(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】樹脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/26 20060101AFI20240408BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20240408BHJP
C08K 5/5415 20060101ALI20240408BHJP
C08K 5/09 20060101ALI20240408BHJP
C03C 27/12 20060101ALI20240408BHJP
H01L 31/048 20140101ALI20240408BHJP
【FI】
C08L23/26
C08K5/14
C08K5/5415
C08K5/09
C03C27/12 F
H01L31/04 560
(21)【出願番号】P 2022551912
(86)(22)【出願日】2021-09-15
(86)【国際出願番号】 JP2021033860
(87)【国際公開番号】W WO2022065146
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2022-11-22
(31)【優先権主張番号】P 2020160349
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000174862
【氏名又は名称】三井・ダウポリケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】永山 敬
(72)【発明者】
【氏名】久木田 佳那
(72)【発明者】
【氏名】大木 和幸
(72)【発明者】
【氏名】冨士野 葵
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2014-0072380(KR,A)
【文献】特表2010-519346(JP,A)
【文献】特開平07-316368(JP,A)
【文献】特開平09-030846(JP,A)
【文献】特表2007-513250(JP,A)
【文献】特開2012-138467(JP,A)
【文献】特開2018-099435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L、C08K、C03C27/12
H01L31/048、C09K3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、脂肪酸および脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の滑剤(B)と、有機過酸化物(C)と、シランカップリング剤(D)とを含む樹脂組成物の製造方法であって、
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、脂肪酸および脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の滑剤(B)と、を混合することにより混合物を得る工程と、
前記工程の後に、前記混合物と、有機過酸化物(C)と、シランカップリング剤(D)と、を混合する工程と、
を含む樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
請求項1
に記載の樹脂組成物の製造方法で製造された樹脂組成物の加熱溶融物を、Tダイを備えた押出機の前記Tダイから押し出してシート状に成形する押出成形工程を含む太陽電池封止材の製造方法。
【請求項3】
請求項
2に記載の太陽電池封止材の製造方法であって、
前記押出成形工程において、前記Tダイの出口における前記加熱溶融物の温度が140℃以下である太陽電池封止材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、樹脂組成物の製造方法、太陽電池封止材、太陽電池封止材の製造方法、太陽電池モジュール、合わせガラス中間膜用樹脂シートおよび合わせガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クリーンなエネルギーとして太陽光発電の普及が進んでいる。太陽光発電においては、通常、シリコンセル等の半導体(太陽電池素子)を用いて太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する。太陽電池素子の長期信頼を図るため、太陽電池素子を封止材で挟み、太陽電池素子を保護し、太陽電池素子への異物の混入や水分等の侵入を防いでいる。
【0003】
太陽電池封止材に関する技術としては、例えば、特許文献1~3に記載のものが挙げられる。
【0004】
特許文献1には、エチレン-酢酸ビニル共重合体及びエチレン-脂肪族不飽和カルボン酸共重合体から選ばれる少なくとも1種の樹脂(A)と、上記樹脂(A)及びエチレン-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体以外の熱可塑性の樹脂(B)と、を含有する樹脂シートであって、上記樹脂(A)は、メルトフローレートの値が0.3g~30gであり、上記樹脂(B)からなる内層と、上記内層に積層された上記樹脂(A)からなる表面層と、を備える太陽電池封止樹脂シートが記載されている。
【0005】
特許文献2には、樹脂を軟化させて密着させる太陽電池用樹脂封止シートであって、上記樹脂封止シートが、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-脂肪族不飽和カルボン酸共重合体およびエチレン-脂肪族不飽和カルボン酸エステル共重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種類の電離性放射線架橋型樹脂を含み、上記電離性放射線架橋型樹脂に電離性放射線を照射することによりゲル分率を2~65質量%とし、90℃での熱収縮率が15%以下である太陽電池用樹脂封止シートが記載されている。
【0006】
特許文献3には、表面保護層、太陽電池セル、裏面保護層、ポリビニルアセタール樹脂層及び第二の樹脂層が積層され、ポリビニルアセタール樹脂層中のポリビニルアセタール100質量部に対する可塑剤の含有量が20質量部以下であり、ポリビニルアセタール樹脂層の厚さが600μm以下であり、ポリビニルアセタール樹脂層が太陽電池セルの少なくとも一面と接するように配置され、第二の樹脂層が表面保護層と裏面保護層との少なくとも一方と接するように配置されている太陽電池モジュールが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2014-95083号公報
【文献】特開2013-177506号公報
【文献】特開2015-8285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
太陽電池素子を封止する太陽電池封止材は、太陽電池素子の保護材として機能するものであるので、太陽光によりモジュール温度が高くなったとしても流動しにくい耐クリープ性が求められる。
また、太陽電池の変換効率を低下させないために、太陽電池封止材には、透明性(光線透過性)が高いことが求められる。
さらに、太陽電池封止材は、太陽電池素子を「封止」するものである以上、太陽電池素子と十分強く接着することが求められる。
【0009】
近年、太陽電池封止材の各種特性について要求される技術水準は、ますます高くなっている。
従来の熱可塑性太陽電池封止材には、良好な耐クリープ性、透明性および接着性の点で改善の余地があった。特に、これら3性能については、1つの性能を向上させようとすると他の性能が低下する場合があった。例えば、熱可塑性樹脂の融点を高く設計して耐クリープ性を改善した場合、透明性が悪化してしまったり、接着性が低下してしまったりする場合があった。すなわち、耐クリープ性、透明性および接着性の3性能をバランスよく向上させるという点で改善の余地があった。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものである。本発明の目的の1つは、耐クリープ性、透明性および接着性に優れた太陽電池封止材を得ることである。また、本発明の目的の1つは、そのような太陽電池封止材を形成することが可能な樹脂組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーと、脂肪酸および脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の滑剤と、有機過酸化物と、シランカップリング剤と、を含む樹脂組成物を用いて太陽電池封止材を製造することで、上記3性能をバランスよく向上させることができた。
【0012】
本発明は、以下である。
【0013】
1.
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、脂肪酸および脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の滑剤(B)と、有機過酸化物(C)と、シランカップリング剤(D)とを含む樹脂組成物。
2.
1.に記載の樹脂組成物であって、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)が含む金属イオンが、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、銀イオン、銅イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、バリウムイオン、ベリリウムイオン、ストロンチウムイオン、錫イオン、鉛イオン、鉄イオン、コバルトイオンおよびニッケルイオンからなる群から選択される2種以上を含む樹脂組成物。
3.
