IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 太陽誘電株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-セキュリティシステム 図1
  • 特許-セキュリティシステム 図2
  • 特許-セキュリティシステム 図3
  • 特許-セキュリティシステム 図4
  • 特許-セキュリティシステム 図5
  • 特許-セキュリティシステム 図6
  • 特許-セキュリティシステム 図7-1
  • 特許-セキュリティシステム 図7-2
  • 特許-セキュリティシステム 図8
  • 特許-セキュリティシステム 図9
  • 特許-セキュリティシステム 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】セキュリティシステム
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/86 20060101AFI20240408BHJP
   G01S 13/87 20060101ALI20240408BHJP
   G01S 13/89 20060101ALI20240408BHJP
   G01V 3/12 20060101ALI20240408BHJP
   G08B 25/00 20060101ALI20240408BHJP
   H04N 7/18 20060101ALI20240408BHJP
   G01S 7/04 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
G01S13/86
G01S13/87
G01S13/89
G01V3/12 A
G08B25/00 510M
H04N7/18 D
G01S7/04
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021519428
(86)(22)【出願日】2020-05-11
(86)【国際出願番号】 JP2020018874
(87)【国際公開番号】W WO2020230766
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-04-10
(31)【優先権主張番号】P 2019091697
(32)【優先日】2019-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井川 泉
(72)【発明者】
【氏名】砂川 隆一
(72)【発明者】
【氏名】三木 政志
(72)【発明者】
【氏名】芳賀 和憲
【審査官】渡辺 慶人
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-146257(JP,A)
【文献】特表2011-503597(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0291148(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102565794(CN,A)
【文献】特表2007-517275(JP,A)
【文献】特開2018-013448(JP,A)
【文献】特開平11-083996(JP,A)
【文献】特開平10-282247(JP,A)
【文献】特開平11-203569(JP,A)
【文献】特開2018-156586(JP,A)
【文献】特開2010-156697(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0270366(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/42
13/00 - 13/95
G01V 1/00 - 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の人が通行可能な監視対象空間を仕切る構造物の裏側に間隔を隔てて離散的に配置され、各々の検知範囲を統合した範囲が前記監視対象空間の全体を網羅する、複数のミリ波センサと、
前記複数のミリ波センサの出力データを合成した合成データに基づいて、前記監視対象空間内に存在する検査対象物の位置を検出するセンサデータ処理部と、
所定位置から前記監視対象空間を撮影するカメラと、
前記センサデータ処理部により検出される前記検査対象物の位置に対応する、前記カメラが撮影する映像上の位置にマーキングを施した映像を生成する映像データ処理部と、
前記映像データ処理部が生成した映像を表示する表示装置と、を備えることを特徴とするセキュリティシステム。
【請求項2】
前記映像データ処理部は、前記センサデータ処理部により検出される前記検査対象物の前記位置が前記カメラの設置位置に近いほどサイズが大きくなるマーカを前記カメラが撮影する映像に重畳して前記映像を生成することを特徴とする請求項1に記載のセキュリティシステム。
