(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】混合高分子ミセルを含有する医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/337 20060101AFI20240408BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240408BHJP
A61K 47/56 20170101ALI20240408BHJP
A61K 47/58 20170101ALI20240408BHJP
A61K 47/59 20170101ALI20240408BHJP
A61K 47/60 20170101ALI20240408BHJP
A61K 47/61 20170101ALI20240408BHJP
A61K 47/62 20170101ALI20240408BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240408BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61K31/337
A61K9/10
A61K47/56
A61K47/58
A61K47/59
A61K47/60
A61K47/61
A61K47/62
A61K47/54
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021568699
(86)(22)【出願日】2019-11-06
(86)【国際出願番号】 CN2019115956
(87)【国際公開番号】W WO2020228265
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-11-01
(32)【優先日】2019-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516375182
【氏名又は名称】メガプロ バイオメディカル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ,ミン-チェン
(72)【発明者】
【氏名】スー,ユアン-フン
(72)【発明者】
【氏名】シエン,ウェン-ユアン
(72)【発明者】
【氏名】フアン,チア-ウェン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,チー-ラン
(72)【発明者】
【氏名】ジアン,ジー-ユン
(72)【発明者】
【氏名】ワン,シアン-ジー
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108478531(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104083325(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0253699(US,A1)
【文献】Chinese Journal of Pharmaceuticals,2011年,Vol.42,No.7,pp.512-517
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61P 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1~1000nmのサイズを有する混合高分子ミセルおよび前記ミセルに封入された薬物を含む医薬組成物であって、前記混合高分子ミセルは、両親媒性ブロックコポリマーおよびリガンドに結合された第1のリポポリマーを含有しており、ここでは前記両親媒性ブロックコポリマーはmPEG-PCLであり、前記第1のリポポリマーはPEG-DSPEであり、前記リガンドは葉酸またはN-アセチルヒスチジンであり、かつ前記薬物はカバジタキセルである
、医薬組成物
。
【請求項2】
前記第1のリポポリマーは前記混合高分子ミセルの4~25重量%を構成している、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
1~1000nmのサイズを有する混合高分子ミセルおよび前記ミセルに封入された薬物を含む医薬組成物であって、前記混合高分子ミセルは、両親媒性ブロックコポリマー、リガンドに結合された第1のリポポリマーおよびリガンドに結合されていない第2のリポポリマーを含有しており、ここでは前記両親媒性ブロックコポリマーはmPEG-PCLであり、前記第1のリポポリマーおよび前記第2のリポポリマーはそれぞれPEG-DSPEであり、前記リガンドは葉酸またはN-アセチルヒスチジンであり、かつ前記薬物はカバジタキセルである
、医薬組成物。
【請求項4】
前記第1のリポポリマーおよび前記第2のリポポリマーは一緒に前記混合高分子ミセルの4~25重量%を構成している、請求項
3に記載の医薬組成物。
【請求項5】
1~1000nmのサイズを有する混合高分子ミセルおよび前記ミセルに封入された薬物を含む医薬組成物を調製する方法であって、
両親媒性ブロックコポリマー、リポポリマーおよび薬物を含む出発物質を提供する工程、
前記出発物質を溶媒中で混合する工程、
前記溶媒を除去して乾燥フィルムまたは乾燥ケーキを得る工程、
水を添加して前記乾燥フィルムまたは前記乾燥ケーキを可溶化して混合高分子ミセルを含有する溶液を形成する工程、および
前記溶液を濾過して医薬組成物を得る工程
を含み、
前記両親媒性ブロックコポリマーはmPEG-PCLであり、前記リポポリマーはPEG-DSPEであり
およびリガンドに結合されておらず、かつ前記薬物はカバジタキセルである
、方法。
