(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-05
(45)【発行日】2024-04-15
(54)【発明の名称】チタン積層体及び、チタン積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 1/08 20060101AFI20240408BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20240408BHJP
【FI】
C22C1/08 Z
B32B15/01 Z
(21)【出願番号】P 2023124807
(22)【出願日】2023-07-31
【審査請求日】2023-11-01
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】松本 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 洋介
(72)【発明者】
【氏名】高田 規
(72)【発明者】
【氏名】津曲 昭吾
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-053658(JP,A)
【文献】特開2018-158355(JP,A)
【文献】中国特許第111590997(CN,B)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/08
B32B 15/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状のチタン積層体であって、
積層方向に隣り合うチタン結合面どうしで互いに結合して積層され、それぞれ孔部を有して気体及び/又は液体が透過可能な複数層のチタン製の気液透過層を備え、
複数層の前記気液透過層のうち、少なくとも、一方の積層体表面を形成する気液透過層が、500μm以下の厚みを有する多孔質層であり、
前記一方の積層体表面において、該積層体表面に開口する孔部の面積の平均値が4μm
2以上かつ17μm
2以下であり、前記孔部の面積の標準偏差値が20μm
2以下であり、面積が22000μm
2で縦横比が4:3である矩形領域内に存在する前記孔部の個数
の平均値が120個以上であり、
前記一方の積層体表面の裏側に位置する他方の積層体表面において、該積層体表面に開口する孔部の面積の平均値が、前記一方の積層体表面における孔部の面積の平均値の3倍以上であるチタン積層体。
【請求項2】
前記一方の積層体表面を形成する前記気液透過層が、複数層の前記気液透過層のうち、最も薄い厚みを有する請求項1に記載のチタン積層体。
【請求項3】
複数層の前記気液透過層のそれぞれがともに、多孔質層である、請求項1又は2に記載のチタン積層体。
【請求項4】
請求項1に記載のシート状のチタン積層体を製造する方法であって、
それぞれ孔部を有して気体及び/又は液体が透過可能な複数枚のチタン製の気液透過材料で、それらのうち、少なくとも、一方の積層体表面を形成する気液透過材料が500μm以下の厚みを有する多孔質材料である気液透過材料を使用し、
複数枚の前記気液透過材料のそれぞれのチタン結合面どうしを接触させた状態で、当該気液透過材料を、対向する押圧部材の押圧面間で挟み込んで押圧しながら、810℃以上かつ1100℃以下の温度に加熱し、複数枚の前記気液透過材料を前記チタン結合面どうしで結合させる結合工程を含み、
前記結合工程で、前記押圧部材として、押圧面に、水を含まないコーティング剤により窒化ホウ素粒子でコーティングが施された押圧部材を用いる、チタン積層体の製造方法。
【請求項5】
前記押圧面の前記コーティングに、有機溶媒に窒化ホウ素粒子を分散させたコーティング剤を使用する、請求項4に記載のチタン積層体の製造方法。
【請求項6】
前記結合工程で、前記押圧部材として、前記押圧面に前記コーティングが施されたグラファイト製の押圧部材を用いる、請求項4又は5に記載のチタン積層体の製造方法。
【請求項7】
前記結合工程での結合前の、少なくとも、一方の積層体表面を形成する前記気液透過材料の前記多孔質材料の表面において、該表面に開口する孔部の面積の平均値が5μm
2以上かつ17μm
2以下であり、前記孔部の面積の標準偏差値が20μm
2以下であり、面積が22000μm
2で縦横比が4:3である矩形領域内に存在する前記孔部の個数
の平均値が250個以上である、請求項4又は5に記載のチタン積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、多孔質層を備えるシート状のチタン積層体及び、チタン積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
チタン粉末やチタン繊維の焼結等により製造されるチタン多孔質体は、孔部による通気性ないし通液性及び、電気伝導性を有し、また、表面に不動態皮膜が形成されること等により高い耐食性をも有するものである。
【0003】
そのような特性を有するチタン多孔質体は、固体高分子(Polymer Electrolyte Membrane、PEM)型の水電解装置内における腐食が生じ得る環境下にある多孔質輸送層(Porous Transport Layer、PTL)等に用いることが検討されている。特に、再生可能エネルギー由来の電力を用いてPEM型等の水電解装置で製造される水素は、グリーン水素と称され、脱炭素社会の実現に向けた動きが加速する近年において大きな期待が寄せられている。
【0004】
