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特許7467699大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気クロスヘッド内燃機関用ピストンリング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気クロスヘッド内燃機関用ピストンリング
(51)【国際特許分類】
   F16J 9/16 20060101AFI20240408BHJP
   F02F 5/00 20060101ALI20240408BHJP
   F16J 9/20 20060101ALI20240408BHJP
   F16J 9/26 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
F16J9/16
F02F5/00 F
F02F5/00 G
F02F5/00 K
F16J9/20
F16J9/26 D
【請求項の数】 7
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023003439
(22)【出願日】2023-01-13
(65)【公開番号】P2023129256
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-01-13
【審判番号】
【審判請求日】2023-06-30
(31)【優先権主張番号】PA202101044
(32)【優先日】2022-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・エナジー・ソリューションズ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】サムエルソン ペール エリック
(72)【発明者】
【氏名】アンデルソン ヘンリク
(72)【発明者】
【氏名】フォフ イェスパー ヴァイス
【合議体】
【審判長】小川 恭司
【審判官】内田 博之
【審判官】吉田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-196057(JP,A)
【文献】特開2016-61439(JP,A)
【文献】特開2013-151995(JP,A)
【文献】特表平7-504739(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 1/00-1/24 , F16J 7/00-10/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気クロスヘッド内燃機関のピストンの側壁に設けられた環状リング溝内のピストンリングパックに用いられ、前記ピストンの上方の燃焼室内の圧力に対してシールするためのピストンリングであって、
前記ピストンリングは、リング本体、直径、高さ、リング上面、リング下面、リング外面及びリング内面を有し、前記リング外面は、前記機関の運転中にシリンダライナの内側を摺動し、
前記ピストンリングは更に、前記ピストンリングの伸縮を許容するリングセクションに第1の係合端部及び第2の係合端部を有し、前記第1の係合端部は周方向に長いフィンガーを有し、前記第2の係合端部は周方向に長い凹部を有し、前記凹部は前記フィンガーを変位可能に受け入れるための形状及び大きさを有し、前記フィンガーの先端には隙間領域が設けられ、前記隙間領域では、前記凹部を有する端部のみが、前記シリンダライナと摺動する前記リング外面の一部を構成して前記燃焼室の圧力に対するシール効果を発揮し
前記第2の係合端部における、前記シリンダライナと摺動する前記リング外面の高さは、前記ピストンリングの高さの1/3未満であり、
少なくとも前記リングセクションにおける前記ピストンリングの前記リング外面は、断面で見て、凸であり、曲率半径が前記ピストンリングの直径の少なくとも0.8倍である仮想円の一部であり、
少なくとも前記リングセクションにおいて、前記仮想円の中心は、前記リング下面を含む水平面で見て、前記リング下面から前記ピストンリングの高さの2/3~3/4の間の位置にあることを特徴とする、
ピストンリング。
【請求項2】
前記リングセクションは、前記隙間領域から各周方向に少なくとも10度広がっていることを特徴とする請求項1に記載のピストンリング。
【請求項3】
前記凹部は前記リング外面及び前記リング下面に開口し、前記フィンガーは前記リング外面及び前記リング下面と同一面上にあることを特徴とする、請求項1に記載のピストンリング。
【請求項4】
