(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】情報処理装置、表示制御方法および表示制御プログラム
(51)【国際特許分類】
G05B 23/02 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
G05B23/02 G
(21)【出願番号】P 2021124844
(22)【出願日】2021-07-29
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513213966
【氏名又は名称】横河ソリューションサービス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】竹中 梓
(72)【発明者】
【氏名】王 者興
(72)【発明者】
【氏名】三石 甲子夫
(72)【発明者】
【氏名】崎田 智博
【審査官】稲垣 浩司
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-106703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
物理モデルによって予測されたプラントの状態に関する情報を示す第1の予測結果を取得する第1予測部と、
前記プラントに関するデータを用いて生成された
、前記第1の予測結果を補正する情報量を出力する機械学習モデルによって予測された前記プラントの状態に関する情報を示す第2の予測結果を取得する第2予測部と、
前記第1の予測結果と前記第2の予測結果
とを合計した合計情報量を生成し、前記プラントの状態に関する計測値もしくは理論値と、前記合計情報量とを比較して表示する表示制御部と、
を有する情報処理装置。
【請求項2】
前記第2予測部は、
前記第2の予測結果として、
複数のプラントに共通するデータを用いて生成された
、前記第1の予測結果を補正する情報量を出力する第1の機械学習モデルを用いて、第3の予測結果を取得し、
予測対象であるプラントで発生するプラントデータを用いて生成された
、前記第1の予測結果を補正する情報量を出力する第2の機械学習モデルを用いて、第4の予測結果を取得し、
前記表示制御部は、
前記第1の予測結果を、前記第3の予測結果と前記第4の予測結果を用いて補正した補正結果
として、前記第1の予測結果と前記第3の予測結果と前記第4の予測結果とを合計した第2の合計情報量をさらに表示する、
請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記表示制御部は、
前記第1の予測結果と前記第3の予測結果と前記第4の予測結果とのそれぞれの時間変化と、前記
第2の合計情報量の時間変化とを共通の時間軸で表示する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記表示制御部は、
前記第3の予測結果および前記第4の予測結果
が閾値以上であり、前記第1の予測結果が所定値以上補正されている箇所を強調表示する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記表示制御部は、
前記第1の予測結果が、所定値以上補正されている時点を、前記物理モデルの再構成タイミングとして提示する、
請求項2に記載の情報処理装置。
【請求項6】
コンピュータが、
物理モデルによって予測されたプラントの状態に関する情報を示す第1の予測結果を取得し、
前記プラントに関するデータを用いて生成された
、前記第1の予測結果を補正する情報量を出力する機械学習モデルによって予測された前記プラントの状態に関する情報を示す第2の予測結果を取得し、
前記第1の予測結果と前記第2の予測結果
とを合計した合計情報量を生成し、前記プラントの状態に関する計測値もしくは理論値と、前記合計情報量とを比較して表示する、
処理を実行する表示制御方法。
【請求項7】
コンピュータに、
物理モデルによって予測されたプラントの状態に関する情報を示す第1の予測結果を取得し、
前記プラントに関するデータを用いて生成された
、前記第1の予測結果を補正する情報量を出力する機械学習モデルによって予測された前記プラントの状態に関する情報を示す第2の予測結果を取得し、
前記第1の予測結果と前記第2の予測結果
とを合計した合計情報量を生成し、前記プラントの状態に関する計測値もしくは理論値と、前記合計情報量とを比較して表示する、
処理を実行させる表示制御プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、表示制御方法および表示制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
今後、人口増加と経済成長に伴って資源需要が拡大することから、経済成長と資源消費量の削減との両立を目指す取り組みであるCircular Economy(CE)が注目されている。このようなCEは、リサイクル分野にも適用されている。例えば、プラスチック分野におけるCE実現には、水平リサイクルであるケミカルリサイクルが必要である。一方で、日本国内でリサイクルされるプラスチックは1割程度であるものの、廃プラスチックの輸出が難しくなってきており、国内で対応することが要求されている。
【0003】
近年では、CEを実現するリサイクルプラントや他のプラントにおいて、物理モデルを用いたシミュレーション等により、プラント内の各処理の精度や生成物の品質などを予測し、物理モデルを用いたプラントの運転支援などの技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-106703号公報
【文献】特開2016-189166号公報
【文献】特開2018-156152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記物理モデルでは、プラントの運転支援を行うことが難しい面がある。例えば、化学プラントを例にすると、CEの化学プラントでは、原料のばらつきが大きく、それぞれのばらつきに応じた物理モデルを用意することが難しい。また、各ばらつきに適合した1つの物理モデルを用いた場合、物理モデルによる予測精度が劣化し、運転支援の妥当性や安全性も低下する。
【0006】
本発明は、プラントの運転支援システムを構築することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一側面にかかる情報処理装置は、物理モデルによって予測されたプラントの状態に関する情報を示す第1の予測結果を取得する第1予測部と、前記プラントに関するデータを用いて生成された機械学習モデルによって予測された前記プラントの状態に関する情報を示す第2の予測結果を取得する第2予測部と、前記第1の予測結果と前記第2の予測結果を表示する表示制御部と、を有する。
