(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】ケミカルセンサ、標的物質の検出方法及び検出装置
(51)【国際特許分類】
G01N 33/566 20060101AFI20240408BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240408BHJP
G01N 27/414 20060101ALI20240408BHJP
G01N 33/543 20060101ALI20240408BHJP
G01N 33/551 20060101ALI20240408BHJP
C07K 14/705 20060101ALN20240408BHJP
C07K 17/14 20060101ALN20240408BHJP
【FI】
G01N33/566
C12M1/34 Z
G01N27/414 ZNA
G01N27/414 301K
G01N27/414 301V
G01N33/543 593
G01N33/551
C07K14/705
C07K17/14
(21)【出願番号】P 2021044802
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2023-02-09
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)第2期/フィジカル空間デジタルデータ処理基盤/サブテーマII:超低消費電力IoTデバイス・革新的センサ技術/超高感度センサシステムの研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉崎 吉昭
【審査官】三木 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-133800(JP,A)
【文献】特表平11-505410(JP,A)
【文献】特開2020-041947(JP,A)
【文献】特開2002-071540(JP,A)
【文献】国際公開第2007/116811(WO,A1)
【文献】特開2015-025820(JP,A)
【文献】国際公開第2009/096304(WO,A1)
【文献】特開2020-046196(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0088641(US,A1)
【文献】米国特許第06692696(US,B1)
【文献】国際公開第00/070343(WO,A2)
【文献】特表2018-500537(JP,A)
【文献】Tran Thi Dung,Applications and Advances in Bioelectronic Noses for Odour Sensing,Sensors,2018年01月01日,Vol.18,Page.103
【文献】Hiroshi Ueda,Open sandwich ELISA: A novel immunoassay based on the interchain interaction of antibody variable region,Nature biotechnology,1996年,Vol.14,Page.1714-1718
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/566
G01N 33/551
G01N 33/543
G01N 27/414
C12M 1/34
C07K 17/14
C07K 14/705
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中の標的物質を検出するケミカルセンサであって、
感応膜と、
前記感応膜上に固定された膜貫通受容体の第1の細胞外領域ペプチドと、
前記感応膜上に配置された液相と、
前記液相内に含まれた前記膜貫通受容体の第2の細胞外領域ペプチドと
を含み、
かつ前記細胞外領域は、細胞外ループであり、
前記第1の細胞外領域ペプチド及び前記第2の細胞外領域ペプチドは、環状化された前記細胞外ループの少なくとも一部のアミノ酸配列を含むケミカルセンサ。
【請求項2】
前記感応膜の一方の端に接続する第1電極と、他方の端に接続する第2電極とを更に備え、前記感応膜はグラフェンからなる、請求項1に記載のケミカルセンサ。
【請求項3】
前記膜貫通受容体は複数の細胞外領域を含み、
前記第1の細胞外領域ペプチド及び前記第2の細胞外領域ペプチドは、前記膜貫通受容体の互いに異なる前記細胞外領域の少なくとも一部のアミノ酸配列をそれぞれ含む、請求項1又は2に記載のケミカルセンサ。
【請求項4】
前記少なくとも一部のアミノ酸配列は、40mer未満である、請求項3
に記載のケミカルセンサ。
【請求項5】
複数の前記感応膜を備え、前記液相は前記複数の感応膜ごとに隔離されており、前記第1の細胞外領域ペプチドと前記第2の細胞外領域ペプチドとは、複数の前記感応膜間で互いに異なる膜貫通受容体に由来する、請求項1~
4の何れか1項に記載のケミカルセンサ。
【請求項6】
請求項1~
5の何れか1項に記載のケミカルセンサと、
前記感応膜の物性の変化を電気的信号の変化に変換する検出部と、
前記ケミカルセンサの前記液相に前記検体を取り込む検体導入部と、
前記検出部から得られた前記電気的信号の情報を処理することで前記検体中の標的物質の有無又は量を判定する処理部と
を備える、検出装置。
【請求項7】
ケミカルセンサを用いて検体中の標的物質を検出する検出方法であって、
前記ケミカルセンサは、感応膜と、前記感応膜上に固定された膜貫通受容体の第1の細胞外領域ペプチドと、前記感応膜上に配置された液相と、前記液相内に配置された前記膜貫通受容体の第2の細胞外領域ペプチドとを
含み、かつ前記細胞外領域は、細胞外ループであり、前記第1の細胞外領域ペプチド及び前記第2の細胞外領域ペプチドは、環状化された前記細胞外ループの少なくとも一部のアミノ酸配列を含み、
当該検出方法は、
前記ケミカルセンサの前記液相に前記検体を取り込むこと、
前記感応膜の物性の変化を検出すること、及び
前記検出の結果から、前記検体中の前記標的物質の有無又は量を判定することを含む検出方法。
【請求項8】
前記検体の取り込み後、前記標的物質は、前記第1の細胞外領域ペプチドと第2の細胞外領域ペプチドとに挟まれた状態で前記感応膜に結合する、請求項
7に記載の方法。
【請求項9】
請求項
7又は
8に記載の検出方法に用いるための検出装置であって、
前記ケミカルセンサを備え、前記感応膜の物性の変化を電気的信号の変化に変換する検出部と、
前記ケミカルセンサの前記液相に前記検体を取り込む検体導入部と、
前記検出部から得られた前記電気的信号の情報を処理することで前記検体中の標的物質の有無又は量を判定する処理部と
を備える、検出装置。
【請求項10】
前記ケミカルセンサは、
前記感応膜と、
前記感応膜上に固定された膜貫通受容体の第1の細胞外領域ペプチドと、
前記感応膜上に配置された液相と、
前記液相内に含まれた前記膜貫通受容体の第2の細胞外領域ペプチドと
を備える、請求項
9に記載の検出装置。
【請求項11】
前記ケミカルセンサは、前記感応膜の一方の端に接続する第1電極と、他方の端に接続する第2電極とを更に備え、前記感応膜はグラフェンからなる、請求項
10に記載の検出装置。
【請求項12】
前記膜貫通受容体は複数の細胞外領域を含み、
前記第1の細胞外領域ペプチド及び前記第2の細胞外領域ペプチドは、前記膜貫通受容体の互いに異なる前記細胞外領域の少なくとも一部のアミノ酸配列をそれぞれ含む、請求項
