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特許7467465摩擦材組成物、摩擦材及びディスクブレーキパッド
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】摩擦材組成物、摩擦材及びディスクブレーキパッド
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20240408BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20240408BHJP
   F16D 65/092 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C09K3/14 520C
C09K3/14 520M
C09K3/14 520L
C09K3/14 520J
F16D69/02 C
F16D65/092 B
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021532694
(86)(22)【出願日】2020-05-12
(86)【国際出願番号】 JP2020018977
(87)【国際公開番号】W WO2021010003
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2019132923
(32)【優先日】2019-07-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】309014573
【氏名又は名称】日清紡ブレーキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166372
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 博明
(72)【発明者】
【氏名】山田 直之
(72)【発明者】
【氏名】山本 和秀
(72)【発明者】
【氏名】武居 修平
【審査官】岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106763362(CN,A)
【文献】特開平11-322958(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105154008(CN,A)
【文献】国際公開第2012/066964(WO,A1)
【文献】特開2015-093936(JP,A)
【文献】特開2018-138652(JP,A)
【文献】特開2011-017016(JP,A)
【文献】国際公開第2017/109893(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16D 69/02
F16D 65/092
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、繊維基材、無機充填材、有機充填材を含有し、銅成分を実質的に含有しないNAO材の摩擦材組成物において、
ブレーキ制動時に焼結体となる物質であってディスクローターから生じる粉体を保持する当該焼結体の前駆体である第1物質と、
前記第1物質の焼結を助ける焼結助剤である第2物質と、
を含
前記第1物質は、無機充填材である炭酸カルシウムであり、摩擦材組成物全量に対し5重量%~20重量%含有され、
前記第2物質は、有機充填材であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粉末であり、摩擦材組成物全量に対し1重量%~5重量%含有される、摩擦材組成物。
【請求項2】
さらに、無機充填材であるチタン酸リチウムカリウムが摩擦材組成物全量に対し10重量%~35重量%含有される、請求項記載の摩擦材組成物。
【請求項3】
請求項1乃至請求項に記載の摩擦材組成物を用いて製造される摩擦材。
【請求項4】
請求項記載の摩擦材をバックプレート上に載置してなるディスクブレーキパッド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦材組成物、摩擦材及びディスクブレーキパッドに関し、特に、自動車、オートバイ、鉄道車両、航空機などの乗物用、及び、各種産業用機器類用の摩擦材組成物、摩擦材及びディスクブレーキパッドに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等のディスクブレーキパッドに用いられる摩擦材は、自然環境への悪影響を排除するために、環境負荷物質を含有しないものが求められており、特に近年では重金属である銅成分を含有しない摩擦材が国際的に主流になっている。摩擦材は、冷間放置後などにブレーキ制動がなされる状況では、その制動時に生じる振動に起因してブレーキノイズとも称されるブレーキの鳴きが発生することがある。