【0008】
一側面にかかる表示制御方法は、コンピュータが、物理モデルによって予測されたプラントの状態に関する情報を示す第1の予測結果を取得し、前記プラントに関するデータを用いて生成された機械学習モデルによって予測された前記プラントの状態に関する情報を示す第2の予測結果を取得し、前記第1の予測結果と前記第2の予測結果を表示する、処理を実行する。
【0009】
一側面にかかる表示制御プログラムは、コンピュータに、物理モデルによって予測されたプラントの状態に関する情報を示す第1の予測結果を取得し、前記プラントに関するデータを用いて生成された機械学習モデルによって予測された前記プラントの状態に関する情報を示す第2の予測結果を取得し、前記第1の予測結果と前記第2の予測結果を表示する、処理を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
一実施形態によれば、プラントの運転支援システムを構築することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態1にかかる情報処理装置を含む運転支援システムの一例を説明する図である。
【
図3】実施形態1にかかる情報処理装置を用いたプラント運転支援を説明する図である。
【
図4】実施形態1にかかる情報処理装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図5A】実施形態1にかかる物理モデルの一例を説明する図である。
【
図5B】実施形態1にかかる物理モデルの別例を説明する図である。
【
図6】実施形態1にかかる第1機械学習モデルの生成を説明する図である。
【
図7】実施形態1にかかる第1予測部の処理を説明する図である。
【
図8】実施形態1にかかる第2予測部の処理を説明する図である。
【
図9】実施形態1にかかる最適操作量演算部の処理を説明する図である。
【
図10】実施形態1にかかる処理の流れを示すフローチャートである。
【
図11】実施形態2にかかる情報処理装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図12】実施形態2にかかる各モデルの訓練を説明する図である。
【
図13】実施形態2にかかる運転支援を説明する図である。
【
図14】実施形態3にかかる情報処理装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図15】実施形態3にかかる運転支援を説明する図である。
【
図16】実施形態3にかかる処理の流れを示すフローチャートである。
【
図17】実施形態4にかかる情報処理装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図18】実施形態4にかかる化学的誤差モデルを説明する図である。
【
図19】実施形態4にかかる機械的誤差モデルを説明する図である。
【
図20】実施形態4にかかる運転支援を説明する図である。
【
図21】実施形態4にかかる処理の流れを示すフローチャートである。
【
図22】実施形態5にかかる情報処理装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図23】実施形態5にかかるハイブリッドモデルの可視化例を説明する図である。
【
図24】実施形態5にかかるハイブリッドモデルのフィードバック例1を示す図である。
【
図25】実施形態5にかかるハイブリッドモデルのフィードバック例2を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本願の開示する情報処理装置、表示制御方法および表示制御プログラムの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略し、各実施形態は、矛盾のない範囲内で適宜組み合わせることができる。
【0013】
[実施形態1]
[全体構成]
図1は、実施形態1にかかる情報処理装置10を含む運転支援システムの一例を説明する図である。
図1に示すように、この運転支援システムは、化学プラント1、制御システム2、情報処理装置10、オペレータ端末3を有し、情報処理装置10によって化学プラント1の安全運転を支援するシステムである。なお、各装置は、有線や無線を問わず、インターネットや専用線などの通信網により接続される。
【0014】
化学プラント1は、廃プラスチックリサイクルを実行する油化プロセスの一例である。油化プロセスとしては、廃プラスチック原料(廃プラ原料)の前処理、脱塩、溶融、溶融原料の熱分解、熱分解により生じたガスを冷却する一連のプロセスを含む。なお、本実施形態では、油化プロセスを例にして説明するが、他のプロセスについても同様に適用することができる。
【0015】
制御システム2は、オペレータの操作や自動制御により、化学プラント1の運転を制御するコンピュータ装置を含む分散型制御システム(DCS:Distributed Control System)の一例である。また、制御システム2では、プラントや工場等において、プロセスにおける各種の状態量(例えば、圧力、温度、流量等)を制御するコントローラを有し、高度な自動操業が実現されている。例えば、コントローラが、複数のセンサ(流量計や温度計等)の検出結果を取得し、この検出結果に応じてアクチュエータ(バルブ等)の操作量を求め、この操作量に応じてアクチュエータを操作することによって、上述した各種の状態量が制御されている。
【0016】
オペレータ端末3は、化学プラント1の運転状況を監視したり、制御システム2への各種制御を実行したりするオペレータが使用するコンピュータ装置の一例である。情報処理装置10は、化学プラント1のCEを実現させる機械学習モデルを用いた運転支援を行うコンピュータ装置の一例である。
【0017】
油化プロセスはプラスチックリサイクルによりCE実現に寄与する。ここで、CE実現に向けたリサイクルプロセスの課題について説明する。
図2に示すように、CEを行う以前では、石油から精製された化学品を原料として、化学プラントにおいてペットボトルなどの製品が生成されていた。この手法では、統一された精製手法により、石油から原料が生成されるので、原料のばらつきは規格値内に収まり、化学プラントの運転に与える影響も小さい。すなわち、統一的な物理モデルなどを用いた予測制御を実行することができる。
【0018】
一方で、CEでは、使用済みのプラスチックやバイオマス等を原料として、化学プラントにおいてペットボトルなどの製品が生成される。このCEでは、多様な不純物を含みばらつきが大きい原料を使用することになるので、原料の状態に適した操作の選択や状態を判定する必要があり、化学プラントの操作が難しい。すなわち、統一的な物理モデルなどを用いた予測制御を実行することが難しい。
【0019】
