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特許7467453一次防錆塗料組成物、一次防錆塗膜付き基板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】一次防錆塗料組成物、一次防錆塗膜付き基板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20240408BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240408BHJP
   C09D 5/10 20060101ALI20240408BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D7/61
C09D5/10
B05D7/24 302Y
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021527634
(86)(22)【出願日】2020-06-23
(86)【国際出願番号】 JP2020024571
(87)【国際公開番号】W WO2020262366
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2019120164
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033628
【氏名又は名称】中国塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡田 昌満
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106634320(CN,A)
【文献】国際公開第2019/088155(WO,A1)
【文献】特開2006-282856(JP,A)
【文献】特開昭61-076556(JP,A)
【文献】特開昭54-048831(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0066928(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108285719(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109294299(CN,A)
【文献】特開2005-068278(JP,A)
【文献】特開2008-001950(JP,A)
【文献】特表2007-508439(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107057513(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107236437(CN,A)
【文献】国際公開第2014/014063(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 183/04
C09D 5/10
C09D 7/61
B05D 7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次防錆塗料組成物であって、
アルキルシリケートおよびアルキルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物であるシロキサン系結合剤(a)と、
亜鉛粉末(b)と、
グラフェン(ただし、無機粉末を被覆しているグラフェンを除く。)、フラーレンおよびカーボンナノチューブから選択される少なくとも1種の炭素系ナノ材料(c)とを含有し、
前記亜鉛粉末(b)100質量部に対する前記炭素系ナノ材料(c)の含有量が、0.0001~0.5質量部であり、
前記一次防錆塗料組成物固形分中の前記亜鉛粉末(b)の含有割合が10~38質量%である
一次防錆塗料組成物(ただし、アクリルラテックスを含む組成物を除く。)。
【請求項2】
前記亜鉛粉末(b)が、鱗片状亜鉛粉末および球状亜鉛粉末を含有し、かつ
前記亜鉛粉末(b)中の前記鱗片状亜鉛粉末の含有割合が3~45質量%である、
請求項1に記載の一次防錆塗料組成物。
【請求項3】
炭素系ナノ材料(c)が、グラフェンを含む請求項1または2に記載の一次防錆塗料組成物。
【請求項4】
基板と、
前記基板表面に形成された、請求項1~3のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物からなる一次防錆塗膜とを有する一次防錆塗膜付き基板。
【請求項5】
基板表面に、請求項1~3のいずれか1項に記載の一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および塗装された前記一次防錆塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程を有する、一次防錆塗膜付き基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一次防錆塗料組成物(ショッププライマー)、一次防錆塗膜付き基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等の大型鉄鋼構造物の建造中の発錆を防止する目的で、鋼板表面に一次防錆塗料が塗装されている。一次防錆塗料としては、ウォッシュプライマー、ノンジンクエポキシプライマー、エポキシジンクリッチプライマー等の有機一次防錆塗料、シロキサン系結合剤および亜鉛粉末を含有する無機ジンク一次防錆塗料が知られている(例えば、特許文献1~4参照)。これらの一次防錆塗料のうち、溶接性に優れた無機ジンク一次防錆塗料が最も広く用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平08-073777号公報
【文献】特開2005-068278号公報
【文献】特表2015-533870号公報
【文献】国際公開第2014/014063号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の無機ジンク一次防錆塗料には、鋼板表面を保護する目的で多量の亜鉛粉末が含まれている。無機ジンク一次防錆塗料の防錆性をさらに向上させることができれば、亜鉛粉末量を減らすことができ、その結果、例えば亜鉛のコストを減らすことができる等の点で有利である。
