(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】電気化学セルでの使用に適した高い引張り強度の紙
(51)【国際特許分類】
H01M 50/44 20210101AFI20240408BHJP
H01M 50/423 20210101ALI20240408BHJP
H01M 50/414 20210101ALI20240408BHJP
H01M 50/494 20210101ALI20240408BHJP
H01M 50/489 20210101ALI20240408BHJP
【FI】
H01M50/44
H01M50/423
H01M50/414
H01M50/494
H01M50/489
(21)【出願番号】P 2021507748
(86)(22)【出願日】2019-08-08
(86)【国際出願番号】 US2019045642
(87)【国際公開番号】W WO2020036800
(87)【国際公開日】2020-02-20
【審査請求日】2022-08-05
(32)【優先日】2018-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】520028531
【氏名又は名称】デュポン セイフティー アンド コンストラクション インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】アフシャリ メディー
(72)【発明者】
【氏名】カン ビョン サム
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/101432(WO,A1)
【文献】特表2016-535416(JP,A)
【文献】特表2008-522055(JP,A)
【文献】特開平03-069610(JP,A)
【文献】特開2006-289657(JP,A)
【文献】国際公開第2018/040905(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/40-50/497
D01F 1/00-6:96;9/00-9/04
D21B 1/00-1/38
D21C 1/00-11/14
D21D 1/00-99/00
D21F 1/00-13/12
D21G 1/00-9/00
D21H 11/00-27/42
D21J 1/00-7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学セルにおけるセパレーター紙として使用するのに適した紙であって、唯一の繊維成分として、
a)95~100重量パーセントのフィブリルと、
b)0~5重量パーセントのアラミドフィブリドと
を含み、
10~40マイクロメートルの厚さ及び少なくとも15メガパスカル以上の引張り強度を有し、
前記フィブリルは、80~96重量パーセントのポリパラフェニレンテレフタルアミドと、4~20重量パーセントのポリビニルピロリドンとのポリマーブレンドを含み、
前記フィブリルは、
i)10~2000ナノメートルの直径、
ii)0.2~3ミリメートルの長さ、
iii)3~40平方メートル/グラムの比表面積、及び
iv)0~10ミリリットルのカナダ標準濾水度
を有し、
前記アラミドフィブリドは、320℃を超える融点又は分解点を有する芳香族ポリアミドの非顆粒状のフィルム状粒子を指し、
前記引張り強度は、幅2.54cmの試験片及び18cmのゲージ長を使用してASTM D 828-97に従って測定され、
前記比表面積は、液体窒素温度(77.3K)での窒素の吸着/脱着によって測定され
る、紙。
【請求項2】
100メガパスカル以下の引張り強度を有する、請求項1に記載の紙。
【請求項3】
50メガパスカル以下の引張り強度を有する、請求項2に記載の紙。
【請求項4】
0.05~0.5マイクロメートルの平均流動孔径を有
し、前記平均流動孔径は、ASTM指定E 1294-89“Standard Test Method for Pore Size Characteristics of Membrane Filters Using Automated Liquid Porosimeter”に従って測定される、請求項1~3のいずれか一項に記載の紙。
【請求項5】
前記フィブリルは、10~1200ナノメートルの直径を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の紙。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の紙を含む電気化学セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学セルにおけるセパレーターとしての使用に適している、即ち電気化学セルにおいてアノードからカソードを分けるのに有用である紙であって、こうしたセルで使用される電解質に対する適切な透過性も有する紙に関する。より高性能の電気化学セル(又は一般に知られているようにバッテリー)の継続的な開発に伴い、非常に高温でも動作できるセパレーター(一般にバッテリーセパレーターとして知られている)として適した紙の必要性が高まっている。
【背景技術】
【0002】
Alvarado Chaconらの米国特許出願公開第2016/0197325号明細書では、少なくとも60重量%のアラミドフィブリル及び少なくとも1重量%のアラミド繊維を含む、電気化学セルにおけるセパレーターとしての使用に適した紙を開示している。この刊行物は、紙がより具体的には少なくとも5重量%のアラミド繊維、特に少なくとも10重量%のアラミド繊維を含むことを更に開示している。その中で具体的に述べられているように、これらのフィブリルは、一般的に繊維をフィブリル化することによって得られず、フィブリルは、多くとも3m2/gの比表面積を有する。
【0003】
