(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】制御装置、制御方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 13/04 20060101AFI20240408BHJP
G06N 3/084 20230101ALI20240408BHJP
【FI】
G05B13/04
G06N3/084
(21)【出願番号】P 2021042834
(22)【出願日】2021-03-16
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣畑 賢治
(72)【発明者】
【氏名】大賀 淳一郎
【審査官】大古 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-164704(JP,A)
【文献】特開平04-296968(JP,A)
【文献】特開平07-093296(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 1/00 - 7/04
G05B 11/00 - 13/04
G05B 17/00 - 17/02
G05B 21/00 - 21/02
G06F 18/00 - 18/40
G06F 123/00 -123/02
G06N 3/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象を示す解析領域を離散化した複数の要素ごとの第1時刻の第1物理量
と、前記制御対象の負荷条件、境界条件、材料の条件、および、構造条件の少なくとも一部を表す条件データと、を含む複数の入力データを取得する取得部と、
複数の前記入力データを推定モデルに入力して得られる、複数の前記要素のエネルギを表すエネルギ汎関数の値
を用いた変分原理により、前記第1時刻より後の第2時刻の複数の前記要素ごとの第2物理量を算出する算出部と、
前記第2物理量
と計測された物理量との差に基づく制御量が目標値となるように前記制御対象を制御する制御部と、
を備える制御装置。
【請求項2】
前記算出部は、前記エネルギ汎関数の値の総和が極小になる条件により、前記第2時刻の複数の前記要素ごとの第2物理量を算出する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記エネルギ汎関数の値は、
複数の学習用の入力データと複数の前記学習用の入力データそれぞれに対して数値計算により算出した複数の前記要素のエネルギを表すエネルギ汎関数の値とを含む正解データに基づき学習された前記推定モデルに、複数の前記入力データを入力し、前記推定モデルが出力する値であって、複数の前記要素のエネルギを表す、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項4】
前記制御対象は、励起力を発生させる自励振動または自励回転を行う物体であり、
前記制御部は、前記励起力と前記制御対象の動作に影響する物理量との関係を示す前記制御量が、前記目標値となるように前記制御対象を制御する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項5】
前記目標値は
、前記自励振動または前記自励回転を誘起する
前記励起力と前記物理量との関係に基づいて定められる、
請求項4に記載の制御装置。
【請求項6】
前記目標値は、前記励起力と前記物理量との関係
を表すデータテーブル、関係式、または、数理モデルにより表される、
請求項5に記載の制御装置。
【請求項7】
前記制御対象は、それぞれ前記自励振動または前記自励回転を行う複数の物体であり、
前記目標値は
、前記自励振動または前記自励回転を誘起し、かつ、複数の前記物体の相互作用により引き込み現象を誘起する
前記励起力と前記物理量との関係に基づいて定められる、
請求項4に記載の制御装置。
【請求項8】
前記エネルギ汎関数の値の勾配と、勾配の正解データとの差を最小化するように前記推定モデルを学習する学習部をさらに備える、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項9】
前記学習部は、さらに、前記エネルギ汎関数の値と、前記エネルギ汎関数の値の正解データとの差を最小化するように前記推定モデルを学習する、
請求項8に記載の制御装置。
【請求項10】
前記推定モデルは、ニューラルネットワークモデル、または、階層ベイズモデルである、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項11】
前記推定モデルは、前記第1時刻の複数の前記入力データを入力し、前記第2時刻の前記エネルギ汎関数の値と、前記第2物理量を出力する、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項12】
前記エネルギ汎関数は、連続体力学の解析に用いられるエネルギ汎関数であって、複数の前記要素ごとの、蓄積エネルギ、損失エネルギ、および、与えられる仕事量により算出されるエネルギを表す、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項13】
前記エネルギ汎関数は、電磁場解析に用いられるエネルギ汎関数であって、複数の前記要素ごとの、発熱エネルギ、および、誘導電流による仕事量により算出されるエネルギを表す、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項14】
前記エネルギ汎関数は、構造および磁場の連成解析に用いられるエネルギ汎関数であって、複数の前記要素ごとの、弾性ひずみエネルギ、運動エネルギ、散逸エネルギ、および、渦電流による仕事量により算出されるエネルギを表す、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項15】
前記エネルギ汎関数は、相転移現象の解析に用いられるエネルギ汎関数であって、複数の前記要素ごとの、超電導エネルギ、磁場によるエネルギ、および、相互作用エネルギにより算出されるエネルギを表す、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項16】
前記エネルギ汎関数は、電子密度およびホール密度の解析に用いられるエネルギ汎関数であって、複数の前記要素ごとの、ケミカルポテンシャル、欠陥エネルギ、弾性ひずみエネルギ、勾配エネルギ、結晶学的エネルギ、および、外部応力からの仕事量により算出されるエネルギを表す、
請求項1に記載の制御装置。
【請求項17】
制御対象を示す解析領域を離散化した複数の要素ごとの第1時刻の第1物理量と、前記制御対象の負荷条件、境界条件、材料の条件、および、構造条件の少なくとも一部を表す条件データと、を含む複数の入力データを取得する取得部と、
複数の前記入力データを推定モデルに入力して得られる、複数の前記要素のエネルギを表すエネルギ汎関数の値と、前記第1時刻より後の第2時刻の複数の前記要素ごとの第2物理量と、を含む出力データを求める算出部と、
前記第2物理量と計測された物理量との差に基づく制御量が目標値となるように前記制御対象を制御する制御部と、
を備える制御装置。
【請求項18】
制御装置で実行される制御方法であって、
制御対象を示す解析領域を離散化した複数の要素ごとの第1時刻の第1物理量
と、前記制御対象の負荷条件、境界条件、材料の条件、および、構造条件の少なくとも一部を表す条件データと、を含む複数の入力データを取得する取得ステップと、
複数の前記入力データを推定モデルに入力して得られる、複数の前記要素のエネルギを表すエネルギ汎関数の値
を用いた変分原理により、前記第1時刻より後の第2時刻の複数の前記要素ごとの第2物理量を算出する算出ステップと、
前記第2物理量
と計測された物理量との差に基づく制御量が目標値となるように前記制御対象を制御する制御ステップと、
を含む制御方法。
【請求項19】
コンピュータに、
制御対象を示す解析領域を離散化した複数の要素ごとの第1時刻の第1物理量
と、前記制御対象の負荷条件、境界条件、材料の条件、および、構造条件の少なくとも一部を表す条件データと、を含む複数の入力データを取得する取得ステップと、
複数の前記入力データを推定モデルに入力して得られる、複数の前記要素のエネルギを表すエネルギ汎関数の値
を用いた変分原理により、前記第1時刻より後の第2時刻の複数の前記要素ごとの第2物理量を算出する算出ステップと、
前記第2物理量
と計測された物理量との差に基づく制御量が目標値となるように前記制御対象を制御する制御ステップと、
を実行させるためのプログラム。
【請求項20】
励起力を発生させる自励振動または自励回転を行う物体である制御対象の第1時刻の第1物理量
と、前記制御対象の負荷条件、境界条件、材料の条件、および、構造条件の少なくとも一部を表す条件データと、を含む入力データを取得する取得部と、
前記入力データを推定モデルに入力して得られる、前記制御対象のエネルギを表すエネルギ汎関数の値を用いた変分原理により、前記第1時刻より後の第2時刻の前記制御対象の第2物理量を算出する算出部と、
前記第2物理量
と計測された物理量との差に基づく制御量であって、前記励起力と前記制御対象の動作に影響する物理量との関係を示す前記制御量が、
前記自励振動または前記自励回転を誘起する
前記励起力と前記物理量との関係に基づいて定められる目標値となるように前記制御対象を制御する制御部と、
を備える制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、制御装置、制御方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、風力発電、潮流発電、および、海流発電などのエネルギシステム、並びに、インフラシステムの制御装置、または、精密医療向けマイクロプラントにおける流路・ソーティング・反応制御システム、などの制御装置に関して、センシングデータおよび運用データなどのモニタリングデータを用いてシステム制御を行う技術が知られている。また、これらのシステム制御に関する物理量を、物理現象シミュレーション、および、非線形数理モデルに基づくシミュレーションにより推定する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Sam Greydanus et al., “Hamiltonian Neural Networks”, in arXiv: 1906.01563 5 Sep 2019.