特許文献1には、「主層と、該主層に積層して一体的に焼結させた少なくとも1層の補助層とを含む、全体の厚さが1mm未満の金属繊維不織布焼結シートにおいて、前記主層が太さ1~10μmの金属繊維からなるとともに80%以上の空孔率を有し、前記補助層が前記主層の金属繊維の2倍以上の太さの金属繊維からなるとともに、前記補助層の合計厚さが前記主層の厚さの2.5倍未満であり、前記主層と前記補助層とを含む全体の空孔率が75%以上かつ90%以下であることを特徴とする金属繊維不織布焼結シート」が開示されている。特許文献1には、「主層および補助層の材質としては、ステンレス鋼、チタン合金、ニッケル合金、銅合金等の耐食性金属材料が好ましく、従来から適用されている燃料油、潤滑油、水、染料、インク等の濾過のみならず、高温液体、有機溶剤、酸、アルカリ等の濾過にも好適に用いることができる。」との記載がある。
【0005】
特許文献2には、「貫通孔を備えたチタンからなる多孔性の平板と、空隙を備えたチタン製マトリクス部とを一体化して構成される燃料電池用給電体」、「チタンの原板材に多数の貫通孔を設けるステップと、該板材と、マトリクス部となるチタンの原部材とを積層配置するステップと、積層配置された該板材と該マトリクス部の原部材とに圧力を加える加圧ステップと、該圧力を加えられた該板材と該マトリクス部の原部材とを加熱する加熱ステップとを有してなる燃料電池用給電体の作製方法」が記載されている。「燃料電池用給電体の作製方法」に関しては、「該板材とマトリクス部の原部材とを積層配置する前記ステップは、該マトリクス部の原部材とともにバインダーを配置するステップを含むものであり、該バインダーを除去するステップをさらに含む」との記載、及び、「前記バインダーは、水溶性アルコキシドと窒化ホウ素の混合物であり、前記バインダーを除去する前記ステップは、アルコールを用いた除去ステップを含むものである」との記載がある。
【0006】
特許文献3には、「短径が10~100μmであって、長径が1~10mmのチタン繊維成形体を作製した後、上記成形体に板材を載置して押圧しつつ焼結させることを特徴とするシート状多孔質焼結体の製造方法」において、「チタン繊維3の焼結体61は、チタン繊維もしくはチタン合金繊維と接触しても相互に溶着しにくい焼結基板5の上に載置することが好ましい。」との記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-129311号公報
【文献】特開2004-185946号公報
【文献】特開2007-70727号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
チタン多孔質体をPEM型の水電解装置内で多孔質輸送層として用いる場合、チタン多孔質体は、電解質膜に押し付けられて組み込まれることがある。このとき、チタン多孔質体の表面の孔部が大きいと、チタン多孔質体が押し付けられた電解質膜が部分的に当該孔部内に入り込んで、その孔部に近接する箇所で大きく変形し、電解質膜の損傷を招くおそれがある。また、チタン多孔質体の表面に突起があると、電解質膜を傷つける恐れがある。当該突起は、繊維原料の焼結体であるチタン多孔質体の表面に備わっていることが多い。繊維原料を使用して製造したチタン多孔質体は、上述したような表面の孔部が大きくなる傾向がある。
【0009】
それ故に、電解質膜への損傷の発生を抑制するとの観点からは、チタン多孔質体は、電解質膜側の表面に開口する孔部が小さいことが望まれる。孔部が小さくても、その個数が多ければ、ある程度の通気性ないし通液性を発揮することができる。
【0010】
しかしながら、チタン多孔質体の全体にわたって孔部が小さい場合、孔部の個数が多かったとしても、高い通気性ないし通液性を得ることができない。このため、単一のチタン多孔質体では、電解質膜への損傷を抑制しつつ、通気性ないし通液性を大きく高めることは困難であった。
【0011】
この発明の目的は、電解質膜への損傷を抑制することが可能であり、さらに、優れた通気性ないし通液性を実現することができるチタン積層体及び、チタン積層体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者は、上述したような課題を解決するべく鋭意検討した結果、複数層の気液透過層を積層させたシート状のチタン積層体とすることを案出した。ここで、一方の積層体表面側は、PEM型の水電解装置内で電解質膜に押し付けられたときに電解質膜への損傷の発生が抑えられるように、その積層体表面に開口する孔部が比較的小さい多孔質層の気液透過層とする。但し、一方の積層体表面側でも所要の通気性ないし通液性を確保するため、上記の気液透過層は、それによって形成される一方の積層体表面に、ある程度多い個数の孔部が存在するものとする。また、チタン積層体の全体として通気性ないし通液性を高めるため、一方の積層体表面側における孔部が小さい多孔質層の厚みは薄くする。これに対し、一方の積層体表面の裏側に位置する他方の積層体表面側では、その積層体表面に開口する孔部が比較的大きくなるような気液透過層を位置させる。
【0013】
この発明のチタン積層体は、シート状のものであって、積層方向に隣り合うチタン結合面どうしで互いに結合して積層され、それぞれ孔部を有して気体及び/又は液体が透過可能な複数層のチタン製の気液透過層を備え、複数層の前記気液透過層のうち、少なくとも、一方の積層体表面を形成する気液透過層が、500μm以下の厚みを有する多孔質層であり、前記一方の積層体表面において、該積層体表面に開口する孔部の面積の平均値が4μm2以上かつ17μm2以下であり、前記孔部の面積の標準偏差値が20μm2以下であり、面積が22000μm2で縦横比が4:3である矩形領域内に存在する前記孔部の個数が120個以上であり、前記一方の積層体表面の裏側に位置する他方の積層体表面において、該積層体表面に開口する孔部の面積の平均値が、前記一方の積層体表面における孔部の面積の平均値の3倍以上であるというものである。
