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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】固体電解質組成物
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0565 20100101AFI20240408BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240408BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
H01M10/0565
H01M10/052
H01B1/06 A
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021524466
(86)(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-17
(86)【国際出願番号】 EP2019080674
(87)【国際公開番号】W WO2020099261
(87)【国際公開日】2020-05-22
【審査請求日】2022-10-05
(31)【優先権主張番号】18205752.1
(32)【優先日】2018-11-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】モレーナ, エレナ
(72)【発明者】
【氏名】ハモン, クリスティーネ
(72)【発明者】
【氏名】ペトリッチ, シルヴィア リータ
(72)【発明者】
【氏名】ピアーナ, ジュリア
(72)【発明者】
【氏名】ベラ, フェデリコ
(72)【発明者】
【氏名】ジェバルディ, クラウディオ
【審査官】小川 進
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0288028(US,A1)
【文献】特表2018-522085(JP,A)
【文献】特表2016-500373(JP,A)
【文献】国際公開第2018/019804(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0565
H01M 10/052
H01B 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)2つの鎖末端を有する(パー)フルオロポリオキシアルキレン鎖[鎖(Rpf)]を含む少なくとも1種の(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)であって、少なくとも1つの鎖末端が式(I):
-[CH(J)CHO]na[CHCH(J)O]na’-H (I)
を有する(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)
(式中、
各Jは、独立してH、アリール、直鎖又は分岐アルキルであり、
na及びna’は、互いに同じであるか又は異なり、na+na’が1~50であることを条件としてゼロ又は1~50の整数である);
b)式(II):
-[OCHR (CHCHR -OR (II)
に従う鎖を含むポリ(アルキレン)オキシド
(式中、
及びR のそれぞれは、各存在において互いに同じであるか又は異なり、独立して水素原子であるか又はC-Cアルキル基であり;
jはゼロ又は1~2の整数であり;
及びR のそれぞれは、各存在において互いに同じであるか又は異なり、独立して水素原子であるか又はC~Cアルキル基であり;
nは5~1000の整数である);及び
c)少なくとも1種のリチウム塩;
を含有する、リチウムイオン電池における使用のための固体電解質組成物[組成物(C)]。
【請求項2】
前記鎖(Rpf)が式(II):
-O-D-(CFXz1-O(R)(CFX*)z2-D*-O- (II)
(式中、
z1及びz2は、互いに同じであるか又は異なり、1以上の整数であり;
及びX*は、互いに同じであるか又は異なり、z1及び/又はz2が1より大きい場合にはX及びX*が-Fであることを条件として、-F又は-CFであり;
D及びD*は、互いに同じであるか又は異なり、1~6個の炭素原子を含むアルキレン鎖であり、前記アルキレン鎖は任意選択的に1~3個の炭素原子を含む少なくとも1つのパーフルオロアルキル基で置換されており;
は、
(i) -CFXO-(式中、XはF又はCFである);
(ii) -CFXCFXO-(式中、Xは各存在において同じであるか又は異なり、少なくとも1つのXが-Fであることを条件としてF又はCFである);
