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特許7467458コアセルベート複合化による治療用ナノ粒子および細菌を処理するためのそれらの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】コアセルベート複合化による治療用ナノ粒子および細菌を処理するためのそれらの使用
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/16 20060101AFI20240408BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 47/42 20170101ALI20240408BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240408BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61K9/16
A61K38/12
A61K47/42
A61K47/36
A61K47/24
A61P31/04
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021529233
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 US2019044067
(87)【国際公開番号】W WO2020028319
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-03-12
(31)【優先権主張番号】62/712,068
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505008028
【氏名又は名称】中央研究院
【氏名又は名称原語表記】ACADEMIA SINICA
【住所又は居所原語表記】128 Academia Road,Section 2,Nankang Taipei,Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】フ チェ ミン ジャック
(72)【発明者】
【氏名】リウ ユ ハン
(72)【発明者】
【氏名】チェン テ リ
【審査官】柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】Eur. Polymer J., (2017), 87, p.478-486
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 38/12
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン性ポリペプチド、
ポリアニオン性分子、および
両親媒性安定剤
を含む治療用ナノ粒子であって、
抗細菌活性を発揮する前記カチオン性ポリペプチドが、前記ポリアニオン性分子との静電相互作用を形成し、治療用ナノ粒子が50nm未満の直径を有し、
カチオン性ポリペプチドが、コリスチンであり、
ポリアニオン性分子が、アニオン性ポリペプチドまたはアニオン性オリゴヌクレオチドであり、
両親媒性安定剤がポリエチレングリコール(PEG)脂質である、治療用ナノ粒子。
【請求項2】
両親媒性安定剤が、ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)、DSPE-PEG-マレイミド、DSPE-PEG-ビオチン、メトキシPEG-コレステロール(mPEG-コレステロール)、またはコレステロール-PEG-アミンである、請求項1に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項3】
ポリアニオン性分子が、一本鎖または二本鎖DNA、RNA、またはロック核酸である、請求項1に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項4】
ポリアニオン性分子が、20量体二本鎖DNAである、請求項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項5】
ポリアニオン性分子がアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項6】
カチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子が、1:4~7:1のカチオン:アニオン電荷比を有する、請求項1に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項7】
治療用ナノ粒子が25nm未満の直径を有する、請求項1に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項8】
治療用ナノ粒子が15nm未満の直径を有する、請求項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項9】
カチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子が、1:4~7:1のカチオン:アニオン電荷比を有する、請求項に記載の治療用ナノ粒子。
【請求項10】
請求項1に記載の治療用ナノ粒子および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の治療用ナノ粒子を調製する方法であって、
両親媒性安定剤を含有する水溶液を用意すること、
水溶液に、所定のモル比のカチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子を混合すること、ならびに
生じた混合物から治療用ナノ粒子を得ること
を含む、方法。
【請求項12】
必要とする対象に有効量の請求項1に記載の治療用ナノ粒子を投与することを含むグラム陰性細菌の処理のための医薬組成物の調製における前記治療用ナノ粒子の使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
細菌感染症の治療は、抗生物質耐性の出現のために重大な問題に直面している。例えば、カルバペネム耐性アシネトバクター・バウマニ(Acinetobacter baumannii)、シュードモナス・エルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)、および腸内細菌科(Enterobacteriaceae)は、ヒトの健康に重大な脅威を引き起こす3種のグラム陰性細菌である。Willyard, Nature, 2017, 543, 15を参照されたい。これらの細菌は、肺炎、菌血症、髄膜炎、尿路および皮膚および創傷の感染を含む種々の疾患を起こす。Bergogne-Berezin et al., Clin. Microbiol. Rev., 1996, 9, 148-165およびGuzek et al., Adv. Exp. Med. Biol., 2017, 955, 39-46を参照されたい。
【0002】
カルバペネムは致死的な細菌感染症に対する最後の療法として使用されることが多いので、その効力の衰えは、特定の細菌の処理における代替抗菌剤を求める多大な研究努力を促してきた。Antachopoulos et al., Pediatr. Infect. Dis. J., 2017, 36, 905-907を参照されたい。代替品のなかで、10年が経過した抗菌剤であるコリスチンは、グラム陰性細菌に対する同等な効力を示す他の選択肢がほとんどないため、関心を集めつつある。Montero et al., The J. Antimicrob. Chemother., 2004, 54, 1085-1091を参照されたい。ポリミキシンのメンバーとして、コリスチンは、細菌細胞膜との強い静電相互作用に起因する強力な抗細菌活性を有するポリカチオン性環状ペプチドの混合物である。Colome et al., Int. J. Pharm., 1993, 90, 59-71を参照されたい。コリスチンは多剤耐性グラム陰性細菌を処理するための抗菌剤としてますます使用されてきたが、その腎毒性および神経毒性の副作用は重大な安全性の問題を起こす。Falagas et al., Expert Rev. Anti-Infect. Ther., 2018, 6, 593-600を参照されたい。