Hartzlerらの米国特許出願公開第2006/0113700号明細書では、アラミドポリマーからの複合繊維を開示しており、この繊維は、アラミドポリマーの異方性溶液と、可撓性鎖ポリマーの等方性溶液とを組み合わせることによって作製される。複合繊維は、80~99重量パーセントのアラミドと、1~20重量パーセントの可撓性鎖ポリマーの等方性溶液からのポリマーとを含み、特許請求されている。等方性溶液は、ポリ(ビニルピロリドン)を含み得る。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電気化学セルにおけるセパレーターとしての使用に適した紙の要件の1つは、紙が非常に薄いことである。非常に薄く作製され、電気化学セルにおけるセパレーターとしての使用に適していると考えられる多くの紙は、この用途で良好に機能しない。特に、非常に薄い紙は、この用途において十分な強度を有しない可能性があり、1つの対応策は、より大きい直径の繊維材料とより小さい直径の繊維材料との組み合わせを紙に組み込むことであり、より大きい直径の繊維材料は、紙に更なる強度を付与し、より小さい直径の繊維材料は、より大きい直径の繊維材料間の空隙を埋める。しかしながら、こうした紙は、場合により、こうした紙をセパレーターとしての使用に適さないようにする小さいピンホールを含む多孔性及び/又は均一性の問題を有することが見出されている。理論に縛られることはないが、こうした多孔性、均一性及びピンホールの問題は、シートを作製するとき、より小さい直径の繊維材料とともにより大きい直径の繊維材料の非常に薄い層を均一にブレンド及び分散することの難しさによると考えられており、より大きい直径及びより小さい直径の繊維材料間に応力集中又は欠陥が生じ、最終的にシートに望ましくない大きい細孔又は更に穴を生じさせる。必要とされているのは、電気化学セルにおけるセパレーター紙としての使用に適している、適切な引張り強度を有し、且つ加えて、これらの多孔性及び均一性の課題に対処する紙である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、電気化学セルにおけるセパレーター紙としての使用に適した紙及びそれを含む電気化学セルであって、この紙は、唯一の繊維成分として、95~100重量パーセントのフィブリルと、0~5重量パーセントのアラミドフィブリドとを含み、且つ10~40マイクロメートルの厚さ及び少なくとも15メガパスカル以上の引張り強度を有し、フィブリルは、80~96重量パーセントのポリパラフェニレンテレフタルアミドと、4~20重量パーセントのポリビニルピロリドンとのポリマーブレンドを含み、フィブリルは、10~2000ナノメートルの直径、0.2~3ミリメートルの長さ、3~40平方メートル/グラムの比表面積及び0~10ミリリットルのカナダ標準濾水度を有する、紙及びそれを含む電気化学セルに関する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】PPD-T/PVPフィブリルのデジタル写真である。
【
図3】PPD-T/PVPフィラメント対PPD-Tフィラメントにおける細孔の分布を比較しているグラフ表示である。
【
図4】引張り強度と紙の間隙率との間の関係のグラフであり、改善された紙の引張り強度を例示している。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明は、電気化学セルにおけるセパレーター紙としての使用に適した紙及びその紙を含む電気化学セルに関する。この紙は、唯一の繊維成分として、95~100重量パーセントのフィブリルと、0~5重量パーセントのアラミドフィブリドとを含み、フィブリルは、80~96重量パーセントのポリパラフェニレンテレフタルアミドと、4~20重量パーセントのポリビニルピロリドンとのポリマーブレンドを含む。この紙は、10~40マイクロメートルの厚さ及び少なくとも15メガパスカル以上の引張り強度を有する。
【0008】
また、電気化学セルにおけるセパレーター紙は、一般にバッテリーセパレーターとして知られており、「セパレーター紙」及び「バッテリーセパレーター」という用語は、本明細書では交換可能に使用される。また、「電気化学セル」という用語は、本明細書では「バッテリー」という用語と交換可能に使用され、更に、電気化学セルという用語は、(1)カソード、(2)アノード、(3)短絡を防ぐことを促進するための、カソードとアノードとの間の物理的分離デバイス、及び(4)ある種の電解質を有するキャパシタ及び他のデバイスなどのものを含むことを意図している。
【0009】
多くの用途において、バッテリーセパレーターは、バッテリーにおける正(カソード)プレートと負(アノード)プレートとの間に配置され、反対の電荷のこれらの電極間に構造的分離をもたらし、電解質がセパレーターを通る電流の通過を支援することができる。
【0010】
セパレーターとしての使用に適した紙には、いくつかの好ましい特性がある。これらの好ましい紙の特性には、特定の厚さの範囲、バッテリーの製造に使用するのに適した適切な最小の引張り強度、適切な平均流動孔径範囲及び難燃性などの使用価値をもたらす他の特性が含まれる。難燃性の紙が特に望ましい。
【0011】
紙は、好ましくは、10~50マイクロメートルの厚さを有する。この厚さの範囲は、紙セパレーターのバッテリーで利用可能な典型的なスペースと適合している。10マイクロメートル未満の紙の厚さは、バッテリーの製造工程に対処するのに十分な強度を有すると考えられず、50マイクロメートルを超える紙の厚さは、典型的なバッテリーのスペースが限られているため、適用が制限され、また、こうした厚い紙は、費用が増加し、これは、望ましくない。いくつかの実施形態では、紙の厚さは、15マイクロメートル以上であり、いくつかの実施形態では、紙の厚さは、40マイクロメートル以下である。1つの好ましい紙の厚さの範囲は、15~40マイクロメートルである。
【0012】
紙は、少なくとも15メガパスカル以上の引張り強度を有する。紙は、セル巻きプロセス(集電体、アノード及びカソードとともにセパレーターを巻くこと)を含むバッテリー製造プロセスに耐えるために、このレベルの引張り強度を必要とすると考えられる。また、引張り強度は、使用中のセパレーターのデンドライトのバリアに寄与する。いくつかの実施形態では、紙は、好ましくは、50メガパスカル以下の引張り強度を有する。いくつかの実施形態では、紙は、好ましくは、100メガパスカル以下の引張り強度を有する。この値を超える引張り強度は、悪影響を及ぼさないが、パラメータは、値が減少する点に到達する。いくつかの実施形態では、紙は、15~50メガパスカルの引張り強度を有する。いくつかの実施形態では、紙は、15~100メガパスカルの引張り強度を有する。
【0013】
いくつかの実施形態では、紙は、好ましくは、0.01~1.0マイクロメートルの平均流動孔径を有する。この範囲の平均流動孔径を有する紙は、毛管力による良好な電解質吸収を有し、これにより低いイオン抵抗を有し、またリチウム金属デンドライトによって引き起こされる内部短絡を防ぐことができる良好なバリア特性を有すると考えられる。いくつかの好ましい実施形態では、紙は、約0.05~0.5マイクロメートルの平均流動孔径を有する。
