(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】光ファイバ用母材の製造装置、及び光ファイバ用母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/018 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
C03B37/018 C
(21)【出願番号】P 2022536152
(86)(22)【出願日】2021-05-19
(86)【国際出願番号】 JP2021018924
(87)【国際公開番号】W WO2022014147
(87)【国際公開日】2022-01-20
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2020120748
(32)【優先日】2020-07-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100143764
【氏名又は名称】森村 靖男
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信敏
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-203868(JP,A)
【文献】特開平06-072733(JP,A)
【文献】国際公開第2018/142939(WO,A1)
【文献】特開2011-225413(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 8/04,37/014-37/018
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナから原料ガス及び可燃性ガスを含むガスを射出してガラス微粒子を堆積させて多孔質ガラス体を形成する堆積工程を備え、
前記バーナは、前記原料ガスを流す第1原料ガス管及び第2原料ガス管と、前記可燃性ガスを流す可燃性ガス管とを有し、
前記第2原料ガス管のポートは、前記第1原料ガス管のポートを囲うように配置され、
前記堆積工程において、前記第2原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速を前記第1原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速より遅く
し、
前記バーナは、シールガスを流す第1シールガス管を更に備え、前記原料ガス、前記可燃性ガス、及び前記シールガスを含むガスを射出し、
前記第1シールガス管のポートは、前記第1原料ガス管のポートを囲うように配置され、
前記第2原料ガス管のポート及び前記可燃性ガス管のポートは、前記第1シールガス管のポートを基準とする前記第1原料ガス管のポート側と反対側に配置される
ことを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項2】
前記バーナは、前記第2原料ガス管を複数有し、
複数の前記第2原料ガス管のそれぞれのポートは、前記第1原料ガス管のポートの周囲に所定間隔ごとに配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項3】
前記第1原料ガス管の内径は、複数の前記第2原料ガス管のそれぞれの内径より大きい
ことを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項4】
前記堆積工程において、棒状の出発母材の外周面に前記ガラス微粒子を堆積させ、
前記バーナのガス射出方向に沿って見る場合に、全ての前記第2原料ガス管のポートの全体が前記出発母材と重なる
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項5】
前記堆積工程において、時間の経過とともに前記第2原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速を前記第1原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速に近づける
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項6】
前記バーナは、前記シールガスを流す第2シールガス管を更に備え、
前記第2シールガス管のポートは、前記第2原料ガス管のポートを囲うように配置され、
前記可燃性ガス管のポートは、前記第2シールガス管のポートを基準とする前記第2原料ガス管のポート側と反対側に配置される
ことを特徴とする請求項
1から5のいずれか1項に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項7】
前記バーナは、前記第2原料ガス管と前記第2シールガス管とからなる複数の第1のガス管対を備え、
複数の前記第1のガス管対のそれぞれにおける前記第2原料ガス管のポートは、前記第1原料ガス管のポートの周囲に所定間隔ごとに配置され、
それぞれの前記第1のガス管対において、前記第2シールガス管のポートは、前記第2原料ガス管のポートを囲う
ことを特徴とする請求項
6に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項8】
前記堆積工程において、前記第1シールガス管のポートから射出する前記シールガスの流速を前記第2シールガス管のポートから射出する前記シールガスの流速より速くする
ことを特徴とする請求項
6または
7に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項9】
前記第1原料ガス管及び前記第2原料ガス管は、前記可燃性ガス管内に非配置とされる
ことを特徴とする請求項1から
8のいずれか1項に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項10】
前記バーナは、前記可燃性ガス管と助燃性ガスを流す助燃性ガス管とからなる複数の第2のガス管対を備え、前記原料ガス、前記可燃性ガス、及び前記助燃性ガスを含むガスを射出し、
それぞれの前記第2のガス管対において、前記可燃性ガス管のポート及び前記助燃性ガス管のポートの一方は、他方を囲う
ことを特徴とする請求項1から
9のいずれか1項に記載の光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項11】
バーナから原料ガス及び可燃性ガスを含むガスを射出してガラス微粒子を堆積させて多孔質ガラス体を形成する堆積工程を備え、
前記バーナは、前記原料ガスを流す第1原料ガス管及び第2原料ガス管と、前記可燃性ガスを流す可燃性ガス管とを有し、
前記第2原料ガス管のポートは、前記第1原料ガス管のポートを囲うように配置され、
前記堆積工程において、前記第2原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速を前記第1原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速より遅く
し、
前記第1原料ガス管及び前記第2原料ガス管は、前記可燃性ガス管内に非配置とされる
ことを特徴とする光ファイバ用母材の製造方法。
【請求項12】