【請求項6】
1~1000nmのサイズを有する混合高分子ミセルおよび前記ミセルに封入された薬物を含む医薬組成物であって、10~45%の薬物負荷を有する前記混合高分子ミセルは両親媒性ブロックコポリマーおよびリポポリマーを含有しており、ここでは前記両親媒性ブロックコポリマーはmPEG-PCLであり、前記リポポリマーはPEG-DSPEであり
およびリガンドに結合されておらず、かつ前記薬物はカバジタキセルである
、医薬組成物。
【請求項7】
それを必要とする対象において癌を治療するのに使用するための、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
それを必要とする対象において癌を治療するのに使用するための、請求項
3に記載の医薬組成物。
【請求項9】
それを必要とする対象において癌を治療するのに使用するための、請求項
6に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
混合高分子ミセルは、難水溶性薬物を送達するための有効な媒体として広範囲に研究されてきた。部位特異的送達を条件として、それらは薬物の生物薬剤学的および薬物動態学的特性を向上させ、それにより薬物有効性を高めることができる。
【背景技術】
【0002】
従来の微小粒子またはナノ粒子は安定化のために界面活性剤の使用を必要とする複雑な乳化プロセスにより形成されるが、1マイクロメートル未満のサイズの混合高分子ミセルは典型的には、界面活性剤または安定性を達成するための他の薬剤を必要としない単純化された自己集合プロセスにより調製される。
【0003】
現在のところ、混合高分子ミセルはコポリマーおよびリポポリマーを含む様々な種類のポリマーから形成される。例えば、Leeら,Journal of Controlled Release,2003,91,103-113およびVakilら,Langmuir,2006,22,9723-9729を参照されたい。これらの高分子ミセルを含有する組成物は、安定性、薬物負荷およびカプセル化効率の向上がなお必要である。
【0004】
向上した特性を有する混合高分子ミセル含有組成物を開発することが必要とされている。
【発明の概要】
【0005】
本発明の一態様は、予想外に高い安定性、高い薬物負荷および高いカプセル化効率を示す医薬組成物を調製する方法である。
【0006】
本方法は、(i)両親媒性ブロックコポリマー、リポポリマーおよび薬物を含有する出発物質を提供する工程、(ii)出発物質を溶媒中で混合する工程、(iii)溶媒を除去して乾燥フィルムまたは乾燥ケーキを得る工程、(iv)水を添加して乾燥フィルムまたは乾燥ケーキを可溶化して混合高分子ミセルを含有する溶液を形成する工程、および(v)その溶液を濾過して医薬組成物を得る工程を含む。
【0007】
本方法の一実施形態では、リポポリマーはリガンドと結合されており、かつ出発物質はリガンドに結合されていないさらなるリポポリマーをさらに含む。
【0008】
それぞれが混合高分子ミセルおよび当該ミセルに封入された薬物を含有する3種類の関連する医薬組成物も本発明の範囲内である。
【0009】
第1の医薬組成物は上記方法によって調製される。
【0010】
第2の医薬組成物は、1~1000nmのサイズを有する混合高分子ミセルおよび当該ミセルに封入された薬物を含有している。本混合高分子ミセルは、両親媒性ブロックコポリマーおよびリガンドに結合されたリポポリマーを含む。両親媒性ブロックコポリマーは親水性セグメントおよび疎水性セグメントを有し、リポポリマーは親水性ポリマー鎖およびそこに共有結合された疎水性部分を有し、リガンドは親水性ポリマー鎖に結合された標的化部分である。任意に本混合高分子ミセルは、リガンドに結合されていないさらなるリポポリマーをさらに含む。
【0011】
第3の医薬組成物は、1~1000nmのサイズを有する混合高分子ミセルおよび当該ミセルに封入された薬物を含有している。10~45%の薬物負荷を有する本混合高分子ミセルは、両親媒性ブロックコポリマーおよびリポポリマーを含む。
【0012】
それを必要とする対象に有効量の上記3種類の医薬組成物のうちの1つを投与することにより治療するための方法が本発明によってさらに包含される。
【0013】
本発明の詳細は、図および以下の説明に記載されている。本発明の他の特徴、目的および利点はいくつかの実施形態の以下の詳細な説明から明らかになり、かつ添付の特許請求の範囲からも明らかになるであろう。
【0014】
以下の説明は添付の図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の4種類の異なる医薬組成物を4つの異なる濃度で含有する培地における、4時間および24時間のインキュベーション後のKBヒト類表皮癌細胞の生存度を示す棒グラフである。
【
図2】本発明の医薬組成物またはジェブタナの投与後22日間にわたる担腫瘍マウスにおける腫瘍体積を示すプロットである。
【
図3】Cy5.5と同時負荷された本発明の医薬組成物で治療したマウスの腫瘍における日数に対する相対的蛍光を示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記発明の概要の箇所に記載されている第1、第2および第3の医薬組成物について本明細書に詳細に説明する。
【0017】
考察を容易にするために、最初に第2の医薬組成物について説明する。これは混合高分子ミセルおよび当該ミセルに封入された薬物を含有しており、ここでは本混合高分子ミセルは、両親媒性ブロックコポリマーおよびリガンドに結合されたリポポリマーを含む。本混合高分子ミセルは1~1000nm(例えば30~500nm)のサイズを有する。
【0018】
