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特許7467681電磁溶接での使用のためのファイバー強化複合ラミネート及びこのラミネート製の成形パーツの電磁溶接方法
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  • 特許-電磁溶接での使用のためのファイバー強化複合ラミネート及びこのラミネート製の成形パーツの電磁溶接方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】電磁溶接での使用のためのファイバー強化複合ラミネート及びこのラミネート製の成形パーツの電磁溶接方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 65/14 20060101AFI20240408BHJP
【FI】
B29C65/14
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2022566271
(86)(22)【出願日】2021-04-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-14
(86)【国際出願番号】 NL2021050286
(87)【国際公開番号】W WO2021221510
(87)【国際公開日】2021-11-04
【審査請求日】2022-10-28
(31)【優先権主張番号】2025473
(32)【優先日】2020-04-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】NL
(73)【特許権者】
【識別番号】520471519
【氏名又は名称】コーク・アンド・ファン・エンゲレン・コンポジット・ストラクチャーズ・ベー.フェー.
【氏名又は名称原語表記】KOK & VAN ENGELEN COMPOSITE STRUCTURES B.V.
【住所又は居所原語表記】Laan van Ypenburg 56,2497 GB Den Haag,The Netherlands
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】マールテン・ラボルドゥス
(72)【発明者】
【氏名】トム・ヤンセン
(72)【発明者】
【氏名】ミヒル・ヘンドリック・ポール・ブラウケルス
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・ウィルツ
(72)【発明者】
【氏名】アレクサンドロス・ミハイル・ミトラウシアス
(72)【発明者】
【氏名】サシャ・シュミッター
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/187043(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラミネート製の成形パーツの電磁溶接で用いられるファイバー強化複合ラミネートにして、熱可塑性基材に埋設された導電性ファイバーから各々が形成された複数の構造レイヤーを備え、電磁界を生成する導電体によって前記導電性ファイバーに渦電流が誘導されるラミネートであって、
前記複数の構造レイヤーは、2つの隣接して位置した構造レイヤーの第1、第2、及び、オプションとして第3のペアを含み、
前記第1ペアは、当該ペアの前記2つの構造レイヤーの間に位置する中間レイヤーを有し、当該中間レイヤーは、前記第1ペアの前記2つの構造レイヤーの間で渦電流が流れることを実質的に許す面外の電気的な体積抵抗R 1 を有し、
前記第2ペアは、当該ペアの前記2つの構造レイヤーの間に位置する中間レイヤーを有し、当該中間レイヤーは、前記第2ペアの前記2つの構造レイヤーの間で渦電流が流れることを実質的に阻止する面外の電気的な体積抵抗R 2 を有し、
オプションの前記第3ペアは、当該ペアの2つの構造レイヤーの間に中間レイヤーを有さず;
更には、前記R 1 及びR 2 が有限、かつ0<R 1 <R 2 であり、
各第1及び第2ペアの前記中間レイヤーは、各第1及び第2ペアにおける前記2つの構造レイヤーとは、各第1及び第2ペアの前記中間レイヤーが前記導電性ファイバーを備えない点で異なり、
ρ 1 ×t 1 <ρ 2 ×t 2 とすることでR 1 <R 2 が達成され、ここで、ρ 1 は、前記第1ペアの前記中間レイヤーの材料の電気的な体積抵抗率であり、t 1 は、前記第1ペアの前記中間レイヤーの平均厚であり、ρ 2 は、前記第2ペアの前記中間レイヤーの材料の電気的な体積抵抗率であり、t 2 は、前記第2ペアの前記中間レイヤーの平均厚であり、
前記ラミネートは、電磁的に溶接可能な外面を有し、前記第1ペアは、前記ラミネートの面外方向において前記ラミネートの溶接可能な外側で前記ラミネートに設けられる、ラミネート。
【請求項2】
ラミネート製の成形パーツの電磁溶接で用いられるファイバー強化複合ラミネートにして、熱可塑性基材に埋設された導電性ファイバーから各々が形成された複数の構造レイヤーを備え、電磁界を生成する導電体によって前記導電性ファイバーに渦電流が誘導されるラミネートであって、
前記複数の構造レイヤーは、2つの隣接して位置した構造レイヤーの第1、第2、及び、オプションとして第3のペアを含み、
前記第1ペアは、当該ペアの前記2つの構造レイヤーの間に位置する中間レイヤーを有し、当該中間レイヤーは、前記第1ペアの前記2つの構造レイヤーの間で渦電流が流れることを実質的に許す面外の電気的な体積抵抗R 1 を有し、
前記第2ペアは、当該ペアの前記2つの構造レイヤーの間に位置する中間レイヤーを有し、当該中間レイヤーは、前記第2ペアの前記2つの構造レイヤーの間で渦電流が流れることを実質的に阻止する面外の電気的な体積抵抗R 2 を有し、
オプションの前記第3ペアは、当該ペアの2つの構造レイヤーの間に中間レイヤーを有さず;
更には、前記R 1 及びR 2 が有限、かつ0<R 1 <R 2 であり、
各第1及び第2ペアの前記中間レイヤーは、各第1及び第2ペアにおける前記2つの構造レイヤーとは、各第1及び第2ペアの前記中間レイヤーが前記導電性ファイバーを備えない点で異なり、
ρ 1 ×t 1 <ρ 2 ×t 2 とすることでR 1 <R 2 が達成され、ここで、ρ 1 は、前記第1ペアの前記中間レイヤーの材料の電気的な体積抵抗率であり、t 1 は、前記第1ペアの前記中間レイヤーの平均厚であり、ρ 2 は、前記第2ペアの前記中間レイヤーの材料の電気的な体積抵抗率であり、t 2 は、前記第2ペアの前記中間レイヤーの平均厚であり、
前記第2ペアの少なくとも前記中間レイヤーが、厚み較正ガーゼ又はメッシュといった形態の非導電性ファイバーを備える、ラミネート。