(iii) -CFCFCWO-(式中、各Wは、互いに同じであるか又は異なり、F、Cl、Hである);
(iv) -CFCFCFCFO-;
(v) -(CF-CFZ-O-(式中、jは0~3の整数であり、Zは一般式-O-R(f-a)-Tの基であり、R(f-a)は0~10個の繰り返し単位の数を含むフルオロポリオキシアルキレン鎖であり、前記繰り返し単位は、Xのそれぞれが独立してF又はCFである-CFXO-、-CFCFXO-、-CFCFCFO-、-CFCFCFCFO-の中から選択され、Tは、C~Cパーフルオロアルキル基である)
からなる群から独立して選択される繰り返し単位を含む
の鎖である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(R)が下記式:
(R-IIA) -[(CFCFO)a1(CFO)a2]-
(式中、
- a1及びa2は、独立して、前記鎖(R )の数平均分子量が400~10,000であるような0以上の整数である);
(R-IIB) -[(CFCFO)b1(CFO)b2(CF(CF)O)b3(CFCF(CF)O)b4]-
(式中、
- b1、b2、b3、b4は、独立して、前記鎖(R )の数平均分子量が400~10,000であるような0以上の整数である);
(R-IIC) -[(CFCFO)c1(CFO)c2(CF(CFcwCFO)c3]-
(式中、
- cwは1又は2であり;
- c1、c2、及びc3は、独立して、前記鎖(R )の数平均分子量が400~10,000であるように選択される0以上の整数である);
(R-IID) -[(CFCF(CF)O)]-
(式中、
- dは、前記鎖(R )の数平均分子量が400~10,000であるような0より大きい整数である);
(R-IIE) -[(CFCFC(Hal*)O)e1-(CFCFCHO)e2-(CFCFCH(Hal*)O)e3]-
(式中、
- Hal*は、各存在において互いに同じであるか又は異なり、フッ素原子及び塩素原子から選択されるハロゲンであり;
- e1、e2、及びe3は、互いに等しいか又は異なり、独立して、(e1+e2+e3)の和が2~300に含まれるような0以上の整数である)
の鎖から選択される、請求項2に記載の組成物(C)。
【請求項4】
前記少なくとも1つの鎖末端が式(I-a)、(I-b)、(I-c):
-(CHCHO)j1-H (I-a)
-[CHCH(CH)O]j2-H (I-b)
-[(CHCHO)j3-(CHCH(CH)O)j4j(x)-H (I-c)
(これらの式中、j1及びj2は、それぞれ独立して1~50の整数であり;
j3、j4、及びj(x)は、j3とj4の合計が2~50であるような1~25の整数である)
のうちの1つに従う、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項5】
前記ポリ(アルキレンオキシド)鎖が式(II-A):
CH-[OCHCHn1-OCH (II-A)
(式中、n1は、5~500の整数である)
に従う、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項6】
前記ポリ(アルキレンオキシド)鎖が式(II-B):
CH-(CO)nP(CHCHO)nE-OCH (II-B)
(式中、nEは、1~100の整数であり、nPは、1~120の整数であり、式-CO-の単位は、単位-CHCH(CH)O-、-CH(CH)CHO-、又は-CHCHCHO-であってもよい)
に従う、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項7】
前記少なくとも1種のリチウム塩が、LiPF、LiBF、LiClO、リチウムビス(オキサラト)ボラート(「LiBOB」)、LiN(CFSO(LiTFSI)、LiN(CSO、M[N(CFSO)(RSO)](式中、RはC、C、CFOCFCFである)、LiAsF、LiC(CFSOリチウム4,5-ジシアノ-2-(トリフルオロメチル)イミダゾール(LiTDI)、及びそれらの組み合わせ又は混合物を含む群から選択される、請求項1~6のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項8】
前記少なくとも1種のリチウム塩が5~30重量%の量である、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項9】
前記少なくとも1種の(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)が10~50重量%の量である、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物(C)。