原料ガスを流す第1原料ガス管及び第2原料ガス管と可燃性ガスを流す可燃性ガス管と
シールガスを流す第1シールガス管とを有し前記原料ガス
、前記可燃性ガス
、及び前記シールガスを含むガスを射出してガラス微粒子を堆積させて多孔質ガラス体を形成するバーナと、
前記第2原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速が前記第1原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速より遅くなるように前記第1原料ガス管及び前記第2原料ガス管のそれぞれに前記原料ガスを供給するとともに、前記可燃性ガス管に前記可燃性ガスを供給
し、前記第1シールガス管に前記シールガスを供給するガス供給源と、
を備え、
前記第2原料ガス管のポートは、前記第1原料ガス管のポートを囲うように配置され
、
前記第1シールガス管のポートは、前記第1原料ガス管のポートを囲うように配置され、
前記第2原料ガス管のポート及び前記可燃性ガス管のポートは、前記第1シールガス管のポートを基準とする前記第1原料ガス管のポート側と反対側に配置される
ことを特徴とする光ファイバ用母材の製造装置。
【請求項13】
原料ガスを流す第1原料ガス管及び第2原料ガス管と可燃性ガスを流す可燃性ガス管とを有し前記原料ガス及び前記可燃性ガスを含むガスを射出してガラス微粒子を堆積させて多孔質ガラス体を形成するバーナと、
前記第2原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速が前記第1原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速より遅くなるように前記第1原料ガス管及び前記第2原料ガス管のそれぞれに前記原料ガスを供給するとともに、前記可燃性ガス管に前記可燃性ガスを供給するガス供給源と、
を備え、
前記第2原料ガス管のポートは、前記第1原料ガス管のポートを囲うように配置され
、
前記第1原料ガス管及び前記第2原料ガス管は、前記可燃性ガス管内に非配置とされる
ことを特徴とする光ファイバ用母材の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用母材の製造装置、及び光ファイバ用母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバの製造に用いる光ファイバ用母材を製造する方法として、OVD法(Outside Vapor Deposition method)やVAD法(Vapor Phase Axial Deposition method)等を用いてガラス微粒子を堆積させて多孔質ガラス体を形成し、当該多孔質ガラス体を脱水処理した後、焼結させる方法が知られている。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、OVD法であって、原料ガス、可燃性ガス、及び助燃性ガスをバーナから射出して生成されるガラス微粒子を棒状の出発母材の外周面に堆積させて多孔質ガラス体を形成する多孔質ガラス体の製造方法が記載されている。このバーナは、原料ガスをそれぞれ射出する第1ポート及び複数の第2ポートを有し、複数の第2ポートは第1ポートを囲うように配置されている。
【0004】
【発明の概要】
【0005】
ところで、上記特許文献1のように出発母材の外周面にガラス微粒子を堆積させる場合、当初は出発母材の外周面にガラス微粒子が吹き付けられ、その後は出発母材の外周面に堆積したガラス微粒子から成る多孔質ガラス体の外周面にガラス微粒子が吹き付けられる。そして、この多孔質ガラス体が時間の経過とともに大きくなる。このような場合、ガラス微粒子が吹き付けられる領域は、平面状ではなく、バーナ側に凸状に湾曲した曲面状である。このため、この領域の外周部の一部での垂線と当該一部に向かうガラス微粒子の進行方向とのなす角は、中心部での垂線と当該中心部に向かうガラス微粒子の進行方向とのなす角より大きくなる。ガラス微粒子はこの角が大きくなるにつれて吹き付けられた際に跳ね返り易くなる傾向にあるため、外周部にガラス微粒子が付着しにくくなる場合がある。上記特許文献1では、このようなガラス微粒子の跳ね返りについて考慮がなされていない。このため、ガラス微粒子の堆積効率が低下して光ファイバ用母材の製造効率が低下し、その結果、光ファイバの製造効率が低下することが懸念される。
【0006】
そこで、本発明は、光ファイバの製造効率の低下を抑制し得る光ファイバ用母材の製造装置、及び光ファイバ用母材の製造方法を提供することを目的とする。
【0007】
上記目的の達成のため、光ファイバ用母材の製造方法は、バーナから原料ガス及び可燃性ガスを含むガスを射出してガラス微粒子を堆積させて多孔質ガラス体を形成する堆積工程を備え、前記バーナは、前記原料ガスを流す第1原料ガス管及び第2原料ガス管と前記可燃性ガスを流す可燃性ガス管とを有し、前記第2原料ガス管のポートは、前記第1原料ガス管のポートを囲うように配置され、前記堆積工程において、前記第2原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速を前記第1原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速より遅くすることを特徴とするものである。
【0008】
また、上記目的の達成のため、本発明の光ファイバ用母材の製造装置は、原料ガスを流す第1原料ガス管及び第2原料ガス管と可燃性ガスを流す可燃性ガス管とを有し前記原料ガス及び前記可燃性ガスを含むガスを射出してガラス微粒子を堆積させて多孔質ガラス体を形成するバーナと、前記第2原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速が前記第1原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速より遅くなるように前記第1原料ガス管及び前記第2原料ガス管のそれぞれに前記原料ガスを供給するとともに、前記可燃性ガス管に前記可燃性ガスを供給するガス供給源と、を備え、前記第2原料ガス管のポートは、前記第1原料ガス管のポートを囲うように配置されることを特徴とするものである。
【0009】
この製造方法及び製造装置では、第1原料ガス管のポートから射出する原料ガスに由来するガラス微粒子は、ガラス微粒子が吹き付けられる領域における中心部に主に吹き付けられる。一方、第2原料ガス管のポートから射出する原料ガスに由来するガラス微粒子は、上記領域における外周部に主に吹き付けられる。一般的に、ガラス微粒子が面に非垂直な方向から吹き付けられる場合、ガラス微粒子は、速度が遅くなるにつれて吹き付けられる面で跳ね返りにくくなる傾向にある。この製造方法及び製造装置では、第2原料ガス管のポートから射出する原料ガスの流速は、第1原料ガス管のポートから射出する原料ガスの流速より遅いため、外周部に吹き付けられるガラス微粒子の速度を中心部に吹き付けられるガラス微粒子の速度より遅くし得る。このため、上記領域がバーナ側に凸状に湾曲した曲面状であっても、この領域の外周部に吹き付けられるガラス微粒子の速度が中心部に吹き付けられるガラス微粒子の速度以上である場合と比べて、外周部でのガラス微粒子の跳ね返りを抑制し得る。従って、この製造方法及び製造装置によれば、ガラス微粒子の堆積効率が低下して光ファイバ用母材の製造効率が低下することを抑制し得、その結果、この光ファイバ用母材を用いて製造される光ファイバの製造効率の低下を抑制し得る。
