(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】定着部材の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20240408BHJP
F16C 13/00 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
G03G15/20 515
F16C13/00 B
(21)【出願番号】P 2023069777
(22)【出願日】2023-04-21
(62)【分割の表示】P 2019095426の分割
【原出願日】2019-05-21
【審査請求日】2023-05-22
(31)【優先権主張番号】P 2018109671
(32)【優先日】2018-06-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】前田 松崇
(72)【発明者】
【氏名】北野 祐二
(72)【発明者】
【氏名】松本 真持
(72)【発明者】
【氏名】松中 勝久
(72)【発明者】
【氏名】能登屋 康晴
(72)【発明者】
【氏名】今泉 陽
(72)【発明者】
【氏名】大石 卓司
(72)【発明者】
【氏名】宮原 康弘
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-259712(JP,A)
【文献】特開2018-070819(JP,A)
【文献】特開2005-300591(JP,A)
【文献】特開2013-159748(JP,A)
【文献】特開2016-102881(JP,A)
【文献】特開2015-001692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
F16C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子写真画像形成装置用の定着部材
の製造方法であって、
該定着部材は、基体と、該基体上の弾性層と、を有し、
該弾性層は、
シリコーンゴムと、該
シリコーンゴム中に分散されたフィラーとを含み、
該定着部材の製造方法は、
(1)該フィラーと、付加硬化型の液状シリコーンゴムと、を含む組成物を用意する工程、
(2)基体上に該組成物の層を形成する工程、
(3)該基体上の該組成物の層の外表面を帯電させる工程、及び
(4)該工程(3)において外表面を帯電させた該組成物の層を硬化させて該弾性層を形成する工程、
を有し、
該弾性層は、該弾性層の厚み-周方向の第1断面の任意の5か所における150μm×100μmのサイズの第1の二値化像、及び、該弾性層の厚み-軸方向の第2断面の任意の5か所における150μm×100μmのサイズの第2の二値化像の各々における円相当径が5μm以上の大粒径フィラーが占める面積割合の平均値が20%以上、40%以下であり、該大粒径フィラーの平均配列度f
Lが、0.00以上、0.15以下であり、
該二値化像の各々における円相当径が5μm未満の小粒径フィラーが占める面積割合の平均値が10%以上、20%以下であり、
該小粒径フィラーの平均配列度f
Sが、0.20以上、0.50以下であり、
該小粒径フィラーの平均配列角度Φ
Sが、60°以上、120°以下である、ことを特徴とする定着部材
の製造方法。
【請求項2】
前記工程(3)が、前記組成物の層の外表面を、コロナ帯電器を用いて帯電する工程を含む請求項1に記載の定着部材の製造方法。
【請求項3】
前記弾性層中の全フィラーの平均面積割合が30%以上、50%以下である請求項1
又は2に記載の定着部材
の製造方法。
【請求項4】
前記フィラーが、アルミナ、酸化亜鉛、金属ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素及び酸化マグネシウムからなる群から選択される少なくとも1種のフィラーである請求項1~3のいずれか1項に記載の定着部材の製造方法。
【請求項5】
前記フィラーの体積平均粒径が、0.1μm以上100μm以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の定着部材の製造方法。
【請求項6】
前記弾性層の引張弾性率が0.20MPa以上、1.20MPa以下である請求項1
~5のいずれか1項に記載の定着部材
の製造方法。
【請求項7】
前記弾性層の厚み方向の熱伝導率が
、1.30W/(m・K)以上である請求項1~
6のいずれか1項に記載の定着部材
の製造方法。
【請求項8】
前記弾性層の厚み方向の熱伝導率が、1.50W/(m・K)以上である請求項7に記載の定着部材の製造方法。
【請求項9】
前記基体が、ニッケル、銅、鉄、及び、アルミニウムからなる群より選択される少なくとも1つを含む請求項1~
8のいずれか1項に記載の定着部材
の製造方法。
【請求項10】
前記定着部材が、エンドレスベルト形状を有する定着ベルトである請求項1~
9のいずれか1項に記載の定着部材
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真画像形成装置の熱定着装置に用いられる定着部材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置の熱定着装置においては、加熱部材と該加熱部材に対向配置された加圧部材とで圧接部が構成されている。未定着トナー像を保持した被記録材が、この圧接部に導入されると、未定着のトナーが加熱・加圧され、該トナーが溶融され、被記録材に当該画像が定着される。加熱部材は、被記録材上の未定着トナー像が接する部材であり、加圧部材は、加熱部材に対向配置される部材である。本発明に係る定着部材は、加熱部材及び加圧部材を含む。定着部材の形状としては、ローラ形状やエンドレスベルト形状を有する回転可能なものがある。これらの定着部材には、金属又は耐熱性樹脂等で形成された基体上に、例えば、架橋シリコーンゴムの如きゴムと、フィラーとを含む弾性層を有するものが用いられている。
【0003】
近年、プリントスピードの高速化や画質の向上などを目的として、定着部材の弾性層の厚み方向の熱伝導性のさらなる向上が求められている。
特許文献1は、弾性層に含まれる熱伝導性フィラーを大粒径と小粒径のブレンドにすることで、弾性層の硬度上昇を抑えつつ、熱伝導性を高めた定着部材を開示している。また、特許文献2は、合成樹脂中に、マイクロ粒子サイズの熱伝導性無機球状マイクロフィラーを充填することにより形成した樹脂組成物において、該球状マイクロフィラーの一部を、板状、棒状、繊維状あるいは鱗片状形状のマイクロフィラーに置き換え充填すると共に、ナノ粒子サイズの熱伝導性無機ナノフィラーを充填し、かつ、電場を用いてフィラーを電界印加方向に配向させて形成した樹脂組成物を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-300591号公報
【文献】特開2013-159748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一態様は、厚み方向に高い熱伝導性を有し、かつ、低硬度な定着部材の製造方法の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、電子写真画像形成装置用の定着部材の製造方法であって、
該定着部材は、基体と、該基体上の弾性層と、を有し、
該弾性層は、シリコーンゴムと、該シリコーンゴム中に分散されたフィラーとを含み、
該定着部材の製造方法は、
(1)該フィラーと、付加硬化型の液状シリコーンゴムと、を含む組成物を用意する工程、
(2)基体上に該組成物の層を形成する工程、
(3)該基体上の該組成物の層の外表面を帯電させる工程、及び
(4)該工程(3)において外表面を帯電させた該組成物の層を硬化させて該弾性層を形成する工程、
を有し、
該弾性層は、該弾性層の厚み-周方向の第1断面の任意の5か所における150μm×100μmのサイズの第1の二値化像、及び、該弾性層の厚み-軸方向の第2断面の任意の5か所における150μm×100μmのサイズの第2の二値化像の各々における円相当径が5μm以上の大粒径フィラーが占める面積割合の平均値が20%以上、40%以下であり、該大粒径フィラーの平均配列度f
L
が、0.00以上、0.15以下であり、
該二値化像の各々における円相当径が5μm未満の小粒径フィラーが占める面積割合の平均値が10%以上、20%以下であり、
該小粒径フィラーの平均配列度f
S
が、0.20以上、0.50以下であり、
該小粒径フィラーの平均配列角度Φ
S
が、60°以上、120°以下である定着部材の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、厚み方向に高い熱伝導性を有し、かつ、低硬度な定着部材の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】特許文献2に係る技術による弾性層中のフィラーの配列状態の説明図である。
【
図2】本発明の2つの態様に係る定着部材の概略断面図である。 2A:定着ベルトの概略断面図。2B:定着ローラの概略断面図。
【
図4】ベルト形態の定着部材の弾性層の第1断面と第2断面を示す図である。
【
図5】弾性層中のフィラーの配列度及び配列角度の確認方法を示す模式図である。
【
図7】加熱ベルト-加圧ベルト方式の熱定着装置の一例の断面模式図である。
【
図8】加熱ベルト-加圧ローラ方式の熱定着装置の一例の断面模式図である。
【
図9】本発明の一態様に係る定着部材の弾性層中の熱伝導性フィラーの配列状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らの検討によれば、特許文献1に係る定着部材は、弾性層の厚み方向の熱伝導率を1.5W/(m・K)超とする場合には、シリコーンゴムに対するフィラー配合量を60体積%以上とする必要があった。そのため、特許文献1に係る発明によっては、硬度上昇を抑えつつ、より一層の高熱伝導化を達成した定着部材を得ることは困難であると考えられる。
【0011】
また、本発明者らは、特許文献2に係る樹脂組成物の、定着部材の弾性層への適用について検討した。その結果、外表面で測定される硬度が部分的に高い領域を有する定着部材が得られることがあった。特許文献2に係る樹脂組成物を適用した弾性層を備えた定着部材において、外表面で測定される硬度にバラつきが生じる理由を、本発明者らは以下のように推測した。すなわち、特許文献2においては、樹脂組成物を、2つの電極で挟み、当該電極間に交流電圧を印加することで、フィラーを電界印加方向に配列させている。このような方法によると、