【請求項10】
i.前記ポリ(アルキレンオキシド)を融解して融解ポリ(アルキレンオキシド)を得ること;
ii.前記少なくとも1種のリチウム塩と前記少なくとも1種の(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)とを融解ポリ(アルキレンオキシド)の中に溶解させて溶液を得ること;
iii.前記溶液を冷却して前記固体組成物(C)を得ること;
を含む、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物(C)の製造方法。
【請求項11】
i.前記ポリ(アルキレンオキシド)と、前記少なくとも1種のリチウム塩と、前記少なくとも1種の(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)とを、溶媒中に溶解させて溶液を得ること;
ii.前記溶液から前記溶媒を留去して前記固体組成物(C)を得ること;
を含む、請求項1~のいずれか一項に記載の組成物(C)の製造方法。
【請求項12】
前記溶媒がアセトニトリルである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
少なくとも1つのアノードと、少なくとも1つのカソードと、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物(C)を含む固体電解質と、を含むリチウムイオン電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年11月12日出願の欧州特許出願第18205752.1号に基づく優先権を主張するものであり、この出願の全内容はあらゆる目的のために参照により本明細書に援用される。
【0002】
本発明は、特にリチウムイオン電池で使用するための固体ポリマー電解質組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
リチウムイオン電池(LIB)は、自動車産業用の電動工具、ハイブリッド電気自動車、電気自動車、及び日常生活用の携帯機器の商業化への関心の高まりのため、過去数年間で益々発展してきている。
【0004】
電解質は、長寿命且つ高性能のLIBのために重要な構成要素である。電解質は、適切なイオン伝導率を付与することができ、且つ優れた化学的安定性及び電極材料との適合性を維持できる必要がある。実用のためには、電解質のイオン伝導率は室温で10-5S/cmを超えなければならない。更に、電解質は、充電と放電のサイクル中の濃度勾配を回避するために、1に近いLi輸率を有している必要がある。
【0005】
ポリマーに基づく無溶媒電解質である固体ポリマー電解質(SPE)は、現在は液体電解質を含んでいるLIBの、次世代における使用のために益々興味深いものになってきている。液体電解質の置き換えは複数の利点を有している:これによりアノードでより高いエネルギー密度の固体リチウムを使用できるようになり、有毒な溶媒が除去され、サイクル能力が改善され、重いケーシングが不要になる。SPEの利点にも関わらず、これらの導電率は電池における使用のためには不十分である。その結果、過去20年にわたって、導電率の改善に向けて相当な努力がなされてきた。
【0006】
SPEは、通常、2つの成分、すなわちポリマーマトリックスとリチウム塩とから構成され、これらは、イオン伝導率に影響を及ぼす重要な因子である。高いイオン伝導率は、通常ポリマーマトリックスのアモルファス相と関係があり、これはひいてはそのガラス転移温度(T)と関係している。
【0007】
ポリマーマトリックスへの高い溶解度、イオン伝導率、電気化学的安定性、及び解離レベルのため、最も高性能のリチウム塩はリチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(LiTFSI)である。
【0008】
理想的なポリマーマトリックスは、リチウムイオンを溶媒和する強い能力を有し、周囲温度でゴム状態を維持するための低いTを有し、且つ液体電解質系の導電率と実質的に同様のリチウムイオン導電率(10-3S/cm)を保持するために、動作温度範囲において限定された結晶化度を有する必要がある。
【0009】
ポリ(エチレンオキシド)(PEO)は、リチウムイオンを溶媒和するその固有の能力及び約-67℃という低いTのため、最も有望なポリマーマトリックスであるとみなされてきた。PEOの結晶の融点(約65℃)未満のPEOには結晶ドメインが存在するため、PEOに基づくSPEは高温でのみ動作することができる。
【0010】