両親媒性ブロックコポリマーは親水性セグメントおよび疎水性セグメントを有する。親水性セグメントの例としては、限定されるものではないが、ポリエチレングリコール(「PEG」)、メトキシポリエチレングリコール(「mPEG」)、ヒアルロン酸およびポリγ-グルタミン酸が挙げられる。他方、疎水性セグメントの例としては、限定されるものではないが、ポリカプロラクトン(「PCL」)、ポリ乳酸、ポリグリコリド、乳酸/グリコール酸共重合体、ポリバレロラクトン、ポリブチロラクトン、ポリプロピオラクトン、ポリカルボキシレートおよびポリジオキサノンが挙げられる。例示的な両親媒性ブロックコポリマーはmPEGである親水性セグメントとPCLである疎水性セグメントとを有する。
【0019】
リポポリマーは、親水性ポリマー鎖およびそこに共有結合された疎水性部分を含む。疎水性部分の高い疎水性は本混合高分子ミセルの安定性、薬物負荷およびカプセル化効率を大きく向上させることができる。リポポリマーの例としては、限定されるものではないが、PEG-コレステロール、PEG-リン脂質およびPEG-ジアシルグリセロールが挙げられる。例示的なPEG-リン脂質は、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-メトキシポリ(エチレングリコール)(「PEG-DSPE」)である。
【0020】
リガンドはリポポリマーの親水性ポリマー鎖に結合された標的化部分である。典型的には、リガンドは巨大分子または2000ダルトンよりも低い分子量を有する小分子である。ボンベシンおよびブラジキニンなどの小分子リガンドは、機能的な細胞表面プラスミノーゲン活性化因子を認識することができる。例示的な小分子リガンドは葉酸、N-アセチルヒスチジンまたはペプチド(例えば、アルギニン-グリシン-アスパラギン酸ペプチドおよび10~15個のアミノ酸から形成されたペプチド)である。巨大分子リガンドの例としては、限定されるものではないが、抗体、抗体断片、アプタマー、前立腺特異的膜抗原リガンドおよび成長因子(例えば、表皮成長因子、血小板由来成長因子および血管内皮成長因子)が挙げられる。
【0021】
この医薬組成物に含有されている薬物は癌を治療するための治療薬であってもよい。例としては、限定されるものではないが、カバジタキセル、パクリタキセル、ドセタキセル、ラロタキセル、ドキソルビシン、ドキソルビシン塩酸塩、エピルビシン、ゲムシタビン、レトロゾール、クルクミン、テムシロリムス、ボリコナゾール、ポサコナゾール、シロリムス、エベロリムス、イクサベピロン、カンプトテシン、カンプトテシン誘導体および光増感剤が挙げられる。特に、カバジタキセルはこれまでに知られているドセタキセル抵抗性癌を治療するのに有効な唯一のタキサンである。これは一般に、深刻な用量制限毒性(例えば好中球減少)を伴う。混合高分子ミセル中にカバジタキセルを含有する組成物は、薬物の生物物理学的特性(例えば水溶解性)および生物学的利用能を大きく高める。なお、カンプトテシン誘導体は向上した薬剤特性、例えば溶解性、代謝安定性および生物学的効力を有するカンプトテシンから誘導され、かつそれに構造的に近い化合物を指す。例えば、Zuninoら,Current Pharmaceutical Design,2002,8(27),2505-2520を参照されたい。
【0022】
典型的には、上記混合高分子ミセルは0.08~1.0、好ましくは0.33未満、最も好ましくは0.2未満の多分散性指数を有する。それは80%超、好ましくは90%超、最も好ましくは95%超の薬物カプセル化効率を有していてもよい。
【0023】
一例では、本混合高分子ミセルは、リガンドに結合されていないさらなるリポポリマーをさらに含む。リポポリマーは特に、PEG-コレステロール、PEG-リン脂質、PEG-ビタミンEおよびPEG-ジアシルグリセロールであってもよい。例えばPEG-リン脂質はPEG-DSPEである。
【0024】
別の例では、両親媒性ブロックコポリマーはmPEG-PCLであり、リポポリマーはPEG-DSPEであり、リガンドは葉酸またはN-アセチルヒスチジンであり、かつ薬物はカバジタキセルである。そのような組成物の本混合高分子ミセルは、30~500nmのサイズ、0.33未満の多分散性指数および90%超の薬物カプセル化効率を有する。
【0025】
さらに別の例では、本混合高分子ミセルは、mPEG-PCLである両親媒性ブロックコポリマー、リガンド-PEG-DSPEであるリガンドに結合されたリポポリマー、葉酸またはN-アセチルヒスチジンであるリガンド、PEG-DSPEであるリポポリマーおよびカバジタキセルである薬物を含む。そのような組成物の本混合高分子ミセルは、30~500nmのサイズ、0.33未満の多分散性指数および90%超の薬物カプセル化効率を有する。
【0026】
異なる例では、本混合高分子ミセルはリガンドに結合されたリポポリマーを含む。リポポリマーは、本混合高分子ミセルの4~25重量%(例えば5~15重量%)を構成している。リガンドに結合されたリポポリマーおよびリガンドを含有していないリポポリマーを含む混合高分子ミセルの場合、2種類のリポポリマーは一緒に本混合高分子ミセルの4~25重量%(例えば5~15重量%)を構成している。
【0027】
第3の医薬組成物については、それは1~1000nm(例えば30~500nm)のサイズを有する混合高分子ミセルおよび当該ミセルに封入された薬物を含有しており、ここでは本混合高分子ミセルは、両親媒性ブロックコポリマーおよび任意にリガンドに結合されたリポポリマーを含む。本混合高分子ミセルは10~45%(例えば、15~40%)の高い薬物負荷を有する。例えば、両親媒性ブロックコポリマーはmPEG-PCLであり、リポポリマーはPEG-DSPEであり、薬物はカバジタキセルであり、かつリガンドは葉酸またはN-アセチルヒスチジンである。なお、リポポリマーがリガンドに結合されている場合、本混合高分子ミセルはリガンドに結合されていないさらなるリポポリマーをさらに含んでいてもよい。