【文献】Miles Cranmer et al., “LAGRANGIAN NEURAL NETWORKS”, in arXiv: 2003.04630 30 Jul 2020.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来技術の流体シミュレーションおよび流体・構造連成シミュレーションなどの計算負荷を要する物理現象シミュレーション、および、非線形数理モデルに基づくシミュレーションでは、物理量の推定に多大な時間(例えば数時間以上)を要する場合がある。このため、モニタリングデータを用いて、リアルタイムにシステム制御を行うことが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の実施形態の制御装置は、取得部と、算出部と、制御部と、を備える。取得部は、制御対象を示す解析領域を離散化した複数の要素ごとの第1時刻の第1物理量をそれぞれ表す複数の入力データを取得する。算出部は、複数の入力データを推定モデルに入力して得られる、複数の要素のエネルギを表すエネルギ汎関数の値に基づいて、第1時刻より後の第2時刻の複数の要素ごとの第2物理量を算出する。制御部は、第2物理量に基づく制御量が目標値となるように制御対象を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図3】実施形態における制御処理のフローチャート。
【
図4】FEMLNを用いた解析の概念を説明するための図。
【
図7】損失関数で用いられる各勾配の差を説明するための図。
【
図8】実施形態における学習処理のフローチャート。
【
図11】制御部による制御処理の例を説明するための図。
【
図14】振動物体表面の変位の計測方法の例を説明するための図。
【
図15】翼構造を有する振動物体の制御方法の例を示す図。
【
図16】翼構造を有する振動物体の制御方法の例を示す図。
【
図17】翼構造を有する振動物体の制御方法の例を示す図。
【
図23】振動物体の変位と変位速度との関係の例を示す図。
【
図24】可変速度フィードバック機能の構成例を示す図。
【
図25】可変速度フィードバック機能の構成例を示す図。
【
図26】可変速度フィードバック機能の構成例を示す図。
【
図29】実施形態にかかる制御装置のハードウェア構成図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる制御装置の好適な実施形態を詳細に説明する。
【0009】
本実施形態では、サイバーフィジカルシステム(Cyber Physical Systems)におけるデジタルツインを行う際に、センシングデータ(計測、センシングまたはモニタリングしたデータ)から、対象とする系(対象システム)の制御に関する物理量(変位場および変位速度場など)を推定し、制御に活用する手法の例を説明する。以下では変位場および変位速度場を物理量とする例を主に説明する。物理量はこれらに限られず、他の物理場および物理速度場(例えば、圧力場、および、圧力変化速度場、または、ひずみ場、および、ひずみ速度場)であってもよい。
【0010】
具体的には、偏微分方程式の離散化数値計算手法、および、機械学習手法であるラグランジアン・ニューラルネットワーク(Lagrangian Neural Networks)を導入することにより、システム制御等で必要となるセンシングデータから時間的および空間的な物理量分布への変換を高速化および高精度化する。
【0011】
離散化数値計算手法は、例えば有限要素法、有限体積法および差分法である。以下では、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を活用したラグラジアン・ニューラルネットワークモデル(以下、FEMLN:Finite Element Model-based Lagrangian Networks)を用いる例を主に説明する。
【0012】
図1は、本実施形態にかかる制御装置100の構成の一例を示すブロック図である。
図1に示すように、制御装置100は、取得部101と、演算処理部110と、制御部102と、記憶部121と、を備えている。
【0013】
取得部101は、制御装置100で用いられる各種データを取得する。データの取得方法はどのような方法であってもよいが、例えば、ネットワークを介して接続された外部装置から受信することにより取得する方法、および、記憶媒体に記憶されたデータを読み出して取得する方法などを適用できる。
【0014】
例えば取得部101は、FEMLNに入力する複数の入力データ、および、FEMLNの学習に用いる学習データを取得する。複数の入力データそれぞれは、例えば、システム制御の対象(制御対象)となる解析領域を離散化した複数の要素ごとのある時刻ta(第1時刻)の物理量Pha(第1物理量)を表す。
【0015】
図2は、解析領域に含まれる要素の例を示す図である。各要素は、曲面で囲まれた解析領域201を空間的に離散化した情報に相当する。節点は、各要素を構成する多次元空間上(
図2では3次元空間)の点である。
【0016】
以下では、解析領域201の各節点の空間的な変位をuと表す。uの微分が変位速度(速度ベクトル)である。以下では、ある変数の上にドットを付すことにより、その変数の微分を表す。例えば変位速度は、uの上にドットを付した記号で表される。
【0017】
本実施形態では、要素ごとにエネルギ汎関数が算出される。例えばエネルギ汎関数は、以下の(1)式のように、蓄積エネルギ、損失エネルギ、および、仕事量により表される。
【数1】
【0018】
σは相当応力、εは相当ひずみ、Fは境界に作用する外力ベクトル、Vは物体の体積、Sは表面積を示す。第2項は、相当応力と、相当ひずみ速度の増分と、の積分に相当する。第3項は、物体が外力に対してなす仕事(外力ベクトルと速度との積)に相当する。
【0019】
図1に戻り、取得部101は、システム制御に用いるセンシングデータを入力データとしてさらに取得してもよい。
【0020】
センシングデータは、例えば、物体周辺媒体の流速、流れの向き、圧力、荷重、温度、加速度、変位、電流、電圧、振動、および、ひずみなどを示すデータである。これらのセンシングデータを検出するセンサや上記センシングデータの物理量に変換可能な画像取得装置は、例えば、解析対象とする構造または周辺構造の予め定められた個数のサンプル点に配置される。
【0021】
センシングデータは、解析対象とする構造のパフォーマンス特性であってもよい。例えば解析対象が風力発電プラントの場合、パフォーマンス特性は、以下のようなデータである。
・発電機性能
・インバータ性能
・回転数
・バッテリ性能
・発電機負荷率
・インバータ負荷率
・電力伝送特性
・信号伝送特性
・ノイズ特性
・冷却性能
・運転履歴
【0022】
パフォーマンス特性は、例えば、Bios(Basic input/output system)等とのコミュニケーションを行うプロファイリングツールまたはモニタリングツール(監視ツール)により取得することができる。
【0023】
センシングデータは、負荷・境界条件に相当する。取得部101は、センシングデータとともに、解析対象とする構造の設計変数を取得してもよい。設計変数は、例えば、境界条件、材料特性、および、構造変数(構造の形状および寸法など)などを示す情報である。以下では、センシングデータおよび設計変数を条件データという。
【0024】
演算処理部110は、取得部101により取得された入力データに対して、FEMLNを用いた演算を行い、システム制御に関する物理量を推定する。演算処理部110は、算出部111と、学習部112と、を備える。
【0025】
算出部111は、取得された複数の入力データから、システム制御に用いることができる物理量を算出する。例えば算出部111は、複数の入力データを推定モデルに入力し、推定モデルが出力する出力データを算出する。出力データは、解析領域を離散化した複数の要素のエネルギを表すエネルギ汎関数の推定値である。推定モデルは、統計モデル、確率モデル、および、機械学習モデルとして構成することができる。推定モデルは、FEMLNなどのニューラルネットワークモデルに限られず、階層ベイズモデルなどであってもよい。
【0026】
