(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】釣糸ガイド及び当該釣糸ガイドを備える釣竿
(51)【国際特許分類】
A01K 87/04 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
A01K87/04 Z
(21)【出願番号】P 2021085387
(22)【出願日】2021-05-20
【審査請求日】2023-07-24
(31)【優先権主張番号】P 2020088388
(32)【優先日】2020-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100140822
【氏名又は名称】今村 光広
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】河合 一輝
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-136840(JP,A)
【文献】国際公開第2017/130470(WO,A1)
【文献】特開2007-274931(JP,A)
【文献】特開平02-163024(JP,A)
【文献】特開2011-004651(JP,A)
【文献】特開2014-187978(JP,A)
【文献】登録実用新案第3107564(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 87/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
竿軸に沿って延びる釣竿に取付けられる釣糸ガイドであって、
ガイド中心軸に沿って延びる貫通孔が形成されたガイド本体と、
該ガイド本体の該貫通孔に嵌め込まれるガイドリングと、を備え、
該ガイドリングは、圧着部を有し、該圧着部が該ガイド本体に圧着するようにして固定され、該圧着部は該ガイドリングの径方向外側へ湾曲して形成されて
おり、
前記圧着部は、その両端を結ぶ線と、該圧着部との最大距離が、20μmから200μmの範囲内にあり、前記圧着部は、該圧着部の中央点から該圧着部の両端を結ぶ線へ延びる垂線の長さが、20μmから200μmの範囲内にある、釣糸ガイド。
【請求項2】
前記圧着部は、その延伸方向でみて、4mmから30mmの範囲の長さを有する、請求項1
に記載の釣糸ガイド。
【請求項3】
前記圧着部は、前記ガイド本体の厚さ方向でみて、前記ガイドリングの端部に形成される、請求項
1又は2に記載の釣糸ガイド。
【請求項4】
前記ガイドリングの前記端部は、前記ガイド本体の厚さ方向でみて、1mmから3mmの範囲の厚さを有する、請求項
3に記載の釣糸ガイド。
【請求項5】
前記ガイドリングは、その断面形状が湾曲している、請求項1から
4までのいずれか1項に記載の釣糸ガイド。
【請求項6】
請求項1から
5までのいずれか1項に記載の釣糸ガイドを少なくとも1つ備えた釣竿。
【請求項7】
竿軸に沿って延びる釣竿に取付けられる釣糸ガイドであって、
貫通孔が形成されたFRP製のガイド本体と、
該貫通孔に嵌め込まれる金属製又はセラミック製のガイドリングと、を備え、
該ガイドリングは、該貫通孔の設計値の大きさに対して径方向外方に膨出する圧着部を有し、該圧着部が前記貫通孔に圧入して固定され
ており、前記圧着部は、前記ガイドリングの周方向に少なくとも1カ所、或いは左右又は上下の対称位置に設けられ、径方向外方への膨出量は、前記貫通孔の設計値の大きさに対し合計値で20μmから200μmの範囲であることを特徴とする釣糸ガイド。
【請求項8】
前記貫通孔は、平面視において円形、楕円形、又は角丸長方形である、請求項
7に記載の釣糸ガイド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣糸ガイド及び当該釣糸ガイドを備える釣竿に関する。
【背景技術】
【0002】
釣竿に釣糸をガイドするための釣糸ガイドとして、ガイドリングが釣糸ガイドの貫通孔に嵌込まれたものが知られている。このような釣糸ガイドでは、ガイドリングの長辺側内側外径形状が直線状となるように形成されることが多い。
【0003】