【請求項3】
前記ラミネートは、電磁的に溶接可能な外面を有し、前記第2又はオプションの前記第3ペアの一つは、前記ラミネートの溶接可能な外側の反対の外側、或いは内側で前記ラミネートに設けられる、請求項1又は2に記載のラミネート。
【請求項4】
前記第1、前記第2及び/又はオプションの前記第3ペアの前記構造レイヤーの少なくとも一つにおける前記導電性ファイバーは、前記隣接した構造レイヤーの少なくとも一つにおいて局所的に途絶する、請求項1乃至のいずれか一項に記載のラミネート。
【請求項5】
前記第1、前記第2及び/又はオプションの前記第3ペアの2つの前記構造レイヤーにおける前記導電性ファイバーが、前記ペアの一つの構造レイヤーにおけるラインと、前記ペアの他方の隣接したレイヤーにおける別のラインに沿って局所的に途絶し、両ラインがお互いに交差する、請求項に記載のラミネート。
【請求項6】
前記第1及び/又はオプションの前記第3ペアの前記導電性ファイバーが局所的に途絶する、請求項又はに記載のラミネート。
【請求項7】
前記構造レイヤーにおける前記導電性ファイバーは、一定方向に配向される、請求項1乃至のいずれか一項に記載のラミネート。
【請求項8】
前記第1ペアの前記中間レイヤーは、熱可塑性ポリマーを含み、0.05mmと0.15mmの間、より好ましくは、0.07mmと0.12mmの間の平均厚を有し、前記第2ペアの前記中間レイヤーは、熱可塑性ポリマーを含み、0.20mmよりも大きい平均厚を有する、請求項1乃至のいずれか一項に記載のラミネート。
【請求項9】
前記構造レイヤーが厚みを有し、基材ポリマー豊富エリアが幾つかの前記構造レイヤーの片側又は両側で前記厚みの一部上を延びる、請求項1乃至のいずれか一項に記載のラミネート。
【請求項10】
前記第1及び/又は第2ペアの前記中間レイヤーは、当該ペアの前記隣接した構造レイヤーの少なくとも一つの前記基材ポリマー豊富エリアにより形成される、請求項に記載のラミネート。
【請求項11】
前記第1ペアの前記中間レイヤーは、前記第1ペアの前記2つの構造レイヤーの間に渦電流が流れることを実質的に許す前記面外の電気的な体積抵抗R1を調整するために熱可塑性ポリマーに埋設された導電性粒子を備える、請求項1乃至10のいずれか一項に記載のラミネート。
【請求項12】
隣接した構造レイヤーの前記第1及び/又は第2ペアの前記中間レイヤーの材料は、ASTM D257で測定される時、1015Ω・cmと20×1015Ω・cmの間の電気的な体積抵抗率を有する、請求項1乃至11のいずれか一項に記載のラミネート。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか一項に記載のラミネート製の成形パーツを電磁溶接するための方法であって、当該方法は:
前記成形パーツの溶接可能な外面同士をお互いに接触させて接触面を画定すること;
交番電圧の下で電磁界を生成して前記成形パーツの前記導電性ファイバーを加熱し、各成形パーツの前記第2ペアの前記構造レイヤーの基材ポリマーがその溶融温度を超えて維持されるべくインダクタを提供すること;及び
各成形パーツの前記第1及びオプションの前記第3ペアの前記構造レイヤーの基材ポリマーをその溶融温度未満に維持すること;及び
オプションとして、前記成形パーツを一緒に加圧することを含む、方法。
【請求項14】
前記インダクタは、前記成形パーツの前記接触面に対して経路に沿って動かされ、前記導電性ファイバーが、前記接触面の所定部分において加熱される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記インダクタは、少なくとも溶接の方向において実質的に円柱状の電磁界を生成するリニア誘導セグメントを備える、請求項13又は14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材の分野に関する。特には、本発明は、複合材から成る多数の成形パーツの電磁溶接により形成された構造体に関する。本発明は、特に多数の複合成形パーツの電磁溶接から形成された航空構造体の分野での利用を見込んでいる。
【背景技術】
【0002】
複合ラミネート及びそのようなラミネートから成る成形パーツが、ますます多くの用途で用いられており、複合材の相対的に高い比剛性及び強度が長所として受け取られている。航空宇宙産業において重量の軽減が特に重要である。この産業での汎用材料は、カーボンファイバーと熱硬化性基材ポリマー(thermosetting matrix polymer)の複合ラミネートである。そのようなラミネートから成る複合の成形パーツを造ることができるが、そのようなパーツの熱硬化性基材ポリマーが硬化すると、その形状が不変(永続的なもの)になる。複合の構造体を得るため、成形パーツは、度々、お互いに、又は、補剛材(stiffeners)といった他のパーツに連結されなければならない。伝統的には、これは、ボルト締めによるといった機械的な手段によって又は接着剤結合による如く化学的に生じる。
【0003】
近時になって、カーボンファイバーと熱可塑性基材ポリマー(thermoplastic matrix polymer)の複合ラミネートが導入されている。そのような熱可塑性複合ラミネートは、単純に熱可塑性ポリマー基材をその軟化又は溶融温度を超えるまで加熱することによって、固化後に成形され得る。
【0004】
カーボンファイバーが導電性であるため、電磁界を生成する導電体によってカーボンファイバーに渦電流が誘導され得る。渦電流がカーボンファイバーを加熱し、成形パーツの内部からの加熱を生じさせる。この特性により、上述のラミネート製の成形パーツの電磁溶接の可能性が提供される。そのような工程において熱可塑性ポリマー基材が渦電流によりその軟化又は溶融温度を超えて加熱され、これにより、一緒に融合又は溶着する成形パーツのそれぞれの外面の電磁的な溶接が可能になる。その溶接可能面以外の成形パーツの部分の加熱は、一般的には、望まれない。なぜなら、これにより成形パーツの部分にダメージが生じ得るためである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ファイバー強化複合ラミネート製の成形パーツを電磁的に結合する方法の改良を提供することが本発明の目的である。そのような成形パーツの電磁溶接の方法の改良のために用いられるファイバー強化複合ラミネートを提供することが更なる一つの目的である。また別の目的は、そのようなファイバー強化複合ラミネートを製造するための方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、これらの及び他の目的のために請求項1に係るラミネート製の成形パーツの電磁溶接で用いられるファイバー強化複合ラミネートを提供する。ファイバー強化複合ラミネートは、熱可塑性基材に埋設された導電性ファイバーから各々が形成された複数の構造レイヤーを備え、電磁界を生成する導電体によって導電性ファイバーに渦電流が誘導され得る;