【0014】
上記のチタン積層体では、前記一方の積層体表面を形成する前記気液透過層が、複数層の前記気液透過層のうち、最も薄い厚みを有することが好ましい。
【0015】
上記のチタン積層体では、複数層の前記気液透過層のそれぞれがともに、多孔質層であることが好ましい。
【0016】
この発明のチタン積層体の製造方法は、シート状のチタン積層体を製造する方法であって、それぞれ孔部を有して気体及び/又は液体が透過可能な複数枚のチタン製の気液透過材料で、それらのうち、少なくとも、一方の積層体表面を形成する気液透過材料が500μm以下の厚みを有する多孔質材料である気液透過材料を使用し、複数枚の前記気液透過材料のそれぞれのチタン結合面どうしを接触させた状態で、当該気液透過材料を、対向する押圧部材の押圧面間で挟み込んで押圧しながら、810℃以上かつ1100℃以下の温度に加熱し、複数枚の前記気液透過材料を前記チタン結合面どうしで結合させる結合工程を含み、前記結合工程で、前記押圧部材として、押圧面に、水を含まないコーティング剤により窒化ホウ素粒子でコーティングが施された押圧部材を用いる、というものである。
【0017】
上記の製造方法では、前記押圧面の前記コーティングに、有機溶媒に窒化ホウ素粒子を分散させたコーティング剤を使用することができる。
【0018】
上記の製造方法では、前記結合工程で、前記押圧部材として、前記押圧面に前記コーティングが施されたグラファイト製の押圧部材を用いることが好ましい。
【0019】
上記の製造方法では、前記結合工程での結合前の、少なくとも、一方の積層体表面を形成する前記気液透過材料の前記多孔質材料の表面において、該表面に開口する孔部の面積の平均値が5μm2以上かつ17μm2以下であり、前記孔部の面積の標準偏差値が20μm2以下であり、面積が22000μm2で縦横比が4:3である矩形領域内に存在する前記孔部の個数が250個以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
この発明のチタン積層体によれば、電解質膜への損傷を抑制することが可能であり、さらに、優れた通気性ないし通液性を実現することができる。この発明のチタン積層体の製造方法は、そのようなチタン積層体の製造に適したものである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
この発明の一の実施形態のチタン積層体は、それぞれ孔部を有して気体及び/又は液体が透過可能な複数層のチタン製の気液透過層を備え、それらの気液透過層が、積層方向に隣り合うチタン結合面どうしで互いに結合して積層されたものである。複数層の気液透過層のうち、少なくとも、一方の積層体表面を形成する気液透過層は、500μm以下の厚みを有する多孔質層とする。
【0022】
そして、チタン積層体の上記の多孔質層としての気液透過層で形成される一方の積層体表面は、該積層体表面に開口する孔部の面積の平均値が4μm2以上かつ17μm2以下であり、孔部の面積の標準偏差値が20μm2以下であり、面積が22000μm2で縦横比が4:3である矩形領域内に存在する孔部の個数が120個以上である。このように一方の積層体表面に開口する孔部の面積の平均値および標準偏差値が小さいと、一方の積層体表面に開口する孔部は比較的小さく均一な面積を有するものになるので、チタン積層体が一方の積層体表面で、PEM型の水電解装置内で電解質膜に押し付けられたとき、電解質膜への損傷の発生を抑制することができる。また、一方の積層体表面に開口する孔部がある程度多いことから、一方の積層体表面側での所要の通気性ないし通液性を確保することができる。
【0023】
これに対し、チタン積層体の一方の積層体表面の裏側に位置する他方の積層体表面は、その積層体表面に開口する孔部の面積の平均値が、一方の積層体表面における孔部の面積の平均値の3倍以上になるように、所定の気液透過層を位置させる。このことによれば、他方の積層体表面側の気液透過層で気体ないし液体が透過しやすいことにより、チタン積層体の全体として通気性ないし通液性を大きく高めることができる。
【0024】
上記のチタン積層体を製造するには、複数層の気液透過層に対応する複数枚のチタン製の気液透過材料を結合させて積層させる必要があるところ、複数枚のチタン製の気液透過材料を、単純に押圧部材の対向する押圧面間に挟み込んだ状態で、所定の温度に加熱しながら押圧すると、特にチタン製の多孔質材料の気液透過材料が押圧部材と結合し、これを押圧部材から引き剥がすことが困難になる。そこで、この実施形態の結合工程では、押圧部材として、押圧面に窒化ホウ素粒子でコーティングが施されたものを用いる。窒化ホウ素粒子のコーティングにより、押圧部材の材料とチタン製の気液透過材料との反応が抑制される。また、窒化ホウ素製の押圧部材とした場合は、その窒化ホウ素が剥離してチタン積層体に固着し、これを剥がすときに積層体表面が荒れる傾向があるが、ここでは、窒化ホウ素粒子でコーティングされた押圧面の押圧部材とするので、そのような問題も起こり難い。これにより、上述したチタン積層体の製造が可能になる。
【0025】
(チタン積層体)
チタン積層体はチタン製である。チタン製であれば、チタン積層体は、ある程度の相対密度で高い電気伝導性を有するものであるといえる。チタン積層体(さらには各気液透過層)のチタン含有量は、好ましくは97質量%以上であり、また好ましくは98質量%以上である。チタン含有量の上限側は、これに限らないが、例えば99.8質量%以下、99質量%以下である場合がある。このチタン含有量は、金属成分のみならず酸素等のガス成分の不純物も考慮したチタンの純度を意味する。このため、チタン含有量は、金属成分及び、ガス成分を含む不純物成分の総含有量を100質量%から差し引くことにより求められる。