図1に示すように、樹脂組成物中の熱伝導性無機ナノフィラー101と共に熱伝導性無機球状マイクロフィラー102が厚み方向に配列し、かつ、熱伝導性無機ナノフィラー101及び熱伝導性無機球状マイクロフィラー102の存在状態に粗密が生じる。このことにより、これらのフィラーが配列した部分においては硬度が高くなり、これらのフィラーの存在状態が疎な部分においては硬度が低くなる。このことにより、硬度ムラが生じると考えられる。
【0012】
本発明者らは、定着部材の弾性層の硬度上昇を抑えつつ、厚み方向の熱伝導性のより一層の向上を図るべく検討を重ねた。その結果、弾性層中の熱伝導性フィラーの配列状態を特定の状態に置くことにより、上記の目的をよく達成し得ることを見出した。
【0013】
本発明の一態様に係る定着部材は、基体と、該基体上の弾性層と、を有する電子写真画像形成装置用の定着部材であって、該弾性層は、ゴムと、該ゴム中に分散されたフィラーとを含み、該弾性層の厚み-周方向の第1断面の第1の二値化像、及び、該弾性層の厚み-軸方向の第2断面の第2の二値化像において、該フィラーのうちの、円相当径が5μm以上の大粒径フィラーが占める平均面積割合が20%以上、40%以下であり、該大粒径フィラーの平均配列度fLが、0.00以上、0.15以下であり、かつ、該フィラーのうちの、円相当径が5μm未満の小粒径フィラーが占める平均面積割合が10%以上、20%以下であり、該小粒径フィラーの平均配列度fSが、0.20以上、0.50以下であり、該小粒径フィラーの平均配列角度ΦSが、60°以上、120°以下である。
【0014】
図9に示すように、弾性層中の熱伝導性フィラーのうち、円相当径が、5μm以上の大粒径フィラー7は、弾性層の厚み方向への配列の程度がきわめて低い。一方、円相当径が、5μm未満の小粒径フィラー8は、弾性層の厚み方向に高度に配列している。これにより、厚み方向の熱伝導性を高めると共に、低硬度を両立することができる。なお、
図1及び
図9において、図の上下方向が弾性層の厚み方向である。
【0015】
弾性層中に配合される熱伝導性フィラーの量を増やすことなく、厚み方向の熱伝導性を高める方法として、力場や磁場、電場等の外場によってフィラーを配列させる技術がある。定着部材の弾性層に配合される熱伝導性フィラーに一般的に用いられるものとしては、アルミナやシリカ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の無機酸化物が多く、誘電分極を推進力とする電場による配列との親和性が高い。特許文献2において開示されている電場を用いてフィラーを配列させる技術は、平行平板電極間に、熱伝導性フィラーを分散させた硬化性液体を挟み込み、交流電場を数十分~数時間印加すると同時に、熱等で硬化させる。これにより、フィラーを誘電泳動させて、電極間方向にフィラーを配列させた硬化物を得ている。しかしながら、上記のような方法では配合された大きなフィラーが、
図1に示すように厚み方向に配列し、硬度上昇や硬度ムラを引き起こす場合がある。
【0016】
一方、本実施形態においては、大粒径フィラーの厚み方向への配列を抑えつつ、大粒径フィラー間に小粒径フィラーを高度に配列させて、大粒径フィラーの間を小粒径フィラー群で橋架けすることで熱伝導パスを形成し、高熱伝導化させている。そのため、硬度上昇を抑えつつ、より一層の高熱伝導化を達成することができる。
【0017】
該定着部材の弾性層は、例えば以下のような方法で製造することができる。基体上に熱伝導性フィラーと、バインダーの原料とを含む弾性層形成用の組成物の層(以降、「組成物層」ともいう)を形成する。該組成物層を加熱硬化する前に、該組成物層の外表面を帯電させる。これにより、該組成物層に含まれる熱伝導性フィラーのうちの、円相当径が5μm未満の小粒径フィラーが該組成物層の厚み方向に配列する。一方、該組成物層に含まれる熱伝導性フィラーのうちの、円相当径が5μm以上の大粒径フィラーは、殆ど配列しない。その後、該組成物層を加熱、硬化させることにより、本態様に係る弾性層が形成される。こうして得られる弾性層は、弾性層の硬度上昇を抑えつつ、弾性層の厚み方向の熱伝導率をより一層高めることができる。
【0018】
組成物層の外表面を帯電する方法としては、非接触方式が好ましく、簡便かつ安価に略一様な帯電が可能なコロナ帯電器がより好ましい。
【0019】
組成物層の外表面を帯電させた場合に、組成物層中の大粒径フィラーの配列が抑えられ、小粒径フィラーが高度に配列する理由を以下に述べる。すなわち、この方法においては、当該大粒径フィラーを誘電泳動させる十分な力が作用しないと考えられる。しかしながら、組成物層の表面を帯電させることにより、大粒径フィラーには誘電分極が生じており、大粒径フィラー間には局所的な電場が形成されていると考えられる。その結果、大粒径フィラー間に存在する小粒径フィラーは、局所的な電場により大粒径フィラー間で高度に配列し、大粒径フィラー同士を繋ぐ熱伝導パスを形成すると考えられる。
【0020】
本発明の一実施形態に係る定着部材及び熱定着装置について、以下に具体的な構成に基づき詳細に説明する。
【0021】
(1)定着部材の構成概略
本実施形態の定着部材の詳細について図面を用いて説明する。
本発明の一態様にかかる定着部材は、例えば、ローラ形状やエンドレスベルト形状の如き回転可能な部材(以降、各々、「定着ローラ」、「定着ベルト」ともいう)とすることができる。
図2Aは、定着ベルトの周方向の断面図であり、
図2Bは、定着ローラの周方向の断面図である。
図2A及び
図2Bに示すように、定着部材は、基体3と、基体3の外表面上の弾性層4と、該弾性層4の外表面上の表層(離型層)6とを有する。また、弾性層4と表層6との間に、接着層5を有することもでき、この場合、表層6は、弾性層4の外周面に接着層5により固定されている。
【0022】
(2)基体
基体の材質は特に限定されず、定着部材の分野で公知の材料を適宜用いることができる。基体を構成する材料としては、例えば、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅の如き金属やステンレス鋼の如き合金、ポリイミドの如き樹脂が挙げられる。
ここで、熱定着装置が、定着部材の加熱手段として、誘導加熱方式により、基体を加熱する熱定着装置である場合、基体は、ニッケル、銅、鉄、及び、アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属で構成される。中でも、特に、発熱効率の観点から、ニッケルや鉄を主成分とした合金が好適に用いられる。なお、主成分とは、対象物(ここでは基体)を構成する成分のうち、最も多く含まれる成分を意味する。
【0023】
基体の形状は、定着部材の形状に応じて適宜選択することができ、例えば、エンドレスベルト形状、中空円筒状、中実円柱状、フィルム状等、様々な形状とすることができる。
【0024】
定着ベルトの場合、基体の厚さは、例えば、15~80μmとすることが好ましい。基体の厚みを、上記の範囲内とすることで、強度及び可撓性を高いレベルで両立させ得る。また、基体の弾性層に対向する側とは反対側の表面上には、例えば、定着ベルトの内周面が他部材と接する場合における定着ベルトの内周面の摩耗を防ぐための層や、他部材との摺動性を向上させるための層を設けることもできる。
【0025】
基体の弾性層と対向する側の表面は、弾性層との接着性等の機能を付与するために表面処理を施してもよい。表面処理の例としては、例えば、ブラスト処理、ラップ処理、研磨の如き物理的処理や、酸化処理、カップリング剤処理、プライマー処理の如き化学的処理が挙げられる。また、物理的処理及び化学的処理を併用してもよい。
【0026】
特に、架橋シリコーンゴムをバインダーとして含む弾性層を用いる場合には、基体と弾性層の密着性向上のために、基体の外表面をプライマーで処理することが好ましい。プライマーとしては、例えば、有機溶剤中に添加剤を適宜配合し分散された塗料状態のものを用いることができる。このようなプライマーは市販されている。上記添加剤としては、例えば、シランカップリング剤、シリコーンポリマー、水素化メチルシロキサン、アルコキシシラン、加水分解・縮合・付加などの反応促進触媒、ベンガラ等の着色剤等を挙げることができる。このプライマーを基体の外表面に塗布し、乾燥や焼成のプロセスを経てプライマー処理が施される。
【0027】
プライマーは、例えば、基体の材質、弾性層の種類や架橋時の反応形態などによって適宜選択可能である。例えば、弾性層を構成する材料が不飽和脂肪族基を多く含む場合には、該不飽和脂肪族基との反応によって接着性を付与するため、プライマーとしてはヒドロシリル基を含有する材料が好んで用いられる。また、弾性層を構成する材料がヒドロシリル基を多く含む場合には、反対にプライマーとしては不飽和脂肪族基を含有する材料が好んで用いられる。そのほかにも、プライマーとしては、アルコキシ基を含有する材料など、被着体である基体及び弾性層の種類に応じて適宜選択可能である。
【0028】
(3)弾性層
弾性層は、熱定着装置において定着ニップを確保するために定着部材に柔軟性を付与するための層である。なお、定着部材を、紙上のトナーと接する加熱部材として用いる場合には、弾性層は、定着部材の表面が、紙の凹凸に追従し得るような柔軟性を付与するための層としても機能する。弾性層は、バインダーとしてのゴムと、該ゴム中に分散されたフィラーとを含む。より具体的には、弾性層は、バインダーと、熱伝導性フィラーとを含み、バインダーの原料(ベースポリマー、架橋剤等)と、フィラーとを少なくとも含む組成物を硬化させた硬化物から構成される。
【0029】
上述した弾性層の機能を発現させる観点から、弾性層は、熱伝導性フィラーを含むシリコーンゴム硬化物から構成されることが好ましく、付加硬化型のシリコーンゴム組成物の硬化物から構成されることがより好ましい。シリコーンゴム組成物は、例えば、熱伝導性フィラー、ベースポリマー、架橋剤及び触媒、並びに、必要に応じて、添加剤を含むことができる。シリコーンゴム組成物は液状のものが多いため、熱伝導性フィラーが分散しやすく、熱伝導性フィラーの種類や添加量に応じて、その架橋度を調整することで、作製する弾性層の弾性を調整し易いため好ましい。
【0030】
(3-1)バインダー
バインダーは、弾性層において弾性を発現する機能を担う。バインダーは、上記した弾性層の機能を発現させる観点から、シリコーンゴムを含むことが好ましい。シリコーンゴムは、非通紙部領域で240℃程度の高温になる環境においても柔軟性を保持できる高い耐熱性を有しており、好ましい。当該シリコーンゴムとしては、例えば、後述する付加硬化型の液状シリコーンゴムの硬化物(以降、「硬化シリコーンゴム」ともいう)を用いることができる。
【0031】
(3-1-1)付加硬化型の液状シリコーンゴム