【0005】
本発明の課題は、従来の無機ジンク一次防錆塗料と比較してより優れた防錆性を有する塗膜を形成することができる一次防錆塗料組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは前記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、下記組成を有する一次防錆塗料組成物により前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、例えば以下の[1]~[6]に関する。
【0007】
[1]アルキルシリケートおよびアルキルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物であるシロキサン系結合剤(a)と、亜鉛粉末(b)と、グラフェン、フラーレンおよびカーボンナノチューブから選択される少なくとも1種の炭素系ナノ材料(c)とを含有する一次防錆塗料組成物。
[2]亜鉛粉末(b)が、鱗片状亜鉛粉末および球状亜鉛粉末から選択される少なくとも1種の亜鉛粉末である前記[1]に記載の一次防錆塗料組成物。
[3]亜鉛粉末(b)100質量部に対する炭素系ナノ材料(c)の含有量が、0.0001~0.7質量部である前記[1]または[2]に記載の一次防錆塗料組成物。
[4]炭素系ナノ材料(c)が、グラフェンを含む前記[1]~[3]のいずれかに記載の一次防錆塗料組成物。
[5]基板と、前記基板表面に形成された、前記[1]~[4]のいずれかに記載の一次防錆塗料組成物からなる一次防錆塗膜とを有する一次防錆塗膜付き基板。
[6]基板表面に、前記[1]~[4]のいずれかに記載の一次防錆塗料組成物を塗装する工程、および塗装された前記一次防錆塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程を有する、一次防錆塗膜付き基板の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来の無機ジンク一次防錆塗料と比較してより優れた防錆性を有する塗膜を形成可能な一次防錆塗料組成物を提供することができる。防錆性をさらに向上させることができれば、亜鉛粉末量を減らすことができ、その結果、例えば亜鉛のコストを減らすことができる等の点で有利であると考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について、好適な態様を含めて詳細に説明する。
[一次防錆塗料組成物]
本発明の一次防錆塗料組成物(以下「本発明の組成物」ともいう)は、アルキルシリケートおよびアルキルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物であるシロキサン系結合剤(a)と、亜鉛粉末(b)と、グラフェン、フラーレンおよびカーボンナノチューブから選択される少なくとも1種の炭素系ナノ材料(c)とを含有する。
【0010】
<シロキサン系結合剤(a)>
シロキサン系結合剤(a)は、アルキルシリケートおよびアルキルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物の縮合物であり、前記化合物の部分加水分解縮合物が好ましい。
【0011】
アルキルシリケートとしては、例えば、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ-n-プロピルオルトシリケート、テトラ-i-プロピルオルトシリケート、テトラ-n-ブチルオルトシリケート、テトラ-sec-ブチルオルトシリケート等のテトラアルキルオルトシリケート;メチルポリシリケート、エチルポリシリケート等のポリシリケートが挙げられる。
【0012】
アルキルトリアルコキシシランとしては、例えば、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリエトキシシランが挙げられる。
【0013】
アルキルシリケートおよびアルキルトリアルコキシシランに含まれるアルコキシ基の炭素数は、通常は1~4、好ましくは1~2である。アルキルトリアルコキシシランに含まれるアルキル基の炭素数は、通常は1~4、好ましくは1~2である。
【0014】
シロキサン系結合剤(a)としては、アルキルシリケートの縮合物が好ましく、テトラエチルオルトシリケートの縮合物がより好ましく、テトラエチルオルトシリケートの初期縮合物であるエチルシリケート40(商品名;コルコート(株)製)の部分加水分解縮合物が特に好ましい。
【0015】
シロキサン系結合剤(a)の重量平均分子量(Mw)は、通常は1,000~6,000、好ましくは1,200~5,000、より好ましくは1,300~4,000である。Mwは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される、標準ポリスチレン換算の値である。
【0016】
GPC法の測定条件は、以下のとおりである。結合剤サンプルを少量取りテトラヒドロフランを加えて希釈し、さらにその溶液をメンブレムフィルターで濾過して、GPC測定サンプルを得る。
・装置:日本ウォーターズ社製 2695セパレ-ションモジュール
(Aliance GPC マルチシステム)
・カラム:東ソー社製 TSKgel Super H4000
TSKgel Super H2000
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:0.6ml/min
・検出器:Shodex RI-104
・カラム恒温槽温度:40℃
・標準物質:ポリスチレン
【0017】
Mwが前記範囲にあると、塗料の乾燥時に短時間で常温硬化(例:5~40℃)が可能であり、また塗膜の防錆性や、基板および上塗り塗膜への付着強度が向上するとともに、溶接処理時のブローホール(内泡)の発生が抑えられる傾向にある。例えば、Mwが前記下限値以上であると、シロキサン系結合剤(a)の硬化反応が速く、短時間での硬化が求められる場合でも、塗膜の乾燥時に高温(例:200~400℃)の加熱硬化を行わなくともよい。また、Mwが前記上限値以下であると、塗膜の防錆性に優れる傾向にある。
【0018】