算出部111は、さらに、出力データを用いて、時刻taより後の時刻tb(第2時刻)の複数の要素ごとの物理量Phb(第2物理量)を算出する。時刻tbは、例えば時刻taの次の時間ステップに相当する時刻である。時間ステップをΔtとすると、tb=ta+Δtと表すことができる。
【0027】
学習部112は、演算処理部110が用いる推定モデルを学習する。学習部112は、取得部101により取得された学習データを用いて、FEMLNを学習する。学習部112は、例えば、出力データの勾配と、正解データである勾配との差を最小化するように推定モデルを学習する。
【0028】
制御部102は、制御対象を制御する。例えば制御部102は、算出部111により算出された物理量Phbに基づく制御量が目標値となるように制御対象を制御する。制御部102による制御処理の詳細は後述する。
【0029】
上記各部(取得部101、演算処理部110、および、制御部102)は、例えば、1または複数のプロセッサにより実現される。例えば上記各部は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサにプログラムを実行させること、すなわちソフトウェアにより実現してもよい。上記各部は、専用のIC(Integrated Circuit)などのプロセッサ、すなわちハードウェアにより実現してもよい。上記各部は、ソフトウェアおよびハードウェアを併用して実現してもよい。複数のプロセッサを用いる場合、各プロセッサは、各部のうち1つを実現してもよいし、各部のうち2以上を実現してもよい。
【0030】
記憶部121は、制御装置100による各種処理で用いられる各種データを記憶する。例えば記憶部121は、取得部101により取得された入力データ、演算処理部110による演算結果などを記憶する。
【0031】
記憶部121は、フラッシュメモリ、メモリカード、RAM(Random Access Memory)、HDD(Hard Disk Drive)、および、光ディスクなどの一般的に利用されているあらゆる記憶媒体により構成することができる。
【0032】
次に、このように構成された本実施形態にかかる制御装置100による制御処理について説明する。
図3は、本実施形態における制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0033】
取得部101は、解析領域を離散化した複数の要素ごとの入力データ(時刻taの物理量Phaを取得する(ステップS101)。算出部111は、入力データを推定モデルに入力し、時刻tbの物理量Phbを算出する(ステップS102)。制御部102は、物理量Phbから、制御対象を制御するための制御量を算出する(ステップS103)。制御部102は、算出した制御量を用いて制御対象を制御し(ステップS104)。制御処理を終了する。
【0034】
次に、FEMLNの詳細について説明する。
図4は、FEMLNを用いた解析の概念を説明するための図である。FEMLNの出力データであるエネルギ汎関数は、変分原理とのアナロジーから、例えば連続体力学シミュレーション(非弾性応力シミュレーションなど)の場合には、離散化した各要素における蓄積エネルギ、損失エネルギ、および、仕事量により表される。非弾性応力シミュレーションの変位場および変位速度場(ひずみ場およびひずみ速度場)は、変分原理により、これらのエネルギ汎関数の総和が極小となる経路(動的可容速度場)として決まる。
図4の矢印は、初期状態から、エネルギ汎関数の総和が極小となるように決定される経路の例を示す。
【0035】
FEMLNは、以下のように構築できる。
(S1)FEMLNの定義:
・時間的および空間的に離散化された変位場および変位速度場をモデルへの入力データとする。このとき、条件データを入力データとして加えてもよい。モデルの出力データは、対象システムにおける各要素のエネルギ汎関数とする。このとき、次の時間ステップ(次の時刻)の変位場および変位速度場を出力として加えてもよい。
・入力データから出力データへ変換するモデル(変換モデル)、または、入力データから出力データを推定するモデル(推定モデル)を定義する。ニューラルネットワークの場合は、モデルを定義するパラメータは、層数、各層の素子数、および、各素子の活性化関数の構成などが挙げられる。なお、階層ベイズモデルの場合は、モデルを定義するパラメータは、中間層の潜在変数、データ分布、事前分布、および、ハイパーパラメータの構成などが挙げられる。
(S2)FEMLNの学習データの準備:
・対象システムを記述する偏微分方程式を離散化し、条件データに関する解析条件を設定する。学習用の入力データに対して、変位場、変位速度場、エネルギ汎関数、および、エネルギ汎関数の勾配を、離散化した各要素および各節点について時間ステップごとに数値計算する。数値計算の結果を、FEMLNにおける損失関数を算出するための正解データとして準備する。ここで、条件データに関してパラメータサーベイを行った数値解析結果を正解データとしてもよい。入力データ、および、正解データを含む学習データが学習処理で使用される。
(S3)FEMLNの学習:
・FEMLNによりエネルギ汎関数近似モデル(パラメータθ)を作成する。
・FEMLNにより、学習データに含まれる入力データに対して、エネルギ汎関数のスカラー値φ
θ、並びに、次の時間ステップの変位場および変位速度場を出力する。φ
θは、パラメータθにより定められるFEMLNにより出力されるエネルギ汎関数の値を表す。
・FEMLNを用いて、以下の(2)式および(3)式でそれぞれ表される勾配を算出する。
【数2】
【数3】
・FEMLNを用いて次の時間ステップの変位場および変位速度場の時間微分を算出する。
・エネルギ汎関数、変位場の勾配、および、変位速度場の勾配を用いて、損失関数を最小化するようにFEMLNのパラメータを学習する。
【0036】
次に、FEMLNの構成例について説明する。
図5は、FEMLNの構成例N1を示す図である。構成例N1は、エネルギ汎関数(蓄積エネルギ、損失エネルギ、仕事量)と、次の時間ステップにおける変位場および変位速度場との両方が出力データに含まれる構成の例である。
図6は、FEMLNの構成例N2を示す図である。構成例N2は、エネルギ汎関数のみが出力データに含まれる構成の例である。
【0037】
出力データがエネルギ汎関数のみの場合は、次の時間ステップの変位場および変位速度場は、FEMLNの出力のエネルギ汎関数から、変分原理により推定することで算出される。
【0038】
λGは、材料特性および構造変数についての条件データを示す。λFは、負荷条件および境界条件についての条件データを示す。λtは、時間に関する条件データを表す。これらの条件データのうち一部が入力されるように構成してもよい。
【0039】
図5に示すように、構成例N1のFEMLNは、入力層と、2つの中間層と、出力層と、を含む。なお中間数の個数は2個に限られず、1個または3個以上であってもよい。
【0040】
入力層は、要素ごとおよび節点ごとの変位場および変位速度場、並びに、条件データλが、入力データとして入力される。出力層は、要素ごとのエネルギ汎関数と、要素ごとおよび節点ごとの次の時間ステップにおける変位場および変位速度場と、を出力データとして出力する。
【0041】
次に、FEMLNの学習に用いられる損失関数について説明する。損失関数は、例えば以下のように定義される。
・FEMLNから算出した勾配と、事前のFEM解析結果(離散化要素または離散化節点ごとに算出)である正解データの勾配と、の差を最小にできる関数
【0042】
図7は、損失関数で用いられる各勾配の差を説明するための図である。
図7に示すように、勾配は、エネルギ汎関数のスカラー値φ
θの変位場についての偏微分、エネルギ汎関数のスカラー値φ
θの変位速度場についての偏微分、変位速度場の時間についての偏微分、および、変位場の時間についての偏微分を含む。これらの勾配それぞれについて、FEMLNから算出された勾配の値(勾配値)と、正解データの勾配値との差が算出される。
【0043】
損失関数は、例えば、解析領域における各要素または各節点の勾配値の差の二乗和の総和などである。正解データの勾配値は、例えば、離散化要素または離散化節点ごとに算出した勾配値の集合データである。正解データの勾配値は、以下のような関係モデルを用いて算出されてもよい。