【0014】
紙は、紙中のフィブリルとフィブリドの総量に基づいて95~100重量パーセントのフィブリルと、0~5重量パーセントのアラミドフィブリドとを含む。いくつかの実施形態では、紙は、フィブリルとフィブリドとを含み、フィブリルは、紙中のフィブリル及びフィブリドの総量に基づいて95重量パーセント~100重量パーセント未満の量で存在する。いくつかの実施形態では、紙中の繊維材料は、フィブリルのみである。
【0015】
紙にフィブリドを加えると、フィブリルをともに結合することでセパレーターの機械的強度が向上するが、フィブリドは、電解質輸送の良好なバリアでもあるため、フィブリドが存在するとイオン抵抗が増加する。
【0016】
リチウムイオン電池のセパレーターとして特に有用な紙は、約10オーム-cm2未満、有利には約1オーム-cm2~5オーム-cm2のイオン抵抗を有する。いくつかの実施形態では、紙セパレーターは、約2~15、いくつかの実施形態では約4~約13のマクマリン数を有する。他のいくつかの実施形態では、マクマリン数は、約4~約10である。マクマリン数(Nm)は、無次元数であり、セパレーターのイオン抵抗の尺度であり、電解質のみの等量の抵抗率に対する電解質で満たされたセパレーター試料の抵抗率の比として定義される。
【0017】
フィブリルは、10~2000ナノメートルの直径、好ましくは10~1200ナノメートルの直径を有するポリマーの毛状の繊維材料である。
図1は、フィブリルの代表的なデジタル写真である。フィブリルは、0.2~3ミリメートルの長さを更に有する。本明細書で使用される場合、フィブリル及びパルプなどの本明細書で言及される繊維材料の「長さ」は、測定された「長さ加重平均」の長さであることを意味する。いくつかの好ましい実施形態では、フィブリルは、フロックをより小さいフィブリルに剪断する精製工程にフロックを曝すことにより、フロックから作製された精製されたフィブリルである。
【0018】
いくつかの好ましい実施形態では、フィブリルは、200~2000ナノメートルの直径を有し、いくつかの好ましい実施形態では、フィブリルは、1.2~3ミリメートルである長さを有する。フィブリルの直径は、紙の孔径に影響を及ぼし、2000ナノメートルを超える直径を有するフィブリルは、望ましくないほど大きい孔径を有する紙を作り出すと考えられる。また、約0.2ミリメートル未満の長さを有するフィブリルは、紙の引張り強度に寄与しないと考えられるため、フィブリルの大部分が0.2ミリメートル以上の長さを有することが望ましい。
【0019】
更に、フィブリルは、約150~200,000の範囲であり得るアスペクト比を有する。また、アスペクト比は、長さを直径で割ったものとして知られており、「アスペクト比」、「平均の長さ対直径比」及び「長さ対直径」という句は、本明細書では交換可能に使用される。パルプの場合、長さの測定値は、「パルプストーク」とも呼ばれるパルプのストークの特徴の長さであると理解される。
【0020】
いくつかの実施形態では、フィブリルの平均の長さ対直径比は、約1000以上である。いくつかの実施形態では、フィブリルは、約3000以下の平均の長さ対直径比を有する。いくつかの好ましい実施形態では、平均の長さ対直径比は、約1000~3000の範囲である。フィブリルの平均の長さ対直径比は、米国特許第5,084,136号明細書、米国特許第5,171,402号明細書及び米国特許第8,211,272号明細書のプロセスによって作製されるような従来の100%PPD-Tパルプの平均の長さ対直径比よりはるかに大きく、これは、平均の長さ対直径比が一般的に150未満であると考えられるか、又は米国特許出願公開第2016/0362525号明細書及び米国特許出願公開第2017/0204258号明細書に開示されているような高度に精製されたパルプの平均の長さ対直径比は、従来のパルプの平均の長さ対直径比よりも小さいと考えられる(例えば、一般的に100未満)。
【0021】
より高い平均の長さ対直径比を有する繊維は、より高い紙の引張り強度とともに、低い/小さい孔径及びより高いガーリーヒル間隙率を含むより良好な紙バリア特性に寄与すると考えられる。
【0022】
紙で使用されるフィブリルは、好ましくは、0~50ミリリットルのカナダ標準濾水度(CSF)を有し、いくつかの実施形態では0~20ミリリットルのカナダ標準濾水度を有する。CSFは、フィブリルの細かさ又は精製中にフィブリル化される程度の1つの指標であり、非常に細いフィブリルは非常に低いCSFを有する。また、サイズの分布が広い材料は、一般的に高いCSF値を有するため、低いCSF値は、均一なサイズのフィブリルを示す。
【0023】
本明細書で定義されるフィブリルは、繊維材料であり、従来技術のポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(PPD-T)パルプと異なる。こうしたPPD-Tパルプは、フロックを精製することによって作製されるか、又は米国特許第5,202,184号明細書に教示されているように成分から直接作製され得、こうした従来技術のアラミドパルプは、「ストーク」及びストークから延びるフィブリルの両方を有し、ストークは、直径が約10~50ミクロンである、元のフロックの一般的に柱状の残りである。
【0024】
特定のPPD-T/PVPポリマーブレンドから作製されたフロックが精製されると、結果として本質的に全てのフィブリルである繊維材料が得られ、即ち
図1のデジタル写真に示されているように、本質的に大きいストークがもはや材料に存在しないことがわかった。これは、
図2に示されるように、従来のPPD-Tパルプと比較される。
【0025】
図1のフィブリルをもたらす特定のポリマーブレンドは、80~96重量パーセントのポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPD-T)と、4~20重量パーセントのポリビニルピロリドン(PVP)とのポリマーブレンドである。フロックが本質的にストークを残さずにフィブリルに精製されるために、少なくとも4重量のPVPが存在しなければならないと考えられる。
【0026】
本明細書では、「繊維」という用語は、「フィラメント」という用語と交換可能に使用される。切断せずにポリマー溶液からボビンに直接紡糸された繊維は、一般に連続繊維又は連続フィラメントと呼ばれ、マルチフィラメント糸は、複数の連続フィラメントを含む。
【0027】
80~96重量パーセントのPPD-Tと、4~20重量パーセントのPVPとのブレンドから作製されたフィラメントの間隙率及び結晶性は、PPD-Tのみからなるフィラメントと劇的に異なることがわかっている。