【請求項3】
前記映像データ処理部は、前記カメラが撮影する映像上で、前記センサデータ処理部により検出される前記検査対象物の前記位置に対応する前記映像上の位置に映る人物を特定し、該人物が強調される前記映像を生成することを特徴とする請求項1に記載のセキュリティシステム。
【請求項4】
前記センサデータ処理部は、前記合成データを入力とし、前記監視対象空間内に存在する物体の各々について前記検査対象物である確からしさを示す尤度を求め、該尤度が基準値を超える物体の位置を出力するように学習された検出器を用いて、前記監視対象空間内に存在する前記検査対象物の位置を検出することを特徴とする請求項1に記載のセキュリティシステム。
【請求項5】
前記センサデータ処理部は、前記複数のミリ波センサの各々の前記出力データを光無線通信により受信し、
前記映像データ処理部は、前記カメラによって撮影された前記映像の映像データを光無線通信により受信する、
ことを特徴とする請求項1に記載のセキュリティシステム。
【請求項6】
前記センサデータ処理部および前記映像データ処理部は、
前記カメラのフレーム周期に一致する周期、フレーム周期の1/2、またはフレーム周期の1/3を基準とした所定周期で、前記検査対象物の位置の検出および前記映像の生成を含む処理を繰り返し実行する、
ことを特徴とする請求項1に記載のセキュリティシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、セキュリティシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、テロ防止などの目的で例えば空港などのハードターゲットにおけるセキュリティ対策の強化が進められている。従来のセキュリティ対策は、X線検査や目視による手荷物検査などが主流である。ここで問題となるのが、X線検査や目視による手荷物検査では一人ひとりの検査に時間がかかり、人の滞留や混雑を発生させてしまうことである。そこで、検査による人の滞留を緩和させるアプローチの一つとして、例えば特許文献1や非特許文献1に示すようなウォークスルータイプの危険物検知装置が提案されている。特に非特許文献1の危険物検知装置は移動式のため、比較的警備の薄いソフトターゲットを対象としたセキュリティ対策を強化するためにも有効な手段として期待されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】特表2001-521157号公報
【0004】
【文献】“EVOLV EDGE TM WEAPON AND BOMB DETECTION | NO LINES AUTOMATED AND CONSISTENT SCREENING”,パンフレット,[online],[平成31年4月25日検索],インターネット<https://evolvtechnology.com/wp-content/uploads/EvolvEdge_Brochure_1Up-B.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ウォークスルータイプの危険物検知装置は、一人ずつ順番にゲートを通過させて検査を行うため、一人ひとりの検査時間は短縮されるとしても、順番待ちによる混雑が発生する懸念がある。また、ウォークスルータイプの危険物検知装置では、ゲートを通過する人に対し検査が行われていることを意識させてしまうため、圧迫感を与えることになる。
【0006】
本発明は、こうした実情に鑑みてなされたものであり、検査が行われていることを意識させずに同時に多くの人を対象とした検査を行うことができ、人に圧迫感を与えず、検査に伴う混雑を緩和できるセキュリティシステムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態のセキュリティシステムは、複数のミリ波センサと、センサデータ処理部と、カメラと、映像データ処理部と、表示装置と、を備える。複数のミリ波センサは、複数の人が通行可能な監視対象空間を仕切る構造物の裏側に間隔を隔てて離散的に配置され、各々の検知範囲を統合した範囲が前記監視対象空間の全体を網羅する。センサデータ処理部は、前記複数のミリ波センサの出力データを合成した合成データに基づいて、前記監視対象空間内に存在する検査対象物の位置を検出する。カメラは、所定位置から前記監視対象空間を撮影する。映像データ処理部は、前記センサデータ処理部により検出される前記検査対象物の位置に対応する、前記カメラが撮影する映像上の位置にマーキングを施した映像を生成する。表示装置は、前記映像データ処理部が生成した映像を表示する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態のセキュリティシステムの利用例を説明する図であり、セキュリティシステムが導入された施設の平面図である。