複数の構造レイヤーは、2つの隣接して位置した構造レイヤーの第1、第2、及び、オプションとして第3のペアを含み、
第1ペアは、当該ペアの2つの構造レイヤーの間に位置する中間レイヤーを有し、当該中間レイヤーは、第1ペアの2つの構造レイヤーの間で渦電流が流れることを実質的に許す面外の電気的な体積抵抗R1を有し、
第2ペアは、当該ペアの2つの構造レイヤーの間に位置する中間レイヤーを有し、当該中間レイヤーは、第2ペアの2つの構造レイヤーの間で渦電流が流れることを実質的に阻止する面外の電気的な体積抵抗R2を有し、
第3ペアは、当該ペアの2つの構造レイヤーの間に中間レイヤーを有さず;
更には、R1及びR2が有限、かつ0<R1<R2である。
各ペアの中間レイヤーは、各ペアにおける2つの構造レイヤーとは、好適には、各ペアの中間レイヤーが導電性ファイバーを備えない点で異なる。従って、各中間レイヤーは、構造的又は耐荷重機能を果たさず、又は、ただ微弱な程度で果たす。
【0007】
本発明によれば、電磁界を生成する導電体が発明に係るラミネートの近傍に設けられる時、導電性ファイバーに渦電流が誘導され、ジュール熱によってそれらを加熱し、これにより周囲の熱可塑性基材ポリマーも加熱する。
【0008】
抵抗性、抵抗、又はオーム熱としても知られるジュール熱は、導体を介した電流の通過により熱が生成される工程である。熱量は、電流が流れる方向における抵抗に比例する。
【0009】
隣接して位置付けられた構造レイヤーの第2ペアは、殆どジュール熱に晒されない。なぜなら、第2ペアの2つの構造レイヤーの間に渦電流が流れることが実質的に阻止されるためである。これは、R1と比べて相対的に高い面外の電気的な体積抵抗R2を有するそのような第2ペアの中間レイヤーを設けることにより可能になる。第2ペアでは、ジュール熱は、各レイヤーの導電性ファイバーにおいて別々に誘導された渦電流に実質的に制限され、より少ない熱の生成をもたらす。これにより、1以上の第2ペアを含むラミネートの部分が電磁界の影響の下で過加熱されることから阻止される。そのような第2ペアの部分は、従って、さもなければ損傷し得る過加熱から阻止される。
【0010】
溶接について、電磁界は、ラミネートの他の部分の熱可塑性基材ポリマーを基材ポリマーの軟化又は溶融温度を超える温度にするために、その部分を加熱しなければならない。この目的のため、隣接して位置付けられた構造レイヤーの第3ペアを使用することができる。隣接して位置付けられた構造レイヤーの第3ペアは、ダイレクト・ファイバー間コンタクト及び/又は誘電体ヒステリシス(dielectric hysteresis)により生じる、所謂、接合加熱(junction heating)により加熱される。渦電流は、第3ペアの2つの構造レイヤーの間に流れることが実質的に許され、それらのレイヤーは、相対的に高められた有限の面外の電気的な体積抵抗R2を持つ中間レイヤーの介在なく、実にお互いに直接的に連結されている。第3ペアにおけるジュール損失は、緩慢である。なぜなら、面外方向の電流は、相対的に低い電気的な表面抵抗率ρ3(Ω・m2)に抗して流れるためである。測定された電気的な表面抵抗率ρ3の値は、典型的には、10-3Ω・m2未満であり、例えば、0.20×10-4Ω・m2及び5×10-4Ω・m2の間である。
【0011】
本発明者は、等しい電磁界強度についてラミネートでのジュール熱が高められることを理解した。これについて、本発明の一つの側面によれば、第1ペアは、当該ペアの2つの構造レイヤーの間に位置する中間レイヤーを有し、当該中間レイヤーは、第1ペアの2つの構造レイヤーの間で渦電流が流れることを実質的に許す面外の電気的な体積抵抗R1を有する。面外の電気的な体積抵抗R1は、構造レイヤーの第2及び第3ペアのみを備えるラミネートよりも第1ペアにおいてジュール熱を高めるのに十分に大きく選択される。他方、電気的な体積抵抗R1は、R2よりも小さく、第1ペアの構造レイヤーの間に渦電流が流れることを許す。換言すれば、第1ペアは、加熱の効率性の観点においてラミネートを最適化させる。ラミネートの第2ペアは、相対的に冷えたままであり損傷を阻止し、他方、第1ペアが同分野で知られたものよりも効率的に加熱する。その先行技術は、実に、第3ペアのみ、即ち、お互いに直接的に連結された複数の構造レイヤーを有するラミネートの使用に依拠している。
【0012】
如何なる理論にとらわれることなく、第1ペアの中間レイヤーの面外の電気的な体積抵抗R1は、ジュール熱を増加しつつも、第1ペアの2つの構造レイヤーの間に渦電流が流れることを実質的に許すように最適化されるかもしれない。そのような最適化は、面外の電気的な体積抵抗R1に影響する要因を選択することにより実行され得る。この抵抗は、次式により与えられる:
1=ρ1×t/A (1)
ここでは、ρ1は、オーム・mでの中間レイヤーの材料の電気的な体積抵抗率であり、tは、中間レイヤーの平均厚であり、Aは、電流が流れる面積である。面積Aは、ラミネートの表面積におおよそ等しい。これから、面外の電気的な体積抵抗R1は、中間レイヤーの材料(の電気的な抵抗率)、及び/又は、中間レイヤーの平均厚tの選択により影響を受け得ることになる。上限R2は、ラミネートに第2ペアを設け、そのようなラミネートに電磁界により生成された熱を観察することにより決定され得る。
【0013】
電気的な(体積及び表面)抵抗率及び抵抗の全ての値は、室温、温度25℃で測定されることに留意されたい。
【0014】
レイヤー間の構造レイヤーの第3ペアにおける表面抵抗R3は、ρ3/Aに等しく、第1ペアの2つのレイヤー間の全抵抗は、体積抵抗R1+表面抵抗R3の2倍に等しいことに留意されたい。実に、各構造レイヤーと中間レイヤーの間に2つの界面がある。R1は、一般的にR3よりもかなり大きいため、R3の貢献は、無視され得る。
【0015】
本発明の改良された実施形態により、0.1R2<R1<0.9R2、より好ましくは0.2R2<R1<0.8R2、更により好ましくは0.3R2<R1<0.7R2、及び、最も好ましくは、0.4R2<R1<0.6R2のラミネートが提供される。
【0016】
本発明に係るラミネートの別の実施形態は、電磁的に溶接可能な外面を有し、第1ペアは、ラミネートの面外方向においてラミネートの溶接可能な外側でラミネートに設けられる。これにより溶接可能な外面の加熱が促進される。
【0017】
