(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】センサー・プラットフォーム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/00 20060101AFI20240408BHJP
G01N 27/22 20060101ALI20240408BHJP
G01N 27/04 20060101ALI20240408BHJP
G01N 27/12 20060101ALI20240408BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240408BHJP
G01N 27/414 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
G01N27/00 J
G01N27/22 Z
G01N27/04 Z
G01N27/12 B
G01N27/12 G
G01N27/12 C
G01N27/12 H
G01N27/416 341M
G01N27/416 302M
G01N27/414 301Z
(21)【出願番号】P 2021527851
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 CA2019051116
(87)【国際公開番号】W WO2020102880
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-06-21
(32)【優先日】2018-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500276482
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ルフェーブル、ジャック
(72)【発明者】
【氏名】ラポワント、フランソワ
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-150714(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02239561(EP,A1)
【文献】米国特許第10031097(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-27/24
G01N 27/416
G01N 27/414
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス、液体、又は蒸気サンプル中の標的分析物を検知するための電子デバイスであって、前記デバイスが、少なくとも2つの検知素子を備え、各検知素子が、誘電体基板上に支持された変換材料の露出した層を備え、前記検知素子のうちの少なくとも1つの前記誘電体基板が、前記検知素子のうちの少なくとも他の1つの前記誘電体基板とは異なる誘電体材料を備え、前記異なる誘電体材料が、1つ以上の変換モードに従って、異なる検知応答を提供
し、前記変換材料が、カーボン・ナノチューブを含む、電子デバイス。
【請求項2】
前記1つ以上の変換モードが、前記検知素子のフェルミ準位のシフト、前記検知素子のショットキー障壁の変調、前記検知素子の辺りの誘電体環境の変化、及び前記検知素子の電荷キャリア拡散率の変化のうちの1つ以上を含む、請求項1に記載のデバイス。
【請求項3】
1つの検知素子の前記誘電体材
料が、
別の検知素子の前記誘電体材
料とは異な
る変換に対する
効果を有する、請求項1又は請求項2に記載のデバイス。
【請求項4】
前記誘電体材料のうちの少なくとも2つが、標的分析物との異なる相互作用強度を有する、請求項1から3までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項5】
前記
異なる誘電体材料のうちの少なくとも1つが
、二酸化ケイ素又は有機ポリマー
を含み、前記有機ポリマーが、ポリアミド、ポリビニルフェノール、ポリシルセスキオキサン、ポリアクリレート、ポリフッ素化アルカン、ポリスチレン、ポリビニルピリジン、セルロース誘導体、ポリ(p-キシリレン)、それらのコポリマー、又はそれらの配合物を含む、請求項1から4までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項6】
前記異なる誘電体材料が、第1及び第2の有機高分子誘電体材料であり、前記第1の有機高分子誘電体材料をもつ前記基板を有する検知素子の数が、前記第2の有機高分子誘電体材料をもつ前記基板を有する検知素子の数以上である、請求項1から5までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項7】
前記標的分析物が湿潤性であり、
前記誘電体材料のうちの1つが親水性であり、前記誘電体材料のうちの別のものが疎水性であり、或いは前記誘電体材料のうちの1つが吸湿性であり、前記誘電体材料のうちの別のものが非吸湿性である、請求項1から6までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項8】
前記変換材料が、単一カイラリティ半導体性単壁カーボン・ナノチューブを含む、請求項1から7までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項9】
前記変換材料が、各検知素子において相互接続されたネットワークとし
て実装され、前記ネットワークが、前記
カーボン・ナノチューブのランダムなアレイ又は整列アレイを有する、請求項1から
8までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項10】
前記変換材料が、前記標的分析物に対して透過性である、請求項1から
9までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項11】
前記少なくとも2つの検知素子が、2よりも大きい任意の数の検知素子のアレイ中にあり、
前記検知素子のうちのすべてのものの前記誘電体基板が、異なる誘電体材料を含み、或いは前記検知素子のうちの少なくとも2つの前記誘電体基板が、同じ誘電体材料を含む、請求項1から1
0までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項12】
前記検知素子が、抵抗、キャパシタ、ダイオード、トランジスタ、電気化学セル、又はそれらの組合せを備える、請求項1から1
1までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項13】
前記標的分析物が、揮発性有機化合物、アミン、C
1-8アルカン、空気汚染物質、殺虫剤、化学兵器薬品、溶剤、産業ハザード、疾病マーカー、アルコール、薬剤、又はそれらの混合物である、請求項1から1
2までのいずれか一項に記載のデバイス。
【請求項14】
ガス、液体、又は蒸気サンプル中の標的分析物を検知するためのプロセスであって、前記プロセスが、
請求項1から1
3までのいずれか一項に記載のデバイスを、標的分析物を含むガス、液体、又は蒸気サンプルに曝露することと、
1つ以上の変換モードに従って、前記少なくとも2つの検知素子の間で異なる検知応答を測定することと
を含む、プロセス。
【請求項15】
前記サンプルが、周囲空気又は呼吸の成分を含む蒸気混合物であり、前記成分のうちの少なくとも1つが、標的分析物検出
に干渉
する、請求項1
4に記載のプロセス。
【請求項16】
前記デバイスがトランジスタモードで動作させられ、しきい値電圧、ヒステリシス、サブスレッショルド勾配又はスイング、ホール及び電子移動度、オン及びオフ電流、並びにオン/オフ電流比のうちの1つ以上が、前記標的分析物との前記デバイスの異なる相互作用強度の測度を提供するために、標的分析物濃度の関数として算出及び追跡される、請求項1
5に記載のプロセス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、それの内容全体が参照により本明細書に組み込まれる、2018年11月20日に出願された、米国仮特許出願第62/769,621号の利益を主張する。
【0002】
本出願は、電子センサーに関し、特に、ガス、液体、又は蒸気から少なくとも1つの標的分析物(target analyte)を検出するための電子センサーに関する。
【背景技術】
【0003】