シロキサン系結合剤(a)は従来公知の方法によって製造することができる。例えば、アルキルシリケートおよびアルキルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物またはその初期縮合物と、有機溶剤との混合溶液に、塩酸などを添加し攪拌して、部分加水分解縮合物を生成させることにより、シロキサン系結合剤(a)を調製することができる。
【0019】
シロキサン系結合剤(a)は1種または2種以上用いることができる。
本発明の組成物において、シロキサン系結合剤(a)のSiO2換算量は、塗料組成物の全量に対し、通常は2~40質量%、好ましくは3~30質量%、より好ましくは5~15質量%である。このような態様であると、組成物の造膜性および形成される塗膜の防錆性の観点から好ましい。
【0020】
本発明の組成物が後述する2液型組成物の場合、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合して得られた塗料中のシロキサン系結合剤(a)の含有割合を、前記範囲に調整することが好ましい。
【0021】
<シロキサン系結合剤(a)以外の他の結合剤>
本発明の組成物は、本発明の目的および効果を損なわない範囲で、シロキサン系結合剤(a)以外の他の結合剤を含有してもよい。他の結合剤としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂が挙げられる。ポリビニルブチラール樹脂の市販品としては、例えば、エスレックB BM-2(商品名;積水化学工業(株)製)が挙げられる。
【0022】
<亜鉛粉末(b)>
「亜鉛粉末」とは、金属亜鉛の粉末、または亜鉛を主体とする合金(例:亜鉛とアルミニウム、マグネシウムおよび錫から選択される少なくとも1種との合金、具体的には、亜鉛-アルミニウム合金、亜鉛-錫合金)の粉末を意味する。
亜鉛粉末(b)としては、例えば、鱗片状亜鉛粉末、球状亜鉛粉末が挙げられる。
【0023】
鱗片状亜鉛粉末は、メディアン径(D50)が30μm以下であり、かつ平均厚さが1μm以下のものが好ましく、メディアン径(D50)が5~20μmであり、かつ平均厚さが0.2~0.9μmのものがより好ましい。また、メディアン径(D50)と平均厚さとの比で示されるアスペクト比(メディアン径/平均厚さ)は、好ましくは10~150、より好ましくは20~100である。
【0024】
メディアン径は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば「SALD 2200」(商品名;(株)島津製作所製)を用いて測定することができる。平均厚さは、走査電子顕微鏡(SEM)、例えば「XL-30」(商品名;フィリップス社製)を用いて鱗片状亜鉛粉末を観察し、数10~数100個の粉末粒子の厚さを測定し、平均値を求めることで算出できる。
【0025】
鱗片状亜鉛粉末の市販品としては、例えば、STANDART Zinc Flake GTT、STANDART Zinc Flake G、STANDART Zinc Flake AT(商品名;ECKART GmbH製)、STAPA 4 ZNAL7(亜鉛とアルミニウムとの合金;商品名;ECKART GmbH製)、STAPA 4 ZNSN30(亜鉛と錫との合金;商品名;ECKART GmbH製)が挙げられる。
【0026】
球状亜鉛粉末における「球状」とは、形状が球の形を成しているものを指し、特に規定された範囲は存在しないが、アスペクト比が1~3であることが好ましい。球状亜鉛粉末は鱗片状亜鉛粉末と比べて安価であり、その使用により塗料組成物のコストを低減することができる。アスペクト比は、鱗片状亜鉛粉末と同様の方法で測定することができる。
【0027】
球状亜鉛粉末は、メディアン径(D50)が好ましくは2~15μm、より好ましくは2~7μmである。メディアン径は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば「SALD 2200」(商品名;(株)島津製作所製)を用いて測定することができる。
球状亜鉛粉末の市販品としては、例えば、F-2000(商品名;本荘ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0028】
亜鉛粉末(b)としては、亜鉛粉末(b)および炭素系ナノ材料(c)の併用系において良好な防錆性が得られることから、鱗片状亜鉛粉末および球状亜鉛粉末を併用することが好ましい。亜鉛粉末(b)中の鱗片状亜鉛粉末の含有割合は、好ましくは3~45質量%、より好ましくは6~35質量%、さらに好ましくは10~25質量%である。このような態様であると、防錆性、上塗り性および溶接・切断性がさらに良好な塗膜を形成することができる点で好ましい。
亜鉛粉末(b)は1種または2種以上用いることができる。
【0029】
本発明の組成物において、塗料組成物固形分中の亜鉛粉末(b)の含有割合は、好ましくは10~90質量%、より好ましくは15~85質量%、さらに好ましくは25~75質量%である。固形分とは、シロキサン系結合剤(a)のSiO2換算分と、シロキサン系結合剤(a)以外の、溶剤を除いた成分とを加えた合計成分をいう。このような態様であると、防錆性および溶接性の面で好ましい。本発明の組成物が後述する2液型組成物の場合、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合して得られた塗料の固形分中の亜鉛粉末(b)の含有割合を、前記範囲に調整することが好ましい。
【0030】
従来の塗料組成物では、亜鉛粉末(b)量が少ない場合、犠牲防食効果が良好に発揮されず防錆性が不充分となる場合があるが、本発明では亜鉛粉末(b)とともに炭素系ナノ材料(c)を用いているので、良好な防錆性を得ることができる。また、亜鉛粉末(b)量を減らした分、亜鉛のコストを低減することができ、かつ、他の顔料成分を増量しても、得られる塗料組成物の粘度を適切に保つことができる。例えば、亜鉛粉末(b)量を減らした分、カリ長石を増量した場合は、溶接性の向上が期待できる。また、亜鉛粉末(b)量を減らすことで、溶接時の亜鉛蒸気を低減させ、ブローホール等の溶接欠陥の発生を低減できる。すなわち、本発明の組成物は、従来の無機ジンク一次防錆塗料組成物と比較して亜鉛粉末(b)量が少ない場合であっても、優れた防錆性、上塗り性、および鋼板の溶接・切断工程における優れた溶接・切断性を有する塗膜を形成することができる。
【0031】