前記リングセクションの領域における前記シリンダライナと前記ピストンリングの前記リング外面との間の圧力が、トップピストンリングの残りの周上の圧力よりも低くなるように、前記リング本体が非円形であることを特徴とする、請求項1に記載のピストンリング。
【請求項5】
被覆されていないか、溶射コーティング又はガルバニック皮膜で被覆されていることを特徴とする請求項1に記載のピストンリング。
【請求項6】
前記ピストンリングの上方から下方へのガスの制御された流れのための制御漏出溝が前記リング外面に設けられることを特徴とする、請求項1に記載のピストンリング。
【請求項7】
トップピストンリング及び/又はセカンドピストンリングであることを特徴とする請求項1に記載のピストンリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気クロスヘッド内燃機関のピストンの側壁に設けられた環状リング溝内のピストンリングパックに用いられ、前記ピストンの上方の燃焼室内の圧力に対してシールするためのピストンリングに関する。このピストンリングは、リング本体、直径、高さ、リング上面、リング下面、リング外面及びリング内面を有し、前記リング外面は、前記機関の運転中にシリンダライナの内側を摺動し、前記ピストンリングは更に、前記ピストンリングの伸縮を許容するリングセクションに第1及び第2の係合端部を有し、前記第1の係合端部は周方向に長いフィンガーを有し、前記第2の係合端部は周方向に長い凹部を有し、前記凹部は前記フィンガーを変位可能に受け入れるための形状及び大きさを有する。前記フィンガーの先端には隙間領域が設けられ、前記隙間領域では、前記凹部を有する端部のみが、前記シリンダライナと摺動するリング外面の一部を構成する。少なくとも前記リングセクションにおける前記ピストンリングの前記リング外面は、断面で見て、凸であり、曲率半径が前記ピストンリングの直径の少なくとも0.8倍、好ましくは少なくとも1倍である仮想円の一部である。
【背景】
【0002】
ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気クロスヘッド機関は、典型的には、船舶の推進システムや、発電プラントの原動機として用いられる。このようなエンジンは、重油や船舶用ディーゼル油、又は天然ガスや石油ガス等のガス燃料で運転されることが多い。
【0003】
エンジンのピストンにはリングパックが設けられる。リングパックは燃焼圧力が外に漏れないようにし、それによって、燃焼ガスが掃気スペースに漏れていかないようにする。またピストンリングの外形は、シリンダ油を捉えて、シリンダライナの内面に潤滑膜を形成することを確かにしている。リングパックのピストンリングは、およそ秒速10mもの速度で往復運動をするピストンから、圧縮空気や燃焼ガスが漏れないようにしなければならない。シリンダ内の圧力はおよそ250気圧にもなり、温度も400度に達する。このような仕事を、エンジン1回転あたり僅か数滴のシリンダ潤滑油で行わなければならず、さらに期待される寿命は数千時間にもなる。従って、ピストンリングに対する主要な要望は、耐摩耗性、耐スカッフ性、耐腐食性が高いことと、高温下でも弾力性(elasticity)の低下が少ないことである。
【0004】
重油で運転される場合に生成される燃焼ガスは侵食性が強いため、シリンダライナの内壁は、特別な高バッファーシリンダ潤滑油で潤滑される。この潤滑油は、燃焼ガスの中の侵食性の強い成分からシリンダライナの内壁を保護する。ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気クロスヘッドエンジンのピストンの直径は、25cmから108cmにもなる。潤滑を必要とするその他の要素の大きさもかなりのものとなる。従って、この形式のエンジンのためのリングパックは、小型の4ストロークディーゼルエンジンのためのリングパックとは異なる点がある。
【0005】
ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気クロスヘッドエンジンのリングパックは、通常4つのピストンリングを有する。少なくともトップピストンリングはCPRリングである。すなわちトップピストンリングは、圧力を逃がすための溝を有し、それによって、正確に定められ制御された高温ガスの流れが、燃焼室からトップピストンリングの下側に流れることを可能にしている。これは、トップリングをまたがる圧力低下の度合いを制御し、リングパックを構成する他のリングに負荷を分散させるためである。しかし、2つ又は3つのピストンリングを有するリングパックも一般的な選択肢である。
【0006】