そこで、本実施形態では、物理モデルと機械学習モデルとを用いたハイブリッドモデルを用いて、原料を用いた物理モデルによる予測を、機械学習モデルで補完することにより、原料の状態に適した運転支援を自動で実行する。
【0020】
ここで、ハイブリッドモデルを用いた情報処理装置10によ
る運転支援を説明する。
図3は、実施形態1にかかる情報処理装置10を用いたプラント運転支援を説明する図である。
図3に示すように、情報処理装置10は、物理モデルを用いて、原料への分光センシングにより得られた分光スペクトルデータから化学プラント1の状態に関する情報を取得する。また、情報処理装置10は、機械学習モデルを用いて、原料の分光スペクトルデータと化学プラント1のプラントデータと物理モデルの出力結果から、化学プラント1の状態に関する情報を取得する。
【0021】
そして、情報処理装置10は、物理モデルの出力結果と機械学習モデルの出力結果とを用いて、プラントオペレータへの情報提供を実行する。例えば、情報処理装置10は、物理モデルの出力結果と機械学習モデルの出力結果とを加算した合計値により、原料の濃度や化学プラント1の温度など、プラントオペレータが操作を決定するための各種情報を生成して出力する。この結果、情報処理装置10は、CEの化学プラント1に対しても、効率的で安全な運転支援システムを構築することができる。
【0022】
[機能構成]
次に、
図1に示した運転支援システムを実現する各装置の機能構成について説明する。なお、化学プラント1、制御システム2、オペレータ端末3は、プラント操業で利用される各装置と同様の構成を有するので、詳細な説明は省略し、ここでは、情報処理装置10について説明する。
【0023】
図4は、実施形態1にかかる情報処理装置10の機能構成を示す機能ブロック図である。
図4に示すように、情報処理装置10は、通信部11、表示部12、記憶部13、制御部20を有する。
【0024】
通信部11は、他の装置との間の通信を制御する処理部であり、例えば通信インタフェースなどにより実現される。例えば、通信部11は、分光器などから分光スペクトルデータを受信し、化学プラント1からプラントデータを取得する。また、通信部11は、オペレータ端末3や各化学プラント1に、制御部20で生成される予測結果を送信することもできる。
【0025】
表示部12は、各種情報を表示出力する処理部であり、例えばディスプレイやタッチパネルなどにより実現される。例えば、表示部12は、制御部20で生成される予測結果を表示出力する。
【0026】
記憶部13は、各種データや制御部20が実行するプログラムなどを記憶する処理部であり、例えばメモリやハードディスクにより実現される。この記憶部13は、訓練データ群14、物理モデル15、第1機械学習モデル16を記憶する。
【0027】
訓練データ群14は、第1機械学習モデル16の訓練に使用される複数の訓練データから構成される。例えば、訓練データ群14に記憶される各訓練データは、説明変数と目的変数を含むデータである。ここで、説明変数には、例えば分光スペクトルデータから主成分が除かれた差分スペクトルデータや物理モデル15の出力結果などが含まれる。目的変数には、化学プラント1から直接得られた結果(例えば実測値や理論値など)と物理モデル15の出力結果との差分(誤差)などがある。
【0028】
物理モデル15は、化学プラント1の状態に関する情報を算出するシミュレーション等を実行する算出式などである。例えば、物理モデル15としては、「dCa/dt=-kCaCb」などのような化学反応の速度論の式などである。ここで、CaとCbは成分を示し、aとbは組成を示し、tは時間を示し、kは反応速度定数を示す。この式では、初期組成が物理モデル15への入力となり、組成の時間変化が出力になる。
【0029】
例えば、油化プロセスにおける熱分解の物理モデルを例にすると、
図5Aに示す各式を物理モデル15として採用することができる。
図5Aは、実施形態1にかかる物理モデル15の一例を説明する図である。
図5Aに示すように、物理モデル15は、油化プロセスにおける熱分解の化学反応式に基づき生成される各式である。ここで、xは転化率、tは時刻、Tは温度、K(T)は反応速度定数、m
0は初期質量、m
tは時間tでの質量、m
∞は反応終了時の質量、Aは頻度因子、Eは活性化エネルギー、Rは気体定数である。
【0030】
なお、
図5Aに限らず、ラジカル重合反応を例にすると、
図5Bに示す各式が物理モデル15を採用することもできる。
図5Bは、実施形態1にかかる物理モデル15の別例を説明する図である。
図5Bに示すように、物理モデル15は、ラジカル重合反応の化学反応式に基づき生成される各式である。ここで、Xはモノマー転化率、k
xは各反応の反応速度定数、w
xはxの重量分率、w
iは開始剤、w
mはモノマー、w
sは溶媒、w
x,0はxの重量分率の初期値、f
iは開始剤効率、lは開始剤濃度、Pはラジカル濃度である。
【0031】
第1機械学習モデル16は、ニューラルネットワークなどのアルゴリズムを用いて生成された予測モデルである。例えば、第1機械学習モデル16は、原料の分光スペクトルデータから主成分が除かれた差分スペクトルデータおよび物理モデル15の出力結果の入力に応じて、物理モデル15の出力を補正する情報(誤差)を出力する。
【0032】
制御部20は、情報処理装置10全体を司る処理部であり、例えばプロセッサなどにより実現される。この制御部20は、モデル生成部21、第1予測部22、第2予測部23、最適操作量演算部24を有する。なお、モデル生成部21、第1予測部22、第2予測部23、最適操作量演算部24は、プロセッサが有する電子回路やプロセッサが実行するプロセスなどにより実現される。
【0033】
モデル生成部21は、訓練データ群14に記憶される各訓練データを用いて、第1機械学習モデル16を生成する処理部である。
図6は、実施形態1にかかる第1機械学習モデル16の生成を説明する図である。
図6に示すように、化学プラント1では、赤外分光法、ラマン分光法などが計測手法を用いて、化学プラント1に投入する前の原料をサンプリングして原料の分光スペクトルデータを計測したり、化学プラント1内部に分光計測器を設置したインラインで、原料の分光スペクトルデータを計測したりする。一方で、モデル生成部21は、物理モデル15が、温度や組成情報を化学プラント1の初期条件と分光スペクトルデータとから出力する、温度や組成情報を含む組成データを取得する。
【0034】
このような状態において、モデル生成部21は、分光ベクトルデータから生成される差分スペクトルデータと物理モデル15の組成データとを入力して、化学プラント1の出力Xplと物理モデル15の出力結果Xpmとの誤差を出力するように、第1機械学習モデル16の訓練を実行する。
【0035】
第1予測部22は、化学プラント1で製造される製造物の原料に対する分光センシングにより得られる分光スペクトルデータの第1成分を物理モデル15に入力して第1の出力結果を取得する処理部である。すなわち、第1予測部22は、原料の情報から組成データなどの予測を行う。