図3に2種類のフィラメントのX線散乱の違いを例示する。曲線20は、PPD-T/PVPブレンドのフィラメントを表しており、曲線30は、PPD-Tのみで作製されたフィラメントを表している。曲線30は、PPD-Tフィラメントが約2オングストロームを中心とする重大なピーク(及び4オングストロームを中心とするはるかに小さいピーク)を有することを例示しており、これは、繊維の非常に小さい細孔を示している。曲線20は、PPD-T/PVPブレンドの孔径の分布がはるかに広く、ピークが約3オングストロームを中心とし、非常に広い傾斜ピークが約250オングストロームを中心とするが、約70~600オングストロームの範囲の領域に広がっていることを例示している。これは、PPD-T/PVPブレンドから作製されたフィラメントが、PPD-Tフィラメントよりもはるかに大きい非常に多くの数の細孔を有することを示していると考えられる。
【0028】
更に、
図1に例示されるように、繊維の結晶化度及び細孔構造におけるこの違いのため、フィラメントを機械的に精製すると、フィブリルがはるかに細かくより均一に分布する結果になると考えられる。換言すれば、PPD-T繊維の非常に高い結晶化度及び低い間隙率は、機械的に精製されると、精製剪断作用が主にフィラメントの表面を研磨して、典型的なフィブリルとのストーク構造(
図2に示される)を生成することを意味する一方、PPD-T/PVPブレンドのフィラメントの結晶化度が低く、間隙率が高いため、同じ剪断作用下で個々の精製されたフィブリルに簡単に分離でき、より小さく比較的より均一な直径のフィブリルが多数あり、更に重要なことに、いかなるストークも存在しない(即ちストークがない)と考えられる。フィブリルは、SEM顕微鏡写真から視覚的に測定されるように、約300ナノメートルの総直径サイズ範囲を有する比較的均一な直径を有すると考えられる。
【0029】
フィブリルは、高い表面積を有し、その高い表面積は、ポリマーの上記の組み合わせから作製されたフロックを機械的に精製することによって達成される。フィブリルは、少なくとも2つの成分のポリマー材料を有するフロックから作製され、この成分のポリマー材料は、ポリマー材料が密接に混合されたが、別々の固相でフロックに存在するように相互に非混和性でなければならない。こうしたフロックは、精製されると、2つの異なる高分子材料のドメインを有するフィブリルを生成し、一方の相は、連続若しくは一次ポリマー相又はPPD-Tポリマーであり、もう一方の相は、不連続若しくは二次ポリマー相又はPVPポリマーである。
【0030】
不連続又は二次ポリマー(PVP)は、フロックを通過し、精製プロセスでフロック構造の破壊点として機能する材料の小さいナノメートルサイズの結晶ドメインとして存在し、迅速でより完全な精製を促進して、フィブリルを形成すると考えられる。精製後、各破壊点からの不連続又は二次ポリマーの一部は、精製プロセスから生じる各フィブリルの上に又はその表面に存在する。
【0031】
「表面積」、「比表面積」及び「BET表面積」という語は、本明細書では交換可能に使用される。フィブリルは、約3~40m2/gの比表面積を有する。いくつかの実施形態では、比表面積は、6m2/g以上であり、いくつかの実施形態では、比表面積は、8m2/g以上である。比表面積の特に好ましい範囲の1つは、6~20m2/gである。
【0032】
比較すると、単一のポリマー材料から作製されたフロックから又は不連続な二次ポリマーのドメインを有さないポリマー材料の混和性ブレンドから精製された従来のパルプは、こうした高い表面積を有さないであろう。更に、このフロックが、このような測定された高い表面積を有するように十分に精製される場合、得られるパルプ粒子は、このような低いアスペクト比(非常に低い平均長さから生じる)を有し、適切な紙の強度を提供しない。
【0033】
フィブリルは、80~96重量パーセントのポリ(パラフェニレンテレフタルアミド)(本明細書でポリパラフェニレンテレフタルアミド又はPPD-Tとしても知られ且つ使用される)を含む。PPD-Tとは、p-フェニレンジアミンとテレフタロイルクロリドとのモル対モル重合から得られるホモポリマー並びにまたp-フェニレンジアミンとともに少量の他のジアミン及びテレフタロイルクロリドとともに少量の他の二酸塩化物の組み込みから得られるコポリマーを意味する。通常、他のジアミン及び他の二酸塩化物は、他のジアミン及び二酸塩化物が重合反応を妨げる反応性基を有さないことのみを条件として、p-フェニレンジアミン又はテレフタロイルクロリドの最大約10モルパーセントもの量で使用することができる。また、PPD-Tは、他の芳香族ジアミン及び他の芳香族二酸塩化物、例えば2,6-ナフタロイルクロリド又はクロロ-若しくはジクロロ-テレフタロイルクロリドなどの組み込みから得られるコポリマーを意味し、但し、他の芳香族ジアミン及び芳香族二酸塩化物が、異方性紡糸ドープの調製を可能にする量で存在することのみを条件とする。PPD-Tの調製は、米国特許第3,869,429号明細書、米国特許第4,308,374号明細書及び米国特許第4,698,414号明細書に記載されている。
【0034】
フィブリルは、4~20重量パーセントのポリ(ビニルピロリドン)(本明細書ではポリビニルピロリドン又はPVPとしても知られ且つ使用される)を含む。PVPとは、N-ビニル-2-ピロリドンのモノマー単位の線状重合から生じ、PVPのPPD-Tとの相互作用を妨害しない濃度よりも低い濃度で存在し得る少量のコモノマーを含むポリマーを意味する。最小約5000~最大約1,000,000の範囲の分子量のPVPを使用することができる。非常に高い分子量のPVPは、高粘度の紡糸ドープを生成する。分子量が約10,000~約360,000であるPVPが好ましい。
【0035】
アラミドフィブリドは、紙に存在してもよい場合、バインダー材料として使用される。フィブリドは、繊維材料である一方、フィブリドは、繊維ではない。「アラミドフィブリド」という用語は、320℃を超える融点又は分解点を有する芳香族ポリアミドの非顆粒状のフィルム状粒子を指す。フィブリドの平均長さは、0.2~1mmであり、縦横のアスペクト比は、5:1~10:1である。厚さの寸法は、ミクロンの割合のオーダーである。こうしたアラミドフィブリドは、乾燥する前に湿った状態で使用することができ、紙のフロック成分に物理的に絡み合ったバインダーとして堆積させることができる。フィブリドは、ポリマー溶液が単一の工程で沈殿及び剪断される、米国特許第3,018,091号明細書に開示されているような繊維化装置を使用して調製することができる。好ましいアラミドフィブリドは、ポリメタフェニレンイソフタルアミドポリマーを含む。