このような効果を得る場合、塗料組成物固形分中の亜鉛粉末(b)の含有割合は、好ましくは55質量%以下、より好ましくは10~55質量%、さらに好ましくは15~55質量%、よりさらに好ましくは25~55質量%、特に好ましくは30~55質量%である。
【0032】
<炭素系ナノ材料(c)>
炭素系ナノ材料(c)は、グラフェン、フラーレンおよびカーボンナノチューブから選択される少なくとも1種である。本発明における炭素系ナノ材料は、「グラフェン」の場合はシート厚さがナノサイズであることを指し、粒子径はナノサイズを超えていてもよい。同様に、「カーボンナノチューブ」の場合は直径がナノサイズであることを指し、繊維長はナノサイズを超えていてもよい。
【0033】
「グラフェン」とは、複数の炭素原子が平面状で六角形格子状に結合して並んだ単原子シート(グラフェンシート)である。グラフェンシートが多数積層されたものは、グラファイトといわれるが、本発明におけるグラフェンとは、炭素原子が平面的に並んだ1層のみからなるグラフェンシートだけではなく、当該シートが数層~100層程度積層化されて、商業的にグラフェンの名前が付けられている物質も含む。グラフェンの粒子径は様々あるが、本発明の組成物には、メディアン径(D50)が1~10μmのグラフェンを用いることが好ましい。メディアン径は、レーザー散乱回折式粒度分布測定装置、例えば「SALD 2200」(商品名;(株)島津製作所製)により測定することができる。
【0034】
「フラーレン」とは、複数の炭素原子からなる閉殻空洞状の分子、例えば複数の炭素原子の共有結合によって形成される五員環および六員環からなる閉殻空洞状の分子を指し、一般的に直径は0.5~2nmである。フラーレンとしては、例えば、C60フラーレン、C70フラーレンが挙げられる。
【0035】
「カーボンナノチューブ」とは、グラフェンシートが管状に巻かれた形状を有する炭素材料であり、例えば、グラフェンシートが単層で管状に巻かれた単層カーボンナノチューブ、グラフェンシートが多層の同軸管状に巻かれた多層カーボンナノチューブが挙げられる。カーボンナノチューブは、ナノメートル領域の直径、例えば0.4~50nmを有する。本発明の組成物には、平均直径が1~30nm、平均繊維長が10μm以下のカーボンナノチューブを用いることが好ましい。
【0036】
グラフェンの市販品としては、例えば、Genable 1031、Genable 1231(商品名;Applied Graphene Materials plc社製)、Graphene Dispersion in NMP(商品名;ACS Material社製)が挙げられる。フラーレンの市販品としては、例えば、Fullerene C60(商品名;東京化成工業(株)製)、C60フラーレン、C70フラーレン(商品名;本荘ケミカル(株)製)が挙げられる。カーボンナノチューブの市販品としては、例えば、単層ナノチューブ、二層ナノチューブ、多層ナノチューブ(商品名;本荘ケミカル(株)製)、Carbon Nanotube Single-walled、Carbon Nanotube Multi-walled、Carbon Nanotube Aligned Multi-walled(商品名;東京化成工業(株)製)が挙げられる。
【0037】
炭素系ナノ材料(c)により防錆性がより向上する理由は定かではないが、たとえばグラフェンはシート厚さがナノオーダーのシート状物質(グラフェンシート)であり、塗膜中ではグラフェンシートが塗膜表面に対してほぼ平行に配向しており、また、塗膜の厚さ方向にグラフェンシートが何層も存在していると考えられる。このため、水分などに対するグラフェンシートによる遮蔽効果が発揮され、防錆性が向上すると考えられる。
また、フラーレンおよびカーボンナノチューブは、高い導電性を有しているため、亜鉛の犠牲防食効果をより効果的に発揮させると考えられる。これは、亜鉛から放出された電子が、より効果的に鋼板などの基材表面に到達することが可能となり、鋼板が腐食から保護されることを意味する。またフラーレン、カーボンナノチューブはナノオーダーのサイズであるため、少量の添加で塗膜中に均一に分散し、この導電性の効果を得ることができる。このため、防錆性が向上すると考えられる。
【0038】
本発明の組成物において、亜鉛粉末(b)100質量部に対する炭素系ナノ材料(c)の含有量は、好ましくは0.0001~0.7質量部、より好ましくは0.002~0.5質量部である。この含有量が前記範囲にあると、防錆性の面で好ましい。また、上述したような微量の炭素系ナノ材料(c)の使用で優れた防錆性を得ることができるので、コストの観点からも優位である。この含有量が前記範囲を上回ると、電気防食作用が過剰となり、亜鉛の消耗が大きくなり、防錆性が不足することがある。この含有量が前記範囲を下回ると、塗膜の電気防食作用が不足し、これも防錆性が不足することがある。
【0039】
本発明の組成物において、塗料組成物固形分中の炭素系ナノ材料(c)の含有割合は、好ましくは0.0001~0.3質量%、より好ましくは0.0007~0.25質量%である。
【0040】
<顔料成分>
本発明の組成物は、例えば、亜鉛粉末(b)以外の防錆顔料、亜鉛粉末(b)および炭素系ナノ材料(c)以外の導電性材料、前記(b)および(c)以外の無機粉末、ガラス粉末、モリブデン、モリブデン化合物などの顔料成分を含有してもよい。
【0041】
≪亜鉛粉末(b)以外の防錆顔料≫
本発明の組成物は、補助的に塗膜の防錆性を確保する目的で、亜鉛粉末(b)以外の防錆顔料を含有してもよい。前記防錆顔料としては、例えば、リン酸亜鉛系化合物、リン酸カルシウム系化合物、リン酸アルミニウム系化合物、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛系化合物、リン酸マグネシウム系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸カルシウム系化合物、亜リン酸アルミニウム系化合物、亜リン酸ストロンチウム系化合物、トリポリリン酸アルミニウム系化合物、シアナミド亜鉛系化合物、ホウ酸塩化合物、ニトロ化合物、複合酸化物が挙げられる。
【0042】