【0003】
コリスチンは、その安全性プロファイルを改善するために化学修飾され、製剤化されてきた。例えば、コリスチンのプロドラッグおよび誘導体は、メタンスルホネート修飾およびアミンの非カチオン性残基による置換により合成されてきた。Li et al., Journal of Antimicrobial Chemotherapy, 2003, 52, 987-992; Li et al., J.Antimicrob. Chemother., 2004, 53, 837-840; Vaara et al., Antimicrob. Agents Chemother., 2008, 52, 3229-3236; Vaara et al., J. Antimicrob. Chemother., 2013, 68, 636-639;およびVaara et al., Peptides, 2010, 31, 2318-2321を参照されたい。これらの誘導体における電荷の減少は薬物安全性の改善をもたらすが、抗菌効力の低下も起こす。
【0004】
ナノ粒子薬物送達プラットフォーム、例えば、リポソームおよびポリマー性ナノ粒子は、既存の抗生物質の治療有効性を増強し、副作用を低下させるために大規模に利用されてきた。実際に、コリスチンは、量子ドット、リポソーム、ポリ(乳酸-co-グリコール酸)-粒子、シリカナノ粒子、およびポリ(スチレンスルホネート)粒子を含むいくつかのナノ粒子プラットフォームにより製剤化されてきた。Carrillo-Carrion et al., Biosens. Bioelectron., 2011, 26, 4368-4374; Wallace et al., Drug Delivery and Translational Research, 2012, 2, 284-292; Wallace et al., J. Pharm. Sci., 2012, 101, 3347-3359; Shah et al., Pharm. Res., 2014, 31, 3379-3389; Gounani et al., Int. J. Pharm., 2018, 537, 148-161; Insua et al., Eur. Polym. J., 2017, 87, 478-486;およびInsua et al., Sci. Rep., 2017, 7, 9396を参照されたい。しかし、多くの場合、ナノ担体と会合したコリスチンは、低下した抗菌活性を示す。
望ましい安全性プロファイルを発揮すると同時に抗生物質の治療効力を改善する、抗生物質を送達するための新たなナノ担体系を開発する必要がある。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様は、カチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子を含有する治療用ナノ粒子である。抗細菌活性を発揮するカチオン性ポリペプチドは、ポリアニオン性分子との静電相互作用を形成し、治療用ナノ粒子は50nm未満の直径を有する。意外にも、治療用ナノ粒子は、安全性プロファイルの改善と共に、カチオン性ポリペプチド、すなわちコリスチンの治療有効性を増強させる。
典型的には、カチオン性ポリペプチドは、コリスチン、ポリミキシンB、およびポリミキシンMからなる群から選択される抗生物質である。例示的な治療用ナノ粒子は、カチオン性ポリペプチドとしてコリスチンを含有する。
他方で、ポリアニオン性分子は、アニオン性ポリペプチド、アニオン性オリゴヌクレオチド、アニオン性ポリヌクレオチド、またはアニオン性ポリ有機酸であり得る。例えば、ポリアニオン性分子は、10,000塩基対すなわちbp未満(例えば、6,000bp未満、500bp未満、および20bp未満)のサイズを有するプラスミドである。別な例として、ポリアニオン性分子はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。さらに、ポリアニオン性分子は、ポリエチレングリコール(PEG)およびアニオン性ポリペプチドを含有するジブロックコポリマーでもあり得る。
【0006】
注目すべきことに、治療用ナノ粒子は両親媒性安定剤をさらに含有し得る。一般的に、両親媒性安定剤はPEG脂質である。PEG脂質の例としては、ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)、DSPE-PEG-マレイミド、DSPE-PEG-ビオチン、メトキシPEG-コレステロール(mPEG-コレステロール)、およびコレステロール-PEG-アミンがあるが、これらに限定されない。
上述の治療用ナノ粒子は、典型的には、1:4~7:1(例えば、1:2、1:1、2:1、および4:1)のカチオン:アニオン電荷比を有するカチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子を含む。
本発明の別の態様は、上述の治療用ナノ粒子および薬学的に許容できる担体を含有する医薬組成物である。
本発明がさらに対象とするのは治療用ナノ粒子を調製する方法である。方法は、両親媒性安定剤を含有する水溶液を用意すること、水溶液に、所定のモル比のカチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子を混合すること、ならびに生じた混合物から治療用ナノ粒子を得ることを含む。
グラム陰性細菌を処理する方法であって、必要とする対象に有効量の上述の治療用ナノ粒子を投与することを含む、方法も本発明の範囲内である。
本発明の詳細は、以下の説明に述べられる。本発明の他の特徴、目的、および利点は、以下の図面およびいくつかの実施形態の詳細な説明から、ならびに添付の請求項からも明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1A】凍結乾燥前後のコリスチンナノ粒子(CS NP)のサイズおよびゼータ電位を示すグラフである(n=3)。
図1B】CS NP中のコリスチンA、コリスチンB、DSPE-PEG、およびポリグルタミン酸の回収収率を示すグラフである(n=3)。
図1C】25℃で4日間のリン酸緩衝食塩水(PBS)および5%ウシ胎児血清(FBS)溶液中のCS NPのサイズ測定値を示すグラフであり、挿入図は、FBS中のFBSタンパク質とコリスチンナノ粒子の間の異なるサイズ分布を強調している(n=3)。
図1D】pH7.4およびpH5でのCS NPからのコリスチン(CS)放出を示すグラフであり(n=3)、エラーバーは平均±標準偏差を表す。
図2A】CS NPの調製および緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するグラム陰性細菌へのそれらの結合の模式的描写である。
図2B】Alexa 647コンジュゲートCS NPと共培養されたA.バウマニの蛍光顕微鏡画像である。
図2C】GFPがグリーンチャンネルで可視化され、ナノ粒子がレッドチャンネルで可視化された、シアニン(Cy5)コンジュゲートCS NPと共培養されたA.バウマニの蛍光顕微鏡画像を示す。
図2D】GFPがグリーンチャンネルで可視化され、ナノ粒子がレッドチャンネルで可視化された、Cy5コンジュゲートCS NPと共培養されたE.コリ(E.coli)の蛍光顕微鏡画像を示す。
図2E】蛍光性CS NPによる1.5時間の処理後に測定されたGFPを発現するA.バウマニ内の正規化されたGFPおよびナノ粒子蛍光シグナルを示すグラフである。
図2F】蛍光性CS NPによる24時間の処理後に測定されたGFPを発現するA.バウマニ内の正規化されたGFPおよびナノ粒子蛍光シグナルを示すグラフである。
図3A】12.5mg/kgのCSまたはCS NPの静脈内注射後のマウスの生存を示すグラフである(n=6)。