本発明に係るラミネートのまた別の実施形態は、電磁的に溶接可能な外面を有し、第2又はオプションの第3ペアの一つは、ラミネートの溶接可能な外側の反対の外側、或いは内側でラミネートに設けられる。これにより、ラミネートの溶接可能な外側の反対の外側、或いは内側での過加熱が抑制される。この実施形態は、また、溶接可能な外面以外のラミネートの部分の加熱を低下するヒートシンクの使用の必要性を低減する。
【0018】
第2ペアの少なくとも中間レイヤーが、厚み較正(thickness calibration)ガーゼ又はメッシュといった形態の非導電性ファイバー(non-conductive fibers)を備える実施形態に係るラミネートを提供することに利益がある。また別の好適な実施形態は、第1ペアの少なくとも中間レイヤーが、厚み較正ガーゼ又はメッシュといった形態の非導電性ファイバーを備えるラミネートを提供する。上述の実施形態は、体積抵抗R1及び/又はR2のより良い制御も許容する。実に、これらのラミネートが成形製品に成形される時、第1及び/又は第2ペアの中間レイヤーの平均厚は、変化に晒されにくい。実に、非導電性ファイバーは、簡単には圧縮されず、軟化したポリマーの流出に対してある程度の保護を提供する。これは、R1<R2として、実に第2ペアの中間レイヤーよりも高温にまで加熱される第1ペアの中間レイヤーに特に関連する。
【0019】
本出願の内容において非導電性ファイバーは、例えば、カーボン又はグラファイトファイバーよりも電気の伝導に適さない。適切な例は、ガラスファイバー、ジュートといった天然繊維、及びポリエチレン及びポリアラミドファイバーといった有機繊維である。
【0020】
第1、第2及び/又はオプションの第3ペアの構造レイヤーの少なくとも一つにおける導電性ファイバーは、隣接した構造レイヤーの少なくとも一つにおいて局所的に途絶(中断)する実施形態に係るラミネートの提供により電磁界の作用の下での加熱が更に促進され得ることが更に確立されている。加熱は、局所的な途絶でかなり増加すると見られる。
【0021】
別の有用な実施形態は、第1、第2及び/又はオプションの第3ペアの2つの構造レイヤーにおける導電性ファイバーが、ペアの一つの構造レイヤーにおけるラインと、ペアの他方の隣接したレイヤーにおける別のラインに沿って局所的に途絶し、両ラインがお互いに交差するラミネートを提供する。
【0022】
また、別の有用な実施形態は、第1、第2及び/又はオプションの第3ペアの2つの構造レイヤーにおける導電性ファイバーは、ペアの一つの構造レイヤーにおけるラインと、ペアの他方の隣接したレイヤーの別のラインに沿って局所的に途絶し、両ラインがお互いに一致するラミネートを提供する。
【0023】
特に有用な実施形態は、第1及び/又はオプションの第3ペアの導電性ファイバーが局所的に途絶するラミネートを提供する。なぜなら、これらのペアでは、効率的な加熱が特に望まれるためである。
【0024】
導電性ファイバーは、本分野で知られた任意の態様で構造レイヤーに存在し得る。例えば、導電性ファイバーは、織成された布の形態で適用され、ファイバーは、主ファイバー方向において真っ直ぐに延び、波状の横方向ファイバーが主ファイバー方向に略垂直な方向に延びる。また、導電性ファイバーは、マット面においてランダムにファイバーが延びるランダムマット(random mat)の形態で適用され得る。他の形態は、例えば、編み構造といった3次元構造体を含み得る。また別の態様は、ファイバー方向においてお互いに平行に延びる一定方向に配向された複数のファイバーを含み得る。好適な実施形態は、構造レイヤーにおける導電性ファイバーが一定方向に配向されたラミネートを提供する。この点が、ペアの中間レイヤーに存在し得るオプションの非導電性ファイバーにも当てはまる。
【0025】
一定方向のファイバーが用いられる時、本実施形態に係るラミネートは、次のように特徴付けられる:少なくとも第1ペアは、一定方向のファイバーの方向が一つの構造レイヤーと別のもので異なる構造レイヤーを備える。一つの構造レイヤーの一定方向のファイバーの方向が、ペアの他方の構造レイヤーの一定方向のファイバーの方向に垂直に走る第1ペアが特に好ましい。
【0026】
構造レイヤーは、各々、熱可塑性基材に埋設された導電性ファイバーから成る。特には、ラミネートの構築のために特に適する材料は、プリプレグ(prepregs)とも本分野では呼ばれる半製品の形態の構造レイヤーを含む。熱可塑性ポリマーは、ポリマーの軟化又は溶融温度を超えて加熱される時の融合による単純な態様でレイヤー間で結合され、又は、レイヤーの強化繊維に結合され得る。プリプレグがスタックされてラミネートが形成され得る。
【0027】
中間レイヤーの材料は、その目的のために適切な任意の材料であり得る。例えば、中間レイヤーにおいて用いられる適切な材料は、ゴム、熱硬化性及び/又は熱可塑性ポリマー、又はこれらの組み合わせであり得る。構造レイヤーのペアにおける中間レイヤーの材料が、ペアの構造レイヤーで用いられている熱可塑性基材ポリマーと同一、又は同種である時に利益がある。
【0028】
特定の適切な熱可塑性ポリマーの例は、ほんの少し挙げれば、ポリエチレン又はポリプロピレンといったポリオレフィン、ポリアミド、及び/又は、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、及びポリフェニレンサルファイドといった高温耐性ポリマーを含む。
【0029】
構造レイヤーの第1及び/又は第2ペアの中間レイヤーは、2つの構造レイヤーの間に挿入されてペアを形成する別の層で有り得る。しかしながら、好適な実施形態は、構造レイヤーがプリプレグにおけるように厚みを有し、基材ポリマー豊富エリア(matrix polymer-rich area)が一つ又は両方のレイヤーの片側又は両側で厚みの一部上を延びるラミネートに関する。第1及び/又は第2ペアの中間レイヤーは、当該ペアの隣接した構造レイヤーの少なくとも一つのポリマー豊富エリアにより形成され得る、また、構造レイヤー間に別の中間レイヤーの挿入が必要ない。
【0030】
どのようにそのような構造レイヤー、好適には、プリプレグが結合するかに依存して幾つかの可能性がある。まず、基材ポリマー豊富エリアは、構造レイヤーの両側に存在し得、構造レイヤーの上側に、又は、下側に存在し得る。片側のみに基材ポリマー豊富エリアを有する構造レイヤーは、3つの態様で片側だけに基材ポリマー豊富エリアを有する別の構造レイヤーに結合され得、即ち、基材ポリマー豊富エリア同士をお互いに対して提供し、一つの構造レイヤーの基材ポリマー豊富エリアを第2の構造レイヤーの基材ポリマー非豊富エリアに対して提供し、又は、両方の基材ポリマー非豊富エリアをお互いに対して提供することによる。獲得される中間レイヤーの厚みの差に起因して、第2ペア、第1ペア及び第3ペアが、斯くして獲得され得る。
【0031】