付加硬化型の液状シリコーンゴムは、通常、下記成分(a)~(c)を含む:
成分(a):不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン;
成分(b):ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサン;
成分(c):触媒。
以下、各成分について説明する。
【0032】
(3-1-2)成分(a)
不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンは、ビニル基の如き不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンであり、例えば、下記構造式1及び構造式2に示すものが挙げられる。
【0033】
【0034】
構造式1中、m1は0以上の整数を示し、n1は3以上の整数を示す。また、構造式1中、R1は、各々独立して、不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基を表し、ただし、R1のうちの少なくとも1つはメチル基を表し、R2は、各々独立して、不飽和脂肪族基を表す。
【0035】
【0036】
構造式2中、n2は正の整数を示し、R3は、各々独立して、不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基を表し、ただし、R3のうちの少なくとも1つはメチル基を表し、R4は、各々独立して、不飽和脂肪族基を表す。
【0037】
構造式1及び構造式2において、R1及びR3が表すことのできる、不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基としては、例えば、以下の基を挙げることができる。
・非置換炭化水素基
アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等)。
アリール基(例えば、フェニル基等)。
・置換炭化水素基
アルキル基(例えば、クロロメチル基、3-クロロプロピル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、3-シアノプロピル基、3-メトキシプロピル基等の置換アルキル基)。
【0038】
構造式1及び構造式2で示されるオルガノポリシロキサンは、鎖構造を形成するケイ素原子に、直接結合したメチル基を少なくとも1つ有する。しかしながら、合成や取扱いが容易であることから、R1及びR3それぞれの50%以上がメチル基であることが好ましく、すべてのR1及びR3がメチル基であることがより好ましい。
【0039】
また、構造式1及び構造式2中の、R2及びR4が表すことのできる不飽和脂肪族基としては、例えば、以下の基を挙げることができる。すなわち、不飽和脂肪族基としては、ビニル基、アリル基、3-ブテニル基、4-ペンテニル基、5-ヘキセニル基等を挙げることができる。これらの基の中でも、合成や取扱いが容易かつ安価で、架橋反応も容易に行われることから、R2及びR4はいずれもビニル基であることが好ましい。
【0040】
成分(a)としては、成形性の観点から、粘度は100mm2/s以上、50000mm2/s以下であることが好ましい。粘度(動粘度)は、JIS Z 8803:2011に基づき、毛管粘度計や回転粘度計等を用いて測定することができる。
【0041】
成分(a)の配合量は、弾性層の形成に用いる液状シリコーンゴム組成物を基準として、耐圧性の観点から40体積%以上、伝熱性の観点から70体積%以下とすることが好ましい。
【0042】
(3-1-3)成分(b)
ケイ素に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンは、触媒の作用により、成分(a)の不飽和脂肪族基と反応し、硬化シリコーンゴムを形成する架橋剤として機能する。
成分(b)としては、Si-H結合を有するオルガノポリシロキサンであれば、いずれのものも用いることができる。特に、成分(a)の不飽和脂肪族基との反応性の観点から、1分子中における、ケイ素原子に結合した水素原子の数が平均3個以上のものが好適に用いられる。成分(b)の具体例としては、例えば、下記構造式3に示す直鎖状のオルガノポリシロキサン及び下記構造式4に示す環状オルガノポリシロキサンを挙げることができる。
【0043】
【0044】
構造式3中、m2は0以上の整数を示し、n3は3以上の整数を示し、R5は、各々独立して、不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基を表す。
【0045】
【0046】
構造式4中、m3は0以上の整数を示し、n4は3以上の整数を示し、R6は、各々独立して、不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基を表す。
【0047】
構造式3及び構造式4中のR5及びR6が表すことのできる不飽和脂肪族基を含まない1価の非置換又は置換炭化水素基としては、例えば、上述した構造式1中のR1と同様の基を挙げることができる。これらの中でも、合成や取扱いが容易で、優れた耐熱性が容易に得られることから、R5及びR6それぞれの50%以上がメチル基であることが好ましく、すべてのR5及びR6がメチル基であることがより好ましい。
【0048】
(3-1-4)成分(c)
バインダーの形成に用いる触媒としては、例えば、硬化反応を促進するためのヒドロシリル化触媒を挙げることができる。ヒドロシリル化触媒としては、例えば、白金化合物やロジウム化合物などの公知の物質を用いることができる。触媒の配合量は適宜設定することができ、特に限定されない。
【0049】
(3-2)熱伝導性フィラー
熱伝導性フィラーは、それ自体の熱伝導率、比熱容量、密度、粒径、比誘電率等を考慮して選択される。無機物、特に金属、金属化合物等の伝熱特性を向上させる目的で用いられる熱伝導性フィラーとしては、以下を挙げることができる。炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、シリカ、銅、アルミニウム、銀、鉄、ニッケル、金属ケイ素、炭素繊維。
【0050】
さらに、フィラー自体の熱伝導率と電気抵抗値、比誘電率の観点から、アルミナ、酸化亜鉛、金属ケイ素、炭化ケイ素、窒化ホウ素及び酸化マグネシウムからなる群より選択される少なくとも1種のフィラーであることがより好ましい。特に電気抵抗値と比誘電率の高い酸化マグネシウムがさらに好ましい。
【0051】
フィラーについては、シリコーンへの親和性や電気抵抗値の観点から、表面処理を行ってもよい。具体的には、アルミナやシリカ、酸化マグネシウム等のフィラー表面に水酸基等の活性基を有するものは、シランカップリング剤やヘキサメチルジシラザン等で表面処理される。金属フィラーは、酸化膜を形成することで表面処理を行う。
【0052】
さらに、電気抵抗値の調整はシリコーンゴム組成物全体で行ってもよい。比較的電気抵抗値が低いフィラーでも、電気抵抗値が高い第二のフィラーと併用することで、組成物全体の電気抵抗値を調整することもできる。
【0053】
フィラーの粒径は、0.1μm以上100μm以下が好ましく、0.3μm以上30μm以下がより好ましい。ここでいう粒径とは、体積平均粒径を指す。
【0054】
極力配列させない大粒径フィラーの粒径は5μm以上である。そして、弾性層の厚み方向と周方向(厚み-周方向)の断面の任意の5か所における150μm×100μmのサイズの二値化像、及び、厚み方向と軸方向(厚み-軸方向)の断面の任意の5か所における150μm×100μmのサイズの二値化像を得たと仮定したとき、計10個の二値化像の各々に占める該大粒径フィラーの面積割合(%)の平均値(以降、「大粒径フィラーの占める平均面積割合」ともいう)が20%以上、40%以下である。ここで、大粒径フィラーの面積割合は、[(二値化像における大粒径フィラーの面積の総和×100)/(二値化像の面積)]をいう。大粒径フィラーの占める平均面積割合が20%より小さい場合には、大粒径フィラー間距離が長くなり、電界を付与した時に十分大きな局所電場を発生させることができず、大粒径フィラー間に存在する小粒径フィラーを十分に配列させることが困難となる。また、大粒径フィラーの平均面積割合が40%より大きい場合には、弾性層を十分に低硬度化することが困難となる。
【0055】
配列させる小粒径フィラーの粒径は5μm未満である。そして、該二値化像の各々に占める該小粒径フィラーの面積割合の平均値(以降、「小粒径フィラーの占める平均面積割合」ともいう)が10%以上、20%以下である。ここで、小粒径フィラーの面積割合は、[(二値化像における小粒径フィラーの面積の総和×100)/(二値化像の面積)]をいう。小粒径フィラーの占める平均面積割合が10%より小さい場合には、小粒径フィラーを配列させて十分に高熱伝導化することが困難となる。また、小粒径フィラーの占める平均面積割合が20%より大きい場合には、材料の粘度が上昇し、弾性層の加工性や平滑性に問題が生じることがある。
【0056】
大粒径フィラーの占める平均面積割合と、小粒径フィラーの占める平均面積割合の和は、30%以上、60%以下、特には、30%以上、50%以下とすることが好ましい。大粒径フィラーの占める平均面積割合と、小粒径フィラーの占める平均面積割合の和は、弾性層における全フィラーが占める体積の割合と密接に関係している値である。大粒径フィラーの占める平均面積割合と、小粒径フィラーの占める平均面積割合の和を上記範囲内とすることで、弾性層の高熱伝導化と、高硬度化の抑制とをより良く両立し得る。
【0057】
(3-3)
弾性層中の硬化シリコーンゴムの組成は、赤外分光分析装置(FT-IR)(例えば、商品名:Frontier FT IR、PerkinElmer社製)を用いた全反射(ATR)測定を行うことにより確認可能である。シリコーンの主鎖構造であるケイ素-酸素結合(Si-O)は、伸縮振動に伴い波数1020cm-1付近に強い赤外吸収を示す。さらに、ケイ素原子に結合したメチル基(Si-CH3)は、その構造に起因する変角振動に伴い、波数1260cm-1付近に強い赤外吸収を示すことから、その存在を確認することが可能である。
【0058】
弾性層における硬化シリコーンゴム及びフィラーの含有量は、熱重量測定装置(TGA)(例えば、商品名:TGA851、Mettler-Toledo社製)を用いることにより確認可能である。弾性層を剃刀等で切り出し、20mg程度を正確に秤量して、装置で使用するアルミナパンに入れる。試料の入ったアルミナパンを装置にセットし、窒素雰囲気下、室温から800℃まで20℃毎分の昇温速度で加熱し、さらに800℃で1時間定温する。窒素雰囲気中では、昇温に伴い、硬化シリコーンゴム成分は酸化されずにクラッキングにより分解・除去されるため、試料の重量が減少する。こうして測定前後の重量を比較することにより、弾性層に含まれていた硬化シリコーンゴム成分の含有量、及びフィラーの含有量を確認することができる。
