(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】不活性ポリペプチドTRPの医薬製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/16 20060101AFI20240408BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240408BHJP
A61K 47/24 20060101ALI20240408BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240408BHJP
A61K 38/48 20060101ALI20240408BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61K38/16 ZNA
A61K9/10
A61K47/24
A61P43/00 111
A61K38/48
A61K38/18
(21)【出願番号】P 2021577314
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 KR2020007011
(87)【国際公開番号】W WO2020262827
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-02-24
(31)【優先権主張番号】10-2019-0076443
(32)【優先日】2019-06-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521564641
【氏名又は名称】エムイーティ ライフ サイエンス カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】MET Life Sciences Co., Ltd.
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】ユク ジョンイン
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-545374(JP,A)
【文献】特表2007-523050(JP,A)
【文献】特表2009-513642(JP,A)
【文献】Chem Pharm Bull., 2011, Vol.59 No.3, p.321-326
【文献】Phys Chem Chem Phys., 2017, Vol.19 No.45, p.30627-30635
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
次を含む医薬製剤;
(a)細胞膜受容体の助け無しで細胞膜を透過可能にするPTD(protein transduction domain);一つ以上のプロプロテインコンバターゼ切断部位を有し、前記プロプロテインコンバターゼにより切断されて不活性TRD(tissue regeneration domain)を細胞内で活性化させるFAD(furin activation domain);及び前記FADのプロプロテインコンバターゼ切断によって活性化され、細胞内で組織成長又は形成を促進したり、或いは組織再生を誘導するTRD;を含有する不活性ポリペプチドTRP;及び
(b)レシチン、クレモフォール(Cremophor)及びトリグリセリドからなる群から選ばれる分散剤
;
ここで、前記不活性ポリペプチドTRPは、配列番号28のアミノ酸配列で表されるTRP2であることを特徴とする。
【請求項2】
前記レシチンは、卵レシチン、大豆レシチン、ヒマワリ油レシチン、菜種レシチン、綿実レシチン及び動物脂肪由来レシチンからなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項3】
プロプロテインコンバターゼは、フーリンであることを特徴とする、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項4】
経口投与用又は注射用であることを特徴とする、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項5】
前記分散剤は、不活性ポリペプチドTRP100重量部に対して100~50,000重量部で含まれることを特徴とする、請求項1に記載の医薬製剤。
【請求項6】
配列番号28のアミノ酸配列で表されるTRP2 100重量部に対して、レシチン、クレモフォール(Cremophor)及びトリグリセリドからなる群から選ばれる分散剤を100~50,000重量部で含む線維化疾患治療用組成物。
【請求項7】
前記レシチンは、卵レシチン又は大豆レシチンであることを特徴とする、請求項
6に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不活性ポリペプチドTRPを含む医薬製剤に関し、より詳細には、不活性ポリペプチドTRP及びリン脂質分散剤を含む医薬製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
不活性ポリペプチド(TRPs:tissue regenerative polypeptides)は、骨、軟骨などの組織の形成又は再生を促進したり、或いは腎臓、肝、肺、心臓などの臓器の線維化及び硬化を解消したりできる新しいメカニズムを有する物質であり、細胞膜受容体の補助無しで細胞膜を透過可能にするPTD(protein transduction domain);一つ以上のプロプロテインコンバターゼ切断部位を有し、前記プロプロテインコンバターゼにより切断されて不活性TRD(tissue regeneration domain)を細胞内で活性化させるFAD(furin activation domain);及び前記FADのプロプロテインコンバターゼ切断によって活性化され、細胞内で組織の成長又は形成を促進したり或いは組織再生を誘導したりするTRDを含有する構造を有している(大韓民国登録特許第10-00775958号、米国特許登録第8,268,590号)。
【0003】
不活性TRPは、従来に知られたrhBMP又はTGF-βなどのような活性タンパク質とは全く異なる構造及び特性を有している。すなわち、従来に知られたrhBMP類及びTGF-β類はいずれも、人体や哺乳類動物細胞に投入される前に生化学的に活性化されており、3次元構造を有している(Eur J Biochem,237:295,1996;J Mol Biol,287:103,1999)。
【0004】
このため、従来の活性因子であるrhBMP類及びTGF-β類を製造するには、顕著に生産性の低いCHOなどの哺乳類動物細胞組換え培養に依存しなければならないという問題があった。BioPharm社のrhBMP14(MP-52)のように、動物細胞に代えて安価の組換え大腸菌を培養して一部のrhBMPを製造している場合があるが、この場合にも、製造しようとするBMPの生化学的構造に多くの制約がある。すなわち、活性MP-52は組換え大腸菌を用いて製造できるが、活性rhBMP2、rhBMP4、rhBMP7などのように、骨又は軟骨の形成の促進と様々な組織の再生用に人体内に投薬できる他の活性BMP類又は活性TGF-β類は組換え大腸菌を用いて製造し難く、薬理的効果のためには3次又は4次構造が必要である。そのうえ、このような従来組換え成長因子は温度変化に敏感であり、室温で安定性が低いという短所がある(表1(組換え成長因子とTRPとの相違点の比較)参照)。