PEOに基づく電解質の特性を調整し、結晶融解特性及びガラス転移温度特性をより厳密に制御するために、リチウムイオン移動度を増加させ、動作温度範囲でイオン伝導率を増加させるために精力的な研究が行われてきた。
【0011】
これに関し、多数のポリエーテル系の架橋ポリマー電解質が研究されてきた。例えば、米国特許出願公開第2015/0288028号明細書には、架橋可能なパーフルオロポリエーテル(例えばパーフルオロポリエーテルジメタクリレート、PFPE-DMA)と架橋可能なPEO(例えばポリ(エチレングリコール)ジメタクリレート、PEO-DMA)との架橋生成物と、前記ポリマーに溶解したリチウム塩とを含有する、LIBにおいて使用するための固体ポリマーが開示されている。しかしながら、前記ポリマーは、認識できるほどのイオン伝導率を示さず、前記ポリマーを使用する電池は、十分に機能することは明らかにされなかった。
【0012】
したがって、動作温度範囲において改善されたイオン伝導率を有し、また、特に特定の放電容量に関してLIBの良好な性能ももたらすSPEを提供することが必要であると考えられる。
【発明の概要】
【0013】
第1の態様では、本発明は、
a)2つの鎖末端を有する(パー)フルオロポリオキシアルキレン鎖[鎖(Rpf)]を含む少なくとも1種の(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)であって、少なくとも1つの鎖末端が式(I):
-[CH(J)CHO]na[CHCH(J)O]na’-H (I)
を有する(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)
(式中、
各Jは、独立してH、アリール、直鎖又は分岐アルキルであり、
na及びna’は、互いに同じであるか又は異なり、na+na’が1~50であることを条件としてゼロ又は1~50の整数である);
b)式(II):
-[OCHR (CHCHR -OR (II)
の鎖を含むポリ(アルキレン)オキシド
(式中、
及びR のそれぞれは、各存在において互いに同じであるか又は異なり、独立して水素原子であるか又はC~Cアルキル基であり;
jはゼロ又は1~2の整数であり;
及びR のそれぞれは、各存在において互いに同じであるか又は異なり、独立して水素原子であるか又はC~Cアルキル基、好ましくは-CH基であり;
nは5~1000の整数である);及び
c)少なくとも1種のリチウム塩;
を含有する、固体電解質組成物[組成物(C)]に関する。
【0014】
第2の態様では、本発明は上の組成物(C)の製造方法に関し、前記方法は、
i.前記ポリ(アルキレンオキシド)を融解して融解ポリ(アルキレンオキシド)を得ること;
ii.前記少なくとも1種のリチウム塩と前記少なくとも1種の(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)とを融解ポリ(アルキレンオキシド)の中に溶解させて溶液を得ること;
iii.前記溶液を冷却して前記固体組成物(C)を得ること;
を含む。
【0015】
第3の態様では、本発明は上の組成物(C)の製造方法に関し、前記方法は、
i.前記ポリ(アルキレンオキシド)と、前記少なくとも1種のリチウム塩と、前記少なくとも1種の(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)とを、溶媒中に、好ましくはアセトニトリル中に溶解させて溶液を得ること;
ii.前記溶液から溶媒を留去して前記固体組成物(C)を得ること;
を含む。
【0016】
更なる態様では、本発明は、少なくとも1つのアノードと、少なくとも1つのカソードと、上で定義した組成物(C)を含む、好ましくはこれからなる固体電解質と、を含むリチウムイオン電池(LIB)に関する。
【0017】
出願人は、驚くべきことに、本発明の組成物(C)が、従来技術の架橋ポリエーテル系架橋電解質よりもはるかに大きい、LIBの極めて優れたイオン伝導率及び有意な比放電容量をもたらすことを見出した。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書において、別段の指示がない限り、以下の用語は、以下の意味を有するものとする。
【0019】
用語「(パー)フルオロポリエーテル」は、完全に又は部分的にフッ素化されたポリエーテルを示すことが意図されている。
【0020】
頭字語「PFPE」は、「(パー)フルオロポリエーテル」を表し、名詞として用いられる場合、文脈に依存して、単数形か複数形かのいずれかを意味することを意図する。
【0021】
頭字語「PEO」は「ポリエチレンオキシド」を表す。
【0022】
