(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】粉末アルミニウム材料
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240408BHJP
B22F 9/08 20060101ALI20240408BHJP
B22F 1/05 20220101ALI20240408BHJP
B22F 10/28 20210101ALI20240408BHJP
B22F 10/34 20210101ALI20240408BHJP
C22C 1/04 20230101ALI20240408BHJP
B22F 3/24 20060101ALI20240408BHJP
C22F 1/057 20060101ALI20240408BHJP
C22C 21/12 20060101ALI20240408BHJP
B33Y 70/00 20200101ALI20240408BHJP
B22F 1/07 20220101ALI20240408BHJP
C22C 1/047 20230101ALI20240408BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240408BHJP
【FI】
B22F1/00 N
B22F9/08 A
B22F1/05
B22F10/28
B22F10/34
C22C1/04 C
B22F3/24 C
C22F1/057
C22C21/12
B33Y70/00
B22F1/07
C22C1/047
C22F1/00 602
C22F1/00 621
C22F1/00 628
C22F1/00 630A
C22F1/00 630K
C22F1/00 650A
C22F1/00 687
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 692A
(21)【出願番号】P 2022534149
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(86)【国際出願番号】 RU2019000939
(87)【国際公開番号】W WO2021118393
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-07-01
(73)【特許権者】
【識別番号】522221253
【氏名又は名称】オブシュチェストボ・エス・オグラニチェノイ・オトベツトベノスティウ“インスティテュート・レグキフ・マテリアロフ・アイ・テクノロジー”
【氏名又は名称原語表記】OBSHCHESTVO S OGRANICHENNOJ OTVETSTVENNOST’YU ’INSTITUT LEGKIKH MATERIALOV I TEKHNOLOGIJ’
【住所又は居所原語表記】Leninskij prospect,dom 6,stroenie 21,ofis 103,Moscow,119049,RUSSIAN FEDERATION
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100199565
【氏名又は名称】飯野 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100212705
【氏名又は名称】矢頭 尚之
(74)【代理人】
【識別番号】100219542
【氏名又は名称】大宅 郁治
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162570
【氏名又は名称】金子 早苗
(72)【発明者】
【氏名】マン、ビクトル・フリスティアノビッチ
(72)【発明者】
【氏名】クロヒン、アレクサンドル・ユーレビッチ
(72)【発明者】
【氏名】バフロモフ、ローマン・オレゴビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ルイアボフ、ドミトリー・コンスタンティノビッチ
(72)【発明者】
【氏名】コロレフ、ウラジミール・アレクサンドロビッチ
(72)【発明者】
【氏名】ダウバレイト、ダーリヤ・コンスタンティノブナ
(72)【発明者】
【氏名】ソロニン、アレクセイ・ニコラエビッチ
(72)【発明者】
【氏名】チュリウモフ、アレクサンドル・ユーレビッチ
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/130946(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/095726(WO,A1)
