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特許7467371Al4SiC4組成物又はAl4SiC4粉末の製造方法
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  • 特許-Al4SiC4組成物又はAl4SiC4粉末の製造方法 図1
  • 特許-Al4SiC4組成物又はAl4SiC4粉末の製造方法 図2
  • 特許-Al4SiC4組成物又はAl4SiC4粉末の製造方法 図3
  • 特許-Al4SiC4組成物又はAl4SiC4粉末の製造方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】Al4SiC4組成物又はAl4SiC4粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/90 20170101AFI20240408BHJP
   C04B 35/56 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C01B32/90
C04B35/56
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021035973
(22)【出願日】2021-03-08
(65)【公開番号】P2022136391
(43)【公開日】2022-09-21
【審査請求日】2022-11-01
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112140
【弁理士】
【氏名又は名称】塩島 利之
(72)【発明者】
【氏名】西川 智洋
(72)【発明者】
【氏名】余多分 智博
(72)【発明者】
【氏名】八反田 浩勝
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-100522(JP,A)
【文献】特開2020-029390(JP,A)
【文献】特開2020-163458(JP,A)
【文献】Journal of MATERIALS RESEARCH,2002年,Vol. 17, No. 4,pp.774-778,特にRESULTS AND DISCUSSION, FIG. 1の記載参照
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/90
C04B 35/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム源、ケイ素源、炭素源を含む混合物を焼成してAlSiCを合成するAlSiC組成物又はAlSiC粉末の製造方法において、
前記炭素源がコークス粒体中で事前加熱処理された加熱処理炭素源を含み、
AlSiC組成物又はAlSiC粉末の硫黄含有量が150mass ppm以下であるAlSiC組成物又はAlSiC粉末の製造方法。
【請求項2】
前記加熱処理炭素源がカーボンブラックを含むことを特徴とする請求項に記載のAlSiC組成物又はAlSiC粉末の製造方法。
【請求項3】
前記炭素源が前記カーボンブラックを80mass%~100mass%含むことを特徴とする請求項に記載のAlSiC組成物又はAlSiC粉末の製造方法。
【請求項4】
前記炭素源がコークス、膨張黒鉛、又は活性炭の少なくとも一つを20mass%以下含むことを特徴とする請求項に記載のAlSiC組成物又はAlSiC粉末の製造方法。
【請求項5】
前記焼成は、1650~1900℃の温度で1~10時間、不活性ガス雰囲気下で実施することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか一項に記載のAlSiC組成物又はAlSiC粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AlSiC組成物又はAlSiC末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