図2図2は、実施形態のセキュリティシステムの利用例を説明する図であり、図1のA-A線に沿った縦断面図である。
図3図3は、実施形態のセキュリティシステムの構成例を示すブロック図である。
図4図4は、センサデータ処理部の構成例を示すブロック図である。
図5図5は、映像データ処理部の構成例を示すブロック図である。
図6図6は、監視映像の一例を示す図である。
図7-1】図7-1は、監視映像の一例を示す図である。
図7-2】図7-2は、監視映像の一例を示す図である。
図8図8は、映像データ処理部の他の構成例を示すブロック図である。
図9図9は、監視映像の一例を示す図である。
図10図10は、実施形態のセキュリティシステムの処理手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら、本発明に係るセキュリティシステムの具体的な実施形態について詳細に説明する。本実施形態のセキュリティシステムは、複数の人が通行可能な空間を対象としてミリ波センサを用いた検査対象物の監視を行うシステムである。空間は、例えば、三次元空間である。以下、空間が三次元空間である場合を一例として説明する。監視の対象となる三次元空間(以下、これを「監視対象空間」と呼ぶ)は、例えば、空港などのテロの標的となり得る施設などに設定される。例えば本実施形態のセキュリティシステムを空港に導入する場合、空港ロビーからゲートのある保安区画に繋がるエリアなど、不特定多数の人が通過するエリアを監視対象空間として設定することが有効である。
【0010】
本実施形態のセキュリティシステムによる監視対象空間は、空港に限らず、例えばショッピングモールやコンサート会場、学校、教会など、多くの人が集まる施設に設定してもよい。これらの施設もテロの標的となり易いので、本実施形態のセキュリティシステムを導入することの有用性が高い。テロ対策の用途で本実施形態のセキュリティシステムを導入する場合、検査対象物は、銃器、火器、刃物、爆発物などである。
【0011】
その他、本実施形態のセキュリティシステムは、テロ対策以外にも、例えば企業活動が行われるオフィスビルなどにおける情報漏洩対策としても有効である。すなわち、企業活動が行われるオフィスビルなどにおいては、機密情報の漏洩を防止する目的で、カメラ付き携帯電話機やスマートフォンなどの持ち込みを禁止している場合がある。このとき、オフィスビルを訪問する全ての人を対象に手荷物検査などを行うと混雑を招く虞がある。そこで、企業活動が行われるオフィスビルに本実施形態のセキュリティシステムを導入し、オフィスビルのエントランスなどを監視対象空間として、カメラ付き携帯電話機やスマートフォンなどの持ち込みを監視することが有効となる。
【0012】
本実施形態のセキュリティシステムは、検査対象物を正確に見つけ出すことを目的とするものではなく、検査対象物を所持していると疑われる人物を特定し、その人物を警備員などに伝えることを目的とする。検査対象物を所持していると疑われる人物を警備員に伝えることができれば、警備員がその人物を目視による身体検査や手荷物検査、X線検査などを行う場所に誘導し、その人物が実際に検査対象物を所持しているかどうかを詳細に検査することができる。この場合、検査対象物を所持していると疑われる人物以外は自由が拘束されず、例えば空港の保安区画などにそのまま入ることができる。このように、本実施形態のセキュリティシステムでは、監視対象空間に存在する複数の人を対象として簡易的な検査を行い、検査対象物を所持していると疑われる人物を特定してその人物のみを詳細検査に誘導させる構成であるため、従来技術で懸念される検査に伴う混雑を緩和することができる。
【0013】
また、本実施形態のセキュリティシステムは、上述の監視対象空間を仕切る壁面パネルや天井パネルなどの構造物の裏側に複数のミリ波センサを離散的に配置し、これら複数のミリ波センサの出力データを用いて監視対象空間の監視を行う構成である。このため、監視対象空間内に存在する人に対し検査が行われていることを意識させることがなく、圧迫感を与えることがない。以下では、例えば空港などの保安区画を有する施設において、保安区画に繋がるエリアを監視対象空間として設定した例を想定して、本実施形態のセキュリティシステムを詳しく説明する。
【0014】
図1および図2は、本実施形態のセキュリティシステムの利用例を説明する図であり、図1は、セキュリティシステムが導入された施設の平面図、図2は、図1のA-A線に沿った縦断面図である。図1および図2に示す例では、監視対象空間100が、施設の保安区画110に繋がるエリアに設定されている。保安区画110とは、安全性を確保するために警備員200が滞在する区画である。
【0015】