【0026】
チタン積層体(特に一方の積層体表面側における多孔質層の気液透過層)は、不純物としてFeを含有することがあり、また、たとえば製造過程に起因する不可避的不純物として、Ni、Cr、Al、Cu、Zn、Snが含まれる場合がある。Fe含有量は、たとえば0.25質量%以下となることがある。Ni、Cr、Al、Cu、Zn、Snの各々の含有量は0.10質量%未満であること、それらの合計の含有量は0.30質量%未満であることがそれぞれ好適である。
【0027】
チタン積層体の酸素含有量は特に限定されないが、0.4質量%以上かつ2.0質量%以下になることがある。チタン積層体の酸素含有量は1.0質量%以上かつ2.0質量%以下であってもよい。酸素含有量は、不活性ガス溶融-赤外線吸収法により測定することができる。
【0028】
チタン積層体は、炭素、窒素、酸素含有量を除き、JIS H 4600(2012)の純チタン1~4種、典型的には1~2種に相当する純度である場合がある。
【0029】
チタン積層体はシート状であって、複数層のチタン製の気液透過層を備えるものである。複数層の気液透過層は、積層方向に隣り合うチタン結合面どうしで互いに結合して積層されている。後述するような製造方法でチタン積層体を製造した場合、チタン製である気液透過材料のチタン結合面どうしが結合するので、チタン積層体ではチタン結合面は互いに結合された状態で存在する。複数層の気液透過層の界面には、チタン以外の金属や、チタンを含まない化合物等が実質的に存在しないことが、低コストで所要の高い導電率を実現できる点で好ましい。界面での電気抵抗の増大を抑えるべく、白金等の他の金属を含有する層を設けて気液透過層どうしを接合すると、コストの増大を招くからである。複数層の気液透過層はそれぞれ、孔部を有し、気体及び/又は液体が透過可能なものである。なお、PEM型水電解装置の多孔質輸送層としてのチタン積層体は、積層方向(シート厚み方向)や、当該積層方向に対して垂直な方向などの他の方向に気体及び/液体が透過可能なものが使用され得る。
【0030】
チタン積層体の一方の積層体表面は、その一方の積層体表面側の部分を構成する気液透過層(「一方側の気液透過層」ともいう。)によって形成されるものであり、この積層体表面は一方側の気液透過層の表面に相当する。一方側の気液透過層は、多孔質層とする。多孔質層は、チタン粉末どうしが結合して構成されており、互いに結合したチタン粉末間に孔部が形成されたスポンジ状の三次元網目構造を有するものである。一方側の気液透過層を上記の三次元網目構造の多孔質層とすることにより、一方の積層体表面は、次に述べるように、所定の微小で多数個の孔部が開口したものになりやすくなる。
【0031】
一方の積層体表面に開口する孔部の面積の平均値は、4μm2以上かつ17μm2以下である。このように一方の積層体表面の孔部が比較的小さい面積を有するものであれば、当該積層体表面は概して平滑であるということができ、PEM型の水電解装置内での電解質膜の損傷を良好に抑制することができる。この観点から、一方の積層体表面における孔部の面積の平均値は4μm2以上かつ10μm2以下であることが好ましい。一方の積層体表面にて孔部の面積の平均値が小さすぎると、通気性ないし通液性が低下するおそれがある。また、一方の積層体表面にて孔部の面積の平均値が大きすぎると、電解質膜が部分的に孔部内に入り込んで、その孔部に近接する箇所で大きく変形し、電解質膜の損傷を招くおそれがある。また同様の観点から、当該積層体表面における孔部の面積の標準偏差値は、20μm2以下、さらに3μm2~20μm2、特に5μm2~17μm2であることが好ましい。標準偏差値が小さいということは、一方の積層体表面に存在する孔部の多くが所要の細かなものであることを意味する。
【0032】
また、一方の積層体表面において面積が22000μm2で縦横比が縦:横=4:3である矩形領域内に存在する孔部の個数は、120個以上であり、好ましくは140個以上、また好ましくは150個以上である。一方の積層体表面に上記のような微細な孔部が多く存在することにより、平滑性を実現しつつ、所要の通気性ないし通液性を確保することができる。一方の積層体表面における当該矩形領域内の孔部の個数は、これに限らないが、たとえば400個以下、また300個以下になる場合がある。
【0033】
チタン積層体の他方の積層体表面は、一方の積層体表面の裏側ないし反対側に位置する表面を意味し、他方の積層体表面側の部分を構成する気液透過層(「他方側の気液透過層」ともいう。)によって形成される。言い換えると、他方の積層体表面は、他方側の気液透過層の表面に相当するものである。
【0034】
チタン積層体の通気性ないし通液性を高めるため、他方の積層体表面に開口する孔部の面積の平均値は、一方の積層体表面における孔部の面積の平均値の3倍以上とし、更には5倍以上、また7倍以上とすることが好ましい。このように他方の積層体表面側を大きな孔部の気液透過層で構成することにより、チタン積層体の内部を気体や液体が流れやすくなる。他方の積層体表面に開口する孔部の面積の平均値の上限側は、例えばPEM型水電解装置に組み込まれて使用可能な所要の強度を有することを前提として、特に限定されない。あえて一例を挙げると一方の積層体表面における孔部の面積の平均値の20万倍以下、また1万倍以下、また1000倍以下、また500倍以下、また100倍以下である。後述するエキスパンドメタル、メッシュ、パンチングメタル等は目視可能の程度に大きな孔を有することがあるので、上記他方の積層体表面に開口する孔部の面積の平均値の上限側は20万倍以下といった大きな値となることがある。
