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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】蒸発燃料処理システムの漏れ診断装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20240408BHJP
   G01M 3/26 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
F02M25/08 Z
G01M3/26 M
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021092905
(22)【出願日】2021-06-02
(65)【公開番号】P2022185308
(43)【公開日】2022-12-14
【審査請求日】2023-08-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000116574
【氏名又は名称】愛三工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000394
【氏名又は名称】弁理士法人岡田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷田 侑也
(72)【発明者】
【氏名】川瀬 真梨子
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-527589(JP,A)
【文献】特開2006-177199(JP,A)
【文献】特開2012-112306(JP,A)
【文献】特開2015-075032(JP,A)
【文献】特開2020-067060(JP,A)
【文献】米国特許第06321727(US,B1)
【文献】国際公開第2016/207964(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/020485(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
G01M 3/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクを含む蒸発燃料処理システムからの燃料蒸気の漏れがないかを診断する漏れ診断装置であって、
前記蒸発燃料処理システムの診断対象領域内の圧力を検知する圧力センサと、
制御装置とを備え、この制御装置は、
前記圧力センサを用いてある時点での前記診断対象領域内の圧力を測定し、
測定した前記診断対象領域内の前記圧力が強制的な圧力印加を伴わない第1の方法で漏れ診断を行うための第一の所定の条件を満たしているかを判定し、
この第一の所定の条件を満たすと判定した場合には前記第1の方法で漏れ診断を行うことを決定し、
この第一の所定の条件を満たさないと判定した場合には、その後の温度変化による前記診断対象領域内の蒸気圧変化を前記燃料タンク内の燃料の飽和蒸気圧特性に基づいて予測し、
この予測した前記蒸気圧変化に基づいて前記診断対象領域内の前記圧力がその後も継続して前記第一の所定の条件を満たさないと判断した場合には、強制的な圧力印加を伴う第2の方法で漏れ診断を行うことを決定するよう構成されている、漏れ診断装置。
【請求項2】
請求項1の漏れ診断装置であって、
前記制御装置は、前記診断対象領域内の蒸気圧変化を予測した場合には、この予測した前記蒸気圧変化に基づいて前記診断対象領域内の圧力が前記第一の所定の条件を満たすようになる時刻を推定するよう構成されている、漏れ診断装置。
【請求項3】
請求項2の漏れ診断装置であって、
蒸発燃料処理システムの前記診断対象領域内に正または負の圧力を印加する圧力印加手段を備えており、
前記制御装置は、
推測した前記時刻に達した後、前記圧力センサを用いて前記診断対象領域内の圧力が前記第一の所定の条件を満たしているかを確認し、
満たしていることを確認した場合には前記第1の方法で漏れ診断を行うことを決定し