【0059】
(4)接着層
接着層は、弾性層と、表層とを接着させるための層である。接着層に用いる接着剤は、既知のものから適宜選択して使用することができ、特に限定されない。しかしながら、扱いやすさの観点から、自己接着成分が配合された付加硬化型シリコーンゴムを用いることが好ましい。この接着剤は、例えば、自己接着成分と、ビニル基に代表される不飽和脂肪族基を分子鎖中に複数有するオルガノポリシロキサンと、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンと、架橋触媒としての白金化合物とを含有することができる。弾性層表面に付与された該接着剤を付加反応により硬化することによって、表層を弾性層に接着させる接着層を形成することができる。
【0060】
なお、上記自己接着成分としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
・ビニル基等のアルケニル基、(メタ)アクリロキシ基、ヒドロシリル基(SiH基)、エポキシ基、アルコキシシリル基、及びカルボニル基からなる群より選択される少なくとも1種、好ましくは2種以上の官能基を有するシラン。
・ケイ素原子数が2個以上30個以下、好ましくは4個以上20個以下の、環状又は直鎖状のシロキサン等の有機ケイ素化合物。
・分子中に酸素原子を含んでもよい、非ケイ素系(即ち、分子中にケイ素原子を含有しない)有機化合物。ただし、1価以上4価以下、好ましくは2価以上4価以下のフェニレン構造等の芳香環を1分子中に1個以上4個以下、好ましくは1個以上2個以下含有する。かつ、ヒドロシリル化付加反応に寄与し得る官能基(例えば、アルケニル基、(メタ)アクリロキシ基)を1分子中に少なくとも1個、好ましくは2個以上4個以下含有する。
【0061】
上記の自己接着成分は1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、接着剤中には、粘度調整や耐熱性確保の観点から、本発明の趣旨に沿う範囲内においてフィラー成分を添加することができる。当該フィラー成分としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
・シリカ、アルミナ、酸化鉄、酸化セリウム、水酸化セリウム、カーボンブラック等。
【0062】
接着剤に含有される各成分の配合量は特に限定されず、適宜、設定することができる。このような付加硬化型シリコーンゴム接着剤は市販もされており、容易に入手することができる。接着層の厚みは20μm以下であることが好ましい。接着層の厚みを20μm以下とすることで、本態様に係る定着ベルトを加熱ベルトとして熱定着装置に用いた際に、熱抵抗を容易に小さく設定でき、内面側からの熱を効率的に記録媒体に伝え易い。
【0063】
(5)表層
オプションとしての表層は、定着部材の外表面へのトナーの付着を防止する離型層としての機能を発現させるうえで、フッ素樹脂を含有させることが好ましい。表層の形成には、例えば、以下に例示する樹脂をチューブ状に成形したものを用いることができる。
・テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等。
上記例示した樹脂材料中、成形性やトナー離型性の観点から、PFAが特に好適に用いられる。
【0064】
表層の厚みは、10μm以上50μm以下とすることが好ましい。表層の厚みをこの範囲内とすることで、定着部材の適度な表面硬度を維持し易い。
【0065】
(6)定着部材の製造方法
本態様に係る定着部材は、例えば、以下の工程を含む製造方法によって製造することができる。
(i)フィラーとバインダーの原料とを少なくとも含む組成物を用いて、基体上に弾性層を形成する工程(弾性層形成工程)。
また、上記製造方法は以下の工程を含むことができる。
(ii)基体を用意する工程。
(iii)弾性層上に接着層を形成する工程。
(iv)弾性層上に表層を形成する工程。
【0066】
上記工程(i)は、以下の工程を有することができる。
(i-1)フィラーと、バインダーの原料とを含む、弾性層用の組成物を調製する工程(弾性層用の組成物の調製工程)。
(i-2)基体上に該組成物を含む層を形成する工程(組成物層の形成工程)。
(i-3)該組成物層中の熱伝導性フィラーを所定の配列状態とする工程(熱伝導性フィラーの配列工程)。
(i-4)熱伝導性フィラーを所定の配列状態とした組成物層を硬化させて、弾性層を形成する工程(硬化工程)。
なお、上記工程(i-2)~(i-4)は、順次行ってもよいし、並行して行ってもよい。以下に、各工程を詳しく説明する。
【0067】
(ii)基体を用意する工程
まず、上述した材質で構成される基体を用意する。基体の形状は上述したように適宜設定でき、例えば、エンドレスベルト形状とすることができる。この基体の内面には、断熱性等の種々の機能を定着ベルトに付与するための層を適宜形成することができ、基体の外表面にも接着性等の種々の機能を定着部材に付与するために、表面処理を施すことができる。
【0068】
(i)弾性層形成工程
(i-1)弾性層用の組成物の調製工程
まず、フィラー、並びに、バインダーの原料(例えば、ベースポリマー、架橋剤及び触媒)を含む、弾性層用の組成物を調製する。
【0069】
(i-2)組成物層の形成工程
該組成物を、金型成形法、ブレードコート法、ノズルコート法、リングコート法の如き方法で、基体上に適用し、該組成物の層を形成する。
【0070】
(i-3)熱伝導性フィラーの配列工程
工程(i-2)で形成した組成物層中の熱導電性フィラーを厚み方向に配列させる一実施形態として、コロナ帯電器を用いる方法を説明する。なお、コロナ帯電方式には、コロナワイヤーと被帯電体の間にグリッド電極を持つスコロトロン方式と、グリッド電極を持たないコロトロン方式があるが、被帯電体の表面電位の制御性の観点から、スコロトロン方式が好ましい。
【0071】
コロナ帯電器2は、
図3A及び
図3Bに示すように、ブロック201及び202、シールド203及び204、並びに、グリッド206を備える。また、ブロック201とブロック202の間に放電ワイヤ205が張架されている。不図示の高圧電源により、放電ワイヤ205に高電圧を印加して、シールド203及び204への放電によって得られるイオン流を、グリッド206に高電圧を印加することによって制御して、組成物層の表面を帯電させる。この時、基体3もしくは基体3を保持する中子1が接地されているため(不図示)、組成物層の表面の表面電位を制御することで、組成物層に所望の電場を発生させることが可能となる。
【0072】
コロナ帯電器2を、
図3Aに示すように、組成物層401の幅方向に沿って近接して対向させて配置する。そして、コロナ帯電器2のグリッド206に電圧を印加し、放電させた状態で、中子1を回転させて、外周面に組成物層401を有する基体3を、例えば100rpmで20秒間回転させることによって、組成物層401の外表面を帯電させる。組成物層401の外表面とグリッド206との距離は1mm~10mmとすることができる。このようにして組成物層の表面を帯電させて、組成物層内に電場を生じさせる。その結果、円相当径が5μm未満の小粒径フィラーを、組成物層の厚さ方向に配列させることができる。一方、円相当径が5μm以上の大粒径フィラーは、組成物層中における位置は殆ど変化せず、分極し、大粒径フィラー間で局所的な電場を生じさせる。かかる電場によって、大粒径フィラー間に位置する小粒径フィラーを配列させることができる。
【0073】
グリッド206に印加する電圧は、熱伝導性フィラーに有効な静電的相互作用を発生させる観点から、絶対値として0.3kV~3kV、特には、0.6kV~2kVの範囲が好ましい。印加する電圧の符号はワイヤに印加する電圧の符号と等しくすれば、マイナスでもプラスでも電界の方向は逆になるものの、得られる効果は同じである。
【0074】
なお、組成物中の小粒径フィラーの配列のし易さは、例えば、組成物中のバインダー原料と熱伝導性フィラーの誘電率に依存すると考えられる。例えば、組成物中のバインダー原料の誘電率と熱伝導性フィラーの誘電率との差が大きい場合、比較的小さな印加電圧で小粒径フィラーを配列させることができる。したがって、グリッドへの印加電圧は、組成物中のバインダー原料に用いる材料と、熱伝導性フィラー種との組み合わせに応じて、適宜調整することが好ましい。
【0075】
組成物層の表面の長手方向における電位制御の範囲としては、定着部材の通紙域以上であることが好ましい。例えば、
図3Aに示される構成を用いることができ、グリッド206に電圧を印加している間は、組成物層401を有する基体の中心軸を回転軸として回転させながら行うことで組成物層の全体を帯電させることが可能である。なお、定着ベルトの回転数としては10rpm~500rpm、処理時間としては小粒径フィラーの配列を安定的に形成させる観点から5秒以上の処理時間を設けることが好ましい。以上より、表面電位と電場を付与する時間を制御することで、小粒径フィラーの配列の形成を制御することができる。
【0076】
放電ワイヤ205には、ステンレススチール、ニッケル、モリブデン、タングステンなどの材質を適宜用いることができるが、金属の中で非常に安定性の高いタングステンを用いることが好ましい。なお、シールド203及び204の内側に張架される放電ワイヤ205の形状は特に限定されず、例えば、ノコギリ歯のような形状のものや、放電ワイヤを垂直に切断した際の断面形状が円形のもの(円断面形状)を用いることができる。放電ワイヤ205の(ワイヤに対して垂直に切断した際の切断面における)直径は、40μm以上、100μm以下とすることが好ましい。放電ワイヤ205の直径が40μm以上であれば、放電によるイオンの衝突による放電ワイヤの切断や断裂を容易に防ぐことができる。また、放電ワイヤ205の直径が100μm以下であれば、安定したコロナ放電を得る際に、放電ワイヤ205に対して適度な印加電圧をかけることができ、オゾンの発生を容易に防ぐことができる。
【0077】
図3Bに示すように、平板状のグリッド206は、放電ワイヤ205と、基体3上に配される組成物層401との間に配置することができる。ここで、組成物層401表面の帯電電位を均一にする観点から、組成物層401表面と、グリッド206との間の距離は、1mm以上10mm以下の範囲とすることが好ましい。
【0078】
(i-4)硬化工程
組成物層を加熱等により硬化させて、組成物層内の熱伝導性フィラーの位置が固定された弾性層を形成する。