AlSiCは、アルミニウムとシリコンからなる炭化物であり、近年、炭素含有耐火物の新たな機能性添加剤として注目されている。AlSiCの添加効果として、耐火物組織の緻密化が挙げられている。耐火物組織の緻密化は、耐火物の組織中に存在するAlSiCが雰囲気中のCOガスと反応することによって起こると推定されている。すなわち、(1)式に示すように、高温下でAlSiCからAlを含むガスが発生して耐火物組織中の空隙に拡散し、COガスと反応して再びAlとして凝縮し、空隙を埋めることによってもたらされると推定されている。
【0003】
AlSiC+6CO→2Al+SiC+9C (1)
【0004】
AlSiCの製造方法として、非特許文献1には、出発原料のアルミニウム源、ケイ素源及び炭素源を混合し、混合原料を不活性ガス雰囲気下で焼成してAlSiCを合成する方法が開示されている。
【0005】
AlSiCの合成は、以下の2段階で行われると推定されている。すなわち、加熱による温度上昇と共に、まず(2)式及び(3)式のようにAlとSiCが生成し、その後、1300℃以上において(4)式のようにAlとSiCが反応してAlSiCが生成する。
【0006】
4Al+3C→Al (2)
Si+C→SiC (3)
Al+SiC→AlSiC (4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】Journal of the Ceramic Society of Japan 115 [11] 761-766(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来のAlSiCの製造方法において、得られるAlSiC粉末にはAlSiC合成の際の副生成物であるAlが不純物として含まれる。Alは水和しやすく、Alが含まれるAlSiC粉末を耐火物に添加すると、Alが水和して体積膨張し、耐火物の形状安定性を損なう。
【0009】
また、従来のAlSiCの製造方法において、得られるAlSiC粉末には出発原料の炭素源に由来する硫黄が含まれる。硫黄を含有するAlSiC粉末を耐火物に添加すると、耐火物が体積膨張して形状安定性を損なう。その理由は、出発原料の炭素源に微量に存在する硫黄がAlSiCの合成過程でAlと反応し、Al等が生成されるからである。Al等は水和しやすく、Al等を含むAlSiC粉末を耐火物に添加すると、耐火物が体積膨張してその形状安定性を損なう。
【0010】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、Alを実質的に含まず、かつ硫黄を実質的に含まないAlSiC組成物又はAlSiC末の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の一態様は、アルミニウム源、ケイ素源、炭素源を含む混合物を焼成してAlSiCを合成するAlSiC組成物又はAlSiC粉末の製造方法において、前記炭素源がコークス粒体中で事前加熱処理された加熱処理炭素源を含み、AlSiC組成物又はAlSiC粉末の硫黄含有量が150mass ppm以下であるAlSiC組成物又はAlSiC粉末の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、Alを実質的に含まず、かつ硫黄を実質的に含まないAlSiC組成物又はAlSiC粉末を提供することができる。Alを実質的に含まず、かつ硫黄を実質的に含まないので、本発明のAlSiC粉末を耐火物に添加しても、耐火物が体積膨張してその形状安定性を損なうのを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態の炭素源の事前加熱処理を説明する図である(図1(a)は炭素源を内容器に入れた状態を示し、図1(b)は内容器をコークス粒体中に埋設した状態を示す)。
図2】実施例1で製造したAlSiC粉末をX線回折分析して得られたチャートである。
図3図2のチャートの横軸の50°~60°の拡大図である。
図4図2のチャートの横軸の20°~30°の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に基づいて、本発明の実施形態のAlSiC組成物又はAlSiC粉末、及びその製造方法を詳細に説明する。ただし、本発明は種々の形態で具体化することができ、本明細書に記載される実施形態に限定されるものではない。本実施形態は、明細書の開示を十分にすることによって、当業者が発明を十分に理解できるようにする意図をもって提供されるものである。