図3B-3M】PBS、CS、またはCS NPによる処置後のアスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST) アラニントランスアミナーゼ(ALT)、総タンパク(TP)、アルブミン(ALB)、アルカリホスファターゼ(ALP)、クレアチニン(CREA)、血液尿素窒素(BUN)、リン(PHOS)、カルシウム(CA)、総コレステロール(T-CHO)、グルコース(GLU)、およびトリグリセリド(TG)の血清レベルをそれぞれ示すグラフである(破線は正常値を表し、エラーバーは平均±s.e.mを表す;n=3)。
図4A】A.バウマニ肺炎のマウスモデルにおけるCS NP処置およびその処置スケジュールの模式的描写である。
図4B】3種の異なる処置群、すなわち、5mg/kgのCS、5mg/kgのCS NP、または対照としてのリン酸緩衝食塩水(PBS)で処置されたマウスの感染後の生存を示すグラフである。
図5A】実施例2に記載されるAlexa 647およびAlexa 488フルオロフォアコンジュゲートCS NPの調製および定量的な分析の模式的描写である。
図5B】フルオロフォアコンジュゲートCS NPと共に1.5および24時間の細菌インキュベーションをした後の細菌ペレット中のAlexa 647およびAlexa 488の相対的蛍光強度を示すグラフである(エラーバーは平均±標準偏差を表す;n=3)。
図6A】それぞれ10mg/kg、12.5mg/kg、および40mg/kgで測定されたCS、実施例1のCS NP(第1のCS NP)、および実施例2のもの(第2のCS NP)のMTDを示す棒グラフである。
図6B】CS(10mg/kg、11mg/kg、および12mg/kg)、第1のCS NP(12.5mg/kg)、および第2のCS NP(40mg/kg、45mg/kg、および50mg/kg)の静脈内注射後のマウスの生存を示すグラフである。
図7A】K.ニューモニエ(K.pneumoniae)NHRI 1分離株のマウス生存モデルにおけるCS NP処置およびその処置スケジュールの模式的描写である。
図7B】モニタリングされ、ログランク検定を使用して解析された、3種の処置群、すなわち、PBS、5mg/kgのCS、20mg/kg CS NPで処置されたマウスの生存を示すグラフである(n=5~6)。
図7C】K.ニューモニエNHRI 1分離株のマウス感染症モデルにおけるCS NP処置およびその処置スケジュールの模式的描写である。
図7D】モニタリングされ、一元配置分散分析により解析された、2種の異なる処置群、すなわち、5mg/kgのCSまたは20mg/kg CS NPにより処置されたマウスの血液、心臓、肝臓、脾臓、肺、および腎臓中のCFUの数を示すグラフである(エラーバーは平均±s.e.mを表す;n=3)。
図8】CS/DNAナノ粒子(左)およびDNAのみ(右)とのインキュベーション後に4’-6-ジアミジノ-2-フェニルインドールにより染色されたカルバペネム耐性K.ニューモニエの蛍光顕微鏡画像を示す。
図9】CS、ftsZ DNA断片のアンチセンスオリゴヌクレオチド(ASOftsZ)、CS+ASOftsZ、およびCS-ASOftsZナノ粒子(CS-ASOftsZ NP)との24時間の共培養後のE.コリ ATCC25922コロニー形成を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
改善された安全性プロファイルと共に、抗生物質(すなわちコリスチン)の治療有効性を意外にも増強させる治療用ナノ粒子が、まず本明細書に詳細に開示される。
上述の通り、本発明の治療用ナノ粒子はカチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子を含有し、抗細菌活性を発揮するカチオン性ポリペプチドは、ポリアニオン性分子との静電相互作用を形成する。
治療用ナノ粒子は、50nm未満、好ましくは25nm未満、より好ましくは15nm未満の直径を有する。
カチオン性ポリペプチドの例としては、コリスチン(すなわちポリミキシンE)、ポリミキシンB、およびポリミキシンMがあるが、これらに限定されない。
再び、ポリアニオン性分子は、典型的には、アニオン性ポリペプチド、アニオン性オリゴヌクレオチド、アニオン性ポリヌクレオチド、またはアニオン性ポリ有機酸である。
一実施形態において、ポリアニオン性分子は、グルタミン酸から形成されたポリアミノ酸、すなわちポリグルタミン酸(PGA)、またはアスパラギン酸から形成されたポリアミノ酸、すなわちポリアスパラギン酸(PLD)である。それは、1種または複数のグルタミン酸またはアスパラギン酸と、1種または複数の他のアミノ酸(例えば、アラニン、システイン、およびチロシン)から形成されたポリマーでもよい。
【0009】
別の実施形態において、ポリアニオン性分子は、一本鎖もしくは二本鎖デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸、またはロック核酸である。例えば、ポリアニオン性分子は、20量体二本鎖DNAである。別の例として、ポリアニオン性分子は、10,000bp未満(例えば、6,000bp未満、500bp未満、および20bp未満)のサイズを有するプラスミドである。さらに別の例として、ポリアニオン性分子はアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
さらなる実施形態において、ポリアニオン性分子は、PEGおよびアニオン性ポリペプチドを含有するジブロックコポリマーであり、アニオン性ポリペプチドは、グルタミン酸またはアスパラギン酸から形成されたポリアミノ酸であり得る。ジブロックコポリマーを含有する例示的な治療用ナノ粒子は、コリスチンおよびPEG-ポリアスパラギン酸(PEG-PLD)から形成される。
【0010】
先に指摘された通り、本発明の治療用ナノ粒子は両親媒性安定剤をさらに含有し得るが、それは典型的にはPEG脂質である。PEG脂質の例としては、DSPE-mPEG、DSPE-PEG-マレイミド、DSPE-PEG-ビオチン、mPEG-コレステロール、およびコレステロール-PEG-アミンがあるが、これらに限定されない。それらの構造は以下に示される。
【化1】
DSPE-mPEG (分子量: 1k~40k)
DSPE-PEG-マレイミド(分子量: 1k~5k)
DSPE-PEG-ビオチン(分子量: 1k~5k)
mPEG-コレステロール(分子量: 1k~40k)
コレステロール-PEG-アミン(分子量: 1k~10k)
【0011】
注目すべきことに、上述の治療用ナノ粒子は、典型的には、1:4~7:1、好ましくは、1:1~7:1のカチオン:アニオン電荷比を有するカチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子を含む。
好ましい実施形態において、治療用ナノ粒子は両親媒性安定剤をさらに含有し、15nm未満の直径を有し、カチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子は、1:4~7:1のカチオン:アニオン電荷比を有し、ポリアニオン性分子は、アニオン性ポリペプチド、アニオン性オリゴヌクレオチド、アニオン性ポリヌクレオチド、またはアニオン性ポリ有機酸である。
上記治療用ナノ粒子および薬学的に許容できる担体を含有する医薬組成物も開示される。
医薬組成物中の担体は、組成物の有効成分と適合性があり(かつ、好ましくは有効成分を安定化することが可能であり)、治療される対象にとって有害でないという意味で「許容できる」ものでなくてはならない。1種または複数の可溶化剤が、活性のあるグリコシド化合物を送達するための医薬賦形剤として利用できる。他の担体の例としては、コロイド状酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、セルロース、ラウリル硫酸ナトリウム、およびD&C Yellow No.10がある。
【0012】
本発明がさらに対象とするのは治療用ナノ粒子を調製する方法である。方法は、(i)両親媒性安定剤を含有する水溶液を用意する工程、(ii)水溶液に、所定のモル比のカチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子を混合する工程、ならびに(iii)生じた混合物から治療用ナノ粒子を得る工程を含む。