【0005】
これに対し、不活性TRPは、難溶性の封入体(inclusion body)の形態で存在するので、室温でも非常に高い安定性を有し、酸度変化にも非常に安定している(表1)。
【0006】
【0007】
しかしながら、不活性TRPを治療剤として用いるためには、TRPの難溶性による凝集及び沈殿を抑制して分散性を向上させ、また、低い細胞透過性及び高容量による投与時の細胞毒性を克服しなければならないという問題点があった。しかも、PTDを用いてタンパク質を細胞内に伝達するとき、タンパク質伝達体(cargo)のサイズが非常に制限的であり、10kd以上のタンパク質を伝達し難い(J Cell Sci,129:893-897,2016)。例えば、TRPではTRD及びFADがタンパク質伝達体に該当し、BMP-2は44.7kd、BMP-7は49.3kd、HGFは83.1kdであるため、PTDを用いた治療用タンパク質の細胞内への透過が非常に制限されざるを得ない。したがって、疎水性タンパク質の凝集を解決し、また、サイズの大きい伝達体の細胞内透過性を増大させるための方法を開発することにより、TRPの疾病治療効果を増大させることが可能になるであろう。
【0008】
そこで、本発明者らは、不活性TRPを治療用途に使用するための新しい剤形を開発しようと鋭意努力した結果、不活性TRPを卵レシチン、大豆レシチン、トリグリセリド(glyceride trioleate)、LysoPC(L-α-Lysophosphatidylcholine)、クレモフォール(Cremophor)などのリン脂質分散剤と共に使用する場合に、(1)TRPの凝集が抑制され、(2)タンパク質伝達体(cargo)のサイズが大きいTRPの細胞透過性が増加し、(3)細胞毒性が減少する他、(4)タンパク質の安定性(stability)が増大し、さらに(5)治療効果も向上することを確認し、本発明を完成するに至った。
【発明の概要】
【0009】
本発明の目的は、不活性TRPの凝集を抑制して分散性を確保し、タンパク質医薬品の安定性を増大させ、細胞透過性を改善することにより、治療効率を向上させることができる医薬製剤を提供することにある。
【0010】
本発明の他の目的は、TRP2及びリン脂質分散剤を含む線維化疾患治療用組成物を提供することにある。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、TRP2及びリン脂質分散剤を含む組成物を投与する段階を含む線維化疾患の治療又は予防方法を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、線維化疾患の治療又は予防方法のための、TRP2及びリン脂質分散剤を含む組成物の用途を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、線維化疾患の治療又は予防用薬剤製造のための、TRP2及びリン脂質分散剤を含む組成物の使用を提供することにある。
【0014】
前記目的を達成するために、本発明は、(a)細胞膜受容体の補助無しで細胞膜を透過可能にするPTD(protein transduction domain);一つ以上のプロプロテインコンバターゼ切断部位を有し、前記プロプロテインコンバターゼにより切断されて不活性TRD(tissue regeneration domain)を細胞内で活性化させるFAD(furin activation domain);及び前記FADのプロプロテインコンバターゼ切断によって活性化され、細胞内で組織成長又は形成を促進したり或いは組織再生を誘導するTRDを含有する不活性ポリペプチドTRP;及び、(b)リン脂質分散剤を含む医薬製剤を提供する。
【0015】
本発明は、また、TRP2 100重量部に対して、リン脂質分散剤を100~50,000重量部で含む線維化疾患治療用組成物を提供する。
【0016】
本発明は、また、TRP2 100重量部に対して、リン脂質分散剤を100~50,000重量部で含む組成物を投与する段階を含む線維化疾患の治療又は予防方法を提供する。
【0017】
本発明は、また、線維化疾患の治療又は予防方法のためのTRP2 100重量部に対して、リン脂質分散剤を100~50,000重量部で含む組成物の用途を提供する。
【0018】
本発明は、また、線維化疾患の治療又は予防用薬剤製造のためのTRP2 100重量部に対して、リン脂質分散剤を100~50,000重量部で含む組成物の使用を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】TRPのDLS分析結果(A)、及び細胞内透過性を共焦点蛍光顕微鏡で確認した結果(B~C)を示すものである。
【0020】
【
図2】分散剤を使用していないTRPの凝集効果(B)及び分散剤を使用しているTRP2の分散効果を、DLSを用いて確認した結果である。
【0021】
【
図3】分散剤を使用していないTRP2(TRP2)と卵レシチン(TRP2-EL)、大豆レシチン(TRP2-SL)、Lyso-PC(TRP-LysoPC)、トリグリセリン(TRP2-Glyceryl Trioleate)、DSPE-PEG-アミン(TRP2-DSPE-PEG-amine)を用いてTRPを分散させ、走査顕微鏡で観察した写真である。
【0022】
【
図4】実施例3で使用したTRPと分散剤形のTRP2を293細胞に4時間処理し、共焦点顕微鏡で立体的に観察し(それぞれ、上の写真)、Z-stacksでTRP2の分布を確認した写真である(それぞれ、下の写真)。
【0023】
【
図5】実施例3で使用したTRPと分散剤形のTRP2を293細胞に4時間処理し、透過電子顕微鏡で観察して細胞内透過性を確認した写真である。
【0024】
【
図6】実施例3で使用したTRPと分散剤形のTRP2を293細胞に4時間処理し、エンドソームマーカーであるRab7-mCherry蛍光を共焦点顕微鏡で観察した写真である。
【0025】
【
図7】リン脂質乳化剤を分散剤として含むTRP剤形の細胞毒性を確認した結果を示す。
【0026】
【
図8】分散剤を使用していないTRPの速い凝集を確認し(A)、様々な分散剤を使用した凝集抑制効果を時間、保管温度によってDLS側定した結果を示す(B~D)。
【0027】
【
図9】卵レシチンの濃度を変化させ、保管時間と温度によるTRP2の安定性をDLSで測定した結果を示す。
【0028】
【
図10】様々な量のTRP2を卵レシチンで分散させ、保管時間と温度によるTRP2の安定性をDLSで測定した結果を示す。
【0029】
【
図11】TRP2を卵レシチンを用いて様々な方法で分散させ、108日間冷蔵保管したTRP2が細胞内によく透過することを、共焦点顕微鏡(A)とウェスタンブロット(B)を用いて観察した写真である。
【0030】
【
図12】分散剤を含んでいないTRP2のin vivo動物モデルにおける投与容量による腹膜線維化抑制効能を確認した結果である。
【0031】
【
図13】クレモフォールを含むTRP2剤形のin vivo動物モデルでの投与容量による腹膜線維化抑制効能を確認した結果である。
【0032】
【
図14】卵レシチンを含むTRP2剤形のin vivo動物モデルでの投与容量による腹膜線維化抑制効能を確認した結果である。
【0033】
【
図15】大豆レシチンを含むTRP2剤形のin vivo動物モデルでの投与容量による腹膜線維化抑制効能を確認した結果である。
