(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】音発生装置及び翼騒音低減装置
(51)【国際特許分類】
H04R 7/04 20060101AFI20240408BHJP
G10K 11/178 20060101ALI20240408BHJP
H04R 17/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
H04R7/04
G10K11/178 100
H04R17/00
(21)【出願番号】P 2021043387
(22)【出願日】2021-03-17
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 達彦
【審査官】冨澤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-053197(JP,A)
【文献】特開2018-111461(JP,A)
【文献】里信純、高橋周平,円環状振動体により励振される回転音場のシミュレーション,広島工業大学紀要研究編,第 54 巻,日本,2020年,pp.101-105,https://libwww.cc.it-hiroshima.ac.jp/library/pdf/research54_101-105.pdf,<online>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 7/00-7/26
G10K 11/178
H04R 17/00
H04R 9/00-9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円環状の弾性部材と、
前記弾性部材に所定の角度間隔で配置され、前記弾性部材に振動を印加するように構成された3つ以上の加振アクチュエータと、
前記3つ以上の加振アクチュエータを駆動するための駆動信号を生成する制御回路であって、前記所定の角度間隔離れた2つの加振アクチュエータのための駆動信号間に、前記弾性部材に励起される振動モードであるロブモードの次数と前記所定の角度間隔とに依存する位相差がある、制御回路と、
を備え
、
前記ロブモードの次数をM(Mは1以上の整数)とすると、前記3つ以上の加振アクチュエータは2M+1個以上の加振アクチュエータである、
音発生装置。
【請求項2】
前記3つ以上の加振アクチュエータは4M個の加振アクチュエータであり、前記位相差は90度である、
請求項
1に記載の音発生装置。
【請求項3】
前記3つ以上の加振アクチュエータは3M個の加振アクチュエータであり、前記位相差は120度である、
請求項
1に記載の音発生装置。
【請求項4】
円環状の弾性部材と、
前記弾性部材に所定の角度間隔で配置され、前記弾性部材に振動を印加するように構成された3つ以上の加振アクチュエータと、
前記3つ以上の加振アクチュエータを駆動するための駆動信号を生成する制御回路であって、前記所定の角度間隔離れた2つの加振アクチュエータのための駆動信号間に、前記弾性部材に励起される振動モードであるロブモードの次数と前記所定の角度間隔とに依存する位相差がある、制御回路と、
を備え、
前記弾性部材は、前記振動モードに対応する固有振動数が騒音低減対象であるロブモードに対応する周波数に合致するように構成される、
音発生装置。
【請求項5】
円環状の弾性部材と、
前記弾性部材に所定の角度間隔で配置され、前記弾性部材に振動を印加するように構成された3つ以上の加振アクチュエータと、
前記3つ以上の加振アクチュエータを駆動するための駆動信号を生成する制御回路であって、前記所定の角度間隔離れた2つの加振アクチュエータのための駆動信号間に、前記弾性部材に励起される振動モードであるロブモードの次数と前記所定の角度間隔とに依存する位相差がある、制御回路と、
前記振動モードに対応する固有振動数を変えるために、前記弾性部材に圧力を印加する加圧部
と、
を備える音発生装置。
【請求項6】
前記弾性部材を収容するケースをさらに備え、
前記弾性部材は、前記弾性部材の内縁部が前記ケースに固定され、前記弾性部材の外縁部がフリーである内縁固定で前記ケースに取り付けられる、
請求項1乃至
5のいずれか1項に記載の音発生装置。
【請求項7】
前記ケースは前記弾性部材の一主面を覆う囲い部を備える、
請求項
6に記載の音発生装置。
【請求項8】
前記制御回路は、前記位相差を生成するために、入力信号に位相シフトを適用する位相シフタを備える、
請求項1乃至
7のいずれか1項に記載の音発生装置。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれか1項に記載の音発生装置と、
少なくとも1つのマイクと、
を備え、
前記制御回路は、前記少なくとも1つのマイクの出力に基づいて前記駆動信号を生成する、翼騒音低減装置。
【請求項10】
円環状の弾性部材と、前記弾性部材に所定の角度間隔で配置され、前記弾性部材に振動を印加するように構成された3つ以上の加振アクチュエータと、前記3つ以上の加振アクチュエータを駆動するための駆動信号を生成する制御回路であって、前記所定の角度間隔離れた2つの加振アクチュエータのための駆動信号間に、前記弾性部材に励起される振動モードであるロブモードの次数と前記所定の角度間隔とに依存する位相差がある、制御回路と、を備える音発生装置と、
少なくとも1つのマイクと、
を備え、
前記制御回路は、前記少なくとも1つのマイクの出力に基づいて前記駆動信号を生成する、翼騒音低減装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音発生装置及び翼騒音低減装置に関する。
【背景技術】
【0002】
翼騒音を低減するために能動的騒音低減手法を用いる場合、動翼の回転軸と同軸的に設置した複数のスピーカを使用して動翼回転モードの模擬を行う。例えば、M次ロブモードによる騒音を低減する場合には、2M+1個以上のスピーカが離散的に配置される。ロブモードによる騒音は円周上の位相変化がある騒音であり、M次ロブモードでは、角度φ[rad]に対してMφ[rad]の位相変化が生じる。翼騒音低減にスピーカを使用する場合、動翼の周囲にスピーカ設置用の治具が必要となり、個々のスピーカ重量により全体荷重が重くなる。また、スピーカ設置容積により音場や翼の流れが乱されることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、翼騒音低減などの用途に利用可能な音発生装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施形態に係る音発生装置は、弾性部材、3つ以上の加振アクチュエータ、及び制御回路を備える。前記弾性部材は円環状である。前記3つ以上の加振アクチュエータは、前記弾性部材に所定の角度間隔で配置され、前記弾性部材に振動を印加するように構成される。前記制御回路は、前記3つ以上の加振アクチュエータを駆動するための駆動信号を生成する。前記所定の角度間隔離れた2つの加振アクチュエータのための駆動信号間に、前記弾性部材に励起される振動モードであるロブモードの次数と前記所定の角度間隔とに依存する位相差がある。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1A】実施形態に係る音発生装置の構造例を示す斜視図。
【
図2】
図1Aに示した音発生装置を翼騒音低減に適用する例を示す平面図。
【
図3】
図1Aに示した加振アクチュエータの配置を示す下面図。
【
図4A】
図1Aに示した加振アクチュエータが梁タイプ圧電素子である例を示す斜視図。
【
図4B】
図1Aに示した加振アクチュエータが円板タイプ圧電素子である例を示す斜視図。
【
図5】実施形態に係る音発生装置の他の構造例を示す斜視図。
【
図6】実施形態に係る音発生装置のさらなる構造例を示す斜視図。
【
図7A】実施形態に係る音発生装置のさらに別の構造例を示す斜視図。
【
図8】実施形態に係る音発生装置の他の構造例を示す断面図。
【
図9】実施形態に係る音発生装置のさらなる構造例を示す断面図。
【
図10】実施形態に係る音発生装置のさらに別の構造例を示す断面図。
【
図11】
図1に示した音発生装置に含まれる制御回路を示すブロック図。
【
図12A】
図11に示した第1制御部に含まれる駆動回路の一例を示すブロック図。
【
図12B】
図11に示した第1制御部に含まれる駆動回路の他の例を示すブロック図。
【
図13】
図1に示した円環板の振動モードを示す図。
【
図14A】
図1に示した円環板の振動モードが回転する様子を示す図。
【
図14B】
図1に示した円環板の振動モードが回転する様子を示す図。
【
図15】
図1に示した円環板への加圧力と固有振動数との関係を示す図。
【
図16A】実施形態に係るN=M4配置の一例を示す図。
【
図16B】
図16Aに示した加振アクチュエータ配置に使用され得る駆動回路を示すブロック図。
【
図17A】実施形態に係るN=M4配置の他の例を示す図。
【
図17B】
図17Aに示した加振アクチュエータ配置に使用され得る駆動回路を示すブロック図。
【
図18】実施形態に係るN=M4配置のさらなる例を示す図。
【
図19A】実施形態に係るN=2M+α配置の一例を示す図。
【
図19B】
図19Aに示した加振アクチュエータ配置に使用され得る駆動回路を示すブロック図。
【
図20】実施形態に係るλ/4ギャップ配置の一例を示す図。
【
図21】実施形態に係る位相シフタを説明するための図。
【
図22】実施形態に係る、90度の位相シフトを適用する位相シフタを示すブロック図。
【
図23】実施形態に係る、任意の位相シフトを適用する位相シフタを示すブロック図。
【
図24】実施形態に係る位相シフタにおいて生じる遅延誤差を示す図。
【
図25】実施形態に係るフィルタJ(θ)を使用した駆動回路を示すブロック図。
【
図26】実施形態に係るフィルタJ(θ)を使用した駆動回路を示すブロック図。
【
図27】実施形態に係るフィルタJ(θ)を使用した駆動回路を示すブロック図。
【
図28】実施形態に係るフィルタJ(θ)を使用した駆動回路を示すブロック図。
【
図29】実施形態に係るフィルタJ(θ)を使用した駆動回路を示すブロック図。
【
図30A】実施形態に係る音発生装置の他の構造例を示す上面図。
【
図31】実施形態に係る音発生装置のさらなる構造例を示す分解図。
【
図32A】実施形態に係る音発生装置のさらに別の構造例を示す上面図。
【
図33】M次ロブモードに対するN=3M配置での加振アクチュエータ数及びN=4M配置での加振アクチュエータ数を示す図。
【
図34】実施形態に係る加振アクチュエータ配置を示す図。
【
図35A】
図34に示した加振アクチュエータ配置に使用され得る駆動回路を示すブロック図。
【
図35B】
図34に示した加振アクチュエータ配置に使用され得る駆動回路を示すブロック図。
【
図36】
図16に示した加振アクチュエータ配置に使用され得る駆動回路を示すブロック図。
【
図37】実施形態に係る加振アクチュエータ配置を示す図。
【
図38A】
図37に示した加振アクチュエータ配置に使用され得る駆動回路を示すブロック図。
【
図38B】
図37に示した加振アクチュエータ配置に使用され得る駆動回路を示すブロック図。
【
