(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】成形体およびその利用
(51)【国際特許分類】
B32B 27/36 20060101AFI20240408BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20240408BHJP
C08L 101/16 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
B32B27/36
B65D65/40 D
C08L101/16
(21)【出願番号】P 2021527777
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2020025255
(87)【国際公開番号】W WO2020262619
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】P 2019122159
(32)【優先日】2019-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 智亮
(72)【発明者】
【氏名】中村 信雄
【審査官】鏡 宣宏
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-216654(JP,A)
【文献】特開2002-068201(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0330382(US,A1)
【文献】国際公開第2014/020838(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B65D 65/00-65/46
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を含
み、ヘイズ値が、40%以下である樹脂層の少なくとも片面に、無機材料を含む蒸着層を設けてなる積層体を含む成形体であって、前記樹脂層の表面張力が36mN/m以上の表面に蒸着層が形成されている、成形体。
【請求項2】
前記樹脂層が、外滑剤を実質的に含まない、請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
前記無機材料が、アルミニウム、酸化アルミニウム、ケイ素酸化物、酸化セリウム、酸化カルシウム、ダイアモンド状炭素膜、およびそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1
または2に記載の成形体。
【請求項4】
水蒸気透過度が、1.00g/m
2/24h未満である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項5】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の成形体。
【請求項6】
蒸着フィルムまたは蒸着ボトル容器である、請求項1~
5のいずれか1項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を含む成形体およびその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック容器の大半は最終的に固形物のゴミとなる。リサイクルの尽力が進む一方で、繰り返しの加工は機械特性の低下を生じることなる。従い、土壌環境中で分解するプラスチック容器が望まれている。そのようなプラスチック製品の一例として、ポリ乳酸等の生分解性樹脂を主成分として利用したものが知られている。
【0003】
一方で、廃棄プラスチックが引き起こす環境問題がクローズアップされ、特に海洋投棄や河川等を経由して海に流入したプラスチックが、地球規模で多量に海洋を漂流していることが判ってきた。このようなプラスチックは長期間にわたって形状を保つため、海洋生物を拘束、捕獲する、いわゆるゴーストフィッシングや、海洋生物が摂取した場合は消化器内に留まり摂食障害を引き起こす等、生態系への影響が指摘されている。
【0004】
さらには、プラスチックが紫外線等で崩壊・微粒化したマイクロプラスチックが、海水中の有害な化合物を吸着し、これを海生生物が摂取することで有害物が食物連鎖に取り込まれる問題も指摘されている。海洋中に漂流するプラスチックゴミの中でも、ラベルや食品包装等のフィルムやPETボトル等のボトル容器は非常に多く、問題視されている。
【0005】
このようなプラスチックによる海洋汚染に対し、生分解性プラスチックの使用が期待されるが、国連環境計画が2015年に取り纏めた報告書(非特許文献1)では、ポリ乳酸等のコンポストで生分解可能なプラスチックは、温度が低い実海洋中では短期間での分解が期待できないために、海洋汚染の対策にはなりえないと指摘されている。しかし一方、ボトル容器そのものは特に飲料や食品の携帯に有用であり、継続使用が望まれる。
【0006】
このような中、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は海水中でも生分解が進行し得る材料であるため、海洋汚染の問題を解決する素材として注目されている。
【0007】
ところで、食品包装フィルムやボトル容器は、飲料や食品の保存に使用されることから、ガスバリア性や透明性が求められる。このような生分解性樹脂のガスバリア性を向上させるために、生分解性樹脂に金属等を蒸着させることにより、ガスバリアフィルムを製造することが広く知られている。しかし、一般的に、生分解性樹脂と金属等の蒸着層とは密着性が良くない。かかる課題を解決するために、例えば、特許文献1では、特定のポリウレタン樹脂組成物からなるアンカーコート層を生分解性樹脂のフィルム上に形成して、金属等の蒸着層との密着性を向上させる技術が報告されている。また、特許文献2には、生分解性物質としてデンプンを必須の成分とする熱可塑性生分解性ポリマー混合物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2012/039259号公報