【0036】
ポリ(メタフェニレンイソフタルアミド)(本明細書ではポリメタフェニレンイソフタルアミド又はMPD-Iとしても知られ且つ使用される)とは、m-フェニレンジアミン及びイソフタロイルジクロリドのモル対モル重合から生じるホモポリマー並びにまたm-フェニレンジアミンとともに少量の他のジアミン及びイソフタロイルジクロリドとともに少量の他の二酸クロリドの組み込みから生じるコポリマーを意味する。通常、他のジアミン及び他の二酸塩化物は、他のジアミン及び二酸塩化物が重合反応を妨げる反応性基を有しないことのみを条件として、m-フェニレンジアミン又はイソフタロイルジクロリドの最大約10モルパーセントもの量で使用することができる。また、MPD-Iは、他の芳香族ジアミン及び他の芳香族二酸塩化物の組み込みから得られるコポリマーを意味するし、但し、他の芳香族ジアミン及び芳香族二酸塩化物が異方性紡糸ドープの調製を可能にしない量で存在することのみを条件とする。MPD-Iの調製は、米国特許第3,063,966号明細書及び米国特許第3,287,324号明細書に記載されている。
【0037】
フィブリルは、好ましくは、PPD-TとPVPとの組み合わせを含むドープから連続フィラメント糸を紡糸し、連続フィラメント糸をフロックに切断し、次いでそのフロックをディスク精製機においてフィブリルに機械的に精製することによって作製される。連続フィラメント糸を作製するための代表的なプロセスの例は、米国特許第5,073,440号明細書及び米国特許第5,094,913号明細書並びに米国特許出願公開第2006/0113700号明細書に見られる。次いで、フロック繊維が連続フィラメント糸から切断される。フロックは、一般的に、約2ミリメートル~約25.4ミリメートル、場合により2~10ミリメートル又は更に3~10ミリメートルの長さを有する。
【0038】
フィブリルは、好ましくは、紙に使いやすい機械的方法を使用して、例えば乾式及び湿式のディスク又はコーンの精製、ハイドラパルピング及び叩解などを使用して、PPD-T/PVPフロックを切断するか、こねてパルプ状にするか、又は研磨する技術を使用してPPD-T/PVPフロックを精製することによって作製される。好ましくは、精製は、水中のフロックの分散液に対して行われ、好ましくは、分散液は、精製機を複数回通過して精製される。即ち、精製機を出た精製された分散液は、精製機を通る2回目の通過において精製機を介して再循環されるなどである。出発となる分散液は、一般的に、水中のフロックの約1~4重量パーセントの固形分を有する。出発となるフロックは、好ましくは、約3~25.4ミリメートル(0.125~1インチ)の長さを有する。PPD-T/PVPフロックのポリマー構造により、フロックは、精製機をわずか3回通過するのみでフィブリルに完全にフィブリル化され、バッテリーセパレーター紙の作製に適している。フィブリルのカナダ標準濾水度(CSF)は、非常に低く、PPD-T繊維又はセルロース若しくはアクリルなどのフィブリル化する傾向のある任意の他の繊維から作製されたパルプと比較して独特で驚くべきものである。適切なフィブリルは、精製機を3回通過することで得られるが、精製機を更に通過することができ、紙の最終強度に悪影響を与えない限り、フィブリルを更に分散させて均一化するのに20回以上もの通過が役立つと考えられる。好ましくは、フィブリルは、分散液を、精製機を通して3~20回の通過で再循環することによって作製され、いくつかの実施形態では、3~10回精製機を通過させることが使用される。
【0039】
精製されると、フィブリル-水混合物は、製紙機の供給物として直接使用できるか、又は製紙機の供給物として使用する前に混合物に水を添加するか若しくは混合物から水を除去することができる。フィブリル-水混合物は、精製されたフィブリル-水混合物のスラリーと組み合わされてもよく、製紙機で使用するための繊維材料としてフィブリル及びフィブリドの両方を含む供給物を調製することができる。フィブリルの表面積が大きいため、製紙用供給物の粘稠度は、ゲルと同様に、濃い高粘度の小麦粉-水混合物の粘稠度に類似している。一般的に、適切な紙を作製するために、水性供給物は、5重量パーセント未満、好ましくは約0.05重量パーセント未満の繊維材料を有する必要がある。繊維材料の量が多いと、粘性が高すぎて適切な紙にできないと考えられる。いくつかの実施形態では、水性供給物は、5重量パーセント未満のフィブリル、好ましくは約0.05重量パーセント未満のフィブリルを有する必要がある。
【0040】
水中の繊維材料は、非常に薄い紙を作製することができる適切な製紙装置において紙に変換される。代表的な装置は、例えば、これらに限定されないが、長網抄紙機若しくは傾斜ワイヤー機などの連続プロセス又は成形スクリーンを含むハンドシートの型において手作業で紙を作製するプロセスなどのバッチプロセスを伴う。アラミド材料を紙に形成する一般的なプロセスにおいて、Grossの米国特許第3,756,908号明細書及びHeslerらの米国特許第5,026,456号明細書を参照することができる。
【0041】
具体的には、製紙機において紙を作製するための商業的に適切なプロセスは、繊維材料をフィブリル及び/又はフィブリドの所望の量及び比率で含む水性分散液を製紙機のヘッドボックスに入れ、次いでこれらの固形物をウェブとして製紙ワイヤーに均一に湿式敷設して分散し、液体の水の大部分を除去することを含み得る。次いで、湿潤したウェブを乾燥機のドラム上で乾燥させて紙を形成することができる。好ましくは、次いで、紙を加圧及び加熱下でホットロールカレンダーのニップにおいて又は他の手段によって更にカレンダー処理又は加圧して、紙を所望の厚さ及び特性を有する層に固めて高密度化する。
【0042】
また、本発明者らは、PPD-T/PVPフィブリルを含む紙の単層が、熱性能保護試験(TPP)で試験された場合に驚くほど良好な可燃性性能を有することを見出した。TPPは、放射熱と対流熱との組み合わせに対する可燃性性能の尺度である。PPD-T/PVPフィブリルを含む紙は、厚さで正規化した場合、PPD-Tフロックのみで作製された紙よりも優れたTPP性能を有することがわかった。即ち、PPD-T/PVPフィブリルを含む紙は、紙が、全てのアラミド材料を含んでおらず、実際には可燃性の熱可塑性プラスチックであるPVPを含んでいたとしても、本質的に難燃性であるPPD-Tフロックを含む紙よりも厚さの正規化に基づいて優れていた。