【0079】
(iii)弾性層上に接着層を形成する工程
(iv)弾性層上に表層を形成する工程
図6は、シリコーンゴムを含む弾性層4上に、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を用いて形成した接着層5を介して表層6を積層する工程の一例を示す模式図である。まず、基体3の外周面に形成された弾性層4の表面に、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を塗布する。さらにその外表面に、表層6を形成するためのフッ素樹脂チューブを被覆し、積層させる。なお、フッ素樹脂チューブの内面は、予め、ナトリウム処理やエキシマレーザ処理、アンモニア処理等を施すことで、接着性を向上させることができる。
【0080】
フッ素樹脂チューブの被覆方法は特に限定されないが、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を潤滑材として被覆する方法や、フッ素樹脂チューブを外側から拡張し、被覆する方法などを用いることができる。また、不図示の手段を用いて、弾性層4とフッ素樹脂からなる表層6との間に残った、余剰の付加硬化型シリコーンゴム接着剤を、扱き出すことで除去することもできる。扱き出した後の接着層5の厚みは、伝熱性の観点から20μm以下とすることが好ましい。
【0081】
次に、電気炉などの加熱手段にて所定の時間加熱して、付加硬化型シリコーンゴム接着剤を硬化・接着させることにより、弾性層4上に、接着層5及び表層6を形成することができる。なお、加熱時間や加熱温度等の条件については、用いた接着剤等に応じて適宜設定することができる。得られた部材の幅方向の両端部を所望の長さに切断することで、定着部材を得ることができる。
【0082】
<弾性層中の熱伝導性フィラーの配列状態の確認>
熱伝導性フィラーの配列状態は、弾性層の断面画像から得られる二値化像を用いて、二次元フーリエ変換を行うことで確認できる。
【0083】
まず、測定用サンプルを作製する。例えば、定着部材が、
図4Aに示すような定着ベルト400である場合、
図4Bに示すように、例えば、縦5mm、横5mm、厚みが定着ベルトの全厚みである試料401を、定着ベルトの任意の10箇所から10個採取する。得られた10個の試料のうち、5個の試料については、定着ベルトの周方向の断面、すなわち、弾性層の厚み-周方向の第一断面401-1を含む断面を、イオンビームを用いて研磨加工する。また、残りの5個の試料については、定着ベルトの周方向に直交する方向の断面、すなわち、弾性層の厚み-軸方向の第2断面401-2を含む断面を、イオンビームを用いて研磨加工する。イオンビームによる断面の研磨加工には、例えば、クロスセクションポリッシャを用いることができる。イオンビームによる断面の研磨加工では、試料からのフィラーの脱落や研磨剤の混入を防ぐことができ、また、研磨痕の少ない断面を形成することができる。
【0084】
続いて、弾性層の第1断面が研磨加工された5個の試料、及び、弾性層の第2断面が研磨加工された5個の試料について、弾性層の第1断面及び弾性層の第2断面をレーザー顕微鏡や走査型電子顕微鏡観察(SEM)等で観察し、150μm×100μm領域の断面画像を取得する(
図5A)。
【0085】
次に、得られた画像を市販の画像ソフトにより、フィラー部分を白く、シリコーンゴム部分を黒くなるように、白黒二値化処理を行う(
図5B)。二値化の手法としては、例えば大津法を用いることができる。
【0086】
次に、得られた二値化像の各フィラー7、8について、円相当径を算出し、円相当径が5μm以上の大粒径フィラー7のみを残した画像(
図5C)と円相当径が5μm未満の小粒径フィラー8のみを残した画像(
図5D)に分割する。そして、各々の画像から大粒径フィラー7と小粒径フィラー8の面積割合(画像の全面積に対して各フィラー7、8の総面積が占める割合)を算出する。なお、各フィラーの円相当径とは、当該フィラーの面積と同じ面積を有する円の直径をいう。
【0087】
さらに、この大粒径フィラー画像、小粒径フィラー画像に対して二次元フーリエ変換解析を行うことで、フィラー配列の方向と程度を表す楕円プロット図が得られる(それぞれ
図5E、
図5F)。二次元フーリエ変換自体は、二値化像の周期性に対して直交方向にピークを持つため、楕円プロット図は、二次元フーリエ変換の結果を90°位相をずらした結果となっている。この楕円プロット図の楕円長半径が成す角度から配列角度Φが、長半径をx、短半径をyとした時のf=1-(y/x)と定義するフィラー配列度fが、それぞれ求められる。
【0088】
配列角度Φがフィラーの配列方向を表し、
図5E、
図5Fで90°―270°方向が弾性層の厚み方向を示し、0°―180°方向が弾性層の周方向又は軸方向を示す。したがって、配列角度Φが90°に近い程、厚み方向にフィラーが配列していることを示す。
【0089】
また、配列度fは楕円の扁平率を表し、0以上1未満の値となる。fが0の時に円となり、配列をしていない完全ランダムな状態を表し、fが1に近づくにつれ、楕円の扁平が大きくなり、フィラーの配列度も大きいということになる。
【0090】
フィラーの面積割合、配列角度Φ、配列度fは、弾性層の厚み-周方向の第1断面と、厚み-軸方向の第2断面の各々で5箇所、計10箇所の数値の平均値で算出する。なお、フィラーの面積割合は、フィラーの体積配合割合と同義である。そのため、大粒径フィラー原料と小粒径フィラー原料の粒径分布がわかっていれば、その配合により大粒径フィラーと小粒径フィラーの体積配合割合(面積割合)を調整できる。しかし、厳密な粒径分布が分からない場合には、最終的に画像処理で面積割合を決定する。
【0091】
本実施形態において、フィラーの粒径(円相当径)が5μm以上の大粒径フィラーの平均面積割合は20%以上、40%以下である。大粒径フィラーの平均面積割合が20%より小さい場合には、大粒径フィラー同士の粒子間距離が長くなり、局所的な電場を十分に発生させることができない。そのため、大粒径フィラー間に存在する小粒径フィラーを十分に配列させることができず、高熱伝導性を達成することが困難となる。また、大粒径フィラーの平均面積割合が40%より大きい場合には、弾性層を十分に低硬度化することが困難となる。
【0092】
大粒径フィラーの平均配列度をfLとした場合、fLは、0.00以上、0.15以下である。fLが0.15以下であることにより、弾性層の低硬度化を達成することができる。
大粒径フィラーの平均配列角度をΦLとした場合、ΦLは、0°以上、180°以下のどの値でも構わない。
【0093】
フィラーの粒径が5μm未満の小粒径フィラーの平均面積割合は10%以上、20%以下である。小粒径フィラーの平均面積割合が10%以上である場合には、十分な高熱伝導性を達成することができる。また、小粒径フィラーの平均面積割合が20%以下である場合には、材料の粘度の上昇に起因する加工性や平滑性の問題が生じることを防ぐことができる。
【0094】
小粒径フィラーの平均配列度をfSとした場合、fSは、0.20以上、0.50以下である。fSがこの範囲にあることで、厚み方向の熱伝導性を高めることができる。小粒径フィラーの平均配列角度をΦSとした場合、ΦSは、60°以上、120°以下である。ΦSが90°となる方向が弾性層の厚み方向になるため、ΦSが90°に近いほど、厚み方向に配列していることになる。そのため、ΦSが上記範囲であることにより、厚み方向の熱伝導性を高めることができる。
【0095】
弾性層の厚み方向の熱伝導率λは、以下の式から算出することができる。
λ=α×Cp×ρ
ここで、λは弾性層の厚み方向の熱伝導率(W/(m・K))、αは厚み方向の熱拡散率(m2/s)、Cpは定圧比熱(J/(kg・K))、ρは密度(kg/m3)である。なお、各パラメータの測定方法は実施例において詳述する。
【0096】
また、弾性層の柔軟性を評価する基準として、硬度又は引張弾性率がある。硬度は、例えばJIS K7312に基づいて測定、あるいはマイクロゴム硬度計(MD-1TYPE-C硬度計、アスカー社製)を用いて測定することができる。引張弾性率は、弾性層から打ち抜き型(JIS K6251:2004にて規定されるダンベル状8号型)により試料片を切り出し、測定箇所の厚みを測定する。次に、切り出した試料片を、例えば引張試験機(装置名:ストログラフEII-L1、東洋精機製作所製)を用いて、室温で引張り速度200mm/minで測定することができる。なお、引張弾性率は、測定結果から横軸に試料片の歪み、縦軸に引張り応力をとったグラフを作成し、歪みが0~10%の範囲において測定データを線形近似したときの傾きとする。
【0097】
弾性層の厚み方向の熱伝導率を1.30W/(m・K)以上とすることで良好な定着を行うことができる。さらに、熱伝導率が1.50W/(m・K)以上であれば、より良好な定着を行うことができる。
【0098】
(7)熱定着装置
本実施形態に係る熱定着装置は、一対の加熱されたローラとローラ、ベルトとローラ、ベルトとベルト、といった回転体が互いに圧接されるように構成されている。熱定着装置の種類は、熱定着装置が搭載される電子写真画像形成装置全体としてのプロセス速度、大きさ等の条件を勘案して適宜選択される。
【0099】
熱定着装置においては、加熱された定着部材と加圧部材を圧接することで定着ニップNを形成し、この定着ニップNに、未定着トナーによって画像が形成された、被加熱体となる記録媒体Sを挟持搬送させる。未定着トナーによって形成された画像をトナー像tと称する。これにより、トナー像tを加熱、加圧する。その結果、トナー像tは溶融・混色され、その後、冷却されることによって記録媒体上に画像が定着される。
以下、熱定着装置の具体例を挙げて、その構成を説明するが、本発明の範囲及び用途はこれに限定されるものではない。
【0100】
(7-1)加熱ベルト-加圧ベルト方式の熱定着装置
図7は、一対の加熱ベルト11と加圧ベルト12といった回転体が圧接されている、いわゆるツインベルト方式の熱定着装置であり、加熱部材として加熱ベルトを備えた熱定着装置の一例の断面模式図である。ここで、熱定着装置又はこれを構成している部材について、幅方向とは、
図7の紙面に垂直の方向である。熱定着装置について、正面とは、記録媒体Sの導入側の面である。左右とは、装置を正面から見て左又は右である。ベルトの幅とは、装置を正面から見たときの左右方向のベルト寸法である。記録媒体Sの幅とは、搬送方向に直交する方向の記録媒体寸法である。さらに、上流又は下流とは、記録媒体の搬送方向に関して上流又は下流である。
【0101】
この熱定着装置は、定着部材としての加熱ベルト11と、加圧ベルト12とを備えている。加熱ベルト11と加圧ベルト12は、
