(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】窒化リチウム製造装置および窒化リチウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/06 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
C01B21/06 B
(21)【出願番号】P 2022515255
(86)(22)【出願日】2021-03-12
(86)【国際出願番号】 JP2021010158
(87)【国際公開番号】W WO2021210314
(87)【国際公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2020073635
(32)【優先日】2020-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】松原 哲也
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-201511(JP,A)
【文献】特開2015-074566(JP,A)
【文献】特開2002-003209(JP,A)
【文献】特開2001-048504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素雰囲気下でリチウム部材を加熱することにより前記リチウム部材を窒化させて窒化リチウムを製造するための窒化リチウム製造装置であって、
前記リチウム部材の表面に無機物粒子を供給するための粉供給手段と、
前記リチウム部材の表面に付着した前記無機物粒子を前記リチウム部材に埋め込むための圧延手段と、
前記リチウム部材の窒化反応をおこなうための反応槽と、
前記リチウム部材を加熱するための加熱手段と、
前記反応槽内の露点を制御するための雰囲気制御手段と、
前記反応槽内を冷却するための雰囲気冷却手段と、
を備え
、
前記加熱手段は、前記リチウム部材を局所的に加熱することが可能な局所加熱手段を含み、
前記雰囲気制御手段および前記雰囲気冷却手段を用いて前記反応槽内の露点および温度を制御しながら、前記加熱手段を用いて前記リチウム部材を加熱することにより前記リチウム部材を窒化させる窒化リチウム製造装置。
【請求項2】
請求項
1に記載の窒化リチウム製造装置において、
前記局所加熱手段が伝導伝熱加熱および放射伝熱加熱から選択される少なくとも一種の加熱手段を含む窒化リチウム製造装置。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の窒化リチウム製造装置において、
前記反応槽内に窒素ガスを導入するためのガス供給部をさらに備える窒化リチウム製造装置。
【請求項4】
請求項1
乃至3
のいずれか一項に記載の窒化リチウム製造装置において、
前記反応槽内の窒素ガスを排出するためのガス排出部をさらに備える窒化リチウム製造装置。
【請求項5】
請求項1
乃至4のいずれか一項に記載の窒化リチウム製造装置において、
前記雰囲気冷却手段が熱交換器を含む窒化リチウム製造装置。
【請求項6】
窒化リチウムを製造するための製造方法であって、
請求項1
乃至5のいずれか一項に記載の窒化リチウム製造装置の前記反応槽内にリチウム部材を配置する工程(A)と、
前記反応槽内を窒素雰囲気にするとともに、前記雰囲気制御手段および前記雰囲気冷却手段を用いて前記反応槽内の露点および温度を制御しながら、前記加熱手段を用いて前記リチウム部材を加熱することにより前記リチウム部材を窒化させる工程(B)と、
を備える窒化リチウムの製造方法。
【請求項7】
請求項
6に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)における前記反応槽内の露点が0℃未満である窒化リチウムの製造方法。
【請求項8】
請求項
6または
7に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)の前に、前記リチウム部材に無機物粒子を埋め込む工程(C)をさらに備える窒化リチウムの製造方法。
【請求項9】
請求項
8に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記無機物粒子が窒化リチウム粉末である窒化リチウムの製造方法。
【請求項10】
請求項
8または
9に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記無機物粒子および前記リチウム部材の合計を100質量%としたとき、
前記無機物粒子の埋め込み量が0.1質量%以上10質量%以下である窒化リチウムの製造方法。
【請求項11】
請求項
6乃至
10のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)における前記加熱手段の加熱温度が30℃以上である窒化リチウムの製造方法。