このような釣糸ガイドは、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1では、釣糸が導通されるガイドリングが圧入されて内嵌された嵌合孔を有するリング保持部を備え、該リング保持部の嵌合孔の孔縁は円弧径の中心点が一致し、且つその中心線が長径をなして対向する2つの同心円弧部分を有する長円形をなし、しかも、前記各同心円弧部分には内方に向かって突出する圧入突起が形成されている釣竿用導糸環が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に係る態様では、ガイドリングの長辺側外径形状が直線状の場合、高い加工精度が要求され、ガイドリングやリング保持部の成形誤差にバラツキが生じると、リングの大きさによっては嵌合孔に圧入することができなかったり、圧入することができても嵌合孔との間に隙間ができたりしてしまうという問題があった。
【0006】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ガイドリングやガイド本体の成形誤差によらず、ガイドリングのガイド本体への固定力を確実に向上させることにある。本発明のこれら以外の目的は、本明細書全体を参照することにより明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドは、竿軸に沿って延びる釣竿に取付けられ、ガイド中心軸に沿って延び、貫通孔が形成されたガイド本体と、該ガイド本体の該貫通孔に嵌め込まれるガイドリングと、を備え、該ガイドリングは、圧着部を有し、該圧着部が該ガイド本体に圧着するようにして固定され、該圧着部は該ガイドリングの径方向外側へ湾曲して形成されている。
【0008】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、前記圧着部は、その両端を結ぶ線と、該圧着部との最大距離が、20μmから200μmの範囲内にあるように構成される。
【0009】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、前記圧着部は、該圧着部の中央点から該圧着部の両端を結ぶ線へ延びる垂線の長さが、20μmから200μmの範囲内にあるように構成される。
【0010】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、前記圧着部は、その延伸方向でみて、4mmから30mmの範囲の長さを有するように構成される。
【0011】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、前記圧着部は、前記ガイド本体の厚さ方向でみて、前記ガイドリングの端部に形成される。
【0012】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、前記ガイドリングの前記端部は、前記ガイド本体の厚さ方向でみて、1mmから3mmの範囲の厚さを有するように構成される。
【0013】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、前記ガイドリングは、その断面形状が湾曲している。
【0014】
本発明の一実施形態に係る釣竿は、上記いずれかの釣糸ガイドを少なくとも1つ備えるよう構成される。
【0015】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドは、竿軸に沿って延びる釣竿に取付けられ、貫通孔が形成されたFRP製のガイド本体と、該貫通孔に嵌め込まれる金属製又はセラミック製のガイドリングと、を備え、該ガイドリングは、該貫通孔の設計値の大きさに対して径方向外方に膨出する圧着部を有し、該圧着部が前記貫通孔に圧入して固定される。
【0016】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、前記貫通孔は、平面視において円形、楕円形、又は角丸長方形である。
【0017】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、前記圧着部は、前記ガイドリングの周方向に少なくとも1カ所、或いは左右又は上下の対称位置に設けられ、径方向外方への膨出量は、前記貫通孔の設計値の大きさに対し合計値で20μmから200μmの範囲である。
【発明の効果】
【0018】