(AlSiC組成物又はAlSiC粉末)
【0016】
まず、AlSiC組成物又はAlSiC粉末を説明する。AlSiC組成物は、アルミニウム源、ケイ素源、及び炭素源を含む混合物を焼成することで得られる。AlSiC粉末は、AlSiC組成物を粉砕することで得られる。
【0017】
本実施形態のAlSiC組成物又はAlSiC粉末は、Alを実質的に含まない。具体的には、粉末X線回折で測定された2θ=55.1°付近におけるAlの回折ピークの積分強度IAl4C3(cps・deg)と2θ=56.0°付近におけるAlSiCの回折ピークの積分強度IAl4SiC4(cps・deg)との比率IAl4C3/IAl4SiC4が0.1%以下であり、好ましくは0.05%以下であり、さらに好ましくは2θ=55.1°付近におけるAlの回折ピークが観察されない。
【0018】
Alが含まれるAlSiC粉末を耐火物に添加すると、Alが水和して体積膨張し、耐火物の形状安定性を損なう。このため、本実施形態において、粉末X線回折で測定されたIAl4C3/IAl4SiC4は0.1%以下である。
【0019】
粉末X線回折から得られる情報のうち、回折ピークの波形が占める面積が積分強度である。積分強度は、粉末中の試料の回折角とある結晶粒の幾何学的な存在確率(ピーク高さ)を乗じたものである。積分強度の比率を算出することで、ある結晶粒体の存在確率の定量的な評価が可能となる。ここでは、AlSiC粉末に残る黒鉛の比率を定量的に分析でき、AlSiC粉末に残るAlの比率を定量的に分析できる。
【0020】
粉末X線回折は、以下の条件で行った。
【表1】
【0021】
上記のCuKα線による粉末X線回折は、株式会社リガク社製のRINT2000を用いて行い、横軸をX線入射角2θ(°)、縦軸を回折強度(cps)としたグラフに測定した回折強度をプロットした。積分強度(cps・deg)の算出には、株式会社リガク社製の「統合粉末X線解析ソフトウェア PDXL」ver.2.7.3.0を用いた。
【0022】
本実施形態のAlSiC組成物又はAlSiC粉末は、硫黄を実質的に含まない。具体的には、硫黄(硫黄単体及びAl等の硫黄化合物中の硫黄)含有量が150mass ppm以下であり、望ましくは130mass ppm以下であり、さらに好ましくは100mass ppm以下である。
【0023】
硫黄を含有するAlSiC粉末を耐火物に添加すると、耐火物が体積膨張して形状安定性を損なう。その理由は、出発原料の炭素源に微量に存在する硫黄がAlSiCの合成過程でAlと反応し、Alが生成されるからである。Alは水和しやすく、Alを含むAlSiC粉末を耐火物に添加すると、耐火物が体積膨張してその形状安定性を損なう。このため、本実施形態において、AlSiC組成物又はAlSiC粉末に含まれる硫黄含有量は150mass ppm以下である。
【0024】
硫黄含有量の測定は、燃焼-赤外線吸収法、具体的には材料炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製、EMIA-810)を用いて実施した。試料を酸素気流中で高温燃焼させると、試料に含まれる硫黄がガス化され、二酸化硫黄として抽出される。抽出した二酸化硫黄を赤外線検出器で計測し、二酸化硫黄の計測値を試料中の硫黄含有量に換算した。この硫黄含有量の定量方法は、JIS R 2016-2:2009に規格化されている。
【0025】
本実施形態のAlSiC組成物又はAlSiC粉末は、黒鉛を実質的に含まないのが望ましい。具体的には、粉末X線回折で測定された2θ=26.5°付近における黒鉛の回折ピークの積分強度I(cps・deg)と2θ=56.0°付近におけるAlSiCの回折ピークの積分強度IAl4SiC4(cps・deg)との比率I/IAl4SiC4が0.01%以下であり、好ましくは0.005%以下であり、さらに好ましくは2θ=26.5°付近における黒鉛の回折ピークが観察されない。
【0026】
黒鉛は出発原料の炭素源に由来する。黒鉛は1000℃付近まで耐酸化性を有する。黒鉛が含まれるAlSiC粉末を耐火物に添加すると、AlSiCの反応性が低下する。耐火物組織の緻密化は、AlSiCが酸化性ガス(COガス)と反応することによって起こるため、黒鉛がAlSiCと共存すると、AlSiCの添加効果が阻害される。このため、本実施形態において、粉末X線回折で測定されたI/IAl4SiC4は0.01%以下である。