治療用ナノ粒子を調製するためには、カチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子は、典型的には、1.6:1~518:1のモル比で混合される。
最後に、本発明は、グラム陰性細菌を処理する方法であって、必要とする対象(例えば患者)に有効量の上述の治療用ナノ粒子を投与することを含む、方法も対象とする。
用語「有効量」は、治療される対象に治療効果を与えるのに要する複合体の量を指す。有効な投与量は、当業者に認識される通り、治療される疾患の種類、投与経路、賦形剤の使用、および他の治療的処置の同時利用の可能性により様々であろう。
本発明の方法を実施するために、上述のナノ粒子を有する組成物は、非経口的に、経口的に、鼻腔内に、直腸内に、局所的に、または頬側に投与され得る。本明細書での用語「非経口」は、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、関節滑液嚢内、胸骨内、髄腔内、病変内、または頭蓋内注射、ならびに任意の好適な注入技法を指す。
【0013】
滅菌された注射用組成物は、1,3-ブタンジオール中の液剤など、非毒性の非経口的に許容できる希釈剤または溶媒中の液剤でも懸濁剤でもよい。利用することができる許容できるビヒクルおよび溶媒には、マンニトール、水、リンゲル液、および等張性塩化ナトリウム液がある。さらに、不揮発油は、従来溶媒または懸濁媒体として利用されている(例えば、合成のモノ-またはジグリセリド)。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体などの脂肪酸は注射剤の調製において有用であり、オリーブ油またはヒマシ油、特にポリオキシエチル化された形態のオリーブ油またはヒマシ油などの天然の薬学的に許容できる油も同様である。これらの油性液剤または懸濁剤は、長鎖アルコール希釈剤もしくは分散剤、カルボキシメチルセルロース、または類似の分散化剤も含有し得る。TweenもしくはSpanなどの他の通常使用される界面活性剤または薬学的に許容できる固体、液体、もしくは他の剤形の製造に通常使用される他の類似の乳化剤もしくはバイオアベイラビリティ増進剤も、製剤化の目的で使用できる。
【0014】
経口投与用の組成剤は、カプセル剤、錠剤、乳剤および水性懸濁剤、分散剤、および液剤を含むあらゆる経口的に許容できる剤形であり得る。錠剤の場合、通常使用される担体としては、ラクトースおよびトウモロコシデンプンがある。ステアリン酸マグネシウムなどの滑沢剤も典型的には加えられる。カプセル形態での経口投与のためには、有用な希釈剤としては、ラクトースおよび乾燥されたトウモロコシデンプンがある。水性懸濁剤または乳剤が経口投与される場合、有効成分は、乳化剤または懸濁化剤と合わされて油相に懸濁または溶解され得る。望まれる場合、特定の甘味剤、着香剤、または着色剤が加えられ得る。
鼻腔内エアロゾルまたは吸入組成物は、医薬製剤の分野に周知である技法に従って調製できる。例えば、そのような組成物は、当技術分野に公知であるベンジルアルコールもしくは他の好適な保存剤、バイオアベイラビリティを増強させる吸収促進剤、フルオロカーボン、および/または他の可溶化剤もしくは分散化剤を利用して塩水中の液剤として調製できる。
ナノ粒子を含有する組成物は、直腸投与用の坐剤の形態でも投与できる。
さらに説明がなくても、当業者は、上記の説明に基づいて、本発明を最大限に利用できると考えられる。したがって、以下の具体例、すなわち実施例1~4は、単なる例示として解釈すべきであり、いかなることがあっても本開示の残りを限定するものではない。本明細書に引用される全ての刊行物は、参照によりその全体が組み込まれる。
【0015】
全試薬および化学薬品は、分析グレードであった。コリスチン硫酸塩、ポリ-L-グルタミン酸ナトリウム塩(MW 3000~15000)、アセトニトリル、トリフルオロ酢酸(TFA)、ウシ血清アルブミン、リン酸一ナトリウム一水和物、無水リン酸水素二ナトリウムを、Sigma-Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。無水酢酸ナトリウムを、Merck(Darmstadt、Germany)から購入した。1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](アンモニウム塩)(DSPE-PEG2000;分子量:2693.285Da)、および1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-5000](アンモニウム塩)(DSPE-PEG5000;分子量:5797.04Da)を、Avanti Polar Lipids(Alabaster、AL)から購入した。Alexa Fluor 647およびAlexa Fluor 488を、Thermo Fisher Scientific(Invitrogen、Carlsbad、CA)から購入した。メトキシ-ポリ(エチレングリコール)-block-ポリ(L-アスパラギン酸ナトリウム塩)[エチレングリコールの繰り返し単位の数:n=454(MW=20,000Da);アスパラギン酸の繰り返し単位の数:x=75(MW=10,500Da)]を、Alamanda Polymers(Huntsville、AL)から購入した。アンチセンスオリゴヌクレオチドを、Eurogentec(5’→3’)(Cy5-mCmCmAmU-TG-GTT-CAA-A-mCmAmUmA、m_:2’O-メチル塩基)から合成した。
【実施例
【0016】
(実施例1:コリスチン、PGA、およびDSPE-PEG2000から形成されるナノ粒子)
コリスチン(CS)、PGA、およびDSPE-PEG2000から形成される治療用ナノ粒子を調製し、特性決定し、試験するための研究を下記の通り実施した。
カチオン性CSとアニオン性PGAとの間のコアセルベーションを引き起こすために、2種の成分を異なる質量比で混合することによりスクリーニングアッセイを実施した。5:5より低いCS:PGA比では、相分離は全く観察されなかった。CS:PGA比を6:4超に増加させると、生じた溶液は濁り、液滴の形成を示した。CS:PGA比が6:4から9:1の間で増加するにつれ、液滴の平均サイズは約300nmから約20,000nmに増加し、それに対応してゼータ電位が-20mVから2mVに増加した。コアセルベート形成は、CS:PGA比が0:10~6:4の間または9:1~10:0の間である場合観察されなかった。CSとPGAとの間のコアセルベート複合化を確認する際に、CSナノ粒子(CS NP)を、CS:PGA質量比を6:4として調製したが、その理由は、その混合物が負のゼータ電位を有する最小のコアセルベート液滴をもたらしたからである。
【0017】
典型的な調合物において、3.6mgのCSと2.4mgのPGAを、36mgのDSPE-PEG2000を含有する7.2mLの水中で混合した。次いで、混合物を、5,000psiで運転する高圧ホモジナイザーNanolyzer-N2(Gogene Corporation;Hsinchu County、Taiwan)を使用して分散させた。生じたナノ粒子を、30kDa MWCO Amicon(登録商標)Ultra Centrifugal Filter(Merck Millipore;County Cork、Ireland)を使用し、濾過して遊離のCS、PGA、またはDSPE-PEGを除去した。
その後に、ナノ粒子をその物理化学的性質に関して分析した。動的光散乱(DLS)測定は、CS NPが8nmの直径および-3mVのゼータ電位を有し、凍結乾燥および水での再構成後にサイズにもゼータ電位にも変化がなかったことを示した(図1A)。CS NPの含量の高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析は、コリスチンA、コリスチンB、DSPE-PEG、およびPGAの回収収率が、それぞれ99.07、95.74、99.60、および81.45であることを示し(図1B)、ナノ粒子への非常に効率よいCS組込みを示した。
【0018】
ナノ粒子を安定性に関しても評価した。それらが、PBSおよび10%FBS溶液中で、室温で少なくとも4日間、サイズ変化を示さずに安定なままでいたことが分かった(図1C)。