【請求項12】
請求項
6乃至
11のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)における前記反応槽内の雰囲気温度が20℃以上40℃以下である窒化リチウムの製造方法。
【請求項13】
請求項
6乃至
12のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)における前記リチウム部材の実体温度が30℃以上である窒化リチウムの製造方法。
【請求項14】
請求項
6乃至
13のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記リチウム部材が金属リチウム箔である窒化リチウムの製造方法。
【請求項15】
請求項
14に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記金属リチウム箔の厚みが3mm以下である窒化リチウムの製造方法。
【請求項16】
請求項
6乃至
15のいずれか一項に記載の窒化リチウムの製造方法において、
前記工程(B)の後に、窒化された前記リチウム部材を粉砕して粉状にする工程(D)をさらに含む窒化リチウムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化リチウム製造装置および窒化リチウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化リチウムは、リチウムイオン伝導度が室温で10-3Scm-1を示す高イオン伝導体として知られており、例えば、リチウムイオン電池用の固体電解質や電極材料としての応用が検討されている。
【0003】
窒化リチウムは水分と接触すると容易に分解してしまうため、その合成方法は多くの制約を受けており、通常は金属リチウムと窒素ガスとの反応で窒化リチウムが製造されている。
【0004】
特許文献1(特開2001-48504号公報)には、窒素ガス雰囲気下、冷却によりリチウム及び生成する窒化リチウムの温度をリチウムの溶融温度以下に維持しながら、金属リチウムと窒素とを反応させることを特徴とする窒化リチウムの製造方法が開示されている。
また、特許文献2(特開2002-3209号公報)には、窒素雰囲気下、0.4℃/min~7.0℃/minの昇温速度で、50℃~110℃まで金属リチウムを加熱する工程を有する窒化リチウムの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-48504号公報
【文献】特開2002-3209号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの検討によれば、上記特許文献1および2に開示されているような金属リチウムと窒素ガスとの反応で窒化リチウムを製造する方法では、金属リチウムと窒素ガスとの反応が再現性よく起こらず、窒化反応が進行しない場合があることが明らかになった。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、窒化リチウムの生成が速やかに進行し、窒化リチウムの安定生産が可能な窒化リチウム製造装置および窒化リチウムの製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
窒素雰囲気下でリチウム部材を加熱することにより上記リチウム部材を窒化させて窒化リチウムを製造するための窒化リチウム製造装置であって、
上記リチウム部材の窒化反応をおこなうための反応槽と、
上記リチウム部材を加熱するための加熱手段と、
上記反応槽内の露点を制御するための雰囲気制御手段と、
上記反応槽内を冷却するための雰囲気冷却手段と、
を備える窒化リチウム製造装置が提供される。
【0008】
また、本発明によれば、
窒化リチウムを製造するための製造方法であって、
上記窒化リチウム製造装置の上記反応槽内にリチウム部材を配置する工程(A)と、
上記反応槽内を窒素雰囲気にするとともに、上記雰囲気制御手段および上記雰囲気冷却手段を用いて上記反応槽内の露点および温度を制御しながら、上記加熱手段を用いて上記リチウム部材を加熱することにより上記リチウム部材を窒化させる工程(B)と、
を備える窒化リチウムの製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、窒化リチウムの生成が速やかに進行し、窒化リチウムの安定生産が可能な窒化リチウム製造装置および窒化リチウムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係る実施形態の窒化リチウム製造装置の構造の一例を模式的に示した断面図である。
【
図2】本発明に係る実施形態の窒化リチウム製造装置の構造の一例を模式的に示した断面図である。
【