【0034】
【
図16】分散剤を使用していないTRP2と分散剤を使用しているTRP2の動物実験結果に基づいて50%有効容量(ED50)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
特に断らない限り、本明細書で使われる技術的及び科学的用語はいずれも、本発明の属する技術の分野における熟練した専門家によって通常理解されるのと同じ意味を有する。一般に、本明細書における命名法は、本技術分野でよく知られており、通常用いられているものである。
【0036】
本発明の不活性ポリペプチド(TRPs:tissue regenerative polypeptides)は、細胞膜受容体の補助無しで細胞膜を透過可能にするPTD(protein transduction domain);一つ以上のプロプロテインコンバターゼ切断部位を有し、前記プロプロテインコンバターゼにより切断されて不活性TRD(tissue regeneration domain)を細胞内で活性化させるFAD(furin activation domain);及び前記FADのプロプロテインコンバターゼ切断によって活性化され、細胞内で組織の成長又は形成を促進したり或いは組織再生を誘導するTRDを含有する構造であり、骨、軟骨などの組織の形成又は再生を促進したり、或いは腎臓、肝、肺、心臓などの臓器の線維化及び硬化を解消させることができる新しいメカニズムの物質である(大韓民国登録特許第10-00775958号、米国特許登録第8,268,590号)。
【0037】
不活性TRPは、難溶性の封入体(inclusion body)の形態で存在し、室温でも非常に高い安定性を有し、酸度変化にも非常に安定しているが、不活性TRPを治療剤として使用するためには、TRPの難溶性による凝集及び沈殿を抑制しなければならず、低い細胞透過性、及び高容量で投与時の細胞毒性を克服しなければならないという問題点があった。
【0038】
TRPは、細胞を透過して細胞質内でリフォルディング(refolding)及びプロセシングによって活性化される機序を有する物質であり、薬理効果を上げるためには、ペプチド製剤の凝集を抑制し、物理化学的均等性を確保し、TRP2のように非常に大きい分子量(~50kd)を有するタンパク質の細胞内透過性を増大させることが必要であった。
【0039】
本発明では、不活性TRPの凝集を抑制する剤形を開発するために、様々な凝集抑制剤と分散剤を用いたTRPの凝集の抑制効果を確認した結果、卵レシチン、大豆レシチン、トリグリセリド(glyceride trioleate)、LysoPC(L-α-Lysophosphatidylcholine)、クレモフォール(Cremophor)などのリン脂質分散剤を含有するTRP剤形が、高い凝集抑制効果を有しながら、TRPの細胞透過性を向上させ、細胞毒性を減少させる一方、in vivo効能を増加させることを確認した。
【0040】
したがって、本発明は、一観点において、(a)細胞膜受容体の補助無しで細胞膜を透過可能にするPTD(protein transduction domain);一つ以上のプロプロテインコンバターゼ切断部位を有し、前記プロプロテインコンバターゼにより切断されて不活性TRD(tissue regeneration domain)を細胞内で活性化させるFAD(furin activation domain);及び前記FADのプロプロテインコンバターゼ切断によって活性化され、細胞内で組織成長又は形成を促進したり或いは組織再生を誘導するTRDを含有する不活性ポリペプチドTRP;及び、(b)リン脂質分散剤を含む医薬製剤に関する。
【0041】
本発明において、前記リン脂質分散剤は、大豆レシチン、トリグリセリド(glyceride trioleate)、LysoPC(L-α-Lysophosphatidylcholine)及びクレモフォール(Cremophor)からなる群から選ばれてよいが、これに限定されるものではない。
【0042】
本発明において、前記レシチンは、卵レシチン、大豆レシチン、ヒマワリ油レシチン、菜種レシチン、綿実レシチン、又は動物脂肪から抽出したレシチンなどを使用できるが、これに限定されず、好ましくは、卵レシチン又は大豆レシチンが使用でき、より好ましくは、卵レシチンを使用することができる。
【0043】
本発明の一態様では、DLS(Dynamic Light Scattering、動的光散乱、Otsuka,ELSZ-2000Zs)と共焦点蛍光顕微鏡観察を用いてTRPの凝集現象を確認した。大部分のTRP粒子は、凝集現象によって300μm以上のサイズで存在し、共焦点顕微鏡上でも非常に大きい凝集体として観察された。このため、細胞内に透過される効率が低く、たいてい細胞膜の外側に存在する傾向があった(
図1)。
【0044】
TRPは、細胞を透過して細胞質内でリフォルディング及びプロセシングによって活性化される機序を有する物質であり、薬理効果を上げるためには、ペプチド製剤の凝集を抑制し、物理化学的均等性を確保し、TRP2のように非常に大きい分子量(~50kd)を有するタンパク質の細胞内透過性を増大させなければならないという必要性を確認した。
【0045】
一般の細胞が10~20μmのサイズを有するので、TRPを治療用途に使用するためには、5μm以下の均質なサイズの剤形を作ることが必須であり、患者治療用薬物学的観点では0.5μm以下の均質なサイズを有する剤形が好ましい。
【0046】
本発明の他の態様では、既存にペプチド又は抗体を剤形化するために使用されてきた糖類やアミノ酸、硫酸アンモニウム、乳化剤を用いて、TRP2の凝集抑制効果を確認した。既存の凝集抑制剤では、TRP凝集抑制効果がわずかであることが確認され(表2参照)、10%グリセロール(glycerol)を使用した時にTRPの凝集サイズが多少減る効果を確認したが、この場合にも、大部分が非常に大きいサイズで存在し、TRPは細胞内に透過されるよりは細胞膜の外部に存在した(
図2)。
【0047】
本発明の他の態様では、分散剤であるクレモフォール、卵レシチン、大豆レシチン、LysoPC(Lysophosphatidylcholines)、グリセロールトリオレアート(Glyceryl Trioleate)、DOTAP、DSPE-PEG-アミン及び大豆油を含むTRP剤形のTRP凝集抑制効果を確認し、リン脂質(phospholipid)乳化剤であるクレモフォール、卵レシチン、大豆レシチン、LysoPC及びグリセロールトリオレアートがTRP2の凝集を効果的に抑制してミセル(micell)形態で維持することを確認した。しかし、既存の難溶性低分子化合物に主に使用する大豆油(soybean oil)は、凝集抑制効果が全くないことが確認された(表3、
図2及び
図3)。
【0048】
本発明のさらに他の態様では、凝集抑制効果を確認したクレモフォール、卵レシチン、大豆レシチン、LysoPC及びグリセロールトリオレアートに対して、TRPの細胞膜透過性増大効果を共焦点蛍光顕微鏡分析及び透過電子顕微鏡を用いて確認し、TRPだけを投与した細胞では、TRPがほとんど細胞膜に存在するが、乳化剤(クレモフォール、卵レシチン(EL)、大豆レシチン(SL)、LysoPC及びグリセロールトリオレアート)が添加されたTRP2剤形では、粒子のサイズが減って概ね均質な形態を示し、細胞膜を通過して細胞質内から観察され(
図4及び