【0028】
最後に第1の医薬組成物は、上記発明の概要の箇所に記載されており、かつ以下にさらに詳細に説明されている方法によって調製される。
【0029】
繰り返しになるが本方法は、両親媒性ブロックコポリマー、リポポリマーおよび薬物を含む出発物質を提供する工程、出発物質を溶媒中で混合する工程、溶媒を除去して乾燥フィルムまたは乾燥ケーキを得る工程、水を添加して乾燥フィルムまたは乾燥ケーキを可溶化して、薬物がカプセル化されている混合高分子ミセルを形成する工程、任意に本混合高分子ミセルを含有する溶液を超音波処理する工程、およびその溶液を濾過して医薬組成物を得る工程を含む。
【0030】
例示的な方法では、リポポリマーは、親水性ポリマー鎖およびそこに共有結合された疎水性部分を含む。リポポリマーは親水性ポリマー鎖に結合されたリガンドも含む。なお、出発物質は別のリポポリマーをさらに含んでいてもよい。一例として出発物質は、mPEG-PCL、リガンド-PEG-DSPE、葉酸またはN-アセチルヒスチジンであるリガンドおよびカバジタキセルに加えてDSPE-PEGを含む。
【0031】
別の例示的な方法では、リポポリマーはリガンドに結合されていない。好ましくは、リポポリマーはPEG-DSPEであり、両親媒性ブロックコポリマーはmPEG-PCLであり、かつ薬物はカバジタキセルである。
【0032】
さらに、3種類の上に記載されている医薬組成物のうちの1つを用いて癌を治療する方法も本発明の範囲内である。本方法は、それを必要とする対象に有効量の本発明の3種類の医薬組成物のうちの1つを投与することを含む。
【0033】
本方法の特定の実施形態では、抗癌剤はカバジタキセルであり、両親媒性ブロックコポリマーはmPEG-PCLであり、かつリポポリマーはPEG-DSPEまたは葉酸-PEG-DSPEであり、ここでは本混合高分子ミセルは30~500nmのサイズ、0.33未満の多分散性指数および90%超の薬物カプセル化効率を有する。別の実施形態では、本混合高分子ミセルはPEG-DSPEおよび葉酸-PEG-DSPEの両方を含有している。
【0034】
当該癌は葉酸受容体が過剰発現されている固形腫瘍であってもよい。固形腫瘍の例としては、限定されるものではないが、肺癌、卵巣腫瘍、乳癌(例えば、転移性乳癌およびトリプルネガティブ乳癌)、子宮内膜癌、子宮癌、腎臓癌、脳癌、頭頸部癌、ホルモン難治性転移性前立腺癌、膀胱癌、胃癌(例えば転移性胃癌)、移行上皮癌および脂肪肉腫が挙げられる。
【0035】
「治療する」または「治療」という用語は本明細書では、治療もしくは予防効果を与えるという目的で、上記医薬組成物を上に記載されている疾患すなわち癌、そのような疾患の症状またはそのような疾患に対する素因を有する対象に投与することを指す。「有効量」という用語は、そのような効果を与えるために必要とされる活性薬物の量を指す。有効用量は当業者によって認識されているように、治療される疾患の種類、投与経路、賦形剤の使用、およびの治療処置と同時使用する可能性に応じて異なる。
【0036】
本発明の医薬組成物は非経口投与、例えば皮下、皮内、静脈内、腹膜内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液嚢内、胸骨内、クモ膜下腔内、病巣内および頭蓋内注射などの様々な経路を介して投与することができる。
【0037】
無菌の注射可能な医薬組成物は、1,3-ブタンジオール中の溶液などの非毒性の非経口で許容される希釈液または溶媒中の溶液または懸濁液であってもよい。用いることができる許容される媒体および溶媒としては、マンニトール、水、リンゲル液および等張塩化ナトリウム溶液が挙げられる。さらに不揮発性油は従来通りに溶媒または懸濁媒として用いられる(例えば合成のモノもしくはジグリセリド)。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体などの脂肪酸は、特にそれらのポリオキシエチル化された形態のオリーブ油またはヒマシ油などの天然の薬学的に許容される油と同様に注射剤の調製に有用である。これらの油溶液または懸濁液は、長鎖アルコール希釈剤もしくは分散剤、カルボキシメチルセルロースまたは同様の分散剤も含有していてもよい。Tweens、Spansまたは他の乳化剤などの他のよく使用される界面活性剤あるいは薬学的に許容される固体、液体または他の剤形の製造によく使用される生物学的利用能増強剤も製剤のために使用することができる。
【0038】
さらなる詳細がなくとも、当業者であれば上記説明に基づき本発明を最大限に利用することができるものと思われる。従って、以下の具体的な実施形態は単なる例示として解釈されるべきであり、何であっても決して本開示の残りの部分を限定するものではない。本明細書で引用されている刊行物は全て参照により組み込まれる。
【0039】
実施例1:葉酸に結合されたリポポリマーの調製
葉酸に結合されたリポポリマーをChoら,Journal of Nanomaterials,2015,16(1),論文番号36に報告されているプロトコルに従って調製した。
【0040】
