IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 沢井製薬株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-顆粒及びそれを用いた製剤 図1
  • 特許-顆粒及びそれを用いた製剤 図2
  • 特許-顆粒及びそれを用いた製剤 図3
  • 特許-顆粒及びそれを用いた製剤 図4
  • 特許-顆粒及びそれを用いた製剤 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】顆粒及びそれを用いた製剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 9/16 20060101AFI20240408BHJP
   A61K 47/10 20170101ALI20240408BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20240408BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20240408BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
A61K9/16
A61K47/10
A61K47/12
A61K47/14
A61K47/32
A61K47/38
A61K9/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022507220
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009297
(87)【国際公開番号】W WO2021182469
(87)【国際公開日】2021-09-16
【審査請求日】2022-09-09
(31)【優先権主張番号】62/988,077
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000209049
【氏名又は名称】沢井製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】吉原 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】橋本 翔太
(72)【発明者】
【氏名】木全 崚太
【審査官】榎本 佳予子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-256169(JP,A)
【文献】特開平04-217913(JP,A)
【文献】特開2015-199721(JP,A)
【文献】特開2017-001999(JP,A)
【文献】特開2000-084927(JP,A)
【文献】特開2015-071542(JP,A)
【文献】特開2005-075826(JP,A)
【文献】特開2004-323409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 31/00-33/44
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核物質と、前記核物質の表面に配置された溶融成分層と、前記溶融成分層の表面に配置された原薬含有層と、を含み、
前記溶融成分層は、第1の溶融成分を含み、原薬を含まない下地層であり、
前記原薬含有層は、原薬と、第2の溶融成分、又は、前記第1の溶融成分に対して相溶性を有するポリマーと、を含み、
前記第1の溶融成分は、モノステアリン酸グリセリン、マクロゴール、ラウロマクロゴール及びステアリン酸からなる群から選択され、
前記第2の溶融成分は、100℃以下の融点を有する常温で固体の添加剤であり、
前記第2の溶融成分は、前記第1の溶融成分とは異なる添加剤である、顆粒。
【請求項2】
前記第1の溶融成分がステアリン酸又はラウロマクロゴールである場合に、前記相溶性を有するポリマーは、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル及びポリビニルピロリドンからなる群から選択される、請求項1に記載の顆粒。
【請求項3】
前記核物質は、球形であり、
前記核物質の粒径は、前記原薬の粒径、及び前記第2の溶融成分の粒径よりも大きい、請求項1に記載の顆粒。
【請求項4】
前記核物質は、表面に細孔を有し、
前記溶融成分層は、前記第1の溶融成分が前記細孔にも配置された構造を有する、請求項1に記載の顆粒。