実際、ある実施形態は、第1及び/又は第2ペアの中間レイヤーが、当該ペアの隣接した構造レイヤーの少なくとも一つのポリマー豊富エリアから成るラミネートに関する。別の実施形態は、第2ペアの中間レイヤーは、当該ペアの両方の隣接した構造レイヤーの基材ポリマー豊富エリアにより形成されるラミネートに関する。
【0032】
本発明に係る第1ペアの中間レイヤーが面外の電気的な体積抵抗R1を有し、本発明に係る第2ペアの中間レイヤーが面外の電気的な体積抵抗R2を有し、R1は、第1ペアの2つの構造レイヤーの間に渦電流が流れることを実質的に許すように選択され、R2は、第2ペアの2つの構造レイヤーの間に渦電流が流れることを実質的に阻止するように選択される。
【0033】
中間レイヤーの面外の電気的な体積抵抗Rに影響を与える一つの方法は、その厚みを変えることである。従って、ある実施形態では、第1ペアの中間レイヤーの平均厚t1が第2ペアの中間レイヤーの平均厚t2よりも小さいことにラミネートが特徴付けられる。第3ペアは、平均厚=0を呈し、なぜなら、そのような第3ペアは、その構造レイヤーの間に中間レイヤーを有しないためである。
【0034】
一つの実施形態によれば、第1ペアの中間レイヤーが熱可塑性ポリマーを含み、かつ0.05mmと0.15mmの間、より好ましくは、0.07mmと0.12mmの間の平均厚を有するラミネートが提供される。
【0035】
また別の実施形態は、第2ペアの中間レイヤーが、熱可塑性ポリマーを含み、かつ0.20mmよりも大きい平均厚を有するラミネートを提供する。
【0036】
示唆した平均厚は、処理後のもの、即ち、ラミネートが形成された後のもの、オプションとして、加圧、また固化された後のものであることに留意されたい。
【0037】
中間レイヤーは、ラミネートの全平面エリア(complete planar area)上で連続であり得るが、この平面エリアの一部を被覆し得る。この点は、2つの隣接した構造レイヤーの間のコンタクトエリアについても同様である。実に、本発明の実施形態によれば、ペアの隣接した構造レイヤーの各々がコンタクトエリアを有し、基材ポリマー豊富エリアがコンタクトエリアの一部上だけを延びるラミネートが提供される。
【0038】
また別の実施形態は、隣接した構造レイヤーの各々がコンタクト幅及び長を有し、基材ポリマー豊富エリアがコンタクト幅又は長の一部上を延びるラミネートを提供する。
【0039】
構造レイヤーの強化ファイバー上に中間レイヤーを設けることも可能であり得る。例えば、そのような強化ファイバーは、適切な電気抵抗を持つポリマーのシェル又は被覆物(jacket)でコーティングされ得る。
【0040】
第1ペアの中間レイヤーの面外の電気的な体積抵抗R1に影響を与えるため、中間レイヤーの材料は、導電材料を備え得る。有用な実施形態は、第1ペアの中間レイヤーは、熱可塑性ポリマーに埋設された、金属粒子といった導電性粒子を備えるラミネートを提供する。強磁性粒子といった他の添加物も使用され得る。
【0041】
電気的な体積抵抗は、中間レイヤーを形成する材料の電気的な体積抵抗率により影響され得る。材料の電気的な体積抵抗率は、ASTM D257に記述のように標準的な試験方法によって測定される。即ち、2つの電極の間に標準サイズの標本が置かれる。次に、ある期間(60秒)に亘って電圧が印加され、抵抗が測定される。次に、体積抵抗率が上述の式(1)に即して計算される。電気的な(体積及び表面)抵抗率と抵抗の全ての値は、25℃の室温で測定される。僅かな偏差について、ASTM D257で説明のように訂正が行われる。
【0042】
本発明の実施形態によれば、隣接した構造レイヤーの第1及び/又は第2ペアの中間レイヤーの材料は、1015Ω・cmと20×1015Ω・cmの間の電気的な体積抵抗率を有するラミネートが提供される。
【0043】
任意の材料により電流に提供される抵抗は、常に並列に働く体積及び表面抵抗の複合効果である。体積抵抗は、材料の本体に電流が流れる時の漏れへの抵抗であり、他方、表面抵抗は、ある材料の表面又は2つの材料の間の界面に沿う漏れに対する抵抗に関する。絶縁材料の表面抵抗率は、その体積抵抗率よりも桁違いに小さい。
【0044】
本発明の別の側面によれば、発明した複合ラミネートから成形パーツを製造するための方法が提供される。方法は、各々が熱可塑性基材に埋設された導電性ファイバーを備える複数の構造レイヤーを設けること;2つの隣接した構造レイヤーの間に面外の電気的な体積抵抗R1を有する中間レイヤーを設けて第1ペアを形成することにして、第1ペアの2つの構造レイヤーの間で渦電流が流れることが実質的に許される;2つの隣接した構造レイヤーの間に面外の電気的な体積抵抗R2を有する中間レイヤーを設けて第2ペアを形成することにして、第2ペアの2つの構造レイヤーの間で渦電流が流れることが実質的に阻止されることを含み、ここで、R1及びR2が有限、かつ0<R1<R2であり、各ペアの中間レイヤーは、各ペアにおける2つの構造レイヤーとは、各ペアの中間レイヤーが導電性ファイバーを備えない点で異なり、オプションとして、お互いに対して隣接した2つの構造レイヤーを設けて第3ペアを形成すること;構造及び中間レイヤーをスタックして第1、第2、及びオプションの第3ペアの1以上のスタックを形成すること;スタックを加熱することで得られるスタックを形成し、加圧して複合ラミネート製の成形パーツを形成すること;及び冷却により成形パーツを固化すること、を含む。
【0045】
成形パーツの製造方法の模範的な実施形態は、次の方法を提供する:ラミネートは、電磁的に溶接可能な外面を有し、第1ペアは、ラミネートの面外方向においてラミネートの溶接可能な外側でラミネートに位置付けられる;ラミネートは、電磁的に溶接可能な外面を有し、第2又はオプションの第3ペアの一つは、ラミネートの溶接可能な外側の反対の外側、或いは内側でラミネートに位置付けられる;第1、第2及び/又はオプションの第3ペアの構造レイヤーの少なくとも一つにおける導電性ファイバーは、隣接した構造レイヤーの少なくとも一つにおいて局所的に途絶する;第1、第2及び/又はオプションの第3ペアの2つの構造レイヤーにおける導電性ファイバーが、ペアの一つの構造レイヤーにおけるラインと、ペアの他方の隣接したレイヤーにおける別のラインに沿って局所的に途絶し、両ラインがお互いに交差する;第1、第2及び/又はオプションの第3ペアの2つの構造レイヤーにおける導電性ファイバーは、ペアの一つの構造レイヤーにおけるラインと、ペアの他方の隣接したレイヤーの別のラインに沿って局所的に途絶し、両ラインがお互いに一致する;第1及び/又はオプションの第3ペアの導電性ファイバーが局所的に途絶する;構造レイヤーにおける導電性ファイバーが一定方向に配向され、少なくとも第1ペアが、一