CNTセンサー、特に半導体性単壁カーボン・ナノチューブ(sc-SWCNTs:semiconducting single-walled carbon nanotube)に基づくものは、モノのインターネット及びウェアラブル・デバイスにおいて実装されるべき、広く展開可能な、高性能な、及び印刷された低コストの電子デバイスの新しい世代のための多くの望ましい特徴を与える。限定はしないが、電子変換(electronic transduction)に主に基づくCNTセンサー(たとえば、ケミレジスタ(chemiresistor)、容量性(capacitive)、トランジスタ)は、CNT材料によって与えられる大きい表面積により非常に敏感である。しかしながら、特定の分析物(たとえば、ガス又は溶媒和分子)に対する選択性は、概して、ナノチューブ側壁の限られた反応性により非常に乏しいである。さらに、現在のセンサー・アーキテクチャは、ナノチューブを囲む界面に対する制御をほとんど又はまったく提示しない。
【0004】
所与の分析物に対するCNTベースのセンサーの選択性を改善することは、化学的に異なる膜でCNTをコーティングすること、CNTの共有又は非共有化学的官能化、ナノ粒子を用いたCNT側壁のデコレーション、CNTを別の変換材料(transduction material)と組み合わせること、及び基板又はコンタクト電極の化学的官能化を含むいくつかの異なる方法によって達成され得る。各方法は、特定の属性を有し、標的検知適用例のために使用され得る。これらのセンサーに共通するのは、下にある基板が、機械的支持以外の機能を有しないことである。しかしながら、単壁CNTの場合、すべてのナノチューブ原子は、環境と基板との間の界面に露出される。これにより、界面は、性能において重要な役割を果たし、特に薄膜トランジスタの場合、周りの材料から著しい干渉が起こることがある。そのような干渉は、現在、CNTベースの検知にとって深刻な制限をなす。たとえば、基板界面は、表面状態、ダイポール及び電荷トラップを提示し、したがって、デバイス性能、動作変動性、及びセンサー応答において重要な役割を果たす。チャネル及び誘電体界面が保護されないままにされたトランジスタでは、すべてではないにしてもいくつかのトランジスタ・メトリックが、周囲状態のゆらぎに敏感になる。最もよく知られている例は、ボトム・ゲート構成におけるむきだしのトランジスタが、前進及び後進ゲート掃引方向の間の著しいヒステリシスをもつ空気周囲(air ambient)における単極p形である、親水性SiO2誘電体である。O2/H2Oレドックス・プロセスの影響は、n形伝導の抑圧を担当する優勢機構(dominant mechanism)であることが実証された。そのようなトランジスタ上で、トランジスタ・パラメータの日々の変動が、空気周囲状態における変化時に観測される。いくつかのエレクトロニクス適用例の場合、これは許容できず、適切なカプセル化が要求される。しかしながら、検知観点から、この属性は、ある程度の制御が達成され得るという条件で、極めて魅力的である。基板誘発変動性(substrate-induced variability)は、変動性が合理化及び制御され得る場合、有利に使用され得る。トランジスタ性能に関する基板役割の認識された役割にもかかわらず、検知応答に関する基板の重要性は見過ごされ、たいていの研究は、無機誘電体、主にSiO2に焦点を当ててきた。
【0005】
直交信号及びデータ分析に基づくセンサー、特にCNTベースのセンサーに対するニーズが残っている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様では、ガス、液体、又は蒸気サンプル中の標的分析物を検知するための電子デバイスであって、デバイスは、少なくとも2つの検知素子を備え、各検知素子は、誘電体基板上に支持された変換材料の露出した層を備え、ここにおいて、検知素子のうちの少なくとも1つの誘電体基板は、検知素子のうちの少なくとも1つの他の誘電体基板とは異なる誘電体材料を備え、異なる誘電体材料は、1つ又は複数の変換モード(transduction mode)に従って、異なる検知応答を提供する、電子デバイスが提供される。
【0007】
ガス、液体、又は蒸気サンプル中の標的分析物を検知するためのプロセスであって、プロセスは、上記で定義されたデバイスを、標的分析物を含んでいるガス、液体、又は蒸気サンプルに曝露することと、1つ又は複数の変換モードに従って、少なくとも2つの検知素子の間で異なる検知応答を測定することとを備える、プロセスがさらに提供される。
【0008】
検知素子は、抵抗(たとえば、ケミレジスタ)、キャパシタ、ダイオード、トランジスタ、電気化学セル、又はそれらの組合せであり得る。電子検知デバイスは、4つの変換モードに従って動作する。分析物は、1)検知素子のフェルミ準位のシフト(静電気、化学ドーピング)、2)検知素子のショットキー障壁(電荷キャリア注入効率、接触抵抗)の変調、3)検知素子の辺りの誘電体環境(有効誘電率、ゲート・キャパシタンス)の変化、及び/又は4)検知素子の電荷キャリア拡散率(charge carrier diffusivity)(電荷キャリア移動度、チャネル抵抗)の変化を引き起こし得る。検知素子の電子的性質に対する基板誘電体の主な影響は、1)フェルミ準位のシフト及び3)誘電体環境の変化を通して発生する。その上、基板誘電体を交換することは、界面の化学的性質の変化により、基板との分析物の相互作用強度を変える機会をも与える。これは、いくつかのタイプの分子についての多少の親和性という結果になる。変換材料と誘電体材料との組合せは、異なる標的分析物について検知素子の異なる変換パターン(transduction pattern)を生じる。これにより、所与の検知素子の変換信号(transduction signal)は、a)検知素子の電子的性質に対する基板誘電体の影響、b)デバイスとの分析物の特定の相互作用強度に対する基板誘電体の影響、及びc)変換モード1)~4)を通したデバイスに対する分析物の影響の畳み込みになる。
【0009】
したがって、下にある誘電体界面は、4つの変換モードのうちの1つを圧倒的に選好するやり方で、検知素子の電子的性質を調整するために利用され得る。誘電体基板は、所与の分析物又は分析物のセットについて、変換モードの各々に関して検知デバイスにおいてわずかに別様に挙動するので、個々の検知素子は、特定の標的分析物に固有でないことがあるが、いくつかの素子を備える検知デバイスは、複数の信号からの変換パターンに従って、標的分析物を認識することができる。したがって、異なる誘電体基板を有する検知素子を備える検知デバイスは、ただ1つの標的分析物についてではなく、標的分析物のセット中の標的分析物について、際立って改善された選択性を有する。
【0010】
これにより、誘電体基板の近位表面(すなわち、変換材料がその上に支持された誘電体基板の表面)が、分析物相互作用の優勢ベクトル(dominant vector)になり、変換材料が、必要な電気的変換(electrical transduction)を提供するバック・ゲート誘電体検知モードを、デバイスは利用し得る。この検知モードでは、誘電体材料の選定(有機及び/又は無機)は、純粋な又は官能化された変換材料の単一のソースが使用される場合でも、センサー応答を変調する。この方策は、誘電体基板、特に有機ポリマーを備える誘電体基板のアレイから構築された印刷可能な電子鼻(electronic nose)にとってうまく役立つ。
【0011】
検知デバイス中の検知素子の様々な組合せが可能である。たとえば、検知素子のうちのすべてのものの誘電体基板は、異なる誘電体材料を備え得るか、検知素子のうちの少なくとも2つの誘電体基板は、同じ誘電体材料を備え得るか、2つの誘電体材料のうちの少なくとも2つは、標的分析物との異なる相互作用強度を有し得るか、又は誘電体材料のうちの少なくとも1つは、誘電体材料のうちの別のものの変換に対する影響の性質とは異なる性質のデバイスにおける変換に対する影響を有し得る。他の組合せが可能である。
【0012】
誘電体基板材料は、「ロックアンドキー」旧来型検出方式を越える(move past)ために、交差反応性化学センサー・アレイの実装形態における追加の自由度を提供する。本明細書で説明される高分子材料の広範な調査は、しきい値電圧、ヒステリシス、及び相互コンダクタンスに関して、湿度及び揮発性化合物に対する際立って異なるシグネチャにつながり、検知適用例においてトランジスタ・メトリックの豊富なセットを使用することのパワーを実証した。これにより、印刷電子鼻は、様々なポリマーを備えるゲート誘電体基板材料をもつカーボン・ナノチューブ・トランジスタ検知素子を備え得る。検知応答の直交性を活用することによって、分子認識における改善された性能が、特に高度なデータ分析との組合せで達成される。