前記第一の所定の条件を満たしていないことを確認した場合には前記第2の方法で漏れ診断を行うことを決定して、密閉状態にした前記診断対象領域内に前記圧力印加手段を用いて正または負の圧力を印加し、
決定した前記方法で前記診断対象領域内の圧力変化に基づいて漏れ診断を行うよう構成されている、漏れ診断装置。
【請求項4】
請求項2の漏れ診断装置であって
記制御装置は、
推測した前記時刻に達した後、圧力が前記第一の所定の条件を満たしているかを確認することなく、前記第1の方法で前記診断対象領域内の圧力変化に基づいて漏れ診断を行うよう構成されている、漏れ診断装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかの漏れ診断装置であって、
前記第一の所定の条件は前記診断対象領域内の圧力と大気圧との差の絶対値が所定値以上であることである、漏れ診断装置。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかの漏れ診断装置であって、
前記燃料タンク内に気相の温度を検知する温度センサを備えており、
前記制御装置は、
前記温度センサを用いて気相の温度を複数回測定し、
この測定した気相の温度の変化に基づいて前記蒸気圧変化を予測するよう構成されている、漏れ診断装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれかの漏れ診断装置であって、
前記燃料タンク内に気相の温度を検知する温度センサを備えており、
前記制御装置は、
前記温度センサを用いて測定した気相の複数の温度から気相の一日の温度推移を把握し、
この把握した一日の温度推移に基づいて前記蒸気圧変化を予測するよう構成されている、漏れ診断装置。
【請求項8】
請求項1から6のいずれかの漏れ診断装置であって、
前記燃料タンク内の燃料の温度を検知する燃温センサと、
外部の大気の温度を検知する外気温センサと、
前記燃料タンク内の燃料の残量を検知する燃料量センサとを備えており、
前記制御装置は、これら燃温センサと外気温センサと燃料量センサをそれぞれ用いて測定した燃料温度、外気温度、燃料量に基づいて前記蒸気圧変化を予測するよう構成されている、漏れ診断装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかの漏れ診断装置であって、
前記燃料タンク内に気相の温度を検知する温度センサを備えており、
前記制御装置は、前記温度センサを用いて測定した気相の温度に基づいて前記燃料タンク内の燃料の前記飽和蒸気圧特性を決定するよう構成されている、漏れ診断装置。
【請求項10】
請求項1から9のいずれかの漏れ診断装置であって、
前記制御装置は、第一の所定の条件を満たすと判定し前記第1の方法で漏れ診断を行うと決定した場合、前記蒸気圧変化の予測を行うことなく前記第の方法で前記診断対象領域内の圧力変化に基づいて漏れ診断を行うよう構成されている、漏れ診断装置。
【請求項11】
請求項1から10のいずれかの漏れ診断装置であって、
前記第一の所定の条件は前記診断対象領域内の圧力と大気圧との差の絶対値が第一の所定値以上かつ第二の所定値未満であることであり、
前記制御装置は、前記診断対象領域内の圧力と大気圧との差の絶対値が前記第二の所定値以上であると判定した場合には前記蒸気圧変化の予測を行うことなく漏れがないものと診断するよう構成されている、漏れ診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示の技術は、蒸発燃料処理システムの漏れ診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ガソリンエンジン車では、燃料タンクで蒸発した燃料をキャニスタ内に吸着して捕捉し、エンジン作動時にキャニスタで捕捉された燃料蒸気をパージする蒸発燃料処理システムを備える。一部の蒸発燃料処理システムは、燃料タンク、キャニスタやそれらの周辺の診断対象領域に穴開きがないかどうかを自動的に診断する漏れ診断装置を備える。
【0003】