さらに、リングパック内の個々のピストンリングの性能を最適化するために、各ピストンリングのリング外面の輪郭を異ならせることもよく知られている。全周にわたって同じ曲率半径を有し、その大きさと位置がピストンリングの摺動外表面の大部分に前記摺動外表面の高さの約1/3のシール領域を与える、樽形の輪郭を有するリング外面接触面を有するピストンリングが既知である。
【0007】
このような設計の欠点は、隙間領域で限られたシール面しか提供できないことであり、比較的短時間の使用でピストンリングの密閉性が低下し、漏れが発生することがよくある。このような漏れや隙間部分の過熱により、コーティングが剥がれたり、ピストンリングが潰れたりすることがよくある。このように、隙間領域における既存の設計の問題は、単純に密閉性が不十分であるため、温度の上昇を招き、最終的にコーティングの深刻な損傷と、下のリングに影響を与えるブローバイを引き起こすことであった。この欠点を克服するために、WO2015165634A1には、2つの円周方向に重なるリング端部と外面を有する突き合わせ接合領域を有する、いわゆるダブルバレル設計を有するピストンリングが記載されている。このピストンリングでは、突合せ領域における各リング端部の外周面に、それぞれ凸状又は樽状の表面領域が設けられている。このようにすると、隙間領域でより効果的なシーリングが得られるはずである。しかし、この既知のデザインは、製造が複雑で高価である。
【0008】
冒頭で述べたタイプのピストンリングは、EP3933232A1から知られている。
【0009】
隙間領域における既存のピストンリングデザインの更なる問題は、摺動面の部分だけが積極的に密閉されることである。それによって、隙間を通じた漏れが急速に進む可能性がある。それは温度を上昇させ、隙間領域の過熱を招く。このため、隙間部分のサーメットコーティングの激しい剥離がしばしば観察され、その結果、隙間部分において燃焼ガスの完全な通路を形成してしまう。最終的にこの漏れは加速され、高ガス流と密閉性の欠如により、ブローバイと、隙間部が非常な高温になるという結果を招く。この問題を解決するために、全ての異なるサイズのピストンリングについて、リングの隙間から±10~20°の範囲において平坦な輪郭を使用し、ロックエリア全体をカバーするシールエリア/ラインを増加させ、平坦な摺動面にレーザークラッディングを使用して隙間領域の材料特性を改善することが提案されている。これにより、平坦なシール形状を一定に保つために、漏れを無くし、耐摩耗性が向上した。耐摩耗性と材料強度が向上することで、隙間部分の平坦な形状を一定に保つことができるだろう。この作用の目的は、優れた密封性とガスタイトロックにおけるコーティング剥離の危険性をなくすことである。
【発明の概要】
【0010】
本発明の目的は、隙間領域を提供する第1及び第2の係合端部を有する、冒頭に述べた種類のピストンリングであって、隙間領域で効果的な密閉を得ることに関する上記の課題が少なくとも大幅に少なくなる、ピストンリングを提供することである。
【0011】
上述の課題やその他の課題が、独立請求項に記載の特徴により解決される。より具体的な実装形態は、従属請求項や発明の詳細な説明、図面から明らかになるだろう。
【0012】
第1の捉え方によれば、大型2ストロークターボ過給式ユニフロー掃気クロスヘッド内燃機関のピストンの側壁に設けられた環状リング溝内のピストンリングパックに用いられ、前記ピストンの上方の燃焼室内の圧力に対してシールするためのピストンリングが提供される。このピストンリングは、リング本体、直径、高さ、リング上面、リング下面、リング外面及びリング内面を有し、前記リング外面は、前記機関の運転中にシリンダライナの内側を摺動する。前記ピストンリングは更に、前記ピストンリングの伸縮を許容するリングセクションに第1及び第2の係合端部を有し、前記第1の係合端部は周方向に長いフィンガーを有し、前記第2の係合端部は周方向に長い凹部を有し、前記凹部は前記フィンガーを変位可能に受け入れるための形状及び大きさを有する。前記フィンガーの先端には隙間領域が設けられ、前記隙間領域では、前記凹部を有する端部のみが、前記シリンダライナと摺動するリング外面の一部を構成する。少なくとも前記リングセクションにおける前記ピストンリングの前記リング外面は、断面で見て、凸であり、曲率半径が前記ピストンリングの直径の少なくとも0.8倍、好ましくは少なくとも1倍である仮想円の一部である。そして前記ピストンリングは、前記リング下面を含む水平面で見て、前記仮想円の中心は、前記ピストンリングの下面から前記ピストンリングの高さの1/4~3/4の間、好ましくは少なくとも約2/3の位置にあることを特徴とする。
【0013】
これによって、隙間部分でも効果的な密閉性を得ることができ、コーティングの損傷や、ピストン上方における燃焼室からの燃焼ガスの吹き抜けに関する問題が回避される。