【0035】
他方側の気液透過層は、他方の積層体表面における孔部の面積の平均値が所定の値になるのであれば、三次元網目構造の多孔質層に限らず、たとえば、厚み方向に貫通する一定の大きさの孔部が規則的に形成されたエキスパンドメタル層ないしメッシュ層またはパンチングメタル層等としてもよい。チタン積層体内の孔部を段階的に大きくして気体や液体の流れをある程度制御するという観点からは、他方側の気液透過層も多孔質層とすることが好適である。但し、この場合であっても、他方の積層体表面に開口する孔部の面積の平均値が、一方の積層体表面における孔部の面積の平均値の3倍以上になるように、チタン積層体の製造では、一方側及び他方側の各気液透過層になる各気液透過材料として、異なる性状を有し又は異なる作製方法で得られた多孔質材料を用いることができる。なお、他方側の気液透過層としての多孔質層は、チタン粉末どうしが互いに結合して構成されたもののみならず、チタン繊維どうしが互いに結合して構成された不織布状の三次元網目構造またはメッシュ構造を有するものも使用可能である。繊維原料を焼結して製造した三次元網目構造としての多孔質材料は不織布状であってその表面に突起を有するものの、一定程度の強度を有して大きな孔部を有するという特徴がある。よって、電解質膜と接触しない位置において気液透過材料として繊維原料の焼結体を使用すると所望の強度を得つつ優れた通気性ないし通液性を確保しやすい。
【0036】
上述した積層体表面に開口する孔部の面積の平均値及び標準偏差値、並びに所定の矩形領域内の個数は、走査型電子顕微鏡(キーエンス製超深度マルチアングルレンズ VHX-D510)により測定する。より詳細には、一方側の積層体表面については、当該積層体表面上の面積が22000μm2で縦横比が4:3である矩形領域について、倍率2000倍でSEM画像を取得する。他方側の積層体表面については、縦横比は上記と同じ4:3とし、他方側の積層体表面の孔のサイズに合わせて観察倍率および表面の面積を設定する。具体的には、他方側の積層体表面の観察結果である孔部の個数が100~1000個の範囲内となるように倍率および表面の面積を設定する。特に、他方側が多孔質層である場合は、孔部の識別において後述の小粒除去処理および穴埋め処理を実施するので、上記孔部の個数の範囲内である画像を撮影することで、一方側の積層体表面と他方側の積層体表面の孔部の面積の平均値をより精度よく対比できる。他方側が多孔質層である場合、観察倍率は900倍であることが好ましい場合がある。そして、走査型電子顕微鏡を用いてSEM画像の分析を行い、SEM画像について輝度の最大検出値の半分の値を閾値とし、輝度が0~閾値の範囲内にある閉領域を一個の孔部とみなす。このとき、必要に応じて、SEM画像に二値化処理を施してもよい。二値化処理の後、50ピクセル以下の閉領域について小粒除去処理(二値化した後の黒ピクセルへの処理)を行い、次に50ピクセル以下の閉領域について穴埋め処理(二値化した後の白ピクセルへの処理)を実施する。これを用いて各孔部の個数及び面積を算出し、分散の平方根としての標準偏差値を求める。このようなSEM画像の分析を、積層体表面における少なくとも一部が互いにずれた5個の矩形領域について行い、それらの矩形領域での孔部の面積の平均値及び個数の平均値をそれぞれ、積層体表面における孔部の面積の平均値及び標準偏差値並びに矩形領域内の個数とする。平面視で正方形もしくは長方形の矩形である積層体表面の場合、上記の5個の矩形領域は、中央と四隅における5個の矩形領域とする。
【0037】
シート状のチタン積層体の厚み(全ての気液透過層を含めた総厚み)は、40μm以上かつ1000μm以下とすることがある。たとえば、PEM型水電解装置の多孔質輸送層には、このようにある程度厚いチタン積層体が求められ得る。一方、厚みが厚すぎると、PEM型水電解装置の大型化を招くおそれがある。チタン積層体の厚みは、たとえば、700μm以下、400μm以下、また350μm以下とし、この一方で、40μm以上、また80μm以上とすることがある。
【0038】
チタン積層体の厚みは、チタン多孔質体の周縁の4点と中央の1点の計5点について、例えばミツトヨ製デジタルシックネスゲージ(型番547-321)等の、測定子がΦ10mmのフラット型で測定精度が0.01mmのデジタルシックネスゲージを用いて測定し、それらの測定値の平均値とする。シート状のチタン多孔質体が平面視で矩形状をなす場合は、上記の周縁の四点は、四隅の四点とする。
【0039】
一方側の気液透過層の厚みは、500μm以下とし、好ましくは40μm~400μm、また40μm~300μm、また40μm~200μmとすることができる。一方側の気液透過層は、孔部が小さい多孔質層からなるので、その厚みが厚すぎる場合は、チタン積層体の全体としての通気性ないし通液性が低下する。この一方で、一方側の気液透過層の厚みをある程度厚くすることにより、それに対応する多孔質材料の作製時における焼結後に所要の強度が確保されたものになり、当該気液透過層が、他の気液透過層とともに電解質膜に押し付けられた際に割れにくくなる。一方側の気液透過層は、複数層の気液透過層のうち、最も薄い厚みを有することが好ましい。孔部が小さく気体ないし液体が透過しにくい一方側の気液透過層の厚みを最も薄くすることで、チタン積層体の通気性ないし通液性を大きく高めることができる。
【0040】
他方側の気液透過層の厚みは、100μm~960μmであることが好ましい。他方側の気液透過層の厚みをある程度厚くすることにより、通気性ないし通液性をより一層高めることができ、また厚くしすぎないことにより、水電解装置の小型化が可能になり、面積当たりの電解効率が向上し得る。
【0041】