【0003】
特許文献1には、摩擦材組成物中の銅の含有量が0.5質量%以下で、フッ素系ポリマーを含有する摩擦材組成物が開示されている。この摩擦材は、実質的に銅成分を実質的に含まず、フッ素系ポリマーを含有するため、ブレーキの鳴きを低減することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-93936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載された摩擦材は、ブレーキ制動時に生じる熱によって摩擦材が約390℃以上の高温領域に到達すると、摩擦材に含有されているフッ素系ポリマーが分解を開始することによって分解ガスが発生する。この分解ガスは、ブレーキ効きを低下させる要因となり、また、フッ素系ポリマーが分解することにより摩擦材に空隙が生じて強度が低下し、摩擦材が異常摩耗するため、対策を講じる必要がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、環境に配慮すること、ブレーキの鳴きを低減することを前提とした上で、高温領域でのブレーキ効きの低下を回避すること、耐摩耗性を向上させること、のうち少なくとも一つを解決することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、
結合材、繊維基材、無機充填材、有機充填材を含有し、銅成分を実質的に含有しないNAO材の摩擦材組成物において、
ブレーキ制動時に焼結体となる物質であってディスクローターから生じる粉体を保持する当該焼結体の前駆体である第1物質と、
前記第1物質の焼結を助ける焼結助剤である第2物質と、
を含む。
【0008】
本発明によれば、以下のような作用効果が得られる。なお、以下、理解容易のため、後述する実施形態及び実施例を含め、典型例として、第1物質として無機充填材である炭酸カルシウムを用い、第2物質として有機充填材であるフッ素系ポリマーを用いた摩擦材組成物を用いて製造された摩擦材を例に説明する。
【0009】
通常、摩擦材には、摩擦係数を確保する目的で、ディスクローターの表面を研削する硬質の無機充填材が含有される。したがって、当該無機充填材はその一部に、ディスクローターの表面を研削できるように、ディスクローターの材料もよりも、モース硬度が大きいものが選定される。
【0010】
自動車のディスクローターの材料は、鋳鉄、鋳鋼、ステンレス鋼が選定される。乗用車のディスクローターに用いられることが多い鋳鉄はモース硬度が約4.5であることから、硬質の無機充填材としては、モース硬度が鋳鉄よりも大幅に高い約7.0以上のケイ酸ジルコニウム、酸化ジルコニウム等が選定されることが多い。
【0011】
ディスクローターは、ブレーキ制動時に、摩擦材に含有されるモース硬度の高い無機充填材によって表面が研削される。このため、ディスクローターから鋳鉄粉等が発生し、その一部は摩擦材の摩擦面に移着することになる。
【0012】
一方、摩擦材は、ブレーキ制動時に、ディスクローターとの摩擦熱によって、例えば400℃以上の高温領域まで到達することがある。これにより、摩擦材に含有されている炭酸カルシウムは焼結し、その焼結体は鋳鉄粉等を強固に保持することになる。また、この際、摩擦材に含有されているフッ素系ポリマーは、炭酸カルシウムの焼結助剤として機能する。
【0013】
上記各挙動の結果、摩擦材の表面に強固に保持された鋳鉄粉等とディスクローターとの間に凝着摩擦が生じ、ブレーキ効きが向上するという効果が得られる。また、摩擦材は、その表面が炭酸カルシウムの焼結体によって覆われて強度が高まり、耐摩耗性が向上するという効果が得られる。
【0014】
このような効果は、摩擦材組成物全量に対する、フッ素系ポリマー及び炭酸カルシウムの含有量が適正でなければ得ることができない。
【0015】
まず、フッ素系ポリマーの含有量が摩擦材組成物全量に対して1重量%未満の場合には、炭酸カルシウムの焼結助剤としての働きが限定的であった。このため、炭酸カルシウムの焼結体の生成量が相対的に少なくなり、高温領域におけるブレーキ効きと摩擦材の耐摩耗性とが不十分であった。
【0016】
一方、フッ素系ポリマーの含有量が摩擦材組成物全量に対して5重量%を超える場合には、フッ素系ポリマーが有する潤滑作用が必要以上に大きくなった。このため、後述する実施例において定義される「通常の使用領域におけるブレーキ効き」が低下することがわかった。
【0017】
したがって、フッ素系ポリマーは、摩擦材組成物全量に対して1重量%~5重量%を含有させるとよく、本発明の効果の確実性を高めるためには、摩擦材組成物全量に対して好ましくは2重量%~4重量%を含有させるとよいことがわかった。