前記防錆顔料の市販品としては、例えば、リン酸亜鉛系(アルミニウム)化合物:LFボウセイCP-Z(商品名;キクチカラー(株)製)、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛系化合物:LFボウセイ PM-303W(商品名;キクチカラー(株)製))、亜リン酸亜鉛系(カルシウム)化合物:プロテクスYM-70(商品名;太平化学産業(株)製)、亜リン酸亜鉛系(ストロンチウム)化合物:プロテクスYM-92NS(商品名;太平化学産業(株)製)、トリポリリン酸アルミニウム系化合物:Kホワイト#84(商品名;テイカ(株)製)、シアナミド亜鉛系化合物:LFボウセイZK-32(商品名;キクチカラー(株)製)が挙げられる。
前記防錆顔料は1種または2種以上用いることができる。
【0043】
≪亜鉛粉末(b)および炭素系ナノ材料(c)以外の導電性材料≫
本発明の組成物は、炭素系ナノ材料(c)の電気防食作用を補う目的で、亜鉛粉末(b)および炭素系ナノ材料(c)以外の導電性材料を含有してもよい。前記導電性材料としては、例えば、酸化亜鉛、亜鉛粉末(b)以外の金属粉末、炭素系ナノ材料(c)以外の炭素粉末が挙げられる。
【0044】
前記酸化亜鉛の市販品としては、例えば、酸化亜鉛1種(堺化学工業(株)製)、酸化亜鉛3種(ハクスイテック(株)製、堺化学工業(株)製)が挙げられる。
前記金属粉末としては、例えば、Fe-Si粉、Fe-Mn粉、Fe-Cr粉、磁鉄粉、リン化鉄が挙げられる。前記金属粉末の市販品としては、例えば、フェロシリコン(商品名;キンセイマテック(株)製)、フェロマンガン(商品名;キンセイマテック(株)製)、フェロクロム(商品名;キンセイマテック(株)製)、砂鉄粉(商品名;キンセイマテック(株)製)、フェロフォス2132(商品名;オキシデンタルケミカルコーポレーション製)が挙げられる。
【0045】
前記炭素粉末としては、例えば、着色顔料として用いられるカーボンブラックが挙げられ、カーボンブラックの市販品としては、例えば、三菱カーボンブラックMA-100(商品名;三菱化学(株)製)が挙げられる。また前記炭素粉末としては、グラファイトも挙げられ、グラファイトの市販品としては、例えば、土状黒鉛(商品名;西村黒鉛(株)製)が挙げられる。
【0046】
前記導電性材料は1種または2種以上用いることができる。
本発明の組成物において、前記(b)および(c)以外の導電性材料の含有量は、亜鉛粉末(b)100質量部に対して、好ましくは0~60質量部、より好ましくは2~50質量部である。このような態様であると、塗膜の電気防食効果を高め、防錆性を向上させる点で好ましい。
【0047】
≪亜鉛粉末(b)および炭素系ナノ材料(c)以外の無機粉末≫
本発明の組成物は、亜鉛粉末(b)および炭素系ナノ材料(c)以外の無機粉末をさらに含有してもよい。前記無機粉末としては、例えば、亜鉛化合物粉末(ただし、酸化亜鉛、リン酸亜鉛系化合物、亜リン酸亜鉛系化合物、シアナミド亜鉛系化合物を除く)、鉱物粉末、アルカリガラス粉末、熱分解ガスを発生する無機化合物粉末が挙げられる。
【0048】
亜鉛化合物粉末は、亜鉛粉末(b)のイオン化(Zn2+の生成)の程度などの、酸化反応の活性度を調整する作用があると考えられている。本発明の組成物が亜鉛化合物粉末を含有する場合、前記組成物にさらに適切な防錆性を付与することができる。亜鉛化合物粉末としては、例えば、塩化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸亜鉛などの粉末が挙げられる。亜鉛化合物粉末の市販品としては、例えば、「Sachtolich HD(硫化亜鉛;商品名;Sachleben Chemie GmbH製)」、「塩化亜鉛((株)長井製薬所製)」が挙げられる。
【0049】
鉱物粉末としては、例えば、チタン鉱物粉、シリカ粉、ソーダ長石、カリ長石、珪酸ジルコニウム、珪灰石、珪藻土が挙げられる。鉱物粉末の市販品としては、例えば、ルチルフラワーS(キンセイマテック(株)製)、イルメナイト粉(キンセイマテック(株)製)、A-PAX(キンセイマテック(株)製)、セラミックパウダーOF-T(カリ長石、キンセイマテック(株)製)、アプライト(キンセイマテック(株)製)、シリカMC-O(丸尾カルシウム(株)製)、バライトBA(堺化学(株)製)、ラジオライト(昭和化学工業(株))、セライト545(ジョンマンビル社製)が挙げられる。
【0050】
アルカリガラス粉末は、当該ガラス粉末に含まれるアルカリ金属イオンが亜鉛を活性化させる、鋼板の溶接時にアークを安定化させるという作用を有する。アルカリガラス粉末としては、一般に普及している板ガラスや瓶ガラスを5μm程度まで粉砕してガラス粉末を調製し、酸洗浄で当該ガラス粉末のpHを8以下に調整したものが挙げられる。アルカリガラス粉末の市販品としては、例えば、APS-325(商品名;(株)ピュアミック製)が挙げられる。
【0051】
熱分解ガスを発生する無機化合物粉末とは、熱分解(例:500~1,500℃での熱分解)によってガス(例:CO2、F2)を発生する無機化合物の粉末である。前記無機化合物粉末は、これを含有する塗料組成物から形成された塗膜を有する鋼板を溶接する際に、溶接時の溶融プール内において、結合剤などに含まれる有機分から発生したガスから生じた気泡を、前記無機化合物粉末由来のガスとともに、溶融プール内から除去する作用を有する。
【0052】
熱分解ガスを発生する無機化合物粉末としては、例えば、フッ化カルシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸ストロンチウムが挙げられる。前記無機化合物粉末の市販品としては、例えば、蛍石400メッシュ(商品名;キンセイマテック(株)製)、スーパーSS(商品名;丸尾カルシウム(株)製)、炭酸マグネシウム(商品名;富田製薬(株)製)、炭酸ストロンチウムA(商品名;本荘ケミカル(株)製)が挙げられる。
【0053】
本発明では、例えば亜鉛粉末(b)量を減らした場合、顔料成分の含有量を増やすことができる。例えば、溶接性を向上させるため、カリ長石の含有量を増やしてもよい。一実施形態において、塗料組成物固形分中のカリ長石の含有割合は、好ましくは5~45質量%、より好ましくは10~43質量%である。さらに、本発明において亜鉛粉末(b)量を減らした場合(例えば、塗料組成物固形分中の亜鉛粉末(b)量が55質量%以下の場合)、塗料組成物固形分中のカリ長石の含有割合は、30~40質量%であることが好ましい。
【0054】
≪アルカリガラス以外のガラス粉末≫
本発明の組成物は、400~800℃の軟化点を有し、Li2O、Na2OおよびK2Oの含有量の合計が12質量%以下であるガラス粉末を含有してもよい。前記ガラス粉末は、塗膜が高温、例えば400~900℃で加熱された際に亜鉛の酸化防止剤として作用する。