【0043】
試験方法
以下の試験方法が下記の実施例において使用された。
【0044】
厚さは、ASTM D374-99に従って測定され、ミルで記載され、マイクロメートルに変換された。
【0045】
坪量は、ASTMD 646-96に従って測定され、g/m2で記載された。
【0046】
ガーリーヒルの間隙率は、TAPPI T460 om-96に従い、1.22kPaの圧力差を使用して、紙の円形領域約6.4平方センチメートルのシリンダー変位100ミリリットル当たりの空気抵抗を秒単位で測定した。
【0047】
平均流動孔径は、ASTM指定E 1294-89“Standard Test Method for Pore Size Characteristics of Membrane Filters Using Automated Liquid Porosimeter”に従って測定され、これは、ASTM指定F 316-03の自動気泡点法を使用することにより、0.05μm~300μmの孔径直径を有する膜の孔径特性を概算する。
【0048】
気泡点は、ASTM F316-03(2011)に従って測定された。最大孔径の気泡点試験は、フィルタを事前に濡らし、フィルタの上流のガスの圧力を所定の速度で増加させ、下流のガスの気泡を監視して、最大直径のフィルタ細孔を通るガスの通過を示すことによって実行される。フィルタを覆う液体の層を通る上昇によって検出可能な最初の連続気泡を吹き飛ばすのに必要な圧力は、「気泡点」と呼ばれ、最大孔径を計算するために使用される。
【0049】
引張り強度は、幅2.54cmの試験片及び18cmのゲージ長を使用してASTM D 828-97に従って測定され、N/cm単位で記載された。
【0050】
イオン抵抗は、ASTM D7148-13に従って測定され、ミリオーム-cm2で記載された。
【0051】
間隙率は、ASTM C830-00に従って測定され、パーセント(%)で記載された。
【0052】
マクマリン数(Nm)は、無次元数であり、セパレーターのイオン抵抗の尺度であり、電解質のみの等量の抵抗率に対する電解質で満たされたセパレーター試料の抵抗率の比として定義される。
【0053】
濾水度。フィブリル又はパルプのカナダ標準濾水度(CSF)は、Testing Machines Inc.,New Castle,DEが提供するカナダ標準濾水度試験機モデル33-23を使用して、標準試験方法TAPPI T227に従って測定され、これは、水が水性スラリー又はパルプの分散液から排出する容易さを測定し、フィブリルの数が多いほど、試験中に形成される紙マットから水が排出される速度が低下するため、パルプのフィブリル化の度合いに反比例する。標準条件下での試験から得られたデータは、1リットルの水における3グラムのパルプのスラリーから排出されるミリリットルの水で表される。より低い値は、よりフィブリル化されたパルプがより多くの水を保持し、よりゆっくりと排出されることを示す。
【0054】
濾水度。ショッパーリグラー濾水度(SRF)は、BS EN ISO 5267-1 2001に従って決定された。ショッパーリグラー試験は、パルプの希釈懸濁液が脱水され得る速度の測定値を与えるように設計されている。SR濾水度(排水性)は、ショッパーリグラー度で表すことができる。試験される繊維材料は、上記で特定されたISO標準で定義された試験条件に従って調製される。調製されたパルプの体積1000mlを排出チャンバーに注ぐ。底部及び側面のオリフィスからの排出物が収集される。側面のオリフィスからの濾液は、SR度で目盛りが付けられた特別なシリンダーで測定される。1000ミリリットルの排出量は、0度のショッパーリグラーに対応する一方、0ミリリットルの排出量は、100度のショッパーリグラーに対応する。
【0055】
繊維の長さ。繊維材料の長さ(「長さ加重平均の」長さ)は、TAPPI試験方法T271に従って測定された。
【0056】
平均の長さ対直径比。これは、フィブリル又はパルプの「長さ加重平均」の長さを、それぞれの平均の視覚的に測定された直径で割ることによって計算された。「長さ加重平均」の長さは、以下の式
【数1】
(式中、nは、フィブリル又はパルプストークの数であり、lは、個々のフィブリル又はパルプのストーク(パルプストーク)の長さである)から計算された長さを意味する。
【0057】
フィブリル及び/又はパルプの平均の「視覚的に測定された直径」は、フィブリル及び/又はパルプの顕微鏡写真から、フィブリル又はパルプのストークの長さに沿ったいくつかの点(少なくとも3つ)で個々のフィブリル又はパルプのストークの幅を視覚的に測定することによって得られた。これは、顕微鏡写真に描かれている少なくとも12のフィブリル又はパルプのストークに対して行われ、平均の視覚的に測定された繊維直径が計算された。
【0058】
フィブリル及び/又はパルプの「長さ加重平均」の長さは、Metso Automation Inc.,Kajaani,Finlandが提供するFiber Expert卓上分析器を使用して測定された。分析装置は、スラリーが分析装置を流れるとき、水に分散してスラリーを形成した繊維材料の写真画像をデジタルCCDカメラで撮影し、統合コンピューターがこれらの画像の繊維を分析して、加重平均としてミリメートルで表される長さを計算する。パルプの「長さ加重平均」の長さは、Beckman Coulter Inc.,Miami,FLが提供するLS200レーザー回折分析装置を使用して測定され、マイクロメートルで表された。
【0059】
比表面積。乾燥繊維材料(フィブリルを含む)の比表面積は、Micromeritics ASAP 2405ポロシメーターを使用して液体窒素温度(77.3K)での窒素の吸着/脱着によって測定され、1グラム当たりの平方メートルの単位で表される(m2/g)。特に断りのない限り、測定前に試料を150℃の温度で一晩ガス抜きし、吸着した水分による重量損失を決定した。0.05~0.20の相対圧力、P/P0の範囲にわたり、5点窒素吸着等温線を収集し、BET法(S.Brunauer,P.H.Emmett,and E.Teller,J.Am.Chem.Soc.1938,60,309)に従って分析し、Pは、試料の上の平衡ガス圧力であり、P0は、典型的には、760トールを超える試料の飽和ガス圧力である。
【0060】
結晶化度及び間隙率の測定には、広角及び小角X線散乱試験法を使用した。
【0061】
