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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】フッ素含有中空繊維膜を含む透析器
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/18 20060101AFI20240408BHJP
   B01D 69/08 20060101ALI20240408BHJP
   B01D 71/32 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61M1/18 500
B01D69/08
B01D71/32
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021540471
(86)(22)【出願日】2020-01-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-04-21
(86)【国際出願番号】 EP2020051078
(87)【国際公開番号】W WO2020148411
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2023-01-16
(31)【優先権主張番号】19152603.7
(32)【優先日】2019-01-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】597075904
【氏名又は名称】フレゼニウス メディカル ケア ドイッチェランド ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100144451
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 博子
(72)【発明者】
【氏名】ケネディ ジェームス
(72)【発明者】
【氏名】サンダー ロランド
(72)【発明者】
【氏名】マイジンガー セバスチャン
(72)【発明者】
【氏名】ケラー トルステン
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-138881(JP,A)
【文献】国際公開第2008/156124(WO,A1)
【文献】特開昭54-62698(JP,A)
【文献】特表2016-531747(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175409(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/18
B01D 69/08
B01D 71/32
B01D 71/44
B01D 71/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素含有中空繊維膜が、少なくとも工程(A)から(C):
(A)非プロトン性溶媒と、疎水性ベースポリマーと、親水性ポリマーと、紡糸溶液の総重量に基づいて1.12%w/w未満の濃度のフッ素含有表面修飾巨大分子とを含む該紡糸溶液を調製する工程、
(B)外側環状オリフィスからチューブ-イン-オリフィス紡糸口金を通して水溶液の中に前記紡糸溶液を押し出す工程、及び
(C)形成された中空繊維膜を単離する工程、
を含む方法によって作られる該フッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタを製造する方法であって、前記透析フィルタの前記製造が蒸気殺菌工程を含み、
工程(A)に使用される前記フッ素含有紡糸溶液が、ポリスルホンを含み、
工程(A)に使用される前記紡糸溶液が、ポリビニルピロリドンを含み、
前記フッ素含有表面修飾巨大分子が、式:
T -[B-(oligo)] n -B-F T
によって表わされ、ここで、
Bは、ウレタンを含み、
oligoは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、又はポリテトラメチレンオキシドを含み、
T は、ポリフルオロオルガノ基であり、
nは、1から10の整数である、前記方法。
【請求項2】
工程(A)における前記非プロトン性溶媒が、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、又はその2又は3以上の混合物からなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
Tが、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクタノールによって表され、
Bが、ヘキサメチレンジイソシアネートベースのウレタンによって表され、
oligoが、プロピレンオキシドによって表される、請求項に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも工程(A)から(C)によってフッ素含有表面修飾ポリマーを含む前記中空繊維膜を前記作る方法の後に、該中空繊維膜の面上の水の接触角θ、ゼータ電位ζ、血小板損失、及び/又はTAT III濃度のうちの少なくとも1つが決定される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記蒸気殺菌工程中に、水蒸気が前記中空繊維膜の内部の中に誘導され、かつ膜壁を通して繊維の外部まで浸透するように、膜間圧力差が該中空繊維膜の該膜壁にわたって適用される、請求項1~のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
疎水性ベースポリマーと、親水性ポリマーと、フッ素含有中空繊維膜の総重量に基づいて3.6%w/w未満、好ましくは3.2%w/w又はそれ未満、より好ましくは1.5%w/w又はそれよりも多くかつ3.2%w/w又はそれ未満、更に好ましくは1.5%w/w又はそれよりも多くかつ2.0%又はそれ未満の濃度のフッ素含有表面修飾巨大分子とを含む該フッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタであって、
前記フッ素含有中空繊維膜の前記疎水性ベースポリマーが、ポリスルホンポリマーを含み、
前記フッ素含有中空繊維膜の前記親水性ポリマーが、ポリビニルピロリドンを含み、
前記フッ素含有中空繊維膜の前記表面修飾巨大分子が、式:
T -[B-(oligo)] n -B-F T
によって表わされ、ここで、
Bは、ウレタンを含み、
oligoは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、又はポリテトラメチレンオキシドを含み、
T は、ポリフルオロオルガノ基であり、
nは、1から10の整数であり、
前記フッ素含有中空繊維膜のゼータ電位ζが、-5mVよりも高く、好ましくは-4mVよりも高い範囲にある、前記透析フィルタ。
【請求項7】
Tが、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクタノールによって表され、
Bが、ヘキサメチレンジイソシアネートベースのウレタンによって表され、
oligoが、ポリプロピレンオキシドによって表される、
請求項に記載の透析フィルタ。
【請求項8】
前記フッ素含有中空繊維膜は、
(X)前記フッ素含有中空繊維膜の面上での水の接触角θが、70°よりも大きい、
請求項6又は7に記載の透析フィルタ。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1項に記載の前記フッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタであって、前記中空繊維膜が蒸気殺菌工程で殺菌される、透析フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液の治療のための中空繊維膜を含む透析器に関する。より具体的には、本発明は、改善された抗血栓特性を有する透析器、透析器を作る方法、及び透析器を殺菌する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浄化すべき血液が患者の生体から採取され、浄化され、次に浄化された血液が身体の中に戻される様々な血液浄化方法が、腎不全を患っている患者の治療に関して提案されている。体外循環を利用する血液浄化方法は、血液透析器を使用して実施される。
【0003】