図39】実施形態に係る加振アクチュエータ配置を示す図。
【
図40】
図39に示した加振アクチュエータ配置に使用され得る駆動回路を示すブロック図。
【
図41】実施形態に係る集音装置の構造例を示す図。
【
図42A】
図41に示した集音装置に含まれる処理回路の一例を示すブロック図。
【
図42B】
図41に示した集音装置に含まれる処理回路の他の例を示すブロック図。
【
図43】実施形態に係る集音装置の他の構造例を示す図。
【
図44A】
図43に示した集音装置に含まれる処理回路の一例を示すブロック図。
【
図44B】
図43に示した集音装置に含まれる処理回路の一例を示すブロック図。
【
図44C】
図43に示した集音装置に含まれる処理回路の一例を示すブロック図。
【
図44D】
図43に示した集音装置に含まれる処理回路の一例を示すブロック図。
【
図44E】
図43に示した集音装置に含まれる処理回路の一例を示すブロック図。
【
図44F】
図43に示した集音装置に含まれる処理回路の一例を示すブロック図。
【
図44G】
図43に示した集音装置に含まれる処理回路の一例を示すブロック図。
【
図45】実施形態に係る翼騒音低減装置を示す上面図。
【
図46】
図45に示した翼騒音低減装置に含まれる制御回路の一例を示すブロック図。
【
図47】
図45に示した制御回路が保持するデータマップを示す図。
【
図48】
図45に示した翼騒音低減装置に含まれる制御回路の他の例を示すブロック図。
【
図49】実施形態に係る音発生装置を物体浮遊に適用する例を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、図面を参照しながら実施形態を説明する。重複する説明を避けるために、全図を通して同様の構成要素に同様の符号を付している。また、個々の構成要素を区別するために、符号に枝番を付している。いくつかの図面では、簡略化のために1又は複数の構成要素の図示を省略している。
【0008】
実施形態は音を発する音発生装置に関する。実施形態に係る音発生装置は、例えば、翼騒音低減や物体浮遊などの用途に利用することができる。翼騒音は、ドローンのプロペラやプロペラファンなど、動翼の回転により生じる騒音である。翼騒音は複数のロブモードによる騒音を含む。以下では、主として、音発生装置を翼騒音低減に利用する場合を想定して説明を行う。
【0009】
図1Aは一実施形態に係る音発生装置100の構造例を概略的に示し、
図1Bは分解状態で音発生装置100を概略的に示し、
図1CはC-C′線における音発生装置100の断面を概略的に示し、
図1Dは一部切り欠いた状態で音発生装置100を概略的に示している。
【0010】
図1Aから
図1Dに示すように、音発生装置100は、円環板102、3つ以上の加振アクチュエータ104、ケース106、支持部材108、110、複数の加圧アクチュエータ112、及び加圧部材114を備える。音発生装置100は、加振アクチュエータ104及び加圧アクチュエータ112を制御する制御回路150(
図11)をさらに備える。音発生装置100の制御回路150については後述する。
【0011】
円環板102は弾性材料で形成される円環状の振動板である。例えば、円環板102は、円環板102に励起される振動モードに対応する固有振動数が騒音低減対象であるM次ロブモードに対応する周波数と合致するように構成される。以降では、円環板102に励起される振動モードを周方向ロブモード又は単にロブモードと称し、騒音低減対象であるロブモードを対象ロブモードと称することもある。さらに、騒音低減対象であるロブモードに対応する周波数を対象周波数と称することもある。
【0012】
円環板102の寸法(内寸半径、外寸半径、厚み)は、固有振動数が対象周波数と合致するように設計される。ここで、固有振動数が対象周波数と合致するとは、固有振動数が対象周波数を中心とし所定の幅を有する周波数範囲内にあることを指す。例えば、対象周波数をf[Hz]とすると、固有振動数は(f-100)Hzから(f+100)Hzまでの周波数範囲内の値に設定される。厚みが厚いほど固有振動数は高くなり、材料のヤング率が高いほど固有振動数は高くなり、外寸半径が小さいほど固有振動数は高くなる。このことを考慮に入れて寸法設計が実施される。
【0013】
音発生装置100が翼騒音低減に適用される例では、
図2に示すように、騒音源としての動翼200は音発生装置100の内側に配置されることになる。動翼200が音発生装置100の内側に配置される場合、円環板102の内寸半径は動翼200の寸法(長さ)よりも大きい。
【0014】
図1Cに示すように、加振アクチュエータ104は、所定の角度間隔で円環板102の下面に配置される。なお、加振アクチュエータ104は円環板102の上面に配置されてもよい。ここで、円環板102の上面は音を放射すべき空間に対向する円環板102の主面を指し、円環板102の下面は円環板102の上面とは反対側の円環板102の主面を指す。角度間隔は、円環板102の周方向における間隔を指し、中心に対する角度で表される。
図3に示す例では、10個の加振アクチュエータ104-1~104-10が36度間隔で円環板102に配置されている。枝番はロブモードの回転方向に沿って順番に付されている。対象ロブモードの次数をMとしたときに、加振アクチュエータ104の数は2M+1以上である。
【0015】
加振アクチュエータ104は、音を放射するために、円環板102に振動を印加するように構成される。加振アクチュエータ104として、小型ボイスコイル型アクチュエータやピエゾアクチュエータなどの小型軽量な振動デバイスを使用することができる。ピエゾアクチュエータは、
図4Aに示すような梁タイプ圧電素子であってもよく、
図4Bに示すような円板タイプ圧電素子であってもよい。加振アクチュエータ104が梁タイプ又は円板タイプの圧電素子である場合、加振アクチュエータ104は、
図4A又は
図4Bに示すように、振動伝達部材120を介して円環板102に取り付けられる。圧電素子は、ユニモルフ型圧電素子であってもよく、バイモルフ型圧電素子であってもよい。
【0016】
図1Cに示すように、ケース106は、円環板102、加振アクチュエータ104、支持部材108、110、加圧アクチュエータ112、及び加圧部材114を収容する。ケース106は、円環状の支持部106A及び囲い部106Bを備える。支持部106Aは円環板102を支持する。囲い部106Bは円環板102の下面を覆う。囲い部106Bは、円環板102の下面からの放射音による音圧低下を防止する。このように、ケース106は、円環板102を支持する且つ音放射効率を上げる役割を持つ。
【0017】
なお、ケース106は、
図5に示すように、円環状のスリットを有する蓋部106Cをさらに備えてもよい。蓋部106Cは、支持部106A及び囲い部106Bに取り付けられ、円環板102の上面に対向する。
【0018】
図1Bに示す例では、支持部材108、110は円環状である。支持部材108、110は円環板102をケース106に取り付けるために使用される。円環板102の支持は面支持であり得る。
図1Cに示すように、支持部材110は例えばボルト締結でケース106に固定され、支持部材110には雌ねじが切られた穴が設けられている。支持部材108及びケース106の支持部106Aが円環板102の内縁部を挟み込んだ状態でボルトが支持部材110の穴に締結され、ボルトの先端により支持部材108がケース106に押しつけられる。これにより、円環板102がケース106に取り付けられる。
【0019】
加圧アクチュエータ112及び加圧部材114は、円環板102の振動モードに対応する固有振動数を変えるために、円環板102に圧力を印加するように構成される加圧部に相当する。
図1Bに示す例では、加圧部材114は円環状である。加圧部材114は弾性板116及び薄板118を含む。弾性板116は振動絶縁のための部材であり、例えばゴムで形成される。弾性板116及び薄板118は互いに接着される。弾性板116が円環板102に取り付けられる。加圧アクチュエータ112の各々は、その一端が支持部材110に取り付けられ、その他端が加圧部材114に取り付けられる。
【0020】
加圧アクチュエータ112は、円環板102に印加する圧力を生成する。加圧アクチュエータ112は小型軽量のものであることが望ましい。加圧アクチュエータ112として、例えば、積層型ピエゾアクチュエータを使用することができる。加圧アクチュエータ112が積層型ピエゾアクチュエータである場合、加圧アクチュエータ112の一端が支持部材110に固定され、加圧アクチュエータ112の他端が加圧部材114に固定され、支持部材110は加圧アクチュエータ112による圧力で変形しないよう充分な厚みを有するようにする。
【0021】
なお、円環板102の支持は、円環板102の内縁部がケース106に固定され、円環板102の外縁部がフリーである内縁固定に限らない。円環板102の支持は、
図6に示すように、円環板102の外縁部がケース106に固定され、円環板102の内縁がフリーである外縁固定であってもよい。ただし、音放射効率の観点から内縁固定が好ましい。
【0022】
また、音放射効率の観点から、変位が大きくなる箇所を加振することが好ましい。内縁固定では、
図1Cに示すように、加振アクチュエータ104は円環板102の外縁側に配置される。外縁固定では、加振アクチュエータ104は円環板102の内縁側に配置される。
【0023】
音放射効率をより上げるために、プラスチックダンボールなどを円環板102に張り付けてもよい。
【0024】
円環板102は円環状(リング形状)の弾性部材の一例である。弾性部材はダイアフラムと称されることもある。弾性部材は振動膜であってもよい。
図7Aは、弾性部材として振動膜103が使用される場合における音発生装置100の構造例を概略的に示し、
図7Bは、
図7Aに示した音発生装置100を一部切り欠いた状態で示している。円環板102に代えて振動膜103が使用される場合、
図7A及び
図7Bに示すように、振動膜103の内縁部及び外縁部がともにケース106に固定される。
【0025】
図8は、音発生装置100の他の構造例を概略的に示している。
図8に示す例では、加圧アクチュエータ112による圧力は支持部材108を介して円環板102に印加される。加圧アクチュエータ112は、円環板102をケース106に取り付けるために、さらに、固有振動数を変えるために、使用される。
【0026】
図9は、音発生装置100のさらなる構造例を概略的に示している。
図9に示す例では、音発生装置100は加圧部(具体的には加圧アクチュエータ112及び加圧部材114)を備えない。例えば動翼が一定速度で回転する場合のように対象周波数が一定である場合には、円環板102の振動モードに対応する固有振動数を変える必要がない。ただし、設計上の固有振動数と実際の固有振動数にずれが生じることがある。このようなずれを低減又は除去するために、
図10に示すように、ボルト113を用いて円環板102に圧力を印加するようにしてもよい。
図10に示す例では、雌ねじが切られた穴が支持部材110に設けられ、この穴にボルト113が締結され、ボルト113の先端が加圧部材114を介して円環板102に押しつけられる。ボルト113の回転角度により、円環板102への加圧力が調整される。
【0027】