【0010】
上記の製造方法及び製造装置では、前記バーナは、前記第2原料ガス管を複数有し、複数の前記第2原料ガス管のそれぞれのポートは、前記第1原料ガス管のポートの周囲に所定間隔ごとに配置されることとしてもよい。
【0011】
このような構成にすることで、隣接する第2原料ガス管のポートの距離が一定でない場合と比べて、ガラス微粒子の生成を周方向において均一に近づけることができ、多孔質ガラス体のかさ密度を均一に近づけ得る。
【0012】
上記の製造方法及び製造装置では、バーナが第2原料ガス管を複数有する場合、前記第1原料ガス管の内径は、複数の前記第2原料ガス管のそれぞれの内径より大きいこととしてもよい。
【0013】
一般的に、管の内径が大きくなるにつれて、当該管における圧力損失が小さくなる傾向にある。このため、このような構成にすることで、例えば、第1原料ガス管及び第2原料ガス管に同じ圧力で原料ガスを供給しても、第2原料ガス管のポートから射出する原料ガスの流速を第1原料ガス管のポートから射出する原料ガスの流速より遅くし得る。このため、第1原料ガス管と第2原料ガス管とに異なる圧力で原料ガスを供給する場合と比べて、原料ガスを供給するガス供給源の構成を簡易にし得る。
【0014】
上記の製造方法では、前記堆積工程において、棒状の出発母材の外主面に前記ガラス微粒子を堆積させ、前記バーナのガス射出方向に沿って見る場合に、全ての前記第2原料ガス管のポートの全体が前記出発母材と重なることとしてもよい。
【0015】
このような構成にすることで、バーナのガス射出方向に沿って見る場合に第2原料ガス管のポートの少なくとも一部が出発母材と重ならない場合と比べて、堆積を始める当初におけるガラス微粒子の堆積効率を向上させることができる。
【0016】
上記の製造方法では、前記堆積工程において、時間の経過とともに前記第2原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速を前記第1原料ガス管のポートから射出する前記原料ガスの流速に近づけることとしてもよい。
【0017】
例えば、棒状の出発母材の外周面にガラス微粒子を堆積させる場合、時間の経過とともに多孔質ガラス体の外径が大きくなる。このため、ガラス微粒子が吹き付けられる領域の曲率半径が時間の経過とともに大きくなり、この領域の外周部における垂線とガラス微粒子の進行方向とのなす角が時間の経過とともに小さくなる。このため、外周部に吹き付けられるガラス微粒子は時間の経過とともに跳ね返りにくくなる。従って、このような場合では、上記のような構成にすることで、上記領域の外周部でのガラス微粒子の跳ね返りを抑制しつつガラス微粒子の堆積速度を向上し得る。
【0018】
上記の製造方法及び製造装置では、前記バーナは、シールガスを流す第1シールガス管を更に備え、前記原料ガス、前記可燃性ガス、及び前記シールガスを含むガスを射出し、前記第1シールガス管のポートは、前記第1原料ガス管のポートを囲うように配置され、前記第2原料ガス管のポート及び前記可燃性ガス管のポートは、前記第1シールガス管のポートを基準とする前記第1原料ガス管のポート側と反対側に配置されることとしてもよい。
【0019】
このような構成にすることで、第1原料ガス管のポートの近傍でガラス微粒子が生成されることを抑制し得、ガラス微粒子の第1原料ガス管への付着を抑制し得る。
【0020】
上記の製造方法及び製造装置では、バーナが第1シールガス管を有する場合、前記バーナは、前記シールガスを流す第2シールガス管を更に備え、前記第2シールガス管のポートは、前記第2原料ガス管のポートを囲うように配置され、前記可燃性ガス管のポートは、前記第2シールガス管のポートを基準とする前記第2原料ガス管のポート側と反対側に配置されることとしてもよい。
【0021】
このような構成にすることで、ガラス微粒子の第1原料ガス管及び第2原料ガス管への付着を抑制し得る。
【0022】
上記の製造方法及び製造装置では、バーナが第2シールガス管を有する場合、前記バーナは、前記第2原料ガス管と前記第2シールガス管とからなる複数の第1のガス管対を備え、複数の前記第1のガス管対のそれぞれにおける前記第2原料ガス管のポートは、前記第1原料ガス管のポートの周囲に所定間隔ごとに配置され、それぞれの前記第1のガス管対において、前記第2シールガス管のポートは、前記第2原料ガス管のポートを囲うこととしてもよい。
【0023】
このような構成にすることで、1つの第2シールガス管のポートが複数の第2原料ガス管のポートを囲う場合と比べて、第2シールガス管のポートの面積を小さくし得る。従って、このような構成にすることで、この場合と比べて、射出するシールガス全体の流量を少なくし得、シールガスによってガラス微粒子が生成されにくくなることを抑制し得、ガラス微粒子の堆積効率を向上し得る。
【0024】
上記の製造方法では、バーナが第2シールガス管を有する場合、前記堆積工程において、前記第1シールガス管のポートから射出する前記シールガスの流速を前記第2シールガス管のポートから射出する前記シールガスの流速より速くしてもよい。
【0025】
上記の製造方法及び製造装置では、前記第1原料ガス管及び前記第2原料ガス管は、前記可燃性ガス管内に非配置とされることとしてもよい。
【0026】
安全性の観点から、可燃性ガス管に供給される可燃性ガスの温度は、一般的に低い温度、例えば原料ガスの温度よりも低い温度とされる。このため、上記のような構成にすることで、可燃性ガス管内に第1原料ガス管及び第2原料ガス管が配置される場合と比べて、可燃性ガスによって原料ガスが冷却されてガラス微粒子が生成されにくくなることを抑制し得る。
【0027】
上記の製造方法及び製造装置では、前記バーナは、前記可燃性ガス管と助燃性ガスを流す助燃性ガス管とからなる複数の第2のガス管対を備え、前記原料ガス、前記可燃性ガス、及び前記助燃性ガスを含むガスを射出し、それぞれの前記第2のガス管対において、前記可燃性ガス管のポート及び前記助燃性ガス管のポートの一方は、他方を囲うこととしてもよい。
【0028】
このような構成にすることで、可燃性ガスを効果的に燃焼させ得る。
【0029】
以上のように、本発明によれば、光ファイバの製造効率の低下を抑制し得る光ファイバ用母材の製造装置、及び光ファイバ用母材の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る光ファイバの製造方法によって製造される光ファイバの長手方向に垂直な断面の様子を示す図である。
【
図2】
図1に示す光ファイバを製造するための光ファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の様子を示す図である。
【
図3】本実施形態に係る光ファイバ用母材の製造方法、及び光ファイバの製造方法の工程を示すフローチャートである。
【
図4】堆積工程で用いる堆積装置を概略的に示す図である。
【
図5】本実施形態のバーナのポートをガスの射出側から見た様子を示す図である。
【
図6】堆積工程における当初の様子を示す断面図である。
【
図7】堆積工程における所定の期間経過したときの様子を示す断面図である。
【
図8】堆積を始める当初にガラス微粒子が吹き付けられる領域をバーナ側から見る図である。
【