図5)、TRP2剤形が凝集抑制効果による粒子サイズの減少によってTRPの細胞膜透過性が非常に増大したということを確認した。このような分散剤を含有するTRP2剤形は、エンドソーム(endosome)によって細胞質内部に効果的に伝達されることを確認した(
図6)。
【0049】
本発明のさらに他の態様では、クレモフォール又は卵レシチンを含むTRP剤形に対してJuliStage自動細胞イメージングシステム(Automated cell imaging system)を用いて293A細胞の細胞毒性を分析したが、分散剤を使用していない場合に、使用量(1μg及び5μg)が増加するにつれて細胞毒性を示し、卵レシチン(EL)、大豆レシチン(SL)、トリグリセリド(Glyceryl trioleate)及びLysoPCの場合は、使用量が増加しても細胞毒性を示さないことを確認した(
図7)。クレモフォールでは、分散剤を使用していない場合に比べては細胞毒性が少なかったが、高容量(5μg)では細胞毒性を示した。したがって、卵レシチン、大豆レシチン(SL)、トリグリセリド(Glyceryl trioleate)及びLysoPCが使用に適するTRP剤形であることを確認した。
【0050】
本発明のさらに他の態様では、TRP2及び卵レシチンを含む剤形安定性を確認するために、-20℃で凍結させた後、常温に移して静置し、時間によって凝集抑制能を維持するか否かを確認した。分散剤を含有していないTRP2の場合は、数分内に急に凝集が形成され、時間が経過するにつれて凝集塊のサイズが増加していることを確認し、卵レシチンを含有するTRP2剤形の場合は、56日が経っても平均サイズが150nm以下である分散を示し、凝集抑制能が初期と同一に維持されていることを確認した(
図8)。また、分散剤を含有する場合、TRPの様々な保管温度で非常に長い期間において安定している(stable)ことを確認した。
【0051】
本発明のさらに他の態様では、卵レシチンを様々な濃度で使用した時とTRP2の濃度を様々な濃度で使用した時に、保管条件と長期間保存による分散性が維持されることを確認した(
図9及び
図10)。なお、分散剤を含むTRP2が様々な保管条件で増大した細胞内透過性が維持されることを確認した(
図11)。
【0052】
本発明のさらに他の態様では、分散剤(クレモフォール、卵レシチン又は大豆レシチン)を含むTRP剤形を動物モデルに投与した時に、腹膜透析(PD,Peritoneal Dialysis)動物モデルにおいて、分散剤を含有するTRP2剤形のin vivo効果を確認した。分散剤を含有しないTRP2に比べて、分散剤を含有する剤形が、動物モデルの腹膜線維化の抑制において、顕著に低いED50を示すことを確認した(表5~表9、及び
図12~
図16)。
【0053】
本発明の剤形は、注射用であることを特徴とし、前記卵レシチン、大豆レシチン、トリグリセリド、クレモフォールのような分散剤は、不活性ポリペプチドTRP100重量部に対して100~50,000重量部で含まれることを特徴とし、好ましくは、TRP100重量部に対して200~10,000重量部で含まれてよく、より好ましくは、TRP100重量部に対して500~5,000重量部で含まれてよい。
【0054】
本発明の不活性TRPは、TRDをコードするDNAの5’の前にFADをコードする塩基配列、PTDの塩基配列、タギング(tagging)のための塩基配列及び分離・精製のための4個以上のヒスチジン(histidine)をコードする塩基配列が挿入されている組換えベクター及び前記組換えベクターで形質転換されたバクテリアを培養して[PTD-FAD-TRD]ポリペプチドを発現させた後、培養液に尿素溶液を加えて前記ポリペプチドの2次元及び3次元構造を除去したり或いは1次元線形構造に変形させた後、[PTD-FAD-TRD]ポリペプチドを精製して製造でき、例えば、大韓民国公開特許2006-0106606に記載された方法で製造することができる。
【0055】
本発明において、前記TRDは、配列番号1~13からなる群から選ばれるアミノ酸配列で表示されることを特徴とし得るが、細胞内で組織成長又は形成を促進したり或いは組織再生を誘導する活性を示すタンパク質である限り、その制限がない。例えば、BMPsの他、TGF-β遺伝子群(superfamily)、β-NGF(β-神経成長因子)、β-アミロイド、ADAMs(a disintergrin and metalloproteinaselike)、TNF-α、MMPs(matrix metalloproteinases)、インスリン様成長因子-1(IGF-1)、肝細胞成長因子(hepatocyte growth factor)、ディッコフ遺伝子(Dickkopf)からなる群から選ばれるポリペプチドがそれに当たる。
【0056】
本発明において、前記FADは、配列番号14~26からなる群から選ばれるアミノ酸配列で表示されることを特徴とし得るが、プロプロテインコンバターゼ切断部位を有し、細胞内でプロプロテインコンバターゼにより切断されて前記TRDを活性化させる限り、その制限がない。また、前記PTDは、TAT、ショウジョウバエ由来Antpペプチド、VP22ペプチド及びmph-1-btmからなる群から選ばれることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0057】
本発明では、前記PTDとしてTAT(YGRKKRRQRRR:配列番号27)を使用したが、これに限定されるものではない。例えば、ショウジョウバエ由来Antpペプチド、VP22ペプチド(Gene Therapy,8:1,Blackbirch Press,2001)、mph-1-btm(米国特許2005/0147971)、PTD-3、PTD-4(Cancer Research,2001,61,474-477)、TAT48-60、ペネトラチン(Penetratin)、ポリアルギニン(polyarginine)、CADY(FEBS Letters 2013,587-1702)などのようなPTDを使用することもできる。また、前記タギング塩基配列でX-pressのタグ(tag)を使用したが、Flag、Myc、Ha、GSTなどを使用することもできる。
【0058】
本発明に係る不活性TRPの製造方法において、前記精製段階は、前記ポリペプチドをニッケル-チタニウムビーズに結合させ、これを同一の溶液で洗浄した後、イミダゾール(Imidazole)と高塩度緩衝溶液を用いて溶出することを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。
【0059】
本発明において、前記プロプロテインコンバターゼは、フーリンであることを特徴とし得るが、これに限定されるものではない。例えば、PC7、PC5/6A、PC5/6B、PACE4、PC1/3、PC2、PC4などでよい。
【0060】
本発明に係る不活性TRPは、従来の活性BMP類が共通に有する3次元的立体規則性を有さず、それ自体では生化学的活性を有していないが、人体や哺乳類生体内に投薬される場合に、FADのプロプロテインコンバターゼ切断部位が生体細胞内に存在するプロプロテインコンバターゼにより切断されながらTRDが活性化され、前記活性化されたTRD部分が細胞外に分泌されながら期待する薬効を示すことになる。本発明に係るTRPは、PTD、FAD及びTRDが融合されているポリペプチド形態であることが好ましい。本発明に係るTRPは、人体の骨、軟骨などの組織の形成又は再生を促進したり、或いは腎臓、肝、肺、心臓などの臓器の線維化及び硬化を解消させ、さらに、元の組織の再生を誘導する機能を有する。