・変位場を変数としたエネルギ汎関数に関する近似モデルなどの関係モデル
・時間を変数とした変位場に関する近似モデルなどの関係モデル
【0044】
損失関数には、エネルギ汎関数に関する制約を加えてもよい。例えば、対象システムがなす仕事量が蓄積エネルギと損失エネルギとの和に等しくなるという制約条件に基づく損失関数である。
【0045】
また、損失関数は、エネルギ汎関数についてもFEMLNから算出したエネルギ汎関数値と、事前のFEM解析結果から取得したエネルギ汎関数値との差を最小にできる関数を含んでもよい。
【0046】
また、FEMLNの出力データが変位および変位速度などの物理量を含む構成(構成例N1)については、変位および変位速度などの物理量についてもFEMLNから算出した値と事前のFEM解析結果から取得した値との差を最小にできる関数を損失関数として追加してもよい。これらの各損失関数の和における各項の重み係数を変えてもよい。
【0047】
また、損失関数におけるエネルギ汎関数の変位場または変位速度場に関する勾配について、以下の(4)式および(5)式で表される、条件データλに関する偏微分の連鎖律を適用してもよい。
【数4】
【数5】
【0048】
エネルギ汎関数の条件データλに関する偏微分データと、条件データλの変位場および変位速度場に関する偏微分データは、事前に学習データ(正解データ)として準備される。FEMLNの学習の際には、エネルギ汎関数の条件データλに関する偏微分データ(以下の(6)式)、条件データλの変位場に関する偏微分データ(以下の(7)式)、および、条件データλの変位速度場に関する偏微分データ(以下の(8)式)も算出される。
【数6】
【数7】
【数8】
【0049】
また、損失関数は、エネルギ汎関数の条件データλに関する偏微分データと、条件データλの変位場および変位速度場に関する偏微分データについて、FEMLNから推定される勾配と、事前の学習データの整合性に関する損失関数を含んでもよい。
【0050】
次に、本実施形態にかかる制御装置100によるFEMLNの学習処理の流れについて説明する。
図8は、本実施形態における学習処理の一例を示すフローチャートである。
【0051】
取得部101は、学習に用いる学習データを取得する(ステップS201)。例えば取得部101は、上記(S2)で説明したような手順で準備された学習データを取得する。
【0052】
算出部111は、取得された学習データに含まれる入力データをFEMLNに入力し、FEMLNが出力する出力データを得る(ステップS202)。例えば出力データは、エネルギ汎関数の値、次の時間ステップの変位場および変位速度場を含む。算出部111は、エネルギ汎関数の値、変位場および変位速度場の勾配をそれぞれ算出する(ステップS203)。
【0053】
学習部112は、算出された勾配と、学習データに含まれる正解データの勾配との差に基づく損失関数を最小化するように、FEMLNを学習する(ステップS204)。
【0054】
学習部112は、学習が終了したか否かを判定する(ステップS205)。例えば学習部112は、勾配の差が閾値より小さくなったか、および、学習の回数が上限値に達したか否か、などにより、学習の終了を判定する。
【0055】
学習が終了していない場合(ステップS205:No)、ステップS202に戻り、新たな学習データに対して処理が繰り返される。学習が終了したと判定された場合(ステップS205:Yes)、学習処理を終了する。
【0056】
以上のように、本実施形態では、離散化の各要素から構成されたエネルギ汎関数のラグラジアンを活用した変分原理に基づく考え方で、ニューラルネットワークの出力層にエネルギ汎関数が組み込まれる。そして、ラグラジアンの変位場および変位速度場の勾配が、変位場および変位速度場の時間的変化と整合(事前に物理現象シミュレーションした数値実験の結果集合との整合など)するように、FEMLNが学習される。このようにして構築されたFEMLNにより、時間依存性の物理現象にも活用できる超高速シミュレーション手法を実現できる。このため、後述するように、FEMLNにより得られる物理量を用いてシステム制御を行うことにより、モニタリングデータなどを用いたリアルタイムのシステム制御を行うことが可能となる。
【0057】
FEMLNに基づく超高速シミュレーションを行う際には、FEMLNにおける出力の蓄積エネルギと損失エネルギの和が仕事量に等しくなるという制約を設けて、入力データの組み合わせを事前に選定してもよい。または、超高速シミュレーションの入出力データの組み合わせは事前に設定されてもよい。
【0058】
図9および
図10は、本実施形態の適用例を示す図である。
図9は、解析の対象とする領域の全体について、本実施形態を適用する例を示す。対象とする系(対象システム)の解析モデルは、物理現象シミュレーション、または、最適化シミュレーションのためのモデルである。現象解析モデルとして、本実施形態のFEMLNなどの推定モデルが適用される。
【0059】
図10は、解析の対象とする領域(全体領域)のうち、FEMなどのシミュレーションにおいて多大な時間を要する一部の領域のみに本実施形態を適用する例を示す。一部の領域に適用するモデル(部分モデル)として、本実施形態のFEMLNなどの推定モデルが適用される。この場合、制御装置100は、全体領域のシミュレーションと、条件データ(境界変位、負荷条件など)をやり取りするインターフェース(データ取得部)を備えればよい。
【0060】
(変形例)
これまでは連続体力学問題の解析に適用した例を説明したが、適用可能な解析処理はこれに限られない。例えば、偏微分方程式の数理モデルで記述される、以下のような物理現象の解析に本実施形態の手法を適用できる。
・電磁場解析
・構造および磁場の連成解析
・Ginzburg-Landau現象問題(超伝導現象などの相転移現象解析)
・デバイスシミュレーション(半導体の電子密度およびホール密度挙動解析など)
【0061】
以下、各解析で用いられるエネルギ汎関数について説明する。
(A1)電磁場解析で使用するエネルギ汎関数:以下の(9)式
【数9】
変位誘起誘導電流による外部仕事:W
w=J×(u
t×B) [W]
発熱エネルギ:W
j=J
2/σ [W]
ポインティングベクトル:S=E×H[W/m
2]
磁束密度:B[T]
磁場:H[A/m]
電束密度:D[Cm
-2]
電場:E[N/C]
時間:t[s]
体積:Ω[m
3]
表面積:dΩ[m
2]
外向き単位法線ベクトル:n
(A2)構造および磁場の連成解析で使用するエネルギ汎関数:以下の(10)式
【数10】
弾性ひずみエネルギ:E
k=σ
ij×ε
ij/2 [J]
運動エネルギ:E
e=ρu
i,t×u
i,t/2 [J]
構造減衰による散逸エネルギ:
W
c=α×ρu
i,t×u
i,t+β×σ
ij,t×ε
ij [W]
コイルの渦電流などによるによる外部仕事:W
F=F
i×u
i,t [W]
変位:u[m]
応力:σ[Pa]
密度:ρ
ひずみ:ε
レイリー減衰の係数:α[s
-1]
レイリー減衰の係数:β[s]
i方向の力:F
i
(A3)Ginzburg-Landau方程式:以下の(11)式((11)式内の「i」は虚数を表す)、(12)式
【数11】
【数12】
Ginzburg-Landau方程式で使用するエネルギ汎関数:以下の(13)式
【数13】
超伝導エネルギ:以下の(14)式
【数14】
磁場によるエネルギ:以下の(15)式
【数15】
相互作用エネルギ:以下の(16)式
【数16】
外部磁場:Ba
磁場のベクトルポテンシャル:A
Ginzburg-Landau パラメータ:κ
超伝導状態を表す秩序変数;ψ
常伝導状態の電気伝導率:σ
(A4)デバイスシミュレーション:
半導体のデバイスシミュレーションにおける結晶欠陥挙動解析で用いられるエネルギ汎関数のHelmholtz自由エネルギFは以下の(17)式のように表現できる。
【数17】
ケミカルポテンシャル:f
chem
欠陥エネルギ:f
ssf
弾性ひずみエネルギ:f
elast
勾配エネルギ:f
grad
結晶学的エネルギ:f
cryst
外部応力からの仕事量:W
【0062】