透析器は、老廃物溶質及び尿毒症毒素(例えば、尿素、カリウム、クレアチニン、尿酸、及び「中分子タンパク質」)から血液を浄化する。一般的に、使用中の全ての現代の透析器は、中空繊維の種類のものである。本明細書では、半透過性膜から構成される壁を有する中空繊維の円筒形バンドルが、各端部で埋め込み樹脂の中に係止される。このアセンブリは、次に、4つの開口部を有する透明なプラスチックの円筒形ハウジングの中に入れられる。円筒の各端部での1つの開口部又は血液ポートは、中空繊維のバンドルの各端部と連通する。これは、透析器の「血液区画」を形成する。2つの他のポートは、円筒の側面の中に割り込まれる。これらは、中空繊維の周りの空間、「透析液区画」と連通する。その対応する膜は、「血液側」及び「透析液側」を呈する。血液は、非常に細い毛細管状チューブのこのバンドルを通して血液ポートを通じてポンピングされ、透析液は、繊維を取り囲む空間を通してポンピングされる。圧力勾配が、血液からの流体を透析液区画に移動するのに必要な時に印加される。
【0004】
血液が身体から及び身体に搬送されて透析器内で清浄化されている間に、ヘパリンのような抗凝血剤が、多くの場合に追加されて血栓形成又はフィルタの凝固を防止する。有利ではあるが一部の患者でのヘパリンの使用は、アレルギー反応及び出血を引き起こす可能性があり、かつある一定の薬剤を服用している患者での使用に対して更に禁忌を示す可能性がある。多発性外傷患者に対する救急治療では、透析中のヘパリンの使用は、過剰出血に起因して非常に多くの場合に禁忌を示す。
【0005】
EP 2 295 132 A1は、抗血栓性体外血液回路及び中空繊維膜、血液チューブ、及びフィルタのようなその構成要素と、血液濾過、血液透析、血液透析濾過、血液濃縮、血中酸素化でのそれらの使用及び抗凝血剤の使用を回避することができる関連の使用とを提案している。この文書で定められた中空繊維膜は、フッ素含有巨大分子を含む。血栓形成効果の低減に対する十分な効果を達成するために、かなり大量のそのようなフッ素含有巨大分子を使用しなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
血液透析の重要性及び血栓症のリスクを含む腎不全に患っている患者の着実に増加する数に起因して、血栓形成が可能な限り低い中空繊維膜を含むコスト最適化された透析フィルタを提供する継続的な必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、中空繊維膜を含む透析フィルタの殺菌が、血液適合性に対して、特に血栓形成に対して影響を有することを発見した。これは、上述の中空繊維膜がフッ素含有巨大分子を含む時に特に適用される。
【0008】
より具体的に、本発明者は、紡糸質量及び膜材料に存在する表面修飾巨大分子(SMM)の量は、γ線又は電子ビーム放射線のような高エネルギ線で殺菌する一般的に使用される方法の代わりに膜及び透析器の生成に対して蒸気殺菌の工程を使用する時に低減することができることを発見した。
【0009】
以下では、本発明の開示に使用する時の引用符内の全ての用語は、本発明の意味に定められる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】膜が蒸気及び電子ビーム殺菌を受ける時に中空繊維膜が膜の接触角θに対してそこから調製された紡糸質量中のSMM1(カナダのオンタリオ州トロントのInterface Biologicsから市販のフッ素含有巨大分子)の濃度の影響を示す図である。
図2】膜が蒸気及び電子ビーム殺菌を受ける時に中空繊維膜が膜の表面電位ζに対してそこから調製された紡糸質量中のSMM1の濃度の影響を示す図である。
図3】膜が蒸気及び電子ビーム殺菌を受ける時に中空繊維膜が膜のNaクリアランスに対してそこから調製された紡糸質量中のSMM1の濃度の影響を示す図である。
図4】膜が蒸気及び電子ビーム殺菌を受ける時に中空繊維膜が膜のビタミンB12クリアランスに対してそこから調製された紡糸質量中のSMM1の濃度の影響を示す図である。
図5a】膜が蒸気及び電子ビーム殺菌を受ける時に中空繊維膜が膜の補体活性化の観点から血液適合性に対してそこから調製された紡糸質量中のSMM1の濃度の影響を示し、値が電子ビーム殺菌フィルタに関連して与えられた図である。
図5b】膜が蒸気及び電子ビーム殺菌を受ける時に中空繊維膜が膜の補体活性化の観点から血液適合性に対してそこから調製された紡糸質量中のSMM1の濃度の影響を示し、値がFX60フィルタ(ドイツのバートホンブルクのFresenius Medical Careから市販)に関連して与えられた図である。
図6a】膜が蒸気及び電子ビーム殺菌を受ける時に中空繊維膜が膜の血小板損失の観点から血液適合性に対してそこから調製された紡糸質量中のSMM1の濃度の影響を示し、値が電子ビーム殺菌フィルタと比較した蒸気殺菌フィルタに対して与えられた図である。
図6b】膜が蒸気及び電子ビーム殺菌を受ける時に中空繊維膜が膜の血小板損失の観点から血液適合性に対してそこから調製された紡糸質量中のSMM1の濃度の影響を示し、値がFX60フィルタに関連して蒸気殺菌フィルタ及び電子ビーム殺菌フィルタに対して与えられた図である。
図7】膜が電子ビーム殺菌フィルタと比較して蒸気を受ける時に中空繊維膜が膜のTATの観点から血液適合性に対してそこから調製された紡糸質量中のSMM1の濃度の影響を示す図である。
図8a】中空繊維膜のゼータ電位ζの決定のための装置を示す図である。
図8b】中空繊維膜のゼータ電位ζの決定のための装置を示す図である。
図9】透析器/膜と接触状態にもたらされることになる血液サンプルのための装置を示す図である。
図10】サンプル透析器の殺菌及び調整工程のための装置及び殺菌手順を示す図である。
図11】装置200を使用する本発明の第1の態様によるフッ素含有中空繊維膜バンドルを含む透析フィルタの製造に使用される蒸気殺菌工程の第2の工程を概略的に示す。
図12】装置300を使用する本発明の第1の態様によるフッ素含有中空繊維膜バンドルを含む透析フィルタの製造に使用される蒸気殺菌工程の第3の工程を概略的に示す。
図13】装置400を使用する本発明の第1の態様によるフッ素含有中空繊維膜バンドルを含む透析フィルタの製造に使用されるような蒸気殺菌工程の第4の工程を概略的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1の態様により、本発明は、フッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタを製造する方法に関連し、フッ素含有中空繊維膜は、少なくとも工程(A)から(C):
(A)非プロトン性溶媒と、疎水性ベースポリマーと、親水性ポリマーと、1.12%w/w未満の濃度でのフッ素含有表面修飾巨大分子とを含む紡糸溶液を調製する工程、
(B)外側環状オリフィスからチューブ-イン-オリフィス紡糸口金を通して水溶液の中に上述の紡糸溶液を押し出す工程、及び
(C)形成された中空繊維膜を単離する工程、
を含む方法によって作られ、透析フィルタの製造が蒸気殺菌工程を含むことを特徴とする。
【0012】
フッ素含有膜のフッ素含有量は、紡糸溶液の溶解度の範囲内で選択可能である。好ましくは、工程Aに使用される紡糸溶液のフッ素含有表面修飾分子の濃度は、0.1から1.12未満%w/w、より好ましくは、0.5%w/w又はそれよりも多くから1%w/w未満までである。本発明者は、フッ素含有ポリマーの量は、血栓形成に関する限り良好な特性を低減することなく、膜が工程(D)で蒸気殺菌された時に有意に低減することができると考えられることを見出した。従って、コスト最適化膜は、望ましい特性を有して達成することができると考えられる。
【0013】
本発明者は、驚くことに、蒸気殺菌に関して、フッ素含有表面修飾ポリマーの濃度は、電子線殺菌又はγ放射線による殺菌のような電磁放射線による殺菌のような他の殺菌方法と比較して低くすることができることを発見した。一部の方法では、紡糸質量中のフッ素含有ポリマーの溶解度は、溶解したフッ素含有表面修飾ポリマーのその後に必要な濃度及び従って望ましい低血栓形成を達成するには低すぎる。従って、一実施形態では、工程(D)に使用されるフッ素含有中空繊維膜の血栓形成は、電子ビーム殺菌を受けたフッ素含有中空繊維膜と比較して低下する。本発明による透析フィルタで患者を治療する時に、血液が透析器に入る前に注入する必要があるヘパリンの量は、低減するか又は全体的に回避することができる。ヘパリンの使用必要性又はヘパリンの使用量は、治療する患者の凝固ステータスに依存する。一部の患者は、ヘパリン誘起血小板減少症(HIT)を発症し、これは、ヘパリンの減少又は回避をなお一層望ましいものにする。
