IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イーグル工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-容量制御弁 図1
  • 特許-容量制御弁 図2
  • 特許-容量制御弁 図3
  • 特許-容量制御弁 図4
  • 特許-容量制御弁 図5
  • 特許-容量制御弁 図6
  • 特許-容量制御弁 図7
  • 特許-容量制御弁 図8
  • 特許-容量制御弁 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】容量制御弁
(51)【国際特許分類】
   F04B 27/18 20060101AFI20240408BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
F04B27/18 B
F16K31/06 305L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021516128
(86)(22)【出願日】2020-04-21
(86)【国際出願番号】 JP2020017168
(87)【国際公開番号】W WO2020218284
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2019082964
(32)【優先日】2019-04-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098729
【弁理士】
【氏名又は名称】重信 和男
(74)【代理人】
【識別番号】100206911
【弁理士】
【氏名又は名称】大久保 岳彦
(74)【代理人】
【識別番号】100204467
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 好文
(74)【代理人】
【識別番号】100148161
【弁理士】
【氏名又は名称】秋庭 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100195833
【弁理士】
【氏名又は名称】林 道広
(72)【発明者】
【氏名】福留 康平
(72)【発明者】
【氏名】葉山 真弘
(72)【発明者】
【氏名】江島 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】白藤 啓吾
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-070732(JP,A)
【文献】特開2006-017087(JP,A)
【文献】特開2015-034510(JP,A)
【文献】特開2018-179087(JP,A)
【文献】国際公開第2012/077439(WO,A1)
【文献】特許第3581598(JP,B2)
【文献】特開2001-012358(JP,A)
【文献】特開2008-157031(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 27/18
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸入圧力の吸入流体が通過する吸入ポートおよび制御圧力の制御流体が通過する制御ポートが形成されたバルブハウジングと、
ソレノイドにより軸方向に駆動されるCS弁体、及び前記吸入ポートから吸入流体が供給される吸入流体供給室と前記制御ポートとの間に設けられ前記CS弁体が接触可能なCS弁座により構成されるCS弁と、
前記CS弁体を前記CS弁の閉弁方向に付勢する付勢手段と、を備え、
前記CS弁体よりも前記ソレノイドの駆動方向側には閉塞された空間が形成されており、
前記空間と前記吸入流体供給室とを常時連通させる連通路が前記CS弁体に形成されており、
前記空間には、前記吸入流体供給室の前記吸入流体が前記連通路を介して常時流入している容量制御弁。
【請求項2】
前記空間に前記付勢手段が配置されている請求項1に記載の容量制御弁。
【請求項3】
前記空間と前記制御ポートとは区画されている請求項1または2に記載の容量制御弁。
【請求項4】
前記空間と前記制御ポートとはベローズにより区画されている請求項3に記載の容量制御弁。
【請求項5】