図11は、音発生装置100の制御回路150を概略的に示している。
図11に示すように、制御回路150は、第1制御部152、第2制御部154、及びデータマップ156を備える。一例として、制御回路150は処理回路及びメモリを備える。処理回路は例えばCPU(Central Processing Unit)などの汎用プロセッサを含む。メモリは、揮発性メモリ及び不揮発性メモリを含み、データマップ156及び制御プログラムなどのデータを記憶する。第1制御部152及び第2制御部154について後述する処理の少なくとも一部は、汎用プロセッサが制御プログラムを実行することにより実現され得る。制御回路150は、汎用プロセッサに代えて又は追加して、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの専用プロセッサを備えてもよい。
【0028】
第1制御部152は加振アクチュエータ104-1~104-Nを制御する。例えば、第1制御部152は、加振アクチュエータ104-1~104-Nを駆動するための駆動信号を生成し、駆動信号を加振アクチュエータ104-1~104-Nに送出する。所定の角度間隔だけ離れた2つの加振アクチュエータ104のための駆動信号間には、周方向ロブモードの次数と所定の角度間隔とに応じた位相差がある。これにより、円環板102の振動モードが回転し、翼騒音のロブモード特性を模擬することが可能となる。音発生装置100は、翼騒音低減への利用では、対象ロブモードの次数に等しい次数のロブモードを励起するように構成される。例えば、対象ロブモードが4次ロブモードである場合、音発生装置100は、振動板102に4次ロブモードを励起するように構成される。
【0029】
図12Aは、第1制御部152に含まれる駆動回路の一例を概略的に示している。
図12Aに示す例では、第1制御部152は、駆動信号生成部161及び位相シフタ162-1~162-Nを備える。駆動信号生成部161は駆動信号を生成する。駆動信号はN分岐されて位相シフタ162-1~162-Nに供給される。位相シフタ162-iは駆動信号に位相シフト-Mφ
iを適用する。ここで、φ
i=2π(i-1)/Nであり、Mは周方向ロブモードの次数であり、Nは加振アクチュエータ104の個数である。位相シフタ162-iにより位相シフト-Mφ
iが適用された駆動信号は、加振アクチュエータ104-iに送出される。
【0030】
図12Bは、第1制御部152に含まれる駆動回路の他の構成例を概略的に示している。
図12Bに示す例では、第1制御部152は、駆動信号生成部161及び遅延器163-1~163-Nを備える。駆動信号生成部161から出力される駆動信号はN分岐されて遅延器163-1~163-Nに供給される。遅延器163-iは駆動信号を時間Mφ
i/2πfだけ遅延させる。ここで、φ
i=2π(i-1)/Nであり、fは駆動信号の周波数である。遅延器163-iにより時間Mφ
i/2πfだけ遅延された駆動信号は加振アクチュエータ104-iに送出される。
【0031】
図13は、1~6次ロブモードに対応する円環板102の振動モードを概略的に示している。
図13において、Miはi次ロブモードを表す。
図13に示すように、変位が最大となる位置である腹の数は周方向ロブモードの次数に依存する。
【0032】
図14Aは3次ロブモードに対応する円環板102の振動モードが回転する様子を概略的に示し、
図14Bは4次ロブモードに対応する円環板102の振動モードが回転する様子を概略的に示している。
図14A及び
図14Bにおいて、「+」は変位が上方向である腹を表し、「-」では変位が下方向である腹を表す。
図14A及び
図14Bに示すように、円環板102の振動モードは時間とともに回転する。
【0033】
図11を再び参照すると、第2制御部154は加圧アクチュエータ112を制御する。例えば、第2制御部154は、加圧アクチュエータ112を駆動するための駆動信号を生成し、駆動信号を加圧アクチュエータ112に送出する。第2制御部154は、事前に作成されるデータマップ156を参照して円環板102に印加する圧力値を決定し、決定した圧力値に基づいて駆動信号を生成する。データマップ156は、円環板102への加圧力と固有振動数又は対象周波数との関係を示す情報を含む。
【0034】
データマップ156は、ハンマリングなどでモーダル解析を実施することにより作成されてもよい。データマップ156は、各加圧力にて、周波数をスイープしながら加振アクチュエータ104で円環板102を加振し、円環板102から放射される音圧が最も高くなる周波数を固有振動数として特定する処理を複数の加圧力それぞれについて行うことにより、作成されてもよい。
【0035】
図15は、ある円環板に対する一例として、円環板102への加圧力と固有振動数との関係を概略的に示している。
図15に示すように、円環板102への加圧力が大きいほど、固有振動数が高くなる。
【0036】
上述した構成を有する音発生装置100では、3つ以上の加振アクチュエータ104が所定の角度間隔で円環板102に配置され、所定の角度間隔だけ離れた2つの加振アクチュエータのための駆動信号間に、円環板102に励起しようとするロブモードの次数と所定の角度間隔とに応じた位相差がある。これにより、円環板102に励起されるロブモードが回転する。この結果、翼騒音のロブモード特性を模擬することが可能となる。音発生装置100は、加振アクチュエータ104を使用して円環板102を振動させることで音を放射するものであり、複数のスピーカを離散的に配置する場合と比較して軽量である。さらに、音場や翼の流れに乱れが生じることを抑制することができる。
【0037】
円環板102からロブモードに対応する音波が放射されるため、音発生装置100の音源特性は、スピーカを離散的に配置する技術と比較して、円周状連続音源特性に近づき、翼の回転により発生する騒音の特性との類似度が上がる。円環板102は円環板102の振動モードに対応する固有振動数が対象周波数に合致するように設計される。これにより、円環板102の音放射効率が上がり、加振アクチュエータ104の出力(加振アクチュエータサイズ)が小さい場合においても、充分な音放射性能を達成することができる。さらに、加圧部により固有振動数を変えることができる。このため、動翼駆動時の回転数変化に伴い対象周波数が変化する場合にも、翼騒音を低減することが可能となる。
【0038】
[加振アクチュエータの配置方法]
加振アクチュエータの配置方法は、以下に説明するN=4M配置、N=2M+α配置、λ/4ギャップ配置を含むが、これらに限定されない。
【0039】
N=4M配置は、ロブモードの次数Mの4倍の個数の加振アクチュエータを配置する手法である。N=4M配置はλ/4配置とも称される。λは2π/Mの円周角を表す。N=4M配置では、加振アクチュエータ数は多くなるが、適用すべき位相シフトが0度、90度、180度、270度であるので、1つの90度位相シフタを用いて周方向ロブモードを駆動することが可能である。
【0040】
図16Aは、N=4M配置の一例を概略的に示している。
図16Aに示す例では、周方向ロブモードが4次ロブモードであり、16個の加振アクチュエータ104-1~104-16が22.5度間隔で円環板102に配置されている。加振アクチュエータ104-iに関する位相シフトは-Mφ
iであり、φ
i=2π(i-1)/Nである。すなわち、加振アクチュエータ104-1、104-5、104-9、104-13の各々に関する位相シフトは0度であり、加振アクチュエータ104-2、104-6、104-10、104-14の各々に関する位相シフトは-90度であり、加振アクチュエータ104-3、104-7、104-11、104-15の各々に関する位相シフトは-180度であり、加振アクチュエータ104-4、104-8、104-12、104-16の各々に関する位相シフトは-270度である。
【0041】
図16Bは、
図16Aに示したN=4M配置に使用される第1制御部152の駆動回路の一例を概略的に示している。
図16Bに示す例では、第1制御部152は90度位相シフタ1602及び反転回路1604、1606を備える。駆動信号uは、駆動信号生成部161(
図12A)から出力され、三分岐される。第1の分岐駆動信号uはそのまま駆動信号u1として出力される。駆動信号u1は、加振アクチュエータ104-i(iはmod(i,4)=1を満たす)に送出される。具体的には、駆動信号u1は、加振アクチュエータ104-1、104-5、104-9、104-13に送出される。第2の分岐駆動信号uは、90度位相シフタ1602に供給される。90度位相シフタ1602は第2の分岐駆動信号に-90度の位相シフトを適用して駆動信号u2を生成する。駆動信号u2は二分岐される。第1の分岐駆動信号u2は、加振アクチュエータ104-i(iはmod(i,4)=2を満たす)に送出される。具体的には、第1の分岐駆動信号u2は加振アクチュエータ104-2、104-6、104-10、104-14に送出される。第2の分岐駆動信号u2は反転回路1606に供給される。反転回路1606は、第2の分岐駆動信号u2を反転して駆動信号u4を生成する。駆動信号u4は加振アクチュエータ104-i(iはmod(i,4)=4を満たす)に送出される。具体的には、駆動信号u4は加振アクチュエータ104-4、104-8、104-12、104-16に送出される。第3の分岐駆動信号uは反転回路1604に供給される。反転回路1604は、第3の分岐駆動信号uを反転して駆動信号u3を生成する。駆動信号u3は、加振アクチュエータ104-i(iはmod(i,4)=3を満たす)に送出される。具体的には、駆動信号u3は加振アクチュエータ104-3、104-7、104-11、104-15に送出される。
【0042】
図17Aは、N=4M配置の他の例を概略的に示している。
図17Aに示す例においても、周方向ロブモードは4次ロブモードであり、16個の加振アクチュエータ104-1~104-16が等角度間隔に円環板102に配置されている。この例では、加振アクチュエータ104として扇形圧電素子が使用される。扇形圧電素子は、圧電材料を円環板102に塗布することにより円環板102に設けられる。加振アクチュエータ104-1、104-2、104-5、104-6、104-9、104-10、104-13、104-14はプラス極性の圧電素子であり、加振アクチュエータ104-3、104-4、104-7、104-8、104-11、104-12、104-15、104-16はマイナス極性の圧電素子である。プラス極性の2つの圧電素子の組みとマイナス極性の2つの圧電素子の組みとが交互に配置されている。
【0043】
図17Bは、
図17Aに示したN=4M配置に使用される第1制御部152の駆動回路の一例を概略的に示している。
図17Bに示すように、第1制御部152は90度位相シフタ1702を備える。駆動信号uは、駆動信号生成部161(
図12A)から出力され、二分岐される。第1の分岐駆動信号uはそのまま駆動信号u1として出力される。駆動信号u1は、加振アクチュエータ104-1、104-3、104-5、104-7、104-9、104-11、104-13、104-15に送出される。第2の分岐駆動信号uは、90度位相シフタ1702に供給される。90度位相シフタ1702は第2の分岐駆動信号に-90度の位相シフトを適用して駆動信号u2を生成する。駆動信号u2は加振アクチュエータ104-2、104-4、104-6、104-8、104-10、104-12、104-14、104-16に送出される。