漏れ診断の方式は、大まかに分けると、自然に存在する燃料の蒸気圧を含むシステム内の全圧が後述のように十分な正圧または負圧となっている場合に実施する蒸気圧式と、診断対象領域30に強制的に正圧または負圧を導入する印加圧式とがある。いずれの方式でも、診断対象領域を閉鎖するための弁を閉じ、その後のシステム内の圧力の上昇具合により漏れ(穴開き)の有無を診断している。特開2015-075032号公報には、まず蒸気圧式の診断を試し、診断が失敗したら印加圧式に移行するよう構成された漏れ診断装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-075032号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
常に印加圧式で診断を行う装置では、ポンプなどの圧力印加手段を作動させるために消費電力が大きくなるという問題がある。一方で、上述の文献の漏れ診断装置は、必ず一度は蒸気圧式の漏れ診断を試みるため、一回の診断に時間を要する。このため、駐車時間が短い場合には結果的に診断が行えない場合が多く、漏れ診断の回数や頻度を稼ぎにくい。したがって、蒸発燃料処理システムの漏れ診断にかかる消費電力の削減と漏れ診断を行う回数の向上の両立が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
燃料タンクを含む蒸発燃料処理システムからの燃料蒸気の漏れがないかを診断する漏れ診断装置であって、前記蒸発燃料処理システムの診断対象領域内の圧力を検知する圧力センサと、制御装置とを備え、この制御装置は、前記圧力センサを用いてある時点での前記診断対象領域内の圧力を測定し、測定した前記診断対象領域内の前記圧力が強制的な圧力印加を伴わない第1の方法で漏れ診断を行うための第一の所定の条件を満たしているかを判定し、この第一の所定の条件を満たすと判定した場合には前記第1の方法で漏れ診断を行うことを決定し、この第一の所定の条件を満たさないと判定した場合には、その後の温度変化による前記診断対象領域内の蒸気圧変化を前記燃料タンク内の燃料の飽和蒸気圧特性に基づいて予測し、この予測した前記蒸気圧変化に基づいて前記診断対象領域内の前記圧力がその後も継続して前記第一の所定の条件を満たさないと判断した場合には、強制的な圧力印加を伴う第2の方法で漏れ診断を行うことを決定するよう構成されている。これによれば、実際に漏れ診断を試すことなく診断方式を決定できるため、漏れ診断にかかる消費電力の削減と漏れ診断を行う回数の向上の両立を図ることができる。
【0007】
実施形態によっては、前記制御装置は、前記診断対象領域内の蒸気圧変化を予測した場合には、この予測した前記蒸気圧変化に基づいて前記診断対象領域内の圧力が前記第一の所定の条件を満たすようになる時刻を推定するよう構成されている。これにより、蒸気圧式で診断ができる可能性の判断が容易となる。
【0008】
実施形態によっては、蒸発燃料処理システムの前記診断対象領域内に正または負の圧力を印加する圧力印加手段を備えており、前記制御装置は、推測した前記時刻に達した後、前記圧力センサを用いて前記診断対象領域内の圧力が前記第一の所定の条件を満たしているかを確認し、満たしていることを確認した場合には前記第1の方法で漏れ診断を行うことを決定し前記第一の所定の条件を満たしていないことを確認した場合には前記第2の方法で漏れ診断を行うことを決定して、密閉状態にした前記診断対象領域内に前記圧力印加手段を用いて正または負の圧力を印加し、決定した前記方法で前記診断対象領域内の圧力変化に基づいて漏れ診断を行うよう構成されている。これにより、蒸気圧式での診断が失敗する可能性を減らすことができる。
【0009】
実施形態によっては、前記制御装置は、推測した前記時刻に達した後、圧力が前記第一の所定の条件を満たしているかを確認することなく、前記第1の方法で前記診断対象領域内の圧力変化に基づいて漏れ診断を行うよう構成されている。これにより、少しでも早く蒸気圧式での診断を開始することができる。
【0010】
実施形態によっては、前記第一の所定の条件は前記診断対象領域内の圧力と大気圧との差の絶対値が所定値以上であることである。これにより、蒸気圧式で診断する条件を迅速に判断できる。
【0011】