1.または2.に記載の樹脂組成物であって、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)が含む金属イオンは、第1金属イオンおよび前記第1金属イオンとは異なる第2金属イオンを含み、
前記第1金属イオンは、亜鉛イオン、銅イオン、鉄イオン、アルミニウムイオン、銀イオン、コバルトイオンおよびニッケルイオンからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンを含み、
前記第2金属イオンは、ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオンおよびマグネシウムイオンからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオンを含む樹脂組成物。
4.
3.に記載の樹脂組成物であって、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)中の、前記第1金属イオンのモル数を価数で乗じた値に対する前記第2金属イオンのモル数を価数で乗じた値の比が0.10以上10.0以下である樹脂組成物。
5.
1.~4.のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)において、前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を構成する構成単位の全体を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位が5質量%以上35質量%以下である樹脂組成物。
6.
1.~5.のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の中和度が5%以上95%以下である樹脂組成物。
7.
1.~6.のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)100質量部に対する前記滑剤(B)の量が1質量部以上20質量部以下である樹脂組成物。
8.
1.~7.のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
前記滑剤(B)は、炭素数12以上36以下の脂肪酸であるか、または、炭素数12以上36以下の脂肪酸の金属塩である樹脂組成物。
9.
1.~8.のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
前記滑剤(B)は、炭素数12以上36以下の脂肪酸の金属塩を含み、
前記エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)の少なくとも一部のカルボキシ基が、前記滑剤(B)が含む炭素数12以上36以下の脂肪酸の金属塩を構成する金属の少なくとも一部で中和されている樹脂組成物。
10.
1.~9.のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
前記シランカップリング剤(D)が、重合性炭素-炭素二重結合を含む基を有するシランカップリング剤を含む樹脂組成物。
11.
1.~10.のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
前記有機過酸化物(C)の10時間半減期温度が100℃以上である樹脂組成物。
12.
1.~11.のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
下記方法により測定されるクロスオーバー温度が150℃以上である樹脂組成物。
(方法)
前記樹脂組成物により構成された120mm×75mm×0.4mmの膜を、剥離フィルムを介してガラス板間に積層し、真空ラミネーターにて160℃、690秒真空保持、0.06MPa(ゲージ圧)で15分間プレスを行い、合わせガラスを得る。次いで得られた前記合わせガラスを165℃で30分間熱処理することで合わせガラス体を得る。得られた前記合わせガラス体からガラス板及び剥離フィルムを除去して得られる膜を試料として、昇温速度3℃/min、周波数1Hz、ずりモードで-60℃から150℃のせん断弾性率を窒素雰囲気下で測定する。せん断貯蔵弾性率(G')の値とせん断損失弾性率(G")の値とが等しくなる温度をクロスオーバー温度とする。
13.
1.~12.のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
太陽電池封止材の形成用である樹脂組成物。
14.
1.~13.のいずれか一つに記載の樹脂組成物の製造方法であって、
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、脂肪酸および脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の滑剤(B)と、を混合することにより混合物を得る工程と、
前記工程の後に、前記混合物と、有機過酸化物(C)と、シランカップリング剤(D)と、を混合する工程と、
を含む樹脂組成物の製造方法。
15.
1.~13.のいずれか一つに記載の樹脂組成物により構成された層を含む太陽電池封止材。
16.
1.~13.のいずれか一つに記載の樹脂組成物の加熱溶融物を、Tダイを備えた押出機の前記Tダイから押し出してシート状に成形する押出成形工程を含む太陽電池封止材の製造方法。
17.
16.に記載の太陽電池封止材の製造方法であって、
前記押出成形工程において、前記Tダイの出口における前記加熱溶融物の温度が140℃以下である太陽電池封止材の製造方法。
18.
太陽電池素子と、
15.に記載の太陽電池封止材により形成された、前記太陽電池素子を封止する封止樹脂層と、
を備える太陽電池モジュール。
19.
1.~12.のいずれか一つに記載の樹脂組成物であって、
合わせガラスの中間膜を形成するために用いられる樹脂組成物。
20.
19.に記載の樹脂組成物により形成された膜を含む、合わせガラス中間膜用樹脂シート。
21.
20.に記載の合わせガラス中間膜用樹脂シートにより形成された合わせガラス中間膜と、
前記合わせガラス中間膜の少なくとも一方の面上に設けられた透明板状部材と、を備える合わせガラス。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐クリープ性、透明性および接着性に優れた太陽電池封止材が提供される。また、本発明によれば、そのような太陽電池封止材を形成することが可能な樹脂組成物が提供される。
ちなみに、本発明の樹脂組成物は、太陽電池封止材の形成用途に好ましく適用されるが、それ以外の用途、例えば、合わせガラスの中間膜の製造用途などにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】太陽電池モジュールの構造の一例を模式的に示した図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
煩雑さを避けるため、同一図面内に同一の構成要素が複数ある場合には、その1つのみに符号を付し、全てには符号を付さない場合がある。
図面はあくまで説明用のものである。図面中の各部材の形状や寸法比などは、必ずしも現実の物品と対応しない。
【0017】
本明細書における「(メタ)アクリル」との表記は、アクリルとメタクリルの両方を包含する概念を表す。「(メタ)アクリレート」等の類似の表記についても同様である。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。例えば、ある指標Xについて「好ましくはx1以上y1以下、より好ましくはx2以上y2以下」との記載がある場合、Xはx1以上y2以下であることができるし、x2以上y1以下であることもできる。
また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。ある指標Xについて、明細書中には好ましくはx以上y以下と記載され、実施例でのXの値はzである場合、Xは、x以上z以下でもよく、また、z以上y以下であってもよい。
【0018】
<樹脂組成物>
本実施形態の樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、脂肪酸および脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の滑剤(B)と、有機過酸化物(C)と、シランカップリング剤(D)とを含む。
【0019】