【0013】
さらなる特徴が、説明されるか又は以下の発明を実施するための形態において明らかになろう。本明細書で説明される各特徴は、他の説明される特徴のうちのいずれか1つ又は複数との任意の組合せで利用され得ること、及び各特徴は、当業者に明白な場合を除いて、別の特徴の存在に必ずしも依拠するとは限らないことを理解されたい。
【0014】
次に、より明瞭な理解のために、好ましい実施例が、添付の図面を参照しながら例として詳細に説明される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】異なる誘電体材料から作成された基板を有するセンサー素子のアレイを使用する分析物検出のための検知デバイスを描く図である。
【
図2】SiO
2(親水性)及びPVP-pMSSQ(疎水性)を備える基板を有するペアにされた検知素子の場合の、トランジスタしきい値電圧V
T,(V)の相対湿度(%)に対する依存を示すグラフを描く図である。
【
図3】ポリアミドPA12、(吸湿性)及びポリフタルアミドPA6T(より少ない吸湿性)を備える基板を有するペアにされた検知素子の場合の、トランジスタしきい値電圧V
T,(V)の相対湿度に対する依存を示すグラフを描く図である。
【
図4】異なる誘電体基板を備える一連のトランジスタのトリプロピルアミン蒸気に対する応答を示すプロットを描く図であり、移動度(dMu(%))の変化が左軸上に、及びしきい値電圧(dV
T(V))の変化が下部軸上にとられている。
【
図5】SiO
2ゲート誘電体基板上のカーボン・ナノチューブ・ネットワーク・トランジスタの性能を示すグラフを描く図である。ここで、図(a)は、60%相対湿度(RH)に正規化されたRHの3つのレベルにおいて取られた伝達特性を示す図である。
図5(b)は、トランジスタしきい値電圧及び相互コンダクタンスのRH依存を示す図である。
図5(c)は、トランジスタしきい値電圧及び相互コンダクタンスのRH依存を示す図である。10%と60%との間の複数の湿度周期からのデータが示されている。
【
図6】3つのポリマー・ゲート誘電体基板上のカーボン・ナノチューブ・ネットワーク・トランジスタの性能を示すグラフを描く図である。ここで、図(a)相対湿度(RH)の3つのレベルにおいて取られた伝達特性を示す図である。
図6(b)は、
図6(a)中の3つのポリマーの場合の、トランジスタしきい値電圧及び相互コンダクタンスのRH依存を示す図である。
図6(c)は、
図6(a)中の3つのポリマーの場合の、トランジスタしきい値電圧及び相互コンダクタンスのRH依存を示す図である。
【
図7】SiO
2ゲート誘電体基板と比較して、一連のポリマー・ゲート誘電体基板上のカーボン・ナノチューブ・トランジスタの場合の伝達特性を示すグラフを描く図である。
【
図8】PVP-pMSSQゲート誘電体基板と比較して、一連のナイロンゲート誘電体基板上のカーボン・ナノチューブ・トランジスタの場合の伝達特性を示すグラフを描く図である。
【
図9】揮発性化合物に曝露されたカーボン・ナノチューブ・ネットワーク・トランジスタの性能を示すグラフを描く図である。
図9(a)は、SiO
2と比較して、3つのポリマー誘電体、すなわち、PVP-pMSSQ、PA66、及びメルクD139の場合の伝達特性を示す図であり、矢印は、ゲート掃引方向を指示し、黒い線は、ボールドグレーで指示されている伝達特性の部分から抽出された線形適合である。
図9(b)は、8つの揮発性物質(メタノール(MeOH)、水(H
2O)、酢、イソプロピルアミン(IPA)、アセトン、トリプロピルアミン(TPA)、及びジイソブチルアミン(dIBA)への曝露時の、トランジスタしきい値電圧及び相互コンダクタンスの時間依存を示す図である。パラメータは、
図9(a)中に図示されている線形適合から抽出された。1つのデータ・ポイントが、7秒ごとに収集された。
【
図10】4つの揮発性液体アミン(トリプロピルアミン(TPA)、ジイソブチルアミン(dIBA)、イソブチルアミン(IBA)、及びトリエチルアミン(TEA))への曝露時の、異なるゲート誘電体をもつ6つのトランジスタの場合の、トランジスタしきい値電圧及び相互コンダクタンスのエボリューションを示すグラフを描く図である。
【
図11】揮発性化合物への曝露時の、混ぜ合わせられたトランジスタ応答を要約する表を描く図である。データは、トリプロピルアミン(R)と比較した応答に基づいて、白(著しくより低い)から暗(著しくより高い)までの3つの色強度で提示されている。ドット付きの四角は測定されなかった。誘電体材料は、周囲空気におけるヒステリシスに従ってグループ化される:遅れ(lagging)、なし(free)、進み(advancing)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
検知デバイスは検知素子のアレイを備え、ここで、検知素子のうちの少なくとも1つは、1つ又は複数の変換モードに従って異なる検知応答を提供する誘電体材料を備える誘電体基板を備える。誘電体材料は、標的分析物が検知素子のフェルミ準位をどのようにシフトするかに対する異なる影響、標的分析物が検知素子の誘電体環境をどのように変えるかに対する異なる影響、標的分析物が検知素子のショットキー障壁をどのように変調するかに対する異なる影響、及び/又は標的分析物が検知素子の電荷キャリア拡散率をどのように変えるかに対する異なる影響を有し得る。誘電体材料は、検知素子の別のものにおける少なくとも1つの誘電体基板の誘電体材料と比較して、標的分析物との異なる相互作用強度を有し得る。このようにして、基板自体が検知機能に寄与する。
【0017】
誘電体材料は、有機、無機、又は有機/無機混成物であり得る。好ましくは、誘電体材料はポリマーを備える。一実施例では、誘電体材料は有機ポリマーを備える。誘電体材料のいくつかの例は、二酸化ケイ素、窒化ケイ素、アルミナ、ポリアミド、ポリビニルフェノール、ポリシルセスキオキサン、ポリアクリレート、ポリフッ素化アルカン、ポリスチレン、ポリビニルピリジン、セルロース誘導体、ポリ(p-キシリレン)、それらのコポリマー、それらの配合物、又はそれらの混成物である。
【0018】
変換材料は、デバイスがサンプルに曝露されるときに標的分析物に曝露される層として、誘電体基板上に形成される。変換材料は、ポリマー、非高分子分子(non-polymeric molecule)、ナノワイヤ、ナノロッド、ナノチューブ、ナノ粒子、又はそれらの任意の組合せの形態であり得る。いくつかの実施例では、変換材料は、標的分析物に対して透過性であり得る。変換材料は、少なくとも単一のナノワイヤ、ナノロッド、ナノチューブ、又はナノ粒子として、検知素子において実装され得る。いくつかの実施例では、変換材料は、ネットワークにおいて相互接続された3つ以上のナノワイヤ、ナノロッド、ナノチューブ・ナノ粒子、又はそれらの組合せとして検知素子において実装され得る。ネットワークは、ランダム又は整列アレイであり得る。
【0019】
変換材料は、必ずしも1つのタイプの材料に限定されるとは限らず、たとえば、カーボン・ナノチューブ(CNT:carbon nanotube)、シリコン・ナノワイヤ、半導体性ポリマー(たとえば、ポリアニリン、ポリチオフェン)、及びそれらの混合物であり得る。
【0020】
好ましい実施例では、変換材料はCNTを備える。CNTは、金属CNT(m-CNT:metallic CNT)、半導体性CNT(sc-CNT:semiconducting CNT)、又はそれらの混合物であり得る。CNTは、単壁(SWCNT)、多壁(MWCNT)、又は少壁(FWCNT)であり得る。sc-CNTが豊富なCNTが好ましい。SWCNT、特に、sc-SWCNTが豊富なSWCNTが好ましい。CNTは、CNT準備の任意の都合のよいソースからもたらされ得る。SWCNTは、HiPco、CoMoCAT、CVD、アーク放電、レーザーアブレーション、又はプラズマプロセスから準備された未処理の(約0.6~2.2nmの平均直径の)SWCNTを備え得る。sc-SWCNTにおけるSWCNTの高濃度化は、一般に知られている方法、たとえば、ポリフルオレンなどの共役ポリマーを用いた、たとえば、ポリマーラッピングを伴う方法などの分散方法によって成就され得る。さらに、検知素子を区別するために、カイラリティ分離sc-SWCNT(単一カイラリティ半導体性単壁カーボン・ナノチューブ)が使用され得、すなわち、所与の誘電体基板上に構築された検知素子は、これらのナノチューブが、異なる電子バンド構造及びエネルギー・バンドギャップを有するので、半導体性チャネルが(n1,m1)個のSWCNTから構成される場合(ここで、添字n及びmは、所与の直径及びヘリシティを用いてSWCNTを特定するために文献において共通に使用される)、半導体性チャネルが(n2,m2)個のSWCNTから構成される検知素子と比較して、異なる応答を有することになる。