CS NPからのCS放出の研究を、透析チューブを50k MWCO膜(Pur-A-Lyzer(商標)Maxi Dialysis Kit、Sigma-Aldrich)と共に使用して、0.15Mリン酸緩衝液(pH7.4)および0.15M酢酸緩衝液(pH5.0)中で行った。リン酸緩衝液は、16.48g/L Na2HPO4および4.67g/L NaH2PO4を含有しており、酢酸緩衝液は、0.3%(v/v)酢酸および1.3%(w/v)酢酸ナトリウムを含有していた。試料を、それぞれ穏やかに撹拌されている37℃の透析チューブ中に配置した。所定の時点で、試料を収集し、HPLCを使用してCS含量を分析した。
遊離のCSが装置から迅速に透析される一方で、CS NPは持続放出プロファイルを示し、24時間後に70%のCS含量を保ったことが分かった(図1D)。pH7.4~pH5.0の間で、放出速度に著しい差異は観察されなかった。CS上のアミン基のpKaが約10であり、PGA上のカルボキシル基のpKaが約4.3であるので、2つの分子は、それらの相対する電荷をpH7.4およびpH5.0で保持していると予想される。したがって、生理学的レベルでの酸度の変動が、複合化の動態に著しく影響するとは予想されない。
【0019】
(CS NPの抗細菌効力)
CS NPの抗細菌効力を評価するために、それらの最小阻止濃度(MIC)および最小殺菌濃度(MBC)を、5種の参考細菌株ならびにカルバペネム耐性A.バウマニ、P.エルギノーザ、E.コリ、およびK.ニューモニエの39種の臨床分離株に対して評価した。
参考細菌株をATCCから購入した。カルバペネム耐性細菌の臨床分離株を、National Health Research Institutes(NHRI)およびTri-Service General Hospital(TSGH)から得た。MICは、細菌の成長を阻害するのに要する抗生物質の最低濃度と定義されている。MBCは、菌類を根絶するのに要する抗生物質の最低濃度と定義されている。CSおよびCS NPのMICを、ブロス微量希釈法を使用して決定した。細菌懸濁液を、マクファーランド0.5±0.05の濁度に調整し、異なる濃度のCSまたはCS NPと共に一晩培養した。抗菌剤処理のない対照群を基準として調製した。一晩のインキュベーションの後、溶液濁度を目視検査により決定した。観察可能な濁りがない培養ウェルを、MBC評価のためにさらに継代培養した。透明なウェルから得た溶液を寒天プレート上に置き、一晩培養して、MBCを決定した。
【0020】
以下の表1に示される通り、CS NPのMICおよびMBCは、全般的にCSのものに等しかった。細菌株の一部に対して、CS NPは、意外にも抗菌活性の2~4倍の増強を示した。PGAおよびPEGが静菌効果も殺菌効果も全く示さず、それらがCS NPの活性に寄与しなかったことを示すことに留意すべきである。
結果は、CSの治療効果が保持され、いくつかの場合に、意外にもナノ粒子集合時に改善され、カルバペネム耐性細菌の臨床症状に対する実行可能な選択肢を与えたことを示す。
【表1】



【0021】
(CS NPの細菌への結合)
菌類とCS NPとの相互作用をさらに調査するための研究を実施した。
簡潔に言うと、蛍光性CS NPを、最初にCSをAlexa Fluor 647 N-ヒドロキシスクシンイミジル(NHS)エステルと5対1のモル比で、水中で48時間インキュベートすることにより調製した。コンジュゲーションの後に、CSを、5,000psiのNanolyzer N-2による分散により、ナノ粒子集合のためにPGAおよびDSPE-PEGと混合した。生じたナノ粒子を、30kDa MWCO Amicon Ultra filterを使用し、濾過してコンジュゲートしていないフルオロフォアを除去した。青みがかった保持液を収集し、染料標識されたCS NPを凍結乾燥させ、-80℃で保存した。次いで、蛍光染料標識されたCS NPをPBSに懸濁させ、GFPを発現するA.バウマニまたはE.コリと共にインキュベートした(図2A)。90分または24時間のインキュベーションの後、細菌をPBSにより洗浄して、未結合のナノ粒子を除去した。生じた細菌を、4%パラホルムアルデヒドによりポリ-L-リジンコートスライドに固定化し、共焦点蛍光顕微鏡(Zeiss LSM 700)を使用して調査した。
【0022】
CS NPのMICでの90分の処理の後、共焦点顕微鏡法は、蛍光を発する点に覆われている細菌を明らかにした(図2B)。ナノ粒子付着は、A.バウマニ(図2C)とE.コリ(図2D)の両方に観察され、グラム陰性細菌とナノ粒子との間の親和性を表している。A.バウマニを90分および24時間、CS NPと共にインキュベーションに付した速度研究において、長時間のインキュベーションは、細菌全体に、より高い粒子蛍光をもたらした(図2Eおよび2F)。粒子蛍光のこの増加と共に、GFP蛍光の減少が起こった。外部粒子と内部タンパク質内容物との平衡は、細菌細胞壁の完全性が損なわれたことを示唆する。これらの観察結果は、ナノ粒子がCSの活性を保存することを支持する。細菌への最初の粒子結合の後に、細菌細胞膜は続いて損傷を受け、成長阻害につながった。
【0023】
(CS NPの安全性プロファイル)
マウスにおけるCS NPおよびCSの安全性プロファイルを比較するための研究を実施した。
簡潔に言うと、BioLASCO Taiwan Co.,Ltd(Taipei、Taiwan)から得た8週齢のBALB/cマウスに、CSまたはCS NPを、8、9、10、11、12、12.5、および13mg/kgのCSで、尾静脈により静脈内注射して、遊離の薬物およびナノ粒子の最大耐用量(MTD)を決定した。例えば、Li et al, International Journal of Pharmaceutics, 2016, 515, 20-29;およびBarnett et al., British Journal of Pharmacology and Chemotherapy, 1964, 23, 552-574を参照されたい。調査した全対象が生存したままであった最高用量をMTDと定義した。
【0024】
CS NPおよびCSのMTDが、それぞれ12.5mg/kgおよび10mg/kgであることが分かった。12.5mg/kgで、CSは、数分のうちに振戦、呼吸困難、および死亡をマウスに引き起こしたが、CS NPは、動物による忍容性が良好であった(図3A)。
CSとCS NPの間での長期の処置効果をさらに比較するために、3匹のマウスの群を、それぞれの製剤(PBSに溶解)による7日間の処置(4mg/kg、静脈内投与、1日2回)後に包括的な血清化学検査に付した。1群のマウスに、陰性対照として、滅菌されたPBSを尾静脈により静脈内注射した。最後の処置の24時間後に、0.5mLの血液を、包括的な代謝パネル分析のために、動物から収集した。データを、GraphPad Prism(GraphPad Software、San Diego、CA)を使用して、ステューデントのt検定と、それに続くダネットの多重比較検定により解析した。0.05より小さいp値を有意であるとみなした。
図3Bおよび3Cに示される通り、CS処置は、PBS対照と比べて、肝臓損傷の指標であるアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)およびアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)レベルを著しく増加させた。この知見は、CSおよびCS誘導体と関連する肝臓毒性の臨床例を示した以前の報告と一致する。Kalin et al., Infection, 2014, 42, 37-42; Katz et al., Med. Ann. D. C., 1963, 32, 408-413;およびFalagas et al., Crit. Care, 2006, 10, R27を参照されたい。対照的に、CS NPは、CSと比べてALTおよびAST値の減少をもたらした。包括的な代謝パネル中の他のパラメーター(図3D~3M)の中で、CSもCS NPも顕著な変化を起こさなかった。これらの結果は、CS NPが投与するのにより安全であり、追加のPGAおよびDSPE-PEGが予期せぬ有害作用を全く引き起こさないことを示す。報告されたCSの副作用である腎毒性の徴候がこの研究において全く観察されず、クレアチニン(CREA)および血液尿素窒素(BUN)のレベルが、PBS群、CS群、およびCS NP処置群の間で類似であることは注目に値する。