「EO:Li比」という表現は、ポリ(アルキレンオキシド)中の繰り返し単位、例えばエチレンオキシド部位と、リチウムイオンと間のモル比を示すことが意図されている。
【0023】
表現「平均官能基数(F)」は、ポリマー1分子当たりの官能基の平均数を意味し、当技術分野で公知の方法に従って計算することができる。
【0024】
本明細書において、「組成物(C)」などの式又は式の一部を特定する化合物の名称、記号、又は数字の前後の括弧「(…)」の使用は、これらの名称、記号、又は数字を残りの文から区別し易くすることを目的としているに過ぎず、そのため、前記括弧は、省略することもできる。
【0025】
好ましくは、前記鎖(Rpf)は、式(II):
-O-D-(CFXz1-O(R)(CFX*)z2-D*-O- (II)
(式中、
z1及びz2は、互いに同じであるか又は異なり、1以上の整数であり;
及びX*は、互いに同じであるか又は異なり、z1及び/又はz2が1より大きい場合にはX及びX*が-Fであることを条件として、-F又は-CFであり;
D及びD*は、互いに同じであるか又は異なり、1~6個、好ましくは1~3個の炭素原子を含むアルキレン鎖であり、前記アルキレン鎖は任意選択的に1~3個の炭素原子を含む少なくとも1つのパーフルオロアルキル基で置換されていてもよく;
は、
(i) -CFXO-(式中、XはF又はCFである);
(ii) -CFXCFXO-(式中、Xは各存在において同じであるか又は異なり、少なくとも1つのXが-Fであることを条件としてF又はCFである);
(iii) -CFCFCWO-(式中、各Wは、互いに同じであるか又は異なり、F、Cl、Hである);
(iv) -CFCFCFCFO-;
(v) -(CF-CFZ-O-(式中、jは0~3の整数であり、Zは一般式-O-R(f-a)-Tの基であり、R(f-a)は0~10個の繰り返し単位の数を含むフルオロポリオキシアルケン鎖であり、前記繰り返し単位は、Xのそれぞれが独立してF又はCFである-CFXO-、-CFCFXO-、-CFCFCFO-、-CFCFCFCFO-の中から選択され、Tは、C~Cパーフルオロアルキル基である)
からなる群から独立して選択される繰り返し単位を含み、好ましくはそれからなる)
の鎖である。
【0026】
好ましくは、z1及びz2は、互いに等しいか又は異なり、1~10、より好ましくは1~6、更により好ましくは1~3の整数である。
【0027】
好ましくは、D及びD*は、互いに等しいか又は異なり、式-CH-、-CHCH-、又は-CH(CF)-の鎖である。
【0028】
好ましくは、前記鎖(R)は、以下の式に従う;
(R-I)
-[(CFXO)g1(CFXCFXO)g2(CFCFCFO)g3(CFCFCFCFO)g4]-
(式中、
- Xは、-F及び-CFから独立して選択され;
- X、Xは、互いに同じであるか又は異なり、各存在において独立して-F、-CFであるが、少なくとも1つのXは-Fであることを条件とし;
- g1、g2、g3、及びg4は、互いに同じであるか又は異なり、独立して、g1+g2+g3+g4が2~300、好ましくは2~100の範囲になるような0以上の整数であり、g1、g2、g3、及びg4のうちの少なくとも2つがゼロではない場合には、異なる繰り返し単位は、鎖に沿って概して統計的に分布している)。
【0029】
より好ましくは、鎖(R)は、以下の式の鎖から選択される:
(R-IIA) -[(CFCFO)a1(CFO)a2]-
(式中、
- a1及びa2は、独立して、数平均分子量が400~10,000、好ましくは400~5,000であるような0以上の整数であり;好ましくはa1とa2の両方がゼロではなく、比a1/a2は好ましくは0.1~10に含まれる);
(R-IIB) -[(CFCFO)b1(CFO)b2(CF(CF)O)b3(CFCF(CF)O)b4]-
(式中、
- b1、b2、b3、b4は、独立して、数平均分子量が400~10,000、好ましくは400~5,000であるような0以上の整数であり;好ましくは、b1は0であり、b2、b3、b4は0より大きく、比b4/(b2+b3)は1以上である);
(R-IIC) -[(CFCFO)c1(CFO)c2(CF(CFcwCFO)c3]-
(式中、
- cwは1又は2であり;
- c1、c2、及びc3は、独立して、数平均分子量が400~10,000、好ましくは400~5,000であるように選択される0以上の整数であり;好ましくは、c1、c2及びc3は全て0より大きく、比c3/(c1+c2)は概して0.2より小さい);
(R-IID) -[(CFCF(CF)O)]-
(式中、