【0044】
図17Aに示す例では、加振アクチュエータ104はユニモルフ型圧電素子である。加振アクチュエータ104は、プラス極性の圧電素子及びマイナス極性の圧電素子を含むバイモルフ型圧電素子であってもよい。
図18は、加振アクチュエータ104がバイモルフ型圧電素子である場合におけるN=4M配置の例を概略的に示している。
図18において、上側は円環板102の上面を示し、下側は円環板102の下面を示す。
図18に示すように、加振アクチュエータ104-i(i=1、2、5、6、9、10、13、14)は、円環板102の上面に塗布されたプラス極性の圧電素子と、プラス極性の圧電素子に対向し、円環板102の下面に塗布されたマイナス極性の圧電素子と、を含む。加振アクチュエータ104-i(i=357、8、11、12、15、16)は、円環板102の上面に塗布されたマイナス極性の圧電素子と、円環板102を介してマイナス極性の圧電素子に対向し、円環板102の下面に塗布されたプラス極性の圧電素子と、を含む。加振アクチュエータ104としてバイモルフ型圧電素子を使用することにより、円環板102への加振力を強めることが可能である。
図18に示す加振アクチュエータ配置についても
図17Bに示した駆動回路を使用することができる。
【0045】
このように、N=4M配置では、1つの90度位相シフタを使用して周方向ロブモードを励起することが可能である。加振アクチュエータ104は小型軽量であるので、N=4M配置が充分に可能である。加振アクチュエータ104が圧電材料の塗布により実施される場合、装置のさらなる軽量化及び小型化を達成できる。
【0046】
N=2M+α配置は、ロブモードの次数の2倍にαを加えた個数の加振アクチュエータを配置する手法である。ここで、αは1以上の整数である。空間エイリアスの観点から、αは3以上であることが望ましい。N=2M+α配置では、Nが3M以外の偶数である場合、N/2-1個の位相シフタが必要となる。例えば、周方向ロブモードが7次ロブモードであり、16個の加振アクチュエータ104が円環板102に配置される場合、7個の位相シフタが必要となる。Nが3Mである場合は、2個の位相シフタで済む。位相シフタの個数と加振アクチュエータの個数との兼ね合いを考慮して値Nを決定する。
【0047】
図19Aは、N=2M+α配置の一例を概略的に示している。
図19Aに示す例では、周方向ロブモードは4次ロブモードであり、12個の加振アクチュエータ104-1~104-12が30度間隔で円環板102に配置されている。
【0048】
図19Bは、
図19Aに示したN=2M+α配置にて、N=3Mを満たすときに、使用される第1制御部152の駆動回路の一例を概略的に示している。
図19Bに示すように、第1制御部152は120度位相シフタ1902及び240度位相シフタ1904を備える。駆動信号uは、駆動信号生成部161(
図12A)から出力され、三分岐される。第1の分岐駆動信号uはそのまま駆動信号u1として出力される。駆動信号u1は、加振アクチュエータ104-1、104-4、104-7、104-10に送出される。第2の分岐駆動信号uは、120度位相シフタ1902に供給される。120度位相シフタ1902は第2の分岐駆動信号uに-120度の位相シフトを適用して駆動信号u2を生成する。駆動信号u2は、加振アクチュエータ104-2、104-5、104-8、104-11に送出される。第3の分岐駆動信号uは240度位相シフタ1904に供給される。240度位相シフタ1904は第3の分岐駆動信号uに-240度の位相シフトを適用して駆動信号u3を生成する。駆動信号u3は、加振アクチュエータ104-3、104-6、104-9、104-12に送出される。
【0049】
λ/4ギャップ配置は、2M-2個の圧電素子を配置し、そのうちの2つの圧電素子をλ/4の角度のギャップを空けて配置する手法である。λ/4ギャップ配置は、円環板102の表面波を励起する方式であり、円環板102の振動モードを励起するために使用することはできない。ただし、用途が物体浮遊である場合には、λ/4ギャップ配置を採用することができる。
【0050】
図20は、λ/4ギャップ配置の一例を概略的に示している。
図20に示す例では、14個の加振アクチュエータ104-1~104-14が円環板102に配置されている。加振アクチュエータ104-2、104-4、104-6、104-8、104-10、104-12、104-14はプラス極性の圧電素子であり、加振アクチュエータ104-1、104-3、104-5、104-7、104-9、104-11、104-13はマイナス極性の圧電素子である。加振アクチュエータ104-11、104-12間にλ/4のギャップがあり、加振アクチュエータ104-3、104-4間に3λ/4のギャップがある。加振アクチュエータ104-4~104-11に駆動信号u1が送出され、加振アクチュエータ104-1~104-3、104-12~104-14に駆動信号u2が送出される。駆動信号u2は、駆動信号u1に-90度の位相シフトを適用することで得られる信号である。
【0051】
[位相シフタ]
遅延器は信号を時間シフトさせるものであり、遅延器を用いて駆動回路を構築することは容易である。しかしながら、動翼の回転周波数が変化するたびに遅延時間を調整する必要がある。これは、後述する音発生装置からマイクまでの経路特性の変更となる。よって、動翼の回転周波数が変化するたびに経路特性も変更する必要があり、不便である。これに対して、位相シフタは周波数依存がないため、位相シフト量及び経路特性を変更する必要がない。
【0052】
90度位相シフタは、ヒルベルト変換器とも称され、FIRフィルタの下記FIR係数を用いて実現することができる。
【数1】
ここで、g(i)はi番目の係数であり、Lfはフィルタ長である。
【0053】
図21の左側図には、フィルタ長Lfが256である場合のヒルベルト変換器の特性が示されている。
図22は、ヒルベルト変換器を用いた90度位相シフタを概略的に示している。
図22に示すように、90度位相シフタは、遅延器2202及びヒルベルト変換器2204を備える。ヒルベルト変換器2204は、信号uにπ/2の位相シフトを適用して信号u2を生成する。FIRフィルタを用いたヒルベルト変換器2204はLf/2Fs秒の遅延を含む。ここで、Fsはサンプリング周波数である。遅延器2202は、ヒルベルト変換器2204により生じる遅延時間だけ信号uを遅延させて信号u1を生成する。遅延器2202は、フィルタ係数h(Lf/2)=1を有するFIRフィルタを用いて実現することができる。
図21の右側図に示すように、入力uに対する遅延器2202の出力u1と入力uに対するヒルベルト変換器2204の出力u2との間の位相差は周波数によらず90度となる。
【0054】
90度以外の位相シフトを適用する位相シフタは、三角関数の合成により、ヒルベルト変換器を使用して実現することができる。
【0055】
図23は、入力信号に位相シフトθを適用する位相シフタを概略的に示している。
図23に示す位相シフタは、遅延器2302、ヒルベルト変換器2304、増幅器2306、要素2308、及び増幅器2310を備える。要素2308は、0°<θ<90°又は270°<θ<360°では加算器であり、90°<θ<180°又は180°<θ<270°では減算器である。
【0056】
信号uは二分岐されて遅延器2302及びヒルベルト変換器2304に供給される。遅延器2302はヒルベルト変換器2204により生じる遅延時間だけ信号uを遅延させる。ヒルベルト変換器2304の出力信号は増幅器2306により増幅される。増幅器2306は、0°<θ<90°又は270°<θ<360°の場合には、tanθの利得を有し、90°<θ<180°又は180°<θ<270°の場合には、-tanθの利得を有する。要素2308は、増幅器2306の出力信号に信号u1を加算し、又は増幅器2306の出力信号から信号u1を減算する。増幅器2310は、要素2308の出力信号を増幅する。増幅器2310は1/√(1+tan
2θ)の利得を有する。遅延器2302の出力信号u1と増幅器2310の出力信号u2との間の位相差がθとなる。
【数2】
【0057】
図24に示すように、任意の位相シフトの場合、フィルタ長Lfに依存して、低周波数における遅延誤差が生じる。
図24に示すグラフはLf/Fsにて正規化できるため、例えば、Lf/Fs=512/10000の設定では、200Hz以上にて0.5度以下の誤差範囲となる。使用周波数帯域とサンプリング周波数に合わせて、フィルタ長Lfは設定される。
【0058】
以降では、FIRフィルタを用いて入力信号に位相シフトθを適用する位相シフタをフィルタj(θ)と称することもある。
【0059】
図25は、フィルタJ(θ)を使用して
図12Aに示した駆動回路を構築する例を概略的に示している。
図25に示す駆動回路は、遅延器と、(N-1)個のフィルタJ(θ
2)、・・・J(θ
N)と、を含む。この駆動回路では、全体にLf/2Fs秒の時間遅延がかかることになるが、位相差は保たれる。この駆動回路では、回転周波数の変化に対して位相シフタのパラメータ(具体的には位相シフト量)を調整する必要がない。これは、翼騒音低減装置における音発生装置の入力からマイクまでの経路特性の固定につながるため、
図25に示す駆動回路は、
図12Bに示すような遅延器のみで信号間に位相差を生成する駆動回路に比べて大きな利点がある。
【0060】
図26は、フィルタJ(90)を使用して
図16Bに示した駆動回路を構築する例を概略的に示している。
図26に示す駆動回路は、遅延器2602、90度位相シフタ(フィルタJ(90))2604、及び反転回路2606、2608を備える。遅延器2602はLf/2Fs秒だけ信号uを遅延させる。遅延器2602の出力は二分岐され、一方は信号u1として出力され、他方は反転回路2606に供給される。反転回路2606は遅延器2602からの信号を反転させて信号u3を生成する。90度位相シフタ2604は信号uに-90度の位相シフトを適用する。90度位相シフタ2604の出力は二分岐され、一方は信号u2として出力され、他方は反転回路2608に供給される。反転回路2608は90度位相シフタ2604からの信号を反転させて信号u4を生成する。
【0061】
図27は、フィルタJ(90)を使用して
図17Bに示した駆動回路を構築する例を概略的に示している。
図27に示す駆動回路は、遅延器2702及び90度位相シフタ(フィルタJ(90))2704を備える。遅延器2702はLf/2Fs秒だけ信号uを遅延させて信号u1を生成する。90度位相シフタ2704は信号uに-90度の位相シフトを適用して信号u2を生成する。
【0062】
図28は、フィルタJ(120)及びフィルタJ(240)を使用して
図19Bに示した駆動回路を構築する例を概略的に示している。
図28に示す駆動回路は、遅延器2802、120度位相シフタ(フィルタJ(120))2804、及び240度位相シフタ(フィルタJ(240))2806を備える。遅延器2802はLf/2Fs秒だけ信号uを遅延させて信号u1を生成する。120度位相シフタ2804は信号uに-120度の位相シフトを適用して信号u2を生成する。240度位相シフタ2806は信号uに-240度の位相シフトを適用して信号u3を生成する。
