いた数値シミュレーションによって、前記対象領域の全体の全体時系列データを計算する全体計算ステップと、
前記全体時系列データと、前記部分形状モデルと、を用いた数値シミュレーションによって、前記計算時系列データを計算する部分計算ステップと、
を含む、請求項
4~請求項6の何れか1項に記載の予測方法。
【請求項8】
前記計算ステップは、
前記入力時系列データと、前記部分形状モデルと、を用いた数値シミュレーションによって、前記部分領域の部分時系列データを計算する部分計算ステップと、
前記部分時系列データと、前記全体形状モデルと、を用いた数値シミュレーションによって、前記計算時系列データを計算する全体計算ステップと、
を含む、請求項
4~請求項6の何れか1項に記載の予測方法。
【請求項9】
前記部分計算ステップは、
前記入力時系列データと、前記部分形状モデルと、を用いた数値シミュレーションによって、前記部分形状モデルの、節点、要素、辺、または、辺の中心、である構成要素の各々ごとの構成要素時系列データの群からなる前記部分時系列データを計算し、
前記全体計算ステップは、
前記部分形状モデルにおける複数の前記構成要素の各々の前記構成要素時系列データを、前記全体形状モデルにおける対応する位置の構成要素の各々にあてはめた、前記計算時系列データを計算する、
請求項
8に記載の予測方法。
【請求項10】
前記計算ステップは、
前記部分計算ステップは、
前記入力時系列データと、前記部分形状モデルと、を用いた数値シミュレーションによって、前記部分形状モデルの、節点、要素、辺、または、辺の中心、である構成要素の構成要素間の各々ごとの構成要素間時系列データの群、からなる前記部分時系列データを計算し、
前記全体計算ステップは、
前記部分形状モデルにおける複数の前記構成要素間の各々の前記構成要素間時系列データを、前記全体形状モデルにおける対応する位置の構成要素間の各々にあてはめた、前記計算時系列データを計算する、
請求項
8に記載の予測方法。
【請求項11】
前記計算ステップは、
前記入力時系列データを入力とし、前記計算時系列データを出力する、数値シミュレーションの計算モデルを用いて、前記計算時系列データを計算する、
請求項1~請求項
10の何れか1項に記載の予測方法。
【請求項12】
前記予測モデルは、統計モデルまたは学習モデルである、
請求項1~請求項
11の何れか1項に記載の予測方法。
【請求項13】
前記予測値は、
前記対象領域における、環境状況の物理量、および、環境状況のスカラー量、の少なくとも一方を含む、
請求項1~請求項
12の何れか1項に記載の予測方法。
【請求項14】
対象領域における、計測された環境状況の時刻履歴のデータであ
り実測値である計測時系列データを取得する取得ステップと、
前記対象領域における環境状況の時刻履歴のデータである入力時系列データと、前記対象領域の三次元データと、を用いた数値シミュレーションによって、前記対象領域における環境状況の時刻履歴のデータである計算時系列データを計算する計算ステップと、
前記計測時系列データと前記計算時系列データとを、予測モデルに入力することで、前記対象領域における、第1の時点以降の第2の時点の環境状況の予測値を予測する予測ステップと、
をコンピュータに実行させるための予測プログラム。
【請求項15】
対象領域における、計測された環境状況の時刻履歴のデータであ
り実測値である計測時系列データを取得する取得部と、
前記対象領域における環境状況の時刻履歴のデータである入力時系列データと、前記対象領域の三次元データと、を用いた数値シミュレーションによって、前記対象領域における環境状況の時刻履歴のデータである計算時系列データを計算する計算部と、
前記計測時系列データと前記計算時系列データとを、予測モデルに入力することで、前記対象領域における、第1の時点以降の第2の時点の環境状況の予測値を予測する予測部と、
を備えた予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、予測方法、予想プログラム、および予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
天気や風速などの環境状況を予測するシステムが知られている。例えば、気象データなどの実測データと統計的手法を組み合わせた方法、地理情報からシミュレーションする方法、および、これらを組み合わせた方法などが開示されている。また、統計的手法に替えて、機械学習モデルを用いた方法も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-179013号公報
【文献】特開2002-49298号公報
【文献】特開2018-63219号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Y.Xu et.al.,Time domain simulations of wind- and wave-induced load effects on a three-span suspension bridge with two floating pylons, Marine Structures,Vol.58,434-452(2018)
【文献】J.X.Mao et.al,Investigating of dynamic properties of long-span cable-stayed bridges based on one-year monitoring data under normal operating condition、Struct.Control Health Monit.,Vol.25,No.5(2018)
【文献】C.S.Cai et.al.,A coupled wind-vehicle-bridge system and its applications:a review,Wind and Structures,Vol.20.No.2,117-142(2015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術では、環境情報を高精度に予測することは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の推定方法は、取得ステップと、計算ステップと、予測ステップと、を含む。取得ステップは、対象領域における、計測された環境状況の時刻履歴のデータであり実測値である計測時系列データを取得する。計算ステップは、前記対象領域における環境状況の時刻履歴のデータである入力時系列データと、前記対象領域の三次元データと、を用いた数値シミュレーションによって、前記対象領域における環境状況の時刻履歴のデータである計算時系列データを計算する。予測ステップは、前記計測時系列データと前記計算時系列データとを、予測モデルに入力することで、前記対象領域における、第1の時点以降の第2の時点の環境状況の予測値を予測する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、予測方法、予測プログラム、および予測装置を詳細に説明する。
【0009】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態の予測システム10の一例を示す模式図である。
【0010】
予測システム10は、対象領域Pの環境状況を予測するシステムである。
【0011】
対象領域Pとは、環境状況の予測対象となる領域である。対象領域Pは、予め設定すればよい。また、対象領域Pは、ユーザによる操作指示などに応じて、適宜変更可能としてもよい。
【0012】
環境状況とは、対象領域Pの環境の状況を表す情報である。環境とは、可変の事象または可変の現象などの1または複数の要素の群からなる。要素とは、現象や事象の各々を意味する。要素は、例えば、気体や液体などの流体、可変の物体、自然現象または社会現象などの現象、1又は複数の現象によって生じる事象、などである。状況とは、これらの要素の各々の状況を表す。
【0013】
具体的には、環境の要素が気体や液体などの流体である場合を想定する。この場合、環境状況は、例えば、風況、波浪、水環境状況、などである。風況は、例えば、風速、風量、風向、風圧、などによって表される。波浪は、波高、波向、などによって表される。水環境状況は、例えば、流速、流量、流れの方向、水圧、などによって表される。