10又は
11に記載の検出装置。
【請求項13】
前記少なくとも一部のアミノ酸配列は、40mer未満である、請求項
12に記載の検出装置。
【請求項14】
前記ケミカルセンサは複数の前記感応膜を備え、前記液相は前記複数の感応膜ごとに隔離されており、前記第1の細胞外領域ペプチドと前記第2の細胞外領域ペプチドとは、複数の前記感応膜間で互いに異なる膜貫通受容体に由来する、請求項
10~
13の何れか1項に記載の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、ケミカルセンサ、標的物質の検出方法及び検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
生体情報の検知や空気中の有害物質の検知などの分野において、化学物質を検出できるデバイスが有用であると考えられている。特に低分子は類似の物質が多数存在するため特異的に感度よく検出することが困難である。このような状況において、化学物質を特異的かつ高感度に検出することができるケミカルセンサが求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Hiroshi Ueda et al. Nature biotechnology 14, 1996, 1714-1718
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、標的物質を特異的且つ感度よく検出することができるケミカルセンサ、標的物質の検出方法及び検出装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態のケミカルセンサは、検体中の標的物質を検出する。ケミカルセンサは、感応膜と、感応膜上に固定された膜貫通受容体の第1の細胞外領域ペプチドと、感応膜上に配置された液相と、液相内に配置された膜貫通受容体の第2の細胞外領域ペプチドとを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】
図1は、実施形態のケミカルセンサの一例を示す断面図である。
【
図2】
図2は、実施形態のケミカルセンサの使用時の様子を示す断面図である。
【
図3】
図3は、実施形態の膜貫通受容体とその細胞外領域の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、実施形態のケミカルセンサの一例を示す断面図である。
【
図5】
図5は、実施形態のケミカルセンサの第1のECRペプチドを固定する方法の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、実施形態の第1のECRペプチドの二量体の一例を示す図である。
【
図7】
図7は、実施形態の第1のECRペプチド又は第2のECRペプチドに使用される細胞外領域のアミノ酸配列の例を示す図である。
【
図8】
図8は、実施形態の第1のECRペプチド又は第2のECRペプチドに使用される細胞外領域のアミノ酸配列の例を示す図である。
【
図9】
図9は、実施形態の第1のECRペプチド又は第2のECRペプチドに使用される細胞外領域のアミノ酸配列の例を示す図である。
【
図10】
図10は、実施形態の第1のECRペプチド又は第2のECRペプチドに使用される細胞外領域のアミノ酸配列の例を示す図である。
【
図11】
図11は、(a)は実施形態の第1のECRペプチドに2種の細胞外領域を用いるケミカルセンサの一例を示す断面図であり、(b)は第1のECRペプチド又は第2のECRペプチドの拡大図であり、(c)は第1のECRペプチド又は第2のECRペプチドの組み合わせを示す表である。
【
図12】
図12は、(a)は実施形態の第2のECRペプチドに2種の細胞外領域を用いるケミカルセンサの一例を示す断面図であり、(b)は第1のECRペプチド又は第2のECRペプチドの拡大図であり、(c)は第1のECRペプチド又は第2のECRペプチドの組み合わせを示す表である。
【
図13】
図13は、(a)は実施形態の複数のセンサ素子を含むケミカルセンサの一例を示す平面図であり、(b)はその断面図である。
【
図14】
図14は、実施形態の検出方法の一例を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、実施形態の検体取込装置の一例を示す図である。
【
図16】
図16は、実施形態の検体取込装置の一例を示す図である。
【
図17】
図17は、実施形態の多孔質膜を備える気相液相取り込み部の一例を示す断面図である。
【
図18】
図18は、実施形態の多孔質膜を備える気相液相取り込み部の流路の一例を示す斜視図である。
【
図19】
図19は、実施形態のカートリッジ基板装着方法の一例を示す図である。
【
図20】
図20は、実施形態の検出装置の一例を示すブロック図である。
【
図23】
図23は、実施例1、比較例1~3の実験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について、添付の図面を参照して説明する。なお、各実施形態において、実質的に同一の構成部位には同一の符号を付し、その説明を一部省略する場合がある。図面は模式的なものであり、各部の厚さと平面寸法との関係、各部の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。
【0008】
・ケミカルセンサ
実施形態のケミカルセンサは、標的物質を検出するためのセンサである。
図1に示す通り、実施形態のケミカルセンサ1は、基板2と、基板2の表面に配置された感応膜3とを備える。感応膜3の基板2と反対側の面には、膜貫通受容体の第1の細胞外領域(extracellular region:ECR)ペプチド4が固定されている。感応膜3上には液相5が配置されており、液相5内に膜貫通受容体の第2のECRペプチド6が存在する。なお、本明細書において「固定」とは、感応膜3に直接的に固定されている場合だけでなく、他の物質を介して間接的に固定されている場合も含む。また、「固定」は例えば、化学結合等せずに感応膜3に吸着されている又は引き付けられている状態も含む。
【0009】
第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6は同じ膜貫通受容体に由来し、標的物質10はこの膜貫通受容体のリガンドである。ケミカルセンサ1では、
図2に示す通り、液相5に標的物質10を取り込み、液相5中に存在する第2のECRペプチド6が標的物質10に結合し、更に感応膜3に固定された第1のECRペプチド4で標的物質10を捕捉する。それにより標的物質10が2つのECRペプチドで挟まれた、オープンサンドイッチの状態で感応膜3に結合する。
【0010】
例えば、ケミカルセンサ1は感応膜3に標的物質10が結合した際に起こる感応膜3の物性、例えば電気抵抗の変化を検出する機構を備える。例えば、ケミカルセンサ1は、
図1に示すように感応膜3の一端に電気的に接続された第1電極7(ソース電極)と、他端に電気的に接続された第2電極8(ドレイン電極)と、2つの電極を被覆する絶縁体9とを更に備えた電界効果トランジスタ(FET)の構成を有する。この場合、感応膜3がより高感度な検出が可能となるグラフェンからなるグラフェンFETの構成とすることが好ましい。例えば、ケミカルセンサ1は、図示しないがゲート電圧を印加するためのゲート電極及び電源を含む回路と、第1電極7と第2電極8とから得られるドレイン電流値を計測する電流計とを含む回路とを更に含み、第1電極7及び第2電極8はこれらの回路に各々接続され得る。この回路は例えば基板2内に配置され得る。