【0027】
本実施形態のAlSiC組成物又はAlSiC粉末は、大きな結晶子サイズを有するのが望ましい。具体的には、粉末X線回折で測定された2θ=31.7°付近におけるAlSiCの回折ピークから算出される結晶子サイズが1000~1500Åであり、より好ましくは1100~1500Å、さらに好ましくは1100~1450Åである。
【0028】
結晶子サイズが大きいことは、結晶形態が成長していることを示している。このような結晶子サイズのAlSiC粒子は耐水和性が強化されている。よって、耐火物組織中での機能性を低下させにくくなる。結晶子サイズが大きすぎると、機能性(COガスとの反応性)が低下するので、1000~1500Åが最適である。
【0029】
AlSiCの結晶子サイズは、CuKα線による粉末X線回折において、2θ=31.74°付近の回折ピークの半価幅を測定し、Scherrerの式を利用して算出される。具体的には、結晶子サイズの算出には、株式会社リガク社製の「統合粉末X線解析ソフトウェア PDXL」ver.2.7.3.0を用いた。
【0030】
本実施形態のAlSiC粉末の粒子径は、特に限定されないが、体積基準の粒度分布において、累積90%粒子径と累積10%粒子径の差分を累積50%粒子径で除した(D90-D10)/D50:粒度分布スパン値が1.7~2.5が望ましい。
【0031】
粒度分布スパン値を1.7~2.5としたのは、粒度分布の範囲(幅)を規定するという観点からである。1.7未満であると、粒度分布の範囲が狭く、粒子同士の凝集が起こりやすくなるという問題があるのに対し、1.7以上では、凝集抑制および添加剤としての性能発揮が良好になる。また、2.5を超えると、粗粒と微粒の割合が増加し、添加剤としての性能に影響を及ぼすという問題がある。最適な粒度分布スパン値は、1.7~2.5、好ましくは1.8~2.4である。
【0032】
粒度分布の実測値の範囲(D~D100)は7~350μmである。これに基づいて、分子のD90-D10(粒度分布の幅)を規定できる。分母のD50は7~350μmの範囲にあり、好ましくは30~120μmである。
【0033】
体積基準の累積10%粒子径、累積50%粒子径、累積90%粒子径は、レーザー回折散乱法により測定される。レーザー回折散乱法による粒子径分布測定方法は、JIS R 1629:1997に規格化されている。具体的には、日機装株式会社製のレーザー回折散乱式粒度分布測定装置MT3000IIを用いて測定した。溶媒には蒸留水を使用し、装置標準付属の試料循環器で粉末を超音波で分散処理をした後、粒子径を測定した。
(AlSiC組成物又はAlSiC粉末の製造方法)
【0034】
次に、AlSiC組成物又はAlSiC粉末の製造方法を説明する。
【0035】
出発原料には、アルミニウム源、ケイ素源、炭素源を用いる。
【0036】
アルミニウム源には、金属Al、酸化アルミニウム、又は水酸化アルミニウム等を用いることができる。純度と生産効率の面から金属Al粉末を用いることが望ましい。
【0037】
ケイ素源には、金属Si、又は二酸化ケイ素等を用いることができる。純度と生産効率の面から金属Si粉末を用いることが望ましい。なお、アルミニウム源及びケイ素源としてAl-Si合金粉末を用いることもできる。
【0038】
炭素源の少なくとも一部には、コークス粒体中で事前加熱処理された加熱処理炭素源を用いる。加熱処理炭素源には、カーボンブラックを用いる。
【0039】
コークス粒体中での事前加熱処理を説明する。図1(a)に示すように、坩堝等の内容器2にカーボンブラック1を入れて蓋2aを被せ、図1(b)に示すように、内容器2ごと坩堝等の外容器3に入れ、コークスブリーズ等のコークス粒体4に埋設する。その後、外容器3を加熱炉に入れてアルゴンガス雰囲気下で加熱すれば、コークス粒体4中での加熱処理が可能になる。
【0040】
カーボンブラックは、工業的利用価値の高い人工炭素であり、将来的にも安定供給性が高い材料である。カーボンブラックの中には、元来、硫黄含有量が相対的に低い種別が存在する。このようなカーボンブラックを事前加熱処理することで、硫黄含有量をさらに低減させることができる。その理由として、カーボンブラックに存在する遊離した硫黄が、カーボンブラック粒子の表面官能基であるカルボキシル基や水酸基に含まれる酸素によって高温下で酸化され、ガス化することで除去されることが挙げられる。一方、カーボンブラックを構成する分子内に存在する硫黄は前述した方法でもガス化しにくく、除去されにくいため、残留しやすい。