【0036】
ここで、第1予測部22の処理の一例を説明する。
図7は、実施形態1にかかる第1予測部22の処理を説明する図である。
図7に示すように、第1予測部22は、混合スペクトルである原料の分光スペクトルデータから、公知である混合物スペクトル解析における差スペクトル法などを用いて、主成分のスペクトルデータを抽出する。そして、第1予測部22は、予め用意した強度と濃度の関係を示す検量線を用いて、主成分のスペクトルデータを濃度に変換する。その後、第1予測部22は、物理モデル15に濃度を入力して、化学プラント1の状態に関する第1情報量を取得して、第2予測部23と最適操作量演算部24に出力する。なお、主成分のスペクトルデータは、第1成分の一例である。
【0037】
第2予測部23は、分光スペクトルデータの第2成分および物理モデル15の出力結果を第1機械学習モデル16に入力して、第2の出力結果を取得する処理部である。すなわち、第2予測部23は、原料の情報と物理モデル15の組成データから、物理モデル15の出力を補完する情報(誤差)の予測を行う。
【0038】
ここで、第2予測部23の処理の一例を説明する。
図8は、実施形態1にかかる第2予測部23の処理を説明する図である。
図8に示すように、第2予測部23は、原料の分光スペクトルデータと主成分のスペクトルデータとの差分である差分スペクトルデータを生成する。そして、第2予測部23は、この差分スペクトルデータと第1予測部22によって得られた第1情報量とを第1機械学習モデル16に入力して、上記誤差に対応する第2情報量を取得して、最適操作量演算部24に出力する。なお、差分スペクトルデータは、第2成分の一例である。
【0039】
最適操作量演算部24は、第1予測部22により得られた第1情報量と第2予測部23により得られた第2情報量とを用いて、化学プラント1の状態に関する情報を出力する処理部である。すなわち、最適操作量演算部24は、ハイブリッドモデルを用いて得られた情報に基づいて、運転支援を実行する。
【0040】
図9は、実施形態1にかかる最適操作量演算部24の処理を説明する図である。
図9に示すように、最適操作量演算部24は、物理モデル15から得られた第1情報量と、第1機械学習モデル16から得られた第2情報量とを加算した合計情報量を生成する。この合計情報量は、物理モデル15で論理的に算出された第1情報量を、原料に特化した情報から得られる第2情報量で補完した結果である。
【0041】
そして、最適操作量演算部24は、合計情報量を表示部12に表示したり、オペレータ端末3に出力したりする。別例としては、最適操作量演算部24は、情報量と操作内容(例えば温度設定を1℃上げるなど)を予め定義し、この定義により特定される操作内容を表示部12に表示したり、オペレータ端末3に出力したりする。また、最適操作量演算部24は、当該操作内容を化学プラント1に実行することもできる。
【0042】
[処理の流れ]
図10は、実施形態1にかかる処理の流れを示すフローチャートである。なお、ここでは、第1機械学習モデル16は、生成済みとする。
【0043】
図10に示すように、処理が開始されると(S101:Yes)、第1予測部22は、原料の分光スペクトルデータを取得し(S102)、原料の分光スペクトルデータの主成分を抽出し(S103)、主成分から濃度を取得する(S104)。続いて、第1予測部22は、濃度を物理モデル15に入力して第1情報量を取得する(S105)。
【0044】
そして、第2予測部23は、原料の分光スペクトルデータから主成分を除いた差分スペクトルデータを算出し(S106)、差分スペクトルデータと第1情報量とを第1機械学習モデル16に入力して第2情報量を取得する(S107)。
【0045】
その後、最適操作量演算部24は、第1情報量と第2情報量とを加算した合計情報量を算出し(S108)、合計情報量に基づく表示制御を実行する(S109)。
【0046】
[効果]
上述したように、情報処理装置10は、ハイブリッドモデルを活用することで、化学プラント1の運転支援システムを構築することができる。例えば、物理モデル15は、モデルの解釈性が高く、プロセスを理解する上で有効であるが、精度向上のためにメカニズムを解明する工数が多くかかり、汎用性も低い。一方で、第1機械学習モデル16は、結果の解釈が難しく、結果の因果関係を表現することが難しい。
【0047】
この情報処理装置10は、プロセス知見から構築できる物理モデル15と、説明変数の選択で精度の向上を図れる第1機械学習モデル16との両方を併用することで、汎用性も高く、因果関係の説明も可能で、精度も高い運転支援システムを構築することができる。
【0048】
[実施形態2]
ところで、実施形態1では、1つの機械学習モデル(第1機械学習モデル16)を用いた例を説明したが、これに限定されるものではなく、誤差の要因に特化した機械学習モデルを用いて、物理モデル15の出力結果を補完することができる。そこで、実施形態2では、物理モデル15の予測に誤差を与える要因となる要因データを訓練データに用いて生成された第2機械学習モデル17をさらに用いて、物理モデル15の出力結果を補完する例を説明する。なお、第2機械学習モデル17は、要因データ機械学習モデルの一例である。
【0049】
[機能構成]
図11は、実施形態2にかかる情報処理装置10の機能構成を示す機能ブロック図である。
図11に示すように、実施形態1と同様、情報処理装置10は、通信部11、表示部12、記憶部13、制御部20を有する。ここでは、実施形態1で説明した
図4と異なる第2機械学習モデル17と第3予測部25について説明する。
【0050】
第2機械学習モデル17は、物理モデル15の予測に誤差を与える要因となる要因データおよび第1機械学習モデル16の出力結果を説明変数、物理モデル15の出力結果と第1機械学習モデル16の出力結果との誤差を目的変数とする訓練データを用いて生成された予測モデルである。
【0051】
ここで、要因データには、廃プラスチックリサイクルや油化プロセスの原料の汚れを示すデータ、原料の生産地を示すデータ、平均気温や雨量や乾燥地域などのようにプラントの外部環境を示すデータ、または、定常運転中や運転負荷などであるプラントの状態を示すデータなどを採用することができる。これらの要因データは、数値であってもよく、時系列データなどでもよく、任意の形式を採用することができ、採用する種類も任意に決定することができる。
【0052】
例えば、原料の汚れを示すデータとしては、原料となる廃プラスチックへの異物の混入具合を示すデータを採用することができる。具体例を挙げると、異物の混入量を測定して、混入度合いを3段階で判定し、その判定結果を採用することができる。なお、異物の混入量の測定としては、画像分析やスペクトル分析により、予め指定される異物の量を測定することができ、原料の画像データやスペクトルデータを訓練済みの機械学習モデルに入力して得られる予測結果を採用することもできる。