監視対象空間100の境界となる壁面パネル101や天井パネル102などの構造物の裏側には、複数のミリ波センサ10が離散的に配置されている。ミリ波センサ10は、例えば24GHz~100GHzなどの周波数帯の電波を前方に照射し、前方の物体で反射された反射波を受信した結果に基づいて、物体までの距離や角度、反射強度などの情報を取得するセンサである。なお、一般的にミリ波とは30GHz~300GHzの周波数帯の電磁波であるが、本実施形態ではミリ波に近いマイクロ波(24GHz以上)の電波を扱うものも含めてミリ波センサ10と呼ぶ。また、電波を照射せずに物体から放射されるミリ波を受信するパッシブ型のミリ波センサ10もあり、これを利用してもよいが、本実施形態では電波を照射して反射波を受信するアクティブ型のミリ波センサ10を用いることを想定する。
【0016】
複数のミリ波センサ10は、個々のセンサの検知範囲を統合することで監視対象空間100の全体を網羅する大きな検知範囲が生成されるように、監視対象空間100の境界となる壁面パネル101や天井パネル102などの構造物の裏側に離散的に配置されている。個々のミリ波センサ10の各々は、検知方向が監視対象空間100側を向くように壁面パネル101や天井パネル102の裏側に設置され、監視対象空間100内からはこれらミリ波センサ10を視認できないようになっている。なお、図1の破線の四角は、天井パネル102の裏側に設置されたミリ波センサ10の床面への投影位置を示している。
【0017】
壁面パネル101や天井パネル102の裏側に設置するミリ波センサ10の個数は、監視対象空間100の大きさと個々のミリ波センサ10の検知範囲との関係から、個々のミリ波センサ10の検知範囲を統合することで監視対象空間100の全体を網羅できる数とすればよい。
【0018】
監視対象空間100と保安区画110との間には、図1に示すように、監視対象空間100を撮影する監視カメラ20と、この監視カメラ20の映像をベースに生成される後述の監視映像を表示する液晶ディスプレイなどの表示装置30とが設置されている。監視カメラ20は、カメラの一例である。監視映像は、映像の一例である。図1では、2つの監視カメラ20と2つの表示装置30が設置されている例を示しているが、監視カメラ20と表示装置30の数は任意である。
【0019】
表示装置30に表示される監視映像は、保安区画110内に滞在する警備員200によって参照される。警備員200がこの監視映像を参照し、検査対象物を所持していると疑われる人物を発見した場合、その人物が保安区画110に入る前にその人物を詳細検査エリア120へと誘導する。そして、この詳細検査エリア120にて、目視による身体検査や手荷物検査、X線検査などが行われる。
【0020】
図3は、本実施形態のセキュリティシステムの構成例を示すブロック図である。本実施形態のセキュリティシステムは、図3に示すように、上述の複数のミリ波センサ10、監視カメラ20および表示装置30のほかに、複数のミリ波センサ10の出力データを処理するセンサデータ処理部40と、監視カメラ20の映像データを処理する映像データ処理部50とを備える。複数のミリ波センサ10の各々は、光無線通信により出力データをセンサデータ処理部40へ送信する。すなわち、複数のミリ波センサ10の各々とプロセッサとは、光無線通信により通信可能に接続されている。監視カメラ20は、光無線通信により映像データを映像データ処理部50へ送信する。すなわち、監視カメラ20とプロセッサとは、光無線通信により通信可能に接続されている。
【0021】
センサデータ処理部40と映像データ処理部50は、プロセッサによって実現される機能部である。例えば、CPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)などの汎用プロセッサが所定のプログラムを実行することにより、これらセンサデータ処理部40や映像データ処理部50を実現することができる。また、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などの専用のプロセッサを用いてこれらセンサデータ処理部40や映像データ処理部50を実現してもよい。
【0022】
センサデータ処理部40は、上述の複数のミリ波センサ10の出力データを合成した合成データに基づいて、監視対象空間100内に存在する検査対象物の位置を検出する。本実施形態では、センサデータ処理部40は、検査対象物の三次元位置を検出する場合を一例として説明する。センサデータ処理部40の構成例を図4に示す。センサデータ処理部40は、例えば図4に示すように、データ合成部41と、検出器42とを備える。
【0023】
データ合成部41は、上述の複数のミリ波センサ10の出力データを合成し、監視対象空間100の全体に対するセンシングデータに相当する合成データを生成する。複数のミリ波センサ10の各々の出力データは、各ミリ波センサ10の設置位置から監視対象空間100内の検知範囲をセンシングしたセンシングデータである。ここで、複数のミリ波センサ10の各々の設置位置は既知であるため、ミリ波センサ10の設置位置に基づいて監視対象空間100内の検知範囲を特定することができ、各ミリ波センサ10の出力データが監視対象空間100内のどの部分をセンシングしたセンシングデータであるかが分かる。したがって、複数のミリ波センサ10の各々の設置位置に基づいて各ミリ波センサ10の出力データを合成することにより、監視対象空間100の全体に対するセンシングデータに相当する合成データを生成することができる。