実施形態によっては、前記燃料タンク内に気相の温度を検知する温度センサを備えており、前記制御装置は、前記温度センサを用いて気相の温度を複数回測定し、この測定した気相の温度の変化に基づいて前記蒸気圧変化を予測するよう構成されている。これにより、短期的な蒸気圧の変化を精度よく推測できるようになる。
【0012】
実施形態によっては、前記燃料タンク内に気相の温度を検知する温度センサを備えており、前記制御装置は、前記温度センサを用いて測定した気相の複数の温度から気相の一日の温度推移を把握し、この把握した一日の温度推移に基づいて前記蒸気圧変化を予測するよう構成されている。これにより、長期的な蒸気圧の変化を容易に推測できるようになる。
【0013】
実施形態によっては、前記燃料タンク内の燃料の温度を検知する燃温センサと、外部の大気の温度を検知する外気温センサと、前記燃料タンク内の燃料の残量を検知する燃料量センサとを備えており、前記制御装置は、これら燃温センサと外気温センサと燃料量センサをそれぞれ用いて測定した燃料温度、外気温度、燃料量に基づいて前記蒸気圧変化を予測するよう構成されている。これにより、液相温度を測るセンサを省略できるようになる。
【0014】
実施形態によっては、前記燃料タンク内に気相の温度を検知する温度センサを備えており、前記制御装置は、前記温度センサを用いて測定した気相の温度に基づいて前記燃料タンク内の燃料の前記飽和蒸気圧特性を決定するよう構成されている。これにより、燃料の成分による飽和蒸気圧特性の依存性を考慮でき、より的確に診断方法を決定できる。
【0015】
実施形態によっては、前記制御装置は、第一の所定の条件を満たすと判定し前記第1の方法で漏れ診断を行うと決定した場合、前記蒸気圧変化の予測を行うことなく前記第の方法で前記診断対象領域内の圧力変化に基づいて漏れ診断を行うよう構成されている。これにより、圧力印加の工程を避け、電力の消費を具体的に減らすことができる。
【0016】
実施形態によっては、前記第一の所定の条件は前記診断対象領域内の圧力と大気圧との差の絶対値が第一の所定値以上かつ第二の所定値未満であることであり、前記制御装置は、前記診断対象領域内の圧力と大気圧との差の絶対値が前記第二の所定値以上であると判定した場合には前記蒸気圧変化の予測を行うことなく漏れがないものと診断するよう構成されている。これにより、無駄な診断を避けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ひとつの実施形態としての蒸発燃料処理システムとその漏れ診断装置の構成図である。
図2】ひとつの実施形態として漏れ診断の方式を決定するための流れを示す図である。
図3】アスピレータの断面図である。
図4】アスピレータの燃料流量に対する減圧空間の圧力変化を示す図である。
図5】温度と圧力から飽和蒸気圧特性を特定する方法を説明する飽和蒸気圧曲線である。
図6】温度変化と圧力変化から飽和蒸気圧特性を特定する方法を説明する飽和蒸気圧曲線である。
図7】気相の温度変化の推定値から将来のシステム内の圧力変化を推定する方法を説明する図である。
図8】燃料の温度変化の燃料量への依存性を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図面を参照しながら以下に様々な実施形態を説明する。
【0019】
[蒸発燃料処理システム]
図1は、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン等のエンジンを備えた車両に搭載できる、一つの実施形態としての蒸発燃料処理システムとその漏れ診断装置を示す。キャニスタ4のタンクポートには、燃料タンク2の気相部分と連通するようにベーパ通路が接続されている。キャニスタ4の大気ポートには、一端が大気弁16を介して大気に開放された大気通路36が連通して接続されている。燃料タンク2内で蒸発した燃料蒸気はベーパ通路を通してキャニスタ4に流入し、キャニスタ4内の活性炭などを含んだ吸着層5に吸着し、捕捉される。ベーパ通路の途中には封鎖弁12が設けられる。そのため、封鎖弁12と大気弁16が開放されている場合、燃料タンク2の燃料蒸気圧が相対的に高くなると燃料タンク2中の蒸発燃料がキャニスタ4に流れて吸着され、捕捉される。キャニスタ4のパージポートには、パージ通路が吸着層5のタンク側と連通するように接続され、パージ通路のキャニスタ側部分38の他端は、パージ弁14を介してパージ通路の下流側部分39に連通され、パージ通路の下流側部分39の他端は、エンジン6の吸気通路に連通して接続されている。そのため、エンジン6が作動して、パージ弁14と大気弁16が開放されている状態では、キャニスタ4に吸着され、捕捉されていた燃料蒸気がエンジン6の吸気負圧により吸入されて、エンジン6内で燃焼させられる。