図9】堆積を始めてから所定の期間経過後にガラス微粒子が吹き付けられる領域をバーナ側から見る図である。
【
図12】本発明の変形例に係るバーナのポートを
図5と同様に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る光ファイバ用母材の製造装置、及び光ファイバ用母材の製造方法の好適な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。以下に例示する実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良することができる。なお、以下で参照する図面では、理解を容易にするために、各部材の寸法を変えて示す場合がある。
【0032】
図1は、本実施形態に係る光ファイバの製造方法によって製造される光ファイバの長手方向に垂直な断面の様子を示す図である。
図1に示すように、本実施形態では、光ファイバ1は、コア10と、コア10の外周面を囲うクラッド11と、クラッド11の外周面を被覆する被覆層12とを主な構成として備える。光ファイバ1の長手方向と垂直な断面でのコア10の外形は円形とされ、当該コア10はクラッド11の中心に配置されている。なお、この断面でのクラッド11の外形は楕円形や多角形等の非円形としてもよい。
【0033】
コア10の屈折率はクラッド11の屈折率よりも高くされる。本実施形態では、コア10はゲルマニウム(Ge)等の屈折率が高くなるドーパントが添加されたシリカガラスからなり、クラッド11は何ら添加物の無いシリカガラスからなる。なお、コア10は屈折率が高くなるドーパントが添加されたシリカガラスからなり、クラッド11はフッ素(F)等の屈折率が低くなるドーパントが添加されたシリカガラスからなっていてもよい。また、コア10は何ら添加物の無いシリカガラスからなり、クラッド11は屈折率が低くなるドーパントが添加されたシリカガラスからなっていてもよい。
【0034】
被覆層12は、樹脂からなる。被覆層12を構成する樹脂として、例えば熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂が挙げられる。被覆層12は、クラッド11を囲う1つの樹脂の層からなる単層構造とされてもよく、複数の樹脂の層からなる多層構造とされてもよい。
【0035】
図2は、
図1に示す光ファイバ1を製造するための光ファイバ用母材の長手方向に垂直な断面の様子を示す図である。
図2に示すように、光ファイバ用母材1Pは、コア10となるロッド状のコアガラス体10Pと、コアガラス体10Pの外周面を囲みクラッド11となるクラッドガラス体11Pとから構成される。本実施形態では、光ファイバ用母材1Pの長手方向と垂直な断面において、クラッドガラス体11Pの外形は円形であり、コアガラス体10Pはクラッドガラス体11Pの中心に配置されている。また、この断面でのコアガラス体10Pの外形は円形である。
【0036】
次に、本実施形態に係る光ファイバ用母材の製造方法、及び光ファイバの製造方法について説明する。
【0037】
図3は、本実施形態に係る光ファイバ用母材1Pの製造方法、及び光ファイバ1の製造方法の工程を示すフローチャートである。
図3に示すように、本実施形態の光ファイバ用母材1Pの製造方法は、堆積工程P1と、脱水工程P2と、焼結工程P3と、を備える。また、光ファイバ1の製造方法は、これら工程により製造された光ファイバ用母材1Pを線引きする線引工程P4を備える。
【0038】
<堆積工程P1>
本工程は、ガラス微粒子を堆積させて多孔質ガラス体を形成する工程である。まず、本工程で用いる堆積装置について説明する。
【0039】
図4は、本工程で用いる堆積装置を概略的に示す図である。本実施形態の堆積装置30は、OVD法により出発母材20にガラス微粒子22を堆積させるように構成され、旋盤31と、バーナ40と、支持部32と、ガス供給源50と、制御部COと、を主な構成として備える。
【0040】
本実施形態の出発母材20は、コア10となるコアガラス体10Pからなる棒状のコアロッドとされ、この出発母材20の長手方向と垂直な断面の形状は、概ね円形とされる。なお、出発母材20は、コアガラス体10Pからなるコアロッドの外周面がクラッドガラス体11Pと同じガラス体からなる被覆層で被覆されたガラスロッドであってもよい。
【0041】
制御部COは、例えば、マイクロコントローラ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large-scale Integrated Circuit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などの集積回路やNC(Numerical Control)装置を用いることができる。また、制御部COは、NC装置を用いた場合、機械学習器を用いたものであってもよく、機械学習器を用いないものであってもよい。以下に説明するように、堆積装置30の幾つかの構成が制御部COによって制御される。
【0042】
旋盤31は、出発母材20の両端部を把持して出発母材20を当該出発母材20の中心軸20a周りに回転させるように構成される。旋盤31は、制御部COからの制御信号により、出発母材20の回転速度を調節する。
【0043】
図5は、本実施形態のバーナ40の射出口であるポート40Aをガスの射出側から見た様子を示す図である。
図5に示すように、バーナ40は、第1原料ガス管41と、複数の第2原料ガス管42と、第1シールガス管43と、複数の第2シールガス管44と、複数の可燃性ガス管45と、複数の助燃性ガス管46と、保護カバー47と、を主に備える。なお、
図5では、視認を容易にするため、これらガス管41~46及び保護カバー47に斜線を付しているが、当該斜線は管の断面を示すものではない。また、ガス管42,44,45,46に関しては、2つに符号を付して他のものに対する符号を省略している。
【0044】
第1原料ガス管41及び複数の第2原料ガス管42は、それぞれ原料ガスを流す管である。第1原料ガス管41の射出端側とは反対の端部には、連結管51を介してガス供給源50が接続される。また、複数の第2原料ガス管42の射出端側とは反対の端部には、共用の連結管52を介してガス供給源50が接続される。原料ガスは、ガラス微粒子22の原料を含むガスであり、この原料として、例えば、オクタメチルシクロテトラシロキサン、四塩化ケイ素等が挙げられる。
【0045】
第1シールガス管43及び複数の第2シールガス管44は、それぞれシールガスを流す管である。第2シールガス管44と第2原料ガス管42とは対となっており、この対である第1のガス管対PP1が複数配置されている。第1シールガス管43の射出端側とは反対の端部には、連結管53を介してガス供給源50が接続される。また、複数の第2シールガス管44の射出端側とは反対の端部には、共用の連結管54を介してガス供給源50が接続される。シールガスとして、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。
【0046】
複数の可燃性ガス管45は、それぞれ可燃性ガスを流す管である。これら可燃性ガス管45の射出端側とは反対の端部には、共用の連結管55を介してガス供給源50が接続される。可燃性ガスとして、例えば、水素、メタン、酸水素ガス等が挙げられる。
【0047】