【0061】
本発明に係るTRPsは、実用的に組換え大腸菌のようなバクテリアの培養により、プロテインの生化学的構造に制約を受けない上に実用的に大量生産でき、生体に投与される前には生化学的に不活性状態を維持するので、従来に知られた類似用途の活性タンパク質(rhBMP類、TGF-β類など)に比べて、生産費用が数十分の一に止まり、分離、精製過程と取扱、保管、投薬過程が格段に簡単で便利である。
【0062】
また、本発明に係る不活性TRPは、細胞膜受容体の補助無しで細胞膜を透過可能にするPTD、一つ以上のプロプロテインコンバターゼ切断部位を有し、前記プロプロテインコンバターゼにより切断されて不活性TRDを細胞内で活性化可能にさせるFAD、及び該FADのプロプロテインコンバターゼ切断によって細胞内で活性化されて組織成長や形成又は組織再生を促進するTRDを含有するポリペプチドであり、それ自体では活性を有しないが、生物体や細胞に透過された後、ほぼ全ての細胞に多量で存在するプロプロテインコンバターゼによりFADが切断されることにより、前記TRDが活性化され、活性化されたタンパク質が細胞外に分泌され、薬効を発揮する。このような、本発明に係るTRPは、製造費用が高く、保管及び取扱がし難く、受容体を必須とする既存の活性BMP類タンパク質が有する短所を全て解決することができる。
【0063】
本発明に係る不活性TRPを有効成分として含有する組成物は、通常の投与方法、投与形態及び治療目的に応じて、前記有効成分を薬剤学的に許容可能な賦形剤又はマトリックスである担体と共に混合して希釈したり、或いは容器形態の担体内に封入させることが好ましい。また、他の骨欠陥治療に有益な別の薬剤と配合して使用することができる。このとき、目的とするpH、等張性、安定性などを有する生理的に受容可能なタンパク質組成物の製法は、本発明の分野で従う通常の技術範囲におけるものを用いることができる。
【0064】
本発明において、前記マトリックスは、生物接合性、生物分解性、機械的特性、美容的外観及び接触特性に応じて、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、ハイドロキシアパタイト、ポリ乳酸、ポリ無水物のような生物分解性及び化学的物質;骨又は皮膚コラーゲン、その他純粋タンパク質又は細胞のマトリックス成分のような生物分解性及び生物学的物質;焼結したハイドロキシアパタイト、バイオガラス、アルミネート又はその他セラミックのような非生物分解性及び化学性物質;ポリ乳酸、ハイドロキシアパタイト、コラーゲン及びトリカルシウムホスフェートのような上述した物質の配合物を使用することが好ましい。ただし、これらの担体に本発明が制限されるものではない。
【0065】
本発明において、賦形剤は、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン(polyvinylpyrrolidone)、ステアリン酸マグネシウム、水、ヒドロキシ安息香酸メチル(methylhydroxybenzoate)、ヒドロキシ安息香酸プロピル(propylhydroxybenzoate)、タルク(talc)、鉱物油などを使用することができる。
【0066】
一方、本発明に係る不活性TRPを含有する組成物は、骨損傷部位に投与するために粘性型で注射したり、或いはカプセル化して使用することが好ましい。本発明に係る組成物の投与量は、使用される賦形剤やマトリックスなどの担体の種類と患者の形成された骨の重量、骨損傷部位、損傷した骨の状態、患者の年齢、性別及びダイエット、感染疑心度、投与時間及びその他臨床的要因を考慮して調節され得るので限定されないが、通常、公知された有効量は、骨の重さを考慮して適正量を連続して又は分割して投与し、骨の成長を観察しつつ追加投与を決定してもよい。
【0067】
本発明のさらに他の態様では、リン脂質分散剤(クレモフォール、卵レシチン又は大豆レシチン)を含むTRP剤形を動物モデルに投与したとき、腹膜透析(PD,Peritoneal Dialysis)動物モデルから、分散剤を含有するTRP2剤形のin vivo効果を確認した。分散剤を含有していないTRP2に比べて分散剤を含有する剤形が、動物モデルの腹膜線維化の抑制において、顕著に低いED50を示すことを確認した(表5~表9、及び
図12~
図16)。
【0068】
したがって、本発明は、他の観点において、TRP2 100重量部に対して、リン脂質分散剤を100~50,000重量部で含む線維化疾患治療用組成物に関する。
【0069】
本発明は、さらに他の観点において、TRP2 100重量部に対して、リン脂質分散剤を100~50,000重量部で含む組成物を投与する段階を含む線維化疾患の治療又は予防方法に関する。
【0070】
本発明は、さらに他の観点において、線維化疾患の治療又は予防方法のためのTRP2 100重量部に対して、リン脂質分散剤を100~50,000重量部で含む組成物の用途に関する。
【0071】
本発明は、さらに他の観点において、線維化疾患の治療又は予防用薬剤の製造のためのTRP2 100重量部に対して、リン脂質分散剤を100~50,000重量部で含む組成物の使用に関する。
【0072】
本発明において、前記線維化疾患は、肝線維化、筋線維化、肺線維化、腎臓線維化、心臓線維化、腹膜線維化、線維化による様々な眼科疾患などを上げることができる。このような線維化抑制効果は、慢性疾患の他にも、肝癌のような様々な癌に適用されてよい。なお、BMP-7がTGF-beta信号を抑制するので(Nature Med 2003,9,964-968)PD1/PDL-1抗体のような免疫関門抗癌治療剤と併せて使用することができる(Nature 2018,554,538-543)。また、様々な代謝疾患(metabolic diseases)、炎症、高リン酸血症(hyperphosphatamia)、アルポート症候群(Alport syndrome)のような疾患に使用されてよい。
【0073】
本発明において、前記リン脂質分散剤は、レシチン、クレモフォール(Cremophor)、トリグリセリド及びLyso-PC(Lysophosphatidylcholines)からなる群から選ばれることを特徴とし、前記レシチンは、卵レシチン又は大豆レシチンであることを特徴とし得る。
【実施例】
【0074】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示するためのものであり、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解釈されないことは、当業界における通常の知識を有する者にとって明らかであろう。
【0075】
特に、下記の実施例では、TRPを構成するTRDとしてhBMP2及びhBMP7だけを例示するが、hBMP3、hBMP4、hBMP6、hBMP14(MP-52)のようなヒト由来BMPの他、ネズミ、ウシ、ブタなどのような哺乳類及びその他高等動物由来BMPも使用可能であることは、当業者には明らかであろう。BMPsの他にも、TGF-β遺伝子群(superfamily)、β-NGF(β-神経成長因子)、β-アミロイド、ADAMs(a disintergrin and metalloproteinase-like)、エクトジスプラシン-A(Eda-1)のようなTNF-α群、MT1-MMP(membrane type-matrix metalloproteinase)とMMP-2を含むMMPs群、インスリン様成長因子-1(IGF-1)などのようなポリペプチドを使用することも可能であることも、当業者に明らかであろう。