より具体的には、葉酸に結合されたリポポリマーを調製するために、25mgの葉酸を1mLのジメチルスルホキシド(「DMSO」)に溶解し、100mgのアミノ置換された1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-メトキシポリ(エチレングリコール)(「DSPE-PEG5k-NH2」)を32.5mgのN,N’ジシクロヘキシル-カルボジイミド(「DCC」)を含有する0.5mLのピリジンに溶解した。このようにして形成された2種類の溶液を混合し、室温で4時間放置した。その後にピリジンを回転真空蒸発により除去した。この混合物に3mLの水を添加し、不溶性材料を15分間の36,000gの遠心分離により除去した。このようにして得られた上澄みをスペクトル/Por CEにおいて生理食塩水に対して24時間、次いで水に対して24時間透析した。透析した生成物すなわち葉酸-PEG5k-DSPEを凍結乾燥し、使用前に-20℃で貯蔵した。なお、下付き文字「5k」はポリマーの分子量すなわち5,000の平均Mnを示す。
【0041】
このようにして得られた葉酸に結合されたリポポリマーを使用して、カバジタキセルおよびmPEG5k-b-PCL2kを含有する混合高分子ミセルを調製した。
【0042】
実施例2:葉酸に結合されたカバジタキセルが負荷された混合高分子ミセルの調製および特性評価
それぞれが異なる葉酸に結合されたカバジタキセルが負荷された混合高分子ミセル(「CBZ-mPM」)を含有する3種類の医薬組成物を、Choら,Journal of Nanomaterials,2015,16(1),論文番号36およびVakilら,Langmuir,2006,22,9723-9729に報告されているプロトコルに従って調製した。
【0043】
最初に、ブロックコポリマーmPEG5k-b-PCL2k(10mg)、葉酸-PEG5k-DSPE(0.46、0.97または2.20mg)およびカバジタキセル(5mg)を1mLのテトラヒドロフラン(「THF」)に60℃で溶解することにより混合物を調製した。その後に、THFを回転蒸発により除去して乾燥フィルムまたは乾燥ケーキを得た。次いで水を添加して乾燥フィルムまたは乾燥ケーキを室温で可溶化し、それにより可溶化プロセス中に葉酸に結合されたCBZ-mPMを自然発生的に形成した。さらにこの溶液を室温で5分間超音波処理して、得られたミセルの粒径を小さくし、かつその粒度分布を狭めた。最後に、0.22μmのポリフッ化ビニリデン(「PVDF」)膜のフィルタを用いて濾過してカプセル化されていないカバジタキセルを除去することにより、医薬組成物を得た。
【0044】
3種類の例示的な葉酸に結合されたCBZ-mPMすなわちDFB001、DFB002およびDFB003、ならびに葉酸を含まない2種類のCBZ-mPMすなわちDMB001およびDMB002についての特性評価データが以下の表1に示されている。なお、DMB001およびDMB002は上記プロトコルに従って調製されており、ここでは葉酸-PEG5k-DSPEが葉酸に結合されていないリポポリマーすなわちPEG5k-DSPEで置き換えられていた。カバジタキセルが負荷された非混合高分子ミセル(「CBZ-PM」)すなわちDB003を参照として含めた。
【0045】
5種類のCBZ-mPMおよび1種類のCBZ-PMを5つのパラメータすなわち粒径、多分散性指数、カバジタキセル濃度、薬物負荷およびカプセル化効率により特性評価した。粒径および多分散性指数(「PDI」)はレーザー粒径分析器(Beckman Delsa(商標)Nano S)により得た。各CBZ-mPM中のカプセル化されているカバジタキセルの量はHPLCにより決定した。ポリマーに対する薬物の重量%(「D/P重量%」)、薬物負荷(「DL」)およびカプセル化効率(「EE」)は、以下の式:
D/P重量%=薬物の質量/総ポリマーの質量(mPEG-PCL+リポポリマー)×100%
DL(%)=ミセル中の薬物の質量/ミセル中の総ポリマーおよび薬物の質量×100%
EE(%)=濾過後の薬物の質量/濾過前の薬物の質量×100%
に従って計算した。
【0046】
表1を再度参照すると、「A」はmPEG
5k-b-PCL
2kを表し、「B」はPEG
5k-DSPEを表し、「C」は葉酸-PEG
5k-DSPEを表し、かつ「サイズ」は粒径を指す。「CBZ」、「PDI」はこの場合もそれぞれカバジタキセルおよび多分散性指数を指す。さらに言うと、PEG
5k-DSPEを含有していた2種類のCBZ-mPMすなわちDMB001およびDMB002は「AB」として表されており、葉酸-PEG
5k-DSPEを含有していたCBZ-mPMすなわちDFB001、DFB002およびDFB003は「AC」として表されている。
【表1】
【0047】
表1に示すように、5種類のCBZ-mPMのそれぞれが約50%の薬物負荷および90%超のカプセル化効率を示した。他方でCBZ-PMすなわちDB003は、50%の薬物負荷および72.5%のみのカプセル化効率を有していた。言い換えると、5種類のCBZ-mPMは全てCBZ-PMよりも高いカプセル化効率を示したが、薬物負荷は6種類のミセル全てで同等であった。
【0048】
これらの結果は、本発明のCBZ-mPMが予想外に非常に高いカプセル化効率を有することを示している。
【0049】
実施例3:CBZ-mPMのインビトロ抗腫瘍活性
実施例2に記載されている5種類のCBZ-mPMのうちの3つ、すなわちDMB001、DFB001およびDFB002のインビトロ抗腫瘍活性を評価するために研究を行った。
【0050】
MTTアッセイ(MTTは3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミドを表す)をChanら,Biomaterials,2009,30,1627-1634およびKumarら,Biomaterials,2012,33,1180-1189に報告されているプロトコルに従って行った。
【0051】