複数の助燃性ガス管46は、それぞれ助燃性ガスを流す管である。助燃性ガス管46と可燃性ガス管45とは対となっており、この対である第2のガス管対PP2が複数配置されている。これら助燃性ガス管46の射出端側とは反対の端部には、共用の連結管56を介してガス供給源50が接続される。助燃性ガスとして、例えば、酸素等が挙げられる。
【0048】
保護カバー47は、上記のガス管41~46を保護する筒状の部材であり、これらガス管41~46は、保護カバー47の内部空間に配置される。なお、バーナ40は、保護カバー47を備えなくてもよい。
【0049】
本実施形態では、ガス管41~46は円管とされ、ガス管41~44はガス管45内に非配置とされる。ガス管41~46及び保護カバー47を構成する材料として、例えば、ステンレス等の金属、石英ガラス等が挙げられる。
【0050】
ガス供給源50は、第1原料ガス管41及び複数の第2原料ガス管42に原料ガスを供給し、第1シールガス管43及び複数の第2シールガス管44にシールガスを供給し、複数の可燃性ガス管45に可燃性ガスを供給し、複数の助燃性ガス管46に助燃性ガスを供給するように構成される。ガス供給源50は、これらガス管41~46へのガスの供給量を、個別に変更可能であり、制御部COからの制御信号により、これらガスの供給量を調節する。なお、複数の第2原料ガス管42、複数の第2シールガス管44、複数の可燃性ガス管45、及び複数の助燃性ガス管46は、個別にガス供給源50に連結されてもよい。
【0051】
次に、それぞれのガス管の射出口であり、それぞれのガス管におけるガスが射出する領域であるポート41A~46Aの配置について説明する。それぞれのポート41A~46Aをガスの射出側から見る場合に、それぞれのポート41A~46Aは次のように配置される。
【0052】
第1原料ガス管41のポート41Aの外周は、全周に亘って第1シールガス管43のポート43Aによって囲われる。また、ポート43Aの周囲に、複数の第1のガス管対PP1のそれぞれが所定間隔ごとに配置される。それぞれの第1のガス管対PP1において、ポート42Aの外周は、全周に亘って第2シールガス管44のポート44Aによって囲われる。このように配置される複数のポート42Aは、ポート41A及びポート43Aを囲い、ポート43Aを基準とするポート41A側と反対側に位置する。
【0053】
本実施形態では、ポート43Aは円環状であり、ポート41A及びポート43Aの中心は、保護カバー47の中心軸と概ね一致している。また、ポート41Aの中心を中心としポート43Aの外径より大きい直径の円C1上に、ポート42Aが所定間隔ごとに配置される。また、ポート44Aは円環状であり、ポート42Aの中心とポート44Aの中心は、概ね一致している。
【0054】
複数の第1のガス管対PP1のそれぞれにおける第2シールガス管44のポート44Aを基準とする第1原料ガス管41のポート41A側と反対側には、複数の第2のガス管対PP2のそれぞれにおける助燃性ガス管46のポート46Aが所定間隔ごとに配置される。それぞれの第2のガス管対PP2において、ポート46Aの外周は、全周に亘って可燃性ガス管45のポート45Aによって囲われる。このように配置される複数のポート45Aは、複数のポート42Aを囲うとともに、ポート41Aも囲い、ポート43Aを基準とするポート41A側と反対側かつポート44Aを基準とするポート42A側と反対側かに位置する。
【0055】
本実施形態では、ポート41Aの中心を中心とし上記の円C1の直径より大きい直径の円C2上に、それぞれのポート45Aが所定間隔ごとに配置される。また、ポート45Aの中心とポート46Aの中心とは、概ね一致している。
【0056】
また、本実施形態では、第1原料ガス管41の内径は複数の第2原料ガス管42のそれぞれの内径より大きく、ポート41Aの面積はそれぞれのポート42Aの面積より大きい。また、ポート43Aの幅とポート44Aの幅は概ね同じである。また、全ての第2原料ガス管42のポート42Aを囲う最小の円C3の直径は、出発母材20の外径より小さい。本実施形態では、この円C3に全てのポート42Aが内接しているが、これに限らない。
【0057】
支持部32は、バーナ40から出発母材20に向かってガスが射出するようにバーナ40を支持する。本実施形態では、支持部32は、ポート41Aの中心を通りバーナ40のガスの射出方向と平行な直線L1が出発母材20の中心軸20aと概ね垂直に交わるようにバーナ40を支持する。そして、バーナ40のガス射出方向に沿って見る場合に、全ての第2原料ガス管42のポート42Aの全体が出発母材20と重なる。この支持部32は、出発母材20の長手方向に沿って往復移動可能であるとともに、直線L1と概ね平行で出発母材20から離隔する方向に移動可能に構成され、制御部COからの制御信号により移動する。
【0058】
次に、堆積工程P1について説明する。
【0059】
本工程では、まず、上記の出発母材20を準備して旋盤31に当該出発母材20を把持させる。本実施形態では、出発母材20の外径は上記の円C3の直径より大きい。旋盤31は、制御部COからの制御信号により、出発母材20を中心軸20a周りに所定の速度で回転させる。支持部32は、制御部COからの制御信号により、出発母材20の長手方向に沿って繰り返し往復移動し、バーナ40が出発母材20の長手方向に沿って繰り返し往復移動する。ガス供給源50は、制御部COからの制御信号により、バーナ40に、原料ガス、シールガス、可燃性ガス、及び助燃性ガスをそれぞれ所定の流量で供給し、バーナ40はこれらガスを射出する。バーナ40から射出する可燃性ガス及び助燃性ガスの燃焼によって火炎が形成され、当該火炎内に原料が放出される。この原料が加水分解反応または燃焼反応してシリカガラスとなり、ガラス微粒子22が生成される。このガラス微粒子22は、直線L1と概ね平行な方向に進み、出発母材20に向かう。
【0060】
図6は、本工程における当初の様子を示す断面図であり、
図7は、本工程における所定の期間経過したときの様子を示す断面図である。
図6及び
図7は、中心軸20aと平行な方向から見る図である。
図6に示すように、当初では、生成されるガラス微粒子22は、回転する出発母材20の外周面に吹き付けられ、時間の経過とともに出発母材20の外周面を被覆するようにガラス微粒子22が堆積する。出発母材20の長手方向と垂直な断面の形状は概ね円形であるため、当初においてガラス微粒子22が吹き付けられる領域60は、バーナ40側に凸状に湾曲した曲面状であると理解できる。
【0061】
図8は、この領域60をバーナ40側から見る図である。上記のように、複数の第2原料ガス管42のポート42Aは、第1原料ガス管41のポート41Aを囲うように配置される。このため、この領域60における中心部61には、ポート41Aから射出する原料ガスに由来するガラス微粒子22が主に吹き付けられる。一方、この中心部61を囲う外周部62には、複数のポート42Aから射出する原料ガスに由来するガラス微粒子22が主に吹き付けられる。なお、中心部61は、ポート41Aより広く、直線L1と交わる。
【0062】
ガラス微粒子22の堆積を始めてから所定の期間経過して出発母材20の外周面がガラス微粒子22によって覆われる状態では、