【0024】
検出器42は、データ合成部41が生成した合成データを入力とし、監視対象空間100内に存在する物体の各々について検査対象物である確からしさを示す尤度を求めて、尤度が基準値を超える物体の三次元位置を出力する。この検出器42には、例えば深層学習(Deep Learning)により学習されたDNN(Deep Neural Network)などを用いることができる。DNNは、入力層と出力層との間に多段の中間層を持つニューラルネットワークである。検出器42を構成するDNNは、学習データに教師ありデータを用いた逆誤差伝播法によってネットワークパラメータ(各層における重みやバイアス)を逐次更新することで、監視対象空間100内に存在する物体のうち、検査対象物である尤度が基準値を超える物体の三次元位置を出力するように学習される。
【0025】
この場合、学習データとしては、監視対象空間100内に検査対象物が存在するときにデータ合成部41が生成する合成データに対して検査対象物の三次元位置を示すラベルを付与したものと、監視対象空間100内に検査対象物が存在しないときにデータ合成部41が生成する合成データに対して出力なしを示すラベルを付与したものとが多数用意され、検出器42を構成するDNNの学習に用いられる。これらの学習用データは、例えば、本実施形態のセキュリティシステムを実際に運用する前に試験的に稼働させ、様々な状況で合成データを生成することにより作成することができる。検出器42が出力する監視対象空間100内の検査対象物と推定される物体の三次元位置の情報は、映像データ処理部50に入力される。
【0026】
映像データ処理部50は、監視カメラ20が撮影する監視対象空間100の映像上で、センサデータ処理部40の検出器42から出力される三次元位置、すなわち、監視対象空間100内の検査対象物の三次元位置に対応する、監視映像上の位置に、マーキングを施して、表示装置30に表示する監視映像を生成する。映像データ処理部50の構成例を図5に示す。映像データ処理部50は、例えば図5に示すように、座標変換部51と、マーカ生成部52と、監視映像生成部53とを備える。
【0027】
座標変換部51は、センサデータ処理部40の検出器42から出力される三次元位置、すなわち、監視対象空間100内の検査対象物と推定される物体の三次元位置を、監視カメラ20が撮影する監視対象空間100の映像の二次元座標系における位置(二次元位置)に座標変換する。監視対象空間100を撮影する監視カメラ20の位置、向き、画角などは固定であるため、監視対象空間100内の三次元位置と監視カメラ20の映像上の各画素位置(二次元位置)との対応関係は一意に定まり、この対応関係は座標変換式で表すことができる。座標変換部51は、この座標変換式を用いて、監視対象空間100内の検査対象物と推定される物体の三次元位置を、監視カメラ20の映像の二次元位置に座標変換する。
【0028】
マーカ生成部52は、センサデータ処理部40の検出器42から出力される三次元位置と、既知の値である監視カメラ20の設置位置とに基づいて、監視カメラ20から監視対象空間100内の検査対象物と推定される物体の三次元位置までの距離を算出する。そして、マーカ生成部52は、算出した距離に応じた大きさのマーカ、つまり、監視対象空間100内の検査対象物と推定される物体の三次元位置が監視カメラ20の設置位置に近いほどサイズが大きくなるマーカを生成する。マーカは、監視カメラ20の映像上に重畳したときに目立つ形態で生成されればよく、その形状、色、明るさなどは任意である。
【0029】
監視映像生成部53は、監視カメラ20により撮影された監視対象空間100の映像上で、座標変換部51での座標変換によって得られた位置にマーカ生成部52により生成されたマーカを重畳して監視映像を生成する。監視映像生成部53により生成された監視映像は、表示装置30に表示される。なお、監視対象空間100内に検査対象物が存在せず、センサデータ処理部40の検出器42から三次元位置が出力されない場合は、監視映像生成部53は、監視カメラ20により撮影された監視対象空間100の映像をそのまま表示装置30に出力する。この場合、表示装置30には、監視カメラ20により撮影された監視対象空間100の映像がそのまま表示される。
【0030】
本実施形態のセキュリティシステムにおけるセンサデータ処理部40および映像データ処理部50は、例えば、監視カメラ20のフレーム周期に一致する周期、フレーム周期の1/2、フレーム周期の1/3・・・など、監視カメラ20のフレーム周期を基準とした所定周期で上述の処理を繰り返し実行する。これにより、監視カメラ20により撮影された監視対象空間100の映像の動きに合わせてマーカも動く監視映像が随時生成され、表示装置30に表示される。