【請求項5】
請求項1乃至の何れか一に記載の顆粒と、
医薬的に許容された1つ以上の添加剤と、を含む、製剤。
【請求項6】
前記添加剤は、崩壊剤である、請求項に記載の製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高含有量で原薬を含む顆粒及びそれを用いた製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品製剤の製造性を向上させるために、原薬は種々の添加剤と造粒される。造粒法は溶剤の有無によって湿式造粒と乾式造粒に区別される。水に不安定な原薬を造粒する場合には、溶剤を用いない乾式造粒法が選択され、乾式造粒法の中でも添加剤を熱で融かし、バインダーとして用いる溶融造粒法が知られている。例えば、特許文献1~4及び非特許文献1には、溶融造粒法を用いて、核物質の表面に原薬を含む層を配置した核粒子が記載されている。
【0003】
一方、溶融造粒法は溶融成分の物性に大きく影響されるため、造粒物の粒径のコントロールが難しい。また、溶融造粒法は溶剤の代わりに溶融成分を使用するため、造粒物における原薬の含有率を高くすることが難しく、その結果、製剤が必然的に大型化し、服薬アドヒアランスが低下するという問題が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-1999号公報
【文献】特開2015-199721号公報
【文献】特開2015-71542号公報
【文献】特開平6-256169号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Chem. Pharm. Bull. 65, 726-731 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一実施形態は、溶融造粒法を用いて原薬の含有率が高く、粒径の均一性が高い顆粒を提供することを課題の一つとする。または、本発明の一実施形態は、原薬の含有率が高く、粒径の均一性が高い顆粒を含む製剤を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一実施形態によると、核物質と、核物質の表面に配置された溶融成分層と、溶融成分層の表面に配置された原薬含有層と、を含み、溶融成分層が、第1の溶融成分を含み、原薬含有層が、原薬と、第2の溶融成分、又は、前記1の溶融成分に対して相溶性を有するポリマーと、を含む、顆粒が提供される。
【0008】
第2の溶融成分は、第1の溶融成分の融点よりも低く、且つ100℃以下の融点を有してもよい。
【0009】
第2の溶融成分は、第1の溶融成分の融点よりも高く、且つ100℃以下の融点を有してもよい。
【0010】
第1の溶融成分がステアリン酸又はラウロマクロゴールである場合に、相溶性を有するポリマーは、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル及びポリビニルピロリドンからなる群から選択されてもよい。
【0011】
核物質は、球形であり、核物質の粒径は、原薬の粒径、及び第2の溶融成分の粒径よりも大きくてもよい。
【0012】
核物質は、表面に細孔を有し、溶融成分層は、第1の溶融成分が細孔にも配置された構造を有してもよい。
【0013】
本発明の一実施形態によると、上記何れかの顆粒と、医薬的に許容された1つ以上の添加剤と、を含む、製剤が提供される。
【0014】
添加剤は、崩壊剤であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一実施形態によると、原薬の含有率が高く、粒径の均一性が高い顆粒が提供される。または、本発明の一実施形態によると、原薬の含有率が高く、粒径の均一性が高い顆粒を含む製剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係る核粒子を含む顆粒を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係る核粒子を含む顆粒を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る核粒子を含む顆粒の製造方法を説明するフロー図である。
図4】本発明の一実施形態に係る核粒子を含む顆粒の製造方法を説明するフロー図である。