【0011】
以下、第1のECRペプチド、第2のECRペプチドの具体例について説明する。
【0012】
第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6の由来となる膜貫通受容体は、細胞外領域へのシグナル分子(リガンド)の結合の刺激を受けることで活性化され、例えば必要に応じて細胞内へシグナル伝達を行う膜貫通タンパク質である。膜貫通受容体は、複数の細胞外領域を有する。膜貫通受容体は、例えば嗅覚受容体等のGタンパク共役型受容体である。例えば、動物で発現する膜貫通受容体を用いることができる。動物は、例えば、脊椎動物又は昆虫等であり、例えば、ヒト、ハエ、カ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ又はイヌ等である。
【0013】
第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6は、膜貫通受容体の互いに異なる細胞外領域の少なくとも一部のアミノ酸配列を含むポリペプチドである。
【0014】
例えば、
図3に示す7回膜貫通型受容体11は、3つの細胞外ループ(extracellular loop:ECL)、即ちECL-1、ECL-2及びECL-3、並びに1つの細胞外C末端の4つの細胞外領域を有する。ECLを用いる場合は、膜貫通受容体における元の形状をできるだけ再現するためにアミノ酸配列を環状化して用いることが好ましい。細胞外末端(ここでは細胞外C末端)を用いる場合は、直鎖状のまま用いることが好ましい。細胞外N末端を有する膜貫通受容体を用いることも可能であり、その場合はその細胞外N末端を直鎖状のまま用いることが好ましい。
【0015】
例えば、
図1に示すように細胞外末端を第1のECRペプチド4に使用し、ECLの何れかを第2のECRペプチド6に使用してもよいし、
図4の(a)に示すようにECLの何れかを第1のECRペプチド4に使用し、ECLの別の何れかを第2のECRペプチド6に使用してもよいし、
図4の(b)に示すようにECLの何れかを第1のECRペプチド4に使用し、細胞外末端を第2のECRペプチド6に使用してもよい。図示しないが、細胞外N末端及び細胞外C末端が存在する場合、一方を第1のECRペプチド4に使用し、他方を第2のECRペプチド6に使用してもよい。
【0016】
第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6として使用する際、選択された細胞外領域のアミノ酸配列の全長を用いる必要はなく、リガンドとの結合能に悪影響を及ぼさない限りにおいて、一部のアミノ酸配列を用いてもよい。例えば、第1のECRペプチド4に用いられる細胞外領域のアミノ酸配列長は、例えば3mer以上50mer未満であり、好ましくは5mer以上40mer以下である。第2のECRペプチド6に用いられる細胞外領域のアミノ酸配列長は、例えば3mer以上50mer未満であり、好ましくは5mer以上40mer以下である。また、リガンドとの結合能に悪影響を及ぼさない限りにおいて、細胞外領域のアミノ酸配列のうち幾つかのアミノ酸を欠損、置換又は挿入する等、改変して使用することも可能である。例えば、詳しくは後述するが、感応膜3へ固定する際又は液相5で使用する際に適切なアミノ酸の挿入及び置換を行うことが好ましい。その他水溶性の調整、及び/又は、標識修飾、アフィニティの調整など様々な理由に従って改変は適切に行われる。
【0017】
第1のECRペプチド4を感応膜3に固定する方法は限定されるものではないが、第1のECRペプチド4及び/又は感応膜3に修飾基を付加し、両者を化学合成することによって、膜貫通受容体の第1のECRペプチド4を感応膜3に固定することができる。感応膜3がグラフェンである場合は、グラフェンに吸着しやすいピレンなどの多感芳香族を介して固定することが好ましい。あるいは、グラフェンに吸着しやすいβシート構造を形成するペプチドを含む固定用ペプチドを介して固定することが好ましい。βシート構造を形成するペプチドは、限定されるものではないが例えばG(グリシン)とA(アラニン)とを複数回繰り返した配列(例えばGAGAGA又はAGAGAG)、又はV(バリン)、Y(チロシン)及びI(イソロイシン)を含むペプチド等を用いることが好ましい。これらのペプチドの両端には共役二重結合を側鎖に持ったアミノ酸、すなわち、R(アルギニン)、Y(チロシン)、F(フェニルアラニン)、W(トリプトファン)、などを配置することが好ましい。これらのアミノ酸の側鎖に含まれる共役二重結合がグラフェンにππ相互作用で吸いつけられるため、アンカーとして働き、より強くグラフェンに固定される。なかでもRは親水性のため、ペプチドが水溶性になりやすく扱いやすい。固定用ペプチドは、更に第1のECRペプチド4とβシート構造を形成するペプチドとの間にGGGを含むことが好ましい。それにより、第1のECRペプチド4が感応膜3に固定された際、より柔軟に動いて標的物質10と結合しやすくすることができる。
【0018】
固定用ペプチドの好ましい例は、次の配列番号1又は配列番号2のペプチドである:
GGG-RGAGAGAR(配列番号1)
RGAGAGAR-GGG(配列番号2)。
【0019】
第1のECRペプチド4に細胞外末端を用いる場合は、例えば、固定用ペプチドのN末端(GGG側)に細胞外末端のアミノ酸配列を連結した直鎖状配列を合成すればよい。
【0020】
第1のECRペプチド4にECLの何れかを用いる場合は、ECLを含む環状のペプチドに固定用ペプチドを付加したものを合成すればよいが、それが困難である場合が多い。その場合は
図5に示すように、N末端(GGG側)にマレイミド(例えば3-マレイミドプロパノイル、Mal)等の結合子を付加した固定用ペプチドをまず作製し、固定用ペプチドを先に感応膜3に結合させ(
図5の(a))、そこに第1のECRペプチド4を添加することで結合子を介して固定用ペプチドに第1のECRペプチド4を結合させる(
図5の(b))。
【0021】
マレイミドを用いる場合、第1のECRペプチド4に含まれるC(システイン)のチオール基がマレイミドと結合することで配列番号1又は配列番号2の配列に第1のECRペプチド4が固定される。第1のECRペプチド4として使用するアミノ配列を端にCが配置されるように選択するか、使用するアミノ酸配列にCが含まれない場合は、環状のつなぎ目にCを挿入することが好ましい。その時、KCK(Kはリシン)、GC又はGCG等を挿入してもよい。KCKの配列を挿入すると第1のECRペプチド4の水溶性が高まるため、固定用ペプチドへの反応を行う際の水溶液を調整しやすくなる。GC又はGCGの配列を挿入した場合、Gは側鎖に水素しか持たないため、膜貫通受容体におけるECRペプチドのリガンド結合能力に対して、予期せぬ阻害効果などを引き起こすリスクが小さくなる。このとき、第1のECRペプチド4の配列の中程にCが存在する場合、そこがマレイミドと結合すると標的物質10と結合する領域が感応膜3側を向き、標的物質10を捕捉する効率が減少する可能性がある。したがって、そのような場合は、Cを同じ硫黄原子を持ったM(メチオニン)、又は硫黄原子が酸素原子に置換したS(セリン)等に置換することが好ましい。
【0022】
結合子はマレイミドに限定されるものではなく、NHSを用いてもよい。NHSを用いた場合、K(リシン)が結合する。そのため、同様に、第1のECRペプチド4の配列がKを含まない場合はKを環のつなぎ目に挿入することが好ましく、またKが配列の中程に存在する場合には、同じ正電荷のR(アルギニン)等に置換しておくことが好ましい。