【0076】
また、下記の実施例では、TRPを構成するFADとしてBMPのプロドメインだけを例示するが、プロプロテインコンバターゼ切断部位を有し、細胞内でプロプロテインコンバターゼにより切断されてTRDを活性化させる限り、その制限がないということも当業者には明らかであろう。
【0077】
また、下記の実施例では、リン脂質及び超音波を用いてTRPタンパク質を噴射するが、薬物の製造に一般に用いる高圧均質器(high pressure homogenizer)又は分散器(dispersers)を用いることができるということは、当業者に明らかであろう。
【0078】
実施例1:TRPの凝集及び細胞透過性確認
TRPの凝集現象を確認するために、DLS(Dynamic Light Scattering,動的光散乱、Otsuka,ELSZ-2000Zs))と共焦点蛍光顕微鏡観察を行った。
【0079】
使用したTRPは、TRDとしてBMP7配列を有する下記TRP2を使用した。
【0080】
【0081】
形質転換大腸菌の封入体(inclusion body)から分離精製したTRP2を、DLSを用いて粒子のサイズを測定した。その結果、
図1Aに示すように、大部分のTRP粒子は凝集現象によって非常に大きくて様々な粒子サイズを示し、場合によっては300μm以上のサイズで存在した。
【0082】
このようなTRP2 100ngを293A細胞に4時間処理し、細胞を10%ホルマリンに固定し、TRP2を観察するためにX-press単一クローン抗体(ThermoFisher R910-25)とAlexa-594(ThermoFisher A32744)で標識された二次抗体を用いて染色をし、共焦点顕微鏡(Carl Zeiss,LSM700)で観察した。
【0083】
その結果、
図1Bの低倍率共焦点顕微鏡上でも非常に大きい凝集体として観察され、立体的な分布様相を調べるための多面撮影及び立体分析(Z-stacks)を試みた。その結果、
図1Cのように、大部分のTRP2が細胞の内部ではなく細胞膜の外部に凝集した形態で存在した。すなわち、TRP2は細胞内に透過される効率が低く、細胞膜外側に存在する傾向があった。
【0084】
TRPは、細胞を透過して細胞質内でリフォルディング及びプロセシングによって活性化される機序を有する物質であり、薬理効果を上げるためにはペプチド製剤の凝集を抑制して物理化学的均等性を確保し、TRP2のように非常に大きい分子量(~50kd)を有するタンパク質の細胞内透過性を増大させなければならない必要性を確認した。
【0085】
実施例2:既存のペプチド及び抗体医薬品剤形を用いたTRP凝集抑制効果分析
既存にペプチドや抗体を剤形化するために使用してきた糖類やアミノ酸、硫酸アンモニウム、乳化剤を用いて、TRP2の凝集抑制効果を確認した。
【0086】
【0087】
このために、PBSに1mg/ml濃度の組換えタンパク質TRP2を、表2に記載の様々な分散剤の濃度で希釈して100μg/mlにし、室温で1時間放置した後にDLSを測定した。この時、各分散剤の効果は、DLSにおいて安定した粒子の平均サイズを基準に半定量的(semi-quantitative)に評価した(0,>4um;1+,<4um;2+,<3um;3+,<2um;4+,<1um;5+,250nm)。なお、分散効果があると判断される場合に、さらにゼータ電位(Zeta potential)を測定して粒子の安定性を測定した。
【0088】
【0089】
その結果、表3に示すように、既存の組換えタンパク質や抗体に使用する凝集抑制剤の場合、TRP凝集抑制効果がわずかであることが確認されたし、Tween80の場合、凝集効果があることが確認されたが、ゼータ電位が非常に低いため(1.63mV)、粒子の安定性が非常に低いことを確認した。
【0090】
なお、組換えタンパク質や抗体の凝集を防止するために、最も一般的な10%グリセロール(glycerol)を使用した場合に、TRPの凝集サイズを多少減らす効果を確認したが、この場合にも、ほとんどが非常に大きいサイズで存在し、TRP2の主要分散剤としては使用し難いということが分かった。
【0091】
実施例3:リン脂質(phospholipid)乳化剤(Emulsifier)を分散剤として使用したTRP剤形の凝集抑制効果分析
乳化剤であるクレモフォールEL(Merck,238470)、卵レシチン(BOC sciences,BS18J04211)、大豆レシチン(TCI,L0023)、LysoPC(Lysophosphatidylcholines)(Avanti,830071P)、グリセロールトリオレアート(Glyceryl Trioleate)(Sigma,T7140)、DOTAP(Avanti,890890P)、DSPE-PEG-アミン(Avanti,880128P)及び大豆油(CJ第一製糖製)を含むTRP剤形のTRP凝集抑制効果を確認した。
【0092】
そのために、PBS中1mg/ml濃度である組換えタンパク質TRP2を10%グリセロール溶液で超音波処理し、表3に表記された様々な分散剤を分散させた後、再び弱い超音波を用いてミセル(micelle)形成を誘導した。このとき、0.1%濃度の乳化剤を用いて分散乳化剤の適正濃度を確認した。TRP2を分散させた後、1時間室温に放置して凝集を誘導し、DLSを用いて平均粒子のサイズ及び分散を確認した。なお、このような分散剤の凝集抑制効果を観察するために、走査電子顕微鏡(Carl Zeiss、モデル名Merlin)で観察した。
【0093】
【0094】
凝集抑制
その結果、表4及び
図2に示すように、リン脂質(phospholipid)乳化剤であるクレモフォール(TRP-Cre)10%、又は0.1%の卵レシチン(TRP2-EL)、大豆レシチン(TRP2-SL)、LysoPC(TRP2-LysoPC)及びグリセロールトリオレアート(TRP2-Glyceryl trioleate)を使用して分散させる場合に、DLS上でTRP2の凝集を効果的に抑制し、平均サイズが250nm以下であるミセル(micelle)の形態で維持し、優れた分散効果を示すことを確認した。しかし、既存の難溶性低分子化合物に主に使用する大豆油(soybean oil)は、凝集抑制効果がないことが確認された。
【0095】
また、
図3に示すように、走査電子顕微鏡により、リン脂質乳化剤は、一定のサイズの安定した分散を直接確認することができた(TRP2/TRP2-LysoPC剤形x10,000、スケールバー1um;その他剤形x20,000、スケールバー20nm)。
【0096】
したがって、既存の組換えタンパク質や抗体とは違い、リン脂質(phospholipid)乳化剤がTRPを効果的に分散させ得る凝集抑制分散剤として使用可能であることを確認した。
【0097】
実施例4:分散剤を含むTRP剤形の細胞膜透過性増大効果分析