図2Aに示すようなニッケルを主成分とした金属製の可撓性を有する基体を含む加熱ベルトを2つのローラに張架したものである。
【0102】
加熱ベルト11の加熱手段として、エネルギー効率の高い電磁誘導加熱により加熱可能な加熱源(誘導加熱部材、励磁コイル)を採用している。誘導加熱部材13は、誘導コイル13aと、励磁コア13bと、それらを保持するコイルホルダー13cと、から構成される。誘導コイル13aは、長円状に扁平巻きされたリッツ線を用い、誘導コイルの中心と両脇に突起した横E型の励磁コア13bの中に配置されている。励磁コア13bは、フェライト、パーマロイといった高透磁率で残留磁速密度の低いものを用いるので、誘導コイル13aや励磁コア13bでの損失を抑えられ、効率的に加熱ベルト11を加熱することができる。
【0103】
励磁回路14から誘導加熱部材13の誘導コイル13aに高周波電流が流されると、加熱ベルト11の基体が誘導発熱して基体側から加熱ベルト11が加熱される。加熱ベルト11の表面温度がサーミスタ等の温度検知素子15により検知される。この温度検知素子15で検知される加熱ベルト11の温度に関する信号が制御回路部16に送られる。制御回路部16は、温度検知素子15から受信した温度情報が所定の定着温度に維持されるように、励磁回路14から誘導コイル13aに対する供給電力を制御して、加熱ベルト11の温度を所定の定着温度に調節する。
【0104】
加熱ベルト11は、ベルト回転部材としてのローラ17及び加熱側ローラ18によって張架されている。ローラ17と加熱側ローラ18は、それぞれ装置の不図示の左右の側板間に回転自由に軸受されて支持されている。
【0105】
ローラ17は、例えば、外径が20mmで、内径が18mmである厚さ1mmの鉄製の中空ローラであり、加熱ベルト11に張りを与えるテンションローラとして機能している。加熱側ローラ18は、例えば、外径が20mmで、径が18mmである鉄合金製の芯金に、弾性層としてのシリコーンゴム層が設けられた高摺動性の弾性ローラである。
【0106】
この加熱側ローラ18は、駆動ローラとして駆動源(モータ)Mから不図示の駆動ギア列を介して駆動力が入力されて、矢印の時計方向に所定の速度で回転駆動される。この加熱側ローラ18に上記のように弾性層を設けることで、加熱側ローラ18に入力された駆動力を加熱ベルト11へ良好に伝達することができるとともに、加熱ベルト11からの記録媒体の分離性を確保するための定着ニップを形成できる。加熱側ローラ18が弾性層を有することによって、加熱側ローラへの熱伝導も少なくなるためウォームアップタイムの短縮にも効果がある。
【0107】
加熱ベルト11は、加熱側ローラ18が回転駆動されると、加熱側ローラ18のシリコーンゴム表面と加熱ベルト11の内面との摩擦によってローラ17と共に回転する。ローラ17及び加熱側ローラ18の配置や大きさは、加熱ベルト11の大きさに合わせて選択される。例えば上記ローラ17及び加熱側ローラ18の寸法は、未装着時の内径が55mmの加熱ベルト11を張架できるように選択されたものである。
【0108】
加圧ベルト12は、ベルト回転部材としてのテンションローラ19と加圧側ローラ20によって張架されている。加圧ベルトの未装着時の内径は、例えば55mmである。テンションローラ19と加圧側ローラ20は、それぞれ装置の不図示の左右の側板間に回転自由に軸受させて支持させている。
【0109】
テンションローラ19は、例えば、外径が20mmで、径が16mmである鉄合金製の芯金に、熱伝導率を小さくして加圧ベルト12からの熱伝導を少なくするためにシリコーンスポンジ層を設けてある。加圧側ローラ20は、例えば、外径が20mmで、内径が16mmである厚さ2mmの鉄合金製とされた低摺動性の剛性ローラである。テンションローラ19、加圧側ローラ20の寸法も同様に、加圧ベルト12の寸法に合わせて選択されたものである。
【0110】
ここで、加熱ベルト11と加圧ベルト12との間にニップ部Nを形成するために、加圧側ローラ20は、回転軸の左右両端側が不図示の加圧機構により、矢印Fの方向に所定の加圧力にて加熱側ローラ18に向けて加圧されている。
【0111】
また、装置を大型化することなく幅広いニップ部Nを得るために、加圧パッドを採用している。すなわち、加熱ベルト11を加圧ベルト12に向けて加圧する第1の加圧パッドとしての定着パッド21と、加圧ベルト12を加熱ベルト11に向けて加圧する第2の加圧パッドとしての加圧パッド22である。定着パッド21及び加圧パッド22は、装置の不図示の左右の側板間に支持されて配設している。加圧パッド22は、不図示の加圧機構により、矢印Gの方向に所定の加圧力にて定着パッド21に向けて加圧されている。第1の加圧パッドである定着パッド21は、パッド基体とベルトに接する摺動シート(低摩擦シート)23を有する。第2の加圧パッドである加圧パッド22も、パッド基体とベルトに接する摺動シート24を有する。これは、パッドのベルト内周面と摺擦する部分の削れが大きくなるという問題があるためである。ベルトとパッド基体の間に、摺動シート23と24を介在させることで、パッドの削れを防止し、摺動抵抗も低減できるので、良好なベルト走行性、ベルト耐久性を確保できる。
【0112】
なお、加熱ベルトには非接触の除電ブラシ(不図示)、加圧ベルトには接触の除電ブラシ(不図示)を各々設けている。
【0113】
制御回路部16は、少なくとも画像形成実行時にはモータMを駆動する。これにより加熱側ローラ18が回転駆動され、加熱ベルト11が同じ方向に回転駆動される。加圧ベルト12は、加熱ベルト11に従動して回転する。ここで、定着ニップ最下流の部分をローラ対18、20により加熱ベルト11と加圧ベルト12を挟んで搬送する構成とすることで、ベルトのスリップを防止することができる。定着ニップ最下流の部分は、定着ニップでの圧分布(記録媒体搬送方向)が最大となる部分である。
【0114】
加熱ベルト11が所定の定着温度に立ち上がって維持(温調という)された状態において、加熱ベルト11と加圧ベルト12間のニップ部Nに、未定着トナー画像tを有する記録媒体Sが搬送される。記録媒体Sは、未定着トナー画像tを担持した面を、加熱ベルト11側に向けて導入される。そして、記録媒体Sの未定着トナー画像tが加熱ベルト11の外周面に密着したまま挟持搬送されていくことにより、加熱ベルト11から熱が付与され、また、加圧力を受けて記録媒体Sの表面に定着される。この際、加熱ベルト11の加熱された基体からの熱は、厚み方向の熱伝導性を高めた弾性層を通じて記録媒体Sに向けて効率よく輸送される。その後、記録媒体Sは、分離部材25によって、加熱ベルトと分離して搬送される。
【0115】
(7-2)加熱ベルト-加圧ローラ方式の熱定着装置
図8は、加熱体としてセラミックヒータを用いた加熱ベルト-加圧ローラ方式の熱定着装置の例を示す模式図である。
図8において、11は、円筒状もしくはエンドレスベルト形状の加熱ベルトであり、本実施形態に係る定着部材を用いることができる。この加熱ベルト11を保持するための耐熱性・断熱性のベルトガイド30があり、その加熱ベルト11と接触する位置(ベルトガイド30の下面のほぼ中央部)に加熱ベルト11を加熱するセラミックヒータ31が、ガイド長手に沿って形成具備させた溝部に嵌入して固定支持させている。そして、加熱ベルト11は、ベルトガイド30にルーズに外嵌されている。また、加圧用剛性ステイ32は、ベルトガイド30の内側に挿通してある。
【0116】
一方、加熱ベルト11に対向するように加圧ローラ33が配設されている。なお加圧ローラ33は、本例では弾性加圧ローラ、すなわち、芯金33aにシリコーンゴムの弾性層33bを設けて硬度を下げたものであり、芯金33aの両端部を装置の不図示の手前側と奥側のシャーシ側板との間に回転自由に軸受け保持させて配設されている。なお、弾性加圧ローラには、表面性を向上させるために、PFA(テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルエーテル共重合体)チューブを被覆している。
【0117】
加圧用剛性ステイ32の両端部と装置シャーシ側のバネ受け部材(不図示)との間にそれぞれ加圧バネ(不図示)を縮設することで、加圧用剛性ステイ32に押し下げ力を作用させている。これにより、耐熱樹脂製のベルトガイド30の下面に配設したセラミックヒータ31の下面と加圧ローラ33の上面とが、加熱ベルト11を挟んで圧接して定着ニップ部Nが形成される。
【0118】
加圧ローラ33は、不図示の駆動手段により矢印のように反時計方向に回転駆動される。この加圧ローラ33の回転駆動による、加圧ローラ33と加熱ベルト11の外表面との摩擦力で、加熱ベルト11に回転力が作用して、加熱ベルト11は、その内表面が定着ニップ部Nにおいてセラミックヒータ31の下面に密着して摺動しながら、矢印のように時計方向に加圧ローラ33の回転周速度にほぼ対応した周速度で、ベルトガイド30の外回りに回転する(加圧ローラ駆動方式)。
【0119】
プリントスタート信号に基づいて加圧ローラ33の回転が開始され、また、セラミックヒータ31のヒートアップが開始される。加圧ローラ33の回転による加熱ベルト11の回転周速度が定常化し、セラミックヒータの上面に設けた温度検知素子34の温度が所定温度、例えば180℃に立ち上がった瞬間に、定着ニップ部Nの加熱ベルト11と加圧ローラ33との間に被加熱材としての未定着トナー画像tを担持した記録媒体Sがトナー像担持面側を加熱ベルト11側にして導入される。そして、記録媒体Sは、定着ニップ部Nにおいて加熱ベルト11を介してセラミックヒータ31の下面に密着し、加熱ベルト11と一緒に定着ニップ部Nを移動通過していく。その移動通過過程において、加熱ベルト11の熱が記録媒体Sに付与され、トナー画像tが記録媒体S面に加熱定着される。定着ニップ部Nを通過した記録媒体Sは、加熱ベルト11の外表面から分離して搬送される。
【0120】
加熱体としてのセラミックヒータ31は、加熱ベルト11及び記録媒体Sの移動方向に直交する方向を長手とする低熱容量の横長の線状加熱体である。セラミックヒータ31は、ヒータ基板31aと、該ヒータ基板31aの表面に、その長手に沿って設けた発熱層31bと、さらにその上に設けた保護層31cと、摺動部材31dと、を基本構成とするものが好ましい。ここで、ヒータ基板31aは、チッ化アルミニウム等により構成することができる。発熱層31bは、例えばAg/Pd(銀/パラジウム)等の電気抵抗材料を、約10μm、幅1~5mmにスクリーン印刷等により塗工することで形成することができる。保護層31cは、ガラスやフッ素樹脂等で構成することができる。なお、熱定着装置に用いるセラミックヒータは、このようなものに限定されるわけではない。
【0121】