【0014】
本発明による透析フィルタを製造する方法は、生成することが容易で費用効果的である。
【0015】
用語「透析フィルタ」は、中空繊維膜バンドルの形態での中空繊維膜を含むフィルタハウジングを包含し、透析フィルタは、腎機能障害を患っている患者によって使用することができる透析機械に使用されるように構成される。
【0016】
中空繊維膜バンドルは、数千(例えば、3,000から30,000)の個々の中空繊維膜を閉じ込めている。典型的には、繊維は細く、かつ典型的に約150から約300ミクロン内径の範囲で壁厚が約20から約50ミクロンの範囲である毛細管サイズのものである。
【0017】
一般的に、透析フィルタの製造の方法は、当業技術で公知である。透析フィルタを製造する公知の方法は、関連の製造工程を含む:
-中空繊維膜のバンドルを与える工程、
-特に円筒形ハウジングである透析フィルタのハウジングを与える工程、
-中空繊維膜バンドルをハウジング内に置く工程、
-硬化性樹脂を用いて中空繊維膜バンドルの端部セクションをハウジング内に埋め込む工程、
-任意的に、端部セクションヘッダキャップのような更に別の部品を透析フィルタハウジングに装着して透析フィルタを取得する工程。
【0018】
本発明の方法により、工程(A)から(C)によって取得される結果的なフッ素含有中空繊維膜は、透析フィルタ内で蒸気殺菌される。用語「蒸気殺菌工程」は、少なくとも2分の期間にわたって100℃を超える温度を有する蒸気にフッ素含有繊維膜を含む透析フィルタを少なくとも露出する工程を包含する工程を意味する。
【0019】
好ましくは、蒸気の温度は、105℃から150℃の範囲にあり、期間は、2から20分の範囲にある。
【0020】
用語「蒸気」は、水蒸気を意味する又は水蒸気を包含する。この出願の意味では、蒸気又は水蒸気は、いわゆる目に見えるスチーム蒸気を伴うガス状の水の形態、すなわち、空気を通して分配される霧状水滴も意味する。従って、この出願に使用される時に用語水蒸気によって同じく包含されるのは、例えば、過熱した蒸気、湿った蒸気、飽和した蒸気、熱すぎる蒸気、及び超臨界蒸気のような水蒸気の他の副次的指定語である。
【0021】
本発明の方法によって取得される膜は、一般的に使用される殺菌方法と比較して血栓形成の低下を示す。用語「血栓形成の低下」は、取得される中空繊維膜が、光線によって殺菌されたフッ素含有中空繊維膜と比較して抗血栓特性を改善することを意味する。
【0022】
用語「抗血栓性」は、全血への露出時に血栓が生じる比率が大幅に低下し、必要なヘパリンの量を低減することができ、又は透析器回路のような外部血液回路でのヘパリンの使用を回避することができるあらゆる体外血液回路又はその構成要素(例えば、中空繊維膜、血液チューブ、透析フィルタ、及び/又は中空繊維膜の埋め込みバンドル)を意味する。
【0023】
用語「血液適合性の改善」は、「血栓形成の低下」又は「抗血栓特性の改善」を包含する一般用語であるが、自然免疫系の補体系の活性化の低下のようなパラメータもこの用語によって網羅される。
【0024】
「抗血栓性」特質の測定は、実験中に「血小板損失」の決定を通して達成され、ここで血液のサンプルは、体外回路において透析フィルタを通して誘導される。血小板又は栓球は、凝固系に誘導されたヒト血液中の細胞である。外部血液治療サイクル中に、これらの血小板損失が多くの場合に観察され、体外システムのデバイス内の凝固活性を示す。次に、血小板は、体外デバイス内に堆積され、目詰まりを引き起こす場合がある。目詰まりの影響は、透析器のような体外フィルタで特に問題である。従って、「血小板損失」の減少は、血液の細胞系から生じる「抗血栓性」のインジケータである。そのような透析器が血液浄化療法に使用される時に、透析器の前に血液ラインの中に注入されるヘパリンの量を低減することができる。一部の場合に、ヘパリンの使用を全体的に回避することを可能にすることができる。
【0025】
血液のプロテオミック系から生じる「抗血栓性」特質のインジケータは、体外回路を通して誘導された血液中の「トロンビン-抗トロンビンIII」又は「TAT III」複合体の濃度である。TAT III複合体の高濃度は、プロテオミック凝固系の高活性の尺度、及び従って「減少した抗血栓性」特質の尺度である。
【0026】
パラメータ「血液適合性」に対する良好なインジケータは、自然免疫系の反応に関する限り、補体系のステータスの決定である。補体系は、血液に対する有害事象に迅速に反応することができるプロテオミック系である。そのような有害事象は、体外回路の面への血液の接触であるとすることができる。従って、非常に多くの場合に、補体系は、透析セッションのような血液濾過手順中に活性化される。補体系の活性化の良好な尺度は、有害事象に対する反応として補体カスケード中に生成される補体分画C5aの濃度の測定値である。断片C3a及びC5aは、アナフィラキシー毒素として作用し、透析治療中にショック状況を引き起こす可能性がある。従って、これらのタンパク質の減少は、良好な治療のためには望ましい。
【0027】
様々な工程は、例えば、EP 2 295 132 A1に要約されたように中空繊維膜の生成に関して当業技術で公知であり、以下を含む:
(i)チューブ-イン-チューブタイプのオリフィスが使用され、紡糸溶液が外側チューブから(すなわち、内側及び外側チューブの間に定められた環状空間から)押し出され、コア溶液が内側チューブから排出される工程、
(ii)紡糸溶液を空気中に押し出し、フィラメントが重力によって下に落ちることを可能にし、凝固に対して非溶媒で槽を通してフィラメントを通過させ、フィラメントを清浄化して乾燥させることによるもの、
(iii)非凝固溶液の上層及び凝固溶液の下層を含む槽を使用して、紡糸溶液を非凝固溶液の中に直接押し出して凝固溶液を通してフィラメントを通過させることによるもの、
(iv)凝固溶液の上層及び非凝固溶液の下層を含む槽を使用して、非凝固溶液の中に直接紡糸溶液を押し出して凝固溶液を通してフィラメントを通過させることによるもの、
(v)紡糸溶液を非凝固溶液の中に直接押し出して凝固溶液と非凝固溶液の間の境界に沿ってフィラメントを通過させることによるもの、及び
(vi)非凝固溶液を取り囲むオリフィスから紡糸溶液を押し出して凝固溶液を通してフィラメントを通過させることによるもの。
【0028】
(i)及び(ii)の組合せは、透析療法中の血液の治療のための中空繊維膜の生成に広く使用される工程である乾式-湿式紡糸と呼ばれるものである。工程は、膜の特性を制御するのに広く調節することができる。
【0029】
そのような工程では、中空繊維膜の孔隙径は、紡糸溶液の凝固を容易にする凝固溶液(紡糸溶液に対して非溶剤)、及び紡糸溶液の凝固を抑制する非凝固溶液(紡糸溶液に対して溶剤)の使用を通して押し出された紡糸溶液の凝固の比率及び程度を個別に又は混合物中で調節することによって制御される。更に、凝固工程は、紡糸質量及びコア凝固液の温度の調節を通して制御することができる。
【0030】
少なくとも工程(A)から(C)によってフッ素含有中空繊維膜を作るのに適する典型的な紡糸溶液又は紡糸質量は、疎水性ベースポリマー、親水性孔隙形成剤(例えば、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、アルコール、ポリプロピレングリコール、又はポリエチレングリコール)、ポリマーのための非プロトン性溶媒、及びフッ素を含む表面修飾巨大分子を含む。
【0031】
疎水性ポリマーは、中空繊維膜のポリマー材料として広く使用されてきた。特に、ポリスルホン(PSU)は、その優れた紡糸特性及び生体適合性により中空繊維膜に主として広く使用される合成疎水性ポリマーである。従って、好ましい実施形態では、フッ素含有中空繊維膜を作る方法の工程(A)に使用される紡糸溶液は、ポリスルホンを含む。
【0032】
用語「ポリスルホン(PSU)」は、ポリマーアリールスルホンの単位を含むポリマーの一般用語として使用される。従って、この用語は、ビスフェノールAから作られたポリスルホン、ビスフェノールSから作られたポリエーテルスルホン、ポリフェニルエーテルスルホン、及びそれから作られたコポリマーを包含する。
【0033】
ポリスルホンベースのポリマーは、一般的に、透析フィルタ膜として使用する時に良好な血液適合性を示す。ポリスルホンは、特に、フッ素ベースの表面修飾分子及び高い機械的強度を有するポリマー産出膜と良好な適合性を示すことが見出されている。
【0034】