図5】(a)は実施例1の顆粒の走査型電子顕微鏡(SEM)像であり、(b)は実施例2の顆粒のSEM像であり、(c)は実施例3の顆粒のSEM像であり、(d)は実施例4の顆粒のSEM像であり、(e)は比較例1の顆粒のSEM像であり、(f)は比較例2の顆粒のSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して本発明に係る顆粒及びそれを用いた製剤について説明する。なお、本発明の顆粒及びそれを用いた製剤は、以下に示す実施の形態及び実施例の記載内容に限定して解釈されるものではない。なお、本実施の形態及び後述する実施例で参照する図面において、同一部分又は同様な機能を有する部分には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。
【0018】
図1は、本発明の一実施形態に係る顆粒10を示す模式図(断面図)である。顆粒10は、核物質11と、核物質11の表面に配置された溶融成分層13と、溶融成分層13の表面に配置された原薬含有層15と、を含む。
【0019】
核物質11は、溶融成分層13及び原薬含有層15を配置するための担体であり、顆粒10を製造する際に、溶融成分層13及び原薬含有層15を配置するための核となる物質である。溶融成分層13との密着性を得るため、核物質11として、吸着剤を用いる。核物質11としては、例えば、アンバーライトIRP-64、イオン交換樹脂、カオリン、カルメロースカルシウム、含水二酸化ケイ素、ケイ酸マグネシウム、軽質無水ケイ酸、軽質流動パラフィン、ケイソウ土、合成ケイ酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、脱脂綿、炭酸マグネシウム、沈降炭酸カルシウム、デキストリン、二酸化ケイ素、複合ケイ酸アルミニウムカリウム粒、ベントナイト、ポリエチレン繊維、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、薬用炭等で構成された吸着剤を用いることができる。
【0020】
核物質11は、溶融成分層13及び原薬含有層15を均一に配置するために球形であることが好ましい。また、原薬を付着させる観点から、核物質11の粒径は、原薬の粒径に対して大きな粒径を有する必要がある。核物質11の粒径は、例えば、原薬の粒径の2倍以上であるが、これに限定されるものではない。
【0021】
溶融成分層13は、核物質11と原薬含有層15との間に配置される層である。溶融成分層13は、原薬含有層15を配置するための下地層である。上述した特許文献では、核物質に溶融成分と原薬を直接配置していたが、原薬自体に核物質への付着性が弱い、又は核物質が原薬を担持する能力が低い場合には、原薬に対して溶融成分を必然的に多く配合する必要があり、原薬を高含有量で含む顆粒を得ることはできなかった。これに対し、本発明では、顆粒10において、溶融成分層13を核物質11の表面に配置することにより、溶融成分層13により多くの原薬を付着させることができ、顆粒10における原薬の含有量を効果的に高めることができる。
【0022】
上述したように、溶融成分層13を構成する溶融成分(第1の溶融成分)は、油性の添加剤から選択される。溶融造粒法により溶融成分層13を形成するため、第1の溶融成分は、常温で固体の添加剤から選択される。溶融造粒法に一般に用いられる温度範囲を考慮すると、第1の溶融成分は100℃以下の融点を有する添加剤から選択されることが好ましく、原薬が変性したり類縁物質の顕著な増加が認められたりしない温度範囲に融点を有する添加剤から選択されることが好ましい。このような特性を有する添加剤として、例えば、モノステアリン酸グリセリン、マクロゴール(ポリエチレングリコール)、ラウロマクロゴール及びステアリン酸等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。また、第1の溶融成分は、原薬との接触により原薬が変性したり類縁物質の顕著な増加が認められたりしない添加剤から選択されることが好ましい。
【0023】
溶融成分層13は、原薬含有層15を配置可能な量で核物質11の表面に配置されていればよく、核物質11の表面の少なくとも一部に配置されていればよい。溶融成分層13が核物質11の表面の90%以上を覆っていることが好ましく、核物質11の表面の全面を覆っていることがより好ましい。溶融成分層13の厚さは特には限定されないが、1つの顆粒10当たりの原薬含有量を高める観点から、溶融成分層13の厚さは可能な限り薄い方が好ましい。一実施形態において、溶融成分層13を構成する第1の溶融成分は、核物質11がその表面に有する細孔にも配置されることが好ましい。一実施形態において、核物質11と溶融成分層13との界面においては、溶融成分層13を構成する溶融成分が核物質11の表面から入り込んだ構造を有してもよい。この場合、核物質11と溶融成分層13とは明確な界面を有さなくてもよい。溶融成分が核物質11の表面のみならず、核物質11の表面に接続する細孔にも配置されることにより、溶融成分層13に核物質11へのアンカー効果が付与され、核物質11への溶融成分層13の密着性が向上する。