位置ベクトルxに関して対象とする領域Ωにおいて、それぞれの離散化要素のエネルギ汎関数fの総和(積分)をとることにより、全体のエネルギ汎関数を求めることができる。
【0063】
半導体のデバイスシミュレーションにおける電子密度およびホール密度分布の挙動解析は時間を要するため、結晶欠陥挙動解析におけるケミカルポテンシャル計算のための電子密度およびホール密度分布の挙動解析のみにFEMLNを適用することも可能である(上記
図10の例)。
【0064】
ケミカポテンシャルf
chemは、以下の(18)式、(19)式により算出される。
【数18】
【数19】
ケミカルポテンシャル関数:μ
結晶欠陥有無の状態量:φ
【0065】
電子密度とホール密度のケミカルポテンシャル関数は以下の(20)式および(21)式で算出できる。
【数20】
【数21】
電場Eにおける電子密度:D
e(E)
電場Eにおけるホール密度:D
h(E)
電子のFermi-Dirac分布関数:F
n(E)
ホールのFermi-Dirac分布関数:F
p(E)
電子密度:n
ホール密度:p
ボルツマン定数:k
B
温度:T
伝導帯:E
c
価電子帯:E
v
真性半導体バンド:E
i
【0066】
電子密度分布およびホール密度分布は、ボルツマン方程式、ポアソン方程式、および、電流連続方程式をセルフコンシステントに解くことにより求めることができる。
【0067】
次に、制御部102による制御処理の詳細について説明する。
図11は、制御部102による制御処理の例を説明するための図である。なお
図11は、フィードフォワード制御を行う制御部102aと、フィードバック制御を行う制御部102bと、の2つの制御部、および、対応する各部(記憶部121a、121b、演算処理部110a、110b)を含む構成の例を示す。制御部102a、102bのいずれか一方および対応する各部のみを含むように制御装置100を構成してもよい。また、3つ以上の制御部102および対応する各部を含むように制御装置100を構成してもよい。
【0068】
演算処理部110a、110bは、それぞれ制御部102a、102bによる制御処理で用いられる物理量などのデータの演算を行う。
【0069】
記憶部121a、121bは、それぞれ演算処理部110a、110bによる処理で用いられるデータを記憶する。例えば記憶部121a、121bは、演算処理部110a、110bがそれぞれ用いる推定モデル(FEMLNなど)を定める情報、および、対応する推定モデルによる処理で用いられるデータ(入力データ、演算結果、学習データなど)を記憶する。
【0070】
制御対象200aは、例えば、外乱要因からセンサまでの応答特性に相当する。制御対象200bは、例えば、対象となる物体を動作させる制御アクション部からセンサまでの応答特性に相当する。
【0071】
演算処理部110aの推定モデルには、外乱の影響を受けた変位場および変位速度場を表す入力データが入力される。制御部102aは、演算処理部110aにより算出される時刻tbの物理量Phbから、フィードフォワード制御のための制御量を求め、求めた制御量によりフィードフォワード制御を行う。
【0072】
制御部102bは、演算処理部110bにより算出された変位場および変位速度場と、計測された変位場および変位速度場と、の差が小さくなるようにフィードバック制御を行う。言い換えると、制御部102bは、制御量の一例である差が目標値の一例であるゼロとなるようにフィードバック制御を行う。
【0073】
制御対象はどのような対象であってもよいが、以下では、例えば発電システムに用いられる物体であって、自励振動または自励回転を誘起する物体(振動物体または回転物体)を制御対象とする例を主に説明する。自励回転は、自励振動を回転に変換するクランク機構(カウンターウェイトを設置してもよい)などの機構により実現することができる。以下では自励振動を行う振動物体への適用例を主に説明するが、「振動」を「回転」に置き換えれば、自励回転を行う回転物体に対しても同様の手順を適用できる。自励振動(自励回転)を行う振動物体(回転物体)は、自励振動子(自励回転子)とも呼ばれる。
【0074】
例えば制御部102bは、安定かつロバストな自励振動(リミットサイクル)になるように振動物体を制御する。より具体的には、制御部102bは、振動物体を振動させるための励起力と、振動物体自体の変位速度(または迎角α)との理想的な関係を目標値として、振動物体を制御する。励起力は、無次元化、正規化または標準化した値である励起力係数で表されてもよい。以下では、励起力を励起力係数で表す例を主に説明する。制御部102bは、振動物体の周辺(例えば風上など)の媒体(以下、周辺媒体。例えば風および水など)の流速が、安定的なリミットサイクルを励起する臨界流速Ucを超える条件などの制約条件を設定してもよい。
【0075】
振動物体に対して用いる推定モデル(例えばFEMLN)の入力データは、例えば以下のようなデータを含む。
・周辺媒体の流速(1つでも複数でもよい)などの流れ場(渦度など他の流れ場を含めてもよい)
・温度場および湿度場(周辺媒体の密度などの流れ場に関する物性値の推定に活用可能)
・振動物体の表面の圧力分布(各節点または各要素)などの変位場
・振動物体の表面の圧力変化速度分布(各節点または各要素)などの変位速度場
・振動物体自体の振動変位(例えば振動物体の重心位置の変位)
・振動物体自体の振動変位速度(例えば振動物体の重心位置の変位速度)
・時間に関する条件データλt
【0076】
さらに入力データは、センシングデータを活用したデータ同化またはキャリブレーションのために、振動物体の材料モデルに関する変数(例えば部材の弾性率など)、振動物体の構造モデルに関する変数(例えば板厚など)を含んでもよい。
【0077】
例えば上記の周辺媒体の流速などの流れ場は、
図5および
図6の負荷条件および境界条件についての条件データλ
Fに相当する。例えば材料モデルに関する変数および構造モデルに関する変数は、
図5および
図6の材料特性および構造変数についての条件データλ
Gに相当する。
【0078】
流速、変位、および、圧力などの物理量は、ベクトルの各成分でもよいし、縮約した値またはノルムでもよい。また、上記物理量は、ある時刻tの数値でもよいし、ある時刻tより前の時刻t-nΔtまでの平均または移動平均をとった数値であってもよい。
【0079】
推定モデル(例えばFEMLN)により、時刻t(時刻ta)での変位場、変位速度場、負荷・境界条件、および、材料・構造変数の入力のもと、出力であるエネルギ汎関数を通じて、時刻tから次の時間ステップ後の時刻t+Δt(時刻tb)での変位場および変位速度場が推定される。また、この処理を繰り返すことにより、変位場および変位速度場の時間的変化(時刻歴)が推定される。これにより、励起力係数と振動物体の変位速度との関係、または、励起力係数と周辺媒体の流れ場(例えば風速)との関係が推定できる。
【0080】
制御部102は、これらの関係の目標値に整合するように、振動物体の表面形状、振動物体の向き、および、気流制御機構などの制御量(制御変数、制御パラメータ)を制御する。目標値は、例えばデータテーブル、関係式、および、数理モデルなどにより事前に用意される。
【0081】
計測された周辺媒体の流速、温度、および、湿度データなどにより、周辺媒体の流れ場に関する物理量が変化する。このため、制御部102は、事前に用意している目標値を、センシングデータに合わせて、逐次、修正してもよい。
【0082】
図12は、自励振動する振動物体302の例を示す図である。振動物体302は、翼形状の構造(翼構造)を有し、例えば流速Uの気体(気流)に応じて振動する。この場合、振動物体302は例えば風力発電に用いることができる。振動物体302の形状は翼型に限らないが、気流の抵抗を低減できる形状が望ましい。なお気体(気流)の代わりに液体(水流)、または、気体と液体の混合物(混相流)などの流体が用いられてもよい。すなわち、振動物体302は、潮流発電および海流発電などに用いられてもよい。以下では、主に気体を流体として用いる場合を例に説明する。
【0083】
振動物体302は、粘性パラメータr、および、弾性パラメータkなどにより表される。振動物体302は、振動により
図12の上下方向に変位する。以下では、振動の方向をy方向とする座標を用いるものとする。