前記空間と前記制御ポートとは前記CS弁体により区画されており、前記バルブハウジングには、前記CS弁体の外周に摺動して該CS弁体の移動を案内するガイド孔が形成されている請求項3に記載の容量制御弁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動流体の容量を可変制御する容量制御弁に関し、例えば、自動車の空調システムに用いられる容量可変型圧縮機の吐出量を圧力に応じて制御する容量制御弁に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の空調システムに用いられる容量可変型圧縮機は、エンジンにより回転駆動される回転軸、回転軸に対して傾斜角度を可変に連結された斜板、斜板に連結された圧縮用のピストン等を備え、斜板の傾斜角度を変化させることにより、ピストンのストローク量を変化させて流体の吐出量を制御するものである。この斜板の傾斜角度は、電磁力により開閉駆動される容量制御弁を用いて、流体を吸入する吸入室の吸入圧力Ps、ピストンにより加圧された流体を吐出する吐出室の吐出圧力Pd、斜板を収容した制御室の制御圧力Pcを利用しつつ、制御室内の圧力を適宜制御することで連続的に変化させ得るようになっている。
【0003】
容量可変型圧縮機の連続駆動時において、容量制御弁は、制御コンピュータにより通電制御され、ソレノイドで発生する電磁力により弁体を軸方向に移動させ、制御圧力Pcの制御流体が通過する制御ポートと吸入圧力Psの吸入流体が通過する吸入ポートとの間に設けられるCS弁を開閉して容量可変型圧縮機の制御室の制御圧力Pcを調整する通常制御を行っている。
【0004】
例えば、特許文献1に示される容量制御弁は、制御流体が通過するPcポート、吸入流体が通過するPsポートを備えるバルブハウジングと、PcポートとPsポートとの連通状態を切り換え可能なCS弁と、から主に構成されており、CS弁の開閉により制御圧力Pcを調整する。CS弁は、ソレノイドにより軸方向に駆動されるCS弁体と、PcポートとPsポートとの間に設けられCS弁体が接触可能なCS弁座と、から構成されており、CS弁を閉塞状態とすることで制御圧力Pcを高め、CS弁を開放状態とすることで制御圧力Pcを低くするように制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第3581598号公報(第4頁、第8図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の容量制御弁にあっては、ソレノイドの駆動方向にPcポートが配置されており、ソレノイドの駆動時にPcポートから流入する制御圧力PcがCS弁体の抗力として作用するため、CS弁体の応答性が低下してしまう虞があった。
【0007】
本発明は、このような問題点に着目してなされたもので、CS弁体を即座に動作させることができる容量制御弁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明の容量制御弁は、
吸入圧力の吸入流体が通過する吸入ポートおよび制御圧力の制御流体が通過する制御ポートが形成されたバルブハウジングと、
ソレノイドにより軸方向に駆動されるCS弁体、及び前記吸入ポートと前記制御ポートとの間に設けられ前記CS弁体が接触可能なCS弁座により構成されるCS弁と、
前記CS弁体を前記CS弁の閉弁方向に付勢する付勢手段と、を備え、
前記CS弁体よりも前記ソレノイドの駆動方向側には空間が形成されており、該空間には前記吸入流体が流入している。
これによれば、CS弁体よりもソレノイドの駆動方向側であるソレノイドとは反対側の空間に制御流体よりも圧力が低い吸入流体が流入しているため、ソレノイド駆動時にCS弁体に作用する抗力を小さくでき、CS弁体を即座に動作させることができる。
【0009】
前記空間に前記付勢手段が配置されていてもよい。
これによれば、吸入流体が流入する空間を利用して付勢手段を配置できるので容量制御弁をコンパクトに構成することができる。
【0010】
前記空間と前記吸入ポートとを連通する連通路が形成されていてもよい。
これによれば、バルブハウジングに形成された吸入ポートから連通路を通じて空間に制御流体を流入させることができる。
【0011】
前記連通路が前記CS弁体に形成されていてもよい。
これによれば、CS弁体に連通路が形成されるので、バルブハウジングに連通路を形成することに比べて加工が簡便である。
【0012】
前記空間と前記制御ポートとは区画されていてもよい。