【0024】
原薬含有層は、原薬と、第2の溶融成分又はポリマーと、を含む層であり、溶融成分層13の表面に配置される。図1は、原薬含有層15が原薬と、第2の溶融成分を含む顆粒10を示す。図2は、原薬含有層25が原薬と、第1の溶融成分に対して相溶性を有するポリマーを含む顆粒20を示す。顆粒10及び顆粒20において、原薬は特には限定されない。顆粒10及び顆粒20の製造方法においては、溶剤、特に水を用いないことから、水に不安定な原薬を好適に用いることができる。
【0025】
原薬含有層15において、第2の溶融成分は、原薬どうしを結着させるとともに、原薬を溶融成分層13の表面に結着させるための添加剤である。溶融造粒法により原薬含有層15を形成するため、第2の溶融成分は、常温で固体の添加剤から選択される。溶融造粒法に一般に用いられる温度範囲を考慮すると、第2の溶融成分は100℃以下の融点を有する添加剤から選択されることが好ましく、原薬が変性したり類縁物質の顕著な増加が認められたりしない温度範囲に融点を有する添加剤から選択されることが好ましい。また、第2の溶融成分として、第1の溶融成分の融点よりも低い融点を有する添加剤を選択する場合、溶融造粒法により原薬含有層15を形成する際に、溶融成分層13の表面構造に大きな影響を与えることなく、又は溶融成分層13の表面構造を変更することなく、溶融成分層13の表面に原薬含有層15を配置することができる。一方、第2の溶融成分として、第1の溶融成分の融点よりも高い融点を有する添加剤を選択する場合、溶融造粒法により原薬含有層15を形成する際に、溶融成分層13の表面がわずかに溶けて、溶融成分層13と原薬含有層15との界面が融合して、溶融成分層13に対する原薬含有層15の付着性を向上させることができる。
【0026】
第2の溶融成分として用いる添加剤としては、例えば、ステアリン酸、モノステアリン酸グリセリン、マクロゴール(ポリエチレングリコール)、カルナウバロウ、硬化油、ラウロマクロゴール、パルミチン酸及びセチルアルコール等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。第2の溶融成分は、原薬との接触により原薬が変性したり類縁物質の顕著な増加が認められたりしない添加剤から選択されることが好ましい。なお、核物質11に付着させる観点から、溶融成分の粒径は、核物質11の粒径よりも小さい必要がある。また、原薬含有層15に含まれる溶融成分(第2の溶融成分)は、溶融成分層13に含まれる溶融成分(第1の溶融成分)と同じ添加剤であってもよく、異なっていてもよい。
【0027】
一実施形態において、顆粒20において、第2の溶融成分に代えて、第1の溶融成分に対して相溶性を有するポリマーを用いることができる。第1の溶融成分に対してポリマーが「相溶性を有する」とは、第1の溶融成分とポリマーとが分離しない状態を示す。または、ポリマーが第1の溶融成分に分散した状態、若しくは第1の溶融成分がポリマーに分散した状態を示す。一実施形態において、溶融成分とポリマーとが分離しない状態は、溶融成分とポリマーと混合して、溶融成分を溶融させた際の混合物(液体又は流動性を有する半固体)の粘度の上昇により確認することができる。第1の溶融成分に対して相溶性を有するポリマーを用いることで、第2の溶融成分を用いるよりも溶融成分層13表面の粘度がさらに向上し、より安定的に原薬含有層25を付着させることができる。第1の溶融成分と相溶性を有するポリマーの組合せとしては、第1の溶融成分がステアリン酸又はラウロマクロゴールである場合に、ポリマーとしてアミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル又はポリビニルピロリドンを好ましく組合せることができる。より好ましくは、第1の溶融成分がステアリン酸である場合に、ポリマーとしてアミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー若しくはポリビニルピロリドンを組合せることができる。または、第1の溶融成分がラウロマクロゴールである場合に、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー又はヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルを好ましく組合せることができる。