しかし、純粋疎水性PSUは、これが水性環境下で膜の湿潤特性を低減し、毒素のクリアランスに不可欠の湿潤特性に悪い影響を与えるので、一部の用途、例えば、透析膜に対して直接使用することはできない。この問題に対処するために、ポリビニルピロリドン(PVP)又はポリエチレングリコールが、膜面の少なくとも一部を親水性にする親水性ポリマーとしてPSUに典型的に追加される。
【0035】
従って、より好ましくは、フッ素含有中空繊維膜を作る方法の工程(A)に使用される紡糸溶液は、ポリビニルピロリドンを含む。用語「ポリビニルピロリドン」は、ホモポリマー、並びにビニルピロリドン-酢酸ビニルベースのコポリマーのようなコポリマーを含む。適切な化合物は、当業技術で公知である。
【0036】
特に親水性ポリマー及びビニルピロリドンベースのポリマーの使用は、紡糸溶液がフッ素含有表面修飾ポリマーを含む時に膜の血液側をより親水性にするのに適している。本方法によって作られた膜は、親水性及び疎水性の良好な均衡を示し、従って、血液適合性及び抗血栓の高い膜として十分に適している。この均衡は、膜が蒸気殺菌される時に非常に高められる。
【0037】
ポリビニルピロリドンはまた、その全体での膜の孔隙形成工程及び特に血液側の選択層の孔隙形成工程をサポートする。
【0038】
本発明によって透析フィルタを製造する方法の一実施形態では、フッ素含有中空繊維膜は、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、又はこれらの2又は3以上の混合物から構成される群から選択された工程(A)での非プロトン性溶媒の使用によって作られる。これらの溶媒は、フッ素含有表面修飾巨大分子を含む膜の生成に十分に適している。溶媒は、フッ素含有分子の望ましい溶解度、並びに疎水性ベースポリマー及び親水性ポリマーの望ましい溶解度を提供するように調節しなければならない。
【0039】
好ましくは、フッ素含有中空繊維を作る方法の工程(A)に使用される紡糸溶液膜及び従って生成されたフッ素含有中空繊維膜は、表面修飾巨大分子を含み、これは、式:
T-[B-(oligo)]n-B-FT
によって表わされ、ここで、
Bは、ウレタンを含み、
oligoは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、又はポリテトラメチレンオキシドを含み、
Tは、ポリフルオロオルガノ基であり、
nは、1から10の整数である。
【0040】
そのような分子は、膜の抗血栓性を改善する望ましい効果を提供するように紡糸溶液の中に容易に組み込むことができる。この表面修飾分子の範囲は、親水性及び疎水性の均衡のとれた特性を発生させる。
【0041】
そのような適切な表面修飾巨大分子は、好ましくは、FTとして1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクタノール、Bとしてヘキサメチレンジイソシアネート、及びoligoとしてプロピレンオキシドから作られる。それぞれのSMM製品は、カナダのオンタリオ州トロントのInterface Biologicsから商標Endexo(登録商標)で公知であって市販されている。そのようなポリマーは、容易に取得することが可能であり、望ましい特性を対応する膜に提供する。この分子は、1.12%w/w未満の紡糸質量で望ましい低濃度で特に良好な特性を示す。分子は、尿毒症毒素の分子量に関する限り、望ましい濾過特性を維持する膜の生成に必要な溶媒混合物内の望ましい濃度に対して十分な溶解度を提供する。これは、特に、ジメチルアセトアミドが非プロトン性溶媒として使用される場合であり、ビスフェノール-A-ポリスルホン又はビスフェノール-S-ポリスルホンは、疎水性ベースポリマーとして使用され、ポリビニルピロリドンは、十分な性能の透析膜を形成するのに適する濃度で親水性ポリマーとして使用される。
【0042】
フッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタを製造する方法の更に別の実施形態では、工程(A)から(C)によって中空繊維膜を作る方法の後に、中空繊維膜の面の水の接触角θ、ゼータ電位ζ、血小板損失、及び/又はTAT III濃度のうちの少なくとも1つが決定される。これらの膜特性の決定は、低下した血栓形成挙動が透析フィルタの製造中に維持されることを保証することができる。これらの特性のうちの1つの決定は、実行することが容易であり、膜の望ましい抗凝固特性と高度に相関する。
【0043】
フッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタを製造する方法の更に別の実施形態では、透析フィルタの製造は、蒸気殺菌工程中に、水蒸気の膜間圧力差が中空繊維膜の膜壁にわたって印加されることを特徴とし、その結果、水蒸気は、繊維の中に誘導され、膜壁を通して膜内に浸透する。そのような蒸気殺菌の方法は、DE 10 2016 224 627 A1で詳細に特に図6から9に関して例1に説明されている。そのような膜間圧力を印加することで、膜内のフッ素含有表面修飾分子を含む膜の優れた抗血栓性を保証する。明らかに、低分子量物質の一部は、膜の均衡のとれた親水性及び疎水性、及び従って高められた血液適合性を発生させるように内側から外側に膜の孔隙を通して除去される。
【0044】
第2の態様により、本発明は、第1の態様で定めたような疎水性ベースポリマー、親水性ポリマー、及びフッ素含有表面修飾巨大分子を含むフッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタに関連し、フッ素含有表面修飾巨大分子の濃度は、それぞれフッ素含有中空繊維膜の総重量に基づいて3.6%w/w未満、好ましくは3.2%w/w又はそれ未満、より好ましくは1.5%w/w又はそれよりも多くから3.2%w/w又はそれ未満まで、より好ましくは1.5%w/w又はそれよりも多くから2.0%又はそれ未満までである。本発明者は、表面修飾巨大分子の低濃度にも関わらず、膜の血液接触側が抗血栓性にされ、その結果、膜の内面内の凝固効果が低下することを見出した。患者の治療中に、投与されたヘパリンの量を低減することができ、又はヘパリンによる治療は、全体的に回避することができる。本発明による透析フィルタは、生成することが容易であり、費用効果的である。
【0045】
好ましい実施形態では、疎水性ベースポリマーは、ポリスルホンポリマーを含む。ポリスルホンポリマーは、透析療法に使用するための膜形成ポリマーとして広く使用されている。本発明者は、ポリスルホンポリマー、特にビスフェノールAとビスフェノール-Sベースのポリスルホンとの間の適合性が、フッ素含有表面修飾巨大分子を使用する時に高められることを見出した。良好なクリアランスのような全体的特性の良好な均衡、中分子尿毒症毒素の良好な除去、及び高められた抗血栓性は、容易に達成することができる。
【0046】
更に別の好ましい実施形態では、親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドンを含む。親水性ポリマーとしてのポリビニルピロリドンの使用は、当業技術において広く公知である。当業技術によるポリビニルピロリドンは、透析膜の血液接触側の面をより親水性に修飾する。フッ素含有表面修飾巨大分子を使用する時に、ポリビニルピロリドンは、面をより親水性にすることはできないが、良好な孔隙サイズ分布を提供し、その結果、尿毒性の中分子毒素の除去及び低分子量分子のクリアランスのような望ましい特性を達成することができる。
【0047】
別の実施形態では、表面修飾巨大分子は、式:
T-[B-(oligo)]n-B-FT
によって表わされ、ここで、
Bは、ウレタンを含み、
oligoは、ポリプロピレンオキシド、ポリエチレンオキシド、又はポリテトラメチレンオキシドを含み、
Tは、ポリフルオロオルガノ基であり、
nは、1から10の整数である。
【0048】
そのような分子は、膜の抗血栓性を改善する望ましい効果を提供するように紡糸溶液の中に容易に組み込むことができる。この表面修飾分子の範囲は、親水性及び疎水性の均衡のとれた特性を発生させる。
【0049】
別の実施形態では、フッ素含有中空繊維膜に関して、FTは、1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクタノールによって表され、Bは、ヘキサメチレンジイソシアネートベースのウレタンによって表され、oligoは、ポリプロピレンオキシドによって表される。それぞれのSMM製品は、カナダのオンタリオ州トロントのInterface Biologicsから商標Endexo(登録商標)で公知であり、市販されている。そのようなポリマーは、容易に取得することが可能であり、望ましい特性を対応する膜に提供する。この分子は、1.12%w/w未満の紡糸質量で望ましい低濃度で特に良好な特性を示す。分子は、尿毒症毒素の分子量に関する限り、望ましい濾過特性を維持する膜の生成に必要な溶媒混合物内の望ましい濃度に対して十分な溶解度を提供する。これは、特に、ジメチルアセトアミドが非プロトン性溶媒として使用される場合であり、ビスフェノール-A-ポリスルホン又はビスフェノール-S-ポリスルホンは、疎水性ベースポリマーとして使用され、ポリビニルピロリドンは、十分な性能の透析膜を形成するのに適する濃度で親水性ポリマーとして使用される。