【0031】
図6は、表示装置30に表示される監視映像60の一例を示す図である。監視対象空間100内に検査対象物と推定される物体が存在する場合、表示装置30に表示される監視映像60では、図6に示すように、この検査対象物と推定される物体の三次元位置に対応する位置にマーカ70が重畳される。したがって、この監視映像60を参照した警備員200は、監視対象空間100内の人物の中から検査対象物を所持していると疑われる人物90を特定することができ、その人物90を詳細検査エリア120へと誘導して目視による身体検査や手荷物検査、X線検査などを行うことができる。
【0032】
監視カメラ20により撮影された監視対象空間100の映像上では、監視カメラ20の設置位置から見て監視対象空間100の奥行方向に複数の人物が重なるように存在する場合、後ろの人物が前の人物によって遮蔽されて映像上で明確に視認できない。ここで、後ろの人物が検査対象物を所持している場合、検査対象物と推定される物体の三次元位置に対応する映像上の位置にマーカ70を重畳すると、図7-1に示すように、前の人物上にマーカ70が重畳されることもある。
【0033】
しかし、本実施形態では、検査対象物と推定される物体の三次元位置と監視カメラ20との間の距離に応じた大きさのマーカ70を重畳するようにしているので、マーカ70のサイズと映像上の人物の大きさから、マーカ70が重畳された人物が検査対象物を所持していると疑われる人物90であるかどうかを的確に判断することができる。また、図7-1の監視映像60において前の人物に遮蔽されている後ろの人物が、その後、監視カメラ20の位置に近づいたときには、図7-2に示すように、その人物上に比較的大きいサイズのマーカ70が重畳された監視映像60が表示されるので、この人物が検査対象物を所持していると疑われる人物90であると特定することができる。
【0034】
なお、以上はマーキングの一例として、監視カメラ20により撮影された監視対象空間100の映像上にマーカ70を重畳する例を説明したが、マーキングの手法はこれに限らない。例えば、検査対象物と推定される物体の三次元位置に対応する映像上の位置に映る人物を強調させるようにしてもよい。この場合の映像データ処理部50の構成例を図8に示す。図8に示す映像データ処理部50は、上述のマーカ生成部52に代えて人物検出追跡部54を備える。
【0035】
人物検出追跡部54は、センサデータ処理部40の検出器42から検査対象物と推定される物体の三次元位置が出力された場合に、監視カメラ20により撮影された監視対象空間100の映像を解析して人物を検出し、座標変換部51での座標変換によって得られた位置に映る人物を、強調の対象となる人物として特定する。ここで、座標変換部51での座標変換によって得られた位置には、上述のように、前の人物によって遮蔽された人物が存在する場合もあるので、監視カメラ20の映像を繰り返し解析し、座標変換部51での座標変換によって得られた位置に同じ人物が映っていると判断できるときに、その人物を強調の対象となる人物として特定することが望ましい。
【0036】
なお、映像から人物を検出する方法は、例えば、顔特徴などの画像特徴を用いた公知の人物検出アルゴリズムを用いればよい。また、映像のフレーム間で動きのある物体を追跡する公知の物体追跡アルゴリズムを用い、監視カメラ20により撮影された監視対象空間100の映像から強調の対象となる人物を特定した後は、その人物を映像上で追跡するようにしてもよい。この場合は、強調の対象となる人物を特定した後の処理を簡略化することができる。
【0037】
監視映像生成部53’は、監視カメラ20により撮影された監視対象空間100の映像上で、人物検出追跡部54により特定された人物にハイライト加工を施して、その人物を強調した監視映像60を生成し、表示装置30に表示させる。この場合の監視映像60の一例を図9に示す。この監視映像60では、検査対象物と推定される物体の三次元位置に対応する位置に存在する人物がハイライト加工80によって強調されている。したがって、この監視映像60を参照した警備員200は、監視対象空間100内の人物の中から検査対象物を所持していると疑われる人物90を特定することができ、その人物を詳細検査エリア120へと誘導して目視による身体検査や手荷物検査、X線検査などを行うことができる。
【0038】
なお、ハイライト加工80は、監視映像60上で検査対象物を所持していると疑われる人物90を強調できる加工であればよく、例えば、その人物90が映る領域の輝度を高めて際立たせる、その人物90が映る領域の輝度を小刻みに増減させることで点滅効果を持たせる、その人物90が映る領域を所定の色で色付けするなど、任意の方法を用いればよい。
【0039】