本実施形態の樹脂組成物は、比較的反応性が高い有機過酸化物(C)を含むことにより、太陽電池素子の封止の際の加熱において、アイオノマー(A)と、滑剤(B)と、シランカップリング剤(D)との分子鎖間に架橋反応が進行して架橋構造が形成されるため、樹脂組成物の流動が抑制されると考えられる。このことが良好な耐クリープ性や接着性に関係していると推測される。
【0020】
一方、本実施形態の樹脂組成物は、滑剤(B)を含むことにより、アイオノマー(A)中の金属イオンが凝集して形成する構造の緩和が促進されるため、有機過酸化物が分解しない比較的低温でシート状の太陽電池封止材に成形加工することが可能となる。これにより、樹脂組成物をシート状の太陽電池封止材とした後であって、その太陽電池封止材を用いて太陽電池素子を封止する前においては、有機過酸化物(C)が反応して望ましくない架橋構造が形成されることが抑えられると推測される。
成形加工時に架橋反応が進行すると、架橋反応が不均一に進行しやすいため、透明性やシート外観、接着性、太陽電池素子の封止の点では不利となりやすい。しかし、本実施形態においては成形加工時の架橋反応が十分に抑えられるため、透明性やシート外観、接着性、太陽電池素子の封止が良好となると推測される。
【0021】
本実施形態の樹脂組成物の含有成分、性状、物性などについて説明を続ける。
【0022】
(エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A))
本実施形態の樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を含む。以下では、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)を、単に「アイオノマー(A)」とも表記することがある。
【0023】
アイオノマー(A)は、典型的には、エチレンと、不飽和カルボン酸の少なくとも1種とを共重合した重合体に対し、カルボキシ基の少なくとも一部を金属イオンで中和した樹脂である。エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体としては、エチレンと不飽和カルボン酸との共重合体や、エチレンと不飽和カルボン酸と不飽和カルボン酸エステルとの共重合体等を例示することができる。
【0024】
不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2-エチルアクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、無水フマル酸、無水イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル等が挙げられる。これらの中でも、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の生産性や衛生性等の観点から、アクリル酸および/またはメタクリル酸が好ましい。
不飽和カルボン酸は1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
また、1または2以上のエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーに、さらにアクリル酸やメタクリル酸等の不飽和カルボン酸を構成単位として含有するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を加えて、アイオノマー(A)とすることもできる。
【0025】
特に好ましいエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体は、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体およびエチレン・(メタ)アクリル酸・(メタ)アクリル酸エステル共重合体である。
【0026】
アイオノマー(A)において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を構成する構成単位の全体を100質量%としたとき、エチレンから導かれる構成単位は、好ましくは65質量%以上95質量%以下、より好ましくは65質量%以上90質量%以下、さらに好ましくは65質量%以上85質量%以下である。エチレンから導かれる構成単位が上記下限値以上であると、得られる太陽電池封止材の耐熱性や機械的強度、耐水性、加工性等をより良好にすることができる。また、エチレンから導かれる構成単位が上記上限値以下であると、得られる太陽電池封止材の透明性や柔軟性、接着性等をより良好にすることができる。
【0027】
アイオノマー(A)において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を構成する構成単位の全体を100質量%としたとき、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位は、好ましくは5質量%以上35質量%以下、より好ましくは10質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは15質量%以上25質量%以下である。不飽和カルボン酸から導かれる構成単位が上記下限値以上であると、得られる太陽電池封止材の透明性や柔軟性、接着性等をより良好にすることができる。また、不飽和カルボン酸から導かれる構成単位が上記上限値以下であると、得られる太陽電池封止材の耐熱性や機械的強度、耐水性、加工性等をより良好にすることができる。
【0028】
アイオノマー(A)には、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を構成する構成単位の全体を100質量%としたとき、好ましくは0質量%以上30質量%以下、より好ましくは0質量%以上25質量%以下のその他の共重合性モノマーから導かれる構成単位が含まれていてもよい。その他の共重合性モノマーとしては不飽和エステル、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル等の不飽和カルボン酸エステル等が挙げられる。その他の共重合体モノマーから導かれる構成単位が上記範囲内で含まれていると、得られる太陽電池封止材の柔軟性が向上する点で好ましい。
【0029】
アイオノマー(A)を構成する金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、銀イオン、銅イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、バリウムイオン、ベリリウムイオン、ストロンチウムイオン、錫イオン、鉛イオン、鉄イオン、コバルトイオンおよびニッケルイオンからなる群から選択される1種または2種以上を挙げることができる。
【0030】
好ましくは、アイオノマー(A)は、上記の群から選択される2種以上の金属イオンを含む。詳細は不明であるが、アイオノマー(A)が2種以上の金属イオンを含むことにより、架橋反応が系中で適度にランダムに進行する(局所的に過度に架橋反応が進行することが抑えられる)こととなると推測される。これにより、ゲルの発生を抑制することができ、その結果、太陽電池封止材の透明性が一層高まると考えられる。
【0031】
より具体的には、アイオノマー(A)の構成は、以下の、第1金属イオンと、第1金属イオンとは異なる第2金属イオンと、を含むことが好ましい。
・第1金属イオン:亜鉛イオン、銅イオン、鉄イオン、アルミニウムイオン、銀イオン、コバルトイオンおよびニッケルイオンからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオン
・第2金属イオン:ナトリウムイオン、リチウムイオン、カリウムイオンおよびマグネシウムイオンからなる群から選択される少なくとも一種の金属イオン
ちなみに、特に好ましいアイオノマー(A)の構成としては、第1金属イオンとして亜鉛イオン、第2金属イオンとしてマグネシウムイオンを含む態様を挙げることができる。
【0032】
アイオノマー(A)が第1金属イオンおよび第2金属イオンの両方を含むことにより、意図しない架橋反応をより一層抑制でき、その結果、太陽電池封止材の加工性を向上させることができ、さらに、太陽電池封止材シート中に生成するゲルの発生を抑制することができ、その結果、太陽電池封止材の透明性および外観をより一層良好にすることができる。
【0033】
アイオノマー(A)が第1金属イオンおよび第2金属イオンを含む場合、アイオノマー(A)中の第1金属イオンのモル数を価数で乗じた値に対する第2金属イオンのモル数を価数で乗じた値の比((第2金属イオンのモル数×第2金属イオンの価数)/(第1金属イオンのモル数×第1金属イオンの価数))は、得られる太陽電池封止材の透明性および耐水性のバランスをより良好にする観点から、0.10以上であることが好ましく、0.15以上であることがより好ましく、0.20以上であることがさらに好ましい。