【0050】
一実施形態では、フッ素含有中空繊維膜は、70°よりも大きい、好ましくは72°よりも大きい中空繊維膜の面の水の接触角θ、又は-5.0mVよりも高い範囲、好ましくは-4mVよりも高い範囲のゼータ電位ζ、又は70°よりも大きい、好ましくは、2°よりも大きい中空繊維膜の面の水の接触角θ、及び-5.0mVよりも高い、好ましくは-4mVよりも高いゼータ電位ζを示し、接触角θの決定方法及びゼータ電位ζの決定方法は、節「実施例」に識別されている。
【0051】
血栓形成の低下は、中空繊維膜上の液体の接触角θを測定することによってこれに加えて推定することができ、又はそのような測定値に相関することができることが見出されている。
【0052】
用語「接触角θ」は、一般的に、液体、特に水に接触した固体表面との間に形成される角度を意味する。接触角θに対する測定方法は、節「実施例」で以下に詳細に説明されている。
【0053】
節「実施例」に開示する方法によって測定された望ましい接触角は、試験液として水を使用して70°よりも大きい、好ましくは72°よりも大きいことが見出されている。これらの実施形態とは対照的に、フッ素含有表面修飾分子を持たない従来技術の膜は、65°未満、好ましくは55°未満の接触角によって親水性になるように処理される。本発明による膜の血液接触面は、従って、より疎水性にされる。この疎水効果は、膜の血液接触側の面との血液成分の相互作用を低減する。そのような疎水性膜に関して、血小板損失の減少及びTAT III発生の減少は、面の血栓形成を低減することを達成する。そのような透析フィルタを使用して患者を治療する時に、血液が透析器に入る前に注入する必要があるヘパリンの量は、低減される又は全体的に回避することができる。
【0054】
本発明の一実施形態では、血栓症の減少率、すなわち、血栓形成の低下は、ゼータ電位ζを測定することによって推定又は予想することができ、又はゼータ電位ζに相関することが更に見出されている。
【0055】
一般的に用語「ゼータ電位ζ」は、定められた速度で調べるべき面に沿って誘導された試験流体との間の電位差である。試験設定の入口と出口の間の電位差が測定される。詳細は、節「実施例」に説明されている。
【0056】
望ましいゼータ電位は、-5mVよりも高くかつ0mV未満、好ましくは-4mVよりも高くかつ0mV未満であることが見出されている。表面修飾分子は、膜の血液接触側の面をより疎水性にすると同時により中性にする。この場合により高いは、より中性を意味するが、正のゼータ電位は、血液タンパク及び細胞の望ましくない吸着を引き起こす可能性があり、これが患者に対して重篤な悪影響をもたらす可能性があるので、全体的に回避しなければならない。そのような「中性にされた」膜に関して、血小板損失の減少及びTAT III発生の減少は、面の血栓形成性を低減することによって達成される。本発明による透析フィルタを使用して患者を治療する時に、血液が透析器に入る前に注入する必要があるヘパリンの量は、低減される又は全体的に回避することができる。
【0057】
別の実施形態では、フッ素含有中空繊維膜は、フッ素含有膜の総重量に基づいて1.5%w/wよりも多くかつ3.2%w/w未満の表面修飾巨大分子の量、及び-5mVよりも高い、好ましくは-4mVよりも高いゼータ電位、及び70°よりも大きい、好ましくは72°よりも大きい接触角を有する。
【0058】
別の実施形態では、フッ素含有中空繊維膜は、1.5%w/wよりも多くかつ2.0%w/w未満の表面修飾巨大分子の量、及び-5mVよりも高い、好ましくは-4mVよりも高いゼータ電位、及び70°よりも大きい、好ましくは72°よりも大きい接触角を有する。
【0059】
別の実施形態では、フッ素含有中空繊維膜は、1%w/wよりも多くかつ2.0%w/w未満の表面修飾巨大分子の量、及び-5mVよりも高い、好ましくは-4mVよりも高いゼータ電位、及び70°よりも大きい、好ましくは72°よりも大きい接触角を有する。
【0060】
別の実施形態では、フッ素含有中空繊維膜は、1%w/wよりも多くかつ3.2%w/w未満の表面修飾巨大分子の量、及び-5mVよりも高い、好ましくは-4mVよりも高いゼータ電位、及び70°よりも大きい、好ましくは72°よりも大きい接触角を有する。
【0061】
透析フィルタを形成する方法は、当業技術で公知であり、例えば、EP 2 295 132 A1に説明されている。繊維バンドルは、管状ハウジングの中に挿入され、繊維の端部は閉鎖される。次に、埋め込み質量が、透析液及び血液区画を分離するためにハウジングの中に挿入される。埋め込み工程の後に、繊維端は再度開放され、ハウジングは末端キャップで閉鎖される。次に、透析器は、殺菌されるように待機する。
【0062】
更に別の実施形態では、本発明は、血液に露出された時に同じ組成を有して他に同一であるが放射線殺菌工程を受けたフッ素含有中空繊維膜と比較して少なくとも10%、好ましくは100%を超える血小板損失の低減を規定する蒸気殺菌されたフッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタに関連し、血小板損失の決定は、本明細書に指定している。
【0063】
参照番号:
1 中空繊維膜フィルタ
2、2a 流体ポート
3、3a 流体ポート
4、4a Ag/AgCl電極
5、5a 圧力計のためのポート
6 電圧計
7 マノメータ
8 タンク
51 血小板損失を決定するための装置
52 透析器
53 ホースのシステム
54 ホースポンプ
55 血液サンプル収集点
56 血液のためのリザーバ
57 圧力センサ
58 血液入口
59 圧力センサ
60 血液出口
61、62 ポート
100、200、300、400 装置
101、201、301、401 接続部
101a、201a、301a、401a コネクタ
102、202、302、402 接続部
103、203、303、403 接続部
104、204、304、404 接続部
105、205、305、405 弁
106、206、306、406 弁
107、207、307、407 弁
108、208、308、408 弁
109、209、309、409 ライン
110、210、310、410 ライン
111、211、311、411 ライン
112、212、312、412 ライン
113、213、313、413 中空繊維膜フィルタ、すなわち、透析フィルタ
114、214、314、414 流体ポート
115、215、315、415 流体ポート
116、216、316、416 気泡検出器
117、217、317、417 流体ポート
118、218、318、418 流体ポート
119、219、319、419 第1のチャンバ
120、220、320、420 第2のチャンバ
121、221、321、421 中空繊維膜
【0064】
実施例
フッ素含有中空繊維膜を作る一般的方法
フッ素含有中空繊維膜は、紡糸質量の総重量に基づいて、重量で0、0.5、0.7、1.0、1.12%のフッ素含有巨大分子と共に重量で16%のポリスルホン(SolvayからのP3500)、重量で4.00%のポリビニルピロリドン(AshlandからのK82-86)の紡糸質量(=紡糸溶液)を使用して調製された。ポリマー混合物は、ジメチルアセトアミド(DMAC)で100%まで充填される。このフッ素含有巨大分子は、出発物質として1H,1H,2H,2H-パーフルオロオクタノール、ヘキサメチレンジイソシアネート、及びプロピレンオキシドを使用してEP 2 295 132 A1に従って調製された。巨大分子は、SMM1と呼ばれ、Interface Biologicsから取得される。
【0065】