【0053】
第3予測部25は、訓練済みの第2機械学習モデル17を用いて、物理モデル15の予測を補完する誤差(第3の出力結果)を取得する処理部である。すなわち、第3予測部25は、物理モデル15の誤差の要因と、物理モデル15の組成データと第1機械学習モデル16の組成データとの差分とから、第1機械学習モデル16では完全には補完することができなかった物理モデル15の予測を補完する誤差(第3の出力結果)の予測を行う。
【0054】
[訓練の具体例]
次に、モデル生成部21が実行する、実施形態2で用いる各機械学習モデルの訓練について説明する。
図12は、実施形態2にかかる各モデルの訓練を説明する図である。
図12に示すように、モデル生成部21は、原料の分光スペクトルデータXから主成分のスペクトルデータXpと差分スペクトルデータXcを生成する。続いて、モデル生成部21は、主成分のスペクトルデータXpを物理モデル15に入力して第1の出力結果Ypを取得する。
【0055】
そして、モデル生成部21は、説明変数である「差分スペクトルデータXcおよび第1の出力結果Yp」と、目的変数である「理論値Yと第1の出力結果Ypとの誤差(Y-Yp)」とを含む訓練データを用いて、第1機械学習モデル16の訓練を実行する。すなわち、モデル生成部21は、差分スペクトルデータXcおよび第1の出力結果Ypとから誤差(Y-Yp)を予測するように第1機械学習モデル16の訓練を実行する。なお、理論値Yには、実験データ、化学プラント1で実際に測定されたデータ、または、過去の履歴等から特定されるデータなどを採用することができる。
【0056】
その後、モデル生成部21は、説明変数である「要因データXmおよび第1機械学習モデル16の出力である第2の出力結果δc」と、目的変数である「理論値Yと、第1の出力結果Ypと第2の出力結果との加算値との誤差(Y-Yp+δc)」とを含む訓練データを用いて、第2機械学習モデル17の訓練を実行する。すなわち、モデル生成部21は、要因データXmおよび第2の出力結果δcから誤差(Y-Yp+δc)を予測するように第2機械学習モデル17の訓練を実行する。
【0057】
[運転支援の具体例]
次に、
図12を用いて生成された各機械学習モデルを用いて運転支援を行う具体例を説明する。
図13は、実施形態2にかかる運転支援を説明する図である。
図13に示すように、第1予測部22は、原料の分光スペクトルデータXから主成分のスペクトルデータXpを抽出して、物理モデル15に入力し、第1の出力結果Ypを取得する。
【0058】
続いて、第2予測部23は、差分スペクトルデータXcと物理モデル15から得られた第1の出力結果Ypとを第1機械学習モデル16に入力し、第2の出力結果δcを取得する。さらに、第3予測部25は、要因データXmと第1機械学習モデル16から得られた第2の出力結果δcとを第2機械学習モデル17に入力して、第3の出力結果δmを取得する。
【0059】
その後、最適操作量演算部24は、物理モデル15から得られた第1の出力結果Ypと、第1機械学習モデル16から得られた第2の出力結果δcと、第2機械学習モデル17から得られた第3の出力結果δmとを加算した合計情報量Ymを生成する。そして、最適操作量演算部24は、合計情報量Ymに基づいて、運転支援を実行する。
【0060】
[効果]
上述したように、情報処理装置10は、物理モデル15の予測に誤差を与える要因となる要因データの情報を訓練した第2機械学習モデル17を用いることで、物理モデル15の出力だけでなく、第1機械学習モデル16の出力をも補完することができる。この結果、情報処理装置10は、実施形態1と比較しても、高精度な運転支援を実現することができる。
【0061】
[実施形態3]
ところで、実施形態1では、1つの機械学習モデル(第1機械学習モデル16)を用いた例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、上記要因データの種別やプラントごとに複数の機械学習モデルを用意しておき、動的に選択することで、運転支援の精度向上を図ることができる。そこで、実施形態3では、一例として、稼働中の化学プラント1における要因データの種別を動的に判定し、適切な機械学習モデルを選択して、運転支援を行う例を説明する。
【0062】
[機能構成]
図14は、実施形態3にかかる情報処理装置10の機能構成を示す機能ブロック図である。
図14に示すように、実施形態1と同様、情報処理装置10は、通信部11、表示部12、記憶部13、制御部20を有する。ここでは、実施形態1で説明した
図4と異なる複数の機械学習モデル(機械学習モデル1~N)と第2予測部23における選択部23aおよび予測部23bについて説明する。
【0063】
機械学習モデル1~Nのそれぞれは、異なる要因データを用いて生成された予測モデルである。例えば、機械学習モデル1は、原料の汚れを示すデータを用いて生成され、機械学習モデル2は、原料の生産地を示すデータを用いて生成され、機械学習モデル3は、プラントの外部環境を示すデータを用いて生成される。なお、各機械学習モデル1~Nの訓練は、実施形態1や実施形態2と同様の手法を採用することができる。
【0064】
第2予測部23の選択部23aは、訓練済みの機械学習モデル1~Nの中から、予測時の要因データに対応する1つまたは複数の機械学習モデルを選択する処理部である。例えば、選択部23aは、要因データの値、要因データの解析結果、要因データを取得したセンサ種別、または、ユーザの指示などにしたがって、該当する機械学習モデルを選択する。
【0065】
第2予測部23の予測部23bは、選択部23aにより選択された機械学習モデルを用いて、原料の情報と物理モデル15の組成データとから、物理モデル15の出力を補完する誤差の予測を行う。例えば、予測部23bは、要因データと差分スペクトルデータと物理モデル15の第1の出力結果とを、選択された機械学習モデルに入力して、第2の出力結果を取得する。
【0066】
[運転支援の具体例]
次に、
図14を用いて生成された実施形態3における運転支援を行う具体例を説明する。
図15は、実施形態3にかかる運転支援を説明する図である。
図15に示すように、第1予測部22は、原料の分光スペクトルデータXから主成分のスペクトルデータXpを抽出して、物理モデル15に入力し、第1の出力結果Ypを取得する。
【0067】
続いて、第2予測部23は、要因データXmの種別を判定して、該当する機械学習モデルを選択する。そして、第2予測部23は、選択した機械学習モデルに、要因データXmと差分スペクトルデータXcと物理モデル15から得られた第1の出力結果Ypとを入力し、第2の出力結果δcを取得する。
【0068】