各気液透過層の厚みは、樹脂埋めして研磨したチタン積層体の厚み方向の断面における5点の厚みをSEMで観察して測り、その平均値を採用する。チタン積層体は各気液透過層に求められる機能が異なっているので、積層方向で孔部の大きさの相違が分かる部分を特定し、当該部分のSEM観察で各気液透過層の厚みを求める。
【0042】
シート状のチタン積層体の平面視における表面の面積は、諸条件に応じて適宜決定され得るので特に限定されないが、例えば70mm2以上、600000mm2以下、また10000mm2~600000mm2とすることがある。上記「シート状」とは、平面視の寸法に対して厚みが小さい板状もしくは箔状を意味し、平面視の形状については特に問わない。
【0043】
なお、チタン積層体は、一方側の気液透過層と他方側の気液透過層がそれらのチタン結合面で直接的に結合した二層の気液透過層で構成することができるが、一方側の気液透過層と他方側の気液透過層との間に、中間層として一層又は複数層の気液透過層を備えるものとすることも可能である。中間層の気液透過層の一層以上は、多孔質層とすることができる他、エキスパンドメタル層ないしメッシュ層またはパンチングメタル層等としてもよい。複数層の気液透過層のそれぞれをいずれも多孔質層としたときは、チタン積層体内の孔部を段階的に大きくして気体や液体の流れをある程度制御することができる。
【0044】
(製造方法)
上述したチタン積層体を製造するには、はじめに、チタン積層体の複数層の気液透過層に対応する複数枚の気液透過材料を準備する。このうち、少なくとも、チタン積層体の一方の積層体表面を形成する気液透過材料(一方側の気液透過層にする気液透過材料)は、500μm以下の厚みを有する多孔質材料とする。他の気液透過材料の少なくとも一枚は、エキスパンドメタル材料ないしメッシュ材料またはパンチングメタル材料等としてもよいが、好ましくは多孔質材料とする。
【0045】
気液透過材料としても用いられ得るエキスパンドメタル材料ないしメッシュ材料またはパンチングメタル材料は、購買により入手することが可能である。多孔質材料は市販品を使用してもよいが、次に述べるようにして作製することもできる。
【0046】
多孔質材料の作製方法の一例では、ペースト作製工程、乾燥工程、脱バインダー工程及び焼結工程がこの順序で行われる。この方法はペースト法と称され得る。
【0047】
ペースト作製工程では、水素化脱水素チタン粉や水素化チタン粉等の粉砕粉末もしくはアトマイズ粉のような球状粉末その他のチタン粉末、有機バインダー及び有機溶媒を、攪拌機付混合機、回転混合機又は三本ロールミル等を用いて混合し、ペーストを作製する。このとき、振動ミル、ビーズミルその他の粉砕混合機等を用いて粉砕してもよい。
【0048】
ペーストに含ませるチタン粉末の平均粒径は、例えば25μm以下とし、好ましくは18μm以下とすることができる。このような粒径が小さいチタン粉末を使用し、さらに、後述するように所定の分散剤を使用することで、表面が平滑な多孔質材料が得られる。なお、チタン粉末の平均粒径は、5μm以上、さらに10μm以上とすることがある。平均粒径は、レーザー回折散乱法によって得られた粒度分布で体積基準の累積分布が50%となる粒子径を意味する。
【0049】
ペーストに使用する有機バインダーとしては、様々なものを適宜選択して用いることができるが、たとえば、メチルセルロース系、ポリビニルアルコール系、エチルセルロース系、アクリル系、ポリビニルブチラール系等のものを挙げることができる。疎水性を示す有機バインダーが好ましい。但し、ここで挙げたものに限らない。有機溶媒は、例えばアルコール(エタノール、イソプロパノール、ターピネオール、ブチルカルビトール等)とする。一例として、有機バインダーはポリビニルブチラール、有機溶媒はイソプロピルアルコールとすることがある。ペーストにはさらに、可塑材(グリセリン、エチレングリコール等)や、界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸塩等)を含ませてもよい。
【0050】
一方側の気液透過層にする多孔質材料を製造する場合は、ペーストは、溶媒としての水を含まないものとする。ペーストは、さらに発泡剤も含まないことが好適である。なお、ペーストは溶媒として水を含まないものであればよく、吸湿等の意図せずにペーストに混入し得る水の含有は許容される。水及び/または発泡剤を含むペーストを使用して多孔質材料を製造すると製造過程で大きな孔が形成されてしまい、所望する孔のサイズを実現できない。
【0051】
一方側の気液透過層にする多孔質材料を製造する場合に限らず、上記のペーストは、基材上に比較的薄く塗布し、乾燥工程にて、たとえば、90℃以上かつ165℃以下の温度の下、5分以上かつ300分以下の時間にわたって乾燥させる。続いて脱バインダー工程を行う。脱バインダー工程では、たとえば、300℃以上かつ450℃以下の温度に3時間以上かつ12時間以下の時間で加熱し、有機バインダーを揮発させて除去する。
【0052】
その後、焼結工程を行い、たとえば1.0×10-2Pa以下の真空、又は、ArやHeの不活性雰囲気の下、700℃以上かつ1000℃以下の温度に1時間以上かつ4時間以下の時間にわたって加熱し、チタン粉末を焼結させる。これにより、多孔質材料が得られる。
【0053】
また、多孔質材料の作製方法の他の例としては、詳細な説明は省略するが、チタン粉末又はチタン繊維を、空気等の気体中もしくは真空中で落下させて堆積させた後、これを真空等の減圧雰囲気下で加熱して焼結させる方法(乾式法)が挙げられる。
【0054】