【文献】US2014/0087106
【非特許文献】
【0009】
【文献】国連環境計画2015,BIODEGRADABLE PLASTICS & MARINE LITTER
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1の技術では、生分解性のないポリウレタン樹脂組成物からなるアンカーコート層を形成する必要があるため、生分解性の観点において改善の余地がある。また、特許文献2の技術では、フィルムの透明性が低く、印刷層や内容物を視認することが困難であるとの問題がある。
【0011】
そこで、本発明の一態様は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を用いた生分解性樹脂層と蒸着層との密着性を向上させ、ガスバリア性に優れると共に樹脂層の透明性が高い成形体およびその利用技術を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、(1)海水中で生分解する材料であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を用いた生分解性樹脂層と蒸着層との密着性を高め得ること、(2)得られた積層体のガスバリア性が優れること、(3)透明性の高い樹脂層が得られること、について新規知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
したがって、本発明の一態様は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を含む樹脂層の少なくとも片面に、無機材料を含む蒸着層を設けてなる積層体を含む成形体であって、前記樹脂層の表面張力が36mN/m以上の表面に蒸着層が形成されている成形体である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様によれば、蒸着層との密着性に優れ、ガスバリア性が良好であると共に樹脂層の透明性が高い成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意味する。また、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考文献として援用される。
【0016】
〔1.概要〕
本発明の一実施形態に係る成形体(以下、「本成形体」と称する。)は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を含む樹脂層の少なくとも片面に、無機材料を含む蒸着層を設けてなる積層体を含む成形体であって、前記樹脂層の表面張力が36mN/m以上の表面に蒸着層が形成されていることを特徴とする。換言すれば、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を含む樹脂層の少なくとも片面に、無機材料を含む層が蒸着された積層体を含む成形体であって、前記樹脂層の表面張力が36mN/m以上の表面に無機材料が蒸着されている成形体ともいえる。
【0017】
本発明者らは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む成形体について、鋭意検討を行った結果、以下の知見を得ることに成功した。
【0018】
ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む樹脂層に、金属等が蒸着された成形体を形成するにあたり、当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む樹脂層につき、表面張力が36mN/m以上として、その表面に無機材料を蒸着することにより、当該ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む樹脂層と蒸着層との密着性(以下、「蒸着密着性」と称する場合もある。)が高まり、かつ、成形体のガスバリア性が高まることを見出した。また、得られた樹脂層の透明性が高いことも見出した。前記樹脂層の表面張力を36mN/m以上とする手段についての詳細は後述するが、例えば、樹脂層に外滑剤を実質的に含ませない方法を挙げることができる。
【0019】
これまでの研究開発において、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む成形体は、汎用樹脂に比べて、フィルムをインフレーション成形する際の加工可能温度幅が著しく狭くなり、成形性および生産性が悪化するという問題点を有していた。かかる問題を解決するために、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を成形する際には、通常は外滑剤を添加して、成形性および生産性を担保する必要があった(例えば、国際公開第2018/181500号公報)。
【0020】
このような技術常識のもとでは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む樹脂を取り扱うにあたり、当業者であれば、当然に成形工程における混合物に外滑剤を含ませるものであり、敢えて、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を含む成形用の混合物から外滑剤を除くとの考えには至らない。それ故、本発明者らが得た上記知見は、驚くべきことであるといえる。
【0021】