上記実施形態によれば、ガイドリングやガイド本体の成形誤差によらず、ガイドリングのガイド本体への固定力を確実に向上させることが可能な釣糸ガイド及びこれを備えた釣竿を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係る釣竿を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドを示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドのガイドリングを示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおける貫通孔の設計値と膨出する圧着部との関係を示す図
【
図5】本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドのガイドリングのA-A断面を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係る釣竿の実施形態について、添付図面を参照しながら具体的に説明する。複数の図面において共通する構素には当該複数の図面を通じて同一の参照符号が付されている。各図面は、説明の便宜上、必ずしも正確な縮尺で記載されているとは限らない点に留意されたい。
【0021】
図1は、本発明に係る釣竿の一実施形態を示す図である。図示のように、本発明の一実施形態による釣竿1は、手元竿3と、複数の中竿5(
図1の例では3本)と、穂先竿7と、を有する振り出し式の釣竿である。釣竿1の不使用時においては、中竿5及び穂先竿7が中空の手元竿3に収納される。
【0022】
手元竿3、中竿5、及び穂先竿7は、例えば、例えば、炭素繊維に合成樹脂を含侵したプリプレグシートを用いて形成することができる。また、手元竿3、中竿5、及び穂先竿7は、それぞれ穂先方向に先細りとなるテーパー形状を有する。中竿5及び穂先竿7の外周面には、リールRから繰り出される釣糸を釣竿1の穂先まで案内する複数の釣糸ガイド10が設けられている。
【0023】
なお、竿体2は、例えば、元竿3、中竿5、及び穂先竿7等を連結することによって構成されているが、これらの各竿体は、例えば、並継ぎ式に継合される。元竿3、中竿5、及び穂先竿7は、逆並継方式、インロー方式、又はこれら以外の公知の任意の継合方式により継合され得る。竿体2は、単一の竿体から構成されていても良い。
【0024】
ここで、元竿3、中竿5、及び穂先竿7は、例えば、繊維強化樹脂製の管状体で構成されている。この繊維強化樹脂製の管状体は、強化繊維にマトリクス樹脂を含浸させた繊維強化樹脂プリプレグ(プリプレグシート)を芯金に巻回し、このプリプレグシートを加熱して硬化させることにより作成される。このプリプレグシートに含まれる強化繊維として、例えば、炭素繊維、ガラス繊維、及びこれら以外の任意の公知の強化繊維を用いることができる。当該プリプレグシートに含まれるマトリクス樹脂として、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を用いることができる。プリプレグシートが硬化された後には、芯金が脱芯される。また、管状体の外表面は、適宜研磨される。各竿体は、中実状に構成されてもよい。
【0025】
図1に示すように、元竿3、中竿5及び穂先竿7には、リールRから繰り出される釣糸を案内する複数の釣糸ガイド10(釣糸ガイド10A~10Dであるが図示の例では全て釣糸ガイド10とする)が設けられている。より具体的には、元竿3には釣糸ガイド10Aが設けられ、中竿5には釣糸ガイド10Bが設けられ、穂先竿7には釣糸ガイド10Cが設けられている。穂先竿7の先端には、トップガイド10Dが設けられるが、詳細は省略する。
【0026】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドを
図2ないし4を参照して説明する。
図2は、一実施形態における釣糸ガイド10の正面図であり、
図3は、釣糸ガイド10が有するガイドリングの正面図であり、
図4は、釣糸ガイド10の断面を模式的に示す図である。
【0027】
図2に示すように、本発明の一実施形態に係る釣糸ガイド10は、ガイド本体11と、該ガイド本体11に取付けられる環状のガイドリング12とを備える。当該ガイド本体11は、竿体3、竿体5及び竿体7のいずれかに取付けられる足部13と、該足部13に接続された板状のリング保持部14とを備える。説明の便宜のため、以下、釣糸ガイド10が竿体5に取付けられる場合を例として説明する。