【0018】
フッ素系ポリマーとしては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。中でも、耐熱性の観点からポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の粉末を単独で用いることが好ましい。
【0019】
また、炭酸カルシウムの含有量が摩擦材組成物全量に対して5重量%未満の場合には、炭酸カルシウムの焼結体の生成量が相対的に少なくなった。このため、フッ素系ポリマーの含有量が不足した場合と同様に、高温領域におけるブレーキ効きと摩擦材の耐摩耗性とが不十分であった。
【0020】
一方、炭酸カルシウムの含有量が摩擦材組成物全量に対して20重量%を超える場合には、摩擦材の機械的強度が限定的であった。このため、摩擦材の耐摩耗性が低下することがわかった。
【0021】
したがって、炭酸カルシウムは、摩擦材組成物全量に対して5重量%~20重量%を含有させるとよく、本発明の効果の確実性を高めるためには、摩擦材組成物全量に対して好ましくは7重量%~15重量%を含有させるとよいことがわかった。
【0022】
さらに、本発明の摩擦材は、摩擦材組成物全量に対して10重量%~35重量%のチタン酸リチウムカリウムを含有させてもよい。こうすると、チタン酸リチウムカリウムが炭酸カルシウムの焼結を促進させて、上記の作用効果がより顕著となった。なお、本発明の効果の確実性を高めるためには、チタン酸リチウムカリウムは、摩擦材組成物全量に対して20重量%~30重量%とすることが好ましい。
【発明の実施の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態の摩擦材組成物、摩擦材及びディスクブレーキパッドについて説明する。
【0024】
本実施形態の摩擦材組成物は、以下説明する、結合材と、繊維基材と、無機充填材と、有機充填材とを基本的な構成とする。
【0025】
(1)結合材は、主として、繊維基材と無機充填材と有機充填材といった摩擦材の各種原料を相互に結合するものであり、加えて、摩擦材自体に所要の強度を付与するものである。
(2)結合材は、ストレートフェノール樹脂、カシューオイル変性フェノール樹脂、アクリルゴム変性フェノール樹脂、シリコーンゴム変性フェノール樹脂、ニトリルゴム(NBR)変性フェノール樹脂、フェノール・アラルキル樹脂(アラルキル変性フェノール樹脂)、フルオロポリマー分散フェノール樹脂、シリコーンゴム分散フェノール樹脂等のフェノール樹脂系の熱硬化性樹脂を、単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
(3)結合材の含有量は摩擦材組成物全量に対して8重量%~13重量%とするのが好ましく、9重量%~12重量%とするのがより好ましい。
【0026】
(1)繊維基材は、主として、摩擦材の強度や耐摩耗性を確保することを目的として添加されるものである。
(2)繊維基材は、アラミド繊維、セルロース繊維、ポリ-パラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、アクリル繊維等の摩擦材に通常用いられる有機繊維、アルミニウム繊維、アルミニウム合金繊維、亜鉛繊維等の摩擦材に通常用いられる金属繊維が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
(3)繊維基材の含有量は、摩擦材組成物全量に対して2重量%~10重量%とするのが好ましく、4重量%~8重量%とするのがより好ましい。
【0027】
(1)無機充填材は、主として、耐摩耗性を向上すること、摩擦係数を調整すること、摩擦材のpHを調整することを目的として添加されるものである。
(2)無機充填材は、上記の炭酸カルシウム、チタン酸リチウムカリウム以外に、
硫化亜鉛、二硫化モリブデン、硫化スズ、硫化ビスマス、硫化タングステン、複合金属硫化物等の金属硫化物系潤滑材、又は、人造黒鉛、天然黒鉛、薄片状黒鉛、弾性黒鉛化カーボン、石油コークス、活性炭、酸化ポリアクリロニトリル繊維粉砕粉等の炭素質系潤滑材等の摩擦材に通常用いられる潤滑材や、タルク、クレイ、ドロマイト、水酸化カルシウム、硫酸バリウム、金雲母、白雲母、バーミキュライト、四三酸化鉄、ケイ酸カルシウム水和物、ガラスビーズ、ゼオライト、ムライト、クロマイト、酸化チタン、酸化マグネシウム、安定化酸化ジルコニウム、単斜晶酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、γ-アルミナ、α-アルミナ、炭化ケイ素、鉄粒子、亜鉛粒子、スズ粒子、非ウィスカー状(板状、柱状、鱗片状、複数の凸部を有する不定形状)のチタン酸塩(6チタン酸カリウム、8チタン酸カリウム、チタン酸マグネシウムカリウム)等の摩擦材に通常用いられる粒子状無機摩擦調整材や、ウォラストナイト、セピオライト、バサルト繊維、ガラス繊維、生体溶解性人造鉱物繊維、ロックウール等の摩擦材に通常用いられる繊維状無機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