【0055】
ガラス粉末は、例えば、ガラスを構成する化合物を約1,000~1,100℃で所定の時間加熱溶融し、冷却後、粉砕装置で粉末状に整粒したものである。ガラスを構成する成分としては、例えば、SiO2、B23、Al23、ZnO、BaO、MgO、CaO、SrO、Bo23、Li2O、Na2O、K2O、PbO、P25、In23、SnO、CuO、Ag2O、V25、TeO2が挙げられる。PbOもガラスを構成する化合物として用いることができるが、環境に対し悪影響となる恐れがあるので、用いないことが望ましい。前記ガラス粉末には、軟化点、熱膨張係数、誘電率、透明度、色相等、様々なガラスの特性を出すために上述の化合物が所望の割合で含有される。
【0056】
≪モリブデン、モリブデン化合物≫
本発明の組成物は、モリブデン(金属モリブデン)、モリブデン化合物の一方または双方を含有してもよい。これらは、亜鉛の酸化防止剤(いわゆる白錆抑制剤)として作用する。
【0057】
本発明の組成物を塗装した基板を屋外に暴露した場合に、塗膜中の亜鉛または亜鉛合金が水や酸素、炭酸ガスと反応することで、塗膜表面に粉状の白錆(酸化亜鉛、水酸化亜鉛、炭酸亜鉛などの混合物)が生成することがある。白錆が生成した当該塗膜の表面に上塗り塗料からなる上塗り塗膜が形成された場合、塗膜間の付着性が低下してしまうことがある。このような問題に対しては、上塗り塗料を塗装するに先だって、防錆塗膜表面の白錆を適当な手段により除去する除去作業を必要とするが、顧客の要求や特定の用途によっては、このような除去作業は全く許されないことがある。
【0058】
白錆の発生を低減することができるという観点からは、本発明の組成物は、亜鉛の酸化防止剤(いわゆる白錆抑制剤)として、モリブデン(金属モリブデン)、モリブデン化合物の一方または双方を含有することが好ましい。
【0059】
モリブデン化合物としては、前記リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛系化合物以外のモリブデン化合物が挙げられ、例えば、三酸化モリブデン等のモリブデン酸化物、硫化モリブデン、モリブデンハロゲン化物、モリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸、珪モリブデン酸、モリブデン酸のアルカリ金属塩、リンモリブデン酸のアルカリ金属塩、珪モリブデン酸のアルカリ金属塩、モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、リンモリブデン酸のアルカリ土類金属塩、珪モリブデン酸のアルカリ土類金属塩、モリブデン酸のマンガン塩、リンモリブデン酸のマンガン塩、珪モリブデン酸のマンガン塩、モリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩、リンモリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩、珪モリブデン酸の塩基性窒素含有化合物塩が挙げられる。
【0060】
モリブデン化合物は1種または2種以上用いることができる。
モリブデン、モリブデン化合物の一方または双方を用いる場合、モリブデンおよびモリブデン化合物の含有量の合計は、亜鉛粉末(b)100質量部に対して、好ましくは0.05~5.0質量部、より好ましくは0.3~3.0質量部、さらに好ましくは0.5~2.0質量部である。含有量が前記範囲にある場合、充分な亜鉛の酸化防止作用が得られるとともに、亜鉛粉末(b)の防錆能力の活性の低下を防ぎ塗膜の防錆性を維持することができる。
【0061】
<添加剤>
本発明の組成物は、添加剤を含有してもよい。添加剤とは、塗料や塗膜の性能を向上させ、または保持するために用いられる材料である。添加剤としては、例えば、沈降防止剤、乾燥剤、流動性調整剤、消泡剤、分散剤、色分れ防止剤、皮張り防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤が挙げられる。
添加剤は1種または2種以上用いることができる。
【0062】
沈降防止剤としては、例えば、有機ベントナイト系、酸化ポリエチレン系、ヒュームドシリカ系、アマイド系などの沈降防止剤が挙げられる。沈降防止剤の市販品としては、例えば、TIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)、ディスパロン4200-20(商品名;楠本化成(株)製)、ディスパロンA630-20X(商品名;楠本化成(株)製)、AEROSIL 200(商品名;日本アエロジル(株)製)が挙げられる。
【0063】
沈降防止剤は1種または2種以上用いることができる。
沈降防止剤の含有割合は、本発明の組成物が後述する2液型組成物の場合、顔料ペースト成分中において、通常は0.5~5.0質量%、好ましくは1.0~4.0質量%である。沈降防止剤の含有割合が前記範囲にあると、顔料成分の沈殿が少なく、顔料ペースト成分と主剤成分とを混合する際の作業性の点で好ましい。
【0064】
<有機溶剤>
本発明の組成物は、亜鉛粉末(b)の分散性が向上すること、また塗装工程において鋼板へのなじみ性が良く、鋼板との密着性に優れた塗膜が得られることから、有機溶剤を含有することが好ましい。
【0065】
有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族系溶剤、グリコール系溶剤などの、塗料分野で通常使用されている有機溶剤が挙げられる。
【0066】
アルコール系溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールが挙げられる。エステル系溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。ケトン系溶剤としては、例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサンノンが挙げられる。芳香族系溶剤としては、例えば、ベンゼン、キシレン、トルエンが挙げられる。グリコール系溶剤としては、例えば、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートが挙げられる。
有機溶剤は1種または2種以上用いることができる。
【0067】