【0063】
図29は、加振アクチュエータ数が偶数であって2M+1より多い場合(N=2β>2M+1)における駆動回路を概略的に示している。ここで、βは加振アクチュエータ数の半分である。
図29に示す駆動回路は、遅延器2902-1、位相シフタ(J(180M/β)、・・・、J(180(i-1)M/β))2902-2、・・・、2902-β、及び反転回路2904-1、・・・、2904-βを備える。
【0064】
遅延器2902-1は、駆動信号生成部161(
図12A)からの駆動信号uをLf/2Fs秒だけ遅延させる。遅延器2902-1の出力信号は二分岐され、一方は信号u1として加振アクチュエータ104-1に送出され、他方は反転回路2904-1に供給される。反転回路2904-1は、遅延器2902-1からの信号を反転させて信号u(β+1)を生成する。信号u(β+1)は加振アクチュエータ104-(β+1)に送出される。
【0065】
位相シフタ2902-iは、駆動信号生成部161(
図12A)からの駆動信号uに-180(i-1)M/βの位相シフトを適用する。位相シフタ2902-iの出力信号は二分岐され、一方は信号uiとして加振アクチュエータ104-iに送出され、他方は反転回路2904-iに供給される。反転回路2904-iは、位相シフタ2902-iからの信号を反転させて信号u(β+i)を生成する。信号u(β+i)は加振アクチュエータ104-(β+i)に送出される。
【0066】
[複数ロブモード駆動]
図1に示した音発生装置100は、1つの周波数及び1つのロブモード(以降、モード(fi,Mi)と記載する)に対して効率的な放射性能を有する。複数のモード(fi,Mi)を駆動するためには、複数の円環板が必要となる。複数の円環板を配置する方法としては、円環板を横方向に並べる方式及び円環板を縦方向に並べる方式が考えられる。
【0067】
図30Aは、実施形態に係る音発生装置100の他の構造例を概略的に示し、
図30Bは、
図30Aに示すB-B′線における音発生装置100の断面を概略的に示している。
図30A及び
図30Bに示す例では、音発生装置100は、横方向に並べられる円環板102-1、102-2、102-3を備える。円環板102-1、102-2、102-3はケース106に固定され、円環板102-2が円環板102-1の内側に配置され、円環板102-3が円環板102-2の内側に配置されている。外側に位置する円環板102ほど、外寸半径は大きくなる。具体的には、円環板102-1の外寸半径は円環板102-2の外寸半径より大きく、円環板102-2の外寸半径は円環板102-3の外寸半径より大きい。よって、円環板102-3は高い周波数向けとなり、円環板102-1は低い周波数向けとなる。例えば、同一ロブモードを出力する場合、円環板102-3は高い周波数向けとなり、円環板102-1は低い周波数向けとなる。また、同一周波数で複数のロブモードを出力する場合、円環板102-3は低次ロブモード向けとなり、円環板102-1は高次ロブモード向けとなる。これは、外寸半径が大きいほど、同一ロブモードの固有振動数が低くなるためである。
【0068】
図31は、実施形態に係る音発生装置100のさらなる構造例を概略的に示している。
図31に示す例では、音発生装置100は、各々が
図1に示したものと同じ構造を有する音発生部132、134を備え、音発生部134が音発生部132の内側に配置される。言い換えると、音発生装置100は、大きさの異なる2つの音発生装置が入れ子になったものである。
【0069】
図32Aは、実施形態に係る音発生装置100のさらに別の構造例を概略的に示し、
図32Bは、
図32Aに示すB-B′線における音発生装置100の断面を概略的に示している。
図32A及び
図32Bに示す例では、音発生装置100は、縦方向に並べられる円環板102-1、102-2、102-3を備える。円環板102-1、102-2、102-3は、ケース106に固定され、円環板102-2が円環板102-1の上側に配置され、円環板102-3が円環板102-2の上側に配置されている。円環板102-1、102-2、102-3の内寸半径は互いに等しく、円環板102-1の外寸半径は円環板102-2の外寸半径より大きく、円環板102-2の外寸半径は円環板102-3の外寸半径より大きい。よって、円環板102-3は高い周波数向けとなり、円環板102-1は低い周波数向けとなる。
【0070】
[ロブモード切替]
特定の加振アクチュエータ配置では、ロブモードを切り替えることが可能である。以下では、少数の位相シフタを使用してロブモードを切り替える方法例を説明する。
【0071】
図33は、M次ロブモードに対するN=3M配置での加振アクチュエータ数及びN=4M配置での加振アクチュエータ数を示している。
図33に示すように、例えば、周方向ロブモードが3次ロブモードである場合、N=3M配置での加振アクチュエータ数は9個であり、N=4M配置での加振アクチュエータ数は12個である。上述したように、N=3M配置では、2つの位相シフタで駆動回路を構成することが可能であり、N=4M配置では、1つの位相シフタで駆動回路を構成することが可能である。
【0072】
図34に示すように12個の加振アクチュエータ104-1~104-12が30度間隔で円環板102に配置される場合、音発生装置100は、加振アクチュエータ104-1~104-12及び3つの位相シフタを使用して、1次、3次、4次ロブモードに対応する3つの振動モードのうちの1つを選択的に円環板102に励起することができる。
【0073】
図35Aは、第1制御部152の駆動回路に含まれる、1次及び3次ロブモードを励起するための回路を概略的に示し、
図35Bは、第1制御部152の駆動回路に含まれる、4次ロブモードを励起するための回路を概略的に示している。
図35A及び
図35Bに示すように、駆動回路は、遅延器3502、90度位相シフタ3504、反転回路3506、3508、120度位相シフタ3510、及び240度位相シフタ3512を備える。
【0074】
図35Aにおいて、駆動信号u1、u2間の位相差は90度であり、駆動信号u1、u3間の位相差は180度であり、駆動信号u1、u4間の位相差は270度である。
【0075】
1次ロブモードを励起する場合、駆動信号u1は加振アクチュエータ104-3に送出され、駆動信号u2は加振アクチュエータ104-6に送出され、駆動信号u3は加振アクチュエータ104-9に送出され、駆動信号u4は加振アクチュエータ104-12に送出される。1次ロブモードは、90度間隔で配置された4つの加振アクチュエータ104及び90度位相シフタ3504を使用して励起される。
【0076】
3次ロブモードを励起する場合、駆動信号u1は加振アクチュエータ104-1、104-5、104-9に送出され、駆動信号u2は加振アクチュエータ104-2、104-6、104-10に送出され、駆動信号u3は加振アクチュエータ104-3、104-7、104-11に送出され、駆動信号u4は加振アクチュエータ104-4、104-8、104-12に送出される。3次ロブモードは、30度間隔で配置された12個の加振アクチュエータ104及び90度位相シフタ3504を使用して励起される。
【0077】
図35Bにおいて、駆動信号u1、u2間の位相差は120度であり、駆動信号u1、u3間の位相差は240度である。4次ロブモードを励起する場合、駆動信号u1は加振アクチュエータ104-1、104-4、104-7、104-10に送出され、駆動信号u2は加振アクチュエータ104-2、104-5、104-8、104-11に送出され、駆動信号u3は加振アクチュエータ104-3、104-6、104-9、104-12に送出される。4次ロブモードは、30度間隔で配置された12個の加振アクチュエータ104、120度位相シフタ3510、及び240度位相シフタ3512を使用して励起される。
【0078】
図36に示すように16個の加振アクチュエータ104-1~104-16が22.5度間隔で円環板102に配置される場合、音発生装置100は、加振アクチュエータ104-1~104-16及び1つの位相シフタを使用して、1次、2次、4次ロブモードに対応する3つの振動モードのうちの1つを選択的に円環板102に励起することができる。
【0079】
図36は、第1制御部152の駆動回路に含まれる、1次、2次、4次ロブモードを励起するための回路を概略的に示している。
図36に示すように、駆動回路は、遅延器3602、90度位相シフタ3604、及び反転回路3606、3608を備える。
図36において、駆動信号u1、u2間の位相差は90度であり、駆動信号u1、u3間の位相差は180度であり、駆動信号u1、u4間の位相差は270度である。
【0080】
1次ロブモードを励起する場合、駆動信号u1は加振アクチュエータ104-4に送出され、駆動信号u2は加振アクチュエータ104-8に送出され、駆動信号u3は加振アクチュエータ104-12に送出され、駆動信号u4は加振アクチュエータ104-16に送出される。1次ロブモードは、90度間隔で配置された4つの加振アクチュエータ104及び90度位相シフタ3604を使用して励起される。
【0081】
2次ロブモードを励起する場合、駆動信号u1は加振アクチュエータ104-2、104-10に送出され、駆動信号u2は加振アクチュエータ104-4、104-12に送出され、駆動信号u3は加振アクチュエータ104-6、104-14に送出され、駆動信号u4は加振アクチュエータ104-8、104-16に送出される。2次ロブモードは、45度間隔で配置された8つの加振アクチュエータ104及び90度位相シフタ3604を使用して励起される。
【0082】
4次ロブモードを励起する場合、駆動信号u1は加振アクチュエータ104-1、104-5、104-9、104-13に送出され、駆動信号u2は加振アクチュエータ104-2、104-6、104-10、104-14に送出され、駆動信号u3は加振アクチュエータ104-3、104-7、104-11、104-15に送出され、駆動信号u4は加振アクチュエータ104-4、104-8、104-12、104-16に送出される。4次ロブモードは、22.5度間隔で配置された16個の加振アクチュエータ104及び90度位相シフタ3604を使用して励起される。
【0083】
図37に示すように24個の加振アクチュエータ104-1~104-24が15度間隔で円環板102に配置される場合、音発生装置100は、加振アクチュエータ104-1~104-24及び3つの位相シフタを使用して、1次から4次、6次、8次ロブモードに対応する6つの振動モードのうちの1つを選択的に円環板102に励起することができる。
【0084】
図38Aは、第1制御部152の駆動回路に含まれる、1次、2次、3次、6次ロブモードを励起するための回路を概略的に示し、
図38Bは、第1制御部152の駆動回路に含まれる、4次及び6次ロブモードを励起するための回路を概略的に示している。
図38A及び
図38Bに示すように、駆動回路は、遅延器3802、90度位相シフタ3804、反転回路3806、3808、120度位相シフタ3810、及び240度位相シフタ3812を備える。
【0085】