装置:Rigaku Micromax 007 custom pinhole SAXSシステム又はAdvanced Photon Source DND-CAT(セクター5)、line ID-D。
【0062】
X線源:Rigaku装置の場合:回転アノード銅kα1源。APS放射エネルギーは、可変であるが、典型的には約9keVが使用される(1.38Å)
【0063】
検出器:Rigaku用Bruker Vantec 2000 2048×2048ピクセル2D検出器。APSで3つのMAR検出器のセット、広角、中角及び小角の距離にセットアップされ、同時にデータが収集される。Vantec 2000データ収集ソフトウェアにおいて、検出器に固有の空間的及び強度の変動を補正するために、歪み補正ルーチンが採用されている。
【0064】
試料取り付け:WAXS:コロジオン溶液で糸の長さを直線にし、小片を切り取り、試料プレートに単層を貼り付ける。SAXS:スロット付き試料プレートに繊維を10回巻き付け、テープで固定する。プレートには、X線透過用の繊維束の中央に孔がある。
【0065】
データ収集:Rigaku:データは、真空下で試料ごとに30分収集され、APSデータ収集は、典型的には、約1秒毎の5フレームで空中において実行される。これは、2回行われ、1回は、減衰器を使用し(低いqで高強度の場合)、1回は、減衰器を使用しない。データは、様々な距離/減衰でともにつなぎ合わされる。
【0066】
熱性能保護試験(TPP)は、材料の布地及びシートの可燃性性能の尺度であり、放射熱と対流熱との組み合わせに曝される現実的な条件を提供する。試料は、火炎に典型的な状況に曝される:84kW/m2(2cal/cm2/秒)の一定の熱流束で50%の放射熱と50%の対流熱との一定の組み合わせ。次いで、この試験では、布地の裏側に伝達される温度及びエネルギーが、材料が摩耗していた場合、2度の火傷に相当するレベルに達するまでの経過時間と、表面積当たりの熱エネルギー量(TPP値)とを測定する。使用されたTPP試験は、熱流束暴露が80kW/m2の試験方法標準(ISO 17492)としてISOに採用されているものである。US NFPA 1971標準では、ISO 17492試験を、84kW/m2の修正された増加した熱流束曝露で実行する必要がある。
【実施例】
【0067】
以下の実施例では、フィブリルは、精製されたフィブリルであり、以下の通り作製した。Sokalan(登録商標)K30-Pの名称で販売されているポリビニルピロリドン(PVP)ポリマーは、BASFから入手した。実施例で使用されるポリパラフェニレンテレフタルアミド(PPD-T)ポリマーは、米国特許第3,869,429号明細書、米国特許第4,308,374号明細書及び米国特許第4,698,414号明細書に一般的に開示されているような一般的な重合手順を使用して作製した。
【0068】
PPD-Tポリマー/PVPポリマーブレンド繊維は、Hartzlerらの米国特許出願公開第2006/0113700号明細書に示されている一般的な手順に従い、別個のポリマー溶液及び紡糸繊維を形成することによって作製された。第1の溶液は、硫酸における19.5重量%のPVPであり、PVPを硫酸において室温で混合することによって作製した。また、第2の溶液は、硫酸中の19.5重量%のPPD-Tであった。次いで、PVPポリマー溶液をPPD-T溶液と組み合わせて混合し、ポリマーのブレンドを有する紡糸溶液を形成した。これは、PPD-Tポリマー溶液を運ぶパイプへのギアポンプによるPVPポリマー溶液の中心線注入、それに続く静的混合機によって行われた。これにより、連続PPD-Tポリマー溶液相において分散されたPVPポリマー溶液粒子が形成された。
【0069】
繊維糸は、ポリマーのブレンドを有する紡糸溶液を、複数の紡糸口金孔を有する紡糸口金を通して押し出して、ドープフィラメントを形成することによって作製した。具体的には、前述のポリマーのブレンドを有する紡糸溶液は、0.063mmのオリフィス直径を有する667の孔の紡糸口金を通して0.8cmのエアギャップを通して、約5%の硫酸を含む5℃の温度の水性凝固浴に溶液を押し出すことによってエアギャップ紡糸されマルチフィラメント糸を形成した。次いで、マルチフィラメント糸を洗浄及び中和して硫酸溶媒を除去し、乾燥させてボビンに巻き付けた。
【0070】
糸は、0.25インチ(0.20cm)の長さを有するフロックに切断された。次いで、フロックは、2重量パーセントのフロックを有する水性スラリーを使用して、単一ディスクの12インチAndritzラボラトリー精製機によって精製された。PPD-T/PVPフィブリルは、精製機を3回通過したのみで適切に形成された。試験のために試料が採取され、材料は、更に3回の通過で精製された。試験のために更なる試料が採取され、材料は、更に3回の通過で精製された。表1は、得られたフィブリルに関するデータを示しており、これは、カナダ標準濾水度(CSF)及びショッパーリグラー濾水度(SRF)に関するデータを含め、わずか3回の通過で非常に細かいフィブリルを得ることができたことを示している。精製機をわずか3回通過した後、PPD-T/PVPブレンドのフロックは、CSFがゼロのフィブリルに完全にフィブリル化された。精製時間を長くする、即ち精製機を通過する回数を増やすと、ナノフィブリルの長さが短くなった。表1のデータとの比較として、精製機を3回通過させて作製されたPPD-Tパルプは、約300mlのCSFを有した。
【表1】
【0071】
次いで、PPD-T/PVPブレンドのフィブリルの様々な組成を、E.I.du Pont de Nemours,Wilmington,DEから入手可能な市販の100%PPD-Tパルプと比較した。表2は、様々なPPD-T/PVPブレンドを有するフロックで作製され、精製機を3回通過して作製されたフィブリルの特性情報を示している。精製機を3回通過して作製された100%PPD-Tパルプの特性も示されている。
【0072】
図3の曲線20は、87/13PPD-T/PVPブレンドの場合であり、表2は、PVPを含め、PPD-T/PVPブレンドのフィラメントの見かけの結晶サイズ(ACS 110)が100%PPD-Tフィラメントに対して減少し、PPD-T/PVPフィラメントがはるかに大きい孔径を有し、孔径の分布が、従来のPPD-Tパルプの作製に使用されるPPD-Tフィラメントを代表する曲線30とまったく異なることを例示している。
【表2】
【0073】
実施例においてフィブリドが含まれる場合、メタ-アラミドフィブリドは、ポリメタフェニレンイソフタルアミドから作製され、米国特許第3,756,908号明細書に一般的に記載されているプロセスを使用して生成された。