図3】本発明に係る実施形態の窒化リチウム製造装置の構造の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。また、数値範囲の「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0012】
[窒化リチウム製造装置]
図1~
図3は、本発明に係る実施形態の窒化リチウム製造装置10の構造の一例を模式的に示した断面図である。
本実施形態に係る窒化リチウム製造装置10は、窒素雰囲気下でリチウム部材9を加熱することによりリチウム部材9を窒化させて窒化リチウムを製造するための窒化リチウム製造装置10であって、リチウム部材9の窒化反応をおこなうための反応槽1と、リチウム部材9を加熱するための加熱手段2と、反応槽1内の露点を制御するための雰囲気制御手段3と、反応槽1内を冷却するための雰囲気冷却手段4と、を備える。
本実施形態に係る窒化リチウム製造装置10によれば、窒化リチウムの生成が速やかに進行し、窒化リチウムの安定生産が可能となる。
【0013】
前述したように、本発明者らの検討によれば、上記特許文献1および2に開示されているような金属リチウムと窒素ガスとの反応で窒化リチウムを製造する方法では、金属リチウムと窒素ガスとの反応が再現性よく起こらず、窒化反応が進行しない場合があることが明らかになった。
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、反応槽1内の露点を制御するための雰囲気制御手段3と、反応槽1内を冷却するための雰囲気冷却手段4とを使用して、反応槽1内の露点を制御しながら、加熱手段2を用いて、窒素雰囲気下でリチウム部材9を加熱することにより、リチウム部材の窒化反応が速やかに進行することを見出した。
反応槽1内の露点を制御することにより、金属リチウム表面への酸化リチウムや水酸化リチウムを含む皮膜の生成を抑制することができると考えられる。そのため、金属リチウムと窒素との接触面積が増大し、リチウム部材の窒化反応が速やかに進行すると考えられる。
【0014】
反応槽1はリチウム部材9の窒化反応をおこなうが可能で、かつ、露点や窒素雰囲気、雰囲気温度(反応槽1内の温度)を維持できるものであれば特に限定されないが、例えば、耐熱性材料により形成された反応槽、グローボックス、デシケーター、真空置換式デシケーター、金属製密閉缶等が挙げられる。
また、反応槽1の形状や大きさは特に限定されないが、リチウム部材9の処理量によって適宜決められる。
【0015】
加熱手段2は特に限定されず、例えば、発熱線、ランプ加熱、高周波誘導加熱、マイクロ波加熱等の公知の加熱手段を使用できるが、後述するように、リチウム部材9を局所的に加熱することが可能な局所加熱手段を含むことが好ましい。
【0016】
反応槽1内の露点を制御するための雰囲気制御手段3としては、例えば、モレキュラーシーブ等の水分吸着剤を充填したカラム、冷媒を流通したトラップ、LiCl等の吸水性材料を塗布したハニカム、五酸化二リンを装填したカラム等が挙げられる。反応槽1内の窒素ガスを雰囲気制御手段3に通して循環させることによって、窒素ガス中の水分を除去し、反応槽1内の露点を制御することができる。
【0017】
反応槽1内を冷却するための雰囲気冷却手段4としては、例えば、空冷式溶媒循環装置に接続した熱交換器、冷媒式溶媒循環装置に接続した熱交換機等が挙げられる。
【0018】
また、必要に応じて、本実施形態に係る窒化リチウム製造装置10には、
図1に示すように、リチウム部材9の表面に無機物粒子を供給するための粉供給手段5と、リチウム部材9の表面に付着した無機物粒子をリチウム部材9に埋め込むための圧延手段6と、をさらに備えてもよい。
これにより、窒化リチウム製造装置10内で、後述する無機物粒子を埋め込んだリチウム部材9を作製することができ、得られた無機物粒子を埋め込んだリチウム部材9を大気中に曝されることなく、窒化リチウム製造装置10内で窒化反応を進めることが可能となる。
粉供給手段5としては、例えば、振動フィーダー、テーブルフィーダー、スクリューフィーダー等が挙げられる。
【0019】
また、必要に応じて、本実施形態に係る窒化リチウム製造装置10には、
図1に示すように、反応槽1内に窒素ガスを導入するためのガス供給部7をさらに備えてもよい。これにより、反応槽1内が新鮮な窒素ガスが充満された状態になり、リチウム部材9の窒化反応をより一層速やかに進行させることができる。さらに、反応槽1内が陰圧になって大気が反応槽1内に流入するのを防ぐことができる。
【0020】
また、必要に応じて、本実施形態に係る窒化リチウム製造装置10には、
図1に示すように、反応槽1内の窒素ガスを排出するためのガス排出部8をさらに備えてもよい。これにより、反応槽1内の圧力が高くなり、反応槽1に負担がかかるのを抑制することができる。
また、反応槽1におけるガス供給部7およびガス排出部8の位置は特に限定されない。