紡糸質量は、60℃まで加熱されてそれを均質紡糸質量に処理するように脱気された。紡糸質量は、コア液体として35%DMAC及び65%の水から構成される集中制御された沈殿物と共に環状紡糸口金を通して押し出される。環状紡糸口金の温度は70℃である。押し出されたストランドは、沈殿間隙を通して誘導され、その雰囲気は、100%の相対湿度に設定される。沈殿間隙の高さは200mmであり、沈殿間隙の0.4秒の滞留時間が設定される。ストランドは、80℃に温度制御された水から構成される沈殿槽の中に導入されて中空繊維膜の中に固化される。次に、中空繊維膜は、75℃から90℃の温度に温度制御された濯ぎ槽を通るように経路指定される。中空繊維膜は、その後、100℃から150℃の乾燥工程を受ける。次に、取得された中空繊維膜は、6.4mmの波長を使用して圧着され、その後、巻取装置上に取り上げられて繊維バンドルに形成される。各繊維バンドルは、10,752繊維から構成され、フィルタの最終面は1.37m2であった。これらのバンドルは、方法「ゼータ電位」で上述したように埋め込まれた。
【0066】
フッ素含有巨大分子の含有量は、燃焼分析によって決定された。結果は、以下の表に示されている。紡糸工程内のSMM1の収量は約60%である。
【0067】
(表)
【0068】
蒸気殺菌
【0069】
図10は、装置100を使用する本発明の第1の態様(濯ぎ1)による透析フィルタの製造に適用されるフッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタの蒸気殺菌工程の第1の工程を概略的に示している。概略的に、透析フィルタのハウジングの内側に置かれた中空繊維膜バンドルに形成された多くの中空繊維膜を表すものとする単一中空繊維膜透が示されている。図10は、弁105を有するライン109によって接続部101に流体的に接続された中空繊維膜の内部を包含する透析フィルタの同義語である中空繊維膜フィルタ113の第1のチャンバ119への流体ポート118を示す。更に別の流体ポート117は、ライン110、弁106を通して接続部102に流体的に接続され、中空繊維膜間の空間を包含する中空繊維膜フィルタ113の第2のチャンバ120への入口を形成する。更に別の流体ポート114は、弁107及び接続部103を有するライン111を介し流体接続状態にあり、中空繊維膜の第2のチャンバ120への入口を形成する。流体ポート115は、弁108及び接続部104を有するライン112を介して流体接続状態にある。接続部102及び103は、コネクタ101aを通して更に流体接続状態にある。
【0070】
濯ぎ手順では、濯ぎ液(水)は、図示したように第1の工程では接続部104を通してライン112を通して中空繊維膜フィルタ113に搬送される。好ましくは、濯ぎ液は温度制御された殺菌水であり、それにより、50から98℃の温度が維持される。弁108は、それによって貫流に切り換えられる。濯ぎ液は、第2の流体ポート115を通して中空繊維膜フィルタの第1のチャンバ119に流入し、第1の流体ポート118を通して上述の第1のチャンバを出る。この配置は、フィルタハウジングの中に埋め込まれた中空繊維膜バンドルの全ての中空繊維膜の内部を濯ぐことを可能にする。
【0071】
濯ぎ液は、この濯ぎ作動において機能を持たない気泡検出器114及びライン109を更に通過し、接続部101及びコネクタ101aを通してライン111に誘導される。濯ぎ液は、流体ポート114を通してフィルタモジュール113の第2のチャンバ120に入り、中空繊維膜間の空間に形成された第2のチャンバを洗って流す。フラッシング液の戻り流れは、流体ポート117及びライン110を通して発生し、これは、次に、廃棄されるか又は更に別の濯ぎ作動に再度利用可能であるように処理される。
【0072】
殺菌水は、接続部104に導入され、廃水は、ライン110から排出される。
【0073】
図11は、装置200を使用する本発明の第1の態様によるフッ素含有中空繊維膜バンドルを含む透析フィルタの製造に使用される蒸気殺菌工程の第2の工程を概略的に示している。概略的に、透析フィルタのハウジングの内側に置かれた中空繊維膜バンドルに形成された多くの中空繊維膜を表すものとする単一中空繊維膜221が示されている。図11は、これにより、圧縮空気フラッシング(「焼戻し1」)を示すのに本明細書で使用される。殺菌空気を給送する殺菌空気ソースが、接続部201、202に供給する。圧縮空気は、開放弁205及び206を通してライン209及び201を通して図示していないポンピング手段によって透析フィルタの同義語である中空繊維膜モジュール213に搬送される。第1のチャンバ219及び第2のチャンバ220は、図11に従って濯ぎ作動の先行する濯ぎ工程からの水で最初にまだ充填されている。弁207及び208は、開いていて濯ぎ液の排出のために準備している。圧縮空気は、1.5から2バール(例としての値)の圧力でフィルタモジュールを通して搬送される。それぞれの流体ポート218、217を通して、圧縮空気は、それにより、それぞれの流体ポート215及び214を通して中空繊維膜フィルタの第1及び第2のチャンバから流路回路の戻り流れ部分まで残留水を更に搬送する。残留水及び圧縮空気は、ライン212、211を通じて排出される。濯ぎ工程は、0.5から5分にわたって稼働する。等しい圧力が両チャンバ219及び220内で支配するので、膜壁にわたるフラッシングはない。その結果、膜壁の孔隙は、濯ぎ手順からの水で充填されたままである。
【0074】
排気は、接続部203及び204を通じて排出される。
【0075】
図12は、装置300を使用する本発明の第1の態様によるフッ素含有中空繊維膜バンドルを含む透析フィルタの製造に使用される蒸気殺菌工程の第3の工程を概略的に示している。概略的に、透析フィルタのハウジングの内側に置かれた中空繊維膜バンドルに形成された多くの中空繊維膜を表すものとする単一中空繊維膜321が示されている。図12は、閉鎖弁位置で弁306及び308により濯ぎ液の排水を遮断する接続部302及び304を示している。水蒸気は、接続部301を通して殺菌システムの中に、及びライン309を通して透析フィルタの同義語であるフィルタモジュール313に搬送される。水蒸気は、中空繊維膜フィルタの第1のチャンバ319に分散し、流体ポート315を通じた排水は、接続部304が遮断されるので不可能である。ライン312内の水蒸気分散は、加圧純粋蒸気を圧縮することによって又は拡散によってのみ保証することができる。
【0076】
第2のチャンバよりも第1のチャンバでの圧力が高いので、純粋蒸気の膜貫通通過が起こる。図12による濯ぎ及び殺菌作動の第1の工程による濯ぎ工程から孔隙に残っている残留水は、抜かれて第2のチャンバ320を通してライン311で搬送される。閉じている接続部302により、ライン310は、それにより、流体を搬送するのに役に立たない。隣接する中空繊維膜は、膜貫通フラッシング手順により大部分は互いに分離される。水蒸気は、それにより、1.3から2バール(例)の圧力でフィルタモジュール313の中に搬送される。孔隙の徹底的なフラッシングは、中空繊維の接着をこれに加えて防止する。この濯ぎ工程は、数分後に終了することができる。特に、濯ぎ工程は、2から5分にわたって行われる。温度は、50℃から98℃に保たれ、特に同じく以下の殺菌手順のためにフィルタモジュールを熱的に調整する(工程「蒸気」)。
【0077】
水蒸気は、接続部304を通じて排出される。
【0078】
図13は、装置400を使用する本発明の第1の態様によるフッ素含有中空繊維膜バンドルを含む透析フィルタの製造に使用されるような蒸気殺菌工程の第4の工程を概略的に示している。概略的に、透析フィルタのハウジングの内側に置かれた中空繊維膜バンドルに形成された多くの中空繊維膜を表すものとする単一中空繊維膜421が示されている。第4の工程により、例えば、124℃の温度及び2バール(例として)の圧力での水蒸気のような殺菌流体は、接続部401及び402を通して中空繊維膜フィルタの中に搬送される。水蒸気は、接続部403及び404を通じて排出される。貫流は、それにより、開放弁405から408を用いて接続部401、402、403、404を通して可能である。純粋蒸気は、ライン409及び410、並びにフラッシングされた透析フィルタの同義語であるフィルタモジュール413の第1のチャンバ419及び第2のチャンバ420を通して中空繊維膜フィルタに搬送される。純粋蒸気は、ライン412及び411、並びに流体ポート415及び414を通して戻され、廃棄されるか又は再利用ために処理される。選択した殺菌温度に応じて、殺菌手順は、5から30分にわたって持続することができる。124℃の好ましい温度で、殺菌は、12分後までに完了すると考えることができる(工程「殺菌」)。使用するために中空繊維膜フィルタを浄化及び無菌形態にもたらすために更に別のフラッシング工程が続くことができる(工程「濯ぎ1」)。
【0079】