(3)無機充填材は、上記の炭酸カルシウム、チタン酸リチウムカリウムと合わせて、摩擦材組成物全量に対して50重量%~85重量%とするのが好ましく、60重量%~80重量%とするのがより好ましい。
【0028】
(1)有機摩擦調整材は、主として、摩擦係数の調整、音振性能や耐摩耗性等を向上させることを目的として添加されるものである。
(2)有機充填材は、上記のフッ素系ポリマー以外に、カシューダスト、タイヤトレッドゴムの粉砕粉や、ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム等の加硫ゴム粉末又は未加硫ゴム粉末等の摩擦材に通常使用される有機摩擦調整材が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
(3)有機充填材の含有量は、上記フッ素系ポリマーと合わせて、摩擦材組成物全量に対して3重量%~12重量%とすることが好ましく、5重量%~10重量%とすることがより好ましい。
【0029】
本実施形態の摩擦材は、所定量配合した摩擦材原料を、混合機を用いて均一に混合する混合工程、得られた摩擦材原料混合物を熱成形型に投入し、加熱加圧して成型する加熱加圧成型工程、得られた成型品を加熱して結合材の硬化反応を完了させる熱処理工程、摩擦面を形成する研磨工程を経て製造される。
【0030】
加熱加圧成型工程の前に、摩擦材原料混合物を造粒する造粒工程、摩擦材原料混合物を混練する混練工程、摩擦材原料混合物又は造粒工程で得られた造粒物、混練工程で得られた混練物を予備成型型に投入し、予備成型物を成型する予備成型工程が実施される場合もある。
【0031】
ディスクブレーキパッドを製造する場合は、加熱加圧成型工程で摩擦材原料混合物と、別途、予め洗浄、表面処理し、接着材を塗布したバックプレートとを重ねて熱成形型に投入し、加熱加圧する。
【0032】
また、熱処理工程後に塗料を塗装する塗装工程、塗料を焼き付ける塗装焼き付け工程が設けられ、更に必要に応じて、スリット、チャンファーの加工工程、スコーチ処理工程が設けられる。
【実施例
【0033】
以下、具体的に、各実施例及び各比較例の摩擦材組成物及びこれを用いた摩擦材について説明する。なお、各実施例及び各比較例の摩擦材は、これらに対応する各実施例及び各比較例の摩擦材組成物を用いて製造したものである。
【0034】
各実施例及び各比較例の摩擦材の製造方法は以下のとおりである。
[実施例1~実施例14・比較例1~比較例4の摩擦材の製造方法]
表1、表2に示す組成の摩擦材組成物をレディゲミキサーにて5分間混合し、成型金型内で30MPaにて10秒間加圧して予備成型をした。この予備成型物を、予め洗浄、表面処理、接着材を塗布した鋼鉄製のバックプレート上に重ね、熱成型型内で成型温度150℃、成型圧力40MPaの条件下で10分間成型した後、200℃で5時間熱処理(後硬化)を行い、研磨して摩擦面を形成し、乗用車用ディスクブレーキパッドを作製した(実施例1~実施例14、比較例1~比較例4)。
【0035】
いずれの実施例の摩擦材組成物においても、炭酸カルシウムとフッ素系ポリマーとを適量で含有させることが重要である。この適量を見定めるために、炭酸カルシウムについては例えば12重量%を中心として、フッ素系ポリマーについては例えば3重量%を中心として、これらの含有量及び他の材料の含有量を増減させることによって種々の評価を行った。
【0036】
【表1】
【0037】
表1は、実施例1~実施例14及び比較例1~比較例4の摩擦材組成物における各材料の含有量を示すものである。
【0038】
まず、各実施例及び各比較例の摩擦材組成物は、結合材としてフェノール樹脂が含有されている点が共通し、しかも、フェノール樹脂が摩擦材組成物全量に対して約10重量%含有されている点が共通する。
【0039】
つぎに、各実施例及び各比較例の摩擦材組成物は、繊維基材としてアラミド繊維が含有されている点が共通し、しかも、アラミド繊維が摩擦材組成物全量に対して約6重量%含有されている点が共通する。
【0040】
さらに、各実施例及び各比較例の摩擦材組成物は、無機充填材として、黒鉛、二硫化モリブデン、酸化ジルコニウム、ケイ酸ジルコニウム、水酸化カルシウムが含有されている点が共通し、しかも、これらが摩擦材組成物全量に対して、それぞれ、約2重量%、約3重量%、約10重量%、約1重量%、約3重量%含有されている点が共通する。