- dは、数平均分子量が400~10,000、好ましくは400~5,000であるような0より大きい整数である);
(R-IIE) -[(CFCFC(Hal*)O)e1-(CFCFCHO)e2-(CFCFCH(Hal*)O)e3]-
(式中、
- Hal*は、各存在において互いに同じであるか又は異なり、フッ素原子及び塩素原子から選択されるハロゲン、好ましくはフッ素原子であり;
- e1、e2、及びe3は、互いに等しいか又は異なり、独立して、(e1+e2+e3)の和が2~300に含まれるような0以上の整数である)。
【0030】
更に好ましくは、前記鎖Rは、以下の式(R-III)に従う:
(R-III) -(CFCFO)a1(CFO)a2
(式中、
- a1及びa2は、数平均分子量が、400~10,000の間、好ましくは400~5,000であるような0を超える整数であり;比a1/a2は通常0.1~10の間、より好ましくは0.2~5の間に含まれる)。
【0031】
好ましくは、式(I)の少なくとも1つの鎖末端において、na+na’は1~45、より好ましくは4~45、更に好ましくは4~30である。好ましい実施形態はna+na’が4~15である実施形態である。
【0032】
より好ましくは、前記少なくとも1つの鎖末端は、式(I-a)、(I-b)、(I-c):
-(CHCHO)j1-H (I-a)
-[CHCH(CH)O]j2-H (I-b)
-[(CHCHO)j3-(CHCH(CH)O)j4j(x)-H (I-c)
(これらの式中、j1及びj2は、それぞれ独立して1~50、好ましくは2~50、より好ましくは3~40、更に好ましくは4~15、更に好ましくは4~10の整数であり;
j3、j4、及びj(x)は、j3とj4の合計が2~50、より好ましくは3~40、更に好ましくは4~15、更に好ましくは4~10であるような1~25の整数である)
のうちの1つに従う。
【0033】
指数としてのj3及びj4を有する繰り返し単位は、ランダムに分布していてもよく、又はこれらが並んでブロックを形成していてもよい。
【0034】
前記PFPEは、Solvay Specialty Polymers(Italy)から市販されており、また国際公開第2014/090649号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY S.P.A.)に開示の方法に従って得ることができる。
【0035】
好ましい実施形態によれば、ポリ(アルキレンオキシド)の鎖は式(II-A):
CH-[OCHCHn1-OCH (II-A)
(式中、n1は、5~500、好ましくは6~400、より好ましくは8~300、更に好ましくは10~150の整数である)
を有する。
【0036】
別の実施形態によれば、ポリ(アルキレンオキシド)の鎖は式(II-B):
CH-(CO)nP(CHCHO)nE-OCH (II-B)
(式中、nEは、1~100、好ましくは1~50、より好ましくは1~30の整数であり、nPは、1~120、好ましくは1~80、より好ましくは1~50の整数であり、式-CO-の単位は、単位-CHCH(CH)O-、-CH(CH)CHO-、又は-CHCHCHO-であってもよい)
を有する。
【0037】
好ましくは、前記少なくとも1種のリチウム塩は、LiPF、LiBF、LiClO、リチウムビス(オキサラト)ボラート(「LiBOB」)、LiN(CFSO(「LiTFSI」)、LiN(CSO、M[N(CFSO)(RSO)](式中、RはC、C、CFOCFCFである)、LiAsF、LiC(CFSO、4,5-ジシアノ-2-(トリフルオロメチル)イミダゾール(「LiTDI」)、及びそれらの組み合わせ又は混合物を含む群から選択される。より好ましくは、前記リチウム塩はLiN(CFSO(「LiTFSI」)である。
【0038】
組成物(C)は、好ましくは5~30重量%、より好ましくは10~30重量%、更に好ましくは15~30重量%の範囲の量の前記少なくとも1種のリチウム塩を含有する。
【0039】
組成物(C)は、好ましくは10~50重量%、より好ましくは15~40重量%、更に好ましくは15~30重量%の範囲の量の前記少なくとも1種のPFPEを含有する。
【0040】
前記組成物(C)中の少なくとも1種のリチウム塩の濃度は、EO:Li比に関して表される。前記EO:Li比は、好ましくは10:1~30:1、より好ましくは15:1~20:1の範囲である。
【0041】
前述したように、本発明は、少なくとも1つのアノードと、少なくとも1つのカソードと、好ましくは上で特定した組成物(C)からなる固体電解質とを含むリチウムイオン電池にも関する。
【0042】
アノード(負極)のために適した活性材料は、