要約すると、結果は、ナノ粒子集合が、意外にもCSのMTDを改善し、肝臓毒性を減少させたことを示す。
【0025】
(CS NPのインビボ抗菌活性)
CS NPのインビボ抗菌活性を、A.バウマニ肺炎のマウスモデルにおいてさらに評価した。Yang et al., Antimicrobial Agents and Chemotherapy, 2016, 60, 4047-4054を参照されたい。
簡潔に言うと、A.バウマニ17978を、30mLのLBブロス中で、振とうしながら37℃で成長させて、対数増殖中期に達させた。次いで、細菌を、4,000gでの15分間の遠心分離によりペレット化した。細菌ペレットをPBSに再懸濁させ、ブタの胃由来の5%ムチン(タイプ3;Sigma-Aldrich、Taiwan)と混合した。
【0026】
A.バウマニ肺炎を引き起こすために、8週齢C57BL/6マウス(National Laboratory Animal Center、Taiwan)に、最初に、2%トリブロモエタノール(Avertin;0.018mL/g)により麻酔をかけた。次いで、6.07×108CFUのA.バウマニ17978を、気管内注射によりマウスに投与して、肺炎を引き起こした(図4A)。接種後2時間で、マウスを、1日2回、静脈内注射により、PBS(対照として)、5mg/kgのCSまたはCS NPにより処置した。
【0027】
CSとCS NPの間の効力を、生存分析により比較した。群の間の生存率の差異を、GraphPad Prismを使用してログランク検定により解析した。2つの薬物処置群のどちらにも死亡率が記録されない一方で、対照群動物の37.5%が死亡したので、CSおよびCS NPの処置効力が感染後36時間で観察された。72時間の観察後、CS NPは、CSに類似の処置効力を示し(p=0.67)、2つの処置群のそれぞれで8匹の評価される動物のうち生存しているマウスが3匹対4匹であった(図4B)。生存転帰は、ナノ粒子集合後のCSの抗菌活性の保持を支持している。
これらの結果は、本発明のCS NPが、意外にも、望ましい安全性プロファイルを有し、薬剤耐性細菌の処理において治療効力を示したことを示す。
【0028】
(実施例2:CS、PGA、およびDSPE-PEG5000から形成されるナノ粒子)
CS、PGA、およびDSPE-PEG5000(MW5000)から形成される治療用ナノ粒子を調製し、特性決定し、試験するための研究を下記の通り実施した。
治療用ナノ粒子を、以下に記載の通り改変して、実施例1に記載の手順に従って調製した。より具体的には、6:7(w/w)のCS対PGAの比を採用し、ナノ粒子を1.5%のDSPE-PEG5000中で安定化させた。追加の量のPGAおよびより高分子量のPEGを使用して、CS NPの安定性を増強させた。
典型的な調合物において、6mgのCSと7mgのPGAを、180mgのDSPE-PEG5000を含有する12mLの水中で混合した。次いで、生じた混合物を、高圧ホモジナイザーを使用して分散させ、生じたナノ粒子を濾過した。このように収集したナノ粒子を、サイズおよびゼータ電位に関してDLSにより評価し、その後に-80℃での保存のために凍結乾燥させた。他の実験は全て、凍結乾燥させたCS NPをPBSに再懸濁させて実施した。DLS分析は、ナノ粒子が、直径12.5nm、ゼータ電位-5mVであり、凍結乾燥および再懸濁の後で安定であったことを示した(表2)。
【0029】
表2において、「Z-Ave」はキュムラント平均を指し、「PDI」は多分散指数を指す。
【表2】
【0030】
HPLC定量化は、CS NPが、コリスチンAおよびコリスチンBの高いカプセル化効率(EE%)を有することを示す(表3)。
【表3】

【0031】
(CS、PGA、およびDSPE-PEG5000から形成されたナノ粒子の抗細菌効力)
この研究のCS NPの抗細菌効力を評価するために、それらのMICおよびMBCを、5種の参考細菌株ならびにカルバペネム耐性A.バウマニ、E.コリ、K.ニューモニエ、およびP.エルギノーザの20種の臨床分離株に対して、実施例1で述べられた手順に従って評価した。参考細菌株はATCCから購入した。カルバペネム耐性臨床分離株はNHRIから得た。
表4に示される通り、追加の量のポリマーは、実施例1で使用されたものと比べて、生じたCS NPの抗菌活性に影響しなかった。実際に、それらは、CSのものと同等な抗菌活性を示した。PGAおよびDSPE-PEGが静菌効果も殺菌効果も全く示さず、それらがCS NPの活性に全く寄与しなかったことに留意すべきである。
【表4】

【0032】
(細菌へのCS NPの結合の調査)
細菌と、実施例1に記載のCS NPと比べて追加量のポリマーを含有するCS NPとの相互作用を調査するための、研究を実施した(図5A)。
フルオロフォアコンジュゲートCSを、CSをAlexa Fluor 647 NHSと共に5対1のモル比で、0.1M炭酸水素ナトリウム緩衝液中で72時間インキュベートすることにより調製した。他方で、フルオロフォアコンジュゲートPGAを、PGAをAlexa Fluor 488 NHSエステルと共に1対7.5のモル比で、0.1M炭酸水素ナトリウム緩衝液中で72時間インキュベートすることにより調製した。フルオロフォアコンジュゲーションの後、CSとPGAを、DSPE-PEGを含有する水中で混合した。次いで、混合物を、5,000psiでNanolyzer N-2を使用して分散させた。生じたフルオロフォアコンジュゲートナノ粒子を、30kDa MWCO Amicon Ultra filterを使用し、濾過して非コンジュゲートフルオロフォアを除去した。蛍光を発する保持液を収集し、フルオロフォアコンジュゲートナノ粒子を凍結乾燥させて、-80℃で保存した。
【0033】
E.コリATCC 25922の一晩培養物を、10,000×gで、10分間4℃でペレット化し、PBSに再懸濁させた。細菌懸濁液を、フルオロフォアコンジュゲートCSまたはフルオロフォアコンジュゲートCS NPと混合し、37℃でインキュベートした。陰性対照として、CSまたはCS NPインキュベーションしていない細菌懸濁液を調製した。フルオロフォアコンジュゲートCSまたはフルオロフォアコンジュゲートCS NPとの1.5および24時間のコインキュベーションの後、細菌をPBSで洗浄した。試料を凍結乾燥させ、1%ドデシル硫酸ナトリウム(Sigma-Aldrich)(w/v)により再懸濁させ、マイクロプレート蛍光リーダー(TECAN Infinite M1000、Austria)によりCS含量を測定した。
Alexa 647と488のどちらの蛍光も、24時間のコインキュベーションの後で強度が増加し、CS NP中のCSが容易に細菌と相互作用したことを示す(図5B)。言い換えると、追加量のポリマーは、CS NPの細菌結合機能に干渉しなかった。
【0034】
(CS NPのMTDの決定)
マウスの用量漸増研究を実施して、CS NPのMTDを決定した。
この研究のために、マウス(8週、Balb/cマウス)を、Bio-LASCO Taiwan Co.,Ltd(Taipei、Taiwan)から得た。ナノ粒子のMTDを評価するために、CSまたはCS NPを、尾静脈により、25、40、45、および50mg/kgのCSベースでマウスに静脈内注射した(n=10)。調査した全対象が生存したままであった最高用量をMTDと定義した。
図6に示されるように、この研究のCS NPは40mg/kgのMTDを示し、CSのMTDの3倍超高く、実施例1のCS NPのMTDより2倍超高い(図6)。増加したMTDのため、クリニックにおいて薬剤耐性分離株を処理するためのより高い薬物投与が可能である。
【0035】
(K.ニューモニエ感染のマウス生存モデルにおけるCS NP処置)
K.ニューモニエによるマウス感染症モデルを採用して、CS NPの抗菌活性をインビボで確認した(図7A)。