本成形体は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を含む樹脂層の少なくとも片面に、無機材料を含む蒸着層を備える構成を有することにより、蒸着層が剥がれにくく、ガスバリア性に優れると共に樹脂層の透明性が高いとの効果を奏する。なお、本明細書において、ガスバリア性とは、例えば、水蒸気透過度および/または酸素透過度を意図する。以下、本成形体の構成について詳説する。
【0022】
〔2.樹脂層〕
本成形体における樹脂層は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を含む。以下において、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)をP3HAと略して言及する場合がある。
【0023】
(ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)(P3HA))
本明細書において、「P3HA」とは、生分解性を有する脂肪族ポリエステル(好ましくは、芳香環を含まないポリエステル)を意味する。P3HAは、一般式:〔-CHR-CH2-CO-O-〕で示される3-ヒドロキシアルカン酸繰り返し単位(式中、Rは、CnH2n+1で表されるアルキル基で、nは、1以上15以下の整数である。)を必須の繰り返し単位として含む、ポリヒドロキシアルカノエートである。中でも、当該繰り返し単位を、全モノマー繰り返し単位(100モル%)に対して50モル%以上含むものが好ましく、より好ましくは70モル%以上含む。
【0024】
より詳しくは、P3HAとしては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)(P3HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HV3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)等が挙げられる。
【0025】
なお、微生物により産生されるP3HA(微生物産生P3HA)は、通常、D体(R体)のポリヒドロキシアルカン酸モノマー単位のみから構成されるP3HAである。微生物産生P3HAの中でも、工業的生産が容易である点から、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB3HV3HH、P3HB4HBが好ましく、P3HB、P3HB3HH、P3HB3HV、P3HB4HBがより好ましい。
【0026】
本発明の一実施形態において、P3HAは、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)からなる群より選択される少なくとも1種である。
【0027】
P3HA(特に、微生物産生P3HA)が3-ヒドロキシブタン酸(3HB)繰り返し単位を必須のモノマー単位として含むものである場合、そのモノマー組成比は、柔軟性と強度のバランスの観点から、全繰り返し単位(100モル%)中、3-ヒドロキシブタン酸(3HB)繰り返し単位が80モル%~99モル%であることが好ましく、より好ましくは85モル%~97モル%である。3HB繰り返し単位の組成比が80モル%以上であることにより、P3HAの剛性がより向上し、また、結晶化度が低くなり過ぎず精製が容易となる傾向がある。一方、3HB繰り返し単位の組成比が99モル%以下であることにより、柔軟性がより向上する傾向がある。なお、P3HAのモノマー組成比は、ガスクロマトグラフィー等によって測定することができる(例えば、国際公開第2014/020838号参照)。
【0028】
微生物産生P3HAを生産する微生物としては、P3HA類の生産能を有する微生物であれば特に限定されない。例えば、P3HB生産菌としては、1925年に発見されたBacillus megateriumが最初で、他にもカプリアビダス・ネケイター(Cupriavidus necator)(旧分類:アルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus、ラルストニア・ユートロフア(Ralstonia eutropha))、アルカリゲネス・ラタス(Alcaligenes latus)等の天然微生物が挙げられる。これらの微生物ではP3HBが菌体内に蓄積されることが知られている。
【0029】
また、ヒドロキシブチレートとその他のヒドロキシアルカノエートとの共重合体の生産菌としては、P3HB3HVおよびP3HB3HH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32, FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また上記以外にも、生産したいP3HAに合わせて、各種P3HA合成関連遺伝子を導入した遺伝子組換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0030】
P3HAの分子量は、目的とする用途で実質的に十分な物性を示すものであればよく、特に限定されない。P3HAの重量平均分子量の範囲は、50,000~3,000,000が好ましく、より好ましくは100,000~1,000,000、さらに好ましくは300,000~700,000である。重量平均分子量を50,000以上とすることにより、フィルムの強度がより向上する傾向がある。一方、重量平均分子量を3,000,000以下とすることにより、加工性がより向上し、成形がより容易となる傾向がある。当該P3HAは、後述のように、均一に且つ適度に架橋されたP3HAであることが好ましいが、前記重量平均分子量の数値は、P3HAを架橋する前に測定される値である。
【0031】