【0014】
環境の要素が、可変の物体である場合を想定する。可変の物体とは、形状、位置、特性、の少なくとも1つが可変の物体である。物体は、建造物、および、自然物のいずれであってもよい。また、物体は、生物および非生物のいずれであってもよい。物体は、例えば、橋梁、家屋などの建物、道路、人、動物、車両、列車、山、樹木、航空機またはドローンなどの飛行物体、などであるが、これらに限定されない。また、可変の物体として、複数の物体を1つの群として扱ったものであってもよい。具体的には、可変の物体は、複数の人の群からなる群衆などであってもよい。
【0015】
環境の要素が可変の物体である場合を想定する。この場合、環境状況は、物体そのものの状況であってもよいし、複数の物体から導出される状況であってもよい。物体そのものの状況は、例えば、物体そのものの形状、位置、特性、などである。物体の特性は、例えば、振動、たわみ量、熱伸び率、強度、疲労損傷度合い、固有振動値、時速、などである。複数の物体の状況は、例えば、単位時間あたりの物体の密度、単位時間あたりの物体の数、などであるが、これらに限定されない。
【0016】
環境の要素が、可変の現象である場合を想定する。この場合、環境状況は、例えば、社会現象、経済動向、道路交通情報、日時、曜日、気象現象、地震、などである。道路交通情報は、例えば、通行止め、速度制限、渋滞、などである。気象現象は、例えば、天候、日射強度、日射量、日照時間、雨量、温度、湿度、風速、風向き、雨量、雪量等である。気象現象の定義の一部は、気体や液体などの流体の状況と重複する場合がある。地震は、震源地、地震の規模、発生日時、などである。
【0017】
なお、環境状況は、対象領域Pの環境の状況を表す情報であればよく、上記に挙げた例に限定されない。
【0018】
対象領域Pには、予め1または複数のセンサ12が配置されている。センサ12は、対象領域Pの環境状況を計測する公知のセンサである。例えば、センサ12は、対象領域P内に含まれる1または複数の物体の各々の状況を検出可能な位置に配置されている。具体的には、例えば、センサ12は、対象領域P内に含まれる物体の各々に対して、1または複数配置されている。また、例えば、センサ12は、対象領域Pに含まれる物体の周囲に配置されていてもよい。また、例えば、センサ12は、複数の物体の環境状況を計測可能な位置に配置されていてもよい。なお、センサ12の配置位置および数は限定されない。これらのセンサ12と予測システム10とは、ネットワーク16を介して無線または有線で通信可能に接続されている。
【0019】
なお、対象領域Pの環境状況は、センサ12によって計測される形態に限定されない。例えば、観測システム14によって計測される形態であってもよい。また、対象領域Pの環境状況は、センサ12および観測システム14の双方によって計測される形態であってもよい。観測システム14は、対象領域Pの環境状況を計測可能な公知のシステムであればよい。観測システム14と予測システム10とセンサ12とは、ネットワーク16を介して通信可能に接続されている。
【0020】
予測システム10は、対象領域Pの環境状況に基づいて、対象領域Pの環境状況の予測値を予測するシステムである。
【0021】
予測システム10は、予測装置20と、通信部22と、出力部24と、入力部26と、を備える。予測装置20と、通信部22と、出力部24と、入力部26とは、通信可能に接続されている。
【0022】
通信部22は、外部の情報処理装置と通信する。例えば、通信部22は、ネットワーク16を介して、センサ12および観測システム14と通信可能に接続されている。通信部22は、ネットワーク16を介して、センサ12および観測システム14などの情報処理装置との間で、データを送受信する。
【0023】
出力部24は、各種の情報を出力する。本実施形態では、後述する予測装置20によって予測された予測値などを出力する。予測値の詳細は後述する。出力部24は、例えば、ディスプレイ、スピーカ、投影装置、などである。
【0024】
入力部26は、ユーザによる操作指示を受け付ける。入力部26は、例えば、キーボード、マウス、タッチパネル、マイクロフォン、などである。
【0025】
次に、予測装置20について説明する。
【0026】
予測装置20は、記憶部28と、処理部30と、を備える。通信部22と、出力部24と、入力部26と、記憶部28と、処理部30とは、バス27を介して接続されている。なお、記憶部28、出力部24、および入力部26の少なくとも1つと、処理部30とを、ネットワーク16を介して接続してもよい。
【0027】
記憶部28は、各種データを記憶する。記憶部28は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等である。なお、記憶部28は、予測装置20の外部に設けられた記憶装置であってもよい。また、記憶部28は、記憶媒体であってもよい。具体的には、記憶媒体は、プログラムや各種情報を、LAN(Local Area Network)やインターネットなどを介してダウンロードして記憶または一時記憶したものであってもよい。また、記憶部28を、複数の記憶媒体から構成してもよい。
【0028】
なお、記憶部28および処理部30の少なくとも一方を、ネットワーク16に接続されたサーバ装置などの外部の情報処理装置に搭載した構成としてもよい。また、処理部30に含まれる後述する機能部の少なくとも1つを、ネットワーク16を介して処理部30に接続されたサーバ装置などの外部の情報処理装置に搭載してもよい。
【0029】
処理部30は、取得部32と、計算部34と、予測部40と、出力制御部42と、を備える。計算部34は、全体計算部36と、部分計算部38と、を有する。
【0030】
取得部32、計算部34、全体計算部36、部分計算部38、予測部40、および出力制御部42の少なくとも1つは、例えば、1または複数のプロセッサにより実現される。例えば、上記各部は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサにプログラムを実行させること、すなわちソフトウェアにより実現してもよい。上記各部は、専用のIC(Integrated Circuit)などのプロセッサ、すなわちハードウェアにより実現してもよい。上記各部は、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現してもよい。複数のプロセッサを用いる場合、各プロセッサは、各部のうち1つを実現してもよいし、各部のうち2以上を実現してもよい。
【0031】
取得部32は、対象領域Pの計測時系列データを取得する。計測時系列データとは、対象領域Pにおける、計測された環境状況の時刻履歴のデータである。言い換えると、計測時系列データとは、対象領域Pについて実際に計測された実測値の時系列データである。本実施形態では、取得部32は、対象領域P内に設置されたセンサ12の各々から、計測時系列データを取得する形態を一例として説明する。
【0032】
なお、取得部32は、センサ12から計測時系列データを取得する形態に限定されない。例えば、取得部32は、観測システム14から計測時系列データを取得してもよい。
【0033】
この場合、観測システム14は、例えば、対象領域Pにおける、気象観測結果、気象衛星データ、WRF(Weather Research and Forecasting model)などの数値気象モデルなどから計算されたシミュレーション結果などを、計測時系列データとして配信する。取得部32は、観測システム14から配信された計測時系列データを受信することで、計測時系列データを取得してもよい。
【0034】
また、観測システム14は、センサ12および観測システム14の双方から、計測時系列データを取得してもよい。また、計測時系列データは、実際に計測された実測値の時系列データであってもよいし、計算されたシミュレーション結果であってもよい。計算されたシミュレーション結果は、例えば、後述する全体形状モデルなどから計算されたシミュレーション結果である。
【0035】
計算部34は、入力時系列データと、対象領域Pの三次元データと、を用いた数値シミュレーションによって、計算時系列データを計算する。
【0036】