図7に示すように、ガラス微粒子22は、多孔質ガラス体21の外周面に吹き付けられる。そして、時間の経過とともにガラス微粒子22の堆積により多孔質ガラス体21の外径が大きくなる。出発母材20は中心軸20a周りに回転しているため、出発母材20の長手方向に沿って見る場合の多孔質ガラス体21の外形は概ね円形となる。このため、ガラス微粒子22が吹き付けられる領域65は、バーナ40側に凸状に湾曲した曲面状であると理解できる。
【0063】
図9は、この領域65をバーナ40側から見る図である。ガラス微粒子22の堆積を始める当初と同様に、この領域65における中心部66には、ポート41Aから射出する原料ガスに由来するガラス微粒子22が主に吹き付けられる。また、外周部67には、複数のポート42Aから射出する原料ガスに由来するガラス微粒子22が主に吹き付けられる。なお、中心部66は、ポート41Aより広く、直線L1と交わる。
【0064】
このように、制御部COは、旋盤31、支持部32、及びガス供給源50を制御し、必要な回数だけバーナ40を往復移動させて所定の重量の多孔質ガラス体21を形成する。
【0065】
ここで、複数の第2原料ガス管42のそれぞれのポート42Aから射出する原料ガスの流速は、第1原料ガス管41のポート41Aから射出する原料ガスの流速より遅い。換言すれば、制御部COは、原料ガスの流速がこのようになるように、ガス供給源50を制御する。また、本実施形態では、制御部COは、時間の経過とともにそれぞれのポート42Aから射出する原料ガスの流速が速くなり当該流速がポート41Aから射出する原料ガスの流速に近づくように、ガス供給源50を制御する。なお、ポート42Aから射出する原料ガスの流速は、ポート41Aから射出する原料ガスの流速以上とならない。また、制御部COは、時間の経過とともにバーナ40が出発母材20から離隔する方向に移動するように支持部32を制御し、バーナ40のポート40Aと多孔質ガラス体21との距離を概ね一定に維持する。ガラス微粒子22の大きさは、ポート40Aからの距離によって変化する傾向にあるため、上記のようにバーナ40を移動させることで、大きさが概ね同じガラス微粒子22が堆積され、多孔質ガラス体21のかさ密度を概ね一定にできる。また、制御部COは、第1シールガス管43のポート43Aから射出するシールガスの流速と、第2シールガス管44のポート44Aから射出するシールガスの流速とが同じとなるように、ガス供給源50を制御する。なお、ポート43Aから射出するシールガスの流速をポート44Aから射出するシールガスの流速より速くしてもよく、遅くしてもよい。
【0066】
なお、光ファイバ1のクラッド11がドーパントが添加されたシリカガラスからなる場合、例えば原料ガスをこのドーパントまたはドーパントの化合物を含むガスに変更する。
【0067】
<脱水工程P2>
本工程は、堆積工程P1で形成された多孔質ガラス体21を脱水処理する工程である。
図10は、本工程の様子を示す図である。
図10に示すように、本実施形態では、収容空間75を有する炉心管71と、当該炉心管71を加熱する発熱体72とを備える加熱炉70を用いて、多孔質ガラス体21を脱水処理する。まず、支持棒76に多孔質ガラス体21を吊り下げ、当該多孔質ガラス体21を炉心管71の収容空間75に収容させる。次に、炉心管71に設けられる給気口77から脱水処理用ガスを収容空間75に供給しつつ、発熱体72によって炉心管71を加熱することで多孔質ガラス体21を加熱する。炉心管71には排気口78が設けられており、収容空間75内のガスは当該排気口78から排気される。脱水処理用ガスとして、例えば、塩素、四塩化ケイ素等の塩素系ガスとヘリウム、アルゴン等の不活性ガスとの混合ガスが挙げられる。脱水処理用ガスによって多孔質ガラス体21におけるOH基(水酸基)や多孔質ガラス体21に付着した水分が除去され、多孔質ガラス体21が脱水処理される。多孔質ガラス体21を加熱する温度は、多孔質ガラス体21の焼結温度より低くかつ多孔質ガラス体21からOH基を脱離できる温度であればよい。また、本工程は脱水処理ができればよく、加熱炉70の構成や脱水方法は特に制限されるものではない。
【0068】
<焼結工程P3>
本工程は、脱水工程P2で脱水処理された多孔質ガラス体21を焼結する工程である。本実施形態では、上記の加熱炉70を用いて、多孔質ガラス体21を加熱することで当該多孔質ガラス体21を透明ガラス化する。なお、本工程では、給気口77から焼結処理用ガスを収容空間75に供給しつつ、多孔質ガラス体21を加熱する。焼結処理用ガスとして、例えば、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスが挙げられる。また、多孔質ガラス体21を加熱する温度は、多孔質ガラス体21が焼結して透明ガラス化する温度であればよい。また、本工程は多孔質ガラス体21を焼結できればよく、加熱炉70の構成や焼結方法は特に制限されるものではない。
【0069】
本工程において、出発母材20はほとんど変化することなく
図2に示すコアガラス体10Pとなる。また、多孔質ガラス体21が透明ガラス化されてクラッドガラス体11Pとなる。こうして、
図2に示す光ファイバ用母材1Pを得る。なお、本実施形態では、光ファイバ用母材1Pの製造装置は、上記のように、堆積装置30と加熱炉70とを含む。
【0070】
<線引工程P4>
図11は、本工程の様子を示す図である。
【0071】
まず、本工程を行う準備段階として、堆積工程P1から焼結工程P3により製造された光ファイバ用母材1Pを紡糸炉110に設置する。そして、紡糸炉110の加熱部111を発熱させて、光ファイバ用母材1Pを加熱する。このとき光ファイバ用母材1Pの下端部は、溶融状態となる。そして、光ファイバ用母材1Pの下端部からガラス線が引き出される。この線引きされたガラス線は、紡糸炉110から出ると、すぐに固化して、コアガラス体10Pがコア10となり、クラッドガラス体11Pがクラッド11となり、コア10とクラッド11とから構成される光ファイバ裸線1Nとなる。この光ファイバ裸線1Nは、冷却装置120を通過して、適切な温度まで冷却される。
【0072】
次に、この光ファイバ裸線1Nは、被覆層12となる未硬化状態の樹脂が貯留された塗布部131を通過して、この樹脂によって被覆される。樹脂が被覆された光ファイバ裸線1Nは、硬化部132を通過して、樹脂が硬化して被覆層12が形成され、
図1に示す光ファイバ1となる。この光ファイバ1は、ターンプーリー141により方向が変換され、巻き取り部142により巻き取られる。こうして、
図1に示す光ファイバ1が製造される。
【0073】
以上説明したように、本実施形態の光ファイバ用母材1Pの製造方法は、バーナ40から原料ガス及び可燃性ガスを含むガスを射出してガラス微粒子22を堆積させて多孔質ガラス体21を形成する堆積工程P1を含む。バーナ40は、原料ガスを流す第1原料ガス管41及び複数の第2原料ガス管42と、可燃性ガスを流す可燃性ガス管45とを有する。複数の第2原料ガス管42のポート42Aは、第1原料ガス管41のポート41Aを囲うように配置されている。堆積工程P1において、それぞれのポート42Aから射出する原料ガスの流速をポート41Aから射出する原料ガスの流速より遅くする。
【0074】
また、本実施形態の光ファイバ用母材1Pの製造装置は、バーナ40とガス供給源50とを備える。バーナ40は、原料ガスを流す第1原料ガス管41及び複数の第2原料ガス管42と、可燃性ガスを流す複数の可燃性ガス管45と、を有する。このバーナ40は、原料ガス及び可燃性ガスを含むガスを射出してガラス微粒子22を堆積させて多孔質ガラス体21を形成する。ガス供給源50は、それぞれのポート42Aから射出する原料ガスの流速がポート41Aから射出する原料ガスの流速より遅くなるように、第1原料ガス管41及び複数の第2原料ガス管42に原料ガスを供給する。複数のポート42Aは、ポート41Aを囲うように配置されている。