定方向のファイバーの方向が第1ペアの別の一つの構造レイヤーとは異なる構造レイヤーを備えるように複数の構造レイヤーがスタックされる;構造レイヤーが厚みを有し、基材ポリマー豊富エリアが幾つかの構造レイヤーの片側又は両側で厚みの一部上を延び、第1及び/又は第2ペアの中間レイヤーは、当該ペアの隣接した構造レイヤーの少なくとも一つの基材ポリマー豊富エリアにより形成される;第2ペアの中間レイヤーは、当該ペアの両方の隣接した構造レイヤーの基材ポリマー豊富エリアにより形成される;隣接した構造レイヤーの各々がコンタクトエリアを有し、基材ポリマー豊富エリアがコンタクトエリアの一部上を延びる;隣接した構造レイヤーの各々がコンタクト幅及び長を有し、基材ポリマー豊富エリアがコンタクト幅又は長の一部上を延びる;第1ペアの中間レイヤーは、第1ペアの2つの構造レイヤーの間に渦電流が流れることを実質的に許す面外の電気的な体積抵抗R1を調整するために熱可塑性ポリマーに埋設された導電性粒子を備える;第1及び/又は第2ペアの構造レイヤー及び/又は中間レイヤーの基材熱可塑性ポリマーは、半結晶性ポリアリールエーテルケトン熱可塑性ポリマーを含む;隣接した構造レイヤーの第1及び/又は第2ペアの中間レイヤーの材料は、ASTM D257で測定される時、1015Ω・cmと20×1015Ω・cmの間の電気的な体積抵抗率を有する。
【0046】
本発明のまた別の側面によれば、発明されたラミネートから成形パーツを電磁溶接する方法が提供される。方法は、成形パーツの溶接可能な外面同士をお互いに接触させて接触面を画定すること;交番電圧の下で電磁界を生成して成形パーツの導電性ファイバーを加熱し、各成形パーツの第2ペアの構造レイヤーの基材ポリマーがその溶融温度を超えて維持されるべくインダクタを提供すること;各成形パーツの第1及びオプションの第3ペアの構造レイヤーの基材ポリマーをその溶融温度未満に維持すること;及びオプションとして、成形パーツを一緒に加圧することを含むステップを含む。
【0047】
方法によって即時かつ効率的な態様で成形パーツ間の良質な溶接接合の実現が可能になり、得られた製品は、特に良好な機械的な耐荷重性能を有する。熱は、構造レイヤーの第1ペアにおいて効率的に生成されて、熱可塑性基材をその軟化又は溶融温度を超えた温度にし、他方、構造レイヤーの第2ペアの加熱は、その第2ペアの熱可塑性基材の温度をその軟化又は溶融温度未満に保つべく妨げられる。インダクタは、必ずしも成形パーツと接触しないため、機械的な損傷の可能性が最小化され、これは、特に、航空及び航空宇宙といった高品質の用途において特に重要である。
【0048】
ある実施形態によれば、インダクタは、成形パーツの接触面に対して経路に沿って動かされ、導電性ファイバーが、接触面の所定部分において加熱される方法が提供される。この特徴により効率が高められる。インダクタは、連結を実現するために、例えば、ロボットアームにより、又は、リニアガイドにより接触面上で動かされ得る。
【0049】
インダクタの種類は、状況に従って選ばれ得る。例えば、それは、コイル形状であり得る。方法は、また、リニア誘導セグメントを備えるインダクタも用い得る。リニア誘導セグメントは、少なくとも溶接の方向において実質的に円柱状の電磁界を生成する。誘導セグメントが実質的に金型の壁に平行に走行するようにインダクタを位置付けることにより、成形パーツ間の接触面が、高度に選択的な態様で加熱され、精密な溶接接合が獲得され得る。
【0050】
使用される材料に依存して電磁界の適切なパワー及び周波数が決定される。周波数は、とりわけ、電磁界の浸透力を決定する;インダクタの電力は、変化する電磁界の強度、従って、導電性ファイバーに生じる熱の度合いを決定する。
【0051】
本発明に係る方法での用途について、インダクタは、交流発電機に接続され、交流発電機が、インダクタの電気的な接続手段に電気的に接続される。使用可能な周波数は、一般的に、0.1~10MHzにある。0.1MHzと0.5MHzの間の周波数、より好ましくは、0.15MHzと0.4MHzの間の周波数が好適に用いられる。そのような好適な周波数で、電磁界の浸透力と加熱速度の間で最適なバランスが達成される。
【0052】
本特許出願に記述の発明の実施形態は、これらの実施形態の任意の組み合わせにおいて組み合わせ可能であり、各実施形態は、個別に分割出願の手段を形成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0053】
本発明は、次図を参照して説明するが、これに限定されない。
【0054】
図1図1は、本発明の実施形態に係る電磁溶接によって2つの成形パーツを結合するための方法を模式的に示す。
図2図2は、本発明の実施形態に係るラミネートの斜視図を模式的に示す。
図3図3は、本発明の別の実施形態に係るラミネートの斜視図を模式的に示す。
図4図4は、本発明のまた別の実施形態に係るラミネートにおいて使用され得る構造レイヤーのペアを模式的に示す。
図5図5は、図4に示したペアのための加熱曲線を模式的に示す。
図6図6は、本発明のまた別の実施形態に係るラミネートの一部を模式的に示す。
図7A図7Aは、本発明のまた別の実施形態に係るラミネートの一部として導電性ファイバーのモノレイヤーの斜視図を模式的に示す。
図7B図7Bは、図7Aに示したモノレイヤーの断面を模式的に示す。
図8図8は、本発明のまた別の実施形態に係るラミネートの一部として導電性ファイバーの2つのモノレイヤーの斜視図を模式的に示す。
図9図9は、最後に、本発明の実施形態に係る方法において使用され得る溶接装置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0055】
図1は、適切な電源で電磁溶接のために適切な周波数の交流を適用することにより円形の電磁界2を生じるリニアインダクタ1を示す。第1成形パーツ又はラミネート3及び第2成形パーツ又はラミネート4は、この電磁界2において接触面に沿ってお互いに接触させられる。成形パーツは、カーボンファイバーで強化された熱可塑性樹脂から製造される。電磁界2の影響の下、カーボンファイバーで局所的に熱が生じ、少なくとも接触面5で、熱可塑性ポリマーがその溶融温度を超えて加熱される。加圧手段(不図示)で加圧することにより、熱的に活性化された熱可塑性成形パーツ(3,4)を接触面5で結合することができ、熱可塑性ポリマーの軟化又は溶融温度未満の温度への成形パーツ(3,4)の冷却後、接触面5での結合が不変(永続的なもの)になる。図は、更に、加熱中の接触面5での温度図を示し、ここでは、相対温度Tが、接触面5上の位置に対してプロットされている。第3の方向6は、溶接中にインダクタコイル1が動かされる方向を規定する。温度図は、一定強度の電磁界2により接触面5に不規則な加熱が生じ得ることを示し、ここで、多かれ少なかれ放物線状の温度変化が接触面5にて観察される。温度図は、また、方向6における変化も示し、これは、インダクタコイル1の移動方向、即ち、溶接方向Aに対応する。加熱の変動は、更には、局所的な過加熱及び/又は成形パーツ(3,4)の局所的な不完全な相互溶着によって成形パーツ(3,4)の部分が熱的に劣化することに帰結し得る。これは、一般的に望ましくなく、本発明に係るラミネート及び方法が、この及び他の問題に解決策を提供する。