前記重量平均分子量の測定方法は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)(昭和電工社製「Shodex GPC-101」)を用い、カラムにポリスチレンゲル(昭和電工社製「Shodex K-804」)を用い、クロロホルムを移動相とし、ポリスチレン換算した場合の分子量として求めることができる。この際、検量線は重量平均分子量31,400、197,000、668,000、1,920,000のポリスチレンを使用して作成する。当該GPCにおけるカラムとしては、前記分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0032】
本発明の一実施形態において、P3HAは、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0033】
本発明の一実施形態において、樹脂層におけるP3HAの含有量は、特に限定されないが、20重量%以上が好ましく、より好ましくは30重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上、さらに好ましくは60重量%以上、さらに好ましくは70重量%以上である。P3HAの含有量を20重量%以上とすることにより、樹脂層の生分解性がいっそう良好となる傾向がある。P3HAの含有量の上限は特に限定されないが、95重量%以下が好ましく、より好ましくは92重量%以下、さらに好ましくは90重量%以下である。
【0034】
本成形体における、蒸着前の成形体は、少なくとも片面の表面張力が36mN/m以上が好ましく、37mN/m以上がより好ましく、38mN/m以上であることが特に好ましい。表面張力が36mN/m以上である表面に蒸着層を設けることによって、ガスバリア性や蒸着層と樹脂層との密着性に優れる傾向がある。表面張力を36mN/m以上とする方法としては、表面張力を36mN/m以上とすることができれば特に限定されないが、外滑剤を実質的に用いない方法、コロナ処理やプラズマ処理等の放電処理、表面を液体類等で洗浄する方法、表面を粗化する方法等が好ましく用いることができる。
【0035】
また、本成形体における、蒸着前の成形体は、少なくとも片面の表面摩擦係数が0.17以上が好ましく、0.18以上がより好ましく、0.19以上であることが特に好ましい。表面摩擦係数が0.17以上である表面に蒸着層を設けることによって、ガスバリア性や蒸着層と樹脂層との密着性に優れる傾向がある。表面摩擦係数を0.17以上とする方法としては、表面摩擦係数を0.17以上とすることができれば特に限定されないが、外滑剤を実質的に用いない方法、コロナ処理やプラズマ処理等の放電処理、表面を液体類等で洗浄する方法、表面を平滑化する方法等が好ましく用いることができる。
【0036】
(外滑剤)
本成形体における樹脂層は、外滑剤を実質的に含まないことが好ましい。樹脂層が外滑剤を実質的に含まないことにより、当該樹脂層に無機材料を含む蒸着層を蒸着した際に、当該樹脂層と、当該蒸着層との密着性が増大するという利点がある。また、高いガスバリア性を有する。
【0037】
本明細書において、「外滑剤」とは、成形体の表面にブリードし、成形機のロールや金型からの剥離や、インフレーションフィルムのような2重に重なっているフィルムの口開きを促進する物質を意味する。外滑剤は、上記定義を満たす限り特に限定されないが、例えば、脂肪酸のモノアミド、脂肪酸のビスアミド等が挙げられる。脂肪酸アミドを構成する脂肪酸としては、炭素数12~30の脂肪酸、あるいは炭素数18~22の脂肪酸が挙げられ、例えば、エルカ酸、パルミチン酸、オレイン酸等の高級脂肪酸が挙げられる。脂肪酸アミドの具体例としては、例えば、エルカ酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ステアリン酸アミド、メチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド等が挙げられる。
【0038】
本明細書において、「外滑剤を実質的に含まない」とは、樹脂層が、本発明の効果に影響を与える程度までは外滑剤を含んでいないことを意味する。換言すれば、「外滑剤を実質的に含まない」とは、樹脂層が、本発明の効果に影響を与える程度未満の外滑剤を含み得ることを意味する。
【0039】
本発明の一実施形態において、樹脂層における外滑剤の含有量は、好ましくは、0.5重量%以下であり、より好ましくは0.3重量%以下であり、さらに好ましくは0.1重量%以下である。樹脂層が、外滑剤をまったく含んでいないことが最も好ましい。樹脂層における外滑剤の含有量が0.5重量%以下であると、蒸着層との高い密着性が担保され、高いガスバリア性を奏する。
【0040】
(結晶核剤)
本成形体における樹脂層は、結晶核剤を含んでいてもよい。本成形体における樹脂層が結晶核剤を含むことにより、P3HAの結晶化速度が向上し、成形加工性を改善できるという効果を奏する。結晶核剤としては、例えば、多価アルコール等が好適に用いられる。多価アルコールの例としては、ペンタエリスリトール、ガラクチトール、マンニトール等が挙げられる。結晶核剤は、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる。結晶核剤の含有量は、適宜設定することができ、特に限定されない。
【0041】
(他の樹脂)