そして、セラミックヒータ31の発熱層31bの両端間に通電されることで、発熱層31bが発熱し、ヒータ31が急速に昇温する。セラミックヒータ31は、ベルトガイド30の下面のほぼ中央部にガイド長手に沿って形成具備させた溝部に、保護層31c側を上向きに嵌入して固定支持させてある。加熱ベルト11と接触する定着ニップ部Nには、セラミックヒータ31の摺動部材31dの面と加熱ベルト11の内表面が相互接触摺動する。
【0122】
以上のように、加熱ベルト11は、シリコーンゴムを含む弾性層の厚み方向の熱伝導率を高めるとともに硬度も低く抑えている。このような構成により、加熱ベルト11は、未定着トナー像を効率的に加熱でき、かつ低硬度であるため、定着ニップ時において記録媒体Sに高画質な画像を定着させることができる。
【0123】
以上のように、本発明の一態様によれば、定着部材が配置された熱定着装置が提供される。したがって、定着性能と画質に優れた定着部材を配置した熱定着装置を提供することができる。
【実施例】
【0124】
以下に、実施例を用いて本発明をより詳細に説明する。
【0125】
[硬度ムラ比較試験]
平行平板電極で作製した弾性層サンプルと、本発明の実施例である、コロナ帯電器で作製した弾性層サンプルとで硬度ムラ比較を行った。
【0126】
(1)液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製
まず、成分(a)として、分子鎖両末端にのみ不飽和脂肪族基であるビニル基を有し、その他不飽和脂肪族基を含まない非置換炭化水素基としてメチル基を有するシリコーンポリマー(商品名:DMS-V35、Gelest社製、粘度5000mm2/s、以降、「Vi」と称する。)を98.6質量部準備した。なお、該シリコーンポリマーは、前記構造式2において、R3がいずれもメチル基であり、R4がいずれもビニル基であるポリマーである。
【0127】
次いで、このViに、熱伝導性フィラーAとして、酸化マグネシウム(商品名:SL-WR、神島化学工業社製、平均粒径10μm)をシリコーン成分に対して37体積%となるように、253質量部添加した。さらに熱伝導性フィラーBとして、酸化マグネシウム(商品名:PSF-WR、神島化学工業社製、平均粒子径1μm)をシリコーン成分に対して3体積%となるように、19質量部添加し、十分に混合して混合物1を得た。
【0128】
次いで、硬化遅延剤である1-エチニル-1-シクロヘキサノール(東京化成工業社製)0.2質量部を同重量のトルエンに溶解したものを、混合物1中に添加して混合物2を得た。
次いで、成分(c)としてヒドロシリル化触媒(白金触媒:1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン白金錯体、1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン、及び2-プロパノールの混合物)0.1質量部を、混合物2中に添加して混合物3を得た。
さらに、成分(b)として、シロキサン骨格が直鎖状で、ケイ素に結合した活性水素基を側鎖にのみ有するシリコーンポリマー(商品名:HMS-301、Gelest社製、粘度30mm2/s)を、1.4質量部計量した。これを、混合物3に添加し、十分に混合することで、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を得た。
【0129】
(2-1)平行平板電極サンプルの作製
上記シリコーンゴム組成物を500μm厚のアクリルスペーサーと50mm角のITOガラス電極で挟み込み、500μm厚のサンプル片を作製した。
【0130】
ITOガラス電極に電源を接続し、交流電圧950V、周波数60Hzを印加させながら、80℃2時間の条件でシリコーンゴムを硬化させた。その後、電極からシリコーンゴム硬化物を剥がし、200℃で30分間二次硬化を行い、平行平板電極サンプルを得た。
【0131】
(2-2)コロナ帯電サンプルの作製
上記シリコーンゴム組成物を、SUSフィルム上に、スリットコーターで厚み500μmの未硬化膜を形成した。そのSUSフィルムを円筒形中子に貼り付け、回転させながらコロナ帯電器で帯電処理を行った。条件は、回転速度100rpm、コロナ帯電器のワイヤへの供給電流が-150μA、グリッド電極電位が-950V、帯電時間20秒、グリッド電極と未硬化膜との距離が4mmであった。
この帯電させた未硬化サンプルを160℃の電気炉で1分間加熱した(一次硬化)後、200℃の電気炉で30分間加熱して(二次硬化)、シリコーンゴム組成物を硬化させることによりコロナ帯電サンプルを得た。
【0132】
(3)サンプルの硬度ムラ評価
得られた各サンプルを、50mm角になるように調整し、マイクロゴム硬度計(MD-1TYPE-C硬度計、アスカー社製)で面内の10箇所を測定し、ゴム硬度平均値と標準偏差を算出した。
結果は、コロナ帯電サンプルが、ゴム硬度平均値62.1°、標準偏差1.5°であったのに対し、平行平板電極サンプルは、ゴム硬度平均値63.0°、標準偏差は7.0°であった。平行平板電極サンプルは硬度ムラが大きく、定着部材への適用は困難であることがわかった。
【0133】
[実施例1]
(1)液状付加硬化型シリコーンゴム組成物の調製
硬度ムラ比較試験に用いるサンプルの作製と同様にして、液状付加硬化型シリコーンゴム組成物を得た。
【0134】
(2)加熱ベルトの作製
基体として、内径55mm、幅420mm、厚さ65μmのニッケル電鋳製エンドレスベルトを用意した。なお、一連の製造工程中、エンドレスベルトは、その内部に中子を挿入して取り扱った。まず、基体の外周面に、プライマー(商品名:DY39-051A/B、東レ・ダウコーニング社製)を乾燥重量が50mgとなるように略均一に塗布し、溶媒を乾燥させた後、160℃に設定した電気炉で30分間の焼付け処理を行った。
【0135】
このプライマー処理された基体上に、リングコート法で、厚さ450μmのシリコーンゴム組成物層を形成した。次に、コロナ帯電器を、シリコーンゴム組成物層を外周面に有する基体の母線に沿って対向配置し、該基体を100rpmで回転させながら、シリコーンゴム組成物層の外表面を帯電させた。帯電条件は、コロナ帯電器の放電ワイヤへの供給電流を-150μA、グリッド電極電位を-950V、帯電時間を20秒、グリッド電極とシリコーンゴム組成物層の外表面との距離を4mmとした。
次いで、該基体を電気炉に入れ、温度160℃で1分間加熱して、該シリコーンゴム組成物層を一次硬化させた後、温度200℃で30分間加熱して該シリコーンゴム組成物層を二次硬化させて弾性層を形成した。
【0136】
次に、弾性層の表面に、接着層を形成するための付加硬化型シリコーンゴム接着剤(商品名:SE1819CV A/B、東レ・ダウコーニング社製)を、厚さがおよそ20μm程度になるように略均一に塗布した。これに、表層を形成するための内径52mm、厚み40μmのフッ素樹脂チューブ(商品名:NSE、グンゼ社製)を拡径しつつ積層した。その後、フッ素樹脂チューブの上からベルト表面を均一に扱くことにより、過剰の接着剤を弾性層とフッ素樹脂チューブの間から、5μm程度まで薄くなるように扱き出した。次いで、該基体を、電気炉に入れ、温度200℃で1時間加熱して接着剤を硬化させて、当該フッ素樹脂チューブを弾性層上に固定して定着ベルトを得た。
【0137】
(3)定着ベルトの弾性層の評価
(3-1)弾性層の厚み方向断面におけるフィラーの面積割合と配列性評価
作製した定着ベルトの任意の10箇所から測定用サンプルを10個切り出し、前記した方法によって5個の測定用サンプルについては、定着ベルトの周方向の断面を、イオンビームを用いて研磨加工した。残りの5個の測定用サンプルについては、定着ベルトの周方向に直交する方向の断面を、イオンビームを用いて研磨加工した。研磨加工には、クロスセクションポリッシャ(商品名:SM09010、日本電子社製)を用いた。研磨加工は、アルゴンガス雰囲気中で印加電圧を4.5Vに設定し、11時間に亘って基体側から定着ベルトの厚み方向に対してイオンビームを照射することによって行った。各測定用サンプルの研磨加工面を、レーザー顕微鏡(商品名:OLS3000、オリンパス社製、50倍対物レンズ使用)で観察し、150μm×100μmサイズの断面画像を得た。
【0138】
得られた10個の各断面画像について、画像処理ソフト「ImageJ」を用いて二値化処理を行った。二値化法としては大津法を用いた。得られた二値化像から、フィラー粒径5μm以上の大粒径フィラー面積割合を求め、それらの算術平均値を算出した。同様にして、フィラー粒径5μm未満の小粒径フィラー面積割合を算出し、それらの算術平均値を算出した。次に、各二値化像に対して二次元フーリエ変換処理を行った。二次元フーリエ変換処理の結果得られる楕円プロット図から、大粒径フィラー配列度fLを求め、それらの算術平均値を求めた。同様に、小粒径フィラー配列度fSを求め、それらの算術平均値を求めた。さらに、小粒径フィラー配列角度ΦSを求め、それらの算術平均値を求めた。
【0139】
(3-2)弾性層の厚み方向の熱伝導率
弾性層の厚み方向の熱伝導率λは、以下の式から算出した。
λ=α×Cp×ρ
式中、λは弾性層の厚み方向の熱伝導率(W/(m・K))、αは厚み方向の熱拡散率(m2/s)、Cpは定圧比熱(J/(kg・K))、ρは密度(kg/m3)である。ここで、厚み方向の熱拡散率α、定圧比熱Cp、及び密度ρの値は、以下の方法により求めた。
【0140】
・熱拡散率α
弾性層の厚み方向の熱拡散率αは、周期加熱法熱物性測定装置(商品名:FTC-1、アドバンス理工社製)を用いて、室温(25℃)で測定した。弾性層から、面積が8×12mmの試料片をカッターで切り取り、計5個の試料片を作製し、それぞれの試料片の厚みをデジタル測長器(商品名:DIGIMICRO MF-501、 フラット測定子φ4mm、ニコン社製)を用いて測定した。次に、それぞれの試料片に対し、計5回測定し、その平均値(m2/s)を求めた。なお、測定は、1kgの重りを使用して試料片を加圧しながら行った。
その結果、シリコーンゴム弾性層の厚み方向の熱拡散率αは6.01×10-7m2/sであった。
【0141】
・定圧比熱CP
弾性層の定圧比熱は、示差走査熱量測定装置(商品名:DSC823e、メトラー・トレド社製)を用いて測定した。
具体的には、試料用のパン及び参照用のパンとして、アルミニウム製のパンを用いた。まず、ブランク測定として、両方のパンが空の状態で、10分間、15℃の定温に保った後、215℃まで10℃/分の昇温速度で昇温し、さらに10分間、215℃の定温で保つプログラムで測定を実施した。次に、定圧比熱が既知である10mgの合成サファイアを基準物質に用い、同じプログラムで測定を行った。次いで、基準物質の合成サファイアと同量の10mgの測定試料を弾性層から切り出した後、試料パンにセットし、同じプログラムで測定を実施した。これらの測定結果を上記示差走査熱量測定装置に付属の比熱解析ソフトウェアを用いて解析し、5回の測定結果の平均値から、25℃における定圧比熱CPを算出した。