【0041】
一方、各実施例及び各比較例の摩擦材組成物は、無機充填材として、硫酸バリウム、炭酸カルシウムが含有されている点は共通するが、これらの含有量を変数とした点が相違する。また、幾つかの実施例及び幾つかの比較例の摩擦材組成物は、チタン酸リチウムカリウム、6チタン酸カリウムが選択的に含有されている点が相違する。
【0042】
さらに、各実施例及び各比較例の摩擦材組成物は、有機充填材として、カシューダスト、タイヤトレッドゴム粉砕粉が含有されている点が共通し、しかも、カシューダスト、タイヤトレッドゴム粉砕粉が摩擦材組成物全量に対して、それぞれ、約3重量%、約2重量%含有されている点で共通する。
【0043】
一方、各実施例及び各比較例の摩擦材組成物は、有機充填材としてフッ素系ポリマーが含有されている点は共通するが、この含有量が変数とされている点が相違する。
【0044】
実施例1~実施例5では、「硫酸バリウム」と「フッ素系ポリマー」との含有量が相違するが、「炭酸カルシウム」を含む他の材料の含有量は同じである。実施例1から実施例5に向けて、硫酸バリウムの含有量を1重量%ずつ減らす一方で、フッ素系ポリマーの含有量を1重量%ずつ増やした。
【0045】
実施例6~実施例9では、「硫酸バリウム」と「炭酸カルシウム」との含有量が相違するが、「フッ素系ポリマー」を含む他の材料の含有量は同じである。実施例6から実施例9に向けて、硫酸バリウムの含有量を徐々に減らす一方で、炭酸カルシウムの含有量を徐々に増やした。
【0046】
実施例10~実施例14では、「硫酸バリウム」と「チタン酸リチウムカリウム」と「6チタン酸カリウム」との含有量が相違するが、実施例10~実施例14では、「炭酸カルシウム」と「フッ素系ポリマー」とを含む他の材料の含有量は同じである。硫酸バリウム、チタン酸リチウムカリウム、6チタン酸カリウムの含有量は、規則性なく変更した。
【0047】
比較例1~比較例4では、「硫酸バリウム」と「炭酸カルシウム」と「フッ素系ポリマー」との含有量が相違する。なお、比較例1~比較例4では、その他の材料の含有量は同じとした。比較例1,比較例2の摩擦材は、実施例1~実施例5の摩擦材と比較されるものである。比較例3,比較例4の摩擦材は、実施例6~実施例9の摩擦材と比較されるものである。
【0048】
【表2】
【0049】
表2は、実施例1~実施例14及び比較例1~比較例4の摩擦材組成物を用いて製造した摩擦材における評価結果を示すものである。ここでは、以下定義される、(1)通常の使用領域におけるブレーキ効き、(2)高速・高負荷時ブレーキ効き、(3)摩擦材の耐摩耗性、のそれぞれについての評価結果を示している。なお、これらの評価結果は、各実施例及び各比較例の摩擦材を、リアのディスクブレーキに用いた場合のものである。
【0050】
「(1)通常の使用領域におけるブレーキ効き」について評価するにあたり、JASO C406の乗用車-ブレーキ装置-ダイナモメータ試験方法に準拠して、第2効力試験を行った。ここでは、車速約50km/h相当で回転するディスクローターを、車速0km/h相当という停止状態になるまで、液圧を約4MPaという条件でブレーキ制動をした。
【0051】
表2の「(1)通常の使用領域におけるブレーキ効き」に示す評価結果は、
5回の平均摩擦係数μが、0.42以上0.46未満に該当する場合は「優」、
0.38以上0.42未満に該当する場合は「良」、
0.34以上0.38未満に該当する場合は「可」、
0.34未満に該当する場合は「不可」という基準とした。
【0052】
「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」及び「(3)摩擦材の耐摩耗性」について評価するにあたり、AMS(ドイツ自動車専門誌「Auto Motor Und Sport」)における、高速パターン再現試験を150%の速度条件で行った。ここでは、車速約240km/h相当で回転するディスクローターを、時速約5km/hとなるまで、減速度0.6gで1回、ブレーキ制動をした。
【0053】
表2の「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」に示す評価結果は、最終制動時の平均摩擦係数μの最小値が、
0.20以上に該当する場合は「優」、
0.20未満0.15以上に該当する場合は「良」、
0.15未満0.10以上に該当する場合は「可」、
0.10未満に該当する場合は「不可」という基準とした。
【0054】
表2の「(3)摩擦材の耐摩耗性」に示す評価結果は、摩擦材の摩耗量が、2.0mm未満以上に該当する場合は「優」、2.0mm以上3.0mm未満に該当する場合は「良」、3.0mm以上4.0mm未満に該当する場合は「可」、4.0mm以上に該当する場合は「不可」という基準とした。