【0021】
標的分析物は、好ましくは、ガス、液体、蒸気、又はそれらの混合物である。標的分析物は、好ましくは、検知デバイスが使用されるべきである温度及び圧力において蒸気又はガスを形成するのに十分に揮発性の任意の化合物である。標的分析物のいくつかの例は、湿気、揮発性有機化合物(VOC:volatile organic compound、たとえば、芳香族化合物))、アミン、C1-8アルカン、空気汚染物質(たとえば、CO、CO2、NOx、O3、H2S、SO2、ホルムアルデヒド)、殺虫剤(ホスフィン、ブロモメタン)、化学兵器薬品(サリン、マスタード・ガス、ホスゲン)、溶剤(CHCl3、ベンゼン)、産業ハザード(industrial hazard)(NH3、AsH3、Cl2、HCN、SiCl4)、疾病マーカー(NO、アセトン)、(劣化副産物を含む)アルコール及び薬剤、又はそれらの混合物である。いくつかの実施例では、標的分析物は、周囲空気又は呼吸の成分の混合物、すなわち、N2、O2、CO2、H2O、及び微量で、NOx、O3、SO2、COなどを備える蒸気中に存在し得、ここで、成分のいずれも、標的分析物検出に対する干渉として働き得る。
【0022】
検知素子を作製するために、変換材料の膜が、基板上の電極ペア(抵抗)、第2の電極に容量結合された単一の電極(キャパシタ)、又はゲート電極に容量結合された基板上の電極ペア(トランジスタ)と接触させられる。変換材料の膜は、スピン・コーティング、ドロップ・キャスティング、エアゾール噴射、エレクトロスプレー、グラビア印刷、インクジェット印刷によって堆積された液体形態の変換材料ソース、又は接触転写、エレクトロスプレーによって堆積された乾燥形態の変換材料ソースを使用して作製される。電極は、金属蒸着及びリソグラフィなどの微細加工プロセス、或いはインクジェット印刷又はグラビアなどの印刷可能なプロセスを使用して、変換材料膜より前に又はそれの後に堆積させられる。基板又はゲート電極のための誘電体層は、誘電体材料がポリマー又は無機/ポリマーの組合せである場合、同様のプロセスを使用して得られる。無機誘電体は、より一般的には、物理化学的堆積方法から得られる。
【0023】
個々の検知素子は、検知デバイスを形成するために、アレイに組み立てられる。検知アレイは、素子の数、形状、及び配置にかかわらず、素子の数と少なくとも同数の変換信号を、分析物(たとえば、ガス、液体、又は蒸気)に対して生じる検知素子の集合である。最も単純なアレイは、2つの検知素子を備える1×2アレイであり、一方の検知素子が、他方の検知素子の誘電体基板とは異なる誘電体材料を備える誘電体基板を有する。しかしながら、少なくとも2つの検知素子は、2よりも大きい任意の数の検知素子のアレイ中にあり得る。個々の検知素子の誘電体材料及び半導体性材料が、検知素子応答の最も広い変動を提供するように選定された、検知素子のより大きいアレイが可能である。アレイ中の検知素子の数は、任意に大きくなり得、2、4、8、16、32、64、128、256、512、1024などが、最も一般的な構成である。冗長性も提供され得、これは、同じ検知素子が、アレイ中で任意の複数回存在し得ることを意味する。
【0024】
一実施例では、検知デバイスは、単一の標的分析物について選択的であるように設計される。この目的で、デバイスは、あるタイプの検知素子が、他のタイプの検知素子とは異なる標的分析物との相互作用強度を有する検知素子のアレイを備える。たとえば、2つの検知素子を備える湿度センサーにおいて、第1の検知素子は親水性基板を有し、第2の検知素子は疎水性基板を有する。別の実施例では、検知デバイスは、標的分析物のセットについて選択的であるように設計される。この目的で、デバイスは、標的分析物の各々との異なる相互作用強度を有するアレイ中の検知素子のタイプがある検知素子のアレイを備え、相互作用強度は、標的分析物の各々とのアレイ中の他のタイプの検知素子の相互作用強度とは異なる。
【0025】
別の実施例では、異なる誘電体材料は、複数の誘電体材料を備え、誘電体材料のうちの1つは、他の誘電体材料の変換に対する影響の性質とは異なる性質の、デバイスにおける変換に対する影響を有する。たとえば、誘電体材料のうちの1つは、他の誘電体材料と比較して、標的分析物がカーボン・ナノチューブのフェルミ準位をどのようにシフトするかに対する異なる影響を有し得、他の誘電体材料のうちの1つは、他の誘電体材料とは異なる標的分析物との相互作用強度を有する。
【0026】
検知素子のアレイは、好適な構成で組み立てられ得る。トランジスタ構成において、伝達特性(たとえば、ゲート・ソース電圧の関数としてのドレイン・ソース電流)及び出力特性(たとえば、ドレイン・ソース電圧の関数としてのドレイン・ソース電流)が、任意の電圧範囲について集められ得る。センサーの辺りの標的分析物濃度が変化するにつれて、濃度の変化は、主に、回路中の電流、電圧、又は抵抗の変化に反映される。分析物濃度の変化はまた、電流、電圧、電荷、キャパシタンス、又は抵抗データから導出されたパラメータを使用して追跡され得る。たとえば、トランジスタ構成において動作させられたとき、限定はしないが、以下のパラメータ、すなわち、しきい値電圧、ヒステリシス、サブスレッショルド勾配又はスイング、ホール及び電子移動度、オン及びオフ電流、オン/オフ電流比などが、濃度の関数として算出及び追跡され得る。
【0027】
1次パラメータ、及び検知アレイからの導出されたパラメータは、アレイの応答のセットに分析物濃度を関係付けるために、セットで集められ、主成分分析、部分最小2乗、カノニカル相関分析及び因子分析など、多変量解析を使用して分析され得る。機械学習、クラスタリング、ニューラルネットワーク、回帰及びパターン認識が、実装され得る他のデータ分析技法である。
【0028】
相補型誘電体材料を備える誘電体基板を使用することとともに、検知素子に変動を付与する他の方法が使用され得る。そのような他の方法は、たとえば、化学的に選択的な薄膜で変換材料をコーティングすることと、共有結合的に又は非共有結合的に変換材料を化学的に官能化することと、ナノ粒子で変換材料の側壁をデコレートすることと、変換材料を別の変換材料と組み合わせることと、基板又はコンタクト電極を化学的に機能化することとを含み得る。代替又は追加として、検知デバイス中の電極材料は、変換材料の電子的性質をさらに調整するように変えられ得る。
【0029】
実例
「実例1」
図1を参照すると、検知デバイス1は、検知素子として働くチップ2、4、6、8上のトランジスタの2×2アレイを有するトランスデューサアレイ10を備える。チップ2、4、6、8は、電気接点7(1つのみがラベル付けされている)に電気リード線5(1つのみがラベル付けされている)によって電気的に連結された電極ペア9(1つのみがラベル付けされている)が上に堆積された誘電体基板を備え、電気接点7は、デバイス1のピン12(1つのみがラベル付けされている)に電気的に連結されている。誘電体基板の下の第3の電極(ゲート電極11(1つのみがラベル付けされている))とともに、各電極ペア9(ソース及びドレイン電極)が、トランジスタを形成する。チップ2、4、6、8の各々は、基板上に堆積されたsc-SWCNTの層を備える。各チップ2、4、6、8は、他のチップ2、4、6、8の基板の誘電体材料とは異なるタイプの誘電体材料を備える基板を有する。異なる誘電体材料は、1つの分析物又は標的分析物のセットとの異なる相互作用強度を有する。
【0030】
図1中に図示されているようなトランジスタ構成において動作させられるときに、1つ又は複数のパラメータが、分析物との異なる相互作用強度の測度を提供するために、濃度の関数として算出及び追跡され得る。そのようなパラメータは、限定はしないが、しきい値電圧、ヒステリシス、サブスレッショルド勾配又はスイング、ホール及び電子移動度、オン及びオフ電流、並びにオン/オフ電流比を含む。
【0031】
湿度検出に検知デバイスの設計を適用するとき、親水性二酸化ケイ素(SiO