これによれば、空間内に吸入流体を維持しやすい。
【0013】
前記空間と前記制御ポートとはベローズにより区画されていてもよい。
これによれば、簡便な構成により空間と制御ポートとを区画できる。
【0014】
前記空間と前記制御ポートとは前記CS弁体により区画されており、前記バルブハウジングには、前記CS弁体の外周に摺動して該CS弁体の移動を案内するガイド孔が形成されていてもよい。
これによれば、空間と制御ポートとを区画する部材を別個に用意しなくてもCS弁体により空間と制御ポートとを密封状態で区画できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る実施例1の容量制御弁の構造を示す断面図である。
図2】実施例1の容量制御弁の非通電状態においてCS弁が閉塞された様子を示す断面図である。
図3】実施例1の容量制御弁の通電状態においてCS弁が開放された様子を示す断面図である。
図4】本発明に係る実施例2の容量制御弁の構造を示す断面図である。
図5】実施例2の容量制御弁の非通電状態においてCS弁が閉塞された様子を示す断面図である。
図6】実施例2の容量制御弁の通電状態においてCS弁が開放された様子を示す断面図である。
図7】本発明に係る実施例3の容量制御弁の構造を示す断面図である。
図8】実施例3の容量制御弁の非通電状態においてCS弁が閉塞された様子を示す断面図である。
図9】実施例3の容量制御弁の通電状態においてCS弁が開放された様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る容量制御弁を実施するための形態を実施例に基づいて以下に説明する。
【実施例1】
【0017】
実施例1に係る容量制御弁につき、図1から図3を参照して説明する。以下、図1の正面側から見て左右側を容量制御弁の左右側として説明する。
【0018】
本発明の容量制御弁Vは、自動車等の空調システムに用いられる図示しない容量可変型圧縮機に組み込まれ、冷媒である作動流体(以下、単に「流体」と表記する)の圧力を可変制御することにより、容量可変型圧縮機の吐出量を制御し空調システムを所望の冷却能力となるように調整している。
【0019】
先ず、容量可変型圧縮機について説明する。容量可変型圧縮機は、吐出室と、吸入室と、制御室と、複数のシリンダと、を備えるケーシングを有している。尚、容量可変型圧縮機には、吐出室と制御室とを直接連通する連通路が設けられており、この連通路には吐出室と制御室との圧力を平衡調整させるための固定オリフィス9が設けられている(図1図3参照)。
【0020】
また、容量可変型圧縮機は、ケーシングの外部に設置される図示しないエンジンにより回転駆動される回転軸と、制御室内において回転軸に対してヒンジ機構により偏心状態で連結される斜板と、斜板に連結され各々のシリンダ内において往復動自在に嵌合された複数のピストンと、を備え、電磁力により開閉駆動される容量制御弁Vを用いて、流体を吸入する吸入室の吸入圧力Ps、ピストンにより加圧された流体を吐出する吐出室の吐出圧力Pd、斜板を収容した制御室の制御圧力Pcを利用しつつ、制御室内の圧力を適宜制御することで斜板の傾斜角度を連続的に変化させることにより、ピストンのストローク量を変化させて流体の吐出量を制御している。
【0021】
図1に示されるように、容量可変型圧縮機に組み込まれる容量制御弁Vは、ソレノイド80を構成するコイル86に通電する電流を調整し、容量制御弁VにおけるCS弁50の開閉制御を行うことにより、制御室から吸入室に流出する流体を制御することで制御室内の制御圧力Pcを可変制御している。尚、吐出室の吐出圧力Pdの吐出流体が固定オリフィス9を介して制御室に常時供給されており、容量制御弁VにおけるCS弁50を閉塞させることにより制御室内の制御圧力Pcを上昇させられるようになっている。
【0022】
本実施例において、CS弁50は、弁体としてのCS弁体51とバルブハウジング10の内周面に形成されたCS弁座10aとにより構成されており、CS弁体51の軸方向右端51aがCS弁座10aに接離することで、CS弁50が開閉するようになっている。
【0023】
次いで、容量制御弁Vの構造について説明する。図1に示されるように、容量制御弁Vは、金属材料または樹脂材料により形成されたバルブハウジング10と、バルブハウジング10内に軸方向左端部が配置されるCS弁体51と、バルブハウジング10に接続されCS弁体51に駆動力を及ぼすソレノイド80と、から主に構成されている。