【0041】
加熱処理炭素源として、カーボンブラックの他、鱗状黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛も利用可能である。ただし、天然に産出される黒鉛は資源偏在しているし、人造黒鉛は工業的利用範囲が定まっていて、原料としての汎用性が乏しい。炭素源に黒鉛を用いると、粉末X線回折において黒鉛の回折ピークがみられる。炭素源に事前加熱処理されたカーボンブラックを用いることで、黒鉛の回折ピークを低減でき、具体的には、粉末X線回折で測定された黒鉛の回折ピークの積分強度IとAlSiCの回折ピークの積分強度IAl4SiC4との比率I/IAl4SiC4を0.01%以下に低減できる。
【0042】
炭素源は、主材として事前加熱処理された上記のカーボンブラックを80mass%~100mass%含むのが望ましい。炭素源の主材としてカーボンブラックを用いることで、黒鉛の回折ピークを効果的に低減することができる。
【0043】
炭素源は、コークス(好ましくは石油系コークス)、膨張黒鉛、又は活性炭の少なくとも一つから構成される副材を20mass%以下含むのが望ましい。石油系コークス、活性炭は、粒子表面が多孔質の炭素である。膨張黒鉛は、層間を拡張させた黒鉛である。石油系コークス、膨張黒鉛、活性炭はいずれも多孔質な表面を持つので、AlSiCの合成反応を促進し、Alの残留を起こりにくくすることができる。Alの残留がなくなれば、AlSiCの合成収率が向上する。なお、石油系コークス、膨張黒鉛及び活性炭は、カーボンブラックよりも硫黄含有量が高いので、合成後の硫黄含有量が150mass ppmを超えないようにこれらを配合する。石油系コークス、膨張黒鉛及び活性炭を事前加熱処理することも可能であるが、これらを事前加熱処理してもカーボンブラックほどは硫黄含有量を低減させることはできない。
【0044】
上記のアルミニウム源、ケイ素源、炭素源は、それぞれに含まれるアルミニウム、ケイ素、炭素のモル比が4:1:4になるような量に秤量される。
【0045】
次に、アルミニウム源、ケイ素源、炭素源を乾式ヘンシェルミキサー等の混合機を用いて混合する。混合時間は特に限定されるものではないが、原料を充分に混合するために5分以上混合するのが望ましい。
【0046】
次に、混合原料を坩堝に装填し、坩堝を抵抗加熱炉、管状炉等のバッチ炉又はトンネル炉等の連続炉に入れ、混合原料を1650~1900℃の温度で1~10時間、不活性ガス雰囲気下で焼成する。
【0047】
焼成によってAlSiCが合成される。AlSiCの合成は、以下の2段階で行われる。すなわち、焼成による温度上昇と共に、まず(2)式及び(3)式のようにAlとSiCが生成し、その後、1300℃以上において(4)式のようにAlとSiCが反応してAlSiCが生成する。1650℃未満では反応後にAlが残り易く、1650℃以上においてAlSiCの生成が顕著に促進される。焼成温度が1900℃を超えると、AlSiCの一部が熱分解するので、1900℃以下が望ましい。
【0048】
4Al+3C→Al (2)
Si+C→SiC (3)
Al+SiC→AlSiC (4)
【0049】
アルミニウム源、ケイ素源、炭素源を上記のモル比で混合し、混合原料を上記の温度で上記の時間焼成することで、Alを低減でき、具体的には、粉末X線回折で測定されたAlの回折ピークの積分強度IAl4C3(cps・deg)とAlSiCの回折ピークの積分強度IAl4SiC4(cps・deg)との比率IAl4C3/IAl4SiC4を0.1%以下に低減できる。
【0050】
AlSiCの合成後、炉から坩堝を取り出し、坩堝からAlSiC組成物を取り出す。AlSiC組成物をロールクラッシャーで乾式粉砕すれば、AlSiC粉末が得られる。
(産業上の利用可能性)
【0051】