本発明の組成物において、有機溶剤の含有割合は、通常は30~90質量%、好ましくは40~85質量%、より好ましくは45~80質量%である。本発明の組成物は、このような有機溶剤型組成物であることが好ましい。本発明の組成物が後述する2液型組成物である場合、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合して得られた塗料中の有機溶剤の含有割合を、前記範囲に調整することが好ましい。
【0068】
<一次防錆塗料組成物の調製>
本発明の一次防錆塗料組成物は、2液型組成物として通常用いられる。すなわち、前記塗料組成物は、通常、主剤成分(ビヒクル)と顔料ペースト成分とから構成される。使用前は主剤成分と顔料ペースト成分とを別容器に保存しておき、使用直前にこれらを充分に撹拌・混合して、一次防錆塗料を調製することが好ましい。
【0069】
主剤成分は、シロキサン系結合剤(a)に加えて、通常は有機溶剤を含有する。主剤成分は、シロキサン系結合剤(a)と有機溶剤とを混合して調製してもよく;アルキルシリケートおよびアルキルトリアルコキシシランから選択される少なくとも1種の化合物またはその初期縮合物と、有機溶剤との混合溶液に、塩酸などを添加し攪拌して、部分加水分解縮合物を生成させることにより調製してもよい。また、主剤成分は、シロキサン系結合剤(a)以外の他の結合剤を含有してもよい。
【0070】
顔料ペースト成分は、亜鉛粉末(b)、炭素系ナノ材料(c)に加えて、通常は有機溶剤を含有する。顔料ペースト成分は、例えば、亜鉛粉末(b)、炭素系ナノ材料(c)、有機溶剤および必要に応じてその他の成分を、常法に従って混合して調製される。その他の成分としては、例えば、亜鉛粉末(b)以外の防錆顔料、亜鉛粉末(b)および炭素系ナノ材料(c)以外の導電性材料、前記(b)および(c)以外の無機粉末、アルカリガラス以外のガラス粉末、モリブデン、モリブデン化合物などの顔料成分;ならびに沈降防止剤などの添加剤から選択される少なくとも1種である。
【0071】
主剤成分と顔料ペースト成分との配合比は、混合後のシロキサン系結合剤(a)、亜鉛粉末(b)、炭素系ナノ材料(c)および有機溶剤の含有割合が上述した範囲となるよう適宜設定することができる。
【0072】
[一次防錆塗膜付き基板およびその製造方法]
本発明の一次防錆塗膜付き基板は、鋼板などの基板と、前記基板表面に形成された、本発明の一次防錆塗料組成物からなる一次防錆塗膜とを有する。一次防錆塗膜の平均乾燥膜厚は、通常は30μm以下、好ましくは5~25μm、より好ましくは5~17μm、特に好ましくは5~10μmである。平均乾燥膜厚は、例えば、電磁式膜厚計を用いることによって測定することができる。
【0073】
本発明の組成物は、亜鉛粉末(b)とともに炭素系ナノ材料(c)を用いているので、亜鉛粉末(b)量を少なくして、かつ一次防錆塗膜の平均乾燥膜厚を薄く(例えば、5~10μm)した場合であっても、また、本発明の一次防錆塗膜付き基板を3ヶ月等の長期にわたって屋外暴露をした場合であっても、良好な防錆性を得ることができる。一次防錆塗膜の平均乾燥膜厚を薄くすると、一次防錆塗膜付き基板(鋼板)の溶接・切断工程で加工処理速度を速くすることができ、生産性の面で有利である。
【0074】
本発明の一次防錆塗膜付き基板の製造方法は、鋼板などの基板表面に、本発明の一次防錆塗料組成物を塗装する工程(塗装工程)、および塗装された前記塗料組成物を硬化させて一次防錆塗膜を形成する工程(硬化工程)を有する。
【0075】
塗装工程では、本発明の組成物(2液型組成物の場合は、主剤成分と顔料ペースト成分とを混合してなる塗料)を、エアスプレー、エアレススプレー等の従来公知の方法により鋼板などの基板表面に塗装し、未硬化の塗膜を形成する。
【0076】
塗装機としては、一般的に造船所、製鉄所などで塗料を塗装する場合、主にライン塗装機が用いられる。ライン塗装機は、ライン速度、塗装機内部に設置されたエアスプレー、エアレススプレー等の塗装圧力、スプレーチップのサイズ(口径)の塗装条件によって、膜厚の管理をしている。
【0077】
硬化工程における硬化温度(乾燥温度)は、通常は5~40℃、好ましくは10~30℃である。
本発明の組成物は、船舶、海洋構造物、プラント、橋梁、陸上タンク等の大型鉄鋼構造物における鋼板加工工程で行われる鋼板の前処理での使用に適している。
【0078】
また、本発明では、一次防錆塗膜付き基板を溶接処理した場合でも、溶接ビードにピット(貫通孔)やブローホール(内泡)、ガス溝、ワームホール等の欠陥が発生する可能性が低い。すなわち、本発明の一次防錆塗膜付き基板は、防錆性の向上と溶接性の向上とを同時に達成することができる。
【実施例
【0079】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下の実施例などの記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
【0080】
[調製例1]アルキルシリケートの縮合物の調製
エチルシリケート40(コルコート(株)製;SiO2換算分=40質量%)31.5g、工業用エタノール10.4g、脱イオン水5g、および35質量%塩酸0.1gを容器に仕込み、50℃で4時間40分攪拌した後、イソプロピルアルコール53gを加えて、アルキルシリケートの縮合物1を含有する溶液(SiO2換算分=12.6質量%)を調製した。
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法で縮合物1の重量平均分子量(Mw)を測定したところMw=2,500であった。
なお、GPCの測定条件は、以下のとおりである。縮合物サンプルを少量取りテトラヒドロフランを加えて希釈し、さらにその溶液をメンブレムフィルターで濾過して、GPC測定サンプルを得た。
・装置:日本ウォーターズ社製 2695セパレ-ションモジュール
(Aliance GPC マルチシステム)
・カラム:東ソー社製 TSKgel Super H4000
TSKgel Super H2000
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:0.6ml/min
・検出器:Shodex RI-104
・カラム恒温槽温度:40℃
・標準物質:ポリスチレン
【0081】
[調製例2-1]顔料ペースト成分の調製