本成形体における樹脂層は、P3HA以外の樹脂(以下、「他の樹脂」と称する場合がある。)を含んでいてもよい。他の樹脂としては、本発明の一実施形態における成形体を成形する際に相溶性や成形加工性や機械特性を著しく低下させなければ特に限定されないが、本成形体がP3HAの特徴である生分解性が要求される用途に用いられる場合には、生分解性樹脂であることが好ましい。他の樹脂としては、例えば、脂肪族ジオールおよび脂肪族ジカルボン酸が重縮合した構造からなる脂肪族ポリエステルや、脂肪族化合物と芳香族化合物との両方をモノマーとする脂肪族芳香族ポリエステル等が挙げられる。前者の例としては、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート(PBS)、ポリヘキサメチレンサクシネート、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート(PBSA)、ポリエチレンセバケート、ポリブチレンセバケート等が挙げられる。後者の例としては、ポリ(ブチレンアジペート-co-ブチレンテレフタレート)(PBAT)、ポリ(ブチレンセバケート-co-ブチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンアゼレート-co-ブチレンテレフタレート)、ポリ(ブチレンサクシネート-co-ブチレンテレフタレート)(PBST)等が挙げられる。なお、他の樹脂は、1種を単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0042】
本発明の一実施形態において、樹脂層における他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、P3HA100重量部に対して、250重量部以下が好ましく、より好ましくは100重量部以下であり、さらに好ましくは50重量部以下、特に好ましくは20重量部以下である。他の樹脂の含有量の下限は、特に限定されず、0重量部であってもよい。
【0043】
(その他の成分)
本成形体における樹脂層は、上記以外のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、本発明の効果を阻害しない範囲で、有機系または無機系フィラー等を含んでいてもよい。中でも、得られるフィルムの生分解性およびカーボンニュートラルの観点から、例えば、木屑、木粉、オガ屑等の木質系材料、米殻、米粉、澱粉、コーンスターチ、稲わら、麦わら、天然ゴム等の天然由来の材料が好ましい。当該有機系または無機系フィラーの含有量は、適宜設定することができ、特に限定されない。有機系または無機系フィラーは、一種を単独で使用することもできるし、二種以上を組み合わせて使用することもできる
また、上述の有機系または無機系フィラーの他にも、本発明の効果を阻害しない範囲で、通常の添加剤として使用される顔料、染料等の着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、撥水剤、抗菌剤、しゅう動性改良剤、その他の副次的添加剤の一種または二種以上を含んでいてもよい。当該添加剤の含有量も、適宜設定することができる。
【0044】
〔3.蒸着層〕
本成形体における蒸着層は、無機材料を含むものであればよいが、無機材料のみから構成されるものであってもよい。
【0045】
本発明の一実施形態における無機材料は、金属または無機酸化物を例示でき、特に限定されない。好ましい例示としては、例えば、アルミニウム、酸化アルミニウム、ケイ素酸化物(例えば、一酸化ケイ素、二酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素等)、酸化セリウム、酸化カルシウム、ダイアモンド状炭素膜、またはそれらの混合物等であり得る。本発明の一実施形態において、無機材料は、蒸着密着性の観点から、好ましくは、アルミニウムまたは二酸化ケイ素である。
【0046】
蒸着層の厚さは、特に限定されないが、生産性、ハンドリング性、外観等の観点から、5nm~100nmが好ましく、5nm~60nmがより好ましい。蒸着層の厚さが5nm以上であると、蒸着層の欠損(樹脂層からの蒸着層の剥離)が発生しにくく、ガスバリア性が良好である。また、層の厚さが100nm未満であると、蒸着時のコストが低く、蒸着層の着色が目立たずに、外観的に良好である。
【0047】
〔4.成形体の具体的な構成およびその製造方法〕
(成形体の構成)
本成形体において、蒸着層は、樹脂層の片面にのみ蒸着されていてもよく、両面に蒸着されていてもよい。P3HAの生分解性を担保する観点から、蒸着層は、樹脂層の片面のみに蒸着されているのが好ましい。また、蒸着層は、他の層を介さず、直接、樹脂層に蒸着されていることが好ましい。
【0048】
本発明の一実施形態において、本成形体における蒸着層は、さらに、樹脂層等が積層されていてもよい。例えば、成形体として、ヒートシールを行う場合は、蒸着層の上に、さらに樹脂層が積層され得る。
【0049】
本成形体は、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を含む樹脂層の少なくとも片面に、無機材料を含む蒸着層が蒸着された構成を有するものであれば特に限定されないが、例えば、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器(例えば、ボトル容器)、袋、部品等が挙げられる。本成形体は、海洋汚染の対策の観点から、好ましくは、フィルムまたはボトル容器である。
【0050】
本発明の一実施形態において、本成形体における樹脂層のヘイズ値は、例えば、40%以下であり、好ましくは35%以下であり、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは25%以下であり、特に好ましくは20%以下であり、更に好ましくは10%以下である。樹脂層のヘイズ値が40%以下であると、樹脂層の透明性が良く、包装材として用いた場合に中身の視認性に優れるという利点がある。樹脂層のヘイズ値の下限値は、透明度の観点からは低い程よく、特に限定されないが、例えば、1%以上である。なお、本明細書におけるヘイズ値とは、30μm厚みのシート(フィルム)をJIS K7136-1:1999およびK7316:2000に記載の方法にて測定した値である。
【0051】
ヘイズ値が40%以下のフィルム(樹脂層)は、樹脂層を成形する際に押出機出口から押出された樹脂が表面荒れを起こさない程度に押出機内の樹脂温度を上げたり、ヘイズ値が高い樹脂(例えば、厚み30μmのヘイズ値が40%以上の樹脂)を一定量配合しなかったり、ヘイズ値を高める充填材を一定量配合しないことで取得できる。