図12では、変位をyとしたときの速度(yドット)が表されている。制御部102は、振動物体302を制御対象とし、自励振動を誘起するように振動物体302の翼の形状、翼の向き、粘性パラメータr、および、弾性パラメータkなどを制御する。これらの制御量は、制御入力データとして制御部102に入力される。
【0084】
また
図12では、振動物体302の前方に、気流制御機構301が備えられる例が示されている。気流制御機構301は、振動物体302の周辺の気流を制御する機構(流れ場の増速および整流など)である。
図12の例では、気流制御機構301は、流速uの気流を、流速U(u<U)の気流に増速する。気流制御機構301は、振動物体302の前方に備えられる必要はなく、振動物体302の後方を含む、振動物体302の周辺のいずれの方向に備えられてもよい。
【0085】
気流制御機構301は、例えば、複数の翼構造を含み、翼の形状および翼の向きを制御可能とされてもよい。すなわち制御部102は、振動物体302が振動を誘起するように、気流制御機構301の翼の形状等を制御してもよい。
【0086】
図13は、自励振動する振動物体の他の例を示す図である。
図13の振動物体304は、回転プロペラ翼形状の振動物体の例である。部分翼305は、回転プロペラ翼形状の1枚の翼の一部を切り出した部分に相当する。振動物体304の周辺の気流を制御する気流制御機構303が備えられてもよい。
【0087】
振動物体302、304の変位(変位分布)または変形(変形分布)は、どのような方法で計測されてもよい。例えば、撮像装置(カメラなど)により撮影される画像を用いる方法、および、振動物体302の内部に備えられた複数のばねの変位を計測することにより振動物体302の表面の変位・変形分布を計測する方法を適用できる。
図14は、画像を用いて振動物体302の表面の変位を計測する計測方法の例を説明するための図である。なお部分翼305の表面の変位についても同様の計測方法を適用できる。
【0088】
センサの1つとして機能するカメラ1401、1402は、振動物体302の表面を撮影し、時系列の画像を出力する。拡大部1411に示すように、振動物体302の表面には、撮影された画像で識別可能な模様が付与される。画像は例えば取得部101により取得され、演算処理部110に出力される。演算処理部110は、取得された画像に対して、例えばデジタル画像相関法などを適用することにより、振動物体302の変位、変形、または、ひずみの時間的分布および空間的分布を算出する。
【0089】
次に、翼構造を有する振動物体(振動物体302、部分翼305など)の制御方法の例について説明する。
図15は、NACA(National Advisory Committee for Aeronautics)翼型の振動物体311-1、311-2、311-3を制御対象とする制御の例を示す図である。振動物体311-1、311-2、311-3は、制御部102により、相互に異なる形状となるように制御された振動物体に相当する。
【0090】
制御部102は、翼の形状および翼の傾きの少なくとも一方を変更するように、例えば形状を変更させるアクチュエータ、および、傾きを変更させるアクチュエータの動作を制御する。
図15の5つの矢印は、翼の形状が5自由度で制御可能であることを示す。自由度は5に限られず、2~4または6以上であってもよい。制御部102は、振動物体311-1~311-3の表面がなめらかになるなどの制約を満たすように翼の形状等を変更するように制御してもよい。
【0091】
図16は、翼構造を有する振動物体の制御方法の他の例を示す図である。
図16は、振動物体の表面に備えられる複数の羽の傾きを変更することにより、振動物体の翼の形状を制御する例を示す。
図16では、振動物体が5枚の羽321-1~325-1を備える例が示されているが、羽の枚数は5枚(5自由度)に限られない。羽321-2~325-2、および、羽321-3~325-3は、それぞれ羽321-1~325-1とは異なる傾きに変更された羽の組の例である。
【0092】
制御部102は、複数の羽の傾き、および、翼全体の傾きの少なくとも一方を変更するように、例えば羽の傾きを変更させるアクチュエータ、および、翼全体の傾きを変更させるアクチュエータの動作を制御する。
【0093】
図17は、翼構造を有する振動物体の制御方法の他の例を示す図である。
図17は、
図16の複数の羽(321-1~325-1など)の上部を覆う弾性材料331-1(331-2、331-3)をさらに備える振動物体の制御の例である。
【0094】
この例の場合も、制御部102は、
図16の同様の方法により、複数の羽の傾き、および、翼全体の傾きの少なくとも一方を変更することができる。
【0095】
図15~
図17の制御方法は一例であり、これらに限られるものではない。例えば制御部102は、アクチュエータにより翼形状の振動物体の表面に誘起流を発生させることで、振動物体に自励振動を誘起させるように制御してもよい。誘起流は、例えば、プラズマ誘起流、電気浸透流、温度・濃度勾配流、および、振動物体の内部から表面の小さな孔を介して出力される噴流などである。
【0096】
これまでは1つの振動物体の制御について説明したが、制御装置100は、複数の振動物体を制御するように構成されてもよい。このような構成の場合、制御部102は、さらに複数の振動物体の相互作用により、位相引き込み現象を誘起するように制御を行ってもよい。相互作用は、複数の振動物体を共通に支持する支持台からの振動伝播による相互作用、および、気流による各自励振動の相互作用などを含む。
【0097】
複数の振動物体から発生する励起力を、例えばクランク機構により回転運動に変換する構成の場合、クランクシャフトが、カウンターウェイトによるバランサーを備えてもよい。また、回転を滑らかにするために、一般的なクロスプレーン形式のように、角度位相をずらして各連結部が設置されてもよい。さらに、複数の振動物体から安定的で滑らかな回転力を得るために、クラッチ機構が設けられてもよい。
【0098】
図18~
図20は、複数の振動物体の相互作用の例を示す図である。
図18は、支持台1801の振動伝播により、複数の振動物体302-1~302-4に相互作用が生じる例を示す。
図19は、流れ場(周辺の気流)により複数の振動物体302-1~302-3に相互作用が生じる例を示す。
【0099】
図20は、周辺の場からの作用を介して複数の振動物体302-1~302-4に相互作用が生じる例を示す。周辺の場からの作用は、例えば、振動物体302-1~302-4の周辺の流れ場の増速および整流を行う制御機構2010により制御される流れ場の作用である。制御機構2010は、例えば、増速および整流のための翼型の表面形状の制御機構2011を備える。
【0100】
複数の振動物体が備えられる場合は、位相引き込み現象を誘起するように制御することにより、より安定的な励起力を発生し、外乱に対してロバストな制御を行うことが可能となる。この場合、目標値は、励起力係数と振動物体の動作に影響する物理量との関係が、安定かつロバストな自励振動を誘起し、かつ、複数の振動物体の相互作用により引き込み現象を誘起する関係となるように定められる。
図21は、引き込み現象の誘起例を示す図である。
図21の横軸は時間を表し、縦軸は励起力係数を表す。
【0101】
グラフ2101は、複数の振動物体間に相互作用が生じていない場合の励起力の変化を表す。グラフ2102は、複数の振動物体間に相互作用が生じている場合の励起力の変化を表す。複数の振動物体間の相互作用の大きさを定める変数(相互作用係数など)を適切な値に制御することにより、複数の振動物体の振動の位相を同期させ、大きな励起力を安定的に発生させることが可能となる。すなわち、構造安定な自励振動(リミットサイクル)の相互引き込み現象を発生させることができる。
【0102】
次に、励起力により自励振動する振動物体(以下、自励振動物体という場合がある)の力学モデルについて説明する。
【0103】
(22)式は、励起力を表す式である。Cは励起力係数、ρは周辺媒体(空気など)の密度、aは振動物体正面の断面の等価面積、Uは流速、αは迎角を表す。
【数22】
【0104】
図22は、振動物体の振動の速度(yドット)または迎角αに対する励起力係数Cの変化を表すグラフの例を示す図である。なお振動の速度と迎角αとは、