【0020】
燃料タンク2の底部には燃料ポンプ8が固定され、燃料タンク2内の燃料を燃料供給通路56を介してエンジン6に供給可能としている。燃料ポンプ8の下流側には、通常、プレッシャレギュレータ10が設けられる。プレッシャレギュレータ10は余剰燃料を燃料タンク2内に還流させることによって燃料ポンプ8からエンジン6に供給する供給圧力を調節する。燃料タンク2には気相の温度と圧力をそれぞれ検知する温度センサ22と圧力センサ24が設けられる。
【0021】
[アスピレータ]
1に示すように、燃料供給通路56からは燃料ポンプから送出された高圧の燃料の一部をアスピレータ40に導く分岐通路52が分岐する。分岐通路52の途中には分岐通路弁20が設けられる。アスピレータ40は、図3に示すように、流路が収束する収束部46と、拡大する拡大部(ディフューザ)47とを備え、これらの間は流路断面積が狭い絞り部45となっている。またアスピレータ40は、導入ポート41から導入された燃料を拡大部47内に向けて噴射するノズル48とを備えている。
【0022】
燃料ポンプ8から送出された燃料の一部は分岐通路52を通してアスピレータ40内へ導入される。導入された燃料はノズル48から収束部46を通して絞り部45に向かって高速で噴射される。このとき、燃料流の断面積の減少によるベンチュリ効果によって、燃料流の周囲に負圧となる減圧空間44が形成される。アスピレータ40の吸引ポート42とキャニスタ4との間には吸引通路54が接続される。これにより、減圧空間44と連通する吸引通路54やキャニスタ4にも吸引力が印加される。吸引通路54を通して吸引ポート42から吸引された気体(例えばキャニスタ4からの燃料蒸気を含む気体)は、ノズル48から噴射された燃料と共に拡大部47を通り、吐出ポート43から燃料タンク2に戻される。
【0023】
[制御装置]
図1に示すように、漏れ診断装置は、プロセッサ、メモリを含む電子制御装置(ECU)60を含む。ECU60は、温度センサ22、圧力センサ24などのセンサからデータ信号を受け取るよう構成される。また、ECU60は、封鎖弁12、パージ弁14、大気弁16、遮断弁18、分岐通路弁20などの弁や、燃料ポンプ8などの機器に制御信号を送信して、その機器の動作を制御するよう構成される。
【0024】
[漏れ診断]
以下に説明する漏れ診断のプロセスは、基本的にECU60のメモリに保存されたプログラムをプロセッサで実行することにより行う。漏れ診断は、例えば、エンジンの停止(キーオフ)を検知した後に開始する。一つの実施形態として、漏れ診断の診断対象領域30は、例えば、燃料タンク2とキャニスタ4とを含む閉鎖系とすることができる。この場合、診断対象領域30を閉鎖するために、ECU60は適切な弁を閉じる。例えば、パージ弁14と大気弁16を閉じ、封鎖弁12、遮断弁18、分岐通路弁20を開けたままとしておくことができる。別の実施形態として、燃料タンク2のみを含みキャニスタ4を含まない閉鎖系やその逆など、他の診断対象領域30を設定することも可能である。例えば、大気弁16と封鎖弁12とを閉じ、パージ弁14、遮断弁18、分岐通路弁20は開いたままとすることにより、診断対象領域30を封鎖弁12よりキャニスタ側とタンク側の領域に分割することも可能である。
【0025】
[漏れ診断の方式]