【0023】
図5の(a)、(b)に示す第1のECRペプチド4の感応膜3上への固定は、次のような手順で行われ得る。まず、感応膜3上の液体がある場合はそれを純水に置換した後、純水を固定用ペプチドを含む溶液(水溶液)に置換する。その後、1時間程放置すると固定用ペプチドの自己組織化膜が感応膜3上に形成される。次に、感応膜3上の液体を純水に置換して余剰の固定用ペプチドを除去した後、純水を第1のECRペプチド4を含む溶液(例えば、0.5%DMSO水溶液、50μMのTCEPを含む)で置換する。その後、一晩程放置することで、マレイミドと第1のECRペプチド4のCに含まれるチオールが結合し、第1のECRペプチド4を感応膜3に固定することができる。
【0024】
第2のECRペプチド6については、ECLの何れかを用いる場合、環状にする際必ずしもC又はK等を挿入する必要はない。しかしながら、環状のつなぎ目にCが存在することが好ましい。この場合、
図6に示すように2つの第2のECRペプチド6同士がCでジスルフィド結合を形成し、二量体を成し得る。このような二量体では、標的物質10が結合する領域が外側に露出された状態となるため、標的物質10を捕捉しやすくなり、検出の感度が向上し得る。第2のECRペプチド6に使用するアミノ配列を端にCが配置されるように選択するか、又はつなぎ目にCを挿入することでこのような二量体を形成することができる。
【0025】
また、第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6は、必要に応じて膜貫通領域に分類されるアミノ酸配列を含んでもよい。例えば膜貫通受容体の中には、リガンドが膜貫通領域まで潜り込んで結合するものもあり、その場合、膜貫通領域の特定の配列を除去又は改変を行うとリガンドが結合しなくなる場合もある。例えば、そのような領域は細胞外領域との境界付近に位置することが多い。このような膜貫通受容体を使用する場合は、その領域を含めた配列を第1のECRペプチド4及び/又は第2のECRペプチド6に使用することが好ましい。
【0026】
図7~
図9及び下記表1に、4種の膜貫通受容体について好ましい細胞外領域の配列の例を示す。ここで例示する膜貫通受容体は、蚊(Culex quinquefasciatus)に存在するスカトールに対する嗅覚受容体であるCquiOR10、キイロショウジョウバエに存在するバレンセン及びリモネン等の匂い成分に対する嗅覚受容体であるOR19a、蚊(Culex quinquefasciatus)に存在するオクテノールのR体に対する嗅覚受容体であるCqOr118、線虫(C.elegans)に存在するジアセチルに対する嗅覚受容体であるOdr10である。図及び表中、下線は人工的に挿入したアミノ酸であり、太字は置換したアミノ酸である。
【0027】
【0028】
付加する配列は、上記に限定されるものではなく、用途に応じて変更してもよい。また、上記表中の環状化と表記されたペプチドは全てN末端とC末端とをつないで環状とする。
【0029】
上記OR19aのECL-1は第1のECRペプチド4に用いることが好ましい。ECL-2は第2のECRペプチド6に用いることが好ましい。
【0030】
上記Odr10のECL-2の(a)は第2のECRペプチド6に用いることが好ましい。(a)のN末端の配列VHFVは膜貫通領域に含まれる配列であるが、改変を行うとリガンドであるジアセチルに結合しなくなる配列であり、またC末端のLLLWもまた膜貫通領域に含まれる配列であるが除去するとジアセチルに結合しなくなることが知られているため、これらも含めた配列を使用することが好ましい。ECL-3の(a)は40merであり合成が困難であるため、(b)を用いることがより好ましい。細胞外C末端の(a)は第2のECRペプチド6に用いることが好ましいが、中ほどにCを含むため、(b)のようにそれをMに置換して末端にCを付加するか、又は(c)のようにSに置換して末端にCを付加することが好ましい。また細胞外C末端の中ほどのCがECL3の付け根にあるCとジスルフィド結合を形成することができる。その場合、細胞外C末端のCよりもN末端側は(f)のようなループを形成していて、CよりもC末端側が(d)や(e)のような直鎖となっている。ここで、(d)と(f)を混合して用いた場合、(d)のマレイミドが(f)のCと結合して、細胞外C末端の中ほどのCがECL3の付け根にあるCとジスルフィド結合を形成した際と同等の構造とすることができる。
【0031】
また、
図10の(a)に示すOR17-40のECL-2の下記アミノ酸配列は44merの長さを有する。
ALTHTVAMSTLNFCGPNVINHFYCDLPQLFQLSCSSTQLNELLL(配列番号34)
このアミノ酸配列を全て使用すると合成が困難な可能性があることから、分割して複数の環としてもよい。例えば、そのアミノ酸配列の中にCを複数個含む場合、もともとC-C間が結合して環を形成している可能性が高い。そのため、そのような元々の形状にできる限り近づけるため、Cの位置を基準として分割して40mer未満とすることが好ましい。
【0032】
例えば、このECL-2に含まれる3つのCをN末端側から1
stC、2
ndC、3
rdCとすると、
図10の(b)~(g)に示すように、何れか2つのCの間の配列を分割することができる。なお、
図10の例においては、C(GCG)を挿入して結合させるようにしてあるため、配列途中のCはMに置換してある。例えば、
図10の(b)に示すように1
stCと3
rdCとの間の配列を分割することができる(配列番号35,36)。又は
図10の(c)及び(d)に示すように1
stCと2
ndCとの間の配列(配列番号37,38)又は2
ndCと3
rdCと間の配列(配列番号39,40)をそれぞれ分割するパターンも可能である。或いは、ECL-2のCが、ECL-1の付け根のCと結合した場合を想定して、
図10の(e)に示すように1
stCからN末端側の配列と1
stCからC末端側の配列とに分割してもよい(配列番号41,42)。また、1
stCからN末端側を有する環には1
stCのC末端側にMGGGを付加し、1
stCからC末端側を有する環には1
stCのN末端側にMGGGを付加してもよい。同様に、
図10の(f)及び(g)に示すように、それぞれ2
ndC又は3
rdCをそれぞれ基準としてそのN末端側とC末端側の配列とに分割するパターンも可能である((f):配列番号43,44、(g):配列番号45,46)。分割した両方の環を使用してもよいし、片方のみ使用してもよい。
【0033】
更なる実施形態においては、
図11の(a)に示すように、第1のECR4が複数種の細胞外領域由来の配列を含んでもよいし、又は
図12の(a)に示すように第2のECRペプチド6が複数種の細胞外領域由来の配列を含んでもよい。
【0034】
例えば
図11の(a)に示すように第1のECR4に2種の細胞外領域を用いる場合、2種の細胞外領域を感応膜3に固定する。各々に先に説明した固定用ペプチドを結合してそれぞれ感応膜に固定することも可能であるが、下記配列:
GGG-RGAGAGAR-GGG(配列番号47)
の両端に細胞外領域を1種類ずつ連結してもよい。ECLを用いる場合は、上記と同様にマレイミド等の結合子を介して結合してもよい。細胞外末端を用いる場合は、配列番号47と連結したアミノ酸配列を合成すればよい。例えば
図3に示すような3つのECLと1つの細胞外C末端を含む膜貫通受容体を用いる場合は、