図22の上部に示すような関係を有する。U
αは迎角α方向の流速に相当する。なお、以下では主に振動の速度と励起力係数との関係を用いて説明するが、振動の速度を迎角αに置き換えても同様の手順を適用できる。
図22の下部は、翼の形状および翼の向きなどが相互に異なる2つの振動物体に対するグラフを表す。これらのグラフが示すように、例えば振動物体の翼の形状および翼の向きなどの制御に応じて、励起力係数の変化を表すグラフは変動しうる。
【0105】
励起力係数と迎角との関係は、例えば7次関数で近似すると以下の(23)式のように表される。mは振動物体の質量を表す。
【数23】
【0106】
(23)式を3次関数までで打ち切ると、変数変換により、励起力係数と迎角との関係はVan der Pol方程式に帰着できる。(24)式は、励起力係数と迎角との関係を3次関数で表した式の例である。
【数24】
【0107】
(23)式は、励起力に相当する励起項(右辺第1項)が、リミットサイクルを生じさせるような変位速度に関する1次関数と3次関数とを含む式となっている。励起項は、発散性を伴う振動(1次関数)を非線形項(3次関数)が抑制する項であると解釈することができる。なお励起項は、5次関数、および、7次関数などの3次以上の関数をさらに含んでもよい。
【0108】
周辺媒体の流速U(例えば風速)が臨界流速Ucを超えると、負の空力減衰が正の構造体減衰より大きくなり、安定的なHopf分岐(動的分岐)にリミットサイクルが生成される。流速Uがさらに大きくなると2つの安定リミットサイクルの間に1つの不安定リミットサイクルがある状態が現れる。
【0109】
図23は、振動物体の変位(横軸)と、変位速度(縦軸)との関係の例を示す図である。
図23の線2301は、初期状態に依存しない構造安定なリミットサイクルを表す。制御部102は、安定なリミットサイクルを目標として振動物体の振動を制御する。なお、リミットサイクルが生じる条件は以下の(25)式で表される。
【数25】
【0110】
(26)式および(27)式は、複数(n個、nは2以上の整数)の振動物体の引き込み現象を含む力学モデルの例を示す。y
i(1≦i≦n)は、i番目の振動物体の変位を表す。
【数26】
【数27】
【0111】
(26)式は、1つの相互作用係数εにより相互作用項(右辺第2項)が表される例である。相互作用係数εは、例えば振動物体を支持する支持台の振動伝播係数である。(26)式の右辺第3項は、外乱に相当する揺動項を表す。(26)式は、例えば
図18に示す相互作用のモデルに相当する。
【0112】
(27)式は、振動物体ごとに定められる相互作用係数ε
1~ε
nが用いられる例を示す。(27)式は、例えば
図19、
図20に示す相互作用のモデルに相当する。
【0113】
なお(26)式および(27)式は、複数の振動物体における全体の挙動をGinzburg-Landau方程式に帰着できるようにモデル化した式である、と解釈することができる。
【0114】
演算処理部110(算出部111)は、周辺の気体の流速、流量、および、流れの方向(温度、湿度を含めてよい)などを条件データとして入力して、FEMLNを用いて、振動物体の制御に用いる物理量を算出する。物理量は、例えば、振動物体の変位場および変位速度場である。
【0115】
以下、物理量の算出、および、算出した物理量による制御の例について説明する。
【0116】
(制御例1)
制御例1は、振動物体の表面の変位分布をセンサなどによりセンシングできない場合、例えば、上記の撮像装置により撮影される画像を用いた変位分布の計測方法を適用できない場合の例である。
【0117】
算出部111は、FEMLNとは異なる推定モデルなどを用いることにより、変位場および変位速度場から振動物体の表面の圧力分布を算出する。FEMLNが、物理量として振動物体の表面の圧力分布を算出するように構成してもよい。
【0118】
算出部111は、さらに、算出された圧力分布を振動物体の表面に渡って積分することで、振動物体に負荷される励起力係数の時間的変化および振動物体の変位速度に対する依存性(変位速度依存性)を算出する。
【0119】
制御部102は、例えば以下の領域の圧力が向上するように、振動物体の表面形状および向きの少なくとも一方を変化させるように制御する。
・振動物体の表面の圧力が低下した領域
・圧力分布が乱れる領域
・圧力分布が細動する領域
・上記の各領域の周辺領域
【0120】
例えば、圧力が向上する表面形状および向きと、圧力分布との関係を記述したデータベースまたはモデルベースを記憶部121に記憶しておく。制御部102は、このデータベースまたはモデルベースを用いて、圧力が向上するような振動物体の形状の変化量を求める。
【0121】
制御部102は、目標とする励起力係数と振動物体の挙動(制御対象の動作に影響する物理量)との間の関係を示す以下のような制御量を事前に設定しておき、目標との誤差が小さくなるように、振動物体の形状を制御してもよい。制御量は、例えば、データテーブル、関係式、または、数理モデル(例えば、3次関数の係数A1、A2など)で表される。
・目標とする励起力係数(または振動物体の表面の圧力分布)と風速との関係
・目標とする励起力係数(または振動物体の表面の圧力分布)と振動物体の振動速度との関係
・目標とする励起力係数(または振動物体の表面の圧力分布)と迎角との関係
【0122】
(制御例2)
制御例2は、振動物体の表面の変位分布を撮像装置(センサの一例)によりセンシングできる場合の例である。
【0123】
演算処理部110(算出部111)は、撮像装置などにより取得された振動物体の表面の画像履歴を、デジタル画像相関法により変位分布の履歴に変換する。算出部111は、得られた変位分布を、例えばFEMLNなどの推定モデルを用いて振動物体の表面全体の圧力分布(圧力分布の時間的変化)を算出する。
【0124】
算出部111は、さらに、算出された圧力分布を振動物体の表面に渡って積分することで、振動物体に負荷される励起力係数の時間的変化および変位速度依存性を算出する。その他の処理は、制御例1と同様である。
【0125】
(制御例3)
制御例3は、振動物体の表面全体の圧力分布を圧力センサによりセンシングできる場合の例である。
【0126】
演算処理部110(算出部111)は、圧力センサによりセンシングされる振動物体の表面の圧力分布の時間的変化を取得する。算出部111は、取得した圧力分布を振動物体の表面に渡って積分することで、振動物体に負荷される励起力係数の時間的変化を算出する。その他の処理は、制御例1と同様である。
【0127】
なお制御例3は、FEMLNを用いずに制御する例と解釈することができる。このように、より高速に物理量を得られる他の方法を適用できる場合は、FEMLNなどの推定モデルを用いなくても、モニタリングデータなどを用いたリアルタイムのシステム制御を実現可能である。
【0128】
(制御例4)
制御例4は、振動物体の表面一部の変位分布を、変位計測計または撮像装置(画像)によりセンシングできる場合の例である。
【0129】
演算処理部110(算出部111)は、例えばFEMLNにより振動物体の表面の圧力分布を推定する。算出部111は、センシングできる領域のノイズを含む圧力分布と、推定した圧力分布とから、データ同化により振動物体の表面の圧力分布を推定する。算出部111は、センシングした変位分布と整合(誤差最小化など)するようにFEMLNモデルを修正してもよい。算出部111は、得られた圧力分布を振動物体の表面に渡って積分することで、振動物体に負荷される励起力係数の時間的変化を算出する。その他の処理は、制御例1と同様である。
【0130】
(制御例5)
制御例5は、複数の振動物体がある場合の例である。制御部102は、上記制御例1~4のような制御に加え、複数の振動物体の振動位相の引き込み現象が誘起されるように、複数の振動物体間の相互作用係数εを制御する。
【0131】
制御部102は、以下のようなパラメータを制御する制御量に含めてもよい。
・弾性パラメータk
・粘性パラメータr
・弾性パラメータkと振動物体の質量mとの比k/m
・粘性パラメータrと振動物体の質量mとの比r/m
【0132】