より具体的には、10%ウシ胎児血清(「FBS」)、100単位/mLのペニシリンおよび100mg/mLのストレプトマイシンを添加したRPMI-1640培地において5%のCO2下37℃でKBヒト類表皮癌細胞を増殖させた。KB細胞を1つのウェル当たり200mLの培地を含む96ウェルプレートに15,000細胞/ウェルの密度で24時間播種した。次いでこの培地を4つの異なる濃度(すなわち1.5625、3.125、6.25および12.5ng/mL)でDMB001、DFB001またはDFB002を含有する200mLの培地で置き換え、当該アッセイを行う前に5%のCO2下37℃で4時間および24時間インキュベートした。次いでCBZ-mPMを含有する培地を除去して当該アッセイにおける干渉を回避した。培地に0.5mg/mLのMTT溶液を添加し、細胞をさらに4時間インキュベートした。MTTを含有する培地を除去し、細胞をリン酸緩衝食塩水で3回洗い流した。次いで200mLのDMSOを添加して細胞を溶解し、得られた混合物を室温で30分間インキュベートした。各ウェルについて570nmでの吸光度をELISAリーダーにより測定した。未処理の対照細胞の生存度は計算すると100%であった。細胞生存度(%)は、以下の式(「OD」は光学濃度を意味する):
細胞生存度(%)=(試料の570nmでのOD─ブランク試料のOD)/対照の570nmでのOD×100%
に従って計算した。
【0052】
図1に示すように、3種類の試験したCBZ-mPMは全て、24時間の処理後に4つの試験した投与量において強力なインビトロ抗腫瘍活性を示した。
【0053】
予想外に、2種類のAC CBZ-mPMすなわちDFB001およびDFB002は、4時間および24時間の処理の両方においてAB CBZ-mPMすなわちDMB001と比較した場合に、葉酸受容体が過剰発現されるKB腫瘍細胞に対してさらにより高い抗腫瘍活性を示した。より具体的には4時間の処理では、4つの異なる濃度(すなわち、1.5625、3.125、6.25および12.5ng/mL)のDMB001で処理したKB細胞は、DFB001またはDFB002によって示された約70%と比較して約90%の細胞生存度を有しており、24時間の処理では同じ濃度のDMB001で処理したKB細胞は、DFB001またはDFB002によって示された約20%と比較して35~45%の細胞生存度を有していた。明らかに抗腫瘍活性の増大は、DMB001中には存在していなかったDFB001およびDFB002中のリガンドとしての葉酸の使用に起因していた。
【0054】
これらの結果は、本発明のCBZ-mPMが低い投与量で癌を治療する際に予想外に高い有効性を有していることを示している。
【0055】
実施例4:PEG5k-DSPE、葉酸-PEG5k-DSPE、またはPEG5k-DSPEおよび葉酸-PEG5k-DSPEの両方を含有するCBZ-mPMの調製および特性評価
PEG5k-DSPE、葉酸-PEG5k-DSPE、またはPEG5k-DSPEおよび葉酸-PEG5k-DSPEの両方を含有する8種類の例示的なCBZ-mPMを、実施例2に記載されている手順に従って調製した。
【0056】
より具体的には、mPEG5k-b-PCL2k(20mg)、葉酸-PEG5k-DSPE(0~2mg)、PEG5k-DSPE(0~3mg)およびカバジタキセル(4mg)を1mLのクロロホルム/メタノール(9:1v/v)に60℃で溶解した。その後に溶媒を回転蒸発により除去して乾燥フィルムまたは乾燥ケーキを得た。次いで水を添加して乾燥フィルムまたは乾燥ケーキを室温で可溶化し、それにより可溶化プロセス中にCBZ-mPMを自然発生的に形成した。さらに、超音波処理を室温で5分間行って生じるミセルの粒径を減らし、その粒度分布を狭めた。最後に、0.22μmのPVDF膜のフィルタを用いて濾過してカプセル化されていないカバジタキセルを除去することにより医薬組成物を得た。
【0057】
8種類の例示的なCBZ-mPMおよび参照として含まれているCBZ-PMすなわちDB005についての特性評価データが以下の表2に示されている。8種類の例示的なCBZ-mPMのうち、それらのうちの3種類すなわちDMB022、DMB023、DMB025はPEG5k-DSPEを含有しており、それらのうちの2種類すなわちDFB008およびDFB012は葉酸-PEG5k-DSPEを含有しており、それらのうちの3種類すなわちDFB009、DFB010およびDFB014はPEG5k-DSPEおよび葉酸-PEG5k-DSPEの両方を含有していた。
【0058】
8種類の例示的なCBZ-mPMおよびCBZ-PMのうちの全てを、5つのパラメータすなわち粒径、多分散性指数、カバジタキセル濃度、薬物負荷およびカプセル化効率によって特性評価した。粒径およびPDIはレーザー粒径分析器(Beckman Delsa(商標)Nano S)により得た。各ミセル中のカプセル化されているカバジタキセルの量はHPLCにより決定した。カプセル化効率および薬物負荷は実施例2に提供されている式を用いて計算した。
【0059】
表2において、PEG
5k-DSPEおよび葉酸-PEG
5k-DSPEの両方を含有していた3種類のCBZ-mPMすなわちDFB009、DFB010およびDFB014は「ABC」として表されている。「A、「B」、「C」、「CBZ」、「サイズ」、「PDI」、「DL」、「EE」、「AB」および「AC」の定義については実施例2を参照されたい。
【表2】
【0060】
表2に示すように、56.5nmの粒径を有するDFB012を除いて、CBZ-mPMおよびCBZ-PMは同様の粒径を有していた(全てが41~46nmの範囲内である)。さらに9種類のミセルのそれぞれについて、PDIは0.3未満であり、EEは約90%以上であった。
【0061】
これらの結果は、本発明のCBZ-mPMが予想外に高いカプセル化効率および狭い粒度分布を有することを示している。