図11の(c)に示すように、6通りの組み合わせが考えられる。
【0035】
また、
図12の(a)に示すように、例えば第2のECR6に2種の細胞外領域を用いることもできる。その場合、2種の細胞外領域を液相5内に添加する。各々個別に添加してもよいが、
図12の(b)に示すように2種を連結して添加してもよい。その場合、必要に応じてマレイミド等の結合子及び/又はGGG等を介して結合させることができる。例えば
図3に示すような3つのECLと1つの細胞外C末端を含む膜貫通受容体を用いる場合は、
図12の(c)に示すように、6通りの組み合わせが考えられる。
【0036】
どの細胞外領域を第1のECR4又は第2のECR6に用いるかは、例えば文献など過去の知見から決定してもよい。例えば、標的物質10と結合することが知られている部分を用いることが好ましい。又は実験によって標的物質10の検出感度が良好な組み合わせを検証することで決定してもよい。又は含まれるアミノ酸の種類や形状によって水溶性のものを第2のECR6、疎水性のものを第1のECR4とすることもまた好ましい。
【0037】
以下、ケミカルセンサ1の他の構成について説明する。
【0038】
(基板)
基板2は、例えば、矩形の板状である。基板2は、例えば、シリコン、ガラス、セラミックス又は高分子材料等である。基板2は、例えば、感応膜3側の表面に絶縁膜を備えてもよい。絶縁膜は、例えば、酸化シリコン、窒化ケイ素、酸化アルミニウム、高分子材料等である。
【0039】
(感応膜)
感応膜3は、該感応膜3に結合している物質の構造や電荷の状態などが変化した際にその物性、例えば電気抵抗が変化する物質からなる。感応膜3は、グラフェンであることが好ましいが、例えば、二硫化モリブデン(MoS2)若しくは二セレン化タングステン(WSe2)等の他の二次元材料からなってもよい。或いは感応膜の代わりにカーボンナノチューブやISFET等を用いてもよい。
【0040】
感応膜3がグラフェンである場合、炭素原子1個分の厚さを有する単層のグラフェン膜又は複数層のグラフェン膜であってもよい。感応膜3の大きさは、限定されるものではないが、例えば、幅約5~100μm、長さ約5~100μmとすることができる。あるいは、例えば幅約100~500nm、長さ約200nm程のナノリボン状とすることもできる。
【0041】
また、感応膜3の表面は、夾雑物又は標的物質10が直接感応膜3に結合しないようにブロッキングされていることが好ましい。例えば、金属酸化物(Al2O3、HfO2等)、タンパク質、有機分子、脂質膜、ペプチド等のブロッキング試薬で感応膜3表面を被覆することでブロッキングすることができる。ブロッキング試薬は検体の種類等によって適切なものを用いればよいが、例えば、標的物質10と同じ物質であってもよい。例えば、標的物質10がリモネンである場合、リモネンで感応膜3に対するリモネンの非特異吸着をブロッキングすることも可能である。
【0042】
ブロッキングは例えば次のように行うことができる。まず、感応膜3上に緩衝液、例えば1mMのHEPESを滴下し、感応膜3の物性の変化のモニタリングを開始する。FETの構成であれば、ゲート電圧とドレイン電圧とを印加してドレイン電流を測定開始する。次にブロッキング試薬を含む溶液で緩衝液を置換することでブロッキング試薬を感応膜3上に添加し、1分程放置する。ブロッキング試薬が感応膜3に付着すると感応膜3の物性が変化するため、ブロッキング試薬を含む溶液での置換を物性の変化がなくなるまで繰り返し行うことでブロッキングが完了する。
【0043】
(液相)
液相5は、感応膜3上に配置される液体であり、例えば、水、生理水、イオン液体、緩衝液等である。ペプチドの結合能力を損なわない範囲で有機溶媒を含有していても構わない。液相5の厚さは、特に制約はないが、例えば数mm程度である。
【0044】
(電極)
第1電極7及び第2電極8の材料は、例えば、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、クロム(Cr)又はアルミニウム(Al)等の金属、或いは、酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウムスズ(ITO)、IGZO、導電性高分子等の導電性物質である。
【0045】
(絶縁体)
絶縁体9は、例えば、アクリル樹脂、ポリイミド、ポリベンゾオキサゾール、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリジメチルシロキサン、フッ素樹脂等の高分子物質、又は、酸化シリコン、窒化ケイ素、酸化アルミニウム等の無機絶縁膜などから形成され得る。
【0046】
基板2、第1電極7、第2電極8及び絶縁体は、半導体プロセスによって製造することができる。
【0047】
ケミカルセンサ1の感応膜3の物性の変化を検出する機構は、
図1の構成に限られるものではなく、例えば、他の電荷検出素子、例えば表面プラズモン共鳴素子(SPR)、表面弾性波(SAW)素子、圧電薄膜共振(FBAR)素子、水晶振動子マイクロバランス(QCM)素子、又はMEMSカンチレーバー素子等を用いることも可能である。
【0048】
更なる実施形態において、1つの感応膜3及びその物性の変化を検出する構成を1つの単位、即ち1つのセンサ素子とし、複数のセンサ素子を備えるケミカルセンサが提供される。複数のセンサ素子間で互いに異なる種類の膜貫通受容体に由来する第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6が用いられ、互に異なる種類の標的物質10を検出することができる。
【0049】
図13に示すように、複数のセンサ素子を備えるケミカルセンサ100は、膜貫通受容体Aに由来する第1のECRペプチド4A及び第2のECRペプチド6Aを備えるセンサ素子20Aと、膜貫通受容体Bに由来する第1のECRペプチド4B及び第2のECRペプチド6Bを備えるセンサ素子20Bと、膜貫通受容体Cに由来する第1のECRペプチド4C及び第2のECRペプチド6Cを備えるセンサ素子20Cと、膜貫通受容体Dに由来する第1のECRペプチド4D及び第2のECRペプチド6Dを備えるセンサ素子20Dとを備える。各センサ素子20A~20Dは、感応膜3の物性の変化を個別に検出できるように構成されている。なお、各センサ素子のソース電極とドレイン電極は、それぞれ配線に繋がっていて、それらの配線は電極端子に繋がっている。電極端子には、例えばボンディングワイヤーが繋がっていて、ボンディングワイヤーは、電圧電流回路に繋がっている。
【0050】
各センサ素子20の液相5は隣り合うセンサ素子20から隔離されている。液相5が隔離されることで、第2のECRペプチド6が他のセンサ素子20と混合するのを防止する。あるいは、第二のECRペプチド6は複数のセンサ素子20用のものを混合して使っても構わない。この場合には、液相5を隔離する必要はない。
【0051】
1つのケミカルセンサ100に搭載されるセンサ素子20の数、種類、配置等は
図3に示されるものに限定されるものではない。例えば、1つのケミカルセンサに10個程度のセンサ素子20を搭載し、半数程度のセンサ素子に第1のECRペプチド4を固定することによって、第1のECRペプチド4を固定したセンサ素子と、第1のECRペプチド4を固定しなかったセンサ素子との信号の差から、標的物質の有無を正確に判断することができる。あるいは特定の種類のセンサ素子20を複数個備えてもよい。
【0052】
このようなケミカルセンサ100によれば1種類の検体から複数種類の標的物質10を検出することができる。例えば、特定の匂いに含まれる複数の標的物質10を検出対象とする使い方も可能である。