入力時系列データとは、対象領域Pにおける環境状況の時刻履歴のデータである。また、入力時系列データとは、計算部34で用いる数値シミュレーションの境界条件である。すなわち、計算部34は、入力時系列データを境界条件とした数値シミュレーションを実行する。
【0037】
入力時系列データは、取得部32で取得した計測時系列データ、予測値の時系列データ、対象領域Pの環境状況が一様な流れ分布を表すときの時系列データ、想定外時系列データ、および、上流地点の時系列データ、の少なくとも1つである。
【0038】
計測時系列データを境界条件として用いる場合、計算部34は、取得部32で取得した計算時系列データを入力時系列データとして用いればよい。
【0039】
予測値の時系列データとは、後述する予測部40で予測された予測値の、時刻履歴のデータである。予測値の時系列データを境界条件として用いる場合、計算部34は、後述する予測部40で予測された予測値の時刻履歴を示すデータを該予測部40から取得すればよい。そして、計算部34は、取得した予測値の時系列データを、入力時系列データとして用いればよい。
【0040】
対象領域Pの環境状況が一様な流れ分布を表すときの時系列データとは、対象領域Pの環境状況によって表される流れが、時間変化の無い定常流の状態であるときの、時刻履歴のデータである。言い換えると、対象領域Pの環境状況が一様な流れ分布を表すときの時系列データとは、対象領域P内のどの場所でも略同じ速度の流れが保たれた、いわゆる一様流れの状態であるときの、対象領域Pの環境状況の時系列データである。
【0041】
対象領域Pの環境状況が一様な流れ分布を表すときの時系列データを境界条件として用いる場合、計算部34は、観測システム14などから該時系列データを取得すればよい。また、計算部34は、対象領域Pの環境状況が一様な流れ分布を表すときの時系列データを予め生成し、境界条件として用いてもよい。この時系列データの生成方法には、公知の方法を用いればよい。そして、計算部34は、取得または予め生成した、一様な流れ分布を表すときの時系列データを、入力時系列データとして用いればよい。
【0042】
想定外時系列データとは、想定外の環境状況下における時刻履歴のデータである。想定外の環境状況とは、環境を構成する複数の要素の少なくとも1つが、対象領域Pにおける予め想定された状況の範囲外であることを示す。想定外の環境状況は、例えば、定常状態の環境状況の範囲外の状況である。具体的には、想定外の環境状況とは、通常環境では起こりえない程度の、強風、風向き、移動速度、または雨量、などであるが、これらに限定されない。
【0043】
想定外時系列データを境界条件として用いる場合、計算部34は、観測システム14などから該想定外時系列データを取得すればよい。また、計算部34は、対象領域Pにおける想定外時系列データを予め生成し、境界条件として用いてもよい。なお、想定外の環境状況の条件は、ユーザによる入力部26の操作指示などに応じて、適宜変更可能としてもよい。想定外の環境状況の条件は、例えば、風の強さ、風の向き、などであるが、これらに限定されない。そして、計算部34は、取得または予め生成した、想定外時系列データを、入力時系列データとして用いればよい。
【0044】
上流地点の時系列データとは、対象領域P内の特定地点に対して環境状況変化方向の上流地点の、時刻履歴のデータである。
【0045】
特定地点は、予めユーザによる入力部26の操作指示などに応じて、対象領域P内の1または複数の地点を予め設定すればよい。特定地点は、対象領域P内における任意の位置であればよく、対象領域P内に含まれる特定の物体の位置であってもよい。環境状況変化方向の上流地点とは、特定地点に対して、環境状況変化方向の上流側の地点である。
【0046】
環境方向変化方向は、ユーザによる入力部26の操作指示などに応じて予め設定すればよい。なお、計算部34は、取得部32で取得した計測時系列データから特定地点の環境状況変化方向を特定してもよい。また、計算部34は、予測部40で予測された予測値から特定地点の環境状況変化方向を特定してもよい。この場合、計算部34は、例えば、環境を構成する複数の要素の内、予め設定された要素について、特定地点の流れ方向を計測時系列データまたは予測値から特定すればよい。そして、計算部34は、この流れ方向を、環境状況変化方向として特定すればよい。流れ方向の特定に用いる要素は、予め設定すればよい。また、流れ方向の特定に用いる要素は、ユーザによる入力部26の操作指示などに応じて変更可能としてもよい。
【0047】
なお、特定地点および環境状況変化方向は、ユーザによる入力部26の操作指示などに応じて、適宜変更可能としてもよい。
【0048】
上流地点の時系列データを境界条件として用いる場合には、計算部34は、例えば、対象領域P内の特定地点および環境状況変化方向を特定する。そして、計算部34は、特定した環境状況変化方向と特定地点の位置情報から、該特定地点から予め設定された距離、環境状況変化方向の上流側に移動した位置を、上流地点として用いる。そして、計算部34は、特定した上流地点の時刻履歴のデータを、上流地点の時系列データとして用いればよい。
【0049】
なお、計算部34は、特定した上流地点の時刻履歴のデータを、計測時系列データ、予測値の時系列データ、対象領域Pの環境状況が一様な流れ分布を表すときの時系列データ、および想定外時系列データ、の何れかにおける該上流地点のデータから抽出することで、上流地点の時系列データを取得すればよい。例えば、計算部34は、特定した上流地点に配置されたセンサ12の計測結果を、上流地点の時系列データとして取得すればよい。
【0050】
そして、計算部34は、取得した上流地点の時系列データを、入力時系列データとして用いればよい。
【0051】
計算部34は、取得部32で取得した計測時系列データ、予測値の時系列データ、対象領域Pの環境状況が一様な流れ分布を表すときの時系列データ、想定外時系列データ、および、上流側の地点の時系列データ、のいずれを入力時系列データとしてもよい。例えば、計算部34は、ユーザによる入力部26の操作指示によって指定された時系列データを、境界条件である入力時系列データとして用いればよい。
【0052】
そして、計算部34は、入力時系列データと、対象領域Pの三次元データと、を用いた数値シミュレーションによって、計算時系列データを計算する。
【0053】
三次元データとは、対象領域Pの実空間を三次元で表したデータである。例えば、三次元データは、対象領域Pの二次元の地図データに、対象領域Pに含まれる物体や自然物の高さ情報を含めたデータである。計算部34は、公知の地図データ提供システムなどから、対象領域Pの三次元データを取得すればよい。また、計算部34は、対象領域Pの二次元の地図データと、対象領域Pの各地点の標高データと、対象領域Pに含まれる物体の高さ情報と、などを用いて、公知の方法で対象領域Pの三次元データを生成してもよい。本実施形態では、予め記憶部28に記憶された三次元データを用いる形態を、一例として説明する。
【0054】
計算時系列データとは、計算部34による数値シミュレーションによって計算された、対象領域Pの環境状況の時刻履歴のデータである。
【0055】
本実施形態では、計算部34は、入力時系列データと、全体形状モデルと、部分形状モデルと、を用いた数値シミュレーションによって、計算時系列データを計算する。
【0056】
全体形状モデルとは、対象領域Pの全体の三次元データによって表される三次元形状物の形状を表すモデルである。三次元形状物とは、例えば、対象領域Pに含まれる、橋梁や建物などの建造物、山などの自然物、人、車両、などの物である。すなわち、全体形状モデルとは、対象領域Pの全体に含まれる物の形状をモデル化して表したものである。全体形状モデルは、対象領域P内の物体の全体を表す形状であればよく、物体を模式化して表したものであってもよい。模式化とは、三次元データの解像度以下の解像度とすることを意味する。また、模式化とは、物体の外形を表す線の少なくとも一部を直線などで近似して表現することを意味してもよい。すなわち、本実施形態では、形状をモデル化するとは、物体を模式化した形状で表すことを意味する。
【0057】