【0052】
本成形体の水蒸気透過度は、例えば、1.00g/m2/24h未満であり、好ましくは0.95g/m2/24h未満であり、より好ましくは0.90g/m2/24h未満であり、さらに好ましくは0.85g/m2/24h未満である。水蒸気透過度が上記の範囲内であれば、良好な水蒸気ガスバリア性を得ることができる。また、水蒸気透過度は、低ければ低いほどよく、その下限は特に限定されないが、0.01g/m2/24h程度が実現可能な下限と推察される。水蒸気透過度は、蒸着層が形成される層の平均表面粗さ、フィルムのfn、蒸着層の無機材料の種類、蒸着層の厚さ、蒸着層の欠陥(ピンホール、スクラッチなど)量等により制御できる。なお、水蒸気透過度は、実施例に記載の方法で測定および評価される。
【0053】
本成形体の酸素透過度は、例えば、3.00g/m2/24h/atm以下であり、好ましくは、2.85g/m2/24h/atm以下であり、より好ましくは、2.80g/m2/24h/atm以下であり、さらに好ましくは、2.75g/m2/24h/atm以下である。酸素透過度が上記の範囲内であれば、良好な酸素ガスバリア性を得ることができる。また、酸素透過度は、低ければ低いほどよく、その下限は特に限定されないが、0.01g/m2/24h/atm程度が実現可能な下限と推察される。酸素透過度は、蒸着層が形成される層の平均表面粗さ、フィルムのfn、蒸着層の無機材料の種類、蒸着層の厚さ、蒸着層の欠陥(ピンホール、スクラッチなど)量等により制御できる。なお、酸素透過度は、実施例に記載の方法で測定および評価される。
【0054】
なお、本成形体の蒸着密着性は、実施例に記載の方法で測定および評価される。
【0055】
また、本発明の一実施形態において、本成形体は、その物性を改善するために、本成形体とは異なる材料から構成される成形体(例えば、繊維、糸、ロープ、織物、編物、不織布、紙、フィルム、シート、チューブ、板、棒、容器、袋、部品、発泡体等)と複合化することもできる。これらの材料も、生分解性であることが好ましい。
【0056】
本発明の一実施形態において、蒸着フィルムは、包装材料として各種包装体に使用することができる。当該包装体は、特に限定されないが、サイドシール包装体、三方シール包装体、ピロー包装体、スタンディングパウチ等が挙げられる。
【0057】
(製造方法の一例)
本成形体が蒸着フィルムまたは蒸着ボトル容器である場合、それぞれ、例えば、以下に記載の方法により製造される。
【0058】
<フィルムの製造方法>
本発明の一実施形態において、フィルムは、押出フィルム成形からなる成形方法によって製造することができる。例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を押出機中で溶融した後、押出機出口に接続されているTダイからフィルム形状に押出す工程、溶融樹脂をロールに当てることで冷却、固化させフィルムとして引き取る工程によって製造することができる。押出フィルム成形の具体的な条件は、常法に従って当業者が適宜設定することができる。
【0059】
<ボトル容器の製造方法>
本発明の一実施形態において、ボトル容器は、押出ブロー成形からなる成形方法によって製造することができる。例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂を押出機中で溶融した後、押出機出口に接続されている環状ダイからチューブ形状に押出す工程、溶融している前記チューブを金型で両側面から挟み込む工程と、一端が閉じられた前記チューブに空気を吹込んで金型に合わせてボトル形状に成形すると同時に冷却固化することによって製造することができる。押出ブロー成形の具体的な条件は、常法に従って当業者が適宜設定することができる。ボトル容器は射出ブロー成形からなる成形方法によっても製造することができる。
【0060】
<真空蒸着>
本発明の一実施形態において、蒸着フィルムおよび蒸着ボトル容器は、上記で得られたフィルムおよびボトル容器に、上記蒸着層を蒸着することにより製造される。蒸着方法は、特に限定されることなく、真空蒸着法、スパッタリング法、化学気層蒸着法、イオンプレーティング法等が使用される。
【0061】
成形体のガスバリア性を向上させるために、蒸着前の成形体の表面をコロナ処理またはプラズマ処理することが好ましい。コロナ処理を行う際の処理強度は、5~80W・min/m2が好ましく、より好ましくは10~60W・min/m2である。また、蒸着層を設ける前に、プラズマ放電下において核付金属蒸着層を設けることは、蒸着層の密着性向上、ひいてはそれに伴うガスバリア性向上の観点から好ましい。この場合、プラズマ放電を酸素および/または窒素ガス雰囲気で行うことが好ましく、核付金属として銅を用いることが好ましい。
【0062】
反応性蒸着法によって酸化アルミニウムを蒸着させるには、アルミニウム金属やアルミナを、抵抗加熱のボート方式、ルツボの高周波誘導加熱、電子ビーム加熱方式等で蒸発させ、酸化雰囲気下で、フィルム上に酸化アルミニウムを堆積させる方式が好ましく用いられる。酸化雰囲気を形成するための反応性ガスとしては、酸素が用いられるが、酸素を主体に水蒸気や希ガスを加えたガスでもよい。さらに、オゾンを加えたり、イオンアシスト等の反応を促進する手法を併用してもよい。酸化ケイ素の蒸着層を反応性蒸着法によって形成させるには、Si金属、SiOやSiO2を電子ビーム加熱方式で蒸発させ、酸化雰囲気下、フィルム上に酸化ケイ素を堆積させる方式が採用される。酸化雰囲気を形成する方法は、上記と同様の方法が用いられる。
【0063】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0064】
すなわち、本発明の一実施形態は、以下である。