【0053】
・標的物質検出方法
以下に実施形態のケミカルセンサ1を用いる標的物質10検出方法について説明する。当該検出方法は、検体中の標的物質10を検出する方法である。
【0054】
検体は例えば気体であり、例えば、大気、呼気、又は生体や物体等の分析対象から発生する気体、或いは分析対象の周辺の空気等である。気体検体中の標的物質10は、例えば、アルコール類、エステル類又はアルデヒド類等の揮発性有機化合物(VOC)であり、例えば、匂い物質又はフェロモン物質等であってもよい。標的物質10は、例えば、疎水性の物質である。
【0055】
検体は液体であってもよく、例えば血液、血清、血漿、血球、尿、便、汗、唾液、喀痰、リンパ液、髄液、涙液、母乳、羊水、精液、細胞抽出物又は組織抽出物或いはそれらの混合物等の生体由来の液体であってもよい。或いは、検体は、土壌、河川水、海水或いはそれらの混合物等の環境由来の検体であってもよい。又は食料品、化粧品又は工業用品等に由来する液体であってもよい。
【0056】
実施形態の標的物質10検出方法は、例えば
図14に示すように次の工程を含む。
【0057】
当該標的物質10検出方法は、例えば、以下の工程を含む:
検体をケミカルセンサの液相に取り込むこと(検体取り込み工程S1)、
感応膜の物性の変化を検出すること(検出工程S2)、及び
前記検出の結果から、検体中の標的物質10の有無又は量を判定すること(判定工程S3)。
【0058】
以下、上記各工程の手順ついて具体例を説明する。
【0059】
(検体取り込み工程S1)
例えば検体が気体である場合は、検体をケミカルセンサ1の液相5に接触させることで液相5に取り込む。接触は、例えば、
図15に示すようにバブリングを用いる検体取込装置200を用いて行うことができる。検体取込装置200は、緩衝溶液を貯蔵する緩衝溶液供給タンク201と、気相液相取り込み部202とを備える。緩衝溶液供給タンク201と、気相液相取り込み部202とは、流路203で連結されており、緩衝溶液供給タンク201から新しい緩衝液が気相液相取り込み部202に供給される。流路203はポンプ204と弁205とを備え得る。気相液相取り込み部202は、容器と、当該容器内の緩衝液に検体(例えば匂い雰囲気)を送るための雰囲気捕集口206を備えた流路207、及び容器内の気体を排気する流路208を含む。容器内では、流路207から供給される検体雰囲気が緩衝液内でバブリングされ、緩衝液に内に標的物質10が取り込まれる。この緩衝液は容器に取り付けられた流路209を介してケミカルセンサ1に送られる。流路209は例えば弁210とポンプ211とを備え得る。また、気相液相取り込み部202は、容器に取り付けられた排液流路212を備え、そこから余分な液体を排液する。排液流路212は弁213を備え得る。
【0060】
あるいは
図16に示す検体取込装置220を用いることもあ可能である。検体取込装置220は、上記バブリングを行う気相液相取り込み部202に代えて、多孔質膜を備える気相液相取り込み部221を備える。気相液相取り込み部221は、
図17に示すように、流路チップ222と流路チップの蓋223とその間に挟まれた多孔質膜224とを備える。流路チップ222には、緩衝溶液供給タンク201からの流路203と連結する溶媒入口225と、ケミカルセンサに続く流路209と連結された溶液出口226と、溶媒入口225から溶液出口226までをつなぐ流路227とが形成されている。蓋223には、検体を取り込む流路207と連結する検体雰囲気入口228と、気体を排気する流路208と連結する気体排出口229と、流路227に合わせて対応する形状に掘られた深さ1~2mm程の溝230と、流路チップ222と接触する部分に取り付けられた弾性体231(例えばゴム)とを備える。多孔質膜224として、例えば、多孔質のポリマー材料、例えば、PTFE又はポリアミド等を用いることができる。
【0061】
検体取込装置220では、溶媒入口225から流路227に緩衝液を流入させ、検体雰囲気入口228から検体雰囲気を取り込むことで、流路227で多孔質膜224を介して緩衝液中に標的物質10が取り込まれる。この緩衝液は溶液出口226に取り付けられた流路209を介してケミカルセンサ1に送られる。
【0062】
流路227は、検体雰囲気と緩衝液との接触時間を増やし、且つ非接触する比表面積を大きくするため、
図18に示すように、扁平で蛇行した流路とすることが好ましい。
【0063】
なお、ケミカルセンサ1は消耗部品であってもよく、その場合、ケミカルセンサ1は、例えば上記検体取込装置等を備えるセンサ装置全体から着脱可能となっていた方が好ましい。例えば
図19に示すように、カートリッジ基板300上に、ケミカルセンサ302が形成されたセンサチップ301を実装する。更に、液相5及び検体を取り込んだ液相5が流れる配管303(例えば、
図15,16の流路209)にセンサ露出窓305が設けられている。センサ露出窓305は開口であり、そこにケミカルセンサ1が露出するようにセンサカートリッジを着脱できる。また、センサ露出窓305の下流の配管306は液体を排出する排液口(図示せず)と連結している。
【0064】
検体が液体である場合は、検体を液相5上に滴下することにより液相5に取り込む。本方法において、ケミカルセンサ1は標的物質10を結合する膜貫通受容体に由来する第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6を備える。そのため、
図2で説明した通り標的物質10は液相5中に存在する第2のECRペプチド6に結合し、更に感応膜3に固定されている第1のECRペプチド4に結合する。それによって標的物質10が第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6に挟まれた状態で感応膜3に結合する。この結合によって感応膜3の物性が変化する。物性とは、例えば、感応膜3の電気抵抗等である。
【0065】
一方、第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6は標的物質10と特異的に結合するものであるため、標的でない物質(夾雑物)は感応膜3に結合しない。そのため、夾雑物が感応膜3の物性の変化に影響を与えることが防止される。
【0066】
(検出工程S2)
次に、感応膜3の物性の変化を検出する。例えば、感応膜3の物性の変化を電気的信号の変化に変換する機構によって当該検出を行う。電気的信号は、例えば、電流値、電位値、電気容量値又はインピーダンス値等である。電気的信号の変化とは、例えば、電気的信号の増加、減少、消失、又は特定時間内での積算値の変化等である。
図1に示すFETの構成を用いる場合、物性の変化はドレイン電流値の変化等として検出することができる。
【0067】
(判定工程S3)
次に、検出の結果から検体中の標的物質10の有無又は量を判定する。例えば、電気的信号の変化が生じた場合、或いは信号の変化量又は変化率が閾値よりも大きい場合等に検体に標的物質10が存在すると判断することができる。閾値は、例えば、標的物質10が含まれていることが知られている検体をケミカルセンサの分析に供して電気的信号の変化値を得ることなどによって得ることができる。また濃度既知の標的物質10を用いて、標的物質10の濃度に対する変化量又は変化率の検量線を作成し、それと照らし合わせることによって標的物質10の量を判定してもよい。一方、変化が起きない場合或いは信号の変化量又は変化率が閾値よりも小さい場合に標的物質10が存在しないと判断してもよい。