【0021】
また、本実施形態に係る窒化リチウム製造装置10には、
図2に示すように、移送手段11、切断手段12およびリチウム部材ロール13から選択される少なくとも一種をさらに備える構成であってもよい。
これにより、リチウム部材ロール13から送り出されたリチウム部材9を切断手段12で適当な大きさに切断し、切断されたリチウム部材9を移送手段11で加熱手段2まで移送することができる。また、移送手段11の途中で粉供給手段5を用いてリチウム部材9の表面に無機物粒子を供給し、次いで、圧延手段6を用いて無機物粒子をリチウム部材9に埋め込むことができる。こうすることにより、無機物粒子を埋め込んだリチウム部材9を作製する工程と、無機物粒子を埋め込んだリチウム部材9を加熱する工程と、を連続的に行うことが可能となる。
移送手段11としては、例えば、ベルトコンベア等が挙げられる。
【0022】
また、本実施形態に係る窒化リチウム製造装置10は、
図3に示すように、リチウム部材ロール13および窒化リチウムロール14をさらに備える構成であってもよい。
これにより、リチウム部材ロール13から送り出されたリチウム部材9を加熱手段2に配置された窒化リチウムロール14まで移送することができる。さらに、リチウム部材ロール13から窒化リチウムロール14まで移送する途中で粉供給手段5を用いてリチウム部材9の表面に無機物粒子を供給し、次いで、圧延手段6を用いて無機物粒子をリチウム部材9に連続的に埋め込むことができる。こうすることにより、無機物粒子を埋め込んだリチウム部材9を作製する工程と、無機物粒子を埋め込んだリチウム部材9を加熱する工程と、を連続的に行うことが可能となる。
【0023】
また、本実施形態に係る窒化リチウム製造装置10は、
図3に示すように、加熱手段2付近を覆うような蓄熱用カバー15をさらに備える構成であってもよい。
これにより、反応槽1内に配置されたリチウム部材9を加熱する温度を上げても、反応槽1の雰囲気温度の上昇を抑制することができ、その結果、反応槽1内の露点が上昇するのを抑制することができる。
【0024】
[窒化リチウムの製造方法]
次に、本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法について説明する。
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法は窒化リチウムを製造するための製造方法であって、例えば、例えば、以下の工程(A)および(B)を含む。また、本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法は、必要に応じて、以下の工程(C)および工程(D)をさらに含んでもよい。
工程(A):本実施形態に係る窒化リチウム製造装置10の反応槽1内にリチウム部材9を配置する工程
工程(B):反応槽1内を窒素雰囲気にするとともに、雰囲気制御手段3および雰囲気冷却手段4を用いて反応槽1内の露点および温度を制御しながら、加熱手段2を用いてリチウム部材9を加熱することによりリチウム部材9を窒化させる工程
工程(C):工程(B)の前に、リチウム部材9に無機物粒子を埋め込む工程
工程(D):工程(B)の後に、窒化されたリチウム部材9を粉砕して粉状にする工程
【0025】
(工程(A))
工程(A)では、本実施形態に係る窒化リチウム製造装置10の反応槽1内にリチウム部材9を配置する。
本実施形態に係るリチウム部材9は、例えば、その表面に炭素と酸素を構成成分とする薄い皮膜が存在している金属リチウムであり、その形状は、インゴット、箔、ワイヤー、ロッドなどの一般的に提供されているものであればよく、特別な形状である必要はない。ただし、窒化反応を速やかに完了させるには表面積が大きな形状が良いため、リチウム部材9の形状としては箔が好ましい。すなわち、本実施形態に係るリチウム部材9は金属リチウム箔が好ましい。
【0026】
金属リチウム箔の厚みは、3mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましい。金属リチウム箔の厚みが上記上限値以下であると、反応熱が蓄積することによる爆発的な反応を抑制することができる。金属リチウム箔の厚みは特に限定されないが、例えば、0.05mm以上であってもよいし、0.1mm以上であってもよい。
【0027】
(工程(B))
工程(B)では、反応槽1内を窒素雰囲気にするとともに、雰囲気制御手段3および雰囲気冷却手段4を用いて反応槽1内の露点および温度を制御しながら、加熱手段2を用いてリチウム部材9を加熱することによりリチウム部材9を窒化させる。
工程(B)における反応槽内の露点は、リチウム部材9の窒化反応をより一層速やかに進行させる観点から、好ましくは0℃未満、より好ましくは-10℃未満、さらに好ましくは-15℃未満、さらにより好ましくは-18℃未満、さらにより好ましくは-20℃未満、さらにより好ましくは-25℃未満、さらにより好ましくは-30℃未満、さらにより好ましくは-40℃未満、さらにより好ましくは-50℃未満である。露点の下限値は特に限定されないが、例えば-90℃以上である。