部分形状モデルとは、対象領域Pを複数の部分領域に分割し、複数の部分領域の各々に含まれる三次元形状物の、形状を表すモデルである。部分形状モデルの各々は、全体形状モデルの一部を構成する。すなわち、対象領域Pを構成する複数の部分領域の各々の部分形状モデルの群は、全体形状モデルに相当する。なお、部分形状モデルの解像度は、全体形状モデルの解像度以上であることが好ましい。すなわち、対象領域Pを構成する複数の部分領域の各々の部分形状モデルの群によって構成される全体の形状モデルは、全体形状モデルより詳細に形状を再現したものであることが好ましい。
【0058】
図2Aは、全体形状モデル50の一例を示す説明図である。
図2Aには、橋梁の全体形状モデル50を一例として示した。橋梁は、河川や運河などの上に架け渡され、道路や鉄道などを通す構造物である。すなわち、
図2Aには、対象領域Pが、対象領域Pの全体に渡って橋梁を含む領域である場合を一例として示した。
【0059】
図2Bは、部分形状モデル52の一例を示す説明図である。
図2Bには、
図2Aに示す全体形状モデル50によって表される橋梁を構成する各部分の形状をモデル化した、部分形状モデル52を一例として示した。なお、
図2Bには、部分形状モデル52A~部分形状モデル52Cを一例として示した。なお、これらの部分形状モデル52~部分形状モデル52Cを総称して説明する場合には、単に、部分形状モデル52と称して説明する。また、全体形状モデル50に対応する複数の部分形状モデル52の数は、3つに限定されない。
【0060】
図1に戻り説明を続ける。本実施形態では、計算部34は、全体計算部36と、部分計算部38と、を含む。全体計算部36は、全体形状モデル50を用いた数値シミュレーションを実行する。部分計算部38は、部分形状モデル52を用いた数値シミュレーションを実行する。これらの全体計算部36および部分計算部38について
図3を用いて詳細に説明する。
【0061】
図3は、計算部34の機能的構成の一例を示すブロック図である。
【0062】
部分計算部38は、数値シミュレーション部38Aと、部分モデル化部38Bと、を含む。
【0063】
部分モデル化部38Bは、対象領域Pの三次元データを用いて、部分領域の各々の部分形状モデル52を生成する。詳細には、部分モデル化部38Bは、対象領域Pを複数の部分領域に分割し、各部分領域に含まれる物体の形状を、三次元データを用いてモデル化する。このモデル化によって、部分モデル化部38Bは、複数の部分領域の各々の部分形状モデルを生成する。部分形状モデルへのモデル化には、公知の方法を用いればよい。また、部分モデル化部38Bは、部分計算部38の外部に設けられた構成であってもよい。例えば、部分モデル化部38Bを予測システム10の外部に配置してもよい。この場合、部分計算部38は、予測システム10の外部に配置された部分モデル化部38Bから、ネットワーク16を介して部分形状モデルを取得すればよい。部分モデル化部38Bは、生成した部分形状モデルを、数値シミュレーション部38Aへ出力する。
【0064】
数値シミュレーション部38Aは、入力時系列データと、部分形状モデルと、を用いた数値シミュレーションによって、部分領域の部分時系列データを計算する。
【0065】
部分時系列データとは、対象領域Pを構成する複数の部分領域の各々の、環境状況の時刻履歴のデータである。言い換えると、部分時系列データは、全体形状モデルを構成する複数の部分の各々の形状モデルである部分形状モデルの各々の、環境状況の時系列データである。
【0066】
数値シミュレーション部38Aは、部分形状モデル52を用いた数値シミュレーションによって、部分領域の各々の部分時系列データを計算する。
【0067】
具体的には、例えば、数値シミュレーション部38Aは、取得した部分形状モデル52の各々に対応する数値シミュレーションの方程式を、記憶部28から読み取る。記憶部28は、互いに異なる複数の形状の部分形状モデル52の各々に対応する方程式を予め記憶する。そして、数値シミュレーション部38Aは、取得した部分形状モデル52の各々に一致する形状の部分形状モデル52に対応する方程式を、記憶部28から読み取ることで、部分形状モデル52の各々の数値シミュレーションに用いる方程式を特定する。
【0068】
なお、取得した部分形状モデル52に一致する形状の部分形状モデル52が記憶部28に記憶されていない場合がある。この場合、数値シミュレーション部38Aは、取得した部分形状モデル52に最も近似する形状の部分形状モデル52に対応する方程式を、記憶部28から読み取ればよい。
【0069】
また、数値シミュレーション部38Aは、互いに異なる形状の複数の部分形状モデル52に対する数値シミュレーションに用いられる、1つの方程式を予め記憶部28へ記憶してもよい。この場合、数値シミュレーション部38Aは、取得した複数の部分形状モデル52に対して、共通した1つの方程式を用いて数値シミュレーションを実行すればよい。
【0070】
数値シミュレーション部38Aは、特定した方程式に対して、上記入力時系列データを境界条件として用いた数値シミュレーションを実行する。この数値シミュレーションにより、数値シミュレーション部38Aは、部分時系列データを計算する。
【0071】
数値シミュレーション部38Aは、複数の部分領域の各々の時系列データを、全体計算部36へ出力する。
【0072】
全体計算部36は、数値シミュレーション部36Aと、全体モデル化部36Bと、を含む。
【0073】
全体モデル化部36Bは、対象領域Pの三次元データから全体形状モデル50を生成する。詳細には、全体モデル化部36Bは、対象領域P領域に含まれる物体全体の形状を、三次元データを用いてモデル化する。このモデル化によって、全体モデル化部36Bは、全体形状モデルを生成する。なお、三次元データから全体形状モデルへのモデル化には、公知の方法を用いればよい。また、全体モデル化部36Bは、全体計算部36の外部に設けられた構成であってもよい。例えば、全体モデル化部36Bを、予測システム10の外部に配置してもよい。この場合、全体計算部36は、予測システム10の外部に配置された全体モデル化部36Bから、ネットワーク16を介して全体形状モデルを取得すればよい。また、部分モデル化部38Bと全体モデル化部36Bとは、一体的に構成されていてもよい。
【0074】
全体モデル化部36Bは、生成した全体形状モデルを、数値シミュレーション部36Aへ出力する。
【0075】
数値シミュレーション部36Aは、部分計算部38から受付けた部分時系列データと、全体モデル化部36Bから受付けた全体形状モデル50と、を用いた数値シミュレーションによって、計算時系列データを計算する。
【0076】
具体的には、例えば、数値シミュレーション部36Aは、取得した全体形状モデル50に対応する数値シミュレーションの方程式を、記憶部28から読み取る。記憶部28には、予め、互いに異なる複数の形状の全体形状モデル50に対応する方程式を予め記憶する。数値シミュレーション部36Aは、取得した全体形状モデル50に一致する形状の全体形状モデル50に対応する方程式を、記憶部28から読み取ることで、数値シミュレーションに用いる方程式を特定する。
【0077】
なお、取得した全体形状モデル50に一致する形状の全体形状モデル50が記憶部28に記憶されていない場合がある。この場合、数値シミュレーション部36Aは、取得した全体形状モデルに最も近似する形状の全体形状モデル50に対応する方程式を、記憶部28から読み取ればよい。
【0078】
また、数値シミュレーション部36Aは、互いに異なる形状の複数の全体形状モデル50に対する数値シミュレーションに用いられる、1つの方程式を予め記憶部28へ記憶してもよい。この場合、数値シミュレーション部36Aは、該方程式を用いて数値シミュレーションを実行すればよい。
【0079】
数値シミュレーション部36Aは、特定した方程式に対して、部分計算部38から受付けた部分領域の各々の部分時系列データを境界条件として用いた、数値シミュレーションを実行する。この数値シミュレーションにより、数値シミュレーション部36Aは、計算時系列データを生成する。
【0080】
すなわち、数値シミュレーション部36Aは、部分計算部38で計算された部分領域の各々の部分時系列データを、全体形状モデル50へあてはめることで、計算時系列データを計算する。このため、全体計算部36の数値シミュレーション部36Aは、全体形状モデル50以上の解像度である詳細形状の部分形状モデル52の部分時系列データを、全体形状モデル50へ反映させた、計算時系列データを計算することができる。
【0081】
この全体形状モデル50への反映について詳細に説明する。