その後、最適操作量演算部24は、物理モデル15から得られた第1の出力結果Ypと、いずれかの機械学習モデルから得られた第2の出力結果δcとを加算した合計情報量Ymを生成する。そして、最適操作量演算部24は、合計情報量Ymに基づいて、運転支援を実行する。
【0069】
[処理の流れ]
図16は、実施形態3にかかる処理の流れを示すフローチャートである。なお、ここでは、機械学習モデル1~Nは、生成済みとする。
【0070】
図16に示すように、処理が開始されると(S201:Yes)、第1予測部22は、原料の分光スペクトルデータを取得し(S202)、原料の分光スペクトルデータの主成分を抽出し(S203)、主成分から濃度を取得する(S204)。続いて、第1予測部22は、濃度を物理モデル15に入力して第1情報量を取得する(S205)。
【0071】
これらと並行して、第2予測部23は、稼働中の化学プラント1から要因データを取得してその種別を判定し(S206)、複数の機械学習モデルの中から、要因データに対応する1つまたは複数の機械学習モデルを選択する(S207)。
【0072】
そして、第2予測部23は、差分スペクトルデータを算出し(S208)、要因データと差分スペクトルデータと第1情報量とを、選択した機械学習モデルに入力して第2情報量を取得する(S209)。
【0073】
その後、最適操作量演算部24は、第1情報量と第2情報量とを加算した合計情報量を算出し(S210)、合計情報量に基づく表示制御を実行する(S211)。
【0074】
[効果]
上述したように、情報処理装置10は、予測時に実測した要因データに応じた機械学習モデルを選択した上で、ハイブリッドモデルを活用することができるので、化学プラント1の運転環境に適した最適な運転支援システムを構築することができる。
【0075】
[実施形態4]
ところで、ハイブリッドモデルに使用する機械学習モデルは、実験データを用いて生成されたモデルとプラントごとに設定されたモデルの両方を併用することで、精度の更なる向上を図ることができる。
図17は、実施形態4にかかる情報処理装置10の機能構成を示す機能ブロック図である。
図17に示すように、情報処理装置10は、通信部11、表示部12、記憶部13、制御部20を有する。
【0076】
ここでは、上記実施形態とは異なる機能である化学的誤差モデル18、機械的誤差モデル19、第2予測部26、第3予測部27について説明する。
【0077】
化学的誤差モデル18は、研究所(実験ラボ)などで実験されるプラントの稼働に関する実験データなどを用いて生成された予測モデルである。すなわち、化学的誤差モデル18は、プラント共通の予測を行う。
【0078】
図18は、実施形態4にかかる化学的誤差モデル18を説明する図である。
図18に示すように、化学的誤差モデル18は、実験ラボなどで得られる実験データと、実験ラボなどで得られる分光スペクトルデータXを用いて物理モデル15が算出した出力結果との入力に応じて情報量を出力し、この情報量が物理モデル15の出力結果と理論値との誤差に一致するように訓練された予測モデルである。
【0079】
すなわち、化学的誤差モデル18は、説明変数として実験ラボなどで得られる実験データおよび物理モデル15の出力結果を含み、目的変数として上記誤差を含む訓練データを用いた機械学習により生成される。
【0080】
なお、実験データには、実験を行った際の分光スペクトルデータ、化学反応や分光時の各成分の経時変化などが含まれる。分光スペクトルデータは、上記実施形態と同様、差分スペクトルデータを用いることができる。また、理論値には、過去の履歴から採用することもでき、理論的な物理式などにより算出することもでき、経験で得られた値を採用することもできる。
【0081】
機械的誤差モデル19は、プラント各々で取得されるプラントデータなどを用いて生成された予測モデルである。すなわち、機械的誤差モデル19は、各プラントに特化した予測を行う。
【0082】
図19は、実施形態4にかかる機械的誤差モデル19を説明する図である。
図19に示すように、機械的誤差モデル19は、適用対象のプラントで計測された分光スペクトルデータXと当該プラントで測定されたプロセスデータと化学的誤差モデル18との入力に応じて情報量を出力し、この情報量が、物理モデル15の出力結果および化学的誤差モデル1
8の出力結果を加算した加算値と理論値との誤差に一致するように訓練された予測モデルである。
【0083】
すなわち、機械的誤差モデル19は、説明変数として各プラントで測定されたデータおよび化学的誤差モデル18の出力結果を含み、目的変数として上記誤差を含む訓練データを用いた機械学習により生成される。
【0084】
なお、プロセスデータには、プラント各部位の温度、流量、圧力、攪拌速度などが含まれる。また、プラントごとの分光スペクトルデータには、分光時の各成分の経時変化などを含むこともでき、上記差分スペクトルデータを用いることができる。また、理論値には、過去の履歴から採用することもでき、理論的な物理式などにより算出することもでき、経験で得られた値を採用することもできる。
【0085】
第2予測部26は、ハイブリットモデルを適用するプラントの運転支援を実行する際に、各プラント共通の化学的誤差モデル18を用いて、物理モデル15の出力結果を補完する情報を取得する処理部である。
【0086】
第3予測部27は、ハイブリットモデルを適用するプラントの運転支援を実行する際に、各プラントに特化した機械的誤差モデル19を用いて、化学的誤差モデル18の出力結果を補完する情報を取得する処理部である。
【0087】
ここで、
図1に示した化学プラント1を例にして具体的に説明する。
図20は、実施形態4にかかる運転支援を説明する図である。
図20に示すように、情報処理装置10は、理論的に生成された物理モデル15と、実験データを用いて各プラントに共通の予測を行う化学的誤差モデル18と、適用対象の化学プラント1の特化した機械的誤差モデル19とを有する。
【0088】
このような状態において、情報処理装置10は、原料の分光スペクトルデータから得られる濃度を物理モデル15に入力して第1の出力結果を取得する。また、情報処理装置10は、原料の分光スペクトルデータ(差分スペクトルデータ)と物理モデル15の第1の出力結果とを化学的誤差モデル18に入力して第2の出力結果を取得する。また、情報処理装置10は、化学プラント1で計測された分光スペクトルデータ(差分スペクトルデータ)およびプラントデータと化学的誤差モデル18の第2の出力結果とを機械的誤差モデル19に入力して、第3の出力結果を取得する。
【0089】
そして、情報処理装置10は、第1の出力結果と第2の出力結果と第3の出力結果とを加算した合計値を、化学プラント1の情報量として算出する。その後、情報処理装置10は、この情報量に基づき、化学プラント1の運転支援を実行する。
【0090】
図21は、実施形態4にかかる処理の流れを示すフローチャートである。