【0074】
参照例1及び比較例A~B
参照例1に指定された紙は、100%PPD-T/PVPフィブリルから作製された。フィブリルは、0mlのカナダ標準濾水度及び13.8m2/gの乾燥後の比表面積を有した。PPD-T/PVPフィブリルは、87重量パーセントのPPD-T及び13重量パーセントのPVPからなった。紙は、フィブリルを水中に分散させてスラリーを形成することから調製された。スラリーを混合してそれを作製し、水性分散液を8リットルの水とともに21×21cmのハンドシート(hand-sheet)の型に注ぎ、湿式敷設されたシートを形成した。次いで、ハンドシートを取り出し、2枚の吸い取り紙間に置き、綿棒を用いて手でカウチし(hand couched)、ハンドシート乾燥機において150℃で10分間乾燥させた。同様の紙を、100%の市販のPPD-Tパルプ(Style1 F361、DuPont Co.,Wilmington,Delawareから入手可能)である100%の従来のPPD-Tパルプから作製した。パルプは、260mlのカナダ標準濾水度、9m2/gの乾燥後の比表面積を有し、比較例Aに指定された。加えて、同様の紙が100%PPD-Tマイクロパルプから作製され、米国特許出願公開第2016/0362525号明細書及び米国特許出願公開第2017/0204258号明細書に記載されているように作製され、この紙は、比較例Bに指定された。
【0075】
得られた紙の構造の特性を表3に記載する。表に示されているように、100%フィブリルで作製された紙は、低い/小さい孔径及びより高いガーリーヒル間隙率並びにより高い引張り破断強度など、より良好な(より高い)バリア特性を提供する。驚くべきことに、これらの紙は、同様のイオン抵抗を有するが、これは、予想外であり、平均の長さ対直径比が高いためと考えられる。
【表3】
【0076】
実施例2~3及び比較例C
3つの異なるアラミド紙をPPD-T/PVPフィブリル及びMPD-Iフィブリドから作製した。フィブリルは、0mlのカナダ標準濾水度及び13.8m2/gの乾燥後の比表面積を有した。PPD-T/PVPフィブリルは、87重量パーセントのPPD-T及び13重量パーセントのPVPからなり、約2000の平均の長さ対直径比を有した。それぞれの紙は、フィブリル及びフィブリドの水性分散液から調製されてスラリーを形成した。これらのスラリーを混合して、表4に示すようにフィブリルとフィブリドとのブレンド比を作成した。水性分散液を8リットルの水とともに21×21cmのハンドシートの型に注ぎ、湿式敷設されたシートを形成した。次いで、それぞれのハンドシートを取り出し、2枚の吸い取り紙間に置き、綿棒を用いて手でカウチし、ハンドシート乾燥機において150℃で10分間乾燥させた。得られた紙の構造の特性を表4に記載する。
【0077】
バインダーのフィブリドは、引張り強度がかなり高い紙をもたらすが、フィブリドの比率が高いと、ガーリーヒル間隙率に悪影響を及ぼし、実施例Cは、不適切になる。
【表4】
【0078】
比較例D、E及びF
比較の紙のハンドシートは、実施例1の手順を使用して作製されたが、PPD-T/PVPフィブリルは、100%の市販のPPD-Tパルプ(Style 1F361、DuPont Co.,Wilmington,Delawareから入手可能)に置き換えられた。パルプは、260mlのカナダ標準濾水度、9m2/gの乾燥後の比表面積を有し、平均の長さ対直径比は、約83であった。これらの比較の紙の特性を表5に示す。
【0079】
表5は、比較の材料の引張り強度が非常に低く、従って許容できないことを例示している。加えて、比較の材料のガーリーヒル間隙率は、これらの紙の構造が開きすぎているため、受け入れられないことを示した。
【表5】
【0080】
実施例2~3及び比較例D~Fで作製された紙の引張り強度を、比較例Gに指定された、刊行物米国特許出願公開第2016/0197325号明細書の実施例1の開示で提供される最も高い引張り強度の紙の特性とともに表6に要約する。明確にするために、データは、紙の特定の厚さに基づくN/cmの単位と、紙の厚さを想定しないMPaとの両方で表に示されている。表6に示され、
図4に例示されるように、本発明の紙は、上記で開示されたものの名目3倍の引張り強度を有する。
【表6】
【0081】
実施例4及び比較例H
これは、PPD-T/PVPフィブリルを含む紙の可燃性性能を例示している。実施例1の手順に従って2つの紙が作製されたが、いずれの紙も坪量が高く、名目5オンス/ヤード2(175グラム/メートル2)であった。第1の紙(実施例4)は、100%PPD-T/PVPフィブリルから作製した。PPD-T/PVPフィブリルは、0mlのカナダ標準濾水度及び13.8m2/gの乾燥後の比表面積を有した。PPD-T/PVPフィブリルは、87重量パーセントのPPD-T及び13重量パーセントのPVPからなった。第2の紙(比較例H)を、カット長6.4mm(0.25インチ)を有するPPD-Tフロックから作製した。
【0082】
それぞれの紙の単層を熱性能保護試験(TPP)にかけ、結果を表7に示した。単位厚さ当たりの正規化されたTPPは、PPD-T/PVPフィブリルを含む紙で驚くほど良好であり、これは、紙が、全てのアラミド材料を含まなかったためであった。
【表7】
本開示は以下の実施形態を包含する。
<1> 電気化学セルにおけるセパレーター紙として使用するのに適した紙であって、唯一の繊維成分として、a)95~100重量パーセントのフィブリルと、b)0~5重量パーセントのアラミドフィブリドとを含み、10~40マイクロメートルの厚さ及び少なくとも15メガパスカル以上の引張り強度を有し、前記フィブリルは、80~96重量パーセントのポリパラフェニレンテレフタルアミドと、4~20重量パーセントのポリビニルピロリドンとのポリマーブレンドを含み、前記フィブリルは、i)10~2000ナノメートルの直径、ii)0.2~3ミリメートルの長さ、iii)3~40平方メートル/グラムの比表面積、及びiv)0~10ミリリットルのカナダ標準濾水度を有する、紙。
<2> 100メガパスカル以下の引張り強度を有する、<1>に記載の紙。
<3> 50メガパスカル以下の引張り強度を有する、<2>に記載の紙。
<4> 0.05~0.5マイクロメートルの平均流動孔径を有する、<1>~<3>のいずれか一項に記載の紙。
<5> 前記フィブリルは、10~1200ナノメートルの直径を有する、<1>~<4>のいずれか一項に記載の紙。
<6> <1>~<5>のいずれか一項に記載の紙を含む電気化学セル。