【0082】
例えば、部分計算部38の数値シミュレーション部38Aは、入力時系列データと、部分形状モデルと、を用いた数値シミュレーションによって、部分形状モデル52の構成要素の各々ごとの構成要素時系列データの群からなる部分時系列データを計算する。構成要素とは、部分形状モデル52や全体形状モデル50などの形状モデルの、節点、要素、辺、または、辺の中心、である。本実施形態では、要素とは、節点を結んで構成される辺または面で区切られた領域を意味する。
【0083】
そして、全体計算部36の数値シミュレーション部36Aは、部分形状モデル52における複数の構成要素の各々の構成要素時系列データを、全体形状モデル50における対応する位置の構成要素の各々の反映させることで、上記数値シミュレーションを実行する。この数値シミュレーションによって、全体計算部36の数値シミュレーション部36Aは、部分形状モデル52の部分時系列データを全体形状モデル50へ反映させた、計算時系列データを計算する。
【0084】
また、計算部34では、構成要素時系列データに替えて、構成要素間の構成要素間時系列データを用いてもよい。この場合、部分計算部38の数値シミュレーション部38Aは、入力時系列データと、部分形状モデルと、を用いた数値シミュレーションによって、部分形状モデル52の構成要素時系列データの群、または、部分形状モデル52の構成要素間の各々ごとの構成要素間時系列データの群、からなる部分時系列データを計算する。
【0085】
そして、全体計算部36の数値シミュレーション部36Aは、部分形状モデル52における複数の構成要素間の各々の構成要素間時系列データを、全体形状モデル50における対応する位置の構成要素間の各々へ反映させることで、上記数値シミュレーションを実行する。
【0086】
なお、部分計算部38の数値シミュレーション部38Aが、構成要素間時系列データに替えて、構成要素時系列データを計算する場合がある。この場合、数値シミュレーション部36Aは、構成要素時系列データから構成要素間時系列データを計算し、数値シミュレーションに用いればよい。この数値シミュレーションによって、全体計算部36の数値シミュレーション部36Aは、部分形状モデル52の部分時系列データを全体形状モデル50へ反映させた、計算時系列データを計算する。
【0087】
図1に戻り説明を続ける。なお、計算部34は、数値シミュレーションの計算モデルを用いて、計算時系列データを計算してもよい。この場合、計算部34は、入力時系列データを入力とし計算時系列データを出力とする計算モデルを、公知の統計的手法や公知の機械学習などを用いて予め構築すればよい。例えば、計算部34は、数値シミュレーションの結果である計算時系列データを用いて、時系列変化する対象物体の表面応力をモデル化することで、計算モデルを構築すればよい。そして、計算部34は、計算モデルに入力時系列データを入力することで、計算時系列データを計算してもよい。この場合、計算部34は、計算モデルによる構造解析の境界条件として、計算時系列データを出力することができる。なお、構築した計算モデルは、公知の方法を用いて所定のタイミングで更新してもよい。
【0088】
次に、予測部40について説明する。予測部40は、取得部32で取得した計測時系列データと、計算部34で計算された計算時系列データとを、予測モデルへ入力することで、対象領域Pにおける第1の時点以降の第2の時点の環境状況の予測値を予測する。
【0089】
予測モデルは、例えば、統計モデル、または、学習モデルである。予測部40は、計測時系列データと計算時系列データを入力とし予測値を出力とする、統計モデルまたは学習モデルを、公知の方法で予め構築すればよい。また、予測部40は、所定のタイミングごと、または、ユーザによる入力部26の操作指示などに応じて、統計モデルおよび学習モデルを適宜更新してもよい。更新方法には、公知の方法を用いればよい。なお、学習モデルの学習には、例えば、ニューラルネットワークなどの公知の機械学習を用いればよい。
【0090】
第1の時点は、時の流れ上の任意のある1点であればよい。第1の時点は、例えば、現在などであるが、現在に限定されない。第1の時点は、予め定められた時点であればよい。なお、第1の時点は、ユーザによる入力部26の操作指示などに応じて、適宜、変更可能としてもよい。
【0091】
第2の時点は、時の流れ上における、第1の時点以降の時点であればよい。例えば、第1の時点が現在である場合、第2の時点は、現在または未来のある時点である。第1の時点と第2の時点との間隔は、予め定められた間隔であってもよいし、ユーザによる入力部26の操作指示などに応じて適宜変更可能としてもよい。
【0092】
予測値とは、対象領域Pにおける第2の時点の環境状況の予測値である。予測値は、環境を構成する1または複数の要素の各々の状況の予測値である。なお、取得部32で取得した計測時系列データによって表される環境状況の要素と、計算部34で計算された計算時系列データによって表される環境状況の要素と、予測部40が予測する予測値に含まれる要素とは、同じであってもよいし、少なくとも一部が異なっていてもよい。
【0093】
例えば、取得部32では、環境の要素が流体である風速および風向などの風況の計測時系列データ、および、地震による振動の計測時系列データ、を取得した場合を想定する。風況には、例えば、対象領域P内の特定の物体である橋梁上または橋梁に流入する流体の流れ、あるいは物体の上流側の風況および下流側の風況などが含まれる。また、計算部34が、環境の要素が可変の現象である、日射強度、雨量、および湿度の計算時系列データを計算した場合を想定する。この場合、予測部40は、環境の要素が可変の物体である、対象領域P内の橋梁の熱伸び、たわみ量、固有振動値、疲労損傷の度合い、などの予測値を予測してもよい。
【0094】
また、例えば、取得部32が、対象領域P内の互いに異なる位置の各々の風速の計測時系列データを、センサ12から取得した場合を想定する。また、計算部34が、対象領域Pで生じる想定外の事象や現象の入力時系列データを、数値シミュレーションの境界条件として用いて、計算時系列データを計算した場合を仮定する。例えば、予測部40は、これらの計測時系列データおよび計算時系列データを予測モデルへ入力する。すなわち、予測部40は、実測値である計測時系列データを、実測値では計測されない環境状況を含む時系列データである計算時系列データで補完したデータを、予測モデルへ入力する。この場合、計算部34は、これらの計測時系列データおよび計算時系列データを入力とし、出力として橋梁の振動応答などの時系列データを出力する、予測モデルを構築すればよい。そして、このような予測モデルを構築することで、実測値である計測時系列データの範囲だけではなく、台風や突風などに代表されるような気象変動による想定外に事象にも対応可能は、汎用的な予測システム10を提供することができる。
【0095】
また、予測値は、対象領域Pにおける環境状況の物理量であってもよいし、単一の環境状況のスカラー量であってもよい。
【0096】
また、予測装置20で予測する予測値の要素は、ユーザによる入力部26の操作指示などに応じて、適宜設定変更可能としてもよい。
【0097】
ここで、上述したように、計算部34で用いる入力時系列データは、取得部32で取得した計測時系列データ、予測値の時系列データ、対象領域Pの環境状況が一様な流れ分布を表すときの時系列データ、想定外時系列データ、および、上流地点の時系列データ、の少なくとも1つである。
【0098】
予測値の時系列データを境界条件として用いる場合、計算部34は、予測部40で予測された予測値の時刻履歴のデータを入力時系列データとして用いることとなる。すなわち、この場合、計算部34は、対象領域Pにおける環境状況の時刻履歴のデータとして、予測部40で予測された第2の時点の環境状況の予測値を、入力時系列データとして用いることとなる。このため、この場合、予測部40では、第2の時点以降の第3の時点の環境状況を予測することが可能となる。具体的には、予測部40には、センサ12による実測データである計測時系列データと、計算部34のシミュレーションによる計算時系列データと、が入力される。予測部40では、ある時刻t=0から該時刻以降の時刻であるt=t1の時点の環境状況を予測する。このため、この場合、予測部40は、t=t1の時点の予測値を用いて、更に、該時刻以降の時刻であるt=t2の時点の環境状況を、センサ12による実測データやシミュレーションによる計算時系列データを用いずに、予測することが可能となる。