マウス(20~22g、10週、Balb/cマウス)を、Bio-LASCO Taiwan Co.,Ltd(Taipei、Taiwan)から得た。感染の3日前および1日前に、マウスに、それぞれ150および100mg/kgのシクロホスファミドを腹腔内注射して、好中球減少症を引き起こした。K.ニューモニエNHRI 1分離株を、60mLのミュラーヒントンブロス中で、150rpm(オービタルシェーカー、Yihder TS-580)で、2.5時間37℃で成長させて、対数増殖中期に達させた。次いで、細菌を、10,000×gで、10分間4℃で収集した。細菌ペレットをPBSに再懸濁させた。致死的な細菌投与量によりK.ニューモニエ腹腔内感染を引き起こすために、マウスを、50mL中1.5×108CFU/マウスで、腹腔内注射により感染させた。感染の5時間後に、感染したマウスを、5mg/kg CS(50%MTD)、20mg/kg CS NP(50%MTD)、または対照としてのPBSにより処置した。
CS NPにより可能であった高投与量処置が、マウス生存率を0%から50%に改善したのに対し、CSは感染したマウスの生存を改善しなかったことが分かった(図7B)。
【0036】
(K.ニューモニエによるマウス感染症モデルにおけるCS NP処置)
CSとCS NPとの間の効力を比較するために、非致死性の細菌曝露において細菌計数研究をさらに実施した(図7C)。
マウス(20~22g、10週、Balb/cマウス、各群3匹)をBio-LASCO Taiwan Co.,Ltd(Taipei、Taiwan)から得た。感染の3日前および1日前に、マウスに、それぞれ150および100mg/kgのシクロホスファミドを腹腔内注射して、好中球減少症を引き起こした。K.ニューモニエNHRI 1分離株を、60mLのミュラーヒントンブロス中で、150rpm(オービタルシェーカー、Yihder TS-580)で、2.5時間37℃で成長させ、対数増殖中期に達させた。次いで、細菌を、10,000×gで、10分間4℃で収集した。細菌ペレットをPBSに再懸濁させた。K.ニューモニエ腹腔内感染を引き起こすために、マウスを、50mL中8.4×107CFU/マウスで腹腔内注射により感染させた。感染の2時間後および7時間後に、感染したマウスを、5mg/kg CSまたは20mg/kg CS NPにより静脈内に処置した。感染の24時間後に、マウスを屠殺し、その組織を細菌計数のために収集した。2つの処置の効力を、調査した組織中のCFUの数により比較した。
【0037】
対応する50%MTDでのCSまたはCS NPの2種の処置を受けたマウスから誘導された異なる器官からの細菌数を調査することにより、CS NP処置群の血液および心臓中の細菌数の2-対数減少値が観察された(図7D)。
結果は、CSと比べて、本発明のCS NPが、意外にも、抗菌活性に影響を与えずに、はるかに安全なプロファイルを示したことを示す。
【0038】
(実施例3:CS、オリゴヌクレオチド、およびDSPE-PEG5000から形成されたナノ粒子)
CS、オリゴヌクレオチド、およびDSPE-PEG5000から形成される治療用ナノ粒子を調製し、特性決定し、試験するための研究を実施した。
蛍光性20量体二本鎖DNAをオリゴヌクレオチドとして使用した。蛍光性20量体二本鎖DNAを調製するために、フルオレセインアミダイト(FAM)を有するオリゴ鎖(5’-/56-FAM/TT GGC TAC GTC CAG GAG CGC-3’)を、蛍光染料のない別のフォワードオリゴ鎖と混合し、リバースオリゴ鎖と共に94℃でアニーリングし、徐々に冷却した。CSおよびオリゴヌクレオチドを含有するナノ粒子(CS/DNA NP)を調製するために、CSをオリゴヌクレオチドと6:7(w:w)比で混合し、1.5%のDSPE-PEG5000中で安定化させた。
【0039】
典型的な調合物において、6mgのCSと7mgのオリゴヌクレオチドを、1.5%のDSPE-PEG5000を含有する12mLの水中で混合した。次いで、混合物を、5,000psiでNanolyzer N-2を使用して分散させた。生じたナノ粒子を、30kDa MWCO Amicon Ultra filterを使用し、濾過して遊離のCS、オリゴヌクレオチド、およびDSPE-PEG5000を除去した。CS/DNA NPの調製の成功を、蛍光標識されたDNAがサイズ排除フィルターにより除去されなかったことを示す蛍光を発する保持液を観察して確認した。蛍光を発する黄色保持液を収集し、CS/DNAナノ粒子を凍結乾燥させて、-80℃で保存した。DLS測定は、ナノ粒子が、10.75nmのサイズであり、わずかに負のゼータ電位を有し、凍結乾燥時に安定であることを明らかにした。以下の表5を参照されたい。
【0040】
「Z-Ave」および「PDI」の定義に関して、上記実施例2を参照されたい。
【表5】

【0041】
菌類とCS/DNA NPとの相互作用を観察するために、ナノ粒子をPBSに懸濁させ、カルバペネム耐性クレブシエラ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae)と共にインキュベートした。対照として、遊離のDNAも細菌と共にインキュベートした。3時間のインキュベーション後に、細菌をPBSで洗浄して、未結合のナノ粒子を除去した。生じた細菌を、4%パラホルムアルデヒドによりポリ-L-リジンコートスライドに固定化し、共焦点蛍光顕微鏡(Zeiss LSM 700)を使用して調査した。この研究は、CS/DNA NPが多量のDNAを細菌中に送達することを明らかにした。対照的に、対照群では、DNAはほとんど細菌と会合しなかった(図8)。
【0042】
アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)などの治療上適切なオリゴヌクレオチドが抗菌処置の増強のためにCS NPに組み込まれ得ることを実証するために、その遮断が原核生物の細胞分裂を減少させるftsZ DNA断片のASO(ASOftsZ)を含有するCS NPを調製し、試験するための研究を実施した。ftsZ標的化ASOの送達成功は、原核生物のftsZ遺伝子を遮断し、細菌コロニー形成を阻害し得る。
この研究のために、シアニン標識ASOftsZ(Cy5-ASOftsz)を合成し、ナノ粒子調製のためにAlexa 488コンジュゲートCS(Alexa488-CS)とのコアセルベーション複合体を形成するために使用した。プレートリーダー(TECAN infinite M1000 PRO)を使用して測定したAlexa488-CSおよびCy5-ASOftsZの回収収率は、それぞれ89.5%および71.13%であった。
【0043】
Alexa488-CSおよび二重フルオロフォア標識CS NP(CS-ASOftsZ NP)のMICおよびMBCを、E.コリATCC 25922に対して評価したが、結果は、ASOftsZの組込みがCSのMICおよびMBCに影響しなかったことを示す(表6)。さらに、CSのMICより低い1μg/mLで、CS-ASOftsZ NPは、相乗的な抗細菌作用を示した(図9)。
【表6】

【0044】
菌類とCS-ASOftsZ NPとの相互作用を観察するために、PBSに懸濁しているこれらのナノ粒子を、E.コリATCC 25922と共にインキュベートした。2時間のインキュベーションの後で、細菌をPBSで洗浄して、未結合のナノ粒子を除去した。次いで、細菌を、4%パラホルムアルデヒドによりポリ-L-リジンコートスライドに固定化し、共焦点蛍光顕微鏡(Inverted Confocal plus Super Resolution Microscope;LSM 780+ELYRA)を使用して調査した。
【0045】
CS-ASOftsZ NPとの、または遊離のCS/遊離のASOftsZ混合物との細菌インキュベーションの後で、著しく異なるCSおよびASOftsZ分布が観察された。より具体的には、遊離のCSおよび遊離のASOftsZとのインキュベーションは、細菌の端でのCSおよびASOftsZ局在化をもたらした一方で、ナノ粒子とのインキュベーションは、細菌全体でのCSおよびASOftsZ分布をもたらした。CS-ASOftsZ NPによるASOftsZ送達の成功は、4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール染色の増加により立証される通り、高いDNA含量ももたらした。