図38Aにおいて、駆動信号u1、u2間の位相差は90度であり、駆動信号u1、u3間の位相差は180度であり、駆動信号u1、u4間の位相差は270度である。
図38Bにおいて、駆動信号u1、u2間の位相差は120度であり、駆動信号u1、u3間の位相差は240度である。
【0086】
1次から4次ロブモードを励起する方法は、上述したものと同様であるので、説明を省略する。
【0087】
6次ロブモードを励起する場合、
図38Aに示すように、駆動信号u1は加振アクチュエータ104-1、104-5、104-9、104-13、104-17、104-21に送出され、駆動信号u2は加振アクチュエータ104-2、104-6、104-10、104-14、104-18、104-22に送出され、駆動信号u3は加振アクチュエータ104-3、104-7、104-11、104-15、104-19、104-23に送出され、駆動信号u4は加振アクチュエータ104-4、104-8、104-12、104-16、104-20、104-24に送出される。6次ロブモードは、15度間隔で配置された24個の加振アクチュエータ104及び90度位相シフタ3804を使用して励起される。
【0088】
8次ロブモードを励起する場合、
図38Bに示すように、駆動信号u1は加振アクチュエータ104-1、104-4、104-7、104-10、104-13、104-16、104-19、104-22に送出され、駆動信号u2は加振アクチュエータ104-2、104-5、104-8、104-11、104-14、104-17、104-20、104-23に送出され、駆動信号u3は加振アクチュエータ104-3、104-6、104-9、104-12、104-15、104-18、104-21、104-24に送出される。8次ロブモードは、15度間隔で配置された24個の加振アクチュエータ104、120度位相シフタ3810、及び240度位相シフタ3812を使用して励起される。
【0089】
図39に示すように36個の加振アクチュエータ104が円環板102に配置される場合、音発生装置100は、加振アクチュエータ104、90度位相シフタ、120度位相シフタ、及び240度位相シフタを使用して、1次~6次、8次ロブモードに対応する7つの振動モードのうちの1つを選択的に円環板102に励起することができる。
図39において、加振アクチュエータ104-15_1~104-15_15は24度間隔で配置され、加振アクチュエータ104-24_1~104-24_24は15度間隔で配置される。加振アクチュエータ104-15_1、104-24_1は1つの加振アクチュエータであり、加振アクチュエータ104-15_6、104-24_9は1つの加振アクチュエータであり、加振アクチュエータ104-15_11、104-24_17は1つの加振アクチュエータである。
【0090】
音発生装置100は、加振アクチュエータ104-24_1~104-24_24、90度位相シフタ、120度位相シフタ、及び240度位相シフタを使用して、1次~4次、6次、8次ロブモードに対応する6つの振動モードのうちの1つを選択的に円環板に励起することができる。1次~4次、6次、8次ロブモードに対応する6つの振動モードを励起する方法は、
図37、
図38A、
図38Bを参照して上述したものと同様であるので、説明を省略する。さらに、音発生装置100は、加振アクチュエータ104-15_1~104-15_15、120度位相シフタ、及び240度位相シフタを使用して、5次ロブモードを円環板102に励起することができる。
【0091】
図40は、第1制御部152の駆動回路に含まれる、5次ロブモードを励起するための回路を概略的に示している。
図40に示すように、遅延器3802、120度位相シフタ3810、及び240度位相シフタ3812を備える。すなわち、5次ロブモードは、4次ロブモード又は6次ロブモードを励起するための回路を利用して励起される。駆動信号u1は加振アクチュエータ104-15_1、104-15_4、104-15_7、104-15_10、104-15_13に送出され、駆動信号u2は加振アクチュエータ104-15_2、104-15_5、104-15_8、104-15_11、104-15_14に送出され、駆動信号u3は加振アクチュエータ104-15_3、104-15_6、104-15_9、104-15_12、104-15_15に送出される。5次ロブモードは、24度間隔で配置された15個の加振アクチュエータ104、120度位相シフタ3810、及び240度位相シフタ3812を使用して励起される。
【0092】
図39に示した配置では、加振アクチュエータの間隔が最小3度となる。例えば、加振アクチュエータ104-15_3、104-24_4の間隔は3度である。3度の間隔で加振アクチュエータを設置することができない場合、加振アクチュエータ104-15_1~104-15_15及び加振アクチュエータ104-24_1~104-24_24は2つの同心円上に配置されてよい。この場合、39個の加振アクチュエータ104が円環板102に設けられることになる。
【0093】
なお、0次ロブモードは、上述した配置の各々において、すべての加振アクチュエータに同一の駆動信号を送出することで励起することができる。
【0094】
[ロブモード分離集音]
ここまで振動モードを切り替える手順について説明したが、逆の手順によりロブモードを分離して集音することが可能である。
【0095】
図41は、実施形態に係る集音装置300の一構造例を概略的に示している。
図41に示す例では、集音装置300は、音を電気信号に変換するマイク304-1~304-10をNb個備える。マイク304-1~304-10は円周方向に等角度間隔で配置されている。枝番は矢印で示されるロブモードの回転方向と逆方向に沿って順番に付されている。
【0096】
図42Aは、集音装置300の処理回路の一例を概略的に示している。
図42Aに示す例では、処理回路は、M次ロブモードに関連する信号を抽出するように構成され、Nb個の位相シフタ306-1~306-Nb、加算器307、及び利得が1/Nbである増幅器308を備える。ここで、Nbはマイク304の数を表す。
図42Aにおいて、信号eiはマイク304-iの出力信号を示す。位相シフタ306-iは信号eiに位相シフト-Mφ
iを適用する。ここでφ
i=2π(i-1)/Nbである。位相シフタ306-1~306-Nbの出力信号は加算器307で加算され、加算器307の出力信号は増幅器308で増幅される(1/Nb倍に低減される)。増幅器308の出力信号eがM次ロブモードに関する信号である。
【0097】
図42Bは、集音装置300の処理回路の他の例を概略的に示している。
図42Bに示す例では、処理回路は、M次ロブモードに関する信号を抽出するように構成され、Nb個の遅延器309-1~309-Nb、加算器307、及び利得が1/Nbである増幅器308を備える。遅延器309-iは信号eiを時間Mφ
i/2πfだけ遅延させる。ここでφ
i=2π(i-1)/Nbである。遅延器309-1~309-Nbの出力信号は加算器307で加算され、加算器307の出力信号は増幅器308で増幅される(1/Nb倍に低減される)。増幅器308の出力信号eがM次ロブモードに関する信号である。
【0098】
図42Aに示される回路を複数用意することで、複数のロブモードを分離することが可能である。しかしながら、多数の位相シフタが必要になる。以下では、より少数の位相シフタで複数のロブモードを分離する方法について説明する。
【0099】
図43は、実施形態に係る集音装置300の他の構造例を概略的に示している。
図43に示す例では、集音装置300は、円周方向に等間隔に配置された36個のマイク304を備える。
図43において、マイク304-15_1~304-15_15は24度間隔で配置され、マイク304-24_1~304-24_24は15度間隔で配置される。マイク304-15_1、304-24_1は1つのマイクであり、マイク304-15_6、304-24_9は1つのマイクであり、マイク304-15_11、304-24_17は1つのマイクである。
【0100】
図44Aは、
図43に示した集音装置300の処理回路に含まれる、1次ロブモードに関する信号を抽出するための回路を概略的に示している。
図44Aに示すように、処理回路は、反転回路310、311、加算器312、313、318、利得が1/2である増幅器314、315、319、遅延器316、及び90度位相シフタ317を備える。信号IN1はマイク304-24_6から出力される信号である。信号IN2はマイク304-24_12から出力される信号である。信号IN3はマイク304-24_18から出力される信号である。信号IN4はマイク304-24_24から出力される信号である。
【0101】
反転回路310の入力端はマイク304-24_18に接続される。加算器312の第1の入力端はマイク304-24_6に接続され、加算器312の第2の入力端は反転回路310の出力端に接続される。加算器312の出力端は増幅器314の入力端に接続される。増幅器314の出力端は遅延器316の入力端に接続される。遅延器316の出力端は加算器318の第1の入力端に接続される。反転回路311の入力端はマイク304-24_24に接続される。加算器313の第1の入力端はマイク304-24_12に接続され、加算器313の第2の入力端は反転回路311の出力端に接続される。加算器313の出力端は増幅器315の入力端に接続される。増幅器315の出力端は90度位相シフタ317の入力端に接続される。90度位相シフタ317の出力端は加算器318の第2の入力端に接続される。加算器318の出力端は増幅器319の入力端に接続される。増幅器319の出力端から出力される信号が1次ロブモードに関する信号である。
【0102】
図44Bは、
図43に示した集音装置300の処理回路に含まれる、2次ロブモードに関する信号を抽出するための回路を概略的に示している。
図44Bに示すように、処理回路は、反転回路320、321、加算器322、323、328、利得が1/4である増幅器324、325、遅延器326、90度位相シフタ327、及び利得が1/2である増幅器329をさらに備える。信号IN1(2)はマイク304-24_3、304-24_15から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN2(2)はマイク304-24_6、304-24_18から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN3(2)はマイク304-24_9、304-24_21から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN4(2)はマイク304-24_12、304-24_24から出力される信号を足し合わせたものである。
【0103】
図44Bに示す回路構成は、
図44Aに示す回路構成と同様であるので、
図44Bに示す構成要素の接続関係についての説明は省略する。加算器322は、第1の入力端において信号IN1(2)を受け取り、第2の入力端において反転回路320により反転された信号IN3(2)を受け取る。加算器323は、第1の入力端において信号IN2(2)を受け取り、第2の入力端において反転回路321により判定された信号IN4(2)を受け取る。増幅器329の出力端から出力される信号が2次ロブモードに関する信号である。