漏れ診断の方式は、蒸気圧式と印加圧式に大別される。また、漏れ診断は正圧式と負圧式に分類することもできる。例えば、蒸気圧式は、圧力印加を行うことなく、自然に存在する燃料の蒸気圧を含むシステム内の全圧が後述のように十分な正圧または負圧となっている場合に実施できる。一方で、印加圧式の漏れ診断の実施は、診断対象領域30に強制的に正圧または負圧を導入することから始まる。なお、負圧式の「漏れ」診断で直接確かめているのは大気から蒸発燃料処理システム内への「漏入」があるかどうかであるが、当然ながら診断の目的は大気への燃料蒸気の「漏出」が起こりうるかどうかの判断である。本願では、負圧式の場合も単に「漏れ診断」と言うことがある。
【0026】
印加圧式の漏れ診断のために、蒸発燃料処理システムに正または負の圧力を印加することのできる手段を設ける。一つの実施形態として、アスピレータ40を一時的に作動させることによって大気から吸引通路54を通して空気を吸引し、これを正圧として燃料タンク2内に導入することができる。この場合、図示していないが、燃料タンク2内に空気を導入するため、吸引通路54はキャニスタ4に連通されず大気に開放されているものとする。図示しない別の実施形態として、キャニスタ4のパージ動作の際にキャニスタ4に空気を強制的に送り込むためのパージポンプを大気通路36に設け、このパージポンプを利用してキャニスタ4や燃料タンク2に正圧を導入することも可能である。さらに別の実施形態として、キャニスタ4を減圧することのできる真空ポンプを大気通路36に配置し、この真空ポンプを用いてキャニスタ4や燃料タンク2に負圧を導入してもよい。この真空ポンプは、例えば、大気通路36の連通状態を切り替えるための遮断弁と、キャニスタ4の内圧を検出するための圧力センサとともにモジュール化したキーオフポンプモジュールの一部として設けてもよい。
【0027】
[診断方式の選定]
図2に示すように、ECU60は、漏れ診断を実施する前に、漏れ診断の方式を選定するプロセスを開始する。
【0028】
[ステップ1]
まず、ECU60は、燃料タンク2の気相と接触する温度センサ22を用いて診断対象領域内の圧力を測定する。この圧力と大気圧との差を算出し、蒸気圧式で行うための所定の条件を満たしているかを判定する。一つの実施形態として、図7に示すように、ある時刻t1において測定した圧力P1と大気圧Patmとの差の絶対値|P1-Patm|が所定の基準圧力以上であるかを判定することができる。例えば、測定した圧力が大気圧よりも所定値以上の高圧になっている場合は正圧の蒸気圧式で診断を行うことを決定する。逆に、大気圧よりも所定値以上低い低圧になっている場合は負圧の蒸気圧式で診断できると判断する。上記の所定値としては、例えば、正負いずれの方式の場合も大気圧と5kPaの差があるという基準を用いることができる。大気圧は、標準大気圧を用いてもよいし、適当な箇所に設けられた大気圧センサによる測定値を用いてもよい。
【0029】
一つの実施形態として、測定した圧力と大気圧との差の絶対値が所定値(例えば5kPa)以上でかつこの所定値よりも大きい第二の所定値未満であるかを判定することもできる。この場合で、圧力差の絶対値が大気圧よりも第二の所定値以上であると判定した場合は、下で説明する蒸気圧式と印加圧式のいずれの診断も行うことなく、診断対象領域に漏れがないとの診断結果を出すことができる。この判断は、もし漏れがあれば第二の所定値以上の圧力を保持できないはずであるという推測に基づくものである。
【0030】
[ステップ2]
図2に示すように、次にECU60は、診断対象領域内の圧力が温度変化により将来的に上述の条件を満たすようになるかを予測する。燃料は固有の飽和蒸気圧特性を有しており、図7に示すように、温度変化に応じて蒸気圧(燃料分圧)が変化する。例えば、燃料が常に気相と液相で平衡していると仮定すれば、ある時点での温度と燃料の飽和蒸気圧特性とからその時点(将来を含む)での燃料分圧を知ることができる。具体的には、ECU60は、予測した蒸気圧変化に基づいて診断対象領域内の圧力が上述の所定の圧力条件を満たすようになる時刻t3を推定する。そのような時刻が存在する場合は、蒸気圧式を選択することを決定し、そのような時刻が存在せず、診断対象領域内の圧力が上述の所定の圧力条件を満たすようになることがないと見込まれる場合、印加圧式を選択することを決定する。
【0031】