これらの結果は、ASOがCS NP調製のためのバイオポリマーとして使用でき、CS NPがASOの細菌中への送達を促進できることを示す。それらは、ナノ粒子形成のために治療上適切なASOをCSとカップリングさせることにより相乗効果を得ることができ、ASOftsZの場合、送達成功が細菌分裂に影響を与えることができ、それにより細菌DNAのより多くの蓄積をもたらすことも示す。
【0046】
(実施例4:CSおよびメトキシ-ポリ(エチレングリコール)-block-ポリ(L-アスパラギン酸ナトリウム塩)(mPEG20K-b-PLD75)から形成されたナノ粒子)
CS NPを、また、CSおよびジブロックコポリマー、すなわちmPEG20K-b-PLD75を使用して調製した。ジブロックコポリマーとCSの比は2:3(w/w)であった。簡潔に言うと、コリスチンとジブロックコポリマーを2:3(w/w)の比で混合して、コアセルベーション複合体を形成し、それを、5,000psiでNanolyzer N-2によりさらに分散させた。生じたナノ粒子を、30kDa MWCO Amicon Ultra filterを使用し、濾過して遊離のコリスチンおよび遊離のコポリマーを除去した。収集したナノ粒子を凍結乾燥させ、-80℃で保存した。
【0047】
生じたナノ粒子、すなわちCS/mPEG20K-b-PLD75 NPは、DLS分析により判定してサイズがおよそ60nmであった。この製剤は安定で、凍結乾燥後にサイズおよびゼータ電位が不変であった。以下の表7を参照されたい。
ここでもやはり、「Z-Ave」および「PDI」の定義に関して、上記実施例2を参照されたい。
【表7】

【0048】
CSのカプセル化効率は、ナノ粒子調製時に非常に高く、HPLC分析により測定してコリスチンAおよびコリスチンBの回収収率がそれぞれ97.6%および64.2%であった。クライオ電子顕微鏡観察時に、製剤が、およそ10nmのサイズのナノ粒子をもたらしたことが分かった。DLSによるサイズ決定をゆがませたいくつかの大きなナノ粒子があった(表7)。この研究のナノ粒子のMTDは17.5mg/kgであり、CS(MTD=10mg/kg)より安全性が高いことを示した。
【0049】
(他の実施形態)
本明細書に開示される特徴の全ては、あらゆる組合せで組み合わせることができる。本明細書に開示される各特徴は、同じ、等価な、または類似の目的を果たす代替の特徴により置き換えることができる。そのため、明白にそうではないと述べられていない限り、開示される各特徴は、一般的な一連の等価または類似の特徴の一例に過ぎない。
さらに、上記説明から、当業者は、本発明の基本的な特性を容易に認識でき、その趣旨および範囲から逸脱することなく本発明の種々の変更および改変を行って、それを種々の用法および状態に適応させることができる。そのため、他の実施形態も特許請求の範囲内にある。
次に、本発明のまた別の好ましい態様を示す。
1. カチオン性ポリペプチド、および
ポリアニオン性分子
を含む治療用ナノ粒子であって、
抗細菌活性を発揮するカチオン性ポリペプチドが、ポリアニオン性分子との静電相互作用を形成し、治療用ナノ粒子が50nm未満の直径を有する、治療用ナノ粒子。
2. カチオン性ポリペプチドが、コリスチン、ポリミキシンB、およびポリミキシンMからなる群から選択される抗生物質である、上記1に記載の治療用ナノ粒子。
3. カチオン性ポリペプチドがコリスチンである、上記2に記載の治療用ナノ粒子。
4. ポリアニオン性分子が、アニオン性ポリペプチド、アニオン性オリゴヌクレオチド、アニオン性ポリヌクレオチド、またはアニオン性ポリ有機酸である、上記1に記載の治療用ナノ粒子。
5. ポリアニオン性分子が、10,000bp未満のサイズを有するプラスミドである、上記4に記載の治療用ナノ粒子。
6. 両親媒性安定剤をさらに含む、上記4に記載の治療用ナノ粒子。
7. 両親媒性安定剤が、ポリエチレングリコール(PEG)脂質である、上記6に記載の治療用ナノ粒子。
8. 両親媒性安定剤が、ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-ポリエチレングリコール(DSPE-PEG)、DSPE-PEG-マレイミド、DSPE-PEG-ビオチン、メトキシPEG-コレステロール(mPEG-コレステロール)、またはコレステロール-PEG-アミンである、上記7に記載の治療用ナノ粒子。
9. ポリアニオン性分子が、グルタミン酸またはアスパラギン酸から形成されたポリアミノ酸である、上記6に記載の治療用ナノ粒子。
10. ポリアニオン性分子が、一本鎖または二本鎖DNA、RNA、またはロック核酸である、上記6に記載の治療用ナノ粒子。
11. ポリアニオン性分子が、20量体二本鎖DNAである、上記10に記載の治療用ナノ粒子。
12. ポリアニオン性分子がアンチセンスオリゴヌクレオチドである、上記10に記載の治療用ナノ粒子。
13. ポリアニオン性分子が、ポリエチレングリコールおよびアニオン性ポリペプチドを含有するジブロックコポリマーである、上記1に記載の治療用ナノ粒子。
14. アニオン性ポリペプチドが、グルタミン酸またはアスパラギン酸から形成されたポリアミノ酸である、上記13に記載の治療用ナノ粒子。
15. カチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子が、1:4~7:1のカチオン:アニオン電荷比を有する、上記1に記載の治療用ナノ粒子。
16. 治療用ナノ粒子が両親媒性安定剤をさらに含み、ポリアニオン性分子が、アニオン性ポリペプチド、アニオン性オリゴヌクレオチド、アニオン性ポリヌクレオチド、またはアニオン性ポリ有機酸である、上記15に記載の治療用ナノ粒子。
17. 両親媒性安定剤が、DSPE-PEG、DSPE-PEG-マレイミド、DSPE-PEG-ビオチン、mPEG-コレステロール、およびコレステロール-PEG-アミンからなる群から選択されるPEG脂質である、上記16に記載の治療用ナノ粒子。
18. ポリアニオン性分子が、ポリエチレングリコールおよびアニオン性ポリペプチドを含有するジブロックコポリマーである、上記15に記載の治療用ナノ粒子。
19. アニオン性ポリペプチドが、グルタミン酸またはアスパラギン酸から形成されたポリアミノ酸である、上記18に記載の治療用ナノ粒子。
20. 治療用ナノ粒子が25nm未満の直径を有する、上記1に記載の治療用ナノ粒子。
21. 治療用ナノ粒子が15nm未満の直径を有する、上記20に記載の治療用ナノ粒子。
22. カチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子が、1:4~7:1のカチオン:アニオン電荷比を有する、上記21に記載の治療用ナノ粒子。
23. 治療用ナノ粒子が両親媒性安定剤をさらに含み、ポリアニオン性分子が、アニオン性ポリペプチド、アニオン性オリゴヌクレオチド、アニオン性ポリヌクレオチド、またはアニオン性ポリ有機酸である、上記22に記載の治療用ナノ粒子。
24. ポリアニオン性分子が、ポリエチレングリコールおよびアニオン性ポリペプチドを含有するジブロックコポリマーである、上記22に記載の治療用ナノ粒子。
25. 治療用ナノ粒子が両親媒性安定剤をさらに含み、15nm未満の直径を有し、カチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子が、1:4~7:1のカチオン:アニオン電荷比を有し、ポリアニオン性分子が、アニオン性ポリペプチド、アニオン性オリゴヌクレオチド、アニオン性ポリヌクレオチド、またはアニオン性ポリ有機酸である、上記1に記載の治療用ナノ粒子。
26. 上記1に記載の治療用ナノ粒子および薬学的に許容できる担体を含む医薬組成物。
27. 上記1に記載の治療用ナノ粒子を調製する方法であって、
両親媒性安定剤を含有する水溶液を用意すること、
水溶液に、所定のモル比のカチオン性ポリペプチドおよびポリアニオン性分子を混合すること、ならびに
生じた混合物から治療用ナノ粒子を得ること
を含む、方法。
28. グラム陰性細菌を処理する方法であって、必要とする対象に有効量の上記1に記載の治療用ナノ粒子を投与することを含む、方法。
図1
図2
図3
図4
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図9