【0028】
第2の溶融成分に代えて、第1の溶融成分に対して相溶性を有するポリマーを用いる場合、顆粒20において、第1の溶融成分の含有量はポリマーの含有量以上であることが好ましい。例えば、顆粒20において、第1の溶融成分とポリマーの配合比率は20:1~1:1であることが好ましく、4:1~1:1であることがより好ましい。
【0029】
原薬含有層15及び原薬含有層25は、主成分として、原薬を含む。原薬含有層15及び原薬含有層25には、原薬と、第2の溶融成分又はポリマーとの質量の合計に対して、50質量%以上の原薬が含まれることが好ましい。換言すれば、原薬含有層15及び原薬含有層25においては、溶融成分層13の表面に原薬含有層15又は原薬含有層25を形成可能な範囲で第2の溶融成分若しくはポリマーを少なく含有させることが好ましい。これにより、顆粒10及び顆粒20における原薬の含有量を効果的に高めることができる。
【0030】
[顆粒10の製造方法]
図3は、本発明の一実施形態に係る核粒子を含む顆粒の製造方法を説明するフロー図である。核物質11と第1の溶融成分131を混合し(S101)、核物質11の表面に第1の溶融成分131を配置する。また、溶融造粒法により、第1の溶融成分131を溶融させて、核物質11の表面に溶融成分層13を形成する(S103)。このとき、核物質11と第1の溶融成分131を第1の溶融成分131の融点以上の温度に加熱する。溶融造粒法に一般に用いられる温度範囲を考慮すると、加熱温度は100℃以下である。また、第1の溶融成分131が核物質11の表面のみならず、核物質11の表面に接続する細孔にも配置されることにより、溶融成分層13に核物質11へのアンカー効果を付与して、核物質11への溶融成分層13の密着性を向上させることが好ましい。
【0031】
溶融成分層13を配置した核物質11を、原薬151と第2の溶融成分153とを混合し(S105)、溶融成分層13の表面に原薬151と第2の溶融成分153を配置する。また、溶融造粒法により、第2の溶融成分153を溶融させて、溶融成分層13の表面に原薬含有層15を形成する(S107)。このとき、溶融成分層13を配置した核物質11と、原薬151と第2の溶融成分153を、第2の溶融成分153の融点以上の温度に加熱する。溶融造粒法に一般に用いられる温度範囲を考慮すると、加熱温度は100℃以下である。
【0032】
一実施形態において、第2の溶融成分153として、第1の溶融成分131の融点よりも低い融点を有する添加剤を選択する場合、溶融造粒法により原薬含有層15を形成する際に、第2の溶融成分153の融点よりも高く、且つ第1の溶融成分131の融点よりも低い温度に加熱することにより、溶融成分層13の表面構造に大きな影響を与えることなく、又は溶融成分層13の表面構造を変更することなく、溶融成分層13の表面に原薬含有層15を形成することができる。一方、第2の溶融成分153として、第1の溶融成分131の融点よりも高い融点を有する添加剤を選択する場合、溶融造粒法により原薬含有層15を形成する際に、第2の溶融成分153の融点よりも高い温度に加熱することにより、溶融成分層13の表面がわずかに溶けて、溶融成分層13と原薬含有層15との界面が融合して、溶融成分層13に対する原薬含有層15の付着性を向上させることができる。なお、原薬151が変性したり類縁物質の顕著な増加が認められたりしない温度範囲で溶融造粒することが好ましい。
【0033】
[顆粒20の製造方法]
前述のとおり、第2の溶融成分153に代えて、第1の溶融成分に対して相溶性を有するポリマーを使用することができる。図4は、本発明の一実施形態に係る核粒子を含む顆粒20の製造方法を説明するフロー図である。核物質11の表面に溶融成分層13を形成する(S103)までは、上述した顆粒10の製造方法と同様の製造方法であるため、詳細な説明は省略する。
【0034】
溶融成分層13を配置した核物質11を、原薬151と、第1の溶融成分に対して相溶性を有するポリマー253とを混合し(S205)、溶融成分層13の表面に原薬151とポリマー253を配置する。また、溶融造粒法により、第1の溶融成分131を溶融させて、溶融成分層13の表面に、原薬151とポリマー253が第1の溶融成分131に分散した原薬含有層25を形成する(S207)。このとき、溶融成分層13を配置した核物質11と、原薬151とポリマー253を、第1の溶融成分131の融点以上の温度に加熱する。溶融造粒法に一般に用いられる温度範囲を考慮すると、加熱温度は100℃以下である。