【0028】
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法では、露点が上記上限値未満の窒素雰囲気下でリチウム部材9を加熱することにより、金属リチウム表面への酸化リチウムや水酸化リチウムを含む皮膜の生成を抑制することができる。そのため、金属リチウムと窒素との接触面積が増大し、リチウム部材9の窒化反応をより一層速やかに進めることができる。
【0029】
リチウム部材9の窒化反応には、窒素ガスを使用する。窒素ガスは、リチウムと反応し易く、安価でかつ毒性も無い。
使用する窒素ガス中の酸素濃度は低いほど好ましい。窒素ガス中の酸素濃度が高くなると金属リチウムは著しく酸化腐食し、窒化リチウムの形成を阻害するだけでなく、窒化リチウムに酸化リチウムや水酸化リチウムの混入を引き起こしてしまうからである。
具体的には、窒素ガス中の酸素濃度は100ppm以下が好ましく、60ppm以下がより好ましい。
また、窒素ガスの純度は、99.99%以上が好ましい。
【0030】
工程(B)では、リチウム部材9を局所的に加熱することが可能な局所加熱手段を用いてリチウム部材9を加熱することが好ましい。すなわち、加熱手段2は、リチウム部材9を局所的に加熱することが可能な局所加熱手段を含むことが好ましい。
局所加熱手段を用いて、反応槽1内全体を加熱するのではなく、反応槽1内に配置されたリチウム部材9またはリチウム部材9とその周辺を局所的に加熱することが好ましい。こうすることで、反応槽1内の温度が上がり難くなるため、雰囲気制御手段3内にあるモレキュラーシーブ等の水分吸着剤や装置、器具等に付着された水分が蒸発し、反応槽1内の露点が上昇してしまうのを抑制することができる。すなわち、リチウム部材9を局所的に加熱することが可能な局所加熱手段を用いることによって、反応槽1内の露点を上記上限値未満に維持しながら、リチウム部材9を加熱することが可能となる。
【0031】
上記局所加熱手段としては、例えば、伝導伝熱加熱、放射伝熱加熱等が挙げられる。これらの加熱手段は一種を単独で使用してもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
伝導伝熱加熱とは、リチウム部材を高温物体に接触させて熱伝導によって加熱する方法であり、伝導伝熱加熱をおこなう装置としては、例えば、ホットプレート式ヒーター、加熱ロール等が挙げられる。
放射伝熱加熱とは、高温物体が電磁波として放出するエネルギーをリチウム部材に吸収させて加熱する方法であり、放射伝熱加熱をおこなう装置としては、例えば、赤外線ヒーターや赤外線ランプ等が挙げられる。
【0032】
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法において、工程(B)における加熱手段2の加熱温度は、窒化リチウムの生成をより一層速やかに進行させる観点から、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、45℃以上がさらに好ましい。加熱手段2の加熱温度の上限は特に限定されないが、反応熱が蓄積することによる爆発的な反応を抑制する観点から、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましく、60℃以下がさらにより好ましい。
ここで、加熱手段2の加熱温度は、加熱手段2の設定温度すなわち加熱部の温度である。
【0033】
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法において、工程(B)におけるリチウム部材9の実体温度は、窒化リチウムの生成をより一層速やかに進行させる観点から、30℃以上が好ましく、40℃以上がより好ましく、50℃以上がさらに好ましい。工程(B)におけるリチウム部材9の実体温度の上限は特に限定されないが、反応熱が蓄積することによる爆発的な反応を抑制する観点から、120℃以下が好ましく、100℃以下がより好ましく、80℃以下がさらに好ましい。
ここで、工程(B)におけるリチウム部材9の実体温度は、リチウム部材9の表面の温度である。
【0034】
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法において、工程(B)における窒素雰囲気の雰囲気温度は、窒化リチウムの生成をより一層速やかに進行させる観点から、20℃以上が好ましく、23℃以上がより好ましく、25℃以上がさらに好ましく、28℃以上がさらにより好ましい。工程(B)における窒素雰囲気の雰囲気温度の上限は特に限定されないが、工程(B)における窒素雰囲気下の露点を上記上限値未満に維持する観点から、40℃以下が好ましく、35℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。