【0028】
ここで、足部13は、例えば、竿体5の外周面に沿って延びる細長い板状又は舌状の部材である。足部13は、例えばナイロン繊維から形成された巻糸によって竿体5に巻き付けられるようにしてもよい。
図2では、1つの足部によって竿体に取付けられるシングルフットタイプの釣糸ガイドが例示されているが、本発明を適用可能なガイドリングはこのシングルフットタイプのものに限られない。例えば、本発明は、ダブルフットタイプのガイドリングにも適用可能である。ダブルフットタイプの釣糸ガイドは、リング保持部から前側及び後側にそれぞれ延びる一組の足部を有し、当該一組の足部により竿体に固定することができる。また、本発明は、固定式の釣糸ガイド及び可動式の釣糸ガイドのいずれにも適用することができる。可動式の釣糸ガイドは、通常遊動ガイドと呼ばれる。
【0029】
また、釣糸ガイド本体の材料は、通常、金属、樹脂又は繊維強化樹脂を用いることができるが、これらに限られない。また、リングの材料として、通常、金属が考えられるが、セラミックス(SiC等)やその他の材料を用いてもよい。ここで、
図2に示すように、リング保持部14は、竿体5の後方から前方に向かって上方に傾斜している。すなわち、当該リング保持部14は、ガイドリング12が竿体5に取付けられたときに、竿体5の前方に倒れた姿勢を取る。なお、前後方向とは、
図4に示す前後方向を指す。この前方向は、釣竿1の竿軸Aに沿って穂先から手元端に向かう方向である。また、上下方向も同様に、
図4に示す上下方向を指す。
【0030】
リング保持部14は、貫通孔を有し、当該貫通孔は、リング保持部14をガイド中心軸Bに沿って貫く。この貫通孔は、リング保持部14の内周面14aにより画定され、例えば、正面視で左右対称及び上下対称となる形状を有する。ガイド中心軸Bは、当該貫通孔の中心を通り前後方向に延びる。
【0031】
次に、リング保持部14の貫通孔には、環状のガイドリング12が圧入するようにして嵌め込まれる。ガイド中心軸Bは、当該ガイドリング12の中心を通っている。このガイドリング12は、例えば、セラミックス、金属、合金、またはこれらの複合材料によって形成される。ガイドリング12は、母材層と、該母材層の内周面12a側の表面に形成された内表面層と、この母材層の外周面側の表面に形成された外表面層とを有していてもよい。母材層は、例えば、Co、Ni、Cr、Mo、Fe及び不可避不純物を含む合金からなる。母材層は、Mn、Ti、及び/又はNbを含んでもよい。内表面層及び外表面層は、例えば、クロムカーバイト(CrC)、チタンカーバイト(TiC)、またはバナジウムカーバイト(VC)からなる。内表面層及び外表面層は、ビッカース硬度1300Hvから3000Hv程度の高硬度とすることができる。
【0032】
次に、
図3は、ガイド中心軸Bの方向から正面視したガイドリング12を示している。図示のように、ガイドリング12は、正面視において、紙面の上下方向に長いリング形状を有している。ガイドリング12は、上方向に凸状に湾曲した第1の湾曲部12Aと、下方向に凸状に湾曲した第2の湾曲部12Bと、これらの間を接続し、右方向に凸状に湾曲した第3の湾曲部(圧着部)12C及び左方向に凸状に湾曲した第4の湾曲部(圧着部)12Dと、を備える。図示の例では、第1の湾曲部12Aと第2の湾曲部12Bとは、同心の部分円弧を形成し、同様に、第3の湾曲部(圧着部)12Cと第4の湾曲部(圧着部)12Dとは、同心の部分円弧を形成する。
図3の例は一例であり、様々な湾曲形状が考えられる。
【0033】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイド10は、竿軸Aに沿って延びる釣竿1に取付けられ、ガイド中心軸Bに沿って延び、貫通孔が形成されたガイド本体11と、該ガイド本体11の該貫通孔に嵌め込まれるガイドリング12と、を備え、該ガイドリング12は、第3の湾曲部(圧着部)12Cと第4の湾曲部(圧着部)12Dを有し、該第3の湾曲部(圧着部)12Cと第4の湾曲部(圧着部)12Dが該ガイド本体に圧着するようにして固定され、該第3の湾曲部(圧着部)12Cと第4の湾曲部(圧着部)12Dは該ガイドリングの径方向外側へ湾曲している。