【0062】
実施例5:CBZ-mPMの貯蔵安定性
実施例4に記載されている8種類のCBZ-mPMおよびCBZ-PMを6日間(144時間)の期間で25℃の水中に貯蔵した。粒径をレーザー粒径分析器(Beckman Delsa(商標)Nano S)で測定して貯蔵安定性を監視した。このようにして得られた安定性データが表3に示されている。
【表3】
【0063】
表3に示すように、CBZ-PMすなわちDB005は24時間未満では25℃の水中で安定であった。対照的に、8種類の例示的なCBZ-mPMは全て、同じ貯蔵条件下で96時間を超えて安定であった。特に15重量%のリポポリマーを含有しているDFB012、DFB010およびDFB014は全て(表2、列6)最も安定であった。
【0064】
これらの結果は、本発明のCBZ-mPMの貯蔵安定性が予想外に高いことを示している。それらは、ミセルに含有されているリポポリマーの量を増加させることによりCBZ-mPM貯蔵安定性を高めることができることも示している。
【0065】
さらに、96時間の期間にわたって混濁度の変化を測定することにより8種類の例示的なCBZ-mPMおよび参照試料DB005の血清安定性を評価した。混濁度の増加は、血清タンパク質との非特異的相互作用によって引き起こされる粒子の凝集を示していた(Z.-X.Zhaoら,Biomaterials,2012,33,6793-6807)。
【0066】
具体的には、8種類のCBZ-mPMの水溶液およびDB005の水溶液(100μl)を個々に遠心管の中で同じ体積のFBS(100μl)と混合した。得られた溶液混合物をその後に37℃でインキュベートした。
【0067】
血清によって誘導された凝集は、異なる時点(すなわち0時間、24時間および96時間)における630nmの波長での吸光度値を決定することにより混濁度に換算して測定した。リン酸緩衝食塩水(「PBS」)はブランク溶液として使用した。このようにして得られた結果は以下の表4に示されている。
【表4】
【0068】
表4に示すように、CBZ-PMを含有する溶液すなわちDB005の混濁度は、37℃で24時間のインキュベーション後に有意に増加し、CBZ-PMは24~96時間後に沈殿した。他方でCBZ-mPMを含有する溶液は、24時間のインキュベーション後に混濁度における同じ増加を経験しなかった。さらに、試験した8種類のCBZ-mPMのうちの6種類、すなわちDMB023、DMB025、DFB008、DFB009、DFB010およびDFB014はCBZ-PMよりも明らかに安定していた。実際にそれらは96時間インキュベートした後に溶液中に残っていた。予想外に、PEG5k-DSPEおよび葉酸-PEG5k-DSPEの両方を含有していたCBZ-mPMは、葉酸-PEG5k-DSPEのみを含有していたCBZ-mPMと比較した場合に、より高い血清安定性を示した。
【0069】
これらの結果は、本発明のCBZ-mPMが予想外に貯蔵安定性および血清安定性を高めたことを示している。
【0070】
実施例6:DFB014のインビボ抗腫瘍活性
雌の胸腺欠損ヌードマウス(nu/nu、体重=20~25g)においてDFB014のインビボ抗腫瘍活性を調べた。このマウスの皮下に葉酸受容体を過剰発現するヒト表皮癌異種移植片細胞株、KB細胞(1匹の動物当たり2×107細胞)を埋め込んだ。埋め込み後に、腫瘍を約350mm3の体積に達するまで28日間増殖させ、その後に0日目に、PBSに懸濁させたジェブタナ(カバジタキセルの商品名)またはDFB014(当量の用量のカバジタキセル=10mg/kg)の単回用量をマウスの尾静脈に投与した。所定の時点でノギスを用いて腫瘍の長径および短径を測定した。次いで、式:(3/4)πa2b(式中、aおよびbはそれぞれ腫瘍の短径および長径の長さである)を用いて腫瘍体積を計算した。
【0071】
次に腫瘍体積を使用して、以下の式:
TGI=(VTm-VT0)×100%/VT0
(式中、VTmは所定の時点における腫瘍体積であり、VT0は0日目すなわちジェブタナ/DFB014の投与当日における腫瘍体積である)
に従ってジェブタナおよびDFB014の腫瘍増殖阻害率%(「TGI」)を決定した。
【0072】
図2は、ジェブタナで治療した腫瘍およびDFB014で治療した腫瘍の22日間にわたる腫瘍体積の変化を示す。ジェブタナで治療した腫瘍では、腫瘍体積は0日目から11日目まで首尾一貫したままであったが12日目から著しく増加し始めた。ジェブタナのTGIは15日目に52%、18日目に131%、22日目に228%であった。
【0073】
対照的に、0日目から9日目まで体積が首尾一貫していたDFB014で治療した腫瘍は、10日目から15日目にサイズが減少した後に体積が増加した。DFB014のTGIは15日目に-40%(マイナスの値は腫瘍収縮を示す)、18日目に-26%、22日目に13%であり、これらは同じ時点でのジェブタナのTGIよりも有意に低かった。この結果は、DFB014の抗腫瘍活性がジェブタナよりも有意に高いことを示している。
【0074】
実施例7:CBZ-mPMのインビボでの腫瘍標的化
蛍光イメージングによりCBZ-mPMのインビボでの腫瘍標的化を調べるために、近赤外染料すなわちCy5.5を、2種類の例示的なCBZ-mPMすなわちDMB025(葉酸を含有していない)およびDFB014(葉酸を含有している)の中に同時負荷して2種類のCy5.5含有CBZ-mPMすなわちCyDMB025およびCyDFB014を調製した。具体的には、出発物質へのCy5.5の添加により、実施例4に記載されているプロトコルに従って2種類のCy5.5含有CBZ-mPMを調製した。
【0075】