図21に示すように、処理が開始されると(S301:Yes)、第1予測部22は、原料の分光スペクトルデータを取得し(S302)、原料の分光スペクトルデータから濃度を取得する(S303)。続いて、第1予測部22は、濃度を物理モデル15に入力して第1情報量を取得する(S304)。
【0091】
また、第2予測部26は、濃度と第1情報量とを化学的誤差モデル18に入力して、第2情報量を取得する(S305)。
【0092】
また、第3予測部27は、プラントからプロセスデータを取得し(S306)、濃度と第2情報量とプロセスデータとを機械的誤差モデル19に入力して、第3情報量を取得する(S307)。
【0093】
その後、最適操作量演算部24は、第1情報量と第2情報量と第3情報量とを加算した合計情報量を算出し(S308)、合計情報量に基づく表示制御を実行する(S309)。
【0094】
[効果]
上述したように、情報処理装置10は、物理モデル15の出力結果を、プラント共通のデータで訓練された化学的誤差モデル18および適用対象のプラントに特化して訓練された機械的誤差モデル19の両方を用いて補完することができる。したがって、情報処理装置10は、全プラントに共通する情報と各プラント特有の情報との両方を考慮した運転支援を実行することができ、例えば共通の障害や特有の障害の両方を回避する運転支援を実行することができる。
【0095】
[実施形態5]
上述した情報処理装置10は、各モデルの出力結果や運転支援に関する情報を可視化することで、オペレータ等に提示することができる。そこで、実施形態5では、情報の可視化を行う情報処理装置10について説明する。
【0096】
[全体構成]
図22は、実施形態5にかかる情報処理装置10の機能構成を示す機能ブロック図である。ここでは、実施形態1の構成の適用例にして説明するが、他の実施形態も同様に適用することができる。
【0097】
図22に示すように、実施形態5にかかる情報処理装置10は、通信部11、表示部12、記憶部13、制御部20を有する。ここでは、上記実施形態とは異なり、制御部20が表示制御部28を有している。なお、物理モデル15と第1機械学習モデル16(誤差モデル)をまとめてハイブリッドモデル30と記載する。
【0098】
表示制御部28は、ハイブリッドモデル30の予測結果を可視化する処理部である。例えば、表示制御部28は、ハイブリッドモデル30の予測結果に含まれる物理モデル15の予測結果と第1機械学習モデル16の予測結果の各割合を可視化する。また、表示制御部28は、実際に計測された計測値もしくは理論値と、ハイブリッドモデル30の予測結果との差分を可視化することもできる。
【0099】
図23は、実施形態5にかかるハイブリッドモデル30の可視化例を説明する図である。
図23は、状態1(計算値)、状態2(計算値)、状態3(計算値)の時系列順に予測(計算)された例を示している。
図23に示すように、表示制御部28は、状態1では計測値との誤差が閾値以下で収まっており、精度よく予測
ができていることを可視化する。また、表示制御部28は、誤差モデルの出力結果の割合が少ないことから、物理モデル15の精度が比較的良いことを可視化する。
【0100】
また、表示制御部28は、状態2では計測値との誤差が閾値以下で収まっており、精度よく予測ができていることを可視化する。また、表示制御部28は、誤差モデルの出力結果の割合が状態1に比較して増えていることから、物理モデル15の精度が劣化していることを可視化する。
【0101】
さらに、表示制御部28は、状態3では計測値との誤差が閾値以上となっており、予測精度が著しく劣化していることを可視化し、ハイブリッドモデル30の精度が悪いことを可視化する。この結果、表示制御部28は、状態3では、訓練データの不足が発生しており、ハイブリッドモデル30の再構築が必要なことをオペレータに通知することができる。
【0102】
また、情報処理装置10は、ハイブリッドモデル30の予測結果をフィードバックすることもできる。
図24は、実施形態5にかかるハイブリッドモデル30のフィードバック例1を示す図である。
図24に示すように、表示制御部28は、化学プラント1の解重合における組成の状態を示す組成トレンドとして、ハイブリッドモデル30の時系列の変化と第1機械学習モデル16(誤差モデル)の時系列の変化とを、同じ時間軸で表示する。さらに、表示制御部28は、ハイブリッドモデル30の予測に使用された原料の分光スペクトルデータの状態も同じ時間軸で対応付けて表示する。
【0103】
このように、情報処理装置10は、物理モデル15の精緻化を行うことができるとともに、誤差モデルの精緻化を行うことができる。
【0104】
この結果、プラントオペレータやプロセスエンジニアは、誤差モデルの出力が大きくなった時間帯を視認することができる。すなわち、プラントオペレータやプロセスエンジニアは、物理モデル15の予測精度が劣化した時点を特定することができる。さらに、プラントオペレータやプロセスエンジニアは、この時点における原料の分光スペクトルデータの状態も視認することができるので、例えば波長Xが誤差モデルの主な説明因子であることを特定することもできる。したがって、プラントオペレータやプロセスエンジニアは、センサの追加検討、機械学習モデルの訓練データの検討を行うことができ、適切な機械学習モデルの活用を行うことができる。
【0105】
また、情報処理装置10は、ハイブリッドモデル30の結果の表示画面を生成して出力することもできる。
図25は、実施形態5にかかるハイブリッドモデル30のフィードバック例2を示す図である。
図25では、化学的誤差モデル18と機械的誤差モデル19を有する実施形態4を用いて、ハイブリッドモデル30がモノマー濃度を予測した結果の時系列変化を示している。
【0106】
図25に示すように、表示制御部28は、ハイブリッドモデル30で最終
的に予測された出力の絶対値(濃度)の変化に加えて、その出力を構成する要素である物理モデル15、化学的誤差モデル18、機械的誤差モデル19の各出力(濃度)も表示する。
【0107】
このとき、表示制御部28は、物理モデル15が補正されている箇所を強調表示することができる。
図26と
図27は、強調表示の一例を示す図である。
図26に示すように、表示制御部28は、
誤差モデル(化学的誤差モデル18と機械的誤差モデル19)の出力が閾値以上であり、物理モデル15が
所定値以上補正されている時間帯の各モデルの該当箇所を、太線で強調表示することができる。なお、強調表示の例は、線の太さ、色、点滅表示などを採用することができる。
【0108】
さらに、
図27に示すように、表示制御部28は、例えば