TRPは、BMP-7の前駆体タンパク質医薬品(pro-drug)として開発した。したがって、TRPが効果的な薬理学的作用を示すためには、エンドソーム(endosome)輸送によって細胞質内に効果的に伝達されることが非常に重要である。したがって、TRP2の優れた分散効果を示す剤形がTRP2の細胞質内透過性を増進させることを確認しようとした。実施例3で凝集抑制効果を確認したクレモフォール、卵レシチン、大豆レシチン、LysoPC及びグリセロールトリオレアートに対して、TRPの細胞膜透過性増大効果を共焦点蛍光顕微鏡分析を用いて確認した。そのために、卵レシチン(EL)、大豆レシチン(SL)、LysoPC及びグリセロールトリオレアート分散剤は、0.1%の濃度となるように製造し、クレモフォール(Cre)は10%を使用した。各分散剤にTRP2が100ug/mlとなるように超音波を用いて分散させ、293A細胞に各6時間処理して固定し、実施例1のような方法でX-press単一クローン抗体(ThermoFisher R910-25)とAlexa-594(ThermoFisher A32744)で標識された二次抗体を用いて染色し、共焦点顕微鏡(Carl Zeiss,LSM700)多面(multi-layer)撮影及び立体分析を行った。
【0098】
その結果、
図4Aに示すように、分散剤を使用していないTRP2は、実施例1と類似に、凝集されたタンパク質の大部分が細胞膜の外部に付着していた。25%のグリセロールを分散剤として使用した場合、細胞質内透過が多少増加したが、殆どが細胞膜の外側に存在し、大きい効果はなかった(
図4B)。しかし、実施例3で優れたタンパク質分散効果を示したリン脂質(phospholipid)乳化剤である卵レシチン(TRP2-EL)、大豆レシチン(TRP2-SL)、グリセロールトリオレアート(TRP2-Glyceryl trioleate)、クレモフォール(TRP-Cre)及びLysoPC(TRP2-LysoPC)は、細胞質内に非常に多量のタンパク質が伝達されることが確認できた(
図4C~
図4G)。しかし、非水溶性薬物分散のために一般に使用する大豆油は、細胞質内透過性を増加させなかった(
図4H)。
【0099】
また、TRPタンパク質の細胞透過性を直接確認するために、実施例1におけるようにタンパク質を2.5%酢酸ウラニル(Electron microscopy sciences,#22400)で染色し、各分散剤形を用いてタンパク質を分散させた。各分散剤形に入っている50ngのTRP2を293A細胞に処理し、レジンに包埋して電子顕微鏡(JEOL,JEM1011)で観察した。
【0100】
その結果、
図5に示すように、分散剤を使用していないTRP(TRP2)は、細胞膜外部表面に凝集した形態で存在し、分散剤形を使用した場合、エンドソーム(endosome)を通じて細胞質によく伝達されたことが確認できた(赤い円で表示)。
【0101】
このような結果は、クレモフォール、卵レシチン、大豆レシチン、LysoPC及びグリセロールトリオレアートを含むTRP2剤形が、凝集抑制効果の他、TRPの細胞膜透過性を顕著に改善したことも意味する。
【0102】
実施例5:分散剤を含んでいるTRP剤形のエンドソーム(endosome)を用いた細胞内タンパク質伝達増大効果確認
実施例3及び実施例4から、リン脂質分散剤が凝集抑制効果の他にTRP2の細胞伝達も顕著に増大させることを確認した。なお、走査電子顕微鏡写真から、細胞質内に伝達されたTRPは2層の膜構造によって囲まれていることが確認できた。このような点は、リン脂質分散剤を用いたTRP2の細胞質内への効率的伝達がエンドソーム経路を利用するであろうとの可能性を提示する。これを確認するために、Alexa Fluor 488(励起494nm、放出519nm)タンパク質標識キット(Invitrogen,MP10235)を用いて、メーカーの指示に従ってTRPタンパク質に蛍光で標識した。蛍光標識されたTRPは、卵レシチン(TRP2-EL)、大豆レシチン(TRP2-SL)、グリセロールトリオレアート(TRP2-Glyceryl trioleate)及びLysoPC(TRP2-LysoPC)を用いて、実施例4のように分散ミセルを製造した。なお、エンドソームを蛍光で確認するために、mCherry(励起587nm、放出610nm)蛍光遺伝子とエンドソームマーカーであるRab7a(Ras-related protein Rab-7a)遺伝子の融合発現ベクター(fusion expression vector)をpcDNA3.1(Invitrogen)に挿入し、mCherry蛍光とヒトRab7a遺伝子を含むmCherry-Rab7a発現ベクター(配列番号29)を作製した。
【0103】
前記作製されたmCherry-Rab7a発現ベクターを293A細胞に形質注入(transfection)して発現を誘導し、48時間後に、蛍光に標識されたTRP2 100ngを4時間処理し、共焦点顕微鏡で観察した。このとき、細胞核はNucBlue(Invitrogen,NucBlue Live ReadyPobes,R37605)で染色した。
【0104】
その結果、
図6Aに示すように、分散剤を使用していないTRP2は、非常に少ない量のTRP2が細胞質内に伝達され、しかも、それらはエンドソームマーカーであるRab7と殆ど関連がないことが分かった(スケールバー、5um)。しかし、様々なリン脂質剤形によって分散されたTRPは、実施例4と類似に、細胞質内に多い量が伝達され、Rab7aのような部位(co-localization)に存在することが分かった(
図6B)。したがって、卵レシチン、大豆レシチン、グリセロールトリオレアート及びLysoPCを用いたミセル分散により、既存のTRP2とは違い、エンドソームを用いてTRPを細胞質内に効果的に伝達できることが分かる。
【0105】
実施例6:分散剤を含んでいるTRP剤形の細胞毒成分析
実施例1及び実施例4から、非水溶性TRPタンパク質は細胞膜表面に付着して存在することが分かった。なお、実施例5から、分散剤形を用いたミセル形成は、エンドソームによって細胞質に伝達される点が分かった。このような点は、分散剤を使用していないTRPを過量投与する場合に、細胞膜を破壊するため、細胞毒性があり、分散剤形を使用する場合に、エンドソーム再使用(endosomal recycling)によって細胞膜損傷がない可能性を暗示する。したがって、分散剤による細胞毒性減少効果を確認するために、各TRP剤形に対してJuliStage自動細胞イメージングシステム(Automated cell imaging system)を用いて、293A細胞(ThermoFisher,R70507)に対して細胞毒性を分析した。この時、293A細胞を24ウェルプレートに5,000個の細胞を敷き、16時間の間に細胞が付着するようにした。その後、様々な形態で分散されたTRP2を様々な濃度で処理し、細胞増殖を観察し、JuliStageに装着された実時間顕微鏡を用いて細胞毒性を分析した。
【0106】
その結果、
図7Aに示すように、分散させていないTRP2は、約2cm
2の面積を有する24ウェル細胞培養プレートで1ug以上の高容量を処理する場合に細胞毒性を示した。しかし、0.25%の卵レシチン(TRP2-EL)、大豆レシチン(TRP2-SL)、グリセロールトリオレアート(TRP2-Glyceryl trioleate)及びLysoPC(TRP2-LysoPC)は、20ugを処理した場合にも細胞毒性がなかった。ただし、10%クレモフォールに分散したTRP2は、5ug以上を処理すると、若干の毒性を示した。したがって、卵レシチン(TRP2-EL)、大豆レシチン(TRP2-SL)、グリセロールトリオレアート(TRP2-Glyceryl trioleate)及びLysoPC(TRP2-LysoPC)は細胞毒性を減少させることを確認した。
【0107】
実施例7:卵レシチンを含むTRP剤形の安定性確認