【0034】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイド10によれば、ガイドリングやガイド本体の成形誤差によらず、ガイドリングのガイド本体への固定力を確実に向上させることが可能な釣糸ガイド及びこれを備えた釣竿を提供することが可能となる。
【0035】
これをより具体的に述べると、該ガイドリング12が圧着部15を有し、該圧着部が該ガイド本体に圧着するようにして固定され、該圧着部がその延伸方向でみて該ガイドリングの径方向外側へ湾曲していることにより、変形や圧入が可能となるため、ガイドリングやガイド本体の成形誤差によらず、ガイドリングのガイド本体への固定力を確実に向上させることが可能となる。
【0036】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイド10において、該第3の湾曲部(圧着部)12Cと第4の湾曲部(圧着部)12Dは、その両端を結ぶ線と、該圧着部との最大距離が、20μmから200μmの範囲内にあるように構成される。
【0037】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、前記圧着部は、該圧着部の中央点(M)から該圧着部の両端を結ぶ線へ延びる垂線の長さ(X)が、20μmから200μmの範囲内にあるように構成される。
【0038】
このようにして、変形や圧入が可能となるため、ガイドリングやガイド本体の成形誤差によらず、ガイドリングのガイド本体への固定力を確実に向上させることが可能となる。なお、繊維強化樹脂のガイド本体の接着面に凹凸を作成し、圧入後の接着で接着強度を向上させるようにすることもできる。
【0039】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、該第3の湾曲部(圧着部)12Cと第4の湾曲部(圧着部)12Dは、その延伸方向(
図3の紙面の上下方向)でみて、4mmから30mmの範囲の長さを有するように構成される。
【0040】
このようにして、変形や圧入が可能となるため、ガイドリングやガイド本体の成形誤差によらず、ガイドリングのガイド本体への固定力を確実に向上させることが可能となる。
【0041】
次に、
図4を参照して、ガイドリング12の断面形状について説明する。図示のように、ガイドリング12は、その周方向に沿って延びるリング内周面12aと、該リング内周面12aと概ね平行に延びるリング外周面12bとを有する。当該リング内周面12aと当該リング外周面12bとは、後側の端面(端部)12c及び前側の端面(端部)12dにより接続されている。
【0042】
図4に示すように、ガイドリング12は、そのガイド中心軸Bを含む切断面で切断したときの断面視において、径方向内側に向かって凸状に湾曲するように形成されている。すなわち、ガイドリング12は、ガイド内周面14aからガイド中心軸Bに向かって突出するように湾曲している。図示の例では、ガイドリング12は、リング保持部14の後面よりも後側に突出している後縁部12eを有する。後縁部12eは、ガイドリング12の周方向の少なくとも一部の領域においてリング保持部の後面に接するように形成されている。これにより、ガイドリング12はより安定的にリング保持部14に保持することができる。なお、釣竿1の使用時には、釣糸Lがガイドリング12の中を通過する。ガイドリング12は、釣糸Lの巻取り時に、リング内周面12aの頂部付近において釣糸Lと接触することとなる。
【0043】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイド10において、該第3の湾曲部(圧着部)12Cと第4の湾曲部(圧着部)12Dは、該ガイド本体11の厚さ方向でみて、前記ガイドリングの端面(端部)、すなわち、上述した前側の端面(端部)12dで該ガイド本体11に圧着するようにされる。
【0044】
このようにして、前側の端面(端部)12dで該ガイド本体11に圧着するようにされることで、保持や固定が可能となるため、ガイドリングやガイド本体の成形誤差によらず、ガイドリングのガイド本体への固定力を確実に向上させることが可能となる。