【0056】
図2を参照すると、本発明の実施形態に係るラミネート10の模式的な斜視図が示される。ファイバー強化複合ラミネート10は、図1に示したように、そのラミネート製の成形パーツの電磁溶接において有利に用いられ得る。ラミネート10は、6つの構造レイヤーを備え、このうち3つの構造レイヤー(11a,11b,11c)が、ラミネート10の長手方向15に平行に(矢印110により示されるように)一定方向にファイバーが延びるように熱可塑性PEEK基材に埋設された導電性ファイバーを有する。ラミネート10において、他の3つの構造レイヤー(12a,12b,12c)は、ラミネート10の横断方向16において(矢印120により示されるように)一定方向にファイバーが延びるように熱可塑性基材に埋設された導電性ファイバーを有する。レイヤー11(11a,11b,11c)及び12(12a,12b,12c)のファイバーは、従って、お互いに90°の角度を成す。図1に示したもののように、導電体1により導電性ファイバーに渦電流が誘導され、電磁界2を生成する。
【0057】
レイヤー(11,12)が、直接又は中間レイヤー(13,14)を介してお互いに結合される。中間レイヤー(13,14)及び構造レイヤー(11,12)は、次のスタックシーケンスが得られるようにスタックされる。
【0058】
第1ペア17cは、ペア17cの2つの構造レイヤー(11c,12c)の間に位置する中間レイヤー14を有する。中間レイヤー14は、ある電気的な体積抵抗率を有するPEEKポリマーから成り、平均厚140を有し、面外の電気的な体積抵抗(面外の電気的な体積抵抗)R1に帰結し、第1ペア17cの2つの構造レイヤー(11c,12c)の間に渦電流が流れることを実質的に許す。
【0059】
ラミネート10は、第2ペア17bも備え、各々、2つの隣接して位置する構造レイヤーの間で一つの中間レイヤー(13a,13b,13c)が挟まれて形成される。例えば、中間レイヤー13aは、構造レイヤー12a及び11bの間に位置し、中間レイヤー13bは、構造レイヤー11b及び12bの間に位置し、中間レイヤー13cは、構造レイヤー12b及び11cの間に位置する。この定義において、ある構造レイヤーは、レイヤーの異なるペアの一部であり得ることに留意されたい。実際、例えば、構造レイヤー11bは、2つの第2ペア17bの一部である。図示の実施形態では、中間レイヤー(13a,13b,13c)もある電気的な体積抵抗率のPEEKポリマーから成り、全てが、平均厚130を有し、面外の電気的な体積抵抗(面外の電気的な体積抵抗)R2に帰結し、第2ペア17bの中間レイヤー(13a,13b,13c)に接触する構造レイヤー(12a,11b,12b,11c)の間を渦電流が流れることを実質的に阻止する。抵抗率R1及びR2が有限であり、0<R1<R2である。図示の実施形態では、0.4R2<R1<0.6R2であり、これは、平均厚130の0.4と0.6の間の範囲に平均厚140を選択することにより達成される。
【0060】
ラミネートは、図示のように、構造レイヤーの第3ペア17aも備え得る。第3ペア17aは、ラミネート10の上面に位置付けられ、ペア17aの2つの構造レイヤー(11a,12a)の間に中間レイヤーを有しない。レイヤー(11a,12a)は、換言すれば、お互いに直に結合している。
【0061】
図示のラミネート10は、電磁的に溶接可能な外面を有し、これが下面150に対応する。図示のように、第1ペア17cは、ラミネート10の面外方向18でラミネート10の溶接可能な外面150の近くにラミネート10に設けられる。第2ペア17bは、下面150から更には離れて、ラミネート10内に設けられる。第3ペア17aは、ラミネート10の上面160に設けられる。
【0062】
成形されたラミネート10は、別の成形パーツ40に電磁的に溶接又は結合され得る。詳細は図示しないが、この成形パーツ40も上述のラミネートを含み得る。図1において、パーツ(3,4)が、各々、ラミネート10と成形パーツ40により置き換えられ、電磁界2の影響の下、カーボンファイバーに局所的に熱が発生し、少なくとも下面150で熱可塑性PEEKポリマーが加熱されてその溶融温度を超える。加圧手段(不図示)で押圧することにより、熱的に活性化された熱可塑性成形パーツ(10,40)を下面150で結合することができ、熱可塑性PEEKポリマーの軟化又は溶融温度未満の温度への成形パーツ(10,40)の冷却後、接触面5での結合が不変(永続的なもの)になる。ラミネート10における第2ペア17bの存在のため、熱可塑性PEEKポリマーの軟化又は溶融温度を超えるこれらのペア17bの加熱が実質的に阻止される。これによって、それらの第2ペア17bの過加熱が阻止される。他方、ラミネート10における第1ペア17cの存在のため、熱可塑性PEEKポリマーの軟化又は溶融温度を超えるこのペア17cの加熱が促進され、既知の方法よりも電磁界強度がより効率的に用いられる。第3ペア17aも加熱されるが、第1ペア17cよりも緩慢である。第1ペア17cの過加熱を阻止するため、ヒートシンク(不図示)がラミネート10の上面160に適用され得る。
【0063】
望むならば、面外の電気的な体積抵抗R1を有する別の中間レイヤーが、成形パーツ40の下面150と上面の間に位置し得ることに留意されたい。
【0064】
図3は、本発明の別の実施形態に係るラミネートの斜視図を模式的に示し、中間レイヤー(13,14)が、長手方向15においてラミネート10の長さの一部上を延びる。用いた参照番号は、図2と同一のものを示すことに留意されたい。未固化の状態のラミネートが示され、レイヤーの厚みが誇張されていることにも留意されたい。固化される時、レイヤー12a,11b,12b及び11cは、ラミネートの横断側(transverse side)170に沿ってお互いに圧迫される。図示の実施形態においては、中間レイヤー(13,14)は、少なくとも長手方向15において、ラミネート10が溶接される成形パーツ40の範囲を延びる。
【0065】