【文献】特開2004-115917(JP,A)
【文献】国際公開第2018/119283(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00
C22C 21/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、マグネシウム、マンガン、ケイ素および、さらにジルコニウムおよび/またはチタンを含み、さらに、セリウムを含み、合金成分は下記の成分比(重量%):
銅 6.0~7.0
マグネシウム 0.2~0.8
マンガン 0.3~1.0
セリウム 0.1~0.7
ケイ素 2.8~3.7
ジルコニウムおよび/またはチタン 0.45~0.9
アルミニウムおよび不可避不純物 残部
で含有するアルミニウムベースの粉末合金であって、
サイズが1μm未満の熱的に安定したAl
8Cu
4Ce分散質を含有する、アルミニウムベースの粉末合金。
【請求項2】
溶融物が請求項1に記載のアルミニウムベースの粉末合金から調製され、溶融物が、液相点を少なくとも150℃超える温度に過熱され、酸素含有量が0.01~0.8重量%の不活性ガスの流れによって噴霧される、アルミニウムベースの合金から、粉末を製造する方法。
【請求項3】
不活性ガスとして窒素またはアルゴンが使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
D
50が5~150μmの範囲であることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
粉末が、元素H、N、O、およびArのうちの少なくとも1種を1重量%以
下含むことを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
最大強度のための焼き入れおよび人工時効後に室温で少なくとも450MPaの極限強度を有するアルミニウムベース合金からの製品の製造方法であって、製品が、選択的レーザー溶融による付加製造技術の使用によって、請求項4または5に記載の粉末から製造されるアルミニウムベース合金からの製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冶金の分野に関し、即ち、アルミニウムベースの耐熱合金の組成物、およびそれに由来する付加製造技術を使用した部品の製造に使用される粉末に関する。
【0002】
付加製造技術は、所与のコンピュータモデルに従い1回の処理サイクルで金属粉末から完成品を製造することが可能であるため、自動車および航空宇宙産業の発展における重要な領域である。この種の製造における材料利用率は、95~99%に到達する可能性がある。
【0003】
金属材料の場合、特に進歩した技術の1つが、選択的レーザー溶融(SLM)である。製品または素材片を製造するための標準的な鋳造技術とは対照的に、選択的レーザー溶融は、高い結晶化速度(104~106K/s程度)を特徴とし、そのため、良好な鋳造特性を有し、印刷中に高温割れを起こしにくい材料を使用することが必要である。実際の作業では、Al-Si、Al-Si-Mg系の合金は、共晶相の体積分率が大きく、それが欠陥形成(細孔、割れ)を最小限に抑えるため、SLM時の加工性が高いことが見出されているが、これらの材料の大きな欠点は、強度が低いことである。SLM法によりAl-Si合金で作製された製品の極限強度は、熱処理後に350MPaを超えることはない。
【0004】
従来のアルミニウム合金の中で、Al-Cu系をベースとする材料、およびアルミニウムと遷移金属との合金は、最も高い耐熱特性を有する。銅含有合金は熱硬化性であり、時効中にθ’およびS’型の準安定相がその組織の中に生じる。しかし、それらの鋳造特性は平均的なレベルであり、そのため、付加製造への使用にはほとんど適さない。
【0005】
現在重要なのは、室温および高温での高レベルの機械的特性を特徴とし、選択的レーザー溶融に使用した場合に高い加工性を併せ持つアルミニウムベース合金の新しい組成物の開発である。
【0006】
先行技術において公知なのは、選択的レーザー溶融方法による製品の製造に使用される合金であり、重量%で下記の組成を有するものである:銅4.27~4.47、マグネシウム1.95~1.97、およびマンガン0.55~0.56(H.Zhang、H.Zhu、T.Qi、Z.Hu、X.Zeng//Materials Science and Engineering:A、2016、V.656、P.47-54)。
【0007】