ここで、工程(B)における窒素雰囲気の雰囲気温度は、加熱手段2の加熱部から30cm離れた地点での空間の温度である。
【0035】
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法において、工程(B)における反応槽1内の露点を上記上限値未満に維持する観点から、熱交換器等の雰囲気冷却手段4を用いて反応槽1内の雰囲気温度を制御する。こうすることで、反応槽1内に配置されたリチウム部材9を加熱する温度を上げても、工程(B)における反応槽1の雰囲気温度の上昇を抑制することができ、その結果、工程(B)における反応槽1内の露点を上記上限値未満に効果的に維持することができる。
【0036】
リチウム部材9の窒化反応をおこなう時間は、例えば、0.5時間以上24時間以下であり、好ましくは0.5時間以上8時間以下であり、さらに好ましくは1時間以上5時間以下である。
【0037】
(工程(C))
本実施形態に係る窒化リチウムの製造方法では、必要に応じて、工程(B)の前に、リチウム部材9に無機物粒子を埋め込む工程をおこなってもよい。すなわち、工程(B)では、無機物粒子を埋め込んだリチウム部材9を用いてもよい。
リチウム部材9に無機物粒子を埋め込むことにより、リチウム部材9が変形し、リチウム部材9と無機物粒子との接触部位周辺に新鮮な金属リチウムが露出する。そこに窒素が接触すると、この露出した新鮮な金属リチウムが窒化開始点となり、リチウム部材の窒化反応をより一層速やかに進行させることができる。
【0038】
本実施形態に係る無機物粒子としては特に限定されないが、例えば、窒化リチウム粉末、硫化リチウム粉末、硫化リン粉末、固体電解質粉末等を用いることができる。純度が高い窒化リチウムを得る観点や、無機物粒子の除去工程を簡略する観点から、無機物粒子としては窒化リチウム粉末が好ましい。
【0039】
本実施形態に係る無機物粒子は特に限定されないが、レーザー回折散乱式粒度分布測定法による重量基準粒度分布における平均粒子径d50が、好ましくは0.1μm以上45μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上20μm以下である。
無機物粒子の平均粒子径d50を上記下限値以上とすることにより、無機物粒子のハンドリング性を良好にすることができる。また、無機物粒子の平均粒子径d50を上記上限値以下とすることにより、窒化起点領域の生成量を増やすことができ、その結果、リチウム部材の窒化反応をより一層速やかに進行させることができる。
【0040】
無機物粒子が埋め込まれたリチウム部材9において、無機物粒子およびリチウム部材9の合計を100質量%としたとき、無機物粒子の埋め込み量は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、そして好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
無機物粒子の埋め込み量が上記下限値以上であると、窒化起点領域の生成量を増やすことができ、その結果、リチウム部材の窒化反応をより一層速やかに進行させることができる。
また、無機物粒子の埋め込み量が上記上限値以下であると、反応熱が蓄積することによる爆発的な反応を抑制することができ、その結果、リチウム部材9の窒化反応をより安全に進めることができる。
【0041】
リチウム部材9の一部の領域に無機物粒子を埋め込む方法としては、例えば、リチウム部材の表面に無機物粒子を振り掛けて、次いで、無機物粒子が付着したリチウム部材9を圧延手段6によりプレスする方法が挙げられる。
圧延手段6としては、例えば、手押しローラー、ロールプレス、平板プレス等が挙げられる。これらの中でも、ロールプレスが好ましい。ロールプレスは、ロール間隔を設定することで一定のプレス圧を供与しながら連続的に圧接でき、量産に適しているため好ましい。圧延手段6の材質としては、例えば、ポリアセタールが挙げられる。
【0042】
(工程(D))
必要に応じて、工程(B)の後に、窒化されたリチウム部材9を粉砕して粉状にする。これにより、粉状の窒化リチウムを得ることができる。粉状にする方法は特に限定されず、一般的に公知の粉砕手段によりおこなうことができる。工程(D)は、粉砕手段を反応槽1内に設置して、反応槽1内で実施してもよいし、粉砕手段を反応槽1の外に設置し、反応槽1の外で実施してもよい。
【0043】
本実施形態に係る製造方法により得られた窒化リチウムは、例えば、リチウムイオン電池用の固体電解質、リチウムイオン電池用電極材料、化学薬品用の中間原料として好適に用いることができる。本実施形態に係る製造方法により得られた窒化リチウムは、高純度であるため、特に高純度が求められるリチウムイオン電池用の固体電解質およびリチウムイオン電池用電極材料用の原料として好適に用いることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