図4に示すように、ラミネートの実施形態は、構造レイヤー(11,12)としてのファイバー強化プリプレグ20のビルドアップであり得る。各プリプレグ20は、厚み21と、プリプレグ20の片側、端的には、図4の左図に示すようなプリプレグ20の上側で、厚み部分23上を延びる基材ポリマー豊富エリア22を有する。ファイバー強化エリア25は、基材ポリマーに埋設されたプリプレグ20の強化ファイバーを備える。ポリマー豊富エリア22には、強化ファイバーが実質的に無い。ファイバー強化エリア25は、プリプレグ20の下側に延び、この下側は、ポリマー欠乏エリア(polymer-starved area)26と呼ばれる。これらのプリプレグ20は、あるスタックシーケンスに従ってそのような複数のプリプレグ20をお互いの上にスタックすることでラミネート10を構築するために用いられる。図4の右図には2つのプリプレグ20のスタックの例が示される。2つのプリプレグ20の第1スタック24aは、一つのプリプレグ20のポリマー豊富エリア22が、第2のプリプレグ20のポリマー欠乏エリア26に接触して厚み23の中間レイヤーを形成するプリプレグ20を含む。2つのプリプレグ20の第2スタック24bは、一つのプリプレグ20のポリマー豊富エリア22が、第2のプリプレグ20のポリマー豊富エリア22に接触して厚み23の2倍の中間レイヤーを形成するプリプレグ20を含む。2つのプリプレグ20の第3スタック24cは、一つのプリプレグ20のポリマー欠乏エリア26が、第2のプリプレグ20のポリマー欠乏エリア26に接触したプリプレグ20を含む。これは、構造レイヤー(11a,12a)の第3ペア17aを形成し、ここでは、中間レイヤーが無い。達成されるべき電気的な体積抵抗(又は、代替として、達成されるべき厚み)に依存して、スタック24aは、2つの構造プリプレグ20の間に位置する中間レイヤー22を有する第1ペアを形成し得、ここで、中間レイヤーは、面外の電気的な体積抵抗R1を有し、第1ペアの2つの構造レイヤーの間で渦電流が流れることを実質的に許す。達成されるべき電気的な体積抵抗(又は、代替として、達成されるべき厚み)に依存して、スタック24bは、2つの構造プリプレグ20の間に位置する、2つのポリマー豊富エリア22で形成された中間レイヤーを有する第2ペアを形成し得、ここで、中間レイヤーは、面外の電気的な体積抵抗R2を有し、第2ペアの2つの構造レイヤーの間で渦電流が流れることを実質的に阻止する。
【0066】
図5を参照すると、図4に図示のペアのための加熱曲線が模式的に示される。この図面では、ペアでの到達温度50(℃)が、インダクタに流れる電流51(A)の関数として示される。上側の曲線52aは、スタック24aで得られた結果を表し、下側の曲線52bは、スタック24bで得られた結果を表す。スタック24cで得られた結果は、これらの2つの両極9の間にある(曲線52c)。スタック24bよりもスタック24aの加熱のために必要な電流が小さいことが明らかである。代替として、例えば、同一の電流値51a(又は電磁界強度)に関して、スタック24aは、基材ポリマーの軟化又は溶融温度を超えて加熱され、他方、スタック24bは、その軟化又は溶融温度未満を維持し得、約30℃の温度差に達する。
【0067】
発明のラミネート10のまた別の実施形態が図6に示される。2つの構造レイヤー(11c,12c)のペア17cのみが示されるが(参照番号は、図2に即したものである)、ペア17cが、透明層として示された中間レイヤー14を更に備えることに留意されたい。この実施形態では、第1ペア17cの2つの構造レイヤー(11c,12c)の導電性ファイバー(60,61)が、ラミネートの横断方向16にファイバー61が延びるペアの下部の構造レイヤー12cにおいて、ラミネートの長手方向15に平行に、ライン55に沿って局所的に途絶され、ラミネートの長手方向15にファイバー60が延びるペアの上部の構造レイヤー11cにおいてラミネートの横断方向16に平行に別のライン56に沿って局所的に途絶される。図示のように、両方のライン(55,56)は、エリアBにおいてお互いに交差し、導電性ファイバーの途絶のため、このエリアBにて及びその周囲で加熱が強固に高まることが明らかになっている。この効果を得るため、2つの構造レイヤー(11c,12c)の厚みの一部でファイバーを途絶することも可能であろう。
【0068】
上述の説明と同様の原則が、より小さいレベル、即ち、ファイバー(60,61)のモノレイヤー7のレベルにも適用され得る。図7Aと、図7BにおけるラインC-C’での断面図を参照すると、多数本のファイバー60が、ポリマーレイヤー又はシート63によりコーティング又は周囲されていることが見られる。ポリマーレイヤー又はシート63は、面外の電気的な体積抵抗R1を有し得、これは、お互いの上にスタックされた2つの構造モノレイヤー7の間に渦電流を流すことを実質的に許す。代替として、ポリマーレイヤー又はシート63は、面外の電気的な体積抵抗R2を有し得、これは、お互いの上にスタックされた2つの構造モノレイヤー7の間で渦電流が流れることを実質的に阻止する。図7Bは、ポリマーレイヤー又はシート63によりコーティング又は周囲された複数本のファイバー60を示すが、そのようなコーティング又はシート化63は、(多数本のフィラメントを有する)一本のファイバー又はファイバー・バンドルの周囲にも適用され得る。
【0069】
図8の実施形態を参照すると、2つの隣接したモノレイヤー7(7a,7b)の導電性ファイバー(60,61)は、ラミネートの横断方向16にファイバー61が延びるペアの下部のモノレイヤー7bにおいてラミネートの長手方向15に平行なライン65に沿って局所的に途絶され、ラミネートの長手方向15にファイバー60が延びるペアの上部のモノレイヤー7aにおいてラミネートの横断方向16に平行なライン66に沿って局所的に途絶される。図示のように、両方のライン(65,66)がエリアB’でお互いに交差し、導電性ファイバー(60,61)の途絶のため、このエリアB’にて及びその周囲で加熱が強固に高まることが明らかになっている。
【0070】
最後に、図9は、結合インダクタ31が設けられた溶接装置30を示す。インダクタ31は、所望の接合部を得るために、産業6軸ロボット32によって事前にプログラムされた経路であり得る溶接ラインに沿って案内され得る。この場合、本発明の実施形態に即した成形パーツは、この目的のために製造された金型33において溶接のために固定されて一緒に加圧され得る。金型33には、これを介して溶接のために成形パーツの近くでインダクタ15が動かされ得るリセス34が設けられ得る。インダクタ15は、電磁界の生成の目的でロボット32に設けられた交流電流生成器35に接続され得る。電磁界の強度は、溶接ラインに沿って成形パーツの接触面での温度変化を少なくとも部分的に補償するべく溶接ラインに沿って変化され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9