【0024】
図1図3に示されるように、CS弁体51は、その中央部に軸方向に貫通する貫通孔51bを有する筒状体であり、貫通孔51bには、ソレノイド80のコイル86に対して貫通配置されるロッド52の軸方向左端部が圧入固定されている。また、CS弁体51は、貫通孔51bよりも径方向にずれた位置に軸方向に貫通する連通路51cが形成されている。尚、連通路51cは複数設けてもよく、吸入流体を出入させやすくなるから好ましい。
【0025】
図1および図2に示されるように、バルブハウジング10には、容量可変型圧縮機の吸入室と連通する吸入ポートとしてのPsポート11と、容量可変型圧縮機の制御室と連通する制御ポートとしてのPcポート12が形成されている。Psポート11は、Pcポート12、詳しくはCS弁座10aよりも軸方向右側に形成されている。
【0026】
バルブハウジング10の内部には、Psポート11から吸入流体が供給される吸入流体供給室13と、Pcポート12から制御流体が供給される制御流体供給室14と、吸入流体供給室13と制御流体供給室14との間に配設され軸方向左側の縁部にCS弁座10aが形成された弁口部15と、軸方向左方に開口し制御流体供給室14よりも軸方向左側に配設される凹部10dと、凹部10dの底部、すなわち凹部10dの軸方向右端に設けられCS弁体51の外周面が略密封状態で摺動可能なガイド孔10bと、が設けられている。
【0027】
凹部10dは、軸方向左端の開口部が蓋部材16により閉塞されており、バルブハウジング10の内部には、凹部10dと蓋部材16とCS弁体51とにより区画された空間Sが形成されている。尚、ガイド孔10bの内周面とCS弁体51の外周面との間は、径方向に僅かに離間することにより微小な隙間が形成されており、CS弁体51は、バルブハウジング10に対して軸方向に円滑に相対移動可能となっているとともに、前記隙間が空間Sと制御流体供給室14とを略密封状に区画するクリアランスシールとして機能している。
【0028】
吸入流体供給室13と空間Sとは、CS弁体51に形成された連通路51cにより連通している。すなわち、吸入流体供給室13内に供給された吸入流体は連通路51cを通じて空間S内に流入するようになっている。また、この空間Sには、CS弁体51を軸方向右方に付勢する付勢手段としてのスプリング17が配設されている。
【0029】
また、バルブハウジング10は、軸方向右端の内径側が軸方向左方に凹む凹部10cが形成されており、センタポスト82のフランジ部82dが軸方向右方から挿嵌されることにより一体に略密封状態で接続固定されている。尚、バルブハウジング10の凹部10cの底面の内径側には、吸入流体供給室13のソレノイド80側の開口端が形成されている。
【0030】
図1に示されるように、ソレノイド80は、軸方向左方に開放する開口部81aを有するケーシング81と、ケーシング81の開口部81aに対して軸方向左方から挿入されケーシング81の内径側に固定される略円筒形状のセンタポスト82と、センタポスト82に挿通され軸方向に往復動自在かつその軸方向左端部がCS弁座10aよりも軸方向左方に配置されるロッド52と、ロッド52の軸方向左端部に圧入固定されるCS弁体51と、ロッド52の軸方向右端部が挿嵌・固定される可動鉄心84と、センタポスト82の外側にボビンを介して巻き付けられた励磁用のコイル86と、から主に構成されている。
【0031】
ケーシング81は、軸方向左端の内径側が軸方向右方に凹む凹部81bが形成されており、この凹部81bに対してバルブハウジング10の軸方向右端部が略密封状に挿嵌・固定されている。
【0032】
センタポスト82は、鉄やケイ素鋼等の磁性材料である剛体から形成され、軸方向に延びロッド52が挿通される挿通孔82cが形成される円筒部82bと、円筒部82bの軸方向左端部の外周面から外径方向に延びる環状のフランジ部82dとを備えている。
【0033】
また、センタポスト82は、フランジ部82dの軸方向右端面をケーシング81の凹部81bの底面に軸方向左方から当接させた状態で、ケーシング81の凹部81bに対して挿嵌・固定されるバルブハウジング10の凹部10cに対して略密封状に挿嵌・固定されている。すなわち、センタポスト82は、フランジ部82dをケーシング81の凹部81bの底面とバルブハウジング10の凹部10cの底面との間に軸方向両側から挟持されることにより固定されている。
【0034】