その結果、シリコーンゴム弾性層の定圧比熱は、1.13J/(g・K)であった。
【0142】
・密度ρ
弾性層の密度は、乾式自動密度計(商品名:アキュピック1330-01、島津製作所製)を用いて測定した。
具体的には、10cm3の試料セルを用い、セル容積のおおよそ8割程度を満たすように試料片を弾性層から切り出し、この試料片の質量を測定した後、試料セルに入れた。この試料セルを装置内の測定部にセットし、測定用のガスとしてヘリウムを用い、ガス置換の後、容積測定を10回実施した。各回について試料片の質量と測定された容積から、弾性層の密度を算出し、その平均値を求めた。
その結果、シリコーンゴム弾性層の密度は2.06g/cm3であった。
【0143】
単位換算した弾性層の定圧比熱Cp(J/(kg・K))と密度ρ(kg/m3)、及び測定した熱拡散率α(m2/s)から、弾性層の厚み方向の熱伝導率λを算出した結果、1.40W/(m・K)であった。
【0144】
(3-3)弾性層の引張り弾性率
弾性層が低硬度であることを確認するために、弾性層の引張り弾性率を測定した。具体的には、弾性層から打ち抜き型(JIS K6251:2004にて規定されるダンベル状8号型)により試料片を切り出し、測定箇所である中央付近の厚みを測定した。次に、切り出した試料片を、引張試験機(装置名:ストログラフEII-L1、東洋精機製作所製)を用いて、引張り速度200mm/min、室温にて試験した。なお、引張り弾性率は、測定結果から横軸に試料片の歪み、縦軸に引張り応力をとったグラフを作成し、歪みが0~10%の範囲において測定データを線形近似したときの傾きとした。
その結果、弾性層の引張り弾性率は0.41MPaであった。
【0145】
(4)定着ベルトの評価
こうして得られた定着ベルトを、電子写真方式の複写機(商品名:imagePRESS(登録商標) C850、キヤノン社製)の熱定着装置に組み込んだ。そして、この熱定着装置を、上記複写機に装着した。この複写機を用いて、定着温度を標準の定着温度よりも低く設定して、坪量300g/m2の厚紙(商品名:UPM Finesse gloss 300g/m2、UPM社製)にシアンのベタ画像の形成を行った。具体的には、熱定着装置の定着温度を、標準の定着温度である195℃から185℃に調整して、シアンのベタ画像を5枚連続して形成し、5枚目のベタ画像について画像濃度を測定した。次いで、当該ベタ画像のトナー面を、4.9kPa(50g/cm2)の荷重をかけたシルボン紙でトナー面を同一方向に3回摺擦し、摺擦後の画像濃度を測定した。そして、摺擦前後での画像濃度の低下率(=[摺擦前後での画像濃度差/摺擦前の画像濃度]×100)が、5%未満である場合に、トナーが厚紙に定着したものと判断した。その結果を下記の基準で評価した。画像濃度は、反射濃度計(マクベス社製)を用いた。また、定着温度を、180℃に調整した以外は、上記と同様にして厚紙へのトナーの定着状態を評価した。
ランクA:定着温度180℃にて、トナーが厚紙に定着した。
ランクB:定着温度185℃にて、トナーが厚紙に定着した。
ランクC:定着温度185℃にて、トナーが厚紙に定着しなかった。
【0146】
また、5枚目のベタ画像を目視で観察し、光沢ムラの有無及びその程度を下記の基準で評価した。
ランクA:光沢ムラがなく極めて優れていた。
ランクB:光沢ムラがなく優れていた。
ランクC:やや光沢ムラがあった。
-:画質未評価
【0147】
[実施例2~3]
熱伝導性フィラーAの酸化マグネシウムを40体積%または43体積%とした以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製し、評価した。
【0148】
[実施例4~6]
熱伝導性フィラーA及び熱伝導性フィラーBの配合比率を表1に記載したように変更した以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製し、評価した。
【0149】
[実施例7]
熱伝導性フィラーAとしてアルミナ(商品名:AO-509、アドマテック社製、平均粒径10μm)37体積%を配合し、熱伝導性フィラーBとしてアルミナ(商品名:AO-502、アドマテック社製、平均粒径0.7μm)3体積%を配合した以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製し、評価した。
【0150】
[実施例8]
熱伝導性フィラーAとして酸化亜鉛(商品名:LPZINC-11、堺化学工業社製、平均粒径11μm)37体積%を配合し、熱伝導性フィラーBとして酸化亜鉛(商品名:LPZINC-2、堺化学工業社製、平均粒径2μm)3体積%を配合した以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製し、評価した。
【0151】
[実施例9]
熱伝導性フィラーAとして金属ケイ素(商品名:M-Si#600、キンセイマテック社製、平均粒径10μm)40体積%を配合し、熱伝導性フィラーBを配合しなかった以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製し、評価した。
【0152】
[実施例10]
熱伝導性フィラーAとして炭化ケイ素(商品名:SSC-A15、信濃電気製錬社製、平均粒径11μm)40体積%を配合し、熱伝導性フィラーBを配合しなかった以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製し、評価した。
【0153】
[実施例11]
熱伝導性フィラーAを窒化ホウ素(商品名:SGPS、デンカ社製、平均粒径12μm)40体積%を配合し、熱伝導性フィラーBを配合しなかった以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製し、評価した。
【0154】
[実施例12]
熱伝導性フィラーAとして、金属ケイ素(商品名:M-Si#600、キンセイマテック社製、平均粒径10μm)を4体積%、及び、酸化マグネシウム(商品名:SL-WR、神島化学工業社製、平均粒径10μm)を36体積%用いた以外は、実施例1と同様にして、定着ベルトを作製し、評価した。
【0155】
[比較例1]
電場付与を行わなかった以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製し、評価した。
【0156】
[比較例2]
熱伝導性フィラーAとして、実施例1で用いた酸化マグネシウムを篩によって粒径4μm以下の粒子をカットしたものを40体積%配合し、熱伝導性フィラーBを配合しなかった以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製し、評価した。
【0157】
[比較例3]
熱伝導性フィラーAの酸化マグネシウムを25体積%、熱伝導性フィラーBの酸化マグネシウムを15体積%配合した以外は実施例1と同様にして、定着ベルトを作製し、評価した。
【0158】
【0159】
表1の結果から、実施例1と比較例1を比較すると、電場を付与していない比較例1では、粒径5μm以上の大粒径フィラーも粒径5μm未満の小粒径フィラーも、弾性層の厚み方向に配列していない(平均配列度fL、fSが0.15以下)。一方、実施例1では、小粒径フィラーが厚み方向に配列(平均配列度fSが0.20以上、平均配列角度ΦSが60°以上120°以下)して、厚み方向の熱伝導率が高くなっていることがわかる。また、実施例1~11と比較例2、3を比較すると、大粒径フィラーの平均面積割合が20%以上40%以下、小粒径フィラーの平均面積割合が10%以上20%以下である場合に、小粒径フィラーが厚み方向に配列しており、厚み方向の熱伝導率も高くなっている。その結果、実施例1~12に係る定着ベルトは、定着性が良好であることがわかる。具体的には、すべての実施例において、厚み方向の熱伝導率は1.30W/(m・K)以上であり定着性が良く、特に厚み方向の熱伝導率が1.50W/(m・K)を超えるものは、さらに定着性が良い。
【0160】
また、全フィラーの体積配合割合(画像での平均面積割合)は、30%以上、50%以下であることが好ましい。全フィラーの体積配合割合がこの範囲であれば、引張弾性率も0.20MPa以上、1.20MPa以下(1.20MPaはAsker C 硬度(JIS K7312)では60°程度)と低く、低硬度となる。その結果、定着ベルトが、定着ニップ部において被記録材である紙繊維の凹凸に追従し、トナーの軟化・溶融ムラが発生しにくくなり、高画質な画像が得られる。
【0161】
実施例1~12に示すように、大粒径フィラー及び小粒径フィラーの平均面積割合、平均配列度fL、fS、並びに平均配列角度ΦSを所定の範囲内で適切に組み合わせることにより、厚み方向の熱伝導率が高くかつ低硬度の弾性層を形成することができる。また、定着性をより向上させた構成や、画質をより向上させた構成を選択することもできる。さらに、実施例2、3のように、定着性と画質のいずれもが優れた特性を示す定着部材を製造することも可能である。
【0162】
比較例2では、小粒径フィラーの平均面積割合が2%と少ないため、小粒径フィラーの平均配列度fSも0.06と小さく、小粒径フィラーが厚み方向に配列していない。そのため、厚み方向の熱伝導度も小さい。また、比較例3では、配合するフィラーの割合を変えて、大粒径フィラーの平均面積割合を減らし、小粒径フィラーの平均面積割合を増やしている。しかし、大粒径フィラーの平均面積割合が20%未満であるため、小粒径フィラーの平均配列度fSが0.07となり、小粒径フィラーが厚み方向に配列しておらず、あまり高熱伝導率とはなっていない。
【0163】
これは、大粒径フィラーが局所電場を形成し、大粒径フィラー間に存在する小粒径フィラーが配列することで高熱伝導化することを示唆している。つまり、相対的に大粒径フィラーの割合を減らしたことで大粒径フィラー間距離が大きくなり、局所電場も減少したため、小粒径フィラーの配列も発生していないためと考えられる。一方、小粒径フィラーの配合割合が小さすぎても小粒径フィラーは配列しにくいものと考えられる。
【0164】
以上の実施例及び比較例は定着ベルトについて説明したが、加熱ローラの場合にも同様の傾向にあることは容易に理解できるものである。
【符号の説明】
【0165】
3 基体
4 弾性層
401-1 第1断面
401-2 第2断面
7 大粒径フィラー
8 小粒径フィラー
100 定着部材