2)が、一方のトランジスタのための誘電体基板として使用され、疎水性ポリ(ビニル・フェノール)-ポリ(メチル・シルセスキオキサン)(PVP-pMSSQ:poly(vinyl phenol)-poly(methyl silsesquioxane、Xerox xdi-dcs)が、他方のトランジスタのための高分子誘電体基板(polymeric dielectric substrate)として使用された。
図2は、SiO
2(下側プロット)及びPVP-pMSSQ(上側プロット)を備える基板を有するトランジスタの2×1アレイの場合の、トランジスタしきい値電圧V
T,(V)の相対湿度(%)に対する依存を示す。SiO
2ベースのトランジスタの場合のしきい値電圧は、相対湿度が増加するにつれて低下し、一方で、PVP-pMSSQベースのトランジスタの場合のしきい値電圧は、本質的に同じままであった。誘電体基板として使用される適切に選定された材料は、異なる分析物に対して別様に応答する。
【0032】
別の例では、検知デバイスの設計は、単に親水性ではなく吸湿性を標的にすることによって、湿度検出に適用された。使用された誘電体基板は、吸湿性であるポリアミドPA12、及びあまり吸湿性でないポリフタルアミドPA6Tであった。
図3は、PA12(上側プロット)及びPA6T(下側プロット)を備える基板を有するトランジスタの2×1アレイの場合の、トランジスタしきい値電圧V
T,(V)の相対湿度(%)に対する依存を示す。PA12ベースのトランジスタの場合のしきい値電圧は、相対湿度が増加するにつれて低下し、PA6Tベースのトランジスタの場合のしきい値電圧は、本質的に同じままであった。
【0033】
別の例では、検知デバイスの設計は、トリプロピルアミン蒸気の検出に適用された。検知デバイスは、20個の異なる誘電体基板を備えるトランジスタのアレイを備えた。誘電体基板は、二酸化ケイ素(SiO
2)、硝酸セルロース(CN)、ポリ(ビニル・フェノール)-ポリ(メチル・シルセスキオキサン)(Xerox xdi-dcs)、酢酸セルロース(CA)、パリレンC(ParC)、メルクD139、ポリテトラフルオロエチレン(テフロン(登録商標))、ポリビニリデン・ジフルオリド(PVDF)、ポリフタルアミド6(3)T(PA6(3)T)、ポリフタルアミド9T(PA9T)、ポリアミド66(PA66)、ポリフタルアミド10T(PA10T)、ポリアミド69(PA69)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリフタルアミドMXD6(MXD6)、ポリ(4-ビニル・ピリジン)(P4VP)、ポリ(4-ビニル・ピリジン)-ポリスチレン10(P4VP-PS10)、シアノエチル・セルロース(CEC)、及びパリレンHT(ParHT)であった。
図4中に見られるように、移動度(dMu(%))の変化及びしきい値電圧(dV
T(V))の変化が、各トランジスタについて記録され、各トランジスタは、異なる様式で挙動した。アレイについての挙動のこのパターンは、トランジスタのうちのいずれか1つ又は複数について、トリプロピルアミンの濃度に相関させられ得、アレイは、未知の蒸気サンプル中のトリプロピルアミンを検出するために使用された。結果はまた、テストされた誘電体基板のうちのいずれか2つ又はそれ以上が検知デバイス中で使用され、トリプロピルアミンを正常に検出し得ることを示す。
【0034】
特定の分析物を検知する目的でのデバイスアレイアーキテクチャにおける複数の誘電体材料の使用が、実例1に示された。各誘電体基板は、異なる分析物に別様に応答し、分析物の識別及び選択的検出を可能にする。湿度及びトリプロピルアミン検知への適用例が例示されたが、原理は、他の分析物の選択的検出に拡張され得る。
【0035】
実例2~5のための材料及び方法
ボトム・ゲート・トランジスタ作製。基板は、ポリマー膜中のピンホールからのゲート漏れをなくすために、30nmの酸化物(又はSiO2ベースのトランジスタの場合、1000nm)でコーティングされた、縮退ドープされたSiウエハから劈開された(概して、酸化物層は要求されなかったが、依然として、多くのポリマーを通して迅速にスクリーニングするための実際的な解決策が考えられた)。Si基板は、ゲート電極として働いた。m-クレゾールに溶かされたナイロン、及び溶液として購入されたフッ素化ポリマーを除いて、たいていのポリマーは固体形態でもたらされ、大部分がDMFに溶かされた。高分子溶液は、200~800nmの厚さ範囲において滑らかな層を得るように調節された、重み濃度(5~10%)及びスピン速度(1000~2000rpm)でスピン・コーティングされた。スピン・コーティング中にサンプルの上に配置された空気銃(100度の設定点)が、DMF及びm-クレゾール調合物(formulation)の場合の膜形態(film morphology)を著しく改善した。コーティングの後、サンプルは、20分間110度でホット・プレート上に放置された。脂肪族ナイロンが、それらのガラス転移温度を超えてアニールされ、(混濁(haze)によって見られる)結晶化度を低減するために、急速に冷却された。パリレン-C及び-HTコーティングが、SCS(Specialty Coating Services、Kisco company)から得られた。ソース及びドレイン電極が、サンプルと密接している金属ステンシルマスクを通してTi(5nm)及びAu(100nm)の電子ビーム蒸着によって作成された。チャネル寸法は、1000μm×40μmであった。カーボン・ナノチューブが、電極の上に堆積させられた(下記参照)。
【0036】
カーボン・ナノチューブ分散液。分散液が、Raymor Nanotechnologiesによって供給される未処理のSWCNT材料から準備された(RN-000、プラズマプロセス、1.3nmの辺りの直径)。我々のグループによって前に報告されたプロセスは、トルエン溶媒中の共役ポリマー(ポリ(9,9ーdidodecylfluorene)、PFDD)を用いたsc-SWCNTの選択的抽出からなる。混合物(1.0/1.0のPFDD対SWCNT重量比、及び0.8mg/mlのナノチューブ濃度)が、30分間ホーン音波処理(horn sonicate)され(Branson sonifier 250)、その後に、30分の遠心分離(約18,000g)が続く。このステップは、前の遠心分離からの堆積物を使用して5回繰り返された。(1mg/mlの)シリカゲルが、組み合わせられた5つの上澄み溶液に加えられ、混合物は、40分間浴音波処理され(Branson 2510)、その後に、3時間放置し、次いで30分の遠心分離(約18,000g)が続く。上澄みは、0.2μmの孔サイズをもつテフロン(登録商標)・メンブレン(Sartorus Stedim Biotech)を使用してフィルタ処理され、余分なポリマーを取り除くためにトルエンですすがれた。集められたsc-SWCNTは、0.48mg/mlの濃度及び2.4のポリマー対ナノチューブ重量比で、5~10分間浴音波処理を使用してトルエン中に分散させられた。
【0037】
カーボン・ナノチューブ堆積。共役ポリマーで包まれたSWCNTは、SiO2誘電体表面(SiO2/Si基板)に対する良好な接着力特性を有し、浸漬から作成されたトランジスタは、高いオン/オフ比と組み合わせられた高い移動度を示す。しかしながら、これは、あらゆる誘電体表面に当てはまるというわけではない。エアゾール堆積について報告されているように、カーボン・ナノチューブは、低表面エネルギーをもつ材料、たとえば、フッ素化ポリマーに対して弱い接着力を提示する。ドライプロセスであるエアゾールは、その問題を効果的に克服することができた。電圧が電極と基板との間に印加される(いわゆるE-soak)という条件で、安定したナノチューブ・ネットワークが、浸漬によって任意の材料上に形成されることもあり得る。プロセスの詳細な研究が依然として要求されるが、電圧の大きさ及びそれの極性は、SWCNTネットワーク(カバレージ及び形態)に影響を及ぼした。小さい円形電極(0.5mmの半径)の場合、1mmギャップに対して35Vが好適なように思われた。より高い電圧は、堆積させられたSWCNT膜の層間剥離を引き起こすことがある、溶液中の渦巻きにつながることがわかった。1μg/mLのSWCNT濃度の場合、堆積時間は、分オーダー(2~5分)であり、カーボン・ナノチューブは、主に電極の下に堆積する。浸漬のみで十分であるSiO2/Si及び他の表面の場合、<1μg/mLでのE-soakingは、電極の下で10~100倍より多いカバレージを提供する。
【0038】