この合金を溶融すると、276.2MPaの降伏強度、402.4MPaの極限強度、および6%の破断点伸びを有する稠密な組織(99.8%)が形成される。この公知の合金の欠点は、不均質な組織と、結晶化割れを形成する傾向があることであり、その形成は、合金結晶化の広い有効範囲と関連している。
【0008】
公知のアルミニウムベースの合金は、1種以上の元素、即ち、亜鉛、マグネシウム、銅、ジルコニウム、イットリウム、エルビウム、イッテルビウム、スカンジウム、銀、ならびにランダム元素および不純物を含む(出願WO2017/041006Al、2017年3月9日公開)。
【0009】
この合金は、付加製造、特に、航空宇宙製品の製造に使用するために開発されたものである。この発明のいくつかの態様において、合金は、重量%で下記の成分、即ち、亜鉛3~9、マグネシウム2~6、銅0.5~2、ジルコニウム0.1以下を含有してもよく、残部は、アルミニウムおよび不可避不純物である。この発明のある特定の態様において、合金は、重量%で下記の成分、即ち、イットリウム2以下、エルビウム2以下、イッテルビウム2以下、スカンジウム2以下、マンガン2以下、または銀2以下を追加で含有してもよい。この発明のいくつかの態様において、合金は、重量%で亜鉛4~9、マグネシウム0.5~3、銅0.5以下、ジルコニウム約1を含有してもよく、残部はアルミニウムおよび不純物である。この発明の欠点は、組成物中に多量の希少元素および希土類元素が存在するために、コストが高いことである。その上、部品を印刷する過程でレーザー照射にさらされると、亜鉛が蒸発し、完成品の化学組成が不均一となる可能性がある。
【0010】
金型鋳造品製造用の公知のアルミニウムベースの合金は、重量%で、ケイ素2.8~4.4、鉄1.2~2.2、マンガン0.2~1.2、銅0.5~3.5、マグネシウム0.05~0.8、亜鉛0、2~3.0、セリウム0.01~0.3を含有し、残部はアルミニウムおよび不純物である。
【0011】
この合金は、鋳放状態での塑性と、高圧金型鋳造の際の良好な加工性を特徴とする。この合金の欠点は、熱処理後の強度が低い(310MPaのレベル)ことである。
【0012】
A201(SAE AMS-A-21180)グレードの公知の高強度アルミニウム合金は、重量%で銅4.0~5.0、マグネシウム0.15~0.35、チタン0.15~0.35、マンガン0.2~0.4、銀0.4~1.0を含有し、残部はアルミニウムおよび不可避不純物である。
【0013】
この合金は、応力腐食に対する高い耐性と、高温での良好な性能を特徴とする。欠点は、熱処理後の強度が低い(極限強度は414MPa;降伏強度は345MPa)ことである。
【0014】
重量%でCu5.8~6.3、Mn0.2~0.4、Ti0.02~0.10、V0.05~0.15、およびZr0.1~0.25を含有し、変形可能な半製品の製造に使用される公知のアルミニウムベースの合金2219(Hatch JE(ed.)Aluminium:Properties and Physical Metallurgy、ASM、Metals.Park、1984およびKaufman G.J.Properties of Aluminium Alloys:Fatigue Data and Effects of Temperature、Product Form、and Process Variables、Materials Park、ASM International、2008、574p.)は、室温で十分なレベルの機械的特性を有し、組織中の1.5体積%を超えない体積含有率のAl20Cu2Mn3分散質の存在に起因する200~300℃の温度範囲内での良好な耐熱性を特徴とする。この材料の欠点は、人工時効状態での降伏強度が低いことに加え、Al2Cu相の粗大化により250℃を超える温度で軟化することである。
【0015】
請求項に係る合金に最も近いのは、付加製造技術を利用した製品の製造に使用されるアルミニウムベースの合金であり、下記の元素(重量%単位)、即ちアルミニウム78.80~92.00、銅5.00~6.00、マグネシウム2.50~3.50、マンガン0.50~1.25、チタン0~5.00、ホウ素0~3.00、バナジウム0~0.15、ジルコニウム0~0.15、ケイ素0~0.25、鉄0~0.25、クロム0~0.50、ニッケル0~1.0と、0~0.15の他の元素および不純物を含有する(出願US2017/0016096A1、2017年1月19日公開)。この合金は、AlSi10Mg合金と比較して機械的特性の特徴が高レベルであり、AA7075型の高強度アルミニウム合金と比較して結晶化割れを形成する傾向が低いことを特徴とする。この合金の欠点は、チタン、ホウ素、およびニッケルと過剰に合金化し、それがSLMプロセス時に合成される材料に発生する熱応力の原因となり、付加製造技術を使用して製造される製品の亀裂および歪みを生じさせる点である。