【0099】
出力制御部42は、予測部40によって予測された予測値を、出力部24へ出力する。なお、出力制御部42は、予測値を、記憶部28へ記憶してもよい。また、出力制御部42は、予測値を、通信部22およびネットワーク16を介して、外部の情報処理装置へ送信してもよい。予測値を受付けた情報処理装置では、例えば、受付けた予測値を、構造解析の境界条件などに用いることができる。
【0100】
次に、予測装置20で実行される情報処理の流れを説明する。
【0101】
図4は、本実施形態の予測装置20で実行される情報処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0102】
取得部32は、計測時系列データを取得する(ステップS100)。計算部34の部分計算部38は、部分形状モデル52を用いた数値シミュレーションにより、部分時系列データを計算する(ステップS102)。
【0103】
計算部34の全体計算部36は、ステップS102で計算された部分時系列データと全体形状モデル50とを用いた数値シミュレーションにより、計算時系列データを計算する(ステップS104)。
【0104】
予測部40は、ステップS100で取得した計測時系列データと、ステップS104で計算された計算時系列データとを、予測モデルへ入力する(ステップS106)。ステップS106の処理によって、予測モデルの出力として、予測値が得られる。
【0105】
出力制御部42は、ステップS106で予測された予測値を、出力部24へ出力する(ステップS108)。そして、本ルーチンを終了する。
【0106】
以上説明したように、本実施形態の予測装置20は、取得部32と、計算部34と、予測部40と、を備える。取得部32は、対象領域Pにおける、計測された環境状況の時刻履歴のデータである計測時系列データを取得する。計算部34は、対象領域Pにおける環境状況の時刻履歴のデータである入力時系列データと、対象領域Pの三次元データと、を用いた数値シミュレーションによって、対象領域Pにおける環境状況の時刻履歴のデータである計算時系列データを計算する。予測部40は、計測時系列データと計算時系列データとを予測モデルに入力することで、対象領域Pにおける、第1の時点以降の第2の時点の環境状況の予測値を予測する。
【0107】
このように、本実施形態の予測装置20では、実測値である計測時系列データと、対象領域Pの三次元データを用いた数値シミュレーションによって計算した計算時系列データと、を予測モデルへ入力することで、対象領域Pの第2の時点の環境状況の予測値を予測する。すなわち、本実施形態の予測装置20は、実測値である計測時系列データと、数値シミュレーションによって対象領域Pの三次元形状の影響を反映した計算時系列データと、を用いて予測値を予測する。
【0108】
このため、本実施形態の予測装置20では、対象領域Pに存在する立体物と環境状況の変化との相互作用を考慮した、予測値を予測することができる。
【0109】
従って、本実施形態の予測装置20は、環境状況を高精度に予測することができる。
【0110】
また、本実施形態の予測装置20では、計算部34は、入力時系列データと、対象領域Pの全体の三次元データによって表される三次元形状物の全体形状モデル50と、対象領域Pを複数の部分領域に分割した部分領域の各々に含まれる三次元形状物の部分形状モデル52と、を用いた数値シミュレーションによって、計算時系列データを計算する。
【0111】
このように、本実施形態の予測装置20では、部分形状モデル52と全体形状モデル50とを組み合わせた数値シミュレーションを行う。すなわち、本実施形態の予測装置20では、対象領域Pの全体の領域の時系列データと、対象領域Pを構成する複数の部分領域の各々の時系列データと、の双方を用いた数値シミュレーションを実行する。そして、予測装置20では、数値シミュレーションによって計算された計算時系列データと、計測時系列データと、予測モデルと、を用いて予測値を予測する。
【0112】
このため、本実施形態の予測装置20は、環境状況に変化の生じる可能性のある局所的な領域の環境状況を、高精度に予測することができる。
【0113】
ここで、環境状況の1つである流れが到達する可能性のある局所的な領域の予測に対し、実測データと統計的手法を組み合わせたものは、実測データの観測位置の間隔や測定誤差、及び、統計的手法による実測データの補完技術により精度が左右される。さらに統計的手法による流れ領域の予測は、過去経験した事象に対しては比較的高精度であるが、過去経験したことのない事象や、時々刻々と状況が変化する場合などに対しては、予測モデルの汎用性を担保することが困難であった。なお、データ同化などのシミュレーションやPIV(粒子画像流速測定法:Particle Image Velocimetry)などの可視化手法を活用すれば、物体周りの流れを考慮することが可能な場合もある。しかし、超大規模な物体を扱う場合には、計算および測定コストが膨大になり、O&M(オペレーション&メンテナンス)や超大規模な物体周りの流れの予測等への展開を考慮すると現実的な手法ではなかった。
【0114】
一方、本実施形態の予測装置20では、実測値である計測時系列データと、部分形状モデル52と全体形状モデル50とを組み合わせた数値シミュレーションと、を用いて予測値を予測する。このため、本実施形態の予測装置20では、計算負荷および測定コストの低減を図りつつ、且つ、局所的な領域の環境状況を高精度に予測することができる。
【0115】
また、本実施形態では、全体形状モデル50と部分形状モデル52と組み合わせた数値シミュレーションを実行する。ここで、橋梁の全体形状モデル50および全体形状モデル50を構成する各部分の部分形状モデル52を用いた場合を想定する。従来では、実測値である計測時系列データに含まれない環境状況、つまり、想定外の事象に対する時系列データは、スケールダウンモデルの風洞試験や、実際の橋梁の環境状況の実測値のデータからは予測することができなかった。また、従来では、既存の予測式は適用できなかった。一方、このような事象に対する予測は、数値シミュレーションにより可能である。
【0116】
本実施形態では、全体形状モデル50と部分形状モデル52と組み合わせた数値シミュレーションを用いることで、
図2Aに示す橋梁のような、対象領域Pの全体を占める物体の詳細な環境状況を高精度に予測することができる。
【0117】
また、本実施形態の予測装置20では、実測値である計測時系列データと、数値シミューションによって計算された計算時系列データと、を予測モデルへ入力することで、環境状況の予測値を予測する。このため、本実施形態の予測装置20では、実測値である計測時系列データを、実測値には含まれない環境状況をも考慮した計算時系列データで補完した時系列データを用いて、環境状況の予測値を予測することができる。
【0118】
このため、本実施形態では、実測値である計測時系列データの範囲に限定されず、台風・突風などに代表されるような気候変動などによる想定外の事象にも対応可能な、汎用的な予測装置20を提供することができる。
【0119】
また、本実施形態の予測装置20では、計算部34は、部分計算部38と、全体計算部36と、を有する。部分計算部38は、入力時系列データと部分形状モデル52とを用いた数値シミュレーションによって、部分領域の部分時系列データを計算する。全体計算部36は、部分時系列データと全体形状モデル50とを用いた数値シミュレーションによって、計算時系列データを計算する。
【0120】
ここで、処理部30の処理負荷の軽減の観点から、全体形状モデル50の解像度を三次元データの解像度未満とする場合がある。この場合、全体形状モデル50のみを用いた数値シミュレーションでは、詳細な計算時系列データを計算することが困難な場合があった。一方、本実施形態の予測装置20の計算部34は、全体形状モデル50の解像度以上の部分形状モデル52を用いた数値シミュレーションによって、部分時系列データを計算する。そして、計算部34は、部分時系列データと全体形状モデル50を用いた数値シミュレーションを実行することで、計算時系列データを計算する。これらの処理により、計算部34は、全体形状モデル50以上の解像度である部分形状モデル52の部分時系列データを、全体形状モデル50へ反映させた、計算時系列データを計算することができる。