更に別の品質試験に関して、従来技術で公知のような「沸点」試験が続く。この試験は、膜の一方側が流体流れによって膜の反対側よりも高い圧力でガスに露出される圧力保持試験を構成する。図10から図13に示す中空繊維膜フィルタの第2のチャンバ120、220、320、420は、それにより、殺菌圧縮空気でフラッシングされ、それにより、第1のチャンバは、濯ぎ工程からの液体で充填されたままである。殺菌システムは、第1のチャンバ119、219、319、419よりも第2のチャンバに高い圧力を印加する。孔隙は、先行の濯ぎ工程からの水で充填されるので、第1のチャンバからの圧縮ガスは、印加された圧力が孔隙中の水の表面張力に打ち勝つまで第2のチャンバを破らない。第1のチャンバに移行するガスの容積は、図示のような気泡検出器114、214、314、414内で分析することができ、結果は、相応に評価される。検出した気泡の容積をフィルタモジュール120から420の第2のチャンバ内に印加した圧力と相関させることにより、結論が膜材料の品質に関して引き出され、フィルタモジュールが仕様規格を満足しているか否かに関して判断することができる(工程「透析液噴出/沸点」)。
【0080】
次に、第1のチャンバが殺菌圧縮空気で同様にフラッシングされるように規定することができる(工程「焼き戻し1」)。適切な場合に、純粋蒸気による更に別のフラッシング工程は、先行の濯ぎ工程から残存する水の除去を保証することができる(工程「蒸気」)。その後に、望ましい乾燥度に達するまで、フィルタモジュールが殺菌圧縮空気でフラッシングされる乾燥工程を行うことができる(工程「乾燥」)。
【0081】
上記の説明で示したデータは、可能な手順に対する実施例として作用する。以下の表は、本発明の実施例によるフィルタを蒸気殺菌する方法を要約するものである。
【0082】
【表1】
【0083】
電子ビーム殺菌(比較例)
【0084】
電子ビーム殺菌は、標準条件を使用して行われ、それにより、各フィルタは、少なくとも26.1kGy及び最大43.8kGyの投与量を受け入れた。電子ビーム殺菌の前に、フィルタは、以下の設定を使用して市販の自動調整スタンドで濯がれて調整された。
【0085】
【表2】
【0086】
比較例に対する工程は、工程「調整」及び「濯ぎ2」の免除を伴う例示的フィルタに対する工程により行われた。調整工程は、本発明の実施例による「殺菌工程」と比較して大幅に減少し、その結果、十分な殺菌が行われなくなる。殺菌は、電子ビーム処置を通して達成される。
【0087】
試験要約
【0088】
サンプルが調製された後に、各殺菌群からの透析器は、接触角(n=1透析器、5繊維)、表面(ゼータ)電位(n=3)、及びクリアランス(n=3)、並びに血液適合性(n=3)に対する試験にランダムに割り当てられた。試験の各々からの結果は、以下の表に示されている。
【0089】
【表3】
【0090】
接触角θ
中空繊維膜の接触角は、毛細管法によって決定され、中空繊維膜は、毛細管として作用する。中空繊維膜は、測定スタンドに固定される。0.25mg/mlメチレンブルーで染色された脱イオン水が、測定スタンドのベースに配置されたトラフの中に充填される。西洋カミソリによって長手方向延長部に対して横断方向の新しい切り口が事前に与えられた中空繊維膜は、トラフ中の試験液の液体レベルを超える中空繊維膜の染色溶液の高さを確定することによる20分の待ち時間の後で決定された溶液及び毛細管高さhに浸漬される。新しい中空繊維膜は、各測定後に使用される。各中空繊維膜の内径rは、光学顕微鏡によって切り口で決定される。
【0091】
毛細管圧に対する「ヤング-ラプラス」方程式を使用して接触角を計算することができる:
【数1】
【0092】
与えられた内径、毛細管の高さ、及び公知の定数から接触角を決定するための方程式は、以下のように定義することができる:
【数2】
ここで、
p=25℃での水密度:0.997kg/m3
g=重力加速度9.8m/s2
h=毛細血高さ、m
γ=室温での水の表面張力、0.0728N/m
r=毛細管半径
θ=決定すべき接触角。
【0093】
図1に示すように、接触角は、SMM1の増加量と共に増加した。電子ビーム及び蒸気殺菌透析器の接触角の差は、僅かであって統計的広がり内である。様々なサンプルの接触角は、1%w/wSMM1及びそれ以上の濃度範囲のプラトーに達した紡糸質量中のSMM1の量の増加と共に増加する。透析膜に対する多くの文献とは対照的に、フッ素含有表面修飾分子を追加する時に高い接触角を達成することが望ましいことを指摘しなければならない。
【0094】
表面電位(ゼータ電位ζ)
【0095】
分析すべき中空繊維膜のゼータ電位を決定するために、185μmの内径及び35μmの壁厚を有する10,752の中空繊維膜を有する中空繊維膜フィルタ(透析器)が使用される。ゼータ電位の測定に関する中空繊維膜長は、258mmである。中空繊維膜は、中空繊維膜の内部を包含する第1のチャンバと、中空繊維膜間の空間を包含する第2のチャンバとを生成するように中空繊維膜フィルタの端部において密封される。Elastogran companyからのポリウレタン(ポリオールC6947及びイソシアネート136-20)が、鋳造材として使用される。各バンドル端部内の鋳造高さは、合計22mmになる。図8a及びbに従った装置が測定に使用される。中空繊維膜フィルタ1は、中空繊維膜フィルタ1のそれぞれの第1及び第2のチャンバに対して流体ポート2、2a、3、3aを含む。中空繊維膜フィルタ1の第1のチャンバに対する流体ポートは、図2aのように圧力計5、5aに対してAg/AgClが各々置かれる。中空繊維膜フィルタ1の第2のチャンバに対する流体ポート3、3aは、中空繊維膜フィルタの第2のチャンバが未充填のままであるように確実に密封される。電位差ΔE2(mV)は、電圧計6によって2つの電極間にこうして付与され、圧力計5、5aに対するアクセス方法の間の圧力の減少ΔP(N/m2)は、マノメータ7によって付与される。試験液は、7.4のpH値で水中の1ミリモルKCI溶液から構成され、フィルタの上の約1,00mmに位置決めされたタンク8に提供される。pH値は、以下の規則に従って設定される:50mgK2CO3は、KCI溶液の100リットルに追加される。混合物は、7.4のpH値に達するまで開放容器で攪拌される。次に、容器は確実に密封される。測定は、23℃±2℃の温度で行われる。
【0096】
ゼータ電位を測定するために、試験液は、中空繊維膜の内部空間を包含し、中空繊維膜の内部空間に接続された中空繊維膜フィルタ上の第2の流体ポート2aを通してここでもまた透析器から外に送られる中空繊維膜フィルタの第1のチャンバの中に第1の液体ポート2を通して注がれる。中空繊維膜フィルタは、安定した値に達するまで10分にわたってかつ必要に応じて追加の5分にわたってこの構成で試験液で最初にフラッシングされる。圧力差及び電位差は、マノメータ/マルチメータ及びそこから計算されるゼータ電位から同時に読み取られる。測定精度を高めるために、それは、中空繊維膜の内部空間を通る試験液の逆流を達成するように測定値取得に続いて2つの四方弁を切り換えるように提供される。次に、ゼータ電位に対する測定値は、両方の流れ方向の平均測定値から形成される。ゼータ電位計算は、次の以下の方程式から求められる。
【数3】
ここで、
ζ=ゼータ電位(mV)
η=溶液粘性(0.001Ns/m2
Λo=溶液伝導率(A/(V*m))
εo=真空誘電率(8.85*10-12*s/(V*m)
εr=相対溶液誘電率(80)
Z=流動電位(mV)
ΔP=圧力差(N/m2)。
【0097】
図2に示すように、試験透析器の表面電位は、紡糸質量へのより多くのSMM1の添加と共に増加した(より小さい負になった)。電子ビーム殺菌透析器は、SMM1の添加なしでかなり負であった(蒸気殺菌透析器に対する-6.09mVと比較して0%SMM1で-14.20mV)。驚くべきことに、表面電位は、蒸気殺菌した膜の紡糸質量で0.5%w/wの低濃度に対してほとんど-4mVの良好なレベルに達したことが見出された。0.7%w/wの濃度の時点で、表面電位は、-4mVよりも高くなることが見出された。この値は、電子ビーム殺菌方法が行われた時に、紡糸質量中で1.12%w/wの濃度でのみ到達された。従って、望ましい表面電位は、SMM1添加剤のより低い濃度で達成することができることを見ることができる。従って、高い抗血栓性を有するより費用効果的な透析器が達成される。
【0098】
Na及びビタミンB12のクリアランス
【0099】