本実施形態のAlSiC粉末は、水分に対して消化性を持つAl及びAl等の硫黄含有化合物を含有せず、AlSiCの反応性を下げる黒鉛を含有しない。本実施形態のAlSiC粉末は、炭素含有耐火物の形状安定性、強度向上及び耐浸潤性を改善する機能性添加剤として使用できる。本実施形態のAlSiC粉末は、炭素含有耐火物の機能性添加剤として使用するのに限られることはなく、例えば酸化防止剤として使用することもできる。
【実施例
【0052】
(実施例1)
金属Al粉末(-75μm)、金属Si粉末(-45μm)、事前加熱処理されたカーボンブラック(60~280nm)をAl:Si:C=4:1:4のモル理論比で配合し、乾式ヘンシェルミキサーで10分間混合した。混合原料を坩堝に装填し、混合原料をアルゴンガスの気流中で1800℃に加熱し、1800℃を10時間保持した。
【0053】
炉への電力の供給を停止し、坩堝を周囲温度まで冷却した。冷却後、炉から坩堝を取り出し、坩堝からAlSiC組成物を取り出し、AlSiC組成物をロールクラッシャーで乾式粉砕した。
【0054】
得られたAlSiC粉末の物性を粉末X線回折によって測定した。物性の測定方法は、上述の方法に従った。
【0055】
図2は、AlSiC粉末をX線回折分析して得られたチャートである。横軸は入射角2θ(単位:°)、縦軸は回折強度(単位:cps)である。
【0056】
図3は、図2のチャートの横軸の50°~60°を拡大したものである。2θ=55.1°付近におけるAlの回折ピークは観察されず、IAl4C3/IAl4SiC4は0であった。図4は、図2のチャートの横軸の20°~30°を拡大したものである。2θ=26.5°付近における黒鉛の回折ピークは観察されず、I/IAl4SiC4は0であった。
【0057】
なお、測定に用いるX線源にCuターゲットから発生した特性X線を使用した。特性X線にはKαとKβがあり、さらにKαにはKαとKαがある。計測に用いるX線はKαである。Kβは、最強ピークの31.7°に対するサテライトとして現れる。本測定でもカットフィルタを装着して大部分のピークを除去できるが、本測定装置のX線源の強さ及び検出器感度が高い場合、図2に示すようにX線由来のKβが微小ピークとして現れる。図3に示すように、Kαに由来するピークは、高角度側になるほど、主ピークのKαから約1/2の高さで分離し始める。
【0058】
得られたAlSiC粉末の硫黄含有量は90ppmであった。2θ=31.7°付近におけるAlSiCの回折ピークから算出される結晶子サイズは、1147Åであった。体積基準の粒度分布において、(D90-D10)/D50:粒度分布スパン値は、2.1であった。
(実施例2)
【0059】
炭素源の副材としてニードルコークスを5mass%加えた。すなわち、炭素源を事前加熱処理されたカーボンブラック95mass%とニードルコークス5mass%とした。これ以外は、実施例1と同様の方法を用いてAlSiC粉末を得た。
【0060】
得られたAlSiC粉末のIAl4C3/IAl4SiC4は0、I/IAl4SiC4は0、硫黄含有量は140ppm、結晶子サイズは1157Å、粒度分布スパン値は2.0であった。
(実施例3)
【0061】
炭素源の副材としてニードルコークスを20mass%加えた。すなわち、炭素源を事前加熱処理されたカーボンブラック80mass%とニードルコークス20mass%とした。これ以外は、実施例1と同様の方法を用いてAlSiC粉末を得た。
【0062】
得られたAlSiC粉末のIAl4C3/IAl4SiC4は0、I/IAl4SiC4は0、硫黄含有量は140ppm、結晶子サイズは1118Å、粒度分布スパン値は2.0であった。
(実施例4)
【0063】
炭素源の副材として膨張黒鉛を5mass%加えた。すなわち、炭素源を事前加熱処理されたカーボンブラック95mass%と膨張黒鉛5mass%とした。これ以外は、実施例1と同様の方法を用いてAlSiC粉末を得た。
【0064】
得られたAlSiC粉末のIAl4C3/IAl4SiC4は0、I/IAl4SiC4は0、硫黄含有量は130ppm、結晶子サイズは1220Å、粒度分布スパン値は2.2であった。
(実施例5)
【0065】
炭素源の副材として膨張黒鉛を20mass%加えた。すなわち、炭素源を事前加熱処理されたカーボンブラック80mass%と膨張黒鉛20mass%とした。これ以外は、実施例1と同様の方法を用いてAlSiC粉末を得た。
【0066】