【0068】
以上に説明した工程により、検体中の標的物質10を特異的かつ高感度に検出することができる。
【0069】
本方法によれば、膜貫通受容体の複数の細胞外領域を第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6として使用すること、及びECLを環状化して使用することにより、複数の細胞外領域によってリガンドを取り囲んで捕捉する膜貫通受容体の本来の立体構造が再現され、受容体が本来持っている強いアフィニティと選択性及び特異性とを実現することができる。
【0070】
また、例えば標的物質10が低分子であるために直接感応膜3に結合しても感応膜3の物性変化に与える影響がわずかである場合がある。本方法によれば、第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6と結合することにより、全体として感応膜3に結合する物体の分子量が増大するため、より感応膜3の物性の変化が大きくなり、より感度よく検出することができる。
【0071】
更に、環状化したECLのつなぎ目に例えばシステインを挿入することにより、細胞外配列が外側を向いた形状で二量体化することで、標的物質10に対する捕捉能が向上し、検出感度を更に向上させることが可能である。
【0072】
複数種類のセンサ素子20を備えるケミカルセンサ100を用いる場合、上記検体取り込み工程S1~判定工程S3を同様に行えばよい。ただし、検出工程S2においては、感応膜3の物性の変化を各センサ素子20から個別に検出する。また判定工程S3においては、個別に得られた検出結果から、センサ素子20毎に、対応する標的物質10の有無又は量を判定する。その後、標的物質10が存在すると判定されたセンサ素子20の種類(即ち、そこに固定された第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6の由来となる膜貫通受容体の種類)、個数及び/又は比から、検体に含まれる複数の標的物質10の組成比を明らかにすることができる。
【0073】
例えば、組成比からその標的物質10集団の種類を特定してもよい。例えば、特定の匂いは複数種の標的物質10が特定の組成比で含まれ得る。したがって、ある匂いを特定の組成比の標的物質10集団として結び付けることで、上記方法によって匂いの有無又は量を判定してもよい。また、匂いと匂いを発する原因(例えば飲食物、麻薬又は疾患を有する対象等)とを予め結び付けておき、このような検出によって匂いを発する原因を特定することも可能である。標的物質10集団の種類と結びつける対象は匂いに限定されるものではなく、例えば、検体の状態、又は検体を提供する生体の健康状態などであってもよい。
【0074】
・標的物質検出装置
検出方法は、各工程を自動的に行う検出装置によって行われてもよい。
図20に示す通り、検出装置500は、例えば、ケミカルセンサ1を含み感応膜3の物性の変化を電気的信号の変化に変換する検出部510と、ケミカルセンサ1の液相5に検体を取り込む検体導入部520と、検出部510から得られた電気的信号の情報を処理することで標的物質10の有無又は量を判定する処理部530とを含む。
【0075】
検体導入部520は、例えば気体の検体を想定する場合、外部から検体を取り込む検体取り込み口521(雰囲気捕集口206)と、液相タンク(緩衝溶液供給タンク)201と、気相液相取り込み部202,221と、その際に検体気体を排気する排気口523(必要であれば、排気を排気孔523に送る送風機522)を備える。これらは、
図15,16に示す検体取込装置200又は220であってもよい。液体の検体を想定する場合、図示しないが、例えば検体を収容する液密な容器と、容器から検体をケミカルセンサ1の液相5上に送る流路又はピペット等を備える。
【0076】
検出部510は、例えばケミカルセンサ1と、ケミカルセンサ1に電圧を印加する電圧印加回路511と、感応膜3の物性の変化を電気的信号として測定するための電流計測回路512とを備える。更に、検出部は検出後の液相5又は余剰の液相5を排出する排液口514に液相を送るポンプ513を備えてもよい。
【0077】
処理部530は、例えば記憶装置531と処理装置532とを備える。記憶装置531は、例えばメモリであり、電流計512からの計測値、計測値の閾値、検量線、計測値から標的物質10の有無又は量の判定を行うために用いられる計算式及び判定結果、並びに判定を行うためのプログラム及び各部の操作を自動で行うためのプログラム等を記憶する。処理装置532は、例えばCPU等であり、プログラムに基づいて標的物質10の有無又は量の判定を行い、また各部に命令を送る。
【0078】
各部は例えばバス540により互いに電気的に接続されている。
【0079】
検出装置500は、パラメータを入力する入力部、及び判定結果を出力する表示部等を更に備えてもよい。
【0080】
[例]
以下、実施形態のケミカルセンサを製造し、使用した例について説明する。
【0081】
次の2種類のグラフェン膜を備えるグラフェンFETセンサ素子を製造した:
(1)第1のECRペプチド4を固定し、リモネンを吸着したグラフェン膜×2、及び
(2)第1のECRペプチド4を固定せず、リモネンを吸着したグラフェン膜×2。
【0082】
リモネンの吸着は次のように行った。まずグラフェン膜上にHEPES1mMを滴下し、ゲート電圧350mVでドレイン電流を測定開始した。次に、ドレイン電流を測定しながらリモネン10μM溶液(HEPES1mM水溶液+1%DMSO)に置換して1分放置した。これを置換時のドレイン電流変化がなくなるまで繰り返した。
【0083】
(1)の第1のECRペプチド4の固定は次のように行った。グラフェン膜上の液体を純水に置換した後、[3-マレイミドプロパノイル]-GGG-RGAGAGARの500nM溶液(水溶液)に置換した。その後、1時間放置することでグラフェン膜上に[3-マレイミドプロパノイル]-GGG-RGAGAGARの自己組織化膜を形成させた。次いでグラフェン膜上の液体を純水に置換した後、OR19aのECL-1(配列番号8)を環状化したペプチドの500nM溶液(0.5%DMSO水溶液、50μMのTCEPを含む)で置換した。10分後、ゲート電圧印加とドレイン電流測定を終了した。このまま一晩放置して、マレイミドとチオールとを結合させた。
【0084】
次に上記(1)の一方のグラフェンFETセンサ素子(実施例1)において次の処理を行った。余剰の第1のECRペプチド4を除去するために感応膜3上の液体をHEPES1mMに置換後、更に第2のECRペプチド6の1μM溶液(HEPES1mM、2%DMSO含む)に置換して液相を形成した。第2のECRペプチド6としてOR19aのECL-2(配列番号11)を環状化したペプチドを用いた。ゲート電圧を0~700mVの間で走査しながらドレイン電流を測定して、電荷中性点を測定した。次に、ゲート電圧を電荷中性点電圧から200mV低い値に設定して、ドレイン電流測定を開始した。
【0085】
続いて、10nM、100nM、1μM、10uMの濃度でリモネンをそれぞれ含む第2のECRペプチド6の1μM溶液(HEPES1mM、2%DMSO含む)で液相を順次置換し、ドレイン電流値の変化を測定した。なお、各濃度のリモネンを含む溶液を添加する前に、リモネンを含まない溶液で一度液相を置換してリフレッシュした。
また、(2)のグラフェン膜の一方も第2のECRペプチド6を含む溶液を用いて同様にリモネンの検出を行った(比較例1)。