一方側の気液透過層にする多孔質材料を上記ペースト法で製造した場合、得られた多孔質材料は、その表面に開口する孔部の面積の平均値が5μm2以上かつ17μm2以下であり、孔部の面積の標準偏差値が20μm2以下であり、面積が22000μm2で縦横比が4:3である矩形領域内に存在する前記孔部の個数が250個以上である場合がある。また、当該多孔質材料の表面に開口する孔部の面積の標準偏差値は、さらに3μm2~20μm2、特に10μm2~20μm2になる場合がある。そのような多孔質材料を、一方の積層体表面を形成する気液透過材料として使用し、後述する結合工程を行うと、孔部の形態が変化し、チタン積層体の一方側の気液透過層では、一方の積層体表面に開口する孔部の面積の平均値及び個数が、先述した値になることがある。
【0055】
複数枚の気液透過材料を準備した後は、それらを結合して積層させる結合工程を行う。結合工程では、より詳細には、複数枚の気液透過材料のそれぞれのチタン結合面どうしを接触させる。必要に応じて、この際に、複数枚の気液透過材料どうしを一部で、溶接等にて固定してもよい。但し、溶接等の固定は、部分的に気液透過材料の孔部を狭める又は無くしたり、厚みを薄くしたりするおそれがあるので、複数枚の気液透過材料は、固定せずに単に重ね合わせて接触させることが好ましい。
【0056】
そしてその状態で、それらの気液透過材料を、両側から、押圧部材の対向する平坦な押圧面間に挟み込んで押圧しながら、810℃以上かつ1100℃以下の温度、好ましくは850℃以上かつ1000℃以下の温度に加熱する。これにより、複数枚の気液透過材料がチタン結合面どうしで、固相拡散によって結合して積層され、チタン積層体になる。なお、上記の温度は加熱による最高到達温度である。
【0057】
結合工程では、セッター等の押圧部材として、押圧面に窒化ホウ素粒子でコーティングが施された押圧部材を用いることが肝要である。押圧面にコーティングが施されていないグラファイト製等の押圧部材では、結合工程での加熱によりチタンと反応し、チタン積層体の特に平滑で接触面積が大きくなる一方の積層体表面に、TiC等の不純物が形成され得る。他方、窒化ホウ素製の押圧部材を使用すると、自己潤滑性を有する窒化ホウ素が剥離して積層体表面に固着し、これを剥がすときに積層体表面が荒れるおそれがある。これに対し、押圧面に窒化ホウ素粒子でコーティングが施された押圧部材であれば、積層体表面での不純物の形成を抑制できるとともに、積層体表面に窒化ホウ素粒子が付着したとしても水洗等で容易に除去することができる。また、押圧面に窒化ホウ素粒子でコーティングが施された押圧部材を用いたときは、結合工程後にチタン積層体を押圧部材から分離させることも容易である。
【0058】
結合工程を行うに先立ち、押圧部材の押圧面を窒化ホウ素粒子でコーティングするには、有機溶媒に窒化ホウ素粒子を分散させたコーティング剤を、たとえば吹付けによって押圧面に塗布した後に乾燥させる等して使用することができる。コーティングに用いる窒化ホウ素粒子の粒径は、9μm以下、さらに5μm以下、さらに3μm以下とすることが好適である。窒化ホウ素粒子のこの粒径は、撮影画像上で各粒子の面積の平均値を求めて、その面積を有する円の直径を意味する。コーティング後に押圧面に付着した窒化ホウ素粒子の凝集を抑制するとの観点からは、コーティング剤には、水ではなく有機溶媒を用いることが好ましい。これにより、当該凝集粒子の生成に起因して押圧面にコーティングされていない部分が生じ、この押圧面と積層体表面とが結着することや、凝集粒子が積層体表面から内部に入り込んで通気性ないし通液性に影響を及ぼすことが抑制される。
【0059】
好ましくは、押圧部材をグラファイト製とし、その押圧面に上記のように窒化ホウ素粒子でコーティングを施したものを用いる。グラファイト製の押圧部材は、結合工程の高温下でもその一部が剥がれにくい。また、グラファイト製の押圧部材の押圧面には、窒化ホウ素粒子が良好に吸着する。
【0060】
結合工程での押圧・加熱時間は、810℃以上である時間を、たとえば30分~8時間とすることがある。また結合工程は、減圧雰囲気や不活性雰囲気とすることができる。
【実施例】
【0061】
次に、この発明のシート状のチタン積層体を試作したので、その詳細を以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示を目的としたものであり、これに限定されることを意図するものではない。
【0062】
孔部を有して気体及び/又は液体が透過可能な気液透過材料として、性状の異なる三種類の多孔質材料(東邦チタニウム株式会社製のWEBTi-K、WEBTi-T及びWEBTi-S(「WEBTi」は登録商標))、並びに、エキスパンドメタル材料(株式会社三起製作所製のファインメタルsmall mesh BD20)を準備した。これらは全てチタン製である。WEBTi-Kはペースト法で作製したものであり、WEBTi-Tはチタン粉末を用いた乾式法で、WEBTi-Sはチタン繊維を用いた乾式法でそれぞれ作製したものである。なお、WEBTi-K、WEBTi-Tはスポンジ状の三次元網目構造を有し、WEBTi-Sは不織布状の三次元網目構造を有する。
【0063】
上記の気液透過材料から二種類を選択し、チタン結合面どうしを接触させ単に重ね合わせて、それらを両側から押圧部材の間に挟み込んで、加圧しながら加熱してチタン結合面どうしで結合させて積層させた。加圧力は、上側の押圧部材上に重しを載せることで作用させ、0.14N/cm2~0.35N/cm2の範囲内とした。加熱は、気液透過材料を押圧部材ごと炉内に入れて、実施例1~4並びに比較例1及び2では1000℃の温度で1時間、比較例3では1200℃の温度で1時間、比較例4では775℃の温度で1時間、でそれぞれ行った。
【0064】