中空繊維膜のクリアランスは、DIN EN ISO 8637:2014による測定方法2のように構造化された中空繊維膜フィルタに基づいて決定される。サンプル透析器は、ゼータ電位の決定に関して同様に調製される。標準の5.6.1.2に従って5g/l NaCl及び0.05g/l Vit B12 ビタミンB12の濃度での水性ナトリウム溶液が、血液領域(血液領域は、中空繊維膜の内部を包含する中空繊維膜フィルタの第1のチャンバに対応する)に対する試験溶液として使用され、蒸留水が、それにより、透析液領域(透析液領域は、繊維空間を包含する中空繊維膜フィルタの第2のチャンバに対応する)に対して使用される。ナトリウム濃度は、伝導度を測定することによって決定される。ビタミンB12濃度は、光度測定的に決定される。クリアランス試験は、測定方法2に従った測定でも使用されるように、同一に構造化された中空繊維膜フィルタを利用する。300ミリリットル/分の流量が、この出願の範囲で生成される中空繊維膜フィルタに対して中空繊維膜の内部を包含する中空繊維膜フィルタの第1のチャンバに設定され、500ミリリットル/分の流量が、中空繊維膜フィルタの第2のチャンバに設定される。3つの測定は、各実施形態に対して行われる。
【0100】
図3及び図4に示すように、2つの殺菌方法間の全ての差は、統計的広がりを有し、その結果、表面修飾分子の追加も殺菌の方法も重要なイオン及び分子のクリアランスに影響を及ぼさなくなる。高流束透析器は、本発明の方法によって達成することができる。
【0101】
血液適合性:血小板損失、補体活性化、及びTAT III
【0102】
血小板損失及び補体活性化を決定するために、全ヒト血液の450mlは、血液の凝固又は血小板特性に影響を及ぼす可能性があるいずれの薬剤も服用していない健康なドナーから17G(1.5mm)の針を使用して引き込まれる。50ml生理食塩水で希釈された750IUのヘパリンは、1ml当たり1.5IUのヘパリン濃度が血液/生理食塩水混合物に対して生じるように採血袋に提供される。血小板損失を決定する方法は、献血の30分以内に開始される。
【0103】
血小板損失を決定するための装置51は、図9の概略描写のように試験すべき中空繊維膜に対して構成される。装置は、その中に適応させて分析すべき中空繊維膜を有する透析器52を含む。装置は、ホース53、ホースポンプ54、血液サンプル収集点55、血液のためのリザーバ56、透析器52の血液入口58にある圧力センサ57、及び透析器52の血液出口60にある圧力センサ59のシステムを更に含む。上述のように最初にヘパリン化されている血液の200mlが決定に使用される。血液は、ホースポンプ54(製造業者:ドイツのFresenius Medical Care)によって装置51の透析器52を通してホース53のシステム(材料:PVC、製造業者:ドイツのFresenius Medical Care)によって搬送される。ホースの新しいシステムが各測定に使用される。装置51全体は、測定する前に0.9%(w/v)生理食塩水で30分にわたってフラッシングされる。装置を血液で充填するために、濯ぎ液は排水され、純粋血液のみが装置を充填するまで低ポンプ速度で装置の中に導入された血液で交換される。血液充填容積は200mlである。変位溶液は廃棄される。
【0104】
分析中の限外濾過を防止するために、透析液側は、透析器上のポート61及び62を通して0.9%の生理食塩水で最初に充填され、次に密封される。血小板損失の決定は、180分の期間にわたって例えば培養器(ドイツのMemmert companyによって作られた)において37℃で行われ、それにより、サンプルは、測定の最初に血液サンプル収集点55で、次に、0、60、120及び180分で取られる。血液入口58及び血液出口59内の圧力は、測定を行う過程にわたって条件が一定のままであることを保証するために測定される。有意な圧力変化がある場合に、読取を拒絶しなければならない。血液は、200ミリリットル/分の容積流量で装置を通してポンピングされる。
【0105】
血液適合性は、補体活性化C5aパラメータ、血小板損失、及びTAT III決定を使用して決定される。血小板損失は、自動血液分析装置(ドイツのノルダーシュテットのK4500 Sysmex)を使用して三重決定によって決定される。
【0106】
補体活性化は、ドイツのマールブルグのDRG Instruments companyからのELISA試験キット(EIA-3327)を使用して二重測定によって決定される。タンパク質分解C5ファクタ活性化から生じるC5aファクタは、測定パラメータとして作用する。
【0107】
TAT III濃度は、ドイツのマールブルクのSiemensからのELISA試験キット(Enzygnost TAT micro)を使用して二重測定によって決定される。
【0108】
測定中に、更に別のフィルタ(ドイツのバートホンブルクのFresenius Medical Care companyからのFX60又はSMM1の同じ濃度であるが基準殺菌方法を有する対応するフィルタ)も、基準フィルタに対して(%で)決定された献血の後半及び測定結果を使用して基準として測定される。そうすることで、様々なドナーからの血液反応の固有の広い変動を数学的に補償することを可能にする。実施例及び比較例が、同じ原料バッチを使用して生成された。
【0109】
図5aに示すように、2つの透析器の補体活性化の間の注意すべき差は、標準的な方法により測定されるようには観察されなかった。サンプルフィルタのための補体活性化の決定に関して、全サンプルは、FX60フィルタ(ドイツのバートホンブルクのFresenius Medical Care)に対して測定された。図5aは、殺菌方法「蒸気殺菌」と「電子ビーム」の間に有意差を示さない。実験は、両方の殺菌方法が良好な血液適合性を有する透析器の治療に十分に適することを教示している。0.5%w/wのSMM1の濃度で同じ低補体活性化が同等Fx60フィルタと同様に達成され、より高い濃度に関して、補体活性化の有意な減少は、Fx60フィルタと比較して見ることができる(図5b)。
【0110】
図6a及びbに示すように、驚くべきことに、パラメータ「補体活性化」とは対照的に、血小板損失に対する電子ビーム殺菌に勝る蒸気殺菌のかなりの利点を有することを見ることができる。図6bに示すように、紡糸質量中の0.5%SMM1w/wの濃度で、血小板損失は、一方ではFx60フィルタ及び他方では電子ビーム殺菌フィルタと比較して、蒸気殺菌フィルタに対して既に大幅に減少している。電子ビーム殺菌は、同等Fx60フィルタよりも高い血小板損失を依然として示している。殺菌方法の間の差は、0.7%の紡糸質量中のSMM1の濃度が適用される時に更に大きくなる。ここで血小板損失は、Fx60フィルタ及び電子ビーム殺菌フィルタに対して2倍を超えてより低い。図6aにそれを示すように、紡糸質量は、蒸気殺菌フィルタに関連して同じ良好な血小板損失値を達成するために1.12%のSMM1濃度を含む必要がある。この濃度は、非常に高く、実施例による紡糸質量ではSMM1分子の溶解度限界内にある。従って、電子ビーム殺菌透析フィルタは、表面修飾分子の溶解度に関する限り、生成するのに高価であり、生成が制限される。
【0111】
図7に示すように、蒸気殺菌透析器のTAT III活性化レベルは、電子ビーム殺菌フィルタと比較して低かった。この改善された抗血栓性は、実験中に試験された様々な濃度の範囲のほとんどにわたって示されている。電子ビーム殺菌方法が透析器の生成に選択される場合に、少なくとも1.12%の紡糸質量中のSMM1分子の濃度は、蒸気殺菌フィルタに関して同じ良好な特性を達成するように選択しなければならない。
【0112】
本発明は、以下の項目に更に拡張することができる:
1.フッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタの血栓形成を低減する方法、そのような透析フィルタを製造する方法は、蒸気殺菌工程を含む。
2.フッ素含有中空繊維膜が透析フィルタの内側で蒸気殺菌される項目1の方法。
3.血栓形成が、電磁放射線殺菌又は電子ビーム殺菌を受けた同じフッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタと比較して低下する項目1又は2の方法。
4.本明細書で指定された本方法により測定された血小板損失が、電磁放射線殺菌又は電子ビーム殺菌を受けた同じフッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタと比較して少なくとも100%減少する項目1から3の方法。
5.本明細書で指定された本方法により測定されたTAT III濃度が、電磁放射線殺菌又は電子ビーム殺菌を受けた同じフッ素含有中空繊維膜を含む透析フィルタと比較して少なくとも60%減少する項目1から3の方法。
【符号の説明】
【0113】
SMM 表面修飾巨大分子
図1
図2
図3
図4
図5a
図5b
図6a
図6b
図7
図8a
図8b
図9
図10
図11
図12
図13