また、本実施形態に係る樹脂組成物(P)において、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)中の第1金属イオンのモル数を価数で乗じた値に対する第2金属イオンのモル数を価数で乗じた値の比は、得られる太陽電池封止材の透明性および耐水性のバランスをより良好にする観点から、10.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましく、3.0以下であることがさらにより好ましく、2.5以下であることが特に好ましい。
【0034】
アイオノマー(A)は、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー1と、アイオノマー1とは異なるエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー2と、を含む構成とすることができる。これにより、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー1とエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー2との混合比を調整することで、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)中の第1金属イオンと第2金属イオンとの比率を容易に調整することができる。
【0035】
アイオノマー(A)の中和度は特に限定されないが、得られる太陽電池封止材の柔軟性や接着性、加工性等をより良好にする観点から、95%以下が好ましく、90%以下がより好ましく、80%以下がさらに好ましく、50%以下が特に好ましく、30%以下がとりわけ好ましい。
また、アイオノマー(A)の中和度は特に限定されないが、得られる太陽電池封止材の透明性や機械的強度等をより良好にする観点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上がさらに好ましく、20%以上が特に好ましい。
ここで、アイオノマー(A)の中和度は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体中に含まれる全カルボキシ基のうち、金属イオンによって中和されているカルボキシ基の割合(%)を指す。
【0036】
アイオノマー(A)は、例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーと、金属イオンを含まないエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体と、を含む構成とすることができる。このように、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマーとエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体との混合比を調整することで、中和度を容易に調整することができる。
【0037】
アイオノマー(A)を構成するエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の製造方法は特に限定されず、公知の方法により製造することができる。例えば、各重合成分を高温、高圧下でラジカル共重合することによって得ることができる。また、アイオノマー(A)は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体と金属化合物を反応させることによって得ることができる。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)としては市販されているものを用いてもよい。
【0038】
補足しておくと、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のカルボキシ基の少なくとも一部を金属イオンで中和してアイオノマー(A)とする「タイミング」は特に限定されない。最終的な樹脂組成物がアイオノマー(A)を含めばよい。
例えば、最終的な樹脂組成物が第1金属イオンおよび第2金属イオンを含むアイオノマー(A)を含むようにする場合、以下の(i)~(iii)いずれの方法で樹脂組成物を調製してもよい。後掲の実施例においては、(ii)の方法で樹脂組成物を調製している。
(i)素材として、第1金属イオンおよび第2金属イオンを含むアイオノマー(A)をそのまま用いて樹脂組成物を調製する。
(ii)まず、素材として、第1金属イオンと第2金属イオンの片方のみ含むアイオノマーを準備する。そして、そのアイオノマーと、例えば後述の滑剤(B)の一例として例示される脂肪酸金属塩とを溶融混合することで、2種の金属イオンを含むアイオノマー(A)を得る。このアイオノマー(A)を用いて樹脂組成物を調製する。
(iii)まず、素材として、金属イオンを含まないエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体を準備する。そして、この重合体と、適当な2種の金属材料とを溶融混合することで、2種の金属イオンを含むアイオノマー(A)を得る。このアイオノマー(A)を用いて樹脂組成物を調製する。
【0039】
さらに補足すると、上記(ii)の場合、詳細は明らかでないが、アイオノマー(A)のカルボキシ基は、脂肪酸金属塩のカルボキシ基と比較して酸解離定数が低いため、脂肪酸金属塩を構成する金属の少なくとも一部がアイオノマー(A)の少なくとも一部のカルボキシ基を中和すると考えられている。
【0040】
本実施形態において、JIS K 7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定される、アイオノマー(A)のメルトマスフローレート(MFR)は、0.01g/10分以上100g/10分以下であることが好ましく、0.1g/10分以上80g/10分以下であることがより好ましい。MFRが上記下限値以上であると、太陽電池封止材の加工性をより一層良好にすることができる。MFRが上記上限値以下であると、得られる太陽電池封止材の耐熱性や機械的強度等をより一層良好にすることができる。
【0041】
樹脂組成物中のアイオノマー(A)の含有量は、樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは50.0質量%以上99.9質量%以下、より好ましくは70.0質量%以上99.5質量%以下、さらに好ましくは80.0質量%以上99.5質量%以下、さらにより好ましくは85.0質量%以上99.0質量%以下である。アイオノマー(A)の含有量が上記範囲内であることにより、得られる太陽電池封止材の透明性、耐クリープ性、層間接着性、絶縁性、剛性、耐水性、および得られる太陽電池モジュールのPID耐性等の性能バランスをより一層良好にすることができる。
【0042】
(滑剤(B))
本実施形態の樹脂組成物は、脂肪酸および脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の滑剤(B)を含む。滑剤(B)が用いられることで、アイオノマー(A)中の金属イオンが凝集して形成する構造の緩和が促進されると考えられる。そのため、例えば、樹脂組成物を成形加工して太陽電池封止材を製造する際、有機過酸化物(C)が分解しない比較的低温で成形加工を行うことができる。
【0043】
脂肪酸としては、炭素数12以上36以下の脂肪酸が好ましく、炭素数16以上30以下の脂肪酸がより好ましい。脂肪酸として具体的には、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)、オレイン酸(炭素数18)、ベヘニン酸(炭素数22)、エルカ酸(炭素数22)、モンタン酸(炭素数28)、メリシン酸(炭素数30)等が挙げられる。脂肪酸は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0044】
脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸としては、炭素数12以上36以下の脂肪酸が好ましく、炭素数16以上30以下の脂肪酸がより好ましい。換言すると、脂肪酸金属塩は、好ましくは、炭素数12以上36以下の脂肪酸の金属塩である。脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸として具体的には、ラウリン酸(炭素数12)、ミリスチン酸(炭素数14)、パルミチン酸(炭素数16)、ステアリン酸(炭素数18)、オレイン酸(炭素数18)、ベヘニン酸(炭素数22)、エルカ酸(炭素数22)、モンタン酸(炭素数28)、メリシン酸(炭素数30)等が挙げられる。脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0045】
脂肪酸金属塩を構成する「金属」としては、例えばアルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、脂肪酸金属塩としての融点が比較的低い観点から、マグネシウム、亜鉛、カルシウムが好ましく、マグネシウムがより好ましい。脂肪酸金属塩を構成する金属としては、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
滑剤(B)としては、脂肪酸金属塩が好ましく、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛およびステアリン酸カルシウムがより好ましく、ステアリン酸マグネシウムがさらに好ましい。
【0047】
樹脂組成物は、滑剤(B)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
滑剤(B)の量は、アイオノマー(A)100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上、特に好ましくは4質量部以上である。また、滑剤(B)の量は、アイオノマー(A)100質量部に対して、好ましくは30質量部以下、より好ましくは25質量部以下、さらに好ましくは20質量部以下、特に好ましくは15質量部以下である。
【0048】
ちなみに、前述のように、アイオノマー(A)の少なくとも一部のカルボキシ基は、脂肪酸金属塩を構成する金属の少なくとも一部で中和されうる。別の言い方として、酸解離定数の高い脂肪酸金属塩の少なくとも一部の金属イオンは、酸解離定数の低いアイオノマー(A)中に組み込まれうる。上記の滑剤(B)の量は、アイオノマー(A)中に組み込まれた滑剤と、そうではない(フリーな)滑剤の量との合計量を表している。
【0049】
(有機過酸化物(C))
本実施形態の樹脂組成物は、有機過酸化物(C)を含む。有機過酸化物(C)としては、例えばラジカル重合開始剤として知られている有機過酸化物を挙げることができる。
【0050】
有機過酸化物(C)の10時間半減期温度は、シート加工時に望ましくない架橋反応を起こさないという観点から、100℃以上が好ましく、105℃以上がより好ましく、110℃以上がさらに好ましい。また、ラミネーション工程で架橋反応を起こすことが望ましい点から、170℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、130℃以下がさらに好ましい。
【0051】
有機過酸化物(C)としては、例えば、ジクミルペルオキシド、ジ-tert-ブチルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルクミルペルオキシド、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(tert-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、n-ブチル-4,4-ビス(tert-ブチルペルオキシ)バレレート、ベンゾイルペルオキシド、p-クロロベンゾイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシベンゾエート、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルカーボネート等が挙げられる。
【0052】
これらの中でも、反応性、ハンドリング性の観点から、ジクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、ビス(tert-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルクミルペルオキシド、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネート、tert-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキシルカーボネートが好ましく、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、tert-ブチルペルオキシイソプロピルカーボネートがより好ましい。
【0053】
樹脂組成物は、有機過酸化物(C)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
有機過酸化物(C)の量は、アイオノマー(A)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.25質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上である。また、有機過酸化物(C)の量は、アイオノマー(A)100質量部に対して、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下である。
【0054】
別観点として、アイオノマー(A)100質量部に対する有機過酸化物(C)の量(単位:質量部)と、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の全体を100質量%としたときのエチレン・不飽和カルボン酸系共重合体中の不飽和カルボン酸から導かれる構成単位の含有量(単位:質量%)との好ましい比(単位:質量部/質量%)は、好ましくは0.01以上0.30以下、より好ましくは0.02以上0.15以下、さらに好ましくは0.03以上0.10以下である。
【0055】
有機過酸化物(C)の量を適切に調整することで、加工性、耐クリープ性、透明性、接着性などの性能を一層高めることができる。
【0056】
(シランカップリング剤(D))
本実施形態の樹脂組成物は、シランカップリング剤(D)を含む。シランカップリング剤(D)を用いることは、例えば、得られる太陽電池モジュールの層間接着性をより一層良好にする観点で有効である。
【0057】
シランカップリング剤(D)としては、例えば、(i)重合性炭素-炭素二重結合を含む基(ビニル基、(メタ)アクリロイル基など)、アミノ基またはエポキシ基と、(ii)アルコキシ基のような加水分解基と、を有するシランカップリング剤等を挙げることができる。
重合性基炭素-炭素二重結合を有するシランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-アクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0058】
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩等が挙げられる。
【0059】
エポキシ基を有するシランカップリング剤としては、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0060】
シランカップリング剤(D)は、重合性炭素-炭素二重結合を含む基を有するシランカップリング剤を含むことが好ましく、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤を含むことがさらに好ましい。特に好ましい具体例としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0061】
樹脂組成物は、シランカップリング剤(D)を1種のみ含んでもよいし、2種以上含んでもよい。
シランカップリング剤(D)の量は、アイオノマー(A)100質量部に対して、好ましくは0.001質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.005質量%以上2質量%以下、さらに好ましくは0.01質量%以上1質量%以下である。
【0062】
(その他の成分)
本実施形態の樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲内において、上記(A)~(D)以外の成分(その他の成分)を含むことができる。
【0063】