電気的測定。すべての測定は、プローブ・ステーション中の個々のトランジスタに対して、又はチップキャリア中に取り付けられたいくつかのトランジスタに対してのいずれかで、空気周囲中で実施された。デュアル・チャネル・ソース・メジャー・ユニット(Keithley(登録商標) 2602B)が、ゲート・バイアス及びドレイン・ソース・バイアスの両方を供給するために、及び1.2V/sの掃引レートでトランジスタ及び漏れ電流を測定するために使用された。マルチ・トランジスタ測定の場合、20チャネル・マルチプレクサ(Keithley(登録商標) 3706A)が、トランジスタ・ドレイン・コンタクト間で切り替えるために使用され、ソース及びゲート・コンタクトが、すべてに共通とされた。
【0039】
トランジスタ構成において、伝達特性(たとえば、ゲート・ソース電圧の関数としてのドレイン・ソース電流)及び出力特性(たとえば、ドレイン・ソース電圧の関数としてのドレイン・ソース電流)が、所与の電圧範囲について集められ得る。標的分析物が導入されるにつれて、センサー回路中の測定された電流、電圧、又は抵抗も変化する。分析物濃度の変化はまた、電流、電圧、電荷、キャパシタンス、又は抵抗データから導出されたパラメータを使用して追跡され得る。たとえば、トランジスタ構成において動作させられたとき、以下のパラメータ、すなわち、しきい値電圧、ヒステリシス、サブスレッショルド勾配又はスイング、ホール及び電子移動度、オン及びオフ電流、オン/オフ電流比などが、濃度の関数として算出及び追跡され得る。ポリマー膜の大多数は、それらの誘電体応答(キャパシタンス及び誘電損)についてテストされず、これにより、移動度ではなく相互コンダクタンス(dI/dVg)が報告されている。
【0040】
環境測定。2つのタイプの環境テスト、すなわち、湿度応答及び揮発性化合物応答が実施された。前者では、いくつかのトランジスタが、取り付けられ、ガス入口及び出口ポートをもつ小さい筐体(およそ10mLの容積)の内部に置かれたチップキャリアにワイヤボンディングされた。10%RHと70%RHとの間の湿り空気が、100sccmの流量で、圧縮された空気を使用して、市販の湿度発生器(GenRH-Ambient、Surface Measurement Systems)を用いて発生された。湿度は、5%の増分で段階的に変化させられ、電気的測定の前に安定させられた。電気的測定中に、各トランジスタは、連続的にバイアスされ、ゲート電圧は、完全な伝達曲線を得るために掃引された。湿度の段階的変化の間に、トランジスタは接地に保たれた。RH及び温度は、商業センサー(Sensirion(登録商標) SH11)を使用して、試料チャンバにおいて監視された。
【0041】
蒸気検知実験では、4つの手動で制御されるバブラーが、バイパスライン(SI)とともに並列に取り付けられた。室内空気が、小さいダイヤフラム・ポンプを使用してマニホルドに500sccmで供給された。測定系列において、バイパス弁は連続的に開いたままであり、各液体を含んでいているバブラーは、密閉型サンプル・プローブ・ステーションに蒸気を供給するために連続的に開かれた。バイパス及びバブラーライン中の並列ガス流は、バルブの手動開閉中の最小フロー中断を保証した。バブラーは、それのプラスチックキャップが、蒸気入口及び出口のための同心真鍮管類を取り付けられた、5mLの小びんからなった。(液体中にバブリングするのではなく)液体の上に設定された入口管が、検出のための十分な分析物を提供するのに十分であるとわかった。同様の測定状態の下で、メタノールを伴う6sccmの空気流が、ppmレベルの曝露を与えることが推定された。高いppmレベルの曝露が、最も高い蒸気圧を有する液体(アセトン)を用いて達成されたことを推定することができる。アミン液体の場合、トルエンとの希釈混合物が、他の蒸気と同様の大きさまでのトランジスタ応答をもたらすために準備された。TPA、TEA、IBA、及びdIBAについて0.02mmHgの分圧をもつ溶液が、この実験の場合、十分なように思われた。そのような低いレベルは、低いppbレベルでの投与に対応し得る。
【0042】
「実例2」
界面での及び誘電体基板内での物理的及び化学的プロセスが最小限に抑えられ、ゲート・ヒステリシスをほとんど生成せず、カーボン・ナノチューブ・ネットワーク電界効果トランジスタ(CNN-FET:carbon nanotube network field-effect transistor)ボトム・ゲート構成において優れた時間安定性を有する、電子的に好適な高分子誘電体材料(polymeric dielectric material)を特定するために、実験が実施された
【0043】
実験の第1のセットでは、構築されたCNN-FET上の湿度サイクルが、異なるゲート誘電体上で実施された。原型カーボン・ナノチューブ・トランジスタとして、
図5は、1000nmの厚さのSiO
2誘電体層上に堆積されたsc-SWCNT浸透ネットワーク(percolation network)の電気的特性が、通常の空気周囲中の相対湿度(RH)を変化させることによってどのように影響を及ぼされるかを示す。これらの実験では、相対湿度(RH)は、段階的に変化させられ、安定させられ、トランジスタは、電気的に接地されたままであり、その後に、設定されたRH値での測定が続く。
図5(a)中の3つの伝達曲線は、20%RHと60%RHとの間の循環時に、適度の変化をあらわにする。注目すべきことに、後進(最小V
gに向かうr-掃引(rev))掃引と、前進(最大V
gに向かうf-掃引(fwd))掃引との間のヒステリシス(hys)は、反時計回りであり、印加されたゲート・バイアスのより小さい範囲と厚い誘電体層(1000nmのSiO
2)とにより、比較的小さい。定性的に、曲線は、湿度が20%に低下するにつれて、しきい値電圧(V
t)の正のシフトとともに、増加された相互コンダクタンス(dI/dV
g、Iの勾配対累積領域におけるV
g、|V
g-V
t|>0)を表す。
図5(b)及び
図5(c)は、10個の連続するサイクルの間にRHの関数として線形適合から得られた2つのパラメータをプロットする。データの散乱は、明瞭に特定されるべき傾向について十分に小さい。V
tのシフトは、r-及びf-掃引について際立って異なり、f-掃引は、初めは、60%から40%までのRHの低減によっては影響を及ぼされず、r-掃引は、大きいシフトを提示する。40%のRHよりも下では、反対が観測され、r-掃引は、RHの低減によって最小限に影響を及ぼされる。それゆえに、40~50%のRHの辺りでの顕著な最大値が、V
gヒステリシスにおいて観測される。興味深いことに、相互コンダクタンスはV
tをミラーリングし、r-掃引は、初めは、RHに依存せず、その後に、40%のRHよりも下では、線形増加が続く。両方の掃引方向について、相互コンダクタンスは、20~60%のRH範囲よりも上では、約50%増加する。本結果は、個々のナノチューブ・トランジスタにおいて観測される一般的な傾向に沿う。
【0044】
合計43個のポリマーが同様の様式で調査され、
図6は、突出した特徴のうちのいくつかを強調する。sc-SWCNTネットワークのための堆積方法は、すべての場合において、同様の電流レベルをもつ良好な表面カバレージを保証した。ある程度の比較を可能にするために、ポリマー膜厚は400nmの辺りに維持され、可能な場合、Vg掃引の範囲は、厚さ及び誘電率の差を部分的に考慮するように調節された。いくつかの高分子材料(硝酸セルロース、パリレンHT)の場合、カーボン・ナノチューブ接着力は、際立ってより効率的なように思われ、他のもの(低表面エネルギー・ポリマーPVP-pMSSQ、メルクD139、テフロン(登録商標)AF)の場合、より長い堆積時間が、同様の電流値を達成するために要求された。後者の場合、静電的に支援された堆積(E-soaking)が、乾燥時の層間剥離のない十分な膜接着力を達成するのに必要であった。
【0045】
カーボン・ナノチューブ・ネットワーク・トランジスタは、測定されたヒステリシスに関して3つの主要なカテゴリー、すなわち、進み、遅れ、又はなしに分類され得る。空間電荷又は極性部分の構成が、静的であるか又は印加されたゲート・バイアスを動的に追尾するとき、ヒステリシスなしの伝達特性が得られる。ポリマーの調査において、フッ素化ポリマー(テフロン(登録商標)AF、メルクD139、パリレンHT)、芳香族ナイロン(polypthalamide)、PVP-pMSSQ、及びパリレンCを含む、ヒステリシスなしのカテゴリーに入る、1ダースを超えるポリマー誘電体が特定された。メルクD139及びPVP-pMSSQについてのデータが、