【0055】
まず、実施例1~実施例5の摩擦材についての「(1)通常の使用領域におけるブレーキ効き」の評価結果を見てみると、実施例1~実施例3のものについてはいずれも「優」という評価であり、実施例4のものについては「良」という評価であり、実施例5のものについては「可」という評価であった。このことから、「(1)通常の使用領域におけるブレーキ効き」に関しては、フッ素系ポリマーが多い場合に、低い評価になるということがいえよう。
【0056】
つぎに、実施例1~実施例5の摩擦材についての「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」の評価結果を見てみると、実施例3,実施例4のものについてはいずれも「優」という評価であり、実施例2,実施例5のものについてはいずれも「良」という評価であり、実施例1のものについては「可」という評価であった。このことから、「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」については、フッ素系ポリマーが少ない場合に、低い評価になるということがいえよう。
【0057】
つぎに、実施例1~実施例5の摩擦材についての「(3)摩擦材の耐摩耗性」の評価結果を見てみると、実施例1のものについては「可」という評価であり、実施例2のものについては「良」という評価であり、実施例3~実施例5のものについてはいずれも「優」という評価であった。このことから、「(3)摩擦材の耐摩耗性」については、フッ素系ポリマーが少ない場合に、低い評価になるということがいえよう。
【0058】
比較例1を参照されたい。比較例1の摩擦材は、実施例1の摩擦材よりも「フッ素系ポリマー」の含有量が0.5重量%だけ少ない。この場合に、「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」、及び、「(3)摩擦材の耐摩耗性」の各評価結果はいずれも「不可」となった。
【0059】
つぎに、比較例2を参照されたい。比較例2の摩擦材は、実施例5の摩擦材よりも「フッ素系ポリマー」の含有量が1重量%だけ多い。この場合に、「(1)通常の使用領域におけるブレーキ効き」の評価結果は「不可」となった。
【0060】
以上の評価結果を考察すると、実施例1~実施例5の摩擦材は、フッ素系ポリマーの含有量が適度な場合に、「(1)通常の使用領域におけるブレーキ効き」、「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」、「(3)摩擦材の耐摩耗性」の評価結果の全てが評価基準を満足するということわかる。
【0061】
さらに、実施例1~実施例5の摩擦材は、比較例1,比較例2の摩擦材の評価結果を踏まえると、フッ素系ポリマーが摩擦材組成物全量に対して1重量%以上5重量%以下である場合に、評価結果が不可になることはなく、評価基準を満足するということがわかる。特に、実施例2~実施例4のように、フッ素系ポリマーが摩擦材組成物全量に対して2重量%~4重量%を含有されている場合に評価結果が良いということがいえる。
【0062】
つぎに、実施例6~実施例9の摩擦材についての「(1)通常の使用領域におけるブレーキ効き」の評価結果を見てみると、実施例6~実施例9のものについてはいずれにも「優」という評価であった。
【0063】
つぎに、実施例6~実施例9の摩擦材についての「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」の評価結果を見てみると、実施例8のものについては「優」という評価であり、実施例7,実施例9のものについてはいずれも「良」という評価であり、実施例6のものについては「可」という評価であった。このことから、「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」の評価結果については、炭酸カルシウムが少ない場合に、低い評価になるということがいえよう。
【0064】
つぎに、実施例6~実施例9の摩擦材についての「(3)摩擦材の耐摩耗性」の評価結果を見てみると、実施例7,実施例8のものについてはいずれも「良」という評価であり、実施例6,実施例9のものについてはいずれも「可」という評価であった。このことから、「(3)摩擦材の耐摩耗性」の評価結果については、炭酸カルシウムが多い場合や少ない場合に、低い評価になるということがいえよう。
【0065】
比較例3を参照されたい。比較例3の摩擦材は、実施例6の摩擦材よりも「炭酸カルシウム」の含有量が1重量%だけ少ない。この場合には、「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」、及び、「(3)摩擦材の耐摩耗性」の各評価結果はいずれも「不可」となった。