一つの実施形態として、ECU60は、予測した蒸気圧変化に基づいて診断対象領域内の圧力が前述の所定の条件を満たすようになる時刻を推定した場合、推測した時刻t3に達した後、圧力センサを用いて診断対象領域内の圧力が実際にその所定の条件を満たしているかを確認することもできる。そして、満たしていることを確認した場合にのみ漏れ診断を行うようにしてもよい。
【0032】
別の実施形態として、ECU60は、推測した時刻t3に達した後、圧力がその所定の条件を満たしているかを確認することなく、すぐに漏れ診断を行うことも可能である。
【0033】
[燃料の飽和蒸気圧特性の決定]
飽和蒸気圧特性は一定であると仮定してもよいが、季節による給油される燃料の種類の違いや、給油後の組成の変化などを加味する場合には、燃料タンク2内の燃料の飽和蒸気圧特性を特定(推定)することもできる。飽和蒸気圧特性の決定プロセスは、例えば、毎度の漏れ診断の直前に、あるいは定期的に、あるいは給油直後になど、都合の良いタイミングで行うことができる。
【0034】
エンジンに使用される様々な種類の燃料の飽和蒸気圧特性(すなわち図5に示すような温度に対する飽和蒸気圧の変化を表す曲線あるいはマップ)は既知であるため、予めメモリに記憶させておくことができる。そして、飽和蒸気圧特性の推定は、例えば、アスピレータ40の減圧空間44の圧力に基づいて行うことができる。一つの実施形態としては、吸引通路54の途中に圧力センサ26を設ける。ECU60は、アスピレータ40を一時的に駆動し、圧力センサ26を用いてアスピレータ40の吸引通路54の圧力(減圧空間44の圧力にほぼ一致すると考えられる)を測定する。またECU60は、温度センサ22と圧力センサ24とを用いて燃料タンク2内の気相の温度と圧力を測定する。減圧空間44内は、アスピレータ40の作動が安定した状態では、燃料蒸気が飽和状態となっていると仮定できる。この場合、減圧空間44の圧力は、図4に示すように、燃料ポンプ8の燃料供給量から算出される減圧空間44の負圧に飽和蒸気圧を足したものとなっていると考えてよい。したがって、燃料の飽和蒸気圧は、燃料ポンプ8の燃料供給量から算出される減圧空間44の負圧を、実際の圧力測定値から引いた差として求めることができる。異なる燃料の種類に対する飽和蒸気圧特性曲線は基本的には交わることがないため、記憶されている複数の飽和蒸気圧特性曲線の中から、図5に示すように、測定された温度と計算された飽和蒸気圧とに合致する曲線をその燃料の飽和蒸気圧特性として特定することができる。他の実施形態として、アスピレータ40近傍の吸引通路54に別の温度センサを設け、燃料タンク2の気相の温度の代わりに減圧空間44内の温度を用いることもできる。
【0035】
図6に示すように、別の実施形態として、気相の温度変化に対する気相の圧力変化に基づいて燃料の飽和蒸気圧特性を決定することも可能である。例えば、温度センサ22と圧力センサ24とを用いて燃料タンク2の気相の圧力と温度を2回測定する。そして、気相の温度変化(T1からT2)に対する気相の圧力変化(ΔP)が、予め記憶されている複数の飽和蒸気圧曲線のいずれに合致するかを検索し、合致した飽和蒸気圧曲線(図では燃料A)をその時点での燃料の飽和蒸気圧特性として決定する。
【0036】
[温度に基づく燃料蒸気圧変化の予測]
図7に示すように、一つの実施形態として、将来の燃料蒸気の温度推移は、温度の履歴、すなわち複数の温度の測定値T1,T2を用いて予測することができる。燃料タンク2を含む診断対象領域の場合、燃料タンク2内の気相部分に温度センサ22を設けることができる。この温度センサ22で時間間隔をあけて複数回気相温度を測る。例えば、エンジン停止時(時刻t1)に1回目の気相温度の測定を行い、その30分後(時刻t2)に2回目の気相温度の測定を行う。得られた温度の測定値に対し、あらかじめ用意された適切な関数のフィッティングを行うことにより、将来の温度を推測することができる。あるいは、燃料タンク2内の気相と燃料タンク2内の液相や燃料タンク2外の大気との間に適切な熱伝導モデルを構築し、そのモデルに従って計算することも可能である。この方法は、例えば短期的な(例えば数分~数十分先の)予測に用いることができる。
【0037】