図6(a)中に示されており、実際、テストされたRHレベルにおいてヒステリシスなしのトレースを呈する。空気周囲に直接曝露されたカーボン・ナノチューブをもつトランジスタの場合、これは、水、酸素、及び場合によっては他のガスが、すぐ間近のナノチューブ周りから除去され得る場合にのみ可能である。親水性SiO
2の場合、水/酸素レドックス対及び分解されたイオン種が、
図5中に見られる遅れヒステリシス(lagging hysteresis)を誘起する。同様の特性を提示するポリマー誘電体は、P4VP、P4VP-PS10、及びナイロン(登録商標)MXD6を含む。
【0046】
誘電体は、モバイル官能基及び電子が豊富な化学結合に起因する著しい分極率を有することができる。これは、増加された誘電率、及びこれにより、それらのトランジスタにおける低い動作電圧を生じるが、それは、しばしば、大きい進みヒステリシス(advancing hysteresis)につながり、たいていの極端な場合は強誘電体である。脂肪族ナイロン(ポリアミド)、PVDF、及びセルロース変種(cellulose variant)(シアノ・エチル)は、ゆっくりとした分極化をもつ材料の例である。それらの材料がCNN-FETのためのゲート誘電体として使用されるとき、後進掃引は前進掃引を進めている。ここでは、酢酸セルロースからの進みヒステリシスを示すデータが、
図6(a)中に提示されている。メモリ適用例の場合以外、それらのポリマーは、概して、特にトランジスタの場合、電子的構成要素において使用するのに無視(discount)される。しかしながら、本データは、そのようなポリマーが、ガス検知に非常に有用であり得、ポリマー誘電体の相補セットから構成されるセンサー・アレイの一体部分であり得ることを示す。
【0047】
実験の第2のセットでは、分析物を部分的に識別するための調査されたポリマーの能力が決定された。
図5中に提示されている分析に続いて、
図6は、3つの異なるポリマー誘電体上に作成されたトランジスタの、周囲空気中の湿度の変動するレベルに対する電気的応答を提示する。最初の2つ、すなわち、メルクD139及びPVP-pMSSQは、それぞれ、大きい水接触角度、すなわち、109度及び89度をもつ疎水性ポリマーである。両方とも、メルクD139の場合に最も小さいが、SiO
2とは際立って異ならない大きさをもつ、10~65%RHの範囲を超えるしきい値電圧の単調変化を提示する。しかしながら、相互コンダクタンスについて、2つのポリマーは、より乾燥した周囲空気の下で、親水性SiO
2の場合の増加ではなく減少を示す。変化は、目立って線形であり、また、PVP-pMSSQ(%RHごとに-1%)と比較して、メルクD139の場合、あまり顕著でない(%RHごとに-0.4%)。水分子の相互作用は、直接的にナノチューブの表面において、又はより可能性があるものとして、溝及び格子間吸着部位においてのいずれかで発生すると考えられる。したがって、RHに関する小さい変動は、すぐ間近のナノチューブ周りにおける極性分子、すなわち、増加された誘電率の等価物による誘電体スクリーニング(dielectric screening)に起因し得る。室温可逆性は、弱いファン・デル・ワールス相互作用を伴うシナリオを支持する。
【0048】
最も劇的な結果が、進みヒステリシスをもつポリマーの場合に得られる。
図6(b)では、酢酸セルロース(52度の接触角度)についてのデータが提示されている。RHが65%から低下するにつれて、大きいヒステリシスは、35%RHの近くで0Vに達するように迅速に収縮し、伝達特性は、10%RHに至るまでヒステリシスなしのままである。同時に、相互コンダクタンスは著しく低下する(f-掃引の場合、7倍)。SiO
2と比較して、酢酸セルロースは、連続するRHサイクルが図示するように可逆的に、容易に脱水及び水和され得る(データは示されていない)。水和状態では、極性部分及び水分子が、進みヒステリシスにより著しく寄与する。実験は、十分な時間(10%RHの増分の間で15分)が、ポリマーがそれの環境と平衡するために許容された準静的モードで実施された。
【0049】
ポリマーの調査では、カプセル化層がない場合にV
g=0Vでトランジスタの空乏動作モードに達するという観点から、特別な注意がしきい値電圧に払われた。
図7及び
図8中のデータは、V
t<0をもつトランジスタのいくつかの例を示す。高分子材料のサブセットが特定され(ナイロン、P4VP、酢酸セルロース)、ガス・センサー以外の印刷エレクトロニクス・デバイスのコンテキストにおいてさらに考察され得る。
【0050】
「実例3」
上記で説明された周囲空気中のカーボン・ナノチューブ・トランジスタに対する湿度レベルの影響は、誘電体基板材料の選定が、ガス検知応答に影響を及ぼすという明瞭な証拠を提供する。実証を進めるために、異なるポリマー誘電体上に構築されたトランジスタのセットが、様々な揮発性化合物蒸気に曝露された。実験のこの第2のセットでは、分析物がパルス化されながら、測定値が連続的に収集された。選択された結果が、
図9及び
図10中に提示されており、ここで、蒸気が周囲空気と混合されながら、伝達特性が連続的に収集された。
図9(a)中に示されているように、伝達曲線の直線部分は、リアルタイムでV
t及びdI/dV
gを抽出するように適合させられた。ゲート掃引の持続時間は7秒であり、分析物への曝露はおよそ35秒であった。
【0051】
図9中の4つの例は、上記で説明された3つのヒステリシス挙動を備える。
図9(b)中のSiO
2についての時間トレースは、極性溶剤及び酢酸(10%、酢)の場合はV
tのアップシフトをあらわにし、2つのアミン(トリプロピルアミン及びdisobutylamine)の場合はV
tのダウンシフトをあらわにし、これは、V
tに対する酸/塩基の影響を指す。応答は、すべての場合において可逆的であり、V
tが5~10分後にそれの元の値に戻った2つのアミンを除いて、速い復元(recovery)が見られた。そのような復元は、室温で動作させられる他のCNTセンサーに好都合によく匹敵する。連続掃引方法も、トランジスタをそれの元の周囲空気値にリセットすることに寄与することが可能である。dI/dV
gの場合、
図9中の全部で8つの分析物について低減が観測される。メタノール、イソプロパノール、及びアセトンの場合、復元ダイナミクスは2つの構成要素を示し、速い構成要素が復元の70%を占める。数分のスケールのゆっくりとした復元は、V
tのトレース上では見られない。SiO
2ベースのCNN-FETに関して見られる信号の相補性は、トランジスタ・メトリックから入手可能な大量の情報をあらわにする。抵抗変化及び時間ダイナミクスが追尾されているケミレジスタと比較して、少なくとも4つの及び最高8つのトランジスタ・パラメータ及びそれらのそれぞれのダイナミクスは、揮発性化合物検知のための良好なメトリックを提供する:主にp形伝導からであるが、潜在的に同様にn形からのV
t、dI/dV
g、dlog(I)/dV
g、I
On/I
Off。
【0052】
図9はまた、3つのポリマー誘電体上に構築されたトランジスタから得られたデータセットを提示する。メチル化シルセスキオキサンが、露出した表面にあるPVP-pMSSQは、疎水性ポリマーであり、
図6中の湿度応答から予想されるように、極性溶剤及び酢酸に対するSiO
2とは際立って異なる応答を見せる。すべての揮発性化合物について、Vtのシフトは、同様のアップシフトが観測されるトルエン及びアミンを除いて、SiO
2に対して符号が反対である。メタノールの場合、応答及び復元は、両方とも、SiO
2の場合よりもゆっくりである。2つのアミン蒸気に対する復元も、PVP-pMSSQの場合、よりゆっくりである。PVP-pMSSQの場合の相互コンダクタンスは、いくつかの対比するパターンを提示する。SiO
2の場合、dI/dV
gの減少が、すべての8つの分析物について観測され、PVP-pMSSQの場合、増加が、メタノール、水、及び酢酸について観測される。興味深いことに、2つのアルコール、すなわち、メタノール及びイソプロパノールは、反対のdI/dV
g変化を有する。
【0053】
図9中の第2のポリマーは、進みヒステリシスをもつポリアミド(脂肪族PA66)である。PVP-pMSSQ及びSiO
2についてすでに強調された点のいくつかを越えて、PA66の場合のr及びf-掃引は、メタノール、水、及び酢酸についてV
tの反対のシフトを示し、dI/dV