2種類のCy5.5含有CBZ-mPMについての特性評価データが以下の表5に示されている。4種類のパラメータすなわち粒径、多分散性指数、Cy5.5濃度およびカバジタキセル濃度により、両方のCBZ-mPMを特性評価した。粒径およびPDIはレーザー粒径分析器(Beckman Delsa(商標)Nano S)により得た。各CBZ-mPM中のカプセル化されているCy5.5およびカプセル化されているカバジタキセルの量はHPLCにより決定した。「A、「B」、「C」、「CBZ」、「サイズ」および「PDI」の定義については、実施例2を参照されたい。
【表5】
【0076】
雌の胸腺欠損ヌードマウス(nu/nu、体重=20~25g)において2種類のCy5.5含有CBZ-mPMの腫瘍標的化を調べた。これらのマウスの皮下にヒト表皮癌異種移植片細胞株、KB細胞(1匹の動物当たり2×107細胞)を埋め込んだ。埋め込み後に、腫瘍を約350mm3の体積に達するように28日間増殖させた。次いでこれらのマウスに全部で2nmolのCy5.5が投与されるように、尾静脈を介してCyDMB025またはCyDFB014を注射した。その後に、様々な時点での蛍光イメージング前に、これらのマウスに2%イソフルランを麻酔した。IVIS3次元イメージングシステムによりインビボ蛍光イメージングを行った。
【0077】
図3は、CyDMB025で治療したマウスおよびCyDFB014で治療したマウスのKB腫瘍における時間の関数としての相対的蛍光のプロットである。図に示すように、Cy5.5含有CBZ-mPMはどちらも約4時間以内にKB腫瘍内に徐々に蓄積した。重要なことに、相対的腫瘍蛍光はCyDMB025を注射したマウスよりもCyDFB014を注射したマウスにおいて首尾一貫して高く、これはCyDFB014がより有効にKB腫瘍に蓄積されていることを示していた。この利点は、CBZ-mPMが葉酸受容体を過剰発現している腫瘍を標的化することを可能にするCyDFB14中の葉酸リガンドに起因していた。
【0078】
この研究からの結果により、CyDFB14が向上した腫瘍標的化を示したことが分かる。
【0079】
実施例8:N-アセチル-ヒスチジンに結合されたリポポリマーの調製
実施例1に記載されている手順から改変された手順に従って、N-アセチル-ヒスチジンに結合されたリポポリマーを調製した。
【0080】
より具体的には、25mgのDSPE-PEG5k-NH2、4.93mgのN-アセチルヒスチジン(「NAcHis」)、5.2mgのDCC、2.9mgのN-ヒドロキシスクシンイミド(「NHS」)および3.1mgの4-ジメチルアミノ-ピリジン(「DMAP」)を0.4mLの無水DMSOに溶解した。この混合物を室温で48時間撹拌した。その後に、2.5mLのDMSOをこの混合物に添加し、その後に濾過を繰り返して副生成物であるジシクロヘキシルカルボジ尿素を除去した。次いで濾液をDMSOに対して3日間透析して(分子量カットオフ3500)、残留するNAcHis、NHSおよびDMAPを除去した。最終生成物すなわちNAcHis-PEG5k-DSPEは凍結乾燥により得た。
【0081】
実施例9:N-アセチル-ヒスチジンに結合されたCBZ-mPMの調製および特性評価
実施例4に記載されている手順を改変することにより、DHB001、CBZ-mPMを含有するPEG5k-DSPEおよびNAcHis-PEG5k-DSPEを調製した。
【0082】
より具体的には、mPEG5k-b-PCL2k(20mg)、NAcHis-PEG5k-DSPE(2mg)、PEG5k-DSPE(1mg)およびカバジタキセル(4mg)を1mLのクロロホルム/メタノール(9:1v/v)に60℃で溶解することにより混合物を最初に調製した。その後に溶媒を回転蒸発により除去して乾燥フィルムまたは乾燥ケーキを得た。次いで水を添加して乾燥フィルムまたは乾燥ケーキを室温で可溶化し、それにより可溶化プロセス中に自然発生的にDHB001を形成した。最後に、0.22μmのPVDF膜のフィルタを用いて濾過してカプセル化されていないカバジタキセルを除去することにより医薬組成物を得た。
【0083】
DHB001についての特性評価データが以下の表6に示されている。それを5つのパラメータすなわち粒径(「サイズ」)、多分散性指数(「PDI」)、カバジタキセル(「CBZ」)濃度、薬物負荷(「DL」)およびカプセル化効率(「EE」)により特性評価した。粒径およびPDIはレーザー粒径分析器(Beckman Delsa(商標)Nano S)により得た。DHB001中のカプセル化されているカバジタキセルの量はHPLCにより決定した。EEおよび薬物負荷は実施例2に示されている式を用いて計算した。
【0084】
表6において、「C」はNAcHis-PEG
5k-DSPEを表し、「サイズ」、「PDI」、「CBZ」、「DL」、および「EE」は前の段落に定義されている。「A」および「B」の定義については実施例2を参照されたい。
【表6】
【0085】
表6中の結果によって示されているように、DHB001は本発明の他のCBZ-mPMのように、予想外に高いカプセル化効率および狭い粒度分布を示した。
【0086】
他の実施形態
本明細書に開示されている特徴の全てをあらゆる組み合わせで1つにまとめてもよい。本明細書に開示されている各特徴を同じ、同等もしくは同様の目的を果たす他の特徴で置き換えてもよい。従って明示的に別段の定めをした場合を除き、開示されている各特徴は一般的な一連の同等もしくは同様の特徴の例にすぎない。
【0087】
さらに上記説明から、当業者であればその趣旨および範囲から逸脱することなく本発明の必須の特性を容易に確認することができ、かつそれを様々な使用および条件に適合させるために本発明の様々な変更および修正をなすことができる。従って他の実施形態も特許請求の範囲内である。