図25の時間Tを含む時間帯であって、誤差モデル(化学的誤差モデル18と機械的誤差モデル19)の出力が閾値以上であり、物理モデル15の出力が所定値以上補正されている時間帯を、再構成タイミングとして提示(強調表示)することができる。すなわち、表示制御部28は、強調表示により、誤差モデルによる補正が一定水準を超えていることを可視化する。これらの結果、プラントオペレータやプロセスエンジニアは、その時間帯の分光スペクトルデータや化学プラント1の状態を解析することで、物理モデル15を改善するヒントを得ることもできる。
【0109】
上記情報処理装置10は、コンサルツールの提供や制御の知見を提供することができるので、再生材原料を使用したい、低コストで安定的なプロセス操業を実現したい、プラントを早期に立ち上げた化学プラントの操業会社(ライセンシー)と、ライセンスの価値を向上させたい、コンサルティングビジネスを行いたい、投資を行いたいパイロットプラントの操業会社(ライセンサー)との橋渡しを実現することができる。
【0110】
例えば、情報処理装置10は、ライセンサーから実験データプロセスデータを取得し、ライセンシーから報酬を得ることにより、ライセンサーの知見を活用して、上記各実施形態で説明した処理をサービスとして提供することができる。この結果、情報処理装置10の管理会社は、ビジネスを拡大することができ、プラント業界の活性化を図ることもできる。
【0111】
[その他の実施形態]
さて、これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態以外にも、種々の異なる形態にて実施されてよいものである。
【0112】
[数値等]
上記実施形態で用いたデータ例、物理モデルの算出式、予測対象などは、あくまで一例であり、任意に変更することができる。また、第1成分の一例として濃度、第2成分の一例として差分スペクトルデータを用いた例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば、原料に基づく情報として、組成データに含まれる温度など他の要素を対象とすることもでき、分光スペクトルデータを用いて第1の成分として温度を取得して用いることもできる。
【0113】
また、上記実施形態は、化学プラントを例にして説明したが、これに限定されるものではなく、石油、石油化学、化学、ガスなどを用いた各種プラントに適用することができる。また、上記実施形態では、分光スペクトルデータを用いる例を説明したが、これに限定されるものではなく、物理モデルの入力に使用されるデータに応じて、適宜変更することができる。例えば、物理モデルがシミュレータであり、当該シミュレータに配管の流量を用いる場合には、各機械学習モデルには流量、配管の大きさ、流量から得られるプラントデータなど配管に関するデータを用いることができ、当該シミュレータに温度を用いる場合には、各機械学習モデルには、温度、湿度、温度等から得られるプラントデータなど温度に関連するデータを用いることができる。
【0114】
[システム]
上記文書中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各種のデータやパラメータを含む情報については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0115】
また、図示した各装置の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。すなわち、各装置の分散や統合の具体的形態は図示のものに限られない。つまり、その全部または一部を、各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【0116】
さらに、各装置にて行なわれる各処理機能は、その全部または任意の一部が、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解析実行されるプログラムにて実現され、あるいは、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現され得る。
【0117】
[ハードウェア]
次に、情報処理装置10のハードウェア構成例を説明する。
図28は、ハードウェア構成例を説明する図である。
図28に示すように、情報処理装置10は、通信装置10a、HDD(Hard Disk Drive)10b、メモリ10c、プロセッサ10dを有する。また、
図28に示した各部は、バス等で相互に接続される。
【0118】
通信装置10aは、ネットワークインタフェースカードなどであり、他のサーバとの通信を行う。HDD10bは、
図4に示した機能を動作させるプログラムやDBを記憶する。
【0119】
プロセッサ10dは、
図4に示した各処理部と同様の処理を実行するプログラムをHDD10b等から読み出してメモリ10cに展開することで、
図4等で説明した各機能を実行するプロセスを動作させる。例えば、実施形態1を例にすると、このプロセスは、情報処理装置10が有する各処理部と同様の機能を実行する。具体的には、プロセッサ10dは、モデル生成部21、第1予測部22、第2予測部23、最適操作量演算部24等と同様の機能を有するプログラムをHDD10b等から読み出す。そして、プロセッサ10dは、モデル生成部21、第1予測部22、第2予測部23、最適操作量演算部24等と同様の処理を実行するプロセスを実行する。
【0120】
このように、情報処理装置10は、プログラムを読み出して実行することで情報処理方法を実行する情報処理装置として動作する。また、情報処理装置10は、媒体読取装置によって記録媒体から上記プログラムを読み出し、読み出された上記プログラムを実行することで上記した実施形態と同様の機能を実現することもできる。なお、この他の実施形態でいうプログラムは、情報処理装置10によって実行されることに限定されるものではない。例えば、他のコンピュータまたはサーバがプログラムを実行する場合や、これらが協働してプログラムを実行するような場合にも、本発明を同様に適用することができる。
【0121】
このプログラムは、インターネットなどのネットワークを介して配布することができる。また、このプログラムは、ハードディスク、フレキシブルディスク(FD)、CD-ROM、MO(Magneto-Optical disk)、DVD(Digital Versatile Disc)などのコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録され、コンピュータによって記録媒体から読み出されることによって実行することができる。
【符号の説明】
【0122】
10 情報処理装置
11 通信部
12 表示部
13 記憶部
14 訓練データ群
15 物理モデル
16 第1機械学習モデル
17 第2機械学習モデル
20 制御部
21 モデル生成部
22 第1予測部
23、26 第2予測部
23a 選択部
23b 予測部
24 最適操作量演算部
25、27 第3予測部
28 表示制御部
30 ハイブリッドモデル