【0045】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、前記ガイドリングの当該前側の端部12dは、前記ガイド本体の厚さ方向でみて、1mmから3mmの範囲の厚さを有するように構成される。
【0046】
このようにして、前記ガイドリングの当該前側の端部12dがこのような範囲の厚さを有することで、変形や圧入が可能となるため、ガイドリングやガイド本体の成形誤差によらず、ガイドリングのガイド本体への固定力を確実に向上させることが可能となる。
【0047】
上記した実施形態では、第一の圧着部15A、第二の圧着部15Bを、ガイドリング12の周方向左右両側となる位置にほぼ対称に膨出形成したが、ガイドリング12の上下両側の2カ所に膨出形成してもよく、或いは左右及び上下の4カ所に設けても良い。なお圧着部は、ガイドリング12の周方向の一部(一カ所)のみに形成しても、ある程度の圧入効果を有するものであるから、必ずしも左右対称、或いは上下対象に配置する必要はない。
【0048】
さらに、貫通孔Xの形状は、上記したとおり円形でもあっても良く、また楕円形であってもよい。またその場合の圧着部の膨出量、及びその配置位置も、貫通孔Xの設計値に対する成形誤差(実証に基づく想定される成形誤差)を吸収可能な範囲で、任意に決定することができる。
【0049】
本発明の一実施形態に係る釣竿1は、上記いずれかの釣糸ガイド10を少なくとも1つ備えるよう構成される(
図1の例では、釣竿1に11つの釣糸ガイド10が形成されている)。
【0050】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイド10についてさらに具体的に説明する。本発明の一実施形態に係る釣糸ガイド10は、FRP製からなるガイド本体11と、該ガイド本体11に取付けられる金属製又はセラミック製の環状のガイドリング12とを備える。当該ガイド本体11は、竿体3、竿体5及び竿体7のいずれかに取付けられる足部13と、該足部13に接続された板状のリング保持部14とを備える。ここで、足部13は上述と同様であるため省略する。
【0051】
また、上記の通り、ガイド本体11の材料は炭素繊維強化樹脂を用いることができるが、強化繊維は炭素繊維に限られない。また、ガイドリング12の材料は金属又はセラミックス(SiC等)である。
【0052】
リング保持部14には、ガイドリング12を固定保持するための貫通孔Xが穴開け加工されており、貫通孔Xは、リング保持部14を貫通孔の中心軸Bに沿って貫いている。この貫通孔Xは、正面視で左右対称及び上下対称となる角丸長方形(陸上トラック型)の形状を有する。中心軸Bは貫通孔Xの中心を通り前後方向に延びる。なお、本実施形態においては、貫通孔Xの形状を角丸長方形としているが、円形や楕円形であっても良い。その場合、当該形状の貫通孔Xに固定されるガイドリング12も、ほぼ円形、ほぼ楕円形となる。
【0053】
リング保持部14に穴開け加工される貫通孔Xに、金属製又はセラミック製の環状のガイドリング12が圧入するようにして嵌め込まれる。貫通孔Xの中心軸Bは、ガイドリング12の中心軸と同じである。ガイドリング12は、上記のとおり、金属(合金又はこれらの複合材料)、或いはセラミックスによって形成される。金属又はセラミックスは加工精度を出しやすい素材であり、ほぼ設計値どおりに形成可能である。上述の通り、ガイドリング12は、母材層と、該この母材層の内周面12a側の表面に形成された内表面層と、母材層の外周面側の表面に形成された外表面層とを有していてもよい。また、上述の通り、母材層は、例えば、Co、Ni、Cr、Mo、Fe及び不可避不純物を含む合金からなる。母材層は、Mn、Ti、及び/又はNbを含んでもよい。内表面層及び外表面層は、例えば、クロムカーバイト(CrC)、チタンカーバイト(TiC)、またはバナジウムカーバイト(VC)からなる。内表面層及び外表面層は、ビッカース硬度1300Hvから3000Hv程度の高硬度とすることができる。
【0054】
再度
図3を参照してガイドリング12についてより具体的に説明する。