- リチウムのホストとして機能する粉末、フレーク、繊維、又は球体(例えばメソカーボンマイクロビーズ)などの形態で典型的には存在している、リチウムを挿入することができる黒鉛状炭素;
- リチウム金属;
- 特には米国特許第6203944号明細書(3M INNOVATIVE PROPERTIES)及び/又は国際公開第00/03444号パンフレット(MINNESOTA MINING)に記載されているものなどのリチウム合金組成物;
- 一般に式LiTi12によって表されるチタン酸リチウム(これらの化合物は一般に、可動イオン、すなわちLiを取り込むと低レベルで物理的に膨張する「ゼロ歪」挿入材料とみなされる);
- 高いLi/Si比のケイ化リチウムとして一般に知られるリチウム-ケイ素合金、特に式Li4.4Siのケイ化リチウム;
- 式Li4.4Geの結晶相を含むリチウム-ゲルマニウム合金;
からなる群から選択される。
【0043】
アノードは、当業者によく知られているであろう添加剤を含むことができる。それらの中でも、とりわけカーボンブラック、グラフェン又はカーボンナノチューブを挙げることができる。当業者に認識されるであろうように、負極は、箔、板、棒状体、ペーストなどの任意の好都合な形態で、又は導電性集電体若しくは他の好適な支持体上に負極材料の塗膜を形成することによって作製された複合体として存在してもよい。
【0044】
リチウム電池の代表的なカソード(正極)材料としては、ポリマーバインダー(PB)、粉末電極材料、導電性付与剤、及び任意選択的な粘度調整剤を含む複合材料が挙げられる。前記導電性付与剤は、カーボンブラック、黒鉛微粉末及び繊維などの炭素質材料、並びにニッケル及びアルミニウムなどの金属の微粉末及び繊維の中から選択することができる。
【0045】
正極のための活性材料は好ましくは、一般式LiMY(式中、Mは、Co、Ni、Fe、Mn、Cr、及びVなどの少なくとも1種の遷移金属種を表し、且つYは、O又はSなどのカルコゲンを表す)で表される金属カルコゲン化物複合体を含む。これらの中でも、一般式LiMO(式中、Mは、前述と同じである)で表されるリチウム系複合金属酸化物を用いることが好ましい。それらの好ましい例としては、LiCoO、LiNiO、LiNiCo1-x(0<x<1)、及びスピネル構造化LiMnを挙げることができる。
【0046】
代替形態として、活性材料は、式M1M2(JO4)1-fのリチウム化又は部分的にリチウム化された遷移金属オキシアニオン系電気活性材料を含んでいてもよい
(式中、
M1はリチウムであり、M1金属の20%未満に相当する別のアルカリ金属で部分的に置換されていてもよく、
M2は、Fe、Mn、Ni、又はそれらの混合物から選択される+2の酸化レベルの遷移金属であり、M2金属の35%未満(0を含む)に相当する+1~+5の酸化レベルの1つ以上の更なる金属で部分的に置き換えられていてもよく、
JO4は、JがP、S、V、Si、Nb、Mo、又はこれらの組み合わせのいずれかである任意のオキシアニオンであり、
Eは、フッ化物、水酸化物、又は塩化物のアニオンであり、
fはJO4オキシアニオンのモル分率であり、通常は0.75~1に含まれる)。
【0047】
上で定義されたようなM1M2(JO4)1-f電気活性材料は、好ましくはホスフェートベースであり、規則正しい又は変性されたカンラン石構造を有してもよい。
【0048】
より好ましくは、活性材料は、式Li(FeMn1-x)PO(式中、0≦x≦1であり、xは、好ましくは1である(すなわち、式LiFePOのリチウム鉄ホスフェートである))のホスフェート系電気活性材料である。
【0049】
ポリマーバインダー(PB)に関しては、好ましくはフッ化ビニリデン(VDF)ポリマーなどの当該技術分野で周知のポリマーを使用することができる。
【0050】
参照により本明細書に組み込まれる任意の特許、特許出願及び刊行物の開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【0051】
本発明は、以下の実験の部に含有される実施例によってより詳細に本明細書で以下に例示されるが;実施例は例示的であるに過ぎず、本発明の範囲を限定するものとして決して解釈されるべきではない。
【実施例
【0052】
材料
リチウムビス(トリフルオロメタン)スルホンイミド(LiTFSI)は、Special Chemから入手した。
ポリ(エチレンオキシド)(PEO):CH-[OCHCHn1-OCH(n1は、a)Mn=150,000及びb)Mn=15,000であるような整数である)は、Mesei Chemから入手した。
【0053】
合成実施例
式:
HO(CHCHO)j1CHCFO(CFCFO)a1(CFO)a2CFCH(OCHCHj1OH