(実施例1)
窒素雰囲気(露点:-30℃、温度:25℃)のステンレス製真空置換型グローボックス内に、50℃に加温したホットプレートを設置し、さらに加温したホットプレート上に、純度99.7%の金属リチウム箔(本城金属社製、60mm×250mm×1mm)を配置し、金属リチウム箔の窒化反応を開始した。ここで、グローボックス内は、空冷式溶媒循環装置に接続した熱交換器を用いて、外気温(25℃)に制御した。また、グローボックス内の窒素ガスを水分吸着剤(和光純薬社製、モレキュラーシーブス3A)のカラムに通して循環させることによって、窒素ガス中の水分を除去し、グローボックス内の露点を-30℃に維持した。また、グローボックス内の窒素ガスは圧力スイッチで自動制御され、窒素ガスが金属リチウム箔との窒化反応に消費されて内圧が低下すると、消費量相当の窒素ガスがグローボックス内に導入されるように設定した。
次いで、金属リチウム箔の重量変化から窒化率を算出した。その結果、金属リチウム箔をホットプレート上に配置してから2時間後の窒化率は83%であった。
ここで、窒化率100%は金属リチウム箔(Li)がすべて窒化リチウム(Li3N)になったことを意味する。
【0047】
(実施例2)
窒素雰囲気の露点を-20℃に変更した以外は実施例1と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔をホットプレート上に配置してから5時間後の窒化率は80%であった。
【0048】
(実施例3)
窒素雰囲気の露点を-50℃に変更した以外は実施例1と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔をホットプレート上に配置してから2時間後の窒化率は90%であった。
【0049】
(実施例4)
純度99.7%の金属リチウム箔(本城金属社製、60mm×250mm×1mm、8g)の両面に、窒化リチウム粉末を80mgを振り掛けた。次いで、手押しローラーを用いて、金属リチウム箔に付着した窒化リチウム粉末を金属リチウム箔の表層に埋め込んだ。
次いで、窒素雰囲気(露点:-30℃、温度:25℃)のステンレス製真空置換型グローボックス内に、50℃に加温したホットプレートを設置し、さらに加温したホットプレート上に、表層に窒化リチウム粉末が埋め込まれた上記金属リチウム箔を配置し、金属リチウム箔の窒化反応を開始した。ここで、グローボックス内は、空冷式溶媒循環装置に接続した熱交換器を用いて、外気温(25℃)に制御した。また、グローボックス内の窒素ガスを水分吸着剤(和光純薬社製、モレキュラーシーブス3A)のカラムに通して循環させることによって、窒素ガス中の水分を除去し、グローボックス内の露点を-30℃に維持した。また、グローボックス内の窒素ガスは圧力スイッチで自動制御され、窒素ガスが金属リチウム箔との窒化反応に消費されて内圧が低下すると、消費量相当の窒素ガスがグローボックス内に導入されるように設定した。
次いで、金属リチウム箔の重量変化から窒化率を算出した。その結果、金属リチウム箔をホットプレート上に配置してから1時間後の窒化率は81%であり、2時間後の窒化率は100%であった。
【0050】
(比較例1)
金属リチウム箔の加熱をおこなわない以外(すなわちホットプレートを使用しない)は実施例1と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔をグローボックス内に配置してから96時間後の窒化率は0%であった。
【0051】
(比較例2)
空冷式溶媒循環装置に接続した熱交換器を用いない以外は実施例1と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔をホットプレート上に配置してから2時間後の窒化率は10%であった。
【0052】
(比較例3)
グローボックス内の窒素ガスを水分吸着剤(和光純薬社製、モレキュラーシーブス3A)のカラムに通して循環させることによって、窒素ガス中の水分を除去し、グローボックス内の露点を調整する操作を行わない以外は実施例1と同様に金属リチウム箔の窒化反応をおこなった。金属リチウム箔をホットプレート上に配置してから2時間後の窒化率は5%であった。
【0053】
この出願は、2020年4月16日に出願された日本出願特願2020-073635号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0054】
1 反応槽
2 加熱手段
3 雰囲気制御手段
4 雰囲気冷却手段
5 粉供給手段
6 圧延手段
7 ガス供給部
8 ガス排出部
9 リチウム部材
10 窒化リチウム製造装置
11 移送手段
12 切断手段
13 リチウム部材ロール
14 窒化リチウムロール
15 蓄熱用カバー