その他の成分としては、例えば、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、波長変換剤、帯電防止剤、界面活性剤、着色剤、光安定剤、発泡剤、潤滑剤、結晶核剤、結晶化促進剤、結晶化遅延剤、触媒失活剤、熱線吸収剤、熱線反射剤、放熱剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、無機充填剤、有機充填剤、耐衝撃性改良剤、スリップ剤、架橋剤、架橋助剤、粘着付与剤、加工助剤、離型剤、加水分解防止剤、耐熱安定剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、難燃剤、難燃助剤、光拡散剤、抗菌剤、防黴剤、分散剤、アイオノマー(A)に該当しない樹脂等を挙げることができる。
【0064】
その他の成分のうち、特に、架橋助剤は、硬化性の調整や、諸性能の向上などの目的のために好ましく用いられる。架橋助剤としては、p-キノンジオキシム、p,p'-ジベンゾイルキノンジオキシム等のオキシム類;エチレンジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、アクリル酸/酸化亜鉛混合物、アリルメタクリレート等のアクリレートもしくはメタクリレート類;ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、ビニルピリジン等のビニルモノマー類;ヘキサメチレンジアリルナジイミド、ジアリルイタコネート、ジアリルフタレート、ジアリルイソフタレート、ジアリルモノグリシジルイソシアヌレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル化合物類;N,N'-m-フェニレンビスマレイミド、N,N'-(4,4'-メチレンジフェニレン)ジマレイミド等のマレイミド化合物類等、ビニルノルボルネン、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン等の環状非共役ジエン類が挙げられる。
架橋助剤を用いる場合、その量は、アイオノマー(A)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上である。また、架橋助剤を用いる場合、その量は、アイオノマー(A)100質量部に対して、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下、さらに好ましくは2質量部以下である。
【0065】
樹脂組成物がその他の成分を含む場合、樹脂組成物は1種のみのその他の成分を含んでもよいし、2種以上のその他の成分を含んでもよい。
【0066】
(物性)
例えば太陽電池封止材への適用性の観点で、本実施形態の樹脂組成物は、以下に説明するような物性を満たすことが好ましい。
【0067】
本実施形態の樹脂組成物を用いて、JIS K 7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定されるメルトマスフローレート(MFR)は、20g/10分以下であることが好ましく、10g/10分以下であることがより好ましく、3g/10分以下であることがさらに好ましく、1g/10分以下であることがさらによく好ましく、0.5g/10分以下であることが特に好ましい。MFRが上記上限値以下であると、得られる太陽電池封止材の耐クリープ性や機械的強度等をより一層良好にすることができる。
【0068】
・クリープ距離
本実施形態の樹脂組成物を用いて、後述する実施例に記載の方法により測定されるクリープ距離は、好ましくは5.0mm以下、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下、特に好ましくは1.5mm以下である。クリープ距離の下限値は0mmが好ましい。
【0069】
・ヘイズ
本実施形態の樹脂組成物を用いて、後述する実施例に記載の方法により測定されるヘイズの値は、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.5%以下、特に好ましくは1.0%以下である。ヘイズの値の下限値は理想的には0%であるが、現実的には、例えば0.1%、具体的には0.3%程度である。
【0070】
・全光線透過率
本実施形態の樹脂組成物を用いて、後述する実施例に記載の方法により測定される全光線透過率の値は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上。さらに好ましくは87%以上、特に好ましくは90%以上である。全光線透過率の上限値は理想的には100%であるが、現実的には、例えば95%、具体的には92%程度である。
【0071】
・ガラス板に対する接着強度
本実施形態の樹脂組成物を用いて、後述する実施例に記載の方法により測定されるガラス板に対する接着強度は、10N/15mm以上であることが好ましく、20N/15mm以上であることがより好ましく、30N/15mm以上であることがさらに好ましい。ガラス板に対する接着強度が大きいことで、得られる太陽電池モジュールの層間接着性をより良好にすることができる。接着強度は基本的には大きければ大きいほど好ましく、接着強度は樹脂の剛性にも依存するが、現実的には、30N/15mm以上あればデラミネーション等の現象が起こる可能性が極めて低いものと推測される。
【0072】
・クロスオーバー温度
本実施形態の樹脂組成物を用いて、後述する実施例に記載の方法により測定されるクロスオーバー温度は、140℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましい。クロスオーバー温度とクリープ距離には相関があることが知られており、クロスオーバー温度が140℃以上であれば、クリープ試験温度105℃におけるゼロせん断粘度が十分に高くなるためクリープが抑制できる点で好ましい。
クロスオーバー温度の上限は特に無いが、現実的な組成物設計の観点から、上限は例えば樹脂組成物の熱分解温度、または240℃である。
【0073】
<樹脂組成物の製造方法>
本実施形態の樹脂組成物は、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、脂肪酸および脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の滑剤(B)と、有機過酸化物(C)と、シランカップリング剤(D)を混合することによって得ることができる。混合に際しては、スクリュー押出機、ロールミキサー、バンバリミキサー等の通常使用される混合装置を用いることができる。
混合は、(A)~(D)の4成分を同時に配合して行なってもよいし、別々に行ってもよい。ただし、(i)まず、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、脂肪酸および脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の滑剤(B)とを予め混合し、(ii)次に、この混合により得られた混合物と、有機過酸化物(C)と、シランカップリング剤(D)とを混合する方法が好ましい。
エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体のアイオノマー(A)と、脂肪酸および脂肪酸金属塩からなる群より選ばれる少なくとも一種の滑剤(B)とを予め混合しておくことで、樹脂組成物に流動性を付与できる。このことにより、有機過酸化物(C)による架橋反応が不均一に進行することを抑制することができる。
【0074】
<太陽電池封止材>
本実施形態の太陽電池封止材は、上述の樹脂組成物により構成された層を含む。
本実施形態の太陽電池封止材は、単層構成であってもよいし、2層以上の多層構成であってもよい。
より具体的には、本実施形態の太陽電池封止材は、(i)上述の樹脂組成物により構成された層からなる単層構成の膜であってもよいし、(ii)上述の樹脂組成物により構成された多層構成の膜であってもよいし、(iii)上述の樹脂組成物により構成された層と、上述の樹脂組成物ではない樹脂組成物により構成された層とを有する多層構成の膜であってもよい。
【0075】
本実施形態の太陽電池封止材が多層構成である場合、(i)2つの外層(以下、接着層とも呼ぶ。)を積層した2層構成であって、外層の少なくとも1層が本実施形態の樹脂組成物により構成された2層構成であること、あるいは、(ii)中間層とその中間層を挟むように両面に形成された2つの外層とを含む3層構成であって、外層および中間層の少なくとも1層が本実施形態に係る樹脂組成物(P)により構成された3層構成であることが好ましい。
透明性および接着性を両立する観点からは、上記(ii)の3層構成がより好ましい。