次いで、容量制御弁Vの動作、主にCS弁50の開閉動作について説明する。
【0035】
先ず、容量制御弁Vの非通電状態について説明する。図1及び図2に示されるように、容量制御弁Vは、非通電状態において、CS弁体51がスプリング17の付勢力により軸方向右方へと押圧されることで、CS弁体51の軸方向右端51aがCS弁座10aに着座し、CS弁50が閉塞されている。詳しくは、軸方向左側に向けて拡開するようにテーパ状に形成されるCS弁座10aに対してCS弁体51の軸方向右端51aのエッジ部分が着座するようになっている。
【0036】
このとき、CS弁体51には、軸方向右方に向けてスプリング17の付勢力(Fsp)と、CS弁体51の軸方向左端面に対する流体の圧力による力(FP1)が作用し、軸方向左方に向けてCS弁体51の軸方向右端面に対する流体の圧力による力(FP2)が作用している。すなわち、右向きを正として、CS弁体51には、力Frod=Fsp+FP1-FP2が作用している。
【0037】
詳しくは、CS弁体51の軸方向左端面には空間S内の流体が作用し、CS弁体51の軸方向右端面には吸入流体供給室13内の流体が作用している。吸入流体供給室13と空間Sとは、CS弁体51に形成された連通路51cにより連通しているので、空間Sと吸入流体供給室13とには、Psポート11から供給される吸入流体が流入している。また、CS弁体51の軸方向左端面と軸方向右端面は同径に形成されている。言い換えれば、空間Sの流体が作用するCS弁体51の有効受圧面積Aと、吸入流体供給室13内の流体が作用するCS弁体51の有効受圧面積Bとは同一である(A=B)。
【0038】
このように、空間Sと吸入流体供給室13とに流入する流体はPcポート12から供給される同一の吸入流体であり、かつCS弁体51の有効受圧面積A,Bが同一であることから、CS弁体51の軸方向左端面に対する流体の圧力による力(FP1)とCS弁体51の軸方向右端面に対する流体の圧力による力(FP2)は同一(FP1=FP2)であり、これら流体の圧力による力(FP1)と流体の圧力による力(FP2)とはキャンセルされる。すなわち、右向きを正として、CS弁体51には、実質的に力Frod=F が作用している。
【0039】
次に、容量制御弁Vの通電状態について説明する。図1および図3に示されるように、容量制御弁Vは、通電状態、すなわち通常制御時、いわゆるデューティ制御時において、ソレノイド80に電流が印加されることにより発生する電磁力(Fsol)が力Frodを上回る(Fsol>Frod)と、可動鉄心84が軸方向左側、すなわちセンタポスト82へ向けて引き寄せられ、可動鉄心84に固定されたロッド52およびCS弁体51が軸方向左方へ共に移動することにより、CS弁体51の軸方向右端51aがバルブハウジング10のCS弁座10aから離間し、CS弁50が開放されている。また、ソレノイド80の駆動時には、可動鉄心84がセンタポスト82の軸方向右方に接触することで、CS弁体51がさらにCS弁座10aから離間することが規制される。尚、ロッド52の軸方向左端が蓋部材16から右方に突出する軸部に接触することでCS弁体51の移動を規制するようにしてもよい。
【0040】
このとき、CS弁体51には、軸方向左方に電磁力(Fsol)、軸方向右方に力F odが作用している。すなわち、右向きを正として、CS弁体51には、力Frod-Fsolが作用している。
【0041】
このように、容量制御弁Vは、CS弁50を開閉してPcポート12から供給される制御圧力Pcの制御流体をPsポート11を介して吸入室に供給して制御室の制御圧力Pcを低下させるPc-Ps制御としているので、言い換えると圧力の高い吐出圧力Pdの吐出流体を直接的に制御していないので、ソレノイド80の電磁力とスプリング17の付勢力とのバランスにより調整されるCS弁50の弁開度により制御圧力Pcを細かく変化させることができる。
【0042】
以上説明したように、CS弁体51よりもソレノイド80の駆動方向側、すなわちCS弁体51の動作方向側には空間Sが形成されており、この空間Sには制御流体よりも圧力が低い吸入流体が流入しているので、CS弁50を閉塞状態から開放状態とするときにCS弁体51に作用する抗力を小さくすることができ、CS弁体51を即座に動作させることができる。特に、容量制御弁Vは、CS弁体51がスプリング17によりCS弁50の閉弁方向に付勢されるノーマルクローズタイプとして構成されるため、CS弁体51を即座に動作させてCS弁50を開放することにより、制御圧力Pcを迅速に低下させることができる。