【0121】
このため、本実施形態の予測装置20は、上記効果に加えて、処理部30の処理負荷の軽減を図りつつ、且つ、局所的な領域の環境状況を、高精度に予測することができる。
【0122】
ここで、物体全体をまるごと詳細にモデル化し物体自身の挙動を予測する数値シミュレーションは、時間と計算機設備などの観点から、システム負荷が大きくなる場合がある。
【0123】
一方、本実施形態の予測装置20では、部分形状モデル52の部分時系列データによって表される詳細な環境状況を、全体形状モデル50へ反映させることで、計算時系列データを計算する。このため、本実施形態の予測装置20では、対象領域Pに含まれる物体全体の環境状況を、システム負荷の軽減を図りつつ、且つ、高精度に予測することができる。
【0124】
また、本実施形態の予測装置20では、部分形状モデル52を用いた数値シミュレーションを実行する。このため、環境状況の1つである流体の流れが物体に衝突することで発生する、局所的な流れなどの予測値を高精度に予測することが可能である。そして、更に、本実施形態の予測装置20では、全体形状モデル50と組み合わせることで、対象領域Pに含まれる物体の構造を考慮した、環境状況の予測が可能となる。
【0125】
また、本実施形態の予測装置20では、上記数値シミュレーションの境界条件である入力時系列データとして、計測時系列データ、予測値の時系列データ、対象領域Pの環境状況が一様な流れ分布を表すときの時系列データ、想定外時系列データ、および、上流地点の時系列データ、の少なくとも1つを用いることができる。
【0126】
このため、予測装置20は、例えば、実測値である計測時系列データではカバーすることの困難な想定外の環境状況の時系列データである想定外時系列データを、数値シミュレーションの境界条件として用いることができる。よって、予測装置20は、前代未聞の流れが物体を襲った場合の流れや挙動などの、想定外の環境状況の時系列データで補完した予測値を、予測することが可能となる。
【0127】
また、本実施形態の予測装置20は、上記構成とすることで、例えば、
図2Aおよび
図2Bに示す、橋梁などの大規模な構造物に対する予測値を、好適に求めることが可能となる。大規模な構造物とは、例えば、道路、ビルや風力発電の風車などの人工物以外にも、山などの自然物であってもよい。
【0128】
(第2の実施形態)
上記実施形態では、計算部34が、部分形状モデル52の部分時系列データを全体形状モデル50へ反映させた、数値シミュレーションを実行する形態を一例として説明した。
【0129】
本実施形態では、全体形状モデル50の全体時系列データを部分形状モデル52へ反映させた、数値シミュレーションを実行する形態を一例として説明する。
【0130】
なお、第1の実施形態と同じ機能および構成の部分には、同じ符号を付与し、詳細な説明を省略する。
【0131】
図1は、本実施形態の予測装置システム11の一例を示す模式図である。予測装置システム11は、予測装置21と、通信部22と、出力部24と、入力部26と、を備える。予測装置21と、通信部22と、出力部24と、入力部26とは、バス27などを介して通信可能に接続されている。予測装置システム11は、予測装置20に替えて予測装置21を備えた点以外は、上記実施形態の予測システム10と同様の構成である。
【0132】
予測装置21は、記憶部28と、処理部31と、を備える。記憶部28と処理部31とは、通信可能に接続されている。予測装置21は、処理部30に替えて処理部31を備えた点以外は、上記実施形態の予測装置20と同様の構成である。
【0133】
処理部31は、取得部32と、計算部35と、予測部40と、出力制御部42と、を備える。計算部35は、全体計算部37と、部分計算部39と、を備える。取得部32、予測部40および出力制御部42は、上記実施形態と同様である。処理部31は、計算部34に替えて計算部35を備える点以外は、上記実施形態の処理部30と同様の構成である。
【0134】
取得部32、計算部35、全体計算部37、部分計算部39、予測部40、および出力制御部42の少なくとも1つは、例えば、1または複数のプロセッサにより実現される。例えば、上記各部は、CPUなどのプロセッサにプログラムを実行させること、すなわちソフトウェアにより実現してもよい。上記各部は、専用のICなどのプロセッサ、すなわちハードウェアにより実現してもよい。上記各部は、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現してもよい。複数のプロセッサを用いる場合、各プロセッサは、各部のうち1つを実現してもよいし、各部のうち2以上を実現してもよい。
【0135】
計算部35は、入力時系列データと、全体形状モデル50と、部分形状モデル52と、を用いた数値シミュレーションによって、計算時系列データを計算する。
【0136】
図5は、計算部35の機能的構成の一例を示すブロック図である。計算部35は、全体計算部37と、部分計算部39と、を備える。
【0137】
全体計算部37は、全体モデル化部37Bと、数値シミュレーション部37Aと、を備える。
【0138】
全体モデル化部37Bは、上記実施形態の全体モデル化部36Bと同様である。すなわち、全体モデル化部37Bは、対象領域P領域に含まれる物体全体の形状を、三次元データを用いてモデル化する。このモデル化によって、全体モデル化部37Bは、全体形状モデルを生成する。
【0139】
数値シミュレーション部37Aは、入力時系列データと、全体形状モデル50と、を用いた数値シミュレーションによって、全体時系列データを計算する。
【0140】
全体時系列データとは、対象領域Pの全体の領域における、環境状況の時刻履歴のデータである。数値シミュレーション部37Aは、全体形状モデル50を用いた数値シミュレーションによって、全体時系列データを計算する。
【0141】
具体的には、例えば、数値シミュレーション部37Aは、取得した全体形状モデル50に対応する数値シミュレーションの方程式を、記憶部28から読み取る。記憶部28は、互いに異なる複数の形状の全体形状モデル50に対応する方程式を予め記憶する。そして、数値シミュレーション部37Aは、取得した全体形状モデル50に一致する形状の全体形状モデル50に対応する方程式を、記憶部28から読み取ることで、数値シミュレーションに用いる方程式を特定する。
【0142】
なお、取得した全体形状モデル50に一致する形状の全体形状モデル50が記憶部28に記憶されていない場合がある。この場合、数値シミュレーション部37Aは、取得した全体形状モデルに最も近似する形状の全体形状モデル50に対応する方程式を、記憶部28から読み取ればよい。
【0143】
また、数値シミュレーション部37Aは、互いに異なる形状の複数の全体形状モデルに対する数値シミュレーションに用いられる、1つの方程式を予め記憶部28へ記憶してもよい。この場合、数値シミュレーション部37Aは、該方程式を用いて数値シミュレーションを実行すればよい。
【0144】
数値シミュレーション部37Aは、特定した方程式に対して、入力時系列データを境界条件として用いた、数値シミュレーションを実行する。この数値シミュレーションにより、数値シミュレーション部37Aは、全体時系列データを生成する。数値シミュレーション部37Aは、生成した全体時系列データを、部分計算部39へ出力する。
【0145】
部分計算部39は、数値シミュレーション部39Aと、部分モデル化部39Bと、を含む。
【0146】
部分モデル化部39Bは、上記実施形態で説明した部分モデル化部38Bと同様である。すなわち、部分モデル化部39Bは、対象領域Pを複数の部分領域に分割し、各部分領域に含まれる物体の形状を、三次元データを用いてモデル化する。部分モデル化部39Bは、生成した部分形状モデル52を、数値シミュレーション部39Aへ出力する。
【0147】
数値シミュレーション部39Aは、全体計算部37から受付けた全体時系列データと、部分形状モデル52と、を用いた数値シミュレーションによって、計算時系列データを計算する。
【0148】