(式中、j1=7であり、比a1/a2=1.2であり、平均数分子量(Mn)=2,200であり、F=1.8である)
に従うPFPE(I)は、国際公開第2014/090649号パンフレットに開示の手順に従って製造した。
【0054】
式:
HO(CH(CH)CHO)j2(CHCHO)j1CH2CF2O(CFCFO)a1(CFO)a2CFCH(OCHCH(OCHCH(CH))j2OH
(式中、j1=8.5であり、j2=4.5であり、比a1/a2=1.2であり、平均数分子量(Mn)=2,900であり、F=1.8である)
に従うPFPE(II)は、国際公開第2014/090649号パンフレットに開示の手順に従って製造した。
【0055】
式:
CH=CH-CO-O(CHCHO)CHCFO(CFCFO)(CFO)CFCH(OCHCHO-CO-CH=CH
(式中、q=4.8であり、n/m=1.3であり、平均数分子量(Mn)=2171である)
に従うPFPE(III)は、それぞれのヒドロキシ末端PFPEから出発して以下の手順に従って製造した。ヒドロキシ末端PFPE(12.4g、0.01当量)を、窒素気流下でヘキサフルオロキシレン(10ml)中に溶解した。次いで、得られた溶液にジイソプロピルアミン(1.61g、0.013当量)を添加した。前記溶液を室温で30分間撹拌し、次いで塩化アクリロイル(0.27g、4.3mmol)を氷浴中に滴下した。H-NMRによる監視で反応が完了した後、溶液を真空下で蒸留してヘキサフルオロキシレンを除去し、反応生成物を蒸留水(50ml×2)で洗浄し、無水MgSOで乾燥し、濾過した。反応生成物(11.4g)が90%の収率で得られた。
【0056】
膜の製造
実施例1
PEO(Mn150,000)、PFPE(I)、及びPFPE(II)を真空下で55℃で一晩乾燥し、乾燥グローブボックスの中で保管した。
【0057】
異なる実施例に応じて、LiTFSIをグローブボックス中のビーカー内でPFPE(I)又はPFPE(II)と混合し、第1の混合物を得た。次いで、PEOを前記第1の混合物に添加し、スパチュラで混合することで粉末を磁気撹拌可能にし、第2の混合物を得た。
【0058】
前記第2の混合物を、融解するまで80℃で1~2時間加熱し、乳鉢で2回機械的に混合し、その後冷却して白色で柔軟なペーストを得た。
【0059】
前記ペーストを、2つのHalar(登録商標)箔の間で60℃、20barで15分間プレスし、その結果175~190μmの厚さの膜を得た。
【0060】
以下の膜1A及び1Bを得た:
【0061】
【0062】
比較の実施例2
PFPE(III)、PEO(Mn15,000)、及びLiTFSIを真空下で55℃で一晩乾燥し、乾燥グローブボックスの中で保管した。
【0063】
LiTFSIをグローブボックス中のビーカー内でPFPE(III)と混合し、第1の混合物を得た。次いで、PEOを前記第1の混合物に添加し、スパチュラで混合することで粉末を磁気撹拌可能にし、第2の混合物を得た。
【0064】
前記第2の混合物を、融解するまで60~70℃で少なくとも3時間加熱し、次いで乳鉢で2回機械的に混合し、その結果均質な溶液を得た。
【0065】
まだ熱いうちに、前記溶液を、テープで作られたスペーサーによって隔てられた2枚のHalar箔の間で、70℃、20barで15分間プレスし、その結果120~160μmの範囲の厚さの膜を得た。
【0066】
前記膜を室温で冷却し、次いで1種以上の光開始剤と混合し、その後窒素の連続流下でUV硬化を行った。
【0067】
光開始剤及びUV時間、すなわち膜をUV光に曝露する時間を変化させることにより、以下の架橋した膜2A~2Cを得た。
【0068】
【0069】
イオン伝導率
表3は、実施例1の膜及び比較の実施例2の膜の80℃でのイオン伝導率(σ80)の値を示している。
【0070】
【0071】
上の結果は、膜1A及び1Bが膜2A~2Cよりも有意に高いイオン伝導率をもたらすことを示している。
【0072】
比放電容量
膜1A、1B、及び2Cを、Li/電解質/LiFePO電池において試験した。使用したパラメータは以下の通りであった:80℃の温度、2Dの放電率、0.33mAhのカソード容量、70%(重量)のLiFePO、20%(重量)のカーボンブラック、及び10%(重量)のPVDFのカソード組成、並びに約2mg/cmの担持量。
【0073】
表4は、20サイクルの2D平均における比放電容量の値を示している。
【0074】
【0075】
上の値から、膜1A及び1Bを用いて作製された電池は、膜2Cなどの架橋した膜を用いて作製された電池よりもはるかに優れた性能を示すという結果が得られる。