【0035】
本実施形態において、溶融成分層13の表層に位置する第1の溶融成分131が溶融し、原薬151とポリマー253は、溶融成分層13の表層に分散することにより、原薬含有層25が形成される。本実施形態においては、ポリマー253が第1の溶融成分に対して相溶性を有するため、原薬151とポリマー253が第1の溶融成分131と分離することなく、原薬含有層25を形成することができる。本実施形態においては、第1の溶融成分に対して相溶性を有するポリマーを用いることで、第2の溶融成分を用いるよりも溶融成分層13表面の粘度がさらに向上し、より安定的に原薬含有層25を付着させることができる。
【0036】
[製剤]
顆粒10又は顆粒20を用いた製剤を製造することができる。例えば、顆粒10又は顆粒20と医薬的に許容された公知の1つ以上の添加剤とを混合して医薬組成物としてもよい。また、医薬組成物を打錠して錠剤としてもよい。また、崩壊剤を添加した医薬組成物を打錠して口腔内崩壊錠としてもよい。また、医薬組成物をカプセルに封入してカプセル剤としてもよい。
【実施例
【0037】
[実施例1]
核物質として含水二酸化ケイ素(富士シリシア化学株式会社、Sylopure(登録商標)P100)と、第1の溶融成分としてモノステアリン酸グリセリン(理研ビタミン株式会社、リケマール(登録商標)S-100P)を用いた。含水二酸化ケイ素300gとモノステアリン酸グリセリン480gを高速撹拌造粒機(深江工業株式会社、ハイスピードミキサ、FS―GS―5J)に投入し、アジテータ回転数 300rpm、チョッパ回転数 1,500rpm、水温75.0℃~79.0℃で11分間造粒した。このとき、添加剤の温度は69.5℃~73.0℃であった。
【0038】
得られた溶融成分層が表面に配置された核物質195.0gと、原薬としてシタグリプチンリン酸塩372.2g、及び第2の溶融成分としてステアリン酸(日油株式会社、植物)27.0gを、高速撹拌造粒機(深江工業株式会社社、ハイスピードミキサ、FS―GS―5J)に投入し、アジテータ回転数 150rpm~300rpm、チョッパ回転数 1,500rpm、水温74.9℃~75.0℃で22分間造粒した。このとき、添加剤の温度は68.4℃~70.3℃であった。
【0039】
得られた顆粒の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図5(a)に示す。また、顆粒の粒度を測定した。粒度測定は、レーザー回折・散乱法測定装置(ベックマン・コールター株式会社、LS 13 320)を用いて行った。測定した粒度を表1に示す。
【0040】
[実施例2]
実施例2として、実施例1の溶融成分層が表面に配置された核物質を用いて、転動造粒機を用いて溶融造粒を行った。実施例1の溶融成分層が表面に配置された核物質97.5gと、原薬としてシタグリプチンリン酸塩186.1g、及び第2の溶融成分としてステアリン酸(日油株式会社、植物)22.5gを、転動造粒機(株式会社パウレック、MP-01)に投入し、ロータ回転数 200rpm~500rpm、給気風量 0.40L/min~0.55L/min、給気温度89.5℃~90.9℃で105分間造粒した。このとき、添加剤の温度は55.4℃~65.7℃であった。
【0041】
得られた顆粒のSEM像を図5(b)に示す。また、実施例2の顆粒の粒度を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
実施例1及び実施例2の顆粒は、原薬の含有比率が60%程度であり、高い含有量を実現可能であることが明らかとなった。また、図5(a)及び図5(b)の結果より、実施例1及び実施例2の顆粒は、丸い粒子であり、核物質を用いているため、顆粒の粒径の均一性が高いことが明らかとなった。図5(a)を参照すると、実施例1の顆粒は、表面に凹凸が存在することが確認された。表面に凹凸を有する実施例1の顆粒は、導水性の向上が期待される。また、図5(b)を参照すると、実施例2の顆粒は、表面が滑らかであることから、コーティングを施すことも検討可能である。
【0044】
[核物質の検討]