沈降防止剤として1.0部のTIXOGEL MPZ(商品名;Rockwood Clay Additives GmbH製)と、(b)および(c)以外の無機粉末として18.3部のセラミックパウダーOF-T(商品名;キンセイマテック(株)製、カリ長石)と、0.7部のスーパーSS(商品名;丸尾カルシウム(株)製)と、(b)および(c)以外の導電性材料として1.0部の酸化亜鉛3種(商品名;ハクスイテック(株)製)と、有機溶剤として6.1部のキシレンと、5.7部の酢酸ブチルおよび8.4部のイソブチルアルコールとを、ポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、亜鉛粉末(b)として3.4部のSTANDART Zinc Flake GTT(商品名;ECKART GmbH製)と、17.0部のF-2000(商品名;本荘ケミカル(株)製)とを加えて、さらに5分間振とうして、顔料成分を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去して顔料ペースト成分を調製した。
【0082】
[調製例2-2~2-19]顔料ペースト成分の調製
配合組成を表1に記載したとおりに変更したこと以外は調製例2-1と同様にして、顔料ペースト成分を調製した。なお、炭素系ナノ材料(c)は、有機溶剤を添加する際に添加した。
【0083】
表1において、亜鉛粉末(b)、亜鉛粉末(b)以外の防錆顔料、炭素系ナノ材料(c)および比較例用の炭素系材料(土状黒鉛)の詳細は以下のとおりである。
・STANDART Zinc Flake GTT:鱗片状亜鉛粉末、メディアン径(D50)=8.5μm、平均厚さ=0.4μm、アスペクト比(メディアン径/平均厚さ)=21)、ECKART GmbH製
・F-2000:球状亜鉛粉末、メディアン径(D50)=5μm、本荘ケミカル(株)製
・LFボウセイ PM-303W:リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛系無機化合物、キクチカラー(株)製
・Genable 1031:グラフェンのキシレン/樹脂分散液、グラフェン固形分10質量%、メディアン径(D50)=1~3μm、Applied Graphene Materials plc製
・Genable 1231:グラフェンのキシレン/樹脂分散液、グラフェン固形分1質量%、メディアン径(D50)=5~6μm、Applied Graphene Materials plc製
・Graphene Dispersion in NMP:グラフェン4質量%(N-メチル-2-ピロリドン 94.9質量%)、粒子径0.5~5μm(長さ方向)、ACS Material社製
・Carbon Nanotube Single-walled (>85%) below 3nm(Average diam.), over 5μm(Average length):単層カーボンナノチューブ、平均直径3nm以下、平均繊維長5μm以上、東京化成工業(株)製
・Fullerene C60:C60フラーレン、純度99.0%以上、東京化成工業(株)製
・土状黒鉛:グラファイト、西村黒鉛(株)製
【0084】
[実施例1~17、比較例1、2]
調製例1で得られた、アルキルシリケートの縮合物1を含有する溶液と、表1記載の配合割合で調製された顔料ペースト成分とを、各々の含有成分の比率が表1記載の割合(質量基準)にて混合し、一次防錆塗料を調製した。
【0085】
[評価方法・評価基準]
塗膜の平均乾燥膜厚が8μmとなるようにライン塗装機(装置名:SP用コンベア塗装機、竹内工作所(株)製)のライン条件(ライン速度:10m/min、塗装圧力:0.2MPa)を調整した。このライン条件で、実施例および比較例で得られた一次防錆塗料を用いて、以下のようにして試験板を作成し、評価を行った。
【0086】
<一次防錆塗膜の防錆性(発錆・白錆)>
サンドブラスト処理板(JIS G3101、SS400、寸法:150mm×70mm×2.3mm)のブラスト処理面に、ライン塗装機を用いて一次防錆塗料を塗装した。次いで、JIS K5600 1-6の規格に従い、温度23℃、相対湿度50%の恒温室内で1週間乾燥させて、平均乾燥膜厚8μmの一次防錆塗膜と前記処理板とからなる試験板を作成した。平均乾燥膜厚は、電磁式膜厚計「LE-370」(商品名;(株)ケット科学研究所製)を用いて測定した。
【0087】
この試験板を屋外暴露台(中国塗料(株)大竹研究所敷地内)に設置し、一定期間放置した。ここで、試験板は、試験板の塗装面が南側を向き、かつ、試験板が水平に対して45度となるように傾いた状態で固定した。
【0088】
1ヶ月間および3ヶ月間放置後の試験板全面に対する、発錆した試験板表面および白錆が形成された試験板表面の面積比率(%)を測定して、発錆の状態および白錆の発生状態を評価した。評価基準は下記のとおりである。
【0089】
<発錆の状態の評価基準(ASTM D610)>
10:発錆を認めない、または発錆の面積比率は0.01%以下
9:極僅かな発錆、または発錆の面積比率は0.01%を超え0.03%以下
8:僅かな発錆、または発錆の面積比率は0.03%を超え0.1%以下
7:発錆の面積比率は0.1%を超え0.3%以下
6:明瞭な点錆、または発錆の面積比率は0.3%を超え1%以下
5:発錆の面積比率は1%を超え3%以下
4:発錆の面積比率は3%を超え10%以下
3:発錆の面積比率は10%を超え1/6(16%)以下
2:発錆の面積比率は1/6(16%)を超え1/3(33%)以下
1:発錆の面積比率は1/3(33%)を超え1/2(50%)以下
0:発錆の面積比率はほぼ1/2(50%)を超え100%まで
【0090】
<白錆の発生状態の評価基準>
10:白錆を認めない、または白錆の面積比率は0.01%以下
9:極僅かな白錆、または白錆の面積比率は0.01%を超え0.03%以下
8:僅かな白錆、または白錆の面積比率は0.03%を超え0.1%以下
7:白錆の面積比率は0.1%を超え0.3%以下
6:明瞭な白錆の点、または白錆の面積比率は0.3%を超え1%以下
5:白錆の面積比率は1%を超え3%以下
4:白錆の面積比率は3%を超え10%以下
3:白錆の面積比率は10%を超え1/6(16%)以下
2:白錆の面積比率は1/6(16%)を超え1/3(33%)以下
1:白錆の面積比率は1/3(33%)を超え1/2(50%)以下
0:白錆の面積比率はほぼ1/2(50%)を超え100%まで
【0091】
【表1】