別の実施形態として、一日の中での気相温度の変化をデータとして蓄積し、このデータを利用して気相温度の傾向を推測することもできる。例えば、同じ時刻であれば同じ程度の気相温度であると推測することもできる。あるいは、一日の中の第一の時刻から第二の時刻までの温度変化が日によらず等しいと仮定することもできる。この方法は、例えば長期的な(例えば1~2時間先の)予測に用いることができる。
【0038】
別の実施形態として、ECU60で、燃料タンク2内の液相(燃料)温度と燃料タンク2外の大気温度から間接的に燃料タンク2内の気相温度を推定してもよい。この場合、車両の大気に触れる適当な場所に外気温センサ66を設け、燃料タンク2内に液相と接触する燃温センサ68を設ける。液相温度と大気温度の中間値、例えば液相温度と大気温度の平均値を燃料タンク2内の気相温度の推定値として用いることができる。しかし、平均値よりも液相温度か大気温度のいずれかに近い値を用いることもできる。この方法は、例えば、燃料タンク2に気相温度センサ22を追加する必要性が他に存在しない場合に有利である。
【0039】
図8に示すように、一つの実施形態として、燃料タンク2内の燃料温度の変化は燃料量に依存するものとして推定してもよい。すなわち、燃料が多く残っている場合には熱容量が大きいため、燃料温度は低下しにくいということを考慮する。この場合には、燃料タンク2内に、図示しない燃料量センサを設ける必要がある。
【0040】
図1に示すように、別の実施形態として、上記の燃料温度はエンジン冷却水の流路62に設けられた温度センサ64の初期温度とその後の水温の変化傾向とから推定することもできる。エンジン6停止後、高温となっているエンジンの熱が冷めるにつれて、エンジン冷却水の温度も低下する。このときのエンジン冷却水の温度は車両全体の熱が冷める傾向をよく反映することが分かっており、したがって、燃料タンク2の液相の温度変化の指標として用いることができる。特に、エンジン6に送出された燃料の一部が燃料タンク2に循環するようなシステムでは、エンジン6停止時の温度センサの示すエンジン冷却水の温度は燃料タンク2内の燃料温度とほぼ一致すると考えられる。
【0041】
[漏れ診断の実施]
ECU60は、上述のようにして決定した診断方式により、診断対象領域の漏れ診断を行う。漏れ診断の診断基準は、例えば、燃料タンク2、キャニスタ4、通路を形成する配管など、蒸発燃料処理システム中のどこかに所定の大きさの穴がひとつ生じた場合に発生するであろう圧力変化とする。一つの実施形態として、圧力センサ24を用いて測定した圧力が基準速度よりも速く大気圧に向かって上昇あるいは下降した場合に漏れがあると判定することができる。例えば負圧式の場合、閉じ込められた負圧が基準速度よりも速く大気圧に向かって上昇する場合に漏れがあると判定する。正圧式の場合、閉じ込められた正圧が基準速度よりも速く大気圧に向かって低下する場合に漏れがあると判定する。
【0042】
別の実施形態として、診断対象領域30に負圧を導入する間あるいは導入した後に圧力センサ24を用いて測定した圧力の低下速度が基準速度よりも遅い場合に漏れがあると判定することも可能である。正圧を用いる場合も同様である。
【0043】
[漏れ発生の警告]
漏れがあると判定した場合、例えば、ECU60はその後のエンジン6の作動時に車室内の警告灯を点灯させることができる。これにより、運転者に対し蒸発燃料処理システムに漏れが生じていることを知らせることができる。
【0044】
以上、本明細書に開示の技術を特定の実施形態について説明したが、これらの実施形態に限定されることなく、当業者であれば各種の変形、改善、省略などが可能である。
【符号の説明】
【0045】
2 燃料タンク
4 キャニスタ
6 エンジン
8 燃料ポンプ
12 封鎖弁
14 パージ弁
16 大気弁
18 遮断弁
20 分岐通路弁
22 温度センサ
24、26 圧力センサ
30 診断対象領域
36 大気通路
40 アスピレータ
44 減圧空間
54 吸引通路
56 燃料供給通路
60 電子制御装置(ECU)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8