【0016】
本発明の技術的目的は、粉末の製造および様々な製品の付加製造におけるその利用を意図した新しいアルミニウムベースの材料であって、レーザー溶融時に高い加工性を有し、熱処理された状態では、400MPaを超える降伏強度、470MPaを超える極限強度、および少なくとも4%の破断点伸びという高強度特性を有する材料を創出することである。
【0017】
技術的成果は、設定された課題を解決し、列挙した利点を達成することである。
【0018】
課題を解決し、技術的成果を達成するため、下記の成分含有量(重量%単位)を有するアルミニウム合金に基づく粉末アルミニウム材料が提供される。
【0019】
銅 5.2~7.0
マグネシウム 0.2~0.8
マンガン 0.3~1.0
セリウム 0.1~0.7
ケイ素 2.8~3.7
ジルコニウムおよび/またはチタン 0.45~0.9
アルミニウムおよび不可避不純物 残部
材料は、少なくとも103K/sの結晶化速度で形成される、サイズが1μm未満の熱的に安定したAl8Cu4Ce型分散質を含有し、それが、室温および高温での動作条件下での材料の硬化に寄与する。
【0020】
請求項に係る量の銅を添加すると、過飽和固溶体の形成とその後の人工時効中の分解のために強度特性の向上が確実なものとなり、不溶性の強化粒子の形成にも寄与する。
【0021】
セリウムの添加は、高い熱安定性と加熱中に成長する傾向が低いことを特徴とするAl8Cu4Ce型の相を形成するために導入され、加えて、この相は、高い結晶化速度のためにサブミクロンサイズで形成され、室温での追加の硬化効果を発揮する。
【0022】
チタンとジルコニウムは、アルミニウムマトリックスへの最大溶解度を超えない量で合金に導入され、結果として、印刷過程での急速な結晶化の際に過飽和固溶体を形成し、その後分解してAl3X型のナノサイズの粒子を形成する。その上、これらの元素は、結晶化中の結晶粒微細化を促進し、割れ形成の傾向を低減する改質剤として作用する。
【0023】
ケイ素は、材料中に共晶を形成するために導入され、結果として印刷適性の向上に寄与する。この共晶相は、最後の瞬間に結晶化し、樹枝状組織間領域を満たし、高温割れに対する材料の耐性を向上させる。
【0024】
Al-Cu系へマンガンを添加すると、一定の熱安定性を有し、Al2Cu相の活性粗大化が始まる200℃を超える温度での硬化効果を保持するAl20Cu2Mn3型の分散質が析出するため、焼き入れのための加熱時に硬化が促進される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】例1からの合金番号1~8に関する、光学顕微鏡法により得られたサンプルの組織の画像であり、材料の空隙率のレベルが0.5体積%を超えず、割れが存在しないことを示している。
【
図2】例1からの材料の試験のための選択的レーザー溶融(SLM)法および請求項に係るAlCuCe合金の試料である。
【
図3】例1からの提案されたAlCuCe合金材料の走査型電子顕微鏡での微細組織の典型的な画像(A)、および例1からの合金化元素の分布図(B)である。
【
図4】熱処理後の合金の相組成を示す、例1からのAlCuCe材料のX線相解析の結果である。
【
図5】強化性の熱的に安定したAl
8Cu
4Ce相の存在を示す、例1からの提案されたAlCuCe合金に由来する材料の透過型電子顕微鏡における微細組織の典型的な画像、および合金化元素の分布図(B)である。
【
図6】提案されたAlCuCe合金の走査型電子顕微鏡における微細組織の典型的な画像(A)、および合金化元素の分布図(B)であり、熱処理後のケイ素粒子のサイズが10μmを超えない(例2)ことを示している。
【
図7】GOST9651-84に準拠した引張試験の極限強度(A)、降伏強度(B)、破断点伸び(C)の温度依存性のグラフであり、室温から350℃までの温度範囲内で試験を行った場合、プロトタイプと比較して提案された合金の機械的特性のレベルが向上している(例3)ことを示している。
【
図8】熱処理後のAlCuCe材料の破断強度曲線であり、温度200℃での相互に垂直な方向での繰り返し荷重条件下で材料の機械的特性が良好なレベルであることを示している(例3)。
【0026】
例1
表1に従い、様々な組成のアルミニウム合金の粉末を、酸素含有量を制御した窒素環境でのガス噴霧化により製造した。