<1>ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)を含む樹脂層の少なくとも片面に、無機材料を含む蒸着層を設けてなる積層体を含む成形体であって、前記樹脂層の表面張力が36mN/m以上の表面に蒸着層が形成されている、成形体。
<2>前記樹脂層が、外滑剤を実質的に含まない、<1>に記載の成形体。
<3>前記樹脂層のヘイズ値が、40%以下である、<1>または<2>に記載の成形体。
<4>前記無機材料が、アルミニウム、酸化アルミニウム、ケイ素酸化物、酸化セリウム、酸化カルシウム、ダイアモンド状炭素膜、およびそれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種である、<1>~<3>のいずれかに記載の成形体。
<5>水蒸気透過度が、1.00g/m2/24h未満である、<1>~<4>のいずれかに記載の成形体。
<6>前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)およびポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)からなる群より選択される少なくとも1種である、<1>~<5>のいずれかに記載の成形体。
<7>蒸着フィルムまたは蒸着ボトル容器である、<1>~<6>のいずれかに記載の成形体。
【実施例】
【0065】
以下、本発明を実施例に基づいてより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0066】
〔材料〕
実施例および比較例において、以下の材料を使用した。
【0067】
(P3HA)
A-1:国際公開第2013/147139号公報に記載の方法に準じて得た、3-ヒドロキシヘキサノエート(3HH)組成が11.2モル%、GPCで測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が58万であるポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(P3HB3HH)
A-2:国際公開第2008/010296号公報に記載の方法に準じて得た、3HH組成が5.4モル%、GPCで測定される標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が62万であるP3HB3HH
A-3:Ecomann社製EM5400F[ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(P3HB4HB)]
PBAT/Starch:US2014/0087106に記載の方法に準じて得た、PBAT(ポリ(ブチレンアジペート-co-ブチレンテレフタレート))組成が75重量%、ジャガイモ由来の天然澱粉の組成が25重量%である混合物。
【0068】
(外滑剤)
B-1:エルカ酸アミド(日本精化社製)
(結晶核剤)
C-1:ペンタエリスリトール(日本合成化学社製)
(無機材料)
D-1:アルミニウム(高純度化学研究所社製)
D-2:二酸化ケイ素(オプトサイエンス社製)
〔測定および評価方法〕
実施例および比較例における評価を、以下の方法で行った。
【0069】
(水蒸気透過度)
MOCON社製PERMATRAN-W3/33MG+を用いて水蒸気透過度を測定した。透過セルの温度38℃、相対湿度90%、試験ガス窒素、透過面積50cm2、試験枚数1枚にて行った。
【0070】
(酸素透過度)
MOCON社製OX-TRAN ML2/21を用いて酸素透過度を測定した。温度条件23℃、湿度50%RH、試験ガス酸素100%、透過面積5cm2、試験枚数1枚にて行った。
【0071】
(蒸着密着性)
積層体(蒸着フィルム)の表面にセロハンテープを貼り付けて瞬時に剥がし、蒸着皮膜が剥がれなければ○、剥がれたら×として、評価した。なお、本測定は、3回行い、一回でも剥がれたら×とした。
【0072】
(表面張力)
綿棒を使用して、富士フィルム和光純薬社製の表面張力試験用混合液を6cm2以上の面積に速やかに広げ、2秒以上、塗布されたときの状態を保てば○、保てなければ×として評価した。50mN/mの試験用混合液から始め、○となった試験用混合液の表面張力を数値とした。
【0073】
(ヘイズ値)
スガ試験機製へイズメーターHZ-V3を用いて、JIS K7136-1:1999およびK7316:2000に記載の方法により、厚み30μmのフィルム(樹脂層)のヘイズ値を測定した。
【0074】
〔実施例1〕
P3HA(A-1)、外滑剤(B-1)および結晶核剤(C-1)を表1に示す配合比でドライブレンドした。得られた混合物を、同方向噛合型二軸押出機(東芝機械社製:TEM26ss)に投入し、設定温度120~160℃、スクリュー回転数100rpmで溶融混錬し、ストランドカットすることでペレットを得た。
【0075】
得られたペレットを用いて、押出機設定温度130~160℃、アダプターおよびダイス設定温度(樹脂温度)160℃、引取速度1m/分を初期条件として、Tダイ成形によるフィルム(シート)の製造を実施した。押出の条件は、スクリュー回転数30rpm、ダイギャップ250umとし、押出後に、60℃に温調したロールをシートに当てながら1m/分で引き取ることにより、フィルム(樹脂層)を製造した。次いで、得られたフィルムのヘイズ値を測定した。結果を表1に示す。
【0076】
また、上記のフィルムに、無機材料(D-1)を用いて真空蒸着を行い、積層体を得た。その後、上記の方法により、当該積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0077】
〔実施例2〕
無機材料の種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0078】
〔実施例3〕