実施例1の製造方法において、核物質を変更して、核物質の表面に溶融成分層を形成した。含水二酸化ケイ素として富士化学工業株式会社のフジシル(登録商標)、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムとして富士化学工業株式会社のノイシリン(登録商標)US2、結晶セルロースとして旭化成株式会社のセルフィア(登録商標)CP102、乳糖と結晶セルロースの混合物としてフロイント産業株式会社のノンパレル(登録商標)105、を用いた。検討結果を表2に示す。
【表2】
【0045】
表2の結果より、含水二酸化ケイ素、メタケイ酸アルミン酸マグネシウムを核物質として用いる場合では、核物質が細孔を有する吸着剤であるため、表面に溶融成分層を形成できたが、その他の核物質では、表面に溶融成分層を形成できずペースト状になってしまい、溶融成分層の形成は困難であった。
【0046】
[第1の溶融成分の検討]
実施例1の製造方法において、第1の溶融成分を変更して、核物質の表面に溶融成分層を形成した。第1の溶融成分として、マクロゴール6000(日油株式会社、マクロゴール6000(P))、ラウロマクロゴール(日本サーファクタント工業株式会社)又はステアリン酸(日油株式会社、植物)を用いた。検討結果を表3に示す。
【表3】
【0047】
常温で固体の油性の添加剤は、何れも溶融成分層の形成が可能であることが明らかとなった。
【0048】
[第2の溶融成分の検討]
実施例1の製造方法において、第2の溶融成分を変更して、溶融成分層の表面に原薬含有層を形成した。第2の溶融成分として、ステアリン酸(日油株式会社、植物)、マクロゴール6000(日油株式会社、マクロゴール6000(P))、カルナウバロウ(日本ワックス社、ポリシングワックス105)を用いた。検討結果を表4に示す。
【表4】
【0049】
常温で固体の油性の添加剤は、何れも原薬含有層の形成が可能であることが明らかとなった。
【0050】
[第2の溶融成分に代えて使用するポリマーの検討]
第1の溶融成分1g、ポリマー1gを混合後、80℃で2時間加熱した。また第1の溶融成分2gも同様に80℃、2時間加熱し、溶融成分のみとポリマーを混合した溶融成分の粘度の比較を手触りで評価した。溶融成分としてラウロマクロゴール(日本サーファクタント工業株式会社)、ステアリン酸(日油株式会社)又は硬化油(フロイント産業株式会社、ラブリワックス)を用いた。また、ポリマーとして、アミノアルキルメタクリレートコポリマーE(エボニック社、オイドラギット(登録商標)EPO)、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマーRL(エボニック社、オイドラギット(登録商標)RLPO)、メタクリル酸コポリマーL(エボニック社、オイドラギット(登録商標)L100-55)、ヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステル(信越化学工業株式会社、Shin-Etsu AQOAT(登録商標)HPMC AS LF)、又はポリビニルピロリドン(BASF社、K30)を用いた。
【0051】
評価した結果を表に示す。
【表5】

【0052】
溶融成分としてラウロマクロゴールを用いた場合、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、メタクリル酸コポリマー、又はヒプロメロース酢酸エステルコハク酸エステルは粘度が上昇し、相溶性を示すことが明らかとなった。特に、メタクリル酸コポリマーはラウロマクロゴールに対する優れた相溶性を示すことが明らかとなった。また、溶融成分としてステアリン酸を用いた場合、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、アンモニオアルキルメタクリレートコポリマー、又はポリビニルピロリドンは粘度が上昇し、相溶性を示すことが明らかとなった。特に、アミノアルキルメタクリレートコポリマー及びポリビニルピロリドンはステアリン酸に対する優れた相溶性を示すことが明らかとなった。一方、溶融成分として硬化油を用いた場合は、何れのポリマーも相溶性を示さなかった。
【0053】
[実施例3]
第2の溶融成分にえて、第1の溶融成分と相溶性を有するポリマーを使用することで顆粒が製造可能であるか検討した。核物質として含水二酸化ケイ素(富士シリシア化学株式会社、Sylopure(登録商標)P100)500.0gと、第1の溶融成分としてステアリン酸(日油株式会社、植物)750.0gを用いた。含水二酸化ケイ素とステアリン酸を高速撹拌造粒機(深江工業株式会社、ハイスピードミキサ、FS―GS―5J)に投入し、アジテータ回転数 300rpm、チョッパ回転数 500rpm、水温78.4℃~82.6℃で17分間造粒した。