【0076】
本実施形態の樹脂組成物により構成された層を複数層有する多層構成の膜において、各層の組成や含まれるアイオノマーの種類(例えば、エチレン・不飽和カルボン酸系共重合体の共重合比、中和度、金属イオンの種類等)は、同一であっても異なっていてもよい。また、本実施形態に係る樹脂組成物(P)以外から成る層は、有機過酸化物を含んでいても含まなくてもよい。
【0077】
本実施形態の太陽電池封止材の厚みは、例えば0.001mm以上10mm以下、好ましくは0.01mm以上5mm以下、より好ましくは0.05mm以上2mm以下である。太陽電池封止材の厚みが0.001mm以上であると、太陽電池封止材の機械的強度をより良好にすることができる。また、太陽電池封止材の厚みが10mm以下であると、太陽電池封止材の透明性やラミネーション工程における加工性をより良好にすることができる。
【0078】
本実施形態に係る太陽電池封止材が多層構成である場合、本実施形態の樹脂組成物により構成される層は、外層であってもよく、中間層であってもよい。
【0079】
本実施形態の太陽電池封止材が外層と中間層とを含む場合、外層の厚みは任意であるが、外層の厚みaとしては、1μm以上500μm以下の範囲であることが好ましく、10μm以上500μm以下の範囲であることがより好ましく、20μm以上300μm以下の範囲であることが特に好ましい。厚みaが1μm以上であることで、接着強度、加工性をより向上させることができる。また、厚みaが500μm以下であることで、透明性がより優れる。
【0080】
また、本実施形態の太陽電池封止材が外層と中間層とを含む場合、透明性の点では全層厚に占める中間層の厚みは厚くてもよい。具体的には、中間層の厚みbとしては、好ましい総厚である0.1mm以上10mm以下の範囲から、上記外層の好ましい厚みaを差し引いた範囲内で自在に設定することができる。
【0081】
また、本実施形態の太陽電池封止材が外層と中間層とを含む場合、外層(厚みa)と中間層(厚みb)との厚みの比(a/b)は、1/20から5/1が好ましく、より好ましくは1/15から3/1であり、さらに好ましくは1/10から3/1である。ここで、本実施形態の太陽電池封止材が外層を2つ含む場合、外層の厚みaは、2つの外層の厚みの平均値である。
外層および中間層の厚みの比(a/b)が上記範囲内にあると、接着性および透明性がより向上する。
【0082】
<太陽電池封止材の製造方法>
上述の太陽電池封止材の製造方法は特に限定されず、製造方法については従来公知の製造方法を採用することができるが、好ましくは以下に説明する方法により製造することができる。
【0083】
製造方法としては、例えば、プレス成形法、押出成形法、Tダイ成形法、射出成形法、圧縮成形法、キャスト成形法、カレンダー成形法、インフレーション成形法等を用いることができる。これらの中でも押出成形法が好ましい。すなわち、本実施形態の太陽電池封止材は、例えば、上述の樹脂組成物の加熱溶融物を、Tダイを備えた押出機のTダイから押し出してシート状に成形する押出成形工程を含む製造方法により得ることができる。
押出成形工程における加工温度は特に限定されないが、架橋反応を抑制する観点から、Tダイの出口における加熱溶融物の温度が、好ましくは200℃以下、より好ましくは160℃以下、さらに好ましくは140℃以下、特に好ましくは130℃以下、とりわけ好ましくは120℃以下となるように加工温度を調整することが好ましい。この温度は、押出成形が可能である限り低温でもよいが、スムーズな押出成形を行う観点から、Tダイの出口における加熱溶融物の温度は、例えば100℃以上である。
【0084】
<太陽電池モジュール>
図1は、本実施形態の太陽電池モジュール(太陽電池モジュール1)の構造を模式的に示した断面図である。
太陽電池モジュール1は、例えば、太陽電池素子3と、本実施形態の太陽電池封止材より構成された太陽電池素子3を封止する封止樹脂層5と、を備える。太陽電池モジュール1は、必要に応じて、さらに太陽光が入射する基板2、保護材4などを備えていてもよい(以下、太陽光が入射する基板2を、単に基板2と記載することもある)。
太陽電池モジュール1は、例えば、基板2上に、本実施形態の太陽電池封止材により封止された太陽電池素子3を固定することで作製することができる。
【0085】
太陽電池モジュール1としては、種々のタイプのものを挙げることができる。例えば、基板/封止材/太陽電池素子/封止材/保護材のように太陽電池素子の両側から封止材で挟む構成のもの;ガラス等の基板の表面上に予め形成された太陽電池素子を、基板/太陽電池素子/封止材/保護材のように構成するもの;基板の内周面上に形成された太陽電池素子、例えばフッ素樹脂系シート上にアモルファス太陽電池素子をスパッタリング等で作製したものの上に封止材と保護材を形成させるような構成のもの;等を挙げることができる。
保護材4は、太陽光が入射する基板2を太陽電池モジュール1の上部としたとき、太陽電池モジュール1の基板2側とは反対側、すなわち下部に備えられる。このため、保護材4は、下部保護材と称されることもある。
【0086】
太陽電池素子3としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン等のシリコン系、ガリウム-砒素、銅-インジウム-セレン、銅-インジウム-ガリウム-セレン、カドミウム-テルル等のIII-V族やII-VI族化合物半導体系等の各種太陽電池素子を用いることができる。
太陽電池モジュール1において、複数の太陽電池素子3は、通常、インターコネクタ6を介して電気的に直列に接続されている。
【0087】
太陽電池モジュール1を構成する基板2としては、ガラス、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル、フッ素含有樹脂等を例示することができる。
保護材4(下部保護材)は、通常、金属や各種熱可塑性樹脂フィルム等の単体もしくは多層のシートである。保護材4としては、例えば、錫、アルミ、ステンレススチール等の金属、ガラス等の無機材料、ポリエステル、無機物蒸着ポリエステル、フッ素含有樹脂、ポリオレフィン等の1層もしくは多層のシートを挙げることができる。本実施形態の太陽電池封止材は、これらの基板2または保護材4に対して良好な接着性を示す。
【0088】
太陽電池モジュール1の製造方法は特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
まず、インターコネクタ6を用いて電気的に接続した複数の太陽電池素子3を太陽電池封止材で挟み、さらにこれら太陽電池封止材を基板2と保護材4とで挟んで積層体を作製する。次いで、積層体を加熱・加圧して、各部材間を接着する。このようにすることで、太陽電池モジュール1が得られる。
【0089】
<合わせガラス中間膜用樹脂シートおよび合わせガラス>
ここまで、主に、本実施形態の樹脂組成物を用いて太陽電池封止材を製造すること、また、その太陽電池封止材を用いて太陽電池素子を封止して太陽電池モジュールを製造することについて述べた。
本実施形態の樹脂組成物は、太陽電池の封止以外の種々の用途にも適用可能である。例えば、本実施形態の樹脂組成物を用いて合わせガラス中間膜用樹脂シートを製造することや、その合わせガラス中間膜用樹脂シートを用いて合わせガラスを製造することも可能である。
【0090】
合わせガラス中間膜用樹脂シートは、単層構成であってもよいし、2層以上の多層構成であってもよい。多層構成の具体的態様は、前述の太陽電池封止材が多層構成である場合の態様と同様とすることができる。合わせガラス中間膜用樹脂シートの厚みについても、前述の太陽電池封止材と同程度とすることができる。合わせガラス中間膜用樹脂シートの製造方法についても、前述の太陽電池封止材と同様の製法を採用することができる。
【0091】
合わせガラス中間膜用樹脂シートと透明板状部材とを接触させて、加熱および加圧を行うことで、合わせガラス中間膜と、その合わせガラス中間膜の少なくとも一方の面上に設けられた透明板状部材と、を備える合わせガラスを製造することができる。より具体的には、合わせガラス中間膜用樹脂シートを2枚の透明板状部材の間に狭持した後、加熱加圧することで、合わせガラスを製造することができる。
【0092】
使用可能な透明板状部材は特に限定されない。例えば、一般に使用されている透明板ガラスを挙げることができる。具体的には、フロート板ガラス、磨き板ガラス、型板ガラス、網入り板ガラス、線入り板ガラス、着色された板ガラス、熱線吸収板ガラス、熱線反射板ガラス、グリーンガラス等の無機ガラスが挙げられる。また、ポリカーボネート板、ポリ(メタ)アクリレート板、ポリメチル(メタ)アクリレート板、ポリスチレン板、環式ポリオレフィン板、ポリエチレンテレフタレート板、ポリエチレンナフタレート板、ポリエチレンブチレート板等の有機プラスチックス板を用いることもできる。