【0043】
また、吸入流体が流入する空間Sにスプリング17が配置されているので、ソレノイド80側にスプリング17を配置するためのスペースを確保する必要がなく、容量制御弁Vをコンパクトに構成することができる。また、スプリング17がCS弁体51におけるソレノイド80と反対側に配設されているので、CS弁体51の動作を安定させることができる。
【0044】
また、空間SとPsポート11とを連通する連通路51cが形成されており、バルブハウジング10に形成されたPsポート11から連通路51cを通じて空間Sに制御流体を流入させることができる。これにより、例えば、バルブハウジング10や蓋部材16にPsポート11とは別個の吸入ポートを形成する必要がなく、容量制御弁Vの構造を簡素化することができる。
【0045】
また、連通路51cは、CS弁体51を軸方向に貫通するように形成されているので、空間SとPsポート11とを連通する連通路をバルブハウジング10に形成することに比べて加工が簡便である。
【0046】
また、空間SとPcポート12とはCS弁体51により区画されており、バルブハウジング10には、CS弁体51の移動を案内するガイド孔10bが形成されており、空間SとPcポート12とはガイド孔10bの内周面とCS弁体51の外周面との間に形成されるクリアランスシールにより略密封状に区画されているので、CS弁50を閉塞状態において空間S内に制御流体が流入することを抑制できる。言い換えれば、空間S内に吸入流体を維持しやすいので、CS弁50を閉塞状態から開放状態とする際にCS弁体51に作用する抗力を確実に小さくできる。また、ガイド孔10bの内周面とCS弁体51の外周面との間に形成されるクリアランスシールにより略密封状に空間SとPcポート12とが区画されているため、空間SとPcポート12とを区画するための部材を別個に用意しなくて済み、部品点数を減らして、容量制御弁Vの構造を簡素化することができる。
【0047】
また、バルブハウジング10には、CS弁体51が挿通されるガイド孔10bが形成されているため、ガイド孔10bにCS弁体51が案内されることにより、CS弁体51の動作の精度を高めることができる。さらに、バルブハウジング10には、CS弁座10aとガイド孔10bとが一体に形成されているため、部品点数が少なく小型化された容量制御弁Vを提供できる。
【0048】
尚、本実施例1では、空間Sの流体が作用するCS弁体51の有効受圧面積Aと、吸入流体供給室13内の流体が作用するCS弁体51の有効受圧面積Bとが同一である形態を例示したが、有効受圧面積Aを有効受圧面積Bよりも若干大きく(A>B)し、CS弁50の閉塞状態を確実に維持できるようにしてもよいし、有効受圧面積Aを有効受圧面積Bよりも若干大きく(A<B)し、CS弁50を開放状態にしやすくしてもよい。
【実施例2】
【0049】
実施例2に係る容量制御弁につき、図4図6を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0050】
図4および図5に示されるように、本実施例2において、CS弁150のCS弁体151は、その軸方向右端151aが軸方向右側に向けて先細りするようにテーパ状に形成されており、CS弁150の閉塞状態においてCS弁座10aに対して広い面で接触して着座するようになっている。また、CS弁体151には、軸方向に貫通する連通路151cが形成されている。また、CS弁体151の軸方向右端面はCS弁体151の軸方向左端面よりも若干小さくなっている。
【0051】
本実施例2の制御流体供給室14は、凹部10dと連通しており、制御流体供給室14には、スプリング17に代えてCS弁体151を軸方向右方、すなわちCS弁150の閉弁方向に付勢する付勢手段としてのベローズ18が配設されている。ベローズ18は、その軸方向左端が凹部10dを閉塞する蓋部材161に略密封状に固定されており、軸方向右端がCS弁体151の軸方向左端面に略密封状に固定されており、内部に空間S1が形成されている。また、空間S1には、連通路151cを介して吸入流体供給室13と連通しており、吸入流体供給室13内の吸入流体が空間S1内に流入している。すなわち、ベローズ18は、CS弁150の閉塞状態において空間S1と制御流体供給室14とを密封状に区画している。尚、ベローズ18には、軸方向に付勢するスプリングが組み込まれていてもよい。すなわち、ベローズ18の有効受圧面積A’はCS弁体151の軸方向右側の有効受圧面積B’よりも若干大きく形成されている(A’>B’)。