【0027】
【0028】
溶融物は、ガス加熱炉で調製した。調製には、GOST11069-2001に準拠した少なくともA7グレードのアルミニウム、GOST859-2001に準拠したM1グレードの銅、TsEOグレードの電解セリウム、GOST804-93に準拠したMG90グレードのマグネシウム、GOST2169-69に準拠した4001グレードのケイ素、および残りの元素の二元マスター合金を使用した。溶融物を調製しその化学組成の試験を行った後、合金を870~920℃の温度に過熱し、次いで、粉末中の酸素含有量を制御し、分散過程での発火を防止する目的で、酸素含有量が0.1%~0.8%の窒素中で噴霧化した。
【0029】
温度が(Tliquidus+100℃)未満になると、金属排出樋のノズルおよび要素との接触による溶融物の局所的冷却によって粉末中に金属間化合物が生じる可能性があり、それが加工の阻害(ノズル閉塞、化学組成の均質性および粉末組織の破壊など)の原因となることがわかっていたため、噴霧化過程中は、温度がこの値より低くならないようにした。
【0030】
結果として得られた粉末をふるいにかけ、D50=45±5μmの画分を分離した。
【0031】
得られた粉末に対する選択的レーザー溶融(SLM)法を、高温割れがなく、空隙率レベルが制御された組織を形成するために、窒素雰囲気中、SLM280HL選択的レーザー溶融システムで、エネルギー-速度印刷パラメータ(レーザー出力、走査速度、トラック間距離)を変化させて遂行した。合成された材料の空隙率は、Carl Zeiss Neophot光学顕微鏡を使用した金属組織学的手法によりキューブ形状のサンプルで判定したが、そのために、標準的な技術を使用し、サンプルに追加のエッチングを施すことなく検鏡用薄切片を準備した。
【0032】
Tescan Mira 3走査型電子顕微鏡と、JEOL2100透過型電子顕微鏡を使用して材料の微細組織を調べた。相組成は、Brucker Advance D8X線回折装置を使用して調べた。
【0033】
光学顕微鏡法により材料組織を調べた結果を
図1に示す。得られたデータによると、最適なモードでの材料の空隙率は、0.5体積%を超えなかった。
【0034】
最も低い空隙率を確保するパラメータに基づき、GOST1497-84およびGOST9651-84に準拠した引張試験用サンプルの素材片の形態で製品を作製した(
図2)。次いで、素材片を熱処理した。融点より5℃低い温度に加熱し、少なくとも2時間保持した後、冷水での焼き入れと、170℃での人工時効を行った。
【0035】
相組成および材料組織を調べた結果を、
図3、4、および5に示す。
【0036】
得られた結果によると、材料組織は、均一に分散した分散相を持つアルミニウムマトリックスであり、XRDの結果によると、分散相は、ケイ素(Si)と、Al
2CuおよびAl
8Cu
4Ceの分散質である。この材料の際だった特徴は、Al
8Cu
4Ceナノ分散相のサイズであり、これは、1μmを超えず、SLM処理中の材料の急速な(少なくとも10
3K/sの速度での)結晶化に起因して発生する(
図4)。この相は、熱処理前後の寸法安定性を特徴とし、それは、提供されるAlCuCe材料の高レベルの性能特性を示すものである。
【0037】
室温および高温(250℃)でのサンプルの引張試験の結果を表2に示す。
【0038】
【0039】
表2は、請求項に係る範囲内の提案された材料が、プロトタイプと比較して、強度および降伏が上昇していることが特徴であることを示す。強度の追加は、材料組織中のナノサイズの熱的に安定した硬化性分散質の存在により確保される。また、ケイ素相のサイズが10μmを超えないため、合金の高い塑性特性の維持を可能にする。
【0040】
したがって、機械的特性の達成されるレベルは、鋳造物および変形可能な材料の類似体として、加工および作動中の加熱条件下で作動する被負荷要素の部品の製造に提案された材料を使用することを有望なものとする。
【0041】
例2
例1と同様の技術により、実験用組成物の粉末を得た。得られた粉末の化学組成を表3に示す。合金の組成は、主にケイ素の含有量によって変化した。
【0042】
【0043】
SLM Solutions 280HL選択的レーザー溶融設備を使用して印刷過程を実施した。印刷は、最小レベルの空隙率と、高温割れが発生しないことを確実にする合成パラメータの最適な組み合わせを選択するために、様々なモードで遂行した。印刷されたサンプルの組織を、例1と同様に光学顕微鏡を使用して調べた。材料の微細組織は、エネルギー分散分析用のアタッチメントを備えたTescan Vega 3LMH SEM走査型電子顕微鏡を使用して分析した。