【0075】
本実施形態では、
図6に示すように、堆積を始める当初にガラス微粒子22が吹き付けられる領域60は、出発母材20の外周面である。また、
図7に示すように、堆積を始めてから所定の期間経過したときにガラス微粒子22が吹き付けられる領域65は、多孔質ガラス体21の外周面である。これら領域60,65は、バーナ40側に凸状に湾曲した曲面状である。領域60,65がこのような曲面状である場合、領域60,65の外周部62,67の一部での垂線とこの一部に向かうガラス微粒子22の進行方向とのなす角は、中心部61,66での垂線とガラス微粒子22の進行方向とのなす角より大きくなる。
【0076】
図6及び
図8に示すように、外周部62のうちバーナ40のガスの射出方向及び中心軸20aに垂直な方向において中心部61より外側の部位62eでの垂線N62eは、中心部61での垂線N61と非平行である。そして、部位62eでの垂線N62eと当該部位62eに向かうガラス微粒子22の進行方向とのなす角は、中心部61での垂線N61と中心部61に向かうガラス微粒子22の進行方向とのなす角より大きい。なお、
図8では、外周部62における部位62eと他の部位との境界が破線で示されている。また、
図7及び
図9に示すように、外周部67うちバーナ40のガスの射出方向及び中心軸20aに垂直な方向において中心部66より外側の部位67eでの垂線N67eは、中心部66での垂線N66と非平行である。そして、部位67eでの垂線N67eと当該部位67eに向かうガラス微粒子22の進行方向とのなす角は、中心部66での垂線N66と中心部66に向かうガラス微粒子22の進行方向とのなす角より大きい。なお、
図9では、外周部67における部位67eと他の部位との境界が破線で示されている。
【0077】
一般的に、ガラス微粒子22の進行方向と当該ガラス微粒子22が吹き付けられる部位の垂線とのなす角が大きくなるにつれて、ガラス微粒子22は吹き付けられた際に跳ね返り易くなる傾向にある。また、ガラス微粒子22が面に非垂直な方向から吹き付けられる場合、ガラス微粒子22は、速度が遅くなるにつれて跳ね返りにくくなる傾向にある。本実施形態の製造方法及び製造装置では、上記のように、第2原料ガス管42のそれぞれのポート42Aから射出する原料ガスの流速は、第1原料ガス管41のポート41Aから射出する原料ガスの流速より遅い。このため、外周部62に吹き付けられるガラス微粒子22の速度を中心部61に吹き付けられるガラス微粒子22の速度より遅くし得る。このため、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、外周部62に吹き付けられるガラス微粒子22の速度が中心部61での速度以上である場合と比べて、外周部62,67の上記部位62e,67eでのガラス微粒子22の跳ね返りを抑制し得る。従って、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、この場合と比べてガラス微粒子22の堆積効率が低下して光ファイバ用母材1Pの製造効率が低下することを抑制し得、その結果、光ファイバ1の製造効率の低下を抑制し得る。
【0078】
また、本実施形態では、それぞれのポート42Aは、ポート41Aの周囲に所定間隔ごとに配置される。このため、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、隣接するポート42Aの距離が一定でない場合と比べて、ガラス微粒子22の生成を周方向において均一に近づけることができ、多孔質ガラス体21のかさ密度を均一に近づけ得る。
【0079】
また、本実施形態では、第1原料ガス管41の内径は、複数の第2原料ガス管42のそれぞれの内径より大きい。一般的に、管の内径が大きくなるにつれて、当該管における圧力損失が小さくなる傾向にある。このため、例えば、これら原料ガス管41,42に同じ圧力で原料ガスを供給しても、第2原料ガス管42のポート42Aから射出する原料ガスの流速を第1原料ガス管41のポート41Aから射出する原料ガスの流速より遅くし得る。このため、これら原料ガス管41,42に異なる圧力で原料ガスを供給する場合と比べて、ガス供給源50の構成を簡易にし得る。例えば、ガス供給源50は、タンクに所定の圧力で原料ガスを供給する構成としてもよい。この場合、このタンクに原料ガス管41,42を接続する。このような構成であっても、ポート42Aから射出する原料ガスの流速をポート41Aから射出する原料ガスの流速より遅くし得る。また、このような構成にすることで、例えばガス供給源50に起因する原料ガスの脈動をタンクによって抑制でき、バーナ40から射出する原料ガスの流れが乱れることを抑制し得る。
【0080】
また、本実施形態では、棒状の出発母材20の外周面にガラス微粒子22を堆積させ、バーナ40のガス射出方向に沿って見る場合に、全ての第2原料ガス管42のポート42Aの全体が出発母材20と重なる。このため、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、バーナ40のガス射出方向に沿って見る場合に第2原料ガス管42のポート42Aの少なくとも一部が出発母材20と重ならない場合と比べて、堆積を始める当初におけるガラス微粒子22の堆積効率を向上させることができる。
【0081】
また、本実施形態では、時間の経過とともに複数の第2原料ガス管42のそれぞれのポート42Aから射出する原料ガスの流速を第1原料ガス管41のポート41Aから射出する原料ガスの流速に近づける。前述のように、時間の経過とともに多孔質ガラス体21の外径が大きくなる。このため、ガラス微粒子22が吹き付けられる領域65の曲率半径が時間の経過とともに大きくなり、この領域65の外周部67での垂線とガラス微粒子22の進行方向とのなす角が時間の経過とともに小さくなる。このため、外周部67に吹き付けられるガラス微粒子22は時間の経過とともに跳ね返りにくくなる。従って、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、外周部67でのガラス微粒子22の跳ね返りを抑制しつつガラス微粒子22の堆積速度を向上し得る。なお、それぞれのポート42Aから射出する原料ガスの流速は一定であってもよい。
【0082】
また、本実施形態では、バーナ40は、シールガスを流す第1シールガス管43を更に備え、原料ガス、可燃性ガス、及びシールガスを含むガスを射出する。第1シールガス管43のポート43Aは、第1原料ガス管41のポート41Aを囲うように配置される。第2原料ガス管42のポート42A及び可燃性ガス管45のポート45Aは、ポート43Aを基準とするポート41A側と反対側に配置される。このため、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、ポート41Aの近傍でガラス微粒子22が生成されることを抑制し得、ガラス微粒子22の第1原料ガス管41への付着を抑制し得る。
【0083】