【0054】
得られた溶融成分層が表面に配置された核物質160.0gと、原薬としてシタグリプチンリン酸塩496.4g、及び第1の溶融成分と相溶性の良いポリマーとしてアミノアルキルメタクリレートコポリマーE(Evonik社、オイドラギットEPO)48.0gを、転動流動層造粒機(株式会社社パウレック、MP-01)に投入し、ロータ回転数 400rpm、給気温度85℃で25分間造粒した。このとき、添加剤の温度は62℃であった。
【0055】
得られた顆粒の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図5(c)に示す。また、顆粒の粒度を測定した。粒度測定は、レーザー回折・散乱法測定装置(ベックマン・コールター株式会社、LS 13 320)を用いて行った。測定した粒度はD10=165.0μm、D50=207.0μm、D90=276.0μmであった。
【0056】
実施例3の顆粒は、原薬の含有比率が60%程度であり、原薬の高い含有量を実現可能であることが明らかとなった。
【0057】
[実施例4]
原薬としてシタグリプチンリン酸塩にえて、フェキソフェナジン塩酸塩を使用することで顆粒が製造可能であるか検討した。実施例3の溶融成分層が表面に配置された核物質120.0gと、原薬としてフェキソフェナジン塩酸塩240.0g、及び第1の溶融成分と相溶性の良いポリマーとしてアミノアルキルメタクリレートコポリマーE(Evonik社、オイドラギットEPO)40.0gを、転動流動層造粒機(株式会社社パウレック、MP―01)に投入し、ロータ回転数 400rpm、給気温度80℃で45分間造粒した。このとき、添加剤の温度は約60℃であった。
【0058】
得られた顆粒の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図5(d)に示す。また、顆粒の粒度を測定した。粒度測定は、レーザー回折・散乱法測定装置(ベックマン・コールター株式会社、LS 13 320)を用いて行った。測定した粒度はD10=169.4μm、D50=215.3μm、D90=320.6μmであった。
【0059】
[比較例1]
薬物高含量顆粒の製造に第2の溶融成分が必須であるか検討するため、第2の溶融成分を用いずに溶融造粒を行った。核物質として含水二酸化ケイ素(富士シリシア化学株式会社、Sylopure(登録商標)P100)436gと、第1の溶融成分としてステアリン酸(日油株式会社、植物)654gを用いた。含水二酸化ケイ素とステアリン酸を高速撹拌造粒機(深江工業株式会社社、ハイスピードミキサ、FS―GS―5J)に投入し、アジテータ回転数 300rpm、チョッパ回転数 500rpm、水温75.7℃~78.5℃で15分間造粒した。このとき、添加剤の温度は69.1℃~71.9℃であった。
【0060】
得られた溶融成分層が表面に配置された核物質40.0gと、原薬としてシタグリプチンリン酸塩124.1gを、転動流動層造粒機(株式会社社パウレック、MP―01)に投入し、給気温度85.0℃で25分間造粒した。このとき、添加剤の温度は62℃であった。
【0061】
得られた顆粒の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図5(e)に示す。核物質の表面に溶融成分層が配置されているため、溶融成分層上に原薬が若干付着するものの、第2の溶融成分がないため、薬物高含量顆粒は得られなかった。
【0062】
[比較例2]
薬物高含量顆粒の製造に第1の溶融成分が必須であるか検討するため、第1の溶融成分を用いずに溶融造粒を行った。核物質として含水二酸化ケイ素(富士シリシア化学株式会社、Sylopure(登録商標)P100)と、第2の溶融成分としてアミノアルキルメタクリレートコポリマーE(Evonik社、オイドラギットEPO)を用いた。含水二酸化ケイ素16gとアミノアルキルメタクリレートコポリマーE12gとシタグリプチンリン酸塩124.1gを転動流動層造粒機(株式会社社パウレック、MP-01)に投入し、給気温度85.0℃で25分間造粒した。このとき、添加剤の温度は62℃であった。
【0063】
得られた顆粒の走査型電子顕微鏡(SEM)像を図5(f)に示す。第1の溶融成分がないため、原薬は核物質上に全く積層されなかった。
【符号の説明】
【0064】
10 顆粒、11 核物質、13 溶融成分層、15 原薬含有層、20 顆粒、25 原薬含有層、131 第1の溶融成分、151 原薬、153 第2の溶融成分、253 ポリマー
図1
図2
図3
図4
図5