【0014】
前記リングセクションに上に定義されたような外面を設けることによって、前記凹部が前記隙間領域におけるリング外面の高さの1/3以下であるような、係合端部を有するリング部を有するピストンリングにおいても、シール効果をもたらす前記ピストンリングの摺動面が、前記隙間領域において、前記隙間領域において適切なシール効果を確保するために(前記凹部を有する)前記端部を十分に含むことが確保される。
【0015】
前記リングセクションにおける前記ピストンリングの前記外周リング面は、その高さの少なくとも3/4にわたって本質的に平坦であることが好ましい。
【0016】
前記リングセクションは、前記隙間領域から各周方向に少なくとも10度、好ましくは15度、最も好ましくは20度広がっていることが好ましい。このようにして、シール面積が増加し、シール効果が向上し、その結果、より低い温度が実現され、コーティング剥離及びブローバイのリスクが減少する。その結果、リングパック内で破壊が生じる可能性が高いリングは下部リングになる。
【0017】
前記ピストンリングは、任意の適切な方法で、最適なシール効果を提供するリング部を設計することができる。しかし、前記凹部は前記リング外面及び前記リング下面に開口し、前記フィンガーは前記リング外面及び前記リング下面と同一面上にあることが好ましい。
【0018】
前記リングセクションの領域における前記シリンダライナと前記ピストンリングの前記リング外面との間の圧力が、トップピストンリングの残りの周上の圧力よりも低くなるように、前記リング本体が非円形であることが好ましい。そのような形状が必要とされる理由は、ピストンリングが円筒状のシリンダライナに装着されたときに、規定された正確な圧力を、円周全体に亘って及ぼすことができるようにするためである。この圧力は、理想的には、円周全体に亘って等しく分散することができる。しかし、ターボ過給式大型2ストロークユニフロー掃気内燃機関のピストンで使用されるピストンリングには、一般的に、ネガティブな楕円形状が与えられる。これは、前記リングセクションの前記隙間部分の圧力を残りの円周部分よりも低くすることで、機関運転中の前記リングセクションへの圧力上昇を回避するためである。
【0019】
本発明のある実施形態では、前記ピストンリングは、コーティングされていないか、溶射皮膜でコーティングされているか、又はガルバニック皮膜でコーティングされている。
【0020】
本発明のある実施形態では、前記ピストンリングは、前記ピストンリングの上方から下方へのガスの制御された流れのための制御漏出溝が前記リング外面に設けられる。
【0021】
本発明のある実施形態では、前記ピストンリングは、トップピストンリング及び/又はセカンドピストンリングである。
【図面の簡単な説明】
【0022】
以下、図面に示される例示的な実施形態を参照しつつ、本願発明をより詳細に説明する。
図1】シリンダライナに装入されたピストンの一部の断面を表したものである。4本のピストンリングを有するリングパックが描かれている。
図2】シリンダライナに装入されたピストンの一部の断面を、倍率を上げて表したものである。5本のピストンリングを有するリングパックが描かれている。
図3】装着状態のピストンリングの一部を示す平面図である。
図4図3のピストンリングにおけるリングセクション付近の一部を示す正面図である。
図5】ピストンリングの一実施形態のリングセクションの断面図である。
図6図3のピストンリングのリングセクション付近の一部の透視正面図である。
【好適な実施形態の詳細説明】
【0023】
図1及び2には、ピストン1が描かれている。その側面には、いくつかのリング溝3が設けられ、一番上の溝3にはトップピストンリング(トップリング)4が装着され、その下の溝3にはトップリング4以外のピストンリングが装着されている。トップピストンリング4とその下の複数のピストンリング6は、合わせてリングパックと呼ばれ、協働して機能する。ピストン1は、大型2ストロークターボチャージユニフロー掃気クロスヘッド機関のために設計されており、ピストン1は、シリンダライナ7及びシリンダカバー5と共に燃焼室2を画定している。
【0024】
ピストンリング4,6は、燃焼室2内のガス圧がピストン1の下方のスペースに侵入することを防止する。
【0025】