また、本実施形態では、バーナ40は、第2原料ガス管42とシールガスを流す第2シールガス管44とからなる第1のガス管対PP1を複数備える。それぞれの第1のガス管対PP1において、第2シールガス管44のポート44Aは、第2原料ガス管42のポート42Aを囲う。可燃性ガス管45のポート45Aは、ポート44Aを基準とするポート42A側と反対側に配置される。このため、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、ガラス微粒子22の第1原料ガス管41及び第2原料ガス管42への付着を抑制し得る。また、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、複数のポート42Aを1つのポート44Aの内側に配置する場合と比べて、ポート44Aの面積を小さくし得る。従って、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、この場合と比べて、射出するシールガス全体の流量を少なくし得、シールガスによってガラス微粒子22が生成されにくくなることを抑制し得、ガラス微粒子の堆積効率を向上し得る。
【0084】
また、本実施形態では、第1原料ガス管41及び複数の第2原料ガス管42は、可燃性ガス管45内に非配置とされる。安全性の観点から、可燃性ガス管に供給される可燃性ガスの温度は、一般的に低い温度、例えば原料ガスの温度よりも低い温度とされる。このため、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、可燃性ガス管45内に第1原料ガス管41及び複数の第2原料ガス管42が配置される場合と比べて、可燃性ガスによって原料ガスが冷却されてガラス微粒子22が生成されにくくなることを抑制し得る。
【0085】
また、本実施形態では、バーナ40は、可燃性ガス管45と助燃性ガスを流す助燃性ガス管46とからなる複数の第2のガス管対PP2を備え、原料ガス、可燃性ガス、及び助燃性ガスを含むガスを射出する。それぞれの第2のガス管対PP2において、可燃性ガス管45のポート45Aは助燃性ガス管46のポート46Aを囲う。このため、本実施形態の製造方法及び製造装置によれば、可燃性ガスを効果的に燃焼させ得る。なお、可燃性ガスを効果的に燃焼させる観点では、それぞれの第2のガス管対PP2において、ポート45A及びポート46Aの一方が他方を囲えばよく、ポート46Aがポート45Aを囲ってもよい。
【0086】
また、本実施形態の光ファイバ1の製造方法は、上記の製造方法により製造される光ファイバ用母材1Pを線引きする線引工程P4を備える。このため、光ファイバ1の製造効率の低下を抑制し得る。
【0087】
以上、本発明について、上記実施形態を例に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0088】
例えば、上記実施形態では、複数の第2原料ガス管42を有するバーナ40を例に説明した。しかし、バーナ40における第2原料ガス管42のポート42Aが第1原料ガス管41のポート41Aを囲うように配置されていればよい。例えば、
図12に示すように、第2原料ガス管42は1つとされてもよい。なお、
図12は、本発明の変形例に係るバーナ40のポートを
図5と同様に示す図であり、上記実施形態と同一又は同等の構成要素については、同一の参照符号を付して特に説明する場合を除き重複する説明は省略する。
【0089】
本変形例のバーナ40では、第1シールガス管43のポート43Aの外周は、全周に亘ってポート42Aによって囲われる。このため、第1原料ガス管41のポート41Aもこのポート42Aによって囲われる。ポート42Aの外周は、全周に亘ってポート44Aによって囲われる。このような構成であっても、ポート42Aから射出する原料ガスの流速をポート41Aから射出する原料ガスの流速より遅くすることによって、上記実施形態と同様にして、ガラス微粒子22の堆積効率が低下して光ファイバ用母材1Pの製造効率が低下することを抑制し得る。また、本変形例のバーナ40では、ポート42Aは円環状であり、当該ポート42Aの外周が全周に亘ってポート44Aによって囲われる。このため、ポート43Aから出射するシールガスによってポート41Aから出射する原料ガスの拡散を抑制するとともに、ポート44Aから出射するシールガスによってポート41A及びポート42Aから出射する原料ガスの拡散を抑制し得る。なお、このバーナ40は第1シールガス管43を備えなくてもよい。
【0090】
また、上記実施形態及び変形例では、それぞれの第2のガス管対PP2において、ポート45Aがポート46Aを囲うバーナ40を例に説明した。しかし、ポート45A及びポート46Aの一方が他方を囲わなくてもよく、可燃性ガス管45と助燃性ガス管46とが対となっていなくてもよく、これらガス管45,46の数も制限されない。例えば、可燃性ガス管45の数が1つとされてもよく、この場合、例えば、少なくともバーナ40の射出側の端部において、1つの可燃性ガス管45内に他のガス管41,42,43,44,46が配置されてもよい。また、第2シールガス管44は1つとされ、少なくともバーナ40の射出側の端部において、この第2シールガス管44内に原料ガス管41,42が配置されてもよく、この場合、バーナ40は第1シールガス管43を備えなくてもよい。また、上記実施形態及び変形例では、ポート43Aがポート41Aの外周を全周に亘って囲い、ポート44Aがポート42Aの外周を全周に亘って囲うバーナ40を例に説明した。しかし、ポート43Aはポート41Aの外周の少なくとも一部を囲っていればよく、ポート44Aはポート42Aの外周の少なくとも一部を囲っていればよい。また、第1シールガス管43、第2シールガス管44、及び助燃性ガス管46の全てが省略されていてもよく、これらガス管43,44,46における1つまたは2つが省略されてもよい。
【0091】
また、上記実施形態及び変形例では、各ポートの外形状が円形とされるバーナ40を例に説明した。しかし、各ポートの外形状は円形以外の形状であってもよい。また、各ポートは同一の平面上に配置されていても配置されていなくてもよい。
【0092】
また、上記実施形態では、OVD法を用いる堆積工程P1を例に説明した。しかし、堆積工程では、バーナから原料ガス及び可燃性ガスを含むガスを射出してガラス微粒子を堆積させて多孔質ガラス体を形成すればよい。例えば、VAD法を用いて棒状の出発母材の一方の端部に当該出発母材の長手方向にガラス微粒子を堆積させてもよい。この場合、所定の期間経過した際にガラス微粒子が吹き付けられる部材は、堆積したガラス微粒子から成る多孔質ガラス体である。一般的にバーナから射出するガスは拡散する傾向にあり、ガラス微粒子が吹き付けられる領域の外周部に堆積するガラス微粒子の量は、中心部と比べて少なくなる傾向にある。このため、ガラス微粒子が吹き付けられる領域は、バーナ側に凸状に湾曲した曲面状となる傾向にあり、この領域の外周部での垂線とガラス微粒子の進行方向とのなす角は、中心部と比べて大きくなる傾向にある。従って、VAD法を用いて多孔質ガラス体を形成しても、上記実施形態と同様にして、ガラス微粒子の堆積効率が低下して光ファイバ用母材1Pの製造効率が低下することを抑制し得る。
【0093】
以上説明したように、本発明によれば、光ファイバの製造効率の低下を抑制し得る光ファイバ用母材の製造装置、及び光ファイバ用母材の製造方法が提供され、光ファイバ通信等の分野で利用することが期待される。