【0104】
図44Cは、
図43に示した集音装置300の処理回路に含まれる、3次ロブモードに関する信号を抽出するための回路を概略的に示している。
図44Cに示すように、処理回路は、反転回路330、331、加算器332、333、338、利得が1/6である増幅器334、335、遅延器336、90度位相シフタ337、及び利得が1/2である増幅器339をさらに備える。信号IN1(3)はマイク304-24_2、304-24_10、304-24_18から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN2(3)はマイク304-24_4、304-24_12、304-24_20から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN3(3)はマイク304-24_6、304-24_14、304-24_22から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN4(3)はマイク304-24_8、304-24_16、304-24_24から出力される信号を足し合わせたものである。
【0105】
図44Cに示す回路構成は、
図44Aに示す回路構成と同様であるので、
図44Cに示す構成要素の接続関係についての説明は省略する。加算器332は、第1の入力端において信号IN1(3)を受け取り、第2の入力端において反転回路330により反転された信号IN3(3)を受け取る。加算器333は、第1の入力端において信号IN2(3)を受け取り、第2の入力端において反転回路331により判定された信号IN4(3)を受け取る。増幅器339の出力端から出力される信号が3次ロブモードに関する信号である。
【0106】
図44Dは、
図43に示した集音装置300の処理回路に含まれる、4次ロブモードに関する信号を抽出するための回路を概略的に示している。
図44Dに示すように、処理回路は、利得が1/4である増幅器340、341、342、遅延器343、120度位相シフタ344、240度位相シフタ345、加算器346、及び利得が1/3である増幅器347をさらに備える。信号IN1(4)はマイク304-24_2、304-24_8、304-24_14、304-24_20から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN2(4)はマイク304-24_4、304-24_10、304-24_16、304-24_22から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN3(4)はマイク304-24_6、304-24_12、304-24_18、304-24_24から出力される信号を足し合わせたものである。
【0107】
増幅器340の入力端は信号IN1(4)を受け取る。増幅器340の出力端は遅延器343の入力端に接続される。遅延器343の出力端は加算器346の第1の入力端に接続される。増幅器341の入力端は信号IN2(4)を受け取る。増幅器341の出力端は120度位相シフタ344の入力端に接続される。120度位相シフタ344の出力端は加算器346の第2の入力端に接続される。増幅器342の入力端は信号IN3(4)を受け取る。増幅器342の出力端は240度位相シフタ345の入力端に接続される。240度位相シフタ345の出力端は加算器346の第3の入力端に接続される。加算器346の出力端は増幅器347の入力端に接続される。増幅器347の出力端から出力される信号が4次ロブモードに関する信号である。
【0108】
図44Eは、
図43に示した集音装置300の処理回路に含まれる、6次ロブモードに関する信号を抽出するための回路を概略的に示している。
図44Eに示すように、処理回路は、反転回路350、351、加算器352、353、358、利得が1/12である増幅器354、355、遅延器356、90度位相シフタ357、及び利得が1/2である増幅器359をさらに備える。信号IN1(6)はマイク304-24_1、304-24_5、304-24_9、304-24_13、304-24_17、304-24_21から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN2(6)はマイク304-24_2、304-24_6、304-24_10、304-24_14、304-24_18、304-24_22から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN3(6)はマイク304-24_3、304-24_7、304-24_11、304-24_15、304-24_19、304-24_23から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN4(6)はマイク304-24_4、304-24_8、304-24_12、304-24_16、304-24_20、304-24_24から出力される信号を足し合わせたものである。
【0109】
図44Eに示す回路構成は、
図44Aに示す回路構成と同様であるので、
図44Eに示す構成要素の接続関係についての説明は省略する。加算器352は、第1の入力端において信号IN1(6)を受け取り、第2の入力端において反転回路350により反転された信号IN3(6)を受け取る。加算器353は、第1の入力端において信号IN2(6)を受け取り、第2の入力端において反転回路351により判定された信号IN4(6)を受け取る。増幅器359の出力端から出力される信号が6次ロブモードに関する信号である。
【0110】
図44Fは、
図43に示した集音装置300の処理回路に含まれる、8次ロブモードに関する信号を抽出するための回路を概略的に示している。
図44Fに示すように、処理回路は、利得が1/8である増幅器360、361、362、遅延器363、120度位相シフタ364、240度位相シフタ365、加算器366、及び利得が1/3である増幅器367をさらに備える。信号IN1(8)はマイク304-24_1、304-24_4、304-24_7、304-24_10、304-24_13、304-24_16、304-24_19、304-24_22から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN2(8)はマイク304-24_2、304-24_5、304-24_8、304-24_11、304-24_14、304-24_17、304-24_20、304-24_23から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN3(8)はマイク304-24_3、304-24_6、304-24_9、304-24_12、304-24_15、304-24_18、304-24_21、304-24_24から出力される信号を足し合わせたものである。
【0111】
図44Fに示す回路構成は、
図44Dに示す回路構成と同様であるので、
図44Fに示す構成要素の接続関係についての説明は省略する。増幅器360の入力端は信号IN1(8)を受け取る。増幅器361の入力端は信号IN2(8)を受け取る。増幅器362の入力端は信号IN3(8)を受け取る。増幅器367の出力端から出力される信号が6次ロブモードに関する信号である。
【0112】
図44Gは、
図43に示した集音装置300の処理回路に含まれる、5次ロブモードに関する信号を抽出するための回路を概略的に示している。
図44Gに示すように、処理回路は、利得が1/5である増幅器370、371、372、遅延器373、120度位相シフタ374、240度位相シフタ375、加算器376、及び利得が1/3である増幅器377をさらに備える。信号IN1(5)はマイク304-15_1、304-15_4、304-15_7、304-15_10、304-15_13から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN2(5)はマイク304-15_2、304-15_5、304-15_8、304-15_11、304-15_14から出力される信号を足し合わせたものである。信号IN3(5)はマイク304-15_3、304-15_6、304-15_9、304-15_12、304-15_15から出力される信号を足し合わせたものである。
【0113】
図44Gに示す回路構成は、
図44Dに示す回路構成と同様であるので、
図44Gに示す構成要素の接続関係についての説明は省略する。増幅器370の入力端は信号IN1(5)を受け取る。増幅器371の入力端は信号IN2(5)を受け取る。増幅器372の入力端は信号IN3(5)を受け取る。増幅器377の出力端から出力される信号が5次ロブモードに関する信号である。
【0114】
集音装置300は、24個のマイク及び8つの位相シフタを使用することで、1次から4次、6次、8次ロブモードに対応する信号を互いに分離することができる。集音装置300は、35個のマイク及び10個の位相シフタを使用することで、1次から6次、8次ロブモードに対応する信号を互いに分離することができる。
【0115】
また、30度間隔で配置された12個のマイク及び4つの位相シフタを使用することで1次、3次、4次ロブモードを分離することが可能である。22.5度間隔で配置された16個のマイク及び3つの位相シフタを使用することで1次、2次、4次ロブモードを分離することが可能である。
【0116】
なお、単一のロブモードに関する信号を得る場合には、集音装置300の処理回路は、そのロブモードに関する信号を抽出する回路を備えればよい。例えば、集音装置300は、4M個のマイク304と
図44Eに示すような処理回路とを備える。
図44Eに示す回路は、24個のマイク304から出力される信号から6次ロブモードに関する信号を得るように構成されたものである。
【0117】
0次ロブモードに関する信号は、マイク304から出力される信号を加算平均することにより得ることができる。
【0118】
[適用例1(翼騒音低減)]
次に、実施形態に係る音発生装置を翼騒音低減に適用する例について説明する。
【0119】
図45は、実施形態に係る翼騒音低減装置400の外観を概略的に示している。
図45に示すように、翼騒音低減装置400は、音発生装置402及び集音装置404を備える。音発生装置402は
図1に示した音発生装置100であってよい。音発生装置402は、円環板102、加振アクチュエータ104、及び加圧アクチュエータ112を備える。加振アクチュエータ104の個数及び配置は、加振アクチュエータ104に関する駆動回路に必要な位相シフタの数を少なく抑えるように、対象ロブモードの次数に基づいて決定されてよい。集音装置404は
図41に示した集音装置300であってよい。集音装置404はマイク304を備える。マイク304の本数及び配置は、処理回路に必要な位相シフタの数を少なく抑えるように、対象ロブモードの次数に基づいて決定されてよい。
【0120】
騒音源としての動翼200は音発生装置402の内側に配置されることになり、マイク304は音発生装置402の外側に配置される。騒音源が動翼のみであり、且つ、環境反射の影響が低い場合には、マイクは1つでよく、それ以外の場合には、2M+1個以上のマイクを使用することが望ましい。