ここでは、押圧部材としてグラファイト製のセッターを使用し、その押圧面に、所定のコーティング剤を吹き付けた後に乾燥させることで、窒化ホウ素粒子でコーティングを施した。実施例1~4並びに比較例3及び4では、コーティング剤として、窒化ホウ素粒子を1質量%~5質量%の範囲内で含み、ジメチルエーテルを65質量%以上含有する有機溶媒を含んで、水を含まない有機溶媒系コーティング剤(株式会社オーデック製のホワイティリリーズ・N)を用いた。比較例1では、コーティング剤として、株式会社オーデック製のBNリリーズ(水系コーティング剤)を用いた。この水系コーティング剤は、水含有量が50~60質量%の範囲内であって、ジメチルエーテル含有量が35~40質量%の範囲内のものである。水系コーティング剤を使用したときは、押圧面に吹き付けた後に乾燥させるため、100℃程度に加熱した。比較例2では、押圧面にコーティングを施さなかった。また、比較例1~4ではいずれも、二種類の気液透過材料として、WEBTi-K及びWEBTi-Tを採用した。また、いずれの実施例1~4および比較例1~4でも、一方の積層体表面を形成する多孔質材料である気液透過材料としてWEBTi-Kを使用した。
【0065】
その結果、実施例1~4では、チタン積層体を製造することができた。一方、比較例1では、押圧部材の押圧面に水系コーティング剤を用いてコーティングを行ったことから、凝集した窒化ホウ素粒子がチタン積層体に入り込んだ。比較例2では、押圧面にコーティングを施さなかったことにより、押圧面と積層体表面とが結合し、それらを引き剥がすことができなかった。比較例3では、押圧面にコーティングを施したが、結合時の温度が高すぎたことから、押圧面と積層体表面とが結合し、それらを良好に引き剥がすことができなかった。比較例4は結合時の温度が低すぎたことから、気液透過材料どうしの結合が弱かった。このため、比較例1~4では、チタン積層体を製造することができなかった。
【0066】
また各チタン積層体について、厚み、導電率、酸素含有量、積層体表面の孔部の面積の平均値及び標準偏差値ならびに矩形領域内の孔部の個数を測定した。その結果を表1に示す。なお、孔部の面積の標準偏差値は後述する。厚み並びに、孔部の面積の平均値、孔部の面積の標準偏差値及び矩形領域内の孔部の個数の測定方法は、先述したとおりである。実施例3では、エキスパンドメタル材料で形成した気液透過層の孔部が、実施例1のWEBTi-S等の孔部と比較して大きすぎたことから、孔部の面積の平均値を測定することができなかった。このため、表1では、実施例3のエキスパンドの孔部の個数を「0」としているが、これは実際の個数を表すものではない。
【0067】
導電率は、三菱アナリテック製低抵抗率計ロレスタGP MCP-T610を使用し、四探針法により各積層体表面について、測定対象の積層体表面を上方側に位置させて測定した。プローブチェッカーは、エキスパンドメタル、WEBTi-T又はSの積層体表面側ではプローブチェッカーMCP-TRPS RMH311を使用し、WEBTi-Kの積層体表面側ではMCP-TP06P RMH112を使用した。気液透過層のチタン結合面どうしが十分に結合していれば、導電率が高くなると考えられる。また、導電率が高い場合、各気液透過層が強固に結合されているので、機械的強度も優れるものであると推測される。製造したチタン積層体の両面について上記導電率を測定し、両面ともに3.2×103S/cm以上の場合を合格とした。なお、気液透過材料の結合前においても、二枚の気液透過材料を重ね合わせた状態で上側の気液透過材料について導電率を測定し、その結果も表1に示している。
【0068】
比較例4では、結合時の温度が低かったことにより、気液透過層のチタン結合面どうしが十分に結合せず、WEBTi-K側の導電率が2.5×103S/cmと低くなったため、チタン積層体を製造できなかったと判断した。
【0069】
【0070】
また、実施例1~4のチタン積層体の一方の積層体表面における孔部の面積の標準偏差値を先述した方法で測定したところ、実施例1では11.1μm2、実施例2では10.1μm2、実施例3では13.3μm2、実施例4では7.6μm2であった。なお、実施例1~4の各チタン積層体の製造に用いた結合前の、一方の積層体表面を形成する多孔質材料の表面における孔部の面積の標準偏差値は、実施例1では15.3μm2、実施例2では12.4μm2、実施例3では11.9μm2、実施例4では14.8μm2であった。
【0071】
この発明によれば、電解質膜への損傷を抑制することが可能であり、さらに、優れた通気性ないし通液性を実現できる可能性が示唆された。
【要約】
【課題】電解質膜への損傷を抑制することが可能であり、さらに、優れた通気性ないし通液性を実現することができるチタン積層体及び、チタン積層体の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明のチタン積層体は、シート状のものであって、積層方向に隣り合うチタン結合面どうしで互いに結合して積層され、それぞれ孔部を有して気体及び/又は液体が透過可能な複数層のチタン製の気液透過層を備え、複数層の前記気液透過層のうち、少なくとも、一方の積層体表面を形成する気液透過層が、500μm以下の厚みを有する多孔質層であり、前記一方の積層体表面において、該積層体表面に開口する孔部の面積の平均値が4μm2以上かつ17μm2以下であり、前記孔部の面積の標準偏差値が20μm2以下であり、面積が22000μm2で縦横比が4:3である矩形領域内に存在する前記孔部の個数が120個以上であり、前記一方の積層体表面の裏側に位置する他方の積層体表面において、該積層体表面に開口する孔部の面積の平均値が、前記一方の積層体表面における孔部の面積の平均値の3倍以上であるというものである。
【選択図】なし