次に、図10を参照して本実施形態のセキュリティシステムの動作の流れを説明する。図10は、本実施形態のセキュリティシステムにおいて、センサデータ処理部40および映像データ処理部50により所定周期で繰り返し実行される処理手順を示すフローチャートである。
【0040】
処理が開始されると、まず、センサデータ処理部40のデータ合成部41が、監視対象空間100の境界となる壁面パネル101や天井パネル102の裏側に離散的に配置された複数のミリ波センサ10の出力データを合成し、合成データを生成する(ステップS101)。
【0041】
次に、ステップS101で生成された合成データが、DNNなどにより構成される検出器42に入力される(ステップS102)。検出器42は、合成データを入力とし、監視対象空間100内に存在する物体の各々について検査対象物である確からしさを示す尤度を求め、該尤度が基準値を超える物体の三次元位置を出力するように学習されている。
【0042】
次に、ステップS102で合成データを入力した検出器42から、検査対象物と推定される物体の三次元位置が出力されたか否かが確認される(ステップS103)。ここで、検出器42から検査対象物と推定される物体の三次元位置が出力されない場合は(ステップS103:No)、映像データ処理部50の監視映像生成部53(53’)は、監視カメラ20により撮影された監視対象空間100の映像をそのまま表示装置30に表示させる(ステップS104)。
【0043】
一方、検出器42から検査対象物と推定される物体の三次元位置が出力された場合は(ステップS103:Yes)、映像データ処理部50の座標変換部51が、検出器42から出力された三次元位置を監視カメラ20の映像の二次元座標系における位置(二次元位置)に座標変換する(ステップS105)。そして、監視映像生成部53(53’)が、監視カメラ20の映像上で座標変換部51の座標変換によって得られた位置、すなわち、検査対象物と推定される物体が存在する位置にマーキングを施した監視映像60を生成し、監視映像60を表示装置30に表示させる(ステップS106)。これにより、警備員200がこの監視映像60を参照して、監視対象空間100内の人物の中から検査対象物を所持していると疑われる人物90を特定することができ、その人物90を詳細検査エリア120へと誘導して目視による身体検査や手荷物検査、X線検査などを行うことができる。
【0044】
以上、具体的な例を挙げながら詳細に説明したように、本実施形態のセキュリティシステムにおいては、複数の人が通行可能な空間を監視対象空間100とし、この監視対象空間100を仕切る壁面パネル101や天井パネル102などの構造物の裏側に複数のミリ波センサ10を、間隔を隔てて配置している。そして、これら複数のミリ波センサ10の出力データを合成して合成データを生成し、この合成データに基づいて、監視対象空間100内に存在する検査対象物の位置を検出する。また、監視カメラ20により監視対象空間100を撮影し、監視対象空間100内に存在する検査対象物の位置が検出された場合には、監視カメラ20により撮影された監視対象空間100の映像上で、検査対象物の位置に対応する、映像上の位置に、所定のマーキングを施して監視映像60を生成する。そして、この監視映像60を表示装置30に表示することにより、監視映像60を参照した警備員200などが検査対象物を所持していると疑われる人物を特定できるようにしている。
【0045】
このように、本実施形態のセキュリティシステムは、従来のウォークスルータイプの危険物検知装置のように一人ひとり順番に検査するのではなく、複数の人が通行可能な監視対象空間100を仕切る構造物の裏側に間隔を隔てて配置された複数のミリ波センサ10を用いて、監視対象空間100内に存在する複数の人の中から検査対象物を所持していると疑われる人物を特定できるようにしている。したがって、本実施形態のセキュリティシステムによれば、検査が行われていることを意識させずに同時に多くの人を対象とした検査を行うことができ、人に圧迫感を与えず、検査に伴う混雑を緩和することができる。
【0046】
以上、本発明の具体的な実施形態について説明したが、上述した実施形態は本発明の一適用例を示したものである。本発明は、上述した実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を加えて具体化することができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0047】
10 ミリ波センサ
20 カメラ
30 表示装置
40 センサデータ処理部
41 データ合成部
42 検出器
50 映像データ処理部
51 座標変換部
52 マーカ生成部
53(53’) 監視映像生成部
54 人物検出追跡部
60 監視映像
70 マーカ
80 ハイライト加工
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7-1】
図7-2】
図8
図9
図10