(1)のグラフェン膜の他方は第2のECRペプチド6を含まない溶液を含まないリモネン含有溶液を用いて同様にリモネンの検出を行った(比較例2)。また、(5)のグラフェン膜の一方も第2のECRペプチド6を含まない溶液を含まないリモネン含有溶液を用いて同様にリモネンの検出を行った(比較例3)。なお、比較例1~3においては、リモネン濃度10nMにおいても実験を行った。
【0086】
実施例1の時間(s)に対するドレイン電流値の変化を
図21に示す。リモネンを含む溶液を添加した際にドレイン電流値の変化(低下)が見られた。また、リモネンを含まない溶液を添加した際に電流値が元の値に戻ることが確認された。
【0087】
一方、比較例3の時間(s)に対するドレイン電流値の変化を
図22に示す。リモネンの有無に関わらず、ドレイン電流値は時間とともに低下していった。したがってリモネンを検出することができなかった。なお、リモネン10nMを添加した際にドレイン電流値が僅かに低下しているが、次の置換の前にベースラインに戻っているため、これはピペッティングのノイズと推定される。
【0088】
また、各例のリモネンの濃度(M)に対する検出されたドレイン電流変化率(%)を
図23、表2に示す。
【0089】
【0090】
実施例2ではいずれのリモネンの濃度でもドレイン電流値が最も高く、最も感度よくリモネンを検出できることが明らかとなった。特に1E-8(10nM)、1E-7(100nM)のリモネンが検出できたのは実施例1だけであった。なお、1E-6が1E-7に比べてドレイン電流変化率が大きくなっていない理由は、リモネンの濃度が第二のECRペプチド6と同濃度となってしまったため、第一のECRペプチドと第二のECRペプチドの双方にリモネンが結合してしまい、サンドイッチ状の結合を形成することが阻害されたためと推定される。比較例1は1E-6より高い濃度で、濃度に応じた電流値の変化が見られたが実施例1と比較すると感度が低い結果となった。比較例2及び比較例3ではいずれの濃度においても電流変化率が0%であった。
【0091】
したがって、第1のECRペプチド4及び第2のECRペプチド6の両方を用いることで、非常に感度よく標的物質を検出できることが示唆された。
【0092】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示たものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
以下に、出願当初の特許請求の範囲に記載された発明を付記する。
[1]
検体中の標的物質を検出するケミカルセンサであって、
感応膜と、
前記感応膜上に固定された膜貫通受容体の第1の細胞外領域ペプチドと、
前記感応膜上に配置された液相と、
前記液相内に含まれた前記膜貫通受容体の第2の細胞外領域ペプチドと
を含むケミカルセンサ。
[2]
前記感応膜の一方の端に接続する第1電極と、他方の端に接続する第2電極とを更に備え、前記感応膜はグラフェンからなる、[1]に記載のケミカルセンサ。
[3]
前記膜貫通受容体は複数の細胞外領域を含み、
前記第1の細胞外領域ペプチド及び前記第2の細胞外領域ペプチドは、前記膜貫通受容体の互いに異なる前記細胞外領域の少なくとも一部のアミノ酸配列をそれぞれ含む、[1]又は[2]に記載のケミカルセンサ。
[4]
前記細胞外領域は、細胞外ループ又は細胞外末端であり、
前記第1の細胞外領域ペプチド及び前記第2の細胞外領域ペプチドは、
環状化された前記細胞外ループの少なくとも一部のアミノ酸配列を含むか、
直鎖状の前記細胞外末端の少なくとも一部のアミノ酸配列を含む、[3]に記載のケミカルセンサ。
[5]
前記少なくとも一部のアミノ酸配列は、40mer未満である、[3]又は[4]に記載のケミカルセンサ。
[6]
複数の前記感応膜を備え、前記液相は前記複数の感応膜ごとに隔離されており、前記第1の細胞外領域ペプチドと前記第2の細胞外領域ペプチドとは、複数の前記感応膜間で互いに異なる膜貫通受容体に由来する、[1]~[6]の何れか1つに記載のケミカルセンサ。
[7]
[1]~[6]の何れか1つに記載のケミカルセンサと、
前記感応膜の物性の変化を電気的信号の変化に変換する検出部と、
前記ケミカルセンサの前記液相に前記検体を取り込む検体導入部と、
前記検出部から得られた前記電気的信号の情報を処理することで前記検体中の標的物質の有無又は量を判定する処理部と
を備える、検出装置。
[8]
ケミカルセンサを用いて検体中の標的物質を検出する検出方法であって、
前記ケミカルセンサは、感応膜と、前記感応膜上に固定された膜貫通受容体の第1の細胞外領域ペプチドと、前記感応膜上に配置された液相と、前記液相内に配置された前記膜貫通受容体の第2の細胞外領域ペプチドとを含み、
当該検出方法は、
前記ケミカルセンサの前記液相に前記検体を取り込むこと、
前記感応膜の物性の変化を検出すること、及び
前記検出の結果から、前記検体中の前記標的物質の有無又は量を判定することを含む検出方法。
[9]
前記検体の取り込み後、前記標的物質は、前記第1の細胞外領域ペプチドと第2の細胞外領域ペプチドとに挟まれた状態で前記感応膜に結合する、[8]に記載の方法。
[10]
[8]又は[9]に記載の検出方法に用いるための検出装置であって、
前記ケミカルセンサを備え、前記感応膜の物性の変化を電気的信号の変化に変換する検出部と、
前記ケミカルセンサの前記液相に前記検体を取り込む検体導入部と、
前記検出部から得られた前記電気的信号の情報を処理することで前記検体中の標的物質の有無又は量を判定する処理部と
を備える、検出装置。
[11]
前記ケミカルセンサは、
前記感応膜と、
前記感応膜上に固定された膜貫通受容体の第1の細胞外領域ペプチドと、
前記感応膜上に配置された液相と、
前記液相内に含まれた前記膜貫通受容体の第2の細胞外領域ペプチドと
を備える、[10]に記載の検出装置。
[12]
前記ケミカルセンサは、前記感応膜の一方の端に接続する第1電極と、他方の端に接続する第2電極とを更に備え、前記感応膜はグラフェンからなる、[11]に記載の検出装置。
[13]
前記膜貫通受容体は複数の細胞外領域を含み、
前記第1の細胞外領域ペプチド及び前記第2の細胞外領域ペプチドは、前記膜貫通受容体の互いに異なる前記細胞外領域の少なくとも一部のアミノ酸配列をそれぞれ含む、[11]又は[12]に記載の検出装置。
[14]
前記細胞外領域は、細胞外ループ又は細胞外末端であり、
前記第1の細胞外領域ペプチド及び前記第2の細胞外領域ペプチドは、
環状化された前記細胞外ループの少なくとも一部のアミノ酸配列を含むか、
直鎖状の前記細胞外末端の少なくとも一部のアミノ酸配列を含む、[13]に記載の検出装置。
[15]
前記少なくとも一部のアミノ酸配列は、40mer未満である、[13]又は[14]に記載の検出装置。
[16]
前記ケミカルセンサは複数の前記感応膜を備え、前記液相は前記複数の感応膜ごとに隔離されており、前記第1の細胞外領域ペプチドと前記第2の細胞外領域ペプチドとは、複数の前記感応膜間で互いに異なる膜貫通受容体に由来する、[11]~[15]の何れか1つに記載の検出装置。
【符号の説明】
【0093】
1…ケミカルセンサ、2…基板、3…感応膜、
4、4A、4B、4C、4D…第1のECRペプチド、
5…液相、
6、6A、6B、6C、6D…第2のECRペプチド、
7…第1電極、8…第2電極、9…絶縁体、10…標的物質、
20、20A、20B、20C、20D…センサ素子、
100…ケミカルセンサ、
500…検出装置、510…検出部、520…検体導入部、
530…処理部、A、B、C、D…膜貫通受容体。
【配列表】