得られたAlSiC粉末のIAl4C3/IAl4SiC4は0、I/IAl4SiC4は0、硫黄含有量は130ppm、結晶子サイズは1244Å、粒度分布スパン値は2.4であった。
(実施例6)
【0067】
炭素源の副材として活性炭を5mass%加えた。すなわち、炭素源を事前加熱処理されたカーボンブラック95mass%と活性炭5mass%とした。これ以外は、実施例1と同様の方法を用いてAlSiC粉末を得た。
【0068】
得られたAlSiC粉末のIAl4C3/IAl4SiC4は0、I/IAl4SiC4は0、硫黄含有量は120ppm、結晶子サイズは1168Å、粒度分布スパン値は1.9であった。
(実施例7)
【0069】
炭素源の副材として活性炭を20mass%加えた。すなわち、炭素源を事前加熱処理されたカーボンブラック80mass%と活性炭20mass%とした。これ以外は、実施例1と同様の方法を用いてAlSiC粉末を得た。
【0070】
得られたAlSiC粉末のIAl4C3/IAl4SiC4は0、I/IAl4SiC4は0、硫黄含有量は140ppm、結晶子サイズは1212Å、粒度分布スパン値は1.8であった。
(比較例1)
【0071】
炭素源をニードルコークス100mass%とした。これ以外は、実施例1と同様の方法を用いてAlSiC粉末を得た。
【0072】
得られたAlSiC粉末のIAl4C3/IAl4SiC4は0、I/IAl4SiC4は2.89、硫黄含有量は160ppm、結晶子サイズは1073Å、粒度分布スパン値は2.3であった。
(比較例2)
【0073】
炭素源を活性炭100mass%とした。これ以外は、実施例1と同様の方法を用いてAlSiC粉末を得た。
【0074】
得られたAlSiC粉末のIAl4C3/IAl4SiC4は0、I/IAl4SiC4は0、硫黄含有量は180ppm、結晶子サイズは1149Å、粒度分布スパン値は1.8であった。
(比較例3)
【0075】
炭素源を事前加熱処理されたカーボンブラック50mass%、ニードルコークス25mass%、膨張黒鉛25mass%とした。これ以外は、実施例1と同様の方法を用いてAlSiC粉末を得た。
【0076】
得られたAlSiC粉末のIAl4C3/IAl4SiC4は0、I/IAl4SiC4は0、硫黄含有量は160ppm、結晶子サイズは1176Å、粒度分布スパン値は2.4であった。
(比較例4)
【0077】
炭素源を事前加熱処理されたカーボンブラック50mass%、ニードルコークス25mass%、活性炭25mass%とした。これ以外は、実施例1と同様の方法を用いてAlSiC粉末を得た。
【0078】
得られたAlSiC粉末のIAl4C3/IAl4SiC4は0、I/IAl4SiC4は0、硫黄含有量は180ppm、結晶子サイズは1203Å、粒度分布スパン値は1.7であった。
以上の結果を表2にまとめた。
【0079】
【表2】
【0080】
実施例1~7で得られたAlSiC粉末は、粉末X線回折においてAlのピークが観察されず(IAl4C3/IAl4SiC4が0であり)、黒鉛の回折ピークは観察されず(I/IAl4SiC4が0であり)、かつ硫黄含有量が150ppm以下であった。すなわち、Al、黒鉛、硫黄を実質的に含まないAlSiC粉末であった。
【0081】
実施例2~7において、炭素源に副材を添加したので、実施例1に比べて硫黄含有量が僅かに増加した。
【0082】
実施例5において、結晶子サイズが大きいのは、結晶性炭素である膨張黒鉛が合成されるAlSiCの結晶子を成長させたからである。
【0083】
一方、比較例1で得られたAlSiC粉末は、粉末X線回折において黒鉛の回折ピークが観察され(I/IAl4SiC4が2.89)、かつ硫黄含有量が160ppmであった。ニードルコークスの硫黄含有量が多く、ニードルコークス中の硫黄が原料のAlと部分的に反応してニードルコークスがわずかに残留し、わずかな未反応ニードルコークスが部分的に黒鉛化して残留したからであると推測される。
【0084】
比較例2で得られたAlSiC粉末は、硫黄含有量が180ppmであった。活性炭由来の硫黄含有量が多いからである。
【0085】
比較例3で得られたAlSiC粉末は、硫黄含有量が160ppmであった。炭素源の副材の量が多いからである。
【0086】
比較例4で得られたAlSiC粉末は、硫黄含有量が180ppmであった。炭素源の副材の量が多いからである。
図1
図2
図3
図4