【0121】
図46は、翼騒音低減装置400の制御回路の一例を概略的に示している。
図46に示す例では、制御回路は、フィードフォワード型アクティブノイズコントロール(ANC)に基づいている。フィードフォワード型ANCでは、参照信号として、翼通過パルス信号又は翼駆動電流信号を使用する。翼通過パルス信号は回転翼がある地点を通過するタイミングを記録した信号であり、例えば光学センサを用いて翼のありなしを0/1出力した信号である。翼駆動電流信号は動翼200を駆動するための電流信号である。例えば、翼駆動電流信号は動翼200を回転させるモータに印加する電流信号である。
【0122】
図46に示すように、制御回路は、第1制御部452及び第2制御部454を備える。第1制御部452及び第2制御部454はそれぞれ
図11に示した音発生装置100の第1制御部152及び第1制御部154に相当する。
【0123】
図46において、信号rは参照信号である。信号uは、対象ロブモードによる騒音を低減するための制御音を発するために、加振アクチュエータ104を駆動するための駆動信号である。制御フィルタKは参照信号rを駆動信号uに変換する適応フィルタである。駆動信号uは、例えば、
図12A又は
図12Bなどに示されるような駆動回路を通じて加振アクチュエータ104に送出される。例えば、対象ロブモードが4次ロブモードであり、16個の加振アクチュエータ104が22.5度間隔で円環板102に配置される場合、
図26に示す駆動回路を使用することができる。信号eは集音装置404により得られる誤差信号である。具体的には、誤差信号eは、
図42A又は
図42Bなどに示されるような処理回路でマイク304の出力信号を結合することにより得られる。
【0124】
信号xは、補助信号であり、二次経路特性Cを持つフィルタで参照信号rを変換することにより得られる。二次経路特性Cは騒音が発生していないときの駆動信号uから誤差信号eまでの伝達特性である。信号udは、補助信号であり、補助信号xを制御フィルタKで変換することにより得られる信号から駆動信号uを二次経路特性Cを持つフィルタで変換することにより得られる信号を減算することにより得られる。
【0125】
第1制御部452は、誤差信号e及び参照信号rに基づいて駆動信号uを生成する。ANCアルゴリズムとしては、通常のFiltered-Xや入力拘束などの既知のANCアルゴリズムを使用することができる。このため、駆動信号uの生成についての詳細な説明は省略する。
【0126】
通常のFiltered-Xでは、下記の評価関数J(t)が最小となるように制御フィルタKを更新する。
【数3】
ここで、e(t)は時刻tにおける誤差信号を表す。
【0127】
この場合、制御フィルタKの更新則は下記のように導出される。
【数4】
ここで、μは最急降下法におけるステップサイズであり、βは任意数値(0より大きい)であり、例えば0.01などとする。K(t)は時刻tにおける制御フィルタKを表し、φ
xは補助信号xの時系列データを表す。第1制御部452は、上記式(1)の更新則に基づいて制御フィルタKを更新する。
【0128】
入力拘束では、下記の評価関数J(t)が最小となるように制御フィルタKを更新する。
【数5】
ここで、αは入力拘束の度合いを決める0から1の変数(0の時拘束なし、1に近づくほど入力拘束大)であり、u
d(t)は時刻tにおける補助信号u
dを表す。
【0129】
この場合、制御フィルタKの更新則は下記のように導出される。
【数6】
第1制御部452は、上記式(2)の更新則に基づいて制御フィルタKを更新する。
【0130】
第2制御部454は、加圧アクチュエータ112を制御する。具体的には、第2制御部454は、円環板102に励起される振動モードに対応する固有振動数が対象周波数と合致するように、加圧アクチュエータ112を制御する。
【0131】
第2制御部454は、翼通過パルス信号又は翼駆動電流信号を受け取り、受け取った信号に基づいて対象ロブモードに対応する周波数を特定する。第2制御部454は、特定した周波数を使用してデータマップを参照することにより、円環板102に印加する圧力値を決定する。
図47に示すように、データマップは、複数の圧力値を複数の周波数範囲に関連付けた情報を含む。各周波数範囲は例えば200Hzの幅を有する。各圧力値は、周波数範囲の中心周波数に一致する固有振動数が得られるように設定される。例えば、固有振動数が1000Hzとなる圧力値が900Hzから1100Hzの周波数範囲に関連付けられている。第2制御部454は、決定した圧力値に基づいて駆動信号を生成し、駆動信号を加圧アクチュエータ112に供給する。
【0132】
円環板102への加圧力を変えると、二次経路特性が変動する。このため、第1制御部452は、複数の二次経路特性を複数の圧力値に関連付けた情報を保持し、加圧アクチュエータ112による円環板102への加圧力を変わったときに、変更後の加圧力に対応する二次経路特性を使用するようにする。或いは、二次経路特性の変動に対応可能なANCアルゴリズムを使用するようにしてもよい。
【0133】
図48は、翼騒音低減装置400の制御回路の他の例を概略的に示している。
図48に示す例では、制御回路は、フィードバック型ANCに基づいている。フィードフォワード型ANCと同様の部分については詳細な説明を省略する。フィードバック型ANCでは、翼通過パルス信号又は翼駆動電流信号は、第2制御部454において使用されるが、第1制御部452では使用されない。
【0134】
図48において、誤差信号eは、集音装置404により得られる誤差信号をバンドパスフィルタで処理したものである。バンドパスフィルタは対象周波数を含む周波数帯の信号を抽出するように構成される。信号rは、誤差信号eから駆動信号uを二次経路特性Cを持つフィルタで変換することにより得られる信号を減算し、得られた信号を所定の時間だけ遅延させることにより、得られる。駆動信号uは、制御フィルタKで信号rを変換することにより得られる。信号xは、補助信号であり、二次経路特性Cを持つフィルタで信号rを変換することにより得られる。信号u
dは、補助信号であり、補助信号xを制御フィルタKで変換することにより得られる信号から駆動信号uを二次経路特性Cを持つフィルタで変換することにより得られる信号を減算することにより得られる。
【0135】
第1制御部452は、上記式(1)又は式(2)の更新則に基づいて制御フィルタKを更新する。
【0136】
音発生装置402及び/又は集音装置404において遅延器で信号を遅延させることにより信号間の位相差を得る場合、対象周波数が変化するたびに、遅延時間を設定し直す必要がある。さらに、遅延時間を変えると二次経路特性が変化するため、二次経路特性の変化を推定する必要がある。推定は、演算、データベース抽出、又はオンライン推定により実施され得る。
【0137】
これに対して、音発生装置402及び集音装置404の各々において位相シフタで信号に位相シフトを適用することにより信号間の位相差を得る場合、対象周波数が変化しても、位相シフト量を設定し直す必要がない。よって、煩雑な処理が不要となる。さらに二次経路特性は変化しないので、複雑なANCアルゴリズムの使用を回避できる。オンライン推定を適用することが困難なフィードバック型ANCにおいて利点が大きい。
【0138】
翼騒音の周波数fiは下記式のように表すことができる。
【0139】
fi=BxΩ/2π
ここで、Bは翼枚数であり、Ωは翼回転速度[rad/s]であり、xはロブモードの次数である。
【0140】
翼が動翼のみを有する場合、1つの周波数fiに対して1つのロブモードがある。翼が動翼及び静翼を有する場合、1つの周波数fiに対してM0個のロブモードがある。ここで、M0=Bx-pVであり、Vは静翼枚数であり、pは整数である。
【0141】
よって、翼騒音は多数のロブモードによる騒音を含む。
【0142】
モード分離は周波数分離で実行されるため、翼が動翼のみを有する場合にはマイクは1個でよい。しかしながら、実環境では、環境反射の影響がある。このため、2M+1個以上のマイクを使用したモード分離処理が必要となる。
【0143】
L個のロブモード(fi,Mi)を駆動する場合、翼騒音低減装置400は、L個の円環板102を含む音発生装置402及びL個の制御回路を備える。ここで、Lは2以上の整数である。例えば、音発生装置402は、例えば、
図31A、
図32、又は
図33Aに示した音発生装置100であってよい。L個の制御回路の各々は
図46又は
図48に示した制御回路であってよい。各制御回路に入力する誤差信号は、
図41から
図44Gに関連して説明した処理により得られた、当該制御回路に対応するロブモード(Fi,Mi)に関する信号とする。
【0144】
対象周波数が高いほど、制御音源(円環板102)を翼の近くに配置する必要がある。
図31Aに示した音発生装置100のように高周波数向けの円環板102がより内側に配置されることは翼騒音低減に適している。
【0145】
一般的に、高次ロブモードは減衰しやすい。このため、騒音低減対象は4次以下のロブモードに限ってよい。騒音低減対象が4次以下のロブモードである場合、24個のマイクを使用すれば充分である。
【0146】
なお、翼騒音低減装置400は、パッシブ系翼騒音低減装置と併用されてもよい。
【0147】
[適用例2(物体浮遊)]
図49は、実施形態に係る音発生装置100を物体浮遊に適用する例を概略的に示している。
図49に示すように、音発生装置100は、
図1に示した構成要素(円環板102など)に加えて、音波を反射する反射板119を備える。反射板119は、図示しない支持部材を介してケース106に固定される。音発生装置100を物体浮遊に使用する場合、円環板102の振動モードに対応する固有振動数は超音波領域程度(例えば40KHz程度)に高く設定され、加振アクチュエータ104のための駆動信号の周波数は超音波領域に設定される。これにより、定在波の節の位置に液滴などの浮遊物体190をトラッピングすることができる。さらに、定在波が回転するため、浮遊物体190を回転させることができる。回転速度は、加振アクチュエータ104の振動周波数とロブモードの次数により決定される。
【0148】
ロブモードの次数が大きいほど、円周上の波長が短くなる。このため、より高次のロブモードを励起することにより、半径のより小さい浮遊物体190を回転運動させることが可能となる。
【0149】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0150】
100…音発生装置、102…円環板、103…振動膜、104…加振アクチュエータ、106…ケース、106A…支持部、106B…囲い部、106C…蓋部、108,110…支持部材、112…加圧アクチュエータ、113…ボルト、114…加圧部材、116…弾性板、118…薄板、119…反射板、120…振動伝達部材、150…制御回路、152…第1制御部、154…第2制御部、156…データマップ、161…駆動信号生成部、162…位相シフタ、163…遅延器、200…動翼、300…集音装置、304…マイク、400…翼騒音低減装置、402…音発生装置、404…集音装置、452…第1制御部、454…第2制御部。