具体的には、例えば、数値シミュレーション部39Aは、取得した部分形状モデル52の各々に対応する数値シミュレーションの方程式を、記憶部28から読み取る。記憶部28は、互いに異なる複数の形状の部分形状モデル52に対応する方程式を予め記憶する。そして、数値シミュレーション部39Aは、取得した部分形状モデル52の各々に一致する形状の部分形状モデル52に対応する方程式を、記憶部28から読み取ることで、部分形状モデル52の各々の数値シミュレーションに用いる方程式を特定する。
【0149】
なお、取得した部分形状モデル52に一致する形状の部分形状モデル52が記憶部28に記憶されていない場合がある。この場合、数値シミュレーション部39Aは、取得した部分形状モデル52に最も近似する形状の部分形状モデル52に対応する方程式を、記憶部28から読み取ればよい。
【0150】
また、数値シミュレーション部39Aは、互いに異なる形状の複数の部分形状モデル52に対する数値シミュレーションに用いられる、1つの方程式を予め記憶部28へ記憶してもよい。この場合、数値シミュレーション部39Aは、取得した複数の部分形状モデル52に対して、共通した1つの方程式を用いて数値シミュレーションを実行すればよい。
【0151】
数値シミュレーション部39Aは、特定した方程式に対して、全体計算部37から受付けた全体時系列データを境界条件として用いた数値シミュレーションを実行する。この数値シミュレーションにより、数値シミュレーション部39Aは、計算時系列データを計算する。
【0152】
すなわち、数値シミュレーション部39Aは、全体計算部37で計算された、全体形状モデル50の全体時系列データを、部分形状モデル52へあてはめることで、計算時系列データを計算する。このため、部分計算部39は、全体形状モデル50の全体時系列データを、全体形状モデル50以上の解像度である部分形状モデル52の部分時系列データで補完した、計算時系列データを計算することができる。
【0153】
次に、本実施形態の予測装置21で実行される情報処理の流れを説明する。
【0154】
図6は、本実施形態の予測装置21で実行される情報処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【0155】
取得部32は、計測時系列データを取得する(ステップS200)。計算部35の全体計算部37は、全体形状モデル50を用いた数値シミュレーションにより、全体時系列データを計算する(ステップS202)。
【0156】
計算部35の部分計算部39は、ステップS202で計算された全体時系列データと部分形状モデル52とを用いた数値シミュレーションにより、計算時系列データを計算する(ステップS204)。
【0157】
予測部40は、ステップS200で取得した計測時系列データと、ステップS204で計算された計算時系列データとを、予測モデルへ入力する(ステップS206)。ステップS206の処理によって、予測モデルの出力として、予測値が得られる。
【0158】
出力制御部42は、ステップS206で予測された予測値を、出力部24へ出力する(ステップS208)。そして、本ルーチンを終了する。
【0159】
以上説明したように、本実施形態の予測装置21では、全体計算部37が、入力時系列データと、全体形状モデル50と、を用いた数値シミュレーションによって、対象領域Pの全体の全体時系列データを計算する。部分計算部39は、全体時系列データと、部分形状モデル52と、を用いた数値シミュレーションによって、計算時系列データを計算する。
【0160】
このため、計算部35は、全体形状モデル50の全体時系列データと、部分形状モデル52の部分時系列データと、を組み合わせた計算時系列データを計算することができる。すなわち、計算部35は、全体形状モデル50の全体時系列データを、部分形状モデル52の部分時系列データで補完した、計算時系列データを計算することができる。
【0161】
従って、本実施形態の予測装置21は、局所的な領域の環境状況を、高精度に予測することができる。
【0162】
また、本実施形態の予測装置21は、上記実施形態の予測装置20と同様に、数値シミュレーションの境界条件である入力時系列データとして、計測時系列データ、予測値の時系列データ、対象領域Pの環境状況が一様な流れ分布を表すときの時系列データ、想定外時系列データ、および、上流地点の時系列データ、の少なくとも1つを用いることができる。
【0163】
このため、予測装置21は、例えば、境界条件として上流地点の時系列データを用いることで、全体形状モデル50で大まかな流れなどの環境状況を再現することができる。そして、予測装置21は、全体形状モデル50から計算した全体時系列データを、境界条件として、部分形状モデル52へ用いることができる。このため、本実施形態の予測装置21では、予測時の計算規模を抑え、且つ、高精度な数値シミュレーションを実行することができる。
【0164】
また、上記構成とすることで、本実施形態の予測装置21では、部分形状モデル52に含まれないような、上流側の影響や物体全体の大きさの影響も考慮した、予測値を予測することができる。例えば、部分形状モデル52が、橋梁の道路部分である場合を想定する。この場合、全体形状モデル50から計算した全体時系列データを境界条件として部分形状モデル52へ用いることで、該道路部分の周辺の物体、例えば、主塔などの影響も考慮した、風況などの環境状況を予測することができる。
【0165】
また、予測装置21は、例えば、境界条件として上流地点の時系列データを用いることで、対象領域P内の対象となる物体の上流側における環境状況も考慮した、予測値を予測することができる。
【0166】
次に、上記実施形態の予測装置20および予測装置21のハードウェア構成の一例を説明する。
【0167】
図7は、上記実施形態の予測装置20および予測装置21のハードウェア構成図の一例である。
【0168】
上記実施形態の予測装置20および予測装置21は、CPU86などの制御装置と、ROM(Read Only Memory)88やRAM(Random Access Memory)90やHDD(ハードディスクドライブ)92などの記憶装置と、各種機器とのインターフェースであるI/F部82と、出力情報などの各種情報を出力する出力部80と、ユーザによる操作を受付ける入力部94と、各部を接続するバス96とを備えており、通常のコンピュータを利用したハードウェア構成となっている。
【0169】
上記実施形態の予測装置20および予測装置21では、CPU86が、ROM88からプログラムをRAM90上に読み出して実行することにより、上記各部がコンピュータ上で実現される。
【0170】
なお、上記実施形態の予測装置20および予測装置21で実行される上記各処理を実行するためのプログラムは、HDD92に記憶されていてもよい。また、上記実施形態の予測装置20および予測装置21で実行される上記各処理を実行するためのプログラムは、ROM88に予め組み込まれて提供されていてもよい。
【0171】
また、上記実施形態の予測装置20および予測装置21で実行される上記処理を実行するためのプログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルでCD-ROM、CD-R、メモリカード、DVD(Digital Versatile Disk)、フレキシブルディスク(FD)等のコンピュータで読み取り可能な記憶媒体に記憶されてコンピュータプログラムプロダクトとして提供されるようにしてもよい。また、上記実施形態の予測装置20および予測装置21で実行される上記処理を実行するためのプログラムを、インターネットなどのネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するようにしてもよい。また、上記実施形態の予測装置20および予測装置21で実行される上記処理を実行するためのプログラムを、インターネットなどのネットワーク経由で提供または配布するようにしてもよい。
【0172】
なお、上記には、本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。この新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0173】
20,21 予測装置
32 取得部
34,35 計算部
36,37 全体計算部
38,39 部分計算部
40 予測部
50 全体形状モデル
52 部分形状モデル