【0066】
つぎに、比較例4を参照されたい。比較例4の摩擦材は、実施例9の摩擦材よりも「炭酸カルシウム」の含有量が1重量%だけ多い。この場合には、「(3)摩擦材の耐摩耗性」の評価結果は「不可」となった。
【0067】
以上の評価結果を考察すると、実施例6~実施例9の摩擦材は、炭酸カルシウムの含有量が適度な場合に、「(1)通常の使用領域におけるブレーキ効き」、「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」、「(3)摩擦材の耐摩耗性」の各評価結果が不可になることはなく、評価基準を満足するということがわかる。
【0068】
さらに、実施例6~実施例9の摩擦材は、比較例3,比較例4の摩擦材の評価結果を踏まえると、炭酸カルシウムが5重量%以上20重量%以下であることで評価基準を満足するということがわかる。特に、実施例7,実施例8のように、炭酸カルシウムが摩擦材組成物全量に対して7重量%~8重量%含有されている場合に評価結果が良いということがいえる。
【0069】
つぎに、実施例10~実施例14についての「(1)通常の使用領域におけるブレーキ効き」の評価結果を見てみると、実施例10~実施例14のものについてのいずれも「優」という評価であった。
【0070】
つぎに、実施例10~実施例14についての「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」の評価結果を見てみると、実施例11~実施例13のものについてはいずれも「優」という評価であり、実施例10,実施例14のものについてはいずれも「良」という評価であった。
【0071】
ここで、更に詳細に見てみると、実施例10と実施例11と実施例14とでは、チタン酸リチウムカリウムと6チタン酸カリウムの含有量の合計は同じであって、含有割合が相違するだけである。
【0072】
具体的には、チタン酸リチウムカリウムに着目すると、実施例10の場合には10重量%であり、実施例11の場合には9重量%であった。それにも拘らず、「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」の評価結果については、実施例10の場合が「良」という評価であり、実施例11の場合が「優」という評価であった。
【0073】
そして、実施例1~実施例9においては、6チタン酸カリウムを含有せずとも、「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」で良好な結果が得られているし、実施例14では6チタン酸カリウムを相対的に多く含有していても「良」という評価であるから、6チタン酸カリウムの含有の有無は、「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」の評価結果に対して、それほど影響を及ぼさないと考えられる。
【0074】
そうすると、チタン酸リチウムカリウムの含有量が「(2)高速・高負荷時ブレーキ効き」の評価結果に影響を及ぼすと考えられ、その含有量は10重量%以上である場合が好ましいということがいえる。
【0075】
つぎに、実施例10~実施例14についての「(3)摩擦材の耐摩耗性」の評価結果を見てみると、実施例11,実施例12のものについてはいずれも「優」という評価であり、実施例10,実施例13,実施例14のものについてはいずれも「良」という評価であった。
【0076】
ここで、更に詳細に見てみると、実施例12と実施例13とでは、いずれも6チタン酸カリウムを含有せず、チタン酸リチウムカリウムの含有量が僅かに相違する。
【0077】
具体的には、チタン酸リチウムカリウムに着目すると、実施例12の場合には35重量%であり、実施例13の場合には36重量%であった。それにも拘らず、「(3)摩擦材の耐摩耗性」の評価結果については、実施例12の場合が「優」という評価であり、実施例13の場合が「良」という評価であった。
【0078】
そして、実施例1~実施例9においては、6チタン酸カリウムを含有せずとも、「(3)摩擦材の耐摩耗性」で良好な結果が得られていることから、チタン酸リチウムカリウムが35重量%以下である場合が好ましいということがいえる。
【0079】
以上の評価結果を考察すると、実施例10~実施例14の摩擦材は、炭酸カルシウムの含有量が所望であることを前提として、チタン酸リチウムカリウムが、摩擦材組成物全量に対して36重量%以下であると評価基準を満足するということがいえる。
【0080】
特に、実施例11,実施例12のように、チタン酸リチウムカリウムが摩擦材組成物全量に対して10重量%~35重量%を含有されている場合が好ましいということがいえる。