【0052】
次いで、容量制御弁V1の動作、主にCS弁150の開閉動作について説明する。
【0053】
先ず、容量制御弁V1の非通電状態について説明する。図4および図5に示されるように、容量制御弁Vは、非通電状態において、CS弁体151がベローズ18の付勢力により軸方向右方へと押圧されることで、CS弁体151の軸方向右端151aがCS弁座10aに着座し、CS弁150が閉塞されている。
【0054】
このとき、CS弁体151には、軸方向右方に向けてベローズ18の付勢力(Fbel)と、CS弁体151の軸方向左端面に対する流体の圧力による力(FP1)が作用し、軸方向左方に向けてCS弁体151の軸方向右側面に対する流体の圧力による力(FP2)が作用している。すなわち、右向きを正として、CS弁体151には、力Frod=F +FP1-FP2が作用している。
【0055】
詳しくは、CS弁体151の軸方向左側の有効受圧面積A’は軸方向右側の有効受圧面積B’よりも若干大きく形成されているので、CS弁体151の軸方向左端面に対する流体の圧力による力(FP1)はCS弁体151の軸方向右側面に対する流体の圧力による力(FP2)よりも若干大きくなっている(FP1>FP2)。これによれば、空間S1内の圧力と吸入流体供給室13内の圧力とに瞬間的に僅かに圧力差が生じてもCS弁150の閉塞状態を維持しやすい。
【0056】
次に、容量制御弁V1の通電状態について説明する。図4及び図6に示されるように、容量制御弁V1は、通電状態、すなわち通常制御時、いわゆるデューティ制御時において、ソレノイド80に電流が印加されることにより発生する電磁力(Fsol)が力Fro を上回る(Fsol>Frod)と、可動鉄心84が軸方向左側、すなわちセンタポスト82へ向けて引き寄せられ、可動鉄心84に固定されたロッド52およびCS弁体151が軸方向左方へ共に移動することにより、CS弁体151の軸方向右端151aがバルブハウジング10のCS弁座10aから離間し、CS弁150が開放されている。
【0057】
このように、CS弁体151の動作方向側に形成された空間S1に吸入流体が流入しているので、CS弁150を閉塞状態から開放状態とするときにCS弁体151に作用する抗力を小さくして、CS弁体151を即座に動作させることができる。
【0058】
また、空間S1とPcポート12とはベローズ18により略密封状に区画されているので、CS弁150を閉塞状態において空間S1内に制御流体が流入することが防止される。言い換えれば、CS弁150を閉塞状態において空間S1内に吸入流体を維持できるので、CS弁150を閉塞状態から開放状態とする際にCS弁体151に作用する抗力を確実に小さくできる。また、空間S1とPcポート12とを区画するベローズ18は、付勢手段としての機能を兼ねているので、容量制御弁V1を簡便な構成とすることができる。
【0059】
尚、本実施例2では、ベローズ18が空間S1とPcポート12とを区画する機能と、付勢手段としての機能とを兼ねている形態を例示したが、CS弁体151を閉弁方向に付勢する付勢手段を別個に有していれば、ベローズ18が付勢力を有していなくてもよい。
【実施例3】
【0060】
実施例3に係る容量制御弁につき、図7図9を参照して説明する。尚、前記実施例1と同一構成で重複する構成の説明を省略する。
【0061】
図7および図8に示されるように、CS弁体251は、バルブハウジング210のCS弁座210aに接離可能な大径部251Aと、大径部251Aの中央部から軸方向右方に突出する筒状の小径部251Bと、を備え、小径部251Bにロッド252の軸方向左端が圧入固定されている。
【0062】
また、本実施例3のバルブハウジング210は、CS弁座210aよりも軸方向左側にPsポート11が形成され、CS弁座210aよりも軸方向右側にPcポート12が形成されている。また、バルブハウジング210におけるCS弁座210aよりも軸方向左方、すなわちCS弁体251の動作方向側には、凹部210dと蓋部材216とCS弁体251とにより区画された空間S2が形成されており、この空間S2は吸入流体供給室13として機能している。また、バルブハウジング210は、制御流体供給室14と吸入流体供給室13との間にCS弁座210aが形成されている。また空間S2には、CS弁体251を軸方向右側、すなわちCS弁座210aへ向けて付勢する付勢手段としてのスプリング217が配設されている。