結晶核剤を除いたこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0079】
〔実施例4〕
結晶核剤を除き、無機材料の種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0080】
〔実施例5〕
P3HAの種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0081】
〔実施例6〕
P3HAの種類および無機材料の種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0082】
〔実施例7〕
結晶核剤を除き、P3HAの種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0083】
〔実施例8〕
結晶核剤を除き、P3HAの種類および無機材料の種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0084】
〔実施例9〕
P3HAの種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0085】
〔実施例10〕
P3HAの種類および無機材料の種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0086】
〔実施例11〕
結晶核剤を除き、P3HAの種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0087】
〔実施例12〕
結晶核剤を除き、P3HAの種類および無機材料の種類を表1に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表1に示す。
【0088】
【表1】
〔比較例1〕
結晶核剤を除き、真空蒸着を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムを製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、水蒸気透過度および酸素透過度を測定した。結果を表2に示す。
【0089】
〔比較例2〕
結晶核剤を除き、P3HAの種類を表2に示すように変更し、真空蒸着を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムを製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、水蒸気透過度および酸素透過度を測定した。結果を表2に示す。
【0090】
〔比較例3〕
結晶核剤を除き、P3HAの種類を表2に示すように変更し、真空蒸着を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムを製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、水蒸気透過度および酸素透過度を測定した。結果を表2に示す。
【0091】
〔比較例4〕
外滑剤を添加したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表2に示す。
【0092】
〔比較例5〕
外滑剤を添加し、結晶核剤を除き、無機材料の種類を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表2に示す。
【0093】
〔比較例6〕
外滑剤を添加し、P3HAの種類を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表2に示す。
【0094】
〔比較例7〕
外滑剤を添加し、結晶核剤を除き、P3HAの種類および無機材料の種類を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表2に示す。
【0095】
〔比較例8〕
外滑剤を添加し、P3HAの種類を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表2に示す。
【0096】
〔比較例9〕
外滑剤を添加し、結晶核剤を除き、P3HAの種類および無機材料の種類を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、ならびに得られた積層体の水蒸気透過度、酸素透過度および蒸着密着性を測定および評価した。結果を表2に示す。
【0097】
〔比較例10〕
結晶核剤を除き、P3HAをPBAT/Starchに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、および得られた積層体の蒸着密着性を測定および評価した。結果を表2に示す。
【0098】
〔比較例11〕
結晶核剤を除き、P3HAをPBAT/Starchに変更し、さらに無機材料の種類を表2に示すように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、フィルムおよび積層体を製造した。また、実施例1と同様の方法により、得られたフィルムのヘイズ値、および得られた積層体の蒸着密着性を測定および評価した。結果を表2に示す。
【0099】
【表2】
〔結果〕
表1および2より、実施例では、比較例に比して、積層体の水蒸気透過度および酸素透過度が低い結果となった。また、すべての実施例において、蒸着密着性および樹脂層のヘイズ値が良好な結果となった。
【0100】
以上より、本発明の成形体(積層体)は、蒸着層が剥がれにくく、ガスバリア性に優れると共に樹脂層の透明性が高い成形体であることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本成形体は、農業、漁業、林業、園芸、医学、衛生品、衣料、非衣料、包装、自動車、建材、その他の分野に好適に利用することができる。