図3はガイド中心軸Bの方向から正面視したガイドリング12を示している。図示のように、ガイドリング12は、正面視において、紙面の上下方向に、貫通孔Xとほぼ相似形の角丸長方形(陸上トラック型)の形状を有している。ガイドリング12は、貫通孔Xの設計値に対応するように上方向に凸状に湾曲した第1の湾曲部12Aと、下方向に凸状に湾曲した第2の湾曲部12Bとを有し、さらにこれらの間を接続し、貫通孔Xの設計値に対して右方向外方に凸状に膨出する第一の圧着部15Aと、左方向外方に凸状に膨出する第二の圧着部15Bを備えている。即ち、第1の湾曲部12Aと第2の湾曲部12Bとは、貫通孔Xの設計値と相似形となる同心の部分円弧を形成し、第一の圧着部15Aと、第二の圧着部15Bは、貫通孔Xの設計値より径方向外方にやや膨出した部分円弧(凸状円弧形)として形成される。
図3に示す圧着部15A、15Bの膨出形状は一例であり、他の様々な膨出形状であってもよい。
【0055】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドは、竿軸に沿って延びる釣竿に取付けられる釣糸ガイドであって、貫通孔が形成されたFRP製のガイド本体と、前記貫通孔に嵌め込まれる金属製又はセラミック製のガイドリングと、を備え、前記ガイドリングは、前記貫通孔の設計値の大きさに対して径方向外方に膨出する圧着部を有し、前記圧着部が前記貫通孔に圧入して固定される。
【0056】
ガイドリングとガイド本体の貫通孔の成形には共に高い加工精度が要求され、金属製又はセラミック製のガイドリングは、その素材からほぼ設計値どおりに加工できるものの、FRP製のガイド本体に設計値通りの貫通孔を形成しようとしても、FRPへの穴開け加工が難しいことから、どうしても成形に誤差(公差)が生じてしまうことが判っている。これまでの成形経験値によれば、約20μmから200μm程度、設計値より大きな貫通孔となってしまうケースが多く、これによって設計値どおりに成形したガイドリングと、設計値とバラつき誤差がある貫通孔との間に隙間が生じ、ガタ付きが発生するという問題があった。
【0057】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイド10によれば、FRP製のガイド本体11に穴開け加工して形成する貫通孔Xの大きさが、穴開け成形時の誤差によって設計値と異なる大きさで形成されたとしても(通常は設計値よりも大きな開口誤差となる)、ガイドリング12の貫通孔Xへの固定力を確実に向上させることが可能な釣糸ガイド及びこれを備えた釣竿を提供することが可能となる。
【0058】
より具体的に述べると、該ガイドリング12が貫通孔Xの設計値に対して、それよりもやや大きく径方向外方に膨出する圧着部15A、15Bを周方向の一部に対称に配置し、この該圧着部15A、15Bが、設計値よりもやや大きく開口してしまった貫通孔Xに対しても、圧入固定することができ、ガイドリングがガイド本体(貫通孔)に対してガタ付きなく、確実に固定させることが可能となる。
【0059】
図5は、貫通孔Xの設計値の形状と、ガイドリング12の形状を模式的に示した図である。本発明の一実施形態に係る釣糸ガイド10において、第一の圧着部15A、第二の圧着部15Bは、
図4に示すとおり、貫通孔の設計値の大きさに対して、それぞれ径方向外方にL1、L2だけ膨出しており、L1とL2の合計値は、20μmから200μm程度であることが好ましい。
【0060】
なお、貫通孔Xのガイドリング接合面に凹凸を作成し、ガイドリング12を圧入した後、接着剤を用いて接着強度を向上させるようにしても良い。
【0061】
本発明の一実施形態に係る釣糸ガイドにおいて、第一の圧着部15Aと、第二の圧着部15Bの周方向長さは、ガイドリングの大きさにもよるが、4mmから30mm程度の範囲であることが好ましい。
【0062】
本明細書で説明された各構成要素の寸法、材料、及び配置は、実施形態中で明示的に説明されたものに限定されず、この各構成要素は、本発明の範囲に含まれうる任意の寸法、材料、及び配置を有するように変形することができる。また、本明細書において明示的に説明していない構成要素を、説明した実施形態に付加することもできるし、各実施形態において説明した構成要素の一部を省略することもできる。
【符号の説明】
【0063】
1 釣竿
3 元竿
5 中竿
7 穂先竿
10 釣糸ガイド
11 ガイド本体
12 ガイドリング
12a リング内周面
12b リング外周面
12c 後側の端面(端部)
12d 前側の端面(端部)
12e 後端部
12A 第1の湾曲部
12B 第2の湾曲部
12C 第3の湾曲部(圧着部)
12D 第4の湾曲部(圧着部)
13 足部
14 リング保持部
R リール