【0063】
次いで、容量制御弁V2の動作、主にCS弁250の開閉動作について説明する。
【0064】
先ず、容量制御弁V2の非通電状態について説明する。図7および図8に示されるように、容量制御弁Vは、非通電状態において、CS弁体251がスプリング217の付勢力により軸方向右方へと押圧されることで、CS弁体251における大径部251Aの軸方向右端251aがCS弁座210aに着座し、CS弁250が閉塞されている。詳しくは、CS弁座210aのエッジ部分にテーパ状のCS弁体251の軸方向右端251aが着座するようになっている。
【0065】
このとき、CS弁体251には、軸方向右方に向けてスプリング217の付勢力(F )と、CS弁体251の軸方向左端面に対する吸入流体の圧力による力(FP1)が作用し、軸方向左方に向けてCS弁体251の軸方向右側面に対する制御流体の圧力による力(FP2)が作用している。すなわち、右向きを正として、CS弁体251には、力Frod=Fsp+FP1-FP2が作用している。
【0066】
次に、容量制御弁Vの通電状態について説明する。図7及び図9に示されるように、容量制御弁V2は、通電状態、すなわち通常制御時、いわゆるデューティ制御時において、ソレノイド80に電流が印加されることにより発生する電磁力(Fsol)が力Frodを上回る(Fsol>Frod)と、可動鉄心84が軸方向左側、すなわちセンタポスト82へ向けて引き寄せられ、可動鉄心84に固定されたロッド252およびCS弁体251が軸方向左方へ共に移動することにより、CS弁体251の軸方向右端251aがバルブハウジング210のCS弁座210aから離間し、CS弁250が開放されている。
【0067】
このように、CS弁体251の動作方向側に形成された空間S2に吸入流体が流入しているので、CS弁250を閉塞状態から開放状態とするときにCS弁体251に作用する抗力を小さくして、CS弁体251を即座に動作させることができる。また、CS弁体251の軸方向右側面に対して制御流体が作用しているので、CS弁体251の軸方向左右側面に作用する吸入流体と制御流体との圧力差によりCS弁体251を軸方向左方に即座に動作させやすい。
【0068】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0069】
例えば、前記実施例では、CS弁体はソレノイド80のコイル86に貫通配置されるロッドと別部材から構成される形態を例示したが、これに限らず、CS弁体とロッドとが一体に構成されていてもよい。
【0070】
また、前記実施例1では、バルブハウジングの内周面にCS弁座とガイド孔とが一体に形成されるものとして説明したが、これに限らず、CS弁座を有するバルブハウジングとガイド孔を有するバルブハウジングとが別体に設けられていてもよい。
【0071】
また、ガイド部は、バルブハウジングに形成されるものに限らず、例えばセンタポスト82の挿通孔82cの一部に形成されていてもよい。
【0072】
また、前記実施例では付勢手段が空間内に配設される形態を例示したが、ソレノイド側など空間以外の場所に配設されていてもよい。
【0073】
また、前記実施例1,2では、CS弁体に形成された連通路を通じてPsポートが連通する形態を例示したが、これに限られず、バルブハウジングに連通路を形成してもよい。また、連通路の構成を省略して、空間を構成するバルブハウジングや蓋部材に対して容量可変型圧縮機の吸入室と連通する別のPsポートを形成してもよい。
【符号の説明】
【0074】
9 固定オリフィス
10 バルブハウジング
10a CS弁座
10b ガイド孔
11 Psポート
12 Pcポート
13 吸入流体供給室
14 制御流体供給室
17 スプリング(付勢手段)
18 ベローズ(付勢手段)
50 CS弁
51 CS弁体
51c 連通路
80 ソレノイド
82 センタポスト
84 可動鉄心
86 コイル
150 CS弁
151 CS弁体
151c 連通路
210 バルブハウジング
210a CS弁座
217 スプリング(付勢手段)
250 CS弁
251 CS弁体
A,A’,B,B’ 有効受圧面積
Pc 制御圧力
Pd 吐出圧力
Ps 吸入圧力
S,S1,S2 空間
V,V1,V2 容量制御弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9