図3図6は、本発明によるピストンリング4の実施例を示す図である。ピストンリング4,6は、リング本体11、直径32、高さ21、リング上面22、リング下面23、リング外面12、リング内面24を有する。機関の運転中、リング外面12は、シリンダライナ7の内周面を摺動する。ピストンリング4は、第1の係合端部8及び第2の係合端部9を有するリングセクション10を有し、燃焼室2からの燃焼ガスがリングセクション10を通過して流れることを実質的に防止している。リングセクション10は、リング溝3に装着された状態でリング径が拡大すること部分的に可能とする。このため、ピストンリング4が使用されるにつれて摩耗すると、ピストンリング4の2つの係合端部8,9が互いから少し後退することが可能にされる。
【0026】
図4でより詳細に見られるように、第1の係合端部8は、周方向に長いフィンガー13を有し、第2の係合端部9は、周方向に長い凹部14を有する。フィンガー13は凹部14の中に受容され、凹部14の中でスライドすることができる。フィンガー13の端部13aと凹部14の端部14aとの間には隙間領域15がある。この隙間領域において、凹部14を有する端部9のみがリング外面12の一部を構成し、機関運転中にシリンダライナ7に摺動し、ピストン1上方の燃焼室2の圧力に対してシール機能を提供する。
【0027】
本発明において、ピストンリング4,6のリング外面12は、少なくともリングセクション10において、断面で見て凸であり、中心20を有する仮想円の一部である。この仮想円の曲率半径25は、ピストンリング4,6の直径の少なくとも0.8倍であり、好ましくは少なくとも1倍である。
【0028】
このようにして、隙間領域15においてもリング外面12の少なくとも十分な部分が、ピストン1の上方の燃焼室2内の圧力に対して有効なシール効果を提供することが保証されるので、コーティングの損傷や、ピストン1上方の燃焼室2からの燃焼ガスの吹き抜けに関する問題が回避される。図4の線18は、リング外面12の下部がシリンダライナ7に摺接して適切なシール効果を発揮する境界を示す。線18より上方の残りのリング外面12が有効なシール効果を発揮しない。
【0029】
このように、本発明に従って構成された直径800mmのピストンリング4,6のリング外面12は少なくとも(隙間領域15を構成する)リングセクション10の部分において、凸であり、少なくとも800mmの曲率半径25を有する。そして、ピストンリング4,6のリング外面12は、リングセクション10においてほぼ平面であると感得され、従って最適なシール効果を提供することになる。
【0030】
図3及び図4に示す実施形態では、リングセクション10は、隙間領域15から周方向にそれぞれ20度ずつ広がっている。
【0031】
図5には、半径800mmを有するピストンリング4、6の実施形態の、リングセクション10の断面図である。ここで、曲率半径25は900mmであるので、リング外面12は、その高さの大部分にわたってほぼ平坦に見える。図示の実施形態では、ピストンリングの高さは18mmであり、リング外面の曲率の中心は中間地点、すなわち下方から9mmの位置にある。前述のように、リング外面12は仮想円の一部であり、その中心20は、水平面で見た場合、リング下面23を有する。係合端部を有するリングセクションを有するほとんどのピストンリングにおける凹部14を有する端部9は、隙間領域15においてリング外面12の高さの1/2未満、最も多い場合は約1/3未満を構成するので、本発明によれば、十分なシール効果を確保するために、リング下面23を含む水平面で見たときの仮想円の中心20は、ピストンリング4、6の下面23からピストンリング4、6の高さの1/4から3/4の間に、好ましくは少なくとも2/3程度の位置にあると提案される。このように、少なくともリングセクション10におけるピストンリング4,6の外周リング面12は、その高さの少なくとも3/4にわたって本質的に平坦である。
【0032】
図6に最もよく表されているように、第1及び第2の係合端部8,9を有するピストンリング4,6のリングセクション10は、凹部14がリング外面12及びリング下面23に開口し、フィンガー13がリング外面12及びリング下面23と同一面上にあるように設計されている。
【0033】
リングセクション10領域におけるシリンダライナ7とピストンリング4,6のリング外面12との間の圧力が、トップピストンリングの残りの周上の圧力よりも低くなるように、リング本体11を非円形に設計すると有利でありうる。
【0034】
また、ピストンリング4,6には、溶射コーティングが施されてもよいし、ガルバニックコーティングが施されてもよい。
【0035】
さらに、ピストンリング4,6には、ピストンリング4,6の上方から下方へのガスの流れを制御できるように、リング外面12に制御漏出溝を設けてもよい。
【0036】
ピストンリング4,6は、トップピストンリング及び/又はセカンドピストンリングであってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6