タンパク質医薬品において、タンパク質の安定性(stability)は、再現性、許可、安全性、薬物効果に影響を及ぼす非常に重要な課題である。既存のTRP2の安定性を確認するために、-20℃で凍結させた後、常温に移して静置し、時間によって凝集抑制能を維持するか否か確認した。その結果、表1に記述されたTRPの疎水性(hydrophobic)物理化学的特性による凝集効果により、非常に短時間(10分以内)でタンパク質凝集が起きた(
図8A)。
【0108】
実施例3~5に記述された分散剤形の効果の他、タンパク質の安定性に及ぼす影響を調べるために、0.1%卵レシチンにTRP2(TRP2-EL)を分散させ、時間別にタンパク質薬物の安定性をDLSで評価した。
【0109】
その結果、
図8Aに示すように、卵レシチンに分散したTRP2は、56日間以上も非常に安定した状態を維持した。
【0110】
タンパク質医薬品の安定性は、保管温度に大きい影響を受ける。このような影響性を確認するために、TRP2を0.1%の卵レシチンに100ug/mlの濃度で分散させ、様々な保管温度及び期間による安定性を確認した。
【0111】
その結果、
図8Cに示すように、-70℃~25℃の様々な温度及び保管期間に、平均粒子サイズが200nm以下である非常に安定した剤形を維持することを確認した。特に、4℃冷蔵状態では108日以上非常に安定した形態が持続でき、卵レシチンがTRP2タンパク質凝集を抑制する分散効果が非常に持続的で且つ安定的であることを確認した。
【0112】
卵レシチン他に別の分散剤のTRP2安定性を確認するために、10%クレモフォール、0.1%大豆レシチン(TRP2-SL)、0.5%グリセロールトリオレアート(TRP2-Glyceryl trioleate)及び0.5% LysoPC(TRP2-LysoPC)を用いてTRP2を分散させ、それぞれ、分散の直後(Day 0)、30日、70日の間に4℃で冷蔵保管し、粒子の安定性をDLSを用いて測定した。
【0113】
その結果、
図8Dに示すように、各剤形は、卵レシチンと類似に、70日以上非常に安定した状態を維持することが分かった。
【0114】
医薬品において、様々な濃度の卵レシチンを使用する。卵レシチンの濃度による剤形の安定性を確認するために、0.5%の卵レシチンにTRP2を100μg/mlの濃度で分散させ、様々な保管温度と期間によるタンパク質粒子の安定性をDLSを用いて測定した。
【0115】
その結果、
図9に示すように、0.5%の卵レシチンを使用した時にも、0.1%卵レシチンを使用した
図8Cの結果と極めて類似に、様々な保管条件に関係なくタンパク質分散性が安定していることが分かった。
【0116】
また、タンパク質医薬品投与量による凝集抑制効果を確認するために、0.1%の卵レシチンにTRP2を100~500μg/mlの様々な濃度で分散させ、4℃冷蔵状態で様々な期間の間に保管し、TRPの濃度による卵レシチンの分散性を確認した。
【0117】
その結果、
図10に示すように、0.1%の卵レシチンを使用する場合、400μg/mlの濃度でも20日以上非常に安定した状態を維持することが分かった。しかし、500μg/ml以上のTRPを使用する場合には、7日後に若干の凝集が発生することが分かった。
【0118】
このような分散剤による長期保管後にもTRPの細胞透過性を維持するかどうか確認しようとした。そのために、0.1%の卵レシチンに分散して108日間冷蔵保管されたTRP2を、293A細胞に4時間処理し、共焦点顕微鏡で観察した。
【0119】
その結果、
図11Aに示すように、卵レシチンによって分散して108日間保管されたTRPの細胞内透過性がそのまま維持されていることが分かった。なお、様々な濃度の卵レシチンと保管温度によるTRP2タンパク質の変性の有無を確認するために、分散タンパク質(TRP2)と細胞に処理されたTRP2(TRP2 transduction)を確認した。
【0120】
その結果、
図11Bに示すように、様々な保管温度、卵レシチンの濃度でTRP2タンパク質は全く変成しないことが分かった。
【0121】
実施例8:TRP2剤形のin vivo効果確認
分散剤(クレモフォール、卵レシチン又は大豆レシチン)を含むTRP剤形を動物モデルに投与した時に、治療効果の変化を確認した。以上の実施例から、卵レシチン、クレモフォール、大豆レシチン、グリセロールトリオレアート及びLysoPCのようなリン脂質(phospholipid)を含むTRP2タンパク質の分散性増大、安全性(safety)、細胞透過効率増大による薬物効果増進、安定性(stability)を増進させるのに優れた効果があることが確認できた。このような効果による治療効果増進を確認するために、腹膜線維化モデルを使用した。
【0122】
動物実験のために体重250~280gの雄Sprague-Dawleyラットの腹腔に腹膜透析用カテーテル(Access technologies,Rat-O-Port,7frx24” silicone catheter with round tip)を挿入した。手術して1週後から、対照群は20mlの生理食塩水、実験群は4.25%高濃度のブドウ糖が含まれた腹膜透析液を毎日投与した。TRP2剤形による腹膜線維症治療効果を確認するために、様々な容量のTRP2を腹膜透析液と混合して注入した。このとき、TRP2タンパク質治療剤は、1週に1回投与した。腹膜透析液投与4週後に各動物を犠牲させて腹膜を採り、10%中性ホルマリンに固定してパラフィンに包埋し、マッソンのトリクロム(Masson’s Trichrome)染色により、組織学的線維化程度を調べるために、最小30部位で線維化の厚さを測定した。
【0123】
既存の分散していないTRP2を確認した時、表5及び
図12に示すように、正常対照群(con)腹膜は、約32μmの厚さを有するが、4週間の高濃度腹膜透析液(PDF)を投与すれば腹膜線維化によって230μm以上と厚くなることを確認した。この過程で、既存のTRP2を混合して投与した場合、500μg/kgの容量において線維化が約1/2程度に減少することが分かった。
【0124】
クレモフォール、卵レシチン、大豆レシチンのような分散剤による治療効果を確認するために、10%のクレモフォール、0.1%卵レシチン、0.1%の大豆レシチンにTRP2を分散させ、様々な投与量を腹膜透析液と混合して週1回投与した。
【0125】
その結果、表6~表8及び
図13~
図15に示すように、分散剤を使用する場合、TRP2による腹膜線維化抑制効果が非常に増加することが分かった。このような分散剤によるTRP2治療効果を総合すると、表9及び
図16に示すように、50%治療効果容量(Effective Dose 50,ED50)が、クレモフォール、卵レシチン及び大豆レシチンを分散剤として使用した時に治療効果がそれぞれ約37倍、約18倍及び約8倍増加することが分かった。
【0126】
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明に係る医薬製剤を用いると、不活性TRPの凝集抑制によって分散性が抑制され、細胞透過性が増加し、細胞毒性が減少する他に、タンパク質医薬品の安定性が増大し、治療効果も向上する効果がある。
【0132】
以上、本発明内容の特定の部分を詳細に記述してきたところ、当業界における通常の知識を有する者にとって、このような具体的記述は単に好ましい実施の態様に過ぎず、これによって本発明の範囲が制限されるものでない点は明らかであろう。したがって、本発明の実質的な範囲は、添付する請求項とそれらの等価物によって定義されるといえよう。
【配列表】