gは、8つの分析物について同相(減少又は増加のいずれか)である。ポリアミド(脂肪族ナイロン)は、特にメタノールに対して敏感であったが、アセトンに対してはそれほどではなかった。この高い感度は、ナイロン構造との、詳細には-NHC(=O)-基との水素結合を形成するためのメタノールの能力に起因し得る。他方では、芳香族ナイロン(PA6T、PA10T、PA6(3)T、及びMXD6)は、おそらくポリマーのより密なパッキングにより、メタノールに対するそのような高い感度を示さなかった。
【0054】
図9中の第3のポリマーは、メルクD139、すなわち、PVP-pMSSQよりも一層大きい水接触角度をもつ疎水性フッ素化ポリマーである。明らかに、フッ素化ポリマーの異なる化学的性質(メルク、プロプライエタリ)は、依然として、8つの分析物に対するひときわ異なるCNN-FET応答を授ける。それは、本質的に、メタノール及び水に応答しないが、酢酸への曝露時に、dI/dV
gの増加とともにV
tの顕著で不可逆的なダウンシフトを示し、すなわち、誘電体との強い親和性をほのめかす。
【0055】
「実例4」
アミン、特にアンモニアが、CNN-FET応答に対するそれらの顕著な影響のために典型的な分析物であった。5つのアミンのセット、すなわち、トリエチルアミン(TEA)、トリプロピルアミン(TPA)、イソブチルアミン(IBA)、ジイソブチルアミン(dIBA)、及び2-アセチル-3,5(6)-ジメチルピラジン(AdMPyr)が調べられた。すべてのテストされたゲート誘電体を用いて、V
tの負のシフトが、相互コンダクタンスの低減とともにアミンからの電子伝達に従って観測された。所与の部分蒸気圧(0.02mmHg、トルエンを用いてアミンを希釈することによって調節された)について、2つの3級アミンに対する応答は、大きさが同様であったが(TEA及びTPA)、2級アミンdIBAと比較して2倍より大きかった。1級アミンIBAは、概して、少しばかりより小さい応答を提示した。これらのアミンに関係する結果は、
図10中に提示されている相補データセット(complementary dataset)とともに
図9(b)中で観測され得る。非常に低い蒸気圧により、AdMPyrのみが、トランジスタ応答の小さい変化を引き起こした。アミン検知における最も注目に値する差は、応答時間からもたらされた。概して、復元は、3級アミンの場合により速く、時間スケールは、ポリマー誘電体に依存した。
図9(3b)中で、SiO
2が、TPAに対する最も速い応答を示し、メルクD139が、すべての4つの誘電体のうちで最もゆっくりである。グラフェン・ケミレジスタと同様に、異なる時間応答が、分析物クラス及びサブクラスを識別するために使用され得る。化学的識別(chemical discrimination)へのなお一層強力なアプローチは、複数のリアルタイム・トランジスタ・アレイ・シグネチャのデータ分析からもたらされ得る。
【0056】
「実例5」
テストされた分析物の数とともに調査されたポリマー誘電体の数は、400以上のトランジスタ曲線及び少なくとも2倍の数の時間トレースにのぼる。機械学習など、大きいデータセットのための分析方法と組み合わせられた検知を自動化する際の努力が、材料スクリーニングプロセスの速度を上げるであろう。とはいえ、
図11は、ポリマー誘電体の間で観測された突出した挙動を捕らえる。定性的結果が、トリプロピルアミンに関して正規化され(「R」とマークされた)、より淡い/より濃い四角は、V
t及びdI/dV
gの変化に関するより弱い/より強い応答を反映する(大きさのみが考慮され、符号変化は考慮されない)。アミンは、それらが(前のパラグラフで説明された詳細を除いて)直接電荷伝達を通してCNN-FETに影響を及ぼすので、良好な基準を表し、これは、下にある誘電体にほとんど依存しない。周囲空気が、単に、時には蒸気圧の10倍以上の差をもって溶液上でフラッシュされたことに留意することが重要である。より厳密な実験では、知られている分析物濃度を用いた投与が、感度及び相互選択性の完全な評価を可能にするであろう。
【0057】
図11からわかるように、ほとんどあらゆる調査された揮発性物質化合物は、すべてのテストされたゲート誘電体材料を考察するとき、異なるシグネチャ(列)を生じる。そのような挙動は、交差反応性化学センサー・アレイの基礎を形成し、ここで、様々な非特異センサー素子にわたるパターンマッチングが、嗅覚系に類似して、化学認識を可能にする。ここで、アルカン及びトルエンは、誘電体の広いセットにわたってより弱い信号を生成し、アセトン、テトラヒドロフラン、及びイソプロパノールなど、極性分子は、TPAに、すなわち、前者に対するPVDFの増強された応答の例外に概して匹敵するシグネチャを有する。前述のように、メタノールのシグネチャは、脂肪族ナイロンとのホット・スポットを提示する。トランジスタ・パラメータ(相互コンダクタンス、しきい値電圧、サブスレッショルド勾配、及び分析物曝露にわたるそれらの時間依存など)に関係するなお一層の自由度が、要因を一般的な応答に混ぜ合わせる代わりに、パターン認識のために使用され得る。
【0058】
分析物に対するセンサー応答及び特異性が、デバイスの変換プロセス(transduction process)の変動から出現する。トランジスタでは、変換信号変調の4つの原因、すなわち、チャネル材料におけるフェルミ準位のシフト、電極でのショットキー障壁の変更、チャネル材料の近傍における誘電体誘電率の変動、及びチャネル材料におけるキャリア散乱の変化があり得る。分析物の不在下で、基板誘電体の置換は、ゲート・キャパシタンスだけでなく、より重要なことに、異なるポリマーの物理化学的性質を通してチャネル材料のフェルミ準位に影響を及ぼすことがある。所与の周囲の下で、界面電荷トラッピングの変動及び大気干渉(すなわち、水)と分析物との結合親和性が、レドックス・プロセス及び/又は静電気を通してチャネル材料の化学ポテンシャルを変更する。分析物の特定の相互作用強度の変動も、誘電体環境を摂動させ、ここで、誘電体誘電率は、分子変位及び配向の変化によって、又は誘電体界面を可塑化することによってのいずれかで変更される。SWCNTの場合、分析物及びポリマー誘電体を伴う間接的プロセスが、電子変換に対する著しい影響力を有する。この属性は、SWCNTに特有でないことがあるが、影響は、1Dにおける静電気スクリーニングが大幅に低減されることが知られているので、顕著である。カーボン・ナノチューブとの分析物の直接的な相互作用は、大多数の場合では、ポリマー基板からの間接的寄与と複雑に関係付けられるべきである。カーボン・ナノチューブを基板上で本質的にむきだしのままにすることは、最適な応答時間を確実にするはずである。自立膜において見つけられる状態を模倣し、したがって、官能基がナノチューブ側壁に加えられたときの望ましい状況である、SWCNTからの相対的寄与を最大にするであろう基板材料(低及び超低k)があり得る。
【0059】
実例は、界面誘電体基板材料の役割が、電子検知デバイス、特に、ボトム・ゲート構成中のカーボン・ナノチューブ・ネットワーク電界効果トランジスタ(CNN-FET)においてどのように利用され得るかを図示する。分析物相互作用の優勢ベクトルとしての誘電体基板の利用は、湿度応答に関する親水性/疎水性二分法(dichotomy)を越えて拡張する。実例は、界面での及び誘電体基板内での物理的及び化学的プロセスが最小限に抑えられ、ゲート・ヒステリシスをほとんど生成せず、一方で、特に、カーボン・ナノチューブ・ネットワーク電界効果トランジスタ(CNN-FET)ボトム・ゲート構成において優れた時間安定性を有する、電子的に好適な高分子誘電体材料を特定する。
【0060】
さらに、ポリマー誘電体は、それらの湿度ヒステリシス挙動に関して3つのクラスに分けられ得る。ガス・センサーの場合、ポリマー・ゲート誘電体は、センサー素子を区別するために使用され得、したがって、分子認識のための交差反応性化学センサー・アレイにおいて利用され得、ここで、大きいヒステリシスを生じるポリマー・ゲート誘電体は、センサー・アレイの一体部分としての分析物区別のための追加のアセットである。実例は、第1に、変動する湿度状態において、及び第2に、揮発性有機化合物(VC:volatile organic compound)の大きいセットに対して、標準基準としてSiO2を使用して、様々なポリマー誘電体の上に構築されたCNN-FETの応答を系統的に比較した。ポリマー区別検知素子応答における出現するシグネチャは、印刷電子鼻への適用可能性を示す。
【0061】
新規の特徴は、明細書を読むと当業者に明らかになろう。しかしながら、特許請求の範囲は、実施例によって限定されるべきではなく、全体として請求項及び明細書の表現に合致する最も広い解釈を与えられるべきであることを理解されたい。