【0044】
空隙率を測定した結果を、表4に示す。
【0045】
【0046】
結果からわかるように、合金AおよびBでは割れが認められたが、これは、ケイ素含有量が低いために材料の鋳造特性が劣っていたことが原因であった。最適なモードで得られた合金C~Gの空隙率は、0.5体積%を超えなかった。高温割れは、ケイ素の量が不十分なことに起因し、それは、共晶量が少ないことにより生じるものである。したがって、印刷適性を確保するには、ケイ素含有量を少なくとも2.8重量%に維持することが好ましい。
【0047】
開発された最適なパラメータを使用して、引張試験サンプル用の円筒形素材片を室温で製造した。準備ができた円筒を熱処理し、融点より5℃低い温度で焼き入れし、最大強度を得るために人工時効を施した。次いで、GOST1497-84に準拠した引張試験サンプルとして使用するために素材片を機械加工した。試験は、MTS Criterion試験システムで遂行した。試験結果を表5に示す。
【0048】
【0049】
結果からわかることであるが、合金FおよびGにおけるケイ素含有量の増加がAlCuCe材料の強度の低下に繋がっており、これは、ケイ素相の組成に銅が部分的に取り込まれ、結果として固溶体中の銅含有量が低下したことによるものである。これに対し、合金C、D、およびEでは、ケイ素粒子のサイズが10μmを超えず、最大強度のための焼き入れおよび人工時効後に得られる材料は、高い極限強度(少なくとも450MPa)と室温での塑性を併せ持つことを特徴とし、Al-Cu系の公知の鋳造および鍛造合金を置きかえるものとして推奨できる。
【0050】
例3
表6によるアルミニウム合金粉末を、酸素を0.3%の量で添加した窒素雰囲気中で、合金の液相点を150℃超える温度から(溶融物中の一次金属間化合物の析出を防止するため)噴霧することにより得た。溶融物中の化学元素の含有量は、その噴霧時に制御したものである。
【0051】
【0052】
結果として得られた粉末を標準的なふるい分け手順に付して、D50=45±2μmを有する+15/-63μmの画分を得た。
【0053】
結果として得られた粉末の化学分析を、原子発光分光法により判定した。G8 Galileoシステムのガス分析器を使用してガス含有量を判定した。分析結果によると、得られた粉末の組成は溶融物の組成に対応していたが、酸素含有量は0.038重量%、窒素含有量は0.0001重量%未満であった。
【0054】
得られた粉末の選択的レーザー溶融(SLM)をSLM Solutions 280HL選択的レーザー溶融システムで、窒素雰囲気中、下記のエネルギー-速度印刷パラメータ下で実施した:走査速度200~400mm/s、レーザー出力250~350W、最大層厚50μmでのトラック間距離0.15~0.20mm。材料は、160℃を超えない温度でプラットフォームを追加加熱して合成した。
【0055】
上記パラメータに基づき、それぞれGOST1497-84およびGOST9651-84に準拠して、室温および高温での引張試験用のサンプルとして使用する製品として円筒形素材片を製造した。
【0056】
印刷過程終了後、製品を熱処理した。融点より5℃低い温度に加熱し、少なくとも2時間保持した後、冷水での焼き入れと、170℃の温度での人工時効を行い、さらに試験サンプルを得る目的で機械加工を行った。
【0057】
試験結果を表7に示す。
【0058】
【0059】
表7からわかるように、提案されたAlCuCe材料は、高温で十分に高い強度特性を維持することができる。
【0060】
図7は、プロトタイプ(米国特許第2017/0016096A1号、例1と同様の化学組成の材料について特性が示されている)と比較した、引張ひずみ下でのAlCuCe合金の機械的特性のレベル(引張強度、降伏強度、および伸び)の変化のグラフを示す。プロトタイプと比較して、提案されたAlCuCe材料は、20~350℃の温度範囲における強度特性が向上している。
【0061】
さらに、指定の特性を有する、GOST10145-81に準拠した破断試験用の直径18mm、長さ113mmの円筒形態の製品を製造した。試験は、ATS Creep Testerで200℃の温度で遂行した。
【0062】
得られた結果に基づき、提供された材料についてクリープ破断曲線を構築した(
図8)。試験結果から、材料が100時間(100MPa)を基準として良好な極限クリープ破断強度値を有しており、繰り返し荷重と高温の複合作用下での作動条件での使用に有望であることがわかる。