また、各振動物体に関するm、k、rは、一部または全部の振動物体の間で異なっていてもよい。ここで、粘性パラメータは、発電機構、ギアおよび軸受などの、摩擦および非弾性変形による機械的なエネルギ損失、並びに、電気的なダンピングなどのエネルギ損失も含んでいる。
【0133】
(制御例6)
上記の各制御例は、振動物体の自励振動の励起力を制御する方法である。これらの制御方法に加えて、自励振動物体の現在位置と速度とをフィードバックする可変速度フィードバックを行ってもよい。
図24は、可変速度フィードバックを行う機能の構成例を示す図である。
【0134】
可変速度フィードバックを行う制御部102は、例えば、外乱(励起力)を加振源とする系において、自励振動物体の速度に比例した制御力を与える速度フィードバックループ、振幅に応じて速度フィードバックゲインKを変化させる振幅コントローラ2401、および、振幅検出器2402を含む。
【0135】
可変速度フィードバックの具体的な実現方法は、どのような方法であってもよいが、例えば以下の方法を適用できる。
【0136】
(28)式は、強制外力がない場合の自励振動物体の運動方程式を表す。
【数28】
【0137】
以下のように、粘性パラメータrと速度フィードバックゲインKとの差の正負で自励振動物体の安定性すなわち、(28)式の解の安定性が決まる。
r-K<0:自励発振(不安定)
r-K=0:持続振動(安定限界)
r-K>0:アクティブ制振(安定)
【0138】
速度フィードバックゲインKが粘性パラメータrより大きければ(r-K<0)、振動物体は自励振動を発生する。振幅が大きくなると、制御部102は、速度フィードバックゲインKの大きさを振動の大きさに応じて変化させ、振幅を一定に保たせる。制御部102は、振動が小さい場合には、速度フィードバックゲインKを大きくし、自励振動を発生させてもよい。制御部102は、振動が大きいときには、速度フィードバックゲインKを小さくしてアクティブ制振を行ってもよい。
【0139】
速度フィードバックゲインKの値を調整する振幅コントローラ2401としては、振幅偏差の比例項、振幅偏差の3乗項、および、振幅偏差を時間に関して積分した項、の3つの項から構成する方法などが挙げられる。
【0140】
図25および
図26は、複数の自励振動物体が相互引き込みを起こす構成に対する可変速度フィードバック機能の構成例を示す図である。
図25は、複数の自励振動物体が相互作用する構成(
図18、
図19など)に対する可変速度フィードバック機能の構成例である。
図26は、複数の自励振動物体が周辺の場から相互作用を受ける構成(
図20など)に対する可変速度フィードバック機能の構成例である。
【0141】
図25の制御部102-1および102-2は、例えば複数の振動物体のうち、それぞれ振動物体302-1および302-2に対する制御を行う。y
1およびK
1は、それぞれ振動物体302-1の変位、および、振動物体302-1に対する速度フィードバックゲインを表す。y
2およびK
2は、それぞれ振動物体302-2の変位、および、振動物体302-1に対する速度フィードバックゲインを表す。K’は、相互引き込み現象に関する速度フィードバックゲインを表す。上記のように、m、k、rは、振動物体ごとに異なる値であってもよい。
【0142】
制御部102-1に含まれる振幅コントローラ2401aおよび振幅検出器2402aは、
図24の振幅コントローラ2401および振幅検出器2402と同様の機能を備える。制御部102-2に含まれる振幅コントローラ2401bおよび振幅検出器2402bは、
図24の振幅コントローラ2401および振幅検出器2402と同様の機能を備える。
【0143】
なお
図25は2つの振動物体に対する制御部102-1および102-2の例を示しているが、3つ以上の振動物体に対する制御部102も同様に構成することができる。
【0144】
また
図26は、説明を簡単にするため2つ(n=2)の振動物体に対する制御部102-1および102-2の例を示しているが、3つ以上(n≧3)振動物体に対する制御部102も同様に構成することができる。
【0145】
上記の各制御例は、振動物体の形状制御だけではなく、気流制御機構内に備えられる、流れ増速などのための翼型形状の物体の表面形状および向きの制御にも適用できる。
【0146】
次に、振動物体の振動に基づき発電を行う機構の構成例を説明する。
図27は、電磁誘導型の振動発電(回転発電)の構成例を示す図である。振動発電に用いられる振動物体306は、連結部2701を介して発電機構2710(後述の可動子2722)に接続される。
【0147】
図28は、発電機構2710の構成例を示す図である。発電機構2710は、ばね2711と、鉄心コア2712と、磁石2713と、コイル2714と、ばね2715と、を含む。また発電機構2710は、固定子2721と、可動子2722とに分けることができる。固定子2721は、コイル2714を含む。可動子2722は、ばね2711、鉄心コア2712、磁石2713、および、ばね2715を含む。可動子2722は、連結部2701を介して振動物体306に接続され、振動物体306の振動に応じて振動する。このとき固定子2721は固定状態であり、振動しない。
【0148】
発電機構2710を用いる場合、制御部102は、発電機構2710の電気的な物理量を制御量として制御してもよい。
【0149】
また制御部102は、振動物体および周辺支持部の変形量、変位、および、加速度を制御量として制御してもよい。
【0150】
このように、本実施形態にかかる制御装置では、発電に用いる振動物体の制御などに用いることができる物理量をより高速に推定することができる。
【0151】
例えば、本実施形態では、物体周辺の流れ場は複雑になることが多く、時間的および空間的な流速分布を推定することは困難であることに着目し、このような推定を可能とする推定モデルを実現する。具体的には、本実施形態の制御装置は、周辺の流れ場により物体の表面に変位分布を生じさせる、または、変形させる機構(構造)と、変位に関する物理量(変位場、変位速度場)を計測する機構と、変位場および変位速度場から物体が受ける圧力(時間的分布、空間的分布)を推定する推定モデルと、を備える。これにより、物体が受ける圧力分布から物体周辺の流れ場を推定することができ、推定された情報を元に最適な気流制御を行うことができる。
【0152】
次に、本実施形態にかかる制御装置のハードウェア構成について
図29を用いて説明する。
図29は、本実施形態にかかる制御装置のハードウェア構成例を示す説明図である。
【0153】
本実施形態にかかる制御装置は、CPU51などの制御装置と、ROM(Read Only Memory)52やRAM53などの記憶装置と、ネットワークに接続して通信を行う通信I/F54と、各部を接続するバス61を備えている。
【0154】
本実施形態にかかる制御装置で実行されるプログラムは、ROM52等に予め組み込まれて提供される。
【0155】
本実施形態にかかる制御装置で実行されるプログラムは、インストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、フレキシブルディスク(FD)、CD-R(Compact Disk Recordable)、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録してコンピュータプログラムプロダクトとして提供されるように構成してもよい。
【0156】
さらに、本実施形態にかかる制御装置で実行されるプログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、本実施形態にかかる制御装置で実行されるプログラムをインターネット等のネットワーク経由で提供または配布するように構成してもよい。
【0157】
本実施形態にかかる制御装置で実行されるプログラムは、コンピュータを上述した制御装置の各部として機能させうる。このコンピュータは、CPU51がコンピュータ読取可能な記憶媒体からプログラムを主記憶装置上に読み出して実行することができる。
【0158】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0159】
100 制御装置
101 取得部
102 制御部
110 演算処理部
111 算出部
112 学習部
121 記憶部