透明板状部材には、コロナ処理、プラズマ処理、フレーム処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0093】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例】
【0094】
本発明の実施態様を、実施例および比較例に基づき詳細に説明する。念のため述べておくと、本発明は実施例のみに限定されない。
【0095】
1.測定・評価方法
まず、測定・評価方法について説明する。
【0096】
[動的粘弾性測定/クロスオーバー温度]
まず、後掲の実施例および比較例で得られた樹脂組成物により構成された120mm×75mm×0.4mmの膜を、剥離フィルムを介してガラス板間に積層し、真空ラミネーターにて160℃、690秒真空保持、0.06MPa(ゲージ圧)で15分間プレスを行い、合わせガラスを得た。
次いで、架橋反応を完了させるため、得られた前記合わせガラスを、165℃に設定した循環式高温乾燥機(三洋電機株式会社製、製品名:MOV-212F)で30分間熱処理した。これにより、合わせガラス体を得た(合わせガラス体:ガラス板-剥離フィルム-膜(架橋フィルム)-剥離フィルム-ガラス板の5層構造)。
得られた前記合わせガラス体からガラス板及び剥離フィルムを除去して得られる膜を試料として、直径8mmのパラレルプレートを備えた動的粘弾性測定装置(アントンパール社製、MCR302)にて、昇温速度3℃/min、周波数1Hz、ずりモードで-60℃から150℃のせん断弾性率を窒素雰囲気下で測定した。せん断貯蔵弾性率(G')の値とせん断損失弾性率(G")の値とが等しくなる温度をクロスオーバー温度とした。
【0097】
[クリープ試験]
後掲の実施例および比較例で得られた樹脂組成物により構成された膜を180mm×160mm×0.4mmのサイズに裁断した。次いで、得られた膜二枚を重ねて、180mm×180mm×3.2mmの2枚のフロートガラスを2cmずらして挟み、真空ラミネーターにて150℃、3分真空保持、0.075MPa(ゲージ圧)で5分間プレスを行い、合わせガラスを得た。さらに、架橋反応を完了させるため、合わせガラスサンプルを165℃に設定した循環式高温乾燥機(三洋電機株式会社製、製品名:MOV-212F)で30分間熱処理した。
次いで、得られた合わせガラスの一方を固定し、もう一方のガラスが自由に変位できるようにした。そして、自由に変位するガラスのほうに400gの重りを取り付けた上で、105℃に設定した循環式高温乾燥機(三洋電機株式会社製、製品名:MOV-212F)に投入した。
投入して200時間経過後のガラスの変位長を測定した。なお、変位長が8cm以上に達した場合はオーブン底面に試験体に取り付けた荷重が接してしまうため、測定不可とした。
【0098】
[光学特性(ヘイズおよび全光線透過率)]
後掲の実施例および比較例で得られた樹脂組成物により構成された膜を120mm×75mm×0.4mmのサイズに裁断した。次いで、得られた膜を120mm×75mm×3.2mmの白板ガラス(ヘイズ0.2%以下、全光線透過率92%以上)で挟み、真空ラミネーターにて150℃、3分真空保持、0.1MPa(ゲージ圧)で5分間プレスを行い、合わせガラスを得た。架橋反応を完了させるため、合わせガラスサンプルを165℃に設定した循環式高温乾燥機(三洋電機株式会社製、製品名:MOV-212F)で30分間熱処理した。
得られた合わせガラスのヘイズをJIS K 7136:2000に準じて測定した。また、得られた合わせガラスの全光線透過率をJIS K 7361-1:1997に準じてヘイズメーター(スガ試験機株式会社製、製品名:ヘイズメーターHZ-V3)により測定した。
【0099】
[接着性]
後掲の実施例および比較例で得られた樹脂組成物により構成された120mm×75mm×0.4mmの膜を得た。次いで、得られた膜を120mm×75mm×3.9mmのガラス板のスズ面に積層し、真空ラミネーターにて160℃、690秒真空保持、0.06MPa(ゲージ圧)で15分間プレスした。これにより、膜をガラス板のスズ面に接着させた。架橋反応を完了させるため、合わせガラスサンプルを165℃に設定した循環式高温乾燥機(三洋電機株式会社製、製品名:MOV-212F)で30分間熱処理した。
接着させた膜を幅15mmの短冊状にカットした後、引張速度100mm/分で、膜をガラス板から、ピール角度180°で引き離した。この際の最大ピール力を、ガラス板に対する接着強度(N/15mm)として算出した。
【0100】
2.素材の準備
以下の素材を準備した。
【0101】
[樹脂(アイオノマーおよびそれ以外の樹脂)]
樹脂-A:エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含有量:80質量%、メタクリル酸含有量:20質量%)の亜鉛アイオノマー(中和度:40%、MFR(JIS K 7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定):1.3g/10分)
樹脂-B:エチレン・メタクリル酸共重合体(エチレン含有量:80質量%、メタクリル酸含有量:20質量%、MFR(JIS K 7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定):500g/10分)
【0102】
[滑剤]
脂肪酸金属塩:ステアリン酸マグネシウム(商品名:マグネシウムステアレートG、日油株式会社製)
【0103】
[有機過酸化物]
有機過酸化物:(商品名:Luperox101、アルケマ吉富株式会社製、2,5-ジメチル-2,5-ジ-(tert-ブチルペルオキシ)ヘキサン、10時間半減期温度=120℃)
【0104】
[架橋助剤]
架橋助剤:TAIC(トリアリルイソシアヌレート、和光純薬工業株式会社製)
【0105】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤-A:3-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(商品名:KBM502、信越化学工業株式会社製)
シランカップリング剤-B:N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン(商品名:KBM602、信越化学工業株式会社製)
【0106】
3.太陽電池封止材の製造と評価
まず、表1に示す配合割合で、樹脂-A、樹脂-Bおよびステアリン酸マグネシウムを、160℃、吐出量10kg/時間で溶融混練し、混錬物を得た。この混錬により、樹脂-Aおよび樹脂-Bの少なくとも一部のカルボキシ基が、ステアリン酸マグネシウム中のマグネシウムイオンで中和された。
次いで、得られた混錬物と、Luperox101、TAIC、シランカップリング剤-Aおよびシランカップリング剤-Bを表1に示す配合割合でブレンドし、Tダイを備えた押出機を用い、押出機Tダイ出口樹脂温度120℃、加工速度1.3~1.9m/分にて押出成形した。これにより、厚さ0.4mmのシート状の樹脂成型物(太陽電池封止材)を得た。
【0107】
得られた樹脂成型物(太陽電池封止材)を用い、上記1.の評価を行った。
【0108】
各組成物の組成と評価結果をまとめて表1に示す。
表1において、ステアリン酸マグネシウムおよびLuperox101、TAIC、シランカップリング剤-Aおよびシランカップリング剤-Bの配合量の単位(phr)は、樹脂-Aと樹脂-Bの合計を100質量部としたときの質量部を意味する。
表1において、「中和度」は、上述の、樹脂-A、樹脂-Bおよびステアリン酸マグネシウムの混錬物の中和度を表す。
表1において、「MFR」は、樹脂組成物の、JIS K 7210:1999に準拠し、190℃、2160g荷重の条件で測定されるメルトマスフローレートを表す。
【0109】
【0110】
実施例1および2の樹脂組成物を用いた透明性、耐クリープ性および層間接着性の性能バランスに優れていた。これに対し、比較例1~3の樹脂組成物は透明性、耐クリープ性および層間接着性の性能バランスに劣っていた。
【0111】
この出願は、2020年9月25日に出願された日本出願特願2020-160349号を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。
【符号の説明】
【0112】
1 太陽電池モジュール
2 基板
3 太陽電池素子
4 保護材
5 封止樹脂層
6 インターコネクタ